説明

潤滑剤ならびに磁気記録媒体および磁気記録媒体の製造方法

【課題】 優れた潤滑性能を呈する潤滑剤組成物、ならびに電磁変換特性を損なうことなく、走行耐久性およびスチル耐久性等の実用信頼性を向上させた磁気記録媒体を得る。
【解決手段】 潤滑剤組成物は、分子内にパーフルオロアルキル基またはパーフルオロポリエーテル基、およびアルキル基またはアルケニル基を有する含フッ素化合物から選ばれた少なくとも1種類の化合物、ならびに分子内にパーフルオロアルキル基またはパーフルオロポリエーテル基、およびアルキル基またはアルケニル基を有する含フッ素アルキルカルボン酸とアミンもしくはアンモニウムとから形成される塩から選ばれる少なくとも1種類の化合物を含んで成り、この潤滑剤組成物は、非磁性基板(1)上に、強磁性金属薄膜(2)、炭素膜(3)および潤滑剤層(4)がこの順に形成されて成る磁気記録媒体の潤滑剤層(4)に含有される。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、優れた潤滑性能を呈する潤滑剤組成物、ならびに、例えばデジタルビデオテープレコーダや高精細度ビデオテープレコーダに最適の、磁気記録層として強磁性金属薄膜、その上の炭素膜、および更にその上の潤滑剤層を有する磁気記録媒体ならびにその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】近年、磁気記録の分野においては、記録・再生機器のデジタル化、小型化および使用時間の長時間化等の高性能化に伴い、それに適した高密度磁気記録媒体の開発が活発に行なわれており、最近では塗布型磁気記録媒体に代わって、短波長記録に極めて有利な、金属薄膜型磁気記録媒体が実用化されている。一般に、金属薄膜型磁気記録媒体とは、非磁性基板上に、記録層として強磁性金属薄膜からなる磁性層を設けたテープおよびディスク等をいう。
【0003】しかしながら、金属薄膜型磁気記録媒体の磁性層は、極めて良好な表面性を有する、すなわち磁性層の面の粗度が小さいために磁気ヘッドとの接触面積が増えるので、信号の記録・再生の過程において磁気ヘッドと高速摺動する間に大きな摩擦力を受けて摩耗されやすい。磁性層の磨耗は、磁気記録媒体の走行耐久性あるいはスチル耐久性等に大きな影響を与えるため、これを低減させることは金属薄膜型磁気記録媒体の研究開発において大きな課題となっている。
【0004】そこで、磁性層表面に潤滑剤層を設けることによって磨耗を低減し、走行耐久性およびスチル耐久性を改善しようとする試みがなされている。潤滑剤層を設ける場合、磁気記録媒体と磁気ヘッドとのスペーシングロスによる出力低下を極力抑えて高出力化を図るべく、磁性層表面の潤滑剤層は僅か数nmの厚みで潤滑特性を発揮することが求められている。そのため、優れた潤滑特性を示すフッ素系化合物を用いることが広く検討され、各種化合物の使用が提案されている。例えば、(化16):
【化16】C1835OCOC917で示される含フッ素長鎖カルボン酸エステル(特開昭62−46431号公報参照)や(化17):
【化17】


で示されるカルボキシル基を有する含フッ素カルボン酸モノエステル(特開昭61−107529号公報参照)等を使用することが提案されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、磁気記録媒体の性能向上に関する要求は厳しく、上記した従来の潤滑剤では十分な潤滑特性を得ることが困難であり、走行耐久性およびスチル耐久性において一層の改善が望まれている。
【0006】本発明は、上記問題に鑑み、電磁変換特性を損なうことなく、走行耐久性およびスチル耐久性に優れ、実用信頼性の高い磁気記録媒体を得ることを可能にする潤滑剤組成物およびその潤滑剤組成物を用いた磁気記録媒体ならびにその製造方法を提供するものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明の潤滑剤組成物は、特定の二種以上の含フッ素化合物を含んで成るものである。それにより、例えば、この潤滑剤組成物を用いて磁気記録媒体の潤滑剤層を形成した場合、潤滑剤層のその下に位置する炭素膜への付着強度が向上し、かつ優れた潤滑特性が磁気記録媒体に付与されるので、磁気記録媒体はその電磁変換特性が損なわれることなく優れた走行耐久性およびスチル耐久性を呈するものとなる。
【0008】本発明の潤滑剤組成物は、分子内にパーフルオロアルキル基またはパーフルオロポリエーテル基、およびアルキル基またはアルケニル基を有する、一般式(a)および(b):
【化18】


(式中、R1はアルキル基またはアルケニル基であり、R2はパーフルオロアルキル基またはパーフルオロポリエーテル基であり、aは0〜20の整数であり、bは0または1である。)
【化19】


(式中、R3はアルキル基またはアルケニル基であり、R4はパーフルオロアルキル基またはパーフルオロポリエーテル基であり、R5はOまたはSであり、cは0〜20の整数であり、dは0または1である。)で示される化合物から選ばれる少なくとも1種類の化合物、ならびに分子内にパーフルオロアルキル基またはパーフルオロポリエーテル基、およびアルキル基またはアルケニル基を有する、一般式(c):
【化20】


(式中、R6はアルキル基またはアルケニル基であり、R7はパーフロオロアルキル基、またはパーフルオロポリエーテル基であり、R8はOまたはSであり、eは0から20の整数であり、fは0または1であり、また、R9、R10およびR11は炭化水素基、水素のいずれかであり、炭化水素基の炭素数は1〜20である。)で示される化合物から選ばれる少なくとも1種類の化合物を含むことを特徴とする。
【0009】一般式(a)〜(c)で示される化合物は、いずれも含フッ素化合物である。この潤滑剤組成物は、含フッ素モノカルボン酸(a)および(b)から選択される少なくとも1種の化合物と、含フッ素アルキルカルボン酸とアミンもしくはアンモニアとから形成される塩から選択される少なくとも1種の化合物とを含んで成るものである。なお、一般式(a)で示される化合物は一つのカルボキシル基を有する含フッ素カルボン酸モノエステルともいえるものである。
【0010】この組成物が、例えば、非磁性基板上に、強磁性金属薄膜、炭素膜および潤滑剤層がこの順に形成されて成る磁気記録媒体(以下、これを単に金属薄膜型磁気記録媒体という場合がある)の潤滑剤層に含まれる場合には、潤滑剤層の炭素膜への付着強度が向上し、かつ優れた潤滑特性が磁気記録媒体に付与される。そしてこれらの相乗効果により、電磁変換特性が損なわれることなく走行耐久性およびスチル耐久性が向上した実用信頼性の高い磁気記録媒体が得られる。
【0011】また、本発明の潤滑剤組成物は、更に有機リン系化合物を含有してもよい。有機リン系化合物は極圧剤および/または防錆剤として作用するとともに、これが金属薄膜型磁気記録媒体の潤滑剤層に含有される場合には、潤滑剤層と炭素膜の間の付着強度を向上させる役割をも果たすので、磁気記録媒体の潤滑性能ならびに走行耐久性およびスチル耐久性がより向上し、その結果、磁気記録媒体の実用信頼性がより向上する。
【0012】具体的には、下記一般式(g)(h)(i)(j)(k)(l)(m)(n)および(o):
【化21】
HP(O)(OCn2n+12 ...(g)
【化22】P(OCn2n+13 ...(h)
【化23】P(SCn2n+13 ...(i)
【化24】O=P(OCn2n+13 ...(j)
【化25】S=P(OCn2n+13 ...(k)
【化26】O=P(SCn2n+13 ...(l)
【化27】S=P(SCn2n+13 ...(m)
【化28】
(Cn2n+1O)2P(O)OH ...(n)
【化29】
(Cn2n+1O)P(O)(OH)2 ...(o)
(上記各一般式(g)〜(o)において、nは8〜20の整数である。)で示される有機リン系化合物から成る群から選択される少なくとも1種の有機リン系化合物を用いることが好ましい。
【0013】これら特定の有機リン系化合物を含む潤滑剤組成物を、例えば、金属薄膜型磁気記録媒体の潤滑剤層に用いた場合には、磁気記録媒体の実用信頼性がより向上する。
【0014】本発明の磁気記録媒体は、非磁性基板上に、強磁性金属薄膜、炭素膜および潤滑剤層がこの順に形成されてなる磁気記録媒体であって、潤滑剤層が上記潤滑剤組成物を含むことを特徴とするものである。上記特定の含フッ素化合物を2種以上組み合わせた潤滑剤組成物を用いることにより、潤滑剤層のその下に位置する炭素膜への付着強度が向上し、かつ優れた潤滑特性が磁気記録媒体に付与される。そしてこれらの相乗効果により、電磁変換特性が損なわれることなく走行耐久性およびスチル耐久性が向上した実用信頼性の高い磁気記録媒体を得ることができる。
【0015】本発明の磁気記録媒体の製造方法は、潤滑剤層の形成工程に特徴を有する。それ以外の製造工程は、従来から磁気記録媒体の製造に用いられている工程であってよい。本発明の製造方法における潤滑剤層の形成工程は、炭化水素系溶媒とアルコール系溶媒との混合有機溶媒に上述の潤滑剤組成物を溶解して調製した塗布液を、相対湿度が10〜40%の範囲内にある環境下において、炭素膜上に塗布し、混合有機溶媒を乾燥させる工程を含むことを特徴とする。炭化水素系溶媒とアルコール系溶媒の混合有機溶媒を用い、特定の湿度条件下で潤滑剤組成物を含む塗布液を塗布することにより、潤滑剤層と炭素膜との間の付着強度が向上し、かつ塗布ムラが極めて少ない均一な薄い潤滑剤層が形成され得る。よって本発明の製造方法によれば、優れた潤滑性能を有する実用信頼性の高い磁気記録媒体を得ることが可能である。
【0016】上記本発明の製造方法において、炭化水素系溶媒とアルコール系溶媒との混合割合は重量比で1:9〜9:1の範囲にあることが好ましい。この範囲で両者を混合することは、塗布ムラを極力少なくすることを可能とし、またコスト面でも有利である。
【0017】
【発明の実施の形態】本発明の潤滑剤組成物に含まれる含フッ素化合物は、上記一般式(a)〜(c)で示される。
【0018】一般式(a)で示される化合物は一つのカルボキシル基を有する含フッ素カルボン酸モノエステルともいえるものである。この化合物は、例えば、コハク酸のようなジカルボン酸に含まれる二つのカルボキシル基のうち、一つのカルボキシル基をエステルにすることにより得られる。
【0019】一般式(a)において、R1はアルキル基またはアルケニル基であり、R2はパーフルオロアルキル基またはパーフルオロポリエーテル基である。aは通常0〜20の整数であり、好ましくは1〜10の整数である。bは0または1である。一般式(a)におけるR1の炭素数は6〜30が好ましく、10〜24がより好ましい。炭素数が6未満である場合または30を越える場合には潤滑性が低下することがある。
【0020】R2がパーフルオロアルキル基である場合、その炭素数は6〜12が好ましく、6〜10がより好ましい。R2がパーフルオロポリエーテル基である場合、その分子量は約200〜約6000程度であることが好ましく、約300〜約4000であることがより好ましい。分子量が200未満である場合もしくは6000を越える場合には潤滑性および保存信頼性が低下する場合がある。
【0021】R2がパーフルオロポリエーテル基である場合、そのパーフルオロポリエーテル基は、一般式(d)、(e)および(f):
【化30】


(式中、qは1以上の整数である。)
【化31】


(式中、rおよびtは1以上の整数である。)
【化32】
12(OCu2uvO(CF2u-1− ...(f)
(式中、R12はパーフルオロアルキル基であり、uは1〜6の整数であり、vは1〜30の整数である。)のいずれかで示されるものであることが好ましい。
【0022】上記のパーフルオロポリエーテル基を有する化合物が潤滑剤組成物に含まれることにより、例えば、この組成物が金属薄膜型磁気記録媒体の潤滑剤層に含まれる場合には、潤滑剤層の炭素膜への付着強度がより向上し、かつより優れた潤滑特性が磁気記録媒体に付与される。そしてこれらの相乗効果により、電磁変換特性が損なわれることなく走行耐久性およびスチル耐久性が向上した実用信頼性の高い磁気記録媒体が得られる。
【0023】一般式(d)におけるqは1以上の整数である。また一般式(e)におけるrおよびtは1以上の整数である。また、一般式(f)において、R12はパーフルオロアルキル基であり、uは通常1〜6の整数であり、vは通常1〜30の整数であり、より好ましくは1〜8である。uおよびvがこれらの範囲外である場合、磁気記録媒体の潤滑性および保存信頼性が低下することがある。q、r、t、uおよびvならびにR12の炭素数は、パーフルオロポリエーテル基の分子量が上述の好ましい範囲、すなわち約200〜約6000程度、好ましくは約300〜約4000の範囲内にあるように適宜選択される。
【0024】一般式(b)において、R3はアルキル基またはアルケニル基であり、R4はパーフルオロアルキル基またはパーフルオロポリエーテル基である。R5は酸素原子または硫黄原子である。cは通常0〜20の整数であり、好ましくは1〜10の整数である。dは0または1である。一般式(b)におけるR3の炭素数は6〜30が好ましく、10〜24がより好ましい。炭素数が6未満である場合または30を超える場合には潤滑性が低下することがある。
【0025】R4がパーフルオロアルキル基である場合、その炭素数は6〜12が好ましく、6〜10がより好ましい。R4がパーフルオロポリエーテル基である場合において、その分子量は約200〜約6000程度であることが好ましく、約300〜約4000であることがより好ましい。分子量が200未満である場合もしくは6000を超える場合には潤滑性および保存信頼性が低下する場合がある。
【0026】R4がパーフルオロポリエーテル基である場合には、一般式(a)におけるR2と同様、R4は上記一般式(d)、(e)および(f)のいずれかで示される基であることが好ましい。一般式(d)、(e)および(f)については先に一般式(a)に関連して説明したとおりであり、ここではその説明を引用することにより、詳細な説明を省略する。
【0027】一般式(c)において、R6はアルキル基またはアルケニル基であり、R7はパーフロオロアルキル基、またはパーフルオロポリエーテル基であり、R8は酸素原子または硫黄原子であり、eは0から20の整数であり、fは0または1である。また、R9、R10、R11は炭化水素基、水素のいずれかであり、炭化水素基である場合、その炭素数は1〜20であることが好ましい。
【0028】R6がパーフルオロアルキル基である場合、その炭素数は6〜12が好ましく、6〜10がより好ましい。R7がパーフルオロポリエーテル基である場合、その分子量は約200〜約6000程度であることが好ましく、約300〜約4000であることがより好ましい。分子量が200未満である場合もしくは6000を超える場合には潤滑性および保存信頼性が低下する場合がある。
【0029】特にR7がパーフルオロポリエーテル基である場合、一般式(a)におけるR2と同様、R7は上記一般式(d)、(e)および(f)のいずれかで示される基であることが好ましい。一般式(d)、(e)および(f)については先に一般式(a)に関連して説明したとおりであり、ここではその説明を引用することにより、詳細な説明を省略する。
【0030】R9、R10、およびR11は炭化水素基、水素のいずれかである。R9、R10、およびR11はすべて同一であってもよく、あるいはすべて異なっていてもよい。また、3つのうち2つが同じであってもよい。本発明においては、R9、R10、およびR11のうち少なくとも1つが炭化水素基であることが好ましい。R9、R10、およびR11のいずれか1つまたは2つ以上が炭化水素基である場合、その炭素数は1〜20であることが好ましく、6〜18であることがより好ましい。
【0031】本発明の潤滑剤組成物は、一般式(a)および(b)で示される化合物から選ばれる少なくとも1種類の化合物、ならびに一般式(c)から選ばれる少なくとも1種類の化合物とが混合されて成るものである。前者と後者の混合比率は、モル比で8:2〜2:8の範囲が好ましく、より好ましくはモル比で7:3〜4:6の範囲である。前者の割合が小さいと潤滑性能が低下するおそれがあり、後者の割合が小さいと炭素膜への付着強度が低下するおそれがある。
【0032】上記各潤滑剤組成物には、潤滑剤層中にさらに有機リン系化合物を含有させてもよい。本発明では特に、上記一般式(g)〜(o)から成る群から選択される少なくとも一種の有機リン系化合物を用いることが好ましい。一般式(g)〜(o)において、各化合物を構成する炭素原子の数(n)は8〜20であることが好ましく、10〜18であることがより好ましい。炭素原子の数が7以下であると潤滑性の低下を招くおそれがあり、21を超えると炭化水素系溶媒もしくはアルコール系溶媒等の汎用溶媒への溶解性が低下する。汎用溶媒への溶解性の低下は、例えば、この組成物により金属薄膜型磁気記録媒体の潤滑剤層を形成する場合、磁気記録媒体の製造に支障をきたす。
【0033】有機リン系化合物を除く潤滑剤組成物の全量と有機リン系化合物との混合比率は、モル比で1:1〜1:0.01の範囲内にあることが好ましく、1:0.3〜1:0.02の範囲内にあることがより好ましい。有機リン系化合物の混合割合が多すぎる場合には、潤滑性能が悪くなり、少ない場合には有機リン系化合物が奏する作用・効果を十分に得ることができない。
【0034】本発明の磁気記録媒体は、非磁性基板上に、強磁性金属薄膜、炭素膜および潤滑剤層がこの順に形成されてなる磁気記録媒体であって、潤滑剤層が上記の潤滑剤組成物を含有するものである。そこで、次に、本発明の磁気記録媒体を構成する各層について、その製造方法とともに図面を参照しながら説明する。
【0035】図1は本発明の磁気記録媒体の一態様である金属薄膜型磁気テープ(以下、単に磁気テープという)の断面図である。この磁気テープは下から順にバックコート層(5)、非磁性基板(1)、強磁性金属薄膜(2)、炭素膜(3)および潤滑剤層(4)が積層された構成となっている。先に述べたように潤滑剤層以外の層およびその形成方法については公知であり、常套の材料および形成方法を採用することができる。
【0036】例えば、非磁性基板(1)として、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、芳香族ポリアミドもしくは芳香族ポリイミドから成るフイルム、アルミ基板またはガラス基板等を使用することができる。実用信頼性と良好なRF出力とを両立するために、この非磁性基板(1)における表面、すなわち強磁性金属薄膜と接する面には直径50〜700nm、高さ5〜70nmの突起形成処理が施されていることが好ましい。
【0037】強磁性金属薄膜(2)はイオンプレーティング法、スパッタリング法もしくは電子ビーム蒸着法等で形成することができる。薄膜材料としては、Co、FeおよびNi等の強磁性金属、ならびにCo−Ni、Co−Ni−O、Co、Co−OまたはCo−Cr等の合金から適宣選択される。強磁性金属薄膜(2)の厚みは50〜300nmが一般的である。
【0038】炭素膜(3)は、ビッカース硬度が約2500kg/mm2と高く、磁気テープのダメージを潤滑剤層(4)と共に防止している。実用信頼性と出力とのバランスを考慮すれば、その厚みは10〜20nmであることが好ましい。この炭素膜(3)は、炭化水素ガスのみ、あるいは炭化水素ガスと不活性ガスとの混合ガスを用いたプラズマCVD法により形成される。具体的には、真空容器中に炭化水素ガスまたは炭化水素ガスとアルゴン等の不活性ガスの混合ガスを導入し、容器内の圧力を0.001〜1Torrに保った状態で真空容器内部で放電を発生させ、炭化水素ガスのプラズマを発生させて炭素膜(3)を強磁性金属薄膜(2)上に形成させる。放電形式は外部電極方式および内部電極方式のいずれでも良く、放電周波数は実験的に決めることができる。また、非磁性基板(1)側に配置される電極に0KVから−3KVの電圧を印加することによって、炭素膜(3)の硬度を増大させることができ、また炭素膜(3)と強磁性金属薄膜(2)との密着性を向上させることができる。炭化水素ガスとしては、メタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタンもしくはベンゼン等を用いることができる。
【0039】なお、硬質の炭素膜(3)を形成するためには、放電エネルギーを大きくすることが望ましく、併せて非磁性基板(1)の温度を高温に維持することが望ましい。例えば、放電エネルギーは、交流電流、例えば高周波電流と直流電流を重畳して実効値を600V以上にすることが望ましい。
【0040】本発明においては、炭素膜(3)の表層部に含窒素プラズマ重合膜(図示省略)を形成し、潤滑剤層(4)が炭素膜の含窒素プラズマ重合膜上に形成されていることが好ましい。含窒素プラズマ重合により炭素膜の表層部にアミノ基が存在することとなり、その結果、潤滑剤層と炭素膜との間の付着強度がより大きくなり、磁気記録媒体の耐久性がより向上することとなる。そして、潤滑剤層に特定の含フッ素化合物等を含有させることと相俟って、電磁変換特性が損なわれることなく優れた潤滑性能を有する走行耐久性およびスチル耐久性が向上した実用信頼性の高い磁気記録媒体が得られる。
【0041】含窒素プラズマ重合膜は、真空容器中にプロピルアミン、ブチルアミン、エチレンジアミン、プロピレンジアミンもしくはテトラメチレンジアミン等のアミン化合物をガス化して導入し、容器内の圧力を0.001〜1Torrに保った状態で、真空容器内部に高周波放電させて形成する。含窒素プラズマ重合膜を形成することにより潤滑剤組成物の化学吸着力が向上し、その結果、潤滑剤層と炭素膜との間の付着強度が向上する。含窒素プラズマ重合膜の膜厚は3nm未満が適当であり、これよりも含窒素プラズマ重合膜が厚い場合には炭素膜の保護効果が低下する。なお、炭素膜の表層部に含窒素プラズマ重合膜を形成する方法は、米国特許第5,540,957号および第5,637,393号に開示されており、この引用によりこれらの特許に開示された内容は本明細書の一部を構成する。
【0042】潤滑剤層(4)を構成する潤滑剤組成物は前述したとおりである。潤滑剤層(4)の形成工程は、上記一般式(a)および(b)で示される化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物と上記一般式(c)で示される化合物から選ばれるス少なくとも1種の化合物とを混合して成る潤滑剤組成物、もしくはこれに適宣有機リン系化合物を混合した潤滑剤組成物を炭化水素系溶媒とアルコール系溶媒の混合有機溶媒に溶解して塗布液を調製し、これを相対湿度が10〜40%の範囲内にある環境下で炭素膜(3)に塗布する工程を含む。
【0043】本発明で使用できる炭化水素系溶媒は、例えばトルエン、ヘキサン、ヘプタン、およびオクタン等であり、本発明で使用できるアルコール系溶媒は、例えばメチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコールおよびイソプロピルアルコール等の低級アルコールである。アルコール系溶媒の割合が大きすぎると塗布ムラが生じやすく、一方、炭化水素系溶媒の割合が大きすぎると不経済であるため、両者は混合割合が重量比で1:9〜9:1の範囲、好ましくは3:7〜7:3の範囲となるように混合して使用することが好ましい。塗布液の濃度および塗布厚は、溶媒が蒸発した後に炭素膜(3)上に形成される潤滑剤層(4)の厚みが所望の厚みになるように塗布する。一般には、潤滑剤組成物の濃度が100〜4000ppmである塗布液を、1〜50μmの厚みとなるように塗布することが好ましい。
【0044】塗布液は、相対湿度が10〜40%の範囲内にある環境下で塗布することが好ましい。相対湿度が10%未満では静電気が発生しやすく、また、そのような湿度の環境を作るための設備に費用がかかるという問題があり、相対湿度が40%を超えると塗布ムラが生じやすくなるという問題がある。
【0045】潤滑剤層(4)は潤滑剤組成物に応じて最適膜厚が決定され、その厚みは一般に3〜5nmである。塗布方法はバーコーティング法、グラビアコーティング法、リバースロールコーティング法、ダイコーティング法、ディピッング法もしくはスピンコート法等の湿式塗布法あるいは有機蒸着法のいずれを採用してもよい。
【0046】塗布液を塗布した後、乾燥処理して有機溶媒を蒸発させると、炭素膜(3)上に潤滑剤組成物の層(4)が形成される。乾燥処理は加熱することにより、もしくは自然乾燥によって実施することができる。
【0047】この混合有機溶媒を用いることにより、塗布ムラのない均一な厚みの潤滑剤層が得られ、しかも溶媒が最終的に蒸発した後には数nmという非常に薄い潤滑剤層を形成させることができる。その結果、優れた潤滑性能を有する実用信頼性の高い磁気記録媒体が得られる。
【0048】バックコート層(5)は、ポリウレタン、ニトロセルロース、ポリエステル、カーボンおよび炭酸カルシウム等から選ばれる一つもしくは複数の材料により形成される層であり、その厚みは約500nmとすることが好ましい。
【0049】
【実施例】次に、本発明の具体的な実施例を説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0050】(実施例1)非磁性基板(1)として、幅が500mm、厚みが6.3μmであって、表面に高さが30nm、直径が200nmの突起が1mm2あたり105から109個形成されたポリエチレンテレフタレートフィルムを使用した。なお、突起の数はSTM分析で測定した値である。この非磁性基板(1)の表面に、酸素を導入しながら斜方真空蒸着法によりCo(80)−Ni(20)(カッコ内は混合モル比率)から成る厚み180nmの強磁性金属薄膜(2)を形成した。
【0051】次いで、非磁性基板(1)の裏面に、ポリウレタン、ニトロセルロースおよびカーボンブラックより構成された固形分30%のメチルエチルケトン/トルエン/シクロヘキサノン溶液をリバースロールコータにより塗布して、乾燥後の厚みが約500nmのバックコート層(5)を形成した。
【0052】次に強磁性金属薄膜(2)上に、プラズマCVD法によって厚み15nmの炭素膜(3)を形成した。炭素膜は、真空容器中にヘキサンガスとアルゴンガスとを4:1の比(圧力比)で混合したガスを導入し、トータルガス圧を0.3Torrに保ちながら、周波数20KHz、電圧1500Vの交流と1000Vの直流を重畳し、これを放電管内の電極に印加することにより形成した。さらに、炭素膜(3)上にプロピルアミンガスを導入し、0.05Torrの圧力を保った状態で10KHzの高周波プラズマ処理を行ない、炭素膜(3)の表層部に2.5nmの含窒素プラズマ重合膜を形成した。
【0053】次に、化学式(a1)で示される化合物と化学式(c1)で示される化合物とをモル比で1:1となるように配合した潤滑剤組成物を、イソプロピルアルコールとトルエンとを重量比で1:1となるように混合した混合有機溶媒にその濃度が2000ppmとなるように溶解して塗布液を作った。そして、この塗布液を23℃、30%RH環境下で、リバースロールコータを用いて湿式塗布法により塗布した後、乾燥した。最終的に炭素膜(3)上には4nmの潤滑剤層(4)が形成された。
【化33】


【化34】


以上のようにして作製したテープ素材をスリッタで8mm幅に裁断して8mm幅の磁気テープ試料(全厚7μm、60分長)を作製した。
【0054】(実施例2〜実施例6)化学式(a2)〜(a6)(実施例2〜6に相当)で示される化合物と化学式(c1)で示される化合物とをそれぞれモル比で1:1となるように配合した潤滑剤組成物を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で磁気テープ試料をそれぞれ作製した。
【化35】


【化36】


【化37】


【化38】


【化39】


【0055】(実施例7〜実施例11)化学式(b1)〜(b5)(実施例7〜11に相当)で示される化合物と化学式(c1)で示される化合物とをそれぞれモル比で1:1となるように配合した潤滑剤組成物を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で磁気テープ試料を作製した。
【化40】


【化41】


【化42】


【化43】


【化44】


【0056】(実施例12〜実施例22)化学式(a1)〜(a6)(実施例12〜17に相当)、化学式(b1)〜(b5)(実施例18〜22に相当)で示される化合物と、化学式(c2)で示される化合物とをそれぞれモル比で1:1となるように配合した潤滑剤組成物を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で磁気テープ試料を作製した。
【化45】


【0057】(実施例23〜実施例33)化学式(a1)〜(a6)(実施例23〜28に相当)、化学式(b1)〜(b5)(実施例29〜33に相当)で示される化合物と、化学式(c3)で示される化合物とをそれぞれモル比で1:1となるように配合した潤滑剤組成物を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で磁気テープ試料を作製した。
【化46】


【0058】(実施例34〜実施例39)化学式(a1)〜(a6)(実施例34〜39に相当)、化学式(b1)〜(b5)(実施例40〜44に相当)で示される化合物と、化学式(c4)で示される化合物とをそれぞれモル比で1:1となるように配合した潤滑剤組成物を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で磁気テープ試料を作製した。
【化47】


【0059】(実施例45〜実施例50)化学式(a1)〜(a6)(実施例45〜50に相当)、化学式(b1)〜(b5)(実施例51〜55に相当)で示される化合物と、化学式(c5)で示される化合物とをそれぞれモル比で1:1となるように配合した潤滑剤組成物を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で磁気テープ試料を作製した。
【化48】


【0060】(実施例56〜実施例61)化学式(a1)〜(a6)(実施例56〜61に相当)、化学式(b1)〜(b5)(実施例62〜66に相当)で示される化合物と、化学式(c6)で示される化合物とをそれぞれモル比で1:1となるように配合した潤滑剤組成物を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で磁気テープ試料を作製した。
【化49】


【0061】(実施例67)化学式(a1)で示される化合物と化学式(c1)で示される化合物とをモル比で4:1となるように配合した潤滑剤組成物を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で磁気テープ試料を作製した。
【0062】(実施例68)化学式(a1)で示される化合物と化学式(c1)で示される化合物とをモル比で1:4となるように配合した潤滑剤組成物を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で磁気テープ試料を作製した。
【0063】(実施例69〜実施例77)化学式(a1)で示される化合物と化学式(c1)で示される化合物とを配合した2成分系の潤滑剤組成物(モル比1:1)に代えて、化学式(a1)で示される化合物、および化学式(c1)で示される化合物ならびに化学式(g1)、(h1)、(i1)、(j1)、(k1)、(l1)、(m1)、(n1)もしくは(o1)(実施例69〜77に相当)でそれぞれ示される有機リン系化合物を配合した3成分系の潤滑剤組成物(モル比5:5:1)を用いたこと以外は、実施例1の場合と同様の方法で磁気テープ試料を作製した。
【化50】
HP(O)(OC12252 ...(g1)
【化51】P(OC10213 ...(h1)
【化52】P(SC12253 ...(i1)
【化53】O=P(OC18373 ...(j1)
【化54】S=P(OC18373 ...(k1)
【化55】O=P(SC12253 ...(l1)
【化56】S=P(SC18373 ...(m1)
【化57】
(C1225O)2P(O)OH ...(n1)
【化58】
(C1225O)P(O)(OH)2 ...(o1)
【0064】(実施例78)化学式(a1)で示される化合物と化学式(c1)で示される化合物を配合した2成分系の潤滑剤組成物(モル比1:1)に代えて、化学式(a1)で示される化合物、および化学式(c1)で示される化合物ならびに化学式(g1)で示される有機リン系化合物を配合した3成分系の潤滑剤組成物(モル比1:1:2)を用いたこと以外は、実施例1の場合と同様の方法で磁気テープ試料を作製した。
【0065】(実施例79)化学式(a1)で示される化合物と化学式(c1)で示される化合物を配合した2成分系の潤滑剤組成物(モル比1:1)に代えて、化学式(a1)で示される化合物、および化学式(c1)で示される化合物ならびに化学式(g1)で示される有機リン系化合物を配合した3成分系の潤滑剤組成物(モル比25:25:1)を用いたこと以外は、実施例1の場合と同様の方法で磁気テープ試料を作製した。
【0066】(実施例80)炭素膜(3)の表層部に含窒素プラズマ重合膜を形成する工程を省略したこと以外は、実施例1と同様の方法で磁気テープ試料を作製した。
【0067】(実施例81)イソプロピルアルコールおよびトルエンから成る有機溶媒の重量比を1:1から8:1に変化させたこと以外は、実施例1と同様の方法で磁気テープ試料を作製した。
【0068】(実施例82)イソプロピルアルコールおよびトルエンから成る有機溶媒の重量比を1:1から1:8に変化させたこと以外は、実施例1と同様の方法で磁気テープ試料を作製した。
【0069】(比較例1)化学式(a1)で示される化合物と化学式(c1)で示される化合物を配合した2成分系の潤滑剤組成物に代えて、公知の潤滑剤である上記化学式(化16)で示される化合物のみを用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で磁気テープ試料を作製した。
【0070】(比較例2)化学式(a1)で示される化合物と化学式(c1)で示される化合物を配合した2成分系の潤滑剤組成物に代えて、公知の潤滑剤である上記化学式(化17)で示される化合物のみを用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で磁気テープ試料を作製した。
【0071】(比較例3)化学式(a1)で示される化合物と化学式(c1)で示される化合物を配合した2成分系の潤滑剤組成物に代えて、化学式(a1)で示される化合物のみを用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で磁気テープ試料を作製した。
【0072】(比較例4)化学式(a1)で示される化合物と化学式(c1)で示される化合物を配合した2成分系の潤滑剤組成物に代えて、化学式(c1)で示される化合物のみを用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で磁気テープ試料を作製した。
【0073】(比較例5)化学式(a1)で示される化合物と化学式(c1)で示される化合物を配合した2成分系の潤滑剤組成物に代えて、化学式(g1)で示される化合物のみを用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で磁気テープ試料を作製した。
【0074】(比較例6)イソプロピルアルコールおよびトルエンからなる混合有機溶媒に代えてイソプロピルアルコールのみを用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で磁気テープ試料を作製した。
【0075】(比較例7)イソプロピルアルコールおよびトルエンから成る混合有機溶剤に代えてトルエンのみを用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で磁気テープ試料を作製した。
【0076】(比較例8)23℃、55%RH環境下において、塗布液をリバースロールコータを用いて湿式塗布法で塗布したこと以外は、実施例1と同様の方法で磁気テープ試料を作製した。
【0077】以上の各実施例1〜82および比較例1〜8で得られた8mm幅の磁気テープ試料について、それぞれ以下に示す評価試験(1)および(2)を実施した。それぞれの試験で得られた結果を、表1〜表9に示す。
【0078】(1)走行耐久性試験RF(高周波)出力測定用に改造した市販8mmVTR(ソニー(株)製 EV−S900)を用い、各8mm幅テープ試料を5℃、80%RHの環境下で300パス、300時間繰り返し再生を行った後のRF出力変化を測定した。試験前に対する試験後の変化をデシベル表示で示した。テープダメージは、テープ試料を目視観察および微分干渉顕微鏡で状態観察し、5段階で評価した。評価基準は次のとおりである。
5:実用上全く問題ない。
4:実用上問題ない。
3:実用可能であるが、改善が必要である。
2:テープダメージがひどく、実用性は殆どない。
1:テープダメージがあまりにもひどく、実用性は全くない。
【0079】(2)スチル寿命試験初期スチル寿命は、スチル寿命測定用に改造した市販8mmVTR(ソニー(株)製 EV−S900)を用い、3℃、5%RH環境下において測定した。なお、スチル寿命は初期から出力が6dB低下するまでの時間で示した。保存後スチル寿命は、40℃、80%RH環境下に1ヶ月放置した後、初期スチル寿命の測定と同様の方法で測定した。
【表1】
走行耐久性 スチル寿命 出力低下 テーフ゜タ゛メーシ゛ 初期スチル寿命 保存後スチル寿命 (dB) (分) (分)実施例 1 −0.7 5 >60 44実施例 2 −1.4 5 >60 35実施例 3 −1.4 5 >60 38実施例 4 −1.3 5 >60 39実施例 5 −0.8 5 >60 47実施例 6 −1.3 4 >60 36実施例 7 −0.9 5 >60 48実施例 8 −1.2 5 >60 41実施例 9 −1.3 5 >60 38実施例 10 −0.9 5 >60 46実施例 11 −1.4 4 >60 37
【表2】
走行耐久性 スチル寿命 出力低下 テーフ゜タ゛メーシ゛ 初期スチル寿命 保存後スチル寿命 (dB) (分) (分)実施例 12 −0.9 5 >60 44実施例 13 −1.3 5 >60 35実施例 14 −1.4 4 >60 41実施例 15 −1.4 5 >60 39実施例 16 −0.8 5 >60 45実施例 17 −1.3 4 >60 41実施例 18 −0.8 5 >60 43実施例 19 −1.4 5 >60 40実施例 20 −1.2 4 >60 37実施例 21 −1.0 4 >60 39実施例 22 −1.2 4 >60 43
【表3】
走行耐久性 スチル寿命 出力低下 テーフ゜タ゛メーシ゛ 初期スチル寿命 保存後スチル寿命 (dB) (分) (分)実施例 23 −1.0 5 >60 55実施例 24 −1.2 5 >60 46実施例 25 −1.1 4 >60 49実施例 26 −1.2 5 >60 47実施例 27 −0.9 5 >60 52実施例 28 −1.4 4 >60 38実施例 29 −1.0 5 >60 49実施例 30 −1.4 5 >60 42実施例 31 −1.3 4 >60 41実施例 32 −0.9 5 >60 55実施例 33 −1.1 4 >60 37
【表4】
走行耐久性 スチル寿命 出力低下 テーフ゜タ゛メーシ゛ 初期スチル寿命 保存後スチル寿命 (dB) (分) (分)実施例 34 −1.1 5 >60 52実施例 35 −1.4 5 >60 33実施例 36 −1.3 5 >60 41実施例 37 −1.5 5 >60 39実施例 38 −1.0 5 >60 43実施例 39 −1.4 5 >60 47実施例 40 −0.8 5 >60 47実施例 41 −1.4 5 >60 41実施例 42 −1.3 5 >60 45実施例 43 −1.1 5 >60 52実施例 44 −1.5 5 >60 39
【表5】
走行耐久性 スチル寿命 出力低下 テーフ゜タ゛メーシ゛ 初期スチル寿命 保存後スチル寿命 (dB) (分) (分)実施例 45 −1.0 5 >60 44実施例 46 −1.5 4 >60 37実施例 47 −1.3 4 >60 38実施例 48 −1.5 4 >60 41実施例 49 −0.8 5 >60 45実施例 50 −1.2 4 >60 49実施例 51 −0.9 5 >60 47実施例 52 −1.1 5 >60 39実施例 53 −1.4 4 >60 38実施例 54 −0.5 5 >60 51実施例 55 −1.6 4 >60 32
【表6】
走行耐久性 スチル寿命 出力低下 テーフ゜タ゛メーシ゛ 初期スチル寿命 保存後スチル寿命 (dB) (分) (分)実施例 56 −1.3 5 >60 45実施例 57 −1.5 4 >60 36実施例 58 −1.6 4 >60 32実施例 59 −1.4 4 >60 35実施例 60 −0.8 5 >60 41実施例 61 −1.4 4 >60 37実施例 62 −1.2 5 >60 39実施例 63 −1.5 4 >60 32実施例 64 −1.9 4 >60 31実施例 65 −1.3 5 >60 41実施例 66 −1.8 4 >60 32
【表7】
走行耐久性 スチル寿命 出力低下 テーフ゜タ゛メーシ゛ 初期スチル寿命 保存後スチル寿命 (dB) (分) (分)実施例 67 −1.5 5 >60 49実施例 68 −1.3 4 >60 52実施例 69 −1.6 5 >60 >60実施例 70 −1.4 4 >60 >60実施例 71 −1.1 5 >60 >60実施例 72 −1.3 5 >60 >60実施例 73 −1.1 5 >60 >60実施例 74 −1.2 5 >60 >60実施例 75 −1.7 4 >60 >60実施例 76 −1.2 5 >60 >60実施例 77 −1.9 4 >60 >60
【表8】
走行耐久性 スチル寿命 出力低下 テーフ゜タ゛メーシ゛ 初期スチル寿命 保存後スチル寿命 (dB) (分) (分)実施例 78 −1.9 5 >60 >60実施例 79 −1.5 5 >60 >60実施例 80 −2.3 4 >60 28実施例 81 −1.2 5 >60 45実施例 82 −0.8 5 >60 52
【表9】
走行耐久性 スチル寿命 出力低下 テーフ゜タ゛メーシ゛ 初期スチル寿命 保存後スチル寿命 (dB) (分) (分)比較例 1 −6.4 1 7 1比較例 2 −7.2 1 9 1比較例 3 −2.5 4 21 3比較例 4 −2.3 4 26 9比較例 5 −4.1 2 33 11比較例 6 −2.9 3 31 6比較例 7 −3.5 3 44 7比較例 8 −3.1 2 45 15
【0080】上記表1〜表9より明らかなように、比較例1〜8との比較において、実施例1〜82の出力低下は小さく、かつテープダメージの問題は発生せず、さらに初期および保存後スチル寿命はいずれも良好であった。
【0081】実施例1〜68は、従来の潤滑剤を用いた比較例1および2、ならびにそれぞれ一般式(a)(c)および(g)で示される化合物のみで潤滑剤層を形成した比較例3〜5と比較して、いずれも優れた走行耐久性ならびにスチル寿命を示した。このように、炭素膜(3)上に、一般式(a)および(b)で示される化合物から選ばれた少なくとも1種類の化合物と、一般式(c)で示される化合物から選ばれた少なくとも1種類の化合物とを含有する潤滑剤組成物で潤滑剤層(4)を形成した実施例1〜68の各磁気テープ試料は、走行耐久性、スチル寿命等の実用信頼性の点で優れていることが明らかである。
【0082】また、有機リン系化合物を更に混合した潤滑剤組成物を含有する実施例69〜79の磁気テープ試料も、同様に走行耐久性、スチル寿命等の実用信頼性の点で優れている。保存後のスチル寿命が向上していることからも明らかなとおり、有機リン系化合物を含有するものは特にスチル寿命が向上している。また表7には特に示していないが、実施例69〜79の磁気テープの初期スチル寿命はいずれも有機リン系化合物を含有していないものに比べて大幅に向上していることが認められた。
【0083】実施例80の磁気テープ試料は実施例1と同じ潤滑剤組成物を用いたものであるが、炭素膜(3)上に含窒素プラズマ重合膜を形成しなかったものである。実施例80の走行耐久性およびスチル寿命は実施例1のそれらに比べてやや劣っている。このことは含窒素プラズマ重合膜が磁気テープの潤滑性能の向上に寄与していることを示している。
【0084】実施例1と比較例6および7から、潤滑剤層(4)の潤滑剤組成物を炭化水素系溶媒とアルコール系溶媒との混合有機溶媒に溶解して調製した塗布液を炭素膜(3)上に塗布して潤滑剤層(4)を形成することにより、走行耐久性およびスチル寿命等の実用信頼性の点で優れた磁気テープ試料を安定して作製できることが判る。また、高い湿度の下で潤滑剤組成物を含む塗布液を塗布した比較例8は、実施例1と同じ潤滑剤組成物を使用しているにもかかわらず、走行耐久性およびスチル寿命ともに劣り、高湿度下での塗布が望ましくないことを示している。
【0085】実施例1〜82では、潤滑剤層(4)の形成工程において湿式塗布法であるリバースロールコーティング法を用いたが、有機蒸着法によつても同様の作用効果を有する潤滑剤層(4)を形成することが可能である。
【0086】なお、以上説明した実施例1〜82では、本発明の磁気記録媒体およびその製造方法を市販8mmVTR用テープに適用した場合についてのみ説明したが、むろん、本発明の磁気記録媒体およびその製造方法はこれに限定されるものではなく、他の金属薄膜型磁気テープや磁気ディスク等についても適用できるものである。
【0087】
【発明の効果】以上説明したように、特定の含フッ素化合物が二種類以上組み合わされて成る本発明の潤滑剤組成物は優れた潤滑性能を呈する。そして、この潤滑剤組成物で潤滑剤層を形成することによって、潤滑剤層の炭素膜への付着強度が向上した、良好な潤滑性能を呈する本発明の磁気記録媒体を得ることができる。そしてこれらの相乗効果により、本発明の磁気記録媒体は、電磁変換特性を損なうことなく、走行耐久性およびスチル耐久性等の実用信頼性が向上したものとなる。
【0088】また、潤滑剤組成物に更に有機リン系化合物を含有させることにより、磁気記録媒体における潤滑剤層の炭素膜への付着強度がさらに向上し、より優れた潤滑性能を呈する磁気記録媒体を得ることができる。そしてこれらの相乗効果により、本発明の磁気記録媒体は、電磁変換特性を損なうことなく、走行耐久性、スチル耐久性等の実用信頼性がより向上したものとなる。
【0089】また、本発明の磁気記録媒体において炭素膜の表層部に含窒素プラズマ重合膜を形成することにより潤滑剤組成物の化学吸着力が向上するので、潤滑剤層の炭素膜への付着強度がさらに向上し、優れた潤滑性能を呈する磁気記録媒体を得ることができる。そしてこれらの相乗効果により、本発明の磁気記録媒体は、電磁変換特性を損なうことなく、走行耐久性、スチル耐久性等の実用信頼性が向上する。
【0090】本発明の磁気記録媒体は、潤滑剤層の組成物を特定の溶媒に溶解して調製した塗布液を、特定の湿度条件の下で炭素膜上に塗布する工程を含む製造方法によつて製造される。この塗布液を用いることにより塗布ムラのない均一な厚みの潤滑剤層が得られる。また、湿度の範囲を限定することにより、潤滑剤層の性能低下を防止している。従って、本発明の製造方法によれば、走行耐久性およびスチル寿命等の実用信頼性の点で優れた本発明の磁気記録媒体を安定して作製することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の実施の形態による磁気記録媒体が適用された金属薄膜型磁気テープの断面図である。
【符号の説明】
1 非磁性基板
2 強磁性金属薄膜
3 炭素膜
4 潤滑剤層
5 バックコート層

【特許請求の範囲】
【請求項1】 分子内にパーフルオロアルキル基またはパーフルオロポリエーテル基と、アルキル基またはアルケニル基とを有する、一般式(a)および(b):
【化1】


(式中、R1はアルキル基またはアルケニル基であり、R2はパーフルオロアルキル基またはパーフルオロポリエーテル基であり、aは0〜20の整数であり、bは0または1である。)
【化2】


(式中、R3はアルキル基またはアルケニル基であり、R4はパーフルオロアルキル基またはパーフルオロポリエーテル基であり、R5はOまたはSであり、cは0〜20の整数であり、dは0または1である。)で示される化合物から選ばれる少なくとも1種類の化合物、ならびに分子内にパーフルオロアルキル基またはパーフルオロポリエーテル基と、アルキル基またはアルケニル基とを有する、一般式(c):
【化3】


(式中、R6はアルキル基またはアルケニル基であり、R7はパーフロオロアルキル基、またはパーフルオロポリエーテル基であり、R8はOまたはSであり、eは0から20の整数であり、fは0または1であり、また、R9、R10およびR11は相互に同じまたは異なってよく、また、炭化水素基、水素のいずれかであり、炭化水素基の炭素数は1〜20である。)で示される化合物から選ばれる少なくとも1種類の化合物を含んで成る潤滑剤組成物。
【請求項2】 パーフルオロポリエーテル基が、一般式(d)、(e)および(f):
【化4】


(式中、qは1以上の整数である。)
【化5】


(式中、rおよびtは1以上の整数である。)
【化6】
12(OCu2uvO(CF2u-1− ...(f)
(式中、R12はパーフルオロアルキル基であり、uは1〜6の整数であり、vは1〜30の整数である。)のいずれかで示されるものであることを特徴とする請求項1記載の潤滑剤組成物。
【請求項3】 有機リン系化合物を更に含むことを特徴とする請求項1および請求項2のいずれか一項に記載の潤滑剤組成物。
【請求項4】 有機リン系化合物が、一般式(g)(h)(i)(j)(k)(l)(m)(n)および(o):
【化7】HP(O)(OCn2n+12 ...(g)
【化8】P(OCn2n+13 ...(h)
【化9】P(SCn2n+13 ...(i)
【化10】O=P(OCn2n+13 ...(j)
【化11】S=P(OCn2n+13 ...(k)
【化12】O=P(SCn2n+13 ...(l)
【化13】S=P(SCn2n+13 ...(m)
【化14】
(Cn2n+1O)2P(O)OH ...(n)
【化15】
(Cn2n+1O)P(O)(OH)2 ...(o)
(上記各一般式(g)〜(o)において、nは8〜20の整数である。)で示される有機リン系化合物からなる群から選択される少なくとも1種の有機リン系化合物であることを特徴とする請求項3に記載の潤滑剤組成物。
【請求項5】 非磁性基板上に、強磁性金属薄膜、炭素膜および潤滑剤層がこの順に形成されて成る磁気記録媒体であって、潤滑剤層が請求項1〜4のいずれか一項に記載の潤滑剤組成物を含有することを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項6】 炭素膜が表層部に含窒素プラズマ重合膜を有し、潤滑剤層が炭素膜の含窒素プラズマ重合膜上に形成されていることを特徴とする請求項5に記載の磁気記録媒体。
【請求項7】 請求項5もしくは請求項6に記載の磁気記録媒体の製造方法であって、潤滑剤層の形成工程が、炭化水素系溶媒とアルコール系溶媒との混合有機溶媒に潤滑剤組成物を溶解して調製した塗布液を、相対湿度が10〜40%の範囲内にある環境下において炭素膜上に塗布する工程を含むことを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【請求項8】 炭化水素系溶媒とアルコール系溶媒との混合割合が重量比で1:9〜9:1の範囲にあることを特徴とする請求項7に記載の磁気記録媒体の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2000−219887(P2000−219887A)
【公開日】平成12年8月8日(2000.8.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平11−23725
【出願日】平成11年2月1日(1999.2.1)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】