説明

濃酸との反応および水浸出によるラテライト鉱石からのニッケルおよびコバルト回収法

二段階手順で褐鉄鉱およびサプロライトを含有するラテライト鉱石を浸出する手順である。第一段階は、鉱石の濃無機酸との混合および反応からなり、ならびに第二段階は、水中の酸/鉱石混合物のスラリーの調製、ならびにニッケルおよびコバルトを溶解するための混合物の浸出からなる。鉄は、主にジャロサイト以外の第二鉄の酸化物または水酸化物として、固形浸出残渣中のニッケルおよびコバルトから効率的に分離される。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の技術分野
本発明は、含ニッケルラテライト鉱石の湿式精錬手順、特に単一の手順でのそのような鉱石の褐鉄鉱留分およびサプロライト留分の両方の酸浸出法に関する。
【0002】
関連出願の相互参照
本願は、2004年6月28日に提出された米国特許仮出願第60/583243号の恩典を主張するものであり、その開示内容は参照として本明細書に組み入れられる。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
ラテライト鉱石は、地質年代にわたる天然の酸性天水の作用により、熱帯環境において地球の表面近くまたは表面でのニッケルを含んだ超苦鉄質岩のインサイチューでの風化により形成される。これらは様々な粘土、酸化鉱物および珪酸塩鉱物、若干濃縮されたニッケルおよび/またはコバルトからなり、このことは、これらを他のニッケル鉱石、硫化物鉱石の主要なクラスから区別している。後者は典型的には、しばしば銅および少量の貴金属を伴う、鉄、ニッケルおよびコバルトの硫化鉱物からなり、ならびに地殻における苦鉄質-超苦鉄質のマグマ貫入に関連している。
【0004】
風化の過程は、典型的には層状の鉱床を形成し、完全なまたは最も広範な風化の産物は表面近くで生じ、および深度に応じより少ない風化度の産物に向かってこれらの粒度は増大し、最終的にはかなり大きい深度での風化されない岩石で終わる。高度に風化された層は通常、非常に細かく分割された針鉄鉱粒子内に微視的に分布されたその含有ニッケルのほとんどを含む。針鉄鉱は第二鉄のオキシ水酸化物であり、化学式FeOOHを有する。この層は通常、褐鉄鉱という名称であり、典型的には高い割合で鉄を含有する。
【0005】
コバルトは通常褐鉄鉱層と関連し、ならびに通常大部分は、しばしばゴス土(asbolane)またはマンガン土と称される酸化されたマンガン鉱(Mn(III)および/またはMn(IV)を含有する酸化物および水酸化物)と関連する。
【0006】
風化の少ない層は典型的には、例えば蛇紋石のような、様々なマグネシウム珪酸塩鉱物中に、それらの含有ニッケルを増加する割合で含む。蛇紋石は、化学式3MgO・2SiO2・2H2Oを有する、マグネシウムの珪酸塩鉱物である。ニッケルは、蛇紋石中のマグネシウムの一部と置換すると考えられる。マグネシウムは、他の二価の金属、例えば第一鉄(Fe2+)とも置換することができる。同じく不完全に風化した帯にニッケルを留める多くの他の珪酸塩鉱物も存在することができる。部分的に風化した、高度にマグネシウムを含んだ帯は、サプロライト、または珪ニッケル鉱という名称を与えられることが多い。(「珪ニッケル鉱」は、特に様々な組成の青リンゴ色のマグネシウム-ニッケル珪酸塩鉱物を説明するためにも使用される。)
【0007】
一部の鉱床において、主としてノントロン石粘土(nontronite clay)からなる、典型的には褐鉄鉱とサプロライトの間に位置する別の帯が存在し、これらは含ニッケルであってもよいマグネシウム、鉄およびアルミニウムの珪酸塩である。(現在の)熱帯に位置するほとんどの鉱床においては、ノントロン石帯は大きく欠落している。
【0008】
風化帯は、鉱物組成または化学組成は均質でなく、これらの帯間の境界は、地球の表面とは平行ではないことも注目されなければならない。しかし通常、高い鉄含量および比較的低いマグネシウム含量の鉱石から、比較的高いマグネシウム含量およびより低いが可変性の鉄含量の鉱石へのかなり急激な遷移が存在し、これはラテライト鉱床内1〜3mの垂直距離にわたり生じる。
【0009】
単に例示する目的で、褐鉄鉱およびサプロライトの典型的化学組成を以下に示す。
褐鉄鉱:1.0〜1.8% Ni、0.05〜0.3% Co、35〜50%Fe、0.2〜3.5%Mg
サプロライト:1.2〜3.5%Ni、0.02〜0.07%Co、7〜20%Fe、10〜20%Mg
【0010】
各帯は、典型的には有意な濃度のアルミニウム、マンガンおよびクロムに加え、様々な他の鉱物中に微量のその他の重金属、例えば銅および亜鉛も含有する。
【0011】
ラテライト鉱石からのニッケル回収の困難な局面は、ニッケル有価物は、典型的には物理的手段により、すなわち金属有価物を分離するための化学処理に先立つ、いわゆる選鉱技術によっては実質的に濃縮することができないことである。このことは、ラテライト処理を高価なものとし、ラテライトの処理コストを低下する手段が数十年にわたり求められてきた。
【0012】
同じく褐鉄鉱およびサプロライト鉱石の異なる鉱物組成および化学組成のために、これらの鉱石は通常同じ処理技術による処理のための修正の余地がない。
【0013】
ニッケルラテライトに関するひとつの公知の酸浸出手順は、いわゆる高圧酸浸出(HPAL)法である(例えば、Joseph R. Boldtの「The Winning of Nickel Its Geology, Mining and Extractive Metallurgy」Longmans Canada Ltd. 1967の437〜453頁参照)。この手順は、1950年代末期にキューバのMoa Bayにおいて最初に使用され、1990年代後半には、追加のプラントが西オーストラリアに建設された。
【0014】
この手順は、高温、典型的には250℃および高圧での硫酸浸出を利用し、250℃での対応する蒸気圧は約570psiである。この温度で鉱石中の含ニッケル鉱物はほぼ完全に溶解される。溶解された鉄は、使用される高温で赤鉄鉱(Fe2O3)として迅速に沈殿し、その理由はこの化合物は、たとえわずかに酸性の溶液中であってもこの温度ではほとんど不溶性であるからである。ニッケルは溶液中に残留し、冷却後に、鉄を含有する浸出残渣が一連の洗浄沈殿濃縮機(wash thickener)における濃縮、いわゆる向流デカンテーション(CCD)回路により、ニッケルを含んだ溶液から分離される。その結果、鉄からニッケルを分離する浸出手順の主な目的が達成される。
【0015】
HPAL手順の大きな欠点は、据付および保守の両方に経費がかかる、精巧な高温オートクレーブおよび付属装置が必要なことである。加えてHPAL手順は、鉱石の非鉄金属含有物を化学量論的に溶解するために必要な量よりも、より多くの硫酸を消費し、その理由は、硫酸により提供される硫酸イオンのほとんどは、高温で硫酸水素イオン(HSO4-)として結合するからである。別の言い方をすると、硫酸(H2SO4)は高温で解離し、単独のプロトン(H+)を放出するのみである。浸出液の冷却および中和時には、硫酸水素イオンは硫酸塩(SO42-)および別のプロトンに分解する。その結果後者のプロトン(酸)は浸出に完全には利用されず、例えば石灰岩により中和されなければならないような過剰な硫酸を生じる。
【0016】
サプロライトの存在は、サプロライトからのマグネシウム浸出に起因した、大規模でおよび時には不経済な硫酸消費の増加を引き起こすので、HPAL手順の別の欠点は、一般に褐鉄鉱型供給の処理に限定されることである。これは、先に説明されたような、高温での硫酸水素塩「シフト」問題により悪化される。
【0017】
米国特許第4,097,575号は、鉱石を硫酸とより反応性とするためのサプロライト鉱の約820℃未満での焙焼、その後の褐鉄鉱鉱石の加圧浸出が生じるオートクレーブの排出物中の過剰な酸を中和するための焙焼炉焼成(roaster calcine)の使用を構成する、HPAL手順の改善を開示している。サプロライト鉱石内に含まれるニッケルは、この中和時にほとんど溶解される。この手順の報告された利点は、褐鉄鉱の加圧浸出時に添加された硫酸がより良く利用されること、オートクレーブ排液を処理するための石灰岩または他の費用のかかる中和剤の消費を減少すること、ならびに典型的ニッケルラテライト鉱体の褐鉄鉱およびサプロライトの両留分の処理能力を達成することである。この手順の欠点は、褐鉄鉱の浸出に高価なオートクレーブの使用が依然必要であること、ならびにサプロライト鉱石の焙焼手順が必要であることであり、これは資本費および操作費の両方に関して高価である。
【0018】
米国特許第6,379,636 B2号は、米国特許第4,097,575号に開示された手順の更なる改善を開示しており、ここではサプロライト焙焼工程は省かれ、「生」型のサプロライトを使用し、オートクレーブ排液中の過剰な酸が中和される。加えて、より多くの酸を、この排出物に添加し、浸出することができるサプロライトの量を増加することができる。しかしこの手順は、高価なオートクレーブの使用が依然必要である。
【0019】
大気圧のみでの酸浸出を利用し、先に説明された加圧浸出の欠点を排除するいくつかの手順も説明されている。米国特許第3,793,432号は、ラテライト鉱石の大気中浸出手順を開示しており、ここではこの鉱石は、沸点またはそれ未満で硫酸と反応し、溶解した鉄の沈殿が、アンモニウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、またはリチウムイオンのような鉄沈殿剤の添加により実現される。明白には説明されていないが、供給された鉱石の高い鉄含量および低いマグネシウム含量により証明されるように、この明細書に列記された実施例は全て、褐鉄鉱鉱石試料を使用する。この手順は、加圧浸出の欠点を克服しているが、別の欠点を有する。第一に、鉄の沈殿はジャロサイト化合物としてであり、これは熱力学的に不安定な鉄化合物であり、経時的に分解して硫酸を放出し、その結果環境に問題を引き起こす。(明白に言及していないが、ジャロサイトは、実施例に概説された条件で沈殿することは当業者には明らかであろう。)ジャロサイトは、3モルの鉄につき2モルの硫酸塩を含有し、従ってこの化合物は、必要な硫酸イオンを提供するためにかなり過剰な硫酸を消費することを表している。
【0020】
第二に、この鉱石からのニッケル抽出物は、明らかにかなり少ない。抽出は明白に言及されていないが、残渣のニッケル含量ならびにジャロサイトは当初の鉱石よりもより少ない割合の鉄を含有しおよび事実上全ての鉄は残渣中に残存するので、残渣質量は当初の鉱石の質量よりも多くなければならないという事実を基に、ニッケル抽出物は通常60〜65%の範囲である。第三に、4〜5日間程度の、非常に長い浸出時間の必要性が存在する。第四に、炭酸カリウム、炭酸ナトリウムなどの、比較的高価な鉄沈殿剤の添加の必要性が存在する。
【0021】
米国特許第6,261,527 B1号および第6,680,035 B2号は、褐鉄鉱鉱石が最初に強硫酸により「全体的に」浸出される、すなわちニッケルおよび鉄の両方が、針鉄鉱から実質的に溶解され、その後サプロライト鉱石が、得られる褐鉄鉱浸出スラリー中に浸出されると同時に、ジャロサイト沈殿剤の添加により鉄がジャロサイトとして沈殿するような、別の大気圧浸出手順を開示している。この手順は、ジャロサイトの生成、鉱石の褐鉄鉱留分およびサプロライト留分の分離採鉱および調製の必要性、ならびに狭い範囲へ制限されたサプロライト対褐鉄鉱比という欠点も有する。後者の欠点は、効果的に浸出することができるサプロライトの量は、褐鉄鉱浸出液中の第二鉄の量により決定されるという事実に起因するものである。
【0022】
国際公開公報第03/093517 A1号は、この手順の改善を開示しており、これは、ナトリウム、カリウム、およびアンモニウムなどのジャロサイト形成イオンの添加を省き、ならびに鉄のジャロサイト以外の化合物、例えば針鉄鉱としての沈殿を引き起こすことで構成される。この手順は、ジャロサイトの欠点を克服するが、硫酸の消費は、列記された実施例において鉱石1トンにつき0.59〜0.87トンであり、列記された11の実施例中9例において、鉱石1トンにつき0.72トンを上回っていた。
【0023】
米国特許第6,261,527 B1号および第6,680,035 B2号および国際公開公報第03/093517 A1号に開示された手順は、針鉄鉱は、蛇紋石のような典型的サプロライト鉱物よりも、酸浸出がより難しいという事実を基にしている。このことは、他の研究者達によって明らかにされている(例えば:John H. Canterford, 「Leaching of Some Australian Nickeliferous Laterites with Sulfuric Acid at Atmospheric Pressure」、Proc. Australasian Inst. Min. Metall., 265 (1978), 19〜26;N. M. Rice and L.W. Strong,「The Leaching of Lateritic Nickel Ores in Hydrochloric Acid」、Canadian Metallurgical Quarterly, 13(3)(1974), 485〜493;および、米国特許第5,571,308号の図5を参照のこと)。従って、サプロライトのみを、鉄沈殿が同時に起こる浸出の第二段階に効果的に使用することができる。これは、その溶液の酸性度が、ジャロサイトの沈殿を可能にするにはかなり低く、更には針鉄鉱または他の第二鉄の加水分解産物の沈殿を可能にするにはより低くなければならないことが理由である。褐鉄鉱に含まれた針鉄鉱は、これらの条件下では非常に緩徐に浸出するであろう。従って褐鉄鉱(主に針鉄鉱)は、比較的高い酸濃度により初期段階で浸出され、ならびに鉄およびニッケルは両方とも溶液に移る。
【0024】
米国特許第3,244,513号は、鉄を上回るニッケル、コバルト、マグネシウムおよびマンガン有価物の優先的硫酸化を引き起こすために、大部分が褐鉄鉱型(>25%鉄として定義される)であるラテライト鉱石を、限定された水の存在下で濃硫酸と混合し、その後この混合物を約500〜725℃の温度で焙焼する手順を開示している。引き続きの水浸出は、溶液へのニッケルおよびコバルトの高い抽出ならびに鉄の低い抽出を生じる。この手順の利点は、浸出を実行するために高価なオートクレーブを必要としないことである。主な欠点は、これは高価な焙焼工程を必要とすることである。
【0025】
米国特許第4,125,588号は、焙焼工程が省かれること、ならびに鉱石の濃酸との混合は、鉱石が最初に十分な水の非存在下で濃硫酸と混合され、その後制御された量の水が添加され、鉱石の硫酸化を開始し、次に最終的にその混合物が更なる量の水により浸出されるという、慎重に制御された様式で行われること以外は、米国特許第3,244,513号に開示されたものに類似した手順を開示している。この手順の利点は、米国特許第3,244,513号では必要とされる焙焼工程の省略である。しかしこの手順は、重大な欠点も有する。
【0026】
ひとつの欠点は、使用される鉱石は、1%を超えない水分を含有しなければならないことであり、ラテライト鉱石のインサイチューでの含水量は通常20%またはそれよりも多いので、このことはほとんどの場合において鉱石は乾燥されなければならないことを意味する。第二の欠点は、その特許に列記された全ての実施例において例示されるように、この手順は、ニッケルの鉄を上回る選択的溶解を提供しないことである(>90%鉄抽出)。溶液中の鉄からのニッケルの分離は、通常、更なるニッケル喪失を生じる。
【0027】
加えてこの手順は、「大量のマグネシアおよびシリカ」を含有する鉱石、すなわちサプロライト鉱石または珪ニッケル鉱を含有する鉱石にのみ適用可能である。正確な鉱石の組成は、これらの実施例の全てにおいて記載されていないが、与えられたデータから、これらの鉱石は鉄よりもマグネシウムを3〜4倍多く含むことは明らかであり、褐鉄鉱系鉱石(鉄/マグネシウム質量比が約10〜90)は考慮されないことを明確に指摘している。更に、酸消費はこの手順では非常に高く、鉱石1トンにつき硫酸約0.9〜1.1トンである。
【0028】
米国特許第3,093,559号は、ラテライト系鉱石の比較的濃い硫酸(約25〜50%硫酸)による処理に関する別の手順を開示している。この手順において、鉄を含む金属有価物のほとんどまたは全ての硫酸化を引き起こすのに十分な酸が、添加される。その後鉄は、浸出液の蒸発乾固、および鉄を赤鉄鉱へ転換するための、得られた塩の975〜1050°Fでの焙焼によりニッケルから分離される。この焙焼物(calcine)の引き続きの再浸出はニッケルを溶液に移し、残渣に鉄を残留する。先に説明された様々な手順同様、高温焙焼工程の必要性は、この手順の重大な欠点である。
【0029】
米国特許第2,899,300号は、湿ったラテライト鉱石を濃硫酸で処理し、その後この混合物を、100℃〜150℃、好ましくは125℃の温度で焼成し、その後鉱石中の金属有価物を溶解するために水浸出する手順を開示している。焼成工程は、鉱石/酸混合物中に含まれた水分を蒸発するためにかなりの熱エネルギーを必要とするので、これは重大な欠点を有する。更にこの明細書に示された実施例により例示されるように、ニッケル溶解は比較的低いが、鉄溶解は比較的高く、それぞれ、約77%および53%である。報告されたように、ニッケル抽出は第一段階残渣への硫酸の添加、ならびに第二硫酸化および水浸出工程の実行により増加することができるが、これはこの手順の複雑さを増し、この手順で実現される鉄/ニッケル分離を改善しないであろう。
【0030】
米国特許第RE37,251号は、硫酸水素イオンおよび硫酸イオンの酸性溶液を、塩素イオンのようなハロゲンイオンおよび酸素と共に使用する、ニッケルラテライト鉱石を含む、非銅鉱石および濃縮物の加圧浸出の手順を開示している。この明細書に従い、必要な温度および圧力は、225℃および450psig O2である。蒸気圧が225℃で約370psiであるならば、全圧は、820psigの範囲内であろう。これらの条件は高圧酸浸出条件にかなり類似しており、従って先に説明されたような高価な高圧オートクレーブシステムの使用が必要であろう。
【0031】
本発明の目的は、これらの公知の手順の欠点を取り除くかまたは軽減することである。更に、大気圧または低い圧力条件下で、引き続きの鉱石型の分離を伴わずに、典型的ラテライト鉱体の低品位大規模採鉱(bulk mining)によりおそらく産出されるような褐鉄鉱およびサプロライト鉱石の混合物を酸浸出すると同時に、ニッケルおよびコバルトの高度の抽出ならびに鉄の極めて低い最終的な抽出を実現する手順を提供することも目的である。
【発明の開示】
【0032】
発明の簡単な概要
本発明は、第一段階は、鉱石の濃無機酸との混合および反応からなり、第二段階は、水中の酸/鉱石混合物のスラリーの調製ならびにニッケルおよびコバルトを溶解するための混合物の浸出からなる、二段階手順における、典型的ニッケルラテライト鉱床の低品位大規模採鉱により産出されるような褐鉄鉱およびサプロライト鉱石からのニッケルおよびコバルトの効率的浸出の手順を提供する。鉄は、主にジャロサイト以外の第二鉄の酸化物または水酸化物として、固形浸出残渣中のニッケルおよびコバルトから効率的に分離される。
【0033】
この手順は、水浸出前の混合された鉱石および酸の養生も含んでもよく、この鉱石は最初に破砕され、その後これは酸と混合および反応される。好ましくは、サプロライトは褐鉄鉱と個別に破砕され、その後配合される。より好ましくは、この酸は最初に褐鉄鉱と混合され、引き続きサプロライトが添加される。
【0034】
水浸出は、有利なことに、やや高温で実行される。大気圧浸出に関して、温度は好ましくは95〜105℃の範囲である。あるいは、温度最高約150℃のオートクレーブで浸出することによりより迅速な浸出時間を得ることができる。対応する圧力は、最大約70psiaまでの範囲内であり、これは浸出温度での飽和蒸気圧とほぼ等しい。
【0035】
使用される酸は、好ましくは硫酸、塩酸、または硝酸から選択され、より好ましくは硫酸である。これらの酸のいずれかの混合物も使用することができる。
【0036】
有利なことに、二酸化硫黄、硫化水素、可溶性亜硫酸水素塩および亜硫酸塩化合物、または可溶性第一鉄化合物などの還元剤が、コバルトの溶解を増強するために、水浸出時に添加される。
【0037】
本発明の手順は、高コストの高圧オートクレーブを避け、およびジャロサイト化合物の生成を減少する。一部の態様においては、褐鉄鉱およびサプロライトの鉱石型を個別に採鉱し、かつ個別に処理することの必要性も避けられ、このことは、サプロライトの褐鉄鉱に対する比の範囲が広い鉱石の処理を可能にする。
【0038】
本発明は、約15%未満の鉄抽出と共に、少なくとも約80%のニッケル抽出および95%またはそれより多いコバルト抽出を実現することができることがわかっている。
【0039】
発明の詳細な説明
本発明は、含ニッケルラテライト鉱石中に含まれた鉄の大部分を固形浸出残渣中に廃棄すると同時に、その鉱石からニッケルおよびコバルトを抽出するための、改善された方法を提供する。この方法は、予め褐鉄鉱鉱石をサプロライト鉱石から分離することを必要とせず、これら2種の鉱石型の混合物を処理することができる。しかし褐鉄鉱およびサプロライト鉱石を個別に採鉱することが都合がよい場合、最初に酸を直接褐鉄鉱鉱石と反応させ、次にサプロライト鉱石を添加することにより、高ニッケル抽出を実現することができる。
【0040】
図1を参照すると、褐鉄鉱およびサプロライトの混合物からなる粗鉱ラテライト鉱石は、最初に約5〜最大寸法10mmに破砕される。次に破砕された鉱石は、パグミルのような適当な装置内で、硫酸、塩酸および硝酸またはそれらの混合物の群より選択される濃無機酸と混合される。鉱石を乾燥することは不要であり、これは典型的には濃酸の添加前に、粗鉱状態で実質的に水分を含まない。
【0041】
添加される酸の量は少なくとも、引き続きの浸出段階において、鉱石中の可溶性非鉄金属(しかし鉄ではない)、すなわち鉱石中のニッケル、コバルト、マグネシウム、アルミニウム、銅、亜鉛のほとんど、およびクロムのわずかな部分を、化学量論的に溶解するのに必要な量である。わずかに過剰な酸の添加は、引き続きの浸出段階において一部の遊離酸(free acidity)を提供し、そのため鉄のわずかな割合を浸出し、ニッケルおよびコバルトの最大抽出を確実にする。酸添加は、鉱石スラリーからの最終の鉄抽出が最小であることを確実にするように制限される。場合によっては、マグネシウムおよびアルミニウムの一部は不溶性であり、このことは正確な酸添加を決定するために考慮されなければならない。
【0042】
酸混合手順時の水添加は、鉱石鉱物との反応のための酸の最高濃度を提供することが可能な程度に最小化される。水添加は、それ以外これを完全に配合するかまたは容易に取扱うことができない程、鉱石/酸混合物が固い場合にのみ必要である。鉱石を湿らせるための濃酸の添加は、かなりの熱発生を生じ、水の沸点と同じ位、更にはそれを上回るよう、混合物の温度を上昇し、著しい水蒸発を引き起こす。酸/鉱石混合物の軟度を、液体ペーストのそれに制御するために、望ましいならば、追加の水を配合手順時に添加することができる。水が添加されない場合は、鉱石の含水量および発生した熱の正味の量に応じて、乾燥した粉末状の反応生成物の形成も可能なことがある。(液体ペーストと乾燥した粉末状の材料の間の中間体、固いタフィー様混合物が形成されることもあり、これは取扱いがより困難である。)。
【0043】
この混合物は容易に取扱うことができるように、液体ペースト軟度または乾燥粉末の軟度のいずれかを有することが理想的である。得られる酸/鉱石配合物、または「パグ」は、無機酸および鉱石の鉱物成分の間で実質的に反応するのに十分な時間かけて、周囲温度で「養生」させることができる。これは、調製された不浸透性パッドの上でパグを備蓄すること、ならびに材料の再生(reclaim)前に数日間程パグをパッド上に配置し、およびこれをこの手順の次相に供することにより実行することができる。
【0044】
備蓄および再生を促進するために、例えば、備蓄前に材料を押出またはペレット化することにより、パグの少量の個別の部分を形成することが望ましいことがある。しかし満足できる結果は、最低の養生時間または養生時間なしで実現されることがわかっている。この場合、酸/鉱石混合物は、水と直接配合することができる。引き続きの粉砕は、鉱石が酸の添加前に粉砕される場合には必要ない。より長い養生は、引き続きの水浸出工程において、わずかにより良いニッケル抽出およびより少ない鉄抽出をもたらすことができる。
【0045】
養生後、パグは、攪拌タンクにおいて浸出するのに十分な粒子サイズへ粉砕される。都合の良いことに、浸出スラリーを形成するのに必要な水は、粉砕する前に添加することができ、そのためこの工程は湿式で実行することができる。このパグは、過剰な攪拌力の投入を必要とせずに、スラリー内で大半の粒子の固形懸濁液を沈ませないのに十分な粒子サイズに粉砕されなければならない。水の必要性を最小化し、ならびに最も濃いニッケルおよびコバルトを含んだ浸出貴液(pregnant leach solution)を作製するために、浸出時の良好な混合と調和する、できるだけ濃いスラリーを作製することが望ましい。
【0046】
得られる浸出スラリーは、この手順が連続して実行される場合は、バッチ浸出反応器または一連の浸出反応器中で、必要ならば、加熱される。浸出スラリーの温度は、浸出液の標準沸点またはその近く、典型的には95〜100℃に維持されることが好ましい。この目的のために、生蒸気注入、または熱エネルギーを追加する他の手段を使用することができる。必要な熱の一部は、酸配合工程において形成された過剰な酸および金属の塩の溶液の熱により提供される。加えて浸出に使用される水によるパグ化反応器の冷却、従って水を予備加熱することによるか、または酸鉱石反応時に発生した蒸気を回収することにより、更なる量の熱をパグ化手順それ自身の間に回収することができる。
【0047】
浸出混合物は、鉱石中のニッケルおよびコバルトのほとんどが溶解し、ならびに鉄のほとんどが固形浸出残渣中に存在するようになるまで反応させる。攪拌された浸出滞留時間は12〜48時間程度である。満足できる結果は、典型的には約15時間またはそれ未満で得られる。場合によっては、鉱石中で酸化されたマンガン鉱物、例えばゴス土に結びついたコバルトの浸出を増強するために、浸出スラリーの制御された量の中に還元剤を添加することが望ましいことがある。当業者に明らかなように、例えば二酸化硫黄の制御された添加を、コバルト(およびマンガン浸出)の改善のために添加することができる。3価および4価の酸化マンガンを2価状態へ還元することが可能なその他の還元剤も、使用することができる。
【0048】
この浸出手順は、沸点を上回る温度の使用により、著しく加速することができる。例えば、オートクレーブ内で浸出スラリーを約150℃に加熱することにより、浸出時間を約1時間に短縮することができる。更なる温度上昇が有益であることがあるが、このことは高圧浸出に関連した複雑さを排除するという本発明の目的である。パグ+水スラリーの150℃での浸出に必要な圧力は、わずかに約70psia(150℃の蒸気圧)であることは注目されなければならない。この圧力で、スラリーは、通常の遠心ポンプによりオートクレーブへポンプ送出することができ、ならびにその圧力降下システムは、非常に単純な一段バルブまたはチョークであることができる。本発明において使用される適当なオートクレーブ装置は、温度約250℃および圧力約450〜500psiaでの高圧浸出に必要とされるものとは非常に異なり、このことは当業者には明らかであろう。
【0049】
沸点を上回る温度の使用も、溶液中のより高いニッケル/鉄比を提供し、これは浸出液の下流処理に関して有利である。これはほとんどの場合において、ニッケルおよびコバルトの回収が実行される以前に、事実上全ての鉄が溶液から除去されなければならないからである。通常溶液中の残留鉄は、浸出スラリーへの塩基、例えば炭酸カルシウムの添加、ならびにオキシ水酸化鉄化合物の沈殿により除去される。一部のニッケルは鉄と共沈され、代価のある金属(pay metal)の喪失を生じ、加えて中和剤はこの手順の操作経費の追加をもたらす。比較的高い温度を使用することの更なる利点は、より高い浸出温度で、より高い沈殿速度が実現される、最終の浸出スラリーの固/液分離特性の改善である。
【0050】
場合によっては、大気圧浸出段階および引き続きの中圧浸出段階の両方を、連続して使用することは有利であることがある。酸化されたマンガン鉱物および含有されたコバルトおよびニッケル有価物の浸出のための二酸化硫黄、または他の還元剤は、最も都合の良いことに大気圧浸出段階時に加えられる。引き続きの加圧浸出段階は、前段に記した利点を実現するために依然使用することができる。
【0051】
少なくとも80%および90〜95%と高いニッケル抽出が、対応する5〜10%と低い鉄抽出と共に、本発明により得られる。加えて浸出残渣は、典型的には約1〜2%を超えない硫黄を含み、これは残渣中の鉄化合物は、主にジャロサイト型ではないことを示している。
【0052】
本発明の浸出手順は、硫酸が浸出剤(lixiviant)として使用される場合、先行技術、例えば米国特許第3,244,513号とは、これらは酸配合時に形成された硫酸鉄を鉄酸化物に転換するために、酸配合後に焙焼工程を使用する点が異なる。三酸化硫黄(SO3)ガスが、この転換時に放出され、これは非鉄金属酸化物、例えばNiOおよびMgOと反応し非鉄硫酸塩を形成する。従って先行技術の手順においては、非鉄金属が、優先的に硫酸化される。
【0053】
しかし驚くべきことに、おそらく資本費集約的でありおよび望ましい焙焼温度、例えば500〜700℃を実現するためにはかなり高価な石油エネルギーを必要とする焙焼工程は、非鉄金属の選択的硫酸化を実現するために必要ではなく、従って鉱石/酸配合物の水浸出後に浸出貴液を生じ、これは可溶性の非鉄金属のほとんど、特にニッケルおよびコバルトを含有し、鉄は相対的にほとんど含まないことが現在わかっている。水浸出時に所望の反応を実現するのに十分な時間および温度を提供することが、必要とされる全てである。従って焙焼工程の排除は、先行技術に勝る大きい利点を提供する。
【0054】
水浸出後に、浸出スラリーは、鉱石中に含まれたニッケルおよびコバルトのほとんどを含有する浸出貴液ならびに鉱石中の鉄のほとんどを含有する固形残渣を作製するために、濾過または濃縮による固/液分離に供される。有利なことに、濃縮は、浸出残渣の外へ連行された金属有価物のほとんどを洗浄するために、洗浄水の流れおよび浸出スラリーの向流の流れを伴う、一連の沈殿濃縮機内で実行され、この方法は向流デカンテーション(CCD)と称される。金属有価物は、主に第一の沈殿濃縮機の沈殿濃縮機オーバーフローに属し、これは浸出貴液である。
【0055】
浸出貴液は、溶媒抽出、イオン交換、例えば硫化水素のような硫化剤を使用する硫化物沈殿、または例えば沈殿剤としてマグネシアを使用する水酸化物沈殿のような、当業者に公知の方法によるニッケルおよびコバルトの回収へ進む。
【0056】
ニッケルおよびコバルトは、レジン-イン-パルプ法を使用し、予め固/液分離せずに、浸出スラリーから回収することもできる。この手順において、ニッケルおよびおそらくはコバルトを抽出するイオン交換樹脂が、浸出スラリーへ直接添加される。抽出が完了した後、樹脂は、スクリーニングによりニッケルが枯渇した浸出スラリーから分離される。固形物を除去するために樹脂を洗浄した後、ニッケルは、新鮮な酸溶液により、樹脂から溶離することができる。
【0057】
前述の方法のひとつによるニッケルおよびコバルトの回収前または回収時に、浸出液は、炭酸カルシウム、酸化マグネシウム、炭酸ナトリウムなどの塩基で中和することができ、浸出手順から残存する遊離酸を中和し、および少量の第二鉄、アルミニウム、およびクロムを沈殿し、その間ニッケルおよびコバルトの共沈は最小化される。この手順は、単工程でまたは中間の固/液分離により分離された多工程で実行することができる。
【0058】
本発明のひとつの態様において、中和の第一段階は、浸出残渣の浸出液からの分離前に実行することができる。その後一緒にした浸出および中和残渣は、前述のような濾過または濃縮により部分的に中和された浸出液から分離することができる。中和の第二段階は、浸出貴液からのニッケルおよびコバルトの回収のために選択された方法に応じて、依然望ましいものである。 この中和の第二段階の後、得られる中和残渣は、中和された浸出液から濾過または濃縮により分離することができる。この第二段階中和残渣は、理想的には、あらゆる共沈したニッケルおよびコバルトを再溶解するために第一段階中和に戻される。
【0059】
驚くべきことに、浸出手順において個別におよび区別してサプロライトから褐鉄鉱を処理するためには、ラテライト鉱石中のサプロライトから褐鉄鉱を分離する必要がないことがわかった。更に少なくとも一定の最小のサプロライト/褐鉄鉱比に合致する限りは、この手順は、いずれか特定のサプロライト/褐鉄鉱比に限定されない。鉱石へ添加される酸の量は、サプロライト/褐鉄鉱鉱石混合物の非鉄金属の含量を基にしたサプロライト/褐鉄鉱比の範囲に調節することができる。
【0060】
驚くべきことに、米国特許第3,793,432号のような、浸出スラリーへのいずれかの鉄沈殿剤の添加が必要でないこともわかった。ナトリウムイオン、カリウムイオンおよびアンモニウムイオンのような鉄沈殿剤の添加は、それらが、熱力学的に不安定であり、経時的にゆっくり分解し、および硫酸を放出し、これが浸出残渣中に存在する金属不純物の再溶解を引き起こし、ならびに環境汚染の可能性に繋がるような、鉄を含んだジャロサイト化合物の形成を促進する点で欠点である。加えて、過剰な硫酸がジャロサイト形成における硫酸イオンの必要性を満足するために、浸出時に必要である。
【0061】
例えば硫酸が鉱石へ添加される本発明の手順において、鉱石中のニッケル、コバルトおよび鉄、更には他の非鉄金属は、酸/鉱石配合工程時に非選択的に硫酸化され、すなわち硫酸塩へ転換される。この硫酸塩は、引き続きの浸出工程時に、水中に容易に溶解する。しかし、添加される酸の量は最初は鉄を含む金属全てを硫酸塩に転換するのに十分ではないので、ニッケルおよびコバルト抽出は、最初は不完全である。従ってかなりの鉄が、ニッケル、コバルト、マグネシウム、アルミニウム、クロム、銅、および亜鉛と共に溶液へ移る。しかし、最初の硫酸塩溶解相後の浸出手順を継続することにより、この溶液の鉄含量は減少し、更にニッケルおよびコバルトは、固相から抽出される。正確な鉄浸出および再沈殿反応は不明であるが、最終残渣内の硫黄含量は低く、通常2%未満であり、このことはジャロサイトは著しい程度は形成されなかったことを示している。
【0062】
本発明の好ましい態様において、溶解した第二鉄の沈殿ならびに残存するニッケルおよびコバルトの固相からの抽出を加速するために、鉄を含んだ「種」材料が、水浸出の開始時に浸出スラリーへ添加される。種粒子の表面は、鉄、例えば水酸化第二鉄、針鉄鉱、または赤鉄鉱の加水分解および沈殿のための低い活性化エネルギー部位を提供する。この種材料は理想的には、最終浸出残渣それ自身の一部であり、これは沈殿した鉄化合物を含む。種リサイクルを伴う手順を実施するひとつの方法は、図2に示されている。
【0063】
更なる本発明の態様において、鉱石の褐鉄鉱部分は濃酸と最初に配合され、この酸の量は、先に説明されたものと同じ方式で計算され、引き続き鉱石のサプロライト部分が褐鉄鉱/酸混合物へ添加される。サプロライト鉱石は、破砕されたサプロライトまたは粉砕されたサプロライトのいずれかとして褐鉄鉱/酸混合物へ添加することができる。前者の場合、鉱石/酸混合物は水浸出前に粉砕される。粉砕は、水を添加せずに実行することができる。有利なことに、水は鉱石/酸混合物へ添加され、および湿式粉砕が、大気下水浸出の前に使用される。後者の場合、サプロライト鉱石は乾燥条件下で粉砕することができ、水と共に酸/褐鉄鉱混合物へ添加されるか、または湿式粉砕されおよびスラリーもしくはフィルターケーキとして褐鉄鉱/酸混合物へ添加される。得られる配合された鉱石および酸は、次に前述のように水浸出される。この方法は、ラテライト鉱石の針鉄鉱成分を硫酸化する最大の機会を提供する。本発明のこの態様を実行する工程系統図は、図3に示している。
【0064】
下記実施例は、本発明の方法を例示している。これらの実施例において使用される鉱石は、中央アメリカラテライト鉱床から入手した。実施例1〜3で使用した鉱石の褐鉄鉱留分およびサプロライト留分は、表1に示した組成を有する。サプロライト鉱石は、試験に使用する前に、約6.4mmに破砕した。
【0065】
【表1】

【0066】
実施例1
サプロライト鉱石約1kgを、100メッシュを約100%通過するまで、ボールミル内で湿式粉砕した。粉砕されたスラリーを濾過し、含水量41%の粉砕されたサプロライトを作製した。湿った粉砕されたサプロライト425.2gを、湿った褐鉄鉱鉱石381.7gに配合し、褐鉄鉱/サプロライト比が乾量基準で1:1である浸出供給材料500gを作製した。
【0067】
鉱石混合物を4.5Lの細口ガラスボトルに入れた。瓶を、水平に対しわずかに傾いた角度でボトル回転装置上で約47〜48rpmで回転した。96%硫酸312.5gをボトル内で鉱石混合物に約30分間かけて添加した。全ての酸を添加した後、鉱石および酸を約30分間配合した。配合の完了後、鉱石および酸は、半液体の塊を形成し、その温度は約70〜100℃に上昇した。
【0068】
ボトルを回転装置から取り外し、酸および鉱石の配合物を、約72時間かけて周囲温度で養生した。その後水622mLを養生された塊に添加し、この混合物を、均一な浸出スラリーが形成されるまで攪拌した。浸出スラリーを、大気へ開放された水コンデンサーを備えた機械式攪拌機、4個のプラスチック製そらせ板、および密に嵌合した蓋を装着した2Lの円柱状反応ケトルに移した。この反応ケトルは、外部電気加熱マントルにより加熱した。
【0069】
浸出スラリーを温度約96〜99℃に加熱し、この温度で48時間激しく攪拌しながら維持した。5時間浸出した後、細かく粉砕した工業用赤鉄鉱129gを、鉄沈殿の「種」として作用するようにこの反応器に添加した。化学分析のために、浸出液の試料を定期的に採取した。48時間の浸出期間の最後に全スラリーを濾過した。フィルターケーキを新鮮な水で2回再パルプ化し、連行された金属有価物を洗浄除去した。その後ケーキを乾燥し、秤量した。乾燥固形物、濾液、および一緒にした洗浄水は個別にアッセイした。
【0070】
この試験の結果を、下記表2および3に示す。
【0071】
【表2】

【0072】
【表3】

* Ni、FeおよびMg抽出は、最終残渣および溶液の質量、容積およびアッセイを基にした。
【0073】
これらの結果は、ニッケルの高い抽出が実現される一方で、鉱石中に存在する鉄の抽出は非常に少ないことを示している。加えて、残渣の硫黄含量は極めて低く、Fe/S比は約44:1であった。硫酸中に含まれる硫酸塩の5%未満が、残渣に運ばれた。鉱石中の全ての鉄がジャロサイトを形成するならば、最終残渣中のFe/S比は約4.3であろう。加えて残渣のX線回折分析は、その鉱石に当初から存在する赤鉄鉱、針鉄鉱および尖晶石相のみの存在を示した。
【0074】
この反応速度論データは、24〜32時間をわずかに超える浸出が溶液中の最終鉄濃度に到達するためには必要であることを示している。残留鉄は、固相へのニッケルの著しい喪失を伴うことなく、例えば石灰岩などの塩基による中和により溶液から取り除かれる。
【0075】
実施例2
褐鉄鉱鉱石381.7gの試料を、2Lの平底ガラスビーカー内で、破砕されたサプロライト鉱石317.7gおよび水95gと配合した。予想される粗鉱鉱石の含水量を模倣するために水を添加したが、これらの試料は、それらのインサイチューでの状況と比較し、若干乾いていることを認めた。96%硫酸312.5gを、約30分間かけてビーカーに添加した。この酸を、約60rpmで回転する攪拌子を用いて鉱石と配合した。この酸の添加は、酸対鉱石比約600kg H2SO4/1トン鉱石(乾量基準)を生じるのに十分であった。
【0076】
鉱石および酸は半液体塊を形成し、これを周囲温度で約72時間養生するために浅皿に注いだ。混合物の一部はこの操作時に回収されなかった。回収質量を基に、混合物の約13%は回収されなかったと、推定された。
【0077】
この養生期間の後、かなり堅くなった酸/鉱石混合物を小片に破壊し、小型粉砕ミルへ移した。水300gをこのミルに添加し、この混合物を石媒体で約1時間粉砕し、最大粒子サイズ約100メッシュに低下した。追加の水をこのミルに添加し、このスラリーを2L浸出反応器へ洗い出した。浸出スラリー1,858gをこの方法で調製した。この反応器を、攪拌しながら温度95〜105℃に加熱し、44時間浸出を継続した。浸出の5時間後、鉄沈殿の「種」として作用するよう、細かく粉砕した工業用赤鉄鉱129gをこの反応器に添加した。浸出液の試料を化学分析のために定期的に採取した。48時間の浸出期間の最後に全スラリーを濾過した。フィルターケーキを、新鮮な水で2回再パルプ化し、連行された金属有価物を洗浄除去した。その後このケーキを乾燥し、秤量した。乾燥固形物、濾液、および一緒にした洗浄水は個別にアッセイした。
【0078】
この試験の結果を、下記表4および5に示す。
【0079】
【表4】

【0080】
【表5】

* Ni、FeおよびMg抽出は、最終残渣および溶液の質量、容積およびアッセイを基にした。
【0081】
この試験は、サプロライト鉱石が褐鉄鉱との配合および酸の添加前には粉砕されない、本発明の好ましい態様のひとつを模倣している。代わりに、酸/鉱石混合物が、養生後に粉砕された。
【0082】
この試験の結果は、実施例1の結果と類似していたが、ニッケル抽出はわずかに低かった。
【0083】
実施例3
この試験は、以下の例外を伴い、実施例2に類似した様式で実行した。酸配合および引き続きの浸出手順時に使用した褐鉄鉱鉱石、破砕されたサプロライト鉱石、水、酸、および赤鉄鉱種の量は、各々、336.9g、280.3g、84g、275.8g、および113gであった。鉱石、水および酸の割合は、実施例2に類似していた。
【0084】
鉱石の酸との配合後、この混合物を浅皿に移し、湿式粉砕および引き続きの水浸出のために粉砕ミルへ移す前、わずかに1時間養生した。1時間養生した後、この混合物は依然液体であり、ミルへ注ぐことができた。浸出スラリー1.776gを調製し、実施例2と全く同じように浸出した。酸/鉱石混合物の回収は、約96%であった。
【0085】
この試験の結果を、下記表6および7に示す。
【0086】
【表6】

【0087】
【表7】

* Ni、FeおよびMg抽出は、最終残渣および溶液の質量、容積およびアッセイを基にした。
【0088】
この試験の結果は、先の実施例に類似しており、浸出前に長期間の鉱石/酸混合物の養生は不要であることを明らかにしている。
【0089】
実施例4
本試験に使用した鉱石の組成を、表8に示す。
【0090】
【表8】

【0091】
褐鉄鉱鉱石409.6g(湿量基準)を、0.6〜1.9cm磁器ボールを搭載した小型の磁器製ボールミルに入れた。鉱石の添加前に、ミルおよび粉砕媒体を約100℃に予備加熱した。これは、手順が連続ベースで実行される場合に存在するであろう温度条件を模倣するために行った。このミルを、それを通して硫酸を添加することができる孔をその中心に持つプラスチック製蓋に嵌合した。このミルを、実施例1で使用したものと同じローラーで回転した。96%硫酸338.5gを、ミルへ約1.5分間をかけて添加し、褐鉄鉱鉱石および酸を、15分間反応させた。ミル内部の温度を、反応期間中は、携帯型レーザー温度計でモニタリングした。測定した温度は97℃から121℃まで変動し、最高温度は酸の添加完了後約1分で記録した。反応期間の完了後、ミルをローラーから取り外し、蓋を外し、破砕されたサプロライト鉱石306.1g(湿量基準)を、褐鉄鉱/酸混合物へ、30g/L Mg(MgSO4として)水溶液510gと共に添加した。MgSO4溶液を使用し、手順において補給水としての、精製およびニッケル/コバルト回収後に残存する貧液(barren solution)を使用する作用を模倣した。密に嵌合した磁器製蓋を使用し、ミルを閉鎖し、全部の鉱石/酸混合物を、存在する固形粒子のほとんどがサイズ100メッシュ未満になるまで、約60分間粉砕した。
【0092】
鉱石試料の質量および含水量を基に、全体のサプロライト/褐鉄鉱比は、乾量基準で1.1であり、全体の酸/鉱石比は、0.65(乾燥鉱石および100%H2SO4を基準)であった。
【0093】
その後ミルの内容物は、実施例1において使用したものと同じ反応ケトルに排出した。粗いスクリーンを使用し研削媒体を捕獲し、30g/L Mg溶液764gを使用し、ボールミルおよび粉砕媒体をすすいだ。すすぎ液は、反応ケトルに追加した。
【0094】
反応ケトルを、攪拌しながら95〜100℃に加熱した。浸出は24時間実行した。浸出の最初の5時間、二酸化硫黄ガスで浸出スラリーを泡立て、スラリーの酸化還元電位を540〜600mV(飽和Ag/AgCl参照電極に対して)に制御した。スラリーの試料を浸出期間を通じて採取し、濾過し、固形物を洗浄し、かつこの溶液および固形物をアッセイした。
【0095】
浸出期間の完了時に、20%石灰岩スラリーを浸出スラリーへ約2時間かけて添加し、浸出スラリーを95℃でpH3.0に中和した。中和された浸出スラリーを採取し、その後全体のスラリーを濾過した。
【0096】
この浸出期間の結果を、表9に示す。
【0097】
【表9】

【0098】
浸出期間完了時の固形物をアッセイし、0.21% Ni、0.006% Co、31.3% Fe、0.65% Mg、14.9% Siおよび1.39% Sであった。「珪素タイ(silicon tie)」(ゼロ珪素浸出と仮定し、鉱石および残渣の珪素アッセイを使用し、浸出残渣質量を計算し、ならびに鉱石および残渣質量およびアッセイを使用し、抽出を計算する)を使用して計算したNiおよびCo抽出は、各々、約93.1%および95.5%であった。鉄抽出はおおまかに9%であった。
【0099】
pH3への中和後、溶液をアッセイし、6.23g/L Ni、0.29g/L Co、および3.24g/L Feであった。固形物をアッセイし、0.22% Ni、0.009% Co、26.5% Feおよび11.7% Siであった。浸出液中の鉄の約74%は中和時に沈殿し;その結果、中和後の正味の鉄抽出はわずかに約2%であった。ニッケル約2%およびコバルト4%が、中和時に鉄と共沈した。
【0100】
この実施例は、本発明の好ましい態様のひとつのいくつかの重要な特徴を例示している:高いニッケル抽出は、最初に褐鉄鉱鉱石を硫酸と直接反応し、次にサプロライト鉱石を添加することにより実現することができること;還元剤、この場合二酸化硫黄ガスの浸出スラリーへの添加は、コバルト抽出を増強すること;酸/鉱石反応混合物の養生は、高度の抽出を実現するために不要であること;硫酸と鉱石の間の反応は、極めて迅速であり、極めて発熱性であり、その結果酸/鉱石反応時には非常に高温に到達し、そのため反応速度論が増強され、ならびに硫酸化工程を実行するために必要な装置は、非常に小さいサイズであることができること;ならびに、浸出後の浸出スラリーの部分的中和を使用し、少ない割合の鉄のほとんどを排除し、この浸出はニッケルおよびコバルトの喪失を最小とすること。
【0101】
当業者には、この手順の多くの変更が本発明の広範な範囲内で可能であることは、当然理解されるであろう。当業者は、この説明を基にした本発明は、本発明の目的を実行しかつ目標を満たす他の態様において利用することができることを理解するであろう。
【0102】
本発明の手順は、そのような鉱体の大半を含む、褐鉄鉱およびサプロライトの両方を含有するニッケルラテライト鉱体に広く適用可能である。この手順におけるサプロライト/褐鉄鉱比は、一定の最小サプロライト/褐鉄鉱比が手順において使用される限りは、広範に変動することができる。硫酸を使用する場合、例えば最小比を、第二鉄の酸化物または水酸化物としての、褐鉄鉱およびサプロライト鉱石の「硫酸化可能な」鉄含量の加水分解および沈殿により生成される硫酸により硫酸化することができるサプロライト鉱石の非鉄成分の量を計算することにより、おおまかに決定することができる。酸添加が先に説明されるように計算される、すなわち、酸が褐鉄鉱およびサプロライト鉱石の硫酸化可能な非鉄成分と反応するのに十分であり、それに加えて少量の可溶性鉄に対応し、およびこれらの反応の完了を起動するためにわずかに過剰であるならば、この比はこの最小値と等しいかまたはより大きい値であることができる。
【0103】
以上の開示内容は例証を意図するが、本発明の範囲は、特許請求の範囲により定義される。
【図面の簡単な説明】
【0104】
【図1】本発明の手順の単純化された形のひとつの態様を示す工程系統図である。
【図2】鉄沈殿の種を提供するために浸出残渣の一部がリサイクルされる、本発明の手順の別の態様を示す。
【図3】必要な酸全てが最初に褐鉄鉱鉱石と混合され、次にサプロライト鉱石が得られた褐鉄鉱/酸混合物と混合される、本発明の手順の第三の態様を示す。
【図4】必要な酸全てが最初に褐鉄鉱鉱石と混合され、次に得られた褐鉄鉱/酸混合物へ破砕されたサプロライト鉱石および水が添加され、その後得られる混合物が粉砕され、次に大気圧浸出に供される、本発明の手順の第四の態様を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を含む、褐鉄鉱およびサプロライトを含有するラテライト鉱石を浸出する方法:
(a)褐鉄鉱およびサプロライトを十分な濃無機酸と混合し、鉱石の可溶性非鉄成分を伴う塩を形成する工程;
(b)工程(a)の混合物を、溶解した第二鉄の加水分解を引き起こすのに十分な温度および時間、水で浸出し、これにより鉄含有沈殿が形成され、同時にニッケルまたはコバルトのいずれか少なくとも1種が浸出液へと実質的に溶解する工程;ならびに
(c)浸出液からニッケルまたはコバルト化合物のいずれか少なくとも1種を回収する工程。
【請求項2】
工程(a)が、酸と褐鉄鉱の最初の混合、引き続きのサプロライトの添加により実行される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
鉱石の少なくとも一部が、酸の鉱石との均質な混合を促進するために破砕される、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
サプロライトが個別に破砕され、その後褐鉄鉱および酸の混合物へ添加される、請求項2記載の方法。
【請求項5】
一緒にした褐鉄鉱およびサプロライトが、酸と混合される前に破砕および粉砕される、請求項1記載の方法。
【請求項6】
工程(b)の水浸出が、最高約150℃までの温度でオートクレーブ内で実行される、請求項1、2、4、または5記載の方法。
【請求項7】
工程(b)の水浸出が、約95〜105℃の温度範囲で実行される、請求項6記載の方法。
【請求項8】
工程(b)の水浸出が、約95〜105℃の温度範囲および約15〜70psiaの圧力範囲で実行される、請求項1、2、4、または5記載の方法。
【請求項9】
工程(b)の水浸出が二段階で実行され、第一段階は、大気圧および最高浸出液の沸点までの温度で実行され、ならびに第二段階は、オートクレーブ内で最高約150℃までの温度で実行される、請求項4または5記載の方法。
【請求項10】
酸が、硫酸、塩酸、および硝酸、またはそれらの混合物の群より選択される、請求項4または5記載の方法。
【請求項11】
酸が硫酸であり、および工程(a)で形成される塩が硫酸塩を含む、請求項8記載の方法。
【請求項12】
工程(c)において浸出液からのニッケルまたはコバルト化合物のいずれかの少なくとひとつを回収する工程が、予め固/液分離せずに浸出液へイオン交換樹脂を添加する工程を含む、請求項1、2、4、または5記載の方法。
【請求項13】
浸出液が、工程(c)の浸出液からニッケルまたはコバルト化合物のいずれかの少なくともひとつを回収する前に、最初に沈殿から分離される、請求項1、2、4または5記載の方法。
【請求項14】
還元剤が、鉱石からのコバルトの溶解を増強するために、工程(b)の水浸出時に添加される、請求項1、2、4、または5記載の方法。
【請求項15】
還元剤が、二酸化硫黄、硫化水素、可溶性の亜硫酸水素塩および亜硫酸塩化合物、または可溶性第一鉄化合物の群から選択される、請求項14記載の方法。
【請求項16】
工程(b)の水浸出の前に、工程(a)の混合物を養生する工程を更に含む、請求項1または2記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2008−504439(P2008−504439A)
【公表日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−518426(P2007−518426)
【出願日】平成17年6月27日(2005.6.27)
【国際出願番号】PCT/CA2005/001003
【国際公開番号】WO2006/000098
【国際公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【出願人】(507001818)スカイ リソーシーズ インコーポレーティッド (2)
【Fターム(参考)】