説明

潤滑油

低粘度であっても蒸気圧が低く、引火の危険性もなく、さらに耐熱性に優れ、従来の炭化水素系潤滑油と比べて何ら遜色のない摩擦特性を有し、高温下、真空下などの極めて厳しい条件の下でも長期間使用することができる潤滑油を提供すること。 基油として、カチオンとアニオンから構成され、イオン濃度が1mol/dm以上であるイオン性液体を含む潤滑油である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑油に関し、さらに詳しくは、低粘度であっても蒸気圧が低く、引火の危険性もなく、さらに耐熱性に優れ、従来の炭化水素系潤滑油と比べて何ら遜色のない摩擦特性を有し、高温下、真空下などの極めて厳しい条件の下でも長期間使用することができ、内燃機関、トルク伝達装置、流体継手、すべり軸受、ころがり軸受、含油軸受、流体軸受、圧縮装置、チェーン、歯車、油圧、真空ポンプ、時計部品、ハードディスク、冷凍機、切削、圧延、絞り抽伸、転造、鍛造、熱処理、熱媒体、冷却剤、クーラント、洗浄、ショックアブソーバ、防錆、ブレーキ、密封装置、航空機や人工衛星等の航空宇宙機器などに好適に使用される潤滑油、この潤滑油を用いた潤滑特性制御方法及び潤滑油制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の機械技術の進歩により、エンジン又はモータは高出力化、高回転化が図られ、そのために過酷な条件での使用に耐え得る高性能の潤滑油が求められている。さらにエネルギーや環境問題への対応から、これら潤滑油には燃費改善や省エネルギー効果を有することが必須の要求性能となり、また、最近では、省資源化からロングドレイン性も要求されている。
このような背景から、将来的に潤滑油には、動力損失の要因となる粘性抵抗を減らすため、できるだけ粘性の低い油が求められ、且つ耐熱性を有し、長期間の使用にも耐え得るような潤滑油が必要とされている。
しかし、潤滑油は一般に、炭化水素を主体とした有機物から構成されており、粘性を下げると必然的に蒸気圧が上がり、潤滑油の蒸発損失、さらには引火の危険性が増大する。特に、製鉄所内の機械(例えば、油圧作動油)など高熱物体を扱う設備において使用する潤滑油は、火災防止の観点から難燃性が必要とされている。また、近年の情報機器(例えば、ハードディスク)に使用されている精密モータでは、周辺の精密機器への影響を極力少なくするため蒸発や飛散し難い潤滑油が求められている。
今まで、このような問題を克服すべく、粘度が低く、低蒸気圧で耐熱性に優れる潤滑油として、脂肪酸エステルやシリコーンオイル、さらにはパーフルオロポリエーテルなどのフッ素系油剤などが提案されてきた。しかし、脂肪酸エステルは、加水分解しやすいエステル構造を有するため耐水性に劣り、一方、耐熱性、耐水性に優れるシリコーンオイルやフッ素系油剤は、従来の炭化水素系潤滑油と比較すると潤滑性に劣るなどの問題があり、今後さらに必要となることが予測される高度な要求を一様に満足できるものではなかった。
ところで、近年、カチオンとアニオンとから構成された有機イオン性液体は、アニオンの異なる一連のエチルメチルイミダゾリウム塩が、優れた熱安定性と高いイオン伝導性を有し、空気中でも安定な液体となることが報告されて以来(例えば、非特許文献1参照)、注目され、その熱安定性(難揮発性、難燃性)、高イオン密度(高イオン伝導性)、大熱容量、低粘性などの特徴を活かして様々な用途、例えば太陽電池などの電解液(例えば、特許文献1参照)、抽出分離溶媒、反応溶媒などとして応用研究が積極的に行われている。しかしながら、この有機イオン性液体を潤滑油の基油として用いた例はこれまで知られていない。
【0003】
イオン性液体は、分子間が分子性液体のように分子間引力で結びついているのではなく、強力なイオン結合で結びついているため、揮発し難く、難燃性であり、熱や酸化に対して安定な液体である。そのため、低粘度であっても低蒸発性で、さらに耐熱性に優れることから、将来要求される高度な要求を満足し得る唯一の潤滑油であるといえる。しかし、一方でイオン性液体は、分子間に働くイオン結合によりその物性が大きく支配されるため、炭化水素のような分子性液体とは異なり、分子構造から物性を予測することが難しく、さらに分子構造を変化させることで、粘度や粘度指数、さらには流動点などの諸物性を容易に制御することができない。すなわち、所望の物性を有する化合物の設計及び合成が容易ではないという難点を抱えている。
また、イオン性液体は、元来、カチオンとアニオンとからなる塩であるため、イオン性液体を構成するカチオンとアニオンの組み合わせによっては水と任意の割合で溶解してしまう(例えば、非特許文献2参照)。そのため、水分が存在しない環境下では分解や腐食を引き起こさないイオン性液体であっても、水分が混入しやすい環境下では吸湿し、分解や腐食を招くこともある。さらに、耐熱性に優れるイオン性液体の中でも、酸化安定性に劣ったり還元分解しやすいイオン(例えばイミダゾリニウムイオン)(例えば、非特許文献3参照)、毒性や環境負荷が大きいイオン(例えばBF,Cl)などがあり、高度の要求を満たす潤滑油を得るには、構成イオンを厳密に選定することが好ましい。
さらに、イオン性液体は、プラス及びマイナスの電荷を帯びたカチオンとアニオンからなるため、電場に対して配向したり、電極表面に電気二重層を形成したりするなど、電気的な特性も有する。イオン性液体のこのような特性は、イオン性液体が存在する潤滑箇所に電場を印加すれば、電気的な特性が発現し、摩擦特性に何らかの影響を与える可能性があることを示唆している。
このように潤滑油を使用したシステムに電場を印加して、摩擦を制御する方法としては、従来から固体粒子などを液状溶媒に分散させた分散型電気粘性流体(例えば、特許文献2及び3参照)や、液晶などの均一溶媒を用いた均一型電気粘性流体(例えば、特許文献4参照)などが開示されている。しかしながら、これらのいずれも、電気粘性流体の物性を変化させる(粘性を増粘させる)ことによって摩擦を制御するものであるため、せん断速度や荷重などの摩擦条件がより過酷になった場合、増粘効果がこれらの摩擦条件に耐えられず、期待される効果が発揮されない場合が多かった。
【0004】
【特許文献1】特開2003−31270号公報
【特許文献2】特開平5−25488号公報
【特許文献3】特開2000−1694号公報
【特許文献4】特開2000−130687号公報
【非特許文献1】「J.Chem.Soc.,Chem.Commun.」,965(1992年)
【非特許文献2】「イオン性液体−開発の最前線と未来−」,(株)シーエムシー出版
【非特許文献3】「M.Ui,Curr.Top.Electrochem.」,7,49(2000年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、低粘度であっても蒸気圧が低く、引火の危険性もなく、さらに耐熱性に優れ、従来の炭化水素系潤滑油と比べて何ら遜色のない摩擦特性を有し、高温下、真空下などの極めて厳しい条件の下でも長期間使用することができる潤滑油を提供することを目的とするものである。また、簡便な方法により、この潤滑油の物性(粘度指数、流動点等)が大きく改善された潤滑油、毒性及び腐食性が無い潤滑油を提供することを目的とするものである。さらに、これらの潤滑油を用いる際の潤滑特性制御方法、これらの潤滑油を用いた潤滑油特性制御装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、カチオンとアニオンとからなるイオン性液体を基油として用いることにより、上記目的が達成されることを見出した。本発明はかかる知見に基づいて完成したものである。
すなわち、本発明は、以下の潤滑油、潤滑特性制御方法及び潤滑油制御装置を提供するものである。
1. 基油として、カチオンとアニオンから構成され、イオン濃度が1mol/dm以上であるイオン性液体を含む潤滑油。
2. 基油として、全酸価が1mgKOH/g以下であるイオン性液体50〜100質量%を含む上記1に記載の潤滑油。
3. イオン性液体が、下記一般式
(Zp+(Aq−
(式中、Zp+はカチオン、Aq−はアニオンである。p、q、k、m、p×k及びq×mは、それぞれ1〜3の整数であり、p×k=q×mを満たす。k又はmが2以上のとき、Z又はAは、それぞれ同一でも異なっていてもよい。)
で表される上記1又は2に記載の潤滑油。
4. 基油として、一般式Z(Zはカチオン、Aはアニオンである。)で表され、全酸価が1mgKOH/g以下であるイオン性液体50〜100質量%を含む上記3に記載の潤滑油。
5. 二種以上のイオン性液体の混合物である上記4に記載の潤滑油。
6. Zを一種とAを二種以上含む混合物、Zを二種以上とAを一種含む混合物又はZを二種以上とAを二種以上含む混合物である上記5に記載の潤滑油。
7. イオン性液体を構成するカチオン(Z)が下記一般式
【0007】
【化1】

[式中、R〜R12は、水素原子、エーテル結合を有していてもよい炭素数1〜18のアルキル基及び炭素数1〜18のアルコキシル基から選ばれる基であり、R〜R12は同一でも異なっていてもよい。]
【0008】
で表されるものである上記4〜6のいずれかに記載の潤滑油。
8. イオン性液体を構成するカチオン(Z)が下記一般式
【0009】
【化2】

[式中、R〜R12は、水素原子、エーテル結合を有していてもよい炭素数1〜18のアルキル基及び炭素数1〜18のアルコキシル基から選ばれる基であり、R〜R12は同一でも異なっていてもよい。]
【0010】
で表されるものである上記7に記載の潤滑油。
9. イオン性液体を構成するアニオン(A)が、BF,PF,C(2n+1)OSO,(C(2n+1−x))SO,(C(2n+1−x))COO,NO,CHSO,(CN),HSO,CSO−,CH(C)SO,I,I,F(HF),((C(2n+1−x))Y,((C(2n+1−x))Y(式中、Yは炭素原子又は硫黄原子を示し、Yが複数個のとき、それらは同一でも異なっていてもよい。また、複数個の(C(2n+1−x))Yは、同一でも異なっていてもよい。nは1〜6の整数、xは0〜13の整数、zはYが炭素原子の場合は1〜3の整数、Yが硫黄原子の場合は0〜4の整数である。)、B(C(2m+1,P(C(2m+1(式中、Yは水素原子又はフッ素原子を示し、Yが複数個のとき、それらは同一でも異なっていてもよい。また、複数個の(C(2m+1)は、同一でも異なっていてもよい。mは0〜6の整数である。)及び下記一般式
【0011】
【化3】

[式中、R13〜R17は、水素原子及び(C(2n+1−x))から選ばれる基であり、R13〜R17は同一でも異なっていてもよい。n及びxは上記と同様である。]
【0012】
で表されるアニオンから選ばれるものである上記4〜8のいずれかに記載の潤滑油。
10. イオン性液体を構成するアニオン(A)が、PF,C(2n+1)OSO,(C(2n+1−x))SO,(C(2n+1−x))COO,NO,CHSO,(CN),HSO,((C(2n+1−x))Y(式中、Yは炭素原子又は硫黄原子を示し、Yが複数個のとき、それらは同一でも異なっていてもよい。nは1〜6の整数、xは0〜13の整数、zはYが炭素原子の場合は1〜3の整数、Yが硫黄原子の場合は0〜4の整数である。)及び下記一般式
【0013】
【化4】

[式中、R13〜R17は、水素原子及び(C(2n+1−x))から選ばれる基であり、R13〜R17は同一でも異なっていてもよい。n及びxは上記と同様である。]
【0014】
で表されるアニオンから選ばれるものである上記9に記載の潤滑油。
11. イオン性液体を構成するアニオン(A)が、C(2n+1)OSO,(C(2n+1−x))SO,(C(2n+1−x))COO,NO,CHSO,(CN),HSO(式中、nは1〜6の整数、xは0〜13の整数である。)及び下記一般式
【0015】
【化5】

[式中、R13〜R17は、水素原子及び(C(2n+1−x))から選ばれる基であり、R13〜R17は同一でも異なっていてもよい。n及びxは上記と同様である。]
【0016】
で表されるアニオンから選ばれるものである上記10に記載の潤滑油。
12. イオン性液体が、下記一般式
【0017】
【化6】

[式中、R〜Rは、水素原子、エーテル結合を有していてもよい炭素数1〜18のアルキル基及び炭素数1〜18のアルコキシル基から選ばれる基であり、R〜Rは同一でも異なっていてもよい。]
【0018】
で表されるカチオン,F,Cl,Br及びBFを含まない上記4〜11のいずれかに記載の潤滑油。
13. 基油として、カチオンとアニオンが共有結合で固定された双生イオン型からなり、全酸価が1mgKOH/g以下であるイオン性液体50〜100質量%を含む潤滑油。
14. イオン性液体が、下記一般式
【0019】
【化7】

[式中、R〜R12は、水素原子、エーテル結合を有していてもよい炭素数1〜18のアルキル基及び炭素数1〜18のアルコキシル基から選ばれる基であり、R〜R12は同一でも異なっていてもよい。但し、R〜R12の少なくとも一つは、−(CH−SO又は−(CH−COO(nはアルキル基の炭素数が1〜18になるような0以上の整数である。)を有する。]
【0020】
で表される上記13に記載の潤滑油。
15. イオン性液体の40℃における動粘度が1〜1,000mm/sである上記1〜14のいずれかに記載の潤滑油。
16. イオン性液体の流動点が−10℃以下である上記1〜15のいずれかに記載の潤滑油。
17. イオン性液体の粘度指数が80以上である上記1〜16のいずれかに記載の潤滑油。
18. イオン性液体の引火点が200℃以上である上記1〜17のいずれかに記載の潤滑油。
19. 酸化防止剤及び極圧剤から選ばれる少なくとも一つを含有してなる上記1〜18のいずれかに記載の潤滑油。
20. 混入水分量が、潤滑油基準で500質量ppm以下である上記1〜18のいずれかに記載の潤滑油。
21. 上記1〜20のいずれかに記載の潤滑油に電場を印加することを特徴とする潤滑特性制御方法。
22. 二つの被潤滑材間の接触領域の潤滑特性を制御する装置であって、該接触領域に存在させる潤滑油として上記1〜20のいずれかに記載の潤滑油を用い、該潤滑油に電場を印加する一対の電極を、上記接触領域を挟んで上記二つの被潤滑材に非接触に、又は接触させる構成を有することを特徴とする潤滑特性制御装置。
【発明の効果】
【0021】
本発明の潤滑油は、基油として、イオン性液体を使用することにより、低粘度であっても蒸気圧が低く、引火の危険性もなく、さらに耐熱性に優れ、従来の炭化水素系潤滑油と比べて何ら遜色のない摩擦特性を有し、高温下、真空下などの極めて厳しい条件の下でも長期間使用することができるものである。また、簡便な方法により、この潤滑油の物性(粘度指数、流動点等)が大きく改善された潤滑油、毒性及び腐食性が無い潤滑油を得ることができる。さらに、これらの潤滑油を用いる際の潤滑特性制御方法、これらの潤滑油を用いた潤滑油特性制御装置を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の潤滑油は、基油として、カチオンとアニオンから構成され、20℃において測定したイオン濃度が1mol/dm以上のイオン性液体を含む潤滑油である。水やその他の溶媒を含むことなく、カチオンとアニオンのみから形成される高いイオン雰囲気と静電相互作用を得るためには、イオン濃度が1mol/dm以上であることが必要とされ、好ましくは1.5mol/dm以上、より好ましくは2mol/dm以上である。ここで、イオン濃度とは、イオン性液体において、[密度(g/cm)/分子量MW(g/mol)]×1000で算出される値をいう。
本発明の潤滑油は、好ましくは、基油として、全酸価が1mgKOH/g以下であるイオン性液体50〜100質量%を含むものであり、イオン性液体としては、下記一般式
(Zp+(Aq−
(式中、Zp+はカチオン、Aq−はアニオンである。p、q、k、m、p×k及びq×mは、それぞれ1〜3の整数であり、p×k=q×mを満たす。k又はmが2以上のとき、Z又はAは、それぞれ同一でも異なっていてもよい。)
で表されるものを用いることができる。本発明においては、上記式においてp、q、k及びmが2以下であることが好ましく、p、q、k及びmが1である、一般式Z(Zはカチオン、Aはアニオンである。)で表されるイオン性液体50〜100質量%を含むものがより好ましい。本発明の潤滑油において、上記イオン性液体の含有量は70〜100質量%が好ましく、90〜100質量%がより好ましい。
上記カチオン(Z)としては、下記一般式
【0023】
【化8】

[式中、R〜R12は、水素原子、エーテル結合を有していてもよい炭素数1〜18のアルキル基及び炭素数1〜18のアルコキシル基から選ばれる基であり、R〜R12は同一でも異なっていてもよい。]
【0024】
で表されるものが好ましい。R〜R12のエーテル結合を有していてもよい炭素数1〜18のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、各種ペンチル基、各種ヘキシル基、各種ヘプチル基、各種オクチル基、2−メトキシエチル基などが挙げられる。炭素数1〜18のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、各種ペントキシ基、各種ヘプトキシ基、各種オクトキシ基などが挙げられる。本発明においては、炭素数1〜10のアルキル基が好ましい。
上記カチオン(Z)のうち、下記一般式
【0025】
【化9】

[式中、R〜R12は、上記と同じである。]
【0026】
で表されるものがより好ましい。
上記アニオン(A)としては、例えば、BF,PF,C(2n+1)OSO,(C(2n+1−x))SO,(C(2n+1−x))COO,NO,CHSO,(CN),HSO,CSO,CH(C)SO,I,I,F(HF),((C(2n+1−x))Y,((C(2n+1−x))Y(式中、Yは炭素原子又は硫黄原子を示し、Yが複数個のとき、それらは同一でも異なっていてもよい。また、複数個の(C(2n+1−x))Yは、同一でも異なっていてもよい。nは1〜6の整数、xは0〜13の整数、zはYが炭素原子の場合は1〜3の整数、Yが硫黄原子の場合は0〜4の整数である。)、B(C(2m+1,P(C(2m+1(式中、Yは水素原子又はフッ素原子を示し、Yが複数個のとき、それらは同一でも異なっていてもよい。また、複数個の(C(2m+1)は、同一でも異なっていてもよい。mは0〜6の整数である。)及び下記一般式
【0027】
【化10】

[式中、R13〜R17は、水素原子及び(C(2n+1−x))から選ばれる基であり、R13〜R17は同一でも異なっていてもよい。n及びxは上記と同様である。]
【0028】
で表されるアニオンが好適である。これらのアニオンの中ではフッ素原子を含むものが特に好ましい。
上記アニオン(A)のうち、PF,C(2n+1)OSO,(C(2n+1−x))SO,(C(2n+1−x))COO,NO,CHSO,(CN),HSO,((C(2n+1−x))Y(式中、Yは炭素原子又は硫黄原子を示し、Yが複数個のとき、それらは同一でも異なっていてもよい。nは1〜6の整数、xは0〜13の整数、zはYが炭素原子の場合は1〜3の整数、Yが硫黄原子の場合は0〜4の整数である。)及び上記一般式で表されるアニオンがより好ましく、C(2n+1)OSO,(C(2n+1−x))SO,(C(2n+1−x))COO,NO,CHSO,(CN),HSO(式中、nは1〜6の整数、xは0〜13の整数である。)及び上記一般式で表されるアニオンが特に好ましい。
【0029】
基油として用いる一般式(Zp+(Aq−で表されるイオン性液体としては、例えば、下記一般式
【0030】
【化11】

(式中、Mは、H,Li,Na,K,Pb及びCsから選ばれるカチオンであり、nは0〜18の整数である。)
【0031】
で表されるものが挙げられる。
また、基油として用いる一般式Zで表されるイオン性液体として具体的には、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムヘキサフルオロボレート、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェート、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、アルキルピリジニウムテトラフルオロボレート、アルキルピリジニウムヘキサフルオロホスフェート、アルキルピリジニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、アルキルアンモニウムテトラフルオロボレート、アルキルアンモニウムヘキサフルオロホスフェート、アルキルアンモニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、N,N−ジエチル−N−メチル(2−メトキシエチル)アンモニウムテトラフルオロボレート、N,N−ジエチル−N−メチル(2−メトキシエチル)アンモニウムヘキサフルオロホスフェート及びN,N−ジエチル−N−メチル(2−メトキシエチル)アンモニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドなどを挙げることができる。これらのイオン性液体は一種を単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。全酸化が1mgKOH/gを超えるものを用いる場合は、全酸化が1mgKOH/g以下となるように二種以上を組み合わせて用いる。
本発明においては、アルキルピリジニウムヘキサフルオロホスフェート、アルキルピリジニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、アルキルアンモニウムヘキサフルオロホスフェート、アルキルアンモニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、N,N−ジエチル−N−メチル(2−メトキシエチル)アンモニウムヘキサフルオロホスフェート及びN,N−ジエチル−N−メチル(2−メトキシエチル)アンモニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドが好ましい。
【0032】
基油として、二種以上のイオン性液体の混合物を用いると、物性(粘度指数、流動点等)が大きく改善された潤滑油を得ることができる。この場合、混合割合は任意とすることができるが、混合による効果を得る点から、各イオン性液体の配合量を混合物基準で10質量%以上とすることが好ましい。この混合物としては、Zを一種とAを二種以上含む混合物、Zを二種以上とAを一種含む混合物及びZを二種以上とAを二種以上含む混合物が挙げられる。
具体的には、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレートと1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドの混合物、アルキルピリジニウムヘキサフルオロホスフェートとアルキルピリジニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドの混合物、アルキルアンモニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドと1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドの混合物、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレートとN,N−ジエチル−N−メチル(2−メトキシエチル)アンモニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドの混合物、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェートとN,N−ジエチル−N−メチル(2−メトキシエチル)アンモニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドの混合物、N,N−ジエチル−N−メチル(2−メトキシエチル)アンモニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドとアルキルピリジニウムテトラフルオロボレートの混合物及びN,N−ジエチル−N−メチル(2−メトキシエチル)アンモニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドとアルキルピリジニウムヘキサフルオロホスフェートの混合物などが挙げられる。
これらのうち、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレートとN,N−ジエチル−N−メチル(2−メトキシエチル)アンモニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドの混合物、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェートとN,N−ジエチル−N−メチル(2−メトキシエチル)アンモニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドの混合物、N,N−ジエチル−N−メチル(2−メトキシエチル)アンモニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドとアルキルピリジニウムテトラフルオロボレートの混合物及びN,N−ジエチル−N−メチル(2−メトキシエチル)アンモニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドとアルキルピリジニウムヘキサフルオロホスフェートの混合物が好ましい。
また、基油として、下記一般式
【0033】
【化12】

[式中、R〜Rは、水素原子、エーテル結合を有していてもよい炭素数1〜18のアルキル基及び炭素数1〜18のアルコキシル基から選ばれる基であり、R〜Rは同一でも異なっていてもよい。]
【0034】
で表されるカチオン(イミダゾリウムイオン),F,Cl,Br及びBFを含まないイオン性液体を用いると、毒性及び腐食性の無い潤滑油を得ることができる。このようなイオン性液体として具体的には、アルキルピリジニウムヘキサフルオロホスフェート、アルキルピリジニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、アルキルアンモニウムヘキサフルオロホスフェート、アルキルアンモニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、N,N−ジエチル−N−メチル(2−メトキシエチル)アンモニウムヘキサフルオロホスフェート及びN,N−ジエチル−N−メチル(2−メトキシエチル)アンモニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドなどが挙げられる。
これらのうち、アルキルピリジニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、アルキルアンモニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド及びN,N−ジエチル−N−メチル(2−メトキシエチル)アンモニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドが好ましい。
【0035】
本発明においては、基油として、カチオンとアニオンが共有結合で固定された双生イオン型(Zwitterionic型)からなり、全酸価が1mgKOH/g以下であるイオン性液体も用いることができる。本発明の潤滑油におけるこのイオン性液体の含有量は50〜100質量%であり、70〜100質量%が好ましく、90〜100質量%がより好ましい。
このイオン性液体は、例えば、下記一般式
【0036】
【化13】

[式中、R〜R12は、水素原子、エーテル結合を有していてもよい炭素数1〜18のアルキル基及び炭素数1〜18のアルコキシル基から選ばれる基であり、R〜R12は同一でも異なっていてもよい。但し、R〜R12の少なくとも一つは、−(CH−SO又は−(CH−COO(nはアルキル基の炭素数が1〜18になるような0以上の整数である。)を有する。]
【0037】
で表されるものである。具体的には、1−メチル−1,3−イミダゾリウム−N−ブタンスルホネート及びN,N−ジエチル−N−メチルアンモニウム−N−ブタンスルホネートなどが挙げられる。
【0038】
上記イオン性液体の全酸価は、被潤滑油材の腐食防止の観点から、1mgKOH/g以下であることを要し、好ましくは0.5mgKOH/g以下、より好ましくは0.3mgKOH/g以下である。
上記イオン性液体の40℃における動粘度は、蒸発損失、及び粘性抵抗による動力損失を抑える点から、1〜1,000mm/sが好ましく、より好ましくは2〜320mm/s、さらに好ましくは5〜100mm/sである。
上記イオン性液体の流動点は、低温時に粘性抵抗が増大することを抑える点から、−10℃以下が好ましく、より好ましくは−20℃以下、さらに好ましくは−30℃以下である。
上記イオン性液体の引火点は、基油の蒸発量を少なくする点から、200℃以上が好ましく、より好ましくは250℃以上、さらに好ましくは300℃以上である。
上記イオン性液体の粘度指数は、温度に対する粘度変化が大きくなりすぎないようにする点から、80以上が好ましく、より好ましくは100以上、さらに好ましくは120以上である。
【0039】
本発明の潤滑油には、本発明の効果を損なわない範囲で、添加剤を併用することができ、添加剤としては、酸化防止剤、油性剤、極圧剤、清浄分散剤、粘度指数向上剤、防錆剤、金属不活性化剤及び消泡剤などを挙げることができる。これらは一種を単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
酸化防止剤としては、従来の炭化水素系潤滑油に使用されているアミン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤及び硫黄系酸化防止剤を使用することができる。これらの酸化防止剤は、一種を単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。アミン系酸化防止剤としては、例えば、モノオクチルジフェニルアミン、モノノニルジフェニルアミンなどのモノアルキルジフェニルアミン系化合物、4,4’−ジブチルジフェニルアミン、4,4’−ジペンチルジフェニルアミン、4,4’−ジヘキシルジフェニルアミン、4,4’−ジヘプチルジフェニルアミン、4,4’−ジオクチルジフェニルアミン、4,4’−ジノニルジフェニルアミンなどのジアルキルジフェニルアミン系化合物、テトラブチルジフェニルアミン、テトラヘキシルジフェニルアミン、テトラオクチルジフェニルアミン、テトラノニルジフェニルアミンなどのポリアルキルジフェニルアミン系化合物、α−ナフチルアミン、フェニル−α−ナフチルアミン、ブチルフェニル−α−ナフチルアミン、ペンチルフェニル−α−ナフチルアミン、ヘキシルフェニル−α−ナフチルアミン、ヘプチルフェニル−α−ナフチルアミン、オクチルフェニル−α−ナフチルアミン、ノニルフェニル−α−ナフチルアミンなどのナフチルアミン系化合物が挙げられる。
【0040】
フェノール系酸化防止剤としては、例えば、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール、2,6−ジ−tert−ブチル−4−エチルフェノールなどのモノフェノール系化合物、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)などのジフェノール系化合物が挙げられる。
硫黄系酸化防止剤としては、例えば、2,6−ジ−tert−ブチル−4−(4,6−ビス(オクチルチオ)−1,3,5−トリアジン−2−イルアミノ)フェノール、五硫化リンとピネンとの反応物などのチオテルペン系化合物、ジラウリルチオジプロピオネート、ジステアリルチオジプロピオネートなどのジアルキルチオジプロピオネートなどが挙げられる。
これらの酸化防止剤の配合量は、潤滑油全量基準で、通常0.01〜10質量%程度であり、好ましくは0.03〜5質量%である。
【0041】
油性剤としては、脂肪族アルコール、脂肪酸や脂肪酸金属塩などの脂肪酸化合物、ポリオールエステル、ソルビタンエステル、グリセライドなどのエステル化合物、脂肪族アミンなどのアミン化合物などを挙げることができる。脂肪族アルコールは、下記一般式(I)
18−OH (I)
(式中、R18は、炭素数8〜30、好ましくは炭素数12〜24のアルキル基、アルケニル基、アルキルアリール基及びアリールアルキル基から選ばれる基を示す。)
で表される。炭素数8〜30のアルキル基としては、各種オクチル基、各種ノニル基、各種デシル基、各種ウンデシル基、各種ステアリル基、各種ラウリル基、各種パルミチル基などが挙げられる。炭素数8〜30のアルケニル基としては、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、オレイル基等のオクタデセニル基などが挙げられる。炭素数8〜30のアルキルアリール基としては、各種ジメチルフェニル基、各種ジエチルフェニル基、各種ジプロピルフェニル基、各種メチルナフチル基、各種エチルナフチル基などが挙げられる。炭素数8〜30のアリールアルキル基としては、フェネチル基、ナフチルメチル基などが挙げられる。これらのうち、ステアリル基及びオレイル基が好ましい。
【0042】
脂肪酸化合物としては、下記一般式(II)
(R19−COO) (II)
(式中、R19は、炭素数8〜30、好ましくは炭素数12〜24のアルキル基、アルケニル基、アルキルアリール基及びアリールアルキル基から選ばれる基を示す。Xは、H、K、Na、Mg、Ca、Al、Zn、Fe、Cu及びAgから選ばれる原子である。)
で表される化合物である。R19の炭素数8〜30のアルキル基、アルケニル基、アルキルアリール基及びアリールアルキル基としては、上記と同様のものが挙げられ、ステアリル基及びオレイル基が好ましい。Xとしては、H、K、Al、Znが好ましい。nは1〜3の整数である。
【0043】
ポリオールエステルとしては、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエルスリトールなどの多価アルコールと、下記一般式(III)
20−COOH (III)
(式中、R20は、炭素数8〜30、好ましくは炭素数8〜24のアルキル基、アルケニル基、アルキルアリール基及びアリールアルキル基から選ばれる基を示す。)
で表される脂肪酸とのエステル反応によって得られるものが挙げられる。R20の炭素数8〜30のアルキル基、アルケニル基、アルキルアリール基及びアリールアルキル基としては、上記と同様のものが挙げられ、オクチル基が特に好ましい。
ソルビタンエステルは、下記一般式(IV)
【0044】
【化14】

(式中、R21〜R25はH、OH及びCHOCOR26から選ばれる基を示す。R26は炭素数9〜30、好ましくは炭素数12〜24のアルキル基又はアルケニル基を示す。)
【0045】
で表される。R26の炭素数9〜30のアルキル基としては、各種ノニル基、各種デシル基、各種ウンデシル基、各種ステアリル基、各種ラウリル基、各種パルミチル基などが挙げられる。炭素数9〜30のアルケニル基としては、ノネニル基、デセニル基、オクタデセニル基などが挙げられる。好ましい脂肪酸として、ラウリン酸、ステアリン酸、パルミチン酸及びオレイン酸が挙げられる。
グリセライドとしては、下記一般式(V)
【0046】
【化15】

(式中、X〜Xは、OH又はOCOR27を示す。R27は炭素数8〜30、好ましくは炭素数12〜24のアルキル基又はアルケニル基を示す。)
【0047】
で表されるものが挙げられる。R27の炭素数8〜30のアルキル基及びアルケニル基としては、上記と同様のものが挙げられる。好ましい脂肪酸として、ラウリン酸、ステアリン酸、パルミチン酸及びオレイン酸が挙げられる。
脂肪族アミンとしては、下記一般式(VI)
28NH3−m (VI)
(式中、R28は、炭素数3〜30、好ましくは炭素数8〜24のアルキル基及びアルケニル基、炭素数6〜30、好ましくは炭素数6〜15のアリール基及びアリールアルキル基並びに炭素数2〜30、好ましくは炭素数2〜18のヒドロキシアルキル基から選ばれる基を示す。mは1〜3の整数である。)
で表されるモノ置換アミン、ジ置換アミン及びトリ置換アミンが挙げられる。上記R28のうちのアルキル基及びアルケニル基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれであってもよい。炭素数3〜30のアルキル基及びアルケニル基、炭素数6〜30のアリール基及びアリールアルキルとしては、上記と同様のものが挙げられる。炭素数2〜30のヒドロキシアルキル基としては、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基などが挙げられる。
これらの油性剤の配合量は、配合効果の点から、潤滑油全量基準で、通常0.1〜30質量%程度であり、好ましくは0.5〜10質量%である。
【0048】
極圧剤としては、硫黄系極圧剤、リン系極圧剤、硫黄及び金属を含む極圧剤、リン及び金属を含む極圧剤が挙げられる。これらの極圧剤は一種を単独で又は二種以上組み合わせて用いることができる。極圧剤としては、分子中に硫黄原子及び/又はリン原子を含み、耐荷重性や耐摩耗性を発揮しうるものであればよい。分子中に硫黄を含む極圧剤としては、例えば、硫化油脂、硫化脂肪酸、硫化エステル、硫化オレフィン、ジヒドロカルビルポリサルファイド、チアジアゾール化合物、アルキルチオカルバモイル化合物、トリアジン化合物、チオテルペン化合物、ジアルキルチオジプロピオネート化合物などを挙げることができる。
硫化油脂は硫黄や硫黄含有化合物と油脂(ラード油、鯨油、植物油、魚油等)を反応させて得られるものであり、その硫黄含有量は特に制限はないが、一般に5〜30質量%のものが好適である。その具体例としては、硫化ラード、硫化なたね油、硫化ひまし油、硫化大豆油、硫化米ぬか油などを挙げることができる。硫化脂肪酸の例としては、硫化オレイン酸などを、硫化エステルの例としては、硫化オレイン酸メチルや硫化米ぬか脂肪酸オクチルなどを挙げることができる。
【0049】
硫化オレフィンとしては、例えば、下記一般式(VII)
29−S−R30 (VII)
(式中、R29は炭素数2〜15、好ましくは炭素数4〜8のアルケニル基、R30は炭素数2〜15、好ましくは炭素数4〜8のアルキル基又はアルケニル基を示し、aは1〜8、好ましくは1〜3の整数を示す。)
で表される化合物が挙げられる。この化合物は、炭素数2〜15のオレフィン又はその2〜4量体を、硫黄、塩化硫黄等の硫化剤と反応させることによって得られる。炭素数2〜15のオレフィンとしては、プロピレン、イソブテン及びジイソブテンなどが好ましい。
ジヒドロカルビルポリサルファイドとしては、下記の一般式(VIII)
31−S−R32 (VIII)
(式中、R31及びR32は、それぞれ炭素数1〜20好ましくは炭素数4〜18のアルキル基又は環状アルキル基、炭素数6〜20、好ましくは炭素数6〜15のアリール基、炭素数7〜20、好ましくは炭素数7〜15のアルキルアリール基又は炭素数7〜20、好ましくは炭素数7〜15のアリールアルキル基を示し、それらは互いに同一でも異なっていてもよい。bは2〜8、好ましくは2〜4の整数を示す。)
で表される化合物である。ここで、R31及びR32がアルキル基の場合、硫化アルキルと称される。
【0050】
上記一般式(VIII)におけるR31及びR32としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、各種ペンチル基、各種ヘキシル基、各種ヘプチル基、各種オクチル基、各種ノニル基、各種デシル基、各種ドデシル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基、フェニル基、ナフチル基、トリル基、キシリル基、ベンジル基、フェネチル基などを挙げることができる。
このジヒドロカルビルポリサルファイドとしては、例えば、ジベンジルポリサルファイド、各種ジノニルポリサルファイド、各種ジドデシルポリサルファイド、各種ジブチルポリサルファイド、各種ジオクチルポリサルファイド、ジフェニルポリサルファイド、ジシクロヘキシルポリサルファイドなどを好ましく挙げることができる。
チアジアゾール化合物としては、例えば、下記一般式(IX)又は(X)
【0051】
【化16】

(式中、R33〜R36は、それぞれ水素原子、炭素数1〜20、好ましくは炭素数4〜13の炭化水素基を示し、c〜fは、それぞれ0〜8、好ましくは1〜4の整数を示す。)
【0052】
で表される1,3,4−チアジアゾール、1,2,4−チアジアゾール化合物、1,4,5−チアジアゾールなどが好ましく用いられる。このようなチアジアゾール化合物の具体例としては、2,5−ビス(n−ヘキシルジチオ)−1,3,4−チアジアゾール、2,5−ビス(n−オクチルジチオ)−1,3,4−チアジアゾール、2,5−ビス(n−ノニルジチオ)−1,3,4−チアジアゾール、2,5−ビス(1,1,3,3−テトラメチルブチルジチオ)−1,3,4−チアジアゾール、3,5−ビス(n−ヘキシルジチオ)−1,2,4−チアジアゾール、3,5−ビス(n−オクチルジチオ)−1,2,4−チアジアゾール、3,5−ビス(n−ノニルジチオ)−1,2,4−チアジアゾール、3,5−ビス(1,1,3,3−テトラメチルブチルジチオ)−1,2,4−チアジアゾールなどを好ましく挙げることができる。
アルキルチオカルバモイル化合物としては、例えば、下記一般式(XI)
【0053】
【化17】

(式中、R37〜R40は、それぞれ炭素数1〜20、好ましくは炭素数4〜8のアルキル基を示し、gは1〜8、好ましくは1〜3の整数を示す。)
【0054】
で表されるものが好ましく用いられる。このようなアルキルチオカルバモイル化合物の具体例としては、ビス(ジメチルチオカルバモイル)モノスルフィド、ビス(ジブチルチオカルバモイル)モノスルフィド、ビス(ジメチルチオカルバモイル)ジスルフィド、ビス(ジブチルチオカルバモイル)ジスルフィド、ビス(ジアミルチオカルバモイル)ジスルフィド、ビス(ジオクチルチオカルバモイル)ジスルフィドなどを好ましく挙げることができる。
硫黄、リン及び金属を含む極圧剤としては、ジアルキルチオカルバミン酸亜鉛(Zn−DTC)、ジアルキルチオカルバミン酸モリブデン(Mo−DTC)、ジアルキルチオカルバミン酸鉛、ジアルキルチオカルバミン酸錫、ジアルキルジチオリン酸亜鉛(Zn−DTP)、ジアルキルジチオリン酸モリブデン(Mo−DTP)、ナトリウムスルホネート、カルシウムスルホネートなどが挙げられる。
分子中にリンを含む極圧剤として代表的なものは、リン酸エステル類及びそのアミン塩である。リン酸エステルは、下記の一般式(XII)〜(XVI)で表されるリン酸エステル、酸性リン酸エステル、亜リン酸エステル、酸性亜リン酸エステルを包含する。
【0055】
【化18】

【0056】
上記一般式(XII)〜(XVI)において、R41〜R51は炭素数4〜30、好ましくは炭素数4〜18のアルキル基、アルケニル基、アルキルアリール基及びアリールアルキル基から選ばれる基を示し、R41〜R51は同一でも異なっていてもよい。
リン酸エステルとしては、トリアリールホスフェート、トリアルキルホスフェート、トリアルキルアリールホスフェート、トリアリールアルキルホスフェート、トリアルケニルホスフェートなどがあり、具体的には、例えば、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、ベンジルジフェニルホスフェート、エチルジフェニルホスフェート、トリブチルホスフェート、エチルジブチルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、ジクレジルフェニルホスフェート、エチルフェニルジフェニルホスフェート、ジエチルフェニルフェニルホスフェート、プロピルフェニルジフェニルホスフェート、ジプロピルフェニルフェニルホスフェート、トリエチルフェニルホスフェート、トリプロピルフェニルホスフェート、ブチルフェニルジフェニルホスフェート、ジブチルフェニルフェニルホスフェート、トリブチルフェニルホスフェート、トリヘキシルホスフェート、トリ(2−エチルヘキシル)ホスフェート、トリデシルホスフェート、トリラウリルホスフェート、トリミリスチルホスフェート、トリパルミチルホスフェート、トリステアリルホスフェート、トリオレイルホスフェートなどが挙げられる。
【0057】
酸性リン酸エステルとしては、例えば、2−エチルヘキシルアシッドホスフェート、エチルアシッドホスフェート、ブチルアシッドホスフェート、オレイルアシッドホスフェート、テトラコシルアシッドホスフェート、イソデシルアシッドホスフェート、ラウリルアシッドホスフェート、トリデシルアシッドホスフェート、ステアリルアシッドホスフェート、イソステアリルアシッドホスフェートなどが挙げられる。
亜リン酸エステルとしては、例えば、トリエチルホスファイト、トリブチルホスファイト、トリフェニルホスファイト、トリクレジルホスファイト、トリ(ノニルフェニル)ホスファイト、トリ(2−エチルヘキシル)ホスファイト、トリデシルホオスファイト、トリラウリルホスファイト、トリイソオクチルホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト、トリステアリルホスファイト、トリオレイルホスファイトなどが挙げられる。
【0058】
酸性亜リン酸エステルとしては、例えば、ジブチルハイドロゲンホスファイト、ジラウリルハイドロゲンホスファイト、ジオレイルハイドロゲンホスファイト、ジステアリルハイドロゲンホスファイト、ジフェニルハイドロゲンホスファイトなどが挙げられる。さらに、これらとアミン塩を形成するアミン類としては、例えば、一般式(XVII)
52NH3−h (XVII)
(式中、R52は、炭素数3〜30、好ましくは炭素数4〜18のアルキル基もしくはアルケニル基、炭素数6〜30、好ましくは炭素数6〜15のアリール基もしくはアリールアルキル基又は炭素数2〜30、好ましくは炭素数2〜18のヒドロキシアルキル基を示し、hは1、2又は3を示す。また、R52が複数ある場合、複数のR52は同一でも異なっていてもよい。)
で表されるモノ置換アミン、ジ置換アミン又はトリ置換アミンが挙げられる。上記一般式(XVII)におけるR52のうちの炭素数3〜30のアルキル基もしくはアルケニル基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれであってもよい。
【0059】
モノ置換アミンとしては、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、シクロヘキシルアミン、オクチルアミン、ラウリルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミン、ベンジルアミンなどを挙げることができる。ジ置換アミンとしては、ジブチルアミン、ジペンチルアミン、ジヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン、ジオクチルアミン、ジラウリルアミン、ジステアリルアミン、ジオレイルアミン、ジベンジルアミン、ステアリル・モノエタノールアミン、デシル・モノエタノールアミン、ヘキシル・モノプロパノールアミン、ベンジル・モノエタノールアミン、フェニル・モノエタノールアミン、トリル・モノプロパノールなどが挙げられる。トリ置換アミンとしては、トリブチルアミン、トリペンチルアミン、トリヘキシルアミン、トリシクロヘキシルアミン、トリオクチルアミン、トリラウリルアミン、トリステアリルアミン、トリオレイルアミン、トリベンジルアミン、ジオレイル・モノエタノールアミン、ジラウリル・モノプロパノールアミン、ジオクチル・モノエタノールアミン、ジヘキシル・モノプロパノールアミン、ジブチル・モノプロパノールアミン、オレイル・ジエタノールアミン、ステアリル・ジプロパノールアミン、ラウリル・ジエタノールアミン、オクチル・ジプロパノールアミン、ブチル・ジエタノールアミン、ベンジル・ジエタノールアミン、フェニル・ジエタノールアミン、トリル・ジプロパノールアミン、キシリル・ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリプロパノールアミンなどが挙げられる。
これら極圧剤の配合量は、配合効果及び経済性の点から、組成物全量基準で、通常0.01〜30質量%程度であり、より好ましくは0.01〜10質量%である。
【0060】
清浄分散剤としては、金属スルホネート、金属サリチレート、金属フィネート、コハク酸イミドなどが挙げられる。これら清浄分散剤の配合量は、配合効果の点から、組成物全量基準で、通常0.1〜30質量%程度であり、好ましくは0.5〜10質量%である。
粘度指数向上剤としては、例えば、ポリメタクリレート、分散型ポリメタクリレート、オレフィン系共重合体(例えば、エチレン−プロピレン共重合体など)、分散型オレフィン系共重合体、スチレン系共重合体(例えば、スチレン−ジエン水素化共重合体など)などが挙げられる。
これら粘度指数向上剤の配合量は、配合効果の点から、潤滑油全量基準で、通常0.5〜35質量%程度であり、好ましくは1〜15質量%である。
防錆剤としては、金属系スルホネート、コハク酸エステルなどを挙げることができる。これら防錆剤の配合量は、配合効果の点から、潤滑油全量基準で、通常0.01〜10質量%程度であり、好ましくは0.05〜5質量%である。
金属不活性剤としては、ベンゾトリアゾール、チアジアゾールなどを挙げることができる。これら金属不活性化剤の好ましい配合量は、配合効果の点から、潤滑油全量基準で、通常0.01〜10質量%程度であり、好ましくは0.01〜1質量%である。
消泡剤としては、メチルシリコーン油、フルオロシリコーン油、ポリアクリレートなどを挙げることができる。これらの消泡剤の配合量は、配合効果の点から、潤滑油全量基準で、通常0.0005〜0.01質量%程度である。
【0061】
本発明の潤滑油には、本発明の目的が損なわれない範囲でその他の基油を併用することができる。その他の基油としては、例えば、鉱油や合成油の中から適宜選ぶことができる。鉱油としては、例えば、パラフィン系基系原油、中間基系原油又はナフテン系原油を常圧蒸留するか、あるいは常圧蒸留残渣油を減圧蒸留して得られる留出油、これらの留出油を常法に従って精製することによって得られる精製油、具体的には溶剤精製油、水添精製油、脱ロウ処理油、白土処理油などが挙げられる。
また、合成油としては、例えば、低分子量ポリブテン、低分子量ポリプロピレン、炭素数8〜14のα−オレフィンオリゴマー及びこれらの水素化物、ポリオールエステル(例えば、トリメチロールプロパンの脂肪酸エステル、ペンタエリスリトールの脂肪酸エステルなど)、二塩基酸エステル、芳香族ポリプロピレンカルボン酸エステル(例えば、トリメリット酸エステル、ピロメリット酸エステルなど)、リン酸エステルなどのエステル化合物、アルキルベンゼン、アルキルナフタレンなどのアルキルアロマ系化合物、シリコーン油、ポリフェニル、アルキル置換ジフェニルエーテル、ポリフェニルエーテル、ホスファーゼン化合物、フッ素系オイル(例えば、フルオロカーボン、パーフルオロポリエーテルなど)などが挙げられる。
これらのその他の基油は一種を単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
本発明の潤滑油においては、粘度の低下や腐食を防止する点から、水分混入量が潤滑油基準で3000質量ppm以下であることが好ましく、より好ましくは500質量ppm以下、特に好ましくは100質量ppm以下である。潤滑油の水分混入量を500質量ppmとするには非水溶性のイオン性液体を用いることが好ましい。
【0062】
本発明の潤滑油に含まれるイオン性液体の電気的特性を利用し、潤滑油に電場を印加することにより、摩擦面に積極的にカチオンやアニオンを吸着させ、潤滑保護膜を形成させることができる。この潤滑保護膜により、摩擦特性などの潤滑油特性を制御することができる。電場を印加する方法としては、(1)互いに摺動する二つの被潤滑材の摩擦箇所に潤滑油を満たし、摩擦箇所を挟んで電極を被潤滑材に非接触で配置して、潤滑油に電圧を印加する方法、(2)導電性材料からなり、互いに摺動する二つの被潤滑材の摩擦箇所に潤滑油を満たし、二つの被潤滑材に直接電圧を印加する方法などが挙げられる。印加電圧は、安全性、経済性及び印加効果の点から、通常0.1〜5×10mV程度、好ましくは0.1〜5×10mV、より好ましくは0.1〜100mVである。印加電圧は、直流でも交流でもよい。
本発明の潤滑油を用いて、二つの被潤滑材間の接触領域の潤滑特性を制御する潤滑特性制御装置を構成することができる。この滑特性制御装置は、二つの被潤滑材間の接触領域に存在させる潤滑油として本発明の潤滑油を用い、この潤滑油に電場を印加する一対の電極を、上記接触領域を挟んで上記二つの被潤滑材に非接触に、又は接触させる構成を有するものである。
【0063】
本発明の滑特性制御装置において、二つの被潤滑材の一方または両方が非導電性の材料で構成されている場合は、電界の経路パターンが一方の電極から接触領域を通って他方の電極に達するようにする。またはそのような経路パターンが他の経路パターンよりも優勢であるようにする。また、二つの被潤滑材が導電性材料で構成されている場合は、電界の経路パターンが一方の電極から一方の被潤滑材、接触領域、他方の被潤滑材を順次通って他方の電極に達するようにする。またはそのような経路パターンが他の経路パターンよりも優勢であるようにする。
本発明の潤滑特性制御装置において、二つの被潤滑材の接触領域に潤滑油を充填し、一対の電極により電場を印加すると、一方の電極から一方の被潤滑材、接触領域、他方の被潤滑材を順次通って他方の電極に達する経路パターンが他の経路パターンとともに形成され、電圧の大きさにより潤滑領域における潤滑油の内部せん断応力が変化し、粘度変化に相当する潤滑特性変化が見られる。
【実施例】
【0064】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。なお、潤滑油の諸特性は下記の方法に従って測定した。
(1)動粘度
JIS K2283に規定される「石油製品動粘度試験方法」に準拠して測定した。
(2)粘度指数
JIS K2283に規定される「石油製品動粘度試験方法」に準拠して測定した。
(3)流動点
JIS K2269に準拠して測定した。
(4)全酸価
JIS K2501に規定される「潤滑油中和試験方法」に準拠し、電位差法により測定した。
(5)引火点
JIS K2265に準拠し、C.O.C法により測定した。
(6)水分
JIS K2275に準拠して測定した。
(7)5%質量減温度
示差熱分析装置を用い、温度を10℃/minの割合で昇温し、初期質量から5%減少した温度を測定した。5%質量減少温度が高いほど、耐蒸発性、耐熱性に優れると言える。
(8)腐食性
短冊状にカットした、純度99.9%の鉄板を10ミリリットルの試料に浸漬させ、100℃で3時間放置し、その後、鉄板の外観を観察するとともに、浸漬前後の質量を測定し、その差を求めた。
(9)摩擦特性(I)
CSEM社のピンディスク試験機を用い、ボールオンディスクによる摩擦試験を行った。試験条件は、室温、荷重20N、すべり速度0.5m/s、試験時間30分であり、用いた試験片は、ボール及びディスクともSUJ−2であり、平均摩擦係数(μ)とボールの摩耗痕径を求めた。平均摩擦係数(μ)及びボールの摩耗痕径が小さいほど、摩耗特性が良好であると言える。
(10)摩擦特性(II)
ボールオンディスク型往復動摩擦試験機により、電圧印加の有無による摩擦係数の相違を評価した。試験条件は、75℃、荷重20N、周波数1Hz、摺動距離5mmであり、用いた試験片は、ボール及びディスクともSUJ−2である。印加電圧は100mVあり、用いた試験片は、ボール及びディスクともSUJ−2である。印加電圧は100mVであり、試験開始から5分後及び15分後の平均摩擦係数(μ)を求めた。
(11)基油のイオン濃度
20℃において、イオン性液体1〜4の密度及び分子量MWを測定し、[密度(g/cm)/分子量MW(g/mol)]×1000により、各イオン濃度を算出した。なお、イオン性液体1〜4の密度、分子量MWは、イオン性掖体1が、1.283g/cm、197.97g/mol、イオン性液体2が、1.453g/cm、416.36g/mol、イオン性液体3が、1.420g/cm、426.40g/mol、イオン性液体4が、1.208g/cm、226.02g/molであった。
【0065】
実施例1〜5及び比較例1〜7
第1表に示す配合成分により潤滑油を調製し、上記特性について測定した。その結果を第1表に示す。
【0066】
【表1】

【0067】
【表2】

(注)
イオン性液体1:1−エチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート
イオン性液体2:ブチルピリジニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド
イオン性液体3:N,N−ジエチル−N−メチル(2−メトキシエチル)アンモニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド
イオン性液体4:1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート
ポリα−オレフィン:1−デセンのオリゴマー
ポリオールエステル:トリメチロールプロパンと炭素数8、10の脂肪酸とのエステル
芳香族エステル:トリノルマルオクチルトリメリテート
パーフルオロポリエーテル:Solvat Solexis社製、Fomblin MO3
アミン系酸化防止剤:4,4−ジブチルジフェニルアミン
TCP:トリクレジルホスフェート
DBDS:ジベンジルジサルファイド
毒性:毒物劇物取り扱い法の劇物にあたり、LD50(ラット、経口)30〜300mg/kgであるものを毒性有りとした。
【0068】
第1表に示す評価結果から、実施例1〜5の潤滑油は、低粘度であるにも関わらず、300℃以上の引火点を有し、また、示差熱分析による5%質量減温度が高く、低蒸発性、耐熱性に優れることがわかる。さらに、実施例1〜5の潤滑油は、摩擦係数及び摩耗痕径がともに小さく、摩擦特性に優れることがわかる。
一方、比較例1及び比較例7のように全酸価が1mgKOH/gを超えるイオン性液体は、耐熱性や耐摩耗性に優れるものの、腐食性が高く、金属製品の潤滑油としては適切でないことがわかる。
【0069】
実施例6〜15
第2表に示す配合成分により潤滑油を調製し、上記特性について測定した。その結果を第2表に示す。
【0070】
【表3】

【0071】
【表4】

(注)
イオン性液体5:N,N−ジエチル−N−メチル(2−メトキシエチル)アンモニウムテトラフルオロボレート
イオン性液体6:ブチルピリジニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド
アミン系酸化防止剤:4,4−ジブチルジフェニルアミン
TCP:トリクレジルホスフェート
DBDS:ジベンジルジサルファイド
【0072】
第2表に示す評価結果から、二種のイオン性液体の混合物は、単独のものに比べて、粘度指数又は流動点の改善効果が見られる。
【0073】
実施例16、17及び比較例8、9
第3表に示す配合成分により潤滑油を調製し、上記特性について測定した。その結果を第3表に示す。
【0074】
【表5】

(注)
イオン性液体3:N,N−ジエチル−N−メチル(2−メトキシエチル)アンモニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド
アミン系酸化防止剤:4,4−ジブチルジフェニルアミン
TCP:トリクレジルホスフェート
【0075】
第3表において、実施例16と比較例8との比較対比、実施例17と比較例9との比較対比から、潤滑油に電場を印加すると摩擦特性が改善されることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明の潤滑油は、内燃機関、トルク伝達装置、すべり軸受、ころがり軸受、含油軸受、流体軸受、圧縮装置、チェーン、歯車、油圧及び真空ポンプ、時計部品、ハードディスク、冷凍機、切削、圧延、絞り抽伸、転造、鍛造、熱処理、熱媒体、洗浄、ショックアブソーバ、防錆、ブレーキ、密封装置、航空機や人工衛星等の航空宇宙機器などに好適に使用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油として、カチオンとアニオンから構成され、イオン濃度が1mol/dm以上であるイオン性液体を含む潤滑油。
【請求項2】
基油として、全酸価が1mgKOH/g以下であるイオン性液体50〜100質量%を含む請求項1に記載の潤滑油。
【請求項3】
イオン性液体が、下記一般式
(Zp+(Aq−
(式中、Zp+はカチオン、Aq−はアニオンである。p、q、k、m、p×k及びq×mは、それぞれ1〜3の整数であり、p×k=q×mを満たす。k又はmが2以上のとき、Z又はAは、それぞれ同一でも異なっていてもよい。)
で表される請求項1又は2に記載の潤滑油。
【請求項4】
基油として、一般式Z(Zはカチオン、Aはアニオンである。)で表され、全酸価が1mgKOH/g以下であるイオン性液体50〜100質量%を含む請求項3に記載の潤滑油。
【請求項5】
二種以上のイオン性液体の混合物である請求項4に記載の潤滑油。
【請求項6】
を一種とAを二種以上含む混合物、Zを二種以上とAを一種含む混合物又はZを二種以上とAを二種以上含む混合物である請求項5に記載の潤滑油。
【請求項7】
イオン性液体を構成するカチオン(Z)が下記一般式
【化1】

[式中、R〜R12は、水素原子、エーテル結合を有していてもよい炭素数1〜18のアルキル基及び炭素数1〜18のアルコキシル基から選ばれる基であり、R〜R12は同一でも異なっていてもよい。]
で表されるものである請求項4〜6のいずれかに記載の潤滑油。
【請求項8】
イオン性液体を構成するカチオン(Z)が下記一般式
【化2】

[式中、R〜R12は、水素原子、エーテル結合を有していてもよい炭素数1〜18のアルキル基及び炭素数1〜18のアルコキシル基から選ばれる基であり、R〜R12は同一でも異なっていてもよい。]
で表されるものである請求項7に記載の潤滑油。
【請求項9】
イオン性液体を構成するアニオン(A)が、BF,PF,C(2n+1)OSO,(C(2n+1−x))SO,(C(2n+1−x))COO,NO,CHSO,(CN),HSO,CSO,CH(C)SO,I,I,F(HF),((C(2n+1−x))Y,((C(2n+1−x))Y(式中、Yは炭素原子又は硫黄原子を示し、Yが複数個のとき、それらは同一でも異なっていてもよい。また、複数個の(C(2n+1−x))Yは、同一でも異なっていてもよい。nは1〜6の整数、xは0〜13の整数、zはYが炭素原子の場合は1〜3の整数、Yが硫黄原子の場合は0〜4の整数である。)、B(C(2m+1,P(C(2m+1(式中、Yは水素原子又はフッ素原子を示し、Yが複数個のとき、それらは同一でも異なっていてもよい。また、複数個の(C(2m+1)は、同一でも異なっていてもよい。mは0〜6の整数である。)及び下記一般式
【化3】

[式中、R13〜R17は、水素原子及び(C(2n+1−x))から選ばれる基であり、R13〜R17は同一でも異なっていてもよい。n及びxは上記と同様である。]
で表されるアニオンから選ばれるものである請求項4〜8のいずれかに記載の潤滑油。
【請求項10】
イオン性液体を構成するアニオン(A)が、PF,C(2n+1)OSO,(C(2n+1−x))SO,(C(2n+1−x))COO,NO,CHSO,(CN),HSO,((C(2n+1−x))Y(式中、Yは炭素原子又は硫黄原子を示し、Yが複数個のとき、それらは同一でも異なっていてもよい。nは1〜6の整数、xは0〜13の整数、zはYが炭素原子の場合は1〜3の整数、Yが硫黄原子の場合は0〜4の整数である。)及び下記一般式
【化4】

[式中、R13〜R17は、水素原子及び(C(2n+1−x))から選ばれる基であり、R13〜R17は同一でも異なっていてもよい。n及びxは上記と同様である。]
で表されるアニオンから選ばれるものである請求項9に記載の潤滑油。
【請求項11】
イオン性液体を構成するアニオン(A)が、C(2n+1)OSO,(C(2n+1−x))SO,(C(2n+1−x))COO,NO,CHSO,(CN),HSO(式中、nは1〜6の整数、xは0〜13の整数である。)及び下記一般式
【化5】

[式中、R13〜R17は、水素原子及び(C(2n+1−x))から選ばれる基であり、R13〜R17は同一でも異なっていてもよい。n及びxは上記と同様である。]
で表されるアニオンから選ばれるものである請求項10に記載の潤滑油。
【請求項12】
イオン性液体が、下記一般式
【化6】

[式中、R〜Rは、水素原子、エーテル結合を有していてもよい炭素数1〜18のアルキル基及び炭素数1〜18のアルコキシル基から選ばれる基であり、R〜Rは同一でも異なっていてもよい。]
で表されるカチオン,F,Cl,Br及びBFを含まない請求項4〜11のいずれかに記載の潤滑油。
【請求項13】
基油として、カチオンとアニオンが共有結合で固定された双生イオン型からなり、全酸価が1mgKOH/g以下であるイオン性液体50〜100質量%を含む潤滑油。
【請求項14】
イオン性液体が、下記一般式
【化7】

[式中、R〜R12は、水素原子、エーテル結合を有していてもよい炭素数1〜18のアルキル基及び炭素数1〜18のアルコキシル基から選ばれる基であり、R〜R12は同一でも異なっていてもよい。但し、R〜R12の少なくとも一つは、−(CH−SO又は−(CH−COO(nはアルキル基の炭素数が1〜18になるような0以上の整数である。)を有する。]
で表される請求項13に記載の潤滑油。
【請求項15】
イオン性液体の40℃における動粘度が1〜1,000mm/sである請求項1〜14のいずれかに記載の潤滑油。
【請求項16】
イオン性液体の流動点が−10℃以下である請求項1〜15のいずれかに記載の潤滑油。
【請求項17】
イオン性液体の粘度指数が80以上である請求項1〜16のいずれかに記載の潤滑油。
【請求項18】
イオン性液体の引火点が200℃以上である請求項1〜17のいずれかに記載の潤滑油。
【請求項19】
酸化防止剤及び極圧剤から選ばれる少なくとも一つを含有してなる請求項1〜18のいずれかに記載の潤滑油。
【請求項20】
混入水分量が、潤滑油基準で500質量ppm以下である請求項1〜18のいずれかに記載の潤滑油。
【請求項21】
請求項1〜20のいずれかに記載の潤滑油に電場を印加することを特徴とする潤滑特性制御方法。
【請求項22】
二つの被潤滑材間の接触領域の潤滑特性を制御する装置であって、該接触領域に存在させる潤滑油として請求項1〜20のいずれかに記載の潤滑油を用い、該潤滑油に電場を印加する一対の電極を、上記接触領域を挟んで上記二つの被潤滑材に非接触に、又は接触させる構成を有することを特徴とする潤滑特性制御装置。

【国際公開番号】WO2005/035702
【国際公開日】平成17年4月21日(2005.4.21)
【発行日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−514617(P2005−514617)
【国際出願番号】PCT/JP2004/014942
【国際出願日】平成16年10月8日(2004.10.8)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【出願人】(593184189)
【Fターム(参考)】