説明

炊飯器

【課題】玄米炊飯において、使い勝手がよく、おいしく、栄養成分、機能性成分を増量させ、さらに夏場も安心して炊飯できる炊飯器を提供する。
【解決手段】調理物を収納する鍋1と、鍋加熱手段2と、蓋4と、鍋の内部を加圧または減圧する圧力発生手段10と、炊飯を実行する制御手段13とを備え、制御手段13は炊飯工程として、圧力発生手段10による圧力処理工程と鍋加熱手段2の制御による高温浸水工程および低温浸水工程とを実行する、玄米専用の前処理工程を有するものである。これによって、玄米専用の前処理工程を実行することで、長時間浸漬させる必要がないことから使い勝手がよく、抗酸化物質や脂質の酸化も抑え、γ―アミノ酪酸量を増加させ、旨み成分であるグルタミン酸の減少させず、おいしく、栄養成分、機能性成分を増量させ、さらに夏場も安心して炊飯できる炊飯器を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、玄米炊飯ができる炊飯器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、玄米は各種ミネラルをはじめ栄養成分が豊富で、アミノ酸の一種であるγ―アミノ酪酸や、イノシトール、フェルラ酸、ビタミンE、フィチン酸といった抗酸化物質である機能性成分が含まれ、健康志向の高まりとともに注目されてきている。
【0003】
例えば、γ―アミノ酪酸には、血液の流れを活発にし、代謝機能を促進する働きがあることから、血圧上昇抑制効果や腎機能や肝機能を改善する効果があり、玄米や胚芽米などで、増量させるには、20℃〜30℃の温水に1〜2晩漬け発芽させるとよいことが知られている。これは、発芽させることにより、酵素の活性が高まり、内部に含まれるグルタミン酸が酵素により代謝されて、γ―アミノ酪酸が生成されるためであると考えられている。
【0004】
そこで、炊飯器において、このような機能性成分を増量させるため、胚芽米を所定時間、所定温度で水に浸漬して発芽させる発芽工程を設けることにより、家庭で簡単に発芽米を作り、γ―アミノ酪酸を増やして、引き続き炊飯することができるものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2001−245786号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記従来の構成では、発芽工程で胚芽米などを水に長時間浸漬させる必要があり、炊きあげるまでに時間がかかることから使い勝手が悪い。また、γ―アミノ酪酸に特化した構成になっていることから、それ以外の機能性成分である抗酸化物質は、長時間浸漬させている間に酸化されてしまう。
【0006】
また、γ―アミノ酪酸は、玄米中のアミノ酸の一つで旨み成分であるグルタミン酸を、内在酵素GAD(グルタミン酸脱炭酸酵素)の作用で分解させることにより生成されるが、このγ―アミノ酪酸の増加にともない、旨み成分であるグルタミン酸は減少してしまう。一方、長時間浸漬させている間に、内部に含まれる脂質も酸化されやすくなり、脂質の酸化により生成されるアルデヒド類が増えて、炊きあがったご飯の不快臭が増加する原因になる。
【0007】
このように、従来の構成では、おいしさ、栄養成分の増量といった観点に、十分に応えるものにはなっていない。また、夏場では、長時間浸漬が腐敗を引き起こす可能性もある。
【0008】
本発明は、前記従来の課題を解決するもので、特に玄米炊飯において、長時間浸漬させる必要がないことから使い勝手がよく、機能性成分である抗酸化物質や脂質の酸化も抑え、発芽工程を持たない従来炊飯よりは、γ―アミノ酪酸量を増加させ、旨み成分であるグルタミン酸の減少させず、おいしく、栄養成分、機能性成分を増量させ、さらに夏場も安心して炊飯できる炊飯器を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記従来の課題を解決するために、本発明の炊飯器は、調理物を収納する鍋と、前記鍋を加熱する鍋加熱手段と、前記鍋の開口部を覆う蓋と、前記鍋の内部を加圧または減圧する圧力発生手段と、前記鍋加熱手段と圧力発生手段を制御し炊飯を実行する制御手段とを備え、前記制御手段は炊飯工程として、圧力発生手段による圧力処理工程と鍋加熱手段の制御による高温浸水工程および低温浸水工程とを実行する、玄米専用の前処理工程を有するものである。
【0010】
これによって、玄米専用の前処理工程を実行することで、長時間浸漬させる必要がないことから使い勝手がよく、機能性成分である抗酸化物質や脂質の酸化も抑え、γ―アミノ酪酸量を増加させ、旨み成分であるグルタミン酸の減少させず、おいしく、栄養成分、機能性成分を増量させ、さらに夏場も安心して炊飯できる炊飯器を提供することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の炊飯器は、特に玄米炊飯において、使い勝手がよく、機能性成分である抗酸化物質や脂質の酸化も抑え、γ―アミノ酪酸量を増加させ、旨み成分であるグルタミン酸の減少させず、おいしく、栄養成分、機能性成分を増量させ、さらに夏場も安心して炊飯できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
第1の発明は、調理物を収納する鍋と、前記鍋を加熱する鍋加熱手段と、前記鍋の開口部を覆う蓋と、前記鍋の内部を加圧または減圧する圧力発生手段と、前記鍋加熱手段と圧力発生手段を制御し炊飯を実行する制御手段とを備え、前記制御手段は炊飯工程として、圧力発生手段による圧力処理工程と鍋加熱手段の制御による高温浸水工程および低温浸水工程とを実行する、玄米専用の前処理工程を有する炊飯器としたものである。これによって、玄米専用の前処理工程を実行することで、長時間浸漬させる必要がないことから使い勝手がよく、機能性成分である抗酸化物質や脂質の酸化も抑え、γ―アミノ酪酸量を増加させ、旨み成分であるグルタミン酸の減少させず、おいしく、栄養成分、機能性成分を増量させ、さらに夏場も安心して炊飯できる。
【0013】
第2の発明は、特に、第1の発明において、玄米専用の前処理工程における圧力処理工程は、鍋の圧力を減少後、圧力を増大させ、高温浸水工程は、鍋内部の水温を65℃以上80℃以下とし、低温浸水工程は鍋内部の水温を40℃以上65℃未満としたことにより、玄米への吸水を促進させつつ、最適な温度設定により、酵素の活性が高まり、澱粉や蛋白質の分解、γ―アミノ酪酸の生成、ミネラルの遊離を促進し、甘味、旨味が高まるとともに、軟らかく、γ―アミノ酪酸が増加し、遊離ミネラル量を増加させることができる。
【0014】
第3の発明は、特に、第1または第2の発明において、玄米専用の前処理工程において、圧力処理工程と高温浸水工程の終了後に低温浸水工程を実行するようにしたことにより、中心部への吸水を促進した後に、酵素活性が最も高まる低温浸水工程を実行し、内在酵素の活性を効率よく高め、短時間に酵素による分解を促進させることができる。
【0015】
第4の発明は、特に、第1〜第3のいずれか1つの発明において、高温浸水工程と低温浸水工程の時間はいずれも1分以上60分以下であることにより、長時間浸漬させる必要がないことから、玄米内部の抗酸化物質や脂質の酸化を抑制することができる。さらに、夏場に、腐敗の心配をすることなく炊飯することができる。
【0016】
第5の発明は、特に、第1〜第4のいずれか1つの発明において、鍋を冷却する冷却手段を備え、高温浸水工程後に鍋内部の水温を低温浸水工程の温度まで冷却することにより、より短時間で、効率よく吸水を高め、酵素の活性を高めることができる。
【0017】
第6の発明は、特に、第1〜第5のいずれか1つの発明において、圧力発生手段として空気ポンプを設け、鍋内の空気を放出する空気減圧処理と、鍋に空気を投入する空気加圧処理とを実行することにより、米の吸水性が高まり、効率よく、短時間に酵素による分解を促進することができる。空気の投入による圧力処理なので、調理物への加熱は発生せず、鍋加熱手段の加熱で調理物に応じた温度での圧力処理ができる。
【0018】
第7の発明は、特に、第1〜第5のいずれか1つの発明において、圧力発生手段として鍋に蒸気を投入する蒸気投入手段を設け、鍋内に蒸気投入後、密封して鍋の圧力を減少させる蒸気減圧処理と、密封を開放し空気を投入する空気加圧処理とを実行することにより、鍋加熱手段により鍋の底面から加熱し、鍋の内部に投入された蒸気が調理物および鍋の内面に付着して凝縮することで発熱し、鍋の上部から加熱することができ、均一に適度な温度に加熱して浸水することができるので、酵素による分解が的確に実施され、各種成分を増量させることができる。
【0019】
第8の発明は、特に、第1〜第5のいずれか1つの発明において、圧力発生手段として鍋に蒸気を投入する蒸気投入手段を設け、鍋内に蒸気投入後、密封して鍋の圧力を減少させる蒸気減圧処理と、密封鍋内に蒸気を投入する蒸気加圧処理とを実行することにより、密封した構成での蒸気投入による加圧であるから、予め蒸気減圧処理で投入された鍋内の熱が蒸気加圧処理で機外に排出されず、蒸気の熱は、浸水工程での加熱のためにも有効利用できる。
【0020】
第9の発明は、特に、第7または第8の発明において、蒸気投入手段は蒸気を生成する水容器と水容器を加熱する水容器加熱手段とを有することにより、水容器と鍋は発生した蒸気を投入する蒸気通路で連通するので、蒸気通路への外気の流入がなく、設定した温度の蒸気で蒸気減圧処理および蒸気加圧処理ができる。また、鍋の調理物への加熱量や浸水温度が変動せず、さらに吸水性が安定するので、各種成分の生成量をより正確に、効率よく生成することができる。
【0021】
第10の発明は、特に、第1〜第9のいずれか1つの発明において、蓋の開閉を検知する蓋開閉検知手段を有し、玄米専用の前処理工程において蓋が一定時間以上開放された後に圧力処理を実行することにより、蓋開閉検知手段の検知信号に基づき、制御手段は蓋の開閉時間を算出し、蓋が一定時間以上開放されたことを検出すると、調理物の温度変化は僅かな場合も、圧力処理を実行することで、鍋内を適正な温度と湿度に維持するとともに、調理物の加熱と吸水を適正に行うことができる。よつて、各種成分の生成量などをより正確に、効率よく調整することができる。
【0022】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、この実施の形態によって本発明が限定されるものではない。
【0023】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1における炊飯器を示すものである。
【0024】
図に示すように、入力操作部15を有する炊飯器本体14は、米や水などの調理物を収容する鍋1を着脱自在に内部に有し、炊飯器本体14の上面を覆う蓋4を開閉自在に上部に有している。蓋4は蓋ヒンジ5を中心に回転する。鍋1は、鍋1の底面に対応して設けられた加熱コイルなどの鍋加熱手段2、側面に対応して設けられた加熱コイルなどの鍋側面加熱手段3により加熱される。鍋温度検知手段11は、鍋1の底部に接触して設けられ鍋1の温度を検知する。蓋4は、蓋4の下部を構成する蓋カバーに着脱自在に設けられ蓋4が閉じられた状態のとき鍋1の開口部を覆う内蓋6と、この内蓋6を誘導加熱する加熱コイルなどの内蓋加熱手段8と、内蓋6の温度を検知する内蓋温度検知手段12とを有している。
【0025】
蓋4が閉じられた状態のとき、鍋1と内蓋6の間には隙間ができるが、その隙間は内蓋6に取り付けられたループ状のパッキン7で封止され、鍋1内は密閉される。
【0026】
圧力調整手段9は、内蓋6に設けられた鍋1内の蒸気を放出する蒸気孔6aと、球状の弁体9aを移動させて蒸気孔6aを開閉する蒸気孔開閉手段9bと、鍋1内の圧力を検知する圧力検知手段9cとにより構成されている。さらに蓋4には、空気ポンプよりなる圧力発生手段10が配置され、鍋1内の空気や蒸気を蒸気孔6aより機外に排出することで鍋1内を減圧する。この蒸気孔6aを密封し、圧力発生手段10で行う空気減圧処理や、蒸気孔6aを開放し大気圧の空気を投入する空気加圧処理といった圧力処理は制御手段13で制御され実施される。
【0027】
そして、前記鍋加熱手段2、鍋側面加熱手段3と圧力発生手段10を制御し炊飯を実行する制御手段13は、図2に示すように、炊飯工程として、圧力発生手段10による圧力処理工程と鍋加熱手段2、鍋側面加熱手段3の制御による高温浸水工程および低温浸水工程とを実行する、玄米専用の前処理工程を有するものである。
【0028】
前記玄米専用の前処理工程における圧力処理工程は、鍋1の圧力を減少後、圧力を増大させ、高温浸水工程は、鍋1内部の水温を65℃以上80℃以下とし、低温浸水工程は鍋1内部の水温を40℃以上65℃未満としたものである。また、圧力処理工程と高温浸水工程の終了後に低温浸水工程を実行するようにしている。さらに、高温浸水工程と低温浸水工程の時間はいずれも1分以上60分以下としたものである。
【0029】
一般に、炊飯器において、米への吸水率は、浸水工程時の温度が高いほど上昇する。しかし、60℃以上では糊化は始まることから、この温度帯での浸水が長くなりすぎると糊化反応により米の表面部の組織が軟化し、米中の成分が溶出しやすくなったり、表面部が糊化することにより、かえって吸水が妨げられ、炊きあがりのご飯の表面が崩れやすくなったり、硬くなったりする。
【0030】
しかし、玄米では、外層部が果皮や種皮と言われる硬い組織に覆われており、60℃以上の浸水温度であっても、ある一定の時間以内であれば、精白米のように吸水が妨げられるようなことがなく、玄米内部に水を浸透させることができる。また玄米は、外層部にもさまざまな酵素を含み、浸水させることにより、それぞれの酵素が、澱粉や蛋白質だけでなく、機能性成分にも作用する。
【0031】
機能性成分の一つであるフィチン酸は、炊飯前にはミネラルと結合した形で存在しており、そのまま体内に摂取しても、ミネラルそのものが吸収されにくくなっている。しかし、酵素の働きでフィチン酸が分解されることにより、ミネラルが遊離し、体内で吸収されやすくなる。
【0032】
それぞれの酵素は、よく作用する温度帯を有しており、一般には40℃から65℃あたりでよく働くと言われている。ただし、酵素の中には、耐熱性の酵素も存在し、65℃以上の高温でも作用するものもある。
【0033】
玄米専用の前処理工程において、まず玄米を糊化温度以上の65℃以上80℃以下の高温浸水温度で一定時間維持することにより、外層部の果皮や種皮が熱により損傷を受け、亀裂を生じ、玄米内部への吸水が促進される。このとき耐熱性があり、高温でも働く酵素の加水分解は促進され、各種成分を効率よく生成することが可能になる。
【0034】
その後、玄米内部にある澱粉の糊化が促進し、吸水が妨げられる前に、糊化温度以下であり、酵素がよく作用する40℃以上65℃未満の低温浸水工程を実施するために、浸水温度を下げる。この温度を下げる過程では、浸透圧の影響でさらに玄米内部への吸水が促進され、低温浸水工程では、さらに酵素が効率よく作用し、澱粉や蛋白質の加水分解が促進され、糖やアミノ酸が効率よく生成される。
【0035】
γ―アミノ酪酸に関しても、吸水が促進されている分、酵素の作用が高まることから、生成量が増加する。
【0036】
一方、機能性成分であるフィチン酸の酵素分解も促進され、ミネラルとの結合が切れ、遊離した状態になるので、栄養成分であるミネラルの体内での吸収を高めることが可能となる。
【0037】
また、高温浸水工程時間、低温浸水工程時間が1分以上60分以下であることから、長時間浸漬させる必要がなく、機能性成分である抗酸化物質や脂質の酸化も抑制できる。さらに夏場、腐敗する心配もない。
【0038】
また、玄米専用の前処理工程時に蒸気孔を開閉し、高温浸水工程および低温浸水工程を行うとともに、圧力発生手段10を作動させ、鍋1内の圧力を調整し、鍋1内を減圧、例えば、鍋1内の気体を排出する空気ポンプを運転することで大気圧より減圧し、その後圧力を増大する圧力処理工程を実行することで、玄米の中心部まで吸水させることができることから、さらに酵素による加水分解が促進し、短時間で栄養成分、機能性成分の生成量を効率よく増量させることが可能になる。
【0039】
ここで、玄米3合(444g)を炊飯する場合を例にとって、本実施の形態における炊飯器の炊飯工程を説明する。
【0040】
(表1)に、炊飯コースと工程条件を示した。
【0041】
【表1】

【0042】
本実施の形態では、玄米専用の前処理工程条件として、高温浸水工程の温度と時間、低温浸水の温度と時間を示した。また、従来例1では、通常の炊飯器の浸水工程条件として、浸水の温度と時間を示し、従来例2では、発芽工程を炊飯工程に備えた炊飯器の発芽工程条件として浸水の温度と時間を示した。
【0043】
本実施の形態における前処理工程時の圧力処理は、まず蒸気孔6aを密封し、圧力発生手段10で空気減圧処理を行う。次に、蒸気孔6aを開放し、大気圧の空気を投入する空気加圧処理を行うことで実施した。
【0044】
(表2)では、それぞれの炊飯コースで炊飯したときの、炊きあがり玄米ご飯の甘味、旨味、硬さ、γ―アミノ酪酸量、遊離ミネラル量、抗酸化活性を示した。
【0045】
【表2】

【0046】
甘味は、還元糖量、旨味は、グルタミン酸量とアスパラギン酸量、硬さは官能評価の結果を示した。また、γ―アミノ酪酸量、ミネラル量、抗酸化活性については、従来例1と比較したときの比率で示した。
【0047】
抗酸化活性は、玄米に含まれる抗酸化物質の量に比例する。つまり、その量が多ほど抗酸化活性も高くなる。
【0048】
まず、鍋1に玄米と規定量の水を収納し、入力操作部15で玄米専用の前処理を有した玄米炊飯コースを選択し、炊飯ボタンを押すことにより、鍋温度検知手段11で測定した鍋1の温度に基づいて、炊飯工程が開始される。
【0049】
まず、図2に示したように、高温浸水工程は、昇温も含めて75℃で15分間実行され、同時に1気圧から0.6気圧まで減圧し、さらにすぐに1気圧に増圧する圧力処理を行う。その後、低温浸水工程は、降温も含めて60℃で45分間実行され、その後、図には示していないが、炊きあげ、むらしの各工程が行われ、炊飯が終了する。
【0050】
ここで、冷却手段を備えた炊飯器の場合は、低温浸水温度までの冷却が短時間で実現し、炊飯時間の短縮が可能になる。
【0051】
(表2)により、本実施の形態の炊飯コースでは、還元糖量は150mg、グルタミン酸量は2.2mg、アスパラギン酸量は5.7mgと、従来例1や従来例2と比較して多くなった。
【0052】
ここでは、まず75℃の高温浸水工程を行うことにより、外層部の果皮や種皮が熱により損傷を受け、亀裂が入り、玄米内部への吸水が促進される。その後、減圧と増圧を実行する圧力処理を行うことにより、より中心部への吸水を促進させることができる。このとき、耐熱性があり、高温でも働く酵素による加水分解が、吸水により促進されたことと、75℃の高温による熱損傷によって、澱粉や蛋白質の分解が生じ、その後、低温浸水工程で60℃まで冷却することにより、浸透圧の影響でさらに吸水が促進され、酵素の活性も高まり、澱粉や蛋白質の加水分解がさらに促進され、糖やアミノ酸が効率よく生成され、従来例より増量したと考えられる。
【0053】
また、(表2)により、本実施の形態の炊飯コースでは、従来例1や従来例2と比較して、軟らかくなった。これは、本実施の形態では、酵素や熱や水の作用により、果皮や種皮の損傷や澱粉の糊化が促進されたことから、軟らかく食べやすくなったと考えられる。
【0054】
また、(表2)により、本実施の形態では、γ―アミノ酪酸も、吸水が促進されている分、酵素の作用が高まり、また、従来例1と同等の炊飯時間で従来例1より生成量が増加した。
【0055】
さらに、本実施の形態では、機能性成分であるフィチン酸への酵素作用も効率よく促進され、遊離されるミネラル量が、従来例1や従来例2より増加するという結果が得られた。
【0056】
また、本実施の形態では、従来例1や従来例2と比較して、抗酸化活性も向上した。これは、本実施の形態では、長時間浸漬させる必要がないことから、含まれる抗酸化物質の酸化を抑制することが可能になり、抗酸化活性が高まったと考えられる。
【0057】
また、本実施の形態では、脂質の酸化も抑制することも可能になり、炊きあがり玄米ご飯の不快臭も抑制することができた。
【0058】
以上のように、本実施の形態の炊飯器は、玄米専用の前処理工程を有した炊飯コースを選択し、炊飯することにより、前処理工程において、65℃以上80℃以下の高温浸水工程を1分以上60分以下行うと同時に圧力処理を行い、その後、40℃以上65℃未満の低温浸水工程で1分以上60分以下行うことで、甘味、旨味が増加し、軟らかく、おいしい玄米ご飯を得ることができる。
【0059】
また、発芽工程を持たない従来炊飯よりは、γ―アミノ酪酸が増量し、長時間浸漬させる必要がないことから、機能性成分である抗酸化物質の酸化は抑制され、さらに脂質の酸化も抑制されることから、不快臭も少なく、夏場でも、腐敗の心配がなく、安心して炊飯することができる。
【0060】
(実施の形態2)
図3は、本発明の実施の形態2における炊飯器を示している。実施の形態1の炊飯器と基本構成は同様であるので、相違点を中心に説明する。
【0061】
図に示すように、本実施の形態では、圧力発生手段16として、鍋1の内部に蒸気を投入する蒸気投入手段を有し、水容器16aおよびこの水容器16a内の水を加熱して蒸気を生成する水容器加熱手段16bを有している。水容器16aと鍋1は発生した蒸気を投入する蒸気通路16cで連通している。
【0062】
ここで、玄米3合(444g)を炊飯する場合を例にとって、本実施の形態における炊飯器の炊飯工程を説明する。
【0063】
本実施の形態における玄米専用の前処理工程は、(表1)に示した実施の形態1と同様の条件であり、高温浸水工程の実施と同時に圧力処理を行い、その後、低温浸水工程が実施される。
【0064】
本実施の形態における圧力処理は、蒸気孔6aを開放し、水容器16aで生成した蒸気を鍋1に投入し、次に蒸気孔6aを密封し、鍋1の圧力を減少させる蒸気減圧処理を行い、さらに、蒸気孔6aを開放し、大気圧の空気を投入する空気加圧処理を行うことができるようにしたものである。
【0065】
この圧力処理において、鍋加熱手段2により鍋1の底面から加熱し、鍋1の内部に投入された蒸気が玄米、水および鍋1の内面に付着して凝縮し発熱することで、鍋1の上部から加熱することが可能になることから、調理物を上下から均一に適度な温度に加熱して浸水することができる。
【0066】
また、この圧力処理では、鍋1内に蒸気を充満させ、蒸気孔6aを閉じた状態で、蒸気の投入を停止すると、鍋1の内部の蒸気は凝縮し、鍋1や調理物の温度に応じた蒸気圧と鍋1の内部に残存する空気とによる圧力まで減圧され(蒸気減圧処理とよぶ)、その後に蒸気孔6aを開放することで空気が鍋1に投入されて、大気圧まで加圧される。このような均一加熱と圧力処理とにより、米の中心部までの吸水が、短時間で効率よく実行される。前処理終了後は、炊きあげ、むらしの各工程が行なわれ、炊飯が終了する。
【0067】
本実施の形態では、水容器16aで生成した蒸気を、むらし工程でも投入している。実施の形態のむらし工程での蒸気温度は130℃、蒸気量は16gであった。
【0068】
このときの蒸気温度は、130℃に限定されるものでなく、その量も16gに限定されるものでない。
【0069】
(表2)により、本実施の形態の炊飯コースでは、還元糖量は165mg、グルタミン酸量は2.6mg、アスパラギン酸量6.8mgと、従来例1や従来例2と比較して多くなり、さらに実施の形態1よりその量は多くなった。
【0070】
これは、実施の形態1と同様、玄米専用の前処理工程により、玄米内部への吸水が促進され、その結果、酵素が効率よく作用し、澱粉や蛋白質の加水分解が促進されたことと、さらにむらし工程で蒸気が投入されたことにより、さらに澱粉や蛋白質の分解が促進され、糖やアミノ酸が効率よく生成されたためであると考えられる。
【0071】
また、(表2)により、本実施の形態の炊飯コースは、従来例1や従来例2と比較して、軟らかくなり、実施の形態1よりさらに軟化が促進していた。これは、本実施の形態では、むらし工程において投入された蒸気により、澱粉の分解が促進され、さらに軟らかく食べやすくなったと考えられる。
【0072】
また、(表2)により、本実施の形態でも、γ―アミノ酪酸も、吸水が促進されている分、酵素の作用が高まることから、従来例1と同等の炊飯時間で従来例1よりは生成量が増加した。
【0073】
さらに、本実施の形態でも、機能性成分であるフィチン酸への酵素作用も効率よく促進され、遊離されるミネラル量が、従来例1や従来例2より増加するという結果が得られた。
【0074】
また、本実施の形態では、従来例1や従来例2と比較して、抗酸化活性も向上し、実施の形態1よりさらに高まっていた。
【0075】
これは、本実施の形態では、長時間浸漬させる必要がなく、さらにむらし工程において、蒸気を鍋1内に投入していることから、鍋1内の酸素濃度が低濃度で維持され、含まれる抗酸化物質の酸化を抑制することが可能となり、抗酸化活性が高まったと考えられる。
【0076】
また、本実施の形態では、蒸気投入による鍋1内の酸素濃度の低下により、脂質の酸化もさらに抑制され、炊きあがり玄米ご飯の不快臭をさらに抑制することができた。
【0077】
以上のように、本実施の形態の炊飯器は、実施の形態1の炊飯器と同様の構成になっており、さらに、鍋1の内部に蒸気を投入する圧力発生手段16を有し、水容器16aおよびこの水容器16a内の水を加熱して蒸気を生成する水容器加熱手段16bを有することにより、玄米専用の処理工程およびむらし工程においても、蒸気を投入することにより、機能性成分である抗酸化物質の酸化を抑制し、発芽工程を持たない従来炊飯よりは、γ―アミノ酪酸が増加し、結果、玄米に含まれている機能性成分を高めることが可能となる。これにより、甘味、旨味も増加し、軟らかく、脂質の酸化も抑制できることから、不快臭も少なく、おいしい玄米ご飯を得ることができる。また、長時間浸漬させる必要がないことから、夏場も、腐敗の心配がなく、安心して炊飯することができる。
【0078】
(実施の形態3)
次に、本発明の実施の形態3における炊飯器について説明する。
【0079】
本実施の形態の炊飯器は、図3に示すような構成であって、玄米専用の前処理工程時の圧力処理として、蒸気孔6aを開放し、水容器16aで生成した蒸気を鍋1に投入し、次に蒸気孔6aを密封し、鍋1の圧力を減少させる蒸気減圧処理を行う。さらに、蒸気孔6aを密封した状態で水容器加熱手段16bを作動させ、発生した蒸気を圧力発生手段16にて鍋1に投入することで、鍋1内の圧力を高める蒸気加圧処理を行い、最後に蒸気孔6aを開放し、大気圧の空気を投入する空気加圧処理を行うことができるようにしたものである。
【0080】
このような圧力処理において、鍋加熱手段2により鍋1の底面から加熱し、鍋1の内部に投入された蒸気が米、水および鍋1の内面に付着して凝縮し加熱することで、鍋1の上部から加熱することができ、米や食材を上下から均一に適度な温度に加熱して浸水できる。また、鍋1内に蒸気を充満させ、蒸気孔6aを閉じた状態で、蒸気の投入を停止すると、鍋1の内部の蒸気は凝縮し、鍋1や調理物の温度に応じた蒸気圧と鍋1の内部に残存する空気とによる圧力まで減圧され(これを蒸気減圧処理と呼ぶ)、その後に蒸気を投入することで、鍋1内の調理物をさらに加熱しながら、圧力を高めて、吸水を促進させる。最後に、蒸気孔6aを開放することで空気が鍋1に投入されて、大気圧まで加圧することができる。このような均一加熱と圧力処理とにより、より米の中心部までの吸水が、短時間で効率よく実行され、酵素も効率よく働き、甘味、旨味も増加し、軟らかく、脂質の酸化もさらに抑制できることから、不快臭も少なく、おいしい玄米ご飯を得ることができる。
【0081】
また、さらに浸漬時間が短くなり、腐敗の心配がなく、安心して炊飯することができる。
【0082】
なお、このような減圧状態での蒸気加圧処理では、低温の蒸気が得られるので、調理物の温度が過剰に上昇して、米澱粉が糊化することなく、適温で浸水できる。また、水容器16aの水の蒸発が低温で行えるので、必要なタイミングで瞬時に発生させることができる。
【0083】
(実施の形態4)
次に、本発明の実施の形態4における炊飯器について説明する。
【0084】
本実施の形態の炊飯器は、図1、図3を組み合わせたような構成であって、玄米専用の前処理工程時の圧力処理として、蒸気孔6aを開放し、水容器16aで生成した蒸気を鍋1に投入する。次に蒸気孔6aを密封し、鍋1の圧力を減少させる蒸気減圧処理を行う。さらに、蒸気孔6aを開放し、大気圧の空気を投入する空気加圧処理を行う。さらに、蒸気孔6aを開放し、空気ポンプよりなる圧力発生手段10の動作を反転し、大気圧の空気を投入する空気加圧処理を行う。
【0085】
この圧力処理において、鍋1内は大気圧より低圧の真空減圧から、大気圧より高圧の圧力加圧に変動するものであり、圧力の変動幅を大きくすることで、さらに効率よく、中心部への吸水がはかれる。
【0086】
(実施の形態5)
次に、本発明の実施の形態5における炊飯器について説明する。
【0087】
本実施の形態の炊飯器は、図1と同様な構成になっている。ただし、空気ポンプよりなる圧力発生手段10に加えて、図示していないが、鍋1内に空気を加圧して投入できる別の空気ポンプを備えたものである。
【0088】
本実施の形態の炊飯器における玄米専用の前処理工程時の圧力処理として、まず蒸気孔6aを密封し、圧力発生手段10で空気減圧処理を行う。次に、蒸気孔6aを開放し、大気圧の空気を投入する空気加圧処理を行う。さらに、蒸気孔6aを密封し、別の空気ポンプで空気加圧処理を行う。
【0089】
この圧力処理において、鍋1内は大気圧より低圧の真空減圧から、大気圧より高圧の圧力加圧に変動するものであり、圧力の変動幅を大きくすることで、さらに効率よく、中心部への吸水がはかれる。
【0090】
なお、浸水工程における真空減圧および圧力加圧を空気ポンプで実行するものであり、圧力処理は大気圧より低圧の真空減圧から、大気圧より高圧の圧力加圧に変動することができるとともに、調理物の加熱が無いので、所定温度、特に常温でも吸水性能が向上する。
【0091】
なお、空気ポンプ2個を搭載する代わりに、1個のポンプで空気の流れを反転させたり、経路を切り替えたりしてもよい。
【0092】
なお、空気ポンプよりなる圧力発生手段10で大気圧より減圧し、蒸気投入手段よりなる圧力発生手段16で大気圧以上に加圧する、あるいは圧力発生手段16で大気圧より減圧し、圧力発生手段10で大気圧以上に加圧するものでもよい。
【0093】
なお、内蓋6の開閉を検知する蓋開閉検知手段4aを有し、浸水工程において内蓋6が一定時間以上開放された後に圧力処理が実行されるようにしてもよい。蓋開閉検知手段4aの検知信号に基づき、制御手段13は内蓋6の開閉時間を算出し、内蓋6が一定時間以上開放されたことを検出すると、調理物の温度変化は僅かな場合も、圧力処理を実行する。浸水工程で鍋1内を適正な温度と湿度に維持するとともに、調理物の加熱と吸水を適正に行うことができるもので、常に安定して選択した炊飯コースを実現できる。
【0094】
なお、本実施の形態において、圧力発生手段10と16とを備えることで、種々の圧力処理が行えることを示したが、適宜、いずれか一つで構成できるものであることは言うまでもない。
【0095】
なお、圧力処理において、蒸気減圧処理と空気減圧処理とを組み合わせた減圧処理や、蒸気加圧処理と空気加圧処理を組み合わせた加圧処理のいずれかを採用してもよいものである。それぞれに小型の蒸気投入手段や空気ポンプで高度な減圧処理や加圧処理を行えるものである。なお、圧力発生手段として、蒸気投入手段や空気ポンプに限定するものでもない。
【産業上の利用可能性】
【0096】
以上のように、本発明にかかる炊飯器は、特に玄米炊飯において、使い勝手がよく、機能性成分である抗酸化物質や脂質の酸化も抑え、γ―アミノ酪酸量を増加させ、旨み成分であるグルタミン酸の減少させず、おいしく、栄養成分、機能性成分を増量させ、さらに夏場も安心して炊飯できるので、家庭用、業務用あるいは熱源の如何に関わらず炊飯器全般に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】本発明の実施の形態1における炊飯器の断面図
【図2】同炊飯器における玄米専用の前処理工程の説明図
【図3】本発明の実施の形態2における炊飯器の断面図
【符号の説明】
【0098】
1 鍋
2 鍋加熱手段
3 鍋側面加熱手段
4 蓋
4a 蓋開閉検知手段
6 内蓋
6a 蒸気孔
7 パッキン
9 圧力調整手段
10、16 圧力発生手段
13 制御手段
14 炊飯器本体
16a 水容器
16b 水容器加熱手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
調理物を収納する鍋と、前記鍋を加熱する鍋加熱手段と、前記鍋の開口部を覆う蓋と、前記鍋の内部を加圧または減圧する圧力発生手段と、前記鍋加熱手段と圧力発生手段を制御し炊飯を実行する制御手段とを備え、前記制御手段は炊飯工程として、圧力発生手段による圧力処理工程と鍋加熱手段の制御による高温浸水工程および低温浸水工程とを実行する、玄米専用の前処理工程を有する炊飯器。
【請求項2】
玄米専用の前処理工程における圧力処理工程は、鍋の圧力を減少後、圧力を増大させ、高温浸水工程は、鍋内部の水温を65℃以上80℃以下とし、低温浸水工程は鍋内部の水温を40℃以上65℃未満とした請求項1に記載の炊飯器。
【請求項3】
玄米専用の前処理工程において、圧力処理工程と高温浸水工程の終了後に低温浸水工程を実行するようにした請求項1または2に記載の炊飯器。
【請求項4】
高温浸水工程と低温浸水工程の時間はいずれも1分以上60分以下である請求項1〜3のいずれか1項に記載の炊飯器。
【請求項5】
鍋を冷却する冷却手段を備え、高温浸水工程後に鍋内部の水温を低温浸水工程の温度まで冷却する請求項1〜4のいずれか1項に記載の炊飯器。
【請求項6】
圧力発生手段として空気ポンプを設け、鍋内の空気を放出する空気減圧処理と、鍋に空気を投入する空気加圧処理とを実行する請求項1〜5のいずれか1項に記載の炊飯器。
【請求項7】
圧力発生手段として鍋に蒸気を投入する蒸気投入手段を設け、鍋内に蒸気投入後、密封して鍋の圧力を減少させる蒸気減圧処理と、密封を開放し空気を投入する空気加圧処理とを実行する請求項1〜5のいずれか1項に記載の炊飯器。
【請求項8】
圧力発生手段として鍋に蒸気を投入する蒸気投入手段を設け、鍋内に蒸気投入後、密封して鍋の圧力を減少させる蒸気減圧処理と、密封鍋内に蒸気を投入する蒸気加圧処理とを実行する請求項1〜5のいずれか1項に記載の炊飯器。
【請求項9】
蒸気投入手段は蒸気を生成する水容器と水容器を加熱する水容器加熱手段とを有する請求項7または8に記載の炊飯器。
【請求項10】
蓋の開閉を検知する蓋開閉検知手段を有し、玄米専用の前処理工程において蓋が一定時間以上開放された後に圧力処理を実行する請求項1〜9のいずれか1項に記載の炊飯器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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