説明

炎症性疾患治療剤、およびその利用

【課題】 本発明の目的は、ミッドカインに対するsiRNAを有効成分として含有する炎症性疾患治療剤を提供することにある。また、ミッドカインに対するsiRNAを対象に投与する工程を含む、炎症性疾患を治療または予防する方法の提供も課題とする。
【解決手段】 本発明者らは、上記の課題を解決するために、炎症性疾患の病態例である、手術後の癒着および慢性関節性リウマチに対するミッドカインに対するsiRNAの効果について検討を行った。その結果、ミッドカインに対するsiRNAを投与することによって、手術後の癒着および慢性関節性リウマチを抑制できることを見出した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミッドカインに対するsiRNAを有効成分として含有する炎症性疾患治療剤、およびその利用に関する。また、ミッドカインに対するsiRNAを対象に投与する工程を含む、炎症性疾患を治療または予防する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炎症反応は、生体内外のあらゆる形の刺激(細菌などの異物や物理化学的刺激など)によって引き起こされた細胞組織障害に対する生体防御反応の一現象である。炎症反応は、基本的には生体から有害な刺激を排除し、局所の構造、機能を回復させる反応であるが、この場合に活性化されるシステムは正常な組織、細胞にとっても障害性のあるものであり、強く発現された炎症反応は病的現象として治療の対象となる。これらの炎症反応が過剰に起こることによって生じる疾患は炎症性疾患と分類され、関節リウマチや、手術後の癒着現象等をその病態として例示することができる。
【0003】
関節リウマチは、初期は関節痛を引き起こし、場合によっては全身を侵すこともある進行性の疾患である。機能性タンパク質の阻害によるリウマチの治療法としてTNF−αを標的にしたヒト型可溶性TNFα/LTαレセプター製剤(商品名:エンブレル)が現在開発されているが、60%の患者にしか効果がないとされている。また、感染症の患者、または感染症が疑われる患者に対して、上記の治療剤を投与することは正常な免疫応答に影響を与える可能性がある。さらに、結核の既感染者に上記の治療剤を投与する場合には、結核が再燃する可能性が危惧されている。
手術後の癒着は、外科手術後等に本来結合しない臓器が癒着を起こし、痛みや機能不全を伴う疾患であり、これらに関しては有効な治療法、予防法が確立されていない。
【0004】
ミッドカイン(以下MKと記載することもある)はヘパリン結合成長因子ファミリーに属し、レチノイン酸反応性遺伝子の産物として見出された低分子の非糖化タンパク質である。その受容体は受容体型チロシンフォスファターゼz、LRP(low density lipoprotein receptor-related protein)、ALK (anaplastic leukemia kinase)インテグリンおよびシンデカンからなる複合体と考えられている。MKは細胞遊走、血管新生に対する作用を持ち、癌化や炎症の誘導にも多様な生物活性を有することが明らかになっている。胃癌、大腸癌、乳癌など多くの癌組織でMKが過剰発現していることも報告されている(非特許文献1、2)。一方、MK欠損マウスでは血管内膜障害がおき、虚血性の腎障害起こることも報告されている(非特許文献3、4)。
【0005】
近年、MKが炎症細胞の遊走や破骨細胞の分化を引き起こし、リウマチ性疾患においても重要な役割を果たしている可能性が示され(非特許文献5、6)、またミッドカインを欠損させたノックアウトマウスでは、手術後の癒着が大きく軽減されることが明らかとなっている(非特許文献7)。
【0006】
また、ミッドカインはマクロファージや好中球といった炎症性細胞の移動を促進し、これらの移動は炎症像の成立に必要なため、ミッドカインが欠失すると炎症に基盤がある病気が起こりにくいと考えられてきた(特許文献1)。しかしながら、ミッドカインの発現を抑制する、ミッドカインに対するsiRNAが、これらの炎症性疾患に効果を示すか否かの検討はこれまで行われてこなかった。
【0007】
なお、本出願の発明に関連する先行技術文献情報を以下に示す。
【非特許文献1】Tsutsui, J., et al., Cancer Res., 53, 1281-1285 (1993)
【非特許文献2】Kadomatsu, K., et al., Brit. J. Cancer, 75, 354-359 (1997)
【非特許文献3】Horiba, M., et al., J. Clin. Invest., 105, 489-495 (2000)
【非特許文献4】Sato, W., et al., J. immunol., 167, 3463-3469 (2001)
【非特許文献5】Takada T., et al., J.Biochem, 122(2), 453-458 (1997)
【非特許文献6】Maruyama K., et al., Arthritis Rheum., 50(5), 1420-1429 (2004)
【非特許文献7】Inoh, K., et al., Biochem. Biophys. Res. Commun. 317, 108-113 (2004)
【特許文献1】WO99/03493
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、ミッドカインに対するsiRNAを有効成分として含有する炎症性疾患治療剤を提供することにある。また、ミッドカインに対するsiRNAを対象に投与する工程を含む、炎症性疾患を治療または予防する方法の提供も課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の課題を解決するために、炎症性疾患の病態例である、手術後の癒着および慢性関節性リウマチにおける、ミッドカインに対するsiRNAの効果について検討を行った。
【0010】
まず、ミッドカインに対するsiRNAの投与による、手術後の癒着への効果を検討するために、マウスにおいて擬似的に手術後の状態を形成させ、ミッドカインに対するsiRNAを投与した。その結果、ミッドカインに対するsiRNAは、強力に癒着を抑制したが、コントロールのsiRNAは癒着の抑制を示さないことが明らかとなった(図1、2)。
【0011】
次に、ミッドカインに対するsiRNAの投与による、関節炎への効果を検討するために、関節炎モデルマウスを作成し、ミッドカインに対するsiRNAを投与した。その結果、尾の血管からsiRNAを静脈投与したマウスは、PBSを投与したマウスと比較して、抗体で誘導した関節炎が顕著に抑制されることが明らかとなった(図3)。
【0012】
即ち、本発明者らは、ミッドカインに対するsiRNAを投与することによって、手術後の癒着および慢性関節性リウマチを抑制できることを見出し、これにより本発明を完成するに至った。
【0013】
本発明は、より具体的には以下の〔1〕〜〔14〕を提供するものである。
〔1〕下記(a)から(d)のいずれかのDNAの転写産物と相補的なRNA、および該RNAと相補的なRNAからなる2重鎖RNAを有効成分として含有する、炎症性疾患を治療または予防するための薬剤。
(a)配列番号:2または4に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA。
(b)配列番号:1または3に記載の塩基配列のコード領域を含むDNA。
(c)配列番号:2または4に記載のアミノ酸配列において1または複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、および/または挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA。
(d)配列番号:1または3に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA。
〔2〕配列番号:5に記載の塩基配列を含むRNA、および配列番号:6に記載の塩基配列を含むRNAからなる2重鎖RNAを有効成分として含有する、〔1〕に記載の炎症性疾患を治療または予防するための薬剤。
〔3〕配列番号:7に記載の塩基配列を含むRNA、および配列番号:8に記載の塩基配列を含むRNAからなる2重鎖RNAを有効成分として含有する、〔1〕に記載の炎症性疾患を治療または予防するための薬剤。
〔4〕下記(a)から(d)のいずれかのDNAの転写産物と相補的なRNA、および該RNAと相補的なRNAからなる2重鎖RNAをコードするDNAを有効成分として含有する、炎症性疾患を治療または予防するための薬剤。
(a)配列番号:2または4に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA。
(b)配列番号:1または3に記載の塩基配列のコード領域を含むDNA。
(c)配列番号:2または4に記載のアミノ酸配列において1または複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、および/または挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA。
(d)配列番号:1または3に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA。
〔5〕配列番号:5に記載の塩基配列を含むRNA、および配列番号:6に記載の塩基配列を含むRNAからなる2重鎖RNAをコードするDNAを有効成分として含有する、〔4〕に記載の炎症性疾患を治療または予防するための薬剤。
〔6〕配列番号:7に記載の塩基配列を含むRNA、および配列番号:8に記載の塩基配列を含むRNAからなる2重鎖RNAをコードするDNAを有効成分として含有する、〔4〕に記載の炎症性疾患を治療または予防するための薬剤。
〔7〕下記(a)から(d)のいずれかのDNAの転写産物と相補的なRNA、および該RNAと相補的なRNAからなる2重鎖RNAをコードするDNAが挿入されたベクターを有効成分として含有する、炎症性疾患を治療または予防するための薬剤。
(a)配列番号:2または4に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA。
(b)配列番号:1または3に記載の塩基配列のコード領域を含むDNA。
(c)配列番号:2または4に記載のアミノ酸配列において1または複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、および/または挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA。
(d)配列番号:1または3に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA。
〔8〕配列番号:5に記載の塩基配列を含むRNA、および配列番号:6に記載の塩基配列を含むRNAからなる2重鎖RNAをコードするDNAが挿入されたベクターを有効成分として含有する、〔7〕に記載の炎症性疾患を治療または予防するための薬剤。
〔9〕配列番号:7に記載の塩基配列を含むRNA、および配列番号:8に記載の塩基配列を含むRNAからなる2重鎖RNAをコードするDNAが挿入されたベクターを有効成分として含有する、〔7〕に記載の炎症性疾患を治療または予防するための薬剤。
〔10〕炎症性疾患が慢性関節性リウマチである、〔1〕〜〔9〕のいずれかに記載の薬剤。
〔11〕炎症性疾患が手術後の癒着である、〔1〕〜〔9〕のいずれかに記載の薬剤。
〔12〕〔1〕〜〔9〕のいずれかに記載の薬剤を、炎症性疾患が発症している対象に投与する工程を含む、炎症性疾患を治療または予防する方法。
〔13〕炎症性疾患が慢性関節性リウマチである、〔12〕に記載の方法。
〔14〕炎症性疾患が手術後の癒着である、〔12〕に記載の方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明において、ミッドカインに対するsiRNAを投与し、ミッドカインの発現または活性を抑制することにより、炎症性疾患を治療または予防できることが示された。
このことから、本発明のsiRNA、該siRNAをコードするDNA、該DNAが挿入されたベクターは、炎症性疾患治療剤として使用することができるものと考えられる。該炎症性疾患治療剤を、公知トランスフェクション試薬等をもちいて細胞に導入すれば、細胞内でRNAi効果が発揮され、炎症性疾患の病態が抑制される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明者らは、ミッドカインに対するsiRNAを投与し、ミッドカインの発現または活性を抑制することにより、炎症性疾患の症状を改善できることを見出した。本発明は、これらの知見に基づくものである。
【0016】
本発明は、ミッドカインに対するsiRNAを有効成分として含有する、炎症性疾患治療剤に関する。本発明のsiRNAは、標的であるミッドカイン遺伝子の転写産物と相補的なRNA(アンチセンスRNA鎖)および該RNAに相補的なRNA(センスRNA鎖)が結合した二重鎖RNAである。
【0017】
本発明において標的となるヒト由来のミッドカインのcDNAの塩基配列を配列番号:1に、該DNAがコードするミッドカインのアミノ酸配列を配列番号:2に示す。また、マウス由来のミッドカインのcDNAの塩基配列を配列番号:3に、該cDNAによりコードされるミッドカインのアミノ酸配列を配列番号:4に示す(Tomomura, M., et al., J. Biol. Chem. 265, 10765-10770 (1990)、Tsutsui, J., et al., Biochem. Biophys. Res. Commun. 176, 792-797 (1991)、Iwasaki W, et al., EMBO J. 16(23), 6936-46 (1997))。なお本明細書においてミッドカインとは、特に断りがない限り、ヒトミッドカインおよびマウスミッドカインの全てを指す。
【0018】
また、本発明において標的となるミッドカインには、上記の公知のミッドカインと機能的に同等なタンパク質を包含する。このようなタンパク質には、例えば、ミッドカインの変異体、アレル、バリアント、ホモログ、ミッドカインの部分ペプチド、または、他のタンパク質との融合タンパク質などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0019】
本発明におけるミッドカインの変異体としては、配列番号:2または4に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列からなる天然由来のタンパク質であって、配列番号:2または4に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質を挙げることが出来る。また、配列番号:1または3に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズする天然由来のDNAよりコードされるタンパク質であって、配列番号:2または4に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質も、ミッドカインの変異体として挙げることができる。
【0020】
本発明において、変異するアミノ酸数は特に制限されないが、通常、30アミノ酸以内であり、好ましくは15アミノ酸以内であり、さらに好ましくは5アミノ酸以内(例えば、3アミノ酸以内)であると考えられる。変異するアミノ酸残基においては、アミノ酸側鎖の性質が保存されている別のアミノ酸に変異されることが望ましい。例えばアミノ酸側鎖の性質としては、疎水性アミノ酸(A、I、L、M、F、P、W、Y、V)、親水性アミノ酸(R、D、N、C、E、Q、G、H、K、S、T)、脂肪族側鎖を有するアミノ酸(G、A、V、L、I、P)、水酸基含有側鎖を有するアミノ酸(S、T、Y)、硫黄原子含有側鎖を有するアミノ酸(C、M)、カルボン酸及びアミド含有側鎖を有するアミノ酸(D、N、E、Q)、塩基含有側鎖を有するアミノ酸(R、K、H)、芳香族含有側鎖を有するアミノ酸(H、F、Y、W)を挙げることができる(括弧内はいずれもアミノ酸の一文字標記を表す)。あるアミノ酸配列に対する1又は複数個のアミノ酸残基の欠失、付加及び/又は他のアミノ酸による置換により修飾されたアミノ酸配列を有するポリペプチドがその生物学的活性を維持することはすでに知られている。
【0021】
本発明において「機能的に同等」とは、対象となるタンパク質が、ミッドカインと同等の生物学的機能や生化学的機能を有することを指す。本発明において、ミッドカインの生物学的機能や生化学的機能としては、細胞の増殖促進(繊維芽細胞、ケラチノサイト、または腫瘍細胞の増殖促進)、細胞の生存促進(胎児神経細胞、または腫瘍細胞の生存促進)、細胞の移動促進(神経細胞、好中球、マクロファージ、骨芽細胞、または血管平滑筋細胞の移動促進)、ケモカインの発現促進、血管新生促進、またはシナプス形成促進等を挙げることができる。生物学的な性質には発現する部位の特異性や、発現量等も含まれる。
【0022】
目的のタンパク質と「機能的に同等なタンパク質」をコードするDNAを調製するために、当業者によく知られた方法としては、ハイブリダイゼーション技術やポリメラーゼ連鎖反応(PCR)技術を利用する方法が挙げられる。即ち、当業者にとっては、ミッドカインの塩基配列(配列番号:1または3)もしくはその一部をプローブとして、またミッドカイン(配列番号:1または3)に特異的にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドをプライマーとして、ミッドカインと高い相同性を有するDNAを単離することは通常行いうることである。このようにハイブリダイズ技術やPCR技術により単離しうるミッドカインと同等の機能を有するタンパク質をコードするDNAもまた本発明のDNAに含まれる。
【0023】
このようなDNAを単離するためには、好ましくはストリンジェントな条件下でハイブリダイゼーション反応を行う。本発明においてストリンジェントなハイブリダイゼーション条件とは、6M尿素、 0.4%SDS、0.5xSSCの条件またはこれと同等のストリンジェンシーのハイブリダイゼーション条件を指す。よりストリンジェンシーの高い条件、例えば、6M尿素、0.4%SDS、0.1xSSCの条件を用いることにより、より相同性の高いDNAの単離を期待することができる。これにより単離されたDNAは、アミノ酸レベルにおいて、目的タンパク質のアミノ酸配列と高い相同性を有すると考えられる。高い相同性とは、アミノ酸配列全体で、少なくとも50%以上、さらに好ましくは70%以上、さらに好ましくは90%以上(例えば、95%,96%,97%,98%,99%以上)の配列の同一性を指す。アミノ酸配列や塩基配列の同一性は、カーリンおよびアルチュールによるアルゴリズムBLAST(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87:2264-2268, 1990、Proc Natl Acad Sci USA 90: 5873, 1993)を用いて決定できる。BLASTのアルゴリズムに基づいたBLASTNやBLASTXと呼ばれるプログラムが開発されている(Altschul SF, et al: J Mol Biol 215: 403, 1990)。BLASTNを用いて塩基配列を解析する場合は、パラメーターは、例えばscore=100、wordlength=12とする。また、BLASTXを用いてアミノ酸配列を解析する場合は、パラメーターは、例えばscore=50、wordlength=3とする。BLASTとGapped BLASTプログラムを用いる場合は、各プログラムのデフォルトパラメーターを用いる。これらの解析方法の具体的な手法は公知である。
【0024】
本発明の方法に使用されるミッドカインの由来となる生物種としては、特定の生物種に限定されるものではない。例えば、ヒト、サル、マウス、ラット、モルモット、ブタ、ウシ、酵母、昆虫などが挙げられる。
【0025】
本発明のRNAは、標的遺伝子mRNAのいずれかの領域に対するアンチセンスRNAをコードしたアンチセンスコードDNAと、標的遺伝子mRNAのいずれかの領域のセンスRNAをコードしたセンスコードDNAより発現させることができる。また、これらのアンチセンスRNAおよびセンスRNAよりdsRNAを作成することもできる。
【0026】
本発明のsiRNAの標的となるミッドカイン遺伝子の転写産物の配列としては、siRNAがRNAi効果を示しうる限り特に制限はない。
本発明のsiRNAの好ましい例としては、配列番号:5に記載の塩基配列を含むRNA、および配列番号:6に記載の塩基配列を含むRNAからなる2重鎖RNAを挙げることができる。また、より好ましい例としては、配列番号:7に記載の塩基配列を含むRNA、および配列番号:8に記載の塩基配列を含むRNAからなる2重鎖RNAを挙げることができる。
【0027】
本発明においてsiRNAは、dsRNAとしてsiRNAが使用されたものであってもよい。「siRNA」は、細胞内で毒性を示さない範囲の短鎖からなる二重鎖RNAを意味し、例えば、15〜49塩基対と、好適には15〜35塩基対と、さらに好適には21〜30塩基対とすることができる。あるいは、発現されるsiRNAが転写され最終的な二重鎖RNA部分の長さが、例えば、15〜49塩基対、好適には15〜35塩基対、さらに好適には21〜30塩基対とすることができる。
【0028】
dsRNAにおけるRNA同士が対合した二重鎖RNAの部分は、完全に対合しているものに限らず、ミスマッチ(対応する塩基が相補的でない)、バルジ(一方の鎖に対応する塩基がない)などにより不対合部分が含まれていてもよい。
【0029】
本発明のsiRNAの末端構造は、ミッドカイン遺伝子の発現をRNAi効果により抑制し得るものであれば、平滑末端あるいは粘着(突出)末端のいずれでもよい。また、粘着(突出)末端構造は、3'末端側が突出している構造だけでなく、上記RNAi効果を誘導し得る限り5'末端側が突出している構造も含めることができる。また、突出する塩基数は、すでに報告がある2,3塩基に限定されず、RNAi効果を誘導し得る塩基数とすることができる。例えば、この塩基数としては、1〜8塩基、好適には、2〜4塩基とすることができる。また、この突出している配列部分は、ミッドカイン遺伝子の転写産物との特異性が低いため、標的であるミッドカイン遺伝子転写物の配列と相補的(アンチセンス)配列あるいは同じ(センス)配列である必要は必ずしもない。
【0030】
本発明のsiRNAは、ミッドカイン遺伝子の塩基配列を基に標的となる配列を選択し、調製することができる。
【0031】
調製は例えば、ミッドカイン遺伝子塩基配列に基づき、標的配列として転写産物であるmRNAの連続する領域の配列を選択する。選択した領域に対応する二重鎖RNAを、化学的in vitro合成系、ファージRNAポリメラーゼを用いたin vitro転写法、クローン化cDNA をもとに転写・会合した長いdsRNAをRNaseIIIまたはDicerによって切断する方法等によって、適宜調製することができる。
【0032】
本発明のsiRNAは、上記アンチセンスRNA鎖をコードするDNA(以下、アンチセンスコードDNA)および上記センスRNA鎖をコードするDNA(以下、センスコードDNA)を用いて、細胞内で発現させることもできる(以下、アンチセンスコードDNAおよびセンスコードDNAを本発明DNAと略称する。)。上記「アンチセンスコードDNA」および「センスコードDNA」は、プロモーターと共にそのまま細胞内の染色体に導入し、細胞内でアンチセンスRNA、センスRNAを発現させsiRNAを形成させることもできるが、効率的な細胞導入などを行うために、上記siRNA発現システムをベクターに保持させることが好ましい。ここで用いることができる「ベクター」は、導入したい細胞などに対応して選択することができる。例えば、哺乳動物細胞では、例えば、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ関連ウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクター、レンチウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター、アルファウイルスベクター、EBウイルスベクター、パピローマウイルスベクター、フォーミーウイルスベクターなどのウイルスベクターやカチオニックリポソーム、リガンドDNA複合体、ジーンガンなどの非ウイルスベクターなどが挙げられるが(Y. Niitsuら, Molecular Medicine 35: 1385-1395 (1998))、これらに限定されるものではない。また、ウイルスベクターではなく、ダンベル型DNA(Zanta M.A. et al., Gene delivery: a single nuclear localization signal peptide is sufficient to carry DNA to the cell nucleus. Proc Natl Acad Sci U S A. 1999 Jan 5;96(1):91-6)、ヌクレアーゼ耐性を持つような修飾DNA、またはnaked plasmidもまた好適に用いることができる(Liu F, Huang L. Improving plasmid DNA-mediated liver gene transfer by prolonging its retention in the hepatic vasculature. J. Gene Med. 2001 Nov-Dec;3(6):569-76)
【0033】
本発明のsiRNAをコードするDNAを、ベクター等に保持させる場合の構成としては、同一のベクターからアンチセンスRNA鎖、センスRNA鎖を発現させる場合と、異なるベクターからそれぞれアンチセンスRNA鎖、センスRNA鎖を発現させる場合がある。例えば、同一のベクターからアンチセンスRNA鎖、センスRNA鎖を発現させる構成としては、アンチセンスコードDNAおよびセンスコードDNAの上流にそれぞれpolIII系のような短いRNAを発現し得るプロモーターを連結させたアンチセンスRNA発現カセット、センスRNA発現カセットをそれぞれ構築し、これらカセットを同方向にあるいは逆方向にベクターに挿入することにより構成することができる。また、異なる鎖上に対向するようにアンチセンスコードDNAとセンスコードDNAと逆向きに配置した発現システムを構成することもできる。この構成では、アンチセンスRNAコード鎖とセンスRNAコード鎖とが対となった一つの二本鎖DNA(siRNAコードDNA)が備えられ、その両側にそれぞれの鎖からアンチセンスRNA、センスRNAとを発現し得るようにプロモーターを対向して備えられる。この場合には、センスRNA、アンチセンスRNAの下流に余分な配列が付加されることを避けるために、それぞれの鎖(アンチセンスRNAコード鎖、センスRNAコード鎖)の3'末端にターミネーターをそれぞれ備えることが好ましい。このターミネーターは、A(アデニン)塩基を4つ以上連続させた配列などを用いることができる。また、このパリンドロームスタイルの発現システムでは、二つのプロモーターの種類を異ならせることが好ましい。
【0034】
ベクターに挿入する本発明のsiRNAをコードするDNAとしては、標的配列のインバーテッドリピートの間に適当な配列(イントロン配列が望ましい)を挿入し、ヘアピン構造を持つダブルストランドRNA(self-complementary ‘hairpin’ RNA(hpRNA))を作るようなコンストラクト(Smith, N.A. et al. Nature, 407:319, 2000、Wesley, S.V. et al. Plant J. 27:581, 2001、Piccin, A. et al. Nucleic Acids Res. 29:E55, 2001)を用いることもできる。
【0035】
また、異なるベクターからアンチセンスRNA、センスRNAを発現させる構成としては、例えば、アンチセンスコードDNAおよびセンスコードDNAの上流にそれぞれ polIII系のような短いRNAを発現し得るプロモーターを連結させたアンチセンスRNA発現カセット、センスRNA発現カセットをそれぞれ構築し、これらカセットを異なるベクターに保持させることにより構成することができる。
【0036】
即ち、本発明における「siRNA(二重鎖RNA)をコードするDNA」は、siRNAの双方の鎖をコードする一つのDNAであっても、それぞれの鎖をコードする2つのDNAの組合せであってもよい。また、「siRNA(二重鎖RNA)をコードするDNAが挿入されたベクター」は、siRNAのそれぞれの鎖を2つの転写産物として発現する一つのベクターであっても、siRNAの双方の鎖を1つの転写産物として発現する一つのベクターであってもよく、また、siRNAのそれぞれの鎖を発現する2つのベクターであってもよい。
【0037】
RNAiに用いるDNAは、標的遺伝子と完全に同一である必要はないが、少なくとも70%以上、好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上(例えば、96,97,98,99%以上)の配列の同一性を有する。塩基配列の同一性は、上記に記載のアルゴリズムBLASTによって決定することができる。
【0038】
細胞、又は細胞培養物、組織、もしくは胚のような細胞集団へdsRNAを送達するには、様々な方法を用いることが可能である。例えば、RNAは直接的に細胞内に導入され得る。マイクロインジェクションによる投与のような様々な物理的方法が、一般に、そのような場合において使用される。細胞送達のためのその他の方法としては、dsRNAの存在下での細胞膜の透過性化及び電気穿孔、リポソーム媒介トランスフェクション、又はリン酸カルシウムのような化学物質を使用したトランスフェクションが含まれる。多数の確立された遺伝子治療技術を、細胞へdsRNAを導入するために使用してもよい。ウイルス粒子へウイルス構築物を導入することによって、例えば、発現構築物の細胞への導入、及び構築物によってコードされたRNAの転写が、効率的に達成される。
【0039】
本発明において、「炎症性疾患を治療または予防」とは、炎症性疾患の症状、および炎症性疾患において合併して起こる症状を、治療または予防することを意味する。
本発明において、「炎症性疾患」とは、炎症が原因と考えられるか、結果として炎症を併発するか、つまり、病態として炎症症状を随伴する疾患のことを意味する。高等動物の炎症は刺激に対応する一連の微小循環系の反応により特徴づけられる。すなわち、通常の炎症では、微小循環系は一過性に収縮した後、拡大し、通常は閉じている毛細血管床が開き、血流量が増加する。さらに、細静脈領域の内皮細胞間隙が開くことにより、この間隙を通じて血漿成分が組織間質へ滲出する血管透過亢進現象が起こる。この血管透過亢進は普通2相性に起こり、第1相はヒスタミンまたはセロトニンによって起こる弱い反応であり即時型透過と呼ばれ、第2相の遅延型透過が炎症における血管透過の主体をなす。引き続いて、多核白血球、単球(組織内に遊出したあとはマクロファージと呼ばれる)、リンパ球などが、やはり細静脈領域から組織間質へと放出する。これらの血漿成分、細胞成分によって生成される活性因子系の作用が組織細胞の増殖を促し、修復へと導く。この一連の過程は古くから発赤(rubor)、疼痛(dolor)、発熱(calor)、腫脹(tumor)として記載されてきた。基本的には炎症は局所の防衛反応であるが、組織傷害作用をも示しうるので、機能障害も炎症の主徴に加えられる。炎症反応は局所組織、細胞の変性、循環障害、増殖が組み合わさった複合反応であり、その動的過程全体をさす。このような種々の側面のうち、どの様相が強いかにより、変質性炎、滲出性炎、増殖性炎に分類され、その経過により、急性炎、慢性炎に分類される。炎症性疾患の例として、慢性関節リウマチ(RA)、手術後の癒着、炎症性大腸炎、乾癬、狼瘡、喘息を挙げることができる。本発明において、炎症性疾患の好ましい例としては、慢性関節リウマチ(RA)、手術後の癒着を挙げることができる。
【0040】
本発明のsiRNA、該siRNAをコードするDNA、該DNAが挿入されたベクターは、それぞれ、そのままあるいは適宜配合剤と混合して炎症性疾患治療剤として使用することができる。該炎症性疾患治療剤を、公知トランスフェクション試薬等をもちいて細胞に導入すれば、細胞内でRNAi効果が発揮され、炎症性疾患の病態が抑制される。本発明による炎症性疾患の病態抑制の効果が期待される細胞は、ミッドカイン遺伝子を発現する細胞である。
【0041】
本発明における炎症性疾患を治療または予防する薬剤には、保存剤や安定剤等の製剤上許容しうる材料が添加されていてもよい。製剤上許容しうるとは、それ自体は上記の炎症性疾患の治療効果を有する材料であってもよいし、当該治療効果を有さない材料であってもよく、上記の治療剤とともに投与可能な製剤上許容される材料を意味する。また、炎症性疾患の治療効果を有さない材料であっても、ミッドカインに対するsiRNAと併用することによって相乗的もしくは相加的な安定化効果を有する材料であってもよい。
製剤上許容される材料としては、例えば、滅菌水や生理食塩水、安定剤、賦形剤、緩衝剤、防腐剤、界面活性剤、キレート剤(EDTA等)、結合剤等を挙げることができる。
【0042】
本発明において、界面活性剤としては非イオン界面活性剤を挙げることができ、例えばソルビタンモノカプリレート、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノパルミテート等のソルビタン脂肪酸エステル;グリセリンモノカプリレート、グリセリンモノミリテート、グリセリンモノステアレート等のグリセリン脂肪酸エステル;デカグリセリルモノステアレート、デカグリセリルジステアレート、デカグリセリルモノリノレート等のポリグリセリン脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレンソルビタントリオレエート、ポリオキシエチレンソルビタントリステアレート等のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンソルビットテトラステアレート、ポリオキシエチレンソルビットテトラオレエート等のポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル;ポリオキシエチレングリセリルモノステアレート等のポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル;ポリエチレングリコールジステアレート等のポリエチレングリコール脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンラウリルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル;ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンプロピルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンセチルエーテル等のポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル;ポリオキシエチエレンノニルフェニルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル;ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(ポリオキシエチレン水素ヒマシ油)等のポリオキシエチレン硬化ヒマシ油;ポリオキシエチレンソルビットミツロウ等のポリオキシエチレンミツロウ誘導体;ポリオキシエチレンラノリン等のポリオキシエチレンラノリン誘導体;ポリオキシエチレンステアリン酸アミド等のポリオキシエチレン脂肪酸アミド等のHLB6〜18を有するもの、等を典型的例として挙げることができる。
【0043】
また、界面活性剤としては陰イオン界面活性剤も挙げることができ、例えばセチル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、オレイル硫酸ナトリウム等の炭素原子数10〜18のアルキル基を有するアルキル硫酸塩;ポリオキシエチレンラウリル硫酸ナトリウム等の、エチレンオキシドの平均付加モル数が2〜4でアルキル基の炭素原子数が10〜18であるポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩;ラウリルスルホコハク酸エステルナトリウム等の、アルキル基の炭素原子数が8〜18のアルキルスルホコハク酸エステル塩;天然系の界面活性剤、例えばレシチン、グリセロリン脂質;スフィンゴミエリン等のフィンゴリン脂質;炭素原子数12〜18の脂肪酸のショ糖脂肪酸エステル等を典型的例として挙げることができる。
【0044】
本発明の薬剤には、これらの界面活性剤の1種または2種以上を組み合わせて添加することができる。本発明の製剤で使用する好ましい界面活性剤は、ポリソルベート20,40,60又は80などのポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルであり、ポリソルベート20及び80が特に好ましい。また、ポロキサマー(プルロニックF−68(登録商標)など)に代表されるポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールも好ましい。
【0045】
界面活性剤の添加量は使用する界面活性剤の種類により異なるが、ポリソルベート20又はポリソルベート80の場合では、一般には0.001〜100mg/mLであり、好ましくは0.003〜50mg/mLであり、さらに好ましくは0.005〜2mg/mLである。
【0046】
本発明において緩衝剤としては、リン酸、クエン酸緩衝液、酢酸、リンゴ酸、酒石酸、コハク酸、乳酸、リン酸カリウム、グルコン酸、カプリル酸、デオキシコール酸、サリチル酸、トリエタノールアミン、フマル酸等 他の有機酸等、あるいは、炭酸緩衝液、トリス緩衝液、ヒスチジン緩衝液、イミダゾール緩衝液等を挙げることが出来る。
【0047】
また溶液製剤の分野で公知の水性緩衝液に溶解することによって溶液製剤を調製してもよい。緩衝液の濃度は一般には1〜500mMであり、好ましくは5〜100mMであり、さらに好ましくは10〜20mMである。
【0048】
また、本発明の薬剤は、その他の低分子量のポリペプチド、血清アルブミン、ゼラチンや免疫グロブリン等の蛋白質、アミノ酸、多糖及び単糖等の糖類や炭水化物、糖アルコールを含んでいてもよい。
【0049】
本発明においてアミノ酸としては、塩基性アミノ酸、例えばアルギニン、リジン、ヒスチジン、オルニチン等、またはこれらのアミノ酸の無機塩(好ましくは、塩酸塩、リン酸塩の形、すなわちリン酸アミノ酸)を挙げることが出来る。遊離アミノ酸が使用される場合、好ましいpH値は、適当な生理的に許容される緩衝物質、例えば無機酸、特に塩酸、リン酸、硫酸、酢酸、蟻酸又はこれらの塩の添加により調整される。この場合、リン酸塩の使用は、特に安定な凍結乾燥物が得られる点で特に有利である。調製物が有機酸、例えばリンゴ酸、酒石酸、クエン酸、コハク酸、フマル酸等を実質的に含有しない場合あるいは対応する陰イオン(リンゴ酸イオン、酒石酸イオン、クエン酸イオン、コハク酸イオン、フマル酸イオン等)が存在しない場合に、特に有利である。好ましいアミノ酸はアルギニン、リジン、ヒスチジン、またはオルニチンである。さらに、酸性アミノ酸、例えばグルタミン酸及びアスパラギン酸、及びその塩の形(好ましくはナトリウム塩)あるいは中性アミノ酸、例えばイソロイシン、ロイシン、グリシン、セリン、スレオニン、バリン、メチオニン、システイン、またはアラニン、あるいは芳香族アミノ酸、例えばフェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、または誘導体のN-アセチルトリプトファンを使用することもできる。
【0050】
本発明において、多糖及び単糖等の糖類や炭水化物としては、例えばデキストラン、グルコース、フラクトース、ラクトース、キシロース、マンノース、マルトース、スクロース,トレハロース、ラフィノース等を挙げることができる。
本発明において、糖アルコールとしては、例えばマンニトール、ソルビトール、イノシトール等を挙げることができる。
【0051】
注射用の水溶液とする場合には、例えば生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液、例えば、D-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトール、塩化ナトリウムが挙げられ、適当な溶解補助剤、例えばアルコール(エタノール等)、ポリアルコール(プロピレングリコール、PEG等)、非イオン性界面活性剤(ポリソルベート80、HCO-50)等と併用してもよい。
所望によりさらに希釈剤、溶解補助剤、pH調整剤、無痛化剤、含硫還元剤、酸化防止剤等を含有してもよい。
【0052】
本発明において、含硫還元剤としては、例えば、N−アセチルシステイン、N−アセチルホモシステイン、チオクト酸、チオジグリコール、チオエタノールアミン、チオグリセロール、チオソルビトール、チオグリコール酸及びその塩、チオ硫酸ナトリウム、グルタチオン、並びに炭素原子数1〜7のチオアルカン酸等のスルフヒドリル基を有するもの等を挙げることができる。
【0053】
また、本発明において酸化防止剤としては、例えば、エリソルビン酸、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール、α−トコフェロール、酢酸トコフェロール、L−アスコルビン酸及びその塩、L−アスコルビン酸パルミテート、L−アスコルビン酸ステアレート、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、没食子酸トリアミル、没食子酸プロピルあるいはエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム(EDTA)、ピロリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム等のキレート剤を挙げることが出来る。
【0054】
また、必要に応じ、マイクロカプセル(ヒドロキシメチルセルロース、ゼラチン、ポリ[メチルメタクリル酸]等のマイクロカプセル)に封入したり、コロイドドラッグデリバリーシステム(リポソーム、アルブミンミクロスフェア、マイクロエマルジョン、ナノ粒子及びナノカプセル等)とすることもできる("Remington's Pharmaceutical Science 16th edition", Oslo Ed., 1980等参照)。さらに、薬剤を徐放性の薬剤とする方法も公知であり、本発明に適用し得る(Langer et al., J.Biomed.Mater.Res. 1981, 15: 167-277; Langer, Chem. Tech. 1982, 12: 98-105;米国特許第3,773,919号;欧州特許出願公開(EP)第58,481号; Sidman et al., Biopolymers 1983, 22: 547-556;EP第133,988号)。
使用される製剤上許容しうる担体は、剤型に応じて上記の中から適宜あるいは組合せて選択されるが、これらに限定されるものではない。
【0055】
本発明は、ミッドカインに対するsiRNAを、炎症性疾患が発症している対象に投与する工程を含む、対象において炎症性疾患を治療または予防する方法に関する。
本発明において、「対象」とは、本発明の炎症性疾患治療剤を投与する生物体、該生物体の体内の一部分をいう。生物体は、特に限定されるものではないが、動物(例えば、ヒト、家畜動物種、野生動物)を含む。
【0056】
また、「生物体の体内の一部分」については特に限定されないが、好ましくは炎症性疾患が発祥している部位およびその周辺部位を挙げることが出来る。具体的には、関節炎を発症している関節、または手術により損傷を受けた部位を挙げることが出来る。
【0057】
本発明におけるすべての薬剤は、医薬品の形態で投与することが可能であり、経口的または非経口的に全身あるいは局所的に投与することができる。例えば、点滴などの静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、皮下注射、坐薬、注腸、経口性腸溶剤などを選択することができ、患者の年齢、症状により適宜投与方法を選択することができる。有効投与量は、一回につき体重1kgあたり0.01mgから100mgの範囲で選ばれる。あるいは、患者あたり1〜1000mg、好ましくは5〜50mgの投与量を選ぶことができる。好ましい投与量、投与方法の具体的な例としては、体重1kgあたり1ヶ月(4週間)に0.5mgから40mg、好ましくは1mgから20mgを1回から数回に分けて、例えば2回/週、1回/週、1回/2週、1回/4週などの投与スケジュールで点滴などの静脈内注射、皮下注射などの方法で、投与する方法などである。投与スケジュールは、移植後の状態の観察および血液検査値の動向を観察しながら2回/週あるいは1回/週から1回/2週、1回/3週、1回/4週のように投与間隔を延ばしていくなど調整することも可能である。
【0058】
また、投与すべきオリゴヌクレオチドを含む遺伝子を遺伝子治療の手法を用いて生体に導入することにより、本発明の方法の効果を達成することができる。また、本発明の薬剤を、処置を施したい領域に局所的に投与することもできる。例えば、手術中の局所注入、カテーテルの使用、または本発明のペプチドをコードするDNAの標的化遺伝子送達により投与することも可能である。炎症性疾患の公知の治療法、例えば、慢性関節性リウマチにおいてはヒト型可溶性TNFα/LTαレセプター製剤の投与と同時に本発明の薬剤が投与されてもよい。
【実施例】
【0059】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に制限されるものではない。本実施例において、数値は必要に応じてmean±SEで表した。統計有意性は、student testにより評価した。
【0060】
〔実施例1〕ミッドカインに対するsiRNAの投与による、手術後の癒着への効果の検討
ミッドカインに対するsiRNAの投与による、手術後の癒着への効果を検討するために、マウスにおいて擬似的に手術後の状態を形成させ、ミッドカインに対するsiRNAを投与した。
雄のC57BL/6マウスを、ペントバルビタールナトリウム(Abbott Laboratories, North Chicago, IL)(40 mg/kg)の腹腔内投与により麻酔し、開腹した。左上腹部の内側に、No.11のメスで、5×5 mmの大きさの擦過傷(abrasion)を作成した。両極性焼灼器により止血した後、腹部を5-0ナイロン縫合糸で閉じた。手術2時間後に、0.3 mlのRNA-free water(Funakoshi)に溶解した1 mgのsiRNAを腹腔内投与した。siRNA(anti-MK)投与に11匹、コントロールsiRNA投与に6匹、0.3 mlのPBS投与に12匹のマウスを使用した。ミッドカインの発現を抑制するsiRNAとしては、配列番号:5に記載のRNAおよびその相補鎖(配列番号:6)を、コントロールsiRNAとしてランダム配列のsiRNAを使用した。
7日後、上述のようにペントバルビタール麻酔下で再度開腹し、傷つけた腹壁への大網(omentum)の癒着が起こっているかどうかを検査した。
その結果、ミッドカインに対するsiRNAは、強力に癒着を抑制したが、コントロールのsiRNAは抑制を示さないことが明らかとなった(図1、2)。
【0061】
〔実施例2〕ミッドカインに対するsiRNAの投与による、関節炎への効果の検討
ミッドカインに対するsiRNAの投与による、関節炎への効果を検討するために、関節炎モデルマウスを作成し、ミッドカインに対するsiRNAを投与した。
1日目、雌のBalb/Cマウス(6週齢)に、関節炎を発症させるモノクローナル抗体カクテル(0.5 mg in 0.125 ml)(Iwaki Chemicals、東京、日本)を腹腔内投与した。2日目、同様の投与を繰り返した。4日目、リポ多糖 50 μgを含む0.1 mlのPBSを腹腔内投与した。0.1 mlのRNA-free water(Funakoshi)に溶解した1 mgのsiRNAを、リポ多糖の投与2時間後に、尾の血管から静脈投与した。PBS投与に6匹、siRNA投与に5匹のマウスを使用した。8日目、それぞれの肢において関節炎の重症度を0-4段階評価で判定した(0=正常、1=足首および手首の軽度だが明確な発赤および腫れ、2=足首および手首の中等度から重度の発赤および腫れ、3=肢全体の発赤および腫れ、4=多関節を含む肢の最大限の膨張)。四肢から得られた値を合計した。
その結果、尾の血管からsiRNAを静脈投与したマウスは、PBSを投与したマウスと比較して、抗体で誘導した関節炎が顕著に抑制されることが明らかとなった(図3)。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】ミッドカインに対するsiRNAの腹腔内投与による、手術後の癒着の抑制を示す図である。結果は、手術した全てのマウスにおける癒着が認められたマウスの割合(%)で表した。
【図2】図1の実験を代表する写真である。
【図3】ミッドカインに対するsiRNAの投与による、抗体で誘導した関節炎の抑制を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(a)から(d)のいずれかのDNAの転写産物と相補的なRNA、および該RNAと相補的なRNAからなる2重鎖RNAを有効成分として含有する、炎症性疾患を治療または予防するための薬剤。
(a)配列番号:2または4に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA。
(b)配列番号:1または3に記載の塩基配列のコード領域を含むDNA。
(c)配列番号:2または4に記載のアミノ酸配列において1または複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、および/または挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA。
(d)配列番号:1または3に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA。
【請求項2】
配列番号:5に記載の塩基配列を含むRNA、および配列番号:6に記載の塩基配列を含むRNAからなる2重鎖RNAを有効成分として含有する、請求項1に記載の炎症性疾患を治療または予防するための薬剤。
【請求項3】
配列番号:7に記載の塩基配列を含むRNA、および配列番号:8に記載の塩基配列を含むRNAからなる2重鎖RNAを有効成分として含有する、請求項1に記載の炎症性疾患を治療または予防するための薬剤。
【請求項4】
下記(a)から(d)のいずれかのDNAの転写産物と相補的なRNA、および該RNAと相補的なRNAからなる2重鎖RNAをコードするDNAを有効成分として含有する、炎症性疾患を治療または予防するための薬剤。
(a)配列番号:2または4に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA。
(b)配列番号:1または3に記載の塩基配列のコード領域を含むDNA。
(c)配列番号:2または4に記載のアミノ酸配列において1または複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、および/または挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA。
(d)配列番号:1または3に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA。
【請求項5】
配列番号:5に記載の塩基配列を含むRNA、および配列番号:6に記載の塩基配列を含むRNAからなる2重鎖RNAをコードするDNAを有効成分として含有する、請求項4に記載の炎症性疾患を治療または予防するための薬剤。
【請求項6】
配列番号:7に記載の塩基配列を含むRNA、および配列番号:8に記載の塩基配列を含むRNAからなる2重鎖RNAをコードするDNAを有効成分として含有する、請求項4に記載の炎症性疾患を治療または予防するための薬剤。
【請求項7】
下記(a)から(d)のいずれかのDNAの転写産物と相補的なRNA、および該RNAと相補的なRNAからなる2重鎖RNAをコードするDNAが挿入されたベクターを有効成分として含有する、炎症性疾患を治療または予防するための薬剤。
(a)配列番号:2または4に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA。
(b)配列番号:1または3に記載の塩基配列のコード領域を含むDNA。
(c)配列番号:2または4に記載のアミノ酸配列において1または複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、および/または挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA。
(d)配列番号:1または3に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA。
【請求項8】
配列番号:5に記載の塩基配列を含むRNA、および配列番号:6に記載の塩基配列を含むRNAからなる2重鎖RNAをコードするDNAが挿入されたベクターを有効成分として含有する、請求項7に記載の炎症性疾患を治療または予防するための薬剤。
【請求項9】
配列番号:7に記載の塩基配列を含むRNA、および配列番号:8に記載の塩基配列を含むRNAからなる2重鎖RNAをコードするDNAが挿入されたベクターを有効成分として含有する、請求項7に記載の炎症性疾患を治療または予防するための薬剤。
【請求項10】
炎症性疾患が慢性関節性リウマチである、請求項1〜9のいずれかに記載の薬剤。
【請求項11】
炎症性疾患が手術後の癒着である、請求項1〜9のいずれかに記載の薬剤。
【請求項12】
請求項1〜9のいずれかに記載の薬剤を、炎症性疾患が発症している対象に投与する工程を含む、炎症性疾患を治療または予防する方法。
【請求項13】
炎症性疾患が慢性関節性リウマチである、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
炎症性疾患が手術後の癒着である、請求項12に記載の方法。

【図1】
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【図3】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−137771(P2007−137771A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−329433(P2005−329433)
【出願日】平成17年11月14日(2005.11.14)
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【出願人】(591038945)
【出願人】(503139762)株式会社セルシグナルズ (5)
【Fターム(参考)】