説明

潤滑油

【課題】
低温流動性に特に優れ、且つ、潤滑性、粘度指数、高引火点などの基本要求特性をバランスよく兼ね備えたグリセリンエステルを含有する潤滑油を提供すること。
【解決手段】
炭素数8〜12の飽和脂肪族分岐鎖状モノカルボン酸からカルボキシル基を除いて得られる残基と、炭素数4〜18の飽和若しくは不飽和の脂肪族直鎖状モノカルボン酸からカルボキシル基を除いて得られる残基とを有する、グリセリン=分岐鎖状脂肪族モノカルボン酸=直鎖状脂肪族モノカルボン酸混基エステルを含有する潤滑油。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エステル系潤滑油に関し、より詳しくは、低温流動性に特に優れ、潤滑性、粘度指数に優れ、高引火点のグリセリンエステルを含有する潤滑油に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、潤滑油としては安価で入手容易な鉱物油が主に使用されてきたが、耐熱性を始めとする諸性能が乏しいため最近では基本要求特性が厳しい用途においては、目的に適した分子設計が可能な合成炭化水素や有機酸エステル類等の合成潤滑油が主に用いられている。
【0003】
なかでも、有機酸エステルとしては、脂肪族モノカルボン酸と一価アルコールの反応から得られるモノエステル、脂肪族二塩基酸と一価アルコールの反応から得られるジエステル、多価アルコールと脂肪族カルボン酸との反応から得られるエステル(以下、「ポリオールエステル」という。)、及び多価アルコール、多塩基酸、脂肪族モノカルボン酸(及び/又は脂肪族一価アルコール)との反応から得られる複合エステル等が開示されている
【0004】
多価アルコールの1種であるグリセリンは、植物油や動物油など油脂類のアルコール成分である。グリセリンを基本骨格として有するこれらの油脂は、天然に存在するエステル化合物である。これら油脂のエステル化合物は、直鎖状脂肪族モノカルボン酸を構成酸成分とするエステルであり、生分解性に優れ、人体に対する刺激性がマイルドであるなど、近年の環境対応型潤滑油の基油若しくは添加剤として見直されている。例えば、エンジン油、金属加工油、圧縮機油などへの適用が検討されている(特許文献1〜4)。
【0005】
しかしながら、これらに開示されているグリセリンエステルは、潤滑性、低温粘度、耐熱性等のバランスが悪く、実用上問題が多かった。例えば、特許文献1,2に開示されている直鎖脂肪酸のグリセリンエステルは、低温流動性に劣る傾向が見られる。特許文献3に開示されたグリセリン=トリオレエートを含有する潤滑油では、潤滑性、低温流動性ともに比較的良好であるが、分子内に二重結合を多数有するため、耐酸化性に劣る傾向が認められる。特許文献4では、直鎖脂肪酸のトリグリセリドと、分岐鎖脂肪酸のトリグリセリドとの混合物を使用することにより、これらの欠点を解決しようとしているが、低温流動性が劣り、また引火点も低い傾向があり、様々な条件で使用できる潤滑油とはなっていないのが現状であった。
【0006】
【特許文献1】特開平2−209995号公報
【特許文献2】特開2000−73079号公報
【特許文献3】特開2003−213283号公報
【特許文献4】特開2000−256688号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、低温流動性に特に優れ、且つ、潤滑性、粘度指数、高引火点などの基本要求特性をバランスよく兼ね備えたグリセリンエステルを含有する潤滑油を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、下記の知見を得た。
(1)飽和又は不飽和の脂肪族直鎖状モノカルボン酸とグリセリンとからなるグリセリン直鎖脂肪酸エステルは、潤滑性が良好で高い粘度指数を有するが、低温流動性が不十分であること。
(2)脂肪族分岐鎖状モノカルボン酸とグリセリンとからなるグリセリン分岐鎖脂肪酸エステルは、低温流動性に優れるが、粘度指数が低く、潤滑性が不十分であること。
(3)上記(1)と(2)との混合物は、低温流動性が不十分であること。
(4)脂肪族直鎖状モノカルボン酸及び脂肪族分岐鎖状モノカルボン酸とグリセリンとからなるグリセリン混基脂肪酸エステルは、適度な粘度指数を有し、低温流動性に優れていること。
(4)さらに、特定炭素数の脂肪族直鎖状モノカルボン酸と特定炭素数の脂肪族分岐鎖状モノカルボン酸とからなるグリセリンエステルは、低温流動性に特に優れ、適度な粘度指数、引火点のバランスを満足すると共に耐加水分解性にも比較的優れ、潤滑油として優れた性能を発揮すること。
(5)特に、脂肪族直鎖状モノカルボン酸が、オレイン酸等の不飽和の脂肪族直鎖状モノカルボン酸であるグリセリンエステルは、特に粘度指数、引火点が高く、摩擦特性に優れること。
【0009】
即ち、本発明は、以下の潤滑油を提供するものである。
【0010】
(項1) 一般式(1)
【化1】

[式中、Rは、炭素数8〜12の飽和脂肪族分岐鎖状モノカルボン酸からカルボキシル基を除いて得られる残基を表す。Rは、炭素数4〜18の飽和若しくは不飽和の脂肪族直鎖状モノカルボン酸からカルボキシル基を除いて得られる残基を表す。Rは、炭素数8〜12の飽和脂肪族分岐鎖状モノカルボン酸、又は、炭素数4〜18の飽和若しくは不飽和の脂肪族直鎖状モノカルボン酸からカルボキシル基を除いて得られる残基を表す。Xは、グリセリンから3つの水酸基を除いて得られる残基を表す。]
で表されるグリセリン混基脂肪酸エステル(A)の少なくとも1種を含有する潤滑油。
【0011】
(項2) さらに、一般式(2)
【化2】

[式中、R、R及びRは、同一又は異なって、それぞれ炭素数8〜12の飽和脂肪族分岐鎖状モノカルボン酸からカルボキシル基を除いて得られる残基を表す。Xは、一般式(1)におけると同義である。]
で表されるグリセリン分岐鎖脂肪酸エステル(B)、及び、一般式(3)
【化3】

[式中、R、R及びRは、同一又は異なって、それぞれ炭素数4〜18の飽和若しくは不飽和の脂肪族直鎖状モノカルボン酸からカルボキシル基を除いて得られる残基を表す。Xは一般式(1)におけると同義である。]
で表されるグリセリン直鎖脂肪酸エステル(C)
からなる群から選ばれる少なくとも1種のグリセリン脂肪酸エステルを含有する上記項1に記載の潤滑油。
【0012】
(項3) (A)成分、(B)成分及び(C)成分が、重量比で(A):(B):(C)=40〜85:3〜60:0〜20である上記項2に記載の潤滑油。
【0013】
(項4) 一般式(1)において、Rが、2−エチルヘキサン酸又は3,5,5−トリメチルヘキサン酸からカルボキシル基を除いて得られる残基であり、且つ、Rが2−エチルヘキサン酸、3,5,5−トリメチルヘキサン酸、又は、炭素数4〜18の飽和若しくは不飽和の脂肪族直鎖状モノカルボン酸からカルボキシル基を除いて得られる残基である、上記項1に記載の潤滑油。
【0014】
(項5) 一般式(1)において、Rが、n−オクタン酸、n−デカン酸、n−ドデカン酸、又はオレイン酸からカルボキシル基を除いて得られる残基であり、且つ、Rが、n−オクタン酸、n−デカン酸、n−ドデカン酸、又は、炭素数8〜12の飽和脂肪族分岐鎖状モノカルボン酸からカルボキシル基を除いて得られる残基である、上記項1に記載の潤滑油。
【0015】
(項6) 一般式(1)において、Rが、2−エチルヘキサン酸又は3,5,5−トリメチルヘキサン酸からカルボキシル基を除いて得られる残基であり、Rが、n−オクタン酸、n−デカン酸、n−ドデカン酸又はオレイン酸からカルボキシル基を除いて得られる残基であり、且つ、Rが、n−オクタン酸、n−デカン酸、n−ドデカン酸、オレイン酸、2−エチルヘキサン酸又は3,5,5−トリメチルヘキサン酸からカルボキシル基を除いて得られる残基である上記項1に記載の潤滑油。
【0016】
(項7) さらに、炭素数12〜22の飽和若しくは不飽和の脂肪族直鎖状モノカルボン酸を含有する上記項1〜6のいずれかに記載の潤滑油。
【0017】
(項8) さらに、鉱物油、合成炭化水素油、脂肪族二塩基酸ジエステル及びポリオールエステルからなる群から選ばれる併用基油を含有する上記項1〜7のいずれかに記載の潤滑油。
【0018】
(項9) 潤滑油の、40℃における動粘度が5〜68mm/s、流動点が−20℃以下、且つ、引火点が200℃以上である上記項1〜8のいずれかに記載の潤滑油。
【0019】
(項10) 潤滑油の、40℃における動粘度が7〜40mm/s、流動点が−40℃以下、且つ、引火点が230℃以上である上記項1〜9のいずれかに記載の潤滑油。
【0020】
上記項1〜10のいずれかに記載の潤滑油を含有してなるエンジン油、変速機油、冷凍機油、油圧作動油、金属加工油又はグリース基油。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、低温流動性に特に優れ、且つ低粘度、高粘度指数、潤滑性、低温流動性、耐加水分解性、高引火点などの基本要求特性をバランスよく兼ね備えたグリセリン脂肪酸エステルを含有する潤滑油を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
[グリセリンエステル]
本発明に係るグリセリン混基脂肪酸エステル(以下、「(A)成分」という。)は、下記一般式(1)で表される。
【化4】

[式中、Rは、炭素数8〜12の飽和脂肪族分岐鎖状モノカルボン酸からカルボキシル基を除いて得られる残基を表す。Rは、炭素数4〜18の飽和若しくは不飽和の脂肪族直鎖状モノカルボン酸からカルボキシル基を除いて得られる残基を表す。Rは、炭素数8〜12の飽和脂肪族分岐鎖状モノカルボン酸、又は、炭素数4〜18の飽和若しくは不飽和の脂肪族直鎖状モノカルボン酸からカルボキシル基を除いて得られる残基を表す。Xは、グリセリンから3つの水酸基を除いて得られる残基を表す。]
【0023】
なお、一般式(1)において、炭素数8〜12は、飽和脂肪族分岐鎖状モノカルボン酸の炭素数を表す。換言すると、飽和脂肪族分岐鎖状モノカルボン酸カルボキシル基を除いて得られる残基とは、炭素数7〜11の分岐鎖状のアルキル基を表す。また、同様に、炭素数4〜18の飽和若しくは不飽和の脂肪族直鎖状モノカルボン酸からカルボキシル基を除いて得られる残基とは、炭素数3〜17の直鎖状のアルキル基若しくはアルケニル基を表す。一般式(2)及び一般式(3)においても同様である。
【0024】
(A)成分には、通常、以下の4つの構造異性体が存在する。
(i)グリセリン=1,2−ジ脂肪族直鎖状モノカルボン酸エステル=3−モノ脂肪族分岐鎖状モノカルボン酸エステル
(ii)グリセリン=1,3−ジ脂肪族直鎖状モノカルボン酸エステル=2−モノ脂肪族分岐鎖状モノカルボン酸エステル
(iii)グリセリン=1−モノ脂肪族直鎖状モノカルボン酸エステル=2,3−モノ脂肪族分岐鎖状モノカルボン酸エステル
(iv)グリセリン=2−モノ脂肪族直鎖状モノカルボン酸エステル=1,3−モノ脂肪族分岐鎖状モノカルボン酸エステル
本発明においては、上記(i)と(ii)との位置異性体は特に区別されず、本明細書中の例示においては、(A1)成分としてグリセリン=モノイソカルボン酸エステル=ジ(n−脂肪族モノカルボン酸エステル)と表し、(iii)と(iv)との位置異性体とは特に区別されず、(A2)成分としてグリセリン=ジイソモノカルボン酸エステル=モノ(n−脂肪族モノカルボン酸エステル)と表記する。
【0025】
(A)成分の中でも、飽和の脂肪族分岐鎖状モノカルボン酸からカルボキシル基を除いて得られる残基が、2−エチルヘキサン酸又はイソノナン酸の残基である本エステルは、低温流動性、耐加水分解性に優れる点で好ましい。又、飽和若しくは不飽和の脂肪族直鎖状の脂肪族モノカルボン酸からカルボキシル基を除いて得られる残基が、炭素数8〜12の飽和の脂肪族直鎖状モノカルボン酸、特にn−オクタン酸、n−デカン酸、又は、n−ドデカン酸の残基であるか、又は炭素数16〜18の不飽和の脂肪族直鎖状モノカルボン酸、特にオレイン酸である(A)成分は、引火点が高い点で好ましい。これらの好ましい(A)成分の中でも、飽和の脂肪族分岐鎖状モノカルボン酸の残基が、2−エチルヘキサン酸、又は、イソノナン酸の残基であり、飽和若しくは不飽和の脂肪族直鎖状の脂肪族モノカルボン酸の残基が、n−オクタン酸、n−デカン酸、又は、n−ドデカン酸の残基である(A)成分は、低温流動性、耐加水分解性、潤滑性のバランスに特に優れる点で好ましい。係る(A)成分として具体的には、グリセリン=モノイソオクタノエート=ジ(n−オクタノエート)、グリセリン=モノイソノナノエート=ジ(n−オクタノエート)、グリセリン=モノイソオクタノエート=ジ(n−ノナノエート)、グリセリン=モノイソノナノエート=ジ(n−ノナノエート)、グリセリン=モノイソオクタノエート=ジ(n−デカノエート)、グリセリン=モノイソノナノエート=ジ(n−デカノエート)、グリセリン=モノイソオクタノエート=ジ(n−ウンデカノエート)、グリセリン=モノイソノナノエート=ジ(n−ウンデカノエート)、グリセリン=モノイソオクタノエート=ジ(n−ドデカノエート)、グリセリン=モノイソノナノエート=ジ(n−ドデカノエート)、グリセリン=モノイソオクタノエート=ジオレエート、グリセリン=モノイソノナノエート=ジオレエート等の(A1)成分、
グリセリン=ジイソオクタノエート=モノ(n−オクタノエート)、グリセリン=ジイソノナノエート=モノ(n−オクタノエート)、グリセリン=ジイソオクタノエート=モノ(n−ノナノエート)、グリセリン=ジノイソノナノエート=モノ(n−ノナノエート)、グリセリン=ジノイソオクタノエート=モノ(n−デカノエート)、グリセリン=ジイソノナノエート=モノ(n−デカノエート)、グリセリン=ジイソオクタノエート=モノ(n−ウンデカノエート)、グリセリン=ジイソノナノエート=モノ(n−ウンデカノエート)、グリセリン=ジイソオクタノエート=モノ(n−ドデカノエート)、グリセリン=ジイソノナノエート=モノ(n−ウンデカノエート)、グリセリン=ジイソオクタノエート=モノオレエート、グリセリン=ジイソノナノエート=モノオレエート等の(A2)成分が例示される。
【0026】
本発明に係るグリセリン分岐鎖脂肪酸エステル(以下、「(B)成分」という。)は、下記一般式(2)で表される。
【0027】
【化5】

[式中、R、R及びRは、一般式(1)におけるRと同義であり、同一又は異なって、それぞれ炭素数8〜12の飽和脂肪族分岐鎖状モノカルボン酸からカルボキシル基を除いて得られる残基を表す。Xは、一般式(1)におけると同義である。]
【0028】
また、本発明に係るグリセリン直鎖脂肪酸エステル(以下、「(C)成分」という。)は、下記一般式(3)で表される。
【化6】

[式中、R、R及びRは、一般式(1)におけるRと同義であり、同一又は異なって、それぞれ炭素数4〜18の飽和若しくは不飽和の脂肪族直鎖状モノカルボン酸からカルボキシル基を除いて得られる残基を表す。Xは、一般式(1)におけると同義である。]
【0029】
(B)成分としては、具体的には、グリセリン=トリイソオクタノエート、グリセリン=トリイソノナノエート、グリセリン=トリイソデカノエート、グリセリン=トリイソウンデカノエート、グリセリン=トリイソドデカノエートが例示される。このなかでも、耐加水分解性、低温流動性に特に優れる点で、グリセリン=トリイソオクタノエート、グリセリン=イソノナノエートが好ましい。また、(A)成分を構成する脂肪族分岐鎖状モノカルボン酸成分と同じ成分を有する(B)成分も好ましい。即ち、一般式(1)におけるRと、一般式(2)におけるR、R及びRが同一である(B)成分が好ましい。
【0030】
(C)成分として、具体的には、グリセリン=トリ(n−ブチレート)、グリセリン=トリ(n−ペンタノエート)、グリセリン=トリ(n−ヘキサノエート)、グリセリン=トリ(n−ヘプタノエート)、グリセリン=トリ(n−オクタノエート)、グリセリン=トリ(n−ノナノエート)、グリセリン=トリ(n−デカノエート)、グリセリン=トリ(n−ウンデカノエート)、グリセリン=トリ(n−トリデカノエート)、グリセリン=トリ(n−テトラテガノエート)、グリセリン=トリ(n−ペンタデカノエート)、グリセリン=トリ(n−ヘキサデカノエート)、グリセリン=トリ(n−ヘプタデカノエート)、グリセリン=トリ(n−オクタデカノエート)、グリセリン=トリオレエートが例示される。このなかでも、粘度指数と潤滑性のバランスに特に優れる点で、グリセリン=トリ(n−オクタノエート)、グリセリン=トリ(n−ノナノエート)、グリセリン=トリ(n−デカノエート)、グリセリン=トリ(n−ウンデカノエート)、グリセリン=トリ(n−ドデカノエート)、グリセリン=トリオレエートが好ましい。また、(A)成分を構成する脂肪族直鎖状モノカルボン酸成分と同じ成分を有する(C)成分も好ましい。即ち、一般式(1)におけるRと、一般式(3)におけるR、R及びRが同一である(B)成分が好ましい。
【0031】
(A)成分の製法としては特に限定されず、従来公知の方法により製造することができる。例えば、炭素数8〜12の飽和の脂肪族分岐鎖状モノカルボン酸及び炭素数4〜18の飽和若しくは不飽和の脂肪族直鎖状モノカルボン酸の脂肪族モノカルボン酸混合物と、グリセリンとをエステル化した後、蒸留や溶剤抽出する等の方法で得ることができる。又、前記脂肪族モノカルボン酸のメチルエステル等の低級アルコールとのエステルと、グリセリンとのエステル交換反応によっても得ることができる。また、他のトリグリセリドと前記脂肪族モノカルボン酸とをエステル交換反応することによって得ることができる。例えば、炭素数4〜18の飽和若しくは不飽和の脂肪族直鎖状モノカルボン酸とグリセリンとのトリグリセリドと、炭素数8〜12の飽和の脂肪族分岐鎖状モノカルボン酸とを触媒存在下又は無触媒で、エステル交換反応することにより、本エステルを得ることもできる。
【0032】
又、他のトリグリセリドを用いてエステル交換反応することによっても得られ、他のトリグリセリドとしては、例えば、ヤシ油、パーム油、パーム核油等の植物系油脂、牛脂、豚脂などの動物系油脂から得られるトリグリセリドが挙げられる。さらに、これらの油脂を触媒存在下又は無触媒で、メタノール等の低級アルコールとのアルコリシスにより、一端グリセリンを得た後エステル化反応に供して本エステルを合成してもよい。また、これら天然系のグリセリンに代えて合成系のグリセリンを使用することもできる。
【0033】
上記脂肪族モノカルボン酸混合物に代えて炭素数8〜12の飽和の脂肪族分岐鎖状モノカルボン酸を用いてエステル化することにより、(B)成分を得ることができ、又、炭素数4〜18の飽和若しくは不飽和の脂肪族直鎖状モノカルボン酸を用いてエステル化することにより、(C)成分を得ることができる。
【0034】
エステル化方法により本エステルを得る具体例を以下に記載する。グリセリン1モルに対して、例えば脂肪族モノカルボン酸成分としては3.0〜4.5モル、好ましくは3.0〜3.6モル用いられる。この際、脂肪族分岐鎖状モノカルボン酸(B’)と脂肪族直鎖状モノカルボン酸(C’)とのモル比は広い範囲から選択される。このように、酸成分として(B’)、及び(C’)とを併用してエステル化反応に供すると、(A)成分、(B)成分及び(C)成分のエステル混合物として得ることができる。例えばエステル化反応に供する酸成分のモル比を(B’)成分の比率を高めて、具体的にはモル比として(B’):(C’)=40:60〜90:10、好ましくは50:50〜80:20の範囲にすると、(A)成分及び(B)成分の含有率の高いエステル混合物が得られやすく好ましい。
【0035】
エステル化触媒としては、ルイス酸類、アルカリ金属類、スルホン酸類等が例示され、具体的にルイス酸としては、アルミニウム誘導体、錫誘導体、チタン誘導体が例示され、アルカリ金属類としては、ナトリウムアルコキシド、カリウムアルコキシド等が例示され、更にスルホン酸類としてはパラトルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、硫酸等が例示される。触媒の使用量としては、例えば、原料である酸成分及びアルコール成分の総重量に対して0.05〜1.0重量%程度用いられる。
【0036】
エステル化反応は、通常100〜250℃、好ましくは120〜210℃の反応温度で、不活性ガス雰囲気中、常圧又は減圧下のいずれでも行うことができる。また、反応時間としては、通常3〜30時間である。必要に応じて、生成してくる水をベンゼン、トルエン、キシレン、シクロヘキサン等の非水溶性溶剤(水同伴剤)を用いて系外に共沸留去させてもよい。
【0037】
エステル化反応終了後、過剰の原料を減圧下または常圧下にて留去する。引き続き、慣用の精製方法、例えば、中和、水洗、液液抽出、減圧蒸留、活性炭等の吸着剤精製を用いて、本エステルを精製することができる。
【0038】
特に、エステル化反応により得られたエステル化反応生成物を、そのまま或いは未反応のアルコール成分(水同伴剤を使用した場合は、水同伴剤)を留去した後、アルカリ洗浄に供するのが好ましい。これにより、残存する未反応の酸、末端にカルボキシル基を有する不純物、触媒等が除去され、金属適合性、耐熱性等に優れたエステルを得ることができる。
【0039】
アルカリ洗浄に使用する洗浄液としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等のアルカリ金属水酸化物、炭酸ナトリウム等のアルカリ金属炭酸塩等のアルカリの水溶液が例示でき、その濃度は特に限定されないが、0.5〜20重量%程度が好ましい。アルカリ水溶液の使用量は反応終了後の反応生成物の全酸価に対して当量又は過剰となる量とするのが好ましい。アルカリ洗浄後の生成物は、中性となるまで水洗するのが好ましい。
【0040】
本エステルの全酸価としては、通常0.1mgKOH/g以下、好ましくは0.05mgKOH/g以下である。全酸価が0.1mgKOH/g以下のときには耐熱性が向上する。全酸価が0.1mgKOH/gを超える場合は、適当な中和剤で全酸価を低減させることもできる。
【0041】
本エステルの水酸基価(JIS K0070)としては、通常60mgKOH/g以下であり、耐熱性の向上、吸湿性の低下の観点からは、好ましくは30mgKOH/g、より好ましくは10mgKOH/g以下、特に好ましくは5mgKOH/g以下である。また、摩擦特性の観点からは、本エステルの中でも、水酸基価が10〜40mgKOH/gの範囲が好ましく、特に、酸成分がオレイン酸と脂肪族分岐鎖状モノカルボン酸である本エステルの場合には、この範囲内の水酸基価にすることにより、摩擦特性の改善効果が著しい傾向が見られる。水酸基価は、残存する水酸基を反応工程で十分に低減するか、精製工程で蒸留除去することにより調整可能である。
【0042】
本エステルの硫酸灰分(JIS K2272)としては、通常30ppm以下、好ましくは10ppm以下である。硫酸灰分が30ppm以下のときには耐熱性が向上する。硫酸灰分は、本エステルの原料となる酸及び/又はアルコールとして硫酸灰分が低いもの(例えば、30ppm以下のもの)を用い、又、触媒として金属触媒を使用した場合、触媒自身及び触媒由来の有機金属化合物を中和、水洗、吸着精製により十分に除去することで調整可能である。
【0043】
本エステルのヨウ素価(JIS K1525)としては、通常60以下、好ましくは30以下、より好ましくは20以下、特に好ましくは1以下である。ヨウ素価が60以下のときは耐熱性が向上する。ヨウ素価は、本エステルの原料となる不飽和の脂肪族直鎖状モノカルボン酸成分の使用比率を低減することにより調整可能である。また、ヨウ素価が60を越える本エステルを水素還元することでも調整可能である。
【0044】
本エステルの中でも、流動点(JIS K2269)が−20℃以下であるものが好ましく、より低温での使用に適する点で−30℃以下、更には−40℃以下であるものが好ましい。
【0045】
本エステルの中でも、粘度指数(JIS K2283)が60以上のものが好ましく、より好ましくは80以上、さらに好ましくは100以上、特に好ましくは140以上が推奨される。
【0046】
本エステルの中でも、40℃における動粘度が、5〜68mm/sであり、流動点が−20℃以下、且つ引火点が200℃以上であるエステルが好ましく、要求される物性により適宜選択される。
【0047】
[潤滑油]
本発明の潤滑油は、(i)(A)成分を潤滑油基油として含む潤滑油であるか、(ii)(A)成分と、(B)成分及び(C)成分からなる群から選ばれる少なくとも1種との混合物を潤滑油基油として含む潤滑油であるか、又は、(iii)前記(i)若しくは(ii)と他の基油(以下、「併用基油」という。)との混合物を潤滑油基油として含む潤滑油である。該潤滑油基油に対して、(A)成分を、5〜100重量%、好ましくは10〜85重量%、更に好ましくは20〜80重量%含有する。潤滑油基油として、(B)成分及び(C)成分から選ばれる少なくとも1種を含有する場合、潤滑油基油中における(C)成分の含有量は、10重量%以下が好ましく、より好ましくは2重量%以下、特に1重量%以下が推奨される。また、(A)成分、(B)成分及び(C)成分の重量比は、(A)成分と(C)成分の含有比が前記範囲内であれば特に制限はないが、好ましい範囲として、(A):(B):(C)=40〜85:3〜60:0〜20(重量比)が例示される。(A)成分を構成する脂肪族直鎖状モノカルボン酸が、飽和状のモノカルボン酸の場合には、(A):(B):(C)=50〜80:20〜50:0〜5(重量比)の範囲が好ましく、不飽和状のモノカルボン酸の場合には、(A):(B):(C)=70〜85:0〜25:0〜20(重量比)の範囲が好ましい。さらに、(A1)成分と(A2)成分との重量比には特に制限がないが、(A1):(A2)=5〜55:95〜45、特に、10〜35:90〜65の範囲が好ましい。
【0048】
[脂肪酸モノカルボン酸]
本発明の潤滑油の潤滑性を向上するために、炭素数12〜22の飽和若しくは不飽和脂肪族モノカルボン酸を併用することが好ましい。かかる脂肪族モノカルボン酸としては、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸等が例示される。これらの脂肪族モノカルボン酸は、単独で又は組合わせて用いることができる。脂肪族モノカルボン酸を使用する場合、通常、潤滑油基油に対して0.01重量%〜5重量%、好ましくは0.1重量%〜3重量%添加することが望ましい。
【0049】
上記併用基油としては、鉱物油(石油の精製によって得られる炭化水素油)、ポリ−α−オレフィン、ポリブテン、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、脂環式炭化水素油、フィッシャートロプシュ法(Fischer-Tropsch process)によって得られる合成炭化水素の異性化油などの合成炭化水素油、動植物油、本エステル以外の有機酸エステル(本発明のエステルを除く。)、ポリアルキレングリコール、ポリビニルエーテル、ポリフェニルエーテル、アルキルフェニルエーテル、シリコーン油が例示され、係る併用基油の少なくとも1種を適宜併用することができる。
【0050】
鉱物油としては、溶剤精製鉱油、水素化精製鉱油、ワックス異性化油が挙げられるが、通常、100℃における動粘度が1.0〜25mm/s、好ましくは2.0〜20.0mm/sの範囲にあるものが用いられる。
【0051】
ポリ−α−オレフィンとしては、炭素数2〜16のα−オレフィン(例えばエチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1ーヘキサデセン等)の重合体又は共重合体であって、100℃における動粘度が1.0〜25mm/s、粘度指数が100以上のものが例示され、特に100℃における動粘度が1.5〜20.0mm/sで、粘度指数が120以上のものが好ましい。
【0052】
ポリブテンとしては、イソブチレンを重合したもの、イソブチレンをノルマルブチレンと共重合したものがあり、一般に100℃の動粘度が2.0〜40mm/sの広範囲のものが挙げられる。
【0053】
アルキルベンゼンとしては、炭素数1〜40の直鎖又は分岐のアルキル基で置換された、分子量が200〜450であるモノアルキルベンゼン、ジアルキルベンゼン、トリアルキルベンゼン、テトラアルキルベンゼン等が例示される。
【0054】
アルキルナフタレンとしては、炭素数1〜30の直鎖又は分岐のアルキル基で置換されたモノアルキルナフタレン、ジアルキルナフタレン等が例示される。
【0055】
動植物油としては、牛脂、豚脂、パーム油、ヤシ油、ナタネ油、ヒマシ油、ヒマワリ油等が例示される。
【0056】
本エステル以外の有機酸エステルとしては、脂肪酸モノエステル、脂肪族直鎖二塩基酸ジエステル、ポリオールエステル及びその他のエステルが例示される。
【0057】
脂肪酸モノエステルとしては、炭素数5〜22の脂肪族直鎖状又は分岐鎖状モノカルボン酸と炭素数3〜22の直鎖状又は分岐鎖状の飽和若しくは不飽和の脂肪族アルコールとのエステルが挙げられる。
【0058】
脂肪族二塩基酸ジエステルとしては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、1,9−ノナメチレンジカルボン酸、1,10−デカメチレンジカルボン酸等脂肪族二塩基酸若しくはその無水物と炭素数3〜22の直鎖状又は分岐鎖状の飽和若しくは不飽和の脂肪族アルコールとのフルエステルが挙げられる。
【0059】
ポリオールエステルとしては、ネオペンチルグリコール、2,2−ジエチルプロパンジオール、2−ブチル−2−エチルプロパンジオール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジトリメチロールプロパン、ジペンタエリスリトール等のネオペンチル型構造のポリオール、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,2−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、2−メチル−1,4−ブタンジオール、1,4−ペンタンジオール、2−メチル−1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,5−ヘキサンジオール、2−メチル−1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,6−ヘキサンジオール、1,6−ヘプタンジオール、2−メチル−1,7−ヘプタンジオール、3−メチル−1,7−ヘプタンジオール、4−メチル−1,7−ヘプタンジオール、1,7−オクタンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、3−メチル−1,8−オクタンジオール、4−メチル−1,8−オクタンジオール、1,8−ノナンジオール、2−メチル−1,9−ノナンジオール、3−メチル−1,9−ノナンジオール、4−メチル−1,9−ノナンジオール、5−メチル−1,9−ノナンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオール、ポリグリセリン、ソルビトール等の非ネオペンチル型構造のポリオールと炭素数3〜22の直鎖状及び/又は分岐鎖状の飽和又は不飽和の脂肪酸とのフルエステルを使用することが可能である。
【0060】
その他のエステルとしては、ダイマー酸、水添ダイマー酸などの重合脂肪酸、或いは、縮合ヒマシ油脂肪酸、水添縮合ヒマシ油脂肪酸などのヒドロキシ脂肪酸と炭素数3〜22の直鎖状若しくは分岐鎖状の飽和又は不飽和の脂肪族アルコールとのエステルが挙げられる。
【0061】
ポリアルキレングリコールとしては、アルコールと炭素数2〜4の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキレンオキサイドの開環重合体が例示される。アルキレンオキサイドとしてはエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイドが挙げられ、これらの1種を用いた重合体、若しくは2種以上の混合物を用いた共重合体が使用可能である。又、片端又は両端の水酸基部分がエーテル化した化合物も使用可能である。重合体の動粘度としては、通常5.0〜1000mm/s(40℃)、好ましくは5.0〜500mm/s(40℃)である。
【0062】
ポリビニルエーテルとしては、ビニルエーテルモノマーの重合によって得られる化合物であり、モノマーとしてはメチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、sec−ブチルビニルエーテル、tert−ブチルビニルエーテル、n−ペンチルビニルエーテル、n−ヘキシルビニルエーテル、2−メトキシエチルビニルエーテル、2−エトキシエチルビニルエーテル等が挙げられる。重合体の動粘度としては、通常5.0〜1000mm/s(40℃)、好ましくは5.0〜500mm/s(40℃)である。
【0063】
ポリフェニルエーテルとしては、2個以上の芳香環のメタ位をエーテル結合又はチオエーテル結合でつないだ構造を有する化合物が挙げられ、具体的には、ビス(m−フェノキシフェニル)エーテル、m−ビス(m−フェノキシフェノキシ)ベンゼン、及びそれらの酸素の1個若しくは2個以上を硫黄に置換したチオエーテル類(通称C−エーテル)等が例示される。
【0064】
アルキルフェニルエーテルとしては、ポリフェニルエーテルを炭素数6〜18の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基で置換した化合物が挙げられ、特に1個以上のアルキル基で置換したアルキルジフェニルエーテルが好ましい。
【0065】
シリコーン油としては、ジメチルシリコーン、メチルフェニルシリコーンのほか、長鎖アルキルシリコーン、フルオロシリコーン等の変性シリコーンが挙げられる。
【0066】
これらの併用基油の中でも、耐熱性及び潤滑性に優れる点で合成炭化水素油及び有機酸エステルが好ましく、特に、ポリ−α−オレフィン、脂肪族二塩基酸ジエステル、及びポリオールエステルが好ましい。
【0067】
特に好ましい脂肪族二塩基酸ジエステルとしては、アジピン酸、アゼライン酸又はセバシン酸と、炭素数8〜10の脂肪族飽和直鎖状一価アルコール又は炭素数8〜13の脂肪族飽和分岐鎖状一価アルコールとのフルエステルが例示される。なかでも、混合油の低温流動性に優れる点で、アジピン酸ジ(2−エチルヘキシル)、アジピン酸ジイソノニル、アジピン酸ジ(3,5,5−トリメチルヘキシル)、アジピン酸ジイソデシル、アジピン酸ジイソトリデシル、アゼライン酸ジ(2−エチルヘキシル)、アゼライン酸ジイソノニル、アゼライン酸ジ(3,5,5−トリメチルヘキシル)、アゼライン酸ジイソデシル、アゼライン酸ジイソトリデシル、セバシン酸ジ(2−エチルヘキシル)、セバシン酸ジイソノニル、セバシン酸ジ(3,5,5−トリメチルヘキシル)、セバシン酸ジイソデシル、セバシン酸ジイソトリデシルが最も好ましい。
【0068】
又、特に好ましいポリオールエステルとしては、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール又はジペンタエリスリトールと、炭素数4〜10の直鎖状及び/又は分岐鎖状の脂肪酸とのフルエステルが例示される。具体的には、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール及びジペンタエリスリトールからなる群より選ばれる1種若しくは2種以上の多価アルコール、及びn−ブタン酸、n−ペンタン酸、n−ヘキサン酸、n−ヘプタン酸、n−オクタン酸、n−ノナン酸、n−デカン酸、イソブタン酸、イソペンタン酸、イソヘキサン酸、イソヘプタン酸、イソオクタン酸、2−エチルヘキサン酸、イソノナン酸、3,5,5−トリメチルヘキサン酸及びイソデカン酸からなる群より選ばれる1種若しくは2種以上の脂肪族モノカルボン酸から得られるフルエステルが好ましい。
【0069】
これらの中でも、混合油の低温流動性に優れる点で、ネオペンチルグリコール又はトリメチロールプロパンと炭素数5〜10の直鎖状及び/又は分岐鎖状の脂肪酸とのフルエステルが最も好ましい。
【0070】
本発明に係る潤滑油には、その性能を向上させるために、その他の添加剤、より具体的には、酸化防止剤、潤滑性向上剤、金属清浄剤、無灰分散剤、防錆剤、金属不活性剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、消泡剤等の添加剤の1種又は2種以上を適宜配合することも可能である。これらの配合量は、所定の効果を奏する限り特に限定されるものではないが、その具体的な例を以下に示す。
【0071】
酸化防止剤としては、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール、2−tert−ブチル−4−ヒドロキシアニソール、2,5−ジ−tert−ブチルハイドロキノン、4−ヒドロキシメチル−2,6−ジ−tert−ブチルフェノール、4,4’−メチレンビス−2,6−ジ−tert−ブチルフェノール、2,2’−メチレンビス−4−メチル−6−tert−ブチルフェノール等のフェノール系、N−フェニル−α−ナフチルアミン、p,p’−ジオクチルジフェニルアミン、p,p’−ジノニルジフェニルアミン、混合ジアルキルジフェニルアミン等のアミン系、フェノチアジン等の硫黄系化合物等が例示され、特にフェノール系酸化防止剤が好ましい。これらの酸化防止剤は、単独で又は組合わせて用いてもよく、酸化防止剤を使用する場合、通常、潤滑油基油に対して0.01〜5重量%、好ましくは0.05〜3重量%添加することが望ましい。
【0072】
潤滑性向上剤としては、油性剤、耐摩耗剤、極圧剤が例示される。油性剤としてはラウリルアルコール、オレイルアルコールなどの脂肪族飽和及び不飽和モノアルコール、ステアリルアミン、オレイルアミンなどの脂肪族飽和及び不飽和モノアミン、ラウリン酸アミド、オレイン酸アミドなどの脂肪族飽和及び不飽和モノカルボン酸アミド、バチルアルコール、キミルアルコール、セラキルアルコールなどのグリセリンエーテル、ラウリルポリグリセリンエーテル、オレイルポリグリセリルエーテルなどのアルキル若しくはアルケニルポリグリセリルエーテル、ジ(2−エチルヘキシル)モノエタノールアミン、ジイソトリデシルモノエタノールアミンなどのアルキル若しくはアルケニルアミンのポリ(アルキレンオキサイド)付加物等が例示される。これらの油性剤は、単独で又は組合わせて用いることができ、脂肪族モノカルボン酸を使用する場合、通常、潤滑油基油に対して0.01重量%〜5重量%、好ましくは0.1重量%〜3重量%添加することが望ましい。
【0073】
摩耗防止剤・極圧剤としては、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、アルキルフェニルホスフェート類、トリブチルホスフェート、ジブチルホスフェート等のリン酸エステル類、トリブチルホスファイト、ジブチルホスファイト、トリイソプロピルホスファイト等の亜りん酸エステル類及びこれらのアミン塩等のリン系、硫化油脂、硫化オレイン酸などの硫化脂肪酸、ジベンジルジスルフィド、硫化オレフィン、ジアルキルジスルフィドなどの硫黄系、Zn−ジアルキルジチオフォスフェート、Zn−ジアルキルジチオフォスフェート、Mo−ジアルキルジチオフォスフェート、Mo−ジアルキルジチオカルバメートなどの有機金属系化合物等が例示される。これらの摩耗防止剤は、単独で又は組合わせて用いてもよく、摩耗防止剤を使用する場合、通常、潤滑油基油に対して0.01重量%〜10重量%、好ましくは0.1重量%〜5重量%添加することが望ましい。
【0074】
金属清浄剤としては、Ca−石油スルフォネート、過塩基性Ca−石油スルフォネート、Ca−アルキルベンゼンスルフォネート、過塩基性Ca−アルキルベンゼンスルフォネート、Ba−アルキルベンゼンスルフォネート、過塩基性Ba−アルキルベンゼンスルフォネート、Mg−アルキルベンゼンスルフォネート、過塩基性Mg−アルキルベンゼンスルフォネート、Na−アルキルベンゼンスルフォネート、過塩基性Na−アルキルベンゼンスルフォネート、Ca−アルキルナフタレンスルフォネート、過塩基性Ca−アルキルナフタレンスルフォネートなどの金属スルフォネート、Ca−フェネート、過塩基性Ca−フェネート、Ba−フェネート、過塩基性Ba−フェネートなどの金属フェネート、Ca−サリシレート、過塩基性Ca−サリシレートなどの金属サリシレート、Ca−フォスフォネート、過塩基性Ca−フォスフォネート、Ba−フォスフォネート、過塩基性Ba−フォスフォネートなどの金属フォスフォネート、過塩基性Ca−カルボキシレート等が例示される。これらの金属清浄剤は、単独で又は組合わせて用いてもよく、これらの金属清浄剤を使用する場合、通常、潤滑油基油に対して1〜10重量%、好ましくは2〜7重量%添加することが望ましい。
【0075】
無灰分散剤としては、ポリアルケニルコハク酸イミド、ポリアルケニルコハク酸アミド、ポリアルケニルベンジルアミン、ポリアルケニルコハク酸エステル等が例示される。これらの無灰分散剤は、単独で又は組合わせて用いてもよく、これらの無灰分散剤を使用する場合、通常、潤滑油基油に対して1〜10重量%、好ましくは2〜7重量%添加することが望ましい。
【0076】
防錆剤としては、ドデセニルコハク酸ハーフエステル、オクタデセニルコハク酸無水物、ドデセニルコハク酸アミドなどのアルキル又はアルケニルコハク酸誘導体、ソルビタンモノオレエート、グリセリンモノオレエート、ペンタエリスリトールモノオレエートなどの多価アルコール部分エステル、Ca−石油スルフォネート、Ca−アルキルベンゼンスルフォネート、Ba−アルキルベンゼンスルフォネート、Mg−アルキルベンゼンスルフォネート、Na−アルキルベンゼンスルフォネート、Zn−アルキルベンゼンスルフォネート、Ca−アルキルナフタレンスルフォネートなどの金属スルフォネート、ロジンアミン、N−オレイルザルコシンなどのアミン類、ジアルキルホスファイトアミン塩等が例示される。これらの防錆剤は、単独で又は組合わせて用いてもよく、これらの防錆剤を使用する場合、通常、潤滑油基油に対して0.01重量%〜5重量%、好ましくは0.05〜2重量%添加することが望ましい。
【0077】
金属不活性剤としては、ベンゾトリアゾール系、チアジアゾール系、没食子酸エステル系の化合物等が例示される。これらの金属不活性剤の中でも色相、長期耐久性に優れる点で、没食子酸エステルが好ましい。没食子酸エステルとしては、具体的には炭素数3〜12のアルキル基を有する没食子酸アルキルエステルが例示される。これらの金属不活性剤は、単独で又は組合わせて用いてもよく、これらの金属不活性剤を使用する場合、通常、潤滑油基油に対して0.01〜0.4重量%、好ましくは0.01〜0.2重量%添加することが望ましい。
【0078】
粘度指数向上剤としては、ポリアルキルメタクリレート、ポリアルキルスチレン、ポリブテン、エチレン−プロピレン共重合体、スチレン−ジエン共重合体、スチレン−無水マレイン酸エステル共重合体などのオレフィン共重合体が例示される。これらの粘度指数向上剤は、単独で又は組合わせて用いてもよく、これらの粘度指数向上剤を使用する場合、通常、潤滑油基油に対して0.1〜15重量%、好ましくは0.5〜7重量%添加することが望ましい。
【0079】
流動点降下剤としては、塩素化パラフィンとアルキルナフタレンの縮合物、塩素化パラフィンとフェノールの縮合物、既述の粘度指数向上剤であるポリアルキルメタクリレート、ポリアルキルスチレン、ポリブテン等が例示される。これらの流動点降下剤は、単独で又は組合わせて用いてもよく、これらの流動点降下剤を使用する場合、通常、潤滑油基油に対して0.01〜5重量%、好ましくは0.1〜3重量%添加することが望ましい。
【0080】
消泡剤としては、液状シリコーンが適しており、消泡剤を使用する場合、その添加量は、通常、潤滑油基油に対して、通常0.0005〜0.01重量%である。
【0081】
本発明の潤滑油の中でも、40℃における動粘度が、5〜68mm/sの範囲であるものが好ましく、特に、7〜40mm/sの範囲であるものが好ましい。
【0082】
本発明の潤滑油の中でも、流動点が−20℃以下であるものが好ましく、より低温での使用に適する点で−30℃以下、さらには−40℃以下であるものが好ましい。
【0083】
本発明の潤滑油の中でも、粘度指数が60以上のものが好ましく、より好ましくは80以上、さらに好ましくは100以上、特に好ましくは140以上が推奨される。
【0084】
本発明の潤滑油の中でも、引火点が200℃以上のものが好ましく、より好ましくは230℃以上、さらに好ましくは235℃以上、特に好ましくは250℃以上が推奨される。
【0085】
本発明の潤滑油の中でも、耐加水分解性が、50mgKOH/g以下、より好ましくは30mgKOH/g以下が、特に10mgKOH/g以下が推奨される。
【0086】
上記好ましい本発明の潤滑油の中でも、流動点、40℃における動粘度、流動点及び引火点の全てが上記好ましい範囲である潤滑油が特に好ましく、具体的には、40℃における動粘度が5〜68mm2/s(好ましくは5〜68mm2/s、より好ましくは7〜40mm2/s)、流動点が−20℃以下(好ましくは−30℃以下、より好ましくは−40℃以下)、且つ引火点が230℃以上(好ましくは235℃以上、より好ましくは250℃以上)である潤滑油が好ましい。
【0087】
なお、上記、流動点、粘度指数(40℃及び100℃の粘度)、引火点、耐加水分解安定性は、下記実施例の項に記載の方法で測定される値である。
【実施例】
【0088】
以下に実施例を掲げて本発明を詳しく説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。また、各実施例及び比較例における潤滑油の物理特性及び化学特性は以下の方法により評価した。
【0089】
(a)エステル組成の分析
下記条件を用いて、ガスクロマトグラフィー(GC)又はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定した。
[GC法]
機器:島津製作所製 GC−2010
カラム:J&W製TC−5 30mx0.25mm
カラム温度:100〜300℃(昇温速度20℃/min)
インジェクション温度/検出器温度:300℃/300℃
検出器:FID
キャリアガス:ヘリウム
ガス流量:0.97ml/min
[GPC法]
機器:日本ウォーターズ製 alliance2690
カラム:昭和電工製 Shodex GPC KF−802.5、KF802、KF−801、及びKF801の各々1本を連結して使用。
カラム温度:40℃
流量:0.8ml/min
【0090】
(b)全酸価
JIS K2501に準拠して測定した。
【0091】
(c)動粘度
JIS K2283に準拠して、40℃、100℃における動粘度を測定した。
【0092】
(d)粘度指数
JIS K2283に準拠して算出した。
【0093】
(e)流動点
JIS K2269に準拠して流動点を測定した。
【0094】
(f)引火点
JIS K2265(クリーブランド解放式)に準拠して測定した。
【0095】
(g)摩擦係数
曽田式振り子式油性試験器を用いて、25℃で測定した。
【0096】
(h)耐加水分解性
各実施例、比較例の潤滑油(エステル)2.0gと蒸留水0.2gを内径6.6mm、長さ30cmのガラス管内に秤取り、アスピレーターで減圧にしながら、ガラス管上部を溶融し密封した。このガラス管を温度175℃で20時間加熱した後、試料の酸価を測定した。
【0097】
(i)二層分離温度(冷媒との相溶性)
各実施例、比較例の潤滑油(エステル)2.5gをバルブを備えた耐圧試験管に入れた後、系内を脱気し冷媒(R134a)を22.5g導入した。試料を一旦−30℃まで冷却した後徐々に昇温し、層分離または白濁が消える温度を二層分離温度とした。なお、試験中に、固体が析出した場合は試験を中止した。
【0098】
(j)水酸基価
JIS K0070に準拠して測定した。
【0099】
(製造例1)
撹拌器、温度計、冷却管付き水分分留受器を備えた1リットルの四ツ口フラスコに2−エチルヘキサン酸(協和発酵ケミカル製品「オクチル酸」)356.5g(2.47モル)、n−デカン酸(新日本理化製品「カプリン酸」)106.5g(0.62モル)、グリセリン(新日本理化製品「局方グリセリン」)92.1g(1.00モル)、キシレン(酸及びアルコールの総量に対し 約5重量%)、及び触媒として 第一酸化錫(酸及びアルコールの総量に対し約0.2重量%)を仕込み、窒素雰囲気下、減圧にて230℃まで昇温した。理論生成水量(54g)を目処にして留出してくる生成水を水分分留受器で除去しながらエステル化反応を約15時間行った。反応終了後、過剰の酸及びキシレンを蒸留により除去してエステル化粗物を得た。次いで、得られたエステル化粗物を反応終了後の全酸価に対して過剰の苛性ソーダ水溶液で中和後、中性になるまで水洗した。さらに、得られたエステル化粗物を活性炭で処理後、濾過により活性炭を除去して、本発明に係る混基エステル、グリセリン=ジ(2−エチルヘキサノエート)=モノ(n−デカノエート)、及び、グリセリン=モノ(2−エチルヘキサノエート)=ジ(n−デカノエート)、を含有するエステル混合物 453gを得た。得られたエステル混合物の成分組成(GC法)と全酸価を表1に示した。
【0100】
(製造例2)
撹拌器、温度計、冷却管付き水分分留受器を備えた1リットルの四ツ口フラスコに2−エチルヘキサン酸(協和発酵ケミカル製品「オクチル酸」)245.2g(1.70モル)、n−デカン酸(ライオン製品「サンファット−M10」)292.8g(1.70モル)、グリセリン(新日本理化製品「局方グリセリン」)101.3g(1.10モル)、キシレン(酸及びアルコールの総量に対し約5重量%)、及び触媒として 第一酸化錫(酸及びアルコールの総量に対し約0.2 重量%)を仕込み、窒素雰囲気下、減圧にて 230℃まで昇温した。理論生成水量(59g)を目処にして留出してくる生成水を水分分留受器で除去しながらエステル化反応を約10時間行った。反応終了後、過剰の酸及びキシレンを蒸留により除去してエステル化粗物を得た。次いで、得られたエステル化粗物を反応終了後の全酸価に対して過剰の苛性ソーダ水溶液で中和後、中性になるまで水洗した。さらに、得られたエステル化粗物を活性炭で処理後、濾過により活性炭を除去して、本発明に係る混基エステル、グリセリン=ジ(2−エチルヘキサノエート)=モノ(n−デカノエート)、及びグリセリン=モノ(2−エチルヘキサノエート)=ジ(n−デカノエート)、を含有するエステル混合物 560gを得た。得られたエステル混合物の成分組成(GC法)と全酸価を表1に示した。
【0101】
(製造例3)
撹拌器、温度計、冷却管付き水分分留受器を備えた1リットルの四ツ口フラスコに2−エチルヘキサン酸(協和発酵ケミカル製品「オクチル酸」)392.1g(2.72モル)、n−ドデカン酸(新日本理化製品「ラウリン酸P」)136.2g(0.68モル)、グリセリン(新日本理化製品「局方グリセリン」)101.3g(1.10モル)、キシレン(酸及びアルコールの総量に対し約5重量%)、及び触媒として 第一酸化錫(酸及びアルコールの総量に対し約0.2重量%)を仕込み、窒素雰囲気下、減圧にて230℃まで昇温した。理論生成水量(59g)を目処にして留出してくる生成水を水分分留受器で除去しながらエステル化反応を約8時間行った。反応終了後、過剰の酸及びキシレンを蒸留により除去してエステル化粗物を得た。次いで、得られたエステル化粗物を反応終了後の全酸価に対して過剰の苛性ソーダ水溶液で中和後、中性になるまで水洗した。さらに、得られたエステル化粗物を活性炭で処理後、濾過により活性炭を除去して、本発明に係る混基エステル、グリセリン=ジ(2−エチルヘキサノエート)=モノ(n−ドデカノエート)、及び、グリセリン=モノ(2−エチルヘキサノエート)=ジ(n−ドデカノエート)、を含有するエステル混合物 439gを得た。得られたエステル混合物の成分組成(GC法)と全酸価を表1に示した。
【0102】
(製造例4)
撹拌器、温度計、冷却管付き水分分留受器を備えた1リットルの四ツ口フラスコに3,5,5−トリメチルヘキサン酸(協和発酵ケミカル製品「キョーワノイックN」)410.6g(2.60モル)、n−オクタン酸(新日本理化製品「カプリル酸」)160.4g(1.11モル)、グリセリン(新日本理化製品「局方グリセリン」)110.5g(1.20モル)、キシレン(酸及びアルコールの総量に対し約5重量%)、及び触媒として 第一酸化錫(酸及びアルコールの総量に対し約0.2重量%)を仕込み、窒素雰囲気下、減圧にて230℃まで昇温した。理論生成水量(65g)を目処にして留出してくる生成水を水分分留受器で除去しながらエステル化反応を約6時間行った。反応終了後、過剰の酸及びキシレンを蒸留により除去してエステル化粗物を得た。次いで、得られたエステル化粗物を反応終了後の全酸価に対して過剰の苛性ソーダ水溶液で中和後、中性になるまで水洗した。さらに、得られたエステル化粗物を活性炭で処理後、濾過により活性炭を除去して、本発明に係る混基エステル、グリセリン=ジ(3,5,5−トリメチルヘキサノエート)=モノ(n−オクタノエート)、及び、グリセリン=モノ(3,5,5−トリメチルヘキサノエート)=ジ(n−オクタノエート)、を含有するエステル混合物 456gを得た。得られたエステル混合物の成分組成(GC法)と全酸価を表1に示した。
【0103】
(製造例5)
撹拌器、温度計、冷却管付き水分分留受器を備えた1リットルの四ツ口フラスコに3,5,5−トリメチルヘキサン酸(協和発酵ケミカル製品「キョーワノイックN」)469.3g(2.97モル)、n−デカン酸(ライオン製品「サンファット−M10」)127.7g(0.74モル)、グリセリン(新日本理化製品「局方グリセリン」)110.5g(1.20モル)、キシレン(酸及びアルコールの総量に対し約5重量%)、及び触媒として 第一酸化錫(酸及びアルコールの総量に対し約0.2重量%)を仕込み、窒素雰囲気下、減圧にて 230℃まで昇温した。理論生成水量(65g)を目処にして留出してくる生成水を水分分留受器で除去しながらエステル化反応を約6時間行った。反応終了後、過剰の酸及びキシレンを蒸留により除去してエステル化粗物を得た。次いで、得られたエステル化粗物を反応終了後の全酸価に対して過剰の苛性ソーダ水溶液で中和後、中性になるまで水洗した。さらに、得られたエステル化粗物を活性炭で処理後、濾過により活性炭を除去して、本発明に係る混基エステル、グリセリン=ジ(3,5,5−トリメチルヘキサノエート)=モノ(n−デカノエート)、及び、グリセリン=モノ(3,5,5−トリメチルヘキサノエート)=ジ(n−デカノエート)、を含有するエステル混合物 557gを得た。得られたエステル混合物の成分組成(GC法)と全酸価を表1に示した。
【0104】
(製造例6)
撹拌器、温度計、冷却管付き水分分留受器を備えた1リットルの四ツ口フラスコにn−デカン酸(ライオン製品「サンファット−M10」)631.6g(3.67モル)、グリセリン(新日本理化製品「局方グリセリン」)110.5g(1.20モル)、キシレン(酸及びアルコールの総量に対し約5重量%)、及び触媒として 第一酸化錫(酸及びアルコールの総量に対し約0.1重量%)を仕込み、窒素雰囲気下、減圧にて230℃まで昇温した。理論生成水量(65g)を目処にして留出してくる生成水を水分分留受器で除去しながらエステル化反応を約6時間行った。反応終了後、過剰の酸及びキシレンを蒸留により除去してエステル化粗物を得た。次いで、得られたエステル化粗物を反応終了後の全酸価に対して過剰の苛性ソーダ水溶液で中和後、中性になるまで水洗した。さらに、得られたエステル化粗物を活性炭で処理後、濾過により活性炭を除去して、グリセリン=トリ(n−デカノエート) 488gを得た。このエステルの全酸価を表1に示した。
【0105】
(製造例7)
撹拌器、温度計、冷却管付き水分分留受器を備えた1リットルの四ツ口フラスコに2−エチルヘキサン酸(協和発酵ケミカル製品「オクチル酸」)573.67g(3.98モル)、グリセリン(新日本理化製品「局方グリセリン」)119.7g(1.30モル)、キシレン(酸及びアルコールの総量に対し 約5重量%)、及び触媒として 第一酸化錫(酸及びアルコールの総量に対し約0.2重量%)を仕込み、窒素雰囲気下、減圧にて 230℃まで昇温した。理論生成水量(70g)を目処にして留出してくる生成水を水分分留受器で除去しながらエステル化反応を約10時間行った。反応終了後、過剰の酸及びキシレンを蒸留により除去してエステル化粗物を得た。次いで、得られたエステル化粗物を反応終了後の全酸価に対して過剰の苛性ソーダ水溶液で中和後、中性になるまで水洗した。さらに、得られたエステル化粗物を活性炭で処理後、濾過により活性炭を除去して、グリセリン=トリ(2−エチルヘキサノエート)528gを得た。このエステルの全酸価を表1に示した。
【0106】
(製造例8)
撹拌器、温度計、冷却管付き水分分留受器を備えた1リットルの四ツ口フラスコに3,5,5−トリメチルヘキサン酸(協和発酵ケミカル製品「キョーワノイックN」)581.1g(3.67 モル)、グリセリン(新日本理化製品「局方グリセリン」)110.5g(1.20モル)、キシレン(酸及びアルコールの総量に対し約5重量%)、及び触媒として 第一酸化錫(酸及びアルコールの総量に対し約0.2重量%)を仕込み、窒素雰囲気下、減圧にて 230℃まで昇温した。理論生成水量(65g)を目処にして留出してくる生成水を水分分留受器で除去しながらエステル化反応を約11時間行った。反応終了後、過剰の酸及びキシレンを蒸留により除去してエステル化粗物を得た。次いで、得られたエステル化粗物を反応終了後の全酸価に対して過剰の苛性ソーダ水溶液で中和後、中性になるまで水洗した。さらに、得られたエステル化粗物を活性炭で処理後、濾過により活性炭を除去して、グリセリン=トリ(3,5,5−トリメチルヘキサノエート)514gを得た。このエステルの全酸価を表1に示した。
【0107】
(製造例9)
撹拌器、温度計、冷却管付き水分分留受器を備えた1リットルの四ツ口フラスコに2−エチルヘキサン酸(協和発酵ケミカル製品「オクチル酸」)200.5g(1.39モル)、オレイン酸(新日本理化製品「オレイン酸D−100」)392.8g(1.39モル)、グリセリン(新日本理化製品「局方グリセリン」)82.9g(0.90モル)、キシレン(酸及びアルコールの総量に対し 約5重量%)、及び触媒として 第一酸化錫(酸及びアルコールの総量に対し約0.2重量%)を仕込み、窒素雰囲気下、減圧にて230℃まで昇温した。理論生成水量(49g)を目処にして留出してくる生成水を水分分留受器で除去しながらエステル化反応を約13時間行った。反応終了後、過剰の酸及びキシレンを蒸留により除去してエステル化粗物を得た。次いで、得られたエステル化粗物を反応終了後の全酸価に対して過剰の苛性ソーダ水溶液で中和後、中性になるまで水洗した。さらに、得られたエステル化粗物を活性炭で処理後、濾過により活性炭を除去して、2−エチルヘキサン酸及びオレイン酸と、グリセリンとから得られるエステル混合物 369gを得た。得られたエステル混合物の成分組成(GPC法)、全酸価、水酸基価を表2に示した。
【0108】
(製造例10)
2−エチルヘキサン酸を284.0g(1.97モル)、オレイン酸を299.6g(1.06モル)に変更した以外は製造例9と同様にして反応、精製を行い、2−エチルヘキサン酸及びオレイン酸と、グリセリンとから得られるエステル混合物 361gを得た。得られたエステル混合物の成分組成(GPC法)、全酸価、水酸基価を表2に示した。
【0109】
(製造例11)
2−エチルヘキサン酸を427.8g(2.97モル)、オレイン酸を209.5g(0.74モル)に変更した以外は製造例9と同様にして反応、精製を行い、2−エチルヘキサン酸及びオレイン酸と、グリセリンとから得られるエステル混合物 369gを得た。得られたエステル混合物の成分組成(GPC法)、全酸価、水酸基価を表2に示した。
【0110】
(製造例12)
撹拌器、温度計、冷却管付き水分分留受器を備えた1リットルの四ツ口フラスコに2−エチルヘキサン酸(協和発酵ケミカル製品「オクチル酸」)199.0g(1・38モル)、オレイン酸(新日本理化製品「オレイン酸D−100」)389.8g(1.38モル)、グリセリン(新日本理化製品「局方グリセリン」)105.9g(1.15モル)、キシレン(酸及びアルコールの総量に対し 約5重量%)を仕込み、窒素雰囲気下、減圧にて230℃まで昇温した。留出してくる生成水を水分分留受器で除去しながらエステル化反応を約7時間行った。その後触媒として 第一酸化錫(酸及びアルコールの総量に対し約0.05重量%)を仕込み、更に6時間反応させた。反応終了後、過剰の酸及びキシレンを蒸留により除去してエステル化粗物を得た。次いで、得られたエステル化粗物を反応終了後の全酸価に対して過剰の苛性ソーダ水溶液で中和後、中性になるまで水洗した。さらに、得られたエステル化粗物を活性炭で処理後、濾過により活性炭を除去して、2−エチルヘキサン酸及びオレイン酸と、グリセリンとから得られるエステル混合物 346gを得た。得られたエステル混合物の成分組成(GPC法)、全酸価、水酸基価を表2に示した。
【0111】
(製造例13)
2−エチルヘキサン酸に代えて、3,5,5−トリメチルヘキサン酸220.0g(1.39mol)を用いた以外は製造例9と同様にして反応、精製を行い、3,5,5−トリメチルヘキサン酸及びオレイン酸と、グリセリンとから得られるエステル混合物 341gを得た。得られたエステル混合物の成分組成(GPC法)、全酸価、水酸基価を表1に示した
【0112】
(実施例1〜5)
製造例1〜5で得られた各エステル混合物からなる潤滑油の、動粘度、粘度指数、流動点、引火点、摩擦係数、及び冷媒との相溶性の評価結果を表3に示す。
【0113】
(比較例1)
製造例6で得られたグリセリン=トリ(n−デカノエート)20.0重量%と、製造例7で得られたグリセリン=トリ(2−エチルヘキサノエート)80.0重量%とからなる潤滑油の動粘度、粘度指数、流動点、引火点、摩擦係数、及び冷媒との相溶性の評価結果を表3に示した。
【0114】
(比較例2)
製造例6で得られたグリセリン=トリ(n−デカノエート)50.0重量%と、製造例7で得られたグリセリン=トリ(2−エチルヘキサノエート)50.0重量%とからなる潤滑油の動粘度、粘度指数、流動点、引火点、摩擦係数、及び冷媒との相溶性の評価結果を表3に示した。
【0115】
(比較例3)
製造例6で得られたグリセリン=トリ(n−デカノエート)20.0重量%と、製造例8でえられたグリセリン=トリ(3,5,5−トリメチルヘキサノエート)80.0重量%とからなる潤滑油の動粘度、粘度指数、流動点、引火点、摩擦係数、及び冷媒との相溶性の結果を表3に示した。
【0116】
(比較例4)
製造例6で得られたグリセリン=トリ(n−デカノエート)からなる潤滑油の動粘度、粘度指数、流動点、引火点、及び摩擦係数評価結果を表3に示した。
【0117】
(比較例5)
製造例7で得られたグリセリン=トリ(2−エチルヘキサノエート)からなる潤滑油の
動粘度、粘度指数、流動点、引火点、及び摩擦係数の評価結果を表3に示した。
【0118】
【表1】

【0119】
【表2】

【0120】
【表3】

【0121】
表3から明らかなように、混基脂肪酸のグリセリンエステルを含有する本発明の潤滑油は、低温流動性に特に優れ、且つ、潤滑性、粘度指数、引火点、冷媒との相溶性等のバランスに優れている。特に、オレイン酸と脂肪族分岐鎖状モノカルボン酸とのグリセリン混基脂肪酸エステルは、粘度指数と引火点がより高い傾向を示し、且つ、流動点と摩擦係数がより低い傾向を示し、潤滑油として優れたバランスを有している。
一方、グリセリン直鎖脂肪酸エステルからなる潤滑油は、流動点が特に劣り(比較例4)、グリセリン分岐鎖脂肪酸エステルからなる潤滑油は、粘度指数が特に劣る(比較例5)。また、グリセリン直鎖脂肪酸エステルとグリセリン分岐鎖脂肪酸エステルを混合して得られる潤滑油においても、低温流動性に劣っている(比較例1−3)。さらに、これらは、二層分離温度の測定時に、潤滑油中エステルと思われる結晶が析出した。このような固体分の析出は、冷凍機用をはじめとして、潤滑油用途には不適であることが多い。
【産業上の利用可能性】
【0122】
本発明に従い、特定のグリセリン混基脂肪酸エステルを、潤滑油基油として含有することにより、低温流動性に特に優れ、粘度指数、耐熱性及び潤滑性等の基本要求特性をバランスよく兼ね備えた潤滑油を得ることが出来る。本発明に係わる潤滑油は、エンジン油、変速機油、冷凍機油、油圧作動油、金属加工油、軸受油、及びグリース基油としての使用に適する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
【化1】

[式中、Rは、炭素数8〜12の飽和脂肪族分岐鎖状モノカルボン酸からカルボキシル基を除いて得られる残基を表す。Rは、炭素数4〜18の飽和若しくは不飽和の脂肪族直鎖状モノカルボン酸からカルボキシル基を除いて得られる残基を表す。Rは、炭素数8〜12の飽和脂肪族分岐鎖状モノカルボン酸、又は、炭素数4〜18の飽和若しくは不飽和の脂肪族直鎖状モノカルボン酸からカルボキシル基を除いて得られる残基を表す。Xは、グリセリンから3つの水酸基を除いて得られる残基を表す。]
で表されるグリセリン混基脂肪酸エステル(A)の少なくとも1種を含有する潤滑油。
【請求項2】
さらに、一般式(2)
【化2】

[式中、R、R及びRは、同一又は異なって、それぞれ炭素数8〜12の飽和脂肪族分岐鎖状モノカルボン酸からカルボキシル基を除いて得られる残基を表す。Xは、一般式(1)におけると同義である。]
で表されるグリセリン分岐鎖脂肪酸エステル(B)、及び、一般式(3)
【化3】

[式中、R、R及びRは、同一又は異なって、それぞれ炭素数4〜18の飽和若しくは不飽和の脂肪族直鎖状モノカルボン酸からカルボキシル基を除いて得られる残基を表す。Xは一般式(1)におけると同義である。]
で表されるグリセリン直鎖脂肪酸エステル(C)
からなる群から選ばれる少なくとも1種のグリセリン脂肪酸エステルを含有する請求項1に記載の潤滑油。
【請求項3】
(A)成分、(B)成分及び(C)成分が、重量比で(A):(B):(C)=40〜85:3〜60:0〜20である請求項2に記載の潤滑油。
【請求項4】
一般式(1)において、Rが、2−エチルヘキサン酸又は3,5,5−トリメチルヘキサン酸からカルボキシル基を除いて得られる残基であり、且つ、Rが2−エチルヘキサン酸、3,5,5−トリメチルヘキサン酸、又は、炭素数4〜18の飽和若しくは不飽和の脂肪族直鎖状モノカルボン酸からカルボキシル基を除いて得られる残基である、請求項1に記載の潤滑油。
【請求項5】
一般式(1)において、Rが、n−オクタン酸、n−デカン酸、n−ドデカン酸又はオレイン酸からカルボキシル基を除いて得られる残基であり、且つ、Rが、n−オクタン酸、n−デカン酸、n−ドデカン酸、又は、炭素数8〜12の飽和脂肪族分岐鎖状モノカルボン酸からカルボキシル基を除いて得られる残基である、請求項1に記載の潤滑油。
【請求項6】
一般式(1)において、Rが、2−エチルヘキサン酸又は3,5,5−トリメチルヘキサン酸からカルボキシル基を除いて得られる残基であり、Rが、n−オクタン酸、n−デカン酸、n−ドデカン酸又はオレイン酸からカルボキシル基を除いて得られる残基であり、且つ、R3が、n−オクタン酸、n−デカン酸、n−ドデカン酸、オレイン酸、2−エチルヘキサン酸又は3,5,5−トリメチルヘキサン酸からカルボキシル基を除いて得られる残基である請求項1に記載の潤滑油。
【請求項7】
さらに、炭素数12〜22の飽和若しくは不飽和の脂肪族直鎖状モノカルボン酸を含有する請求項1〜6のいずれかに記載の潤滑油。
【請求項8】
さらに、鉱物油、合成炭化水素油、脂肪族二塩基酸ジエステル及びポリオールエステルからなる群から選ばれる併用基油を含有する請求項1〜7のいずれかに記載の潤滑油。
【請求項9】
潤滑油の、40℃における動粘度が5〜68mm/s、流動点が−20℃以下、且つ、引火点が200℃以上である請求項1〜8のいずれかに記載の潤滑油。
【請求項10】
潤滑油の、40℃における動粘度が7〜40mm/s、流動点が−40℃以下、且つ、引火点が230℃以上である請求項1〜9のいずれかに記載の潤滑油。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載の潤滑油を含有してなるエンジン油、変速機油、冷凍機油、油圧作動油、金属加工油又はグリース基油。

【公開番号】特開2008−280500(P2008−280500A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−224693(P2007−224693)
【出願日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【出願人】(000191250)新日本理化株式会社 (90)
【Fターム(参考)】