説明

澱粉分解物の製造方法及び白色デキストリン

【課題】 低甘味、低粘度で老化による白濁を生じない特性を有し、取扱いが容易な低DEの澱粉分解物の効率的かつ経済的な製造方法;この澱粉分解物を含む食品、および新規な白色デキストリンを提供すること。
【解決手段】 澱粉、たんぱく質、及び脂質含量がそれぞれ80質量%以上、0.20質量%以下、及び0.20質量%以下の原料澱粉を、塩酸存在下で加熱処理して白度80以上、DE3〜6、冷水可溶部90質量%超、分岐成分30〜45質量%、たんぱく質含量0.1質量%以下の白色デキストリンとなし、次いでα−アミラーゼを作用させる工程を含むことを特徴とする、澱粉分解物の製造方法;この澱粉分解物を含む食品;白度80以上、DE3〜6、冷水可溶部90質量%超、分岐成分30〜45質量%、たんぱく質含量0.1質量%以下の白色デキストリン。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は低甘味、低DEでありながら低粘度で、老化による白濁を生じない特性を有する澱粉分解物の効率的かつ経済的な製造方法に関する。本発明はまた、上記澱粉分解物を含む食品および上記澱粉分解物の製造方法において中間体として製造される白色デキストリンに関する。
【背景技術】
【0002】
澱粉分解物は原料澱粉を酸や酵素を用いて加水分解することにより製造され、その用途は経腸栄養剤、スポーツドリンクの炭水化物源、粉末食品の乾燥助剤や増量・希釈剤、飲料、デザート、菓子類など多くの食品に利用されている。
近年、低DEの澱粉分解物に機能性、特に老化安定性や低粘性を付与して取扱い易くすることを目的として、種々の技術が提案されているが、必ずしも確立されてはいない。
原料澱粉を加熱分解してデキストリン化する過程において、加熱時間の経過とともに白度の低下、溶解度の上昇、及び還元糖の加熱初期における上昇とその後の低下が知られており、一般的な白色デキストリンの冷水可溶分は0〜90質量%、分岐成分は約3質量%である(非特許文献1)。このような一般的な白色デキストリンからは、低DEで老化安定性、低粘性に優れた澱粉分解物を得ることは困難である。また、非特許文献2には、難消化性デキストリン製造の前工程として、馬鈴薯原料澱粉に塩酸600ppmを添加して180℃で焙焼したときの分解度(DE)、難消化性成分量(分岐成分に相当)、白度、及び加熱時間の関係を示したグラフが開示されており、前記焙焼条件では、低DE、老化安定性を確保する分岐度、及び高白度を同時に満足する焙焼デキストリンを得ることは困難であることを示している。
このような焙焼デキストリンから、低DEで老化安定性、低粘性に優れた澱粉分解物を得ることもまた困難である。
【0003】
一般的に低DEの澱粉分解物は、DE値が15以下で老化による白濁を起こす事が多いが、白濁を起こさない安定な澱粉分解物の製造方法として、原料澱粉を酸焙焼して得られる分岐度が7〜16の焙焼デキストリンを加水分解して、DEが9〜16、重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)が20以下、重合度200以上の比率が20質量%以下の澱粉分解物とする方法が開示されている(特許文献1)。同様に、特許文献2には、焙焼デキストリンをα−アミラーゼで加水分解する方法で、食物繊維含有デキストリンを製造する方法が記載されている。しかしながら、これらの方法で澱粉分解物を製造する場合、原料澱粉のタンパク質や脂質含量が多い場合は、焙焼により澱粉がデキストリン化するのと同時にタンパク質の分解や脂質の酸化が起こり、さらに焙焼の程度が強すぎると澱粉分解物の着色や風味に影響を及ぼし、利用できる食品の分野が限られてくる。また、分解して可溶化したタンパク質はろ過、脱イオンなどの精製工程に影響を及ぼし、生産効率が悪化するといった問題がある。
【0004】
また、白濁を生じない低DEの澱粉分解物の製造方法として、原料澱粉を加水分解してDE20以上の安定性の高い澱粉分解物とした後、低分子量の糖類を逆浸透膜やナノろ過膜などの膜モジュールを用いて分離する方法が提案されている(特許文献3及び4)。同様に、分岐デキストリンの製造方法として原料澱粉をα−アミラーゼでDE10〜35に加水分解した後、ゲル型強酸性カチオン交換樹脂を充填したカラムによって高分子成分の分岐デキストリンと低分子成分の直鎖オリゴ糖を分画する方法が提案されている(特許文献5)。しかしながら、これらの方法は低分子成分を分画・除去するため、澱粉分解物の歩留まりが概ね50%程度となり、効率性、経済性の点で問題がある。
【0005】
【特許文献1】米国特許第3974032号
【特許文献2】特開平2−145169
【特許文献3】米国特許第3756853号
【特許文献4】米国特許第5953487号
【特許文献5】特許第1815698号
【非特許文献1】STARCH: Chemistry and Technology, Second ed., Academic Press, pp.267-271,(1984).
【非特許文献2】澱粉科学 第37巻 第2号 第107〜114頁(1990)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、低甘味、低粘度で老化による白濁を生じない特性を有し、取扱いが容易な低DE、特にDE9未満の澱粉分解物の効率的かつ経済的な製造方法を提供することである。
本発明の他の目的は、上記澱粉分解物を含む食品を提供することである。
本発明のさらに他の目的は、低DE、老化安定性を確保する分岐度、及び高白度を同時に満足する白色デキストリンを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、原料澱粉中に含まれるたんぱく質や脂質含量が一定基準以下の原料を用いて、白度、DE、冷水可溶部、分岐成分、及びたんぱく質含量が一定の基準を満たした新規な白色デキストリンを調製した後、これをα−アミラーゼで処理して得られる澱粉分解物が、その後の分画操作を必要とせずに、取扱いが容易な高品質の低DE澱粉分解物であることを見出し、本発明に到達した。即ち、本発明は以下に示す、低粘度、低甘味で老化による白濁を生じない、取扱いが容易な低DE、特にDE9未満の澱粉分解物の効率的かつ経済的な製造方法、上記澱粉分解物を含む食品、並びに、低DE、老化安定性を確保する分岐度、及び高白度を同時に満足する白色デキストリンを提供するものである。
【0008】
1.澱粉分解物の製造方法において、澱粉含量80質量%以上、たんぱく質含量0.20質量%以下、及び脂質含量0.20質量%以下の原料澱粉を、酸存在下で加熱処理して白度80以上、DE3〜6、冷水可溶部90質量%超、分岐成分30〜45質量%、及びたんぱく質含量0.1質量%以下の白色デキストリンとなし、次いでα−アミラーゼを作用させる工程を含むことを特徴とする、澱粉分解物の製造方法。
2.原料澱粉が非穀物澱粉である、上記1に記載の澱粉分解物の製造方法。
3.非穀物澱粉がタピオカ澱粉である、上記2に記載の澱粉分解物の製造方法。
4.澱粉分解物の50質量%、30℃における粘度が200mPa・s以下である、上記1〜3のいずれか1項に記載の澱粉分解物の製造方法。
5.澱粉分解物の分子量100,000を超える成分の割合が2質量%以下で、分子量10,000〜100,000成分の1,000〜10,000成分に対する比で示される分子量特性値が0.4〜0.6である、上記1〜4のいずれか1項に記載の澱粉分解物の製造方法。
6.澱粉分解物の数平均分子量、DE、及び4糖類以上の含量がそれぞれ1800〜2800、6〜8、及び90質量%以上である、上記1〜5のいずれか1項に記載の澱粉分解物の製造方法。
7.澱粉分解物が、さらに水素添加されている、上記1〜6のいずれか1項に記載の澱粉分解物の製造方法。
8.上記1〜7のいずれか1項に記載の製造方法で得られる澱粉分解物。
9.上記8記載の澱粉分解物を含む食品。
10.白度80以上、DE3〜6、冷水可溶部90質量%超、分岐成分30〜45質量%、及びたんぱく質含量0.1質量%以下の白色デキストリン。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、低DEでありながら低粘性、低甘味、老化安定性に優れ、取扱いが容易な澱粉分解物を経済的に得ることができる。本発明の澱粉分解物は、菓子類、粉末化基材、飲料、デザート類、調味料類、蓄肉製品等の広範な食品に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明において「白度」とは、Kett光電管白度計(Kett社製)による測定値をあらわす。
本発明において「DE」とは、「〔(直接還元糖(ブドウ糖として表示)の質量)/(固形分の質量)〕×100」の式で表される値で、ウイルシュテッターシューデル法による分析値である。
本発明において「冷水可溶部」は、以下の方法により測定する。試料5gを純水に溶解して100mlに定容する。25℃恒温槽で30分放置後、ろ紙(5A)でろ過する。ろ液20mlを秤量瓶に量りとり、沸騰水浴上で蒸発乾固させ、110℃で約4時間減圧乾燥し、五酸化りんのデシケーター中で放冷、計量し、次式により計算する。
冷水可溶部(質量%)=(ろ液乾燥質量×5/サンプル質量)×100
【0011】
本発明において「分岐成分」は、以下の方法により測定する。試料1gを精秤し、0.05Mリン酸緩衝液(pH=6.0)50mlを加え、ターマミル120L(ノボ社製のα−アミラーゼ)0.1mlを添加し95℃で30分間反応させる。冷却後、pH=4.5に再調整しアミログルコシダーゼ(シグマ社製)0.1mlを添加し、60℃で30分間反応させ、90℃まで昇温して反応を終了させる。終了液を100mlにメスアップし、ピラノース・オキシダーゼ法によりグルコース量を求めて、次式により分岐成分の含量を算出する。
分岐成分含量(質量%)=100−生成グルコース量(質量%)×0.9
【0012】
本発明において、数平均分子量及び分子量分布はゲルろ過クロマトグラフィーにより測定することができ、例えば分析装置として東ソー(株)製のマルチステーションGPC−8020を用い、以下の条件により測定する。
カラム:TSKgelG2500PWXL、G3000PWXL、G6000PWXL(東ソー(株)製)、カラム温度:80℃、移動相:蒸留水、流速:0.5ml/min、検出器:示差屈折率計、サンプル注入量:1質量%溶液100μl、検量線:プルラン標準品(分子量788,000〜5,900の間の8種類)、及びマルトトリオース(分子量504)、グルコース(分子量180)。
数平均分子量は次式により計算する。
数平均分子量(Mn)=ΣHi/Σ(Hi/Mi)
(Hi:ピーク高さ、Mi:分子量)。
分子量分布は、積分分子量分布曲線から求めるべき分子量の積分分布値(%)を読み取ることにより、また、分子量特性値は、一方の分子量分布値と他方の分子量分布値の比を計算することにより、それぞれ求める。
本発明で使用する分子量特性値は、分子量10,000〜100,000成分の1,000〜10,000成分に対する比であり、分子量1,000〜100,000成分の分散の指標となる。好ましい特性値は0.4〜0.6である。
【0013】
糖組成の分析は高速液体クロマトグラフィーを用いて以下の方法で行い、単純面積%を組成として表示する。
カラム:MCI GEL CK04SS(三菱化成(株)社製)、カラム温度:80℃、移動相:蒸留水、流速:0.3ml/min、検出器:示差屈折率計、サンプル注入量:5質量%溶液10μl
原料澱粉中のたんぱく質含量はセミミクロケルダール法により、また脂質含量はソックスレー抽出法により測定する。
原料澱粉中の澱粉含量は、原料澱粉を加水分解して還元糖とし、この還元糖量の測定値に0.9を乗じることにより求められる。
【0014】
本発明に使用する原料澱粉は、澱粉含量が、80質量%以上、好ましくは85質量%以上であり、たんぱく質含量が、0.2質量%以下、好ましくは0.15質量%以下、及び脂質含量が、0.2質量%以下、好ましくは0.18質量%以下であれば、特に原料澱粉の種類の制限はない。好ましい原料澱粉としては、非穀物澱粉、例えばタピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉を例示することができる。特にタピオカ澱粉が好適に用いられる。また、このような組成になるように、前処理として脱たんぱく、脱脂操作を行ってもよい。コーンスターチや小麦澱粉のように原料澱粉のたんぱく質、脂質が0.2質量%よりも多いと、澱粉分解物の精製時の効率に影響を及ぼす。
これらの原料澱粉は澱粉含量、たんぱく質含量及び脂質含量が上記範囲内となるものであれば混合して使用しても良い。
【0015】
次に、この原料澱粉に酸、好ましくは鉱酸、例えば、塩酸、硝酸、あるいは有機酸、例えば、シュウ酸等の酸を添加して加熱処理を行い、本発明に使用する白色デキストリンを製造する。例えば、原料澱粉100質量部に対して、1質量%の塩酸水溶液として3〜10質量部添加する。この時、水溶液を均一に混合するために、適当なミキサー中で攪拌、熟成させてから、好ましくは100〜120℃程度で予備乾燥して混合物中の水分を5〜8質量%、好ましくは6〜7質量%に減少させた後、120〜180℃未満、好ましくは130〜150℃で10分〜120分、好ましくは20分〜60分間加熱処理する。予備乾燥後の水分を通常の1〜5質量%よりも高めに設定することにより、原料澱粉の加水分解が促進されて低分子断片が多くなり、また、加熱温度を通常の95〜120℃よりも高めに設定することにより、加水分解で生成した低分子断片の再重合が促進されて分岐成分の含量が増加し、DE値も低下する。また、加熱時間が通常よりも短いので、白度の低下も最小限にとどめることができる。水分が8質量%を超えると昇温に要する時間がかかり、加水分解断片の再重合化が抑制される。逆に、水分5質量%未満では加水分解が抑制される。加熱時間を10分未満にするか、加熱温度が120℃未満では、デキストリンの分岐成分及び冷水可溶部の含量が低下し、澱粉分解物の老化安定性及び低粘度を実現することが困難となる。また、加熱時間が120分を超えるか、加熱温度が180℃以上では、デキストリンの白度が低下し、澱粉分解物の脱色が困難となる。
【0016】
このようにして得られる白色デキストリンは、白度が80以上、DEが3〜6、分岐成分が30質量%〜45質量%、冷水可溶部が90質量%超、好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは100質量%、及びたんぱく質含量が0.1質量%以下である。
白度が80より低いと、澱粉分解物の精製工程で脱色に多大の労力を要し、また、着色度が高く焙焼臭を有する風味となるために好ましくない。冷水可溶部が90質量%以下であると、得られる澱粉分解物が老化による白濁を生じ易く、粘性が高く糊っぽい食感となるために好ましくない。また、DEが3〜6、及び分岐成分が30質量%〜45質量%の範囲を外れると、得られる澱粉分解物が老化による白濁を生じ易く、粘性が高く糊っぽい食感となるか、反対に、老化による白濁を起こさず粘性は低いが、着色度が高く焙焼臭を有する食感となるために好ましくない。さらに、たんぱく質含量が0.1質量%を超えると澱粉分解物の脱色が困難となる。
本発明の白色デキストリンの上記特性は、従来の一般的な白色デキストリンの特性とは明らかに異なる。例えば一般的な白色デキストリンは、水分1−5%で、95〜120℃の加熱によって製造されている(非特許文献1)が、この白色デキストリンの冷水可溶部は0〜90質量%、分岐成分は約3質量%である。
【0017】
次いで上記本発明の白色デキストリンを水に溶解して20〜50質量%の濃度に調整して、炭酸カルシウムなどの中和剤を用いて、pHを5.5〜6.5、好ましくは6.0に調整し、120℃まで昇温して白色デキストリンを完全に溶解させる。95℃以下に冷却後、pHを5.5〜6.5、好ましくは6.0に再度調整し、適量のα−アミラーゼ、例えば、0.05〜0.2質量%の液化型α−アミラーゼを添加して、α−アミラーゼの作用温度である80〜95℃で30分〜60分間程度加水分解を行いDE6〜8とした後、温度を120℃まで上げるか、シュウ酸などの酸を用いてpHを3.5以下に調整してα−アミラーゼの酵素作用を終了させる。なお、白色デキストリンを完全溶解させるための前記昇温工程は省略することもできるが、この場合の酵素作用の終了は120℃までの昇温による方法に限定される。
この液化型α−アミラーゼとしては市販品がいずれも使用できるが、例えばクライスターゼKD(大和化成(株)社製)やターマミル120L(ノボザイムズジャパン社製)などがある。酵素の失活に酸を用いた場合は、炭酸カルシウムなどの中和剤でpHを5〜7に調整する。
【0018】
以後は、精製工程として活性炭脱色、ろ過、イオン交換樹脂による脱塩、脱色を行うが、低DE画分を得るための分画操作は不要であり、作業効率は通常の原料澱粉から澱粉分解物を製造する場合とほとんど変わらない。その後、50質量%程度の濃度まで濃縮して噴霧乾燥などにより粉末品とするか、仕上げ濃縮として濃度を60〜70質量%に調整して液状品とする。
【0019】
さらに、精製工程を経たこの澱粉分解物の液を、還元(水素添加)して還元澱粉分解物とすることもできる。一般的に行われる還元の条件は、ラネーニッケル、ラネーコバルト、ニッケル硅藻土などの常用還元触媒を添加し、水素圧50〜130kg/cm2、温度50〜150℃程度の常用条件下で水素添加を行う。この際の加熱は溶液中に水素を飽和状態となるまで充分に溶解させてから行う事が好ましく、これに反し水素の供給が不十分な場合には酸化、加水分解などの好ましくない副反応が生起することがある。この水素添加は温度、圧力などの反応条件によって多少の違いはあるが、通常2時間以内に終結する。以後は通常用いられる精製、例えば触媒分離後に再度活性炭脱色、ろ過、イオン交換樹脂による脱塩、脱色を行い、濃縮後噴霧乾燥などにより粉末とするかまたは仕上濃縮として濃度を60〜70質量%に調整して液状品とする。
【0020】
このようにして得られた澱粉分解物は、粘度200mPa・s以下、分子量100,000を超える成分の割合が2質量%以下で、分子量10,000〜100,000成分の1,000〜10,000成分に対する比が0.4〜0.6で、DE6〜8、数平均分子量1800〜2800、及び4糖類以上の含量が90質量%以上であり、低甘味、低粘度で老化による白濁を生じないといった特性を有している。
本発明の製造方法により得られる上記特性を有する澱粉分解物は、菓子類、粉末化基材、飲料、デザート類、調味料類、蓄肉製品等の広範な食品に使用できる。添加量は目的により異なるが、通常は、固形分換算で30〜70質量%、好ましくは40〜60質量%である。
【実施例】
【0021】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、実施例によって本発明が限定されるものではない。
実施例1
市販のタピオカ澱粉(澱粉含量86.63質量%、たんぱく質含量0.08質量%、脂質含量0.09質量%)5kgをパドルドライヤー((株)奈良機械製作所製NPD−1.6W型)に入れ、攪拌しながら1質量%塩酸を250gスプレーし、60分間攪拌して均質化した。次いで、熱媒の温度を110℃に設定し、40分間加熱を続け水分6質量%に予備乾燥した後、熱媒の温度を140℃に昇温し、60分間加熱して白色デキストリン4.5kgを得た。得られた白色デキストリンは、白度88、DE5.23、冷水可溶部96.8質量%、分岐成分33.5質量%、たんぱく質含量0.03質量%であった。
この白色デキストリンに水9Lを加えて溶解し、炭酸カルシウムを加えてpHを6.0に調整し、オートクレーブを用いて120℃で10分間加熱した。85℃に冷却後、炭酸カルシウムを用いて再度pHを6.0に調整し、クライスターゼKD(α−アミラーゼ、大和化成株式会社製)を0.15質量%添加して85℃で30分間加水分解した後、シュウ酸を加えてpHを3.5に調整して反応を終了した。炭酸カルシウムを加えて中和した後、活性炭を加えて珪藻土ろ過して脱色し、さらにイオン交換樹脂による脱塩を行い精製した。このときのろ過時間やイオン交換樹脂に対する負荷は、通常原料澱粉から澱粉分解物を製造する場合とほとんど変わらず良好であり、非常に効率的であった。
次いで、濃度を50質量%まで濃縮した後、噴霧乾燥により粉末化して4kgの澱粉分解物を得た。得られた澱粉分解物の分析値を表1に記載した。この澱粉分解物の粘度(117mPa・s)は市販の澱粉分解物の粘度(270mPa・s)よりも低粘度であり、且つ、後述の実施例3に示すごとく、老化安定性に優れていた。
【0022】
実施例2
市販のワキシーコーンスターチ(澱粉含量86.57質量%、たんぱく質含量0.15質量%、脂質含量0.18質量%)5kgを用いて、実施例1と同じ方法により白色デキストリン4.4kgを得た。得られた白色デキストリンは、白度84、DE4.74、冷水可溶部99.0質量%、分岐成分41.1質量%、たんぱく質含量0.06質量%であった。
この白色デキストリンに水9Lを加えて溶解し、4質量%水酸化ナトリウム溶液を加えてpHを5.8に調整し、ターマミル120L(α−アミラーゼ、ノボザイムズジャパン社製)0.1質量%添加して95℃で20分間加水分解した後、120℃まで昇温して反応を終了した。その後、実施例1と同様に精製を行い、濃度を65質量%に濃縮して澱粉分解物の液状品6kgを得た。実施例2においても製造工程上何ら問題がなく、非常に効率的であった。得られた澱粉分解物の分析値を表1に記載した。この澱粉分解物の粘度(125mPa・s)は市販の澱粉分解物の粘度(270mPa・s)よりも低粘度であり、且つ、後述の実施例3に示すごとく、老化安定性に優れていた。
【0023】
比較例1
市販のコーンスターチ(澱粉含量85.95質量%、たんぱく質含量0.35質量%、脂質含量0.60質量%)5kgを用いて、実施例1と同じ方法により白色デキストリン4.5kgを得た。得られた白色デキストリンは、白度82、DE5.48、冷水可溶部99.8質量%、分岐成分42.7質量%、たんぱく質含量0.34質量%であった。
実施例1と同様に加水分解、精製を行ったところ、実施例1および2と比較してろ過時間が長く、また、ろ液に可溶化したたんぱく質が漏れて白濁しており、イオン交換樹脂への負荷も多く生産性が悪かった。得られた澱粉分解物の分析値を表1に記載した。この澱粉分解物は、着色度が高値(0.51)を示し、後述の実施例3における凍結融解による老化安定性の低下傾向はわずかであったが、製造当初の濁度(0.08)及び着色度(0.51)において低品質であった。
【0024】
比較例2
市販のタピオカ澱粉(澱粉含量86.63質量%、たんぱく質含量0.08質量%、脂質含量0.09質量%)5kgを用いて、加熱温度を180℃とする以外は実施例1と同じ方法でデキストリン4.5kgを得た。得られたデキストリンは白度78、DE6.82、冷水可溶部97.7質量%、分岐成分48.1質量%、たんぱく質含量0.04質量%であった。
実施例1と同様にして澱粉分解物を試作したところ、活性炭、及びイオン交換樹脂の量を増やしても脱色できず、着色度が高値(0.65)を示し、生産性、商品価値ともに低下した澱粉分解物が得られた。分析値を表1に記載した。
【0025】
【表1】

1:市販の酵素処理澱粉分解物(松谷化学工業株式会社製)
2:分子量10,000〜100,000成分の分子量1,000〜10,000成分に対する質量比
*3:50質量%水溶液、30℃のB型粘度計による測定値(mPa・s)
*4:30質量%水溶液、420nmと720nmの吸光度差
*5:30質量%水溶液、720nmの吸光度
【0026】
実施例3
表1に記載した5種類の澱粉分解物の50質量%水溶液を調製してプラスチック容器に入れ、−15℃の冷凍庫での凍結と室温での解凍操作(凍結融解)を繰り返し、720nmの吸光度を測定して、老化による白濁に対する安定性の評価を行った。結果を表2に記載した。















【0027】
【表2】

【0028】
凍結融解の1サイクルは、4℃保存、10日間に相当する。720nmの吸光度(濁度)が0.1を超えると目視で濁りが観察できるが、実施例1、及び2で製造した澱粉分解物は10回凍結融解を繰り返しても白濁を生じず安定であった。しかしながら、比較例1で製造した澱粉分解物は製造時からやや白濁が観察され、凍結融解を繰り返すと白濁の度合いはわずかに増加した。酵素処理による市販の澱粉分解物(パインデックス#1)は、最初は白濁はなく透明であったが、凍結融解1回で白濁を生じた。
【0029】
実施例4
実施例2で製造した澱粉分解物1kgに水を加えて50質量%に調整した後、2Lの還元用反応容器に入れ、触媒としてラネーニッケルR239(商品名:日興理化社製)20gを添加し、水素ガスを100kg/cm2の圧力に達するまで充填し、400〜600rpmで攪拌しながら130℃で3時間還元反応を行った。次いで還元物をろ過して触媒を分離後、活性炭で脱色ろ過、及びイオン交換樹脂で脱塩して精製した。その後、濃度50質量%に濃縮した後、噴霧乾燥により粉末化して約600gの還元澱粉分解物を得た。
【0030】
実施例5
黒酢(酸度4.5%、タマノイ酢株式会社製)18kgを、減圧濃縮により3kgに濃縮した後、実施例1で製造した澱粉加水分解物600gを添加混合してスプレー供給液を調製した。次にこの供給液を、スプレードライヤー(型式:ニロPM−10型、ニロジャパン株式会社製)を用いて、入口温度160℃、出口温度90℃、アトマイザー回転数16500rpmの条件で噴霧乾燥を行い、約900gの粉末黒酢を得た。得られた粉末黒酢を水に溶かしたところ、すばやく溶解し、酢酸の刺激臭はマスキングされていたが、黒酢の風味は十分に残っていた。
【0031】
実施例6
こいくち醤油(水分68.8%、キッコーマン株式会社製)5kgに、実施例1で製造した澱粉加水分解物1kgを添加混合してスプレー供給液を調製した。次にこの供給液を、スプレードライヤー(型式:ニロPM−10型、ニロジャパン株式会社製)を用いて、入口温度160℃、出口温度95℃、アトマイザー回転数16500rpmの条件で噴霧乾燥を行い、約2.2kgの粉末醤油を得た。得られた粉末醤油を水に溶かしたところ、すばやく溶解して醤油独特のさわやかな風味が立ち上がった。また、砂糖、食塩、アミノ酸などの他の原料とともにアルミ製の袋に入れて30℃で1週間保存したところ、固結を起こすことなく、風味も維持されていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
澱粉分解物の製造方法において、澱粉含量80質量%以上、たんぱく質含量0.20質量%以下、及び脂質含量0.20質量%以下の原料澱粉を、酸存在下で加熱処理して白度80以上、DE3〜6、冷水可溶部90質量%超、分岐成分30〜45質量%、及びたんぱく質含量0.1質量%以下の白色デキストリンとなし、次いでα−アミラーゼを作用させる工程を含むことを特徴とする、澱粉分解物の製造方法。
【請求項2】
原料澱粉が非穀物澱粉である、請求項1に記載の澱粉分解物の製造方法。
【請求項3】
非穀物澱粉がタピオカ澱粉である、請求項2に記載の澱粉分解物の製造方法。
【請求項4】
澱粉分解物の50質量%、30℃における粘度が200mPa・s以下である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の澱粉分解物の製造方法。
【請求項5】
澱粉分解物の分子量100,000を超える成分の割合が2質量%以下で、分子量10,000〜100,000成分の1,000〜10,000成分に対する比で示される分子量特性値が0.4〜0.6である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の澱粉分解物の製造方法。
【請求項6】
澱粉分解物の数平均分子量、DE、及び4糖類以上の含量がそれぞれ1800〜2800、6〜8、及び90質量%以上である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の澱粉分解物の製造方法。
【請求項7】
澱粉分解物が、さらに水素添加されている、請求項1〜6のいずれか1項に記載の澱粉分解物の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の製造方法で得られる澱粉分解物。
【請求項9】
請求項8記載の澱粉分解物を含む食品。
【請求項10】
白度80以上、DE3〜6、冷水可溶部90質量%超、分岐成分30〜45質量%、及びたんぱく質含量0.1質量%以下の白色デキストリン。

【公開番号】特開2006−204207(P2006−204207A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−21464(P2005−21464)
【出願日】平成17年1月28日(2005.1.28)
【出願人】(000188227)松谷化学工業株式会社 (102)
【Fターム(参考)】