説明

潤滑油供給装置付きターボチャージャ

【課題】ターボチャージャの始動時に軸受の隙間に、潤滑油中の異物が噛み込まないようにする。
【解決手段】エンジン10の排気ガスによって回転駆動されるタービン側インペラ41と、エンジン10の吸気側へ圧縮空気を送る及びコンプレッサ側インペラ42と、タービン側インペラ41とコンプレッサ側インペラ42を連結する回転軸43と、回転軸43を回転可能に支持する軸受43、44と、エンジン各所24へ潤滑油を供給するとともに軸受43、44へ潤滑油を供給する潤滑油供給装置20と、エンジン10の吸気側へ供給される圧縮空気の余剰圧力を逃がすブローオフバルブ60とを備えた潤滑油供給装置付きターボチャージャにおいて、エンジン各所24を潤滑する潤滑油とは別の場所に潤滑油を貯留し、エンジンを停止させたときに前記別の場所に貯留した潤滑油を軸受43、44に供給する油送給装置80を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両に搭載されるターボチャージャ(過給機)に関する。
【背景技術】
【0002】
ターボチャージャ100は、図4(特許文献1)に示すように、エンジンからの排気ガスによってタービン側インペラ101を回転させ、その回転によってコンプレッサ側インペラ102を駆動し、エンジンへ吸気用の圧縮空気を供給する装置である。このようなターボチャージャ100の回転軸103は、転がり軸受104、105により回転自在に支持されているが、回転数が非常に大きい(例えば毎分20万回)ので、転がり軸受104、105のオイル潤滑が必要である。タービン側インペラ101は、排気ガスで高温となるので、タービン側の転がり軸受104を十分に冷却する必要がある。
【0003】
そこで、ハウジング110の導入ポート111にエンジンの潤滑ポンプからの潤滑油を供給し、横穴112、縦穴113、第1の環状溝114を経由して軸受ケース121の両端面から転がり軸受104、105へ前記潤滑油を供給していた。
【0004】
またエンジンの潤滑ポンプからの潤滑油を、導入ポート111、横穴112、縦穴113、第1の環状溝114、パス穴116、第2の環状溝117、ノズル118を経由して転がり軸受104へ前記潤滑油を供給していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−96120号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
さらに上記転がり軸受104、105の外輪104a、105a間にはコイルバネ120が介挿され、転がり軸受104、105に定圧予圧がかかっている。この状態で、潤滑油を供給する場合、エンジンの各所を潤滑する際に異物が生ずるため、潤滑油は異物を含んだ状態となり、前記転がり軸受104、105の外輪と玉間、あるいは内輪と玉間に異物を噛み込んで、損傷を与える。
【0007】
よって、転がり軸受104、105に異物が噛み込まないようにするためには、前記コイルバネ120を無くし、転がり軸受104、105に隙間を設ける方法がある。しかし、排気ガスで軸受ケース121と回転軸103が十分加熱された状態において、この転がり軸受104、105の隙間が最適になるように設定してあるので、例えば、朝一番のエンジンの始動時は、軸受ケース121と回転軸103は大気温と同程度まで冷えており、前記最適隙間と比較して転がり軸受104、105の隙間が小さいがために、潤滑油中の異物を噛み込んで、転がり軸受104、105に損傷を与える。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の発明は、エンジンの排気ガスによって回転駆動されるタービン側インペラと、エンジンの吸気側へ圧縮空気を送る及びコンプレッサ側インペラと、タービン側インペラとコンプレッサ側インペラを連結する回転軸と、回転軸を回転可能に支持する軸受と、エンジン各所へ潤滑油を供給するとともに前記軸受へ潤滑油を供給する潤滑油供給装置と、エンジンの吸気側へ供給される圧縮空気の余剰圧力を逃がすブローオフバルブとを備えた潤滑油供給装置付きターボチャージャにおいて、エンジン各所を潤滑する潤滑油とは別の場所に潤滑油を貯留し、エンジンを停止させたときに前記別の場所に貯留した潤滑油を前記軸受に供給する油送給装置を備えたものである。
【0009】
この構成によれば、エンジン停止時に、エンジン各所を潤滑する潤滑油とは別の場所に貯留された潤滑油で軸受に付着した異物を洗い流すことが出来る。これによって、ターボチャージャが冷え、軸受の隙間が小さい状態でターボチャージャを始動しても、軸受を損傷させる恐れが少ない。さらに、別の場所に貯留された潤滑油として、大きな異物を取り除いた潤滑油、あるいは異物を含まないきれいな潤滑油を使用すれば、より効果的である。
【0010】
請求項2に記載の発明は、油送給装置は、エンジン各所を潤滑する潤滑油とは別の場所に潤滑油を貯留する潤滑油タンクと、前記軸受への潤滑油の供給停止切換可能な切換装置とを備えたものである。
【0011】
この構成によれば、簡単な構成で、エンジン停止時に、エンジン各所を潤滑する潤滑油とは別の場所に貯留された潤滑油を、ターボチャージャの軸受に供給することができる。
【0012】
請求項3に記載の発明は、油送給装置は、ブローオフバルブからの余剰圧力を貯留するエアタンクと、エンジン各所を潤滑する潤滑油とは別の場所に潤滑油を貯留する潤滑油タンクと、潤滑油タンクからの潤滑油を、エアタンクからの圧縮空気によってミスト状にするミスト装置と、前記軸受へのミスト状の潤滑油の供給停止切換可能な切換装置とを備えたものである。
【0013】
この構成によれば、ミスト状の潤滑油をターボチャージャの軸受に勢いよく吹付けるため、軸受に付着した異物付きの潤滑油を確実に洗い流すことができる。
【0014】
請求項4に記載の発明は、油送給装置は、エンジン各所を潤滑する潤滑油とは別の場所に潤滑油を貯留する潤滑油貯留空間を有し、ブローオフバルブからの余剰圧力をピストンを介して潤滑油貯留空間に加えることによって潤滑油を圧送するようにした潤滑油貯留兼圧送装置と、前記軸受への潤滑油の供給停止切換可能な切換装置とを備えたものである。
【0015】
この構成によれば、ブローオフバルブからの余剰圧力を利用して潤滑油を圧送するため、新たな駆動源を設けることなく、簡単な構成で潤滑油を軸受に送給できる。また、潤滑油貯留空間の設置場所に制限がない。
【0016】
請求項5に記載の発明は、油送給装置は、エンジン各所を潤滑する潤滑油とは別の場所に潤滑油を貯留する潤滑油貯留空間を有し、ブローオフバルブからの余剰圧力をピストンを介して潤滑油貯留空間に加えることによって潤滑油を圧送するようにした潤滑油貯留兼圧送装置と、ブローオフバルブからの余剰圧力を貯留するエアタンクと、潤滑油貯留兼圧送装置からの潤滑油を、エアタンクからの圧縮空気によってミスト状にするミスト装置と、前記軸受へのミスト状の潤滑油の供給停止切換可能な切換装置とを備えたものである。
【0017】
この構成によれば、ブローオフバルブからの余剰圧力を利用して潤滑油をミスト状にして圧送するため、新たな駆動源を設けることなく、簡単な構成で軸受に付着した異物付きの潤滑油を確実に洗い流すことができる。また、潤滑油貯留空間の設置場所に制限がない。
【0018】
請求項6に記載の発明は、切換装置は、弁の作動により、前記軸受への連通、遮断のいずれかに切換可能な切換弁である。
【0019】
この構成によれば、電動モータ付き潤滑油供給ポンプに較べるとローコストで切換弁を設置でき、切換弁の作動により軸受への潤滑油の供給、停止を確実に切り替えることができる。
【0020】
請求項7に記載の発明は、切換装置は、電動モータの作動により、前記軸受への潤滑油の供給、停止のいずれかに切換可能な電動モータ付き潤滑油供給ポンプである。
【0021】
この構成によれば、電動モータの駆動時間、電動モータの回転数の変更が容易なため、これらを最適に設定することで、軸受に付着した異物を確実に洗い流すことができる。また、潤滑油タンクあるいは潤滑油貯留空間の設置場所に制限がない。
【0022】
請求項8に記載の発明は、潤滑油供給装置は、潤滑油をろ過するオイルエレメントを有し、このオイルエレメントよりも細かい異物を補足できるフィルターを前記油送給装置に設け、潤滑油供給装置の潤滑油を油送給装置へ供給する連絡通路を設けた。
【0023】
この構成によれば、潤滑油供給装置の潤滑油を利用できるので、軸受へ供給する潤滑油を定期的に補充する必要がなく、維持管理が容易である。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、エンジン停止時に、エンジン各所を潤滑する潤滑油とは別の場所に貯留された潤滑油で軸受を洗い流すことが出来る。これによって、ターボチャージャが冷え、軸受の隙間が小さい状態でターボチャージャを始動しても、軸受を損傷させる恐れが少ない。さらに、別の場所に貯留された潤滑油として、大きな異物を取り除いた潤滑油、あるいは異物を含まないきれいな潤滑油を使用すれば、より効果的である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施形態におけるターボチャージャと潤滑油供給装置の全体概略図
【図2】本発明の実施形態におけるターボチャージャ本体の断面図
【図3】本発明の実施形態における図2の拡大断面図
【図4】従来のターボチャージャの断面図
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の実施形態を、図1乃至図3にもとづいて説明する。図1は、ターボチャージャ、エンジン、潤滑油供給装置の全体概略図、図2は、ターボチャージャ本体の断面図、図3は、図2の拡大断面図である。
【0027】
図1において、一点鎖線で囲った部分が自動車のエンジン10である。エンジン10は、シリンダ11、シリンダ11内を往復動するピストン12、シリンダ11に連結された吸気管13、シリンダ11に連結された排気管14、吸気管13とシリンダ11の連通遮断を行う吸気バルブ15、排気管14とシリンダ11の連通遮断を行う排気バルブ16を有する。
【0028】
エンジン10は、前記ピストン12の往復動を回転運動に変換する図略のクランクシャフトを有する。エンジン10には、液状潤滑油供給装置20を有し、液状潤滑油供給装置20は、クランクシャフトによって回転駆動される潤滑油供給ポンプ21、潤滑油を貯めるオイルパン22、オイルパン22から汲み上げられた潤滑油をろ過するストレーナ23、エンジン10の各所24へ潤滑油を供給する前に潤滑油をろ過するオイルエレメント25、一定圧以上の圧力を逃がすリリーフ弁26を有する。液状潤滑油供給装置20は、エンジン10の各所24(例えば、エンジンのシリンダとピストン間)へ潤滑油を送給して、各所24を潤滑する役目を持つ。
【0029】
ターボチャージャ30は、エンジン10に外付けされるもので、ターボチャージャ本体40、ブローオフバルブ60、第1のサージタンク70を有する。このターボチャージャ30は、排気管14から排出される排気ガスによって、ターボチャージャ本体40のタービン側インペラ41を回し、コンプレッサ側インペラ42も一体回転することにより、圧縮空気供給通路31を介して吸気管13に圧縮空気を供給する装置である。
【0030】
ブローオフバルブ60は、弁61、弁61を軸動可能に支持するダイヤフラム62、弁61を付勢するバネ63を有する。ブローオフバルブ60には、第1のサージタンク70に連通するフィードバック通路32が繋がっており、またブローオフバルブ60には、後述するミスト潤滑油供給装置80のオーバフロー通路81が繋がっている。ブローオフバルブ60は、第1のサージタンク70の圧力が所定圧力以上になると、前記バネ63に打ち勝って弁61を軸動させ、圧縮空気供給通路31の圧縮空気をオーバフロー通路81に逃がす役目を持っている。
【0031】
前記第1のサージタンク70は、圧縮空気を貯え、吸気管13に供給される圧縮空気の流量、圧力を平滑化させる役目を持つ。
【0032】
前記ミスト潤滑油供給装置80は、エンジン10に外付けされるもので、ブローオブバルブ60からの圧縮空気を貯える第2のサージタンク82、潤滑油貯留兼圧送装置83、電磁方向切換弁84、液状の潤滑油をミストにするベンチェリー管85、一定圧以上の圧縮空気を大気へ逃がすリリーフ弁86を有する。
【0033】
前記潤滑油貯留兼圧送装置83は、ピストン83aを有し、ピストン83aにより一つの内部空間を、圧縮空気を貯える圧縮空気貯留空間83bと、潤滑油を貯える潤滑油貯留空間83cとに区画している。潤滑油貯留兼圧送装置83は、潤滑油貯留空間83cに潤滑油を貯え、圧縮空気貯留空間83bへ圧縮空気を送ることによりベンチェリー管85へ潤滑油を圧送する役目を持っている。
【0034】
前記電磁方向切換弁84は、潤滑油貯留兼圧送装置83からの潤滑油をベンチェリー管85へ供給あるいは停止する役目を持つ。また、電磁方向切換弁84は、第2のサージタンク82からの圧縮空気をベンチェリー管85へ供給あるいは停止する役目を持つ。
【0035】
イグニッションキースイッチ90は、一側にOFF端子、IG端子、ST端子を有し、他側にE端子を有し、キーを回すことによりE端子はOFF端子、IG端子、ST端子のいずれかへ選択的に接続されるようになっている。電磁方向切換弁84はイグニッションキースイッチ90のOFF端子と電気的に接続され、イグニッションキースイッチ90のE端子はバッテリー91の+端子と電気的に接続されている。キーを回してOFF端子をE端子に接続すると、バッテリー91の電圧が電磁方向切換弁84に印加され、電磁方向切換弁84は、圧縮空気と潤滑油を供給するポートへ切り替えるようになっている。
【0036】
図2において、ターボチャージャ本体40は、回転軸43を有し、回転軸43の一端にはタービン側インペラ41が一体形成され、回転軸43の他端にはコンプレッサ側インペラ42が取り付けられている。回転軸43は、一対の転がり軸受(アンギュラ玉軸受)44、45によって回転可能に支持され、一対の転がり軸受44、45は、略筒状の軸受ケース46に圧入固定されている。
【0037】
前記回転軸43には、第1の段部43a、中径部43b、第2の段部43c、小径部43d、ネジ部43eの順に形成されている。前記中径部43bには、転がり軸受44、間座47、転がり軸受45の順に嵌合され、前記小径部43dには、スラスト受部材48、コンプレッサ側インペラ42の順に嵌合され、前記ネジ部43eにナット49が螺着されている。転がり軸受44、間座47、転がり軸受45が、第1の段部43aとスラスト受部材48とで軸方向に挟み込まれ、スラスト受部材48、コンプレッサ側インペラ42が、第2の段部43cとナット49とで軸方向に挟み込まれている。
【0038】
前記軸受ケース46の外周面には、図3に示すように、第1の小径部46a、第1の大径部46b、幅広環状溝46c、第2の大径部46d、第2の小径部46eの順に形成されている。第1の大径部46bと第2の大径部46dには、断面三角形状の幅狭環状溝46f、46gがそれぞれ形成されている。
【0039】
前記軸受ケース46の内周面には、第1の大径部46h、第1の段部46j、小径部46k、第2の段部46m、第2の大径部46nの順に形成されている。第1の大径部46hに転がり軸受44の外輪が嵌合され、第1の段部46jに転がり軸受44の外輪の端面が当接している。第2の大径部46nに転がり軸受45の外輪が嵌合され、第2の段部46mに転がり軸受45の外輪の端面が当接している。
【0040】
前記軸受ケース46には、ノズル46pが形成され、ノズル46pの一端は幅狭環状溝46fに開口し、ノズル46pの他端は転がり軸受44の外輪の内周面に向けられている。
【0041】
ターボチャージャ本体40は、図2に示すように、ターボチャージャハウジング50を有し、ターボチャージャハウジング50は、タービンハウジング51、センタハウジング52、コンプレッサハウジング53から構成されている。
【0042】
前記タービンハウジング51には、スクロール室51aと排気ガス用排出口51bが形成され、エンジン10の排気管14からの排気ガスは、スクロール室51a、タービン側インペラ41、排気ガス用排出口51bの順に通過するようになっている。
【0043】
前記センタハウジング52には、保持穴52a、第1の段付き穴52b、第2の段付き穴52cの順に形成されている。保持穴52aには前記軸受ケース46が遊嵌され、第1の段付き穴52bにはスラストプレート53が嵌合され、第2の段付き穴52cにはシールプレート54が嵌合されている。スラストプレート53の内周面とシールプレート54の内周面に前記スラスト受部材48が摺動可能に嵌合され、スラストプレート53の内周面とシールプレート54の内周面とスラスト受部材48の外周面に形成されたテーパ面でスラスト力を受け止めることが出来るようになっている。
【0044】
前記センタハウジング52には、導入ポート52d、横穴52e、縦穴52f、52gが形成され、潤滑油供給ポンプ21からの潤滑油は、導入ポート52d、横穴52e、縦穴52f、軸受ケース46の幅狭環状溝46f、ノズル46pを介して転がり軸受44に導かれるようになっている。また潤滑油供給ポンプ21からの潤滑油は、導入ポート52d、横穴52e、縦穴52g、軸受ケース46の幅狭環状溝46gに導かれるようになっている。幅狭環状溝46fに導かれた潤滑油は、軸受ケース46の第1の小径部46aを経て軸受ケース46のタービン側インペラ41側の端面に導かれる。幅狭環状溝46gに導かれた潤滑油は、軸受ケース46の第2の小径部46eを経て軸受ケース46のコンプレッサ側インペラ42側の端面に導かれる。幅狭環状溝46f、46gに導かれた潤滑油の一部は、軸受ケース46の幅広環状溝46cに導かれる。
【0045】
前記センタハウジング52には、第1の排出通路52h、第2の排出通路52j、第3の排出通路52k、排出ポート52mが形成され、軸受ケース46のタービン側インペラ41側の端面に導かれた潤滑油は、第1の排出通路52hを経て排出ポート52mへ排出されるようになっている。軸受ケース46のコンプレッサ側インペラ42側の端面に導かれた潤滑油は、第3の排出通路52kを経て排出ポート52mへ排出されるようになっている。軸受ケース46の幅広環状溝46cに導かれた潤滑油は、第2の排出通路52jを経て排出ポート52mへ排出されるようになっている。
【0046】
前記コンプレッサハウジング53には、スクロール室53aと空気用吸入口53bが形成され、図略のエアークリーナからの空気は、空気用吸入口53b、コンプレッサ側インペラ42、スクロール室53aの順に通過し、エンジン10の吸気管13へ送給されるようになっている。
【0047】
次に、上述した実施形態の構成にもとづいて、本実施形態の動作について説明する。
エンジン10の駆動中は、シリンダ11から排出された排気ガスが、排気管14、スクロール室51a、タービン側インペラ41、排気ガス用排出口51bの順に通過し、タービン側インペラ41が回転する。タービン側インペラ41の回転は、回転軸43を介してコンプレッサ側インペラ42に伝えられ、空気用吸入口53bから吸引された空気は、コンプレッサ側インペラ42で圧縮され、スクロール室53a、圧縮空気供給通路31、第1のサージタンク70、吸気管13を経てシリンダ11に供給される。
【0048】
第1のサージタンク70の圧力は、フィードバック通路32を介して弁61に作用し、この圧力が高まると、弁61がバネ63に打ち勝って作動し、余剰圧力をオーバフロー通路81へ逃がす。余剰圧力は、第2のサージタンク82と潤滑油貯留兼圧送装置83の圧縮空気貯留空間83bに貯えられる。エンジン10の駆動によって、潤滑油供給ポンプ21も駆動され、オイルパン22から汲み上げられた潤滑油は、ストレーナ23、潤滑油供給ポンプ21、オイルエレメント25を経てエンジン10の各所24へ送給される。また、ターボチャージャ本体40の転がり軸受43、44にも供給される。
エンジン10の駆動時は、電磁方向切換弁84は停止位置に切り替わっており、潤滑油貯留兼圧送装置83の潤滑油貯留空間83c内の潤滑油は、ベンチェリー管85へ供給されない。第2のサージタンク82内の圧縮空気は、ベンチェリー管85へ供給されない。すなわち、ミスト潤滑油供給装置80からミスト状の潤滑油が、ターボチャージャ本体40の転がり軸受43、44に供給されない。
【0049】
ところが、運転手がイグニッションキースイッチ90を回して、E端子をOFF端子に接続すると、エンジン10が停止するが、タービン側インペラ41、回転軸43、コンプレッサ側インペラ42は、惰性で回転する。電磁方向切換弁84は供給位置に切り替わり、潤滑油貯留兼圧送装置83の潤滑油貯留空間83c内の潤滑油は、ベンチェリー管85へ供給され、第2のサージタンク82内の圧縮空気は、ベンチェリー管85へ供給されて、ベンチェリー管85からミスト状の潤滑油が発生し、ターボチャージャ本体40の転がり軸受43、44に供給される。転がり軸受43、44の内輪と玉は回転しながら、ミスト状の潤滑油によって、きれいに洗い流される。液状潤滑油供給装置20からの潤滑油に替えて、ミスト潤滑油供給装置80からのミスト状の潤滑油が、転がり軸受43、44に付着する。第2のサージタンク82と潤滑油貯留兼圧送装置83の圧縮空気貯留空間83bに貯えられた圧縮空気が無くなると、ミスト状の潤滑油が転がり軸受43、44に送給されなくなる。
【0050】
エンジン10が停止すると、大気温によってターボチャージャ本体40が冷やされ、ターボチャージャ本体40の温度が徐々に低下する。エンジン10の駆動中は、排気ガスによって、タービン側インペラ41、タービンハウジング51が特に加熱されるので、軸受ケース46に比べて回転軸43、間座47の方が温度変化量が大きい。この結果、エンジン10が連続駆動し、ターボチャージャ本体40が十分加熱された状態において、転がり軸受43、44の隙間が十分確保できるように設定されているので、ターボチャージャ本体40が冷えた状態において、転がり軸受43、44の隙間が小さい。
【0051】
ターボチャージャ本体40が冷えた状態から運転手がイグニッションキースイッチ90を回してエンジン10が駆動されると、シリンダ11から排気ガスが排出されてタービン側インペラ41、回転軸43、プレッサ側インペラ42が回転し、転がり軸受43、44の内輪と玉が回転するが、大きい異物が入っていない潤滑油あるいは異物が入っていないきれいな潤滑油が軸受に付着しているので、転がり軸受43、44は異物によって損傷する恐れがない。ターボチャージャ本体40は、排気ガスによって、数分で十分加熱された温度に到達し、転がり軸受43、44に十分な隙間が確保されるので、この状態で液状潤滑油供給装置20から潤滑油が供給されても、転がり軸受43、44は異物によって損傷する恐れがない。
【0052】
本発明はこうした実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得ることは勿論である。
【0053】
上述した実施形態は、潤滑油貯留兼圧送装置83の潤滑油貯留空間83cへ異物を含まないきれいな潤滑油を、自動車の点検時に定期的に補充することを考えた。ターボチャージャ本体40の排出ポート52mとオイルパン22を回収通路93で繋ぎ、オイルエレメント25と潤滑油貯留兼圧送装置83の潤滑油貯留空間83cを連絡通路94で繋ぎ、連絡通路94にフィルタ95を設け、潤滑油貯留兼圧送装置83の潤滑油貯留空間83cへ液状潤滑油供給装置20からの潤滑油を補充するようにしても良い。この場合、フィルタ95は、ターボチャージャ本体40が十分に冷えた状態における転がり軸受43、44の小さい隙間より若干小さい異物を補足できるメッシュを持ったものが使用される。オイルエレメント25は、ターボチャージャ本体40が十分に加熱された状態における転がり軸受43、44の大きい隙間より若干小さい異物を補足できるメッシュを持ったものが使用される。
【0054】
上述した実施形態は、エンジン11の停止時にミスト潤滑油供給装置80からミスト状の潤滑油を転がり軸受43、44に供給する例について述べたが、第2のサージタンク82とベンチェリー管85を無くし、潤滑油貯留兼圧送装置83の潤滑油貯留空間83cから液状の潤滑油を転がり軸受43、44に供給しても良い。
第2のサージタンク82とベンチェリー管85を無くだけでなく、さらに、潤滑油貯留兼圧送装置83の圧縮空気貯留空間83bを無くして、潤滑油貯留兼圧送装置83の潤滑油貯留空間83cを単なる潤滑油タンクとしも良い。エンジン11の停止時に前記潤滑油タンクの潤滑油を自重により転がり軸受43、44に供給する。潤滑油タンクの潤滑油を自重で送給するためには、潤滑油タンクをターボチャージャ本体40よりも高い位置に設置する。
【0055】
さらに、電磁方向切換弁84に変えて電動モータ付き潤滑油供給ポンプを使用し、エンジン11の停止時に潤滑油タンクの潤滑油を電動モータ付き潤滑油供給ポンプで転がり軸受43、44に供給しても良い。
【0056】
上述した実施形態は、回転軸43の回転支持にアンギュラ玉軸受タイプの転がり軸受43、44を使用した。このものは、玉が転動できるように内輪の転動面と外輪の転動面が断面円弧状に形成されている。このため、外輪に対し内輪を軸方向に動かすと、外輪と玉間並びに内輪と玉間の隙間が変化するので、本発明は隙間に応じて適切な潤滑油を供給するようにした。他の実施形態として、アンギュラ玉軸受タイプの転がり軸受43、44に変えて、ラジアル玉軸受タイプの転がり軸受にも適用しても良い。
【符号の説明】
【0057】
20:液状潤滑油供給装置(潤滑油供給装置)、30:ターボチャージャ、41:タービン側インペラ、42:コンプレッサ側インペラ、43:回転軸、44:転がり軸受、45:転がり軸受、60:ブローオフバルブ、80:ミスト潤滑油供給装置(油送給装置)、82:第2のサージタンク(エアタンク)、83:潤滑油貯留兼圧送装置、83c:潤滑油貯留空間(潤滑油タンク)、84:電磁方向切換弁(切換弁)、85:ベンチェリー管(ミスト装置)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの排気ガスによって回転駆動されるタービン側インペラと、前記エンジンの吸気側へ圧縮空気を送る及びコンプレッサ側インペラと、前記タービン側インペラとコンプレッサ側インペラを連結する回転軸と、前記回転軸を回転可能に支持する軸受と、前記エンジン各所へ潤滑油を供給するとともに前記軸受へ潤滑油を供給する潤滑油供給装置と、前記エンジンの吸気側へ供給される圧縮空気の余剰圧力を逃がすブローオフバルブとを備えた潤滑油供給装置付きターボチャージャにおいて、
前記エンジン各所を潤滑する潤滑油とは別の場所に潤滑油を貯留し、前記エンジンを停止させたときに前記別の場所に貯留した潤滑油を前記軸受に供給する油送給装置を備えたことを特徴とする潤滑油供給装置付きターボチャージャ。
【請求項2】
前記油送給装置は、前記エンジン各所を潤滑する潤滑油とは別の場所に潤滑油を貯留する潤滑油タンクと、前記軸受への潤滑油の供給停止切換可能な切換装置とを備えたことを特徴とする請求項1に記載の潤滑油供給装置付きターボチャージャ。
【請求項3】
前記油送給装置は、前記ブローオフバルブからの余剰圧力を貯留するエアタンクと、エンジン各所を潤滑する潤滑油とは別の場所に潤滑油を貯留する潤滑油タンクと、前記潤滑油タンクからの潤滑油を、前記エアタンクからの圧縮空気によってミスト状にするミスト装置と、前記軸受へのミスト状の潤滑油の供給停止切換可能な切換装置とを備えたことを特徴とする請求項1に記載の潤滑油供給装置付きターボチャージャ。
【請求項4】
前記油送給装置は、前記エンジン各所を潤滑する潤滑油とは別の場所に潤滑油を貯留する潤滑油貯留空間を有し、前記ブローオフバルブからの余剰圧力をピストンを介して潤滑油貯留空間に加えることによって潤滑油を圧送するようにした潤滑油貯留兼圧送装置と、前記軸受への潤滑油の供給停止切換可能な切換装置とを備えたことを特徴とする請求項1に記載の潤滑油供給装置付きターボチャージャ。
【請求項5】
前記油送給装置は、前記エンジン各所を潤滑する潤滑油とは別の場所に潤滑油を貯留する潤滑油貯留空間を有し、前記ブローオフバルブからの余剰圧力をピストンを介して潤滑油貯留空間に加えることによって潤滑油を圧送するようにした潤滑油貯留兼圧送装置と、前記ブローオフバルブからの余剰圧力を貯留するエアタンクと、前記潤滑油貯留兼圧送装置からの潤滑油を、前記エアタンクからの圧縮空気によってミスト状にするミスト装置と、前記軸受へのミスト状の潤滑油の供給停止切換可能な切換装置とを備えたことを特徴とする請求項1に記載の潤滑油供給装置付きターボチャージャ。
【請求項6】
前記切換装置は、弁の作動により、前記軸受への連通、遮断のいずれかに切換可能な切換弁であることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の潤滑油供給装置付きターボチャージャ。
【請求項7】
前記切換装置は、電動モータの作動により、前記軸受への潤滑油の供給、停止のいずれかに切換可能な電動モータ付き潤滑油供給ポンプであることを特徴とする請求項1、2のいずれか一項に記載の潤滑油供給装置付きターボチャージャ。
【請求項8】
前記潤滑油供給装置は、潤滑油をろ過するオイルエレメントを有し、このオイルエレメントよりも細かい異物を補足できるフィルターを前記油送給装置に設け、前記潤滑油供給装置の潤滑油を前記油送給装置へ供給する連絡通路を設けたことを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の潤滑油供給装置付きターボチャージャ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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