説明

滑り防止パイプの製造方法

【課題】割れがなく真円度の高いパイプであって、表面に滑り止めの凹凸模様が規則的に形成されたパイプを効率的に製造する。
【解決手段】表面に凹凸模様を有する金属帯板を管状に曲げ成形し、その両端接合部を溶接して滑り防止パイプを製造する際、前記金属帯板表面に形成する凹凸部を、金属帯板の幅方向に隣接する凸部が長手方向に隣接する二個の凸部に挟まれる領域に入り込むように互いに千鳥配置する。
凹凸部の形成に当たっては、金属帯板の両側端部は除き中央部のみとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面に一様な凹凸模様を付形させた滑り防止パイプの製造方法に係り、特に手摺、フェンス、ジャングルジム、はしご等の素材として、滑り難さとデザイン性とが要求されるパイプ製品を高い成形精度で製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、前記のような手摺、フェンス、その他各種のエクステリア、ジャングルジム、はしご等のパイプ製品にあっては、例えばパイプを手でつかんだとき、手がパイプから滑ることがなく、その把持が確実となるように、当該パイプの表面に凹凸が付形されている。また、デザイン的な観点からしても、デザイン性を良くするために、パイプ表面に凹凸模様を形成している。
このような表面に凹凸模様を有するパイプを製造する方法として、圧延ロール等により予め外表面に凹凸模様を付形した鋼帯板をパイプ素材とし、この鋼帯板を管状に折り曲げてパイプを成形し、その後突合せ接合部をTIG溶接する方法が特許文献1で提案されている。
【特許文献1】特公平6−75780号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
前記特許文献1で提案されている技術は、従来の滑り防止パイプの製造方法の問題点、すなわち、圧延後の鋼帯板表面には明確な凹凸模様があるにも拘わらず、パイプに曲げ成形する過程において、ロール成形機の各種曲げロール、サイジングロールにより明確な凹凸模様が消滅され、パイプに成形された後に、滑りを確実に防ぐことができる凹凸が残存しないという問題点を指摘した上で、パイプ素材としての鋼帯板の板厚そのものと、その表面に形成する凹凸の高さを規定している。
鋼帯板の板厚及び凹凸の高さ(深さ)の規定により、パイプ形状に成形した後にあっても凹凸を残存させることができるため、手摺用のパイプとして有用なものが提供できる。
【0004】
しかしながら、特許文献1に具体的に示されている方法では、図1に示すように、鋼帯板表面に形成された凹部及び凸部は、鋼帯板の圧延方向に沿って一直線上に並んでいる。このため、凹凸部の形成により形作られる薄肉部が一直線上に形成されることになる。薄肉部が一直線上に形成された鋼帯板を円形断面にロール成形するとき、薄肉部に歪みが集中し易くなる。このため、特に凹凸部の板厚差が大きくなると、ひずみ集中が顕著となり、凹部を起点として割れが生じたり、割れが生じるに至らないまでも、図2(a)に示すように断面が多角形となり、真円度が低下する。
また、ロール成形して鋼帯板両側端を突合わせたとき、図2(b)に示すように、両側端の板厚に差が生じやすくなる。そして板厚差が大きくなると溶接が困難になる。
【0005】
本発明は、このような問題を解消すべく案出されたものであり、割れがなく真円度の高いパイプであって、表面に滑り止めの凹凸模様が規則的に形成されたパイプを効率的に製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の滑り防止パイプの製造方法は、その目的を達成するため、表面に凹凸模様を有する金属帯板を管状に曲げ成形し、その両端接合部を溶接してなる滑り防止パイプの製造方法であって、前記金属帯板表面に形成する凹凸部を、金属帯板の幅方向に隣接する凸部が金属帯板の長手方向に隣接する二個の凸部に挟まれる領域に入り込むように互いに千鳥配置したことを特徴とする。また、凹凸部の形成に当たっては、金属帯板の両側端部を除いた中央部のみとする。
【発明の効果】
【0007】
本発明においては、金属帯板表面に形成された凹凸部は、互いに千鳥配置され、しかも金属帯板の幅方向に隣接する凹凸部が長手方向に隣接する二個の凹凸部の中間部に入り込むように設けられている。このため、金属帯板には、凹凸部の形成により形作られる薄肉部が金属帯板の長手方向の一直線上に形成されることはない。
したがって、断面円形に曲げ加工するときに凹部に歪みが集中することがなく、割れ発生を抑制しつつ真円形状に曲げ加工できる。すなわち、精度の優れた滑り防止パイプが製造できる。また、歪み集中が緩和されるので、凹凸部の高さ(深さ)を大きくすることができ、滑り止め作用が高くなる。
凹凸部の形成を、金属帯板の両側端部は除き中央部のみとすると、両側端部は同一の板厚となるため、突合せ部の溶接が容易に行え、品質の優れた溶接パイプが得られる。
【0008】
本発明者らは、特許文献1で提案された技術の問題点を検討したところ、被加工金属帯板表面に凹凸模様を形成した結果、凹凸部の形成により形作られる薄肉部が一直線上に形成されることが種々の弊害をもたらしていると推測した。
そして、金属帯板表面に凹凸模様を形成する際、凹凸部を互い違いに、いわゆる千鳥配置に形成すれば薄肉部が一直線上に形成されなくなることに辿り着いた。ただし、幅方向に隣接する凸部が長手方向に隣接する二個の凸部に挟まれる領域に入り込むように設けられていなければ、凹凸部の形成により形作られる薄肉部が一直線上に形成される場合も出現する。
また、凹凸部の形成を、金属帯板の両側端部は除き中央部のみとすると、金属帯板の両側端部突合せ部の板厚差がなくなり、溶接が容易に行えることに到達した。
以下に、本発明方法を詳細に説明する。
【0009】
素材としての金属帯板には、何ら制限はない。手摺等の用途を想定するとステンレス鋼板が好ましい。手摺形状に整えた後、例えば硬質クロムめっきや塗装を施すのであれば、冷延鋼板でも構わない。
凹凸模様は、通常と同様に圧延やプレスで付与される。連続操業性を考慮すると圧延法で模様付けを行うことが好ましい。表面に適宜形状の凹部又は凸部を所定のパターンで形成したロールを用いて被加工金属帯板を圧延すれば、ロール表面の模様が金属帯板に転写されて所望形状の凸部又は凹部が形成される。
【0010】
本発明は、被加工金属帯板表面に形成する凹凸模様の形成パターンに最大の特徴点を有する。すなわち、図3に示すように、形成する凹凸部を、互い違いに、いわゆる千鳥配置とする。しかも、幅方向に隣接する凸部が長手方向に隣接する二個の凸部に挟まれる領域に入り込むように設ける。個々の凹凸部の形状、すなわちその平面形状、断面形状とも制限はない。円形、楕円形、四角形、多角形等、任意の形状の連続成形で模様付けを行う。幅方向に隣接する凸部が長手方向に隣接する二個の凸部に挟まれる領域に入り込むように設けるためには、平面が円形や菱形の凸部又は凹部を球面状又は四角錐状に、或いは逆球面状又は逆四角錐状に形成することが好ましい。
【0011】
このように、幅方向に隣接する凸部が長手方向に隣接する二個の凸部に挟まれる領域に入り込むように設けることにより、凹凸部の形成により形作られる薄肉部が一直線上に形成されることはなくなる。したがって、後続の曲げ加工時に歪みの集中を緩和できる。そして、歪み集中を緩和できるため、図4(a)に示すように、断面真円度の高い成形が可能になる。また、凹凸部の高さ(深さ)を大きく取ることができ、結果的に滑り防止作用の優れたパイプを提供することが可能になる。
【0012】
被加工金属帯板表面に凹凸模様を付す際、被加工金属帯板の両側端部には凹凸部は設けない。側端部に凹部又は凸部を形成していないため、後の工程で突合せ部を溶接接合する際に、図4(b)に示すように、被溶接板材の突合せ部の板厚が同一になって、溶接接合が円滑に行える。
【0013】
所定のパターンで凹凸模様が付された金属帯板を、目的のパイプ外径とすべく所定の幅寸法にスリット加工し、ロール成形機により管状に折り曲げ成形する。
折り曲げられた金属帯板の両端接合部を溶接接合する。採用する溶接法にも何ら制限はない。TIG溶接でも良いし、高周波抵抗溶接法でも良い。
溶接後、接合部に残存する溶接ビード等を研削・除去すれば、手摺用等の滑り防止パイプが得られる。適宜長さに裁断され、適宜形状に曲げ加工される等の処理が施されて手摺等が製造される。
【実施例】
【0014】
以下に、本発明の実施例を図面に基づいて具体的に説明する。
素材にはSUS304、板厚2.0mmで、予め板幅100mmにスリットしたコイルを用いた。製造工程としては、凹凸模様の付与を圧延で行い、これをTIG造管ラインによってパイプ状へ加工する方法とした。まず凹凸模様付与では、2段圧延機を用い、上ワークロールに図5に示す模様を付与したロールをセットした。図5(a)は本発明の一例を示すワークロール表面の概略であり、直径φ5mmの凹部を、板幅方向のピッチ7.5mm、圧延方向のピッチ10mmで配置し、さらに両者の中心間に凹部が入り込むよう千鳥状に配置させた。その際、ワークロールの胴長110mmに対し、両端10mmずつを除いた中央90mmの範囲に凹凸を設けた。また図5(b)は従来の発明の一例を示すワークロール表面の概略であり、本発明との効果を比較するため、直径φ5mmの凹部を板幅方向のピッチ7.5mm、圧延方向のピッチ10mmとして碁盤目状に配置させた。その際、ワークロールの胴長110mmの範囲全体に凹凸を設けた。
【0015】
以上の条件により圧延加工で連続的に凹凸模様を付与した材料表面の概略図を図6に示す。図6(a)は本発明の一例を示す材料表面の概略図で、造管前のスリット代を考慮し、両端5mmを除いた部分に凹凸を付与した。この図からわかるように、本発明では圧延方向には凹部が一直線上に連続しないように形状を形成させている。一方、図6(b)は従来の発明の一例を示す材料表面の概略図を示しており、この図からわかるように、圧延方向には凹部が一直線上に形成されている。
これら2種類のパターンで成形した凹凸模様付き鋼板を、片側スリット代3mmの同じ条件で94mmの板幅へスリットした。その結果、図7(a)に示すように本発明では両端の2mmずつを除いた部分に凹凸が形成されているのに対し、図7(b)に示すように従来の発明では両端の一方は凸部で他方は凹部が形成された状態となった。
【0016】
これらの凹凸模様が付与されたコイルを、フォーミングロールの圧下条件は一定の下で、パイプにした時に外側に凹凸面が形成されるよう通板しTIG溶接により造管した。また、サイジングロールは出側のパイプ外径がφ30.0mmになるよう調整した。
造管したパイプの断面形状を図8に示す。図8(a)は本発明に基づいて製造したパイプ断面であり、円周方向に均一な断面を有していた。図8(b)は従来の発明に基づいて製造したパイプであり、円周方向は凹部を起点に折れ曲がった多角形の断面を有していた。両者のパイプの外径を測定した結果を図9に示す。本発明に基づいて製造したパイプは従来よりも大幅に真円度が向上していた。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】従来の滑り防止パイプの表面形状を示す概略図
【図2】従来の滑り防止パイプの断面形状を示す概略図(a)と、従来の滑り防止パイプの製造過程において素材両端の突合せ状態を示す概略図(b)
【図3】本発明の滑り防止パイプの表面形状を示す概略図
【図4】本発明の滑り防止パイプの断面形状を示す概略図(a)と本発明の滑り防止パイプの製造過程において素材両端の突合せ状態を示す概略図(b)
【図5】実施例において、本発明の滑り防止パイプの凹凸模様を付与するためのワークロールの形状を示す概略図(a)と、従来の滑り防止パイプの凹凸模様を付与するためのワークロールの形状を示す概略図(b)
【図6】実施例において、本発明に基づき圧延加工によって凹凸模様を付与した後の表面形状を示す概略図(a)と、従来の発明に基づき圧延加工によって凹凸模様を付与した後の表面形状を示す概略図(b)
【図7】実施例において、本発明に基づき凹凸模様を付与した鋼板をスリット加工した後の表面形状を示す概略図(a)と、従来の発明に基づき凹凸模様を付与した鋼板をスリット加工した後の表面形状を示す概略図(b)
【図8】実施例において、本発明に基づき製造した滑り防止パイプの断面形状を示す概略図(a)と、従来の発明に基づき製造した滑り防止パイプの断面形状を示す概略図(b)
【図9】実施例において本発明と従来の発明に基づいて製造した滑り防止パイプの外径測定結果

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に凹凸模様を有する金属帯板を管状に曲げ成形し、その両端接合部を溶接してなる滑り防止パイプの製造方法であって、前記金属帯板表面に形成する凹凸部を、金属帯板の幅方向に隣接する凸部が金属帯板の長手方向に隣接する二個の凸部に挟まれる領域に入り込むように互いに千鳥配置したことを特徴とする滑り防止パイプの製造方法。
【請求項2】
金属帯板の両側端部を除き中央部のみに凹凸部を形成する請求項1に記載の滑り防止パイプの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−82933(P2009−82933A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−253616(P2007−253616)
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【出願人】(000004581)日新製鋼株式会社 (1,178)
【Fターム(参考)】