説明

炊飯器

【課題】糠の栄養や旨みが残った炊飯米を得ることができ、その上、実用的で、一般家庭に普及させることができる炊飯器を提供する。
【解決手段】炊飯器は、炊飯釜内に水と共に入れられた米を攪拌する攪拌翼,撹拌モータ104と、内釜を加熱する加熱部と、加熱部および攪拌モータ104を制御する制御装置131とを備える。制御装置131は、内釜内に水と共に入れられた米を攪拌部で攪拌することにより、内釜内の米の表面の糠を予め設定された量削る第1攪拌工程と、内釜内の水を入れ替えること、または、吸着材を用いることにより、内釜内の水が浄化された後、内釜内の水および米を攪拌部で攪拌することにより、第1攪拌工程で削り残した糠を削る第2攪拌工程と、内釜内の水に予め設定された時間浸すことにより、内釜内の水を米に吸水させる浸し工程とを、内釜を加熱部で加熱する前に順次行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は炊飯器に関する。
【背景技術】
【0002】
炊飯前に精白米を洗うことは常識として広く一般に認識されているが、炊飯前の米を洗う作業は面倒であるので、これを自動化するための技術が開発されている。
【0003】
特許文献1(実開昭62−182132号公報)に開示された炊飯器では、炊飯釜の上部に取り付けられる蓋体に撹拌羽根を回転可能に取り付けており、この攪拌羽根を回転させて米を洗っている。
【0004】
一方、従来、美味しい炊飯米を得るために様々な炊飯器が市販されているが、精米後の各家庭での米の保存状態によって同じ炊飯器を使用しても炊き上がりが異なってしまう。すなわち、精米直後の米は美味しく炊けるが、精米後室温で保存した米は、精白米表面の脂質層が徐々に酸化するため、炊飯時に吸水不足となり、美味しく炊けないことが度々あった。特に、梅雨から夏にかけては室温の上昇と共に脂質層の酸化スピードは速まり、新米が出てくる直前の8月から9月の米から美味しい炊飯米を得ることはできなかった。
【0005】
上記炊飯米の美味しさを改善する技術としては、特許文献2(特開2009−201439号公報)や特許文献3(特開2000−139374号公報)に開示されている。
【0006】
上記特許文献2では、炊飯の際、長期保存で劣化した無洗米にコラーゲンペプチドを添加することで食感の改善を行っている。
【0007】
上記特許文献3では、米を洗う洗米工程と、この洗米工程を経て水切りされた米を浸漬する浸漬工程と、この浸漬工程を経て水切りされた米を加水する加水工程との全てにおいて、有隔膜電解にて生成された電解生成水(酸性水およびアルカリ性水)を使用することで、古米の改質効果を得ている。
【0008】
しかしながら、上記特許文献1には、栄養素や旨みが凝縮されている糠を適量残す方法が全く記載されていない。したがって、上記特許文献1の炊飯器では、糠の栄養や旨みが残った炊飯米が得られない。
【0009】
また、上記特許文献2では、炊飯の度に、コラーゲンペプチドの添加が必要となるので、コストがかかってしまう。また、上記コラーゲンペプチドの添加が忘れられる可能性がある。したがって、上記コラーゲンペプチドの添加はあまり実用的ではない。
【0010】
また、上記特許文献3では、電解生成水の用意が可能な場合のみ、古米の改質効果が得られるものである。したがって、上記改質効果を奏する炊飯器は一般家庭に広く普及させることは難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】実開昭62−182132号公報
【特許文献2】特開2009−201439号公報
【特許文献3】特開2000−139374号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
そこで、本発明の課題は、糠の栄養や旨みが残った炊飯米を得ることができ、その上、実用的で、一般家庭に普及させることができる炊飯器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、本発明の炊飯器は、
炊飯釜と、
上記炊飯釜内に水と共に入れられた米を攪拌する攪拌部と、
上記炊飯釜を加熱する加熱部と、
上記攪拌部および上記加熱部を制御するシーケンス制御部と
を備え、
上記シーケンス制御部は、
上記炊飯釜内に水と共に入れられた米を上記攪拌部で攪拌することにより、上記炊飯釜内の米の表面の糠を予め設定された量削る第1攪拌工程と、
上記炊飯釜内の水を入れ替えること、または、吸着材を用いることにより、上記炊飯釜内の水が浄化された後、上記炊飯釜内の水および米を上記攪拌部で攪拌することにより、上記第1攪拌工程で削り残した糠を削る第2攪拌工程と、
上記炊飯釜内の水に予め設定された時間浸すことにより、上記炊飯釜内の水を上記米に吸水させる浸し工程と
を、上記炊飯釜を上記加熱部で加熱する前に順次行うことを特徴としている。
【0014】
上記構成によれば、上記第1攪拌工程において、炊飯釜内に水と共に入れられた米を攪拌部で攪拌する。これにより、上記炊飯釜内の米が互いに摺り合わされて、この米の表面の糠が予め設定された量削られる。
【0015】
次に、上記炊飯釜内の水を入れ替えることより、米の表面から分離した糠を水と共に炊飯釜外に捨てる、または、吸着材を用いることにより、米の表面から分離した糠を吸着材に吸着する。すなわち、上記第1攪拌工程後の炊飯釜内の水を浄化する。
【0016】
次に、上記第2攪拌工程において、炊飯釜内の水および米を攪拌部で攪拌する。これにより、上記炊飯釜内の米が互いに摺り合わされて、第1攪拌工程で削り残した糠が削られる。
【0017】
次に、上記浸し工程において、炊飯釜内の水に予め設定された時間浸すことにより、上記炊飯釜内の水を米に吸水させる。
【0018】
このように、上記第1攪拌工程において、炊飯釜内に水と共に入れられた米を攪拌部で攪拌することにより、炊飯釜内の米の表面の糠を予め設定された量削るので、米の表面に適量の糠を確実に残すことができる。
【0019】
また、上記第1攪拌工程で米の表面から分離した糠は、水と共に炊飯釜外に捨てられるか、または、吸着材に吸着されるので、炊飯米が糠臭くなるのを防ぐことができる。
【0020】
また、上記第1攪拌工程は手洗米を代用する工程とすることができるので、ユーザの手洗米の手間を省くことができるし、また、特に水が冷たい冬場や、爪にネイルアートを施しているユーザにとっては水に手を入れなくても良いというメリットも得られる。
【0021】
また、上記第2攪拌工程において、炊飯釜内の水および米を攪拌部で攪拌することにより、第1攪拌工程で削り残した糠を削っても、米の表面から分離した糠は炊飯釜内に残るので、糠の栄養や旨みが残った炊飯米を炊くことができる。
【0022】
また、上記第2攪拌工程において、炊飯釜内の水および米を攪拌部で攪拌することにより、第1攪拌工程で削り残した糠を削ることによって、炊飯釜内の米がたとえ劣化米であったとしても、吸水阻害を起こす糠の酸化層を減らせるので、浸し工程以降は米の吸水を促進できる。したがって、上記劣化米からでも美味しい炊飯米が得られる。
【0023】
上記米の表面から分離した糠の酸化層は微粒子となり炊飯釜内に残るが、食味の官能試験においては、表面の糠を切削した劣化米から得た炊飯米と、表面の糠を切削していない劣化米から得た炊飯米とを比べると、表面の糠を切削した劣化米から得た炊飯米の方が良食味となる。
【0024】
また、本発明では、上記特許文献2のコラーゲンペプチドの添加や、上記特許文献3の電解生成水を使用しなくても、糠の栄養や旨みが残った炊飯米を炊けるので、実用的で、一般家庭に普及させることができる。
【0025】
一実施形態の炊飯器では、
上記第1攪拌工程は、上記炊飯釜内の米の表面の糠のうち、酸化または変性した部分が削られるように行われる。
【0026】
上記実施形態によれば、上記炊飯釜内の米の表面の糠のうち、酸化または変性した部分が削られるように、第1攪拌工程を行うので、炊飯米をより良食味とすることができる。
【0027】
一実施形態の炊飯器では、
上記第1攪拌工程で削る糠の量は、上記第1攪拌工程が行われる直前の糠の量の36%以上49%以下である。
【0028】
上記実施形態によれば、上記第1攪拌工程で削る糠の量を、第1攪拌工程が行われる直前の糠の量の36%以上49%以下とするので、炊飯米が糠臭くなるのを防ぐことができると共に、栄養素や旨みが凝縮されている糠が過剰に削られるのを防ぐことができる。
【0029】
一実施形態の炊飯器では、
上記吸着材は、活性炭、吸着フィルタまたは吸着性セラミック材である。
【0030】
上記実施形態によれば、上記吸着材は、活性炭、吸着フィルタまたは吸着性セラミック材であるので、炊飯釜内の水の清浄度を高くすることができる。
【0031】
一実施形態の炊飯器では、
上記シーケンス制御部は、上記吸着材を加熱することにより再生する再生工程を行う。
【0032】
上記実施形態によれば、上記再生工程において、吸着材を加熱することにより再生することによって、吸着材を再利用できるようになるので、ランニングコストの増加を抑制できる。
【0033】
一実施形態の炊飯器では、
上記第1攪拌工程が終わってから、上記第2攪拌工程が始まるまでの間は、上記シーケンス制御部が停止する。
【0034】
上記実施形態によれば、上記第1攪拌工程が終わってから、第2攪拌工程が始まるまでの間は、シーケンス制御部が停止するので、省エネ性を高めることができる。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、炊飯釜内に水と共に入れられた米を攪拌する攪拌部と、炊飯釜を加熱する加熱部と、攪拌部および加熱部を制御するシーケンス制御部とを備え、シーケンス制御部は、炊飯釜内に水と共に入れられた米を攪拌部で攪拌することにより、炊飯釜内の米の表面の糠を予め設定された量削る第1攪拌工程と、炊飯釜内の水を入れ替えること、または、吸着材を用いることにより、炊飯釜内の水が浄化された後、炊飯釜内の水および米を攪拌部で攪拌することにより、第1攪拌工程で削り残した糠を削る第2攪拌工程と、炊飯釜内の水に予め設定された時間浸すことにより、炊飯釜内の水を米に吸水させる浸し工程とを、炊飯釜を加熱部で加熱する前に順次行うので、糠の栄養や旨みが残った炊飯米を得ることができ、その上、実用的で、一般家庭に普及させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】図1は本発明の一実施形態の炊飯器の模式断面図である。
【図2】図2は上記炊飯器の制御ブロック図である。
【図3】図3は上記炊飯器による炊飯を説明するためのフローチャートである。
【図4】図4は上記炊飯のための各工程と内釜内温度との関係を示す図である。
【図5】図5は食味試験の結果を示す表である。
【図6】図6は10人の被験者の洗米後の米の糠の残存率を示す表である。
【図7】図7は上記第1攪拌工程の撹拌翼の回転時間とマグネシウムの残存率との関係を示すグラフである。
【図8】図8は上記第1攪拌工程後の糠の残存率を示す表である。
【図9】図9は上記炊飯器の変形例の制御ブロック図である。
【図10】図10は本発明の変形例の炊飯器の模式断面図である。
【図11】図11は吸着材の再生工程のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明の炊飯器を図示の実施の形態により詳細に説明する。
【0038】
図1は、本発明の一実施形態の炊飯器100を鉛直面で切った断面を模試的に示す。
【0039】
上記炊飯器100は、炊飯器本体101と、炊飯器本体101に収納される内釜102と、炊飯器本体101の上部に開閉自在に取り付けられ、内釜102を覆うように閉じることが可能な蓋112と、炊飯器本体101に収納された内釜102を加熱する加熱部103と、内釜102外に配置された攪拌モータ104と、内釜102内に回転自在に配置され、内釜102内の米111および水道水113を攪拌する攪拌翼105とを備える。なお、内釜102は本発明の炊飯釜の一例で、攪拌モータ105は本発明の回転駆動部の一例で、攪拌翼105は本発明の攪拌部の一例で、水道水113は本発明の水の一例である。
【0040】
上記炊飯器本体101は外ケース119および内ケース120を有している。この内ケース120は、耐熱性と電気絶縁性を有する材料で形成されている。また、内ケース120は断熱部材121を介して外ケース119に支持されている。そして、内ケース120には温度センサ110が取り付けられている。
【0041】
上記温度センサ110は、加熱部103を貫通して内釜102の底部に接触する検知部110aを有し、この検知部110aで内釜102の温度を検出する。また、温度センサ110が検出した内釜102の温度に基づいて、内釜102内の水道水113の温度を間接的に検出できるようになっている。
【0042】
上記内釜102は、例えば、アルミニウムなどの高熱伝導部材で形成され、内面に被加熱物の付着を防ぐためのフッ素樹脂をコーティングしている。
【0043】
上記撹拌モータ104は外ケース119の底部上に配置されている。この撹拌モータ104の回転軸104aにはロータ106が取り付けられている。また、回転軸104aおよびロータ106はカバー122で覆われている。なお、撹拌モータ104およびロータ106は本発明の攪拌部の一例である。
【0044】
上記ロータ106の外周部には、複数の駆動側磁石である複数のロータ側磁石107を周方向に等間隔に配置している。また、ロータ106は、内釜102の底部で内側に突出した円筒形状の凸部102aの下方に予め定められた隙間を隔てるように配置されている。なお、ロータ側磁石107は本発明の攪拌部の一例である。
【0045】
上記撹拌翼105は内釜102の凸部102aに回転自在に嵌合し、この凸部102aが撹拌翼105の支持台となっている。この撹拌翼105において凸部102a側とは反対側の表面、つまり、撹拌翼105において米111に接触する表面は、凹凸面となっている。また、撹拌翼105は、環状のヨーク109と、このヨーク109の内側に周方向に等間隔に配列され、複数の被駆動側磁石である複数の攪拌翼側磁石108とを有する。また、撹拌翼105は、中央上部に磁石114を有し、この磁石114はロータ側磁石107と引き合って撹拌翼105を内釜102の凸部102aに保持する役割を果たす。
【0046】
上記攪拌翼側磁石108は、ロータ側磁石107に径方向において重なるように配置され、ロータ側磁石107と磁気カップリングしている。これにより、撹拌モータ104の回転軸104aの回転に伴って、ロータ側磁石107が回転すると、ロータ側磁石107と磁気カップリングしている攪拌翼側磁石108も回転する結果、撹拌翼105が回転する。
【0047】
上記加熱部103は、絶縁体かつ断熱材である取付部材123,124を介して内ケース120に取り付けられ、この取付部材123,124を介して内ケース120に支持されている。この加熱部103は抵抗加熱ヒータと誘導コイルの少なくとも一方を有している。加熱部103が誘導コイルを有している場合は、内釜102の外面に加熱効率を向上させる例えばステンレス等の磁性体を貼り付ける。
【0048】
図2は上記炊飯器100の制御ブロック図である。
【0049】
上記炊飯器100は、マイクロコンピュータ、入出力回路、タイマおよびメモリなどからなる制御装置131を備える。この制御装置131は、操作パネル132からの操作信号,温度センサ110からの検出信号,モータ電流検出部136からの検出信号などに基づいて、表示部133,攪拌モータ104,加熱部103の加熱回路135などを制御する。この操作パネル132および表示部133は、炊飯器本体101の前面側に設けられている。操作パネル132の複数の操作ボタン(図示せず)の操作に応じて、表示部133の液晶ディスプレイが調理メニューや調理状況などが表示するようになっている。また、制御装置131は、外ケース119と内ケース120との間の空間に配置されている。また、上記空間には電源部(図示せず)も配置しており、この電源部が加熱回路135を含んでいる。なお、制御装置131は本発明のシーケンス制御部の一例である。
【0050】
また、上記制御装置131は、内釜102内の水道水113に浸漬した米111を攪拌翼105で攪拌して、米111の表面の糠を予め設定された量残す洗米制御部137と、内釜102内の水道水113に浸漬した米111を攪拌翼105で攪拌して、米111の表面の糠を切削する糠切削制御部138と、糠切削制御部138によって表面の糠が切削された米111を水道水113に浸す低温浸し制御部139と、糠切削制御部138によって切削された糠が内釜102内に残った状態で、加熱部103で内釜102を加熱する加熱制御部140と、加熱制御部140によって得られた炊飯米を蒸らす蒸らし制御部141と有している。この洗米制御部137、糠切削制御部138、低温浸し制御部139、加熱制御部140および蒸らし制御部141はソフトウェアで構成されている。また、洗米運転部137および糠切削制御部138による米111の攪拌は、加熱制御部140による内釜102の加熱の前に行われる。
【0051】
以下、上記構成の炊飯器100による炊飯について、図3のフローチャートを参照しながら説明する。なお、本説明において使用する測定値はすべて実験で得られた値ではあるが、この値は本発明の値の一例である。
【0052】
まず、ユーザが、内釜102に所望量の米111と洗米用の水道水113とを入れて、炊飯器本体101に内釜102を収納した後、操作パネル132の操作で「洗米モード」を選択すると、洗米運転部137が第1攪拌工程を行う(ステップS101)。
【0053】
上記第1攪拌工程は、ユーザが手で米を研ぐという工程に換わるものであり、米111の表面に予め設定された量の糠が残るように行われる。具体的には、上記第1攪拌工程では、攪拌翼105が例えば400rpmで例えば1分間連続回転する。また、上記第1攪拌工程中、加熱部103はON状態にならない。なお、上記第1攪拌工程が終わってから、第2攪拌工程が始まるまでは、制御装置131による制御は停止する。
【0054】
上記第1攪拌工程の終了後、ユーザが、一旦、内釜102を炊飯器本体101から取り出し、第1攪拌工程で使用した洗米用の水道水113を捨てて、新たに炊飯用の水道水113を内釜102に注いだ後、再び、炊飯器本体101に内釜102を収納する(ステップS102)。
【0055】
上記ステップS102の終了後、ユーザが操作パネル132の操作で劣化米専用の「炊飯モード」を選択すると、糠切削制御部138が第2攪拌工程を行う(ステップS103)。
【0056】
上記第2攪拌工程は、第1攪拌工程で米111の表面に残した糠の一部が切削されるように行われる。具体的には、上記第2攪拌工程では、攪拌翼105が例えば400rpmで例えば5分間連続回転する。また、上記第2攪拌工程中も、加熱部103はON状態にならない。
【0057】
上記ステップ103の終了後、低温浸し制御部139が低温浸し工程を行う(ステップS104)。より詳しくは、加熱部103のOFFの状態を保持したまま、第1攪拌工程で表面の糠が切削された米111を炊飯用の水道水113に12.5分間浸す。なお、上記低温浸し工程は本発明の浸し工程の一例である。
【0058】
上記ステップS104の終了後、加熱部103をON/OFF制御して、加熱制御部140による加熱工程と、蒸らし制御部141による蒸らし工程とをこの順で行う(ステップS105,S106)。
【0059】
上記加熱工程および蒸らし工程において、加熱工程の初期だけ、内釜102の内部の温度を均一化するために、攪拌翼105を間欠的に回転させ、加熱工程の初期以外では、攪拌翼105を回転させない。
【0060】
このように、上記第1攪拌工程は、ユーザが手で米を研ぐという動作に換わるものである。したがって、ユーザは手で米を研ぐ作業を省ける。また、ユーザは、特に水が冷たい冬や、爪にネイルアートを施しているときには、水に手を入れなくても良いという利点がある。
【0061】
また、上記第1攪拌工程の終了後の米111の表面には予め設定された量の糠が残るので、糠の栄養や旨みを残した状態で米を洗いあげることができる。
【0062】
また、上記第1攪拌工程によって、米111の表面の糠のうち、酸化または変性した部分があれば、この部分も削ることができる。
【0063】
また、上記第2攪拌工程では、栄養素を含んだ糠が米111の表面から切削されて炊飯用の水道水113中に分散する。すなわち、上記第2攪拌工程の終了後、栄養素を含んだ糠が内釜102内に残る。したがって、糠の栄養や旨みを残った炊飯米を得ることができる。
【0064】
また、上記第2攪拌工程で米111の表面から糠が切削されることで、米111がたとえ劣化米であっても、吸水阻害を起こす糠の酸化層を減らせるので低温浸し工程時および加熱工程時に米111の水吸収を促進させることができる。したがって、上記劣化米から美味しい炊飯米が得られる。
【0065】
上記糠の酸化層は微粒子となり内釜102内に残るが、食味の官能試験においては、表面の糠を切削した劣化米から得た炊飯米と、表面の糠を切削していない劣化米から得た炊飯米とを比べると、表面の糠を切削した劣化米から得た炊飯米の方が良食味であった。
【0066】
図4は、上記炊飯のための各工程と内釜内温度との関係を示す図である。また、図4の内釜内温度は内釜102内の水道水113の温度に相当する。また、図4の上部には、攪拌モータ104のON/OFFのタイミングを示している。
【0067】
上記第1攪拌工程時、加熱部103はOFFの状態に保持され、内釜内温度は室温と同じである。この第1攪拌工程は、ユーザが操作パネル132の操作で「洗米モード」を選択することに応じて、自動的に行われる(自動洗米モード)。
【0068】
上記第1攪拌工程後、ユーザが内釜102の水替えを行う。この水替え中も、加熱部103はOFFの状態に保持される。
【0069】
上記第2攪拌工程から蒸らし工程までは、ユーザが操作パネル132の操作で劣化米専用の「炊飯モード」を選択するとことに応じて、自動的に順次行われる(自動炊飯モード)。より詳しくは、上記第2攪拌工程時、加熱部103はOFFの状態に保持され、内釜内温度は室温と同じである。上記第2攪拌工程が終わると、攪拌モータ104がOFFされて、低温浸し工程が12.5分間行われる。そして、上記低温浸し工程後、加熱部103で内釜102を加熱する加熱工程が開始される。この加熱工程が開始してから予め設定された時間は、攪拌モータ104を間欠的にONして、内釜102内の水道水113の温度の均一化を助ける。なお、上記加熱工程が開始して、内釜内温度が60℃に達すると、この状態を設定された時間保持した後、内釜内温度を100℃に上げてから蒸らし工程に移る。
【0070】
以下に、本発明の炊飯器100で行った実験の効果について説明する。なお、本実験に使用した米は精米歩留り92%程度の通常の精白米である。この「精白米歩留まり」とは、精米された米の重量の、精米前の玄米重量に対する割合のことを指し、通常の精白米は92%とされている。また、本実験では、精米後、高温処理で人工的に劣化させた米を劣化米として使用しており、この使用した米の劣化の程度は精米後1カ月相当に値する。一方、古米とは前年度収穫の米を指す専門用語であるため、例えば、同年度に収穫した米で、精米後1カ月が経過して劣化した米でも、同年中は古米と言うことはできない。しかし、同年度に収穫された米でも、保存状況(例えば常温、多湿の環境)によっては劣化が進むため、食味の改善が必要である。なお、本実験では、精米後に徐々に劣化が進んで食味の改善が必要となった米のことを「劣化米」と定義している。
【0071】
上記炊飯器100で得た炊飯米と、異なるメーカから既に発売されている2つの炊飯器(以下、2つの炊飯器の一方を「既製品A」、2つの炊飯器の他方を「既製品B」と言う。)で得た炊飯米とを用いて、食味の比較試験を行った。この既製品A,Bは、本実施形態の第1攪拌工程および第2攪拌工程の機能を有していない。炊飯器100では、図3,図4の第1攪拌工程、ユーザによる水入替え、第2攪拌工程(食味比較試験時は2.5分)、低温浸し工程、加熱工程および蒸らし工程を行った。一方、既製品A,Bでは、ユーザが手で洗米した精白米を精白米コースで炊飯した。この既製品A,Bで使用した精白米の劣化の程度は、炊飯器100で使用した精白米の劣化の程度と同じである。また、上記精白米コースは、精白米を炊くためのコースである。このように、炊飯器100および既製品A,Bで得た炊飯米を食べ比べると、図5に示すように、既製品A,Bよりも炊飯器100(図5では「本実施形態品」と記載)の方が食味の良さの点で有位性が得られることが分かった。
【0072】
また、上記実施形態では、上述のように、第1攪拌工程および第2攪拌工程は加熱工程前に行われる。特に、米の表面に残した糠を切削するための第2攪拌工程においては、加熱工程前に行うことにより、米がまだ吸水しておらず硬い状態であるため、割れ米を抑制することができるし、加熱工程で米の水吸収が促進され、良食味の炊飯米を得ることができる。
【0073】
図6は、10人の被験者に家庭と同様の洗米を行ってもらった後、洗米後の米の糠の残存率を示す表である。この糠の残存率は、洗米前の糠の量に対する洗米後の糠量の割合を示している。
【0074】
図6から明らかなように、10人の被験者の平均値は51%であったため、本実施形態では糠の残存率として51%以上を指標としている。すなわち、上記第1攪拌工程では、糠に含まれる栄養素の残存率が一定の範囲内に入るように、攪拌翼105を回転制御している。具体的には、攪拌翼105を回転制御は、第1攪拌工程で削る糠の量が、第1攪拌工程が行われる直前の糠の量の36%以上49%以下となるように行っている。この第1攪拌工程後の米を炊飯用の水道水113で炊くことにより、糠の栄養や旨みがあって糠臭くない炊飯米が得られる。
【0075】
なお、上記糠の残存率は、糠の代表成分であるマグネシウムを分析することで測定した。この理由は、マグネシウムは上記糠に含まれる主なミネラルの一つで、糠の厚みを代表させることができる物質といえるからである。また、上記マグネシウムの定量は、誘導プラズマ発光分析法(健帛社 新食品分析ハンドブックP162)で行った。
【0076】
また、上記実施形態では、糠の残存率51%以上を実現するため、第1攪拌工程の攪拌翼105の回転時間(例えば30秒以上60秒以下)を定めている。
【0077】
図7は、上記第1攪拌工程の攪拌翼105の回転時間と、糠に含まれるマグネシウムの残存率との関係を示すグラフである。なお、上記回転時間の攪拌は内釜102の3合の米に対して行った。
【0078】
図7から分かるように、第1攪拌工程の攪拌翼105の回転時間が60秒以下であれば、上述の10人の被験者の糠の残存率の平均値51%と同じまたは平均値51%よりも高い残存率で糠を残すことができる。
【0079】
図8は、精米直後の米と、この米と同じ日に精米した米を人工的に劣化させた米とに、同条件の第1攪拌工程を行った後の糠の残存率を示す表である。なお、上記糠の残存率は、糠の代表成分としているマグネシウムから求めている。
【0080】
図8から分かるように、精米直後の米の分析値に比べて、人工的に劣化させた米の分析値の方が、大きくなっている。すなわち、精米直後の米の糠に比べて、人工的に劣化させた米の糠の方が取れにくい。そして、上記人工的に劣化させた米の糠の残存率を100%とすると、精米直後の米の糠の残存率は71%であった。
【0081】
したがって、上記人工的に劣化させた米は、第1攪拌工程を行う前の糠の量に対して29%の糠の量をさらに減らせば、精米直後の米の状態と同じ状態にできる筈である。
【0082】
そこで、上記第2攪拌工程では、第1攪拌工程を行う前の糠の量に対して第2攪拌工程後の米の糠の量が71%となるように、攪拌翼105を回転制御している。
【0083】
より詳しくは、上記第2攪拌工程において、攪拌翼105を例えば5分間程回転させることで、上記人工的に劣化させた米を精米直後の米の状態と同じ状態にできた。
【0084】
ただし、上記第2攪拌工程において、攪拌翼105を10分間回転させた後の糠量は、攪拌翼105を5分間回転させた後の糠量とほとんど変わらなかったため、5分を越える時間、拌翼105を回転させる必要性は低いといえる。
【0085】
なお、米は収穫時期から時が経つにつれ、たとえ玄米の状態で管理された温度湿度で保存されていたとしても、確実に劣化は進む。ゆえに、季節ごとに最適な残存率を求めて置き、季節に合わせた洗米運転のシーケンスを組むことが望ましい。
【0086】
すなわち、米の表面に米の表面に糠を適度残す第1攪拌工程を行った後、米の表面から糠の一部を除去する第2攪拌工程を行った後、加熱工程を行えば、糠の栄養素は残しつつ、劣化米の食味を改善できる。なお、本実施形態におけるシーケンスは、精米直後の米にも対応できる。
【0087】
また、上記実施形態において、攪拌翼105が例えば400rpmで間欠的に回転する第1攪拌工程を行ってもよい。この場合、攪拌翼105の回転している時間の合計が例えば1分になるようにしてもよい。
【0088】
また、上記実施形態において、攪拌翼105が例えば400rpmで間欠的に回転する第2攪拌工程を行ってもよい。この場合、攪拌翼105の回転している時間の合計が例えば5分になるようにしてもよい。
【0089】
上記実施形態において、制御装置131に換えて、図9に示す制御装置231を用いてもよい。この制御装置231は、内釜102内の水道水113に浸漬した米111を攪拌翼105で攪拌して、米111の表面の糠を予め設定された量残す洗米制御部137と、内釜102内の水道水113に浸漬した米111を攪拌翼105で攪拌して、米111の表面の糠を切削する糠切削制御部138と、米111の表面の糠を切削しない糠非切削制御部238とを有している。この場合、ユーザが、洗米後に内釜102の水替えを行った後、操作パネル132の操作で非劣化米専用の「炊飯モード」を選択すると、糠非切削制御部139が、米の表面の糠の切削を行わずに、低温浸し工程、加熱工程および蒸らし工程を順次行う。なお、糠非切削制御部238はソフトウェアで構成されている。
【0090】
上記実施形態では、第1攪拌工程と第2攪拌工程の間に、ユーザが内釜102の水替えを行っていたが、第1攪拌工程と第2攪拌工程の間に、ユーザが内釜102の水替えを行わないようにしてもよい。例えば、図10に示すように、内釜102内に吸着材(活性炭、吸着フィルタまたは吸着性セラミック材)150を入れた状態で第1攪拌工程を行うことにより、米111の表面から分離した糠を吸着材に吸着させることができる。したがって、ユーザが内釜102の水替えを行わなくても、内釜102内の水道水113の清浄度を高くできる。なお、吸着材150は、第1攪拌工程が終わってから第2攪拌工程が始まる前に内釜102から取り出してもよいし、取り出さなくてもよい。
【0091】
また、上記吸着材150を使用する場合、吸着材再生用ボタン(図示せず)を操作パネル132に設けてもよい。この場合、ユーザが、内釜102に吸着材150と吸着材再生用の水道水113とを入れて、炊飯器本体101に内釜102を収納した後、吸着材再生用ボタンを押すと、吸着材再生用ボタンを押すと、図11のステップS210の再生工程が行われる。これにより、吸着材150から糠などが分離され、吸着材150が再生される。
【0092】
今回開示した実施形態は全ての点で一例であって制限的なものではないと考えられるべきである。すなわち、本発明の範囲は、上述の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0093】
100…炊飯器
101…炊飯器本体
102…内釜
102a…凸部
103…加熱部
104…撹拌モータ
104a…回転軸
105…撹拌翼
106…ロータ
107…ロータ側磁石
108…撹拌翼側磁石
109…ヨーク
110…温度センサ
110a…検知部
111…米
112…蓋
113…水道水
114…磁石
119…外ケース
120…内ケース
121…断熱部材
122…カバー
123,124…取付部材
131,231…制御装置
132…操作パネル
133…表示部
135…加熱回路
136…モータ電流検出部
137…洗米制御部
138…糠切削制御部
139…低温浸し制御部
140…加熱制御部
141…蒸らし制御部
150…吸着材
238…糠非切削制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炊飯釜と、
上記炊飯釜内に水と共に入れられた米を攪拌する攪拌部と、
上記炊飯釜を加熱する加熱部と、
上記攪拌部および上記加熱部を制御するシーケンス制御部と
を備え、
上記シーケンス制御部は、
上記炊飯釜内に水と共に入れられた米を上記攪拌部で攪拌することにより、上記炊飯釜内の米の表面の糠を予め設定された量削る第1攪拌工程と、
上記炊飯釜内の水を入れ替えること、または、吸着材を用いることにより、上記炊飯釜内の水が浄化された後、上記炊飯釜内の水および米を上記攪拌部で攪拌することにより、上記第1攪拌工程で削り残した糠を削る第2攪拌工程と、
上記炊飯釜内の水に予め設定された時間浸すことにより、上記炊飯釜内の水を上記米に吸水させる浸し工程と
を、上記炊飯釜を上記加熱部で加熱する前に順次行うことを特徴とする炊飯器。
【請求項2】
請求項1に記載の炊飯器において、
上記第1攪拌工程は、上記炊飯釜内の米の表面の糠のうち、酸化または変性した部分が削られるように行われることを特徴とする炊飯器。
【請求項3】
請求項1または2に記載の炊飯器において、
上記吸着材は、活性炭、吸着フィルタまたは吸着性セラミック材であることを特徴とする炊飯器。
【請求項4】
請求項1から3までのいずれか一項に記載の炊飯器において、
上記シーケンス制御部は、上記吸着材を加熱することにより再生する再生工程を行うことを特徴とする炊飯器。
【請求項5】
請求項1から4までのいずれか一項に記載の炊飯器において、
上記第1攪拌工程が終わってから、上記第2攪拌工程が始まるまでの間は、上記シーケンス制御部が停止することを特徴とする炊飯器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate