説明

炭化水素濃度測定装置

【課題】光学チョッパを用いず、小型かつ安価で測定誤差を低減した炭化水素濃度測定装置を提供する。
【解決手段】波長が周期的に変動する赤外線を照射する照射部10と、排気ガスを収容するセル20と、照射部10から照射され、セル20に収容された排気ガスを透過した赤外線の強度を得る受光部30と、を具備するTHC測定装置1であって、照射部10は、前記排気ガスに含まれる炭化水素に吸収される波長域を含む赤外線を照射する光源12と、光源12から照射された赤外線を複数の方向に反射させる可動ミラー13と、可動ミラー13によって反射された赤外線から中波長の赤外線、短波長の赤外線、及び長波長の赤外線を生成する回折格子14と、前記長波長の赤外線を遮断する光学スリット板16と、を具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化水素濃度測定装置に関し、特にエンジンから排出される排気ガスに照射した赤外線の吸収量に基づいて排気ガスに含まれる炭化水素の濃度和を測定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等の排気ガスに含まれる炭化水素の濃度和(Total Hydrocarbon:THC)を測定する装置として、赤外分光法を利用したものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
上記のような赤外分光法を利用した炭化水素濃度測定装置は、排気ガスに赤外線を照射し、当該赤外線の特定の波長域における吸収量に基づいて、排気ガスに含まれる炭化水素の濃度和を測定する。
当該測定においては、光学チョッパを用いて、排気ガスに照射される赤外線を周期的に遮断し、当該赤外線の受光強度のゼロ点を把握することで、赤外線の発振強度の補正、及び背景光の影響(ノイズ)の除去等を行っている。
【0004】
しかしながら、排気ガスに含まれる炭化水素の濃度の測定に光学チョッパを用いると、炭化水素濃度測定装置の大型化を招くと共に、光学チョッパを制御するための装置が必要となり、コストの悪化を招く。更に、光学チョッパの制御に何らかのずれが生じた場合には、最終的に測定される炭化水素の濃度に誤差が生じる恐れがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−115654号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、光学チョッパを用いず、小型かつ安価で測定誤差を低減した炭化水素濃度測定装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の炭化水素濃度測定装置は、波長が周期的に変動する赤外線を照射する照射部と、前記赤外線を検出して、当該赤外線の強度を得る受光部と、測定対象ガスを収容し、前記赤外線を透過するセルと、を具備し、前記照射部から前記セルに収容される測定対象ガスに向けて赤外線を照射し、前記測定対象ガスを透過した赤外線を前記受光部によって検出することで、前記測定対象ガスを透過した赤外線の強度を得て、当該赤外線の強度に基づいて、前記測定対象ガスに含まれる炭化水素の濃度を測定する炭化水素濃度測定装置であって、前記照射部は、前記測定対象ガスに含まれる炭化水素に吸収される波長域を含む赤外線を照射する光源と、前記光源から照射される赤外線を分光して、前記測定対象ガスに含まれる炭化水素の濃度を測定するために必要な波長域を有する中波長の赤外線、前記中波長の赤外線よりも短い波長域を有する短波長の赤外線、及び前記中波長の赤外線よりも長い波長域を有する長波長の赤外線を順番に取り出すことで周期的に波長変動させる分光器と、前記短波長の赤外線、及び前記長波長の赤外線のうちの少なくとも片方の光路を遮断する遮断手段と、を具備する。
【0008】
本発明の炭化水素濃度測定装置において、前記分光器は、入射する赤外線を複数の方向に反射させる反射手段と、入射する赤外線を回折させることにより分光する回折手段と、から構成され、前記遮断手段は、前記短波長の赤外線、及び前記長波長の赤外線のうちの少なくとも片方の光路上に設けられ、当該光路を遮断する遮光部材であることが好ましい。
【0009】
本発明の炭化水素濃度測定装置において、前記分光器は、入射する赤外線を複数の方向に反射させる反射手段と、入射する赤外線を回折させることにより分光する回折手段と、から構成され、前記反射手段は、前記光源から照射される赤外線が前記回折手段に入射しない位置を含む範囲で揺動することで前記遮断手段として機能することが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、装置を小型化し、コストを低減すると共に、排気ガスに含まれる炭化水素の測定における誤差を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】炭化水素濃度測定装置を示す図。
【図2】照射部の構造を示す図。
【図3】波長掃引時における赤外線の受光強度の周期的変動を示す図。
【図4】照射部の別形態の構造を示す図。
【図5】波長掃引時における赤外線の受光強度の周期的変動を示す図。
【図6】照射部の別形態の構造を示す図。
【図7】波長掃引時における赤外線の受光強度の周期的変動を示す図。
【図8】照射部の別形態の構造を示す図。
【図9】波長掃引時における赤外線の受光強度の周期的変動を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下では、図1を参照して、THC測定装置1について説明する。
THC測定装置1は、赤外分光法を利用した炭化水素濃度測定装置であり、自動車等のエンジンから排出される排気ガス(測定対象ガス)に赤外線を照射し、当該赤外線の特定の波長域における吸収量に基づいて、排気ガスに含まれる炭化水素の濃度和(Total Hydrocarbon:THC)を測定する。
【0013】
図1に示すように、THC測定装置1は、照射部10、セル20、受光部30、及び制御部40を具備する。
【0014】
照射部10は、波長が周期的に変動する赤外線をセル20の内部に供給された排気ガスに向けて照射する。
照射部10は、その外装をなす筐体11を具備する。
筐体11は、照射部10を構成する複数の部材を収容する筐体であり、当該複数の部材の相対的な位置関係を保持する。
なお、筐体11に収容され、照射部10を構成する複数の部材の詳細については後述する。
【0015】
セル20は、略円筒状の部材であり、自動車等の排気経路の中途部に配置して当該排気経路を流動する排気ガスを内部に導入する。セル20は、所定の方向(セル20の軸方向と直交する方向であり、図1における左右方向)に赤外線が透過可能に構成されており、セル20の内部に導入された排気ガスを透過した後の赤外線(以下、「透過光」と記す。)を取得可能となっている。つまり、赤外線が導入される側(図1における右側)と反対側(同じく左側)で、排気ガスを透過した透過光を取得する。セル20によって取得された透過光は、受光部30によって受光される。
【0016】
受光部30は、フォトダイオード等の光検出器を含み、照射部10から照射されてセル20の内部に導入された排気ガスを透過した後の赤外線、つまり透過光を検出することで、その強度(赤外線強度)を得る。
【0017】
制御部40は、照射部10及び受光部30と電気的に接続されている。
制御部40は、照射部10を制御して、所望の波長域を有する赤外線を照射部10から照射可能とする。また、制御部40は、受光部30から透過光の強度を取得し、当該透過光の強度に基づいて排気ガスに含まれる炭化水素の濃度和を算出する。
【0018】
以上のように、THC測定装置1においては、照射部10から照射された赤外線がセル20の内部に導入された排気ガスに向けて照射され、当該排気ガスを透過した赤外線(透過光)が受光部30によって検出されて、その強度が得られる。そして、当該透過光の強度に基づいて、制御部40が排気ガスに含まれる炭化水素の濃度和を算出する。
【0019】
以下では、図2〜図3を参照して、照射部10の構造について詳細に説明する。
【0020】
図2に示すように、照射部10は、光源12、可動ミラー13、回折格子14、固定ミラー15、及び光学スリット板16を具備する。これらの部材は、筐体11(図1参照)に収容され、互いの相対的な位置関係を保持した状態で固定されている。
【0021】
光源12は、セル20(図1参照)に導入された排気ガスに含まれる炭化水素に吸収される波長域を含む広帯域の赤外線を可動ミラー13に向けて照射する部材である。
【0022】
可動ミラー13は、光源12から照射された赤外線を反射する手段として機能し、適宜の角度で回折格子14に入射させる部材である。可動ミラー13としては、いわゆるMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)ミラー等を適用することが可能である。
可動ミラー13は、適宜の固定軸に揺動可能に設けられており、当該固定軸周りにおける所定範囲(図2に示す位置P1と位置P2との間)を揺動するように制御部40(図1参照)によって制御される。図2に示す位置P1を可動ミラー13の初期位置とすると、可動ミラー13が位置P2まで回動し、再び位置P1に戻るまでが可動ミラー13の回動周期(1周期)となっている。
可動ミラー13の揺動範囲は、すべての位置において回折格子14に赤外線を入射可能なように設定されている。
こうして、可動ミラー13は、回折格子14に入射する赤外線の角度を周期的に変更する。
【0023】
回折格子14は、可動ミラー13によって反射された赤外線を回折する手段として機能し、当該赤外線を波長ごとに分光して、固定ミラー15に向けて反射させる部材である。回折格子14としては、表面(赤外線が入射する側の面)に互いに平行な多数の溝が形成された金属板等を適用することが可能である。
【0024】
回折格子14は、可動ミラー13によって反射された赤外線が入射する位置に配置されており、当該入射した赤外線から可動ミラー13の揺動位置に応じて「中波長の赤外線」、「短波長の赤外線」、及び「長波長の赤外線」を生成する。
中波長の赤外線は、回折格子14によって分光された赤外線の一部をなし、セル20に導入された排気ガスに含まれる炭化水素に吸収される波長域の赤外線であり、前記炭化水素の濃度和を測定するために使用される。
短波長の赤外線は、回折格子14によって分光された赤外線の一部をなし、中波長の赤外線よりも短い波長域の赤外線である。短波長の赤外線は、セル20に導入された排気ガスに含まれる炭化水素に吸収されない波長域の赤外線である。
長波長の赤外線は、回折格子14によって分光された赤外線の一部をなし、中波長の赤外線よりも長い波長域の赤外線である。長波長の赤外線は、セル20に導入された排気ガスに含まれる炭化水素に吸収されない波長域の赤外線である。
【0025】
固定ミラー15は、回折格子14によって分光された赤外線を光学スリット板16に向けて反射させる部材である。
固定ミラー15は、回折格子14によって生成される、中波長の赤外線、短波長の赤外線、及び長波長の赤外線の光路上に配置されている。
【0026】
固定ミラー15によって反射された、中波長の赤外線、短波長の赤外線、及び長波長の赤外線、それぞれの光軸は互いに所定の間隔を空けて略平行となっている。
これは、前述のように、可動ミラー13が所定範囲(図2に示す位置P1と位置P2との間)を揺動しながら光源12から照射された赤外線を回折格子14に向けて反射し、複数の角度で回折格子14に入射した赤外線が分光されるためである。ただし、中波長の赤外線、短波長の赤外線、及び長波長の赤外線、それぞれの光軸が互いに所定の間隔を空けて略平行となるように、光源12の設置位置、可動ミラー13の揺動範囲及び設置位置、回折格子14の設置位置、並びに固定ミラー15の設置位置等が適宜設定されているものとする。
こうして、可動ミラー13と回折格子14とが分光器として機能し、可動ミラー13の揺動と同期して、中波長の赤外線、短波長の赤外線、及び長波長の赤外線を順番に取り出すことで照射部10から照射される赤外線の波長が変動し、波長掃引を実現している。
【0027】
光学スリット板16は、光源12から照射される赤外線を透過しない材料からなる板材であり、所定の波長域の赤外線を遮断する遮光部材として機能する。光学スリット板16は、固定ミラー15によって反射された、中波長の赤外線、短波長の赤外線、及び長波長の赤外線の光路上に配置されている。光学スリット板16には、スリット16aが形成されている。
スリット16aは、光学スリット板16の表裏面を貫通する微細な孔であり、中波長の赤外線、及び短波長の赤外線の光路が位置する部分に配置されている。中波長の赤外線、及び短波長の赤外線は、光学スリット板16のスリット16aを通過し、長波長の赤外線は、光学スリット板16におけるスリット16aが形成されていない部分に遮断される。
【0028】
以上のように、照射部10においては、光源12、可動ミラー13、回折格子14、固定ミラー15、光学スリット板16を順に辿る光路が形成される。
【0029】
光源12から照射された赤外線は、所定範囲(図2に示す位置P1と位置P2との間)を揺動する可動ミラー13と、赤外線を分光する回折格子14とによって波長掃引されつつ、光学スリット板16に到達した赤外線のうち、中波長の赤外線、及び短波長の赤外線のみが光学スリット板16によって選択されて照射部10から照射される。
なお、光学スリット板16のスリット16aを通過した赤外線は、コリメートレンズ等により適宜調整された後、セル20(図1参照)の内部に供給された排気ガスに向けて照射される。この時、照射される赤外線は、光学スリット板16によって部分的に遮断されているため、光学スリット板16を設置しない場合と比較して強度が低くなるが、セル20の内部に供給された排気ガスに含まれる炭化水素を測定可能な程度の強度を有するように設定されている。
【0030】
こうして、図3に示すように、赤外線の波長掃引時において長波長の赤外線を遮断して、受光部30(図1参照)によって受光される赤外線の強度が一定時間ゼロとなる部分を周期的に形成することが可能となる。
これにより、光学チョッパを用いて赤外線を周期的に遮断することなく、赤外線の受光強度のゼロ点を把握することができ、赤外線の発振強度の補正、及び背景光の影響(ノイズ)の除去を行うことができる。したがって、THC測定装置1を小型かつ安価に構成すると共に、排気ガスに含まれる炭化水素の測定における誤差を低減することができる。
なお、本実施形態における光学スリット板16は、スリット16aを有し、長波長の赤外線のみを遮断する構成としたが、これに限定するものではなく、短波長の赤外線のみを遮断するスリットを有する構成、又は短波長の赤外線を遮断するスリットと、長波長の赤外線を遮断するスリットとの両方を有する構成としてもよい。
【0031】
また、本発明に係る照射部の他の形態として、照射部110を照射部10に代えて適用することも可能である。
以下では、図4〜図5を参照して、照射部110の構造について詳細に説明する。
【0032】
図4に示すように、照射部110は、光源112、可動ミラー113、回折格子114、ハーフミラー115、及び光学スリット板116を具備する。
【0033】
光源112は、照射部10の光源12と略同様に構成され、セル20(図1参照)に導入された排気ガスに含まれる炭化水素に吸収される波長域を含む広帯域の赤外線をハーフミラー115を介して、回折格子114に向けて照射する部材である。
【0034】
可動ミラー113は、照射部10の可動ミラー13と略同様に構成され、回折格子114によって分光された赤外線を反射する手段として機能し、適宜の角度で再び回折格子114に入射させる部材である。
可動ミラー113は、適宜の固定軸に揺動可能に設けられており、当該固定軸周りにおける所定範囲(図4に示す位置P3と位置P4との間)を揺動するように制御部40(図1参照)によって制御される。図4に示す位置P3を可動ミラー113の初期位置とすると、可動ミラー113が位置P4まで回動し、再び位置P3に戻るまでが可動ミラー113の回動周期(1周期)となっている。
【0035】
回折格子114は、照射部10の回折格子14と略同様に構成され、光源112から照射され、ハーフミラー115を透過した赤外線を回折する手段として機能し、当該赤外線を波長ごとに分光して、可動ミラー113に向けて反射させると共に、可動ミラー113によって反射された赤外線をハーフミラー115に向けて反射させる部材である。回折格子114は、光源112から照射され、ハーフミラー115を透過した赤外線が入射し、かつ可動ミラー113によって反射された赤外線が入射する位置に配置されている。
回折格子114は、照射部10の回折格子14と同様に、可動ミラー113の揺動位置に応じて、入射した赤外線から中波長の赤外線、短波長の赤外線、及び長波長の赤外線を生成する。
【0036】
ハーフミラー115は、入射光の一部を反射し、残りの一部を透過させる部材であり、光源112から照射された赤外線の一部を透過して回折格子114に入射させると共に、回折格子114によって分光された赤外線を光学スリット板116に向けて反射させる。
ハーフミラー115は、光源112から照射された赤外線の光路上であって、かつ回折格子114によって生成される、中波長の赤外線、短波長の赤外線、及び長波長の赤外線の光路上に配置されている。
【0037】
ハーフミラー115によって反射された、中波長の赤外線、短波長の赤外線、及び長波長の赤外線、それぞれの光軸は互いに所定の間隔を空けて略平行となっている。
これは、前述のように、可動ミラー113が所定範囲(図4に示す位置P3と位置P4との間)を揺動しながら回折格子114によって分光され反射された赤外線を再び回折格子114に向けて反射し、複数の角度で回折格子114に入射した赤外線が分光されるためである。
【0038】
詳細には、回折格子114によって生成された、中波長の赤外線、短波長の赤外線、及び長波長の赤外線は、可動ミラー113に向かう角度(回折格子114での反射角)がそれぞれ互いに異なるが、揺動する可動ミラー113に対する入射角がそれぞれ0度、つまり中波長の赤外線、短波長の赤外線、及び長波長の赤外線、それぞれの光軸と可動ミラー113とが直交した状態の時に、可動ミラー113によって反射され、それぞれ可動ミラー113と回折格子114との間の同一の光路を辿り、それぞれの光軸が互いに所定の間隔を空けて略平行となった状態でハーフミラー115に入射する。ただし、中波長の赤外線、短波長の赤外線、及び長波長の赤外線、それぞれの光軸が互いに所定の間隔を空けて略平行となるように、光源112の設置位置、可動ミラー113の揺動範囲及び設置位置、回折格子114の設置位置、並びにハーフミラー115の設置位置等が適宜設定されているものとする。
こうして、可動ミラー113と回折格子114とが分光器として機能し、可動ミラー113の揺動と同期して、中波長の赤外線、短波長の赤外線、及び長波長の赤外線を順番に取り出すことで照射部110から照射される赤外線の波長が変動し、波長掃引を実現している。
【0039】
光学スリット板116は、照射部10の光学スリット板16と略同様に構成され、光源112から照射される赤外線を透過しない材料からなる板材であり、所定の波長域の赤外線を遮断する遮光部材として機能する。光学スリット板116は、ハーフミラー115によって反射された、中波長の赤外線、短波長の赤外線、及び長波長の赤外線の光路上に配置されている。光学スリット板116には、スリット116aが形成されている。
スリット116aは、光学スリット板116の表裏面を貫通する微細な孔であり、中波長の赤外線、及び長波長の赤外線の光路が位置する部分に配置される。中波長の赤外線、及び長波長の赤外線は、光学スリット板116のスリット116aを通過し、短波長の赤外線は、光学スリット板116におけるスリット116aが形成されていない部分に遮断される。
【0040】
以上のように、照射部110においては、光源112、ハーフミラー115、回折格子114、可動ミラー113、回折格子114、ハーフミラー115、光学スリット板116を順に辿る光路が形成される。
照射部110においては、回折格子114を2回経由する光路となっているため、照射部10と比較して、より良好に赤外線を分光することができる。
【0041】
光源112から照射された赤外線は、所定範囲(図4に示す位置P3と位置P4との間)を揺動する可動ミラー113と、赤外線を分光する回折格子114とによって波長掃引されつつ、光学スリット板116に到達した赤外線のうち、中波長の赤外線、及び長波長の赤外線のみが光学スリット板116によって選択されて照射部110から照射される。
なお、光学スリット板116のスリット116aを通過した赤外線は、コリメートレンズ等により適宜調整された後、セル20(図1参照)の内部に供給された排気ガスに向けて照射される。この時、照射される赤外線は、ハーフミラー115によって部分的に反射及び透過され、かつ光学スリット板116によって部分的に遮断されているため、ハーフミラー115及び光学スリット板116を設置しない場合と比較して強度が低くなるが、セル20の内部に供給された排気ガスに含まれる炭化水素を測定可能な程度の強度を有するように設定されている。
【0042】
こうして、図5に示すように、赤外線の波長掃引時において短波長の赤外線を遮断して、受光部30(図1参照)によって受光される赤外線の強度が一定時間ゼロとなる部分を周期的に形成することが可能となる。
これにより、光学チョッパを用いて赤外線を周期的に遮断することなく、赤外線の受光強度のゼロ点を把握することができ、赤外線の発振強度の補正、及び背景光の影響(ノイズ)の除去を行うことができる。したがって、THC測定装置1を小型かつ安価に構成すると共に、排気ガスに含まれる炭化水素の測定における誤差を低減することができる。
なお、本実施形態における光学スリット板116は、スリット116aを有し、短波長の赤外線のみを遮断する構成としたが、これに限定するものではなく、長波長の赤外線のみを遮断するスリットを有する構成、又は短波長の赤外線を遮断するスリットと、長波長の赤外線を遮断するスリットとの両方を有する構成としてもよい。
【0043】
また、本発明に係る照射部の他の形態として、照射部210を照射部110に代えて適用することも可能である。
以下では、図6〜図7を参照して、照射部210の構造について詳細に説明する。
なお、照射部110と共通する部分には同一の符号を付して、その説明は省略する。
【0044】
図6に示すように、照射部210は、光源112、可動ミラー113、回折格子114、ハーフミラー115、及び遮光板216を具備する。
照射部210は、光学スリット板116の代わりに遮光板216を有する点で照射部110と異なる。
【0045】
遮光板216は、光源112から照射される赤外線を遮断する遮光部材として機能する板材である。遮光板216は、回折格子114によって分光され、可動ミラー113に向けて反射された赤外線の一部をなす短波長の赤外線の光路上に配置されている。当該短波長の赤外線は、遮光板216によって遮断され、可動ミラー113への入射が不可能となっている。
【0046】
以上のように、照射部210においては、光源112、ハーフミラー115、回折格子114、遮光板216(短波長の赤外線のみ)、可動ミラー113、回折格子114、ハーフミラー115を順に辿る光路が形成される。
照射部210においては、照射部110と同様に、回折格子114を2回経由する光路となっているため、照射部10と比較して、より良好に赤外線を分光することができる。
【0047】
光源112から照射された赤外線は、所定範囲(図6に示す位置P3と位置P4との間)を揺動する可動ミラー113と、赤外線を分光する回折格子114とによって波長掃引されつつ、遮光板216によって短波長の赤外線が遮断されることで、中波長の赤外線、及び長波長の赤外線のみが選択されて照射部210から照射される。
なお、ハーフミラー115によって反射された赤外線は、コリメートレンズ等により適宜調整された後、セル20(図1参照)の内部に供給された排気ガスに向けて照射される。この時、照射される赤外線は、ハーフミラー115によって部分的に反射及び透過され、かつ遮光板216によって部分的に遮断されているため、ハーフミラー115及び遮光板216を設置しない場合と比較して強度が低くなるが、セル20の内部に供給された排気ガスに含まれる炭化水素を測定可能な程度の強度を有するように設定されている。
【0048】
こうして、図7に示すように、赤外線の波長掃引時において短波長の赤外線を遮断して、受光部30(図1参照)によって受光される赤外線の強度が一定時間ゼロとなる部分を周期的に形成することが可能となる。
これにより、光学チョッパを用いて赤外線を周期的に遮断することなく、赤外線の受光強度のゼロ点を把握することができ、赤外線の発振強度の補正、及び背景光の影響(ノイズ)の除去を行うことができる。したがって、THC測定装置1を小型かつ安価に構成すると共に、排気ガスに含まれる炭化水素の測定における誤差を低減することができる。
なお、本実施形態における遮光板216は、短波長の赤外線のみを遮断するように配置したが、これに限定するものではなく、長波長の赤外線のみを遮断するように配置してもよいし、短波長の赤外線と長波長の赤外線との両方を遮断するように複数配置してもよい。
【0049】
また、本発明に係る照射部の他の形態として、照射部310を照射部10に代えて適用することも可能である。
以下では、図8〜図9を参照して、照射部310の構造について詳細に説明する。
【0050】
図8に示すように、照射部310は、光源312、可動ミラー313、回折格子314、固定ミラー315を具備する。
【0051】
光源312は、照射部10の光源12と略同様に構成され、セル20(図1参照)に導入された排気ガスに含まれる炭化水素に吸収される波長域を含む広帯域の赤外線を可動ミラー313に向けて照射する部材である。
【0052】
可動ミラー313は、照射部10の可動ミラー13と略同様に構成され、光源312から照射された赤外線を反射する手段として機能し、適宜の角度で回折格子314に入射させる部材である。
可動ミラー313は、適宜の固定軸に揺動可能に設けられており、当該固定軸周りにおける所定範囲(図8に示す位置P5と位置P6との間)を揺動するように制御部40(図1参照)によって制御される。図8に示す位置P5を可動ミラー313の初期位置とすると、可動ミラー313が位置P6まで回動し、再び位置P5に戻るまでが可動ミラー313の回動周期(1周期)となっている。
【0053】
可動ミラー313の揺動範囲(図8に示す位置P5と位置P6との間)は、その一部において赤外線が回折格子314に入射しないように設定されている。
例えば、可動ミラー313が図8に示す位置P5に位置する時、可動ミラー313によって反射された赤外線は、回折格子314よりも図8における左側に向かい、回折格子314に入射しない。また、可動ミラー313が図8に示す位置P6に位置する時、可動ミラー313によって反射された赤外線は、回折格子314よりも図8における右側に向かい、回折格子314に入射しない。
【0054】
回折格子314は、照射部10の回折格子14と略同様に構成され、可動ミラー313によって反射された赤外線を回折する手段として機能し、当該赤外線を波長ごとに分光して、固定ミラー315に向けて反射させる部材である。回折格子314は、可動ミラー313によって反射された赤外線が入射する位置に配置されている。
【0055】
固定ミラー315は、照射部10の固定ミラー15と略同様に構成され、回折格子314によって分光された赤外線を反射させる部材である。
固定ミラー15は、回折格子314によって生成された中波長の赤外線の光路上に配置されている。
【0056】
以上のように、照射部310においては、光源312、可動ミラー313、回折格子314、固定ミラー315を順に辿る光路が形成される。
【0057】
光源312から照射された赤外線は、所定範囲(図8に示す位置P5と位置P6との間)を揺動する可動ミラー313によって反射された赤外線の一部が回折格子314に入射しない状態で波長掃引されるため、中波長の赤外線のみが選択されて照射部310から照射される。つまり、可動ミラー313が回折格子314によって分光された赤外線の一部の光路を遮断する手段として機能することとなる。
なお、固定ミラー315によって反射された赤外線は、コリメートレンズ等により適宜調整された後、セル20(図1参照)の内部に供給された排気ガスに向けて照射される。この時、照射される赤外線は、遮光部材等によって部分的に遮断されていないため、強度が低下することはない。
【0058】
こうして、図9に示すように、赤外線の波長掃引時において中波長の赤外線のみを選択して、受光部30(図1参照)によって受光される赤外線の強度が一定時間ゼロとなる部分を周期的に形成することが可能となる。
これにより、光学チョッパを用いて赤外線を周期的に遮断することなく、赤外線の受光強度のゼロ点を把握することができ、赤外線の発振強度の補正、及び背景光の影響(ノイズ)の除去を行うことができる。したがって、THC測定装置1を小型かつ安価に構成すると共に、排気ガスに含まれる炭化水素の測定における誤差を低減することができる。
また、遮光部材等を用いて赤外線を遮断する必要がないため、THC測定装置1を更に安価に構成することができる。
なお、本実施形態における可動ミラー313は、図8に示す位置P5と位置P6との間を揺動して、中波長の赤外線のみを選択するが、これに限定するものではなく、中波長の赤外線と短波長の赤外線とを選択、又は中波長の赤外線と長波長の赤外線とを選択するような範囲で可動ミラー313を揺動させてもよい。
【符号の説明】
【0059】
1 THC測定装置
10 照射部
11 筐体
12 光源
13 可動ミラー
14 回折格子
15 固定ミラー
16 光学スリット板
16a スリット
20 セル
30 受光部
40 制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長が周期的に変動する赤外線を照射する照射部と、
前記赤外線を検出して、当該赤外線の強度を得る受光部と、
測定対象ガスを収容し、前記赤外線を透過するセルと、を具備し、
前記照射部から前記セルに収容される測定対象ガスに向けて赤外線を照射し、前記測定対象ガスを透過した赤外線を前記受光部によって検出することで、前記測定対象ガスを透過した赤外線の強度を得て、当該赤外線の強度に基づいて、前記測定対象ガスに含まれる炭化水素の濃度を測定する炭化水素濃度測定装置であって、
前記照射部は、
前記測定対象ガスに含まれる炭化水素に吸収される波長域を含む赤外線を照射する光源と、
前記光源から照射される赤外線を分光して、前記測定対象ガスに含まれる炭化水素の濃度を測定するために必要な波長域を有する中波長の赤外線、前記中波長の赤外線よりも短い波長域を有する短波長の赤外線、及び前記中波長の赤外線よりも長い波長域を有する長波長の赤外線を順番に取り出すことで周期的に波長変動させる分光器と、
前記短波長の赤外線、及び前記長波長の赤外線のうちの少なくとも片方の光路を遮断する遮断手段と、
を具備する炭化水素濃度測定装置。
【請求項2】
前記分光器は、
入射する赤外線を複数の方向に反射させる反射手段と、
入射する赤外線を回折させることにより分光する回折手段と、から構成され、
前記遮断手段は、
前記短波長の赤外線、及び前記長波長の赤外線のうちの少なくとも片方の光路上に設けられ、当該光路を遮断する遮光部材である請求項1に記載の炭化水素濃度測定装置。
【請求項3】
前記分光器は、
入射する赤外線を複数の方向に反射させる反射手段と、
入射する赤外線を回折させることにより分光する回折手段と、から構成され、
前記反射手段は、前記光源から照射される赤外線が前記回折手段に入射しない位置を含む範囲で揺動することで前記遮断手段として機能する請求項1に記載の炭化水素濃度測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−117732(P2011−117732A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−272586(P2009−272586)
【出願日】平成21年11月30日(2009.11.30)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】