説明

濃度測定装置

【課題】劇物を含む溶媒を用いることなく、試料から複数の微量成分を収率よく抽出し、各成分の濃度を測定するための手段を提供する。
【解決手段】少なくとも、炭素数7もしくは8の分岐飽和炭化水素(i)と、炭素数2も
しくは3のアルコール(ii)と、炭素数2もしくは3の有機酸またはそれらのエステル(iii)とを含む溶媒を、微量成分の抽出用および分離溶出用の溶媒として用い、所定の前処理手段1(a)、分離手段2(b)、サンプリング手段3(c)、展開・染色手段4(d)、分析手段5(e)および洗浄手段6(f)を備えることを特徴とする、微量成分の濃度測定装置。このような濃度測定装置は、たとえば、唾液等の生体試料に含まれるコレステロール等の脂質の分析に用いる上で好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料中の複数の微量成分の濃度を測定する手段(装置)に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、生体試料からコレステロール等の中性脂質を抽出する方法として、クロロホルムとメタノールと水の混合溶媒を用いる方法(Bligh-Dyer法)が広く知られている。しかし、この方法で用いられるクロロホルムおよびメタノールは劇物に指定されているため、医療機関、研究機関以外では使用しにくい面があり、一般家庭等でも中性脂質等の測定を可能とする手法が求められていた。
【0003】
本発明者は、広幅の試料載置部と、この試料載置部よりも狭幅に形成された展開部とを有する疎水性多孔質膜(ポリフッ化ビニリデン等)を用いて、微量成分(コレステロール等)を染料(ナイルブルー等)で染色することにより、高感度で微量成分の濃度を測定する方法に関する発明をすでに提案している(特許文献1:特開2005−274545号公報参照)。しかしこの発明では、コレステロールと、コレステロールエステルやトリグリセリド等のその他の中性脂質とを分離する方法は具体的に開示されておらず(実施例では、唾液を試料とし、2−プロパノール/アセトニトリル混合溶媒を使用して展開しているが、得られた染色バンドは1本のみである。)、これら複数の微量成分のそれぞれについて、高感度で濃度を測定する方法は知られていなかった。
【特許文献1】特開2005−274545号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、劇物を含む溶媒を用いることなく、試料から複数の微量成分を収率よく抽出し、各成分の濃度を測定するための手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、所定の分岐飽和炭化水素、アルコールおよび有機酸若しくはそのエステルを含有する混合溶媒(たとえばエタノール、イソオクタンおよびプロピオン酸エチルからなる混合溶媒)を用いることにより、唾液等の生体試料から複数の微量成分(たとえばコレステロール、コレステロールエステル、トリグリセリド等を含む中性脂質)を収率よく抽出することができ、キャピラリークロマトグラフィーと組み合わせることにより、それらを高精度で分離し、各成分の濃度を測定できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0006】
すなわち、本発明は、試料中の複数の微量成分の濃度を測定する装置であって、少なくとも、炭素数7もしくは8の分岐飽和炭化水素(i)と、炭素数2もしくは3のアルコー
ル(ii)と、炭素数2もしくは3の有機酸またはそれらのエステル(iii)とを含む溶媒
を、微量成分の抽出用および分離溶出用の溶媒として用い、(a)試料中の微量成分を抽出用溶媒で抽出する前処理手段、(b)分離溶出用溶媒を用いたキャピラリー液体クロマトグラフィーにより複数の微量成分を分離溶出する分離手段、(c)分離溶出液を一定時間毎に展開用薄膜上に一定間隔にて直線上にスポットし乾燥するサンプリング手段、(d)スポットした試料成分を展開用溶媒により展開し染色する展開・染色手段、(e)展開染色されたスポット位置および面積から微量成分を同定し定量する分析手段、および(f)上記(b)および(c)による工程の後に、上記(a)による微量成分の抽出に用いられた部位と、上記(b)による微量成分の分離溶出に用いられた部位とを洗浄する洗浄手段を備えることを特徴とする、微量成分の濃度測定装置を提供する。
【0007】
また、前記複数の微量成分は、コレステロール、コレステロールエステルおよびトリグリセリドからなる群より選ばれる2種以上の脂質を含むものであることが好ましい。前記展開用溶媒は、微量成分の染料としてナイルブルーを含有するものであることが好ましい。前記展開用溶媒として、前述した、少なくとも、炭素数7もしくは8の分岐飽和炭化水素(i)と、炭素数2もしくは3のアルコール(ii)と、炭素数2もしくは3の有機酸またはそれらのエステル(iii)とを含む溶媒を用いてもよい。前記試料は、生体に由来する物質であることが好ましい。
【0008】
前記展開用薄層は、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステルおよびナイロンからなる群より選ばれる少なくとも1種の疎水性樹脂を用いて形成された疎水性多孔質膜であることが好ましい。前記サンプリング手段によるスポット方向と、前記展開・染色手段による展開方向は垂直関係にあり、前記疎水性多孔質膜は展開方向に狭幅な形状を有するものであることが好ましい。前記前処理手段は、溶出用溶媒と試料とをミキシングする機能、あるいは、プレカラムフィルターによりコンタミネーションを除去する機能をさらに有することが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、劇物を含有せず危険性の低い溶媒を用いて試料中の微量成分の濃度を測定することが可能となる。たとえば、小型化・自動化された家庭用唾液脂質分析装置として開発することにより、家庭等で簡便に生体試料中のコレステロール等の濃度の測定(高コレステロール血症、高トリグリセリド血症等の検査)を行えるようになることが期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
・分析対象物
本発明では、試料中に含まれる所定の複数の微量成分を定量分析の対象とすることができる。試料は、一般的には液状物であるが、本発明で用いる抽出用溶媒によりその中に含まれる微量成分を抽出できるものであれば特に限定されるものではない。特に、本発明は、動植物等の生体に由来する試料(生体試料)を用いて、その中に含まれる微量成分の濃度を測定するために応用することが好適である。
【0011】
たとえば、ヒトから採取した唾液、尿、血清のHDL(高密度リポタンパク質)などを試料として、その中に含まれるコレステロール、コレステロールエステル(ステアリン酸コレステロール等)、トリグリセリド(オレイン酸トリグリセリド等)などの中性脂質の濃度を測定することは、本発明の典型的な態様の一つである。
【0012】
なお、本発明において「微量成分」とは、試料中に概ね100mg/dL以下の濃度で含まれている成分をいう。たとえば、コレステロールは、唾液中に1mg/dL以下、尿中に5mg/dL以下、血清のHDL画分中に50mg/dL以下の濃度で含まれている、代表的な「微量成分」である。本発明によれば、たとえば数十μL程度の唾液であっても、そこに含まれるコレステロール等の微量成分の濃度を測定することが可能である。また、本発明は、このような低濃度の成分の定量に適した構成となっているが、必要に応じて、上記濃度を超える成分もあわせて測定できるよう、適宜構成を変更することも可能である。
【0013】
・混合溶媒
本発明では、微量成分の抽出用および分離溶出用の溶媒として、少なくとも、炭素数7もしくは8の分岐飽和炭化水素(i)と、炭素数2もしくは3のアルコール(ii)と、炭
素数2もしくは3の有機酸あるいはそれらのエステル(iii)とを含む混合溶媒を用いる
ことを特徴とする。このような混合溶媒を用いることは、試料から所定の微量成分、特にコレステロール、コレステロールエステル、トリグリセリド等の中性脂質を高収率で抽出することを可能とし、あわせて、キャピラリークロマトグラフィーにより、これら複数の微量成分を分離溶出する上でも効果的である。
【0014】
混合溶媒の成分(i)〜(iii)の化合物の種類および配合割合は、目的とする微量成分に応じて調整することができるが、本発明の一実施形態として、コレステロール等を主成分として含む脂質を分析の対象とする場合、抽出用溶媒および分離溶出用溶媒の好ましい態様は、それぞれ以下のようなものである。
【0015】
抽出用溶媒における上記成分(i)〜(iii)の配合割合は、(i):(ii):(iii)=(0.2〜1):(0.5〜1):(0.5〜1)の範囲であることが好ましく、特に、エタノール:プロピオン酸エチル:イソオクタン=(0.4〜0.8):(0.8〜1):(0.8〜1)の混合溶媒とすることが好ましい。
【0016】
分離溶出用溶媒における上記成分(i)〜(iii)の配合割合は、(i):(ii):(iii)=(0.5〜3):(0.05〜0.5):(0.5〜2)の範囲であることが好ましく、特に、エタノール:酢酸:イソオクタン=(1.0〜2):(0.05〜0.2):(0.8〜1.5)の混合溶媒とすることが好ましい。
【0017】
本発明では、さらに展開用溶媒として、上記抽出用および分離溶出用溶媒と同様、少なくとも、炭素数7もしくは8の分岐飽和炭化水素(i)と、炭素数2もしくは3のアルコ
ール(ii)と、炭素数2もしくは3の有機酸あるいはそれらのエステル(iii)とを含む
混合溶媒を用いることもできる。また、このような溶媒以外にも、たとえばエタノール溶媒や、ジエチルエーテル/ヘキサン/酢酸混合溶媒等、公知の展開用溶媒を用いて展開することもできる。
【0018】
本発明では、通常は抽出用および分離溶出用ごとに、上記成分(i)〜(iii)の配合組成が微調整された混合溶媒を使い分けるが、条件が適合すれば、それらの成分を所定の割合で含む単一の混合溶媒を共通の溶媒として使用することも可能である。その他、微量成分の抽出効率をより高めるために、あるいは抽出効率を妨げない範囲で、混合溶媒に上記成分(i)〜(iii)以外の成分をさらに配合することもできる。
【0019】
なお、抽出用溶媒については、予め調製した上記成分(i)〜(iii)すべてを含む混合溶媒を使用してもよく、また、抽出処理において一または複数の成分を順次添加していき、最終的に所定の配合組成を有する混合溶媒となるようにしてもよい。
【0020】
・展開用薄層
本発明では、微量成分の展開用薄層として、一般的な薄層クロマトグラフィー(TLC)で用いられているシリカゲルやアルミナ等からなる薄層など、公知の展開用薄層を用いることができるが、特に、疎水性樹脂を用いて形成された多孔質の膜体であって、所定の溶媒を用いたときに毛細管作用により生体試料中の微量成分を展開可能な細孔が形成されている「疎水性多孔質膜」は、本発明における展開用薄層として好適である。なお、このような疎水性多孔質膜について、本発明者は特開2005−274545(前記特許文献1)によりすでに開示している。
【0021】
上記疎水性樹脂としては、たとえば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル(PET等)およびナイロンが挙げられ、これらの疎水性樹脂は、1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0022】
本発明の一実施形態として、コレステロール等を主成分として含む脂質を分析の対象とする場合、疎水性樹脂としては、ポリフッ化ビニリデンまたはポリテトラフルオロエチレンを使用することが好ましい。この場合、染料としては後述するように水性のナイルブルーを用いることが好適であるが、これらの疎水性樹脂は、浸漬後に極性溶媒で洗浄することによりこの染料を十分に除去することができる。
【0023】
・濃度測定装置
本発明の微量成分の濃度測定装置は、図1に見られるように、(a)前処理手段1、(b)分離手段2、(c)サンプリング手段3、(d)展開・染色手段4、(e)分析手段5および(f)洗浄手段6を備え、必要に応じて分析のために有用なその他の手段等を備えていてもよい。
【0024】
この濃度測定装置において、所定の部位から装置内に投入された試料は、ポンプ11等を用いて流路内を送液され、前処理手段1(a)により抽出が行われる抽出部13に供給される。一方、抽出用混合溶媒もポンプ、分岐バルブ12等を用いて流路内を送液され、同じく抽出部13に供給される。その他、分離溶出用溶媒や洗浄液などの液体も、ポンプ11等により所定の部位まで流路内を送液される。
【0025】
・(a)前処理手段
前処理手段1(a)は、抽出部13において、試料中から分析の対象とする微量成分を抽出用溶媒で抽出する工程を行うためのものである。
【0026】
上記抽出部13は、分析の対象とする試料に応じて、溶出溶媒と試料とをミキシングする機能など、効率的に微量成分を抽出するための機能を備えていることが望ましい。たとえば、唾液等の生体試料は比較的粘度の高い液体であるため、抽出部の空間を隔てるようなメッシュ21を設け、試料送液用のポンプ11とミキシング用のポンプ11とを用いて、生体試料をメッシュ21の両側を往復移動させながら抽出処理を行うようにすれば、生体試料中の微量成分をより効率的に抽出することが可能となる(図2参照)。
【0027】
また、この前処理手段1(a)は、必要に応じて、生体試料等に含まれるコンタミネーション(夾雑物)を除去する機能をさらに有していてもよい。たとえば、抽出工程の後、以下に述べる分離手段2(b)での処理を行う前に、プレカラムフィルター14によりコンタミネーションを除去する機能、あるいは、試料を抽出部13に供給する前に吸着用ビーズやフィルター等を用いて処理する機能などが挙げられる。
【0028】
・(b)分離手段
分離手段2(b)は、分離溶出用溶媒を用いたキャピラリー液体クロマトグラフィー(CLC)により複数の微量成分を分離溶出する工程を行うためのものである。
【0029】
たとえば、上述のような前処理手段(a)により得られた抽出液をCLCカラムに導入後、本発明の分離溶出用溶媒を導入する機能を有するものであれば良く、その導入方法は、各ポンプ11から切り替えバルブを介しチューブ供給する場合や、直接シリンジを通して行う場合がある。
【0030】
CLC用カラムの充填剤(材質、粒径)やサイズ(内径・長さ)、抽出液および分離溶出用溶媒の導入量、導入のためのチューブやシリンジなどの態様は、対象とする試料および微量成分に応じて適宜調整すればよい。たとえば、コレステロール、コレステロールエステル、トリグリセリド等の中性脂質を分離する場合、充填剤としてはオクタデシルシリル(ODS)シリカゲルなどが好適である。
【0031】
・(c)サンプリング手段
サンプリング手段3(c)は、上述のようなCLCによりカラムの先端から出てくる分離溶出液を、一定時間毎に展開用薄層15上に一定間隔にて直線状にスポットし、乾燥する工程を行うためのものである。このようなサンプリングにより分離溶出液の所定の画分ごとに展開・染色を行うことで、微量成分の同定・定量が行いやすくなる。
【0032】
本発明の一態様として、分離溶出液がサンプリングされる展開用薄層15は、円筒形状の回転可能な装置(ドラム)の表面に、分離溶出液を複数スポットして展開することが可能な態様のものであることが、効率的なサンプリングおよび展開・染色を可能とするため好ましい。また、このサンプリング工程でのスポット方向と、後述の展開・染色工程での展開方向が垂直関係にあり、疎水性多孔質膜は展開方向に狭幅な形状を有することが好ましい。
【0033】
たとえば、上記ドラム上に並列する展開用薄層15は、本発明者が先に提案した特開2005−274545(前記特許文献1)に記載された、試料載置部16(スポットがサンプリングされる部位)とそれよりも狭幅に形成された展開部17(スポットが展開される部位)からなる「疎水性多孔質膜」が、スポット方向に多数並列して一体化したようなものであることが望ましい。この場合、たとえば、試料載置部16は幅約5mm、展開部17は幅約2mm程度であるが、サンプリングの態様に合わせてサイズは適宜変更することも可能である。また、一体化されていない疎水性多孔質膜が多数並列したようなものであってもよい。
【0034】
あるいは、従来の薄層クロマトグラフィー用のプレートと同様、シリカゲルやアルミナ等からなる展開用薄層15をガラス板等の基板上に形成して用いてもよい。
分離溶出液をスポットする時間間隔、あるいは一サンプリングごとの分離溶出液の量は、試料中に含まれる微量成分やCLCなどの態様に応じて適宜調整すればよい。
【0035】
サンプリングされたスポットは、以下に述べる展開・染色工程までの間、所定の時間自然乾燥させてもよく、必要に応じて、所定の気体の吹きつけや加熱が行える装置を用いて乾燥させてもよい。
【0036】
・(d)展開・染色手段
展開・染色手段4(d)は、スポットした試料成分を展開用溶媒により展開し、染色する工程を行うためのものである。
【0037】
展開の手法としては、たとえば、試料成分がスポットされた展開用薄層15の下方を、展開用溶媒が入れられた展開槽17に浸漬するようにして行うことが挙げられる。サンプリング工程が終了した後に、全てのスポットを一斉に展開するような態様で浸漬しても、あるいは、サンプリングされたスポットごとに順次展開するような態様で浸漬しても、いずれでもよい。
【0038】
一方、染色の手法は特に限定されるものではないが、たとえば、染料を展開用溶媒にあらかじめ含有させておき、展開と同時に微量成分を染料と接触させてもよく、このようにすることで展開・染色工程の簡略化を図ることができる。このような染色手法を用いる場合、展開用薄層15は疎水性多孔質膜からなるものであることが適切であり、従来のTLC用と同様シリカゲル等で薄層が形成されていると、その薄層全体が染色されてしまうおそれがある。あるいは、疎水性多孔質膜の試料成分のスポットごとに染料を滴下し、その後前記と同様に展開用溶媒が入れられた展開槽17に浸漬する手法や、展開後に疎水性多孔質膜全体を染料が入れられた染料槽に所定の時間浸漬する手法などを採用することもできる
。染色後は、必要に応じて、極性溶媒で余分な染料を洗浄除去するようにしてもよい。
【0039】
本発明の一実施形態として、コレステロール等を主成分として含む脂質を分析の対象とする場合、染料としては「ナイルブルー」を用いることが好適である。ナイルブルーは、比較的安価であるが、高感度でコレステロール等の脂質を染色することができる水性の染料であり、発色するまでの所用時間は通常30分程度である。疎水性多孔質膜上で展開した場合には、ナイルブルーが膜全体を染色してしまうおそれがなく、脂質等の微量成分のみを明瞭に染色することができる。
【0040】
また、コレステロール等の脂質は、硫酸と接触させて加熱することによっても染色する(存在を検出する)ことが可能である。展開用薄層がシリカゲル等で形成されている場合には、このような染色手法を用いることが好ましい。
【0041】
なお、染料や染色手法は分析対象となる微量成分に応じて適宜選択することができ、酵素反応による発色や蛍光色素を利用した免疫染色法など、生化学等の分野で知られている手法を応用することも可能である。
【0042】
・(e)分析手段
分析手段5(e)では、展開・染色されたスポットの位置および面積を測定することにより、試料中に含まれていた複数の微量成分のそれぞれを同定し定量する工程が行われる。サンプリングの溶液量を勘案することにより、最終的には、試料中の微量成分ごとの濃度を求めることができる。
【0043】
展開・染色されたスポットから各成分を定量するための手法は、一般的な薄層クロマトグラフィー(TLC)法と同様のものを採用できる。たとえば、スポットの面積を測定することで、その成分の量(濃度)を簡便にかつ十分な精度で定量することができるが、必要に応じて、スポットの反射吸光度を吸光光度計で測定するなどの光学的な定量手法を組み合わせ、濃度をより高精度で定量するようにしてもよい。
【0044】
スポットの位置および面積の測定は、たとえば、機械的な画像処理手段により自動的に行い、濃度が既知の各種成分を含有する標準試料のデータと比較して、生体試料中に含まれていた全微量成分の名称および濃度が記録、表示等されることが望ましい。
【0045】
・(f)洗浄手段
洗浄手段6(f)は、同時に進行する、前記(b)による分離溶出工程と、前記(c)によるサンプリング工程の後に、上記(a)による微量成分の抽出に用いられた部位(抽出部13等)と、上記(b)により微量成分の分離溶出に用いられた部位(CLC用カラム等)とを洗浄する工程を行うためのものである。
【0046】
たとえば、過剰の分離溶出用溶媒を、CLC用カラムやチューブ、シリンジ等に通すことにより、これらの内部を洗浄すること、あるいは、試料と溶出用溶媒とを混合して微量成分を抽出した抽出部13に残存する試料を洗浄するといった態様が挙げられる。
【0047】
このような洗浄用溶液は、ポンプ11や分岐バルブ12を用いて、洗浄の対象となる部位に適切に導入されるようにすればよく、また、分析に用いた試料等に応じて洗浄用溶液の成分を適宜調整することもできる。
【実施例】
【0048】
[実施例1]
採取した唾液100μLにエタノール300μLを加え、10分間撹拌した。これにプ
ロピオン酸エチル:イソオクタン=1:1の混合液1000μLを加え、10分間撹拌し、遠心した。上層を取り出し、窒素ガスを吹き付けて乾燥した。
【0049】
乾燥物をイソオクタン:エタノール:プロピオン酸エチル=1:1:1の混合溶媒に溶かし、TLCプレート(カラス板上シリカゲル層が形成されたもの)にスポットし、ジエチルエーテル:ヘキサン:酢酸=80:30:1の混合溶媒で展開した。硫酸を吹き付け、加熱し、スポットを検出した。結果は図3に示すとおりである(右側「PI」の列)。コレステロールエステル、トリグリセリド、およびコレステロールのスポットが確認された。
【0050】
[比較例1]
採取した唾液100μLに、クロロホルム:メタノール:水=1:2:0.8の混合液300μLを加え、10分間撹拌し、遠心した。上清にクロロホルム300μLおよび水100μLを加え、10分間撹拌し、遠心した。下層を別の試験管に取り、上層に200μLのクロロホルムを加え、10分間撹拌し、遠心した後、その下層を先ほどの下層と混合し、窒素ガスを吹き付けて乾燥した。
【0051】
乾燥物をイソオクタン:エタノール:プロピオン酸エチル=1:1:1の混合溶媒に溶かし、TLCプレートにスポットし、ジエチルエーテル:ヘキサン:酢酸=80:30:1の混合溶媒で展開した。硫酸を吹き付け、加熱し、スポットを検出した。結果は図3にあわせて示すとおりである(左側「BD」の列)。コレステロールエステル、トリグリセリド、およびコレステロールいずれのスポットも確認されなかった。
【0052】
[実施例2]
キャピラリーカラム(ジーエルサイエンス(株)製「CP-Sil8CB-MS」,内径0.25mm,長さ90mm)にシリンジを用いて充填剤(ジーエルサイエンス(株)製「Intersil ODS」,粒径10μm)を20mm充填し、CLC用カラムを調製した。
【0053】
このカラムにシリンジを付け、シリンジポンプにセットし、上記実施例1で調製した乾燥物の混合溶媒溶液をカラム内に導入した。次いで、イソオクタン:エタノール:酢酸=10:15:1の分離溶出用溶媒を入れたシリンジに付け替え、シリンジポンプにセットし、微量成分を分離溶出した。
【0054】
[実施例3]
実施例2によりカラムの先端から溶出する液(0.15mL/min)を、TLCプレートに
30滴ずつスポットした。ジエチルエーテル:ヘキサン:酢酸=80:30:1の混合溶媒で展開した。硫酸を吹き付け、加熱し、スポットを検出した。結果は図4に示すとおりである。4つのコレステロールエステルのスポット、3つのトリグリセリドのスポット、および2つのコレステロールのスポットが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の濃度測定装置の概念図。
【図2】粘度の高い生体試料を対象とする場合に好ましい、抽出部の一態様。
【図3】本発明のEPI法(右列:実施例1)および従来のBligh-Dyer法(左列:比較例1)による、唾液中の脂質の抽出・展開の結果を示す写真。
【図4】本発明の実施例3による、唾液中の脂質のキャピラリー液体クロマトグラフィーの分離溶出および展開の結果を示す写真。
【符号の説明】
【0056】
1:前処理手段
2:分離手段
3:サンプリング手段
4:展開・染色手段
5:分析手段
6:洗浄手段
11:ポンプ
12:分岐バルブ
13:抽出部
14:プレカラム
15:展開用薄層
16:試料載置部
17:展開部
18:展開槽
21:メッシュ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中の複数の微量成分の濃度を測定する装置であって、
少なくとも、炭素数7もしくは8の分岐飽和炭化水素(i)と、炭素数2もしくは3の
アルコール(ii)と、炭素数2もしくは3の有機酸またはそれらのエステル(iii)とを
含む溶媒を、微量成分の抽出用および分離溶出用の溶媒として用い、
(a)試料中の微量成分を抽出用溶媒で抽出する前処理手段、
(b)分離溶出用溶媒を用いたキャピラリー液体クロマトグラフィーにより複数の微量成分を分離溶出する分離手段、
(c)分離溶出液を一定時間毎に展開用薄層上に一定間隔にて直線上にスポットし乾燥するサンプリング手段、
(d)スポットした試料成分を展開用溶媒により展開し染色する展開・染色手段、
(e)展開染色されたスポット位置および面積から微量成分を同定し定量する分析手段、および
(f)上記(b)および(c)による工程の後に、上記(a)による微量成分の抽出に用いられた部位と、上記(b)による微量成分の分離溶出に用いられた部位とを洗浄する洗浄手段
を備えることを特徴とする、微量成分の濃度測定装置。
【請求項2】
前記複数の微量成分が、コレステロール、コレステロールエステルおよびトリグリセリドからなる群より選ばれる2種以上の脂質を含むものである、請求項1に記載の微量成分の濃度測定装置。
【請求項3】
前記展開用溶媒が微量成分の染料としてナイルブルーを含有するものである、請求項1または2に記載の微量成分の濃度測定装置。
【請求項4】
前記展開用溶媒として、少なくとも、炭素数7もしくは8の分岐飽和炭化水素(i)と
、炭素数2もしくは3のアルコール(ii)と、炭素数2もしくは3の有機酸またはそれらのエステル(iii)とを含む溶媒を用いる、請求項1〜3のいずれかに記載の微量成分の
濃度測定装置。
【請求項5】
前記試料が生体に由来する物質である、請求項1〜4のいずれかに記載の微量成分の濃度測定装置。
【請求項6】
前記展開用薄層が、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステルおよびナイロンからなる群より選ばれる少なくとも1種の疎水性樹脂を用いて形成された疎水性多孔質膜である、請求項1〜5のいずれかに記載の微量成分の濃度測定装置。
【請求項7】
前記サンプリング手段によるスポット方向と、前記展開・染色手段による展開方向が垂直関係にあり、前記疎水性多孔質膜が展開方向に狭幅な形状を有するものである、請求項1〜6のいずれかに記載の微量成分の濃度測定装置。
【請求項8】
前記前処理手段が、さらに溶出用溶媒と試料とをミキシングする機能を有する、請求項1〜7のいずれかに記載の微量成分の濃度測定装置。
【請求項9】
前記前処理手段が、さらにプレカラムフィルターによりコンタミネーションを除去する機能を有する、請求項1〜8のいずれかに記載の微量成分の濃度測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−92632(P2009−92632A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−266401(P2007−266401)
【出願日】平成19年10月12日(2007.10.12)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年10月3日 社団法人 日本生体医工学会発行の「平成19年度 日本生体医工学会 東海支部学術集会抄録集」に発表
【出願人】(000001960)シチズンホールディングス株式会社 (1,939)