説明

潤滑油組成物及び低硫黄舶用重質燃料油での使用方法

【課題】低硫黄舶用重質燃料油を用いて運転されるトランクピストン・エンジンを滑らかに運転するために有効な潤滑油組成物および方法を提供する。
【解決手段】主要量のI種基油及び/又はII種基油、および少なくとも90%のアルキル基がC20又はそれ以上であるアルキル置換ヒドロキシ安息香酸の塩を含む清浄剤を含有する潤滑油組成物、並びにその潤滑油組成物を用いてトランクピストン・エンジンを潤滑状態で運転する方法、トランクピストン・エンジン用潤滑油組成物の使用方法、およびその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑油組成物及びトランクピストン・エンジンを滑らかに運転する方法に関するものであり、特に、低硫黄舶用重質燃料油を燃料とするトランクピストン・エンジンを滑らかに運転するための潤滑剤組成物および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トランクピストン・エンジンの全域を潤滑状態にするためのトランクピストン用潤滑油組成物に対する要求が複雑であることを考慮して、これまで従来の高硫黄重油でうまく機能する潤滑油組成物を開発しようとして多大な努力が払われてきた。
【0003】
しかし、高硫黄重油の使用に関する健康及び環境上の関心が増すにつれて、トランクピストン・エンジンでは低硫黄舶用重質燃料油の使用が標準となり、ひいてはそれが義務付けられる可能性が高まっている。
【0004】
従来の重油やディーゼル燃料で運転されるトランクピストン・エンジンでは、これまで使用されている従来の潤滑油組成物は、低硫黄舶用重質燃料油ともある程度までは機能するかもしれないが、おそらくはそのような用い方には不向きであり、酸性燃焼ガスを中和したり、エンジンの清浄度を維持したり、粘度増加を抑えたりするのに最適な性能を保証しえない。
【0005】
従って、特定の硫黄分を含む燃料によるエンジンの運転に使用できる潤滑油組成物を製造しようとする試みがなされている。例えば特許文献1は、清浄剤複合物を含むシリンダ用潤滑油組成物を用いて、硫黄分が1.5%未満の燃料で運転されるクロスヘッド舶用ディーゼルエンジンを潤滑にする方法を開示している。また、特許文献2は、過塩基性金属清浄剤を含む単一のシリンダ用潤滑剤でエンジンを潤滑にすることにより、舶用エンジンを運転する方法が開示されている。さらに、特許文献3は、硫黄分の様々な燃料で運転される舶用四サイクルエンジンを運転する方法であって、清浄剤を含む潤滑油組成物を用いてエンジンを潤滑にすることを含む方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】欧州特許第1486556号明細書
【特許文献2】欧州特許第1790710号明細書
【特許文献3】国際公開第2006064138号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、今だなお、低硫黄舶用重質燃料油で使用できて最適な性能を発揮することのできる改善された潤滑油組成物の要望がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一つの態様では、本発明は、主要量のI種基油及び/又はII種基油、および少なくとも90%のアルキル基がC20又はそれ以上である、少なくとも一種のアルキル置換ヒドロキシ安息香酸の塩を含むトランクピストン・エンジン用として適した潤滑油組成物であって、中又は高石鹸分配合物である潤滑油組成物に関する。
【0009】
別の態様では、本発明は、トランクピストン・エンジンを運転する方法であって、次の工程を含む方法に関する:(a)エンジンに低硫黄舶用重質燃料油を供給する工程、そして(b)少なくとも90%のアルキル基がC20又はそれ以上であるアルキル置換ヒドロキシ安息香酸の塩を含む少なくとも一種の清浄剤を含む潤滑油組成物を用いて、エンジンを潤滑状態にする工程。
【0010】
別の態様では、本発明は、低硫黄舶用重質燃料油で運転されるトランクピストン・エンジンを潤滑状態にする方法であって、少なくとも90%のアルキル基がC20又はそれ以上であるアルキル置換ヒドロキシ安息香酸の塩を含む少なくとも一種の清浄剤を含む潤滑油組成物を用いて、トランクピストン・エンジンを潤滑にすることを含む方法に関する。
【0011】
別の態様では、本発明は、低硫黄舶用重質燃料油で運転されるトランクピストン・エンジン内の堆積物形成を最小限にする方法であって、少なくとも90%のアルキル基がC20又はそれ以上であるアルキル置換ヒドロキシ安息香酸の塩を含む少なくとも一種の清浄剤を含有する潤滑油組成物を用いて、トランクピストン・エンジンを潤滑状態にすることを含む方法に関する。
【0012】
上記本発明の態様を含む幾つかの本発明の態様について、以下に詳細に記載する。一般に、これらの態様の各々は特に断らない限り、様々な組合せでも特定の組合せでも用いることができ、また他の態様と併用することもできる。
【発明の効果】
【0013】
本明細書に記載する潤滑油組成物、トランクピストン・エンジン用潤滑油組成物およびトランクピストン・エンジン油(TPEO)(これらをまとめて「潤滑油組成物」という)は、任意のトランクピストン・エンジン、舶用トランクピストン・エンジンまたは舶用圧縮着火(ディーゼル)エンジン、例えば四サイクル・トランクピストン・エンジンまたは舶用四サイクル・ディーゼルエンジンを、潤滑にするために使用することができる。
【0014】
驚くべきことには潤滑油組成物が、低硫黄舶用重質燃料油と混ざり合ったり一緒になったりしたときに、粘度を安定化させ、黒スラッジの生成を最小限に抑え、堆積物の生成を減少させ、堆積を低減させ、堆積物を最小限に抑え、酸化熱ひずみを安定化し、熱を安定化し、高温清浄性を安定化し、および/またはそれらが組み合わせて実現することを発見した。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本明細書に開示する内容の理解を容易にするために、本明細書で使用する多数の用語、略語または他の省略表現について、以下に定義する。定義されない用語、略語または省略表現は如何なるものであれ、本出願の開陳と同時代の当該分野の熟練者が使用している通常の意味を有すると解釈する。
【0016】
「主要量」の潤滑粘度の油は、潤滑油組成物中の油の濃度が少なくとも約40質量%であることを意味する。態様によっては「主要量」の潤滑粘度の油は、潤滑油組成物中の油の濃度が少なくとも約50質量%、少なくとも約60質量%、少なくとも約70質量%、少なくとも約80質量%、又は少なくとも約90質量%であることを意味する。
【0017】
「低硫黄」燃料は、燃料の全質量に対して硫黄が1.5質量%以下の燃料、例えば硫黄が1.4質量%以下、1.3質量%以下、1.2質量%以下、1.0質量%以下、0.8質量%以下、0.6質量%以下、又は0.4質量%以下の燃料を意味する。
【0018】
「高硫黄」燃料は、燃料の全質量に対して硫黄が1.5質量%より多い燃料を意味する。
【0019】
「舶用重質燃料油」は、国際標準化機構(ISO)(10370)で規定されているように、残留炭素分が(燃料の全質量に対して)2.50質量%より多く、50℃粘度が14.0cStより高く、かつ残留微小炭素分が(燃料の全質量に対して)少なくとも2.5質量%(例えば少なくとも5質量%、又は少なくとも8質量%)である、舶用トランクピストン・エンジン内で燃焼可能な物質を意味し、例えば、国際標準化機構の仕様書ISO8217:2005、「石油製品−燃料(Fクラス)−舶用燃料仕様書」に規定された舶用重質燃料油があり、その内容も全て本明細書の記載とする。
【0020】
「従来のサリシレート系清浄剤」とは、少なくとも50容量%のアルキル基がC14−C18又はそれ未満であるアルキル置換ヒドロキシ芳香族清浄剤を意味する。
【0021】
以下の記述において開示する数値は全て、それに関連して「約」又は「およそ」を用いているか否かにかかわらず、おおよその値である。数値は1パーセント、2パーセント、5パーセント、又はときには10乃至20パーセントも変わることがある。下限RLと上限RUで数値範囲を開示するときは常に、該範囲内の如何なる数値も明確に開示している。特に、次の範囲内の数値を明確に開示している:R=RL+k*(RU−RL)、ただし、kは1パーセント乃至100パーセントの範囲で1パーセントずつ増加する変数である、すなわち、kは1パーセント、2パーセント、3パーセント、4パーセント、5パーセント、・・・50パーセント、51パーセント、52パーセント、・・・95パーセント、96パーセント、97パーセント、98パーセント、99パーセント、又は100パーセントである。さらに、上に定義したように二つの数値Rで規定した如何なる数値範囲も明確に開示している。
【0022】
本明細書に記載する潤滑油組成物、トランクピストン・エンジン用潤滑油組成物およびトランクピストン・エンジン油(TPEO)(これらをまとめて「潤滑油組成物」という)は、任意のトランクピストン・エンジン、舶用トランクピストン・エンジンまたは舶用圧縮着火(ディーゼル)エンジン、例えば四サイクル・トランクピストン・エンジンまたは舶用四サイクル・ディーゼルエンジンを、潤滑にするために使用することができる。
【0023】
驚くべきことには潤滑油組成物が、低硫黄舶用重質燃料油と混ざり合ったり一緒になったりしたときに、粘度を安定化し、黒スラッジを最小限に抑え、堆積物の生成を少なくし、堆積を低減させ、堆積物を最小限に抑え、酸化熱ひずみを安定化し、熱を安定化し、高温清浄性を安定化し、および/またはそれらが組み合わせて実現することを発見した。この点に関して潤滑油組成物は、低硫黄舶用重質燃料油と混合又は併用可能であり、例えばトランクピストン・エンジン又は舶用トランクピストン・エンジン(ピストンの冷却通路、ピストンリング・グルーブ域、燃焼室または他の冷却領域など)の種々の温度領域(例えば約300℃以下、約280℃以下、約260℃以下、約240℃以下、約220℃以下、約200℃以下、約180℃以下、約160℃以下、約140℃以下、約100℃以下、約80℃以下、約60℃以下、又は約40℃以下の温度の領域)において、黒スラッジ生成が少ない、最小限であるもしくは無い混合物又は系を形成する。ある好ましい態様では該潤滑油組成物は、従来のサリシレート系清浄剤以外の清浄剤を含まない潤滑油組成物に比べて、低硫黄舶用重質燃料油を使用及び/又は含有して運転されるエンジン内での黒スラッジ(または黒スラッジ堆積物)生成を、少なくとも約5%、少なくとも約10%以上、少なくとも約25%以上、少なくとも約50%以上、少なくとも約100%以上、少なくとも約200%以上、少なくとも約300%以上、又は少なくとも約500%以上も低減する。別の好ましい態様では潤滑油組成物は、従来のサリシレート系清浄剤以外の清浄剤を含まない潤滑油組成物に比べて、(例えばエンジン内で)低硫黄舶用重質燃料油と混ざり合ったときに、黒スラッジの生成を約5%少なく、約10%少なく、約25%少なく、約50%少なく、約100%少なく、約200%少なく、約300%少なく、又は約500%も少なくする。黒スラッジ生成の低減量は、任意の好適な方法で測定することができるが、好ましくは、(試験法におけるような)黒スラッジ堆積物(BSD)試験により測定できる。
【0024】
別の態様では好ましい潤滑油組成物は、粘度の安定したトランクピストン・エンジン用潤滑油組成物である。好ましい態様では該潤滑油組成物は、従来のサリシレート系清浄剤以外の清浄剤を含まない潤滑油組成物に比べて、酸化に起因する粘度増加が少なくとも約5%、少なくとも約10%低い、少なくとも約25%、少なくとも約50%、少なくとも約100%、少なくとも約200%、少なくとも約300%、又は少なくとも約500%も低い。別の好ましい態様では潤滑油組成物は、従来のサリシレート系清浄剤以外の清浄剤を含まない潤滑油組成物に比べて、酸化に基づく粘度増加、酸化熱ひずみまたはそれらの組合せに対して少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約25%、少なくとも約50%、少なくとも約100%、少なくとも約200%、少なくとも約300%、又は少なくとも約500%も安定である又は安定化する。酸化に基づく粘度増加、酸化熱ひずみおよびそれらの組合せに対する粘度の安定化及び安定性は、任意の好適な方法で測定することができ、例えば(試験法に記載するような)改定英国石油協会48(MIP−48)試験により測定できる。
【0025】
潤滑油組成物の全塩基価(TBN)は、トランクピストン・エンジンに使用するのに適していれば何れであってもよい。例えば、態様によっては潤滑油組成物のTBNは、少なくとも約12、少なくとも約16、少なくとも約20、少なくとも約25、少なくとも約30、少なくとも約35、少なくとも約40、少なくとも約50、又は少なくとも約60である。別の態様では潤滑油組成物のTBNは、約100未満、約90未満、約80未満、約70未満、約60未満、約50未満、又は約40未満である。別の態様では潤滑油組成物のTBNは、約12乃至約70の範囲、例えば約20乃至約70の範囲、約12乃至約60の範囲、約20乃至約60の範囲、約12乃至約50の範囲、約20乃至約50の範囲、約30乃至約60の範囲、約30乃至約50の範囲にある。潤滑油組成物のTBNは、任意の好適な方法により、例えばASTM D2896により測定することができる。
【0026】
潤滑油組成物の粘度は、トランクピストン・エンジンに使用するのに適していれば何れであってもよい。好ましい一態様では潤滑油組成物の粘度は、100℃で少なくとも約5、少なくとも約10、少なくとも約15、又は少なくとも約20cStである。別の態様では潤滑油組成物の粘度は、100℃で約5.6−21.9cSt、例えば約5.6−9.3、約9.3−12.5、約12.5−16.3、又は約16.3−21.9cStである。潤滑油組成物の粘度は、任意の好適な方法、例えばASTM D2270の方法を用いて測定することができる。
【0027】
本明細書に開示する潤滑油組成物は、当該分野の熟練者に知られている任意の潤滑油製造方法によって製造することができる。ある態様では、一種以上の潤滑粘度の油を一種以上の清浄剤とブレンド又は混合することができる。任意に、一種以上の清浄剤の外に一種以上の別の添加剤(例えば一種以上の分散添加剤)を加えることができる。一種以上の清浄剤と任意の添加剤は、一種以上の潤滑粘度の油に別々に加えてもよいし、あるいは同時に加えてもよい。ある態様では、一種以上の清浄剤と任意の添加剤(例えば分散添加剤)を一種以上の潤滑粘度の油に別々に一回以上の添加で加えるが、添加は任意の順序であってよい。別の態様では、一種以上の清浄剤と任意の添加剤(例えば分散添加剤)を一種以上の潤滑粘度の油に同時に加えるが、任意に添加剤濃縮物の形であってよい。ある態様では、混合物を約25℃乃至約200℃、約50℃乃至約150℃、又は約75℃乃至約125℃の温度に加熱することによって、一種以上の清浄剤でも如何なる固体添加剤でも、一種以上の潤滑粘度の油に可溶化させることができる。
【0028】
成分をブレンド、混合又は可溶化するのに任意の好適な混合装置または分散装置を用いることができる。ブレンダ、撹拌器、分散機、ミキサ(遊星形ミキサおよび二段遊星形ミキサなど)、ホモジナイザ(ガウリン・ホモジナイザおよびラニー・ホモジナイザなど)、微粉砕機(コロイドミル、ボールミルおよびサンドミルなど)、もしくは当該分野で知られている他の任意の混合又は分散装置を用いて、ブレンド、混合又は可溶化を行うことができる。
【0029】
また、本明細書に記載する潤滑油組成物は、任意の好適な潤滑油組成物の使用方法に従って使用することもできる。一つの好ましい態様では、低硫黄舶用重質燃料油で運転されるトランクピストン・エンジンを運転する方法であって、本明細書に記載する潤滑油組成物の何れかを用いてトランクピストン・エンジンを潤滑にすることを含む方法を提供する。一つの好ましい態様では、トランクピストン・エンジンを運転する方法であって、トランクピストン・エンジンに低硫黄舶用重質燃料油を供給し、そして本明細書に記載する潤滑油組成物の何れかを用いてトランクピストン・エンジンを潤滑にすることを含む方法を提供する。別の態様では、トランクピストン・エンジンに使用するための潤滑油組成物の粘度安定化、黒スラッジ最小化、少ない堆積物生成、堆積低減、堆積物最小化、酸化熱ひずみ安定化、熱安定化、高温清浄性安定化特性又は性状を増加又は増大させる方法を提供する。別の好ましい態様では、低硫黄舶用重質燃料油で運転されるトランクピストン・エンジン内の堆積物(例えば黒スラッジ)の生成を低減させる方法であって、記載する潤滑油組成物の何れかを用いてエンジンを潤滑にすることを含む方法を提供する。これらの方法の態様によっては、(例えば低硫黄舶用重質燃料油を使用するエンジンの使用又は作動過程で)、例えばエンジン又はトランクピストン・エンジンの種々の温度領域(ピストンの冷却通路または他の冷却領域など)で、例えば約300℃以下、約280℃以下、約260℃以下、約240℃以下、約220℃以下、約200℃以下、約180℃以下、約160℃以下、約140℃以下、約100℃以下、約80℃以下、約60℃以下、又は約40℃以下の温度の領域で、該エンジン又はトランクピストン・エンジン内の黒スラッジ生成(アスファルテン又は他の堆積など)が最小限であるか、あるいは少ないか、もしくは無いことが好ましい。
【0030】
上記の方法の別の好ましい態様では、(例えば低硫黄舶用重質燃料油を使用するエンジン又はトランクピストン・エンジンの使用又は作動過程で)、(例えばエンジン又はトランクピストン・エンジンの低温領域で)、エンジン又はトランクピストン・エンジン内の黒スラッジ生成が、従来のサリシレート系清浄剤以外の清浄剤を含まない潤滑油組成物に比べて少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、又は少なくとも約90%も低減される。
【0031】
[潤滑油組成物の石鹸分]
潤滑油組成物は、任意の好適な石鹸分、例えば低い石鹸分でも、中位の石鹸分でもあるいは高い石鹸分でも含有することができる。一態様では、例えば潤滑油組成物は中石鹸分または高石鹸分を含んでいる。別の態様では潤滑油組成物は、低石鹸分または中石鹸分を含んでいる。別の態様では潤滑油組成物は低石鹸分を含んでいる。別の態様では潤滑油組成物は中石鹸分を含んでいる。また別の態様では潤滑油組成物は高石鹸分を含んでいる。
【0032】
潤滑油組成物の「石鹸分」は、組成物中の一種以上の清浄剤によって配合物に与えられる界面活性剤の濃度を意味する。「低石鹸分」配合物は、潤滑油組成物1kg当り界面活性剤150ミリモル未満(すなわち、界面活性剤<150ミリモル/kg)を含有する潤滑油組成物を意味する。「中石鹸分」配合物は、潤滑油組成物1kg当り界面活性剤を150ミリモルから190ミリモルの間(すなわち、界面活性剤を150から190ミリモル/kgの間)で含有する潤滑油組成物を意味する。「高石鹸分」配合物は、潤滑油組成物1kg当り界面活性剤を190ミリモルより多く(すなわち、界面活性剤>190ミリモル/kg)含有する潤滑油組成物を意味する。
【0033】
清浄剤に関して更に詳しく記載しているように、清浄剤(群)によって潤滑油組成物に与えられる界面活性剤(群)は、如何なる界面活性剤(群)であってもよい。
【0034】
[潤滑粘度の油]
本発明の潤滑油組成物は、任意の好適な潤滑粘度の油、例えば米国石油協会(API)公報1509、第14版、1996年12月(すなわち、客車用モーター油及びディーゼルエンジン油のためのAPI基油互換性ガイドライン)で規定された、石油から誘導された如何なる潤滑粘度の基油でも含有することができ、その内容も全て参照内容として本明細書の記載とする。好ましい一態様では潤滑粘度の油は、I種基油、II種基油、III種基油、IV種基油、V種基油またはそれらの組合せ又は混合物である。これに関して油は、分子量や粘度の異なる二種以上の基油の如何なるブレンドであってもよく、ブレンドを任意の好適な方法で処理して、トランクピストン・エンジンに使用するのに適した性状(例えば、前述した粘度値およびTBN値)を有する基油を生成させることができる。I種、II種及びIII種基油は鉱油であり、各々特定の範囲の飽和度、硫黄分および粘度指数値を有する。IV種基油はポリアルファオレフィン類(PAO)である。V種基油には、I種、II種、III種又はIV種に含まれなかったその他全ての基油が含まれる。下記第1表に、I種、II種、III種、IV種及びV種基油の飽和度レベル、硫黄レベルおよび粘度指数を記載する。
【0035】
第 1 表
─────────────────────────────────────
種 飽和度(ASTM 硫黄分(ASTM 粘度指数(ASTM D
D2007で決定) D2270で決定) 4294、ASTM D 4297又はASTM
D3120で決定)
─────────────────────────────────────
I 飽和度90%未満 硫黄0.03%以上 80以上、120未満
II 飽和度90%以上 硫黄0.03%以下 80以上、120未満
III 飽和度90%以上 硫黄0.03%以下 120以上
IV ポリアルファオレフィン類(PAO)として規定
V I、II、III又はIV種に含まれないその他全ての基材油
─────────────────────────────────────
【0036】
好ましい一態様では、基油は、II種基油、または二種以上の異なるII種基油のブレンド物である。別の好ましい態様では基油は、I種基油、または二種以上の異なるI種基油のブレンド物である。好適なI種基油としては例えば、減圧蒸留カラムからの任意の軽質塔上留油およびより重質な側留油が挙げられ、例えば任意の軽質ニュートラル、中質ニュートラル及び重質ニュートラル基材油などがある。また、石油誘導基油としては残さ油または塔底油が挙げられ、例えばブライトストックなどがある。ブライトストックは、従来より残さ油または塔底油から生成し、高度に精製され脱ろうされた高粘度の基油である。ブライトストックの動粘度は、40℃で約180cStより高く、又は40℃で約250cStよりも高く、又は40℃で約500乃至約1100cStの範囲にもある。
【0037】
[清浄剤]
潤滑油組成物は、一種以上(例えば二種以上、三種以上、又は四種以上でも)の任意の好適な清浄剤、例えば任意の好適なカルボキシレート含有清浄剤を含有することができる。好ましい一態様では一種以上の清浄剤は、過塩基性カルボキシレート含有清浄剤、例えば過塩基性金属カルボキシレート含有清浄剤またはその組合せ又は混合物からなる。過塩基性清浄剤は、塩基原料(例えば石灰)や酸性過塩基化化合物(例えば二酸化炭素)の添加などの方法によって、添加剤のTBNが高くされた任意の清浄剤であってよい。
【0038】
態様によっては、清浄剤に含まれているアルキル基(例えば、カルボキシレート含有清浄剤又はアルキル置換ヒドロキシ安息香酸のアルキル基)のうちの少なくとも75%(例えば少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は少なくとも99%)は、C20又はそれ以上(例えばC20−C40、C20−C35、C20−C30、又はC20−C25でも)であることが好ましい。ある態様では、清浄剤に含まれているアルキル基のうちの少なくとも75%(例えば少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は少なくとも99%)が、C20又はそれ以上(例えばC20−C40、C20−C35、C20−C30、又はC20−C25でも)であり、清浄剤に含まれているアルキル基の残り(例えば25%以下、約20%以下、15%以下、10%以下、5%以下、又は1%以下でも)が、C10又はそれ以上(例えばC10−C20、C12−C20、又はC15−C20でも)である。好ましい一態様では清浄剤は、アルキル基がC20以上のノルマルアルファ−オレフィンを少なくとも90%含有するノルマルアルファ−オレフィンの残基である、アルキル置換ヒドロキシ安息香酸から誘導されたアルキル置換ヒドロキシ安息香酸の塩を含む。
【0039】
別の好ましい態様では清浄剤は、カルボキシレート塩、例えばアルキル置換ヒドロキシ安息香酸の塩(過塩基性塩など)、またはアルキル置換ヒドロキシ安息香酸のアルカリ土類塩(カルシウムまたはマグネシウムなど)を含む。別の好ましい態様では一種以上の清浄剤は、アルキル置換ヒドロキシ安息香酸とアルキル置換フェノールとの混合物の過塩基性塩(例えば、過塩基性アルカリ土類金属塩)を含む。別の好ましい態様では清浄剤は、アルキル置換ヒドロキシ安息香酸の過塩基性塩および/またはアルキル置換フェノールの過塩基性塩を、アルキル置換ヒドロキシ安息香酸およびアルキル置換フェノールのうちの一種以上の非過塩基性塩と組み合わせて又は混合して含む。別の好ましい態様では潤滑油組成物は、アルキル置換ヒドロキシ安息香酸の過塩基性塩を含む一種以上の清浄剤を含有し、(清浄剤の塩以外の)他の過塩基性塩を含有しない。これに関して清浄剤は、カルボキシレート塩(またはアルキル置換ヒドロキシ安息香酸の塩)に会合した陰イオン(有機陰イオンなど)を任意の好適な濃度で含むことができる。
【0040】
別の好ましい態様では本発明の潤滑油組成物は、下記の物質を含むカルボキシレート含有清浄剤を含有している:
(a)例えば米国特許出願公開第2004/0235686号明細書の実施例1に記載されている方法に従って製造された、多重界面活性で未硫化、非炭酸化、非過塩基性のカルボキシレート含有添加剤、ただし、その内容も全て参照内容として本明細書の記載とする、および/または
(b)例えば米国特許出願公開第2007/0027043号明細書の実施例1に記載されている方法に従って製造された、過塩基性カルシウムアルキルヒドロキシベンゾエート、ただし、その内容も全て参照内容として本明細書の記載とする。
【0041】
好適な金属清浄剤の限定的ではない例としては、硫化又は未硫化アルキル又はアルケニルフェネート類、アルキル又はアルケニル芳香族スルホネート類、ホウ酸化スルホネート類、多ヒドロキシアルキル又はアルケニル芳香族化合物の硫化又は未硫化金属塩類、アルキル又はアルケニルヒドロキシ芳香族スルホネート類、硫化又は未硫化アルキル又はアルケニルナフテネート類、アルカノール酸の金属塩類、アルキル又はアルケニル多酸の金属塩類、およびそれらの化学的及び物理的混合物を挙げることができる。好適な金属清浄剤の他の限定的ではない例としては、金属スルホネート類、フェネート類、サリシレート類、ホスホネート類、チオホスホネート類、およびそれらの組合せが挙げられる。金属は、スルホネート、フェネート、サリシレート又はホスホネート清浄剤を製造するのに適した任意の金属であってよい。好適な金属の限定的ではない例としては、アルカリ金属、アルカリ金属および遷移金属が挙げられる。ある態様では金属は、Ca、Mg、Ba、K、NaまたはLi等である。
【0042】
好ましい態様では潤滑油組成物は、アルキル置換ヒドロキシ安息香酸の塩を含まない清浄剤を含有しない。別の好ましい態様では潤滑油組成物は、スルホン酸の塩を含有しない。別の好ましい態様では潤滑油組成物は、アルキル置換ヒドロキシ安息香酸の塩を含まないアルキルフェノール清浄剤を含有しない。別の好ましい態様では潤滑油組成物は、サリシレート系清浄剤を含有しない。別の好ましい態様では潤滑油組成物の清浄剤は、アルキルフェネートを含まない。
【0043】
上述したように清浄剤は、任意の好適な会合性界面活性剤又は清浄剤、例えば任意のアルキルフェノール界面活性剤、任意のアルキル芳香族界面活性剤、および/または任意のアルキルヒドロキシ芳香族界面活性剤、例えば任意のアルキルヒドロキシ芳香族カルボン酸界面活性剤、および/または任意のアルキル芳香族スルホン酸界面活性剤を含むことができる。
【0044】
一般に清浄剤の量は、潤滑油組成物の全質量に基づき約0.1質量%乃至約35質量%、約0.25質量%乃至約25質量%、又は約0.5質量%乃至約20質量%である。
【0045】
[分散剤]
また、潤滑油組成物は、任意の好適な分散剤(「分散添加剤」)または複数の分散剤の混合物を含有していてもよい。一態様では、分散剤は、無灰分散剤であり、例えば、アルケニル又はアルキルコハク酸イミドまたはその誘導体、例えばポリアルキレンコハク酸イミド(好ましくは、ポリイソブテンコハク酸イミド)を含む無灰分散剤である。別の態様では、分散剤は、アルカリ金属又は混合アルカリ金属、アルカリ土類金属のホウ酸塩、水和アルカリ金属ホウ酸塩の分散物、アルカリ土類金属ホウ酸塩の分散物、ポリアミド無灰分散剤、ベンジルアミン、マンニッヒ型分散剤、リン含有分散剤、またはそれらの組合せ又は混合物である。これら及び他の好適な分散剤については、モーティア(Mortier)、外著、「潤滑剤の化学と技術(Chemistry and Technology of Lubricants)」、第2版、ロンドン、スプリンガー(Springer)、第3章、p.86−90(1996年)、およびレスリー・R.ルドニック(Leslie R.Rudnick)著、「潤滑油添加剤:化学と用途(Luburicant Additives: Chemistry and Applications)」、ニューヨーク、マーセル・デッカー(Marcel Dekker)、第5章、p.137−170(2003年)に記載されていて、それら両方とも全て参照内容として本明細書の記載とする。好ましい態様では分散剤はコハク酸イミドまたはその誘導体である。別の態様では分散剤は、ポリブテニルコハク酸無水物とポリアミンの反応により得られたコハク酸イミドまたはその誘導体である。別の態様では、分散剤は、ポリブテニルコハク酸無水物とポリアミンの反応により得られたコハク酸イミドまたはその誘導体であり、ポリブテニルコハク酸無水物は、ポリブテンと無水マレイン酸から(例えば、塩素も塩素原子含有化合物も用いない熱反応法により)生成させる。別の好ましい態様では、分散剤は、ポリイソブテニルコハク酸無水物(PIBSA)と一種以上のアルキレンポリアミンとの縮合反応の、コハク酸イミド反応生成物である。この態様のPIBSAは、高メチルビニリデンポリイソブテン(PIB)と無水マレイン酸の熱反応生成物であってよい。別の好ましい態様では、分散剤は、数平均分子量(Mn)が約500−3000、例えば約600−2800、約700−2700、約800−2600、約900−2500、約1000−2400、約1100−2300、約1200−2200、約1300−2100、又は約1400−2000のPIBから誘導された、主にビスコハク酸イミド反応生成物である。別の好ましい態様では、分散剤は、Mnが少なくとも約600、少なくとも約800、少なくとも約1000、少なくとも約1100、少なくとも約1200、少なくとも約1300、少なくとも約1400、少なくとも約1500、少なくとも約1600、少なくとも約1700、少なくとも約1800、少なくとも約1900、少なくとも約2000、少なくとも約2100、少なくとも約2200、少なくとも約2300、少なくとも約2400、少なくとも約2500、少なくとも約2600、少なくとも約2700、少なくとも約2800、少なくとも約2900、少なくとも約3000のPIBから誘導された、主にビスコハク酸イミド反応生成物である。好ましい一態様では、例えば分散剤は、Mn1000のPIBから誘導された主にビスコハク酸イミド反応生成物であり、別の好ましい態様ではそのコハク酸イミドをその後ホウ酸化して、コハク酸イミド中のホウ素濃度を約0.1−3質量%(例えば約1−2質量%、例えば1.2質量%)にする。別の好ましい態様では、分散剤は、Mn1300のPIBから誘導された主にビスコハク酸イミド反応生成物であり、別の好ましい態様では、そのコハク酸イミドをその後ホウ酸化して、コハク酸イミド中のホウ素濃度を約0.1−3質量%(例えば約1−2質量%、例えば1.2質量%)にする。別の好ましい態様では、分散剤は、Mn2300のPIBから誘導された主にビスコハク酸イミド反応生成物であり、別の好ましい態様では、そのコハク酸イミドをその後エチレンカーボネートと反応させる。
【0046】
別の好ましい態様では、分散剤は、高分子量アルケニル又はアルキル置換コハク酸無水物と、分子当り窒素原子数4−10(平均値)、好ましくは窒素原子数5−7(平均値)のポリアルキレンポリアミンとの反応により製造されたコハク酸イミドである。これに関してアルケニル又はアルキルコハク酸イミド化合物のアルケニル又はアルキル基は、数平均分子量が約900−3000、例えば約1000−2500、約1200−2300、又は約1400−2100のポリブテンから誘導することができる。態様によっては、ポリブテニルコハク酸無水物製造のためのポリブテンと無水マレイン酸との反応を、塩素を用いる塩素化法により行うことができる。従って、態様によっては、得られたポリブテニルコハク酸無水物、並びにポリブテニルコハク酸無水物から生成したポリブテニルコハク酸イミドは、塩素分がおよそ2000乃至3000ppm(質量)の範囲にある。反対に、塩素を用いない熱的方法では、塩素分が例えば30ppm(質量)未満の範囲にあるポリブテニルコハク酸無水物およびポリブテニルコハク酸イミドを与える。従って態様によっては、潤滑油組成物中の塩素分を少なくするために、熱的方法により生成したコハク酸無水物から誘導されたコハク酸イミドが好ましい。
【0047】
別の好ましい態様では、分散剤は、ホウ酸、アルコール、アルデヒド、ケトン、アルキルフェノール、環状カーボネート(エチレンカーボネートなど)、有機酸、コハク酸イミド、コハク酸エステル、コハク酸エステル−アミド、ペンタエリトリトール、フェネート−サリシレートおよびそれらの後処理類似物等、またはそれらの組合せ又は混合物から選ばれた化合物で後処理された、変性アルケニル又はアルキルコハク酸イミドを含んでいる。好ましい変性コハク酸イミドは、ホウ酸化アルケニル又はアルキルコハク酸イミド、例えばホウ酸又はホウ素含有化合物で後処理されたアルケニル又はアルキルコハク酸イミドである。別の態様では、分散剤は、後処理されていないアルケニル又はアルキルコハク酸イミドを含んでいる。
【0048】
分散剤は、任意の好適な形態であってよい。一態様では分散剤を、任意の好適なプロセス油又は希釈油(例えば、任意のI種油、II種油またはそれらの組合せ又は混合物)と分散剤とを含む分散液又は懸濁液の形で、潤滑油組成物に混合又はブレンドする。一態様ではプロセス油又は希釈油は、潤滑油組成物の基油(I種基油など)とは異なる油、例えば異なるI種基油、II種基油またはそれらの混合物又は組合せである。別の態様ではプロセス油又は希釈油は、潤滑油組成物の基油(I種基油など)と同じ油である。
【0049】
潤滑油組成物中の一種以上の分散剤の活性分に基づく濃度は、約1.0質量%未満、約0.9質量%未満、約0.8質量%未満、約0.7質量%未満、約0.6質量%未満、約0.5質量%未満、約0.4質量%未満、約0.3質量%未満、又は約0.2質量%未満であることが好ましい。別の好ましい態様では潤滑油組成物中の一種以上の分散剤の活性分に基づく濃度は、約0.1−1質量%、約0.2−0.9質量%、0.1−0.8質量%、約0.2−0.8質量%、約0.3−0.8質量%、0.1−0.7質量%、0.2−0.7質量%、約0.3−0.7質量%、約0.4−0.7質量%、約0.1−0.6質量%、約0.2−0.6質量%、約0.3−0.6質量%、約0.4−0.6質量%、約0.5−0.6質量%、約0.1−0.5質量%、約0.2−0.5質量%、約0.1−0.4質量%、0.2−0.4質量%、0.3−0.6質量%、又は約0.3−0.5質量%である。
【0050】
[潤滑油添加剤]
本発明の潤滑油組成物は任意に、潤滑油組成物の任意の所望の特性を付与したり改善することができる、一種以上の任意の好適な追加の調整剤及び/又は添加剤(以下、「添加剤」と呼ぶ)を含有している。好適な添加剤は、モーティア、外著、「潤滑剤の化学と技術」、第2版、ロンドン、スプリンガー(1996年)、およびレスリー・R.ルドニック著、「潤滑油添加剤:化学と用途」、ニューヨーク、マーセル・デッカー(2003年)に記載されていて、それら両方とも参照内容として本明細書の記載とする。態様によっては潤滑油組成物は更に、酸化防止剤、耐摩耗性添加剤、さび止め添加剤、抗乳化剤、摩擦緩和剤、多機能添加剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、消泡剤、金属不活性化剤、分散剤、腐食防止剤、潤滑性向上剤、熱安定性向上剤、防曇剤、氷結防止剤、染料、マーカー、静電放散剤、殺生剤およびそれらの組合せ及び混合物からなる群より選ばれた一種以上の添加剤を含有している。一般に、添加剤の各々が潤滑油組成物中に存在する場合にその濃度は、潤滑油組成物の全質量に基づき約0.001質量%乃至約10質量%、約0.01質量%乃至約5質量%、又は約0.1質量%乃至約2.5質量%の範囲にあってよい。さらに、潤滑油組成物中の添加剤の総量は、潤滑油組成物の全質量に基づき約0.001質量%乃至約20質量%、約0.01質量%乃至約10質量%、又は約0.1質量%乃至約5質量%の範囲にあってよい。
【0051】
態様によっては本発明の潤滑油組成物は、摩擦および過剰な摩耗を低減するような耐摩耗性添加剤を含有している。任意の好適な耐摩耗性添加剤を潤滑油組成物に使用することができる。好適な耐摩耗性添加剤の限定的ではない例としては、ジチオリン酸亜鉛、ジチオリン酸塩の金属(例えばPb、SbおよびMo等)塩類、ジチオカルバメートの金属(例えばZn、Pb、SbおよびMo等)塩類、脂肪酸の金属(例えばZn、PbおよびSb等)塩類、ホウ素化合物、リン酸エステル類、亜リン酸エステル類、リン酸エステル又はチオリン酸エステルのアミン塩類、ジシクロペンタジエンとチオリン酸の反応生成物、およびそれらの組合せを挙げることができる。耐摩耗性添加剤の量は、潤滑油組成物の全質量に基づき約0.01質量%乃至約5質量%、約0.05質量%乃至約3質量%、又は約0.1質量%乃至約1質量%で変えることができる。好適な耐摩耗性添加剤は、レスリー・R.ルドニック著、「潤滑油添加剤:化学と用途」、ニューヨーク、マーセル・デッカー、第8章、p.223−258(2003年)に記載されていて、それも参照内容として本明細書の記載とする。
【0052】
ある態様では耐摩耗性添加剤は、二炭化水素ジチオリン酸金属塩、例えばジアルキルジチオリン酸亜鉛化合物、ジアリールジチオリン酸亜鉛またはそれらの組合せ又は混合物であるか、あるいはそれを含んでいる。二炭化水素ジチオリン酸金属塩の金属は、アルカリ又はアルカリ土類金属であっても、あるいはアルミニウム、鉛、スズ、モリブデン、マンガン、ニッケルまたは銅であってもよい。ある態様では金属は亜鉛である。別の態様では、二炭化水素ジチオリン酸金属塩のアルキル基は、炭素原子数約3−約22、炭素原子数約3−約18、炭素原子数約3−約12、又は炭素原子数約3−約8であり、線状でも分枝していてもよい。
【0053】
本発明の潤滑油組成物中のジアルキルジチオリン酸亜鉛塩を含む二炭化水素ジチオリン酸金属塩の量は、そのリン分で量ってもよい。ある態様では潤滑油組成物のリン分は、
潤滑油組成物の全質量に基づき約0.01質量%乃至約0.12質量%、約0.01質量%乃至約0.10質量%、約0.02質量%乃至約0.08質量%、又は約0.02質量%乃至約0.05質量%である。
【0054】
一態様では、本潤滑油組成物のリン分は、潤滑油組成物の全質量に基づき約0.01乃至0.08質量%、例えば約0.02乃至約0.07質量%、約0.02乃至約0.06質量%、又は約0.02乃至約0.05質量%である。別の態様では本潤滑油組成物のリン分は、潤滑油組成物の全質量に基づき約0.05乃至0.12質量%である。
【0055】
二炭化水素ジチオリン酸金属塩は、まず、通常はアルコールおよびフェノール化合物のうちの一種以上をP25と反応させることで、二炭化水素ジチオリン酸(DDPA)を生成させ、次いで生成したDDPAを金属の化合物、例えば金属の酸化物、水酸化物又は炭酸塩で中和することにより製造することができる。ある態様では、第一級及び第二級アルコールの混合物をP25と反応させることにより、DDPAを製造することができる。別の態様では、二種以上の二炭化水素ジチオリン酸を製造することができて、一種類のジチオリン酸の炭化水素基は全く第二級の性質であるが、残りのジチオリン酸の炭化水素基は全く第一級の性質である。亜鉛塩は、二炭化水素ジチオリン酸から亜鉛化合物と反応させることにより製造することができる。ある態様では塩基性又は中性の亜鉛化合物を使用する。別の態様では亜鉛の酸化物、水酸化物又は炭酸塩を使用する。
【0056】
ある態様では、(II)式で表されるジアルキルジチオリン酸から、油溶性のジアルキルジチオリン酸亜鉛を生成させることができる。
【0057】
【化1】

【0058】
式中、R3およびR4の各々は独立に、線状又は分枝アルキル、または線状又は分枝置換アルキルである。ある態様では、アルキル基は、炭素原子数約3−約30、又は炭素原子数約3−約8である。
【0059】
(II)式のジアルキルジチオリン酸は、アルコールR3OHおよびR4OH(ただし、R3およびR4は上に定義した通りである)を、P25と反応させることにより製造することができる。ある態様ではR3とR4は同じである。別の態様ではR3とR4は異なっている。更なる態様ではR3OHとR4OHを同時にP25と反応させる。それ以上の態様ではR3OHとR4OHを順次P25と反応させる。
【0060】
ヒドロキシルアルキル化合物の混合物も使用することができる。これらヒドロキシルアルキル化合物は、モノヒドロキシアルキル化合物である必要はない。ある態様では、モノ、ジ、トリ、テトラ及び他のポリヒドロキシアルキル化合物または前者の二種以上の混合物から、ジアルキルジチオリン酸を製造する。別の態様では、第一級アルキルアルコールのみから誘導するジアルキルジチオリン酸亜鉛を、単一の第一級アルコールから誘導する。更なる態様ではその単一第一級アルコールは、2−エチルヘキサノールである。ある態様では、第二級アルキルアルコールのみから、例えば第二級アルキルアルコールの混合物からジアルキルジチオリン酸亜鉛を誘導する。更なる態様では第二級アルコールの混合物は、2−ブタノールと4−メチル−2−ペンタノールの混合物である。
【0061】
ジアルキルジチオリン酸の生成工程に使用される五硫化リン反応体は、P23、P43、P47又はP49のうちの一種以上をある量含むことがある。組成物それ自体が少量の遊離硫黄を含んでいることもある。ある態様では五硫化リン反応体は、P23、P43、P47及びP49の何れも実質的に含まない。ある態様では、五硫化リン反応体は遊離硫黄を実質的に含まない。
【0062】
態様によっては、潤滑油組成物の硫酸灰分は、ASTM D874に従って測定して、約5質量%未満、約4質量%未満、約3質量%未満、約2質量%未満、又は約1質量%未満ですらある。
【0063】
態様によっては潤滑油組成物は、基油の酸化を低減又は防止するような酸化防止添加剤を含有している。任意の好適な酸化防止剤を潤滑油組成物に使用することができる。好適な酸化防止剤の限定的ではない例としては、アミン系酸化防止剤(例えば、アルキルジフェニルアミン類、フェニル−α−ナフチルアミン、アルキル又はアラルキル置換フェニル−α−ナフチルアミン、アルキル化p−フェニレンジアミン類、およびテトラメチル−ジアミノジフェニルアミン等)、フェノール系酸化防止剤(例えば、2−tert−ブチルフェノール、4−メチル−2,6−ジ−tert−ブチルフェノール、2,4,6−トリ−tert−ブチルフェノール、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール、2,6−ジ−tert−ブチルフェノール、4,4’−メチレンビス−(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、および4,4’−チオビス(6−ジ−tert−ブチル−o−クレゾール)等)、硫黄系酸化防止剤(例えば、ジラウリル−3,3’−チオジプロピオネート、および硫化フェノール系酸化防止剤等)、リン系酸化防止剤(例えば、亜リン酸エステル等)、ジチオリン酸亜鉛、油溶性銅化合物、およびそれらの組合せを挙げることができる。酸化防止剤の量は、潤滑油組成物の全質量に基づき約0.01質量%乃至約10質量%、約0.05質量%乃至約5質量%、又は約0.1質量%乃至約3質量%で変えることができる。好適な酸化防止剤は、レスリー・R.ルドニック著、「潤滑油添加剤:化学と用途」、ニューヨーク、マーセル・デッカー、第1章、p.1−28(2003年)に記載されていて、それも参照内容として本明細書の記載とする。
【0064】
本発明の潤滑油組成物は任意に、可動部分間の摩擦を小さくすることができる摩擦緩和剤を含有することができる。任意の好適な摩擦緩和剤を潤滑油組成物に使用することができる。好適な摩擦緩和剤の限定的ではない例としては、脂肪族カルボン酸類;脂肪族カルボン酸の誘導体(例えば、アルコール、エステル、ホウ酸化エステル、アミドおよび金属塩等);モノ、ジ又はトリアルキル置換リン酸又はホスホン酸類;モノ、ジ又はトリアルキル置換リン酸又はホスホン酸の誘導体(例えば、エステル、アミドおよび金属塩等);モノ、ジ又はトリアルキル置換アミン類;モノ又はジアルキル置換アミド類;およびそれらの組合せを挙げることができる。ある態様では摩擦緩和剤は、脂肪族アミン類、エトキシル化脂肪族アミン類、脂肪族カルボン酸アミド類、エトキシル化脂肪族エーテルアミン類、脂肪族カルボン酸類、グリセロールエステル類、脂肪族カルボン酸エステル−アミド類、脂肪イミダゾリン類、脂肪第三級アミン類(ただし、脂肪族又は脂肪基は、化合物を好適に油溶性にするために炭素原子を約8個より多く含んでいる)からなる群より選ばれる。別の態様では摩擦緩和剤は、脂肪族コハク酸又は無水物をアンモニアまたは第一級アミンと反応させることで生成した脂肪族置換コハク酸イミドを含んでいる。摩擦緩和剤の量は、潤滑油組成物の全質量に基づき約0.01質量%乃至約10質量%、約0.05質量%乃至約5質量%、又は約0.1質量%乃至約3質量%で変えることができる。好適な摩擦緩和剤は、モーティア、外著、「潤滑剤の化学と技術」、第2版、ロンドン、スプリンガー、第6章、p.183−187(1996年)、およびレスリー・R.ルドニック著、「潤滑油添加剤:化学と用途」、ニューヨーク、マーセル・デッカー、第6章及び第7章、p.171−222(2003年)に記載されていて、それら両方とも参照内容として本明細書の記載とする。
【0065】
本発明の潤滑油組成物は任意に、潤滑油組成物の流動点を下げることができる流動点降下剤を含有することができる。任意の好適な流動点降下剤を潤滑油組成物に使用することができる。好適な流動点降下剤の限定的ではない例としては、ポリメタクリレート類、アルキルアクリレート重合体、アルキルメタクリレート重合体、ジ(テトラパラフィンフェノール)フタレート、テトラパラフィンフェノールの縮合物、塩素化パラフィンとナフタレンの縮合物、およびそれらの組合せを挙げることができる。ある態様では、流動点降下剤は、エチレン・酢酸ビニル共重合体、塩素化パラフィンとフェノールの縮合物、またはポリアルキルスチレン等を含んでいる。流動点降下剤の量は、潤滑油組成物の全質量に基づき約0.01質量%乃至約10質量%、約0.05質量%乃至約5質量%、又は約0.1質量%乃至約3質量%で変えることができる。好適な流動点降下剤は、モーティア、外著、「潤滑剤の化学と技術」、第2版、ロンドン、スプリンガー、第6章、p.187−189(1996年)、およびレスリー・R.ルドニック著、「潤滑油添加剤:化学と用途」、ニューヨーク、マーセル・デッカー、第11章、p.329−354(2003年)に記載されていて、それら両方とも参照内容として本明細書の記載とする。
【0066】
本発明の潤滑油組成物は任意に、水や蒸気にさらされる潤滑油組成物の油−水分離を促進することができる抗乳化剤を含有することができる。任意の好適な抗乳化剤を潤滑油組成物に使用することができる。好適な抗乳化剤の限定的ではない例としては、陰イオン界面活性剤(例えば、アルキルナフタレンスルホネート類、およびアルキルベンゼンスルホネート類等)、非イオン性アルコキシル化アルキルフェノール樹脂、アルキレンオキシドの重合体(例えば、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、およびエチレンオキシドとプロピレンオキシドのブロック共重合体等)、油溶性酸のエステル類、ポリオキシエチレンソルビタンエステル、およびそれらの組合せを挙げることができる。抗乳化剤の量は、潤滑油組成物の全質量に基づき約0.01質量%乃至約10質量%、約0.05質量%乃至約5質量%、又は約0.1質量%乃至約3質量%で変えることができる。好適な抗乳化剤は、モーティア、外著、「潤滑剤の化学と技術」、第2版、ロンドン、スプリンガー、第6章、p.190−193(1996年)に記載されていて、それも参照内容として本明細書の記載とする。
【0067】
本発明の潤滑油組成物は任意に、油の泡を破壊することができる抑泡剤又は消泡剤を含有することができる。任意の好適な抑泡剤又は消泡剤を潤滑油組成物に使用することができる。好適な消泡剤の限定的ではない例としては、シリコーン油又はポリジメチルシロキサン類、フルオロシリコーン類、アルコキシル化脂肪酸類、ポリエーテル類(例えば、ポリエチレングリコール類)、分枝ポリビニルエーテル類、アルキルアクリレート重合体、アルキルメタクリレート重合体、ポリアルコキシアミン類、およびそれらの組合せを挙げることができる。ある態様では消泡剤は、グリセロールモノステアレート、ポリグリコールパルミテート、モノチオリン酸トリアルキル、スルホン化リシノール酸のエステル、ベンゾイルアセトン、メチルサリシレート、グリセロールモノオレエート、またはグリセロールジオレエートを含んでいる。消泡剤の量は、潤滑油組成物の全質量に基づき約0.01質量%乃至約5質量%、約0.05質量%乃至約3質量%、又は約0.1質量%乃至約1質量%で変えることができる。好適な消泡剤は、モーティア、外著、「潤滑剤の化学と技術」、第2版、ロンドン、スプリンガー、第6章、p.190−193(1996年)に記載されていて、それも参照内容として本明細書の記載とする。
【0068】
本発明の潤滑油組成物は任意に、腐食を低減することができる腐食防止剤を含有することができる。任意の好適な腐食防止剤を潤滑油組成物に使用することができる。好適な腐食防止剤の限定的ではない例としては、ドデシルコハク酸の半エステル又はアミド類、リン酸エステル類、チオリン酸エステル類、アルキルイミダゾリン類、サルコシン類、およびそれらの組合せを挙げることができる。腐食防止剤の量は、潤滑油組成物の全質量に基づき約0.01質量%乃至約5質量%、約0.05質量%乃至約3質量%、又は約0.1質量%乃至約1質量%で変えることができる。好適な腐食防止剤は、モーティア、外著、「潤滑剤の化学と技術」、第2版、ロンドン、スプリンガー、第6章、p.193−196(1996年)に記載されていて、それも参照内容として本明細書の記載とする。
【0069】
本発明の潤滑油組成物は任意に、滑り金属面が極圧条件下で焼付くのを防ぐことができる極圧(EP)剤を含有することができる。任意の好適な極圧剤を潤滑油組成物に使用することができる。一般に極圧剤は、金属と化学的に結合して表面膜を形成することができる化合物であり、金属面が高荷重で相対したときにその表面膜が微小突起の融着を防ぐ。好適な極圧剤の限定的ではない例としては、動物又は植物硫化油脂、動物又は植物硫化脂肪酸エステル類、三価又は五価リン酸の完全又は部分エステル化エステル類、硫化オレフィン類、二炭化水素ポリスルフィド類、硫化ディールス・アルダー付加物、硫化ジシクロペンタジエン、脂肪酸エステルと一不飽和オレフィンの硫化又は共硫化混合物、脂肪酸と脂肪酸エステルとアルファオレフィンの共硫化ブレンド、官能基置換二炭化水素ポリスルフィド類、チア−アルデヒド類、チア−ケトン類、エピチオ化合物、硫黄含有アセタール誘導体、テルペンと非環状オレフィンの共硫化ブレンド、およびポリスルフィドオレフィン生成物、リン酸エステル又はチオリン酸エステルのアミン塩類、およびそれらの組合せを挙げることができる。極圧剤の量は、潤滑油組成物の全質量に基づき約0.01質量%乃至約5質量%、約0.05質量%乃至約3質量%、又は約0.1質量%乃至約1質量%で変えることができる。好適な極圧剤は、レスリー・R.ルドニック著、「潤滑油添加剤:化学と用途」、ニューヨーク、マーセル・デッカー、第8章、p.223−258(2003年)に記載されていて、それも参照内容として本明細書の記載とする。
【0070】
本発明の潤滑油組成物は任意に、鉄金属面の腐食を防ぐことができるさび止め添加剤を含有することができる。任意の好適なさび止め添加剤を潤滑油組成物に使用することができる。好適なさび止め添加剤の限定的ではない例としては、油溶性のモノカルボン酸類(例えば、2−エチルヘキサン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、ベヘン酸、およびセロチン酸等)、油溶性のポリカルボン酸類(例えば、タル油脂肪酸、オレイン酸およびリノール酸等から生成したもの)、アルケニル基が炭素原子10個以上を含むアルケニルコハク酸類(例えば、テトラプロペニルコハク酸、テトラデセニルコハク酸、およびヘキサデセニルコハク酸等)、分子量が600乃至3000ダルトンの範囲にある長鎖アルファ、オメガ−ジカルボン酸類、およびそれらの組合せを挙げることができる。さび止め添加剤の量は、潤滑油組成物の全質量に基づき約0.01質量%乃至約10質量%、約0.05質量%乃至約5質量%、又は約0.1質量%乃至約3質量%で変えることができる。
【0071】
好適なさび止め添加剤の他の限定的ではない例としては、非イオン性ポリオキシエチレン界面活性剤、例えばポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレン高級アルコールエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンソルビトールモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビトールモノオレエート、およびポリエチレングリコールモノオレエートを挙げることができる。好適なさび止め添加剤のそれ以上の限定的ではない例としては、ステアリン酸及び他の脂肪酸類、ジカルボン酸類、金属石鹸、脂肪酸アミン塩類、重質スルホン酸の金属塩類、多価アルコールの部分カルボン酸エステル、およびリン酸エステルを挙げることができる。
【0072】
態様によっては、潤滑油組成物は、少なくとも一種の多機能添加剤を含有している。好適な多機能添加剤の限定的ではない例としては、硫化オキシモリブデンジチオカルバメート、硫化オキシモリブデンオルガノホスホロジチオエート、オキシモリブデンモノグリセリド、オキシモリブデンジエチレートアミド、アミン・モリブデン錯化合物、および硫黄含有モリブデン錯化合物を挙げることができる。
【0073】
態様によっては、潤滑油組成物は、少なくとも一種の粘度指数向上剤を含有している。好適な粘度指数向上剤の限定的ではない例としては、ポリメタクリレート型重合体、エチレン・プロピレン共重合体、スチレン・イソプレン共重合体、水和スチレン・イソプレン共重合体、ポリイソブチレン、および分散型粘度指数向上剤を挙げることができる。
【0074】
態様によっては、潤滑油組成物は、少なくとも一種の金属不活性化剤を含有している。好適な金属不活性化剤の限定的ではない例としては、ジサリチリデンプロピレンジアミン、トリアゾール誘導体、チアジアゾール誘導体、およびメルカプトベンズイミダゾール類を挙げることができる。
【0075】
本発明の添加剤は、一種より多い添加剤を含有する添加剤濃縮物の形であってもよい。添加剤濃縮物は、好適な希釈剤、例えば好適な粘度の炭化水素油を含んでいてもよい。そのような希釈剤は、天然油(例えば、鉱油)、合成油およびそれらの組合せからなる群より選ぶことができる。鉱油の限定的ではない例としては、パラフィン系油、ナフテン系油、アスファルト系油、およびそれらの組合せが挙げられる。合成基油の限定的ではない例としては、ポリオレフィン油(特には、水素化アルファ−オレフィンオリゴマー類)、アルキル化芳香族、ポリアルキレンオキシド類、芳香族エーテル類、およびカルボン酸エステル類(特には、ジエステル油)、およびそれらの組合せが挙げられる。ある態様では希釈剤は、天然でも合成でもよい軽質炭化水素油である。ある態様では希釈油の粘度は、40℃で約13センチストークス乃至約35センチストークスであってよい。
【実施例】
【0076】
以下に実施例について、本発明の特定の態様として、またその利点を明らかにするために記載する。実施例は、説明のために記すのであって、決して明細書または後続の特許請求の範囲を限定しようとするものではない。
【0077】
[実施例1]
カルボキシレート清浄剤を含む12個のトランクピストン・エンジン用潤滑油組成物の有効性について、試験法の項に記載する黒スラッジ堆積物(BSD)試験を用いて、サリシレート清浄剤を含む12個のトランクピストン・エンジン用潤滑油組成物の有効性との比較を行った。
【0078】
試験した24個の潤滑油組成物の各々は、I種系又はII種系潤滑油組成物であり、ブレンドした調合済の粘度グレードがSAE40、すなわち最終粘度が100℃で約14cStで、TBNが40に達した基油の混合物を含有していた。I種系潤滑油組成物は、主要量のエクソンモービルCORE(ExxonMobil CORE、商標)600基材油(エクソンモービル(ExxonMobil)社(テキサス州アービング)製)と、少量のエクソンモービルCORE(商標)150又はエクソンモービルCORE(商標)2500基材油を含有して、所望の最終粘度に達した。II種系潤滑油組成物は、主要量のシェブロン(Chevron)600RII種基材油(シェブロン・プロダクツ社(Chevron Products Co.)(カリフォルニア州サンラモン)製)と、少量のエクソンモービルCORE(商標)150又はエクソンモービルCORE(商標)2500基材油を含有させて、所望の最終粘度に達した。
【0079】
また、24個の潤滑油組成物の各々は次の物質も含有していた:(i)(活性分で)0.60質量%又は0質量%の分散添加剤(つまり、ポリイソブテニルコハク酸無水物と、テトラエチレンペンタアミンに近いポリアルキレンポリアミンとの主にビスコハク酸イミド反応生成物であり、ポリイソブテニルコハク酸無水物は数平均分子量(Mn)1000のPIBから誘導した)、および(ii)0.63質量%の第一級ジアルキルジチオリン酸亜鉛の油濃縮物。潤滑油組成物の各々は、リン分が0.047質量%であり、Zn含量が0.052質量%であった。
【0080】
さらに、24個の潤滑油組成物の各々は、カルボキシレート清浄剤またはサリシレート清浄剤の何れかを含有し、低石鹸分潤滑油組成物、中石鹸分潤滑油組成物または高石鹸分潤滑油組成物の何れかとして配合された。
【0081】
特に、低石鹸分カルボキシレート清浄剤含有潤滑油組成物は、(i)米国特許出願公開第2004/0235686号明細書の実施例1に記載の方法により製造した、Ca5.00質量%、TBN140の未硫化、非炭酸化、非過塩基性カルボキシレート含有フェノール留去清浄剤26.8質量%と、(ii)米国特許出願公開第2007/0027043号明細書の実施例1に記載の方法により製造した、Ca12.5質量%、TBN350の過塩基性カルシウムアルキルヒドロキシベンゾエート清浄剤73.2質量%との混合物を含有していた。低石鹸分カルボキシレート配合物におけるこの清浄剤の処理比(トリート・レート)は13.44質量%で、全石鹸分は140ミリモル/kgであった。
【0082】
中石鹸分カルボキシレート清浄剤含有潤滑油組成物は、(i)米国特許出願公開第2004/0235686号明細書の実施例1に記載の方法により製造した、Ca5.00質量%、TBN140の未硫化、非炭酸化、非過塩基性カルボキシレート含有フェノール留去清浄剤24.4質量%と、(ii)米国特許出願公開第2007/0027043号明細書の実施例1に記載の方法により製造した、Ca5.35質量%、TBN150の過塩基性カルシウムアルキルヒドロキシベンゾエート清浄剤18.6質量%と、(iii)米国特許出願公開第2007/0027043号明細書の実施例1に記載の方法により製造した、Ca12.5質量%、TBN350の過塩基性カルシウムアルキルヒドロキシベンゾエート清浄剤57.0質量%との混合物を含有していた。中石鹸分カルボキシレート配合物におけるこの清浄剤の処理比は14.78質量%で、全石鹸分は170ミリモル/kgであった。
【0083】
高石鹸分カルボキシレート清浄剤含有潤滑油組成物は、(i)米国特許出願公開第2004/0235686号明細書の実施例1に記載の方法により製造した、Ca5.00質量%、TBN140の未硫化、非炭酸化、非過塩基性カルボキシレート含有フェノール留去清浄剤71.9質量%と、(ii)米国特許出願公開第2007/0027043号明細書の実施例1に記載の方法により製造した、Ca12.5質量%、TBN350の過塩基性カルシウムアルキルヒドロキシベンゾエート清浄剤28.1質量%との混合物を含有した。高石鹸分カルボキシレート配合物におけるこの清浄剤の処理比は20.02質量%で、全石鹸分は290ミリモル/kgであった。
【0084】
低石鹸分サリシレート清浄剤含有潤滑油組成物は、(i)公称TBN170、アルキル基はC14−C18が95%より多く、Ca6.0質量%の低分子量、CO2中過塩基性、主にモノアルキル化ヒドロキシベンゾエートサリシレート清浄剤19.3質量%と、(ii)公称TBN280、アルキル基はC14−C18が95%より多く、Ca10質量%の低分子量、CO2高過塩基性、主にモノアルキル化ヒドロキシベンゾエートサリシレート清浄剤80.7質量%との混合物を含有した。低石鹸分サリシレート配合物におけるこの清浄剤の処理比は15.48質量%で、全石鹸分は137ミリモル/kgであった。
【0085】
中石鹸分サリシレート清浄剤含有潤滑油組成物は、(i)公称TBN170、アルキル基はC14−C18が95%より多く、Ca6.0質量%の低分子量、CO2中過塩基性、主にモノアルキル化ヒドロキシベンゾエートサリシレート清浄剤52.6質量%と、(ii)公称TBN280、アルキル基はC14−C18が95%より多く、Ca10質量%の低分子量、CO2高過塩基性、主にモノアルキル化ヒドロキシベンゾエートサリシレート清浄剤47.4質量%との混合物を含有した。中石鹸分サリシレート配合物におけるこの清浄剤の処理比は15.48質量%で、全石鹸分は155ミリモル/kgであった。
【0086】
高石鹸分サリシレート清浄剤含有潤滑油組成物は、(i)公称TBN170、アルキル基はC14−C18が95%より多く、Ca6.0質量%の低分子量、CO2中過塩基性、主にモノアルキル化ヒドロキシベンゾエートサリシレート清浄剤62.5質量%と、(ii)公称TBN280、アルキル基はC14−C18が95%より多く、Ca10質量%の低分子量、CO2高過塩基性、主にモノアルキル化ヒドロキシベンゾエートサリシレート清浄剤37.5質量%との混合物を含有した。高石鹸分サリシレート配合物におけるこの清浄剤の処理比は19.04質量%で、全石鹸分は198ミリモル/kgであった。
【0087】
第2表に、24個のトランクピストン・エンジン用潤滑油組成物の各々のBSD試験の結果を示す。第2、3及び4表における分散剤の質量パーセントは、トランクピストン・エンジン用潤滑油組成物の全質量に対する活性分散剤の質量パーセントである。
【0088】
【表1】

【0089】
第2表に示した結果から明らかなように、カルボキシレート含有清浄剤を含むトランクピストン・エンジン用潤滑油組成物は、低硫黄舶用重質燃料油で、従来のサリシレート系清浄剤を含む潤滑油組成物よりも黒スラッジの生成が驚くほど少なかった。
【0090】
[実施例2]
実施例1で評価した24個のトランクピストン・エンジン用潤滑油組成物の各々について、酸化に基づく粘度増加に対する安定度を、試験法に記載する改定英国石油協会48(「MIP48」)試験を用いて評価した。
【0091】
第3表に、24個のトランクピストン・エンジン用潤滑油組成物の各々のMIP48試験の結果を示す。
【0092】
【表2】

【0093】
第2表に示した結果から明らかなように、カルボキシレート含有清浄剤を含むトランクピストン・エンジン用潤滑油組成物は、従来のサリシレート含有清浄剤を含んだ潤滑油組成物よりも、酸化に基づく粘度増加に対して驚くほど優れた安定性を示した。
【0094】
[実施例3]
実施例1で評価した24個のトランクピストン・エンジン用潤滑油組成物の各々について、試験法に記載するコマツ・ホットチューブ(「KHT」)試験を用いて高温清浄度の評価を行った。
【0095】
第4表に、24個のトランクピストン・エンジン用潤滑油組成物の各々のKHT試験の結果を示す。試験法に記載するように、試験結果を「0」から「10」の間の数値の形で表し、値「0」は、KHT試験による堆積物で黒ずんで見えるガラス管とし、値「10」はKHT試験による堆積物が全く無いように見えるガラス管とし、そして「閉塞」はKHT試験による堆積物で塞がれているように見えるガラス管とした。
【0096】
【表3】

【0097】
第4表に示した結果から明らかなように、カルボキシレート含有清浄剤を含むトランクピストン・エンジン用潤滑油組成物は、従来のサリシレート含有清浄剤を含んだ潤滑油組成物よりも、特に320℃及び330℃の高温で、(示された高い値によって反映されるように)驚くほど優れた高温清浄性を示した。
【0098】
[試験法]
(黒スラッジ堆積物(BSD)試験)
潤滑油組成物の二つの試料を別々に、低硫黄舶用重質燃料油および高硫黄舶用重質燃料油と混ぜ合わせて二つの試験混合物とした。低硫黄舶用重質燃料油は、硫黄分が0.97質量%で、次のような性状であった:50℃粘度371cSt、100℃粘度32.4cSt、アスファルテン含量5.15質量%、残留炭素分13.30質量%、燃焼熱42.87Mj/kg、および引火点122.5℃。高硫黄舶用重質燃料油は、硫黄分が2.3質量%で、次のような性状であった:50℃粘度545cSt、100℃粘度42cSt、アスファルテン含量7.41質量%、残留炭素分15.59質量%、燃焼熱42.73Mj/kg、および引火点98.0℃。
【0099】
上記の各試験混合物をポンプで一定時間熱した試験鋼板にかけた。試験板を冷却してすすいだ後、乾燥して計量した。このようにして、試験板に残った堆積物の重さを試験板の重さの変化として測定して記録した。
【0100】
(改定英国石油協会48(MIP48)試験)
潤滑油組成物の二つの試料を一定時間加熱した。試験試料の一方には窒素を通したが、もう一方の試料には空気を通した。その後二つの試料を冷却し、そして試料の粘度を求めた。空気吹込み試料の100℃動粘度から窒素吹込み試料の100℃動粘度を引き算し、引き算の結果を窒素吹込み試料の100℃動粘度で割ることにより、各潤滑油組成物の酸化に基づく粘度増加を算出した。
【0101】
(コマツ・ホットチューブ(KHT)試験)
潤滑油組成物を一定時間、好適な空気流を用いることにより温度制御したガラス管に通す。その後ガラス管を冷却してすすぎ、そしてガラス管の内側表面に残った如何なるラッカー状堆積であれその色を、0から10(0=黒、10=清浄)の範囲の色評価点を用いて決定する。ガラス管が堆積物で完全に塞がれている場合には、試験結果を「閉塞」として記録する。
【0102】
この明細書に記した全ての公報及び特許出願明細書は、各々個々の公報又は特許出願明細書を参照内容として記載すると明確かつ別個に示唆したのと同じ程度にまで、参照内容として本明細書の記載とする。
【0103】
添付した特許請求の範囲の真意又は範囲から逸脱することなく、多くの変換や変更を本明細書に提示する開示内容に成しうることは、当該分野の熟練者であれば明白であろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の成分を含む潤滑油組成物:
a)主要量のI種基油及び/又はII種基油、および
b)少なくとも90%のアルキル基がC20又はそれ以上であるアルキル置換ヒドロキシ安息香酸の塩を含む、少なくとも一種の清浄剤、
ただし、潤滑油組成物は中又は高石鹸分配合物である。
【請求項2】
潤滑油組成物の全塩基価(TBN)が少なくとも20である請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
潤滑油組成物が一種以上の分散剤を含む請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
潤滑油組成物が、一種以上の分散剤を組成物の全質量に対して約0.3−0.7質量%含む請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
分散剤のうちの一種以上がポリアルキレンコハク酸イミドを含む請求項3に記載の組成物。
【請求項6】
少なくとも一種の清浄剤が過塩基性塩を含む請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
少なくとも一種の清浄剤が更に、アルキル置換ヒドロキシ安息香酸とアルキル置換フェノールのうちの一種以上の非過塩基性塩を含む請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
潤滑油組成物がサリシレート系清浄剤を含まない請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
潤滑油組成物が、アルキル置換ヒドロキシ安息香酸の塩を含まない清浄剤を含有することがない請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
潤滑油組成物が、スルホン酸の塩、またはアルキル置換ヒドロキシ安息香酸の塩を含まないアルキルフェノール清浄剤を含有しない請求項1に記載の組成物。
【請求項11】
トランクピストン・エンジンを運転する方法であって、下記の工程を含む方法:
(a)エンジンに低硫黄舶用重質燃料油を供給する工程、そして
(b)少なくとも90%のアルキル基がC20又はそれ以上であるアルキル置換ヒドロキシ安息香酸の塩を含む少なくとも一種の清浄剤を含有する潤滑油組成物を用いるエンジンの潤滑工程。
【請求項12】
潤滑油組成物のTBNが少なくとも20である請求項11に記載の方法。
【請求項13】
潤滑油組成物が、I種基油およびII種基油からなる群より選ばれた油を主要量で含んでいる請求項11に記載の方法。
【請求項14】
潤滑油組成物が更に、一種以上の分散剤を含んでいる請求項11に記載の方法。
【請求項15】
分散剤のうちの一種以上がポリアルキレンコハク酸イミドを含んでいる請求項14に記載の方法。
【請求項16】
少なくとも一種の清浄剤が過塩基性塩を含んでいる請求項11に記載の方法。
【請求項17】
少なくとも一種の清浄剤が更に、アルキル置換ヒドロキシ安息香酸とアルキル置換フェノールのうちの一種以上の非過塩基性塩を含む請求項16に記載の方法。
【請求項18】
低硫黄舶用重質燃料油で運転されるトランクピストン・エンジンの潤滑方法であって、少なくとも90%のアルキル基がC20又はそれ以上であるアルキル置換ヒドロキシ安息香酸の塩を含む少なくとも一種の清浄剤を含む潤滑油組成物を用いてトランクピストン・エンジンを潤滑にすることを含む方法。
【請求項19】
潤滑油組成物のTBNが少なくとも20である請求項18に記載の方法。
【請求項20】
潤滑油組成物が更に、一種以上の分散剤を含む請求項18に記載の方法。

【公開番号】特開2009−270113(P2009−270113A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−113880(P2009−113880)
【出願日】平成21年5月8日(2009.5.8)
【出願人】(501381217)シェブロン・オロナイト・テクノロジー・ビー.ブイ. (11)
【Fターム(参考)】