説明

潤滑剤組成物

【課題】ドアロック機構、ウィンドウレギュレーター、シートレール、電動パワーステアリング等の自動車部品、各種装置における歯先部分、噛み合い部、ロック部、係止部等の動き部分を構成する摺動部に使用する際に起きる焼付き等を防止でき、長期耐久性があり、摺動特性を良好にする潤滑油およびグリースなどの潤滑剤組成物を提供する。
【解決手段】
添加する樹脂微粒子がポリアミド、ポリアリーレンエーテル、ポリアリーレンスルフィド、ポリエーテルサルホン、ポリスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリエーテルイミドなどのガラス転移温度が150℃以上の樹脂からなり、平均粒子径が0.1μm以上50μm以下であり且つ粒度分布指数が1以上1.5以下である樹脂微粒子を含有する潤滑剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械の摺動部材、回転軸または歯車装置などを円滑に長時間運転させるために用いられる潤滑油またはグリース等に代表される潤滑剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
機械の摺動部材、回転軸または歯車装置には、相対運動する機械要素が直接接触して生じる摩擦を低減させるために、潤滑油やグリースなどの潤滑剤が用いられる。
【0003】
これら潤滑剤は、相対運動する機械要素間の接触面に油膜を形成し、接触面に加わる圧力が大きすぎると潤滑剤が接触面から追い出され、油膜がなくなり、いわゆる油切れの状態になり、目的を達することが出来なくなる。
【0004】
そこで、潤滑剤に対し少量添加することにより、高面圧下で滑りながら接触する機械要素の接触面に介在して、要素の直接接触を妨げ、摩擦または摩耗の減少を発揮させるために、添加剤を加えることが知られている。
【0005】
これらの添加剤に対する必要な条件としては、
1)微細粒子が、潤滑油またはグリース中に良好に分散され、機械要素間の隙間に容易に入りえること、
2)当該添加剤が機械要素と低摩擦でありかつ機械要素を傷つけないこと、
3)摩擦により、添加剤が凝集しないこと、
4)少量の添加で効果を示し、かつ添加により潤滑油またはグリースの物理的変化、化学的変化を起こさないもの、
5)長時間放置しても、添加剤が潤滑油またはグリース中で沈殿しないこと
などが挙げられる。上記条件から、二硫化モリブデンや四フッ化ポリエチレンなどがよく利用される。
【0006】
しかし、潤滑油またはグリース中に使用される添加剤は、特に高荷重高速回転で使用される場合においては、機械要素間の接触部分の極圧が非常に高まり、局部的に高熱を発生する状態で使用されるため、場合によっては、ガスを発生することがある。例えば、二硫化モリブデンの場合は、硫黄を含んだガスや、四フッ化ポリエチレンの場合などでは、フッ素化合物含有ガスを発生するなどの課題があった。
【0007】
また、二硫化モリブデンなどの無機系物質を添加した場合、炭化水素系有機物から構成させる潤滑剤と無機物質を混合すると、その比重差により、混合後に沈殿などが生じ、不均一な状態になり、実使用上不都合が起こりやすいなどの問題があることが知られている。
【0008】
これらの課題を解決するために、潤滑剤との比重差が少なく、耐熱性の高い添加剤として、樹脂微粉末を用いることが提案されている。具体的に例示するならば、芳香族樹脂微粉を用いる方法(特許文献1〜5)や、ナイロン微粉末を用いる方法(特許文献6)が挙げられる。
【0009】
芳香族樹脂微粉を用いる技術は、平均粒子径が20μm以下の全芳香族ポリエーテル系樹脂や全芳香族ポリエステル樹脂の樹脂微粒子を添加することにより、高温高荷重下においても確実な潤滑性が保持されることが開示されており、また、ナイロン微粉末を用いる技術においては、20μm以下のナイロン6やナイロン12の微粉末を用いることで、高い潤滑性能が得られることが開示されている。
【0010】
しかし、これらの樹脂微粉末は、いずれも樹脂を低温粉砕するなどして入手したものであり、その形状は不定形に近く、またその粒度分布は広くなることが推測される。
【0011】
これら添加する樹脂微粉末は、潤滑剤の中で機能するに際しては、相対する機械要素間の面間隔に入り込むことで、摺動特性を向上させることが本質であるが、実際に有効に機能する粒子は、添加する粒子のうち、粒度分布の高粒子径側のものが有効に働いていることが多く、低粒子径側の樹脂微粉末は、摺動特性に影響を与えない。即ち、機能の面から考えると、低粒子側の樹脂微粉末を添加することは、不必要な成分を添加していることになる。
【0012】
さらに、摺動特性に寄与しない小粒子径の添加剤は、潤滑剤の粘性を増加させる傾向にあり、実使用において、取扱いづらくしてしまう傾向にあるため、出来る限り有効な樹脂微粒子のみを添加する方法が望ましいと考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開昭63−135496号公報
【特許文献2】特開昭63−23994号公報
【特許文献3】特開63−172796号公報
【特許文献4】特開63−172797号公報
【特許文献5】特開昭63−172794号公報
【特許文献6】特開平7−252490号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、ドアロック機構、ウィンドウレギュレーター、シートレール、電動パワーステアリング等の自動車部品、各種装置における歯先部分、噛み合い部、ロック部、係止部等の動き部分を構成する摺動部に使用する際に起きる焼付き等を防止でき、長期耐久性があり、摺動特性を良好にする潤滑油およびグリースなどの潤滑剤組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
鋭意検討の結果、本発明者らは、極圧条件下による高温発生時においても使用が可能であり、添加量が少なくても効果を発揮する樹脂微粒子およびそれを活用した潤滑剤組成物の発明を完成した。
【0016】
即ち、本発明は、
(1)ガラス転移温度が150℃以上であり、平均粒子径が0.1μm以上50μm以下であり且つ粒度分布指数が1以上1.5以下である樹脂微粒子を含有することを特徴とする潤滑剤組成物、
(2)樹脂微粒子が、ポリアミド、ポリアリーレンエーテル、ポリアリーレンスルフィド、ポリエーテルサルホン、ポリスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリエーテルイミドであることを特徴とする(1)記載の潤滑剤組成物、
(3)樹脂微粒子の含有量が、1質量%〜50質量%であることを特徴とする(1)または(2)記載の潤滑剤組成物、
(4)潤滑剤組成物が潤滑油またはグリースである(1)〜(3)のいずれか記載の潤滑剤組成物、である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によりドアロック機構、ウィンドウレギュレーター、シートレール、電動パワーステアリング等の自動車部品、各種装置における歯先部分、噛み合い部、ロック部、係止部等の動き部分を構成する摺動部に使用する際に起きる焼付き等を防止でき、長期耐久性があり、摺動特性を良好にする潤滑油およびグリースなどの潤滑剤組成物が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0019】
本発明における潤滑剤組成物としては、液状の潤滑油または半固形状のグリース等の潤滑剤と、粒子径および粒度分布が制御された樹脂微粒子とを混合することにより得ることが出来る。
【0020】
本発明における潤滑剤組成物に使用される潤滑油としては、合成炭化水素油(例えば、ポリαオレフィン油PAO)、シリコーン油、フッ素油、エステル油、エーテル油等の合成油や鉱油等を用いることができる。これらの潤滑油は、それぞれ単独で使用できる他、2種以上を併用しても良い。
【0021】
半固形状のグリースとしては、上記潤滑油に対して、増ちょう剤を添加することにより得ることができる。増ちょう剤としては、石けん系の増ちょう剤、ウレア系の増ちょう剤、有機系増ちょう剤、無機系増ちょう剤等の、従来公知の増ちょう剤が挙げられる。石けん系増ちょう剤としては、アルミニウム石けん、カルシウム石けん、リチウム石けん、ナトリウム石けん等の金属石けん型増ちょう剤、リチウム−カルシウム石けん、ナトリウム−カルシウム石けん等の混合石けん型増ちょう剤、アルミニウムコンプレックス、カルシウムコンプレックス、リチウムコンプレックス、ナトリウムコンプレックス等のコンプレックス型増ちょう剤等が挙げられる。また、ウレア系増ちょう剤としてはポリウレアが挙げられ、有機系増ちょう剤としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ナトリウムテレフタレート等が挙げられる。さらに無機系増ちょう剤としては、有機ベントナイト、グラファイト、シリカゲル等が挙げられる。
【0022】
液状の潤滑油には、必要に応じて、フッ素樹脂(PTFE等)、二硫化モリブデン、グラファイト、ポリオレフィン系ワックス(アマイド等を含む)等の固体潤滑剤、リン系や硫黄系の極圧添加剤、取りブチルフェノール、メチルフェノール等の酸化防止剤、防錆剤、金属不活性剤、粘度指数向上剤、油性剤、消泡剤等を添加しても良い。
【0023】
本発明における樹脂微粒子とは、樹脂からなる微粒子であり、高い耐熱性を有することを特徴とする。耐熱性の指標としては、潤滑剤組成物として使用する際に摺動部分において形状を保持するために、ガラス転移温度が150℃以上のものであり、より好ましくは、160℃以上であり、さらに好ましくは、180℃、特に好ましくは、200℃以上であり、著しく好ましくは、220℃以上である。好ましい上限は、500℃以下である。
【0024】
上記ガラス転移温度は、示差走査熱量測定法(DSC法)により判別することが出来る。即ち、DSC測定において、30℃から、当該ポリマーに融点がある場合は、その融点よりも30℃超える温度までの温度範囲を、ない場合は、300℃までの温度範囲を、20℃/分の昇温速度で1回昇温させた後に、1分間保持した後、20℃/分で0℃まで降温させ、1分間保持した後、再度20℃/分で昇温させた際に測定されるガラス転移温度のことを指す。
【0025】
このような樹脂としては、具体的には、ポリアミド、ポリアリーレンエーテル、ポリアリーレンスルフィド、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリエーテルイミドおよびこれらの共重合体などが挙げられる。
【0026】
ポリアミドとしては、3員環以上のラクタム、重合可能なアミノカルボン酸、二塩基酸とジアミンまたはそれらの塩、あるいはこれらの混合物の重縮合によって得られるポリアミドが挙げられる。
【0027】
このようなポリアミドの例としては、3,3’-ジメチル−4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタンとイソフタル酸と12−アミノドデカン酸の共重合体(例示するならば、‘グリルアミド(登録商標)’TR55、エムザベルケ社製)、3,3’-ジメチル−4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタンとドデカ二酸の共重合体(例示するならば、‘グリルアミド(登録商標)’ TR90、エムザベルケ社製)、3,3’-ジメチル−4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタンとイソフタル酸と12−アミノドデカン酸の共重合体と3,3’-ジメチル−4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタンとドデカ二酸の共重合体との混合物(例示するならば、‘グリルアミド(登録商標)’TR70LX、エムザベルケ社製)、 4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタンとドデカ二酸の共重合体(例示するならば、‘TROGAMID(登録商標)’CX7323、デグサ社製)などが挙げられる。
【0028】
上記のうち、ポリアミドの溶媒への溶解のしやすさの観点から、特に非晶性ポリアミドが好ましく、中でも、非全芳香族ポリアミドが好ましく、具体的には脂肪族ポリアミド、半芳香族ポリアミド、脂環式ポリアミドが挙げられる。
【0029】
ポリアリーレンエーテルとは、アリール基がエーテル結合でつながったポリマーであり、一般式(1)で代表され構造を有するものが挙げられる。
【0030】
【化1】

【0031】
この際、芳香環上には、置換基Rを有していてもいなくても良く、その置換基数mは1以上4以下である。置換基としては、メチル基、エチル基、プロピル基等の炭素数1〜6の飽和炭化水素基、ビニル基、アリル基等の不飽和炭化水素基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子などのハロゲン基、アミノ基、水酸基、チオール基、カルボキシル基、カルボキシ脂肪族炭化水素エステル基などが好ましく挙げられる。
【0032】
ポリアリーレンエーテルの具体的な例としては、ポリ(2,6−ジメチルフェニレンエーテル)が挙げられる。
【0033】
ポリアリーレンスルフィドとは、アリール基がスルフィド結合でつながったポリマーであり、一般式(2)で代表される構造を有するものが挙げられる。
【0034】
【化2】

【0035】
この際、芳香環上には、置換基Rを有していてもなくても良く、その置換基数であるmは、1以上4以下である。置換基としては、メチル基、エチル基、プロピル基等の飽和炭化水素基、ビニル基、アリル基等の不飽和炭化水素基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子などのハロゲン基、アミノ基、水酸基、チオール基、カルボキシル基、カルボキシ脂肪族炭化水素エステル基などが挙げられる。また、上記一般式(2)のパラフェニレンスルフィド単位の代わりにメタフェニレン単位、オルソフェニレン単位とすることや、これらの共重合体とすることも可能である。
【0036】
ポリアリーレンスルフィドの具体的な例としては、ポリフェニレンスルフィドが挙げられる。
【0037】
ポリエーテルスルホンとしては、一般式(a−1)および/または一般式(a−2)で表される構造を有するものが挙げられる。
【0038】
【化3】

【0039】
(式中のRは、同一であっても異なっていてもよく、炭素数1〜6のアルキル基および炭素数6〜8のアリール基から選ばれるいずれかを表し、mは0〜3の整数を表す。Yは直接結合、酸素、硫黄、SO、CO、C(CH2、CH(CH)、およびCHから選ばれるいずれか表す)
【0040】
このようなポリエーテルスルホンとして、通常用いられる方法により製造することが可能である。また市販されているポリエーテルスルホンとして、例えばビー・エー・エス・エフ社製 “ULTRASON E”シリーズ、住友化学株式会社製 “スミカエクセル”シリーズなどを使用することができる。
【0041】
ポリアリレートとは、芳香族多価アルコールと芳香族カルボン酸からなるポリエステルのことである。
【0042】
ポリアリレートの具体例としては、ビスフェノールA/テレフタル酸、ビスフェノールA/イソフタル酸、ビスフェノールA/テレフタル酸/イソフタル酸などが挙げられる。
【0043】
このような、ポリアリレートは、通常公知の方法により製造することが可能である。また、公知の方法により製造されているポリアリレートとしては、例えば、ユニチカ社製 “Uポリマー”などを使用することが出来る。
【0044】
ポリスルホンとしては、一般式(3)で代表される構造を有するものが好ましく挙げられる。
【0045】
【化4】

【0046】
(式中のRは、炭素数1〜6のアルキル基または炭素数6〜8のアリール基を表し、mは0〜3の整数を表すものである。)
【0047】
ポリエーテルケトンとは、エーテル結合とカルボニル基を有するポリマーである。具体的には、一般式(4)で代表される構造を有するものが好ましく挙げられる。
【0048】
【化5】

【0049】
(式中のRは、炭素数1〜6のアルキル基または炭素数6〜8のアリール基を表し、mは0〜3の整数を表すものである。)
【0050】
ポリエーテルケトンの中でも、一般式(5)で表わされる構造を有するものは、特にポリエーテルエーテルケトンと称する。
【0051】
【化6】

【0052】
(式中のRは、炭素数1〜6のアルキル基または炭素数6〜8のアリール基を表し、mは0〜3の整数を表すものである。)
【0053】
ポリカーボネートとは、カーボネート基を有したポリマーであり、一般式(6)で代表される構造を有するものを好ましく挙げることができる。
【0054】
【化7】

【0055】
(式中のRは、炭素数1〜6のアルキル基または炭素数6〜8のアリール基を表し、mは0〜3の整数を表すものである。)
【0056】
具体的な例としては、Rmの置換基を有しない、ビスフェノールAが炭酸エステル結合で重縮合されたポリマーが挙げられる。また、ポリカーボネートと前記ポリエステルとを共重合したものでもよい。
【0057】
ポリアミドイミドとは、イミド結合と、アミド結合を有したポリマーであり、一般式(7)で代表される構造を有するものが挙げられる。
【0058】
【化8】

【0059】
(式中、RおよびR2は、芳香族、脂肪族の炭化水素を表わし、内部にエーテル結合、チオエーテル結合、カルボキニル基、ハロゲン結合、アミド結合を有する構造団を有していてもよい。)
【0060】
ポリイミドとは、イミド結合を有したポリマーであり、代表的には一般式(8)で表わされる構造を有するものが挙げられる。
【0061】
【化9】

【0062】
(式中、R1およびR2は、芳香族、脂肪族の炭化水素を表わし、内部にエーテル結合、チオエーテル結合、カルボキニル基、ハロゲン結合、アミド結合を有する構造団を有していてもよい。)
【0063】
特に本系においては、熱可塑性ポリイミドが好ましく、具体的には1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸無水物と4,4’−ビス(3−アミノフェニルオキシ)ビフェニル の重縮合物や3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸無水物と1,3−ビス(4−アミノフェニルオキシ)ベンゼンの重縮合物が挙げられる。
【0064】
ポリエーテルイミドとは、分子内にエーテル結合とイミド結合を有したポリマーであり、具体的に例示するならば、4,4’−[イソプロピリデンビス(p-フェニレンオキシ)]ジフタル酸二無水物とメタフェニレンジアミンとの縮合により得られるポリマーなどが挙げられる。
【0065】
本発明における樹脂の分子量は、好ましくは、重量平均分子量で、1,000〜100,000,000、より好ましくは、1,000〜10,000,000、さらに好ましくは、5,000〜1,000,000であり、特に好ましくは、10,000〜500,000の範囲であり、最も好ましい範囲は、10,000〜100,000の範囲である。
【0066】
ここでいう重量平均分子量とは、溶媒としてジメチルホルムアミドを用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定し、ポリスチレンで換算した重量平均分子量をさす。
【0067】
ジメチルホルムアミドで測定できない場合については、テトラヒドロフランを用い、さらに測定できない場合は、ヘキサフルオロイソプロパノールを用い、ヘキサフルオロイソプロパノールでも測定できない場合は、2−クロロナフタレンを用いて測定を行う。
【0068】
本発明における樹脂微粒子の粒子径は、平均粒子径で50μm以下であり、より好ましい態様によれば、30μm以下、さらに好ましくは、20μm以下、特に好ましくは、10μm以下である。下限としては、0.1μm以上、好ましくは0.2μm以上であり、より好ましくは0.5μm以上、さらに好ましくは1μm以上である。
【0069】
また、粒子径分布は、粒子径分布指数であり、1.5以下であり、好ましくは1.2以下であり、特に好ましくは1.1以下である。また、好ましい下限は1である。
【0070】
微粒子の平均粒子径は、走査型電子顕微鏡写真から任意の100個の粒子直径を特定し、その算術平均を求めることにより算出することが出来る。上記写真において、真円状でない場合、即ち楕円状のような場合は、粒子の最大径をその粒子径とする。粒子径を正確に測定するためには、少なくとも1000倍以上、さらに精度を要する場合は5000倍以上の倍率で測定する。
【0071】
粒子径分布指数は、上記で得られた粒子直径の値を、下記数値変換式に基づき、決定される。
【0072】
【数1】

【0073】
尚、Di:粒子個々の粒子径、n:測定数100、Dn:数平均粒子径、Dv:体積平均粒子径、PDI:粒子径分布指数とする。
【0074】
樹脂微粒子の形状は、真球状であることが好ましいが、楕円球状であっても良い。
【0075】
この際、真球の度合いを表わす指数としては、樹脂微粒子の長径と短径の比で表わすことができ、好ましくは、その比率が2以下であり、より好ましくは、1.8以下、更に好ましくは、1.5以下、特に好ましくは、1.2以下である。
【0076】
なお、この真球度は、走査型電子顕微鏡写真から任意の100個の粒子を特定し、その長径と短径の比を測定し、真球度を算出した上、算術平均をしたものを用いる。また、好ましい下限は1である。
【0077】
上記粒子の径を正確に測定するためには、少なくとも1000倍以上、さらに精度を要する場合は5000倍以上の倍率で測定する。
【0078】
このような樹脂微粒子は、例えば、微粒子化をしようとするポリマー(以下ポリマーA)とポリマーAの貧溶媒に溶解するポリマーBと有機溶媒を溶解混合させ、ポリマーAを主成分とする溶液相(以下、ポリマーA溶液相と称することもある)と、ポリマーBを主成分とする溶液相(以下、ポリマーB溶液相と称することもある)の2相に相分離する系において、エマルジョンを形成させた後、ポリマーAの貧溶媒を接触させることにより、ポリマーAを析出させるような方法で得ることができる。
【0079】
上記手法について、より具体的に示す。
【0080】
上記において、「ポリマーAとポリマーBと有機溶媒を溶解混合させ、ポリマーAを主成分とする溶液相と、ポリマーBを主成分とする溶液相の2相に相分離する系」とは、ポリマーAとポリマーBと有機溶媒を混合したときに、ポリマーAを主として含む溶液相と、ポリマーBを主として含む溶液相の2相に分かれる系をいう。
【0081】
このような相分離をする系を用いることにより、相分離する条件下で混合して、乳化させ、エマルジョンを形成させることができる。
【0082】
なお、上記において、ポリマーが溶解するかどうかについては、本方法を実施する温度、即ちポリマーAとポリマーBを溶解混合して、2相分離させる際の温度において、有機溶媒に対し1質量%超溶解するかどうかで判別する。
【0083】
このエマルジョンは、ポリマーA溶液相が分散相に、ポリマーB溶液相が連続相になり、そしてこのエマルジョンに対し、ポリマーAの貧溶媒を接触させることにより、エマルジョン中のポリマーA溶液相から、ポリマーAが析出し、ポリマーAで構成されるポリマー微粒子を得ることが出来る。
【0084】
本方法においては、ポリマーA、ポリマーB、これらを溶解する有機溶媒およびポリマーAの貧溶媒を用い、本方法のポリマー微粒子が得られる限り、その組合せに特に制限はないが、本方法において、ポリマーAとは、高分子重合体のことを指し、好ましくは、天然には存在しない合成ポリマーであり、さらに好ましくは非水溶性ポリマーである。
【0085】
本方法において、ポリマーAとしては、本方法が、貧溶媒と接触する際に微粒子を析出させることを要点とすることから、貧溶媒に溶けないものが好ましく、後述する貧溶媒に溶解しないポリマーが好ましく、特に非水溶性ポリマーが好ましい。
【0086】
ここで、非水溶性ポリマーとしては、水に対する溶解度が1質量%以下、好ましくは、0.5質量%以下、さらに好ましくは、0.1質量%以下のポリマーを示す。
【0087】
ポリマーBとしては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂が挙げられるが、本方法で用いるポリマーAを溶解する有機溶媒およびポリマーAの貧溶媒に溶解するものが好ましく、なかでも、上記有機溶媒に溶解し、アルコール系溶媒または水に溶解するものが工業上取り扱い性に優れる点でより好ましく、さらに有機溶媒に溶解し、メタノール、エタノールまたは水に溶解するものが特に好ましい。
【0088】
ポリマーBを具体的に例示するならば、ポリ(ビニルアルコール)(完全ケン化型や部分ケン化型のポリ(ビニルアルコール)であってもよい)、ポリ(ビニルアルコールーエチレン)共重合体(完全ケン化型や部分ケン化型のポリ(ビニルアルコールーエチレン)共重合体であってもよい)、ポリビニルピロリドン、ポリ(エチレングリコール)、ショ糖脂肪酸エステル、ポリ(オキシエチレン脂肪酸エステル)、ポリ(オキシエチレンラウリン脂肪酸エステル)、ポリ(オキシエチレングリコールモノ脂肪酸エステル)、ポリ(オキシエチレンアルキルフェニルエーテル)、ポリ(オキシアルキルエーテル)、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸ナトリウム、ポリスチレンスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム、ポリビニルピロリジニウムクロライド、ポリ(スチレン−マレイン酸)共重合体、アミノポリ(アクリルアミド)、ポリ(パラビニルフェノール)、ポリアリルアミン、ポリビニルエーテル、ポリビニルホルマール、ポリ(アクリルアミド)、ポリ(メタクリルアミド)、ポリ(オキシエチレンアミン)、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ(ビニルピリジン)、ポリアミノスルホン、ポリエチレンイミン等の合成樹脂、マルトース、セルビオース、ラクトース、スクロースなどの二糖類、セルロース、キトサン、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、エチルヒドロキシセルロース、カルボキシメチルエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、セルロースエステル等のセルロース誘導体、アミロースおよびその誘導体、デンプンおよびその誘導体、デキストリン、シクロデキストリン、アルギン酸ナトリウムおよびその誘導体等の多糖類またはその誘導体、ゼラチン、カゼイン、コラーゲン、アルブミン、フィブロイン、ケラチン、フィブリン、カラギーナン、コンドロイチン硫酸、アラビアゴム、寒天、たんぱく質等が挙げられ、好ましくは、ポリ(ビニルアルコール)(完全ケン化型や部分ケン化型のポリ(ビニルアルコール)であってもよい)、ポリ(ビニルアルコールーエチレン)共重合体(完全ケン化型や部分ケン化型のポリ(ビニルアルコールーエチレン)共重合体であってよい)、ポリエチレングリコール、ショ糖脂肪酸エステル、ポリ(オキシエチレンアルキルフェニルエーテル)、ポリ(オキシアルキルエーテル)、ポリ(アクリル酸)、ポリ(メタクリル酸)、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、エチルヒドロキシセルロース、カルボキシメチルエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、セルロースエステル等のセルロース誘導体、ポリビニルピロリドンであり、より好ましくは、ポリ(ビニルアルコール)(完全ケン化型や部分ケン化型のポリ(ビニルアルコール)であってよい)、ポリ(ビニルアルコールーエチレン)共重合体(完全ケン化型や部分ケン化型のポリ(ビニルアルコールーエチレン)共重合体)、ポリエチレングリコール、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、エチルヒドロキシセルロース、カルボキシメチルエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、セルロースエステル等のセルロース誘導体、ポリビニルピロリドンであり、特に好ましくは、ポリ(ビニルアルコール)(完全ケン化型や部分ケン化型のポリ(ビニルアルコール)であってよい)、ポリ(エチレングリコール)、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、エチルヒドロキシセルロース等のセルロース誘導体、ポリビニルピロリドンである。
【0089】
ポリマーBの分子量は、好ましくは、重量平均分子量で、1,000〜100,000,000、より好ましくは、1,000〜10,000,000、さらに好ましくは、5,000〜1,000,000であり、特に好ましくは、10,000〜500,000の範囲であり、最も好ましい範囲は、10,000〜100,000の範囲である。
【0090】
ここでいう重量平均分子量とは、溶媒として水を用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定し、ポリエチレングリコールで換算した重量平均分子量を指す。
【0091】
水で測定できない場合においては、ジメチルホルムアミドを用い、それでも測定できない場合においては、テトラヒドロフランを用い、さらに測定できない場合においては、ヘキサフルオロイソプロパノールを用いる。
【0092】
ポリマーAとポリマーBを溶解させる有機溶媒としては、用いるポリマーA、ポリマーBを溶解し得る有機溶媒であり、各ポリマーの種類に応じて選択される。
【0093】
具体例としては、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、n−デカン、n−ドデカン、n−トリデカン、テトラデカン、シクロヘキサン、シクロペンタン等の脂肪族炭化水素系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレン、2−メチルナフタレン等の芳香族炭化水素系溶媒、酢酸エチル、酢酸メチル、酢酸ブチル、プロピオン酸ブチル、酪酸ブチル等のエステル系溶媒、クロロホルム、ブロモホルム、塩化メチレン、四塩化炭素、1,2−ジクロロエタン、1,1,1−トリクロロエタン、クロロベンゼン、2,6−ジクロロトルエン、ヘキサフルオロイソプロパノール等のハロゲン化炭化水素系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルブチルケトン等のケトン系溶媒、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール等のアルコール系溶媒、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMA)、プロピレンカーボネート、トリメチルリン酸、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、スルホラン等の非プロトン性極性溶媒、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、乳酸等のカルボン酸溶媒、アニソール、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジイソプロピルエーテル、ジオキサン、ジグライム、ジメトキシエタン等のエーテル系溶媒、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム アセテート、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム ハイドロゲンスルフェート、1−エチル−3−イミダゾリウム アセテート、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム チオシアネートなどのイオン性液体あるいはこれらの混合物が挙げられる。好ましくは、芳香族炭化水素系溶媒、脂肪族炭化水素系溶媒、ハロゲン化炭化水素系溶媒、アルコール系溶媒、エーテル系溶媒、非プロトン性極性溶媒、カルボン酸溶媒であり、さらに好ましいものとしては、水溶性溶媒であるアルコール系溶媒、非プロトン性極性溶媒、カルボン酸溶媒であり、著しく好ましいのは、非プロトン性極性溶媒、カルボン酸溶媒であり、入手が容易で、かつ広範な範囲のポリマーを溶解し得る点でポリマーAへの適用範囲が広く、かつ水やアルコール系溶媒等など後述する貧溶媒として好ましく用い得る溶媒と均一に混合し得る点から、最も好ましくは、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、プロピレンカーボネート、ギ酸、酢酸である。
【0094】
これらの有機溶媒は、複数種用いてもよいし、混合して用いても良いが、粒子径が比較的小さく、かつ、粒子径分布の小さい粒子が得られる点、使用済みの溶媒のリサイクル時の分離の工程のわずらわしさを避け、製造上のプロセス負荷低減という観点で、単一の有機溶媒であるほうが好ましく、さらにポリマーA、およびポリマーBの両方を溶解する単一の有機溶媒であることが好ましい。
【0095】
本方法におけるポリマーAの貧溶媒とは、ポリマーAを溶解させない溶媒のことをいう。溶媒を溶解させないとは、ポリマーAの貧溶媒に対する溶解度が1質量%以下のものであり、より好ましくは、0.5質量%以下であり、さらに好ましくは、0.1質量%以下である。
【0096】
本方法において、ポリマーAの貧溶媒を用いるが、かかる貧溶媒としてはポリマーAの貧溶媒でありかつ、ポリマーBを溶解する溶媒であることが好ましい。これにより、ポリマーAで構成されるポリマー微粒子を効率よく析出させることができる。また、ポリマーAおよびポリマーBを溶解させる溶媒とポリマーAの貧溶媒とは均一に混合する溶媒であることが好ましい。
【0097】
本方法における貧溶媒としては、用いるポリマーAの種類、望ましくは用いるポリマーA、B両方の種類によって、様々に変わるが、具体的に例示するならば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、n−デカン、n−ドデカン、n−トリデカン、テトラデカン、シクロヘキサン、シクロペンタン等の脂肪族炭化水素系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレン、2−メチルナフタレン等の芳香族炭化水素系溶媒、酢酸エチル、酢酸メチル、酢酸ブチル、プロピオン酸ブチル、酪酸ブチル等のエステル系溶媒、クロロホルム、ブロモホルム、塩化メチレン、四塩化炭素、1,2−ジクロロエタン、1,1,1−トリクロロエタン、クロロベンゼン、2,6−ジクロロトルエン、ヘキサフルオロイソプロパノール等のハロゲン化炭化水素系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルブチルケトン等のケトン系溶媒、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール等のアルコール系溶媒、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、トリメチルリン酸、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、スルホラン等の非プロトン性極性溶媒、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、乳酸等のカルボン酸溶媒、アニソール、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジイソプロピルエーテル、ジオキサン、ジグライム、ジメトキシエタン等のエーテル系溶媒、水の中から少なくとも1種類から選ばれる溶媒などが挙げられる。
【0098】
ポリマーAを効率的に粒子化させる観点から好ましくは、芳香族炭化水素系溶媒、脂肪族炭化水素系溶媒、アルコール系溶媒、エーテル系溶媒、水であり、最も好ましいのは、アルコール系溶媒、水であり、特に好ましくは、水である。
【0099】
本方法において、ポリマーA、ポリマーB、これらを溶解する有機溶媒およびポリマーAの貧溶媒を適切に選択して組み合わせることにより、効率的にポリマーAを析出させてポリマー微粒子を得ることが出来る。
【0100】
この際、ポリマーA、B、これらを溶解する有機溶媒を混合溶解させた液は、ポリマーAを主成分とする溶液相と、ポリマーBを主成分とする溶液相の2相に相分離することが必要である。
【0101】
この際、ポリマーAを主成分とする溶液相の有機溶媒と、ポリマーBを主成分とする有機溶媒とは、同一でも異なっていても良いが、実質的に同じ溶媒であることが好ましい。
【0102】
2相分離の状態を生成する条件は、ポリマーA、Bの種類、ポリマーA、Bの分子量、有機溶媒の種類、ポリマーA、Bの濃度、本方法を実施しようとする温度、圧力によって異なってくる。
【0103】
相分離状態になりやすい条件を得るためには、ポリマーAとポリマーBの溶解度パラメーター(以下、SP値と称することもある)の差が離れていた方が好ましい。
【0104】
この際、SP値の差としては1(J/cm1/2以上、より好ましくは2(J/cm1/2以上、さらに好ましくは3(J/cm1/2以上、特に好ましくは5(J/cm1/2以上、極めて好ましくは8(J/cm1/2以上である。SP値がこの範囲であれば、容易に相分離しやすくなる。
【0105】
ポリマーAとポリマーBの両者が有機溶媒にとけるのであれば、特に制限はないが、SP値の差の上限として好ましくは20(J/cm1/2以下、より好ましくは、15(J/cm1/2以下であり、さらに好ましくは10(J/cm1/2以下である。
【0106】
ここでいう、SP値とは、Fedorの推算法に基づき計算されるものであり、凝集エネルギー密度とモル分子容を基に計算されるもの(以下、計算法と称することもある。)である(「SP値 基礎・応用と計算方法」 山本秀樹著、株式会社情報機構、平成17年 3月 31日発行)。
【0107】
本推算法により、計算できない場合においては、溶解度パラメーターが既知の溶媒に対し溶解するか否かの判定による、実験法によりSP値を算出(以下、実験法と称することもある。)し、それを代用する(「ポリマーハンドブック第4版(Polymer Handbook Fourth Edition)」 ジェー・ブランド(J.Brand)著、ワイリー(Wiley)社1998年発行)。
【0108】
相分離状態になる条件を選択するためには、ポリマーA、ポリマーBおよびこれらを溶解する有機溶媒の3成分の比率を変化させた状態の観察による簡単な予備実験で作成できる、3成分相図で判別が出来る。
【0109】
相図の作成は、ポリマーA、Bおよび溶媒を任意の割合で混合溶解させ、静置を行った際に、界面が生じるか否かの判定を少なくとも3点以上、好ましくは5点以上、より好ましくは10点以上の点で実施し、2相に分離する領域および1相になる領域を峻別することで、相分離状態になる条件を見極めることが出来るようになる。
【0110】
この際、相分離状態であるかどうかを判定するためには、ポリマーA、Bを、本発明を実施しようとする温度、圧力にて、任意のポリマーA、Bおよび溶媒の比に調整した後に、ポリマーA、Bを、完全に溶解させ、溶解させた後に、十分な攪拌を行い、3日放置し、巨視的に相分離をするかどうかを確認する。
【0111】
しかし、十分に安定なエマルジョンになる場合においては、3日放置しても巨視的な相分離をしない場合がある。その場合は、光学顕微鏡・位相差顕微鏡などを用い、微視的に相分離しているかどうかをで、相分離を判別する。
【0112】
相分離は、有機溶媒中でポリマーAを主とするポリマーA溶液相と、ポリマーBを主とするポリマーB溶液相に分離することによって形成される。この際、ポリマーA溶液相は、ポリマーAが主として分配された相であり、ポリマーB溶液相はポリマーBが主として分配された相である。この際、ポリマーA溶液相とポリマーB溶液相は、ポリマーA、Bの種類と使用量に応じた体積比を有するようである。
【0113】
相分離の状態が得られ、且つ工業的に実施可能な濃度として、有機溶媒に対するポリマーA、Bの濃度は、有機溶媒に溶解する可能な限りの範囲内であることが前提であるが、好ましくは、1質量%超〜50質量%、より好ましくは、1質量%超〜30質量%、さらに好ましくは、2質量%〜20質量%である。
【0114】
本方法における、ポリマーA溶液相とポリマーB溶液相の2相間の界面張力は、両相とも有機溶媒であることから、その界面張力が小さく、その性質により、生成するエマルジョンが安定に維持できることから、粒子径分布が小さくなるようである。特に、ポリマーA相とポリマーB相の有機溶媒が同一である時は、その効果が顕著である。
【0115】
本方法における2相間の界面張力は、界面張力が小さすぎることから、通常用いられる溶液に異種の溶液を加えて測定する懸滴法などでは直接測定することは出来ないが、各相の空気との表面張力から推算することにより、界面張力を見積もることが出来る。各相の空気との表面張力をr、rとした際、その界面張力r12は、r12=r−rの絶対値で推算することができる。この際、このr12の好ましい範囲は、0超〜10mN/mであり、より好ましくは0超〜5mN/mであり、さらに好ましくは、0超〜3mN/mであり、特に好ましくは、0超〜2mN/mである。
【0116】
本方法における2相間の粘度は、平均粒子径および粒子径分布に影響を与え、粘度比が小さい方が、粒子径分布が小さくなる傾向にある。粘度比を本発明を実施しようとする温度条件下でのポリマーA溶液相/ポリマー溶液相Bと定義した場合において、好ましい範囲としては、0.1以上10以下、より好ましい範囲としては、0.2以上5以下、さらに好ましい範囲としては、0.3以上3以下、特に好ましい範囲としては、0.5以上1.5以下であり、著しく好ましい範囲としては、0.8以上1.2以下である。
【0117】
このようにして得られた相分離する系を用い、ポリマー微粒子を製造する。微粒子化を行うには、通常の反応槽で実施される。本発明を実施するにふさわしい温度は、工業的な実現性の観点から −50℃〜200℃の範囲であり、好ましくは、−20℃〜150℃であり、より好ましくは、0℃〜120℃であり、さらに好ましくは、10℃〜100℃であり、特に好ましくは、20℃〜80℃であり、最も好ましくは、20℃〜50℃の範囲である。本発明を実施するにふさわしい圧力は、工業的な実現性の観点から、減圧状態から100気圧の範囲であり、好ましくは、1気圧〜5気圧の範囲であり、さらに好ましくは、1気圧〜2気圧であり、特に好ましくは、大気圧である。
【0118】
このような条件下にて、相分離系状態を混合することにより、エマルジョンを形成させる。
【0119】
すなわち上記で得られた相分離溶液に、剪断力を加えることにより、エマルジョンを生成させる。
【0120】
エマルジョンの形成に際しては、ポリマーA溶液相が粒子状の液滴になるようにエマルジョンを形成させるが、一般に相分離させた際、ポリマーB溶液相の体積がポリマーA溶液相の体積より大きい場合に、このような形態のエマルジョンを形成させやすい傾向にあり、特にポリマーA溶液相の体積比が両相の合計体積1に対して0.4以下であることが好ましく、0.4〜0.1の間にあることが好ましい。上記相図を作成する際に、各成分の濃度における体積比を同時に測定しておくことにより、適切な範囲を設定することが可能である。
【0121】
本製造法で得られる微粒子は、粒子径分布の小さい微粒子になるが、これは、エマルジョン形成の段階において、非常に均一なエマルジョンが得られるからである。この傾向はポリマーA、Bの両方を溶解する単一溶媒を用いる際に顕著である。このため、エマルジョンを形成させるに十分な剪断力を得るためには、従前公知の方法による攪拌を用いれば十分であり、攪拌羽による液相攪拌法、連続2軸混合機による攪拌法、ホモジナイザーによる混合法、超音波照射等通常公知の方法で混合することが出来る。
【0122】
特に、攪拌羽による攪拌の場合、攪拌羽の形状にもよるが、攪拌速度は、好ましくは50rpm〜1200rpm、より好ましくは、100rpm〜1000rpm、さらに好ましくは、200rpm〜800rpm、特に好ましくは、300rpm〜600rpmである。
【0123】
また、攪拌羽としては、具体的には、プロペラ型、パドル型、フラットパドル型、タービン型、ダブルコーン型、シングルコーン型、シングルリボン型、ダブルリボン型、スクリュー型、ヘリカルリボン型などが挙げられるが、系に対して十分に剪断力をかけられるものであれば、これらに特に限定されるものではない。また、効率的な攪拌を行うために、槽内に邪魔板等を設置してもよい。
【0124】
また、エマルジョンを発生させるためには、必ずしも、攪拌機だけでなく、乳化機、分散機など広く一般に知られている装置を用いてもよい。具体的に例示するならば、ホモジナイザー(IKA社製)、ポリトロン(キネマティカ社製)、TKオートホモミキサー(特殊機化工業社製)等のバッチ式乳化機、エバラマイルダー(荏原製作所社製)、TKフィルミックス、TKパイプラインホモミキサー(特殊機化工業社製)、コロイドミル(神鋼パンテック社製)、スラッシャー、トリゴナル湿式微粉砕機(三井三池化工機社製)、超音波ホモジナイザー、スタティックミキサーなどが挙げられる。
【0125】
このようにして得られたエマルジョンは、引き続き微粒子を析出させる工程に供する。
【0126】
ポリマーAの微粒子を得るためには、ポリマーAに対する貧溶媒を、前記工程で製造したエマルジョンに接触させることでエマルジョン径に応じた径で、微粒子を析出させる。
【0127】
貧溶媒とエマルジョンの接触方法は、貧溶媒にエマルジョンを入れる方法でも良いし、エマルジョンに貧溶媒を入れる方法でも良いが、エマルジョンに貧溶媒を入れる方法が好ましい。
【0128】
この際、貧溶媒を投入する方法としては、本発明で製造するポリマー微粒子が得られる限り特に制限はなく、連続滴下法、分割添加法、一括添加法のいずれでも良いが、貧溶媒添加時にエマルジョンが凝集・融着・合一し、粒子径分布が大きくなったり、1000μmを超える塊状物が生成しやすくならないようにするために、好ましくは連続滴下法、分割滴下法であり、工業的に効率的に実施するためには、最も好ましいのは、連続滴下法である。
【0129】
また、貧溶媒を加える時間としては、10分以上50時間以内であり、より好ましくは、30分以上10時間以内であり、さらに好ましくは1時間以上5時間以内である。
【0130】
この範囲よりも短い時間で実施すると、エマルジョンの凝集・融着・合一に伴い、粒子径分布が大きくなったり、塊状物が生成する場合がある。また、これ以上長い時間で実施する場合は、工業的な実施を考えた場合、非現実的である。
【0131】
この時間の範囲内で行うことにより、エマルジョンからポリマー微粒子に転換する際に、粒子間の凝集を抑制することができ、粒子径分布の小さいポリマー微粒子を得ることができる。
【0132】
加える貧溶媒の量は、エマルジョンの状態にもよるが、好ましくは、エマルジョン総重量1質量部に対して、0.1から10質量部、より好ましくは、0.1から5質量部、さらに好ましくは、0.2から3質量部であり、特に好ましくは、0.2質量部から1質量部であり、最も好ましくは、0.2から0.5質量部である。
【0133】
貧溶媒とエマルジョンとの接触時間は、微粒子が析出するのに十分な時間であればよいが、十分な析出を引き起こしかつ効率的な生産性を得るためには、貧溶媒添加終了後5分から50時間であり、より好ましくは、5分以上10時間以内であり、さらに好ましくは10分以上5時間以内であり、特に好ましくは、20分以上4時間以内であり、著しく好ましくは、30分以上3時間以内である。
【0134】
このようにして作られたポリマー微粒子分散液は、ろ過、デカンテーション、減圧濾過、加圧ろ過、遠心分離、遠心ろ過、スプレードライ、酸析法、塩析法、凍結凝固法等の通常公知の方法で固液分離することにより、微粒子粉体を回収することが出来る。
【0135】
固液分離したポリマー微粒子は、必要に応じて、溶媒等で洗浄を行うことにより、付着または含有している不純物等の除去を行い、精製を行う。この際、好ましい溶媒としては、上記貧溶媒であり、より好ましくは、水、メタノール、エタノールから選ばれる1種または2種以上の混合溶媒である。
【0136】
得られた粒子は、乾燥を行い、残留溶媒を取り除くことができる。この際、乾燥の方法としては、風乾、加熱乾燥、減圧乾燥、凍結乾燥などが挙げられる。加熱する場合の温度は、ガラス転移温度より低い温度が好ましく、具体的には、50〜150℃が好ましい。
【0137】
本発明の方法においては、微粒子粉体を得る際に行った固液分離工程で分離された有機溶媒及びポリマーBを活用し、リサイクルを行うことが可能であることが有利な点である。
【0138】
固液分離で得た溶媒は、ポリマーB、有機溶媒および貧溶媒の混合物である。この溶媒から、貧溶媒を除去することにより、エマルジョン形成用の溶媒として再利用することが出来る。貧溶媒を除去する方法としては、通常公知の方法で行われ、具体的には、単蒸留、減圧蒸留、精密蒸留、薄膜蒸留、抽出、膜分離などが挙げられるが、好ましくは単蒸留、減圧蒸留、精密蒸留による方法である。
【0139】
単蒸留、減圧蒸留等の蒸留操作を行う際は、系に熱がかかり、ポリマーBや有機溶媒の熱分解を促進する可能性があることから、極力酸素のない状態で行うことが好ましく、より好ましくは、不活性雰囲気下で行う。具体的には、窒素、ヘリウム、アルゴン、二酸化炭素条件下で実施する。
【0140】
このようにして得られた樹脂微粒子を前記潤滑油に添加し、混合することに目的とする潤滑剤組成物を得ることができる。混合する方法は、ニーダー、プラネタリーミキサー、3本ロール、メカニカルスターラー、自公転式ミキサー、ホモミキサー、ホモジナイザー、ボールミル、ビーズミルなど一般的な固液混合用の方法のいずれでも可能であり、いくつかの方法を組み合わせて調整しても良い。また、必要に応じて、加温や下限圧を行ってもよい。
【0141】
潤滑剤組成物に対する、樹脂微粒子の添加量としては、50質量%以下が好ましく、さらに好ましくは40質量%以下であり、より好ましくは、30質量%以下であり、特に好ましくは20質量%以下である。
【0142】
好ましい下限としては、1質量%以上であり、さらに好ましくは、5質量%以上であり、特に好ましくは、10質量%以上である。
【0143】
潤滑油と樹脂微粒子を混合する際の好ましい量比としては、樹脂微粒子/潤滑油の比として、1/99〜50/50であり、好ましくは、1/99〜40/60であり、さらに好ましくは、1/99〜30/70であり、より好ましくは1/99〜20/80であり、特に好ましくは、1/99〜10/90である。
【0144】
グリース化する際に添加する増ちょう剤など、必要に応じて潤滑油、樹脂微粒子に以外の添加剤を加えても良く、この際、添加剤の添加量としては、潤滑油と樹脂微粒子の合計量100質量部に対し、1〜100質量部、好ましくは、1〜90質量部、さらに好ましくは、1〜60質量部、よりに好ましく1〜50質量部である。
【0145】
本発明における潤滑剤組成物は、高い耐熱性および潤滑性を有することから、各種摺動部材の潤滑剤として使用することが出来る。具体的には、ドアロック機構、ウィンドウレギュレーター、シートレール、電動パワーステアリング等の自動車部品、各種装置における歯先部分、噛み合い部、ロック部、係止部等の動き部分を構成する摺動部に使用することが出来る。また、樹脂微粒子を用いることにより歯車等の摺動部材が稼働中における摺動音を抑制する効果なども期待できる。
【実施例】
【0146】
以下、本発明を実施例および比較例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0147】
(1)樹脂微粒子のガラス転移温度の測定方法
示差走査熱量計(Perkin Elmer社製DSC−7型)を用い、窒素雰囲気下、20℃/minの昇温速度で測定した。
【0148】
(2)平均粒子径および粒子径分布測定方法
微粒子の個々の粒子径は、走査型電子顕微鏡(日本電子株式会社製走査型電子顕微鏡JSM−6301NF)にて、微粒子を1000倍で観察し、測長した。尚、粒子が真円でない場合は、長径をその粒子径として測定した。
【0149】
平均粒子径は、写真から任意の100個の粒子直径を測長し、その算術平均を求めることにより算出した。
【0150】
粒子径分布を示す粒子径分布指数は、上記で得られた個々の粒子直径の値を、下記数値変換式に基づき算出した。
【0151】
【数2】

【0152】
尚、Ri:粒子個々の粒子直径、n:測定数100、Dn:数平均粒子径、Dv:体積平均粒子径、PDI:粒子径分布指数とする。
【0153】
参考例1 樹脂微粒子(ポリエーテルスルホン微粒子)の製造方法
100mlの4口フラスコの中に、ポリエーテルスルホン 2.5g(重量平均分子量 67,000 住友化学株式会社製 ‘スミカエクセル(登録商標)’5003P)、有機溶媒としてN−メチル−2−ピロリドン 45g、ポリビニルアルコール 2.5g(日本合成化学工業株式会社製 ‘ゴーセノール(登録商標)’GL−05、重量平均分子量10,600、SP値32.8(J/cm1/2)を加え、80℃に加熱し、ポリマーが溶解するまで攪拌を行った。系の温度を室温に戻した後に、450rpmで攪拌しながら、貧溶媒として50gのイオン交換水を、送液ポンプを経由して、0.41g/分のスピード゛で滴下した。約12gのイオン交換水を加えた時点で、系が白色に変化した。全量の水を入れ終わった後に、30分間攪拌し、得られた懸濁液を、ろ過し、イオン交換水 100gで洗浄し、濾別したものを、80℃ 10時間真空乾燥を行い、白色固体を2.0g得た。得られた粉体を走査型電子顕微鏡にて観察したところ、真球状の微粒子形状であり、平均粒子径 18.7μm、粒子径分布指数 1.07のポリエーテルスルホン微粒子であった。なお、本実施例で用いたポリエーテルスルホンの融解熱量は観測されず、このポリマーのSP値は、実験法により求め、25.8(J/cm1/2であった。
【0154】
本樹脂微粒子のガラス転移温度を測定したところ、225℃であった。
【0155】
参考例2 樹脂微粒子(ポリアミド微粒子)の製造方法
100mlの4口フラスコの中に、非晶ポリアミド (重量平均分子量 18,000エムザベルケ社製‘グリルアミド(登録商標)’TR55) 2.5g、有機溶媒としてN−メチル−2−ピロリドン 45g、ポリビニルアルコール 25g(日本合成化学工業株式会社‘ゴーセノール(登録商標)’ GL−05)を加え、80℃に加熱し、ポリマーが溶解するまで攪拌を行った。系の温度を室温に戻した後に、450rplで攪拌しながら、貧溶媒として50gのイオン交換水を、送液ポンプを経由し、0.41g/分のスピードで滴下を行った。12gのイオン交換水を加えた時点で、系が白色に変化した。全量の水を入れ終わった後に、30分間攪拌し、得られた懸濁液を、ろ過し、イオン交換水 100gで洗浄し、80℃ 10時間真空乾燥を行い、白色固体2.25gを得た。得られた粉体を走査型電子顕微鏡にて観察したところ真球状の微粒子であり、平均粒子径 24.3μm、粒子径分布1.13の非晶ポリアミドの微粒子であった。なお、本実施例で用いた非晶ポリアミドの融解熱量は観測されず、このポリマーのSP値は、計算法より、23.3(J/cm1/2であった。
【0156】
本樹脂微粒子のガラス転移温度を測定したところ、160℃であった。
【0157】
参考例3 樹脂微粒子(ポリフェニレンエーテル微粒子)の製造方法
100mlの4口フラスコの中に、ポリ(2,6−ジメチルフェニレンエーテル)2.5g(重量平均分子量 55,000)、有機溶媒としてN−メチル−2−ピロリドン 45g、ポリビニルアルコール 2.5g(日本合成化学工業株式会社 ‘ゴーセノール(登録商標)’GL−05)を加え、80℃に加熱し全てのポリマーが溶解するまで攪拌を行った。系の温度を室温に戻した後に、450rpmで攪拌しながら、貧溶媒として50gのイオン交換水を、送液ポンプを経由し、0.41g/分のスピードで滴下を行った。12gのイオン交換水を加えた時点で、系が白色に変化した。全量の水を入れ終わった後に、30分間攪拌し、得られた懸濁液を、ろ過し、イオン交換水 100gで洗浄し、80℃ 10時間真空乾燥を行い、白色固体2.25gを得た。得られた粉体を走査型電子顕微鏡にて観察したところ、平均粒子径 8.6μm、粒子径分布1.11のポリ(2,6−ジメチルフェニレンエーテル)微粒子であった。なお、本実施例で用いたポリフェニレンエーテルの融解熱量は観測されず、このポリマーのSP値は、計算法より、20.7(J/cm1/2であった。
【0158】
本樹脂微粒子のガラス転移温度を測定したところ、215℃であった。
【0159】
参考例4 樹脂微粒子(ポリエーテルイミド微粒子)の製造方法
100mlの4口フラスコの中に、ポリエーテルイミド 2.5g(重量平均分子量 55,000 ジーイープラスチック社製ウルテム1010)、有機溶媒としてN−メチル−2−ピロリドン 45g、ポリビニルアルコール 2.5g(日本合成化学工業株式会社 ‘ゴーセノール(登録商標)’GL−05)を加え、80℃に加熱し全てのポリマーが溶解するまで攪拌を行った。系の温度を室温に戻した後に、450rpmで攪拌をしながら、貧溶媒として50gのイオン交換水を、送液ポンプを経由し、0.41g/分のスピード゛で滴下を行った。12gのイオン交換水を加えた時点で、系が白色に変化した。全量の水を入れ終わった後に、30分間攪拌した。さらに水を50g一括で添加し、得られた懸濁液を、遠心分離機にて、重力加速度の20,000倍にて20分間、遠心分離を行い、上澄み液を取り除いた。得られた固形分を、ろ過し、水 100gで洗浄し、80℃ 10時間真空乾燥を行い、白色固体2.1gを得た。得られた粉体を走査型電子顕微鏡にて観察したところ、真球状であり、平均粒子径 0.7μm、粒子径分布1.13のポリエーテルイミド微粒子であった。なお、本実施例で用いたポリエーテルイミドの融解熱量は観測されず、このポリマーのSP値は、実験法より、24.0(J/cm1/2であった。
【0160】
本樹脂微粒子のガラス転移温度を測定したところ、217℃であった。
【0161】
参考例5 樹脂微粒子(ポリアクリロニトリル微粒子)の製造方法
100mlの4口フラスコの中に、ポリアクリロニトリル2.5g(重量平均分子量 610,000、アルドリッチ社製)、有機溶媒としてジメチルスルホキシド 45g、ポリビニルアルコール 2.5g(日本合成化学工業株式会社‘ゴーセノール(登録商標)’ GL−05)を加え、80℃に加熱し全てのポリマーが溶解するまで攪拌を行った。系の温度を室温に戻した後に、450rpmで攪拌をしながら、貧溶媒として50gのイオン交換水を、送液ポンプを経由し、0.41g/分のスピードで滴下を行った。12gのイオン交換水を加えた時点で、系が白色に変化した。全量の水を入れ終わった後に、30分間攪拌し、得られた懸濁液を、ろ過し、イオン交換水 100gで洗浄し、80℃ 10時間真空乾燥を行い、白色固体2.0gを得た。得られた粉体を走査型電子顕微鏡にて観察したところ、真球状であり、平均粒子径 16.8μm、粒子径分布1.15の ポリアクリロニトリル微粒子であった。なお、本実施例で用いたポリアクリロニトリルの融解熱量は観測されず、このポリマーのSP値は、計算法より、29.5(J/cm1/2であった。
【0162】
本樹脂微粒子のガラス転移温度を測定したところ、101℃であった。
【0163】
参考例6 樹脂微粒子(凍結粉砕法によるポリアミド微粒子)の製造方法
非晶ポリアミド (重量平均分子量 18,000エムザベルケ社製‘グリルアミド(登録商標)’TR55)のペレットを液体窒素下において、凍結粉砕を行い、微粉砕されたポリアミド微粒子を得た。 平均粒子径 30μm、粒子径分布指数 3.3であった。走査型電子顕微鏡にて観察したところ、不定形の微粒子であった。
【0164】
本樹脂微粒子のガラス転移温度を測定したところ、160℃であった。
【0165】
実施例1〜4、比較例1〜3
<潤滑剤組成物の作成方法>
参考例1〜6で作成した樹脂微粒子をポリαオレフィン油(新日鐵化学株式会社製)90質量部に対し、10質量部加え、混合攪拌し、樹脂微粒子入り潤滑剤組成物を作成した。比較例3では樹脂微粒子を用いない以外は同様の操作を行った。
【0166】
<樹脂微粒子入り潤滑剤組成物の潤滑性能試験>
往復摺動試験機を用いこれらの評価を行った。
【0167】
1μmの厚みで亜鉛めっきを施したSUS314製の基板上に上記潤滑剤組成物を塗布し、垂直荷重50gの力で3mmφの剛球を速度100mm/sec、摺動距離50mm、摺動回数1000回の条件で潤滑性能試験を行い、摺動特性を比較した。
【0168】
動摩擦係数を測定した結果、摺動回数が1000回の時に、ポリαオレフィン油単独で摺動試験を行ったときの摩擦係数に対して50%未満のものを○、50%以上100%未満であったものを△、100%以上のものを×とした。
【0169】
また、この試験の終了後、摺動面に施した亜鉛めっきの剥がれを光学顕微鏡にて観察し、めっき剥がれがないあるいは20%以下のものを○、50%未満のものを△、50%以上剥がれているものを×とした。
【0170】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス転移温度が150℃以上であり、平均粒子径が0.1μm以上50μm以下であり且つ粒度分布指数が1以上1.5以下である樹脂微粒子を含有することを特徴とする潤滑剤組成物。
【請求項2】
樹脂微粒子が、ポリアミド、ポリアリーレンエーテル、ポリアリーレンスルフィド、ポリエーテルサルホン、ポリスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリエーテルイミドから選択される1種以上であることを特徴とする請求項1記載の潤滑剤組成物。
【請求項3】
樹脂微粒子の含有量が、1質量%〜50質量%であることを特徴とする請求項1または2記載の潤滑剤組成物。
【請求項4】
潤滑剤組成物が潤滑油またはグリースである請求項1〜3のいずれか記載の潤滑剤組成物。

【公開番号】特開2011−111475(P2011−111475A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−266875(P2009−266875)
【出願日】平成21年11月24日(2009.11.24)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】