説明

澱粉含有食品処理排水の浄化装置

【課題】簡便な構造で小型に構成でき、導入コスト及びランニングコストが低い澱粉含有食品処理排水の浄化装置を提供する。
【解決手段】澱粉含有食品処理排水が供給される処理槽10と、処理槽10にアルカリ性溶液を供給するアルカリ性溶液供給手段と、処理槽10に酸性溶液を供給する酸性溶液供給手段と、処理槽10の澱粉含有食品処理排水のpHを測定するpH測定手段と、処理槽10に澱粉成分を凝集させる酵素を供給する酵素供給手段と、pH測定手段からの信号を入力し、アルカリ性溶液供給手段及び酸性溶液供給手段の駆動を制御する制御手段を備え、酵素の作用で澱粉含有食品処理排水中の澱粉を凝集、沈降させ、上澄み液と固形成分とに分離する。制御手段はpH測定手段からの信号に基づいて、pH測定値が予め設定された範囲内にあるか否か判定し、アルカリ性溶液供給手段又は酸性溶液供給手段を駆動させて、pHが設定範囲内の値となるよう制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、澱粉含有食品処理排水の浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、澱粉含有食品、例えばうどん等の製麺製造並びに麺飯店等から排出される高濃度固形成分を含有するゆで汁等による水環境の悪化が問題になっている。茹で汁に含まれる澱粉を主成分とする固形成分は、難分解性であるため、これまでの汚泥処理単独の装置類では除去できない。このため、固形成分の除去を目的とする濾過装置を別途設置する必要がある。
【0003】
一部の地域では、中小規模のうどん店等に対しも規制強化が進められ、濾過装置等の設置が義務付けられようとしている。しかし、濾過装置等の設置には、導入コスト、ランニングコストが高く、中小規模のうどん店等はその導入に対して苦心している。
【0004】
このような状況の中、中小規模のうどん店等でも導入しやすいよう、新たなうどんのゆで汁浄化装置が開発されている(非特許文献1)。この浄化装置は、微生物やフィルターを入れた3つの処理槽を複数回循環することで排水中の有機物を分解、浄化する仕組みである。
【0005】
また洗米排水にプロテアーゼ含有酵素を添加してこれに含まれる澱粉を沈殿分離する方法も知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】うどんのゆで汁浄化、低価格装置開発/南海化工、[online]、平成22年5月29日、四国新聞社、[平成22年8月26日検索]、インターネットURL<http://news.shikoku−np.co.jp/kagawa/economy/201005/20100529000071.htm>
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−38214号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
非特許文献1に開示されている浄化装置では、微生物やフィルターを入れた3つの処理槽を有することから、小型化に難がある。このため、設置場所の制限を受ける。特に、既設の浄化槽と併設する場合には、設置場所の制限は顕著となる。また、フィルターを用いるため、濾材のクリーニングや交換が必要となり、ランニングコストも高くなる。更に、3つの処理槽を有することから複雑な構造になり高価となるため、導入コストも高くなる。
【0009】
また特許文献1には、処理装置については、その概要が記載されているのみで、具体的な構造については言及されていない。
【0010】
本発明は、上記事項に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、簡便な構造で小型に構成でき、導入コスト及びランニングコストが低い澱粉含有食品処理排水の浄化装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る澱粉含有食品処理排水の浄化装置は、
澱粉含有食品処理排水が供給される処理槽と、
前記処理槽にアルカリ性溶液を供給するアルカリ性溶液供給手段と、
前記処理槽に酸性溶液を供給する酸性溶液供給手段と、
前記処理槽に供給された澱粉含有食品処理排水のpHを測定するpH測定手段と、
前記処理槽に澱粉成分を凝集させる酵素を供給する酵素供給手段と、
前記pH測定手段からの信号を入力し、前記アルカリ性溶液供給手段及び前記酸性溶液供給手段の駆動を制御する制御手段を備え、
前記酵素の作用により前記澱粉含有食品処理排水中の澱粉を凝集させて沈降させ、上澄み液と固形成分とに分離する澱粉含有食品処理排水の浄化装置であって、
前記制御手段は、前記pH測定手段からの信号に基づいて、pH測定値が澱粉含有食品の種類に対応して予め設定された範囲内にあるか否かを判定し、pH測定値が設定範囲に達しないとき又はこれを超えているとき前記アルカリ性溶液供給手段又は前記酸性溶液供給手段を駆動させて、前記澱粉含有食品処理排水のpHが前記設定範囲内の値となるよう制御する、
ことを特徴とする。
【0012】
また、前記澱粉含有食品処理排水を攪拌する撹拌手段を備え、前記制御手段は、前記酵素供給手段による酵素添加後、所定時間前記撹拌手段を駆動させて前記澱粉含有食品処理排水を撹拌させてもよい。
【0013】
また、前記澱粉含有食品処理排水の濁度を測定する濁度測定手段と、
前記上澄み液及び前記固形成分を前記処理槽から排出する排出手段と、を備え、
前記制御手段は前記上澄み液の濁度に基づいて、前記排出手段を制御して前記上澄み液及び前記固形成分を排出させてもよい。
【0014】
また、冷却水を前記処理槽に供給する冷却水供給手段を備え、
前記制御手段は前記処理槽に冷却水を供給して前記処理槽内の澱粉含有食品処理排水の温度を10〜40℃に調整することが望ましい。
【0015】
また、前記制御手段は前記処理槽内に供給された澱粉含有食品処理排水1Lに対し、前記酵素を1〜50mg供給することが望ましい。
【0016】
また、うどんを茹でた茹で麺廃水が前記処理槽に供給された場合、前記制御手段は、前記アルカリ性溶液供給手段及び/又は酸性溶液供給手段を駆動させてアルカリ性溶液又は酸性溶液を前記処理槽に供給して、前記処理槽内に供給された茹で麺廃水のpHを3〜7に制御することが望ましい。
【0017】
また、そばを茹でた茹で麺廃水が前記処理槽に供給された場合、前記制御手段は、前記アルカリ性溶液供給手段及び/又は酸性溶液供給手段を駆動させてアルカリ性溶液又は酸性溶液を前記処理槽に供給して、前記処理槽内に供給された茹で麺廃水のpHを3〜5に制御することが望ましい。
【0018】
また、前記処理槽の下部は頂角が60°以下の逆円錐形状であることが望ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る澱粉含有食品処理排水の浄化装置では、酵素活性の高い好適な条件下で澱粉含有食品処理排水中の澱粉を主成分とする固形成分を沈降分離させる。このため、澱粉含有食品処理排水の効率的な処理が可能である。また、フィルター等の濾過ユニットを用いないため、フィルター交換やクリーニング等のメンテナンスが不要であり、ランニングコストが低減できる。
【0020】
また、簡便な構成であるため、小型の装置を構成できる。設置場所の制限を受けにくく、既設の浄化槽とも併設することが可能である。更には、装置の導入コストも安くできる利点を有する。
【0021】
また、凝集剤を用いず、酵素の作用により固形成分を沈降分離させるため、汚泥の発生を削減できるとともに、汚泥は産業廃棄物ではなく、安全性が高いので一般廃棄物としての取扱が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】澱粉含有食品処理排水の浄化装置の概略構成図である。
【図2】実施例1における吸光度測定結果を示すグラフである。
【図3】実施例2における吸光度測定結果を示すグラフである。
【図4】実施例3における吸光度測定結果を示すグラフである。
【図5】実施例3における吸光度測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図を参照しつつ、本実施の形態に係る澱粉含有食品処理排水の浄化装置について、うどんの調理の際に排出されるうどん茹で汁、及び、うどん洗浄水等過熱されない厨房排水(冷却水として使用されるため、以下冷却水という)の浄化を例にとり、詳細に説明する。
【0024】
澱粉含有食品処理排水の浄化装置1は、茹で麺廃水である茹で汁が供給される処理槽10、茹で汁を処理槽10に供給する茹で汁供給路12、酵素供給手段として茹で汁に含まれる固形成分を凝集させる酵素を供給する酵素供給路20、酸性溶液供給手段として酸性溶液を処理槽10に供給する酸性溶液供給路22、アルカリ性溶液供給手段としてアルカリ性溶液を処理槽10に供給するアルカリ性溶液供給路24、pH測定手段として処理槽10内に供給された茹で汁のpHを測定するpH測定装置25、濁度測定手段として処理槽10内に供給された茹で汁の濁度を測定する濁度測定装置26、澱粉等の固形成分を回収する回収容器28、排出手段として上澄み液を排出する上澄み液排出路29、攪拌手段として茹で汁を攪拌する攪拌装置31、及び、茹で汁の供給、アルカリ性溶液や酸性溶液の供給、酵素の供給等、澱粉含有食品処理排水の浄化装置1の動作を制御する制御装置33から構成される。通常、うどんのゆで汁の温度は60〜80℃程度、また冷却水の温度は常温10〜20℃程度であり、いずれもうどん処理排水であり、うどんから溶出した澱粉が含まれる。
【0025】
処理槽10は、茹で汁が充填され、茹で汁に含まれる澱粉等の固形成分を沈降分離させる槽である。処理槽10は内部が空洞であり、上部が円筒形状、下部が逆円錐形状をしている。処理槽10は、下部の逆円錐形状の頂角が60°以下であることが好ましい。茹で汁中の固形成分が凝集して沈降した場合、頂角が60°より大きいと、テーパー部分の壁面に堆積して、下方への落下を妨げてしまう。
【0026】
茹で汁槽11は排水路等を介して送られてくる茹で汁を一時的に貯留する槽である。茹で汁はうどんやそばを茹でる際に生じる廃水であり、難分解性澱粉を主成分とする固形成分が含まれている。茹で汁槽11中の茹で汁は、制御装置33による制御によって茹で汁供給路12を介して処理槽10に供給される。
【0027】
冷却水槽13は、茹で麺廃水の温度を調節するための冷却水が一時的に貯留される槽である。冷却水槽13へは冷却水として厨房排水等の非加熱排水が供給される。冷却水槽13中の冷却水は、制御装置33による制御によって、冷却水供給路14を介して処理槽10に供給される。
【0028】
水位センサ15は、処理槽10内に供給された茹で汁及び冷却水の混合水の水位を計測する。
【0029】
温度調節装置16は、処理槽10に設置された温度センサ17及び処理槽10の外壁に設置されたヒータ18と接続しており、温度センサ17によって処理槽10内の茹で汁の温度が所定温度よりも低い場合、ヒータ17を駆動し、茹で汁の温度を所定の温度まで上昇させる。
【0030】
酵素槽19には、茹で汁に含まれる難分解性澱粉を凝集させる酵素が貯留されている。酵素槽19中の酵素は、制御装置33による制御によって、酵素供給路20を介して処理槽10に供給される。酵素として、プロテアーゼM、プロテアーゼA、ビオザイム、オリエンターゼ20A等が用いられる。
【0031】
酸性溶液供給路22は、酸性溶液槽21に貯留されている酸性溶液を処理槽10に供給する流路である。酸性溶液槽21には、6N硫酸等の酸性溶液が貯留されている。酸性溶液槽21中の酸性溶液は、制御装置33による制御によって、酸性溶液供給路22を介して処理槽10に供給される。
【0032】
アルカリ性溶液供給路24は、アルカリ性溶液槽23に貯留されているアルカリ性溶液を処理槽10に供給する流路である。アルカリ性溶液槽23には、水酸化ナトリウム等のアルカリ性溶液が貯留されている。アルカリ性溶液槽23中のアルカリ性溶液は、制御装置33による制御によって、アルカリ性溶液供給路24を介して処理槽10に供給される。
【0033】
pH測定装置25は、センサ部が処理槽10内に設置され、処理槽10内に供給された茹で汁のpHを測定する装置である。pH測定装置25は制御装置33により制御され、制御装置33はpH測定装置25からのpH測定値をフィードバックして、酸性溶液或いはアルカリ性溶液の供給を行う。
【0034】
濁度測定装置26は、センサ部が処理槽10内に設置され、処理槽10内に供給された茹で汁の濁度を測定する装置である。濁度測定装置26として、吸光度計等が用いられる。濁度測定装置26は制御装置33により制御され、制御装置33は測定された濁度をフィードバックして、上澄み液等の排出を制御する。
【0035】
攪拌装置31は処理槽10内に供給された茹で汁と酵素とを攪拌混合する装置である。制御装置33による制御により、処理槽10内の攪拌子32の回転、停止が制御される。
【0036】
処理槽10の下方には、処理槽10内の下部に澱粉等が凝集して沈殿した固形成分42を排出する固形成分排出バルブ25及び固形成分42を回収する回収容器28が設置されている。固形成分排出バルブ25を開くことにより、固形成分42が降下して回収容器28に回収される。
【0037】
上澄み排出路29は、処理槽10内で分離した上澄み液41を排出する流路である。上澄み排出路29は筒状の管体から構成され、一端が処理槽10内に挿入されており、他端が処理槽10の外部に突出している。上澄み液排出バルブ30を開くことにより、上澄み液が上澄み液排出路29を通って排出される。また、上澄み液排出路29の上部は外筒と内筒から構成されており、内筒を上下動させることにより、どの水位までの上澄み液41を排出するか調節可能な構成である。また、上澄み排出路29の排出側端部は、汚泥処理装置等に接続される。固形成分排出バルブ27、上澄み液排出バルブ30の開閉は、制御装置33により制御され、濁度測定により、固形成分の凝集、沈降が終了した後、閉から開へ切り換えられる。
【0038】
続いて、澱粉含有食品処理排水の浄化装置1を用いた茹で汁の処理の流れについて説明する。
【0039】
まず、不図示の澱粉含有食品処理排水の浄化装置1のスイッチを入れると、制御装置33は、茹で汁槽11から茹で汁供給路12を介し、一定量の茹で汁を処理槽10に供給させる。茹で汁供給路12にバルブV1が設置されており、制御装置33がこのバルブV1を一定時間開放させることにより、一定量の茹で汁を処理槽10に供給させる。或いは、水位センサ15が処理槽10内に一定量の茹で汁が貯留されたことを検出するまで、制御装置33がバルブV1を開放するよう行ってもよい。
【0040】
処理槽10に茹で汁が供給された後、温度センサ17により茹で汁の温度を測定する。ここで、処理槽10内の茹で汁の温度が10〜40°の範囲にない場合、制御装置33は以下の制御を行う。
【0041】
処理槽10内の茹で汁の温度が40°よりも高い場合、冷却水槽13から冷却水供給路14を介し、冷却水を処理槽10に供給し、茹で汁と冷却水との混合水の温度が40°以下になるよう制御する。冷却水の供給は、制御装置33が冷却水供給路14に設けられたバルブV2の開閉を制御することによって行われる。
【0042】
一方、処理槽10内の茹で汁の温度が10°よりも低い場合、ヒータ16を駆動させて、茹で汁を加温し、茹で汁の温度が10°以上になるよう制御する。処理水として冷却水の量が多い場合、或いは、冬場などに茹で汁を長時間茹で汁槽11に貯留しておいた後に浄化を行う場合などに10℃以下になる可能性がある。このような場合にヒータ16が使用される。
【0043】
茹で汁の温度が10〜40°の範囲となるよう制御するのは、プロテアーゼ等の酵素がもっとも活性化するためである。なお、処理槽10内に供給された茹で汁の温度が10〜40℃であった場合、上記の加温及び冷却処理は行われない。
【0044】
続いて、制御装置33は処理槽10内の茹で汁のpHを調節する。pH測定装置25が処理槽10内の茹で汁のpHを測定し、pH測定値に基づいて、制御装置33が酸性溶液又はアルカリ性溶液を処理槽10内に供給し、所定のpH値になるよう制御する。
【0045】
うどんを茹でた際に生じる茹で汁を処理する場合、制御装置33は、処理槽10内の茹で汁のpHが3〜7の範囲になるよう、酸性溶液又はアルカリ性溶液を処理槽10に供給させる。酸性溶液及びアルカリ性溶液は、pH測定装置25のpH測定値に基づき、酸性溶液供給路22及びアルカリ性溶液供給路24に設けられたそれぞれのバルブV3、V4を制御装置33が開閉させることにより、酸性溶液槽21及びアルカリ性溶液槽23から処理槽10内に供給される。うどんを茹でた際に生じる茹で汁のpHが3〜7となるよう調整するのは、後述の実験結果から、この範囲で最も固形成分の沈殿が促進されることに基づく。
【0046】
また、そばを茹でた際に生じる茹で汁を処理する場合では、制御装置33は、処理槽10内の茹で汁のpHが3〜5の範囲になるよう、上記と同様の制御を行い、酸性溶液又はアルカリ性溶液を供給させる。そばを茹でた際に生じる茹で汁のpHが3〜5となるよう調整するのは、後述の実験結果から、この範囲で最も固形成分の沈殿が促進されることに基づく。
【0047】
なお、上記のpHの制御は、固形成分を沈降分離させる間中、継続して行うよう制御してもよい。常時好適なpHで反応が進むことになり、固形成分の沈降分離が効率的に行われる。
【0048】
続いて、制御装置33は酵素槽19から酵素供給路20を介し、所定量の酵素を処理槽10に供給する。制御装置33は、酵素供給路20に設けられたバルブV5を開閉させることにより、酵素を供給する。酵素の供給量は、処理槽10に供給された茹で麺廃水1Lに対し、1〜50mgである。上記酵素濃度の範囲は、後述の実験結果に基づき、固形成分の沈降分離が効率よく行われる。50mgを超えて酵素を投入しても固形成分の凝集は殆ど増大しない。
【0049】
処理槽10に酵素を添加した後、制御装置33は攪拌装置31を所定時間駆動させ、酵素と茹で汁とを均一に混合させる。なお、攪拌装置31の駆動時間は、一例として30秒程度である。
【0050】
酵素が添加されると、茹で汁に含まれる澱粉等の固形成分が凝集し、処理槽10の下部に沈降する。なお、酵素を添加することによって、茹で汁に含まれる固形成分が凝集、沈降するのは以下のように考えられる。酵素が固形成分の表層蛋白質を除去することから、澱粉質由来の水酸基が露出し、この水酸基と茹で汁に含まれる金属陽イオンとの静電的相互作用が生じる。この静電的相互作用により、金属陽イオンを介して固形成分が凝集し、凝集した固形成分自身の自重により沈降するものと考えられる。
【0051】
固形成分を沈降分離させる間、制御装置33は茹で汁の濁度を濁度測定装置25により監視させる。そして、茹で汁の濁度、即ち上澄み液が所定値以下となった場合、澱粉の固化沈降が終了したと判断して、上澄み液排出バルブ30を開放させ、上澄み液排出路29を介し、上澄み液41を外部に排出させる。
【0052】
上澄み液41を排出させた後、制御装置33は固形成分排出バルブ27を開放させ、処理槽10内下部に沈降した固形成分を排出させ、回収容器28に回収する。回収した固形成分には有機物が含まれていることから、バイオマスとして再利用することも可能である。
【0053】
排出した上澄み液には、固形成分がほぼ含まれない。また、添加した酵素は一定時間経過すれば失活するので、上澄み液は酵素も含まない。このため、上澄み液をそのまま排水として活性汚泥処理することが可能になる。
【0054】
本実施形態では、茹で汁槽11、冷却水槽13に一時的に茹で麺廃水、冷却水を貯留する形態について説明したが、これらの槽を用いることなく、直接茹で汁や非加熱厨房排水が排出される排水路等から茹で汁、冷却水を処理槽10に供給するよう構成されていてもよい。
【0055】
本実施の形態に係る澱粉含有食品処理排水の浄化装置1では、フィルター等の濾過ユニットを用いる必要がないので、フィルター交換やクリーニング等のメンテナンス費用が不要である。このため、ランニングコストが低減できる利点を有する。
【0056】
また、簡便な構成であるため、小型の装置を構成できる。これにより、システムの省力化ができるとともに、設置スペースの削減が可能で、設置場所の制限を受けにくく、既設の浄化槽とも併設することが可能である。更には、装置の導入コストも安くできる利点を有する。
【0057】
また、凝集剤を用いず、酵素を添加して茹で汁中の固形成分を沈降分離させるため、汚泥の発生を削減できるとともに、汚泥は産業廃棄物ではなく、安全性が高いので一般廃棄物としての取扱が可能である。
【実施例1】
【0058】
うどんを茹でて生じた茹で汁のpHを変化させ、固形成分の沈降分離に及ぼすpHの影響について検証した。
【0059】
まず、市販のうどん(半生讃岐うどん、石丸製麺株式会社、香川県高松市)を茹でて、その際に生じる茹で麺廃水を容易した。この茹で麺廃水のpHは5.3であった。茹で麺廃水に水を加えて5倍に希釈した。
【0060】
希釈した茹で麺廃水に6N硫酸及び/又は水酸化ナトリウムを添加し、pH2,3,4,5,6,7,8,9のサンプルをそれぞれ調製した。
【0061】
それぞれのサンプル10mLを15mL容ポリプロピレン製チューブ120mm×16φ(corning 430790,Corning)に分注後、それぞれ10mg/Lの酵素濃度になるよう酵素を添加し、ボルッテックスミキサーにて、充分に攪拌・混合した。添加した酵素はプロテアーゼM(3000u/mg、(株)天野エンザイム)である。
【0062】
その後静置して、それぞれのサンプルの固形成分を沈降分離させた。なお、いずれのサンプルも液温を20℃に設定して行った。
【0063】
そして、60分静置させた後、それぞれのサンプルの上澄み液の吸光度(波長:600nm)を測定した。その結果を表1及び図2に示す。
【0064】
【表1】

【0065】
pH3〜7に調製したサンプルでは、吸光度が0.1を下回っており、茹で麺廃水に含まれているほとんどの固形成分が凝集、沈降し、上澄み液と固形成分とに分離できていることがわかる。したがって、うどんを茹でた際に生じる茹で麺廃水を処理する場合、茹で麺廃水のpHを3〜7に調製して行うことが効果的であることがわかる。
【実施例2】
【0066】
茹で麺廃水に添加する酵素量を変化させ、固形成分の沈降分離に及ぼす酵素の添加量の影響について検証した。
【0067】
実施例1と同様に、うどんの茹で麺廃水を用意した。この茹で麺廃水のpHは5.3である。茹で麺廃水に水を加えて5倍に希釈した。
【0068】
希釈した茹で麺廃水に6N硫酸及び/又は水酸化ナトリウムを添加し、pH3及び4のサンプルをそれぞれ調製した。
【0069】
それぞれのサンプル10mLを15mL容ポリプロピレン製チューブ120mm×16φ(corning 430790,Corning)に分注した。各サンプルについて、複数準備した。各サンプルにつき、酵素濃度が0,0.1,10,50mg/Lとなるよう、各チューブに酵素を添加し、ボルッテックスミキサーにて、充分に攪拌・混合した。添加した酵素はプロテアーゼM(3000u/mg、(株)天野エンザイム)である。
【0070】
その後静置して、それぞれのサンプルの固形成分を沈降分離させた。なお、いずれのサンプルも液温を20℃に設定して行った。
【0071】
そして、60分静置させた後、それぞれのサンプルの上澄み液の吸光度(波長:600nm)を測定した。その結果を表2及び図3に示す。
【0072】
【表2】

【0073】
酵素濃度が1mg/L以上の場合に、吸光度がおよそ1より小さくなっており、茹で麺廃水に含まれているほとんどの固形成分が凝集、沈降し、上澄み液と固形成分とに分離できたことがわかる。また、酵素濃度が高いほど吸光度が小さくなるものの、酵素濃度50mg/Lを超えると吸光度はほとんど変化しなくなる。したがって、酵素に掛かるコスト面を考えれば、添加する酵素は、茹で麺廃水中において酵素濃度1〜50mg/Lとなるよう添加すれば、効率的であるといえる。
【実施例3】
【0074】
そばを茹でて生じた茹で麺廃水のpHを変化させ、固形成分の沈降分離に及ぼすpHの影響について検証した。
【0075】
まず、市販のそばを茹でて、その際に生じる茹で麺廃水を準備した。そばは2種類、そば粉8割、小麦粉などつなぎ2割である二八そば(イトメン株式会社、兵庫県たつの市)と、そば粉100%である十割そば(日清フーズ株式会社、東京都)を準備し、それぞれについて茹で麺廃水を準備した。二八そばの茹で麺廃水のpHは6.33、十割そばの茹で麺廃水のpHは6.79であった。であった。それぞれの茹で麺廃水に水を加えて5倍に希釈した。
【0076】
それぞれ希釈した茹で麺廃水に6N硫酸及び/又は水酸化ナトリウムを添加し、pH2,3,4,5,6,7,8,9のサンプルをそれぞれ調製した。
【0077】
それぞれのサンプル10mLを15mL容ポリプロピレン製チューブ120mm×16φ(corning 430790,Corning)に分注後、それぞれ10mg/Lの酵素を添加し、ボルッテックスミキサーにて、充分に攪拌・混合した。添加した酵素はプロテアーゼM(3000u/mg、(株)天野エンザイム)である。
【0078】
その後静置して、それぞれのサンプルの固形成分を沈降分離させた。なお、いずれのサンプルも液温を30℃に設定して行った。
【0079】
そして、静置させて1時間後、2時間後、3時間後に、各サンプルの上澄み液の吸光度(波長:600nm)を測定した。二八そばの結果を表3及び図4に示し、十割そばの結果を表4及び図5に示す。
【0080】
【表3】

【0081】
【表4】

【0082】
二八そばの結果を見ると、pH3〜7に調製したサンプルで吸光度が小さく、良好な結果を示している。一方で、十割そばの結果を見ると、pH3〜5に調製したサンプルで吸光度が小さく、pH2、6〜9と大きな差が見られた。これらの結果から、そばを茹でた茹で麺廃水では、pH3〜5に調製して処理することが効率的であることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0083】
澱粉含有食品処理排水の浄化装置は、簡便な構成であるため小型化が可能であり、導入コスト及びランニングコストが低く、また、メンテナンスが容易である。このため、設置場所やコストの制限を受けやすい小規模うどん店等での利用が特に期待される。また本発明は上述したうどん、そばのほか米、小麦等澱粉含有食品の処理水について広く適用することができる。
【符号の説明】
【0084】
1 澱粉含有食品処理排水の浄化装置
10 処理槽
11 茹で麺廃水槽
12 茹で麺廃水供給路
13 冷却水槽
14 冷却水供給路
15 水位センサ
16 温度調節装置
17 温度センサ
18 ヒータ
19 酵素槽
20 酵素供給路
21 酸性溶液槽
22 酸性溶液供給路
23 アルカリ性溶液槽
24 アルカリ性溶液供給路
25 濁度測定装置
26 pH測定装置
27 固形成分排出バルブ
28 固形成分回収容器
29 上澄み液排出路
30 上澄み液排出バルブ
31 攪拌装置
32 攪拌子
33 制御装置
41 上澄み液
42 固形成分
V1〜V5 バルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
澱粉含有食品処理排水が供給される処理槽と、
前記処理槽にアルカリ性溶液を供給するアルカリ性溶液供給手段と、
前記処理槽に酸性溶液を供給する酸性溶液供給手段と、
前記処理槽に供給された澱粉含有食品処理排水のpHを測定するpH測定手段と、
前記処理槽に澱粉成分を凝集させる酵素を供給する酵素供給手段と、
前記pH測定手段からの信号を入力し、前記アルカリ性溶液供給手段及び前記酸性溶液供給手段の駆動を制御する制御手段を備え、
前記酵素の作用により前記澱粉含有食品処理排水中の澱粉を凝集させて沈降させ、上澄み液と固形成分とに分離する澱粉含有食品処理排水の浄化装置であって、
前記制御手段は、前記pH測定手段からの信号に基づいて、pH測定値が澱粉含有食品の種類に対応して予め設定された範囲内にあるか否かを判定し、pH測定値が設定範囲に達しないとき又はこれを超えているとき前記アルカリ性溶液供給手段又は前記酸性溶液供給手段を駆動させて、前記澱粉含有食品処理排水のpHが前記設定範囲内の値となるよう制御する、
ことを特徴とする澱粉含有食品処理排水の浄化装置。
【請求項2】
前記澱粉含有食品処理排水を攪拌する撹拌手段を備え、前記制御手段は、前記酵素供給手段による酵素添加後、所定時間前記撹拌手段を駆動させて前記澱粉含有食品処理排水を撹拌させる、
ことを特徴とする請求項1に記載の澱粉含有食品処理排水の浄化装置。
【請求項3】
前記澱粉含有食品処理排水の濁度を測定する濁度測定手段と、
前記上澄み液及び前記固形成分を前記処理槽から排出する排出手段と、を備え、
前記制御手段は前記上澄み液の濁度に基づいて、前記排出手段を制御して前記上澄み液及び前記固形成分を排出させる、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の澱粉含有食品処理排水の浄化装置。
【請求項4】
冷却水を前記処理槽に供給する冷却水供給手段を備え、
前記制御手段は前記処理槽に冷却水を供給して前記処理槽内の澱粉含有食品処理排水の温度を10〜40℃に調整する、
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の澱粉含有食品処理排水の浄化装置。
【請求項5】
前記制御手段は前記処理槽内に供給された澱粉含有食品処理排水1Lに対し、前記酵素を1〜50mg供給する、
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の澱粉含有食品処理排水の浄化装置。
【請求項6】
うどんを茹でた茹で麺廃水が前記処理槽に供給された場合、前記制御手段は、前記アルカリ性溶液供給手段及び/又は酸性溶液供給手段を駆動させてアルカリ性溶液又は酸性溶液を前記処理槽に供給して、前記処理槽内に供給された茹で麺廃水のpHを3〜7に制御する、
ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の澱粉含有食品処理排水の浄化装置。
【請求項7】
そばを茹でた茹で麺廃水が前記処理槽に供給された場合、前記制御手段は、前記アルカリ性溶液供給手段及び/又は酸性溶液供給手段を駆動させてアルカリ性溶液又は酸性溶液を前記処理槽に供給して、前記処理槽内に供給された茹で麺廃水のpHを3〜5に制御する、
ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の澱粉含有食品処理排水の浄化装置。
【請求項8】
前記処理槽の下部は頂角が60°以下の逆円錐形状である、
ことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一項に記載の澱粉含有食品処理排水の浄化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−45529(P2012−45529A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−192644(P2010−192644)
【出願日】平成22年8月30日(2010.8.30)
【出願人】(305036850)
【Fターム(参考)】