説明

漂白セルロース繊維を使用した繊維セメント複合材料

高品位セルロースパルプの部分的もしくは完全な代替物として、漂白および未漂白セルロース繊維のブレンドを混和した繊維セメント複合材料を提供する。高品位の未漂白セルロース繊維で強化された同等の繊維セメント複合材料と実質的に等しいか、またはむしろそれを超えるたわみ性および強度を有する繊維セメント複合製品を与えるため、漂白した標準品位セルロース繊維を未漂白の標準品位セルロース繊維と一緒に使用している。漂白および未漂白の標準品位セルロース繊維の相乗作用的組合せが、従来は高品位のセルロースパルプによってのみ達成可能であった所望の性質を有する複合材料を生成させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して繊維強化複合材料に関し、またより詳しくは、組成物、製造方法、および最終製品を含む、強化用繊維として漂白セルロース繊維および未漂白セルロース繊維のブレンドを使用した繊維セメント建築材料に関する。
【背景技術】
【0002】
建築用シート、パネル、プランク、および屋根材料などの種々の建築製品を成形するために、繊維強化複合材料が使用されている。これらの建築製品に使用されている強化材繊維には、それらの全体が参考のために本明細書に組み込まれるオーストラリア特許第515151号および米国特許第6030447号などに記述されているような金属繊維、ガラス繊維、石綿繊維およびセルロース繊維などの天然および合成繊維が通常含まれる。現在、セルロース繊維は、叩解およびオートクレーブ処理などの大抵の従来の繊維セメント製造方法に適合している有効な、低コストの、かつ再利用可能な天然製品であるため、多くの商業用建築材料の用途向けに好ましい繊維の1つである。
【0003】
多くのセルロース繊維強化建築材料の性能特性は、使用しているセルロース繊維の品質および特性に高度に依存している。特に、セルロース繊維の種類および品位が、建築材料のたわみ性および強度に著しい影響を及ぼす可能性がある。例えば、ラジアータパインから得られる未漂白の高品位セルロース繊維は、通常長さがより長くかつ有利な強度関連特性を有するので、得られた製品により高い強度をもたらすことが知られている。反対に、ダグラスファー(ベイマツ)、ベイツガ、スプルース(トウヒ)、ホワイトファー(ベイモミ)、サザンパイン、およびレッドウッド(セコイア)などの様々な他の普通に入手可能な樹種から得られる未漂白の標準品位セルロース繊維は、一般により短くおよび/またはより弱く、製品にはより低い強度およびたわみ性が付与される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、高品位セルロース繊維の使用に関連していくつかの不都合な点がある。第1に、高品位セルロースパルプの供給源が、1つの特定の樹種に主として限定されている。このような繊維のコストは、やはり他の品位の未漂白パルプよりも著しく高い。その上、高品位パルプの限定された入手可能性により、繊維セメント製造操業に厳しい制約が課され、また究極的に製品のコストが押し上げられる可能性がある。したがって、最小のコストで十分な強度およびたわみ性を有する最終製品を得るために、製品製造業者は、高品位未漂白パルプおよび標準品位未漂白パルプの両方を通常繊維−セメント複合材料中に混和している。
【0005】
そうであっても、繊維セメント向けに通常使用されている未漂白の標準品位クラフトパルプは特殊品位のセルロースパルプとみなされ、紙、段ボール用ライナ、または他のセルロースパルプ系製品に通常使用される他のタイプのセルロースパルプを上回る割増価格で販売されている。
【0006】
したがって上記のことから、繊維セメント複合材料の製造において使用するため、容易に入手可能でより安価な、高品位セルロース繊維の代替物へのニーズが存在することが理解されるであろう。この目的のために、高品位セルロース繊維で強化された同等の複合材料と比較して、改良されていなくても実質的に等しい強度、たわみ性、および他の物理的性状を有する繊維セメント複合材料を与えるセルロース繊維への特別なニーズが存在する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述のニーズは、本発明の好ましい実施形態によって満たされるものであり、本発明は、一実施形態において、繊維セメント強化複合材料の製造における高品位セルロース繊維の部分的もしくは完全な代替物として、漂白および未漂白の標準品位セルロース繊維のブレンドを使用するという新規な概念を開示している。
【0008】
本明細書において使用する用語「漂白したセルロース繊維」、「漂白した繊維」および「漂白したセルロースパルプ」は、過酸化水素、次亜塩素酸ナトリウム、塩素、および/または二酸化塩素などの漂白剤で処理したセルロース繊維を指す。漂白したセルロース繊維は、ダグラスファー、ベイツガ、ラジアータパイン、ホワイトファー、スプルース、サザンイエローパイン、ケナフおよびレッドウッドを含むが、それらに限定されない様々な樹種から得られるパルプを包含できる。漂白したセルロース繊維は、クラフト、亜硫酸、または他のパルプ化方法によって調製することができる。
【0009】
本明細書において使用する用語「高品位セルロース繊維」、「高品位繊維」、および「高品位セルロースパルプ」は、TAPPI方法T231により約1.5mmを超える平均繊維長および約12.5kmを超える平均引張り強さを有するラジアータパインから得られるセルロース繊維を指す。本明細書において使用している用語「標準品位セルロース繊維」、「標準品位繊維」および「標準品位セルロースパルプ」は、ラジアータパインを除いた、ダグラスファー、ベイツガ、スプルース、ホワイトファー、サザンパイン、ケナフおよびレッドウッドを含む様々な一般的に入手可能な樹種から得られるセルロース繊維を指す。用語「標準品位セルロース繊維」は、当技術分野で知られている「繊維セメント品位」セルロース繊維を指すために使用することもできる。
【0010】
一つの観点からは、本発明の好ましい実施形態は、セメント系マトリックスと、そのセメント系マトリックス中に混和されたセルロース繊維とを含む複合材料であって、そのセルロース繊維が漂白セルロース繊維および未漂白セルロース繊維のブレンドを含む複合材料を提供する。一実施形態において、マトリックス中に混和した全セルロース繊維の約50%未満、好ましくは約5%〜25%、の漂白セルロース繊維を含むことが好ましい。他の実施形態において、漂白セルロース繊維は、約10以下のカッパー価を有する。
【0011】
漂白セルロース繊維は、ダグラスファー、ベイツガ、スプルース、サザンパイン、およびレッドウッドからなる群から選択される樹種から得られる標準品位繊維であることが好ましい。一実施形態においては、漂白セルロース繊維は、ラジアータパインから得られる高品位繊維とすることもできる。未漂白セルロース繊維は、ダグラスファー、ベイツガ、ホワイトファー、スプルース、サザンパイン、およびレッドウッドからなる群から選択される樹種から得られる標準品位繊維であることが好ましい。一実施形態においては、漂白セルロース繊維および未漂白セルロース繊維を合わせて、複合材料の約0.5重量%〜20重量%を占める。他の実施形態において、漂白および未漂白セルロース繊維は、約1mm〜3.5mmの間の平均繊維長を有する標準品位セルロース繊維を含む。漂白および未漂白繊維のブレンドで強化した複合材料の曲げ強度(MOR)および靭性エネルギーは、未漂白の高品位セルロース繊維で強化された同等の材料の曲げ強度および靭性エネルギーと実質的に等しく、またはそれらを超えることが好ましい。
【0012】
他の態様において、本発明の好ましい実施形態は、繊維強化セメント複合材料を製造する方法を提供する。その方法は、漂白および未漂白セルロース繊維を供給するステップと、この漂白および未漂白セルロース繊維をセメント系結合剤と混合して、繊維セメント混合物を形成するステップと、この繊維セメント混合物を成形して、予め選択された形状および寸法の繊維セメント品とするステップと、この繊維セメント品を養生するステップとを有する。一実施形態において、漂白セルロース繊維を供給するステップは、標準品位セルロース繊維を漂白剤で処理するステップを含む。漂白したセルロース繊維は約10以下の平均カッパー価を有することが好ましい。他の実施形態において、未漂白セルロース繊維を供給するステップは、未漂白の標準品位セルロース繊維を供給するステップを含む。所定の物理的性質を有する複合材料を与えるよう、漂白および未漂白セルロース繊維を予め選択された割合で混合することが好ましい。一実施形態において、予め選択された割合のものを配合して、高品位セルロース繊維だけで強化された同等の複合材料の曲げ強度(MOR)と実質的に等しい、もしくはそれを超えるMORを有する複合材料を提供する。
【0013】
さらに他の態様において、本発明の好ましい実施形態は、セメント系マトリックスと、セルロース繊維のブレンドとを含む複合建築材料を提供する。セルロース繊維のブレンドは、漂白および未漂白セルロース繊維を含み、かつそのブレンドが、所定のたわみ性および強度を有する建築材料をもたらすように選択されることが好ましい。一実施形態において、高品位セルロース繊維だけで強化した同等の建築材料のたわみ性および引張り強さと実質的に等しい、またはそれらを超えるたわみ性および引張り強さを有する建築材料をもたらすように、セルロース繊維のブレンドが選択される。他の実施形態において、漂白セルロース繊維だけで強化された同等の建築材料のたわみ性および強度と実質的に等しい、またはそれらを超えるたわみ性および引張り強さを有する建築材料をもたらすように、セルロース繊維のブレンドが選択される。セルロース繊維のブレンドは、漂白セルロース繊維を約50%未満、より好ましくは約5%〜25%含むことが好ましい。さらに、セルロース繊維のブレンドには、高品位セルロース繊維が含まれないことが好ましい。
【0014】
さらに他の態様において、本発明の好ましい実施形態は、セメント系マトリックスと、約10以下のカッパー価を有するセルロース繊維の第1の部分と、約10を超えるカッパー価を有する標準品位セルロース繊維の第2の部分とを含む複合材料を提供する。一実施形態において、セルロース繊維の第1の部分は、高品位セルロース繊維を含む。他の実施形態において、セルロース繊維の2つの部分を組み合わせた全量の約50重量%未満の、セルロース繊維の第1の部分を含む。セメント系マトリックス内において漂白した標準品位セルロース繊維を未漂白の標準品位繊維と相乗作用的に組み合わせて、高品位セルロース繊維だけで構成されている同等の複合材料と比較して、実質的に等しいか優れた強度およびたわみ性を有する複合材料が得られることが有利である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明のある好ましい実施形態では、セメント系複合材料における強化材繊維として、漂白セルロース繊維および未漂白のセルロース繊維のブレンドを使用する。いくつかの好ましい実施形態において、漂白および未漂白繊維は共に標準品位繊維とし、これらが組み合わされて、より高価でかつあまり豊富ではない高品位セルロース繊維の部分的もしくは完全な代替物としての役割を果すことができる。これらの実施形態は、漂白繊維および未漂白繊維のブレンドで構成される複合材料を包含するだけでなく、その複合材料の配合および製造方法をも包含する。
【0016】
漂白セルロース繊維は、ほとんど全部が製紙業界で白色の紙および板紙を供給するため使用されてきている。漂白工程によって繊維構造が劣化し、その強化能力が弱くなり、そのため漂白した繊維が、繊維セメント複合材料用途のために望ましくないものになることも広く認められている。このような考えは、種々の技術的出版物において広く報告されている。例えば、「セルロース繊維強化構造体」の米国特許第4985119号では、「このような漂白[繊維の]は、コストおよび繊維劣化のために好ましくない。」と指摘している。したがって、繊維セメント複合材料向けの強化用繊維として漂白した繊維を使用することは、漂白した繊維がより弱くかつより脆い繊維セメント製品を生成させると考えられるので、従来の知識に反することである。
【0017】
しかし、従来の知識に反して、出願人は漂白したセルロース繊維が、未漂白の標準品位セルロース繊維と適切な割合で一緒に使用される場合、より高価なかつあまり豊富ではない高品位セルロース繊維によって強化した同等の複合材料と比較して、実質的に等しいか、もしくはむしろ優れたたわみ性、強度、および他の物理的性質を有する繊維セメント複合材料を与えることができる点を見出した。驚くべきことに、選択された漂白繊維および未漂白標準品位パルプの適切なブレンドにより、最終製品における強度およびたわみ性の良好なバランスが得られることが見出された。
【0018】
特定の理論にこだわる訳ではないが、出願人は、漂白したセルロース繊維では、漂白剤で処理していない同等のセルロース繊維と比較してリグニン含量が低減され、かつ繊維表面における反応性部位の数が増加していると考えている。このことが、セメント系マトリックスと繊維との結合性を改良することを可能にし、また標準品位のセルロースパルプに通常付随する、より短い繊維長および繊維の脆さを克服することに寄与すると出願人は考えている。出願人は驚くべきことに、未漂白のパルプの性質を補完する所定量で使用する場合、漂白したセルロースパルプがセメント複合材料向けの実際に非常に有効な強化材繊維であることを見い出した。
【0019】
本発明の一実施形態は、強化用繊維として、未漂白の標準品位セルロース繊維と一緒に、漂白セルロース繊維を加えた繊維セメント複合材料を提供する。一実施形態において、個々の繊維長は約1mm〜3.5mmである。これらの漂白および未漂白繊維は、多くの繊維セメント複合材料に通常使用されている高品位セルロース繊維の部分的もしくは完全な代替物として使用することが好ましい。漂白セルロース繊維は、過酸化水素、次亜塩素酸ナトリウムなどの漂白剤で処理して、カッパー価約10以下までリグニン含量を低減させた繊維であることが好ましい。一実施形態において、漂白繊維は、ダグラスファー、ベイツガ、ホワイトファー、スプルース、ケナフ、サザンパイン、およびレッドウッドを含むがそれらに限定されない樹種の標準品位セルロースパルプを含むことができる。また、本発明の好ましい実施形態は、高品位繊維の代替物として漂白セルロース繊維を使用することに限定されず、実質的にリグニン含量が低減され、かつ繊維表面における反応部位の数が増加しているすべての化学的に処理された繊維を使用することをも含むことが理解されよう。特定の理論にこだわる訳ではないが、その曝された反応部位により、マトリックス内における繊維対繊維、および繊維対セメントの結合の数が増加し、そのためにその材料に、より強い繊維によって達成される強度に匹敵する強度が付与されると考えられる。
【0020】
一実施形態において、漂白したセルロース繊維は、未漂白の標準品位パルプと組み合わせて繊維セメントマトリックス中に混和される。そのマトリックス中に混和されている全セルロース繊維の約50%未満、好ましくは約5%〜25%の漂白繊維を含むことが好ましい。漂白したセルロース繊維と、未漂白の標準品位セルロースパルプとの組合せは、異なる割合のセメント系結合剤、骨材、およびセルロース繊維を有する様々な複合材料のすべてに使用することができる。
【0021】
本明細書において記述される大部分の実施形態は、下記の配合により包含することができる:
・ 約10%〜80%のセメント系結合剤(一実施形態において、アルミナセメント、石灰、高リン酸塩セメント、粉砕水砕高炉スラグセメント、およびそれらの混合物からなる群から選択されるもの。);
・ 約20%〜80%の骨材(一実施形態において、粉砕シリカ、非晶質シリカ、マイクロシリカ、地熱シリカ、珪藻土、石炭燃焼フライアッシュ、高炉スラグ、水砕スラグ、鋼スラグ、鉱物酸化物、鉱物水酸化物、粘土、マグネサイトまたはドロマイト、金属酸化物および水酸化物、ポリマービーズ、ならびにそれらの混合物からなる群から選択されるもの。);
・ 約0.5%〜20%のセルロース繊維であり、漂白標準品位セルロース繊維および未漂白標準品位セルロース繊維、および/または天然無機繊維、および/または合成繊維の組合せを含み、全セルロース繊維の約50%未満が漂白した繊維であるもの;
・ 約0%〜80%の密度調節剤(一実施形態において、プラスチック材料、発泡ポリスチレンまたは他の発泡ポリマー材料、ガラスおよびセラミック材料、ケイ酸カルシウム水和物、ミクロスフェアおよび発泡体形態の真珠岩、軽石、シラス玄武岩、ゼオライトを含む火山灰、ならびにそれらの混合物からなる群から選択されるもの。);ならびに
・ 約0%〜10%の添加剤(一実施形態において、粘度調節剤、難燃剤、防水剤、シリカフューム、地熱シリカ、増粘剤、顔料、着色剤、可塑剤、分散剤、起泡剤、凝集剤、排水助剤、湿潤および乾燥強度助剤、シリコーン材料、アルミニウム粉末、粘土、カオリン、アルミナ三水和物、雲母、メタカオリン、炭酸カルシウム、珪灰石、ポリマー樹脂エマルション、ならびにそれらの混合物からなる群から選択されるもの。)。
【0022】
図1は、本発明の一実施形態の繊維セメント複合材料を製造する工程フロー100の模式図である。図1に示すように、工程100はステップ102から始まり、ステップ102は漂白および未漂白標準品位セルロース繊維を供給するステップを含む。一実施形態において、漂白したセルロース繊維は、漂白および未漂白繊維を合わせた重量の約50%未満とする。他の実施形態においてステップ102は、標準品位セルロース繊維を漂白剤で処理して、約10未満のカッパー価を有する漂白繊維を生成させるステップを含む。工程100はステップ104に続いており、ステップ104は漂白および未漂白セルロース繊維をセメント系結合剤および他の成分と混合して、繊維セメント混合物を形成するステップを含む。その後、ステップ106において、この繊維セメント混合物は、予め選択された形状および寸法の繊維セメント品に成形される。次いで、ステップ108においてこの繊維セメント品を養生して、繊維セメント強化複合建築材料を生成させる。
【0023】
繊維セメント複合材料マトリックス中に漂白および未漂白標準品位セルロース繊維のブレンドを混和することの利点は、非常に多い。それらの利点には、下記のものが含まれる:
・ 得られた複合材料は、通常は高品位のセルロース繊維を混和することによってのみ達成可能である、所望の強度およびたわみ性のバランスを達成している;
・ 得られた複合材料は、漂白したセルロース繊維を活用しており、それらの繊維は、ダグラスファー、ベイツガ、スプルースおよびレッドウッドを含むが、それらに限定されない様々な通常的に入手可能な樹種から得ることができるものである;
・ 漂白した繊維は、精製に要するエネルギーがより少なく、得られた複合材料の製品コストが低減される。
【実施例】
【0024】
実施例1
配合Aでは漂白したセルロース繊維を混和し、また配合Bでは高品位セルロース繊維を混和して、同等の配合により作製した繊維強化セメント複合材料の機械的性質を表1では比較している。これらの材料はハトシェク社の機械を使用して生産した。結果は、生産1週間にわたって採取した多数の試料に基づいている。ラジアータパインの高品位繊維約13%を含有する同等の配合の製品と比較して、漂白パルプ約13%を含有する配合により、同様の機械的性質を有する製品が得られることがわかる。
【0025】
【表1】

【0026】
AおよびBの基本配合は、ポルトランドセメント約35%、粉砕シリカ約57%、およびセルロースパルプ約8%である。配合Aのセルロースパルプの約13%が漂白パルプであり、また配合Bのセルロースパルプの約13%がラジアータパインである。両配合について、残りのパルプは標準品位のダグラスファークラフトパルプである。曲げ強度(MOR)、ひずみ、および靭性などの機械的性質は、「非アスベスト繊維セメント製の平板、屋根材、屋根羽目板、および下目板のサンプリングおよび試験についての標準試験法」と題するASTM(アメリカ標準試験方法)C1185−98aに従って、湿潤条件下で3点曲げにより試験している。
実施例2
繊維セメント複合材料の試験片を、下記の表2に示す配合CおよびDに従って作製した。配合Cでは、漂白および未漂白セルロース繊維のブレンドを混和した。この繊維ブレンドは、漂白繊維約20%および未漂白繊維約80%を含有していた。配合Dは対照標準であり、すべて未漂白繊維を使用した。これらの繊維セメントの配合は比較の目的だけのために選択したものであり、本発明の範囲から逸脱せずに、様々な他の配合が使用できることが理解されるであろう。
【0027】
配合CおよびDに従って作製した試験片の絶乾密度は、それぞれ約1.25g/cm3であった。漂白繊維は、TAPPI方法T236により白色度約88、カッパー価0〜1、および平均繊維長約2.4mmを有する、ダグラスファーからのクラフトパルプであった。未漂白繊維は、平均繊維長約2.6mmおよびカッパー価26を有する、従来の標準品位セルロース繊維であった。漂白および未漂白繊維は共に、TAPPI方法T227により測定して約450CSF(カナダ標準ろ水度)まで叩解した。
【0028】
【表2】

【0029】
下記の表3は、漂白および未漂白セルロース繊維の混合物を加えた配合(配合C)と、従来の未漂白セルロース繊維を使用する配合(配合D)で作製した繊維セメント試験片の機械的および物理的性質の例示的比較を示した。曲げ強度(MOR)、ひずみ、および靭性は、「非アスベスト繊維セメント製の平板、屋根材、屋根羽目板、および下目板のサンプリングおよび試験についての標準試験法」と題するASTM(アメリカ標準試験方法)C1185−98aに従って、湿潤条件下で3点曲げにより試験している。
【0030】
【表3】

【0031】
表3に示すように、漂白繊維のない対照標準配合である配合Dで作製した試験片と比較すると、配合Cに従って漂白および未漂白繊維のブレンドを有して作製した試験片についての曲げ強度(MOR)および極限ひずみなどの重要な機械的性質は概して同一もしくはわずかにより高い。本明細書にいう同等の配合とは、未漂白セルロース繊維の重量を同重量の漂白セルロース繊維で置き換えた配合をいう。これらは例示的結果であると理解されよう。漂白繊維の組成割合を変動させることにより、最終製品のMORおよびひずみなどの物理的および機械的性質を、特定の用途のニーズに適合するよう変化させることができることが理解されよう。
【0032】
図2〜4では、繊維セメント製品のある機械的性質(MOR、ひずみ、および靭性)と、繊維ブレンド中の漂白繊維の割合との関係を例示している。繊維セメント複合材料がMOR、ひずみ、および靭性のバランスのとれた性質を有するためには、漂白繊維の割合が重要であることがわかる。ブレンド中に過剰の漂白繊維が存在すると、ある性質に悪影響を及ぼす恐れがある。例えば、漂白繊維の割合が増加すると、MORが上昇するがひずみおよび靭性は低下する。一実施形態において、良好なMOR、ならびに良好なひずみおよび靭性を確保するためには、図2〜4に示すように漂白繊維の最大割合が全繊維の40%を超えてはならない。
【0033】
本発明の好ましい実施形態の上記の記述は、本発明の基本的な新規な特徴を示し、記述し、かつ指摘しているが、本発明の技術思想から逸脱することなく当業者は、例示した装置の詳細の形態ならびにその使用において、種々の省略、置換および変更が実施できることが理解できよう。したがって、本発明の技術的範囲は、上記説明に限定されるべきではなく、本願の特許請求範囲により画定される。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】漂白および未漂白セルロース繊維のブレンドで強化した繊維セメント複合材料を形成する好ましい方法の工程フローを示す図である。
【図2】繊維−セメント複合材料の曲げ強度(MOR)と、その材料に混和する漂白繊維の量を変化させた関係を示す図である。
【図3】繊維−セメント複合材料のひずみと、その材料に混和する漂白繊維の量を変化させた関係を示す図である。
【図4】繊維−セメント複合材料の靭性と、その材料に混和する漂白繊維の量を変化させた関係を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント系マトリックスと、
該セメント系マトリックス中に混和される、漂白セルロース繊維および未漂白セルロース繊維のブレンドからなるセルロース繊維と
を含む複合材料。
【請求項2】
前記漂白セルロース繊維が、前記マトリックス中に混和された全セルロース繊維の約50%未満を占める、請求項1に記載の複合材料。
【請求項3】
前記漂白セルロース繊維が、前記マトリックス中に混和された全セルロース繊維の約5%〜25%を占める、請求項2に記載の複合材料。
【請求項4】
前記漂白セルロース繊維が、約10以下の平均カッパー価を有する、請求項1に記載の複合材料。
【請求項5】
前記漂白セルロース繊維が、ダグラスファー、ベイツガ、スプルース、サザンイエローパイン、ケナフおよびレッドウッドからなる群から選択された樹種からの繊維を含む、請求項1に記載の複合材料。
【請求項6】
前記漂白セルロース繊維が、ラジアータパインの繊維を含む、請求項1に記載の複合材料。
【請求項7】
前記未漂白セルロース繊維が、ダグラスファー、ベイツガ、ホワイトファー、スプルース、サザンパイン、ケナフおよびレッドウッドからなる群から選択された樹種からの繊維を含む、請求項1に記載の複合材料。
【請求項8】
前記漂白および未漂白セルロース繊維が、複合材料の約0.5重量%〜20重量%を占める、請求項1に記載の複合材料。
【請求項9】
前記漂白および未漂白セルロース繊維が、約1mm〜3.5mmの平均繊維長を有するセルロース繊維を含む、請求項1に記載の複合材料。
【請求項10】
前記複合材料の曲げ強度(MOR)が、未漂白の高品位セルロース繊維で強化した同等の複合材料のMORと実質的に同等以上である、請求項1に記載の複合材料。
【請求項11】
前記複合材料の靭性エネルギーが、未漂白の高品位セルロース繊維で強化した同等の複合材料の靭性エネルギーと実質的に同等以上である、請求項1に記載の複合材料。
【請求項12】
繊維強化セメント複合材料を製造する方法であって、
漂白セルロース繊維および未漂白セルロース繊維を供給するステップと、
該漂白および未漂白セルロース繊維をセメント系結合剤と混合して、繊維セメント混合物を形成するステップと、
該繊維セメント混合物を成形して、予め選択された形状および寸法の繊維セメント品とするステップと、
該繊維セメント品を養生するステップと
を含む方法。
【請求項13】
前記漂白セルロース繊維を供給するステップが、セルロース繊維を漂白剤で処理するステップを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記漂白セルロース繊維は、約10以下の平均カッパー価となるよう前記漂白剤で処理する、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記未漂白セルロース繊維を供給するステップが、未漂白の標準品位セルロース繊維を供給するステップを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
前記漂白および未漂白セルロース繊維を混合するステップが、前記セルロース繊維を予め選択された割合で混合して、前記複合材料に所定の物理的性質を付与するステップを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項17】
前記予め選択された割合の漂白および未漂白セルロース繊維が、高品位セルロース繊維だけで強化された同等の複合材料のMORと、実質的に同等以上のMORを有する前記複合材料を与える、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
セメント系マトリックスと、
漂白および未漂白セルロース繊維を含み、建築材料に所定のたわみ性および強度を与えるように選択されたセルロース繊維のブレンドと
を含む複合建築材料。
【請求項19】
前記セルロース繊維のブレンドが、高品位セルロース繊維だけで強化された同等の建築材料のたわみ性および引張り強さと、実質的に同等以上のたわみ性および強度を建築材料に与えるるように選択される、請求項18に記載の建築材料。
【請求項20】
前記セルロース繊維のブレンドが、漂白セルロース繊維だけで強化された同等の建築材料のたわみ性および引張り強さと、実質的に同等以上のたわみ性および強度を建築材料に付与するように選択される、請求項18に記載の建築材料。
【請求項21】
前記セルロース繊維のブレンドが、漂白セルロース繊維を約50%未満含む、請求項18に記載の建築材料。
【請求項22】
前記セルロース繊維のブレンドが、高品位セルロース繊維を含まない、請求項18に記載の建築材料。
【請求項23】
前記セルロース繊維のブレンドが、漂白セルロース繊維を約5%〜25%含む、請求項21に記載の建築材料。
【請求項24】
前記漂白セルロース繊維が、約10未満の平均カッパー価を有する、請求項18に記載の建築材料。
【請求項25】
セメント系マトリックスと、
約10以下のカッパー価を有するセルロース繊維の第1の部分と、
約10を超えるカッパー価を有する標準品位セルロース繊維の第2の部分と
を含む複合材料。
【請求項26】
前記セルロース繊維の第1の部分が、高品位セルロース繊維を含む、請求項25に記載の複合材料。
【請求項27】
前記セルロース繊維の第1の部分が、セルロース繊維の前記2つの部分を合わせた全量の約50重量%未満を占める、請求項25に記載の複合材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2006−518323(P2006−518323A)
【公表日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−500824(P2006−500824)
【出願日】平成16年1月7日(2004.1.7)
【国際出願番号】PCT/US2004/000313
【国際公開番号】WO2004/063113
【国際公開日】平成16年7月29日(2004.7.29)
【出願人】(505018256)ジェイムズ ハーディー インターナショナル ファイナンス ベスローテン フェンノートシャップ (11)
【氏名又は名称原語表記】JAMES HARDIE INTERNATIONAL FINANCE B.V.
【Fターム(参考)】