説明

炎症性疾患用アミノ酸組成物

【課題】炎症性腸疾患等の炎症性疾患の治療や予防あるいは寛解導入・維持に有効で、副腎皮質ステロイド剤等の既存の医薬に比べて、副作用の心配がなく、薬剤耐性も生じにくく、しかも、経口投与が可能で、コストも安い炎症性疾患用アミノ酸組成物を提供する。
【解決手段】ヒトの必須アミノ酸で構成され、アルギニン以外のヒトの非必須アミノ酸を含有しないことを特徴とする前記炎症性疾患用アミノ酸組成物。ヒトの必須アミノ酸は、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、スレオニン、トリプトファン、バリン、システイン及びチロシンからなることが好ましい。さらに、前記炎症性疾患用アミノ酸組成物は、アルギニンを含有することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炎症性疾患用アミノ酸組成物に関する。さらに詳しく言うと、本願発明は、ヒトの必須アミノ酸から構成され、アルギニン以外のヒトの非必須アミノ酸を含まない炎症性疾患用アミノ酸組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
クローン病及び潰瘍性大腸炎を二大疾患とする炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease;IBD)は、慢性の難治性疾患であり、特定疾患として指定されている。日本での患者数は10万人を超え、なおも増加傾向にある。
本疾患の病因は未だ特定されていないが、免疫機構に関与するものと考えられている。すなわち、特定の腸内細菌や食餌抗原が、炎症の発症部位である腸管上皮から組織内部へ侵入し、過剰な炎症反応が引き起こされるというメカニズムが指摘されている。免疫系が攪乱されて、腸管上皮周辺を中心に自己を攻撃し、腸管に炎症が発症するというのである。炎症性腸疾患は、通常は、炎症症状の急性憎悪・再燃(炎症の悪化)と寛解(炎症の緩和)を繰り返す。炎症症状の急性増悪・再燃の際には、患者は一般に、食事摂取が不十分であったり、消化吸収障害や、炎症部位からのタンパク質の漏出、さらには炎症による発熱等が認められたりするため、低栄養状態に陥ることが多い。
そのため、治療方針としては、速やかに炎症症状を緩和(寛解導入)し、再燃を予防(寛解維持)することにより、患者のQOLを高めることに主眼が置かれている。
【0003】
本疾患の治療方法には、薬物療法、栄養療法、手術がある。薬物療法では、免疫抑制剤、副腎皮質ステロイド剤、分子生物学的製剤(抗体医薬)、アミノサリチル酸製剤等が主に使用されている。
しかし、これらの既存医薬では、重篤な副作用が報告されており、安全性に問題がある。しかも、効果の減弱が生じやすく、薬剤耐性が生じやすいものが多い。さらに、これらの既存医薬は、経口投与できず、自宅では投与できないなどの問題もあった。
また、手術は、病変部の切除や狭窄形成術等が行われているが、再発率が高いなどの問題がある。
【0004】
栄養療法としては、タンパク質をその構成分子の混合物として与える成分栄養が行われている。タンパク質はアミノ酸混合物として配合されるが、その配合量は、栄養価の高い卵白アルブミンのアミノ酸組成をもとに調整が行われている(非特許文献1〜3参照)。
一方、ホエイタンパク質加水分解物の全アミノ酸組成物を、炎症性疾患である肝不全患者の栄養療法において使用することが検討されている(特許文献1)。
ホエイタンパク質は、必須アミノ酸と非必須アミノ酸の含有バランスに優れ、卵白アルブミンなどよりもさらに栄養的価値が高い旨の評価もある(非特許文献4)。
しかしながら、これらの文献に記載されているアミノ酸組成物は、必須アミノ酸及び非必須アミノ酸の両者を含む全アミノ酸からなる組成物やペプチド混合物であり、これらの栄養療法は薬物療法に比べて安全性が高く、患者の栄養状態も改善しうるものの、その抗炎症効果は不十分であった。
【0005】
このような状況下で、炎症性腸疾患等の炎症性疾患に対する抗炎症作用が優れ、患者の栄養状態の改善も可能で、既存の医薬と比べて、副作用の心配がなく、薬剤耐性も生じず、経口投与が可能で、しかもコストが安い炎症性疾患用治療剤が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−99563号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Elemental diet as primary treatment of acute Crohn’s desease: a controlled trial, British Medical Journal (1984) Vol.288 1859-1862.
【非特許文献2】Nutritional Management of inflammatory bowel disease, Gastroenterology Clinics of North America (1989) Vol.17, No.1, 129-157.
【非特許文献3】Therapeutic efficacy of cyclic home elemental enteral alimentation in Crohn’s disease, Journal of Gastroenterology (1995) 30 (Suppl VIII) 91-94.
【非特許文献4】山口真ら、ホエイタンパク質およびホエイペプチドの特長と抗炎症作用,Milk Science (2005) Vol.54,No.3 123-127
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、本発明は、炎症性腸疾患等の炎症性疾患の治療や予防あるいは寛解導入・維持に有効で、患者の栄養状態も改善しつつ、副腎皮質ステロイド剤等の既存の薬物に比べて、副作用の心配がなく、薬剤耐性も生じにくく、しかも、経口投与が可能で、コストが安い炎症性疾患用アミノ酸組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねたところ、アミノ酸組成物のうち、ヒトの必須アミノ酸組成物に非常に優れた抗炎症作用があることを見出し、本発明を完成させた。
また、前記ヒトの必須アミノ酸組成物にアルギニンを加えたものに、さらに優れた抗炎症作用があることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の炎症性腸疾患治療剤を提供するものである。
(1) ヒトの必須アミノ酸で構成され、アルギニン以外のヒトの非必須アミノ酸を含有しないことを特徴とする炎症性疾患用アミノ酸組成物。
(2) ヒトの必須アミノ酸が、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、スレオニン、トリプトファン、バリン、システイン及びチロシンからなることを特徴とする前記炎症性疾患用アミノ酸組成物。
(3) ヒスチジン0.8〜24.4重量%(フリーのアミノ酸として:以下同じ)、イソロイシン1.9〜50.4重量%、ロイシン3.6〜75.2重量%、リジン1.7〜68.8重量%、メチオニン0.6〜38.0重量%、システイン0.1〜42.0重量%、フェニルアラニン0.1〜55.6重量%、チロシン0.1〜43.6重量%、スレオニン1.5〜54.4重量%、トリプトファン0.4〜16.4重量%及びバリン2.3〜53.6重量%を含有することを特徴とする前記炎症性疾患用アミノ酸組成物。
(4) ヒスチジン3.5〜6.1重量%(フリーのアミノ酸として:以下同じ)、イソロイシン7.7〜12.6重量%、ロイシン14.7〜18.8重量%、リジン6.9〜17.2重量%、メチオニン2.4〜9.5重量%、システイン0.6〜10.5重量%、フェニルアラニン6.1〜13.9重量%、チロシン5.6〜10.9重量%、スレオニン6.1〜13.6重量%、トリプトファン1.9〜4.1重量%及びバリン9.3〜13.4重量%を含有することを特徴とする前記炎症性疾患用アミノ酸組成物。
(5) さらに、アルギニンを含有することを特徴とする前記炎症性疾患用アミノ酸組成物。
(6) ヒスチジン0.8〜24.4重量%(フリーのアミノ酸として:以下同じ)、イソロイシン1.9〜50.4重量%、ロイシン3.6〜75.2重量%、リジン1.7〜68.8重量%、メチオニン0.6〜38.0重量%、システイン0.1〜42.0重量%、フェニルアラニン0.1〜55.6重量%、チロシン0.1〜43.6重量%、スレオニン1.5〜54.4重量%、トリプトファン0.4〜16.4重量%、バリン2.3〜53.6重量%及びアルギニン1.1〜63.6重量%を含有することを特徴とする前記炎症性疾患用アミノ酸組成物。
(7) ヒスチジン3.5〜6.1重量%(フリーのアミノ酸として:以下同じ)、イソロイシン7.7〜12.6重量%、ロイシン14.7〜18.8重量%、リジン6.9〜17.2重量%、メチオニン2.4〜9.5重量%、システイン0.6〜10.5重量%、フェニルアラニン6.1〜13.9重量%、チロシン5.6〜10.9重量%、スレオニン6.1〜13.6重量%、トリプトファン1.9〜4.1重量%、バリン9.3〜13.4重量%及びアルギニン4.7〜15.9重量%を含有することを特徴とする前記炎症性疾患用アミノ酸組成物。
(8) 炎症性疾患が、炎症性腸疾患であることを特徴とする前記炎症性疾患用アミノ酸組成物。
(9)炎症性腸疾患が、クローン病または潰瘍性大腸炎であることを特徴とする前記炎症性疾患用アミノ酸組成物。
(10) 炎症性疾患の治療、予防、寛解の導入または維持のために使用できることを特徴とする前記炎症性疾患用アミノ酸組成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明の炎症性疾患用アミノ酸組成物は、炎症性腸疾患などの炎症性疾患の治療や予防あるいは寛解導入・維持に優れた薬理的活性を有し、栄養状態の改善も見込め、さらに、既存の薬物と比べて、副作用の心配がなく、薬剤耐性が生じず、経口投与が可能で、しかもコストが安い。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】試験例1における組成物A〜Dの結果を示すグラフである。
【図2】試験例3における通常餌及び混合餌A〜Dの結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について詳しく説明する。
本発明の炎症性疾患用アミノ酸組成物は、ヒトの必須アミノ酸で構成され、アルギニン以外のヒトの非必須アミノ酸を含まないことを特徴とするものである。
すなわち、本発明の炎症性疾患用アミノ酸組成物は、
1)「ヒトの必須アミノ酸」から構成される場合と、
2)「ヒトの必須アミノ酸」及び「アルギニン」から構成される場合
がある。本発明のアミノ酸組成物は、1)及び2)の両方の場合において、アルギニン以外のヒトの非必須アミノ酸を含まないことを特徴とする。
なお、本明細書全体において、ヒトの必須アミノ酸及びヒトの非必須アミノ酸については、「ヒトの」を省略して、単に必須アミノ酸及び非必須アミノ酸と書く場合がある。
【0014】
本発明で使用するアミノ酸組成物の組成の由来等は特に限定されない。
たとえば、乳カゼイン、乳ホエイ、卵黄、卵白アルブミン、大豆タンパク質等を構成する全アミノ酸組成から、ヒトの必須アミノ酸の組成比(構成比)を抽出し、その組成比に基づいて各アミノ酸を配合した必須アミノ酸組成物を用いることができる。アルギニンは含有しても、含有していなくてもよいが、アルギニンを含有する場合には、さらに優れた効果が得られる。
これらのタンパク質のうち、乳ホエイを構成する全アミノ酸組成物に含まれるヒトの必須アミノ酸組成比からなる必須アミノ酸組成物、またはそれにアルギニンを加えた組成物は特に好ましい。
なお、上記の乳は、牛乳であるが、ヤギ乳、ヒトの母乳など牛以外の哺乳類の乳でもよい。
【0015】
本発明において、「ヒトの必須アミノ酸」とは、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、スレオニン、トリプトファン、バリン、システイン及びチロシンである。
これらのアミノ酸は、L−型のアミノ酸を指し、塩等の形態をとっていてもよい。塩等の例としては、L−ヒスチジン塩酸塩、L−リジン塩酸塩、N−アセチル−L−システイン、L−シスチン、N−アセチル−L−トリプトファン等が挙げられる。また、アルギニンについては、L−アルギニン塩酸塩等が挙げられる。
【0016】
本発明の炎症性疾患用アミノ酸組成物における各必須アミノ酸の好ましい配合量は、アルギニンを含まない場合、当該アミノ酸組成物中、ヒスチジン0.8〜24.4重量%(フリーのアミノ酸として:以下同じ)、イソロイシン1.9〜50.4重量%、ロイシン3.6〜75.2重量%、リジン1.7〜68.8重量%、メチオニン0.6〜38.0重量%、システイン0.1〜42.0重量%、フェニルアラニン0.1〜55.6重量%、チロシン0.1〜43.6重量%、スレオニン1.5〜54.4重量%、トリプトファン0.4〜16.4重量%及びバリン2.3〜53.6重量%である。
なお、本明細書において、「フリーのアミノ酸として」は、正味のアミノ酸重量を示し、塩等を形成している場合には、その分を除いてという意味である。
【0017】
本発明の炎症性疾患用アミノ酸組成物における各必須アミノ酸のさらに好ましい配合量は、アルギニンを含まない場合、当該アミノ酸組成物中、ヒスチジン3.5〜6.1重量%(フリーのアミノ酸として:以下同じ)、イソロイシン7.7〜12.6重量%、ロイシン14.7〜18.8重量%、リジン6.9〜17.2重量%、メチオニン2.4〜9.5重量%、システイン0.6〜10.5重量%、フェニルアラニン6.1〜13.9重量%、チロシン5.6〜10.9重量%、スレオニン6.1〜13.6重量%、トリプトファン1.9〜4.1重量%及びバリン9.3〜13.4重量%である。
【0018】
また、アルギニンを含む場合、本発明の炎症性疾患用アミノ酸組成物における各アミノ酸の好ましい配合量は、当該アミノ酸組成物中、ヒスチジン0.8〜24.4重量%(フリーのアミノ酸として:以下同じ)、イソロイシン1.9〜50.4重量%、ロイシン3.6〜75.2重量%、リジン1.7〜68.8重量%、メチオニン0.6〜38.0重量%、システイン0.1〜42.0重量%、フェニルアラニン0.1〜55.6重量%、チロシン0.1〜43.6重量%、スレオニン1.5〜54.4重量%、トリプトファン0.4〜16.4重量%、バリン2.3〜53.6重量%及びアルギニン1.1〜63.6重量%である。
【0019】
アルギニンを含む場合、本発明の炎症性疾患用アミノ酸組成物における各アミノ酸のさらに好ましい配合量は、当該アミノ酸組成物中、ヒスチジン3.5〜6.1重量%(フリーのアミノ酸として:以下同じ)、イソロイシン7.7〜12.6重量%、ロイシン14.7〜18.8重量%、リジン6.9〜17.2重量%、メチオニン2.4〜9.5重量%、システイン0.6〜10.5重量%、フェニルアラニン6.1〜13.9重量%、チロシン5.6〜10.9重量%、スレオニン6.1〜13.6重量%、トリプトファン1.9〜4.1重量%、バリン9.3〜13.4重量%及びアルギニン4.7〜15.9重量%である。
【0020】
上記各アミノ酸の配合量の上限値及び下限値は、WHO/FAO/UNU2007に定められた必須アミノ酸必要量(アミノ酸評点パターン)の組成比や、乳カゼイン、乳ホエイ、卵黄、卵白アルブミン、大豆タンパク質等を構成する全アミノ酸組成中、アルギニン以外の非必須アミノ酸を除いた組成比の最大値及び最小値に基づいて算出した。
【0021】
本発明の炎症性疾患用アミノ酸組成物は、種々の炎症性疾患の治療、予防及び寛解導入・維持等に有効である。
炎症性疾患としては、例えば、炎症性腸疾患、リウマチ、膠原病、アレルギー性疾患、細菌・ウイルスその他の感染症、肝不全等が挙げられる。これらの中でも、本発明の炎症性疾患用アミノ酸組成物は、クローン病及び潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患に特に有効である。
【0022】
また、本発明の炎症性疾患用アミノ酸組成物は、特に製剤化せずに、そのまま患者に投与してもよいし、製剤化して投与してもよい。
製剤化する場合には、賦形剤、補助剤、添加剤等と混合することができる。
賦形剤、補助剤および添加剤等を使用する場合、それらの種類やその配合量は、製剤学上、医薬学上許容され得るものであれば限定されない。賦形剤、補助剤および添加剤等の種類としては、例えば、ゲル化剤、増粘剤、結合剤、崩壊剤、酸味料、発泡剤、人工甘味料、香料、滑沢剤、着色剤、安定化剤、緩衝剤、抗酸化剤、界面活性剤などが挙げられ、これらの1種または2種以上を適宜使用することができる。
また、これらの賦形剤、補助剤および添加剤等の配合量は、アミノ酸組成物に対して、例えば、0.1重量%〜20.0重量%、好ましくは、0.1重量%〜10.0重量%、さらに好ましくは、0.1重量%〜5.0重量%とすることができる。
【0023】
本発明の炎症性疾患用アミノ酸組成物を製剤化する場合、その剤形は、特に限定されず、分散製剤、粉粒体製剤、溶液製剤、半固形製剤、成型製剤等のいずれの剤形とすることもできる。これらの中でも、散剤、細粒剤、顆粒剤、ゼリー剤等の形態とすることは好ましい。
【0024】
本発明の炎症性疾患用アミノ酸組成物は、医薬の有効成分として用いることもできる。また、本発明の炎症性疾患用アミノ酸組成物は、栄養組成物中に配合して用いてもよく、その場合の形態は、ゼリー剤、液剤、粉末剤、固形剤等とすることができる。
【0025】
本発明の炎症性疾患用アミノ酸組成物の投与量は、炎症性疾患の治療、予防、寛解導入・維持に有効な量であれば、特に限定されない。たとえば、成人に対して、0.001g〜1.5g/体重kg/日、好ましくは、0.1g〜1.0g/体重kg/日とすることができる。投与量は、患者の年齢、体重、疾患の種類、症状の程度、性別等により、適宜増減することが可能である。
また、投与方法は、特に限定されないが、経口投与、経管等による経腸投与は好ましい。投与回数は、1日1回〜適当な回数に分けることができる。
【0026】
本発明のアミノ酸組成物は、全アミノ酸からなる組成物に比べて、炎症性疾患の治療や予防あるいは寛解導入・維持に非常に有効である。
また、本発明のアミノ酸組成物は、免疫抑制剤、副腎皮質ステロイド剤、分子生物的製剤(抗体医薬)、アミノサリチル酸製剤等の既存薬物と比べて、副作用が格段に少なく、薬剤耐性も生じにくく、安全性が極めて高い。さらに、本発明のアミノ酸組成物は、前記既存の薬物と比べて、経口摂取が可能であり、コストも安いので、コンプライアンスの改善や医療費削減にも寄与することができる。
さらに、本発明の炎症性疾患用アミノ酸組成物は、ヒトの必須アミノ酸またはそれにアルギニンを加えたものから構成されるため、患者の体タンパク質を維持することができ、栄養状態を改善することもできる。
【実施例】
【0027】
以下、試験例及び実施例により、本発明をさらに、詳しく説明する。試験例及び実施例において、単に「%」と記載したものは「重量%」を示すものとする。
【0028】
(試験例1)
本試験例において用いるラットは、炎症性腸疾患モデルラットを、Morris G.P. et al: Gastroenterology, Vol.96,P795 (1989)に記載の方法に準じて作成した。
同文献に記載の方法とは、ラットまたはマウスにトリニトロベンゼンスルホン酸(TNBS)をエタノールと共に注腸することにより、クローン病類似の肉芽腫形成を誘発させる方法である。その手法は、麻酔下にて、50%エタノールにTNBSを溶解させた溶液を肛門から約4cmの結腸内に投与するのが一般的である。
TNBSによる大腸炎症状は、投与4日後にピークを示し、血清中の抗TNBS抗体の上昇と共に、腸管内の潰瘍、陰窩の短縮及び粘膜固有層の肥厚、周囲組織への癒着を伴う持続的炎症が観察され、組織学的にも単核球の著明な浸潤と共に肉芽腫の形成が認められるクローン病類似の慢性大腸炎と考えられている。
本試験例においては、このモデルの改変モデルとして、TNBSを大腸ではなく、クローン病の炎症好発部位である小腸(回腸)に投与し(Ohta N, Tsujikawa T, Nakamura,T et al. (2003) J Gastroenterol. 38(2):127-33., Tsujikawa T, Ohta N, Nakamura T, et al. (1999) J Gastroenterol Hepatol. 14(12):1166-72.)、癒着、拡張、潰瘍、腸管壁厚など肉眼スコアによる評価を行った。
【0029】
本試験例においては、下記の手順で試験を行った。
(馴化)
Wistar系雄性ラット(体重200g程度)を7日間馴化させ、その間、AIN−93G食を与えた。
(TNBS感作)
馴化後、ラットにTNBS感作を行った。すなわち、ラットに、6mg/0.15ml/ラット(4%TNBS生理食塩水中)を0.15ml投与し、TNBS感作を行った。TNBS感作は、TNBSモデルの安定化(死亡率の低下など)に有効であると報告されている(Ishida T, Azuma T et al. (2010) Inflamm Bowel Dis. 16(1):87-95、森脇 和郎 等(2004)モデル動物の作製と維持 Life-science information center )。
(絶食)
TNBS投与前に、一時的に腸管内容物をなくすため、TNBS感作後4日目から2日間ラットを絶食させた。
【0030】
(TNBS投与)
絶食後、ラットをペントバルビタールナトリウム(腹腔内投与、40mg/0.8ml/kg体重)にて麻酔後、開腹し、回盲弁から上流10cmの小腸部位周辺を腹腔外に引き出した。回盲弁上流10cmの部位から上流5cmの範囲に29G針つきシリンジを用いて、50%エタノール中120mg/ml TNBSを0.3ml/ラットの容量で小腸投与した。30分間静置後、腸管を腹壁内に戻し、切開した腹筋および皮膚を縫合して閉腹した。
【0031】
(アミノ酸組成物投与)
得られたTNBS改変モデルラットを1群10匹とし、表1〜表3の各アミノ酸組成物を15g/日の用量で経口投与した。
表1に示す組成物は、アミノ酸として、全アミノ酸混合物を、20重量%(フリーのアミノ酸として)含有する組成物(Total AA20重量%:組成物A)と、アミノ酸として、必須アミノ酸のみの混合物を、15重量%(フリーのアミノ酸として)含有する組成物(EAA15重量%:組成物B)である。
表2に示す組成物は、前記全アミノ酸混合物を、20重量%(フリーのアミノ酸として)含有する組成物(Total AA20重量%:組成物A)に加えて、アミノ酸として、必須アミノ酸のみの混合物を、20重量%(フリーのアミノ酸として)含有する組成物(EAA20重量%:組成物C)である。
表3に示す組成物は、前記全アミノ酸混合物を、20重量%(フリーのアミノ酸として)含有する組成物(Total AA20重量%:組成物A)に加えて、アミノ酸として、必須アミノ酸及びアルギニンを、合計で15重量%(フリーのアミノ酸として)含有する組成物((EAA+Arg)15重量%:組成物D)を示す。
表1〜表3の各表において、組成物Aと組成物B、組成物Aと組成物C、組成物Aと組成物Dは、それぞれアミノ酸組成が異なるのみで、それ以外の成分(油脂、糖質、ミネラル、ビタミン、添加物)と各成分の含有量は基本的に同じであるが、アミノ酸の増量分は、糖質であるデキストリンの配合量を減量することで調整した。なお、これらの組成物は、市販のアミノ酸(協和発酵株式会社製)を使用して、通常の栄養組成物の製造方法により、製造した。各表において、「Total AA」は、必須アミノ酸と非必須アミノ酸を含む全アミノ酸を示し、「EAA」は、必須アミノ酸を示す。また、各表において、「%」は、「重量%」を示す。
なお、表1〜3に示す各アミノ酸組成物のラットへの投与は、TNBS小腸投与前7日から投与前2日までと、TNBS小腸投与後1日から投与後7日までとした。
【0032】
【表1】

【0033】
【表2】

【0034】
【表3】

【0035】
(モデルの評価)
本試験例のTNBS改変モデルラットにおいては、TNBS小腸投与後7日経過後に、解剖を行い、小腸の癒着・拡張を調べ、病変の状態(ダメージ・スコア)の肉眼によるスコアリングを実施した。
さらに、潰瘍部分の面積(長径(mm)×短径(mm))、腸管壁の厚み(mm;回盲弁から上流20cmの最大肥厚部位)及び小腸重量(g/回盲弁から上流20cm)を計測した。なお、肉眼によるスコアリングは、下記肉眼スコア(1)〜(3)に基づいて判定した。
【0036】
肉眼スコア(1)は、下記に示すように、Vilasecaらの方法(Dietary fish oil reduces progression of chronic inflammatory lesions in a rat model of granulomatous colitis.Vilaseca J, Salas A, Guarner F, Rodriguez R, Martinez M, Malagelada JR.Gut. 1990 May;31(5):539-44.)を改良したスコアリング方法によって判定した。
【0037】
肉眼スコア(2)は、下記に示すように、Wallace(Assessment of the role of platelet-activating factor in an animal model of inflammatory bowel disease. Wallace JL, Braquet P, Ibbotson GC, MacNaughton WK, Cirino G. J Lipid Mediat. 1989 Jan-Feb;1(1):13-23.)らの方法を改良したスコアリング方法によって判定した。
【0038】
肉眼スコア(3)は、下記に示すように、Caroline(Reactivation of hapten-induced colitis and its prevention by anti-inflammatory drugs. Appleyard Caroline B, Wallace JL. Am J Physiol. 1995 Jul;269(1 Pt 1):G119-25.)らによるスコアリング方法によって判定した。
【0039】
肉眼スコア(1)
癒着 0:なし
1:軽度(簡単に剥離できる)
2:重度(顕著なループまたは剥離困難)
拡張 0:なし
1:軽度
2:中程度
3:重度(狭窄を伴う)
潰瘍 0:なし
1:軽度(充血〜比較的小さく浅いもの)
2:重度(顕著な肥厚を伴い、広範囲にわたるもの)
肥厚 0:1.0mm以下
1:1.0〜2.0mm
2:2.0〜3.0mm
3:3.0mm以上
ダメージ・スコア:1匹毎に以上の判定値を合計し、10匹の平均値を求めた。
【0040】
肉眼スコア(2)
スコア0:障害なし。
スコア1:充血。潰瘍なし。
スコア2:充血と大腸壁の肥厚。潰瘍なし。
スコア3:大腸壁の肥厚を伴わない潰瘍が1箇所
スコア4:2箇所以上の潰瘍または炎症。
スコア5:2箇所以上の比較的大きな潰瘍もしくは炎症。または1〜2cm程度の潰瘍もしくは炎症。
スコア6:2〜3cm程度の潰瘍または炎症。
スコア7:3〜4cm程度の潰瘍または炎症。
スコア8:4〜5cm程度の潰瘍または炎症。
スコア9:5〜6cm程度の潰瘍または炎症。
スコア10:6cm以上の潰瘍または炎症。
ダメージ・スコア:上記値の10匹の平均値を求めた。
【0041】
肉眼スコア(3)
潰瘍 X:Wallaceのスコアによる数値を引用
癒着 0:癒着なし
1:軽度の癒着(癒着部位が簡単に剥がれる程度)
2:重度の癒着
糞便 0:通常便
1:下痢便(軟便、泥状便、水様便)
腸壁 Y:腸壁の厚さ(mm)
ダメージ・スコア:1匹毎に以上の判定値を合計し、10匹の平均値を求めた。
【0042】
上記の組成物A〜Dの各組成物を与えたラットのそれぞれの肉眼スコア(1)〜(3)の他、潰瘍部分の面積(mm;潰瘍長径×潰瘍短径)、腸管壁の厚み(mm;回盲弁から上流20cmの最大肥厚部位)及び病変部位を含む小腸重量(g/回盲弁から上流20cm)についても、1群10匹の平均値を求めた。結果を表4及び図1に示す。
【0043】
【表4】

【0044】
表4及び図1に示される結果から、全アミノ酸混合物を投与した組成物A群と比較して、非必須アミノ酸を含まず、必須アミノ酸のみからなる混合物を投与した組成物B群及び組成物C群は、腸管の癒着や拡張、潰瘍などの病態が大きく改善することが明らかとなった。
さらに、必須アミノ酸にさらにアルギニンを添加した混合物を投与した組成物D群では、病態がさらに改善することが明らかとなった。特に、潰瘍面積が非常に小さく、腸管壁の厚みや小腸重量が著しく減少しており、治療効果が顕著であると言える。
これらの結果から、アミノ酸として必須アミノ酸のみを含むアミノ酸組成物及び必須アミノ酸とアルギニンのみを含むアミノ酸組成物は、全アミノ酸混合物を用いた場合よりも、炎症性腸疾患に対する治療効果が優れていることがわかった。
また、必須アミノ酸を20重量%含有する組成物Cだけでなく、アミノ酸の量が組成物Aより少ない組成物Bにおいても、組成物Aより優れた治療効果が得られており、本発明のアミノ酸組成物の優れた抗炎症効果は、非必須アミノ酸を含まないことによって得られていることがわかる。
【0045】
(試験例2)
本試験例においては、一般的なマウス大腸炎(TNBS溶液を肛門から約4cmの結腸内に投与)を作製し、病変部位を含む腸管組織中の炎症性サイトカインの評価を実施した。
試験の手順は下記の通りとした。
(馴化)
SJL/J系雄性マウス(体重20g程度)を7日間馴化させ、その間、AIN−93G食を与えた。
(絶食)
TNBS投与前に、一時的に腸管内容物をなくすため、TNBS大腸投与の1日前の午後6時より1日間マウスを絶食させた。
(TNBS投与)
絶食後、マウスをイソフルラン(実験小動物用ガス麻酔システム;DSファーマバイオメディカル株式会社製)にてプレ麻酔後、腹圧を下げるため維持麻酔下で3分以上静置した。マウスの尾をもって逆さにし、50%エタノールに溶解したTNBS溶液を、4Fr栄養カテーテル(アトムメディカル株式会社製)を用いて、肛門部より4cm程度大腸管腔内に挿入し、ゆっくりと100μl注入し、そのままの状態で1分静置した。その後、TNBS漏洩を防ぐ目的で仰向けの状態で後足を上へ反らす姿勢をとり、維持麻酔の状態に戻し、5分静置した。
【0046】
(アミノ酸組成物投与)
絶食後、TNBSマウスを1群10匹とし、表1に示す組成物A及びBを経口投与した。
なお、表1に示す各アミノ酸組成物のマウスへの投与は、TNBS大腸投与前7日から投与前2日までと、TNBS大腸投与後1日から投与後7日までとした。
【0047】
本試験例のTNBSマウスにおいては、TNBS大腸投与後4日後に解剖を行い、大腸を摘出し、病変部位を含む大腸組織中の炎症性サイトカインをELISA(R&Dsystems社製キット)にて解析した。
大腸組織は、TBST(Tris−Buffered Saline +1%Triton X−100+Protease inhibitor)中でホモジナイズした後、遠心操作(20,000×g、4℃、30分)により、上清をタンパク質抽出物として回収し、ELISAに供した。さらに、タンパク質抽出物について、Bradford法によりタンパク質の総量を解析し、ELISAのデータをその値で除することにより、1mgタンパク質中のサイトカイン(インターロイキン−6及びインターロイキン−1a)の濃度で示した。
インターロイキン−6(IL−6)は、炎症の初期に産生され、細胞浸潤を惹起するケモカインの産生を誘導、接着分子の発現誘導を行なうサイトカインであり、インターロイキン−1a(IL−1a)は、IL−6やTNF−α等の炎症性サイトカインの誘導を行ない、それ自身も好中球の誘導能を持つサイトカインである。したがって、栄養組成物の投与によってIL−6及びIL−1aの量が減少すれば、炎症が抑制されていることが示される。
結果を表5に示す。
【0048】
【表5】

【0049】
表5に示される結果から明らかなように、全アミノ酸混合物を投与した組成物Aと比較して、非必須アミノ酸を含まず、必須アミノ酸のみからなる混合物を投与した組成物Bにおいては、IL-6及びIL-1aともに量が減少した。
このことから、非必須アミノ酸を含まず、必須アミノ酸のみを含む本発明のアミノ酸組成物を投与することにより、IL−6、IL−1aの産生が抑制されることが分かる。
すなわち、本発明のアミノ酸組成物は、全アミノ酸組成物に比べて、炎症性疾患の炎症抑制に非常に有効であることが判明した。
【0050】
(実施例1)
(ヒトの必須アミノ酸組成物を有効成分とする散剤の製造)
市販のL−ヒスチジン、L−イソロイシン、L−ロイシン、塩酸L−リジン、L−メチオニン、N−アセチル−L−システイン、L−フェニルアラニン、L−チロシン、L−スレオニン、L−トリプトファン、L−バリン(協和発酵株式会社製)を入手した。
必須アミノ酸の組成比は、Heine WE, Klein PD, Reeds PJ. et.al.(1991)The importance of alpha-lactalbumin in infant nutrition. 121(3):277-83.に記載の乳ホエイタンパク質のアミノ酸組成比に基づき、正味のアミノ酸量として(フリーのアミノ酸として、すなわち塩のものはその分を差し引いて)、ヒスチジン3.7重量%、イソロイシン11.5重量%、ロイシン、18.8重量%、リジン16.7重量%、メチオニン4.1重量%、システイン4.1重量%、フェニルアラニン6.5重量%、チロシン6.0重量%、スレオニン13.6重量%、トリプトファン3.5重量%及びバリン11.5重量%とした。これらの必須アミノ酸のみからなる混合物を調製し、散剤の有効成分として用いた。
慣用の散剤の調製方法により、上記成分を秤量後、予備混和し、粉砕機を使用して粉砕した後、再度混和を行ない、10kgのアミノ酸混合物を製造した。取得したアミノ酸混合物を秤量し、一包当たり5.0gとなるように分包し、本発明の炎症性疾患用アミノ酸組成物を含有する散剤を得た。
【0051】
(実施例2)
(ヒトの必須アミノ酸とアルギニンの混合物を有効成分とする散剤の製造)
塩酸L−アルギニン(協和発酵株式会社製)を添加したこと以外は、実施例1と同様の方法で、本発明の炎症性疾患用アミノ酸組成物を含有する散剤を調製した。
各アミノ酸の組成比は、正味のアミノ酸量として(フリーのアミノ酸として、すなわち塩のものはその分を差し引いて)、ヒスチジン3.5重量%、イソロイシン11.0重量%、ロイシン17.9重量%、リジン15.9重量%、メチオニン3.9重量%、システイン3.9重量%、フェニルアラニン6.2重量%、チロシン5.7重量%、スレオニン12.9重量%、トリプトファン3.4重量%、バリン11.0重量%及びアルギニン4.8重量%とした。
【0052】
(試験例3)
本試験例においては、通常の餌とともに投与した本発明のアミノ酸組成物がTNBSによる小腸炎の病状に与える影響について調べた。
使用するラットの種類や、試験の手順(ラットの馴化、TNBS感作、絶食、TNBS投与等)等は、試験例1と同様とした。
【0053】
通常餌としては、CRF−1(オリエンタル酵母工業株式会社製)を用いた。CRF−1は、マウス、ラット、ハムスター等の実験動物に用いられる一般的な粉末飼料であり、100g中に下記の組成を有する。
水分 7.8g
粗蛋白質 22.4g
粗脂肪 5.7g
粗灰分 6.6g
粗繊維 3.1g
可溶性無窒素物 54.5g
このように、CRF−1中には繊維や脂肪が多く含まれている上、窒素源がアミノ酸ではなく蛋白質として含まれており、本来、炎症性腸疾患モデルには適さない組成物(飼料)である。
【0054】
次に、上記通常餌に添加したアミノ酸組成物について説明する。
表6に示す割合(フリーのアミノ酸として(重量%))でアミノ酸を含む、全アミノ酸組成物(1)、必須アミノ酸組成物(2)及び必須アミノ酸とアルギニンを含む組成物(3)を準備した。
上記各アミノ酸組成物(1)〜(3)を、表7に示すように通常餌(CRF−1)に混合した。表7に示す混合餌A〜Dにおけるアミノ酸の量は下記の通りである。
「混合餌A」:混合餌全量に対して前記全アミノ酸組成物(1)を20%添加したもの。すなわち、混合餌100g中の前記全アミノ酸組成物(1)の量が20g(フリーのアミノ酸として)。
「混合餌B」:混合餌全量に対して前記必須アミノ酸組成物(2)を15%添加したもの。すなわち、混合餌100g中の前記必須アミノ酸組成物(2)の量が15g(フリーのアミノ酸として)。
「混合餌C」:混合餌全量に対して、前記必須アミノ酸組成物(2)を20%添加したもの。すなわち、混合餌100g中の前記必須アミノ酸組成物(2)の量が20g(フリーのアミノ酸として)。
「混合餌D」:混合餌全量に対して、前記(必須アミノ酸とアルギニン)組成物(3)を15%添加したもの。すなわち、混合餌100g中の前記(必須アミノ酸とアルギニン)組成物(3)の量が15g(フリーのアミノ酸として)。
また、表7に示すアミノ酸を、実際に使用する際のアミノ酸の量として表すと表8に示す通りである。
通常餌、及び混合餌A〜Dは、全てのエネルギー摂取量が等量となるようにマウスに給餌した。
【0055】
【表6】

【0056】
【表7】

【0057】
【表8】

【0058】
通常餌を与えたラット及び通常餌にアミノ酸組成物を加えた混合餌A〜Dを与えたラットのそれぞれの肉眼スコア(1)〜(3)の他、潰瘍部分の面積(mm;潰瘍長径×潰瘍短径)、腸管壁の厚み(mm;回盲弁から上流20cmの最大肥厚部位)及び病変部位を含む小腸重量(g/回盲弁から上流20cm)について、試験例1と同じ測定方法及び評価方法により、1群10匹の平均値を求めた。結果を表9及び図2に示す。
【0059】
【表9】

【0060】
表9及び図2に示される結果から、通常餌を投与した通常餌群(コントロール)や全アミノ酸組成物を通常餌に加えて投与した混合餌A群(比較例)と比較して、必須アミノ酸のみからなる組成物を通常餌に加えて投与した組成物B群及び組成物C群は、腸管の癒着や拡張、潰瘍などの病態が改善されていることが明らかとなった。
さらに、必須アミノ酸にさらにアルギニンを添加した組成物を通常餌に加えて投与した混合餌D群では、病態がさらに改善することが明らかとなった。
これらの結果から、アミノ酸として必須アミノ酸のみを含むアミノ酸組成物及び必須アミノ酸とアルギニンのみを含むアミノ酸組成物は、全アミノ酸組成物を用いた場合よりも、炎症性腸疾患に対する治療効果が優れていることが分かる。
また、必須アミノ酸を20重量%含有する混合餌Cだけでなく、アミノ酸の量が組成物Aより少ない混合餌Bにおいても、混合餌Aより優れた治療効果が得られており、本発明のアミノ酸組成物の優れた抗炎症効果は、非必須アミノ酸を含まないことによって得られていることがわかる。
なお、試験例3における結果は、試験例1で得られた結果と比べて効果がそれほど顕著ではないが、これは通常餌の摂取に起因するものと考えられる。試験例3において用いた通常餌(CRF−1)は、上記したように、炎症性腸疾患モデルには適さない脂肪や繊維を多く含む飼料であり、窒素源もアミノ酸ではなく蛋白質として含まれている。これらの脂肪や繊維、蛋白質は炎症性腸疾患の病態悪化をもたらす成分である。
しかしながら、本試験例では、通常餌のみを与えた通常餌群や全アミノ酸組成物を通常餌に添加した混合餌Aよりも、混合餌B群、混合餌C群、混合餌D群の順で試験例1と同様、本発明の効果が増した。すなわち、本発明の組成物は、炎症性腸疾患に適さない飼料を摂取した動物においても、必須アミノ酸のみを含むアミノ酸組成物、もしくは必須アミノ酸とアルギニンのみを含むアミノ酸組成物の摂取により、炎症性腸疾患の改善効果をもたらすことが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明の炎症性疾患用アミノ酸組成物は、炎症性疾患の治療、予防及び寛解導入・維持に対して非常に有効である。また、既存の薬剤に比べて、副作用や薬剤耐性も問題もなく、経口投与が可能な上、患者の栄養改善を図ることもできる。さらに、本発明のアミノ酸組成物は、既存の医薬よりもコストが安いため、医療費の削減にも寄与し得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトの必須アミノ酸で構成され、アルギニン以外のヒトの非必須アミノ酸を含有しないことを特徴とする炎症性疾患用アミノ酸組成物。
【請求項2】
ヒトの必須アミノ酸が、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、スレオニン、トリプトファン、バリン、システイン及びチロシンからなることを特徴とする請求項1に記載の炎症性疾患用アミノ酸組成物。
【請求項3】
ヒスチジン0.8〜24.4重量%(フリーのアミノ酸として:以下同じ)、イソロイシン1.9〜50.4重量%、ロイシン3.6〜75.2重量%、リジン1.7〜68.8重量%、メチオニン0.6〜38.0重量%、システイン0.1〜42.0重量%、フェニルアラニン0.1〜55.6重量%、チロシン0.1〜43.6重量%、スレオニン1.5〜54.4重量%、トリプトファン0.4〜16.4重量%及びバリン2.3〜53.6重量%を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の炎症性疾患用アミノ酸組成物。
【請求項4】
ヒスチジン3.5〜6.1重量%(フリーのアミノ酸として:以下同じ)、イソロイシン7.7〜12.6重量%、ロイシン14.7〜18.8重量%、リジン6.9〜17.2重量%、メチオニン2.4〜9.5重量%、システイン0.6〜10.5重量%、フェニルアラニン6.1〜13.9重量%、チロシン5.6〜10.9重量%、スレオニン6.1〜13.6重量%、トリプトファン1.9〜4.1重量%及びバリン9.3〜13.4重量%を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の炎症性疾患用アミノ酸組成物。
【請求項5】
さらに、アルギニンを含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の炎症性疾患用アミノ酸組成物。
【請求項6】
ヒスチジン0.8〜24.4重量%(フリーのアミノ酸として:以下同じ)、イソロイシン1.9〜50.4重量%、ロイシン3.6〜75.2重量%、リジン1.7〜68.8重量%、メチオニン0.6〜38.0重量%、システイン0.1〜42.0重量%、フェニルアラニン0.1〜55.6重量%、チロシン0.1〜43.6重量%、スレオニン1.5〜54.4重量%、トリプトファン0.4〜16.4重量%、バリン2.3〜53.6重量%及びアルギニン1.1〜63.6重量%を含有することを特徴とする請求項1または5記載の炎症性疾患用アミノ酸組成物。
【請求項7】
ヒスチジン3.5〜6.1重量%(フリーのアミノ酸として:以下同じ)、イソロイシン7.7〜12.6重量%、ロイシン14.7〜18.8重量%、リジン6.9〜17.2重量%、メチオニン2.4〜9.5重量%、システイン0.6〜10.5重量%、フェニルアラニン6.1〜13.9重量%、チロシン5.6〜10.9重量%、スレオニン6.1〜13.6重量%、トリプトファン1.9〜4.1重量%、バリン9.3〜13.4重量%及びアルギニン4.7〜15.9重量%を含有することを特徴とする請求項1、5または6記載の炎症性疾患用アミノ酸組成物。
【請求項8】
炎症性疾患が、炎症性腸疾患であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の炎症性疾患用アミノ酸組成物。
【請求項9】
炎症性腸疾患が、クローン病または潰瘍性大腸炎であることを特徴とする請求項8記載の炎症性疾患用アミノ酸組成物。
【請求項10】
炎症性疾患の治療、予防、寛解の導入または維持のために使用できることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の炎症性疾患用アミノ酸組成物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−214451(P2012−214451A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−67093(P2012−67093)
【出願日】平成24年3月23日(2012.3.23)
【出願人】(502138359)イーエヌ大塚製薬株式会社 (56)
【Fターム(参考)】