説明

漏液検知線

【課題】発色時間を短縮し、発色むらを防ぐ。
【解決手段】絶縁編組被覆の2本の導体11と線状発色体13を撚り合わせて外部編組14した漏液検知線P2である。発色体13は、非吸液性糸の編組13b’を液溶性着色剤で着色し、その外周を非吸液性糸の編組13cによって被覆したものである。この発色体13は非吸液性糸の編組13b’からなるため、その糸内には着色剤が含浸せず、糸の外周面に着色剤がコーティングされた態様、すなわち、着色であるため、特に、編組13b’への着色のため、編組の各繊維間に着色剤が浸漬し、着色剤の含有量も多く、発色速度が速く、発色度合も鮮明となる。漏液は、その着色剤の着色層に直接に染み込むため、着色剤の溶け出しも円滑であり、漏液が生じて着色層に至ってから、その発色が外部編組に至って目視できるまでの時間が短縮される。また、発色体が撚られて漏洩検知線の断面円周方向全長に亘って存在するため、色むらが生じ難い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、建物内部の漏水や薬液等の貯蔵、運搬時の漏液を検知する漏液検知線に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コンピュータ室、各種の資料などの保管室等の場合、建物内部の壁面、床面、各種機器表面、配管接合部等に水が付着したり、漏水したりすると、建物床面等の腐食の原因となったり、各種機器が誤動作したり、資料が変質したりする恐れがある。また、水や硫酸、塩酸などの薬品類、又は原油、石油、ガソリンなどの油類のような各種の液体を貯蔵したり、輸送したりする場合、その液体の漏洩は、経済的損失や事故の原因となる。
このため、それらの漏水や漏液(以下、両者を「漏液」と称する。)を検知する手段として、建物内部の壁面等に漏液検知線を添設して、その漏液を検知することが行われている。
【0003】
その漏液検知線として、例えば、図4に示すように、対の導体(電極)1、1をそれぞれ絶縁編組2によって被覆し、その被覆電極1に発色糸(発色体)3を沿わせてその外周面をさらに外部編組4によって被覆したものP’がある(特許文献1 実用新案登録請求の範囲 第2頁左欄(第3欄)第22行〜同右欄(第4欄)第42行、第1図参照)。
この漏液検知線P’は、漏液が生じると、上記両編組2、4がその漏液を捕捉してその漏液を介して導体1、1間を短絡させ、その短絡よる電気信号によって漏液を検出する。このとき、両編組2、4が漏液を確実に捕捉するため、検知精度が高いものである。また、漏液によって発色糸3の着色剤が溶融して外部編組4まで滲み出るため、その着色(発色)した外部編組4を確認することによって漏液箇所を確認できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開昭59−155536号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記漏液検知線P’の発色糸(発色体)3は、吸液性(吸湿性)の糸である綿糸に着色剤を含浸させており(特許文献1第2頁右欄(第4欄)第30〜32行参照)、漏液が生じて発色糸3に液が至ってから、その着色剤が外部編組4に至って目視可能となるまでに、例えば、10分程度の時間を要している(下記表2参照)。今日、その目視時間の短縮を要請されている。
【0006】
また、漏洩した液体が滲み出る箇所に色むらがあったり、発色濃さが十分でなかったりする問題がある。さらに、綿糸は吸湿性のため、大気中の湿気を吸収し、漏洩検知前に電極1、1間の抵抗が低下して漏洩検知精度(特性)が低下する恐れがあった。また、発色糸3は導体(電極)1に沿わせているだけであるため(特許文献1図1参照)、漏洩検知線P’の断面円周方向において滲み出る色にむらが生じる問題があった。
【0007】
なお、特許文献1第2頁左欄(第3欄)第39〜42行には、上記発色体3として、着色剤を固めて線状にしたものとしたり、紙、紐、紙テープ等の線材に着色剤を固結させたものとしたりする旨が記載されているが、前者の着色剤を固めた線状発色体3は、その製造が困難であるとともに、柔軟性に欠けるため、導体1に沿わせることができない等の問題から、実用化されていない。また、後者の線材に着色剤を固結させた発色体3は、その固結の内容が不明確であって、同様に、実用化されていない。
【0008】
この発明は、この様な実状の下、発色性を向上させる(発色時間を短縮させる)ことを第1の課題とし、発色むらを無くすことを第2の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記第1の課題を達成するために、この発明は、上記発色体3を、非吸液性糸に液溶性着色剤を着色したものとしたのである。
上記従来の発色糸3は、綿糸に着色剤を含浸させた、所謂、「染色」であって、「染色」は、定着剤を用いて繊維に着色剤を定着させるものであり、この発明で言う「着色」とは、非吸液性糸であるから、その糸には着色剤が含浸せず、糸の外周面に着色剤がコーティングされた態様をいう。
この発色する着色剤が糸への着色であるため、漏液によりその漏液が着色剤の着色層に直接に染み込み、着色剤の溶け出しも円滑であり、発色糸(着色層)に液体が至ってから、その着色剤が外部編組に至って目視できるまでの時間が短縮される。
【0010】
ここで、「非吸液性糸」とは、JIS K7209に規定する6.2A法に基づく 吸水率が2%以下のものを言い、その素材として、例えば、ポリエステル(吸水率:0.4%)、ポリエチレン(吸水率:0.02%)等を挙げることができるが、本願に係る発明の作用効果を発揮する限りにおいて任意である。
また、「液溶性着色剤」とは、溶剤、定着剤及び着色剤を一定量の配合で混ぜたものを言い、その配合割合は、発色度合、着色度合等を考慮し、実験等によって適宜に決定する。
【0011】
この発明の構成としては、絶縁編組で被覆された2本の導体が並列され、その導体に沿って線状発色体を設け、それらを全長に亘って外部編組によって被覆した漏液検知線において、前記発色体は、非吸液性糸の外周面に液溶性着色剤を着色したものである構成を採用することができる。
【0012】
この構成において、上記発色体の非吸液性糸は、編組構造としたり、撚り合わせ構造としたりすることができる。編組構造とすれば、編組構造は保液性であることから、編組の各繊維糸間に着色剤が浸漬するため、発色体の着色剤含有量が多くなり、発色速度が速くなるとともに、発色度合も鮮明となる。編組構造、撚り合わせ構造への着色は、繊維糸を着色層に浸して着色した後、その着色糸を編組等としたり、編組等とした後、その編組等を着色層に浸して着色したりすることができる。
また、上記発色体を非吸液性糸の編組によって被覆したものとすれば、編組構造は保液性であって漏液の通過を容易にすることができるとともに、漏液による着色剤の液溶に支障なく、かつ、導体(電極)と吸湿性である着色剤との距離が被覆編組の厚さ分、保たれる(長くなる)ことによって吸湿した着色剤の湿気が電極に至り難くなって電極間抵抗の低下を抑えることができる。
さらに、上記導体と上記発色体をその全長に亘って撚ったものとすれば、発色体が、漏洩検知線の断面円周方向全長に亘って存在することとなるから、滲み出る色にむらが生じる恐れも少なくなる。すなわち、上記第2の課題を達成することができる。
【0013】
上記導体としては、従来から使用されているものであれば何れでも良く、例えば、錫メッキ等の撚り線、単線、平角線等であって、その材質も金属に限らず、導電性を有すれば、非金属であっても良いが、屈曲性を重視するのであれば、撚り線が好ましい。対の導体の並列間隔は、検知精度を考慮して実験等によって適宜に決定する。
【発明の効果】
【0014】
この発明は、以上のように、発色体を非吸液性糸の外周面に液溶性着色剤を着色したものとしたので、漏液が生じて発色糸(着色層)に液が至ってから、その着色剤が外部編組に至って目視できるまでの時間が短縮される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】この発明の一実施形態の断面図
【図2】他の実施形態の断面図
【図3】実施形態と従来例の漏液発色状態図
【図4】従来の一例の断面図
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1、図2に、この発明の実施形態1、2を示し、この実施形態1、2の漏液検知線P1、P2は、下記表1に示すように、錫メッキ軟銅撚り線(素線径:0.18mm×13本=0.33mm)からなる対の導体11、11をそれぞれ外径0.3mmのモノフィラメント状白色ポリエチレン糸からなる編組12で被覆し、その被覆導体11、11と線状発色体13を撚り、その外周を外径0.1mmのマルチフィラメント状白色ポリエステル糸の外部編組14で被覆したもの(最大外径:3.6mm)である。
【0017】
このとき、発色体13は、外径0.1mmのマルチフィラメント状白色ポリエステル糸13aの撚り糸13b(径:1 mm、実施形態1)、筒状編組13b’(径:1mm、実施形態2)に赤色着色剤aを着色し、実施形態2は、さらに、その外周面を、外径0.3mmのモノフィラメント状白色ポリエチレン糸の編組13cで被覆したものである。編組13b’は、筒状に限らず、本願に係る発明の作用効果を発揮する限りにおいて、例えば、糸13aが中実状になったもの等の全ての態様とすることができる。
【0018】
撚り糸13b及び筒状編組13b’への着色剤aの着色は、着色剤((株)岡本染料店 名称:直接染料 型式:K.Light Scarlet F2G)と定着剤(北広ケミカル(株) 名称:捺染用アルギン酸ソーダ 型式:LAMALGIN U−MV)とを、前者:1〜5重量%、後者:1〜5重量%の配合割合で水(溶剤)に溶解し、その溶解液に撚り糸13b又は編組13b’を浸し(通し)てその外周面全長及び内部に亘って着色し(浸漬し)、十分に乾燥して巻き取ることによって行った。着色剤及び定着剤は各種の水溶性のものであればいずれでも良い。なお、前記配合割合は、漏液検知特性、耐湿度特性及び着色工程に於ける粘度から算出した。
【0019】
一方、比較例として、下記表1、図4に示すように、錫メッキ軟銅撚り線(素線径:0.18mm×30本=0.75mm)からなる対の導体1、1をそれぞれ外径0.2mmのモノフィラメント状白色ポリエチレン糸の編組2で被覆し、その被覆導体1、1と線状発色体3を並列し、その外周を外径0.1mmのマルチフィラメント状白色ポリエステル糸の外部編組4で被覆した漏液検知線P’(最大外径:4.5mm)を製作した。なお、発色体3は白色綿糸(径:0.6mm)を上記漏液検知線P1、P2の発色体13と同一配合の着色剤溶液に浸すことに(染色に)よって製作した。
【0020】
【表1】

【0021】
この各漏液検知線P’、P1、P2の電極抵抗等の特性は、それぞれ表1に示すとおりであり、各漏液検知線P’、P1、P2の「発色時間」、「発色濃さ」及び「発色むら」は下記表2の通りであった。
なお、検知抵抗は5kΩであり、「発色時間」は漏液検知線P’、P1、P2が吸液(吸水)により導体間抵抗が検知抵抗に達した直後から発色状態(図3参照)の確認までの時間として測定し、「発色濃さ」は吸液による発色後の乾燥状態(導体間抵抗が1MΩ以上/m)として測定し、「発色むら」は吸液による発色後の乾燥状態に於ける検知線円周の発色状態として測定した。
【0022】
【表2】

【0023】
この試験結果から、実施形態1、2は、比較例に対し、「発色時間」、「発色濃さ(図3参照)」、「発色むら」の全てにおいて優れていることが理解できる。
また、実施形態1と比較例の対比から、発色糸13aを吸湿性の材料である綿糸から、非吸湿性のポリエステル糸に変更することにより耐湿度特性の電極間抵抗を上げ得ることが理解できる。これは、綿糸は吸湿性があることから吸湿してその吸湿でもって導体1、1間の抵抗値を下げるのに対し、ポリエステル糸は非吸湿性のため、吸湿機能が無く、前記吸湿による導体1、1間の抵抗値を下げる程度が少ないことによると考える。さらに、実施形態2から、編組13cによって導体(電極)11と吸湿性である着色剤との距離が被覆編組13cの厚さ分、保たれることによって吸湿した着色剤の湿気が電極に至り難くなって電極間抵抗の低下を抑えることができるものと考える(表1の「耐湿度特性」参照)。
【0024】
この各実施形態において、導体11の絶縁性を担保できる限りにおいて、絶縁編組12を除去したり、実施形態2において発色体13の編組被覆13cを除去したり、逆に、実施形態1において編組被覆13cを設けたり、導体11を撚り線とせず単線にしたり、また、導体11、発色体13を撚ることなく並列して外部編組14で被覆したりすることもできる。
また、非吸湿素材としては、上記ポリエステル、ポリエチレンに限らず、例えば、各種の天然繊維や樹脂等の種々のものが採用でき、モノフィラメント又はマルチフィラメントのいずれでも良い。
【0025】
なお、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。この発明の範囲は、上記した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0026】
P1、P2、P’ 漏液検知線
a 着色剤
1、11 導体
2、12 絶縁編組
3、13 線状発色体
13a ポリエステル糸(非吸液糸)
13b 着色剤着色撚り線
13b’ 着色剤着色編組
13c 発色体被覆編組
4、14 外部編組

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁編組(12)で被覆された2本の導体(11、11)が並列され、その導体(11)に沿って線状発色体(13)を設け、それらを全長に亘って外部編組(14)によって被覆した漏液検知線(P)であって、
上記発色体(13)は、非吸液性糸の外周面に液溶性着色剤(a)を着色したものであることを特徴とする漏液検知線。
【請求項2】
上記発色体(13)の非吸液性糸を編組構造(13b’)としたことを特徴とする請求項1記載の漏液検知線。
【請求項3】
上記発色体(13)の非吸液性糸を撚り合わせ構造(13b)したことを特徴とする請求項1記載の漏液検知線。
【請求項4】
上記発色体(13)を、上記液溶性着色剤(a)に対して非吸液性糸の編組(13c)によって被覆したことを特徴とする請求項1乃至3の何れか一つに記載の漏液検知線。
【請求項5】
上記導体(11)と上記発色体(13)をその全長に亘って撚ったことを特徴とする請求項1乃至4の何れか一つに記載の漏液検知線。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−211861(P2012−211861A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−78345(P2011−78345)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000108742)タツタ電線株式会社 (76)
【Fターム(参考)】