説明

漏電検知装置

【課題】漏電検知装置と直流電源とを接続するケーブルが断線した場合に、その断線による異常を検知できるようにする。
【解決手段】漏電検知装置100は、カップリングコンデンサC1にパルスを供給するパルス発生器2と、カップリングコンデンサC1の電圧を検出する電圧検出部6と、電圧検出部6が検出した電圧を閾値と比較し、その比較結果に基づいて直流電源300の漏電の有無を判定する漏電判定部7と、直流電源300を擬似的に漏電状態にするプリチェック回路4と、直流電源300を擬似的に漏電状態にした場合に、漏電判定部7が漏電ありと判定したか否かを診断する診断部8と、ケーブルW1,W2が接続される端子T1,T2とを備えている。直流電源300を擬似的に漏電状態にした場合は、パルス発生器2から、カップリングコンデンサC1、ケーブルW1、ケーブルW2を介して、プリチェック回路4へ至る電流経路Xが形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば電気自動車において、直流電源の漏電を検知するために用いられる漏電検知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車においては、モータや車載機器を駆動するための高電圧の直流電源が搭載される。この直流電源は、グランドに接地されている車体と電気的に絶縁されている。しかしながら、何らかの原因により、直流電源と車体との間で絶縁不良や短絡等が発生した場合、直流電源からグランドへ至る経路に電流が流れ、漏電が生じる。そこで、この漏電を検知するための漏電検知装置が、直流電源に付設される。
【0003】
漏電検知装置には、漏電検知を正常に行えるか否かをチェックすることができる、いわゆる自己診断機能を備えたものや、断線の検出が可能な断線検出機能を備えたものがある。後記の特許文献1、2には、自己診断機能を備えた漏電検知装置が記載されている。また、後記の特許文献3には、断線検出機能を備えた漏電検知装置が記載されている。
【0004】
特許文献1では、検出抵抗と絶縁抵抗との接続点と、グランドとの間に、自己診断用抵抗およびスイッチ素子が直列に接続されており、自己診断動作時に、スイッチ素子がオンの状態で、検出抵抗と絶縁抵抗との接続点に現れる電圧の値が基準値と異なる場合に、検出抵抗の劣化または故障と判定する判定手段が設けられている。
【0005】
特許文献2では、カップリングコンデンサを通じて対地絶縁回路にパルス電圧を印加し、対地絶縁回路に流れる漏電電流に略比例する信号電圧の大きさに応じて、対地絶縁回路の絶縁良否を判定する絶縁性能診断装置において、対地絶縁回路の対地絶縁抵抗が低下した場合と同じ信号変化を生じさせる疑似絶縁低下回路が設けられている。
【0006】
特許文献3では、対地漏洩電流の周波数成分に基づいて絶縁不良を検出するモータ駆動装置において、漏洩電流検出回路部の出力と閾値との比較結果に基づきパルスを出力する波形成形回路部と、この波形成形回路部が所定周波数のパルスを出力しない場合に、電源から絶縁不良検出回路部に至る経路に断線が発生したと判定する断線判定回路部とが設けられている。
【0007】
図4は、自己診断機能を備えた従来の漏電検知装置の一例を示している。漏電検知装置200は、CPU1、パルス発生器2、フィルタ回路3、プリチェック回路4、メモリ5、抵抗R1、およびカップリングコンデンサC1,C3を備えている。CPU1は、電圧検出部6と、漏電判定部7と、診断部8とを有している。フィルタ回路3は抵抗R2およびコンデンサC2からなる。プリチェック回路4は、トランジスタQおよび抵抗R3〜R5からなる。直流電源300(高電圧バッテリ)の負極側は、ケーブルWを介して、漏電検知装置200のカップリングコンデンサC1,C3に接続されている。直流電源300の正極側は、モータや車載機器などの負荷に接続されている。
【0008】
漏電検知装置200の通常時の動作は、以下のとおりである。パルス発生器2から出力されるパルス(図6(a))は、抵抗R1を介してカップリングコンデンサC1を充電し、この充電によって、P点の電位が上昇する。このP点の電位はフィルタ回路3を介して、入力電圧VとしてCPU1に入力される。CPU1の電圧検出部6は、この入力電圧Vに基づいて、カップリングコンデンサC1の電圧を検出する。検出されたカップリングコンデンサC1の電圧を、以下では「検出電圧」という。
【0009】
直流電源300に漏電が生じていない場合は、図5の実線に示すように、検出電圧は急峻に上昇する。このため、時刻toでパルスが立ち上がってから、時刻t1でパルスが立ち下がるまでの間に、検出電圧は閾値SHを超える。一方、直流電源300に漏電が生じている場合は、図5の破線に示すように、検出電圧は、漏電インピーダンスのために緩やかに上昇する。このため、時刻toから時刻t1までの間に、検出電圧は閾値SHを超えない。
【0010】
電圧検出部6は、パルスが立ち下がる時刻t1において、カップリングコンデンサC1の電圧を検出する。漏電が生じていない場合は、検出電圧はVaとなり、漏電が生じている場合は、検出電圧はVbとなる。CPU1の漏電判定部7は、検出電圧と閾値SHとを比較し、検出電圧が閾値SH以上(Va)であれば、「漏電なし」と判定し、検出電圧が閾値SH未満(Vb)であれば、「漏電あり」と判定する。「漏電あり」の場合は、CPU1から漏電検知信号が出力される。
【0011】
次に、漏電検知装置200の自己診断時の動作は、以下のとおりである。自己診断を行う場合は、図6(b)のように、プリチェック要求信号がCPU1に入力される。CPU1の診断部8は、この信号を受けて、擬似漏電状態を作り出すために、プリチェック回路4のトランジスタQをオンにする。これにより、図4の破線矢印で示すように、パルス発生器2から、抵抗R1およびカップリングコンデンサC1,C3を経て、プリチェック回路4へ至る電流経路Yが形成される。このため、パルス発生器2が出力するパルスにより、カップリングコンデンサC1,C3が共に充電される。この結果、P点の電位すなわち入力電圧Vの上昇が緩やかとなる。したがって、図6(c)のように、カップリングコンデンサC1の検出電圧が閾値SH未満となるので、漏電判定部7は「漏電あり」と判定する。そして、この判定に基づき、図6(d)のようにCPU1から漏電検知信号が出力される。これにより、診断部8は、漏電検知が正常に行われていると判定する。
【0012】
しかしながら、上述した漏電検知装置200では、図4における電流経路Yが漏電検知装置200の内部に形成される。このため、ケーブルWが断線した場合でも、自己診断時には電流経路Yが形成されて、図6で示した動作が行われ、漏電検知信号が出力される。すなわち、ケーブルWが断線しているにもかかわらず、自己診断において漏電検知動作が正常と判定される。
【0013】
しかるに、ケーブルWが断線すると、漏電検知装置200が直流電源300から切り離されるので、本来の漏電検知ができなくなる。したがって、このような異常状態にもかかわらず、自己診断において漏電検知動作が正常と判定されると、漏電検知装置200は、漏電検知が不可能な状態のまま動作を続けてしまうことになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2005−127821号公報
【特許文献2】特開2007−163291号公報
【特許文献3】特開2004−361309号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の課題は、漏電検知装置と直流電源とを接続するケーブルが断線した場合に、その断線による異常を検知できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明では、一端が直流電源に接続されるカップリングコンデンサと、このカップリングコンデンサの他端にパルスを供給するパルス発生器と、パルスにより充電されるカップリングコンデンサの電圧を検出する電圧検出部と、この電圧検出部が検出した電圧を閾値と比較し、その比較結果に基づいて直流電源の漏電の有無を判定する漏電判定部と、直流電源を擬似的に漏電状態にする擬似漏電回路と、この擬似漏電回路により直流電源を擬似的に漏電状態にした場合に、漏電判定部が漏電ありと判定したか否かを診断する診断部とを備えた漏電検知装置において、直流電源に一端が接続された第1ケーブルの他端を、カップリングコンデンサの一端に接続するための第1端子と、直流電源に一端が接続された第2ケーブルの他端を、擬似漏電回路に接続するための第2端子とがさらに設けられる。そして、擬似漏電回路により直流電源を擬似的に漏電状態にした場合には、パルス発生器から、カップリングコンデンサ、第1端子、第1ケーブル、第2ケーブル、および第2端子を介して、擬似漏電回路へ至る電流経路が形成される。
【0017】
このようにすると、パルス発生器から擬似漏電回路へ至る電流経路が、第1ケーブルと第2ケーブルを経由するので、2本のケーブルのいずれか一方または両方が断線した場合は、当該電流経路が形成されない。このため、自己診断時に、擬似漏電回路による擬似的な漏電状態を作り出すことができなくなるので、電圧検出部で検出されるカップリングコンデンサの電圧は、擬似漏電状態における電圧とは異なった変化を示す。したがって、カップリングコンデンサの電圧状態に基づき、電源と漏電検知装置との間のケーブルが断線したことによる異常を検知することができる。
【0018】
本発明では、第2端子と擬似漏電回路との間に、第2のカップリングコンデンサを設けてもよい。
【0019】
また、本発明では、第1ケーブルおよび第2ケーブルの一方または両方が断線したことを検知する断線検知部を設け、擬似漏電回路に駆動信号が与えられている状態で、電圧検出部により検出されるカップリングコンデンサの電圧が閾値以上となったことに基づいて、断線検知部が断線を検知するようにしてもよい。
【0020】
また、本発明では、断線検知部は、擬似漏電回路に駆動信号が与えられた後、カップリングコンデンサの電圧が閾値以上である状態が一定時間継続した場合に、断線を検知するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、漏電検知装置と直流電源とを接続するケーブルが断線した場合には、自己診断時に擬似的な漏電状態が形成されなくなるので、ケーブル断線による異常を検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施形態に係る漏電検知装置を示した回路図である。
【図2】非断線時の動作を説明するためのタイミングチャートである。
【図3】断線時の動作を説明するためのタイミングチャートである。
【図4】従来の漏電検知装置を示した回路図である。
【図5】漏電時および非漏電時における検出電圧の波形図である。
【図6】従来の漏電検知装置の動作を説明するためのタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の実施形態につき、図面を参照しながら説明する。各図において、同一部分または対応する部分には同一符号を付してある。以下では、本発明を電気自動車に搭載される漏電検知装置に適用した場合を例に挙げる。
【0024】
図1に示すように、車載用の直流電源300(高電圧バッテリ)の負極側と漏電検知装置100とが、ケーブルW1,W2を介して接続されている。直流電源300の正極側は、モータや車載機器などの負荷に接続されている。漏電検知装置100は、CPU1、パルス発生器2、フィルタ回路3、プリチェック回路4、メモリ5、抵抗R1、カップリングコンデンサC1,C3、および端子T1〜T5を備えている。
【0025】
CPU1は、漏電検知装置100の動作を制御する制御部を構成しており、電圧検出部6、漏電判定部7、診断部8、および断線検知部9を備えている。実際には、これらのブロック6〜9の各機能は、ソフトウェアによって実現される。パルス発生器2は、CPU1からの指令に基づき、所定周波数のパルスを生成する。抵抗R1はパルス発生器2の出力側に接続されている。カップリングコンデンサC1は、直流電源300と漏電検知装置100とを直流的に分離するためのコンデンサであって、抵抗R1と端子T1(第1端子)との間に接続されている。
【0026】
フィルタ回路3は、抵抗R1とカップリングコンデンサC1との接続点(P点)と、CPU1との間に設けられている。このフィルタ回路3は、CPU1に入力される電圧のノイズを除去するためのもので、抵抗R2およびコンデンサC2からなる。抵抗R2の一端はP点に接続されている。抵抗R2の他端は、CPU1に接続されているとともに、コンデンサC2の一端に接続されている。コンデンサC2の他端は、グランドGに接地されている。なお、本実施形態の場合、グランドGは電気自動車の車体である。
【0027】
プリチェック回路4と端子T2(第2端子)との間には、カップリングコンデンサC3が接続されている。カップリングコンデンサC3は、カップリングコンデンサC1と同様に、直流電源300と漏電検知装置100とを直流的に分離するためのコンデンサであり、本発明における第2のカップリングコンデンサに相当する。
【0028】
プリチェック回路4は、本発明における擬似漏電回路を構成するもので、トランジスタQおよび抵抗R3〜R5からなる。トランジスタQのコレクタには抵抗R3が接続されており、カップリングコンデンサC3は、抵抗R3と直列に接続されている。トランジスタQのエミッタは、グランドGに接地されている。トランジスタQのベースは、抵抗R5を介して、CPU1に接続されている。抵抗R4は、トランジスタQのベースとエミッタとにまたがって接続されている。
【0029】
メモリ5は、ROMやRAMなどからなり、記憶部を構成している。このメモリ5には、CPU1の動作プログラムや制御用データが記憶されているとともに、後述する漏電有無判定のための閾値SHが記憶されている。
【0030】
CPU1において、電圧検出部6は、P点からフィルタ回路3を介してCPU1に取り込まれる入力電圧Vに基づいて、カップリングコンデンサC1の電圧を検出する。
【0031】
漏電判定部7は、電圧検出部6が検出した電圧を閾値SHと比較し、その比較結果に基づいて、直流電源300の漏電有無を判定する。
【0032】
診断部8は、自己診断時に、プリチェック回路4を駆動して直流電源300を擬似的に漏電状態にするとともに、この状態で漏電判定部7が「漏電あり」と判定したか否かを診断する。
【0033】
断線検知部9は、電圧検出部6が検出した電圧の状態に基づいて、ケーブルW1,W2の一方または両方が断線したことを検知する。
【0034】
ケーブルW1(第1ケーブル)の一端は、直流電源300の負極に接続されている。ケーブルW1の他端は、漏電検知装置100の端子T1に接続され、この端子T1を介して、カップリングコンデンサC1の一端に接続されている。
【0035】
ケーブルW2(第2ケーブル)の一端は、直流電源300の負極に接続されている。ケーブルW2の他端は、漏電検知装置100の端子T2に接続され、この端子T2を介して、カップリングコンデンサC3の一端に接続されている。
【0036】
実際には、例えば、ケーブルW1の一端は、直流電源300の負極を構成する同電位の2つの端子(図示省略)の一方に接続され、ケーブルW2の一端は、当該2つの端子の他方に接続される。
【0037】
漏電検知装置100の端子T3〜T5は、CPU1に接続されている。端子T3からは、漏電が検知された場合に漏電検知信号が出力される。端子T4からは、断線が検知された場合に断線検知信号が出力される。端子T5には、自己診断を行う場合にプリチェック要求信号が入力される。このプリチェック要求信号は、例えば、イグニッションスイッチがオンしてから一定時間が経過した後に、上位装置(図示省略)より与えられる。
【0038】
次に、上記構成からなる漏電検知装置100の動作について説明する。以下では、ケーブルが断線していない場合と、ケーブルが断線している場合とに分けて、動作説明を行う。
【0039】
(1)ケーブル非断線時の動作
まず、ケーブルW1,W2が共に断線していない場合の動作について、図2を参照しながら説明する。パルス発生器2は、図2(a)に示すような矩形波のパルスを所定周期で出力する。このパルスは、抵抗R1を介してカップリングコンデンサC1に供給され、カップリングコンデンサC1を充電する。なお、実際には、端子T1,T2と車体との間に浮遊容量が存在し、パルスによって浮遊容量にも充電が行われる。カップリングコンデンサC1への充電によって、P点の電位が上昇する。このP点の電位はフィルタ回路3を介して、入力電圧VとしてCPU1に入力される。
【0040】
<プリチェック要求信号なしの場合>
端子T5に、図2(b)のプリチェック要求信号が入力されていない場合は、CPU1からプリチェック回路4へ駆動信号が出力されない。このため、プリチェック回路4のトランジスタQはオフしている。この状態では、図1に破線矢印で示した電流経路Xが形成されないので、パルス発生器2から出力されるパルスによって、カップリングコンデンサC1のみが充電され、カップリングコンデンサC3は充電されない。
【0041】
CPU1の電圧検出部6は、入力電圧Vに基づいて、カップリングコンデンサC1の電圧を検出する。この電圧の検出は、カップリングコンデンサC1に供給されるパルスが立ち下がる時刻において行われる。検出されたカップリングコンデンサC1の電圧を、以下では「検出電圧」という。
【0042】
図5で説明したように、漏電判定部7は、電圧検出部6で検出された検出電圧と、メモリ5に記憶されている閾値SHとを比較して、その比較結果に基づき漏電の有無を判定する。直流電源300に漏電が生じていなければ、検出電圧が閾値SHを超える(図2(c)のa)。したがって、漏電判定部7は「漏電なし」と判定するので、CPU1から漏電検知信号は出力されない(図2(d))。一方、直流電源300に漏電が生じていると、検出電圧が閾値SHを超えないので(図2(c)のb)、漏電判定部7は「漏電あり」と判定する。この場合は、CPU1から漏電検知信号が出力される(図2の破線)。
【0043】
<プリチェック要求信号ありの場合>
自己診断時には、上位装置から端子T5に、図2(b)のプリチェック要求信号が入力される。すると、同じタイミングでCPU1からプリチェック回路4へ駆動信号が出力される。この駆動信号は、トランジスタQをオンにするためのH(High)レベル信号である。トランジスタQは、この駆動信号が抵抗R5を介してベースに与えられることによって、オンする。
【0044】
トランジスタQがオンすると、図1に破線矢印で示したように、パルス発生器2→抵抗R1→カップリングコンデンサC1→端子T1→ケーブルW1→ケーブルW2→端子T2→カップリングコンデンサC3→プリチェック回路4の電流経路Xが形成される。プリチェック回路4のトランジスタQのエミッタはグランドG(車体)に接地されているので、トランジスタQのオンにより、直流電源300と車体との間で実際に漏電が生じた場合と同様の、擬似的な漏電状態が作り出される。
【0045】
この擬似漏電状態においては、パルス発生器2が出力するパルスにより、カップリングコンデンサC1が充電されるとともに、カップリングコンデンサC3も充電される。このため、P点の電位すなわち入力電圧Vの上昇が緩やかとなる。その結果、カップリングコンデンサC1の検出電圧が閾値SH未満となるので(図2(c)のc)、漏電判定部7は「漏電あり」と判定する。そして、この判定に基づき、図2(d)で実線で示すように、CPU1から漏電検知信号が出力される。これにより、診断部8は、漏電検知が正常に行われていると判定する。
【0046】
その後、自己診断を終了するために、端子T5にプリチェック要求信号が入力されなくなると、同じタイミングで駆動信号の出力がなくなり、プリチェック回路4のトランジスタQは再びオフとなる。このため、電流経路Xが形成されなくなって、擬似漏電状態が解除され、漏電検知装置100は自己診断前の状態に戻る。
【0047】
(2)ケーブル断線時の動作
次に、ケーブルW1,W2が断線した場合の動作について、図3を参照しながら説明する。なお、ケーブルW2が断線した場合は、ケーブルW1により漏電検知が可能であるが、電流経路Xが形成されないため、自己診断が不可能となる。また、ケーブルW1が断線した場合は、図1のP点が直流電源300から切り離されるので、漏電検知が不可能となり、さらに、電流経路Xが形成されないため、自己診断も不可能となる。以下では、ケーブルW1が断線した場合を例に挙げる。
【0048】
<プリチェック要求信号なしの場合>
ケーブルW1が断線しても、前述のように端子T1と車体(グランド)との間に浮遊容量が存在するので、パルス発生器2からカップリングコンデンサC1への充電経路は維持される。しかし、ケーブルW1の断線により、カップリングコンデンサC3への充電が行われないため、電圧検出部6で検出された検出電圧は閾値SHを超える(図3(c)のa)。したがって、漏電判定部7では「漏電なし」と判定され、CPU1から漏電検知信号は出力されない(図3(d))。
【0049】
<プリチェック要求信号ありの場合>
自己診断時に、端子T5にプリチェック要求信号が入力されると(図3(b))、前述したように、CPU1からプリチェック回路4へ、トランジスタQをオンにするための駆動信号が出力される。しかし、ケーブルW1が断線している場合は、トランジスタQの状態にかかわらず、図1における電流経路Xが形成されない。したがって、パルス発生器2のパルスにより、カップリングコンデンサC1が充電されるのみであり、カップリングコンデンサC3からプリチェック回路4の抵抗R3およびトランジスタQを通って、グランドGへ電流は流れない。つまり、プリチェック回路4による擬似的な漏電状態を作り出すことができなくなる。これは、ケーブルW2が断線している場合、または、ケーブルW1,W2の両方が断線している場合にも当てはまる。
【0050】
したがって、カップリングコンデンサC1の電圧、すなわち検出電圧は、図2(c)のcとは異なり、図3(c)のdに示すように、閾値SHを超える。このため、漏電判定部7では「漏電なし」と判定されるので、図3(d)に示すように、漏電検知信号は出力されない。
【0051】
この場合、断線検知部9は、プリチェック回路4に駆動信号が与えられている状態で、検出電圧が閾値SH以上となったことに基づいて、断線を検知する。より詳しくは、断線検知部9は、プリチェック要求信号に基づいてプリチェック回路4へ駆動信号が出力された後、電圧検出部6での検出電圧が閾値SH以上である状態が一定時間(図3(c)のT)継続した場合に、ケーブルW1,W2の一方または両方に断線が生じたことを検知する。そして、断線検知部9によりケーブルの断線が検知されると、図3(e)のように、CPU1から断線検知信号が出力される。この断線検知信号は、端子T4を介して上位装置へ送られ、上位装置において異常処理(例えば、断線を知らせる警報の出力)が行われる。
【0052】
このように、上述した実施形態においては、漏電検知装置100と直流電源300とを接続するケーブルを2本に分け、端子T1と直流電源300とをケーブルW1で接続するとともに、端子T2と直流電源300とをケーブルW2で接続している。そして、自己診断時に、パルス発生器2から、抵抗R2、カップリングコンデンサC1、端子T1、ケーブルW1、ケーブルW2、端子T2、カップリングコンデンサC3を介して、プリチェック回路4へ至る擬似漏電用の電流経路Xが形成されるようにしている。
【0053】
したがって、電流経路Xは必ずケーブルW1,W2を経由するので、ケーブルW1,W2のいずれか一方または両方が断線した場合は、電流経路Xが形成されず、擬似的な漏電状態を作り出すことができなくなる。このため、カップリングコンデンサC1の電圧は、擬似漏電状態における電圧とは異なった変化を示し、電圧検出部6での検出電圧が閾値SH以上となる。これに基づいて、自己診断中に、断線による異常を検知することができる。その結果、漏電検知が不可能な状態のまま漏電検知装置100が動作を続けてしまうという不具合を、未然に防止することができる。
【0054】
本発明では、以上述べた以外にも種々の実施形態を採用することができる。例えば、前記の実施形態では、抵抗R2およびコンデンサC2からなるフィルタ回路3を設けた例を示したが、フィルタ回路3は本発明にとって必須のものではなく、省略してもよい。また、必要に応じて、カップリングコンデンサC1,C3の充電電荷を強制的に放電させるための放電回路を付加してもよい。
【0055】
また、前記の実施形態では、パルス発生器2から出力されるパルスの立ち下りのタイミングにおいて、電圧検出部6がカップリングコンデンサC1の電圧を検出するとともに、漏電判定部7が漏電の有無を判定したが、本発明はこれに限定されない。例えば、パルスが立ち下がる前の予め定められた時点で、電圧検出部6による電圧検出および漏電判定部7による漏電有無判定を行ってもよい。
【0056】
また、前記の実施形態では、プリチェック回路4をトランジスタQと抵抗R4、R5で構成した例を示したが、トランジスタや抵抗に代えて、コイルおよび接点を有するリレーを用いてもよい。
【0057】
さらに、前記の実施形態では、電気自動車に搭載される漏電検知装置を例に挙げたが、本発明は、電気自動車以外の用途に用いられる漏電検知装置にも適用することができる。
【符号の説明】
【0058】
1 CPU
2 パルス発生器
3 フィルタ回路
4 プリチェック回路(擬似漏電回路)
5 メモリ
6 電圧検出部
7 漏電判定部
8 診断部
9 断線検知部
100 漏電検知装置
300 直流電源
C1,C3 カップリングコンデンサ
T1 端子(第1端子)
T2 端子(第2端子)
W1 ケーブル(第1ケーブル)
W2 ケーブル(第2ケーブル)
X 電流経路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端が直流電源に接続されるカップリングコンデンサと、
前記カップリングコンデンサの他端にパルスを供給するパルス発生器と、
前記パルスにより充電される前記カップリングコンデンサの電圧を検出する電圧検出部と、
前記電圧検出部が検出した電圧を閾値と比較し、その比較結果に基づいて前記直流電源の漏電の有無を判定する漏電判定部と、
前記直流電源を擬似的に漏電状態にする擬似漏電回路と、
前記擬似漏電回路により前記直流電源を擬似的に漏電状態にした場合に、前記漏電判定部が漏電ありと判定したか否かを診断する診断部と、
を備えた漏電検知装置において、
前記直流電源に一端が接続された第1ケーブルの他端を、前記カップリングコンデンサの一端に接続するための第1端子と、
前記直流電源に一端が接続された第2ケーブルの他端を、前記擬似漏電回路に接続するための第2端子と、をさらに備え、
前記擬似漏電回路により前記直流電源を擬似的に漏電状態にした場合に、前記パルス発生器から、前記カップリングコンデンサ、前記第1端子、前記第1ケーブル、前記第2ケーブル、および前記第2端子を介して、前記擬似漏電回路へ至る電流経路が形成されることを特徴とする漏電検知装置。
【請求項2】
請求項1に記載の漏電検知装置において、
前記第2端子と前記擬似漏電回路との間に、第2のカップリングコンデンサを設けたことを特徴とする漏電検知装置。
【請求項3】
請求項1に記載の漏電検知装置において、
前記第1ケーブルおよび前記第2ケーブルの一方または両方が断線したことを検知する断線検知部をさらに備え、
前記断線検知部は、前記擬似漏電回路に駆動信号が与えられている状態で、前記電圧検出部により検出される前記カップリングコンデンサの電圧が前記閾値以上となったことに基づいて、断線を検知することを特徴とする漏電検知装置。
【請求項4】
請求項3に記載の漏電検知装置において、
前記断線検知部は、前記擬似漏電回路に駆動信号が与えられた後、前記カップリングコンデンサの電圧が前記閾値以上である状態が一定時間継続した場合に、断線を検知することを特徴とする漏電検知装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−242330(P2012−242330A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−114977(P2011−114977)
【出願日】平成23年5月23日(2011.5.23)
【出願人】(510123839)オムロンオートモーティブエレクトロニクス株式会社 (110)
【Fターム(参考)】