説明

炭化水素系洗浄液組成物

【課題】フラックス、ワックス、加工油などが複合して付着した汚れに対して十分な洗浄特性を有する洗浄液組成物を提供する。
【解決手段】本発明による炭化水素系洗浄液組成物は、直鎖飽和脂肪族炭化水素を50〜90重量%、一価アルコールを3〜40重量%、および、酢酸エステルを7〜40重量%含有する炭化水素系洗浄液組成物であって、前記一価アルコールの炭素数が5〜10であり、前記酢酸エステルが分子内にエーテル結合を有し、かつ、その炭素数が5〜10であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気・電子部品、光学部品、自動車部品、精密機械部品などの部品に付着したフラックス、ワックス、加工油などの、特には、これらが複合して付着した汚れを洗浄するための洗浄液組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、フラックス、ワックス、加工油、植物油などが付着した精密部品の洗浄には、トリフロロトリクロロエタンなどのフロン系溶剤あるいは1,1,1−トリクロロエタン、トリクロロエチレン、塩化メチレンなどの塩素系溶剤が洗浄液として使用されてきた。しかし、トリフロロトリクロロエタンや1,1,1−トリクロロエタンはオゾン層を破壊する物質として、1995年末にその製造が禁止された。また、トリクロロエチレンや塩化メチレンは毒性が強く、放出された場合に大気汚染・水質汚染を引き起こすため、その法規制が厳しい。
【0003】
また、界面活性剤や無機アルカリを添加した水系洗浄剤、リン酸塩類等の水溶液系洗浄剤の利用も検討されるが、洗浄力が乏しく、かつ排水処理設備に大きなスペースを必要するため経済性の面から好ましくなく、洗浄力も乏しい。炭化水素のみからなる洗浄剤も検討されているが、加工油などの鉱物油に対する洗浄力はあるものの、ワックス、ピッチ、フラックスなどの汚れに対する洗浄力は十分でない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、このような課題を解決するもので、オゾン層破壊等の環境上の問題がなく、フラックス、ワックス、加工油などが複合して付着した汚れに対して十分な洗浄特性を有する洗浄液組成物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明による炭化水素系洗浄液組成物は、直鎖飽和脂肪族炭化水素を50〜90重量%、一価アルコールを3〜40重量%、および、酢酸エステルを7〜40重量%含有する。直鎖飽和脂肪族炭化水素の炭素数が9〜12であること、一価アルコールの炭素数が5〜10であること、また、酢酸エステルが分子内にエーテル結合を有し、かつ、その炭素数が5〜10であることが好ましい。
【発明の効果】
【0006】
本発明による炭化水素系洗浄液組成物は、飽和脂肪族炭化水素を50〜90重量%、一価アルコールを3〜40重量%、および、酢酸エステルを7〜40重量%含有するものであり、電子・電気部品、光学部品、精密機械部品などの精密部品の洗浄に優れた性能を有し、かつ、オゾン層破壊等の環境上の問題も生じない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の炭化水素系洗浄液組成物は、直鎖飽和脂肪族炭化水素化合物を50〜90重量%含有するものであり、60〜85重量%であることが好ましい。直鎖飽和脂肪族炭化水素は炭素数9〜12、特には炭素数10および/または11が、特には、ノルマルデカンまたはノルマルウンデカンの一方が好ましく用いられる。脂肪族炭化水素の具体例としては、直鎖のノナン、デカン、ウンデカン、ドデカンなどが挙げられる。
【0008】
本発明の炭化水素系洗浄液組成物は、一価アルコールを3〜40重量%含有するものであり、5〜25重量%であることが好ましい。一価アルコールとしては、脂肪族炭化水素の水素元素の一つをヒドロキシル基で置換した化合物や、ジアルキルエーテルの水素元素の一つをヒドロキシル基で置換した化合物が好ましく用いられる。一価アルコールの炭素数は、5〜10、特には6〜8が好ましい。脂肪族炭化水素の水素元素の一つをヒドロキシル基で置換した化合物としては、直鎖および分岐鎖の炭素数5〜10、特には6〜8のアルコールが好ましく用いられる。脂肪族炭化水素の水素元素の一つをヒドロキシル基で置換した化合物としては、2−エチルヘキシルアルコール、n−オクタノールが好ましく用いられる。
【0009】
ジアルキルエーテルの水素元素の一つをヒドロキシル基で置換した化合物としては、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ブチレングリコールモノメチルエーテル、ブチレングリコールモノエチルエーテルが挙げられる。入手の容易性、引火点の高さからプロピレングリコールモノメチルエーテルの一種である3−メチル−3−メトキシブチルアルコールが好ましく用いられる。
【0010】
本発明の炭化水素系洗浄液組成物は、酢酸エステルを7〜40重量%含有するものであり、10〜30重量%であることが好ましい。酢酸エステルとしては、ヒドロキシル基を有する脂肪族炭化水素誘導体と酢酸とのエステル、特には、ジアルキルエーテルの水素元素の一つをヒドロキシル基で置換したアルコールと酢酸とのエステルが好ましく用いられる。酢酸エステルの炭素数は5〜10、特には6〜8が好ましい。
【0011】
酢酸エステルとしては、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、プロピレングリコールジアセテート、ブチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ブチレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、ブチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、トリエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、トリエチレングリコールモノメチルエーテルアセテートが挙げられる。入手の容易性、引火点の高さから、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートの一種である3−メチル−3−メトキシブチルアセテートが好ましく用いられる。
【0012】
本発明の洗浄液組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で、他の炭化水素類、エステル類、アルコール類、ケトン類、ラクタム類などの配合成分や、界面活性剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、防錆剤などの慣用の添加剤を含めることができる。本発明で特定される3つの成分以外の含有量は、合計で10重量%未満、特には2重量%未満であることが好ましい。また、通常、水は配合されないことが好ましい。
【0013】
界面活性剤としては非イオン性界面活性剤が好ましく、例えば高級アルコールエチレンオキサイド付加物、アルキルフェノールエチレンオキサイド付加物、脂肪酸エチレンオキサイド付加物、高級アルキルアミンエチレンオキサイド付加物、ソルビトールおよびソルビタンの脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、シリコン系、フッ素系などいずれのものも使用できる。
【0014】
また、紫外線吸収剤および酸化防止剤としては、洗浄液の長期保存などにおける安定性の向上に役立ち、紫外線吸収剤としては例えばベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、ヒンダードアミン系などを使用でき、酸化防止剤としては例えばフェノール系、アミン系、硫黄系、リン系など、本発明の洗浄液組成物に溶解するものはいずれも使用できる。フェノール系酸化防止剤を、50〜1000ppm添加することが特に好ましい。
【0015】
本発明の洗浄方法において、洗浄液組成物と接触させる方法は特に制限されるものでなく、公知のいずれの方法も使用できる。例えば、洗浄液組成物を含浸したスポンジなどによる拭き取り、洗浄液組成物への浸漬、スプレーなどにより接触させることが好ましい。浸漬による洗浄においては、洗浄効果を高めるために、同時に攪拌、揺動、超音波、エアバブリングなどを組み合わせることが更に好ましい。この場合、超音波の使用条件は、例えば発振周波数:20〜100kHz、洗浄液1L当りの発振出力:10〜200Wが好ましい。エアバブリングでは、微細な気泡を、好ましくはガス:洗浄液の体積比を1:1〜5:1で通気することにより、洗浄液組成物に溶解しない汚れを気泡と共に上昇させ、分離できる。スプレーによる洗浄において、その圧力は、例えば0.5〜10kg/cm2Gが好ましい。いずれの場合も洗浄時間は、15秒間〜2時間、特には30秒間〜20分間が好ましい。この範囲未満では洗浄が不十分で、汚れを十分に除去できない。一方、この範囲を超えても洗浄効果は格別に向上しない。洗浄温度は、20〜120℃が好ましく、60〜120℃で処理することにより洗浄効果を著しく上昇させることができる。
【0016】
洗浄対象物としては、電子・電気部品、光学部品、精密機械部品、自動車部品などの部品を例示することができる。対象となる電気・電子部品としては、プリント配線基板、セラミック配線基板などの配線基板、リードフレームなどの半導体パッケージ部材、リレー、コネクターなどの接点部材、液晶、プラズマディスプレイなどの表示部品、ハードディスク記憶媒体、磁気ヘッドなどの磁気記憶部品、水晶振動子などの圧電部品、モータ、ソレノイドなどの電動機部品、センサー部品があげられる。光学部品としては、めがね、カメラ用などのレンズ、その筐体があげられる。精密機械部品としては、VTRなどに用いられる精密ベアリングなどの部品があげられる。
【0017】
洗浄対象物に付着している汚れとしては、アスファルトピッチ、ワックス、松脂、油脂、鉱油などからなる機械油、植物油、グリース、フラックス、フォトレジスト、接着剤などがあげられる。本発明の洗浄液組成物は、特に、フラックス、ワックスに対して優れた洗浄力を有する。
【実施例】
【0018】
以下、本発明を実施例、比較例により更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例により限定して解釈されるものではない。
【0019】
[洗浄液の調製]
ノルマルデカン、ノルマルウンデカン、2−エチルヘキシルアルコール、3−メトキシ−3−メチルブタノール、2−n−ブトキシエチルアセテート(エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート)および3−メトキシ−3−メチルブチルアセテートを用い、表1の配合量で配合して、実施例1〜4と比較例1〜3の洗浄液を調製した。
【0020】
【表1】

【0021】
[フラクッス洗浄性の評価]
フラクッス洗浄性の評価では、金属試料(銅板5×10mm、厚さ0.7mm)上の1.5×5mmの領域にロジン系フラックス入りハンダペースト(弘輝製、JTSX−48−A228)50mgを塗布し、250℃で30秒間リフローした後に金属試料上に付着したフラックスを洗浄対象物とした。この洗浄対象物を200cm3の洗浄液が充填された洗浄槽において液温20℃で超音波照射下に2分間洗浄を行った。洗浄槽から取りだした洗浄対象物を、10分間立てて静置後、温風乾燥機で洗浄液を蒸散除去し乾燥した。洗浄後に、肉眼によりフラックスの痕跡が全く認められないものを〇、微かにでも痕跡のあるものを×として評価し、表1に併せて示した。この結果から、実施例1〜4は高いフラックス洗浄性を示すことがわかる。
【0022】
[ワックス洗浄性の評価]
ワックス洗浄性の評価では、天然樹脂、石油アスファルト、天然ワックスを成分とするワックス(日化精工製アルコワックス542M)0.1gをガラス板(20×70mm、厚さ1.5mm)上に置き、70℃にて30分間溶融、その後室温まで放冷したものものを洗浄対象物として用いた。この洗浄対象物を200cm3の洗浄液が充填された洗浄槽において液温20℃で超音波照射下に4分間洗浄を行った。洗浄槽から取りだした洗浄対象物を、10分間立てて静置後、温風乾燥機で洗浄液を蒸散除去し乾燥した。洗浄後、肉眼によりワックスの痕跡が全く認められないものを〇、痕跡のあるものを×として評価し、表1に併せて示した。この結果から、実施例1〜4は高いワックス洗浄性を示すことがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直鎖飽和脂肪族炭化水素を50〜90重量%、一価アルコールを3〜40重量%、および、酢酸エステルを7〜40重量%含有する炭化水素系洗浄液組成物であって、
前記一価アルコールの炭素数が5〜10であり、
前記酢酸エステルが分子内にエーテル結合を有し、かつ、その炭素数が5〜10であることを特徴とする炭化水素系洗浄液組成物。
【請求項2】
前記直鎖飽和脂肪族炭化水素を60〜85重量%、前記一価アルコールを5〜25重量%、および、前記酢酸エステルを10〜30重量%含有することを特徴とする請求項1に記載の炭化水素系洗浄液組成物。

【公開番号】特開2007−217705(P2007−217705A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−94047(P2007−94047)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【分割の表示】特願2001−376669(P2001−376669)の分割
【原出願日】平成13年12月11日(2001.12.11)
【出願人】(304003860)株式会社ジャパンエナジー (344)
【Fターム(参考)】