説明

火花点火式内燃機関のピストン

【課題】ノッキングに起因するエロージョンの抑制に好適な火花点火式内燃機関のピストンを提供する。
【解決手段】本発明に係る火花点火式内燃機関のピストンは外周側面2と頂面3とを有する。外周側面2に複数のリング溝4,5,6が形成され、最上のリング溝4の上方にトップランド8が形成され、トップランド8に属する外周側面2がトップランド外周側面9を形成する。頂面3に複数の吸気バルブリセス12F,12Rが設けられ、これら吸気バルブリセス間の頂面3がスキッシュ部15を形成する。スキッシュ部に接続するトップランド外周側面9Lの少なくとも一部に、熱伝導性を高めるための高熱伝導部20を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は火花点火式内燃機関のピストンに係り、特に、ノッキングに起因するエロージョンの抑制に好適なピストンの構造に関する。
【背景技術】
【0002】
ガソリンエンジンに代表される火花点火式内燃機関において、ノッキングがピストンに与えるダメージが問題視されている。特に近年、内燃機関の高過給化や高出力化に伴い、この問題はより一層深刻になってきている。
【0003】
ノッキングによるダメージを受けたピストンの表面にはエロージョンが発生している。このエロージョンとは、圧力波によるピストン表面の剥離をいう。エロージョンが発生すると、外観的には本来滑らかなピストン表面が粗くなり、所謂梨地状に変化する。従来より適合や材料の強化により解決を試みているが、効率の悪化やコスト増の問題があり、効果的な対策とは言い難い。
【0004】
なお関連技術として、特許文献1には、ピストン冠面を熱伝導性の低い材料で構成し、ピストンリング溝部を熱伝導性の高い材料で構成したピストンが開示されている。この構造は、燃焼時の冷却損失の低減と共に、従来同様のトライボ性能の維持を狙いとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−231830号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで本発明者は、鋭意研究の結果、ノッキングに起因するエロージョンの発生について、その原因およびメカニズムを解明するに至った。
【0007】
そこで本発明はかかる事情に鑑みて創案されたものであり、その一の目的は、ノッキングに起因するエロージョンの抑制に好適な火花点火式内燃機関のピストンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の態様によれば、
火花点火式内燃機関のピストンであって、
外周側面と頂面とを有し、
前記外周側面に複数のリング溝が形成され、そのうち最上のリング溝の上方にトップランドが形成され、該トップランドに属する前記外周側面がトップランド外周側面を形成し、
前記頂面に複数の吸気バルブリセスが設けられ、これら吸気バルブリセス間の前記頂面がスキッシュ部を形成し、
前記スキッシュ部に接続する前記トップランド外周側面の少なくとも一部に、熱伝導性を高めるための高熱伝導部を設けた
ことを特徴とする火花点火式内燃機関のピストンが提供される。
【0009】
本発明の第2の態様によれば、
火花点火式内燃機関のピストンであって、
外周側面と頂面とを有し、
前記外周側面に複数のリング溝が形成され、そのうち最上のリング溝の上方にトップランドが形成され、該トップランドに属する前記外周側面がトップランド外周側面を形成し、
前記頂面に複数の吸気バルブリセスが設けられ、これら吸気バルブリセス間の前記頂面がスキッシュ部を形成し、
前記スキッシュ部の少なくとも一部に、断熱性を高めるための断熱部を設けた
ことを特徴とする火花点火式内燃機関のピストンが提供される。
【0010】
本発明の第3の態様によれば、
火花点火式内燃機関のピストンであって、
外周側面と頂面とを有し、
前記外周側面に複数のリング溝が形成され、そのうち最上のリング溝の上方にトップランドが形成され、該トップランドに属する前記外周側面がトップランド外周側面を形成し、
前記頂面に複数の吸気バルブリセスが設けられ、これら吸気バルブリセス間の前記頂面がスキッシュ部を形成し、
前記スキッシュ部に接続する前記トップランド外周側面の少なくとも一部に、熱伝導性を高めるための高熱伝導部を設け、
前記スキッシュ部の少なくとも一部に、断熱性を高めるための断熱部を設けた
ことを特徴とする火花点火式内燃機関のピストンが提供される。
【0011】
好ましくは、前記高熱伝導部が、前記スキッシュ部に接続する前記トップランド外周側面の少なくとも一部に、ピストン素材よりも高い熱伝導性を有する材料の被膜を形成することにより、形成される。
【0012】
好ましくは、前記断熱部が、前記スキッシュ部の少なくとも一部に、ピストン素材よりも高い断熱性を有する材料の被膜を形成することにより、形成される。
【0013】
好ましくは、前記複数の吸気バルブリセスの底面が傾斜されており、前記複数の吸気バルブリセスが前記ピストンの前記外周側面に内接するように延びており、これにより、前記トップランド外周側面の上端縁部が、前記複数の吸気バルブリセスとの接続位置において、下方に切り欠かれたような形状となっている。
【0014】
好ましくは、前記吸気バルブリセスの数が二つであり、
平面視においてピストン中心線を原点とする直交座標を定義し、ピストンピン穴の中心線に平行なX軸と、該X軸に直交するY軸とを定義した場合、前記スキッシュ部に接続する前記トップランド外周側面、前記二つの吸気バルブリセスおよび前記スキッシュ部が前記Y軸に対し対称に配置されている。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ノッキングに起因するエロージョンの抑制に好適な火花点火式内燃機関のピストンを提供することができるという、優れた効果が発揮される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明が適用される前のベースピストンを示す斜視図である。
【図2】本発明が適用される前のベースピストンを示す平面図である。
【図3】実機試験に用いた試験用ピストンの平面図である。
【図4】プラグ位置におけるノッキング時筒内圧波形を示すグラフである。
【図5】トップランド位置におけるノッキング時筒内圧波形を示すグラフである。
【図6】プラグ位置ノック振幅とトップランド位置ノック振幅との関係を示すグラフである。
【図7】CFD解析に用いたピストンの平面図である。
【図8】CFD解析の結果を示す斜視図である。
【図9】CFD解析の結果を示す斜視図である。
【図10】CFD解析の結果を示す斜視図である。
【図11】CFD解析の結果を示す斜視図である。
【図12】3者の圧力波が衝突する様子を示す平面図である。
【図13】本発明の第1実施形態に係るピストンの斜視図である。
【図14】第1実施形態において3者の圧力波が衝突する様子を示す平面図である。
【図15】第1実施形態の第1変形例に係るピストンの斜視図である。
【図16】第1実施形態の第2変形例に係るピストンの斜視図である。
【図17】本発明の第2実施形態に係るピストンの斜視図である。
【図18】第2実施形態において3者の圧力波が衝突する様子を示す平面図である。
【図19】第2実施形態の変形例に係るピストンの斜視図である。
【図20】本発明の第3実施形態に係るピストンの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好適実施形態を添付図面に基づき説明する。
【0018】
図1および図2は、本発明が適用される前のベースとなるピストンを示す。図1は斜視図、図2は平面図である。ピストン1は、ガソリンエンジン等の火花点火式内燃機関のピストンであり、その用途は問わないが例えば自動車用である。
【0019】
図2に示す平面視において、ピストン中心線Oを原点とする直交座標を定義し、図の左右方向に延びる軸をX軸、図の上下方向に延びる軸をY軸とする。X軸は、ピストンピン穴(図示せず)の中心線およびクランク軸(図示せず)の中心線に平行である。他方、Y軸はX軸と直交する。X軸を境に図の下側が吸気側、上側が排気側である。またY軸を境に図の右側を前、左側を後とする。X軸は、ピストン1を吸気側と排気側とに仕切り、あるいは二分割する。Y軸は、ピストン1を前側と後側とに仕切り、あるいは二分割する。ピストン中心線Oに沿った紙面厚さ方向手前側を上、奥側を下とする。
【0020】
図1および図2に示すように、ピストン1は外周側面2と頂面3とを有する(以下、それぞれピストン外周側面2およびピストン頂面3という)。ピストン外周側面2には、それぞれピストンリングを収容するための複数(三つ)のリング溝4,5,6が形成されている。最上のリング溝すなわちトップリング溝4にはトップリング(図示せず)が収容され、中間のリング溝すなわちセカンドリング溝5にはセカンドリング(図示せず)が収容され、最下のリング溝すなわちオイルリング溝6にはオイルリング(図示せず)が収容される。オイルリング溝6の下方にはスカート7が形成されている。
【0021】
他方、ピストン1において、トップリング溝4の上方にはトップランド8が形成されている。ここでトップランド8とは、トップリング溝4の上方に位置するピストン1の肉の部分全体をいう。このトップランド8に属するピストン外周側面2がトップランド外周側面9を形成する。なお、トップリング溝4とセカンドリング溝5との間にはセカンドランド10が形成され、セカンドリング溝5とオイルリング溝6との間にはサードランド11が形成されている。
【0022】
ピストン頂面3においては、その吸気側に複数の吸気バルブリセス12F,12Rが設けられ、その排気側に複数の排気バルブリセス13F,13Rが設けられている。吸気バルブリセス12F,12Rは吸気弁(図示せず)との干渉を避けるためのものであり、ピストン頂面3に凹設されている。また排気バルブリセス13F,13Rは排気弁(図示せず)との干渉を避けるためのものであり、ピストン頂面3に凹設されている。
【0023】
本実施形態において、吸気バルブリセスの数は二つである。前側の吸気バルブリセスを12Fで表し、後側の吸気バルブリセスを12Rで表す。これら吸気バルブリセス12F,12Rは平面視(図2)において略半円状であり、同一径を有し、Y軸に対して対称に配置されている。
【0024】
同様に、排気バルブリセスの数も二つである。前側の排気バルブリセスを13Fで表し、後側の排気バルブリセスを13Rで表す。これら排気バルブリセス13F,13Rは平面視(図2)において略半円状であり、同一径を有するが、吸気バルブリセス12F,12Rよりも小径である。そしてY軸に対して対称に配置されている。
【0025】
これら吸気バルブリセス12F,12Rおよび排気バルブリセス13F,13Rの底面は、知られているように、X軸から離れるほど位置が下がるように傾斜されている。そして前側吸気バルブリセス12Fおよび後側吸気バルブリセス12Rは、それぞれピストン外周側面2に内接するように延びており、これにより、トップランド外周側面9の上端縁部は、前側吸気バルブリセス12Fおよび後側吸気バルブリセス12Rとの接続位置において、下方に切り欠かれたような形状となっている。この前側および後側の切欠き形状部を図1に14F,14Rで示す。これら前側および後側切欠き形状部14F,14RはY軸に対し対称に配置されている。
【0026】
二つの吸気バルブリセス12F,12Rの間のピストン頂面3はスキッシュ部15を形成する。スキッシュ部15は、ピストン頂面3の外周側に位置され、平面視(図2)において略扇状であり、エンジン運転時にシリンダブロックとシリンダヘッド(いずれも図示せず)の隙間から流出するスキッシュ流が積極的に当たる部位となる。スキッシュ部15はY軸に対し対称に配置されている。
【0027】
スキッシュ部15に接続するトップランド外周側面9は、トップランド外周側面9のうち、図中Lで示される範囲の部分、即ち吸気バルブリセス12F,12Rとスキッシュ部15との境界が最も半径方向外側となる二つのピストン周方向位置の間におけるトップランド外周側面9の部分である。このスキッシュ部15に接続するトップランド外周側面9を、符号9Lを用いて区別して表し、スキッシュ接続トップランドともいう。スキッシュ接続トップランド9Lは、Y軸に対し対称に配置されている。
【0028】
スキッシュ接続トップランド9Lの周方向中間位置9LmはY軸上に存在する。そしてこの周方向中間位置9Lmから周方向に沿って前後に最も離れた位置に、スキッシュ接続トップランド9Lの前端9Lfおよび後端9Lrが存在する。前側および後側切欠き形状部14F,14Rは、これら前端9Lfおよび後端9Lrよりも、さらに周方向中間位置9Lmから周方向に沿って前後に離れた位置に存在する。
【0029】
ピストン頂面3の中心部には、僅かに窪まされた中心凹部16が形成されている。そして中心凹部16の真上に、図示しない点火プラグがシリンダヘッドに取り付けられて設けられることとなる。
【0030】
次に、燃焼室内でのノッキングに起因してピストンに発生するエロージョンについて、本発明者の知見により得られた発生原因とメカニズムを説明する。
【0031】
まず本発明者は実機試験を行った。図3に実機試験に用いた試験用ピストン101を示す。この試験用ピストン101は、前述したベースピストン1とは異なるが、ベースピストン1と同様、ピストン頂面103に吸気バルブリセス112F,112Rと排気バルブリセス113F,113Rとが二つずつ設けられている。
【0032】
図中、着色部分はノッキング発生率の分布を表す。着色が濃いほどノッキング発生率が高いことを意味し、第1領域A1はノッキング発生率が最も高く、第2領域A2は中間程度のノッキング発生率で、第3領域A3はノッキング発生率が最も低い。
【0033】
また、スキッシュ接続トップランド109Lにエロージョンが顕著に見られた。但しスキッシュ部115にも、スキッシュ接続トップランド109Lほどではないが、エロージョンが見られた。
【0034】
図4〜図6に多点圧力解析の結果を示す。図4は、点火プラグの位置(プラグ位置という)で筒内圧センサを用いて筒内圧を計測したときのノッキング時筒内圧波形を示す。横軸はクランク角であり、縦軸は筒内圧である。図5は、スキッシュ接続トップランド109Lの周方向中間位置に対向するシリンダ内周面の位置(トップランド位置という)で筒内圧センサを用いて筒内圧を計測したときのノッキング時筒内圧波形を示す。横軸はクランク角であり、縦軸は筒内圧である。なおこれら波形はハイパスフィルタを通した後での波形である。
【0035】
これら図を比較すると分かるように、トップランド位置ではプラグ位置よりも、ノッキング時の筒内圧波形が大きく振動しており、自着火に伴う圧力波が大きくなっている。
【0036】
これら図4および図5に示したような筒内圧波形を複数取得し、その結果に基づき作成したのが図6のグラフである。横軸はプラグ位置ノック振幅であり、縦軸はトップランド位置ノック振幅である。ここでノック振幅とは、図4および図5に示したような1燃焼当たりの筒内圧波形のうちの最大振幅Wをいう。
【0037】
図6から分かるように、トップランド位置ノック振幅はプラグ位置ノック振幅に対し概ね比例関係にあるが、その比例係数は1より大きく、しかも図中円内に示すように、トップランド位置ノック振幅がプラグ位置ノック振幅より顕著に大きくなることがある。この結果から、スキッシュ接続トップランド109Lの位置において、ノッキング時に圧力が急激に増大していることが分かる。なお図6の円内のデータは、図4および図5の筒内圧波形に基づいたデータである。
【0038】
次に本発明者はCFD解析を行った。図7にCFD解析に用いたピストン201を示す。このCFD解析用ピストン201も、前述したベースピストン1とは異なるが、ベースピストン1と同様、ピストン頂面203に吸気バルブリセス212F,212Rと排気バルブリセス213F,213Rとが二つずつ設けられている。なおこのCFD解析用ピストン201は、筒内直噴エンジンのものであり、ピストン頂面203には燃料衝突用凹部219が設けられている。
【0039】
このCFD解析においては、初期条件として、矢印Bで示す領域を既燃領域として温度を2000℃に設定し、矢印Cで示す領域を未燃領域として温度を1000℃に設定し、その境界層から自着火を模擬した圧力を伝播させている。ピストン201の位置は圧縮上死点後(ATDC)15°に固定している。
【0040】
図8〜図11はCFD解析の結果であり、それぞれ開始から6μsec後、12μsec後、18μsec後、24μsec後の状態を示している。まず図8に示す6μsec後では、吸気バルブリセス212F,212Rから、スキッシュ接続トップランド209Lの位置(即ちスキッシュ接続トップランド209Lと、これに対向するシリンダ内周面との間の隙間)に、圧力波P1F,P1Rが進入している。特にこの進入は、トップランド外周側面209の上端縁部における切欠き形状部214F,214Rを通じて行われる。なお切欠き形状部214F,214Rがない場合もあるが、このときには吸気バルブリセス212F,212Rの内側壁を乗り越えて進入が行われる。
【0041】
次に、図9に示す12μsec後では、スキッシュ部215から圧力波P2がY軸方向且つ半径方向外側に進み、スキッシュ接続トップランド209Lの位置に進入する。他方、既に進入した吸気バルブリセス212F,212Rからの圧力波P1F,P1Rは、スキッシュ接続トップランド209Lとこれに対向するシリンダ内周面との隙間を、周方向に回り込んで進む。つまり、これら3者の圧力波P1F,P1R,P2は互いに合流する方向に向かっている。
【0042】
次に、図10に示す18μsec後では、スキッシュ部15からの圧力波P2がトップリング(図示せず)に衝突し、当該衝突位置で圧力が部分的に上昇する。
【0043】
次に、図11に示す24μsec後では、吸気バルブリセス212F,212Rからの圧力波P1F,P1Rが、圧力上昇したスキッシュ部15からの圧力波P2と衝突する。よって3者の圧力波P1F,P1R,P2の衝突位置で圧力が急激に上昇する。この衝突位置ないし圧力上昇位置は、Y軸近傍の位置、即ちスキッシュ接続トップランド209Lの周方向中間位置の近傍の位置である。
【0044】
このように、自着火により発生した圧力波は、スキッシュ接続トップランド209Lの周方向中間位置の近傍で、重ね合わさって増幅することが判明した。そしてこのことが、図3に示したような実機のピストン101において、スキッシュ接続トップランド109L(特にその周方向中間位置)にエロージョンが顕著に発生する理由と推測される。図12に3者の圧力波P1F,P1R,P2が衝突する様子を示す。
【0045】
3者の圧力波P1F,P1R,P2が衝突する位置は3重点をなす。このような3重点が現れる理由は、これら圧力波P1F,P1R,P2の伝播速度がY軸に対し対称であること、言い換えれば前後に対称であることと考えられる。
【0046】
そこで、これら圧力波P1F,P1R,P2のうち一つでも伝播速度を変えれば、即ち3者の伝播速度のバランスを崩せば、3重点の発生は回避できることとなる。本発明はこのような知見に基づき創案されたものである。
【0047】
[第1実施形態]
図13に、前記ベースピストン1に対して本発明を適用した第1実施形態に係るピストンを示す。なおベースピストン1と同一の構成要素には図中同一符号を付し、説明を省略する。
【0048】
図示するように、第1実施形態に係るピストン1Aにおいては、スキッシュ接続トップランド9Lの少なくとも一部に、熱伝導性を高めるための高熱伝導部20(ハッチング領域で示す)が設けられている。ここでピストン1A自体は、アルミニウム、鉄またはそれらの合金等のピストン素材により一体に形成されている。高熱伝導部20は、このようなピストン1Aのスキッシュ接続トップランド9Lの少なくとも一部に、異なる材料を被覆したり特殊加工を施したりすることにより形成され、これにより高熱伝導部20はその隣接部位よりも高い熱伝導性を有するようになる。
【0049】
図示例において、高熱伝導部20は、Y軸に対して対称的に二つ設けられている。前側の高熱伝導部20を符号20Fで表し、後側の高熱伝導部20を符号20Rで表す。Y軸付近、すなわちスキッシュ接続トップランド9Lの周方向中間位置9Lm付近の未設置領域21には、高熱伝導部20が設けられていない。この未設置領域21を除き、Y軸より前方のスキッシュ接続トップランド9L全体には前側高熱伝導部20Fが設けられ、Y軸より後方のスキッシュ接続トップランド9L全体には後側高熱伝導部20Rが設けられている。
【0050】
これら高熱伝導部20F,20Rは、例えば、ピストン素材よりも熱伝導性あるいは熱伝導率の高い材料(例えば銅等の金属)を溶射し、スキッシュ接続トップランド9Lの該当箇所の表面に当該材料の被膜を形成することにより、形成される。あるいは、高熱伝導部20F,20Rは、例えば、スキッシュ接続トップランド9Lの該当箇所の表面の面粗度を粗くすることにより、形成される。
【0051】
かかる高熱伝導部20F,20Rを設けると、高熱伝導部20F,20Rの雰囲気温度が低下するため、吸気バルブリセス12F,12Rからの圧力波(図14のP1F,P1R参照)が高熱伝導部20F,20Rを通過する際の伝播速度が局所的に遅くなる。従って、吸気バルブリセス12F,12Rからの圧力波と、スキッシュ部15からの圧力波(図14のP2参照)との3者の同時衝突を回避し、各圧力波のタイミングをずらし、圧力増幅箇所を分散することができる。そして3重点の発生を回避し、特にスキッシュ接続トップランド9Lにおいて顕著であったエロージョンの発生を抑制することが可能である。
【0052】
図14に3者の圧力波P1F,P1R,P2が衝突する様子を示す。衝突は、スキッシュ接続トップランド9Lの周方向中間位置9Lmよりも、圧力波P1F,P1Rの上流側で発生する。すなわち、前側吸気バルブリセス12Fからの圧力波P1Fは、スキッシュ接続トップランド9Lの周方向中間位置9Lmよりも上流側で、スキッシュ部15からの圧力波P2と衝突する。他方、後側吸気バルブリセス12Rからの圧力波P1Rは、スキッシュ接続トップランド9Lの周方向中間位置9Lmよりも上流側で、スキッシュ部15からの圧力波P2と衝突する。このように2者の圧力波でしか衝突が行われないこと、および、衝突位置が2箇所に分散されることから、圧力増幅の度合いを低減すると共に、その箇所を分散し、エロージョンの発生を抑制することが可能である。
【0053】
図15には、第1実施形態の第1変形例に係るピストンを示す。このピストン1Bにおいては、スキッシュ接続トップランド9Lの全体に高熱伝導部20が設けられている。このようにしても、吸気バルブリセス12F,12Rからの圧力波の伝播速度を局所的に遅くし、前記同様の作用効果を果たせる。
【0054】
図16には、第1実施形態の第2変形例に係るピストンを示す。このピストン1Cにおいては、前側高熱伝導部20Fのみが設けられ、後側高熱伝導部20Rは省略されている。こうすると前側の吸気バルブリセス12Fからの圧力波P1Fの伝播速度のみが遅くなるが、これによっても3重点の発生を回避して前記同様の作用効果を果たせる。
【0055】
第1実施形態の変形例は他にも様々なものが考えられる。ここでは高熱伝導部20の高さがスキッシュ接続トップランド9Lの高さと同一である例を示したが、前者を後者より小さくしてもよい。例えば前側の高熱伝導部20Fについて、これを未設置領域21より前方のスキッシュ接続トップランド9L全体に設けるようにしたが、部分的に設けるようにしてもよく、形状も長方形に限らない。後側の高熱伝導部20Rについても同様である。
【0056】
[第2実施形態]
図17に、前記ベースピストンに対して本発明を適用した第2実施形態に係るピストンを示す。なおベースピストンと同一の構成要素には図中同一符号を付し、説明を省略する。
【0057】
図示するように、第2実施形態に係るピストン1Dにおいては、スキッシュ部15の少なくとも一部に、断熱性を高めるための断熱部30(ドット領域で示す)が設けられている。前記同様、ピストン1D自体は、アルミニウム、鉄またはそれらの合金等のピストン素材により一体に形成されている。断熱部30は、このようなピストン1Dのスキッシュ部15の少なくとも一部に、異なる材料を被覆したり特殊加工を施したりすることにより形成され、これにより断熱部30はその隣接部位よりも高い断熱性を有するようになる。
【0058】
図示例において、断熱部30はスキッシュ部15の全体に設けられている。断熱部30は、例えば、ピストン素材よりも断熱性の高い材料の被膜を、スキッシュ部15に形成することにより、形成される。このような例としては、ピストン素材がアルミニウムまたはアルミニウム合金である場合、スキッシュ部15にアルマイト処理を行うことが好適である。こうすると、スキッシュ部15の表面にアルミニウムの陽極酸化皮膜(具体的にはアルミナAl23の被膜)が生成される。この陽極酸化皮膜が、ピストン素材よりも断熱性の高い被膜をなす。
【0059】
あるいは、断熱部30は、例えばスキッシュ部15を発泡構造とすることにより形成される。
【0060】
かかる断熱部30を設けると、断熱部30の雰囲気温度が上昇するため、スキッシュ部15からの圧力波(図18のP2参照)がスキッシュ部15を通過する際の伝播速度が局所的に速くなる。従って、吸気バルブリセス12F,12Rからの圧力波と、スキッシュ部15からの圧力波との同時衝突を回避し、各圧力波のタイミングをずらし、圧力増幅箇所を分散することができる。そして3重点の発生を回避し、特にスキッシュ接続トップランド9Lにおいて顕著であったエロージョンの発生を抑制することが可能である。
【0061】
図18に3者の圧力波P1F,P1R,P2が衝突する様子を示す。この第2実施形態でも第1実施形態と同様、衝突が、スキッシュ接続トップランド9Lの周方向中間位置9Lmよりも圧力波P1F,P1Rの上流側で発生する。よって圧力増幅の度合いを低減すると共に、その箇所を分散し、エロージョンの発生を抑制することが可能である。
【0062】
図19には、第2実施形態の変形例に係るピストンを示す。このピストン1Eにおいては、スキッシュ部15の一部にのみ断熱部30が設けられている。ここでスキッシュ部15は略扇形となっているが、断熱部30は、スキッシュ部15と相似でそれより小さい略扇形となっている。このようにしても、スキッシュ部15からの圧力波の伝播速度を局所的に速くし、前記同様の作用効果を果たせる。
【0063】
この第2実施形態の変形例もその他様々なものが考えられる。スキッシュ部15と異なる形状あるいは非相似形状の断熱部30としてもよい。
【0064】
[第3実施形態]
図20に第3実施形態に係るピストンを示す。この第3実施形態に係るピストン1Fは、第1実施形態で述べた高熱伝導部20と、第2実施形態で述べた断熱部30との両方を備える。図示例は、図13で示した例と図17で示した例との組み合わせである。
【0065】
これによれば、高熱伝導部20F,20Rにより、吸気バルブリセス12F,12Rからの圧力波の伝播速度を局所的に遅くすると共に、断熱部30により、スキッシュ部15からの圧力波の伝播速度を局所的に速くすることができる。従って、この第3実施形態によっても前記同様の作用効果を果たせる。
【0066】
この第3実施形態の変形例も様々なものが考えられ、例えば図15で示した例と図17で示した例との組み合わせ、図13で示した例と図19で示した例との組み合わせ等、第1実施形態と第2実施形態との任意の組み合わせが可能である。
【0067】
以上、本発明の実施形態を詳細に説明したが、本発明の実施形態は他にも種々考えられる。例えば、2つより多い例えば3つの吸気弁を有する内燃機関において、ピストンに同数の3つの吸気バルブリセスが設けられる場合にも、本発明は適用可能である。この場合、互いに隣り合う2つの吸気バルブリセスの組が2組設けられるが、それぞれの組に対して、前記実施形態で述べたような構造を適用することが可能である。
【0068】
本発明には、特許請求の範囲によって規定される本発明の思想に包含されるあらゆる変形例や応用例、均等物が含まれる。従って本発明は、限定的に解釈されるべきではなく、本発明の思想の範囲内に帰属する他の任意の技術にも適用することが可能である。
【符号の説明】
【0069】
1A〜1F ピストン
2 外周側面
3 頂面
4 トップリング溝
5 セカンドリング溝
6 サードリング溝
8 トップランド
9 トップランド外周側面
9L スキッシュ接続トップランド
12F 前側吸気バルブリセス
12R 後側吸気バルブリセス
14F 前側切欠き形状部
14R 後側切欠き形状部
15 スキッシュ部
20 高熱伝導部
30 断熱部
O ピストン中心線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
火花点火式内燃機関のピストンであって、
外周側面と頂面とを有し、
前記外周側面に複数のリング溝が形成され、そのうち最上のリング溝の上方にトップランドが形成され、該トップランドに属する前記外周側面がトップランド外周側面を形成し、
前記頂面に複数の吸気バルブリセスが設けられ、これら吸気バルブリセス間の前記頂面がスキッシュ部を形成し、
前記スキッシュ部に接続する前記トップランド外周側面の少なくとも一部に、熱伝導性を高めるための高熱伝導部を設けた
ことを特徴とする火花点火式内燃機関のピストン。
【請求項2】
火花点火式内燃機関のピストンであって、
外周側面と頂面とを有し、
前記外周側面に複数のリング溝が形成され、そのうち最上のリング溝の上方にトップランドが形成され、該トップランドに属する前記外周側面がトップランド外周側面を形成し、
前記頂面に複数の吸気バルブリセスが設けられ、これら吸気バルブリセス間の前記頂面がスキッシュ部を形成し、
前記スキッシュ部の少なくとも一部に、断熱性を高めるための断熱部を設けた
ことを特徴とする火花点火式内燃機関のピストン。
【請求項3】
火花点火式内燃機関のピストンであって、
外周側面と頂面とを有し、
前記外周側面に複数のリング溝が形成され、そのうち最上のリング溝の上方にトップランドが形成され、該トップランドに属する前記外周側面がトップランド外周側面を形成し、
前記頂面に複数の吸気バルブリセスが設けられ、これら吸気バルブリセス間の前記頂面がスキッシュ部を形成し、
前記スキッシュ部に接続する前記トップランド外周側面の少なくとも一部に、熱伝導性を高めるための高熱伝導部を設け、
前記スキッシュ部の少なくとも一部に、断熱性を高めるための断熱部を設けた
ことを特徴とする火花点火式内燃機関のピストン。
【請求項4】
前記高熱伝導部が、前記スキッシュ部に接続する前記トップランド外周側面の少なくとも一部に、ピストン素材よりも高い熱伝導性を有する材料の被膜を形成することにより、形成される
ことを特徴とする請求項1または3に記載の火花点火式内燃機関のピストン。
【請求項5】
前記断熱部が、前記スキッシュ部の少なくとも一部に、ピストン素材よりも高い断熱性を有する材料の被膜を形成することにより、形成される
ことを特徴とする請求項2または3に記載の火花点火式内燃機関のピストン。
【請求項6】
前記複数の吸気バルブリセスの底面が傾斜されており、前記複数の吸気バルブリセスが前記ピストンの前記外周側面に内接するように延びており、これにより、前記トップランド外周側面の上端縁部が、前記複数の吸気バルブリセスとの接続位置において、下方に切り欠かれたような形状となっている
ことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の火花点火式内燃機関のピストン。
【請求項7】
前記吸気バルブリセスの数が二つであり、
平面視においてピストン中心線を原点とする直交座標を定義し、ピストンピン穴の中心線に平行なX軸と、該X軸に直交するY軸とを定義した場合、前記スキッシュ部に接続する前記トップランド外周側面、前記二つの吸気バルブリセスおよび前記スキッシュ部が前記Y軸に対し対称に配置されている
ことを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の火花点火式内燃機関のピストン。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate


【公開番号】特開2012−41853(P2012−41853A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−183187(P2010−183187)
【出願日】平成22年8月18日(2010.8.18)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】