説明

滅菌装置

【課題】薬剤を収容した状態で包装された医療器具を、包装ごと効率よく確実に滅菌することが可能な滅菌装置を提供する。
【解決手段】被処理物を収容する滅菌チャンバー3と、滅菌チャンバー3内に配置されるメッシュ状の滅菌籠4とを有し、滅菌籠4の上面、底面及び側面のそれぞれに紫外線ランプ31を平行に配置するとともに、紫外線ランプ31と平行に複数の分解用ランプ32を配置し、被処理物を収容した滅菌チャンバー3内の空気を、滅菌チャンバー3内が所定気圧になるまで排気する真空ポンプ56と、真空ポンプ56により排気された滅菌チャンバー3内に酸素を含む気体を供給する酸素ボンベ36及び制御部60と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性酸素化学種により被処理物を滅菌処理する滅菌装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、紫外線ランプにより酸素を含む気体に紫外線を照射して、活性酸素化学種を発生させ、この活性酸素化学種によって殺菌や滅菌を行う装置が知られている(例えば、特許文献1、2参照)。特許文献1に開示された装置は、活性酸素化学種を含む気体を袋や管状物体に送気して殺菌を行う。また、特許文献2に開示された装置は、被処理物が載置されたチャンバー内で紫外線を照射して、被処理物の周囲に活性酸素化学種を発生させ、殺菌を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−115973号公報
【特許文献2】特開2006−020669号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年、予め薬剤を充填したシリンジ(注射筒)、いわゆるプレフィルドシリンジが普及している。一般的なプレフィルドシリンジは、合成樹脂製或いはガラス製の注射筒と押し子とを有するシリンジ内に薬剤が充填され、注射筒先端の注射針等の装着ノズルにキャップが取り付けられた構成であり、滅菌袋と呼ばれる袋で包装されている。プレフィルドシリンジに薬剤を充填した後で滅菌を行う場合、内部に充填された薬剤への影響や、樹脂製の注射筒を用いることを考慮すると、紫外線照射により発生した活性酸素化学種を用いて滅菌することが好適であると考えられる。しかしながら、シリンジをはじめとする医療器具の形状は複雑であり、既に薬剤が充填された状態で医療器具の細部まで活性酸素化学種を行き渡らせることは容易ではなく、既に包装された状態で滅菌することはさらに容易ではないと考えられる。このため、薬剤が充填された医療器具を包装ごと効率よく確実に滅菌するための手法が求められていた。
【0005】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、薬剤を収容した状態で包装された医療器具を、包装ごと効率よく確実に滅菌することが可能な滅菌装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は、内部で滅菌処理を行うチャンバーと、該チャンバー内に配置され、被処理物を収容するメッシュ状の被処理物容器とを有し、前記被処理物容器の上面、底面及び側面のそれぞれに紫外線ランプを平行に配置するとともに、該紫外線ランプと平行に複数の分解用ランプを配置し、前記チャンバー内の空気を、前記チャンバー内が所定気圧になるまで排気する排気手段と、前記排気手段により排気された前記チャンバー内に酸素を含む気体を供給する酸素供給手段と、を備えること、を特徴とする。
【0007】
また、上記構成において、前記紫外線ランプはパルス発光ランプであってもよい。
さらに、上記構成において、前記排気手段は、前記チャンバー内の気圧が0.01kPa以上10.13kPa以下の範囲内になるまで排気を行ってもよい。
【0008】
上記構成において、前記チャンバー内の温度が10℃以上80℃以下となるよう前記チャンバー内の空気を冷却する冷却手段をさらに備えてもよい。
【0009】
さらに、上記構成において、前記被処理物容器は、容器内に薬剤を充填して構成された医療器具が、少なくとも一部において紫外線透過性を有する包装体により包装されてなる前記被処理物を収容可能に構成され、前記排気手段によって前記チャンバー内の空気を排気することにより、前記包装体内部の空気を排出させ、前記酸素供給手段によって前記チャンバー内に酸素を含む気体を供給することにより、前記包装体内部に酸素を供給してもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、チャンバーに配置された被処理物容器に、被処理物としての医療器具を入れ、医療器具の包装内において活性酸素化学種を生成させることで、薬剤を収容した状態で包装された医療器具を、包装ごと効率よく確実に滅菌できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施の形態に係る滅菌装置の概略構成を示す正面図である。
【図2】滅菌装置の制御系の構成を模式的に示す図である。
【図3】滅菌チャンバーの構成を示す要部正面図である。
【図4】滅菌チャンバーの構成を示す側面視図である。
【図5】滅菌チャンバーの構成を示す横断面視図である。
【図6】滅菌チャンバーの構成を示す別の横断面視図である。
【図7】包装済みプレフィルドシリンジの平面図である。
【図8】滅菌装置の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
図1は、本発明を適用した実施の形態に滅菌装置1の概略構成を示す正面図である。この図1では、滅菌装置1が内蔵する各機器を模式的に示す。
図1に示すように、滅菌装置1は、本体2の上部に滅菌チャンバー3が設けられ、滅菌チャンバー3の下方及び側方に各種機器を内蔵して構成されている。滅菌装置1は、滅菌処理を施す被処理物を滅菌チャンバー3に収容し、滅菌チャンバー3内部に活性酸素化学種を発生させることにより、被処理物を滅菌処理する装置である。
滅菌チャンバー3には開閉可能な前面扉21が設けられ、前面扉21には、滅菌チャンバー3内を視認できるよう窓22が設けられている。また、本体2の前面には、前面扉21に密着するパッキン29が配置され、前面扉21の閉状態で滅菌チャンバー3が気密性を保つようになっている。
滅菌チャンバー3には、滅菌籠4(被処理物容器)が収容される。滅菌籠4は、滅菌処理される被処理物を入れる容器であり、パンチングメッシュにされた金属板或いは平板状の金属製の網で直方体状に構成されている。滅菌籠4の前面側は、被処理物を出し入れするために開口しており、この前面の開口が前面扉21側に位置するように、滅菌チャンバー3に収容される。
【0013】
滅菌チャンバー3は、後述するように略直方体形状の空間であり、活性酸素発生用の紫外線ランプ31と、活性酸素分解用の分解用ランプ32とが配置され、滅菌チャンバー3の最奥部に位置して滅菌チャンバー3内の空気を撹拌するファン33が設けられている。
紫外線ランプ31は、酸素を含む気体に紫外線を照射することで活性酸素化学種を生成させるために用いる光源であり、真空紫外域(波長200nm以下)の紫外線を放射するものであればよく、例えば、波長185nm、波長254nm、波長313nm、波長366nm等の帯域の紫外線を放射する低圧水銀ランプやキセノンランプが用いられ、本実施の形態では、パルス発光するパルスドキセノンランプを用いる。この紫外線ランプ31の照射により、例えば下記式(1)〜(2)に示すように、オゾンや酸素ラジカル等の活性酸素化学種が生成される。
分解用ランプ32は、紫外線ランプ31の紫外線照射によって発生した活性酸素化学種を分解するため、紫外線を照射するランプである。分解用ランプ32は、具体的には、紫外線ランプ31と同様に低圧水銀ランプやキセノンランプが用いられる。但し、分解用ランプ32は、発光管の材質を変えることにより、所望の波長域の紫外線が外部に出力されるように調整されている。分解用ランプ32の発光管の材質は、例えば、重金属等を少量添加した石英ガラスを用い、波長200nm以下の紫外線を吸収させているので、分解用ランプ32からは波長が200nmより長い紫外線(波長254nm等)が外部に出力される。この分解用ランプ32によって波長254nm等の紫外線が照射されると、下記式(3)の反応により、オゾンが分解されて酸素ラジカルとなり、この酸素ラジカルは下記式(4)で示す反応によって酸素分子となる。これにより、活性酸素化学種であるオゾン及び酸素ラジカルは消滅する。
【0014】

【0015】
本実施形態の滅菌装置1は、一例として、滅菌チャンバー3の内部に200Wの紫外線ランプ31を4つ配置し、20Wの分解用ランプ32を4つ配置した構成となっている。そして、滅菌チャンバー3の下方に設けられた機器室23には、紫外線ランプ31をパルス発光させるための安定器51と、分解用ランプ32を点灯させるための安定器52とが設けられている。
機器室23には、滅菌チャンバー3内を冷却する水冷式の冷却装置53と、滅菌チャンバー3内を加温する恒温装置54とが設けられ、これら冷却装置53及び恒温装置54によって、滅菌チャンバー3内の温度が、後述するように予め設定された範囲に保たれる。
【0016】
滅菌装置1は、滅菌チャンバー3内の空気を排気する真空ポンプ56(排気手段)と、真空ポンプ56によって排気される空気に含まれる活性酸素化学種を分解除去する触媒装置55とを備え、真空ポンプ56の機能によって滅菌チャンバー3内の気圧が予め設定された気圧になるまで滅菌チャンバー3から排気が行われる。この排気中に活性酸素化学種が含まれていても触媒装置55によって分解され、滅菌装置1の周囲に活性酸素化学種が排出されない構成となっている。
さらに、本体2にはレギュレーター37が取り付けられた酸素ボンベ36(酸素供給手段)が収容されている。酸素ボンベ36には、所定濃度の酸素を含む気体が大気圧を超える圧力で封入されており、この気体がレギュレーター37により減圧されて滅菌チャンバー3へ供給される。滅菌チャンバー3には、滅菌チャンバー3内の酸素或いは酸素を含む気体のみが供給されてもよいし、滅菌チャンバー3内の気体が外気と所定割合で混合されてから滅菌チャンバー3へ供給されてもよい。
【0017】
本体2の前面上部には、滅菌装置1の動作状態等を表示する表示パネル24、滅菌チャンバー3内の気圧を表示する圧力表示部25、及び、酸素ボンベ36から滅菌チャンバー3へ流れる酸素の流速を表示する流速表示部26が設けられている。表示パネル24及び圧力表示部25は、ユーザーによる操作を検出するタッチパネルを有し、このタッチパネルへの操作によって、気圧や温度の条件等を設定可能である。
また、滅菌装置1は制御部60を備えている。制御部60は、次に説明するように滅菌装置1の各部を制御して、滅菌処理を実行する。
本体2の底部には、滅菌装置1の各部に電源を供給するトランス57及び電源制御回路58が収容されている。
【0018】
図2は、滅菌装置1の制御系の構成を模式的に示す図である。なお、図2中の破線は制御ラインを示す。
この図2に示すように、滅菌チャンバー3には、紫外線検出部61、温湿度検出部62、及び圧力検出部63が設けられている。紫外線検出部61は、紫外線ランプ31、32の発光時の紫外線量を検出するセンサーであり、温湿度検出部62は、滅菌チャンバー3内の温度及び湿度を検出するセンサーであり、圧力検出部63は滅菌チャンバー3内の気圧を検出するセンサーである。これら紫外線検出部61、温湿度検出部62及び圧力検出部63は各々制御部60に接続され、所定周期で検出を行い、検出値を制御部60に出力する。
【0019】
制御部60には、酸素ボンベ36が備えるレギュレーター37と滅菌チャンバー3との間に設けられた酸素供給管36Aに設けられたバルブ67A及びマスフローコントローラー66が接続され、制御部60は、バルブ67Aを開閉して滅菌チャンバー3への酸素供給の開始及び停止を行うとともに、マスフローコントローラー66の検出値に基づいて酸素の供給状態を監視する。
【0020】
また、滅菌チャンバー3には、フィルター68を通して外気を導入する外気導入管68Aが配設され、この外気導入管68Aにはバルブ67Bが設けられている。バルブ67Bは制御部60に接続され、制御部60の制御によってバルブ67Bが開閉され、滅菌チャンバー3への外気の導入開始及び停止が制御される。
真空ポンプ56に繋がる触媒装置55と滅菌チャンバー3との間には排気管56Aが配設され、この排気管56Aにはバルブ67Cが設けられている。バルブ67Cは制御部60に接続され、制御部60の制御によってバルブ67Cが開閉されるとともに、真空ポンプ56のオン/オフが切り替えられることで、滅菌チャンバー3からの排気の開始及び停止が制御される。
さらに、制御部60には、冷却装置53及び温度調整部70が接続されている。温度調整部70は、恒温装置54を動作させて、滅菌チャンバー3の内部を加温する。制御部60は、冷却装置53及び温度調整部70を制御することで、滅菌チャンバー3内の温度を予め設定された範囲に保持する。
【0021】
図3は、本体2において、滅菌チャンバー3の詳細構成を示す要部正面図である。また、図4は、滅菌チャンバー3の構成を示す側面視図であり、図4においては滅菌籠4の図示を省略する。図5及び図6は滅菌チャンバー3の横断面視図であり、図5は図3のA−A’断面図、図6は図3のB−B’断面図であり、図5には被処理物としての包装済みプレフィルドシリンジ100を仮想線で示し、図6においては滅菌籠4の図示を省略する。
図3〜図6の各図に示すように、直方体の空間として形成された滅菌チャンバー3の内部の最奥部には、ファン33が前面扉21側を向いて配置されている。ファン33は、滅菌チャンバー3の奥の壁に取り付けられたファン支持軸35によって支持され、ベルト又は駆動軸を備えた駆動機構34Aを介して、滅菌チャンバー3の外部に設置されたファンモーター34に連結され、ファンモーター34の動力により回転する。ファンモーター34は、制御部60(図2)に接続されており、制御部60の制御によって回転及び停止する。
【0022】
また、図3及び図4に示すように、ファン33の前方には冷却水配管44が配置されている。冷却水配管44は、滅菌チャンバー3の床面に垂直に立設された金属製の配管であり、機器室23等に配設された冷却水回路(図示略)から供給される冷却水が、冷却水配管44を循環する。上記冷却水回路は、冷却水の温度を所定温度に保つ冷却装置(図示略)や循環する冷却水量を保持するための冷却水タンク(図示略)を備えている。
ファン33が冷却水配管44に向けて送風することにより、冷却された空気が滅菌チャンバー3内部を循環するので、滅菌チャンバー3内部の気温が上昇した場合に、該気温を下げて、好ましい範囲に気温を保持及び調整できる。
【0023】
また、図5に示すように、滅菌チャンバー3の奥側に位置する冷却水配管44には、滅菌籠4の最奥面が当接している。このため、冷却水配管44の冷熱によって滅菌籠4が直接冷却される。これにより、滅菌籠4を介して滅菌処理中の包装済みプレフィルドシリンジ100を冷却することができ、滅菌籠4及び包装済みプレフィルドシリンジ100の各部の温度を好ましい範囲に保持及び調整できる。また、冷却水配管44に滅菌籠4が当接することで、滅菌チャンバー3において滅菌籠4の奥行き方向の位置決めをすることができる。
図3〜図6の各図に示すように、滅菌籠4は、前面扉21側が開口した直方体の容器であり、上述したように、パンチングメタル(パンチングメッシュ)の板材、或いは、金属製の網を板状に形成したものを用いて、上下左右の4面と奥の1面が構成されている。滅菌チャンバー3の上下面には滅菌籠4を支持する容器支持部41が立設され、左右の面には容器支持部42が立設されている。これら容器支持部41、42は、滅菌籠4の上下左右の4面にそれぞれ当接して、滅菌籠4を、紫外線ランプ31に対して好ましい位置で支持する。
【0024】
滅菌チャンバー3の上面、底面、及び左右両側面の4面には、それぞれ紫外線ランプ31が設置される。これら4本の紫外線ランプ31は、滅菌チャンバー3の前後方向に沿って、設置面のほぼ中央に位置し、互いに平行に配置されている。滅菌籠4の上面、下面、右側面、及び左側面に向けて紫外線を照射する。上述のように、滅菌籠4はメッシュ状の構造材からなり、紫外線ランプ31から放射された紫外線は、滅菌籠4に収容された包装済みプレフィルドシリンジ100に、上下左右の各面から照射される。
滅菌籠4は、容器支持部41、42によって、紫外線ランプ31に近接した位置で支持されるので、紫外線ランプ31が放射した光は滅菌籠4の構造材のメッシュを通って滅菌籠4内部の全体に届く。このため、滅菌籠4内に効率よく紫外線を照射できる。
また、本実施の形態ではU字管を組み合わせた形状の紫外線ランプ31が用いられ、この紫外線ランプ31に安定器51(図1)から延びる配線31Aが接続される端子部は、紫外線ランプ31を容易に交換できるよう、前面扉21側に設けられている。
【0025】
滅菌チャンバー3の上下左右の面で形成される四隅には、分解用ランプ32が配置される。分解用ランプ32は、滅菌チャンバー3の前後方向に沿って、紫外線ランプ31と平行に配置される直管状ランプであり、前面扉21側の端に配線が接続されている。
また、図6に示すように、滅菌チャンバー3の底面近傍には圧力検出部63が配置されている。
【0026】
図7は、滅菌装置1の被処理物としての包装済みプレフィルドシリンジ100の構成を示す平面図である。
この包装済みプレフィルドシリンジ100は、注射筒120内に薬剤121が充填され、注射筒120の先端がキャップ110により封止された状態のプレフィルドシリンジ100Aが、包装101に収められている。
包装101は、いわゆる滅菌袋や滅菌パックと呼ばれる包装であり、紫外線及び可視光線を透過するポリプロピレン等の透明フィルム102と、通気性を有し、かつ菌類やウイルスを透過させない不織布等からなる通気フィルム103とを貼り合わせた構成となっている。
【0027】
また、ピストン125の先端に設けられたガスケット126、及び、フランジ127、128は、注射筒120の内面に密着しているので、薬剤121は注射筒120内部で密封された状態にある。
【0028】
包装済みプレフィルドシリンジ100は、例えば図5に示すように、滅菌籠4の底部に並べて収容され、滅菌籠4とともに滅菌チャンバー3に収容されて滅菌される。
ここで、滅菌装置1における滅菌処理について説明する。
【0029】
図8は、滅菌装置1の動作を示すフローチャートである。
まず、滅菌処理を開始するにあたって、包装済みプレフィルドシリンジ100が収められた滅菌籠4が滅菌チャンバー3に収容され、前面扉21が閉じられる(ステップS11)。
滅菌処理が開始されると、滅菌装置1が備える制御部60は、真空ポンプ56の動作を開始させて、滅菌チャンバー3内の空気を、圧力検出部63により検出される空気圧が予め設定された圧力に達するまで排気及び減圧を行う(ステップS12)。
【0030】
滅菌チャンバー3内の気圧が設定された圧力になるまで減圧を行った後、制御部60は、真空ポンプ56を停止させてから、安定器51を制御して紫外線ランプ31のパルス発光を開始させ(ステップS13)、続いてバルブ67Aを開弁し、滅菌チャンバー3内に酸素を供給する(ステップS14)。このステップS14で、制御部60は、滅菌チャンバー3内部の気圧が予め設定された圧力になるまで酸素を供給する。このステップS14では、制御部60によってバルブ67Bを開弁し、滅菌チャンバー3に酸素とともに外気を注入してもよい。
【0031】
ステップS12で滅菌チャンバー3の内部が減圧されているので、ステップS14で酸素ボンベ36からの酸素、またはこの酸素を含む気体が滅菌チャンバー3に注入されると、この酸素または酸素を含む気体が滅菌チャンバー3内に充満し、滅菌チャンバー3には十分な量の酸素が入り込む。ステップS12で滅菌チャンバー3内が減圧されたことによって包装101内部の空気も排出されているので、ステップS14で滅菌チャンバー3に注入された酸素が包装101の内部にも入り込む。このため、ステップS14で酸素が注入された後は、プレフィルドシリンジ100Aにおいて薬剤121が充填された部分(キャップ110とフランジ128との間)を除き、プレフィルドシリンジ100Aの外表面だけでなく、注射筒120とプランジャーロッド129との間等の隙間にも酸素が分布する。
【0032】
さらに、制御部60は、ファンモーター34の動作を開始させて、ファン33による送風を開始し(ステップS15)、滅菌処理を行う(ステップS16)。この滅菌処理の実行中、制御部60は、温湿度検出部62によって検出される滅菌チャンバー3内の温度が、予め設定された範囲内で保たれるように、温湿度検出部62の検出値に基づいて冷却装置53及び触媒装置55を適宜動作させる。
【0033】
制御部60は、ステップS13〜S15の動作により滅菌処理を開始してから、予め設定された時間だけ滅菌処理を継続する。
この滅菌処理では、滅菌チャンバー3の内部に分布している酸素に真空紫外域の紫外線が照射されて、活性酸素化学種が発生し、包装済みプレフィルドシリンジ100の外側が滅菌される。さらに、包装101の内部に分布している酸素にも、透明フィルム102越しに真空紫外域の紫外線が照射されるので、包装101の内部にも活性酸素化学種が発生する。上述のように、プレフィルドシリンジ100Aを構成する注射筒120とプランジャーロッド129との間等の細かい隙間にも酸素が分布しているため、紫外線の照射によって上記のような細かな隙間にも活性酸素化学種が行き渡る。このため、包装済みプレフィルドシリンジ100の全体を確実に滅菌できる。
【0034】
そして、制御部60は、滅菌処理を開始してから予め設定された時間が経過したら、滅菌処理を終了する。すなわち、制御部60は、紫外線ランプ31を消灯させ、ファンモーター34を停止させ、さらに、安定器52を制御して、分解用ランプ32を所定時間点灯させる(ステップS17)。ここで分解用ランプ32を点灯させることで、上記式(3)に示す反応及び上記式(4)に示す反応によって、活性酸素化学種が消滅する。
【0035】
滅菌装置1では、同じ被処理物に対してステップS12〜S17の滅菌処理を繰り返し実行することができ、実行回数は表示パネル24の操作等により設定される。このため、制御部60は、ステップS17で活性酸素化学種を分解した後、予め設定された回数の滅菌処理が完了したか否かを判別し(ステップS18)、完了していない場合は、続けて滅菌処理を実行するためにステップS12に戻る。
設定された回数の滅菌処理が完了した場合(ステップS18;Yes)、制御部60は、バルブ67Cを開弁して真空ポンプ56を動作させることで、滅菌チャンバー3内部の空気を排出し、バルブ67Bを開弁させて外気を滅菌チャンバー3内に取り込み(ステップS19)、動作を停止する。ステップS19の動作によって滅菌チャンバー3内部の空気は外気に入れ替えられ、前面扉21を開けてプレフィルドシリンジ100Aを取り出すことが可能になる。
以上の図8に示す動作において、制御部60は、真空ポンプ56及びバルブ67Cとともに排気手段として機能し、酸素ボンベ36及びバルブ67Aとともに酸素供給手段として機能する。
【0036】
上述した滅菌処理における条件について検討する。
発明者らが実際に試験を行った結果、続く工程(ステップS14)で酸素を十分に滅菌チャンバー3内に取り込むためには、滅菌チャンバー3内を十分に減圧することが必要であり、その上限が10.13kPaであることが明らかになった。また、滅菌チャンバー3内を1.01kPaまで減圧することにより、包装済みプレフィルドシリンジ100の内部の空気を十分に排気して、続く工程で包装101の内部にも十分な量の酸素を分布させることが可能なことが明らかになった。従って、ステップS12で減圧を行う際の滅菌チャンバー3内の気圧は、好ましくは10.13kPa以下、より好ましくは1.01kPa以下である。
一方、滅菌チャンバー3内の気圧が低くなるほどプレフィルドシリンジ100Aの注射筒120に充填された薬剤121の漏れが懸念される。発明者らが実際に試験を行った結果、薬剤の漏れの心配がない気圧の下限は0.010kPaであった。従って、ステップS12で減圧を行う際の滅菌チャンバー3内の気圧は、好ましくは0.010kPa以上であり、より好ましくは0.10kPa以上である。
そして、減圧を行う際の滅菌チャンバー3内の気圧として、さらに好ましい値は、0.2kPa前後である。この圧力に減圧した場合、より十分に、包装済みプレフィルドシリンジ100内部の隅々まで必要量の酸素を分布させることが可能になり、かつ、プレフィルドシリンジ100Aに充填された薬剤121の漏れが全く懸念されない。
【0037】
続いて温度の条件について検討する。
紫外線の照射により生成した活性酸素化学種は空気中で拡散するが、気温が高いほど拡散速度が速くなることは他の気体分子と同様である。このため、滅菌処理においても高温であるほど隅々まで活性酸素化学種が行き渡るので好ましいが、注射筒120及びピストン125の材料である合成樹脂や合成ゴムの軟化、変形、変質或いは劣化を招かないことが求められる。また、温度上昇に伴ってプレフィルドシリンジ100Aに充填された薬剤121が膨張するので、極端な高温では薬剤121の漏れも起こり得る。従って、漏れにつながるほどの薬剤121の膨張を防ぐとともにプレフィルドシリンジ100Aに用いられる材料の軟化、変形、変質或いは劣化を防止し得る温度として、80℃以下であることが好ましい。
さらに、プレフィルドシリンジ100Aの材料として利用可能な多くの合成樹脂の耐熱温度を考慮すると、滅菌チャンバー3内の設定温度は、より好ましくは60℃以下、さらに好ましくは50℃以下である。また、タンパク質を含む薬剤121を充填した場合の変質防止の観点からは、好ましくは50℃以下である。
一方、温度が低い場合、上述した材料や薬剤の軟化や変質の懸念がないものの、紫外線ランプ31の出力の低下を招かないため、10℃以上であることが好ましい。10℃以上であれば、気体の拡散速度も良好である。そして、ランプ出力の点から、より好ましくは30℃以上である。
そして、滅菌チャンバー3内の気温として最も好ましい温度は40℃以上45℃以下の範囲である。この温度範囲は、注射筒120及びピストン125を構成する材料への影響、薬剤121への影響、活性酸素化学種の拡散速度、紫外線ランプ31の出力のいずれの面でも非常に好ましい。
【0038】
発明者らは、滅菌指標菌を用いた試験により、液体の薬剤および凍結乾燥品の薬剤を充填したプレフィルドシリンジ100Aを、包装101によって包装された状態で滅菌できることを確認した。滅菌装置1によって包装101ごと滅菌されたプレフィルドシリンジ100Aは、そのまま、滅菌状態で流通、保管し、使用することが可能であり、極めて有用である。また、包装101ごと滅菌することが可能なため、薬剤121を充填する操作を除いて、プレフィルドシリンジ100Aを包装101に収めて封止するまで滅菌操作する必要がない。このため、プレフィルドシリンジ100Aの調製に要する作業負担を軽減できる。
さらに、上記実施の形態では、紫外線ランプ31はパルス発光するパルスドキセノンランプであるため、低圧水銀ランプ等を用いた場合に比べて短時間で高い紫外線エネルギーを与えることができる。このため、上記式(1)及び(2)の反応を速やかに進行させ、効率よく活性酸素化学種を生成させることができる。また、紫外線ランプ31が発する紫外線パルス自体による高い殺菌効果が得られるので、この殺菌効果と、活性酸素化学種による包装101内部の殺菌効果とが相まって、より短時間で包装101の内側と外側を効率よく滅菌できる。
【0039】
以上のように、本発明を適用した実施の形態に係る滅菌装置1は、被処理物を収容する滅菌チャンバー3と、滅菌チャンバー3内に配置されるメッシュ状の滅菌籠4とを有し、滅菌籠4の上面、底面及び側面のそれぞれに平板状の紫外線ランプ31を平行に配置するとともに、紫外線ランプ31と平行に複数の分解用ランプ32を配置し、被処理物を収容した滅菌チャンバー3内の空気を、滅菌チャンバー3内が所定気圧になるまで排気する真空ポンプ56と、真空ポンプ56により排気された滅菌チャンバー3内に酸素を含む気体を供給する酸素ボンベ36及び制御部60と、を備えるので、滅菌籠4に収容された包装済みプレフィルドシリンジ100の内部の空気を排気させ、包装101内に酸素を含む気体を供給し、この包装101越しに紫外線を照射することで包装101内部に活性酸素化学種を生成させ、この活性酸素化学種によってプレフィルドシリンジ100Aを細部まで滅菌できる。また、4つの紫外線ランプ31が滅菌チャンバー3の上下左右の面に平行に配置されているので、直方体形状に形成された滅菌籠4に対し、4つの側面から十分な光量の紫外線を照射するので、包装101の内部にまで多量の真空紫外線を照射して活性酸素化学種を効率よく生成させることができる。
【0040】
また、上記構成において、紫外線ランプ31はパルス発光ランプであるため、短時間で高い紫外線エネルギーを与えることができ、上記式(1)及び(2)の反応を速やかに進行させ、効率よく活性酸素化学種を生成させることができる。
さらに、滅菌籠4は、少なくとも一部において紫外線透過性を有する包装101により包装した包装済みプレフィルドシリンジ100を収容可能に構成され、真空ポンプ56によって滅菌チャンバー3内の空気を排気することにより、包装101内部の空気を排出させ、酸素ボンベ36及び制御部60によって滅菌チャンバー3内に酸素を含む気体を供給することにより、包装101内部に酸素を供給してもよい。これにより、包装101内に酸素を含む気体を十分に供給してから、活性酸素化学種を包装101の内部に生成させて、確実に、プレフィルドシリンジ100Aの細部に至るまで滅菌できる。
【0041】
なお、上述した実施の形態は、あくまでも本発明の一態様を示すものであり、本発明の範囲内で任意に変形および応用が可能である。
例えば、上述した実施の形態では、4本の紫外線ランプ31を滅菌チャンバー3内に配置した構成としたが、本発明はこれに限定されるものではなく、より多くの紫外線ランプ31を滅菌チャンバー3内に配置してもよい。また、分解用ランプ32の数についても任意である。さらに、紫外線ランプ31は、パルスドキセノンランプに限定されず、真空紫外線を照射可能な光源であれば、特に限定されない。また,上記実施の形態では、制御部60がバルブ67Aを開弁することで、酸素ボンベ36に充填された酸素または酸素を含む気体を滅菌チャンバー3に供給する構成としたが、本発明はこれに限定されるものではなく、酸素富化膜等を利用して高濃度酸素を生成して、滅菌チャンバー3へ供給する構成としてもよいし、酸素ボンベや酸素富化膜等を有する装置を滅菌装置1に外部接続し、この外部の装置から酸素の供給を受ける構成としてもよい。
【符号の説明】
【0042】
1 滅菌装置
3 滅菌チャンバー(チャンバー)
4 滅菌籠(被処理物容器)
31 紫外線ランプ
32 分解用ランプ
36 酸素ボンベ(酸素供給手段)
37 レギュレーター
56 真空ポンプ(排気手段)
60 制御部(酸素供給手段、排気手段)
67A、67C バルブ
100 包装済みプレフィルドシリンジ(被処理物)
100A プレフィルドシリンジ
101 包装(包装体)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部で滅菌処理を行うチャンバーと、該チャンバー内に配置され、被処理物を収容するメッシュ状の被処理物容器とを有し、前記被処理物容器の上面、底面及び側面のそれぞれに紫外線ランプを平行に配置するとともに、該紫外線ランプと平行に複数の分解用ランプを配置し、
前記チャンバー内の空気を、前記チャンバー内が所定気圧になるまで排気する排気手段と、
前記排気手段により排気された前記チャンバー内に酸素を含む気体を供給する酸素供給手段と、を備えること、
を特徴とする滅菌装置。
【請求項2】
請求項1記載の滅菌装置において、
前記紫外線ランプはパルス発光ランプであること、
を特徴とする滅菌装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の滅菌装置において、
前記排気手段は、前記チャンバー内の気圧が0.01kPa以上10.13kPa以下の範囲内になるまで排気を行うこと、
を特徴とする滅菌装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の滅菌装置において、
前記チャンバー内の温度が10℃以上80℃以下となるよう前記チャンバー内の空気を冷却する冷却手段をさらに備えたこと、
を特徴とする滅菌装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の滅菌装置において、
前記被処理物容器は、容器内に薬剤を充填して構成された医療器具が、少なくとも一部において紫外線透過性を有する包装体により包装されてなる前記被処理物を収容可能に構成され、
前記排気手段によって前記チャンバー内の空気を排気することにより、前記包装体内部の空気を排出させ、
前記酸素供給手段によって前記チャンバー内に酸素を含む気体を供給することにより、前記包装体内部に酸素を供給すること、
を特徴とする滅菌装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−233606(P2010−233606A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−81964(P2009−81964)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(000000192)岩崎電気株式会社 (533)
【Fターム(参考)】