説明

炭化水素の部分酸化用触媒

【課題】少ない白金族元素含有量でも、高活性で、かつ長期耐久性を有する炭化水素の部分酸化用触媒、および該触媒を用いて炭化水素から水素含有ガスを製造する方法を提供すること。
【解決手段】
炭化水素を改質する部分酸化用触媒であって、該触媒は触媒成分を成形された担体上にコーティングさせた触媒であり、該触媒成分は白金族元素と耐火性無機酸化物を含み、該触媒成分コーティング層の外層部分の方が、内層部分よりも該白金族元素の含有量が実質的に高いことを特徴とする炭化水素の部分酸化用触媒であることに要旨を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は炭化水素から水素含有ガスを製造する際に用いる触媒、及び該触媒を用いた水素含有ガスの製造方法に関連する技術である。詳細には、炭化水素含有ガスと酸素含有ガスを含む混合ガスから水素含有ガスを製造するための炭化水素の部分酸化用触媒、及び該触媒を用いて炭化水素から水素含有ガスを製造する方法に関する技術である。
【背景技術】
【0002】
主に水素と一酸化炭素からなる水素含有ガスは、水素ガス製造用の他に還元用ガス、更には各種化学製品の原料等として広く活用されている。最近では、燃料電池用燃料等としても実用化研究が進められている。このような水素含有ガスは、主に炭化水素系化合物の改質によって得られ、改質方法には下記式で示される炭化水素の部分酸化法がある。
【0003】
【化1】

【0004】
炭化水素の部分酸化法は、触媒の存在下に炭化水素を空気などの酸素含有ガスにより部分的に酸化して水素含有ガスを製造するものであり、上記式は炭化水素がメタンの場合の部分酸化反応式である。
【0005】
炭化水素の部分酸化用触媒としては、触媒活性成分に白金族元素を用いる触媒とNiやCoなど卑金属元素を用いる触媒が提案されているが、卑金属系触媒は炭化水素系燃料中の硫黄による被毒を受け易く、また炭素が析出しやすいため実用的な使用は困難である。
【0006】
白金族元素系触媒としては、例えば以下のような触媒が提案されている。
【0007】
特許文献1には酸素(あるいは空気)、必要に応じて水蒸気を低級炭化水素燃料に添加した混合ガスを部分酸化反応させる低級炭化水素燃料の改質方法が提案されている。該公報には触媒として、ハニカム支持体に100μm程度のアルミナをコートし、その上に白金族元素を担持させた触媒が開示されているが、ハニカム支持体1L当り、白金族元素を5〜20g担持することが必要としている。
【0008】
例えば、炭化水素ガスとして汎用されているメタンや天然ガスを使用する場合、高いメタン転化率を得るには800℃以上の高温で部分酸化反応を行う必要がある。しかしながら、部分酸化時の反応熱により触媒層が著しく熱的負荷を受けるため、経時的に触媒活性が低下するという問題が生じる。ある程度の触媒寿命を得るためには特許文献1のように白金族元素を多量に担持させなければならないが、白金族元素は非常に高価であるため、費用と効果の兼合いから、実用的な触媒を提供するには、白金族元素の使用量をできる限り制限しなければならない。
【0009】
特許文献2は、白金族元素を活性アルミナなどの耐火性無機酸化物に高濃度で担持させ、さらに酸化セリウムやセリウム−ジルコニウム複合酸化物を含む触媒成分をモノリス担体に担持させた触媒を提案している。該公報の実施例によれば、ハニカム担体1L当りの白金族元素担持量が1.8gであっても高い耐久性が得られている。
【0010】
【特許文献1】特開平7−187605号
【特許文献2】特開2004−322001号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
炭化水素の部分酸化反応は高温で実施する必要があり、触媒の耐久性が最大の課題である。その一方で、実用的な観点からすると、触媒活性成分である白金族元素は非常に高価であることから、できる限りその使用量を減量し、安価な触媒を提供する必要がある。
【0012】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、白金族元素含有量が低い安価な触媒であり、かつ高活性で、長期耐久性を有する炭化水素の部分酸化用触媒、および該触媒を用いて炭化水素から水素含有ガスを製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、白金族系触媒による炭化水素の部分酸化反応について詳細に検討した結果、白金族元素と耐火性無機酸化物を含む触媒成分を成形担体にコーティングしかつ、該触媒成分コーティング層の外層部分(該コーティング層の半分から触媒表面までの部分)の方が、内層部分(該コーティング層の厚さの半分から担体までの部分)よりも該白金族元素の含有量が実質的に多い触媒の方が、同じ白金族元素含有量で触媒成分コーティング層中の厚さ方向に均一に分布させた触媒よりも耐久性が飛躍的に向上し、触媒寿命を延長できることを見出し、本発明を完成させた。
【発明の効果】
【0014】
本発明の部分酸化用触媒によれば、従来よりも低い白金族元素含有量の触媒であっても触媒寿命が高く、安定した性能を長期間維持できるため、触媒製造コストを著しく低減することができる。このため、本発明の部分酸化用触媒は、長期安定使用が求められる燃料電池、例えば固体酸化物形燃料電池、固体高分子形燃料電池への組み込みに適する。またGTL(Gas to Liquid)プロセスにおける合成ガス製造用触媒としても好適である。

【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
(触媒調製)
本発明は、炭化水素を改質する部分酸化用触媒であって、該触媒は触媒成分をコーティングさせた成形担体からなり、該触媒成分は白金族元素と耐火性無機酸化物を含み、該触媒成分コーティング層の外層部分(該触媒成分コーティング層の厚さの半分から触媒表面までのコーティング層)の方が、内層部分(該触媒成分コーティング層の厚さの半分から担体までのコーティング層)よりも該白金族元素の含有量が実質的に多いことを特徴とする炭化水素の部分酸化用触媒である。
【0016】
この触媒は、同じ白金族元素含有量を有する触媒で触媒成分コーティング層中の厚さ方向に均一に分布させた触媒よりも耐久性が飛躍的に向上し、触媒寿命を延長できることができる。換言すれば、少ない白金族元素使用量で同等の触媒寿命が得られ、触媒コストを大幅に低減することができる。以下本発明を詳細に説明する。
(白金族元素の外層部分布割合)
触媒成分コーティング層の外層部分に全体の白金族元素含有量の70質量%以上が含有されていれば、厚さ方向に均一に分布させた触媒よりも耐久性の向上効果を確認することができ、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上の白金族元素を該外層部分に含有させれば、さらに耐久性を向上させることができる。
(Pt含有層厚み)
また触媒成分コーティング層の厚さが100μm以上である場合には該コーティング層表面から50μm、好ましくは25μm、更に好ましくは5μmまでの領域に全体の白金族元素含有量の70質量%以上、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上の白金族元素を存在させることができる。
(Pt担持量)
白金族元素は触媒1L(「リットル」以下に同じ)当たり5g以下、好ましくは0.1〜4.0g、更に好ましくは0.3〜1.5gである。5.0gを超えると触媒寿命は大きく変わらないためコスト優位性がなくなり、0.1g未満であれば触媒寿命が悪くなってしまう。
(白金属元素種類)
本発明で使用される白金族元素としては、白金、ロジウム、パラジウム、ルテニウムおよびイリジウムから選ばれる少なくとも1種以上、更に好ましくは白金、ロジウムおよびイリジウムよりなる群から選ばれる少なくとも1種、最も好ましくはロジウムである。しかし、ロジウム自体は他の白金族元素に比べ効果であるので他の白金族元素と併用する場合が多い。
【0017】
この場合、白金− ロジウムの組合せが最も好ましい。ロジウムと白金を併用することにより炭化水素原料中の硫黄化合物に対する耐硫黄被毒性が向上する。この場合、ロジウムに対する白金の質量比(ロジウム:白金質量比)は好ましくは5:100〜100:10であり、より好ましくは5:100〜100:50、特に好ましくは5:100〜100:100である。
【0018】
本発明の触媒を製造する上で白金族元素源としては、通常の触媒などに利用される種々の化合物を用いることができる。具体的には、硝酸塩、ハロゲン化物、アンモニウム塩、アンミン錯体をはじめとする種々の錯体が挙げられる。白金化合物としては、PtCl、HPtCl、[Pt(NHCl]、(NHPtCl、HPtBr、NH[Pt(C)Cl]、[Pt(NH)(OH)]、[Pt(NH(NO]、[Pt(NH](OH)]、(NHCHCHOH)[Pt(OH)]などが例示される。またロジウム化合物としては、(NHRhCl、Rh(NHCl、RhCl、Rh(NOなどが例示される。またパラジウム化合物としては、(NHPdCl、Pd(NHCl、PdCl、Pd(NOなどが例示される。ルテニウム化合物としては、RuCl、Ru(NO、Ru(OH)Cl・7NHなどが例示される。イリジウム化合物としては、(NHIrCl、IrCl、HIrClなどが例示される。
(助触媒種類)
本発明では、助触媒として1種以上の卑金属を使用することも望ましい。卑金属としては、周期表I、II、IIIB,IV、V、VIB,VIIBおよびVIII属に属するNa,K,Cs,Ni,Co,Fe,Cr,Cu,V,Pr,Mg,Mo,W、Mn,Zn,Ga,Y,Ti,Ba、Re,Bi,Nb,Ta,La,Ag,Au等の金属が例示される。これらの卑金属を金属、金属酸化物、あるいは白金族元素との固溶体等として触媒成分中に存在させると、白金族元素の触媒作用を促進、安定化等に寄与したり、水素選択率を高める効果等を発揮するので望ましい。これらの卑金属元素は触媒成分に任意の方法で含有させればよい。
(無機酸化物厚み)
本発明における触媒成分コーティング層の厚さは特に限定されないが、モノリス担体を使用する場合は、10〜400μm、好ましくは10〜300μm、より好ましく20〜250μmである。触媒成分コーティング層の厚さが400μmを超えると、目詰まりや圧損増加の原因となることがある。また10μm未満であると、触媒成分コーティングにむらが生じ、成形担体表面が露出してしまい、触媒活性や耐久性が低下することがある。
(無機酸化物担持量)
耐火性無機酸化物は触媒1L当たり400g以下、好ましくは100〜350g、更に好ましくは150〜300gであり、400gを超えるとコーティング層が厚くなるため剥がれが起きやすくなり、またハニカム担体ではセル内に目詰まりを生じるため不適当であり、50g未満であると触媒成分コーティングにむらが生じて成形担体表面が露出してしまい、触媒活性や耐久性が低下することがある。
(無機酸化物種類)
本発明で使用される耐火性無機酸化物としては、アルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニアなど通常触媒において使用される耐火性無機酸化物を用いることがである。高温下(例えば500〜1000℃)において形状安定性や性能が劣化しない性質を有する無機酸化物であればいずれも用いることができる。活性アルミナ、酸化ジルコニウム、酸化セリウム、酸化チタン、シリカ、スピネル、ムライト、アルミナ−シリカ、チタニア−シリカ等が例示される。これらの中でも好ましくは、活性アルミナ、酸化セリウム、及び酸化ジルコニウムよりなる群から選ばれる少なくとも1種が推奨される。これら耐熱性無機酸化物は、高温耐熱性に優れており、しかも白金族元素の担持性に優れているので望ましい。
【0019】
また上記耐熱性無機酸化物の中で、活性アルミナを用いることが特に好ましい。活性アルミナは比表面積が大きく、反応ガスとの接触面積が大きくなるため、部分酸化効率を向上でき、また高温耐熱性にも優れているので望ましい。活性アルミナとしては例えばα−アルミナ、γ−アルミナ、δ−アルミナ、θ−アルミナ、η−アルミナ等が例示される。活性アルミナの性状等は特に限定されないが、比表面積が25〜250m/gの活性アルミナが好ましい。
【0020】
耐火性無機酸化物には他の元素を添加・複合化し存在させることができる。例えば、アルカリ金属、アルカリ土類、希土類元素、マンガン、ニッケル、鉄、コバルトなどである。これらの元素を加えることで耐火性無機酸化物の耐熱性の向上、白金族元素の触媒活性向上および耐久性向上が期待できるからである。
【0021】
たとえば希土類元素の一つであるセリウムであれば耐火性無機酸化物を組み合わせ、活性アルミナに酸化セリウムが含有されもの、セリウム−ジルコニウム複合酸化物として含有されていることが推奨される。適宜、触媒の使用条件により変更することができる。
(成形担体形状)
本発明で使用される成形担体の形状としては、何れの形体であってもよく好ましくは、球状、粒状、ペレット、ハニカムである。
【0022】
この中で、モノリス担体を使用すると他の形状の成形担体よりも低圧損性、耐粉化性に優れ、特に改質装置への充填などの取り扱いが容易となる。また、部分酸化反応時の高温下において担体の形状を維持するには、担体の材料として、耐熱強度、耐粉化性などに優れた材料を用いることが望ましく、例えばコージェライト、ムライト、α − アルミナ、ジルコニア、チタニア、アルミナ・シリケート、珪酸マグネシウム等の酸化物や珪酸塩、ステンレス鋼、Fe−Cr−Al合金等の耐熱合金などが好ましいものとして挙げられる。これらを1種、或いは数種組合せてモノリス担体とすることができる。これらの中でも、高い耐熱強度を有し、且つ耐熱衝撃性にも優れているコージェライトを主体とする担体が最も好ましい。
【0023】
本発明で用いるモノリス担体は、上記した如き材料を用いて鋳込み成型、プレス成型、押出し成型、シート加工など公知の方法によって製造することができる。また担体の製造方法は構成する材料、孔径、孔形状等応じて適宜変更すればよく、特に限定されない。
【0024】
モノリス担体には平行方向に貫通した孔(セル)が多数形成されているが、孔の形状は円形、或いは3角、4角、6角などの多角形など任意の形状でよく、また孔の大きさも特に限定されない。
【0025】
担体のセル密度は特に限定されないが、反応ガスとの接触効率を高めるためには、好ましくは150〜600セル/平方インチ、より好ましくは250〜600セル/平方インチであることが推奨される。セル密度(セル数/平方インチ)が大き過ぎると個々のセルが小さくなり、目詰まりを生じることがある。またセル密度が小さすぎると、接触面積が減少し、十分な触媒効率が得られないことがある。
【0026】
(触媒の調製方法)
本発明の部分酸化用触媒は、例えば以下に示す様な方法によって製造できるが、材料、組成などに応じて適宜変更することも可能である。したがって、特に限定する旨の記載がない限り、下記製造方法に適宜変更を加えることができる。
【0027】
ここでは、改質装置への導入の容易さから成形担体としてモノリス担体に前記触媒成分をコーティングする場合の好ましい調製方法について記載する。
<方法1>
―コーティング法1―
(1)白金族元素を含む溶液、通常、水溶液と耐火性無機酸化物とをボールミルなどの粉砕機に供給し、湿式粉砕によってスラリーを調製する。上記方法により白金族元素含有量の異なる2種類以上のスラリーを調製する。
(2)白金族元素含有量の少ないスラリーにモノリス担体を接触させた後、乾燥し、焼成する。
(3)前記焼成後の触媒をさらに白金族元素含有量が多いスラリーに接触させた後、乾燥し、焼成する。
(4)スラリーが3種類以上ある場合には、白金族元素含有量が少ない順に(3)の操作を繰り返す。
【0028】
なお、スラリーを調製する際、スラリーの粘度調節やスラリーの安定性改善のために、塩酸、硫酸、硝酸、酢酸、シュウ酸などの酸類、アンモニアや水酸化テトラアンモニウムなどの塩基性物質、ポリアクリル酸やポリビニルアルコールなどの高分子化合物などを必要に応じて添加してもよい。
【0029】
接触方法としては特に限定されないが、担体をスラリーに浸漬させると、均一に活性成分を担持させることができるので好適である。浸漬後、担体に付着している過剰なスラリー(例えばセル内に残存するスラリー)をエアブロー等の方法によって除去し、次いで乾燥工程に付すことが推奨される。
【0030】
乾燥方法も特に限定はなく、任意の方法で担持させたスラリーの水分を除去すればよい。乾燥時の条件も常温下、或いは高温下いずれであってもよい。また乾燥後に焼成すると、触媒活性成分を担体に強固に定着させることができるので望ましい。焼成方法も特に限定されないが、例えば空気中または還元雰囲気下に400〜800℃で焼成すればよい。
<方法2>
―コーティング法2―
(1)白金族元素を耐火性無機酸化物に担持させた粉体と、白金族元素を担持していない耐火性無機酸化物を、ボールミルなどの粉砕機に供給し、湿式粉砕によってスラリーを調製する。後者の耐火性無機酸化物の量により異なる白金族元素含有量のスラリーを調製することができる。
(2)(1)で得られた異なるスラリーを、担体に対して白金族元素含有量がコーティング層の表面に多く含まれるようにコーティングすることで完成触媒を得ることができる。
【0031】
白金族元素を耐熱性無機酸化物に担持させるには、好ましくは以下の製法によって調製できるが、基本的には白金族元素源を含む溶液に、耐熱性無機酸化物を接触させた後、任意の方法で乾燥させてから焼成すればよい。
【0032】
例えば白金族元素を活性アルミナに担持するには、所望の白金族元素の担持量となるように白金族元素源を適量添加した溶液に、活性アルミナを接触させ、該活性アルミナの表層に白金族元素源を直接担持させた後、任意の方法で乾燥させて水分を除去してから、焼成すればよい。また溶解性向上やpH調整など目的に応じて溶液に塩酸、硫酸、硝酸などの無機酸、酢酸、蓚酸などの有機酸を添加してもよい。この際の担持方法としては特に限定されないが、含浸法が好ましい。また接触時の条件も適宜変更できる。例えば接触操作を大気圧下或いは減圧下で行うことができる。接触時の温度も特に制限はなく、必要により加熱してもよく、好ましくは室温から9 0 ℃ 程度の範囲内で行えばよい。本発明では2種類以上の白金族元素を耐熱性無機酸化物に担持させることも好ましい。この様な場合、例えば所望の2種以上の白金族元素源を含む溶液を調製し、該溶液に耐熱性無機酸化物を接触させて各白金族元素を同時に担持させてもよい。或いは白金族元素源を含む溶液を個別に調製し、該溶液に耐熱性無機酸化物を順次接触させてもよい。焼成条件も特に限定されず、例えば焼成を空気中または還元雰囲気下のいずれで行ってもよく、例えば300〜600℃の範囲内で2〜6時間程度焼成することにより、白金族元素を担持させた耐熱性無機酸化物が得られる。
【0033】
白金族元素は耐火性無機酸化物の全部に担持させても、その一部に担持させてもよい。耐火性無機酸化物が活性アルミナと、酸化セリウムおよび/またはセリウム−ジルコニウム複合酸化物を含有する場合は、白金族元素を活性アルミナの全部または一部に担持させ、該白金族元素を担持させた活性アルミナを、酸化セリウムおよび/またはセリウム−ジルコニウム複合酸化物と、残余の活性アルミナがある場合は、残余の活性アルミナとともに、、ボールミルなどの粉砕機に供給し、湿式粉砕によってスラリーを調製するのが好ましい。
<方法3>
―含浸法―
(1)耐火性無機酸化物をボールミルなどの粉砕機に供給し、湿式粉砕によってスラリーを調製する。
(2)前記スラリーにモノリス担体を接触させた後、乾燥し、焼成する。
(3)耐火性無機酸化物がコーティングされたモノリス担体表面に白金族元素を化学吸着によって担持させた後、乾燥し、焼成する。
【0034】
化学吸着法により白金族元素をコーティング層の表層に存在させることができる。また化学吸着する際に溶液のPHをコントロールすることで白金族元素をコーティング層における分布位置をコントロールすることもできる。
【0035】
耐火性無機酸化物をモノリス担体表面にコーティングする方法は、方法1と同様の方法で行えばよい。
【0036】
白金族元素を、耐火性無機酸化物がコーティングされたモノリス担体表面に、化学吸着によって担持することによって、耐火性無機酸化物コーティング層の表層に集中的かつ強固に白金族元素を担持させることができ、その結果、触媒成分コーティング層の表層に白金族元素が偏在した触媒を製造することができる。方法3は方法1あるいは方法2と比較して、触媒製造方法が簡単であり、かつ触媒成分コーティング層の表層数μmの領域に白金族元素を集中的に担持することができるため、本発明のより好ましい触媒製造方法である。
【0037】
化学吸着の具体的手段としては、白金族元素を含む溶液を加熱した状態で耐火性無機酸化物がコーティングされたモノリス担体に含浸させると、化学吸着が効率的に行われ、耐火性無機酸化物コーティング層の表層に白金族元素を偏在させて担持させ易い。具体的には白金族元素を含む溶液の温度を、40℃以上に加熱しておくことが好ましく、50℃以上、60℃以上、70℃以上、80℃以上あるいは90℃以上がより好ましい。溶液の温度が低すぎると、化学吸着が起こり難く、触媒成分コーティング層の外層に白金族元素を偏在させることができない場合がある。
【0038】
触媒成分コーティング層中の白金族元素の分布は、EPMA(エレクトロン・プローブ・マイクロ・アナライザー)(Electron Probe Micro Analyzer)により白金族元素の断面線分析を行うことで確認することができる。
(部分酸化方法)
次に、本発明の触媒を用いて炭化水素を部分酸化し、水素含有ガスを製造する方法について説明するが、本発明の触媒を用いた水素含有ガスの製造方法は下記例示に限定される訳ではなく、適宜変更できる。
【0039】
本発明に使用されるガスは、炭化水素含有ガスと、酸素含有ガスとの混合ガスである。
【0040】
炭化水素含有ガスとしては、メタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン等の軽炭化水素類、ガソリン、灯油、ナフサ等の石油系炭化水素などを用いることができ、特に限定されない。例えばメタンを主成分とする天然ガスあるいは液化天然ガス、およびこの液化天然ガスを主成分とする都市ガス、ならびにプロパン、ブタンが主成分であるLPG(液化石油ガス)などは資源的にも豊富であり、入手が容易であるため好ましい。また天然ガスを出発原料とするメタノール、あるいはジメチルエーテルなどの各種合成液体燃料や、メタンを主成分とするバイオガスなども資源の有効利用の面から好ましい。
尚、本発明の触媒を用いる場合、原料(炭化水素)ガス中に硫黄分が含まれていても該硫黄分を除去しなくてもよい。本発明の触媒は、硫黄等の触媒毒成分に対して優れた耐久性を有するため、長期間使用しても、触媒の性能が触媒毒成分によって劣化することを抑制できる。即ち、本発明の触媒を用いると、脱硫装置等の触媒毒成分除去装置を設ける必要がなく、コスト、メンテナンスの観点から望ましい。しかも安価な天然ガスをそのまま炭素含有ガスとして用いることができるので製造コストも低減できる。
【0041】
本発明で用いる酸素含有ガスは、酸素を含むものであればにも格別の制限はなく、酸素ガス、空気、酸素を他のガスで希釈したガスを使用することができ、経済的な観点からは空気を用いることが好ましい。
【0042】
また、反応には炭化水素、酸素以外にガスを使用することができ、例えば水蒸気を用いることがてきる。
【0043】
本発明では、反応方式として連続流通式(原料ガスを連続的に触媒に接触させる方式)が好ましい。本発明においては、炭化水素含有ガスと酸素含有ガス(または酸素ガス)との混合ガスを触媒に接触させるが、この際の混合ガスの混合比率( 酸素分子/ 炭素原子比) は0.45〜0.8の範囲内となる様に調整することが効率的な部分酸化反応を行うためには好ましい。より好ましくは0.48〜0.65となる様に調整することである。
【0044】
また、反応には炭化水素、酸素以外にガスを使用することができ、例えば水蒸気を用いることができる。この場合は、水/炭素原子比が0.1〜5.0、好ましくは0.5〜3.0であり、5.0を超える場合には自己熱による自立反応ができなくなり、0.1未満であれば効果が現れないためである。
【0045】
部分酸化反応時の圧力は、好ましくは常圧以上であって、5MPa・G以下であることが好ましく、より好ましくは3MPa・G以下である。また、反応中のSV(ガス空間速度)も任意に選択できるが、好ましくは5,000〜500,000Hr−1、より好ましくは10,000〜300,000Hr−1である。また触媒の熱劣化を防ぎつつ、効率的な部分酸化反応を促進するには触媒層最高温度が600〜1100℃、好ましくは700〜1000℃、より好ましくは700〜950℃の範囲内となる様に適宜反応条件を変更することが望ましい。
【0046】
尚、従来の部分酸化反応では、炭素の析出を防止するために水蒸気を添加する必要があるが、本発明の触媒を用いる場合、水蒸気を添加しなくても炭素の析出が実質的に生じない(ゼロ或いは触媒に影響のない極微量)。したがって本発明では水蒸気を添加しなくてもよい。尚、本発明の触媒の場合、水蒸気を添加すると部分酸化反応時の水素生成比率が上昇する効果が得られる。水蒸気を添加するとコストが上昇するが、本発明の場合、水蒸気の添加によって水素生成比率が向上するため、水蒸気添加によるコスト上昇に見合った効果が得られる。水蒸気を添加した場合、発熱反応(炭化水素の酸化反応)と吸熱反応(炭化水素と水蒸気の反応)が起こるため、水蒸気を添加しない場合と比べて発熱量を抑えることができる。
【0047】
また酸素含有ガス( または酸素ガス) や水蒸気は、炭化水素含有ガスに添加してから触媒層に導入してもよく、或いは炭化水素含有ガスとは個別に触媒層に導入してもよい。
【0048】
触媒層最高温度を上記範囲内に維持して接触部分酸化反応を行うには、例えば、原料ガスを予熱してから触媒層に導入する方法や触媒層を加熱する方法を採用することができる。
【0049】
原料ガスを予熱する方法の場合、予熱温度は炭化水素の種類、原料ガスの組成、反応条件などによって異なるが、一般的には200〜700℃、好ましくは300〜600℃に加熱するのがよい。触媒層での反応が開始した後は、反応熱によって触媒層温度が上昇し、反応が自立するため、原料ガスを予熱しなくてもよい。もちろん、反応システム全体の熱バランスなどを考慮して、必要に応じて、原料ガスの予熱を継続してもよい。
【0050】
触媒層を加熱する方法の場合は、原料ガスの導入に先立って、触媒層を200〜700℃、好ましくは300〜600℃に加熱しておき、反応開始後に触媒層の加熱を停止してもよい。
【実施例】
【0051】
(触媒調製例1)
担体: 断面積1平方インチ当り400個のセルを有するコージェライト製ハニカム担体(日本碍子製)を外径25.4mmφ×長さ77mm(担体容積39.0ml)に切り出し本実施例の担体とした。
白金族元素担持活性アルミナ(触媒成分内層用):白金を1.20g含有するジニトロジアミン白金の硝酸水溶液およびロジウムを0.24g含有する硝酸ロジウム水溶液と混合した溶液に、比表面積が105m/g活性アルミナ(150g)を含浸させ混合した後、150℃で15時間乾燥させて水分を除去した。乾燥後、該粉体を空気中400℃で2時間焼成した。
白金族元素担持活性アルミナ(触媒成分外層用):白金を1.80g含有するジニトロジアミン白金の硝酸水溶液およびロジウムを0.36g含有する硝酸ロジウム水溶液と混合した溶液に、比表面積が105m/g活性アルミナ(150g)を含浸させ混合した後、150℃で15時間乾燥させて水分を除去した。乾燥後、該粉体を空気中400℃で2時間焼成した。
触媒の製造:上記白金族元素担持活性アルミナ(触媒成分内層用)100gと、純水および酢酸をボールミルに供給して湿式粉砕して水性スラリーを調製した。該スラリーに上記担体を浸漬させてスラリーを付着させてから取出し、次いで該担体に圧縮空気を吹付けてセル内に残存する余分なスラリーを除去した後、150℃で乾燥させて触媒成分を担体に付着させた後、空気中で1時間焼成(500℃)して触媒成分を担体に強固にコーティングさせた。重量を測定したところ、担体1L当り126.5gの触媒成分がコーティングされていた。次に、同様の方法で白金族元素担持活性アルミナ(触媒成分外層用)を水性スラリー化し、該スラリーを用いて同じ操作を繰返し触媒調製例1の触媒を得た。
該触媒は担体1L当り253gの触媒成分がコーティングされており、白金族元素含有量は担体1L当り3.0g(白金:2.5g、ロジウム:0.5g)であった。また、白金族含有量の触媒成分外層と触媒成分内層の質量比は60:40であった。
(触媒調製例2)
白金族元素担持活性アルミナ(触媒成分内層用):白金を0.6g含有するジニトロジアミン白金の硝酸水溶液およびロジウムを0.12g含有する硝酸ロジウム水溶液と混合した溶液に、比表面積が105m/g活性アルミナ(150g)を含浸させ混合した後、150℃で15時間乾燥させて水分を除去した。乾燥後、該粉体を空気中400℃で2時間焼成した。
白金族元素担持活性アルミナ(触媒成分外層用):白金を2.40g含有するジニトロジアミン白金の硝酸水溶液およびロジウムを0.48g含有する硝酸ロジウム水溶液と混合した溶液に、比表面積が105m/g活性アルミナ(150g)を含浸させ混合した後、150℃で15時間乾燥させて水分を除去した。乾燥後、該粉体を空気中400℃で2時間焼成した。
【0052】
上記白金族元素担持活性アルミナ(触媒成分内層用)および白金族元素担持活性アルミナ(触媒成分外層用)を使用する以外は触媒調製例1と同様にして触媒調製例2の触媒を得た。
該触媒は担体1L当り253gの触媒成分がコーティングされており、白金族元素含有量は担体1L当り3.0g(白金:2.5g、ロジウム:0.5g)であった。また、白金族含有量の触媒成分外層と触媒成分内層の質量比は80:20であった。
(比較触媒調製例1)
白金族元素担持活性アルミナ:白金を1.50g含有するジニトロジアミン白金の硝酸水溶液およびロジウムを0.30g含有する硝酸ロジウム水溶液と混合した溶液に、比表面積が105m/g活性アルミナ(150g)を含浸させ混合した後、150℃で15時間乾燥させて水分を除去した。乾燥後、該粉体を空気中400℃で2時間焼成した。
上記白金族元素担持活性アルミナを触媒成分内層用にも外層用にも使用する以外は触媒調製例1と同様にして比較触媒調製例1の触媒を得た。
該触媒は担体1L当り253gの触媒成分がコーティングされており、白金族元素含有量は担体1L当り3.0g(白金:2.5g、ロジウム:0.5g)であった。また、白金族元素は触媒成分層に均一に分布しており、白金族含有量の触媒成分外層と触媒成分内層の質量比は50:50であった。
(触媒調製例3)
耐火性無機酸化物のモノリス担体へのコーティング:比表面積が105m/g活性アルミナ100gと、純水および酢酸をボールミルに供給して湿式粉砕して水性スラリーを調製した。該スラリーに触媒調製例1で使用した担体を浸漬させてスラリーを付着させてから取出し、次いで該担体に圧縮空気を吹付けてセル内に残存する余分なスラリーを除去した後、150℃で乾燥させて触媒成分を担体に付着させた後、空気中で1時間焼成(500℃)して触媒成分を担体に強固にコーティングさせた。この耐火性無機酸化物がコーティングされた担体をさらに上記スラリーに浸漬し、同じ操作を繰り返した。重量を測定したところ、担体1L当り250gの耐火性無機酸化物がモノリス担体上にコーティングされていた。
【0053】
触媒の製造:白金を0.0975g含有するジニトロジアミン白金の硝酸水溶液およびロジウムを0.0195g含有する硝酸ロジウム水溶液と混合した水溶液60mlを調製し、該水溶液の温度を40℃に維持した。上記耐火性無機酸化物がコーティングされた担体を上記白金族元素を含有する水溶液に含浸させて、白金族元素を化学吸着させた。60分間経過後、水溶液の色は透明になった。白金族元素を化学吸着後は乾燥後、空気中で500℃で1時間焼成して触媒調製例3の触媒を調製した。
【0054】
該触媒は担体1L当り253gの触媒成分がコーティングされており、白金族元素含有量は担体1L当り3.0g(白金:2.5g、ロジウム:0.5g)であった。白金およびロジウムのEPMA断面線分析の結果、白金族含有量の触媒成分外層と触媒成分内層の質量比は90:10であった。また、白金族元素は、全含有量の70質量%が触媒成分コーティング層の表面から5μmまでの領域に存在していた。
(触媒調製例4)
触媒調製例3において、白金族元素を含む水溶液の温度を90℃に維持する以外は、触媒調整例3と同様にして、触媒調製例4の触媒を得た。
【0055】
該触媒は担体1L当り253gの触媒成分がコーティングされており、白金族元素含有量は担体1L当り3.0g(白金:2.5g、ロジウム:0.5g)であった。白金およびロジウムのEPMA断面線分析の結果、白金族含有量の触媒成分外層と触媒成分内層の質量比は99:1であった。また、白金族元素は、全含有量の88質量%が触媒成分コーティング層の表面から5μmまでの領域に存在していた。
(触媒調製例5)
耐火性無機酸化物のモノリス担体へのコーティング:比表面積が105m/g活性アルミナ80.12g、比表面積70m/gの酸化セリウム19.88g、純水および酢酸をボールミルに供給して湿式粉砕して水性スラリーを調製した。上記スラリーを用いる以外は触媒調製例3と同様にして活性アルミナと酸化セリウムを含む耐火性無機酸化物をモノリス担体上にコーティングさせた。重量を測定したところ、担体1L当り250gの耐火性無機酸化物がモノリス担体上にコーティングされていた。
【0056】
触媒の製造:白金を0.0488g含有するジニトロジアミン白金の硝酸水溶液およびロジウムを0.0098g含有する硝酸ロジウム水溶液と混合した水溶液60mlを調製し、該水溶液の温度を90℃に維持した。上記耐火性無機酸化物がコーティングされた担体を上記白金族元素を含有する水溶液に含浸させて、白金族元素を化学吸着させた。60分間経過後、水溶液の色は透明になった。白金族元素を化学吸着後は乾燥後、空気中で500℃で1時間焼成して触媒調製例5の触媒を調製した。
【0057】
該触媒は担体1L当り251.5gの触媒成分がコーティングされており、白金族元素含有量は担体1L当り1.5g(白金:1.25g、ロジウム:0.25g)であった。また、触媒成分中の活性アルミナと酸化セリウムの質量比は100:25であった。白金およびロジウムのEPMA断面線分析の結果、白金族含有量の触媒成分外層と触媒成分内層の質量比は99:1であった。また、白金族元素は、全含有量の91質量%が触媒成分コーティング層の表面から5μmまでの領域に存在していた。
(触媒調製例6)
セリウム−ジルコニウム複合酸化物の調製:炭酸セリウム粉体を400℃で2時間焼成し、次いで粉砕することにより酸化セリウム粉末を得た。この酸化セリウム粉末に酸化セリウム:酸化ジルコニウムの質量比が100:20となるようにオキシ硝酸ジルコニル水溶液を添加し均一に混合した。得られた混合スラリーを120℃で乾燥させて水分を除去した後、空気中500℃で1時間焼成することによりセリウム−ジルコニウム複合酸化物を調製した。
耐火性無機酸化物のモノリス担体へのコーティング:比表面積が105m/g活性アルミナ76.14g、上記セリウム−ジルコニウム複合酸化物23.86g、純水および酢酸をボールミルに供給して湿式粉砕して水性スラリーを調製した。上記スラリーを用いる以外は触媒調製例3と同様にして活性アルミナとセリウム−ジルコニウム複合酸化物を含む耐火性無機酸化物をモノリス担体上にコーティングさせた。重量を測定したところ、担体1L当り250gの耐火性無機酸化物がモノリス担体上にコーティングされていた。
触媒の製造:上記耐火性無機酸化物をコーティングさせたモノリス担体を使用する以外は触媒調製例5と同様にして触媒調製例6の触媒を得た。
【0058】
該触媒は担体1L当り251.5gの触媒成分がコーティングされており、白金族元素含有量は担体1L当り1.5g(白金:1.25g、ロジウム:0.25g)であった。また、触媒成分中の活性アルミナと酸化セリウムの質量比は100:25であった。また、触媒成分中の酸化セリウムと酸化ジルコニウムの質量比は100:20であった。白金およびロジウムのEPMA断面線分析の結果、白金族含有量の触媒成分外層と触媒成分内層の質量比は99:1であった。また、白金族元素は、全含有量の92質量%が触媒成分コーティング層の表面から5μmまでの領域に存在していた。
(実施例1)
比較触媒調製例1の触媒および触媒調製例1〜4の触媒について以下の加速耐久試験を行い、その耐久性を評価した。
【0059】
各触媒を縦7×横7×長さ10mmのサイズに切出し、耐火物で保温したインコネル製反応管に充填した。クロメル−アルメル(K)メタルシース熱電対(外径1mm)を触媒層に挿入し、触媒層温度を測定した。炭化水素原料ガスとして都市ガス13Aを脱硫処理せずにそのまま使用した。また酸素含有ガスとして空気を使用し、酸素分子/炭素比が0.52/1となるように調製した混合ガスを反応ガスとして使用した。
【0060】
反応ガスを400℃に予熱し、SV=150,000Hr−1で触媒層に供給することにより反応を開始させた。反応開始後は反応ガスの予熱温度を250℃に設定し、空間速度(STP)370,000Hr−1で触媒層に供給し、部分酸化反応を行った。生成ガスをガスクロマトグラフィー(島津製作所:ガスクロマトグラフィーGC−8A)を用いて分析し、反応初期(反応開始3時間経過後)と100時間経過後の原料転化率を求めた。
【0061】
【数1】

【0062】
なお、上記式において、CO、COおよびCHは、それぞれ、反応管出口での一酸化炭素、二酸化炭素およびメタンの濃度を表す。
【0063】
結果を表1に示す。
【0064】
【表1】

【0065】
比較触媒調製例1の触媒は触媒成分コーティング層中に白金族元素が均一に分布している触媒である。この触媒に対して触媒調製例1の触媒は触媒成分コーティング層の外層部分の白金族元素含有率が60質量%の触媒であるが、100時間経過後の原料転化率の低下が抑制されており、耐久性に優れていることがわかる。さらに該外層部分の白金族元素含有率が高くなるほど初期原料転化率が高く、かつ100時間経過後の原料転化率の低下が小さくなっており、さらに耐久性が向上していることがわかる(触媒調製例1〜4の触媒)。触媒層最高温度も、該外層部分の白金族元素含有率が高くなるほど低く抑えられており、これは本発明の触媒の熱的負荷が小さく、熱による触媒のシンタリングを著しく抑制していることを示唆している。
また、化学吸着により白金族元素を触媒成分コーティング層の表層に集中的に偏在させた触媒(触媒調製例3および4の触媒)は触媒成分コーティング層の表面から5μmまでの領域に存在している白金族元素含有率が70質量%以上であり、特に優れた耐久性を有している。
(実施例2)
酸化セリウムおよびセリウム−ジルコニウム複合酸化物の添加効果を調べるために、触媒調製例4〜6の触媒について、以下の加速耐久試験を行い、その耐久性を評価した。
【0066】
各触媒を縦7×横7×長さ10mmのサイズに切出し、耐火物で保温したインコネル製反応管に充填した。クロメル−アルメル(K)メタルシース熱電対(外径1mm)を触媒層に挿入し、触媒層温度を測定した。炭化水素原料ガスとして都市ガス13Aを脱硫処理せずにそのまま使用した。また酸素含有ガスとして空気を使用した。
酸素分子/炭素比が0.52/1となるように調製した混合ガスを400℃に予熱し、SV=150,000Hr−1で触媒層に供給することにより反応を開始させた。反応開始後は反応ガスの予熱温度を250℃に設定し、空間速度(STP)370,000Hr−1で触媒層に供給し、部分酸化反応を行った。反応初期(反応開始後3時間経過後)の原料転化率を実施例と同様にして分析した。その後都市ガス13Aの供給量は一定にして、空気供給量を増加させ、酸素分子/炭素比が0.70/1となるように調製した反応ガスを予熱温度250℃に設定して触媒に供給した。200時間経過後、再び酸素分子/炭素比を0.52/1に戻し、さらに3時間経過後原料転化率を分析した。
【0067】
結果を表2に示す。
【0068】
【表2】

【0069】
触媒調製例5の触媒は耐火性無機酸化物として活性アルミナに加えて酸化セリウムを含む触媒であるが、耐火性無機酸化物が活性アルミナのみである触媒調製例4の触媒に対して、全白金族元素含有量が1/2であるにもかかわらず、原料転化率の低下が小さく、また触媒層最高温度も低く、高い耐久性を有していることがわかる。さらに、酸化セリウムがセリウム−ジルコニウム複合酸化物として含有されると(触媒調製例6)さらに耐久性が向上していることがわかる。
(実施例3)
触媒調製例6の触媒について、上記反応ガス中に水蒸気をさらに水分子/炭素比が1/1の割合で添加したものを反応ガスとして用いた以外は、実施例2と同様にして加速耐久試験を行い、その耐久性を評価した。
【0070】
結果を表3に示す。
【0071】
【表3】

【0072】
以上の結果から、水蒸気を添加した反応においても、高い耐久性を有することがわかる。
(実施例4)
触媒調製例6の触媒(外径25.4mmφ×長さ77mm)を材質がインコネルの反応管に保温用耐火物を施した反応器に充填し、部分酸化反応評価試験を行った。原料炭化水素として都市ガス1 3 Aを用いると共に、酸素含有ガスとして空気を用いて酸素/炭素比が0.54/1となる様に調製した混合ガスを反応ガスとして用いた。
反応開始に当って反応ガスを反応器に供給し、反応ガスの温度が250℃に到達した時、触媒層での反応開始が確認できたので反応ガスの加熱を止め、以後反応ガスを常温で、SV30,000Hr−1で供給しながら反応を断熱的に継続した。反応中の触媒層温度は約855℃で安定した。得られた生成ガスの成分を実施例1と同様にしてガスクロマトグラフィーを用いて分析した。その原料ガスの転化率は88%で、水素選択率は91%であった。
上記反応条件で2,000時間反応試験を継続した結果が、試験期間中の原料ガス転化率および水素選択率に大きな変化はなく、安定した性能が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明の触媒は、触媒活性成分である白金族元素の含有量を減量させても長期にわたり性能劣化が少ない部分酸化用触媒であり、本発明で得られる主に水素及び一酸化炭素からなる水素含有ガスは、このままでも燃料電池の燃料や、化学工業用原料として使用できる。特に燃料電池の中でも、高温作動型と類別される溶融炭酸塩形燃料電池や固体酸化物形燃料電池は、水素以外にも一酸化炭素や炭化水素も燃料として利用できるので、これらの燃料電池に本発明の触媒や該触媒反応によって得られた水素含有ガスを用いることも望ましい。
尚、高温作動型燃料電池は原理的には電極の触媒作用により炭化水素の部分酸化反応を電池の中で行うこと(内部改質)ができるとされている。しかしながら実際は、炭化水素の種類や炭化水素に含まれている不純物によって炭素析出などの問題が生じるため、炭化水素全量を内部改質できないことがある。したがって炭化水素を燃料電池に導入する前に、炭化水素を予備処理する必要があるが、本発明の触媒を使用して該予備改質も好適に行うことができる。
また、本発明の触媒は原料ガスを予熱、あるいは触媒層を加熱することで簡単に接触部分酸化反応を開始させることができるため、燃料電池システムを起動させる際に還元ガスを供給するための起動用触媒としても好適である。
また本発明の触媒を用いた部分酸化反応で得られる水素含有ガスを、更にCO変性反応で一酸化炭素濃度を低減したり、深冷分離法、PSA法、水素貯蔵合金或いはパラジウム膜拡散法などにより不純物を除去し、高純度の水素ガスを得ることができる。例えば、水素含有ガス中に含まれている一酸化炭素を低減させるには、部分酸化反応によって得られた水素含有ガスに水蒸気を添加し(或いは添加せずに)、一酸化炭素変性器でCO変性反応を行い、一酸化炭素を炭酸ガスに変換すればよい。CO変性反応に用いる触媒としては、例えば銅主体、或いは鉄主体とする公知の触媒を用いて行えばよい。また、該CO変性反応によって一酸化炭素濃度を1%程度まで低減できるが、一酸化炭素は低温作動型固体高分子形燃料電池に使用する電極触媒作用を被毒する。したがってこの様な触媒の被毒を避けるためには、一酸化炭素濃度を10ppm以下にすることが望ましい。尚、一酸化炭素濃度を10ppm以下にするには、例えば上記CO変性反応後のガスに微量の酸素を添加し、一酸化炭素を選択的に酸化除去すればよい。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】触媒調製例4における、白金およびロジウムのEPMA断面線分析グラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
白金族元素と耐火性無機酸化物を含む触媒成分を成形担体にコーティングしかつ、該触媒成分コーティング層の外層部分(該コーティング層の半分から触媒表面までの部分)の方が、内層部分(該コーティング層の厚さの半分から担体までの部分)よりも該白金族元素の含有量が実質的に多いことを特徴とする炭化水素の部分酸化用触媒。
【請求項2】
該触媒コーティング層の厚さが10μm以上であるとき、該白金族元素の70質量%以上が該触媒成分コーティング層の表面から厚さ5μmまでの領域に存在していることを特徴とする請求項1記載の部分酸化用触媒。
【請求項3】
該担体がモノリス担体であることを特徴とする請求項1又は2記載の部分酸化用触媒。
【請求項4】
該耐火性無機酸化物が酸化セリウムおよび/またはセリウム―ジルコニウム複合酸化物を含有することを特徴とする請求項3記載の部分酸化用触媒。
【請求項5】
炭化水素含有ガスと酸素含有ガスを含む混合ガスを、請求項1〜4のいずれかに記載の炭化水素の部分酸化用触媒に接触させ、該炭化水素を部分酸化して水素含有ガスを製造することを特徴とする水素含有ガスの製造方法。
【請求項6】
該混合ガスが水蒸気を含むことを特徴とする請求項5記載の水素含有ガスの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−105583(P2007−105583A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−297315(P2005−297315)
【出願日】平成17年10月12日(2005.10.12)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】