説明

潤滑油組成物

【課題】発電機を駆動することを主目的とする省燃費性を改善する内燃機関用潤滑油組成物を提供する。
【解決手段】(A)基油が、ガスクロマト蒸留により得られる炭素数分布の炭素数24以下の成分の割合(CA)と炭素数25以上の成分の割合(CB)の比(CA/CB)が2.0以上の炭化水素系基油であり、潤滑油組成物の80℃における高温高剪断(HTHS)粘度(Vk)と150℃におけるHTHS粘度(Vs)の比(Vs/Vk)が0.4以上であり、100℃の動粘度が5.2mm/s以上、8mm/s以下であることを特徴とする潤滑油組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、内燃機関や変速機、その他機械装置には、その作用を円滑にするために潤滑油が用いられる。特に内燃機関用潤滑油(エンジン油)は内燃機関の高性能化、高出力化、運転条件の苛酷化などに伴い、高度な性能が要求される。したがってエンジン油は高温での高い粘度の維持が不可欠である。またこうした要求性能を満たすため、従来のエンジン油には摩耗防止剤、金属系清浄剤、無灰分散剤、酸化防止剤などの種々の添加剤が配合されている(例えば、下記特許文献1〜3を参照。)。
さらに近年、潤滑油に求められる省燃費性能は益々高くなっており、高粘度指数基油の適用や各種摩擦調整剤の適用などが検討されている(例えば、下記特許文献4を参照。)。
ところで、内燃機関を駆動力として発電するシステムは古くから存在している。しかしこれに使用される潤滑油はこれまで省燃費性が問題とされたことはない。
ところが自動車にもハイブリッド等モーターを駆動力の一部として使用するようになり、エンジンも自動車の駆動力というより、モーターを発電機として使用する場合の駆動用として、あるいは両方の動力として使用されることになってきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−279287号公報
【特許文献2】特開2002−129182号公報
【特許文献3】特開平08−302378号公報
【特許文献4】特開平06−306384号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
これまでのモーターの駆動ハイブリッド車に使用されるエンジンの潤滑油は省燃費型とはいえ、従来のエンジン油の技術延長線上にあった。
一般的な省燃費化の手法として、製品の動粘度の低減や、粘度指数の向上つまり基油粘度の低減と粘度指数向上剤の添加を組み合わせることによるマルチグレード化などが知られている。しかしながら、製品粘度の低減や、基油粘度の低減は厳しい潤滑条件(高温高せん断条件)における潤滑性能を低下させ、摩耗や焼き付き、疲労破壊等の不具合の発生原因となることが懸念された。
【0005】
そこでそれら不具合を防止し、耐久性を維持するためには、150℃における高温高せん断粘度(HTHS粘度)を維持することが必要となる。つまり、実用性能を維持しながら、さらに省燃費性を付与するためには、150℃のHTHS粘度を維持し、40℃および100℃の動粘度や100℃のHTHS粘度を低減し、粘度指数を向上することが重要であった。
【0006】
また、低温性能の向上方法としては、40℃および100℃の動粘度の低減や基油粘度を低減し、粘度指数向上剤を添加することによるマルチグレード化により可能となるが、製品粘度の低減や基油粘度の低減は厳しい潤滑条件(高温高せん断条件)における潤滑性能を低下させ、摩耗や焼き付き、疲労破壊等の不具合の発生原因となることが懸念されされ、省燃費性の改善には限界があった。
【0007】
本発明はこのような実情に鑑みてなされたものであり、発電機を駆動することを主目的とする省燃費性を改善する内燃機関用潤滑油組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明は、(A)基油が、ガスクロマト蒸留により得られる炭素数分布の炭素数24以下の成分の割合(CA)と炭素数25以上の成分の割合(CB)の比(CA/CB)が2.0以上の炭化水素系基油であり、潤滑油組成物の80℃における高温高剪断(HTHS)粘度(Vk)と150℃におけるHTHS粘度(Vs)の比(Vs/Vk)が0.4以上であり、100℃の動粘度が5.2mm/s以上、8mm/s以下であることを特徴とする潤滑油組成物に関する。
【0009】
また本発明は、(B)重量平均分子量とPSSIの比が1.2×104以上である粘度指数向上剤を含有することを特徴とする前記記載の潤滑油組成物に関する。
さらに本発明は、発電機用エンジン油であることを特徴とする前記記載の潤滑油組成物に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の潤滑油組成物は、省燃費性に優れていながら、エンジンの耐久性に影響のある150℃のHTHS粘度を確保し、大幅な省燃費性を出現させながらエンジンの耐久性を確保することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳述する。
【0012】
本発明の潤滑油組成物においては、基油としてガスクロマト蒸留により得られる炭素数分布の炭素数24以下の成分の割合(CA)と炭素数25以上の成分の割合(CB)の比(CA/CB)が2.0以上の炭化水素系基油(以下、「本発明に係る潤滑油基油」という。)が用いられる。CA/CBは2.5以上であることが好ましく、より好ましくは3以上、最も好ましくは5以上である。CA/CBが2.0未満では十分低い80℃における高温高剪断(HTHS)粘度を得ることができない。
【0013】
またガスクロマト蒸留により得られる炭素数分布の炭素数18以下の成分の割合(CC)と炭素数19以上の成分の割合(CD)の比CC/CDが0.3以下の炭化水素系基油であることが好ましい。好ましくはCC/CDが0.25以下、更に好ましくは0.2以下、最も好ましくは0.1以下である。CC/CDが0.3を超えると、対象とする発電機用エンジンでも潤滑油消費量が増えるため好ましくない。
【0014】
ここでいうガスクロマト蒸留は下記条件にて実施した。
Model:島津製作所社製 GC−2010
Column:ウルトラアロイ−1HT(30mm×0.25mmΦ)
キャリアガス:ヘリウム 200kPa
Detector:FID
Det.Temp.:350℃
Oven Temp.:80℃〜320℃(5min)
Temp.Rate:5℃/min
Inj.Vol:1μLトルエン溶液
【0015】
本発明に係る潤滑油基油は、具体的には、原油を常圧蒸留および/または減圧蒸留して得られた潤滑油留分を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、水素化精製、硫酸洗浄、白土処理等の精製処理のうちの1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて精製した炭化水素系基油などのうち、炭素数分布の炭素数24以下の成分(CA)と炭素数25以上の成分(CB)の比(CA/CB)が2.0以上の条件を満たす鉱油系基油が使用できる。
また炭素数分布の炭素数24以下の成分(CA)と炭素数25以上の成分(CB)の比(CA/CB)が2.0以上の条件を満たす合成系潤滑油も基油として使用できる。
さらにはこの条件を満たす鉱油系基油と合成系潤滑油(合成系基油)の混合物も使用できる。
【0016】
本発明に係る鉱油系基油の好ましい例としては、以下に示す基油(1)〜(8)を原料とし、この原料油および/またはこの原料油から回収された潤滑油留分を、所定の精製方法によって精製し、潤滑油留分を回収することによって得られる基油を挙げることができる。
(1)パラフィン基系原油および/または混合基系原油の常圧蒸留による留出油
(2)パラフィン基系原油および/または混合基系原油の常圧蒸留残渣油の減圧蒸留による留出油(WVGO)
(3)潤滑油脱ろう工程により得られるワックス(スラックワックス等)および/またはガストゥリキッド(GTL)プロセス等により得られる合成ワックス(フィッシャートロプシュワックス、GTLワックス等)
(4)基油(1)〜(3)から選ばれる1種または2種以上の混合油および/または当該混合油のマイルドハイドロクラッキング処理油
(5)基油(1)〜(4)から選ばれる2種以上の混合油
(6)基油(1)、(2)、(3)、(4)または(5)の脱れき油(DAO)
(7)基油(6)のマイルドハイドロクラッキング処理油(MHC)
(8)基油(1)〜(7)から選ばれる2種以上の混合油。
【0017】
なお、上記所定の精製方法としては、水素化分解、水素化仕上げなどの水素化精製;フルフラール溶剤抽出などの溶剤精製;溶剤脱ろうや接触脱ろうなどの脱ろう;酸性白土や活性白土などによる白土精製;硫酸洗浄、苛性ソーダ洗浄などの薬品(酸またはアルカリ)洗浄などが好ましい。本発明では、これらの精製方法のうちの1種を単独で行ってもよく、2種以上を組み合わせて行ってもよい。また、2種以上の精製方法を組み合わせる場合、その順序は特に制限されず、適宜選定することができる。
【0018】
更に、本発明に係る潤滑油基油としては、上記基油(1)〜(8)から選ばれる基油または当該基油から回収された潤滑油留分について所定の処理を行うことにより得られる下記基油(9)または(10)が特に好ましい。
(9)上記基油(1)〜(8)から選ばれる基油または当該基油から回収された潤滑油留分を水素化分解し、その生成物またはその生成物から蒸留等により回収される潤滑油留分について溶剤脱ろうや接触脱ろうなどの脱ろう処理を行い、または当該脱ろう処理をした後に蒸留することによって得られる水素化分解鉱油
(10)上記基油(1)〜(8)から選ばれる基油または当該基油から回収された潤滑油留分を水素化異性化し、その生成物またはその生成物から蒸留等により回収される潤滑油留分について溶剤脱ろうや接触脱ろうなどの脱ろう処理を行い、または、当該脱ろう処理をしたあとに蒸留することによって得られる水素化異性化鉱油。
【0019】
また、上記(9)または(10)の潤滑油基油を得るに際して、好都合なステップで、必要に応じて溶剤精製処理および/または水素化仕上げ処理工程を更に設けてもよい。
【0020】
本発明に係る鉱油系基油の100℃における動粘度は4.5mm/s以下であることが好ましく、より好ましくは4mm/s以下、更に好ましくは3.5mm/s以下、最も好ましくは3mm/s以下である。一方、当該100℃動粘度は、1mm/s以上であることが好ましく、より好ましくは1.5mm/s以上、更に好ましくは2mm/s以上、最も好ましくは2.3mm/s以上である。
ここでいう100℃における動粘度とは、ASTM D−445に規定される100℃での動粘度を示す。潤滑油基油成分の100℃動粘度が4,5mm/sを超える場合には、十分な省燃費性が得られないおそれがあり、1mm/s未満の場合は潤滑箇所での油膜形成が不十分であるため潤滑性に劣り、また潤滑油組成物の蒸発損失が大きくなるおそれがある。
【0021】
本発明においては、100℃における動粘度が下記の範囲にある鉱油系基油を蒸留等により分取し、使用することが好ましい。
(I)100℃における動粘度が1mm/s以上、好ましくは2.3mm/s以上、また3mm/s未満、好ましくは2.9mm/s以下の鉱油系基油
(II)100℃における動粘度が3mm/s以上、好ましくは3.5mm/s以上、また4.5mm/s以下、好ましくは4.0mm/s以下の鉱油系基油
【0022】
本発明においては、上記鉱油系基油の(I)と(II)を混合して用いることも可能であるが、(I)を単独で使用することが好ましい。
【0023】
本発明に係る鉱油系基油の粘度指数は90以上であることが好ましく、より好ましくは105以上、更に好ましくは110以上である。また160以下であることが好ましい。
また鉱油系基油(I)の粘度指数は90以上であることが好ましく、より好ましくは105以上、更に好ましくは110以上、最も好ましくは120以上である。また160以下が好ましい。
また鉱油系基油(II)の粘度指数は、110以上であることが好ましく、より好ましくは120以上、更に好ましくは130以上、最も好ましくは140以上である。また160以下が好ましい。
粘度指数が90未満であると、粘度−温度特性および熱・酸化安定性、揮発防止性が悪化するだけでなく、摩擦係数が上昇する傾向にあり、また、摩耗防止性が低下する傾向にある。また、粘度指数が160を超えると、低温粘度特性が低下する傾向にある。
なお、本発明でいう粘度指数とは、JIS K 2283−1993に準拠して測定された粘度指数を意味する。
【0024】
また、本発明に係る鉱油系基油の15℃における密度(ρ15)は、潤滑油基油成分の粘度グレードによるが、下記式で表されるρの値以下であること、すなわちρ15≦ρであることが好ましい。
ρ=0.0025×kv100+0.816
[式中、kv100は潤滑油基油成分の100℃における動粘度(mm/s)を示す。]
【0025】
なお、ρ15>ρとなる場合、粘度−温度特性および熱・酸化安定性、更には揮発防止性および低温粘度特性が低下する傾向にあり、省燃費性を悪化させるおそれがある。また、潤滑油基油成分に添加剤が配合された場合に当該添加剤の効き目が低下するおそれがある。
【0026】
具体的には、本発明に係る鉱油系基油の15℃における密度(ρ15)は、好ましくは0.835以下、より好ましくは0.828以下、更に好ましくは0.822以下、特に好ましくは0.815以下、最も好ましくは0.805以下であり、また好ましくは0.785以上である。なお、本発明でいう15℃における密度とは、JIS K 2249−1995に準拠して15℃において測定された密度を意味する。
【0027】
また、本発明に係る鉱油系基油の流動点は、好ましくは−10℃以下、より好ましくは−15℃以下、更に好ましくは−17.5℃以下である。上記潤滑油基油(I)および(II)の流動点は、好ましくは−15℃以下、より好ましくは−17.5℃以下、更に好ましくは−20℃以下である。流動点が−10℃より高いと、その潤滑油基油を用いた潤滑油全体の低温流動性が低下する傾向にある。なお、本発明でいう流動点とは、JIS K 2269−1987に準拠して測定された流動点を意味する。
【0028】
上記鉱油系基油のアニリン点(AP)は、好ましくは95℃以上、より好ましくは105℃以上、最も好ましくは110℃以上であり、好ましくは130℃以下である。95℃を下回るとシール材などのゴム材料適合性が悪化する。また130℃を超えると添加剤の溶解性が不足する。なお、本発明でいうアニリン点とは、JIS K 2256−1985に準拠して測定されたアニリン点を意味する。
【0029】
また、本発明に係る鉱油系基油における硫黄分の含有量は、その原料の硫黄分の含有量に依存する。例えば、フィッシャートロプシュ反応等により得られる合成ワックス成分のように実質的に硫黄を含まない原料を用いる場合には、実質的に硫黄を含まない潤滑油基油を得ることができる。また、潤滑油基油の精製過程で得られるスラックワックスや精ろう過程で得られるマイクロワックス等の硫黄を含む原料を用いる場合には、得られる潤滑油基油中の硫黄分は通常100質量ppm以上となる。本発明に係る潤滑油基油においては、熱・酸化安定性の更なる向上および低硫黄化の点から、硫黄分の含有量が100質量ppm以下であることが好ましく、50質量ppm以下であることがより好ましく、10質量ppm以下であることが更に好ましく、5質量ppm以下であることが特に好ましい。
【0030】
また、本発明に係る鉱油系基油における窒素分の含有量は特に制限されないが、好ましくは7質量ppm以下、より好ましくは3質量ppm以下、更に好ましくは含まないことである。窒素分の含有量が7質量ppmを超えると、熱・酸化安定性が低下する傾向にある。なお、本発明でいう窒素分とは、JIS K 2609−1990に準拠して測定される窒素分を意味する。
【0031】
また、本発明に係る鉱油系基油の%Cは70以上であることが好ましく、より好ましくは80〜99、更に好ましくは85〜95、特に好ましくは87〜94、最も好ましくは90〜94である。潤滑油基油の%Cが70未満の場合、粘度−温度特性、熱・酸化安定性および摩擦特性が低下する傾向にあり、更に、潤滑油基油に添加剤が配合された場合に当該添加剤の効き目が低下する傾向にある。また、潤滑油基油の%Cが上記上限値は、添加剤の溶解性に関係しており、高すぎると添加剤によっては溶解しない可能性もある。
【0032】
また、本発明に係る鉱油系基油の%Cは2以下であることが好ましく、より好ましくは1以下、更に好ましくは0.8以下、特に好ましくは0.5以下、最も好ましくは0である。潤滑油基油の%Cが2を超えると、粘度−温度特性、熱・酸化安定性および省燃費性が低下する傾向にある。
【0033】
また、本発明に係る鉱油系基油の%Cは40以下であることが好ましく、より好ましくは35以下、更に好ましくは20以下、最も好ましくは10以下であり、好ましくは3以上である。潤滑油基油の%Cが40を超えると、粘度−温度特性、熱・酸化安定性および摩擦特性が低下する傾向にある。また、%Cが3未満であると、添加剤の溶解性が低下する傾向にある。
【0034】
なお、本発明でいう%C、%Cおよび%Cとは、それぞれASTM D 3238−85に準拠した方法(n−d−M環分析)により求められる、パラフィン炭素数の全炭素数に対する百分率、ナフテン炭素数の全炭素数に対する百分率、および芳香族炭素数の全炭素数に対する百分率を意味する。つまり、上述した%C、%Cおよび%Cの好ましい範囲は上記方法により求められる値に基づくものであり、例えばナフテン分を含まない潤滑油基油であっても、上記方法により求められる%Cが0を超える値を示すことがある。
【0035】
また、本発明に係る潤滑油基油における飽和分の含有量は、炭素数分布が上記条件を満たしていれば特に制限されないが、潤滑油基油全量を基準として、好ましくは90質量%以上であり、好ましくは95質量%以上、より好ましくは99質量%以上である。上記条件を満たすことにより、粘度−温度特性および熱・酸化安定性を向上することができる。更に、本発明によれば、潤滑油基油自体の摩擦特性を改善することができ、その結果、摩擦低減効果の向上、ひいては省エネルギー性の向上を達成することができる。
【0036】
なお、本発明でいう飽和分とは、前記ASTM D 2007−93に記載された方法により測定される。また、飽和分の分離方法、あるいは環状飽和分、非環状飽和分等の組成分析の際には、同様の結果が得られる類似の方法を使用することができる。例えば、上記の他、ASTM D 2425−93に記載の方法、ASTM D 2549−91に記載の方法、高速液体クロマトグラフィ(HPLC)による方法、あるいはこれらの方法を改良した方法等を挙げることができる。
【0037】
また、本発明に係る鉱油系基油における芳香族分は、100℃における動粘度、%Cおよび%Cが上記条件を満たしていれば特に制限されないが、潤滑油基油全量を基準として、好ましくは5質量%以下、より好ましくは4質量%以下、更に好ましくは3質量%以下、特に好ましくは2質量%以下であり、最も好ましくは0である。芳香族分の含有量が5質量%を超えると、粘度−温度特性、熱・酸化安定性および摩擦特性、更には揮発防止性および低温粘度特性が低下する傾向にあり、更に、潤滑油基油に添加剤が配合された場合に当該添加剤の効き目が低下する傾向にある。
なお、本発明でいう芳香族分とは、ASTM D 2007−93に準拠して測定された値を意味する。芳香族分には、通常、アルキルベンゼン、アルキルナフタレンの他、アントラセン、フェナントレンおよびこれらのアルキル化物、更にはベンゼン環が四環以上縮合した化合物、ピリジン類、キノリン類、フェノール類、ナフトール類等のヘテロ原子を有する芳香族化合物などが含まれる。
【0038】
また、本発明に係る合成系潤滑油としては、ポリ-α−オレフィンまたはその水素化物、イソブテンオリゴマーまたはその水素化物、パラフィン、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、ジエステル(ジトリデシルグルタレート、ジ−2−エチルヘキシルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ジ−2−エチルヘキシルセバケート等)、ポリオールエステル(トリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンペラルゴネート、ペンタエリスリトール2−エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールペラルゴネート等)、ポリオキシアルキレングリコール、ジアルキルジフェニルエーテル、ポリフェニルエーテル等が挙げられ、中でも、ポリ-α−オレフィンが好ましい。ポリ-α−オレフィンとしては、典型的には、炭素数2〜32、好ましくは6〜16のα−オレフィンのオリゴマーまたはコオリゴマー(1−オクテンオリゴマー、デセンオリゴマー、エチレン−プロピレンコオリゴマー等)およびそれらの水素化物が挙げられる。
【0039】
ポリ−α−オレフィンの製法は特に制限されないが、例えば、三塩化アルミニウムまたは三フッ化ホウ素と、水、アルコール(エタノール、プロパノール、ブタノール等)、カルボン酸またはエステルとの錯体を含むフリーデル・クラフツ触媒のような重合触媒の存在下、α−オレフィンを重合する方法が挙げられる。
【0040】
本発明に係る合成系潤滑油の100℃動粘度は4.5mm/s以下であることが好ましく、より好ましくは3.5mm/s以下、更に好ましくは3mm/s以下、特に好ましくは2.5mm/s以下、最も好ましくは2mm/s以下である。一方、当該100℃動粘度は、1mm/s以上であることが好ましく、1.5mm/s以上であることがより好ましい。
合成系潤滑油の100℃動粘度が4.5mm/sを超える場合には、十分な省燃費性が得られないおそれがあり、1mm/s未満の場合は潤滑箇所での油膜形成が不十分であるため潤滑性に劣り、また潤滑油組成物の蒸発損失が大きくなるおそれがある。
【0041】
本発明に係る合成系潤滑油の粘度指数は90以上であることが好ましく、より好ましくは93以上である。また、上記合成系潤滑油の粘度指数は、好ましくは130以下である。粘度指数が90未満であると、粘度−温度特性および熱・酸化安定性、揮発防止性が悪化するだけでなく、摩擦係数が上昇する傾向にあり、また、摩耗防止性が低下する傾向にある。また、粘度指数が130を超えることは粘度特性上困難である。
【0042】
本発明に係る潤滑油基油としては、上記鉱油系基油あるいは合成系基油を単独で用いてもよく、またこれらの2種以上の混合物を用いてもよい。さらにまた、本発明に係る鉱油系基油および/または合成系基油に、他の基油の1種または2種以上を併用してもよい。なお、他の基油を併用する場合、基油中に占める本発明に係る鉱油系基油および/または合成系基油の割合は、30質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることが更に好ましい。
【0043】
本発明に係る鉱油系基油あるいは合成系基油あるいはその混合基油と併用される他の基油としては、特に制限されないが、例えば100℃における動粘度が1〜100mm/sであってCA/CBが2.0以上の条件を満たしていない合成油あるいは、鉱油系基油などが挙げられる。化合物ないし種類は上述したものと同じである。
【0044】
本発明に係る潤滑油基油の引火点は145℃以上が好ましく、より好ましくは150℃以上であり、更に好ましくは180℃以上であり、最も好ましくは190℃以上であり、好ましくは250℃以下である。引火点が低すぎると引火の危険が増大するし、蒸発量も増加するので好ましくない。また上限以上の引火点は粘度が高くなりすぎ、省燃費効果が認められなくなる。ここでいう引火点はJIS K 2265に準拠して測定した値である。
【0045】
また、本発明に係る潤滑油基油のNOACK蒸発量は、試験条件250℃での値には特に制限されないが、好ましくは70質量%以下、より好ましくは50質量%以下である。また、好ましくは5質量%以上である。NOACK蒸発量が5質量%未満の場合、分子量が高いものが多すぎ、低温粘度特性の改善が困難となる傾向にある。
特に試験条件200℃では40質量%以下である。さらに好ましくは30質量%以下であり、より好ましくは10質量%以下である。200℃でのNOACK蒸発量が40質量%を超えると、潤滑油基油を特に発電機用を主たる目的とする内燃機関用潤滑油等に用いた場合に、潤滑油の蒸発損失量が多くなり、それに伴い触媒被毒が促進されるため好ましくない。なお、本発明でいうNOACK蒸発量とは、ASTM D 580-95に準拠して測定された蒸発損失量を意味する。
【0046】
本発明の潤滑油組成物における粘度指数向上剤((B)成分)は、下記一般式(1)で表されるモノマーから誘導される構造単位を実質的に含有するポリ(メタ)アクリレート系添加剤であることが好ましい。
【0047】
【化1】

【0048】
一般式(1)において、Rは水素又はメチル基、好ましくはメチル基、Rは炭素数1から30の炭化水素基である。
炭素数1から30の炭化水素基としては、具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、直鎖又は分枝のペンチル基、直鎖又は分枝のヘキシル基、直鎖又は分枝のヘプチル基、直鎖又は分枝のオクチル基、直鎖又は分枝のノニル基、直鎖又は分枝のデシル基、直鎖又は分枝のウンデシル基、直鎖又は分枝のドデシル基、直鎖又は分枝のトリデシル基、直鎖又は分枝のテトラデシル基、直鎖又は分枝のペンタデシル基、直鎖又は分枝のヘキサデシル基、直鎖又は分枝のヘプタデシル基、直鎖又は分枝のオクタデシル基、直鎖又は分枝のノナデシル基、直鎖又は分枝のイコシル基、直鎖又は分枝のヘンイコシル基、直鎖又は分枝のドコシル基、直鎖又は分枝のトリコシル基、直鎖又は分枝のテトラコシル基等の炭素数1〜30のアルキル基等が挙げられる。
【0049】
本発明における(B)成分は、下記一般式(2)や(3)で表されるモノマーから誘導される構造単位を含むこともできる。
【0050】
【化2】

【0051】
一般式(2)において、Rは水素又はメチル基、好ましくはメチル基、Rは炭素数1〜30のアルキレン基、Eは窒素原子を1〜2個、酸素原子を0〜2個含有するアミン残基又は複素環残基を示し、aは0又は1の整数を示す。
【0052】
【化3】

【0053】
一般式(3)において、Rは水素又はメチル基である。Eは窒素原子を1〜2個、酸素原子を0〜2個含有するアミン残基又は複素環残基を示す。
【0054】
およびEで表される基としては、具体的には、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジプロピルアミノ基、ジブチルアミノ基、アニリノ基、トルイジノ基、キシリジノ基、アセチルアミノ基、ベンゾイルアミノ基、モルホリノ基、ピロリル基、ピロリノ基、ピリジル基、メチルピリジル基、ピロリジニル基、ピペリジニル基、キノニル基、ピロリドニル基、ピロリドノ基、イミダゾリノ基、およびピラジノ基等が例示できる。
【0055】
この好ましい例としては、具体的には、ジメチルアミノメチルメタクリレート、ジエチルアミノメチルメタクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレート、2−メチル−5−ビニルピリジン、モルホリノメチルメタクリレート、モルホリノエチルメタクリレート、N−ビニルピロリドン及びこれらの混合物等が例示できる。
【0056】
粘度指数向上剤((B)成分)は、具体的には、下記(Ba)〜(Bd)からなる一般式(1)のモノマーと、必要に応じて使用される一般式(2)および/または(3)で表される(Be)の極性基含有モノマーとの共重合体である。
(Ba)Rが炭素数1〜4のアルキル基である(メタ)アクリレート
(Bb)Rが炭素数5〜10のアルキル基である(メタ)アクリレート
(Bc)Rが炭素数12〜18のアルキル基である(メタ)アクリレート
(Bd)Rが炭素数20以上のアルキル基である(メタ)アクリレート
(Be)極性基含有モノマー
【0057】
本発明においては、粘度指数向上剤(B)成分におけるモノマーの構成比としては、ポリ(メタ)アクリレートを構成するモノマー全量基準で、以下の通りであることが好ましい。
(Ba)成分:好ましくは25mol%以上、より好ましくは45mol%以上、更に好ましくは65mol%以上、好ましくは95mol%以下、より好ましくは90mol%以下、さらに好ましくは85mol%以下、
(Bb)成分:好ましくは0mol%以上、好ましくは50mol%以下、より好ましくは20mol%以下、
(Bc)成分:好ましくは0mol%以上、より好ましくは5mol%以上、更に好ましくは10mol%以上、好ましくは60mol%以下、より好ましくは45mol%以下、さらに好ましくは30mol%以下、
(Bd)成分:好ましくは1mol%以上、より好ましくは3mol%以上、更に好ましくは5mol%以上、好ましくは55mol%以下、より好ましくは35mol%以下、さらに好ましくは15mol%以下、
(Be)成分:好ましくは0mol%以上、好ましくは20mol%以下、より好ましくは10mol%以下、さらに好ましくは5mol%以下、
【0058】
この組成にすることにより、組成物の重量平均分子量とPSSIの比が1.2×104以上を両立させることができる。
【0059】
上記ポリ(メタ)アクリレートの製造法は任意であるが、例えば、ベンゾイルパーオキシド等の重合開始剤の存在下で、モノマー(Ba)〜(Be)の混合物をラジカル溶液重合させることにより容易に得ることができる。
【0060】
(B)粘度指数向上剤の重量平均分子量(M)は50,000以上であることが必要であり、好ましくは70,000以上であり、さらに好ましくは100,000以上であり、特に好ましくは150,000以上である。また、好ましくは1,000,000以下であり、より好ましくは700,000以下であり、更に好ましくは600,000以下であり、特に好ましくは500,000以下である。重量平均分子量が50,000未満の場合には粘度温度特性の向上効果や粘度指数向上効果が小さくコストが上昇するおそれがあり、重量平均分子量が1,000,000を超える場合にはせん断安定性や基油への溶解性、貯蔵安定性が悪くなるおそれがある。
【0061】
なお、ここでいう重量平均分子量は、ウォーターズ社製150−C ALC/GPC装置に東ソー社製のGMHHR−M(7.8mmID×30cm)のカラムを2本直列に使用し、溶媒としてはテトラヒドロフラン、温度23℃、流速1mL/分、試料濃度1質量%、試料注入量75μL、検出器示差屈折率計(RI)で測定したポリスチレン換算の重量平均分子量を意味する。
【0062】
(B)粘度指数向上剤のPSSIは、好ましくは40以下であり、より好ましくは30以下、更に好ましくは20以下である。PSSIが40を超える場合にはせん断安定性が悪くなると共に低温粘度特性が悪化するおそれがある。
ここで、「PSSI」とは、ASTM D 6022−01(Standard Practice for Calculation of Permanent Shear Stability Index)に準拠し、ASTM D 6278−02(Test Metohd for Shear Stability of Polymer Containing Fluids Using a European Diesel Injector Apparatus)により測定されたデータに基づき計算された、ポリマーの永久せん断安定性指数(Permanent Shear Stability Index)を意味する。
【0063】
(B)粘度指数向上剤の重量平均分子量とPSSIの比(M/PSSI)は、1.2×10以上であることが必要であり、好ましくは1.5×10以上、より好ましくは2×10以上、更に好ましくは2.5×10以上、特に好ましくは3×10以上である。M/PSSIが1.2×10未満の場合には、十分な省燃費性を得ることができない。
またM/PSSIは20×10が上限であり、好ましくは20×10以下、より好ましくは10×10以下である。M/PSSIは高いほうが良いが、分子量が大きくなると剪断を受けやすくなり、限界が存在する。
【0064】
本発明の潤滑油組成物における(B)粘度指数向上剤の含有量は、組成物全量基準で2質量%以上であり、好ましくは4質量%以上、より好ましくは7質量%以上、更に好ましくは10質量%以上である。また40質量%以下であることが好ましく、より好ましくは35質量%以下、更に好ましくは30質量%以下、最も好ましくは25質量%以下である。(B)粘度指数向上剤の含有量が2質量%より少なくなると、粘度指数向上効果や製品粘度の低減効果が小さくなることから、省燃費性の向上が図れなくなるおそれがある。また、40質量%よりも多くなると、製品コストが大幅に上昇すると共に、基油粘度を低下させる必要が出てくることから、厳しい潤滑条件(高温高せん断条件)における潤滑性能を低下させ、摩耗や焼き付き、疲労破壊等の不具合が発生原因となることが懸念される。
【0065】
本発明の潤滑油組成物は、粘度指数向上剤としては、前記した粘度指数向上剤に加えて、通常の一般的な非分散型または分散型ポリ(メタ)アクリレート、非分散型または分散型エチレン−α−オレフィン共重合体またはその水素化物、ポリイソブチレンまたはその水素化物、スチレン−ジエン水素化共重合体を、スチレン−無水マレイン酸エステル共重合体およびポリアルキルスチレン等を更に含有することができる。
【0066】
本発明の潤滑油組成物においては、省燃費性能を高めるために、有機モリブデン化合物および無灰摩擦調整剤から選ばれる摩擦調整剤を更に含有させることができる。
【0067】
本発明で用いる有機モリブデン化合物としては、モリブデンジチオホスフェート、モリブデンジチオカーバメート等の硫黄を含有する有機モリブデン化合物、モリブデン化合物(例えば、二酸化モリブデン、三酸化モリブデン等の酸化モリブデン、オルトモリブデン酸、パラモリブデン酸、(ポリ)硫化モリブデン酸等のモリブデン酸、これらモリブデン酸の金属塩、アンモニウム塩等のモリブデン酸塩、二硫化モリブデン、三硫化モリブデン、五硫化モリブデン、ポリ硫化モリブデン等の硫化モリブデン、硫化モリブデン酸、硫化モリブデン酸の金属塩またはアミン塩、塩化モリブデン等のハロゲン化モリブデン等)と、硫黄含有有機化合物(例えば、アルキル(チオ)キサンテート、チアジアゾール、メルカプトチアジアゾール、チオカーボネート、テトラハイドロカルビルチウラムジスルフィド、ビス(ジ(チオ)ハイドロカルビルジチオホスホネート)ジスルフィド、有機(ポリ)サルファイド、硫化エステル等)あるいはその他の有機化合物との錯体等、あるいは、上記硫化モリブデン、硫化モリブデン酸等の硫黄含有モリブデン化合物とアルケニルコハク酸イミドとの錯体等を挙げることができる。
【0068】
また、有機モリブデン化合物としては、構成元素として硫黄を含まない有機モリブデン化合物を用いることができる。構成元素として硫黄を含まない有機モリブデン化合物としては、具体的には、モリブデン−アミン錯体、モリブデン−コハク酸イミド錯体、有機酸のモリブデン塩、アルコールのモリブデン塩などが挙げられ、中でも、モリブデン−アミン錯体、有機酸のモリブデン塩およびアルコールのモリブデン塩が好ましい。
【0069】
本発明の潤滑油組成物において、有機モリブデン化合物を用いる場合、その含有量は特に制限されないが、組成物全量を基準として、モリブデン元素換算で、好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは0.005質量%以上、更に好ましくは0.01質量%以上、特に好ましくは0.03質量%以上であり、また、好ましくは0.2質量%以下、より好ましくは0.1質量%以下、更に好ましくは0.08質量%以下、特に好ましくは0.06質量%以下である。その含有量が0.001質量%未満の場合、潤滑油組成物の熱・酸化安定性が不十分となり、特に、長期間に渡って優れた清浄性を維持させることができなくなる傾向にある。一方、含有量が0.2質量%を超える場合、含有量に見合う効果が得られず、また、潤滑油組成物の貯蔵安定性が低下する傾向にある。
【0070】
また、無灰摩擦調整剤としては、潤滑油用の摩擦調整剤として通常用いられる任意の化合物が使用可能であり、例えば、炭素数6〜30のアルキル基またはアルケニル基、特に炭素数6〜30の直鎖アルキル基または直鎖アルケニル基を分子中に少なくとも1個有する、アミン化合物、脂肪酸エステル、脂肪酸アミド、脂肪酸、脂肪族アルコール、脂肪族エーテル等の無灰摩擦調整剤等が挙げられる。また窒素含有化合物およびその酸変性誘導体からなる群より選ばれる1種以上の化合物や、国際公開第2005/037967号パンフレットに例示されている各種無灰摩擦調整剤が挙げられる。
【0071】
本発明の潤滑油組成物における無灰摩擦調整剤の含有量は、組成物全量を基準として、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、更に好ましくは0.3質量%以上であり、また、好ましくは3質量%以下、より好ましくは2質量%以下、更に好ましくは1質量%以下である。無灰摩擦調整剤の含有量が0.01質量%未満であると、その添加による摩擦低減効果が不十分となる傾向にあり、また3質量%を超えると、耐摩耗性添加剤などの効果が阻害されやすく、あるいは添加剤の溶解性が悪化する傾向にある。摩擦調整剤としては、無灰摩擦調整剤の使用がより好ましい。
【0072】
本発明の潤滑油組成物には、さらにその性能を向上させるために、その目的に応じて潤滑油に一般的に使用されている任意の添加剤を含有させることができる。このような添加剤としては、例えば、金属系清浄剤、無灰分散剤、酸化防止剤、摩耗防止剤(または極圧剤)、腐食防止剤、防錆剤、流動点降下剤、抗乳化剤、金属不活性化剤、消泡剤等の添加剤等を挙げることができる。
【0073】
金属系清浄剤としては、アルカリ金属スルホネートまたはアルカリ土類金属スルホネート、アルカリ金属フェネートまたはアルカリ土類金属フェネート、およびアルカリ金属サリシレートまたはアルカリ土類金属サリシレート等の正塩、塩基正塩または過塩基性塩等が挙げられる。本発明では、これらからなる群より選ばれる1種または2種以上のアルカリ金属またはアルカリ土類金属系清浄剤、特にアルカリ土類金属系清浄剤を好ましく使用することができる。特にマグネシウム塩および/またはカルシウム塩が好ましく、カルシウム塩がより好ましく用いられる。
【0074】
無灰分散剤としては、潤滑油に用いられる任意の無灰分散剤が使用でき、例えば、炭素数40〜400の直鎖もしくは分枝状のアルキル基またはアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するモノまたはビスコハク酸イミド、炭素数40〜400のアルキル基またはアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するベンジルアミン、あるいは炭素数40〜400のアルキル基またはアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するポリアミン、あるいはこれらのホウ素化合物、カルボン酸、リン酸等による変成品等が挙げられる。使用に際してはこれらの中から任意に選ばれる1種類あるいは2種類以上を配合することができる。
【0075】
酸化防止剤としては、フェノール系、アミン系等の無灰酸化防止剤、銅系、モリブデン系等の金属系酸化防止剤が挙げられる。具体的には、例えば、フェノール系無灰酸化防止剤としては、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)等が、アミン系無灰酸化防止剤としては、フェニル−α−ナフチルアミン、アルキルフェニル−α−ナフチルアミン、ジアルキルジフェニルアミン等が挙げられる。
【0076】
摩耗防止剤(または極圧剤)としては、潤滑油に用いられる任意の摩耗防止剤・極圧剤が使用できる。例えば、硫黄系、リン系、硫黄−リン系の極圧剤等が使用でき、具体的には、亜リン酸エステル類、チオ亜リン酸エステル類、ジチオ亜リン酸エステル類、トリチオ亜リン酸エステル類、リン酸エステル類、チオリン酸エステル類、ジチオリン酸エステル類、トリチオリン酸エステル類、これらのアミン塩、これらの金属塩、これらの誘導体、ジチオカーバメート、亜鉛ジチオカーバメート、モリブデンジチオカーバメート、ジサルファイド類、ポリサルファイド類、硫化オレフィン類、硫化油脂類等が挙げられる。これらの中では硫黄系極圧剤の添加が好ましく、特に硫化油脂が好ましい。
【0077】
腐食防止剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系、トリルトリアゾール系、チアジアゾール系、またはイミダゾール系化合物等が挙げられる。
【0078】
防錆剤としては、例えば、石油スルホネート、アルキルベンゼンスルホネート、ジノニルナフタレンスルホネート、アルケニルコハク酸エステル、または多価アルコールエステル等が挙げられる。
【0079】
流動点降下剤としては、例えば、使用する潤滑油基油に適合するポリメタクリレート系のポリマー等が使用できる。
【0080】
抗乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、またはポリオキシエチレンアルキルナフチルエーテル等のポリアルキレングリコール系非イオン系界面活性剤等が挙げられる。
【0081】
金属不活性化剤としては、例えば、イミダゾリン、ピリミジン誘導体、アルキルチアジアゾール、メルカプトベンゾチアゾール、ベンゾトリアゾールまたはその誘導体、1,3,4−チアジアゾールポリスルフィド、1,3,4−チアジアゾリル−2,5−ビスジアルキルジチオカーバメート、2−(アルキルジチオ)ベンゾイミダゾール、またはβ−(o−カルボキシベンジルチオ)プロピオンニトリル等が挙げられる。
【0082】
消泡剤としては、例えば、25℃における動粘度が1000〜10万mm/sのシリコーンオイル、アルケニルコハク酸誘導体、ポリヒドロキシ脂肪族アルコールと長鎖脂肪酸のエステル、メチルサリチレートとo−ヒドロキシベンジルアルコール等が挙げられる。
【0083】
これらの添加剤を本発明の潤滑油組成物に含有させる場合の含有量は、組成物全量基準で、消泡剤については0.0005〜1質量%、その他の添加剤については0.01〜10質量%の範囲が通常選ばれる。
【0084】
本発明の潤滑油組成物の100℃における動粘度は、5.2mm/s以上、8mm/s以下であることが必要であり、好ましくは6.7mm/s以下、更に好ましくは6m/s以下である。また、本発明の潤滑油組成物の100℃における動粘度は、好ましくは5.4mm/s以上、より好ましくは5.6mm/s以上である。ここでいう100℃における動粘度とは、ASTM D−445に規定される100℃での動粘度を示す。100℃における動粘度が5.2mm/s未満の場合には、潤滑性不足を来たすおそれがあり、8mm/sを超える場合には必要な低温粘度および十分な省燃費性能が得られないおそれがある。
【0085】
本発明の潤滑油組成物の粘度指数は、150〜400の範囲であることが必要であり、好ましくは200以上、より好ましくは250以上、更に好ましくは300以上、特に好ましくは350以上である。本発明の潤滑油組成物の粘度指数が150未満の場合には、150℃のHTHS粘度を維持しながら、省燃費性を向上させることが困難となるおそれがある。また、本発明の潤滑油組成物の粘度指数が400以上の場合には、蒸発性が悪化するおそれがあり、更に添加剤の溶解性やシール材料との適合性が不足することによる不具合が発生するおそれがある。
【0086】
本発明の潤滑油組成物の80℃におけるHTHS粘度は、5.5mPa・s以下であることが好ましく、より好ましくは5.0mPa・s以下、更に好ましくは4.8mPa・s以下、特に好ましくは4.5mPa・s以下である。また、好ましくは3mPa・s以上である。ここでいう80℃におけるHTHS粘度とは、ASTM D4683に規定される80℃での高温高せん断粘度を示す。80℃でのHTHS粘度はエンジンにおけるエンジン油の粘性による抵抗を代表しており、この粘度が低いほど、エンジン油としての省燃費性能は高いということになる。しかしながら、80℃におけるHTHS粘度が3mPa・s未満の場合には、潤滑性不足を来たすおそれがある。一方、5.5mPa・sを超える場合には必要な低温粘度および十分な省燃費性能が得られないおそれがある。
【0087】
本発明の潤滑油組成物の150℃におけるHTHS粘度は、2.0mPa・s以上であることが好ましく、より好ましくは2.1mPa・s以上、更に好ましくは2.2mPa・s以上、特に好ましくは2.3mPa・s以上である。また3.5mPa・s以下であることが好ましく、より好ましくは3.0mPa・s以下、更に好ましくは2.8mPa・s以下である。
ここでいう150℃におけるHTHS粘度とは、ASTM D4683に規定される150℃での高温高せん断粘度を示す。150℃での高剪断粘度はエンジンにおける高速回転時の必要な粘度を示しており、150℃におけるHTHS粘度が2.0mPa・s未満の場合には、潤滑性不足を来たし、エンジンの耐久性が急激に低下するおそれがある。一方、3.5mPa・sを超える場合には必要な低温粘度および十分な省燃費性能が得られないおそれがある。
【0088】
本発明の潤滑油組成物の80℃におけるHTHS粘度(Vk)と150℃におけるHTHS粘度(Vs)の比(Vs/Vk)は0.4以上であることが必要である。Vs/Vkは0.42以上であることが好ましく、より好ましくは0.44以上、更に好ましくは0.46以上、特に好ましくは0.48以上である。一方、0.60以下が好ましく、より好ましくは0.55以下である。Vs/Vkが0.4未満だと、80℃のHTHS粘度が十分に下がらず、省燃費性向上効果が得られない。
【0089】
本発明の潤滑油組成物の引火点は150℃以上が好ましく、より好ましくは160℃以上であり、また好ましくは250℃以下である。引火点が低すぎると引火の危険が増大するし、蒸発量も増加するので好ましくない。また250以上の引火点は粘度が高くなりすぎ、省燃費効果が認められなくなる。
【0090】
また、本発明の潤滑油組成物の試験条件250℃でのNOACK蒸発量は特に制限されないが、好ましくは60質量%以下、より好ましくは40質量%以下である。また、好ましくは5質量%以上ある。
また試験条件200℃でのNOACK蒸発量は40質量%以下であり、好ましくは30質量%以下、より好ましくは25質量%以下、さらに好ましくは15質量%以下、最も好ましくは10質量%以下である。また、好ましくは5質量%以上である。
NOACK蒸発量が前記下限値の場合、低温粘度特性の改善が困難となる傾向にある。また、NOACK蒸発量がそれぞれ前記上限値を超えると、潤滑油基油を内燃機関用潤滑油等に用いた場合に、潤滑油の蒸発損失量が多くなり、それに伴い触媒被毒が促進されるため好ましくない。
【0091】
本発明の潤滑油組成物は、発電機を駆動するものに特に有用である。その使用形態にはこだわらない。たとえば単独の発電機専用でもあっても良いし、発電機を駆動すると共に自動車の駆動にも使用されるシステムにも有用である。なかでも四輪自動車の発電専用であることが最も有用である。
【0092】
燃料には制限はなく発電を行うシステムであれば、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、ガスエンジン、にも好適に使用できる。なかでも燃料はガソリンないしは軽油であることが好ましく、ガソリンが最も好ましい。
【実施例】
【0093】
以下、実施例および比較例に基づき本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0094】
(実施例1〜13、比較例1〜8)
表1に実施例および比較例で用いた基油の性状を示す。また表2にガスクロマト蒸留により得られた炭素数分布を示す。
表3に示す組成に従い、本発明に係る潤滑油組成物(実施例1〜13)および比較のための潤滑油組成物(比較例1〜8)を調製した。これらの組成物につき、各種性能評価試験を行い、その結果を表3に示した。
【0095】
【表1】

【表2】

【表3】

【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明の潤滑油組成物は、大幅な省燃費性を出現させながらエンジンの耐久性を確保することが可能であり、発電機駆動用の潤滑油組成物として特に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)基油が、ガスクロマト蒸留により得られる炭素数分布の炭素数24以下の成分の割合(CA)と炭素数25以上の成分の割合(CB)の比(CA/CB)が2.0以上の炭化水素系基油であり、潤滑油組成物の80℃における高温高剪断(HTHS)粘度(Vk)と150℃におけるHTHS粘度(Vs)の比(Vs/Vk)が0.4以上であり、100℃の動粘度が5.2mm/s以上、8mm/s以下であることを特徴とする潤滑油組成物。
【請求項2】
(B)重量平均分子量とPSSIの比が1.2×104以上である粘度指数向上剤を含有することを特徴とする請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項3】
発電機用エンジン油であることを特徴とする請求項1または2に記載の潤滑油組成物。

【公開番号】特開2012−233115(P2012−233115A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−103694(P2011−103694)
【出願日】平成23年5月6日(2011.5.6)
【出願人】(000004444)JX日鉱日石エネルギー株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】