説明

濃度検知装置、および濃度検知方法

【課題】標的物質の濃度を広範囲かつ高精度に検知することが可能な濃度検知装置を提供すること。
【解決手段】磁性体より生じる磁界の強さに対する感度が標的物質の予め定められた複数の異なる濃度に対応付けてそれぞれ設定され、標的物質が磁性体とともに固定されると、磁性体より生じる磁界の強さに応じて状態変化する複数の素子を備え、複数の素子のいずれかが状態変化すると、状態変化した素子と同じ数だけ信号を出力する磁気センサと、信号を検知し、検知した信号の数に基づいて濃度を特定する濃度演算部と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気センサを利用して標的物質の濃度を検知する濃度検知装置、および濃度検知方法に関する。
【背景技術】
【0002】
献血や輸血の際に行われる血液検査では、安全性の高い血液をタイミングよく輸血に使用するために、血液に含まれる種々の成分の濃度を早期に検出することが求められている。
【0003】
血液検査の主な検査項目には、血液型検査や、ウイルス検査などがある。
【0004】
血液型検査は、高濃度な成分を検出する血液検査である。血液型検査には、例えば、ABO血液型検査、Rh血液型検査、および輸血時の副作用の原因となる抗体の有無について検査する不規則抗体スクリーニング検査などがある。
【0005】
ウイルス検査は、低濃度な成分を検出する血液検査である。ウイルス検査には、例えば、梅毒抗体検査、B型肝炎ウイルス検査(HBs抗原検査、HBc抗体検査)、C型肝炎ウイルス検査、エイズウイルス検査(HIV−1、HIV−2抗体検査)、ATL検査、およびALT(GPT)検査などがある。
【0006】
ウイルス検査では、ウイルスに感染して間もないときに感染しているか否か検査できない空白期間(ウインドウピリオド)がある。例えば、HIV抗体の空白期間は、一般的に6〜38日(平均22日)とされている。そのため、この期間に献血された血液の検査では、HIV抗体の濃度が低すぎてHIV抗体を検出できない場合が多い。
【0007】
遺伝子検査の分野では、NAT(Nucleic Acid Amplification Test)法と呼ばれる核酸増幅検査方法により、空白期間が幾分短縮されている。核酸増幅検査方法では、ウイルスを構成する核酸(DNAまたはRNA)を抽出して増やし、増えた核酸を検出することによって空白期間の短縮を可能としている。
【0008】
しかし、核酸増幅検査を行う場合、核酸を増幅させてから検出するまでに5〜6時間が必要であり、また、検査工場が限定された場所にしかない。そのため、検査を行うと多くの時間および費用が発生することになる。
【0009】
また、抗原抗体反応における有効な増幅方法は見つかっておらず、感度の高い検査方法が切望されている。これに対し、標的物質(例えば、抗原やDNA)の検出を高感度に行うことを目的とした方法が提案されており、非特許文献1や非特許文献2に開示されている。
【0010】
非特許文献1や非特許文献2には、磁気抵抗効果素子と磁気ビーズとの磁気的な結合を利用して標的物質を検出する方法が開示されている。なお、磁気抵抗効果素子は、外部磁界の強さおよび向きに応じて抵抗値が変化する素子である。また、磁気ビーズは、磁性体の一つである。
【0011】
図8は、磁気抵抗効果素子の構造の一例を示す図である。
【0012】
図8に示す磁気抵抗効果素子100は、磁性層であるフリー層101とピン層102との間に非磁性層103を挟む3層構造を基本構造とする。
【0013】
磁気抵抗効果素子100では、フリー層101の磁化方向が外部磁界の強さおよび向きに応じて反転可能とされている。そして、磁気抵抗効果素子100は、フリー層101とピン層102の磁化方向が平行になると、抵抗値が小さくなる。磁化方向が反平行になると、抵抗値が大きくなる。
【0014】
図9は、磁気抵抗効果素子および磁気ビーズを用いた標的物質の検出方法を説明するための説明図である。
【0015】
図9に示す磁気ビーズ111には、標的物質113と特異的に結合する生体分子112が固定される。
【0016】
また、磁気抵抗効果素子100のフリー層101の上には、固定化層115が形成される。そして、固定化層115には、標的物質113と特異的に結合する生体分子114が固定される。
【0017】
磁気抵抗効果素子100と磁気ビーズ111とを用いて標的物質113を検出する場合、まず、磁気抵抗効果素子100を流路内に配置し、標的物質113が含まれた検体をその流路に流す。すると、標的物質113と生体分子114とが結合する。
【0018】
続いて、磁気ビーズ111を磁気抵抗効果素子100が配置された流路に流す。すると、標的物質113と生体分子112とが結合する。これにより、標的物質113が、磁気ビーズ111とともに磁気抵抗効果素子100に固定される。
【0019】
磁気抵抗効果素子100に固定された磁気ビーズ111から生じる磁界(漏れ磁界)の強さが所定の値よりも大きいと、フリー層101の磁化方向が反転し、磁気抵抗効果素子100の抵抗値が変化する。この変化に対応して出力される信号を検知することにより、標的物質113が検出されることとなる。
【0020】
漏れ磁界の強さは、磁気ビーズ111の数が多いほど大きくなり、少ないほど小さくなる。また、磁気抵抗素子100に固定される磁気ビーズ111の数と標的物質113の数は、同じである。これにより、上記の所定の値を標的物質113の数に対応付けて設定すると、検体中の標的物質113の濃度を検知することが可能となる。この場合、所定の値に対応する標的物質113の数が少ないほど、標的物質113の検出をより高感度に行うことが可能となる。
【非特許文献1】Journal of Biotechnology、 Volume 112、 Issues 1‐2、 26 August 2004、 Pages 25‐33
【非特許文献2】Kluwer Academic Pbulishers Boston 、2001、pp444−446
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
血液検査において、抗原の濃度を検査する際にその抗原を高感度に検出するように設定された磁気抵抗効果素子を用いると、その抗原が血液中に高濃度に含まれている場合には、測定結果が正確性に欠けることが考えられる。
【0022】
検査対象となる抗原の濃度が高い場合には、抽出液を分注して希釈した後、免疫分析を行う方法がある。しかし、分注および希釈作業は煩雑であり、特に、多数の検体を処理しなければならない場合には作業効率が分注および希釈作業により大幅に落ちることが考えられる。また、分注および希釈作業時のミスや希釈倍率の誤差により正確な測定結果を得られない可能性がある。
【0023】
本発明の目的は、上述したような問題を解決し、標的物質の濃度を広範囲かつ高精度に検知することが可能な濃度検知装置、および濃度検知方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明は、
標的物質とともに固定されたときに、該標的物質の濃度に応じた強さの磁界を発生する磁性体と、
複数の素子を備え、前記標的物質が前記磁性体とともに前記複数の素子に固定されると、該磁性体より生じる磁界の強さに応じて、前記複数の素子の状態変化する数が変化し、状態変化した素子に応じた信号を出力する磁気センサと、
前記信号を検知し、検知した信号の数に基づいて前記濃度を特定する濃度演算部と、
を有することを特徴とする濃度検知装置である。
【0025】
前記複数の素子は、前記磁性体より生じる磁界の強さが所定の値よりも大きなときに磁化方向が乱され、前記所定の値が素子毎に前記濃度に対応付けて設定された磁性層を備え、前記磁性層の磁化方向が乱されると抵抗値が変化する複数の磁気抵抗効果素子であってもよい。
【0026】
また、前記複数の素子は、前記磁性体より生じる磁界の強さが所定の値よりも大きなときに磁化方向が乱される磁性層を備え、前記標的物質が前記磁性体とともに固定されたときの該磁性体から前記磁性層までの距離が素子毎に前記濃度に対応付けて設定され、前記磁性層の磁化方向が乱されると抵抗値が変化する複数の磁気抵抗効果素子であってもよい。
【0027】
また、別の本発明は、
標的物質とともに固定されたときに、該標的物質の濃度に応じた強さの磁界を発生する磁性体と、該磁性体より生じる磁界の強さに応じて状態変化する数が変化する複数の素子と、を用いる濃度検知方法であって、
標的物質が前記磁性体とともに前記複数の素子に固定されると、状態変化した素子に応じた信号を出力し、
前記信号を検知し、検知した信号の数に基づいて前記濃度を特定する、
ことを特徴とする濃度検知方法である。
【0028】
また、前記標的物質が前記磁性体とともに前記複数の素子に固定される際に前記濃度の低い素子から先に固定される、ことが望ましい。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、磁性体より生じる磁界の強さに応じて状態変化する数が異なる複数の素子を磁気センサに備えることによって標的物質の濃度を区分けしている。
【0030】
標的物質が磁性体とともに複数の素子にそれぞれ固定されると、各素子がその磁性体より生じる磁界の強さで状態変化するか否かにより標的物質の濃度検知が行われるが、このとき、各素子は対応する濃度がそれぞれ異なる。これにより、標的物質の濃度を広範囲かつ高精度に検知することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
本発明による濃度検知装置について、図面を参照しながら説明する。
【0032】
(実施例1)
図1は、本実施例の濃度検知装置の構成を示すブロック図である。
【0033】
本実施例の濃度検知装置は、図1に示すように、磁気センサ1と、濃度演算部2とを有する。
【0034】
磁気センサ1は、磁気抵抗効果素子11〜13と、コンパレータ14〜16とを有する。
【0035】
図2および図3は、磁気抵抗効果素子11〜13を説明するための図である。
【0036】
磁気抵抗効果素子11は、シリコン基板(不図示)上に、反強磁性層21、磁性層であるピン層22、絶縁障壁層23、磁性層であるフリー層24、および固定化層25を順次積層した構造である。
【0037】
磁気抵抗効果素子2および3は、磁気抵抗効果素子1と同様の構造であるが図3に示すように保磁力が異なる。なお、ここでいう保磁力とは、フリー層の磁化方向を反転させる(ピン層の磁化方向と平行にする)ために必要な磁界の強さのことである。
【0038】
各磁気抵抗効果素子の保磁力は、予め定められた濃度範囲に対応させてそれぞれ設定される。本実施例では、磁気抵抗効果素子11の保磁力は1μg/mlから1mg/mlまでの濃度範囲に対応するように設定される。磁気抵抗効果素子12の保磁力は、1ng/mlから1μg/mlに対応するように設定される。磁気抵抗効果素子13の保磁力は、1pg/mlから1ng/mlに対応するように設定される。
【0039】
フリー層は、Ni、Fe、およびCoの少なくとも一つを主成分として形成するか、またはCoFeを主成分とするアモルファス合金として形成することが望ましい。具体的には、NiFe、NiFeCo、Fe、FeCo、Co、およびCoFeBなどが望ましい。
【0040】
磁気抵抗効果素子毎に異なる保磁力を設定するためには、例えば、磁気抵抗効果素子において、保磁力が異なり、フリー層と磁気的に交換結合可能な磁性層をフリー層と絶縁障壁層との間に形成すればよい。または、磁気抵抗効果素子毎に異なる温度でフリー層を成膜すればよい。または、フリー層にNiが含まれている場合は、磁気抵抗効果素子毎にNiの含有量を変えればよい。なお、いずれの方法においても、Ptを添加元素として加えると、保磁力の設定とともに、耐食性を向上させることが可能となる。
【0041】
なお、本実施例では、反強磁性層21は膜厚を8nmとするIrMn合金で形成される。ピン層22は、膜厚を2nmとするCoFe合金で形成される。絶縁障壁層33は、膜厚を1nmとするAlを10Torrの酸素雰囲気中で20分間自然酸化させて形成される。フリー層24は、膜厚を5nmとするCoFe合金で形成される。固定化層25は、膜厚を5nmとするAuで形成される。
【0042】
磁気抵抗効果素子11〜13は、RF(高周波)スパッタリング工程により各層が形成され、フォトリソグラフィー工程およびイオンミリング工程によりパターンが生成される。
【0043】
また、磁気抵抗効果素子11および12は、図1に示すように、絶縁層26により分離される。磁気抵抗効果素子12および13は、絶縁層27により分離される。本実施例では、絶縁層26および27は、膜厚を50nmとするSiO2で形成される。
【0044】
磁気抵抗効果素子11〜13それぞれの固定化層には、標的物質である抗原33と特異的に結合する一次抗体34が、固定される。一次抗体34を固定するためには、例えば、自己組織化単分子膜を用いればよい。
【0045】
自己組織化単分子膜を用いる場合、まず、磁気抵抗効果素子11〜13のそれぞれを水酸化ナトリウム水溶液に5分間浸漬して固定化層表面のAuを洗浄した後、さらに純水で洗浄する。
【0046】
次に、磁気抵抗効果素子11〜13のそれぞれを、末端基に一次抗体34が結合された自己組織化単分子膜を含むエタノール溶液に24時間浸漬する。その後、磁気抵抗効果素子11〜13のそれぞれを純水で洗浄し、エタノール中で5分間超音波処理して、磁気抵抗効果素子11〜13に物理吸着した自己組織化単分子膜を取り除く。そして、磁気抵抗効果素子11〜13のそれぞれを再び純水で洗浄した後、乾燥する。
【0047】
このようにして、一次抗体34が磁気抵抗効果素子11〜13それぞれの固定化層に固定される。このとき、一次抗体34は固定化層にのみ固定し、SiO2には固定しない。
【0048】
なお、固定化層は、Au以外にPt、Ag、およびCuのいずれかにより形成されることにしてもよい。
【0049】
また、濃度を区分けする数、すなわち磁気抵抗効果素子の数は、特に限定されるものではなく、濃度検知の際に必要とされる濃度の範囲および精度に応じて適宜決められる。
【0050】
磁気ビーズ31は磁性体の一つである。また、磁気ビーズ31には、抗原33と特異的に結合する二次抗体32が固定される。
【0051】
本実施例では、磁気ビーズ31に対してγ−アミノプロピルトリエトキシシラン、グルタルアルデヒドを順次添加する処理が行われた後、二次抗体32は共有結合により磁気ビーズ31へ固定される。
【0052】
コンパレータ14は、入力端子の一方に磁気抵抗効果素子11が接続される。このとき、磁気抵抗効果素子11は、自身の抵抗値の変化によりコンパレータ14の信号出力が変化するように接続される。
【0053】
コンパレータ15および16も、コンパレータ14と同様にして磁気抵抗効果素子12および13がそれぞれ接続される。
【0054】
濃度演算部2は、各コンパレータから出力される感知信号を個別に検知し、検知した感知信号の数に応じて濃度を特定する。なお、感知信号とは、磁気抵抗効果素子にて磁気ビーズ31の固定によりフリー層の磁化方向が乱されたときに、その磁気抵抗効果素子に対応するコンパレータから出力される信号のことである。
【0055】
次に、本実施例の濃度検知装置による抗原33の濃度検知方法について説明する。
【0056】
図4は、本実施例の濃度検知装置による濃度検知方法を説明するための模式図である。
【0057】
まず、図4に示すように、磁気抵抗効果素子11〜13を流路200に配置する。そして、抗原33を含む水溶液をその流路200に流す。すると、磁気抵抗効果素子11〜13の固定化層にそれぞれ固定された一次抗体34と抗原33とが、抗原抗体反応により結合する。
【0058】
続いて、二次抗体32が固定された磁気ビーズ31を含む水溶液を流路200に流す。すると、一次抗体34に結合した抗原33と二次抗体32とが、抗原抗体反応により結合する。すなわち、磁気ビーズ31が磁気抵抗効果素子11〜13のそれぞれに固定される。このとき、水溶液には、一次抗体34に結合した抗原33の全てが二次抗体32と結合するのに充分な量の磁気ビーズ31が含まれている。
【0059】
なお、磁気抵抗効果素子11〜13の流路200への配置について、図4に示すように、磁気抵抗効果素子を設定濃度が低い順に流路200の上流側に配置することが望ましい。
【0060】
磁気抵抗効果素子が設定濃度の低い順に上流側に配置されると、標的物質を含む水溶液を流路200に流したときに、設定濃度の低い磁気抵抗効果素子から先に磁気ビーズ31が固定されることになる。これにより、抗原33の濃度が低い場合に、磁気ビーズ31が設定濃度の高い磁気抵抗効果素子に数多く固定して濃度が誤検知されるのを防ぐことが可能となる。すなわち、低濃度の検知を高精度に行うことが可能となる。
【0061】
次に、抗原33が磁気ビーズ31とともに磁気抵抗効果素子11〜13に対して固定された後、本実施例の濃度検知装置において行われる動作について説明する。
【0062】
図5は、本実施例の濃度検知装置の動作手順を示すフローチャートである。
【0063】
磁気抵抗効果素子11〜13のそれぞれにおいて、抗原33とともに固定された磁気ビーズ31の漏れ磁界の強さが、設定された保磁力よりも大きいと、フリー層の磁化方向が乱される(ステップS1)。
【0064】
ステップS1の動作において、例えば、抗原33の濃度が10mg/mlの場合には、磁気抵抗効果素子11〜13でフリー層の磁化方向が乱される。また、抗原33の濃度が10ng/mlの場合には、磁気抵抗効果素子12および13のみでフリー層の磁化方向が乱される。また、抗原33の濃度が10pg/mlの場合には、磁気抵抗効果素子13のみでフリー層が乱される。
【0065】
磁気抵抗効果素子においてフリー層の磁化方向が乱されると、その磁気抵抗効果素子の抵抗値が変化する。すると、その磁気抵抗効果素子に対応するコンパレータが、感知信号を出力する(ステップS2)。
【0066】
ステップS2の動作において、例えば、抗原33の濃度が10mg/mlの場合には、コンパレータ14〜16から感知信号がそれぞれ出力される。また、抗原33の濃度が10ng/mlの場合には、コンパレータ15および16から感知信号が出力される。また、抗原33の濃度が10pg/mlの場合には、コンパレータ16から感知信号が出力される。
【0067】
コンパレータから出力された感知信号は、濃度演算部2により個別に検知される(ステップS3)。そして、濃度演算部2は、検知した感知信号の数に応じて濃度を特定する。(ステップS4)。
【0068】
ステップS4の動作において、検知した感知信号の数が複数の場合、濃度演算部2は、フリー層が反転した磁気抵抗効果素子に対してそれぞれ設定されている濃度の中で最も高い濃度を特定する。
【0069】
本実施例の濃度測定装置では、コンパレータ14〜16の全てが感知信号を出力した場合(検知した感知信号の数が3つの場合)、濃度演算部2が特定する濃度は、磁気抵抗効果素子11に対して設定されている濃度となる。また、コンパレータ15および16が感知信号を出力した場合(検知した感知信号の数が2つの場合)、濃度演算部2が特定する濃度は、磁気抵抗効果素子12に対して設定されている濃度となる。
【0070】
本実施例では、磁気抵抗効果素子11〜13の保磁力をそれぞれ調整することにより、抗原33の濃度を区分けしている。
【0071】
磁気抵抗効果素子11〜13は、抗原33が磁気ビーズ31とともに固定されると、磁気ビーズ31より生じる磁界の強さが調整された保磁力よりも大きな場合に抵抗値が変化する。このとき、磁気抵抗効果素子11〜13が対応する濃度は、それぞれ異なる。これにより、抗原33の濃度を広範囲かつ高精度に検知することが可能となる。
【0072】
(実施例2)
本実施例の濃度検知装置は、複数の磁気抵抗効果素子に対し、磁気ビーズからフリー層までの距離を、設定濃度に対応させてそれぞれ調整した装置である。なお、磁気抵抗効果素子以外の構成については、実施例1の濃度検知装置と同じである。
【0073】
図6は、磁気ビーズ31より生じる漏れ磁界の強さの分布の一例を示す図である。
【0074】
磁気ビーズ31より生じる漏れ磁界の強さは、磁気ビーズ31の中心からの距離が長いほど小さくなる。したがって、例えば、図6に示す漏れ磁界61〜63の強さをそれぞれH1、H2、およびH3とすると、漏れ磁界の強さは、H1>H2>H3という関係になる。
【0075】
図7は、本実施例の磁気抵抗効果素子を説明するための説明図である。
【0076】
図7に示す磁気抵抗効果素子71〜73は、実施例1で説明した磁気抵抗効果素子11〜13にそれぞれ相当し、固定化層とフリー層との間に膜厚がそれぞれ異なるスペーサ層81〜83がそれぞれ形成される。
【0077】
スペーサ層81〜83の膜厚は、各磁気抵抗効果素子が対応する抗原33の濃度に応じて設定される。磁気抵抗効果素子は、スペーサ層の膜厚が厚くなるほど磁気ビーズ31からフリー層までの距離が長くなり、フリー層の磁化方向を反転させるために多数の磁気ビーズ31の結合を必要とする。これにより、設定濃度が高い磁気抵抗効果素子ほど、スペーサ層の膜厚が厚くなる。
【0078】
次に、本実施例の濃度検知装置による抗原33の濃度検知方法について説明する。
【0079】
磁気抵抗効果素子71〜73を流路200に配置してから二次抗体32が固定された磁気ビーズ31を含む水溶液を流路200に流すまでの手順については、実施例1で説明した内容と同じである。なお、磁気抵抗効果素子71〜73の流路200への配置については、実施例1で説明したように設定濃度の低い順に磁気抵抗効果素子を上流側に配置することが望ましい。
【0080】
また、本実施例の濃度検知装置は、抗原33が磁気ビーズ31とともに磁気抵抗効果素子71〜73に固定された後に行われる動作は、実施例1で説明した内容と同じである。
【0081】
本実施例では、磁気抵抗効果素子71〜73において、磁気ビーズ31が固定されたときの磁気ビーズ31からフリー層までの距離をそれぞれ調整することにより、抗原33の濃度を区分けしている。
【0082】
磁気抵抗効果素子71〜73は、抗原33が磁気ビーズ31とともに固定されると、磁気ビーズ31より生じる磁界の強さに応じて抵抗値が変化する。このとき、磁気抵抗効果素子71〜73のフリー層では、磁気ビーズ31より生じる磁界の強さがそれぞれ異なる。これにより、実施例1と同様に抗原33の濃度を広範囲かつ高精度に検知することが可能となる。
【0083】
なお、スペーサ層81〜83は、固定化層と同じ材料で形成されることが望ましい。
【0084】
また、磁気抵抗効果素子71〜73において、スペーサ層を形成する代わりに、設定濃度に対応させて固定化層の膜厚を調整することにしてもよい。この場合にも、磁気ビーズ31からフリー層までの距離を調整できるため、スペーサ層を形成する場合と同様に抗原33の濃度を広範囲かつ高精度に測定することが可能となる。
【0085】
なお、本実施例では、磁気センサ1は、磁気抵抗効果素子を含む構成に限定されるものでなく、磁気ビーズ31までの距離に応じて漏れ磁界の強さに対する感度を調整できるものであればよい。例えば、ホールセンサ、SQUID(Superconducting QUantum Interference Device)センサ、または磁気インピーダンスセンサを用いることとしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】実施例1の濃度検知装置の構成を示すブロック図である
【図2】実施例1の磁気抵抗効果素子を説明するための図である。
【図3】実施例1の磁気抵抗効果素子を説明するための図である。
【図4】実施例1の濃度検知装置を用いた濃度検知方法を説明するための模式図である。
【図5】実施例1の濃度検知装置の動作手順を示すフローチャートである。
【図6】本発明で使用する磁気ビーズより生じる漏れ磁界の強さの分布の一例を示す図である。
【図7】実施例2の磁気抵抗効果素子を説明するための図である。
【図8】磁気抵抗効果素子の構造の一例を示す図である。
【図9】磁気抵抗効果素子および磁気ビーズを用いた標的物質の検出方法を説明するための説明図である。
【符号の説明】
【0087】
1 磁気センサ
2 濃度演算部
11〜13、71〜73 磁気抵抗効果素子
21 反強磁性層
22、102 ピン層
23 絶縁障壁層
24、101 フリー層
25、115 固定化層
26、27 絶縁層
31、111 磁気ビーズ
32 二次抗体
33 抗原
34 一次抗体
81〜83 スペーサ層
103 非磁性層
112 生体分子
113 標的物質
114 生体分子
200 流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的物質とともに固定されたときに、該標的物質の濃度に応じた強さの磁界を発生する磁性体と、
複数の素子を備え、前記標的物質が前記磁性体とともに前記複数の素子に固定されると、該磁性体より生じる磁界の強さに応じて、前記複数の素子の状態変化する数が変化し、状態変化した素子に応じた信号を出力する磁気センサと、
前記信号を検知し、検知した信号の数に基づいて前記濃度を特定する濃度演算部と、
を有することを特徴とする濃度検知装置。
【請求項2】
請求項1に記載の濃度検知装置において、
前記複数の素子は、前記磁性体より生じる磁界の強さが所定の値よりも大きなときに磁化方向が乱され、前記所定の値が素子毎に前記濃度に対応付けて設定された磁性層を備え、前記磁性層の磁化方向が乱されると抵抗値が変化する複数の磁気抵抗効果素子であることを特徴とする濃度検知装置。
【請求項3】
請求項1に記載の濃度検知装置において、
前記複数の素子は、前記磁性体より生じる磁界の強さが所定の値よりも大きなときに磁化方向が乱される磁性層を備え、前記標的物質が前記磁性体とともに固定されたときの該磁性体から前記磁性層までの距離が素子毎に前記濃度に対応付けて設定され、前記磁性層の磁化方向が乱されると抵抗値が変化する複数の磁気抵抗効果素子であることを特徴とする濃度検知装置。
【請求項4】
標的物質とともに固定されたときに、該標的物質の濃度に応じた強さの磁界を発生する磁性体と、該磁性体より生じる磁界の強さに応じて状態変化する数が変化する複数の素子と、を用いる濃度検知方法であって、
標的物質が前記磁性体とともに前記複数の素子に固定されると、状態変化した素子に応じた信号を出力し、
前記信号を検知し、検知した信号の数に基づいて前記濃度を特定する、
ことを特徴とする濃度検知方法。
【請求項5】
請求項4に記載の濃度検知方法において、
前記標的物質が前記磁性体とともに前記複数の素子に固定される際に前記濃度の低い素子から先に固定される、ことを特徴とする濃度検知方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−121922(P2009−121922A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−295689(P2007−295689)
【出願日】平成19年11月14日(2007.11.14)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】