説明

潤滑油組成物

【課題】潤滑油中で発生するスラッジ等の不溶性堆積物の分散性に優れ、かつ粘度が低い潤滑油組成物を提供する。
【解決手段】500〜5,000の数平均分子量を有する炭化水素系重合体(A)の末端に、窒素原子含有複素環を有する基(F)を有する油溶性重合体(B)及び基油を含有してなる潤滑油組成物であって、前記窒素原子含有複素環を有する基(F)が 一般式(3)で表される基である潤滑油組成物。
−R−L (3)
式中、Rは炭素数1〜12のアルキレン基;Lは窒素原子含有複素環が有する窒素原子と結合した水素原子を除いた残基を表す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は潤滑油組成物に関する。更に詳しくは、窒素原子含有複素環を有する油溶性重合体及び基油を含有してなる潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関(例えばガソリンエンジン、ディーゼルエンジン及びガスエンジン等)用潤滑油や駆動系潤滑油(例えば自動車用等のギヤ油、作動油、自動変速機油、無段変速機油及びパワーステアリング油等)は、長期間使用していると酸化劣化し、潤滑油中にスラッジやスーツ等の不溶性堆積物が発生する。これらの不溶性堆積物は、内燃機関や駆動系機関の潤滑部位を汚染して摩耗させ、動力損失を増加させるといった種々の問題を誘発する。そこで、このような問題を解決するために、潤滑油には不溶性堆積物を潤滑油中に分散させる添加剤が配合されていて、例えばコハク酸イミド系化合物、コハク酸アミド系又はこれらのホウ素化誘導体(特許文献−1〜3)及びポリ(メタ)アクリレート系化合物(特許文献−4)が開示されている。しかしながら、これらの添加剤は、不溶性堆積物の分散性が長期間維持できないため、内燃機関や駆動系機関の潤滑部位の摩耗を抑制したり、動力損失の増加を抑制する効果が十分ではなかった。
また、近年では、地球環境保護の観点から潤滑油に対して省燃費性、長寿命性の更なる向上が求められていて、特にエンジン油の場合は、不溶性堆積物を潤滑油中に分散させる添加剤の性能向上が求められている。そこで、添加剤の性能を向上させる手段として、添加量を増加させることや添加剤の分子量を大きくすること等が検討されているが、いずれの手段も潤滑油の粘度が上昇するため、省燃費性が低下するといった問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献−1】特開平07―251056号公報
【特許文献−2】特開平09−176673号公報
【特許文献−3】特開2005―162968号公報
【特許文献−4】特開2002―145961号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記問題点に鑑みなされたものであり、本発明の目的は、潤滑油中で発生するスラッジ等の不溶性堆積物の分散性に優れ、かつ粘度が低い潤滑油組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明に到達した。すなわち、本発明は、500〜5,000の数平均分子量を有する炭化水素系重合体(A)の末端に、窒素原子含有複素環を有する基(F)を有する油溶性重合体(B)、及び基油を含有してなる潤滑油組成物である。
【発明の効果】
【0006】
本発明の潤滑油組成物は、潤滑油中に発生するスラッジ等の不溶性堆積物の分散性に優れることから、内燃機関や駆動系機関の潤滑部位を清浄に保ち、摩耗を抑制することができるため、動力損失の増加を抑制する効果に優れる。また、潤滑油組成物の粘度が低いため、自動車の省燃費性を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明における数平均分子量(以下、Mnと略記する)が500〜5,000の炭化水素系重合体(A)としては、不飽和炭化水素の重合体が挙げられる。不飽和炭化水素としては、(1)脂肪族不飽和炭化水素[炭素数2〜36のオレフィン(例えばエチレン、プロピレン、ブテン、イソブテン、ペンテン、ヘプテン、ジイソブチレン、オクテン、ドデセン、オクタデセン、トリアコセン及びヘキサトリアコセン等)、炭素数2〜36のアルカジエン(例えばブタジエン、イソプレン、1,4−ペンタジエン、1,6−ヘキサジエン及び1,7−オクタジエン等)]、(2)脂環式不飽和炭化水素[例えばシクロヘキセン、(ジ)シクロペンタジエン、ピネン、リモネン、インデン、ビニルシクロヘキセン及びエチリデンビシクロヘプテン等]、(3)芳香族基含有不飽和炭化水素(例えばスチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、2,4−ジメチルスチレン、エチルスチレン、イソプロピルスチレン、ブチルスチレン、フェニルスチレン、シクロヘキシルスチレン、ベンジルスチレン、クロチルベンゼン、ビニルナフタレン、ジビニルベンゼン、ジビニルトルエン、ジビニルキシレン及びトリビニルベンゼン等)等が挙げられる。前記不飽和炭化水素のうち、基油への溶解性の観点から好ましいのは、脂肪族不飽和炭化水素であり、更に好ましいのは、プロピレン、ブテン、イソブチレン、ブタジエン及びイソプレンである。炭化水素系重合体(A)は、前記不飽和炭化水素の1種のみから得られた重合体でも、また2種以上から得られた共重合体であってもよい。また共重合体の場合は、ブロック重合体でもランダム重合体であってもよい。
【0008】
炭化水素系重合体(A)は、直鎖構造でも分岐構造でもよいが、基油への溶解性及び潤滑油組成物の低粘度化の観点から好ましいのは分岐構造である。
【0009】
炭化水素系重合体(A)の具体例としては、ポリプロピレン、ポリイソブテン、ポリブタジエン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ブタジエン共重合体、エチレン−シクロヘキセン共重合体、プロピレン−ベンジルスチレン共重合体及びスチレン−ビニルナフタレン共重合体等が挙げられる。これらのうち、基油への溶解性及び潤滑油組成物の低粘度化の観点から好ましいのは、ポリイソブテン、ポリブタジエン、ポリイソプレン、エチレン−プロピレン共重合体であり、更に好ましいのは、エチレン−プロピレン共重合体及びポリイソブテンであり、特に好ましいのはポリイソブテンである。
【0010】
本発明における炭化水素系重合体(A)のMnは500〜5,000であり、不溶性堆積物の分散性及び潤滑油組成物の低粘度化の観点から好ましくは800〜4,000であり、更に好ましくは900〜2,400である。炭化水素系重合体(A)のMnが500未満であると不溶性堆積物の分散性に乏しく、5,000を超えると潤滑油組成物の粘度が高くなり好ましくない。炭化水素系重合体(A)のMnは、ゲルパーミュエーションクロマトグラフィーにより以下の条件で測定することができる。
装置 :「HLC−802A」[東ソー(株)製]
カラム :「TSK gel GMH6」2本
測定温度 :40℃
試料溶液 :0.5重量%のテトラヒドロフラン溶液
溶液注入量 :200μl
検出装置 :屈折率検出器
標準物質 :ポリスチレン(TSKstandard POLYSTYRENE)[東ソー(株)製]
【0011】
炭化水素系重合体(A)は、基油への溶解性の観点から、特定の溶解度パラメーターを有するものが好ましい。溶解度パラメーターの範囲として好ましいのは7.0〜9.0であり、更に好ましいのは7.1〜8.5である。なお、本発明における溶解度パラメーターは、Fedors法[Polym.Eng.Sci.14(2)152,1974]によって算出される値である。
【0012】
本発明における油溶性重合体(B)は、炭化水素系重合体(A)の末端に窒素原子含有複素環を有する基(F)を有する重合体であるが、ここで、炭化水素系重合体(A)の末端とは、(A)の主鎖方向の末端であり片末端であっても両末端であってもよい。
【0013】
窒素原子含有複素環を有する基(F)を有する官能基を有する油溶性重合体(B)としては、一般式(1)で表される油溶性重合体(B1)及び一般式(2)で表される油溶性重合体(B2)が挙げられる。
【化1】

【化2】

式中、Aは炭化水素系重合体(A)の残基;Dは−O−、−NH−又は−NR−で表される基であってRは炭素数1〜12のアルキル基;X及びYは、それぞれ独立に水素原子、炭素数1〜12のアルキル基又は窒素原子含有複素環を有する基(F)であり、X及びYの少なくとも一方は窒素原子含有複素環を有する基(F);Zは窒素原子含有複素環を有する基(F)である。なお、Aで示される炭化水素系重合体(A)の残基とは、後述のエン反応によって形成される、炭化水素系重合体(A)の末端の二重結合がアリル位に転位し、かつ末端の1個の水素原子を除いた残基である。
【0014】
炭素数1〜12のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、n−ヘキシル基、イソヘキシル基、n−ヘプチル基、イソヘプチル基、n−オクチル基、イソオクチル基、2−エチルヘキシル基、n−ノニル基、イソノニル基、n−デシル基、イソデシル基及びn−ドデシル基等が挙げられる。これらのうち、不溶性堆積物の分散性の観点から好ましいのは、炭素数2〜4のアルキル基である。
【0015】
前記窒素原子含有複素環を有する基(F)としては、一般式(3)で表される基が挙げられる。
−R−L (3)
一般式(3)におけるRは炭素数1〜12のアルキレン基であり、炭素数1〜12のアルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、n−プロピレン基、イソプロピレン基、n−ブチレン基、イソブチレン基、n−ペンチレン基、イソペンチレン基、n−ヘキシレン基、イソヘキシレン基、n−ヘプチレン基、イソヘプチレン基、n−オクチレン基、イソオクチレン基、2−エチルヘキシレン基、n−ノニレン基、イソノニレン基、n−デシレン基、イソデシレン基及びn−ドデシレン基等が挙げられる。これらのうち、不溶性堆積物の分散性の観点から好ましいのは、炭素数2〜4のアルキレン基である。
【0016】
一般式(3)におけるLは、窒素原子含有複素環が有する窒素原子と結合した水素原子を除いた残基であり、窒素原子含有複素環としては、ピロリドン、ピロール、イミダゾール、チアゾール、ピラゾール、イソオキサゾール、イソチアゾール、トリアゾール、ピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、ピペリジン、ピペラジン、モルホリン及びトリアジンが挙げられる。これらのうち、不溶性堆積物の分散性の観点から好ましいのは、ピロリドン、イミダゾール、モルホリン及びトリアジンであり、更に好ましいのはピロリドンである。
【0017】
一般式(1)におけるX及びYは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜12のアルキル基、窒素原子含有複素環を有する基(F)であり、かつX及びYの少なくとも一方は窒素原子含有複素環を有する基(F)であり、好ましいのは、X及びYがいずれも窒素原子含有複素環を有する基(F)であり、更に好ましいのは、X及びYがいずれも一般式(3)で表される基である。
【0018】
一般式(2)におけるZは、窒素原子含有複素環を有する基(F)を有する官能基であり、好ましいのは一般式(3)で表される基である。
【0019】
本発明における窒素原子含有複素環を有する基(F)を有する油溶性重合体(B)としては、具体的には、ピロリドンが有する窒素原子と結合した水素原子を除いた残基を有する油溶性重合体、イミダゾールが有する窒素原子と結合した水素原子を除いた残基を有する油溶性重合体、イミダゾリニウムカチオンが有する窒素原子と結合した水素原子を除いた残基を有する油溶性重合体、モルホリンが有する窒素原子と結合した水素原子を除いた残基を有する油溶性重合体及びトリアジンが有する窒素原子と結合した水素原子を除いた残基を有する油溶性重合体が挙げられる。これらのうち、不溶性堆積物の分散性の観点から好ましいのは、ピロリドンが有する窒素原子と結合した水素原子を除いた残基を有する油溶性重合体である。
【0020】
本発明における油溶性重合体(B)の「油溶性」とは、25℃の鉱物油「YUBASE3」(SKコーポレーション製)100重量部に、少なくとも1重量部の油溶性重合体(B)が透明に溶解することをいう。油溶性重合体(B)は、前記鉱物油に少なくとも2重量部が溶解することが好ましく、少なくとも5重量部が溶解することが更に好ましい。
【0021】
本発明における油溶性重合体(B)の製造方法としては、以下の(1)及び(2)の方法が挙げられる。
(1)ビニリデン基を有するMnが500〜5,000のポリオレフィン(A1)と無水マレイン酸とのエン反応により得られたアルケニル無水コハク酸(C)を、一般式(4)で表される化合物(E)でアミド化、エステル化又はイミド化する方法。なお、油溶性重合体(B)が一般式(1)で表される重合体であり、一般式(1)におけるX及びYのいずれか一つが炭素数1〜12のアルキル基の場合は、炭素数1〜12の一価アルコールをアミド化、エステル化又はイミド化の際に併用してもよい。
H−D−R−L (4)
式中、Dは一般式(1)におけるDと同様の基;R及びLは前記一般式(3)におけるR及びLと同様の基である。また、R及びLの好ましい範囲も、一般式(3)におけるR及びLと同様である。
【0022】
(2)ビニリデン基を有するMnが500〜5,000のポリオレフィン(A1)と、一般式(5)で表される化合物又は一般式(6)で表される化合物とのエン反応により得る方法。
【化3】

式中、D、X及びYは、前記一般式(1)におけるD、X及びYと同様の基である。
【化4】

式中、Zは、前記一般式(2)におけるZと同様の基である。
【0023】
ビニリデン基を有するMnが500〜5,000のポリオレフィン(A1)としては、例えば特開2006−232672号公報に記載の方法で前記不飽和炭化水素を重合して得られた重合体が挙げられ、具体的にはポリプロピレン、ポリイソブテン、ポリブタジエン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ブタジエン共重合体、エチレン−シクロヘキセン共重合体、プロピレン−ベンジルスチレン共重合体及びスチレン−ビニルナフタレン共重合体等が挙げられる。また(A1)としては、市販品を用いることもでき、例えばポリイソブテン{「GlissopalV500」(BASF社製)及び「ニッサンポリブテン015N」[日油(株)製]等}等が挙げられる。
【0024】
炭素数1〜12の一価アルコールとしては、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、t−ブチルアルコール、n−ペンチルアルコール、イソペンチルアルコール、n−ヘキシルアルコール、イソヘキシルアルコール、n−ヘプチルアルコール、イソヘプチルアルコール、n−オクチルアルコール、イソオクチルアルコール、2−エチルヘキシルアルコール、n−ノニルアルコール、イソノニルアルコール、n−デシルアルコール、イソデシルアルコール及びn−ドデシルアルコール等が挙げられる。
【0025】
前記エン反応は、通常の反応条件で行うことができ、例えば前記ビニリデン基を有するMnが500〜5,000のポリオレフィン(A1)及び無水マレイン酸を耐圧反応容器に投入し、撹拌下、反応温度200〜250℃、圧力0.1〜1.2MPa、反応時間1〜50時間でエン反応する方法等が挙げられる。(A1)と無水マレイン酸のモル比は、エン反応の反応性の観点から好ましくは1:1〜1:1.2であり、エン反応終了後、未反応の無水マレイン酸は減圧留去により除去することができる。
【0026】
前記アミド化、エステル化及びイミド化は、通常の反応条件で行うことができ、例えばエン反応により得られたアルケニル無水コハク酸(C)及び一般式(4)で表される化合物(C1)を反応容器に投入し、反応温度100〜250℃、圧力−0.1〜1.2MPa、反応時間1〜50時間で撹拌下、アミド化、エステル化又はイミド化で生成する水(以下、生成水と略記する。)を反応系外に除去させながら行う方法が挙げられる。前記(C)と(E)のモル比[(C)/(E)]は、アミド化及びエステル化の場合好ましくは0.5〜1.0であり、イミド化の場合好ましくは0.8〜1.0である。またエステル化の場合、反応を促進させるために、(C)の重量に基づき0.05〜0.5重量%の触媒を使用することが好ましい。触媒としては、無機酸(例えば硫酸及び塩酸等)、有機スルホン酸(例えばメタンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、キシレンスルホン酸及びナフタレンスルホン酸等)及び有機金属化合物(例えばジブチルチンオキサイド、テトライソプロポキシチタネート、ビストリエタノールアミンチタネート及びシュウ酸チタン酸カリウム等)等が挙げられる。触媒を使用した場合は、エステル化反応終了後、必要により触媒を中和し、吸着剤で処理して触媒を除去・精製することができる。生成水を反応系外に徐去する方法としては、以下の方法が挙げられる。
(1)水と相溶しない有機溶媒(例えばトルエン、キシレン及びシクロヘキサン等)を使用して、還流下、有機溶媒と生成水とを共沸させて、生成水のみを反応系外に徐去する方法
(2)反応系内にキャリアガス(例えば空気、窒素、ヘリウム、アルゴン及び二酸化炭素等)を吹き込み、キャリアガスと共に生成水を反応系外に徐去する方法
(3)反応系内を減圧にして生成水を反応系外に徐去する方法
また、前記(1)の方法で有機溶媒を使用した場合は、有機溶媒は減圧留去により除去することができる。
【0027】
本発明における油溶性重合体(B)は、基油に溶解させやすいという観点から、必要により希釈剤に溶解させてもよい。
【0028】
希釈剤としては、脂肪族溶剤[炭素数6〜12の脂肪族炭化水素(例えばヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、オクタン、デカリン及び灯油等)]、芳香族溶剤{炭素数6〜16の芳香族溶剤[例えばトルエン、キシレン、エチルベンゼン、炭素数9の芳香族混合溶剤(トリメチルベンゼン及びエチルトルエン等の混合物)及び炭素数10又は11の芳香族混合溶剤等]}、鉱物油(例えば溶剤精製油、パラフィン油、イソパラフィンを含有する高粘度指数油、水素化分解による高粘度指数油及びナフテン油等)及び合成潤滑油[炭化水素系合成潤滑油(ポリα−オレフィン系合成潤滑油等)及びエステル系合成潤滑油等]等が挙げられる。
【0029】
希釈剤の使用率は、油溶性重合体(B)及び希釈剤の全重量に基づき、ハンドリング性の観点から好ましくは10〜80重量%であり、更に好ましくは15〜70重量%であり、特に好ましくは20〜60重量%である。
【0030】
本発明における基油としては、パラフィン、イソパラフィン、ナフテンを主成分とする溶剤精製油、水素化処理油、水素化分解油並びにエステル系及びポリα−オレフィン系の合成油等が挙げられ、これらは単独でも2種以上を併用してもよい。
【0031】
基油の100℃での動粘度は、好ましくは1〜10mm/sであり、更に好ましくは1〜8mm/sであり、特に好ましくは2〜5mm/sである。基油の動粘度が1mm/s以上であると使用中温度上昇が抑制され、油分の蒸発が少なく、潤滑部分で高圧に晒されても油膜切れを生じたり焼き付きを起こしにくい。基油の動粘度が10mm/s以下であると粘性抵抗が少なく、エネルギーロスが少ない。
基油の40℃での動粘度は、好ましくは8〜20mm/sであり、更に好ましくは12〜18mm/sであり、特に好ましくは14〜16mm/sである。基油の動粘度が8mm/s以上であると使用中温度上昇が抑制され、油分の蒸発が少なく、潤滑部分で高圧に晒されても油膜切れを生じたり焼き付きを起こしにくい。基油の動粘度が20mm/s以下であると粘性抵抗が少なく、エネルギーロスが少ない。
【0032】
基油の粘度指数は、好ましくは80以上であり、更に好ましくは100〜250である。基油の流動点(JIS K2269)は、好ましくは−5℃以下であり、更に好ましくは−10〜−70℃である。
【0033】
本発明の潤滑油組成物における油溶性重合体(B)の含有率は、潤滑油組成物の全重量に基づき、不溶性堆積物の分散性の観点から好ましくは0.1〜20重量%であり、更に好ましくは0.5〜10重量%であり、特に好ましくは1〜5重量%である。
【0034】
本発明の潤滑油組成物には、その用途及び要求される性能により、更にその他の潤滑油添加剤を含有してもよい。
【0035】
その他の潤滑油添加剤としては、公知の潤滑油添加剤として使用されている酸化防止剤、油性剤、腐食防止剤、摩擦調整剤、摩耗防止剤、極圧剤、防錆剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤及び消泡剤等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
これらの潤滑油添加剤の含有率は、所定の効果を奏する限り特に限定されるものではないが、潤滑油組成物の全重量に基づくそれぞれの好ましい含有率の例を以下に示す。
酸化防止剤の含有率は、好ましくは0〜5重量%であり、更に好ましくは0.01〜3重量%である。油性剤の含有率は、好ましくは0〜5重量%であり、更に好ましくは0.01〜3重量%である。
摩耗防止剤、極圧剤及び摩擦調整剤の含有率は、好ましくは0〜10重量%であり、更に好ましくは0.01〜5重量%である。
防錆剤の含有率は、好ましくは0〜5重量%であり、更に好ましくは0.01〜2重量%である。
粘度指数向上剤及び流動点降下剤の含有率は、好ましくは0〜15重量%であり、更に好ましくは0.01〜15重量%であり、特に好ましくは0.1〜7重量%である。
消泡剤の含有率は、好ましくは0〜0.1重量%であり、更に好ましくは0.0005〜0.01重量%である。
【0036】
本発明の潤滑油組成物の40℃における動粘度は、好ましくは10〜40mm/sであり、更に好ましくは15〜35mm/s、特に好ましくは20〜30mm/sである。40℃における動粘度が10mm/s以上であると使用中温度上昇が抑制され、油分の蒸発が少なく、潤滑部分で高圧に晒されても油膜切れを生じたり焼き付きを起こしにくい。40℃における動粘度が40mm/s以下であると粘性抵抗が少なく、エネルギーロスが少ない。なお、潤滑油組成物の40℃における動粘度は、JIS K2283の方法で測定することができる。
【0037】
本発明の潤滑油組成物は、ギヤ油(工業用及び自動車用)、変速機油[自動変速機油(オートマチックトランスミッション油、トロイダルCVT油及びベルトCVT油)及びマニュアルトランスミッション油等]、トラクション油、作動油(油圧作動油、パワーステアリング油及びショックアブソーバー油等)並びにエンジン油(ガソリン用及びディーゼル用等)等の用途に幅広く好適に用いることができる。これらの用途のうち、潤滑油の長寿命化や省燃費性の向上の観点から好ましいのは、変速機油及びエンジン油であり、更に好ましいのはガソリンエンジン油及びディーゼルエンジン油であり、特に好ましいのは自動車用ガソリンエンジン油及びディーゼルエンジン油の低粘度グレード(0W及び5W)である。
【実施例】
【0038】
実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下において、部は重量部を示す。
【0039】
<製造例1>
加熱冷却装置及び撹拌機を備えた耐圧反応容器に、1.0mol/Lに調整したメチルアルミノキサンのトルエン溶液2部、1.0mol/Lのジエチルアルミニウムクロリドのトルエン溶液0.6部及びトルエン180部を投入し、室温で10分間撹拌した。次いでプロピレンモノマー200部及び10mmol/Lに調整したビス(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリドのトルエン溶液20部を投入し、撹拌下115℃に昇温した(耐圧反応装置圧力:2.64MPa)。圧力2.85MPaのエチレンを耐圧反応容器に1時間供給した。エチレンの供給中は、圧力を2.85MPaに保つためにエチレンの供給量を調整した。エチレンを1時間供給した後、更に115℃で3時間重合を行った。20mmHgで1時間トルエンを減圧除去し、ビニリデン基を有するエチレン−プロピレンランダム共重合体[エチレン/プロピレン=50/50(重量比)、Mn=4,500]400部を得た。
【0040】
<製造例2>
温度計、加熱冷却装置、撹拌機及び還流冷却器を備えた耐圧反応容器にポリイソブテン(Mn=1,300)「GlissopalV500」(BASF社製)1,300部(1.0モル部)及び無水マレイン酸117.6部(1.2モル部)を投入し、窒素置換した後、210℃で24時間エン反応させた。180℃に冷却した後、未反応の無水マレイン酸を1時間かけて減圧(10mmHg)除去することによりポリイソブテニルコハク酸無水物1398部を得た。室温まで冷却後、1−(2−ヒドロキシエチル)2−ピロリドン258部(2.0モル部)及びジブチルチンオキサイド0.1部を投入し、200℃まで加熱し、20mmHgで2時間、減圧脱水しながらエステル化反応を行った。未反応の1−(2−ヒドロキシエチル)−2−ピロリドンを1時間かけて減圧(10mmHg)除去し油溶性重合体(B−1)1,600部を得た。(B−1)は、一般式(1)で表される油溶性重合体であり、一般式(1)におけるAがポリイソブテンの残基、Dが−O−で表される基、X及びYが一般式(3)で表される基であり、一般式(3)におけるRがエチレン基、Lがピロリドンが有する窒素原子と結合した水素原子を除いた残基である。
【0041】
<製造例3>
ポリイソブテン(Mn=1,300)「GlissopalV500」(BASF社製)1,300部をポリイソブテン(Mn=1,000)「GlissopalV190」(BASF社製)1,000部(1.0モル部)に変更した以外は製造例2と同様にして、油溶性重合体(B―2)1,300部を得た。(B−2)は、一般式(1)で表される油溶性重合体であり、一般式(1)におけるAがポリイソブテンの残基、Dが−O−で表される基、X及びYが一般式(3)で表される基であり、一般式(3)におけるRがエチレン基、Lがピロリドンが有する窒素原子と結合した水素原子を除いた残基である。
【0042】
<製造例4>
ポリイソブテン(Mn=1,300)「GlissopalV500」(BASF社製)1,300部をポリイソブテン(Mn=580)「ニッサンポリブテン015N」[日油(株)製]580部に変更した以外は製造例2と同様にして、油溶性重合体(B―3)820部を得た。(B−3)は、一般式(1)で表される油溶性重合体であり、一般式(1)におけるAがポリイソブテンの残基、Dが−O−で表される基、X及びYが一般式(3)で表される基であり、一般式(4)におけるRがエチレン基、Lがピロリドンが有する窒素原子と結合した水素原子を除いた残基である。
【0043】
<製造例5>
ポリイソブテン(Mn=1,300)「GlissopalV500」(BASF社製)1,300部をポリイソブテン(Mn=2,300)「GlissopalV1500」(BASF社製)2,300部(1.0モル部)に変更した以外は製造例2と同様にして、油溶性重合体(B―4)2,540部を得た。(B−4)は、一般式(1)で表される油溶性重合体であり、一般式(1)におけるAがポリイソブテンの残基、Dが−O−で表される基、X及びYが一般式(3)で表される基であり、一般式(3)におけるRがエチレン基、Lがピロリドンが有する窒素原子と結合した水素原子を除いた残基である。
【0044】
<製造例6>
ポリイソブテン(Mn=1,300)(「GlissopalV500:BASF社製」)1,300部をポリイソブテン(Mn=2,650)「ニッサンポリブテン015N」[日油(株)製]2,650部(1.0モル部)に変更した以外は製造例2と同様にして、油溶性重合体(B―5)2,890部を得た。(B−5)は、一般式(1)で表される油溶性重合体であり、一般式(1)におけるAがポリイソブテンの残基、Dが−O−で表される基、X及びYが一般式(3)で表される基であり、一般式(3)におけるRがエチレン基、Lがピロリドンが有する窒素原子と結合した水素原子を除いた残基である。
【0045】
<製造例7>
ポリイソブテン(Mn=1,300)(「GlissopalV500:BASF社製」)1,300部を製造例1で得られたビニリデン基を有するポリプロピレン(Mn=4,500)4,500部(1.0モル部)に変更した以外は製造例2と同様にして、油溶性重合体(B―6)4,740部を得た。(B−6)は、一般式(1)で表される油溶性重合体であり、一般式(1)におけるAがポリプロピレンの残基、Dが−O−で表される基、X及びYが一般式(3)で表される基であり、一般式(3)におけるRがエチレン基、Lがピロリドンが有する窒素原子と結合した水素原子を除いた残基である。
【0046】
<製造例8>
1−(2−ヒドロキシエチル)−2−ピロリドン258部(2.0モル部)を1−(2−アミノエチル)2−ピロリドン128部(1.0モル部)に変更した以外は製造例2と同様にして、油溶性重合体(B―7)1,500部を得た。(B−7)は、一般式(2)で表される油溶性重合体であり、一般式(2)におけるAがポリイソブテンの残基、Zが一般式(3)で表される基であり、一般式(3)におけるRがエチレン基、Lがピロリドンが有する窒素原子と結合した水素原子を除いた残基である。
【0047】
<製造例9>
1−(2−ヒドロキシエチル)−2−ピロリドン258部(2.0モル部)を2−ヒドロキシエチルモルホリン262部(2.0モル部)に変更した以外は製造例2と同様にして、油溶性重合体(B―8)1,640部を得た。(B−8)は、一般式(1)で表される油溶性重合体であり、一般式(1)におけるAがポリイソブテンの残基、Dが−O−で表される基、X及びYがモリホリノエチル基である。
【0048】
<製造例10>
1−(2−ヒドロキシエチル)−2−ピロリドン258部(2.0モル部)を2−ヒドロキシエチルピリジン246部(2.0モル部)に変更した以外は製造例2と同様にして、油溶性重合体(B―9)2,252部を得た。(B−9)は、一般式(1)で表される油溶性重合体であり、一般式(1)におけるAがポリイソブテンの残基、Dが−O−で表される基、X及びYがピリジニルエチル基である。
【0049】
<比較製造例1>
ポリイソブテン(Mn=1,300)「GlissopalV500」(BASF社製)1,300部をポリイソブテン(Mn=430)「ニッサンポリブテン06N」[日油(株)製]430部(1.0モル部)に変更した以外は製造例2と同様にして、油溶性重合体(H―1)1,158部を得た。
【0050】
<比較製造例2>
ポリイソブテン(Mn=1,300)「GlissopalV500」(BASF社製)1,300部をポリイソブテン(Mn=6,000)「サンワックスLEL−800」[三洋化成工業(株)製]6,000部(1.0モル部)に変更した以外は製造例2と同様にして、油溶性重合体(H―2)6,728部を得た。
【0051】
<実施例1〜9、比較例1、2>
製造例2〜10、比較製造例1、2で得られた油溶性重合体(B−1)〜(B−9)、(H−1)、(H−2)2.4部を、基油としての鉱物油「YUBASE4」(SKコーポレーション製)97.6部にそれぞれ溶解させ、潤滑油組成物(P−1)〜(P−9)、比較の潤滑油組成物(Q−1)、(Q−2)を得た。これらの潤滑油組成物について、以下の方法でカーボンブラック分散性、ホットチューブ清浄性を評価し、潤滑油組成物の40℃における動粘度を測定した。結果を表1、2に示す。
【0052】
<カーボンブラック分散性の評価方法>
200mLの容器にカーボンブラック「MB−100」[三菱化学(株)製]1.5g及び前記潤滑油組成物(P−1)〜(P−9)、比較の潤滑油組成物(Q−1)、(Q−2)をそれぞれ48.5g投入し、ホモジナイザーを用いて29,000±1,000rpmで10分間混合してカーボンブラック分散試料とした。次いで、70mLのガラス容器にカーボンブラック分散試料50mg及びキシレン50mLを投入し、容器に蓋をして10回激しく振った後、7日間常温で静置後、カーボンブラックの沈降の有無について以下の評価基準に基づいて目視評価した。
[評価基準]
◎:沈降物がない ・・・分散性極めて良好
○:沈降物が極微量あり・・・分散性良好
×:沈降物が多量にある・・・分散性不良
【0053】
<ホットチューブ清浄性の評価方法>
JPI−5S−55−99(「日本石油学会石油類試験規格」エンジン油ホットチューブ試験法)に準拠し、内径2mmのガラス管中に、潤滑油組成物(P−1)〜(P−9)、比較の潤滑油組成物(Q−1)、(Q−2)をそれぞれ0.3ml/時、及び空気10ml/秒をガラス管の温度を250℃に保ちながら16時間流し続けた後、ガラス管中の付着物の色を色見本と比較し清浄性を評価した。数字が大きいほど清浄性に優れることを表す。
【0054】
<潤滑油組成物の動粘度の測定方法>
JIS K2283の方法で、潤滑油組成物(P−1)〜(P−9)、比較の潤滑油組成物(Q−1)、(Q−2)の40℃における動粘度を測定した。
【0055】
【表1】

【0056】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の潤滑油組成物は、輸送用機器用及び各種工作機器用等の駆動系潤滑油[ギヤ油(マニュアルトランスミッション油及びデファレンシャル油等)、自動変速機油(オートマチックトランスミッション油、ベルトCVT油及びトロイダルCVT油等)]、作動油[機械作動油、パワーステアリング油及びショックアブソーバー油等]並びにエンジン油[ガソリン用及びディーゼル用等]として好適に用いることができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
500〜5,000の数平均分子量を有する炭化水素系重合体(A)の末端に、窒素原子含有複素環を有する基(F)を有する油溶性重合体(B)、及び基油を含有してなる潤滑油組成物。
【請求項2】
前記油溶性重合体(B)が、一般式(1)で表される油溶性重合体(B1)及び/又は一般式(2)で表される油溶性重合体(B2)である請求項1記載の潤滑油組成物。
【化1】

【化2】

[式中、Aは炭化水素系重合体(A)の残基;Dは−O−、−NH−又は−NR−で表される基であってRは炭素数1〜12のアルキル基;X及びYは、それぞれ独立に水素原子、炭素数1〜12のアルキル基又は窒素原子含有複素環を有する基(F)であり、X及びYの少なくとも一方は窒素原子含有複素環を有する基(F);Zは窒素原子含有複素環を有する基(F)である。]
【請求項3】
前記窒素原子含有複素環を有する基(F)が一般式(3)で表される基である請求項1又は2記載の潤滑油組成物。
−R−L (3)
[式中、R1は炭素数1〜12のアルキレン基;Lは窒素原子含有複素環が有する窒素原子と結合した水素原子を除いた残基を表す。]
【請求項4】
前記一般式(3)におけるLが、ピロリドンが有する窒素原子と結合した水素原子を除いた残基である請求項3記載の潤滑油組成物。
【請求項5】
前記油溶性重合体(B1)及び(B2)が、ビニリデン基を有する500〜5,000の数平均分子量を有するポリオレフィン(A1)と無水マレイン酸とのエン反応により得られたアルケニル無水コハク酸(C)を、一般式(4)で表される化合物(E)で、アミド化、エステル化又はイミド化して得られる油溶性重合体である請求項1〜4のいずれかに記載の潤滑油組成物。
H−D−R−L (4)
[式中、Dは一般式(1)におけるDと同様の基;R1及びLは前記一般式(3)におけるR1及びLと同様の基である。]
【請求項6】
前記油溶性重合体(B1)及び(B2)が、ビニリデン基を有する500〜5,000の数平均分子量を有するポリオレフィンと、一般式(5)で表される化合物又は一般式(6)で表される化合物とのエン反応により得られる油溶性重合体である請求項1〜5のいずれかに記載の潤滑油組成物。
【化3】

【化4】

[式中、D、X、Y及びZは前記一般式(1)又は一般式(2)におけるD、X、Y及びZと同様の基である。]


【公開番号】特開2012−153801(P2012−153801A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−14174(P2011−14174)
【出願日】平成23年1月26日(2011.1.26)
【出願人】(000002288)三洋化成工業株式会社 (1,719)
【Fターム(参考)】