説明

炭化水素燃料の製造方法

【課題】藻類によって産生された脂肪族化合物から高品質の炭化水素燃料を商業的に安定して製造することが可能な炭化水素燃料の製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明は、藻類によって産生された脂肪族化合物と、超臨界状態にある臨界温度が90℃以上の炭化水素溶媒と、を含有する混合物を、脂肪族化合物の炭化水素溶媒への溶解度が炭化水素溶媒100g当たり15g以下となるように、温度及び圧力を調整して保持した後、脂肪族化合物の炭化水素溶媒への可溶分を回収する第1の工程と、第1の工程で回収された可溶分を、触媒を用いて水素化処理する第2の工程と、を備える炭化水素燃料の製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は炭化水素燃料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境意識が高まってきたことに伴い、二酸化炭素の排出量を低減するために、化石燃料に代えて、カーボンニュートラルな資源であるバイオマスをエネルギー源として積極的に活用しようとする試みが活発になされている。その中でも、油脂又は脂肪族炭化水素等の脂肪族化合物を産生するクロレラ等の藻類を培養し、その藻類から脂肪族化合物を回収して炭化水素燃料とする方法が有望視されている(非特許文献1、2参照)。
【0003】
上記藻類から脂肪族化合物を回収する方法としては、ヘキサンや酢酸エチル等の脂肪族化合物の溶解度が高い溶剤を用い、常圧下、溶剤の沸点以下の温度で抽出する溶剤抽出法が幅広く使用されている。一方、藻類によって産生された脂肪族化合物は直鎖状の分子であるため流動性に乏しく、また、脂肪族化合物が油脂である場合には、酸素分の含有量が高く、エンジンの材質に悪影響を与える懸念がある等の欠点を有し、そのままでは燃料として低品質である。従って、藻類が産生する脂肪族化合物から高品質の燃料を得るためには、前記脂肪族化合物に対して、触媒を用いて水素化脱酸素処理、水素化分解処理、水素化異性化処理等の水素化処理を施すことにより、酸素分の除去、低分子量化あるいは分岐鎖の導入等、前記脂肪族化合物の構造を転換することが必要である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】「微細藻類の利用」山口勝巳編、恒星社厚生閣、1992年、64−74頁
【非特許文献2】太田昌樹、ペテロテック、2010年、96−100頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の溶剤抽出法により藻類から回収された脂肪族化合物を、触媒を用いた水素化処理に供すると、処理工程で触媒が急速に失活してしまい、長時間の連続運転ができないという問題が起こる。すなわち、当該方法では水素化処理を商業的に安定して行うことができず、藻類によって産生された脂肪族化合物から高品質の炭化水素燃料を製造する上での大きな障害となっている。
【0006】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、藻類によって産生された脂肪族化合物から高品質の炭化水素燃料を商業的に安定して製造することが可能な炭化水素燃料の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、藻類によって産生された脂肪族化合物と、超臨界状態にある臨界温度が90℃以上の炭化水素溶媒と、を含有する混合物を、脂肪族化合物の炭化水素溶媒への溶解度が炭化水素溶媒100g当たり15g以下となるように、温度及び圧力を調整して保持した後、脂肪族化合物の炭化水素溶媒への可溶分を回収する第1の工程と、第1の工程で回収された可溶分を、触媒を用いて水素化処理する第2の工程と、を備える炭化水素燃料の製造方法を提供する。
【0008】
本発明の炭化水素燃料の製造方法は、上記構成を有するため、第2の工程における水素化処理の際に触媒の失活を十分に抑制することができ、高品質の炭化水素燃料を商業的に安定して製造することができるという効果を有する。
【0009】
なお、本発明により上記の効果が奏される理由について、本発明者らは以下のように推察する。
すなわち、まず、ヘキサンや酢酸エチル等の脂肪族化合物の溶解度が高い溶剤を用いる従来の溶剤抽出方法においては、回収された脂肪族化合物中にマグネシウム(Mg)、ナトリウム(Na)等の金属分が不純物として混入してしまう。これらの金属分は藻類に由来するものと考えられる。そして、このような金属分を含んだ脂肪族化合物を水素化処理工程に供すると、金属分によって触媒が被毒され、触媒が急速に失活してしまうものと考えられる。
これに対して本発明の炭化水素燃料の製造方法においては、藻類によって産生された脂肪族化合物と、超臨界状態にある臨界温度が90℃以上の炭化水素溶媒と、を含む混合物を、脂肪族化合物の炭化水素溶媒への溶解度が炭化水素溶媒100g当たり15g以下となるように、温度及び圧力を調整して保持した後、脂肪族化合物の炭化水素溶媒への可溶分を回収することによって、回収された脂肪族化合物への金属分の混入を十分に抑制することができる。そして、そのようにして回収された脂肪族化合物を水素化処理工程に供することによって、金属分による触媒の被毒及び失活を十分に抑制することができるものと推察される。
【0010】
本発明の炭化水素燃料の製造方法においては、上記藻類がクロレラ属、イカダモ属、アルスロスピラ属、ユーグレナ属、ボツリオコッカス属及びシュードコリシスチス属からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、藻類から回収された脂肪族化合物から高品質の炭化水素燃料を商業的に安定して製造することが可能な炭化水素燃料の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の炭化水素燃料の製造方法に好適に用いられる製造装置の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好適な実施形態(以下、「本実施形態」ということがある。)について詳細に説明する。
【0014】
本実施形態に係る炭化水素燃料の製造方法は、藻類によって産生された脂肪族化合物と、臨界温度が90℃以上の炭化水素溶媒と、を含有する混合物を、脂肪族化合物の炭化水素溶媒への溶解度が炭化水素溶媒100g当たり15g以下となるように、炭化水素溶媒の臨界温度以上で温度及び圧力を調整して保持した後、脂肪族化合物の炭化水素溶媒への可溶分を回収する第1の工程と、第1の工程で回収された可溶分を、触媒を用いて水素化処理する第2の工程と、を備える。
【0015】
なお、藻類によって産生された脂肪族化合物と臨界温度が90℃以上の炭化水素溶媒との混合物を保持する温度が当該炭化水素溶媒の臨界温度よりも低い温度では、本発明の効果を得ることが困難である。また、当該混合物の保持温度における脂肪族化合物の炭化水素溶媒への溶解度が炭化水素溶媒100g当たり15gを超えると、本発明の効果を得ることが困難である。上記保持温度における脂肪族化合物の炭化水素溶媒への溶解度は、炭化水素溶媒100g当たり、好ましくは10g以下、特に好ましくは6g以下である。また、処理効率(精製脂肪族化合物の回収効率)の点から、上記保持温度における脂肪族化合物の炭化水素溶媒への溶解度は、炭化水素溶媒100g当たり1g以上であることが好ましい。
【0016】
炭化水素燃料の原料である、藻類によって産生された脂肪族化合物には、油脂、脂肪族炭化水素等が包含される。また、脂肪族化合物を産生する藻類とは、酸素発生型光合成を行う水中に生息する生物(藻類)であって、脂肪族化合物をその体内に産生するものをいう。藻類は、光合成によって二酸化炭素を固定化し、脂肪族化合物に転換する性質を有する。このような性質を有する藻類であれば、いずれの藻類も本実施形態の脂肪族化合物の製造方法に使用することができる。
【0017】
本実施形態における脂肪族化合物を産生する藻類の例としては、クロレラ属、イカダモ属、アルスロスピラ属、ユーグレナ属、ボツリオコッカス属、及びシュードコリシスチス属に属する藻類が挙げられる。より具体的には、クロレラ、イカダモ、スピルリナ、ユーグレナ、ボツリオコッカスブラウニー、シュードコリシスチスエリプソイディア等を挙げることができる。ただし、藻類は脂肪族化合物を産生する限りにおいてこれらに限定されるものではない。
【0018】
例えば、クロレラ、イカダモ、スピルリナ、ユーグレナは油脂を、ボツリオコッカスブラウニー、シュードコリシスチスエリプソイディアは脂肪族炭化水素を産生する。これらの脂肪族化合物は、通常、藻類の細胞(藻体)内に蓄積されるが、培養工程において、細胞内に蓄積された脂肪族化合物の一部が細胞外に排出されてもよい。
【0019】
培養された藻類により産生される油脂としては、脂肪族カルボン酸と、1価又は3価の脂肪族アルコールと、からなる脂肪族エステル化合物が挙げられる。この油脂は藻類によって産生されたものであれば特に限定されないが、例えばラウリン酸メチル、ミリスチン酸ミリスチル、パルミチン酸メチル等を挙げることができる。
【0020】
培養された藻類により産生される脂肪族炭化水素としては、炭素原子と水素原子とからなる、常温で固体又は液体の脂肪族炭化水素、例えば、炭素数15〜40の飽和又は不飽和の脂肪族炭化水素、特に直鎖状脂肪族炭化水素が挙げられる。脂肪族炭化水素は、藻類によって産生されたものであれば特に限定されず、例えばn−ヘプタデセン、n−エイコサジエン等を挙げることができる。
【0021】
本実施形態の培養工程では、それぞれの藻類に対して公知の培養条件で培養を行うことができる。通常、空気中の二酸化炭素を炭素源として光合成で藻類を増殖させる光独立栄養的培養によって、常温で、好ましくは25〜37℃で培養する。光合成のための光源は、太陽光又は人工的な光源を用いることができる。藻類の増殖を早めるため、藻類への光照射は、2〜100キロルックスで30〜500時間行うことが好ましい。培地雰囲気中の二酸化炭素濃度は0.3〜10体積%であることが好ましく、二酸化炭素の培地中への溶け込みを促進するために、必要に応じて培地を撹拌、又は空気によって曝気してもよい。
【0022】
培地には、CHU培地、JM培地、MDM培地等、一般的な無機培地を用いることができる。無機培地には、通常、窒素源としてCa(NO・4HOやKNOが、その他の主要な栄養成分としてKHPOやMgSO・7HO等が含まれている。また、培地には、藻類の生育に影響を与えない抗生物質等を添加してもよい。培地のpHは3〜10が好ましい。培養期間は初めに接種する藻体量にもよるが、0.5g/Lの藻体濃度で培養を開始した場合、1〜20日間とすることが好ましい。培養期間が1日間未満であると十分な藻体量が得られ難くなる傾向にあり、20日間を超えると培地中の栄養分が枯渇して藻類の生育が困難になる傾向にある。
【0023】
培養終了後の培地中の藻体濃度は、藻類の種類や培養条件により異なるが、通常0.01〜3質量%である。脂肪族化合物を臨界温度が90℃以上の炭化水素溶媒と混合する際には、培養終了後の脂肪族化合物を含有する培地をそのまま用いてもよいし、培地を遠心分離等に供することにより藻体の濃縮を行なったものを用いてもよい。濃縮を行った場合の藻体の濃度は、通常、1〜30重量%である。さらに、培地またはその濃縮液を乾燥させて得られる、脂肪族化合物を含有する乾燥藻体を使用することもできる。
【0024】
また、必要によっては、ヘキサンや酢酸エチル等の脂肪族化合物の溶解度が高い溶剤を用い、常圧下、溶剤の沸点以下の温度で抽出する溶剤抽出法によって藻体から抽出された、藻類によって産生された脂肪族化合物を含有する油分を用いることもできる。
【0025】
藻体中の脂肪族化合物の濃度を高める工程を、必要に応じて中間工程として施すこともできる。この工程の具体的な操作としては、例えば、培養工程により得られた藻体を含む培地又はその濃縮液を嫌気状態におく操作を挙げることができる。
【0026】
臨界温度が90℃以上の炭化水素溶媒としては、炭素数3〜6の脂肪族炭化水素が好適であり、具体的には、プロパン、n−ブタン、イソブタン、n−ペンタン、n−ヘキサン等を挙げることができる。これらの中でも、プロパン、n−ブタン、イソブタンがより好ましく、プロパンが特に好ましい。表1に炭化水素溶媒の臨界温度及び臨界圧力を示す。
【0027】
【表1】

【0028】
脂肪族化合物の炭化水素溶媒への可溶分を回収する方法としては、例えば重力沈降分離を利用することができる。
【0029】
第1の工程で回収された可溶分は、触媒を用いた水素化処理に供される。触媒を用いた水素化処理とは触媒を用いて水素化脱酸素処理、水素化分解処理、及び水素化異性化処理のうち少なくとも一つの処理を行うことを意味する。
【0030】
水素化脱酸素処理では、エンジンの材質に悪影響を与える懸念のある原料中に含まれる酸素原子を、水及び/又はアルコール等として除去すると共に、原料中の不飽和結合を水素化して、飽和脂肪族炭化水素に転換する。この水素化脱酸素処理によって、実質的に酸素原子及び不飽和結合を含まず、エンジン損傷等の懸念のない炭化水素燃料を得ることができる。
【0031】
脂肪族化合物が油脂(脂肪酸とグリセリンとから構成されるエステル)である場合には、その分子中に多くの酸素原子を含んでいることから、まず水素化脱酸素処理を行って、酸素原子を除去することが好ましい。同時に、油脂がその分子内に不飽和結合を有している場合には、水素化脱酸素処理中にこの不飽和結合は水素化され、直鎖状飽和炭化水素(ノルマルパラフィン)が生成する。
【0032】
この水素化脱酸素処理においては、使用する触媒が水素化分解活性及び/又は水素化異性化活性をも有する場合には、生成したノルマルパラフィンは、触媒の作用により、少なくともその一部が水素化分解を受けて炭素数のより少ないノルマルパラフィンに転換される場合もある。また、ノルマルパラフィンの少なくとも一部は、触媒の作用により、水素化異性化を受けて分岐状飽和炭化水素(イソパラフィン)に転換される場合もある。
【0033】
水素化分解処理では、飽和又は不飽和の脂肪族炭化水素を、より炭素数の少ない脂肪族炭化水素に転換する。なお、この水素化分解処理においては、用いる触媒の作用により、水素化分解反応だけでなく、水素化異性化反応も併発することが一般的である。したがって、水素化分解処理の生成物は、該処理の原料である脂肪族炭化水素よりも低分子量であると同時に、その少なくとも一部は分岐鎖構造を有するイソパラフィンとなることが一般的である。
【0034】
脂肪族化合物が直鎖状脂肪族炭化水素である場合、そのままでは常温でワックス状であり、液体燃料としての使用は困難である場合が多い。また、この直鎖状脂肪族炭化水素は常温で液体であったとしても、低温での流動性に乏しい。そこで、水素化分解処理により、直鎖状脂肪族炭化水素を炭素数のより小さな炭化水素に転換すると共に、併発する水素化異性化により、少なくともその一部を分岐状構造に転換し、常温で液体であり、且つ低温における流動性を向上させることが好ましい。また、脂肪族化合物としての直鎖状脂肪族炭化水素が不飽和結合を有する場合には、水素化分解処理の過程において、不飽和結合が水素化されて飽和炭化水素に転換される。
【0035】
また、前記脂肪族化合物が油脂である場合であって、当該油脂を水素化脱酸素処理により飽和脂肪族炭化水素に転換する過程において、水素化脱酸素に並行して、水素化分解及び/又は水素化異性化が十分に進行していない場合には、生成する飽和脂肪族炭化水素は常温で固体の場合もあり、また、常温で液体であっても、低温流動性が十分でない場合がある。このような場合には、得られた飽和脂肪族炭化水素を水素化分解処理に供することにより、常温で液体であり、低温流動性に優れる液体炭化水素燃料を得ることができる。
得られた水素化分解生成物は、必要により蒸留等の手段によって沸点範囲ごとの留分に分別される。分別された脂肪族炭化水素は、ガソリンエンジン用、暖房用(灯油)、ジェットエンジン用、ディーゼルエンジン用等の基材として、それぞれに適した用途に用いられる。
【0036】
水素化異性化処理では、直鎖状の脂肪族炭化水素の一部又は全部を分岐鎖状の脂肪族炭化水素(イソパラフィン)に転換する。この処理によって、低温時でも高い流動性を有する液体燃料基材を得ることができる。
【0037】
脂肪族化合物が直鎖状脂肪族炭化水素であり、当該炭化水素を前記水素化分解処理に供することにより得られた生成物の低温流動性が十分でない場合、脂肪族化合物である直鎖状脂肪族炭化水素の炭素数が比較的小さい場合、あるいは脂肪族炭化水素が油脂であり、水素化脱酸素処理によって得られた飽和脂肪族炭化水素の低温流動性が十分でない場合などに、水素化異性化処理を行うことができる。
【0038】
このようにして得られる燃料基材は、ジェットエンジン用、ディーゼルエンジン用に好ましく用いられる。
【0039】
以下、水素化脱酸素処理、水素化分解処理及び水素化異性化処理についてそれぞれ詳細に説明する。
【0040】
水素化脱酸素処理に使用する触媒としては、例えば特開2010−121071号公報、特開2007−308564号公報、特開2007−308565号公報等に開示される、動植物由来の油脂の水素化脱酸素処理に使用される触媒を使用することができる。すなわち、アルミニウム、ケイ素、ジルコニウム、ホウ素、チタン及びマグネシウムから選ばれる元素を少なくとも1種含んで構成される多孔性無機酸化物からなる担体に周期表第6族及び第8族〜第10族の元素から選ばれる少なくとも1種の水素化活性を有する金属(活性金属)を担持した触媒を用いることができる。なお、ここで「周期表」とは、IUPAC(国際純粋・応用化学連合(InternationalUnion of Pure and Applied Chemistry)によって規定される長周期型の元素の周期表を意味する。
【0041】
前記担体の例としては、アルミナ、シリカ、ジルコニア、ボリア、チタニア、マグネシアあるいはこれらが複合されて形成される複合酸化物であるシリカアルミナ、シリカジルコニア、アルミナボリア、シリカチタニア、シリカマグネシア等が挙げられる。これらの中で、複合酸化物であるシリカアルミナ、シリカジルコニア、アルミナボリア、シリカチタニア、シリカマグネシア等が好ましい。また、前記担体はゼオライトを含んでもよい。
なお、前記担体は、成型性及び機械的強度を向上させる目的で、アルミナ、シリカ、チタニア、マグネシア等のバインダを含有してもよい。
【0042】
前記活性金属としては、第6族の金属としてはモリブデン(Mo)、タングステン(W)、第8族の金属としてはルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)、第9族の金属としてはコバルト(Co)、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)、第10族の金属としてはニッケル(Ni)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)が好ましい例として挙げられる。これらの金属は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。2種以上を組み合わせて用いる好ましい例としては、Ni−Mo、Co−Mo、Ni−Co−Mo、Ni−W等の組み合わせが挙げられる。前記金属の組み合わせにおいては、金属は硫化されることにより水素化活性を発現するため、触媒を水素化脱酸素処理に供する前に、ジメチルジスルフィド等の硫黄化合物を含む流体により触媒を前処理(予備硫化)することが好ましく、処理中にも原料油に少々の硫黄化合物を添加することが好ましい。
【0043】
一方、活性金属として1種を単独で用いる場合は、Pt、Pd、Rh等の貴金属が好ましい。活性金属として貴金属を用いる場合は、貴金属は硫黄化合物により被毒されるため、予備硫化は行わず、水素ガス等により還元処理を行って水素化脱酸素処理に供することが一般的である。なお、活性金属として貴金属を用いる場合にも、例えばPt−Pd等、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0044】
上記活性金属の担体の全質量を基準とした担持量は、活性金属が貴金属である場合には、金属原子として0.1〜3質量%、貴金属以外の金属である場合は金属酸化物として2〜50質量%であることが好ましい。
【0045】
活性金属を担体に担持させる方法は特に限定されず、通常の水素化脱硫触媒等を製造する際に適用される公知の方法を用いることができる。通常は、活性金属の塩を含む溶液を触媒担体に含浸する方法が好ましく採用される。また平衡吸着法、Pore−filling法、Incipient−wetness法なども好ましく採用される。例えば、Pore−filling法は、担体の細孔容積を予め測定しておき、これと同じ容積の金属塩溶液を含浸する方法であるが、含浸方法は特に限定されるものではなく、金属担持量や触媒担体の物性に応じて適当な方法で含浸することができる。
【0046】
水素化脱酸素処理の反応器形式は、固定床方式であってもよい。すなわち、水素は原料油に対して向流または並流のいずれの形式をとることもでき、また、複数の反応塔を有し向流、並流を組み合わせた形式のものでもよい。一般的な形式としてはダウンフローであり、気液双並流形式を採用することができる。また、反応器は単独または複数を組み合わせてもよく、一つの反応器内部を複数の触媒床に区分した構造を採用してもよい。
【0047】
水素化脱酸素処理における処理条件として、水素圧力が2〜13MPa、液空間速度が0.1〜3.0h−1、水素/油比が150〜1500NL/Lであることが好ましく、水素圧力が2〜13MPa、液空間速度が0.1〜3.0h−1、水素/油比が150〜1500NL/Lであることがより好ましく、水素圧力が3〜10.5MPa、液空間速度が0.25〜1.0h−1、水素/油比が300〜1000NL/Lである条件が特に好ましい。
【0048】
また、処理温度は、反応器全体の平均温度として、一般的には150〜480℃の範囲が好ましく、望ましくは200〜400℃、さらに望ましくは260〜360℃の範囲である。反応温度が150℃未満の場合には、反応が十分に進行しなくなる恐れがあり、480℃を超える場合には過度に分解が進行し、生成物収率の低下を招く傾向にある。
【0049】
なお、水素化脱酸素処理は大きな反応熱の発生を伴うため、反応器内の温度の過度な上昇を防止する手段を講じることが好ましく行なわれる。例えば、水素ガスを反応器入口に全て供給するのではなく、複数の流れに分割して、反応器途中に供給して、水素ガスの冷熱によって反応器内を冷却する、あるいは、反応器から流出した生成油の一部を反応器にリサイクルし、原料油を希釈する等の方法が用いられる。
【0050】
水素化分解処理に使用する触媒としては、ワックス成分を含む炭化水素の水素化分解処理に使用される公知の触媒を使用することができる。すなわち、固体酸を含む担体に、活性金属として周期表第8〜10族に属する金属を担持したものが挙げられる。
【0051】
好適な担体としては、超安定Y型(USY)ゼオライト、Y型ゼオライト、モルデナイト及びベータゼオライトなどの結晶性ゼオライト、ならびに、シリカアルミナ、シリカジルコニア、及びアルミナボリアなどの耐火性を有する無定形複合金属酸化物の中から選ばれる1種類以上の固体酸を含んで構成されるものが挙げられる。さらに、担体は、USYゼオライトと、シリカアルミナ、アルミナボリア及びシリカジルコニアの中から選ばれる1種以上の固体酸とを含んで構成されるものがより好ましく、USYゼオライトと、アルミナボリア及び/又はシリカアルミナを含むものが更に好ましい。
【0052】
USYゼオライトは、Y型ゼオライトを水熱処理及び/又は酸処理により超安定化したものであり、Y型ゼオライトが本来有する細孔径が2nm以下のミクロ細孔と呼ばれる微細細孔構造に加え、2〜10nmの範囲に細孔径を有する新たな細孔が形成されている。USYゼオライトの平均粒子径に特に制限はないが、好ましくは1.0μm以下、より好ましくは0.5μm以下である。また、USYゼオライトにおいて、シリカ/アルミナのモル比(アルミナに対するシリカのモル比)は10〜200であることが好ましく、15〜100であることがより好ましく、20〜60であることがさらに好ましい。
【0053】
また、担体は、結晶性ゼオライト0.1〜80質量%と、耐火性を有する無定形複合金属酸化物0.1〜60質量%とを含んで構成されるものであることが好ましい。
【0054】
担体は、上記固体酸と必要に応じてバインダーとを含む担体組成物を成型した後、焼成することにより製造できる。固体酸の配合割合は、担体全量を基準として1〜70質量%であることが好ましく、2〜60質量%であることがより好ましい。また、担体がUSYゼオライトを含んで構成される場合、USYゼオライトの配合割合は、担体全体の質量を基準として0.1〜10質量%であることが好ましく、0.5〜5質量%であることがより好ましい。さらに、担体がUSYゼオライト及びアルミナボリアを含んで構成される場合、USYゼオライトとアルミナボリアの配合比(USYゼオライト/アルミナボリア)は、質量比で0.03〜1であることが好ましい。また、担体がUSYゼオライト及びシリカアルミナを含んで構成される場合、USYゼオライトとシリカアルミナとの配合比(USYゼオライト/シリカアルミナ)は、質量比で0.03〜1であることが好ましい。
【0055】
バインダーとしては、特に制限はないが、アルミナ、シリカ、チタニア、マグネシアが好ましく、アルミナがより好ましい。バインダーの配合量は、担体全体の質量を基準として20〜98質量%であることが好ましく、30〜96質量%であることがより好ましい。
【0056】
成型された担体の形状は限定されないが、例えば球状、円柱状、三つ葉・四葉型の断面を有する異形円柱状などが挙げられる。また、その粒子径についても特に制限はないが、実用性から1μm〜10mmであることが好ましい。
【0057】
前記担体組成物の焼成温度は、400〜550℃の範囲内にあることが好ましく、470〜530℃の範囲内であることがより好ましく、490〜530℃の範囲内であることがさらに好ましい。
【0058】
周期表第8〜10族の金属としては、具体的にはコバルト、ニッケル、ロジウム、パラジウム、イリジウム、白金などが挙げられる。これらのうち、ニッケル、パラジウム及び白金の中から選ばれる金属を1種単独又は2種以上組み合わせて用いることが好ましい。これらの金属は、含浸やイオン交換などの常法によって上述の担体に担持することができる。担持する金属量には特に制限はないが、金属の合計量が担体質量に対して0.1〜3.0質量%であることが好ましい。
【0059】
水素化分解処理を行うための反応器の形式、処理条件は前述の水素化脱酸素処理と同様であるので、重複を避ける観点から説明を割愛する。なお、水素化脱酸素処理において言及した反応熱による反応器内の温度の過度の上昇については、水素化分解処理及び後述する水素化異性化処理については該当しない。
【0060】
水素化異性化処理に使用する触媒としては、石油精製等において水素化異性化に一般的に使用される触媒、すなわち無機担体に水素化能を有する活性金属が担持された触媒を用いることができる。
【0061】
前記触媒を構成する無機担体としては、例えば、アルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア、ボリア等の金属酸化物が挙げられる。これら金属酸化物は1種であってもよいし、2種以上の混合物あるいはシリカアルミナ、シリカジルコニア、アルミナジルコニア、アルミナボリア等の複合金属酸化物であってもよい。前記無機担体は、水素化異性化を効率的に進行させるとの観点から、シリカアルミナ、シリカジルコニア、アルミナジルコニア、アルミナボリア等の固体酸性を有する複合金属酸化物であることが好ましい。また、無機担体には少量のゼオライトを含んでもよい。
【0062】
さらに前記無機担体は、担体の成型性及び機械的強度の向上を目的として、バインダーが配合されていてもよい。好ましいバインダーとしては、アルミナ、シリカ、マグネシア等が挙げられる。
【0063】
前記触媒を構成する活性金属としては第8族〜第10族の金属からなる群より選ばれる1種以上の金属が用いられる。これらの金属の具体的な例としては、白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、オスミウム等の貴金属、あるいはコバルト、ニッケルなどが挙げられ、好ましくは、白金、パラジウム、ニッケル、コバルトであり、更に好ましくは白金、パラジウムである。また、これらの金属は複数種を組み合わせて用いることも好ましく、その場合の好ましい組み合わせとしては、白金−パラジウム等が挙げられる。
【0064】
前記触媒における活性金属の含有量としては、活性金属が上記の貴金属である場合には、金属原子として担体の質量基準で0.1〜3質量%程度であることが好ましい。また、活性金属が上記の貴金属以外の金属である場合には、金属酸化物として担体の質量基準で2〜50質量%程度であることが好ましい。
【0065】
水素化異性化処理を行うための反応器の形式、処理条件は前述の水素化分解処理と同様であるので、重複を避ける観点から説明を割愛する。
【0066】
なお、以上説明した水素化脱酸素処理、水素化分解処理及び水素化異性化処理はそれぞれ異なる工程を設けてこれらを行なってもよく、ひとつの工程において複数の機能を持つ触媒を使用することにより、複数の処理を同時に行ってもよい。特に水素化分解処理を行う場合、原料油を構成する分子の分解だけでなく、水素化異性化による分岐鎖の付与も同時に進行することが通常である。また、ひとつの反応器に複数の異なる触媒床を設け、それぞれの触媒床において異なる処理を行ってもよい。
【0067】
上記の通り、藻類によって産生された油脂又は脂肪族炭化水素等の脂肪族化合物と臨界温度が90℃以上の炭化水素溶媒とを含む混合物を得て、当該混合物に対して、脂肪族化合物の炭化水素溶媒への溶解度が炭化水素溶媒100g当たり15g以下となるように、当該炭化水素溶媒の臨界温度以上で温度と圧力を調整し、該炭化水素への該脂肪族化合物の可溶分を回収する第1の工程と、第1の工程で得られる可溶分を、触媒を用いて水素化処理する第2の工程とを必須工程とすることによって、藻類によって産生された脂肪族化合物から高品質の炭化水素燃料を商業的に安定して製造することができる。
【0068】
次に、図1を参照して、本実施形態に好適に用いられる製造装置の一例について説明する。
【0069】
図1に示す製造装置においては、上流側から脂肪族化合物抽出分離槽1、溶媒分離槽2及び水素化処理反応器3がこの順序で配置されている。脂肪族化合物抽出分離槽1と溶媒分離槽2とはラインL4を介して連結されており、溶媒分離槽2と水素化処理反応器3とはラインL6及びL7を介して連結されている。
【0070】
脂肪族化合物抽出分離槽1の上流側にはラインL1が連結されており、ラインL1には上流側からポンプ11、混合装置12及び温度調整装置13がこの順序で設けられている。ポンプ11としてはプランジャーポンプを、混合装置12としてはラインミキサーを、温度調整装置13としてはスチームを利用した加熱器を、それぞれ例示することができる。
【0071】
また、溶媒分離槽2の頂部と、ラインL1のポンプ11と混合器12との間の所定位置とは、ラインL2を介して連結されている。ラインL2には、圧力調整バルブV2及び圧力/流量調整装置14が設けられている。これにより、溶媒分離槽2で分離された臨界温度が90℃以上の炭化水素溶媒(又は当該炭化水素溶媒を含む混合流体)を所定の圧力及び流量に調整して、ラインL1に移送することが可能となっている。圧力/流量調整装置14としては、ブースターを例示することができる。さらに、ラインL2には、メイクアップガスとしての臨界温度が90℃以上の炭化水素溶媒を導入するためのラインL3が連結されている。
【0072】
図1に示した製造装置においては、藻類によって産生された脂肪族化合物を含む原料を、ラインL2からの臨界温度が90℃以上の炭化水素溶媒(又は当該炭化水素溶媒を含む混合流体)と共に、ラインL1から脂肪族化合物抽出分離槽1に連続的に供給し、この混合物を脂肪族化合物抽出分離槽1内で一定時間滞留させる。このとき、炭化水素溶媒100gに対する脂肪族化合物の溶解度が15g以下となるように、炭化水素溶媒の臨界温度以上で温度及び圧力を調整し、脂肪族化合物抽出分離槽1内で混合物を保持する。温度及び圧力を調整する方法としては、圧力/流量調整装置14によって、溶媒分離槽2から移送される炭化水素溶媒(又は炭化水素溶媒を含む混合流体)の温度及び圧力を調整する方法、メイクアップガスとしてラインL2から導入される炭化水素溶媒の温度及び圧力を調整する方法、圧力調整バルブV1で圧力を調整する方法、温度調整装置13によって混合物の温度を調整する方法などが挙げられる。上記の方法は、1つを単独で用いてもよく、2つ以上を組み合わせて用いてもよい。
【0073】
次に、脂肪族化合物抽出分離槽1において、重力沈降分離により、脂肪族化合物の炭化水素溶媒への可溶分及び炭化水素溶媒の混合物と、脂肪族化合物の炭化水素溶媒への不溶分(残渣)とを分離する。前記可溶分及び炭化水素溶媒の混合物は、脂肪族化合物抽出分離槽1の頂部に連結されたラインL4を通って溶媒分離槽2に移送される。
【0074】
脂肪族化合物抽出分離槽1の底部にはバルブV3を有するラインL5が連結されており、ラインL5の他端は回収容器15に導かれている。脂肪族化合物抽出分離槽1で分離された前記不溶分は、ラインL5を通って回収容器15に移送される。なお、前記不溶分を回収する際に、少量の炭化水素溶媒がともに回収され得るが、回収容器15から炭化水素溶媒を回収して再利用してもよい。
【0075】
脂肪族化合物の炭化水素溶媒への可溶分及び炭化水素溶媒の混合物は、溶媒分離槽2において、重力沈降分離により、脂肪族化合物(精製脂肪族化合物)と炭化水素溶媒とに更に分離される。この分離操作は、炭化水素溶媒の臨界温度以上で温度及び/又は圧力を調整して、炭化水素溶媒への脂肪族化合物の溶解度が実質的にゼロとなるようにする操作である。この分離操作は、相変化を伴わない重力沈降分離操作であるため、蒸発潜熱が不要であり、顕熱回収が可能であるため、省エネルギーの点で有用である。溶解度を低下させる方法としては、バルブV2の調整により溶媒分離槽2内の圧力を脂肪族化合物抽出分離槽1の圧力よりも低圧にする方法、ラインL4に加熱装置を設け、溶媒分離槽2内の温度を脂肪族化合物抽出分離槽1内の温度よりも高温にする方法などが挙げられる。溶媒分離槽2の圧力を多少低圧にするとともに、溶媒分離槽2内の温度を多少高温にしてもよい。なお、ラインL4に設ける加熱装置としては、例えば熱交換器を挙げることができる。この場合には、ラインL2を熱交換器に導き、溶媒分離槽2からの炭化水素溶媒を熱源として利用してもよい。
【0076】
溶媒分離槽2の底部にはバルブV4を有するラインL6が連結されており、ラインL6の他端は回収容器16に導かれている。溶媒分離槽2で分離された精製脂肪族化合物は、溶媒分離槽2の底部に連結されたラインL6を通って回収容器16に移送される。なお、精製脂肪族化合物は少量の炭化水素溶媒とともに回収され得るが、回収容器16から炭化水素溶媒を回収して再利用してもよい。一方、分離された炭化水素溶媒は、溶媒分離槽2の頂部に連結されたラインL2を通ってラインL1に移送される。
【0077】
精製脂肪族化合物は、回収容器16からラインL7を通って水素化処理反応器3に移送される。ラインL7には、上流側から、バルブV5、水素導入ラインL8及び加熱装置17が設けられており、ラインL7の他端は水素化処理反応器3の頂部に導かれている。これにより、精製脂肪族化合物を、ラインL8からの水素と混合し、加熱装置17により所定温度に加熱した後、水素化処理反応器3に供給して、触媒による水素化処理を行うことができる。
【0078】
また、ラインL7には分岐ラインL9が設けられている。分岐ラインL9の一端はラインL7のバルブV5の上流側に、他端はラインL7のバルブV5と水素導入ラインL8の連結部との間に、それぞれ連結している。さらに、分岐ラインL9には、上流側から、バルブV6及び中間タンク18がこの順序で設けられている。バルブV5を開き、バルブV6を閉じて運転すると、精製脂肪族化合物はラインL6を通って水素化処理反応器3に連続的に供給される。一方、バルブV5を閉じ、バルブV6を開いて装置を運転すると、水素化処理の原料である精製脂肪族化合物が中間タンク20に一時的に貯留することができ、水素化処理工程への精製脂肪族化合物の供給を安定化させることができる。
【0079】
水素化処理反応器3の底部にはラインL10が連結されており、水素化処理によって生成した炭化水素燃料は、ラインL10から回収される。
【0080】
なお、本発明は上記の実施形態に限定されるものではない。例えば、上記の実施形態では、図1に示す製造装置を用いて第1の工程及び第2の工程を連続的に行う例について説明したが、これらの工程は連続的に行わなくともよい。
【0081】
また、回収容器16を設けず、ラインL6とL7とを直接接続してもよい。
【0082】
また、水素化処理反応器3は、脂肪族化合物抽出分離槽1及び溶媒分離槽2とは異なる立地であってもよく、第1の工程と第2の工程との間に輸送工程を有していてもよい。その場合、中間タンク18を原料(受入れ)タンクとして利用することができる。
【実施例】
【0083】
以下、実施例に基づき本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0084】
(培養)
ユーグレナの培養を成書「ユーグレナ 生理と生化学」、学会出版センター(1989)付録の記載の方法に従って実施した。E.Gracilis Z株を用いて面積1.2m2のプールを利用して、Cramer−Myers培地の下で、屋外で太陽光により7日間培養を行った。その後、同書114ページの記載に従って丸1日嫌気処理を行い、更にこれを150℃で乾燥することによりユーグレナの乾燥粉体を得た。同じ操作を繰り返すことにより、嫌気処理済みのユーグレナ乾燥粉体を1700g回収した。
【0085】
(溶剤抽出)
藻類からの脂肪族化合物の抽出に最も幅広く使用されているヘキサンを溶媒として使用して抽出を行なった。容量20Lのフラスコに1650gの上記乾燥粉体とヘキサン10Lを仕込み、得られた懸濁液を常圧下、55℃で1時間加熱・撹拌した後に、濾過することによりヘキサン溶液を回収した。
このヘキサン溶液から、エバポレータを用いて(湯浴温度50℃)ヘキサンを留去することによって、藻体からの抽出物を乾燥藻体に対して27.5質量%の割合で得た。この抽出物をGC−MS法及びNMR法により分析し、この抽出物がミリスチン酸ミリスチルを主成分とするワックスエステルであることを確認した。またこの抽出物中に含まれる酸素原子の含有量は8.1質量%であった。
この抽出物の55℃におけるヘキサンへの溶解度を別途測定した結果、ヘキサン100g当たり42gであった。すなわち、この溶解度の下で、上記の溶剤抽出を実施したことになる。以下この抽出物をヘキサン抽出油と呼ぶ。
【0086】
(プロパンへの溶解度測定及びプロパン抽出)
内容積1Lの圧力容器を用いて、各条件において上記ヘキサン抽出油のプロパンへの溶解度の測定及び上記ヘキサン抽出油のプロパンによる抽出を実施した。
上記測定及び抽出においては、所定温度に制御された容器内にヘキサン溶剤油を仕込み、そこにプロパンを供給し、圧力を6MPaの状態で1h保持し、ヘキサン抽出油をプロパンに溶解させた(プロパン抽出)。その後、ヘキサン抽出油の一部が溶解した状態のプロパンを全量容器から抜き出した。各温度において、プロパンを抜き出した後の圧力容器中にはヘキサン抽出油が残留していたので、圧力容器から抜き出されたのは各温度における飽和濃度のヘキサン抽出油を溶解したプロパンであると判断した。
この飽和濃度のヘキサン抽出油が溶解したプロパンからプロパンを揮発させ、溶解していたヘキサン抽出油を回収して秤量し、プロパン100gに対する質量として、当該温度におけるヘキサン抽出油の溶解度を算出した。
また、各温度において、上記プロパン抽出においてプロパンに不溶であり、プロパン排出後に圧力容器中に残留していたヘキサン抽出油に新たにプロパンを添加して、ヘキサン抽出油のプロパン抽出及びプロパン可溶分の回収を上記と同様にして行なった。そして、プロパン抽出により回収されたヘキサン抽出油の合計の質量の圧力容器に仕込んだヘキサン抽出油の質量に対する割合(回収率)が90%以上となるまでこの操作を繰り返し実施した。
各温度における、ヘキサン抽出油のプロパンに対する溶解度の測定結果を表2に示す。表2に示した結果から、温度が110℃から120℃の間で大きく溶解度が変化することが分かる。
【0087】
【表2】

【0088】
(水素化脱酸素触媒の調製)
濃度5質量%のアルミン酸ナトリウム水溶液3000gに水ガラス3号18.0gを加え、65℃に保温した容器に入れた。他方、65℃に保温した別の容器において濃度2.5質量%の硫酸アルミニウム水溶液3000gにリン酸(濃度85%)6.0gを加えた溶液を調製し、これに前述のアルミン酸ナトリウムを含む水溶液を滴下した。混合溶液のpHが7.0になる時点を終点として滴下を終了し、得られたスラリー状の生成物をフィルターに通して濾取し、ケーキ状のスラリーを得た。
このケーキ状のスラリーを還流冷却器を取り付けた容器に移し、蒸留水150mlと27%アンモニア水溶液10gを加え、75℃で20時間加熱・攪拌した。該スラリーを混練装置に入れ、80℃以上に加熱し水分を除去しながら混練し、粘土状の混練物を得た。得られた混練物を押出成形機によって直径約1.5mmの円筒状の形状に押し出して長さ約3mmに切断し、110℃で1時間乾燥した後550℃で焼成し、成形担体を得た。
得られた成形担体50gをナス型フラスコに入れ、ロータリーエバポレーターで脱気しながら三酸化モリブデン17.3g、硝酸ニッケル(II)6水和物13.2g、リン酸(濃度85%)3.9g及びリンゴ酸4.0gを含む含浸水溶液をフラスコ内に注入して含浸を行なった。含浸した試料は120℃で1時間乾燥した後、550℃で焼成し、触媒を得た。触媒の物性を表3に示す。
【0089】
【表3】

【0090】
[比較例1]
上記触媒(10ml)を充填した反応管を固定床流通式反応装置に向流に取り付けた。その後、ジメチルジサルファイドを加えた直留軽油(硫黄分3質量%)を用いて触媒層平均温度300℃、水素分圧6MPa、液空間速度1h−1、水素/油比200NL/L(「NL」は0℃、大気圧における水素ガスの容積)の条件下で、4時間触媒の予備硫化を行った。
予備硫化後、前出のヘキサン抽出油(プロパン抽出を行なっていない)を原料油として水素化脱酸素処理を行った。なおその際、原料油に対する硫黄分含有量(硫黄原子換算)が10質量ppmになるようにジメチルサルファイドを原料油に添加した。処理の条件は、水素圧力を6.0MPa、液空間速度を1.0h−1、水素/油比を510NL/Lとした。また、処理温度は生成油中の酸素原子の含有量が燃料油品質を確保するために必要な0.5質量%以下となるよう調整し、予備検討の結果を基に処理開始時には280℃とした。その後触媒の劣化(活性低下)が著しいため、前記生成油中の酸素原子の含有量を維持するために、処理温度を経時的に大きな幅で上げざるを得なかった。触媒の劣化速度を、生成油中の酸素原子の含有量を0.5質量%以下に維持するために必要な1日当りの反応温度の上昇幅を指標(「触媒劣化速度指標」という。)として表すと、11.2℃/日となった。
【0091】
(比較例2)
比較例1のヘキサン抽出油に代えて、前出の表1に示した、圧力6MPaの下でのヘキサン抽出油のプロパンへの溶解度が、プロパン100g当たり26.2gとなる条件(温度110℃)で、回収率が90%以上となるまでプロパン抽出を繰り返して得られたプロパン可溶分を用いたこと以外は、比較例1と同様の操作により水素化脱酸素処理を行った。比較例1と同様に触媒の劣化が著しく、触媒劣化速度指標は10.4℃/日となった。
【0092】
(実施例1)
比較例1のヘキサン抽出油に代えて、前出の表1に示した、圧力6MPaの下でのヘキサン抽出油のプロパンへの溶解度が、プロパン100g当たり13.7gとなる条件(温度111℃)で、回収率が90%以上となるまでプロパン抽出を繰り返して得られたプロパン可溶分を用いたこと以外は、比較例1と同様の操作により水素化脱酸素処理を行った。比較例1及び比較例2に比べて触媒劣化が緩和され、触媒劣化速度指標は0.7℃/日となった。
【0093】
(実施例2)
比較例1のヘキサン抽出油に代えて、前出の表1に示した、圧力6MPaの下でのヘキサン抽出油のプロパンへの溶解度が、プロパン100g当たり8.0gとなる条件(温度112℃)で、回収率が90%以上となるまでプロパン抽出を繰り返して得られたプロパン可溶分を用いたこと以外は比較例1と同様の操作を行った。触媒劣化がさらに緩和され、触媒劣化速度指標は0.5℃/日となった。
【0094】
(実施例3)
比較例1のヘキサン抽出油に代えて、前出の表1に示した、圧力6MPaの下でのヘキサン抽出油のプロパンへの溶解度が、プロパン100g当たり5.5gとなる条件(温度114℃)で、回収率が90%以上となるまでプロパン抽出を繰り返して得られたプロパン可溶分を用いたこと以外は、比較例1と同様の操作により水素化脱酸素処理を行った。触媒劣化が一層緩和され、触媒劣化速度指標は0.3℃/日となった。
【0095】
以上の比較例と実施例の結果をまとめて表4に示す。また、表4には、水素化脱酸素処理に供したヘキサン抽出油及びそれぞれの条件でプロパン抽出を行なって得られたプロパン可溶分中の不純物濃度を併せて示した。表4に示した結果から、本発明の方法によれば触媒劣化速度指標が大幅に改善され、藻類によって産生された脂肪族化合物から高品質の燃料を商業的に安定して製造することができることが分かる。
【0096】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明によれば、藻類によって産生された脂肪族化合物から高品質の炭化水素燃料を商業的に安定して製造することが可能となる。したがって、本発明は、バイオマス原料から炭化水素燃料を製造する上で非常に有用である。
【符号の説明】
【0098】
1・・・脂肪族化合物抽出分離槽、2・・・溶媒分離槽、3・・・水素化処理反応器、11・・・ポンプ、12・・・混合装置、13、17・・・加熱装置、14・・・圧力/流量調整装置、15、16・・・回収容器、18・・・中間タンク、L1〜L10・・・ライン、V1〜V5・・・バルブ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
藻類によって産生された脂肪族化合物と、超臨界状態にある臨界温度が90℃以上の炭化水素溶媒とを含有する混合物を、前記炭化水素溶媒100gに対する前記脂肪族化合物の溶解度が15g以下となるように、温度及び圧力を調整して保持した後、前記脂肪族化合物の前記炭化水素溶媒への可溶分を回収する第1の工程と、
前記第1の工程で回収された可溶分を、触媒を用いて水素化処理する第2の工程と、
を備える炭化水素燃料の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−184356(P2012−184356A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−49282(P2011−49282)
【出願日】平成23年3月7日(2011.3.7)
【出願人】(000004444)JX日鉱日石エネルギー株式会社 (1,898)
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【Fターム(参考)】