説明

炭素材料の製造方法

【課題】新規な炭素材料を製造することができる方法を提供する。
【解決手段】超臨界状態のアルゴン、二酸化炭素または窒素を雰囲気流体とする密閉容器内に炭素源となる原料化合物を供給しつつ、前記密閉容器内に設けられた2つの電極に電圧を印加することで前記2つの電極間に生起させた放電プラズマによって前記原料化合物を分解し、前記2つの電極のうちの少なくとも一方の電極上に膜状の炭素材料を形成する炭素材料の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は炭素材料の製造方法および新規な構造を有する炭素材料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、プラズマCVD (Chemical Vapor Deposition)法を始めとする様々な方法により炭素系モノマを放電分解してアモルファスカーボン薄膜やダイヤモンド状カーボン薄膜の作製が盛んに行われている(例えば、特許文献1〜3、非特許文献1,2)。薄膜を作製するうえで重要となる点は、いかに最適な析出パラメータ(ガス圧力、ガス流量、電力、基板温度、放電周波数や放電形式など)を選ぶかである。アモルファスカーボン薄膜の作製においては、原料としてメタンなどの炭化水素が広く用いられ、それらの炭化水素分子をプラズマ中で分解すると硬質のアモルファスカーボン膜が作製されることが知られている。しかし、メタンなどの炭化水素を含むプラズマ中での微粒子生成については、炭素同士が立体的にも平面的(あるいは鎖状)にも結び付く可能性があるため成長条件のわずかな変化で構造が変わり、成長過程の解析も容易ではない。そのため、ダイヤモンド薄膜作製においてはメタンに代わってアセトンやアルコールなどの有機化合物を原料とした成膜がなされている。このプロセスは低電力であり、堆積速度が向上することが報告されている。これは原料の違いによる解離、電離および膜生成過程の相違に基づくものだと考えられている。
【0003】
上記のような種々の方法にて製造される炭素材料は、電気・電子・磁気分野、エネルギー分野、表面改質分野(耐摩耗性)、プローブ・センサ分野、医療・診断分野など、広汎な分野への応用が将来へ向け期待されており、より優れた物性を持つ炭素材料の開発が強く望まれている。
一方で、上記の製造方法では、炭素源となる原料化合物が、芳香族環などを含む難分解性化合物である場合などは成膜が困難であるなどの問題が報告されている。
【0004】
一方、近年、超臨界流体を溶媒として用いた炭素材料の合成が注目されている(例えば、非特許文献3)。この方法では、難分解性化合物を炭素源として使用できるが、触媒を用い、非常に高温・高圧な雰囲気(例えば、1000℃、1000MPa)において長時間のプロセスが必要となる。また、使用した触媒が、生成する炭素材料へ不純物として残留するという問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−12705号公報
【特許文献2】特開2008−29132号公報
【特許文献3】特開2006−28983号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Y. Hatashi, J. Plasma Fusion Res., 78(4), 320-324 (2002)
【非特許文献2】M. Motiei, Y. R. Hacoher, J. C. Moreno, and A. J. Gedanken, J. Am. Chem. Soc., 123(35), 8624-8625 (2001)
【非特許文献3】T. Ito, K. Katahira, Y. Shimizu, T. Sasaki, N. Koshizaki, and K. Terashima, J. Mater. Chem., 14, 1513-1515 (2004)
【発明の概要】
【0007】
かかる状況下、本発明は、広汎な分野への応用が期待できる新規な炭素材料の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等はこれまで超臨界流体および亜臨界流体におけるナノパルス放電技術を利用したナノパルス放電プラズマの研究を行ってきた。その知見を基に創意工夫した結果、特定の超臨界状態の流体中にて、炭素源となる原料化合物を原料としてプラズマ放電を行うことにより、無触媒で新規な炭素材料が合成可能であることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の発明に係るものである。
<1> 超臨界状態のアルゴン、二酸化炭素または窒素を雰囲気流体とする密閉容器内に炭素源となる原料化合物を供給しつつ、前記密閉容器内に設けられた2つの電極に電圧を印加することで前記2つの電極間に生起させた放電プラズマによって前記原料化合物を分解し、前記2つの電極のうちの少なくとも一方の電極上に膜状の炭素材料を形成する炭素材料の製造方法。
<2> 超臨界状態のアルゴンを雰囲気流体とする請求項1記載の炭素材料の製造方法。
<3> 前記原料化合物が、芳香族化合物である前記<1>または<2>に記載の炭素材料の製造方法。
<4> 前記原料化合物が、フェノールまたはアニリンである前記<3>記載の炭素材料の製造方法。
<5> 前記電極が、不平等電極である前記<1>から<4>のいずれかに記載の炭素材料の製造方法。
<6> 電極間距離が、0.1〜10mmである前記<1>から<5>のいずれかに記載の炭素材料の製造方法。
<7> ナノパルス発生電源を用いて電圧を印加することによって、放電をナノパルス放電により行うナノパルス発生電源前記<1>から<6>のいずれかに記載の炭素材料の製造方法。
<8> 形成されるプラズマが、熱平衡プラズマである前記<1>から<7>のいずれかに記載の炭素材料の製造方法。
<9> 前記<1>から<8>のいずれかに記載の方法にて製造され、アモルファス構造を有する炭素を含有する膜状の炭素材料。
<10> 回折面としてグラファイト002面およびグラファイト100面を有する炭素を含有する前記<9>記載の炭素材料。
【発明の効果】
【0010】
本発明の製造方法によると、アモルファス構造を有する炭素を含有した新規な炭素材料を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係る炭素材料を製造する際の装置構成を示す図である。
【図2】実施例1の炭素材料のSEM画像(500倍)である。
【図3】実施例1の炭素材料のSEM画像(3000倍)である。
【図4】実施例1の炭素材料のSEM画像(10000倍)である。
【図5】実施例1の炭素材料のラマンスペクトルである。
【図6】実施例1の炭素材料のUVスペクトルである。
【図7】実施例1の炭素材料のX線回折パターンである。
【図8】実施例2の炭素材料のSEM画像(500倍)である。
【図9】実施例2の炭素材料のSEM画像(3000倍)である。
【図10】(a)は、実施例2の炭素材料のSEM画像(10000倍)であり、(b)は(a)に対応するEDXの結果である。
【図11】実施例2の炭素材料のラマンスペクトルである。
【図12】実施例2の炭素材料のXRF測定の結果である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明につき詳細に説明する。
本発明は、先ず、超臨界状態のアルゴン、二酸化炭素または窒素を雰囲気流体とする密閉容器内に炭素源となる原料化合物(以下、単に「原料化合物」と称す場合がある。)を供給しつつ、前記密閉容器内に設けられた2つの電極に電圧を印加することで前記2つの電極間に生起させた放電プラズマによって前記原料化合物を分解し、前記2つの電極のうちの少なくとも一方の電極上に膜状の炭素材料を形成することを特徴とする炭素材料の製造方法に関するものである。
【0013】
本発明の製造方法の特徴の一つは、超臨界状態のアルゴン、二酸化炭素または窒素を雰囲気流体とした密閉容器に、原料化合物を供給しつつ、前記密閉容器内に設けられた2つの電極に電圧を印加することで、前記電極間に生起させた放電プラズマ(好適には、ナノパルス放電プラズマ)によって超臨界状態のアルゴン、二酸化炭素または窒素中に溶解した炭素源となる原料化合物を分解することにあり、このことによってアモルファス構造の炭素を含む炭素材料を、前記2つの電極うちの少なくとも一方の電極上に生成することができる。
ここで、「超臨界状態」とは、気相と液相両者の密度が等しくなり区別がつかなくなる点(臨界点)を超えた温度・圧力下にある状態をいい、液体的な性質と気体的な性質をもった高密度流体と言うことができる。アルゴンの場合には、臨界温度が150.75K、臨界圧力が4.87MPaである。また、二酸化炭素の場合には、臨界温度が304.1K、臨界圧力が7.38MPaであり、窒素の場合には、臨界温度が126.2K、臨界圧力が3.39MPaである。
この中でも、超臨界状態のアルゴンを雰囲気流体とすることが好ましい。超臨界状態のアルゴンを雰囲気流体とすると絶縁耐力が低いため、放電しやすいという利点があり、本発明の製造方法に好適である。
【0014】
本発明の製造方法における原料化合物としては、炭素を含む化合物であればよいが、より良質な膜状炭素材料を形成するには芳香族化合物が好適である。具体的には、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの非縮合芳香族炭化水素、ナフタレン、アントラセンなどの縮合多環式芳香族炭化水素、フェノール、アニリン、ピロール、ピリジンなどの複素環芳香族化合物、インドール、キノリンなどの縮合複素環芳香族化合物などを挙げることができる。この中でも、入手容易性の観点からは、フェノール、アニリンが好適である。
【0015】
本発明の製造方法で使用する製造装置は、超臨界状態のアルゴン、二酸化炭素または窒素を形成できる温度および圧力に設定可能な密閉容器(チャンバー)を有し、その密閉容器に原料化合物を供給する原料供給手段と、その内部に対向して配置される2つの電極と、該2つの電極間に電圧を印加する電源と、を備えるものであればよく、特に限定されない。市販の超臨界水プラズマ生成装置を転用してもよい。製造装置の好適な具体例の一つとしては、超臨界水プラズマ生成装置(株式会社AKICO製)を挙げることができる。
【0016】
なお、電極間に電圧を印加する電源として高周波電源や直流電流電源を用いることができるが、ナノパルス放電技術にて使用されるナノパルス発生電源が好ましい。ナノパルス発生電源を用いて電圧を印加することによって、放電をナノパルス放電により行うことにより、急峻な立ち上がりの大電力を小さなエネルギーで投入できるため、超臨界流体のような高圧・高密度雰囲気中で比較的、容易に(大容量)放電プラズマを生起できるという利点がある。
このナノパルス発生電源として、具体的には、磁気パルス圧縮方式電源(MPC電源)もしくはブルームラインパルス形成ネットワーク電源(BPFN電源)を電力供給の電源として用いることができる。
【0017】
本発明の製造方法において、放電プラズマとしては、アークプラズマ等の熱平衡プラズマ、グロープラズマ等の非平衡プラズマのいずれでもよいが、高効率に本発明の炭素材料を製造するためには、熱平衡プラズマが好ましい。
【0018】
本発明の製造方法において、前記電極を構成する材料は、超臨界状態の雰囲気流体中で電圧を印加しても安定な材料が使用される。具体的には、鉄、クロム、ニッケル、マンガンなどの金属やステンレスに代表されるこれらの合金、タングステンなどが挙げられるが、これに限定されるものではない。なお、生成する炭素材料への不純物の混入を避ける観点から、高純度の電極材料を使用することが望ましい。
【0019】
本発明の製造方法において、2つの電極が、それぞれ同一の金属(若しくはその合金)であっても、異なる金属(若しくはその合金)であってもよい。また、電極の形状には特に制限はないが、高効率に炭素を析出させるためには、平板状であることが好ましい。
なお、上記2つの電極が、不平等電極であることが好ましい。ここで、「不平等電極」とは、一方の電極に電解が集中しやすい電極配置であり、また電極の大きさが、もう一方の電極の大きさより小さい組み合わせであるものをいい、不平等電極を用いることで、超臨界流体のような高密度流体中でも容易にナノパルス放電プラズマを形成しやすいという利点がある。具体的には一方の平板状電極とし、もう一方の電極を針状電極とすることができる。
【0020】
以下、図1に示す本発明の製造方法に好適な炭素材料製造装置の模式図に基づいて説明するが、本発明の製造方法はこれに限定されるものではない。
炭素材料製造装置1は、密閉性のある反応容器2と、反応容器2内にそれぞれが対向するように配置された電極2aおよび電極2bと、反応容器2を加熱するためのヒータ3と、電極2aおよび平板電極2bの間に電圧を印加する電源4と、反応容器2内に超臨界流体となるガスを供給するガス供給手段5と、を主要部として構成される。
【0021】
反応容器2はステンレス製で、中央のサファイアガラス製の窓(図示せず)から中の電極を観察することができる。反応容器2の設計圧力は29.5MPa、設計温度は300℃であり、超臨界状態のアルゴン、二酸化炭素または窒素を雰囲気流体とすることができる。
なお、高電圧流入のためのブッシング(図示せず)には耐熱性を有するPEEK(Poly ether ether ketene)樹脂(融点:334℃、連続仕様温度:250℃)を使用し、その内側に二重のOリングを設けて気密性を高めた仕様となっている。反応器両端には冷却ユニットがあり、PEEK樹脂を反応器内部温度の急激な温度上昇から保護している。
【0022】
電極2aは、直径1mm、長さ40mmのタングステン製の針状電極であり、電極2bの直径20mm、厚さ5mmのステンレス製の平板状電極であり、電極2aと電極2bとは対面配置されている。
【0023】
ヒータ3は、反応容器2を加熱するために使用されるものであり、公知の電気炉が使用される。
【0024】
上記2つの電極は、高密度のアルゴン、二酸化炭素または窒素分子からなる超臨界流体で満たされた密閉容器内に設置されることになるため、プラズマ放電を可能とするためには2つの電極間を近づける必要がある。一方で、電極間距離が短すぎると、プラズマの体積が小さくなり、原料化合物を分解する反応効率が低下する。そのため、上記2つの電極間の距離は、0.1〜10mmであることが好ましく、特に0.3〜1mmであることが好ましい。2つの電極間の距離がこの範囲内にあると、ナノパルス放電プラズマを形成しやすくなり、高効率に反応を進行させることができる。
【0025】
電源4は、ナノパルス発生電源であり、具体的にはMPC電源もしくはBPFN電源を好適に用いることができる。
電圧を印加における好適な条件としては、MPC電源もしくはBPFN電源を使用し、針状−平板上電極間の距離0.1〜10mm、繰り返し周波数が、2〜250pps (pulse per second)の範囲であり、出力が、5〜600MWである。
【0026】
ガス供給手段5は、反応容器2内にアルゴンなどの対象となるガスを供給するための設備であり、ガスボンベとガス圧調整バルブとから構成され、反応容器2内の圧力をコントロールすることができる。
【0027】
本発明の製造方法は、上記炭素材料製造装置1を使用して以下のように行うことができる。
まず、反応容器2内に原料化合物を設置し、ガス供給手段5よりアルゴン等の雰囲気流体を反応容器2内に供給し所定の圧力とし、ヒータ3により加熱することにより所定の温度とすることによって、反応容器2内を超臨界状態とする。原料化合物は、超臨界状態の雰囲気流体に溶け込み反応容器2内に拡散する。
次いで、電源4であるナノパルス発生電源により、針状の電極2aと平板状の電極2bの間に所定の繰り返し回数、出力で電圧を印加することによって、電極2aと電極2bの間にナノパルス放電プラズマを形成する。この放電プラズマにより、超臨界流体中に溶解した炭素源となる原料化合物を分解し、平板状の電極2bの上にアモルファス構造の炭素を含む炭素材料を形成する。
【0028】
本発明の炭素材料は、上述の本発明の製造方法により得ることができ、アモルファス構造を有する炭素を含有する膜状の炭素材料である。
例えば、タングステン製針電極と、ステンレス製平板電極とを、電極間距離1mmに対面配置し、電圧を約18〜35kVまで段階的に増大させ、パルス電圧(繰り返し周波数250pps)を印加することによって製造することにより、アモルファス構造を有する炭素を含有し、かつ、回折面としてグラファイト002面およびグラファイト100面を有する炭素を含有する炭素材料を得ることができる。
【0029】
このような炭素材料は、高強度、耐摩耗性に優れた材料であり、その特徴を生かして、分散強化剤、耐摩耗性材料、その他の電子材料、水素吸蔵材料に応用することができる。また、生体適合性が良いため、メディカル分野への適用することもできる。
【実施例】
【0030】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を越えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0031】
(使用装置)
超臨界流体プラズマ生成装置: 株式会社AKICO製
電極1:タングステン製針電極(直径:1mm,長さ:40mm)
電極2:ステンレス製平板電極(直径:20mm、厚さ:5mm)
電極間距離:1mm
電極配置:対面配置
【0032】
「実施例1」
図1に示す構成の超臨界流体プラズマ生成装置を使用し、原料化合物としてフェノールを使用して膜状炭素材料の製造を行った。
まず、アルゴンガス(流速100mL/min)で反応器内部および配管内の残留空気を10分間置換した。次いで、フェノール(純度:99.0%)を10g入れたステンレス製シャーレを反応器内部に設置後、気相部(反応器内部および配管内)をアルゴンガスで5分間置換を行った。
アルゴンガスで気相部を置換した後、内圧5.0MPaまでアルゴンガスを圧入した。反応器上部・下部のヒータの電源を入れ、40℃に設定した。
反応器内温度および圧力を設定値(40℃,5.0MPa)にして反応器内のアルゴンが超臨界状態として安定させた。
次いで、MPC電源により、電極間に、電圧を約18〜35kVまで段階的に増大させ、パルス電圧(繰り返し周波数250pps)を印加し、ナノパルス放電を行った。
なお、ナノパルス放電中の電圧・電流値はオシロスコープを使い計測した。
プラズマ放電後、平板電極を取り出し、該電極上に生成した炭素材料を評価した。
【0033】
(表面観察)
反応後の平板電極上に生成した炭素材料をレーザー顕微鏡(キーエンス製、VHX-1000)、あるいは走査型電子顕微鏡(日立製FE-SEM S-4500)を用いて表面観察を行った。走査型電子顕微鏡での観察の場合、試料表面にE-1030型日立イオンスパッターを用いて白金‐パラジウム合金を成長速度6.7nm/minで2分間コーティングした。
【0034】
(ラマン分光測定)
ラマン分光評価装置(日本分光株式会社製、型番:NRS-3100、励起波長:532.130nm、分解能:1cm-1)を用いて、電極上に生成した膜状炭素材料の評価を行った。
【0035】
(UV−vis測定)
UV−vis装置(日本分光株式会社製、型番:V-550)を使用して、電極上に生成した膜状炭素材料の評価を行った。
【0036】
(XRD測定)
XRD装置(株式会社リガク、型番:Rint2500HV)を使用して、電極上に生成した膜状炭素材料の結晶性評価を行った。
【0037】
(XRF測定)
XRF装置により、電極上に生成した膜状炭素材料の評価を行った。
【0038】
反応後のステンレス合金平板電極を目視にて観察したところ、該電極上に褐色物質が生成していることが確認された。
また、茶褐色の物質が付着していたことから、超臨界アルゴンに溶解したフェノールからが放電により堆積物が生成するプラズマ化したことが示唆された。
該電極を、レーザー顕微鏡で観察したところ、放電痕の跡の大きさは条件(放電回数、系内温度、系内圧力、繰り返し周波数、反応器容量)によって異なるが、円形状の跡が連続的に重なっていることがわかった。
【0039】
反応後のステンレス合金平板電極を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察した写真を図2〜図4に示す。
図2に示すように、膜状の物質が生成している様子が確認できた。原料となるものがフェノールしか存在しないため、炭素元素主体の生成物であることが考えられる。
また、図3および図4に示すように、拡大すると膜状生成物の表面に亀裂が生じていることがわかった。
【0040】
反応後のステンレス合金平板電極のラマン分光測定の結果を図5に示す。
図5に示すように約1590 cm-1にピークを持ち、1350〜1400 cm-1に肩を持つスペクトルが得られた。なお、電極表面に生成した炭素材料について、数カ所の測定を行った結果、いずれの測定点における炭素材料についても、同様のスペクトルが得られた。
1580 cm-1に現れるsp2 結合に帰属されるGバンドピークと1340 cm-1のsp3 結合に帰属されるDバンドピークであると考えられる。
これらの結果から、フェノールを単一原料として、超臨界アルゴン中でのナノパルス放電プラズマにより、sp2とsp3の中間構造またはその混合により構成されているアモルファス構造を有する炭素を含有する膜状の炭素材料が形成されることが分かった。
なお、該炭素材料のラマンスペクトルは、一般的なRFプラズマCVD等で基板温度が200〜300℃において堆積される硬質アモルファスカーボン膜のラマンスペクトルと非常によく一致している。
【0041】
反応後のステンレス合金平板電極に対して、可視紫外分光測定(UV−vis測定)を行った。結果を図6に示す。
図6に示されるように、280 nm付近にC=O結合のn → π*遷移に起因するショルダーピークを確認できた。このことから、生成物である炭素材料は、C=O結合を有することがわかった。
反応後のステンレス合金平板電極から、生成物である炭素材料を回収し、X線回折測定(XRD測定)を行った。結果を図7に示す。
図7からグラファイト002面およびグラファイト100面の回折面に帰属するピークが確認できた。なお、雲母基板を用いているため、図7において雲母基板由来のシグナルも確認されている。
XRD測定の結果から、形成された炭素材料には、アモルファスカーボンだけでなく、グラファイト002面およびグラファイト100面を有する結晶性の炭素を含有するが存在していることがわかった。
【0042】
(実施例2)
原料化合物として、フェノールの代わりにアニリンを使用したこと以外は、実施例1と同様の方法にて、電極上に炭素材料を形成させた。
反応後のステンレス合金平板電極を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察した写真を図8〜図10に示す。
【0043】
図8に示すように、実施例1(原料化合物:フェノール)の場合と同様に、原料化合物としてアニリンを使用した場合にも、膜状構造の生成物が形成されていることが確認された。また、その拡大写真である図9及び図10(a)から、一部の粒子状物質が堆積していることがわかる。
さらに、図10(a)に対応するEDXの結果(図10(b))から、鉄、クロム、マンガン、ニッケルといった金属のピークは非常に弱く、一方炭素のピークが非常に強いことより、比較的厚みのある膜状炭素材料が形成されていることが示唆された。
【0044】
反応後のステンレス合金平板電極のラマン分光測定をおこなった。図11に示すように約1590cm-1にピークを持ち、1350〜1400cm-1に肩を持つスペクトルが得られた。図11に示すように約1590cm-1にピークを持ち、1350〜1400cm-1に肩を持つスペクトルが得られた。なお、電極表面に生成した炭素材料について、数カ所の測定を行った結果、いずれの測定点における炭素材料についても、同様のスペクトルが得られた。
これらの結果から、フェノール(実施例1)と同様に、アニリンを単一原料とした場合にも、超臨界アルゴン中でのナノパルス放電プラズマにより、sp2とsp3の中間構造またはその混合により構成されているアモルファス構造を有する炭素を含有する膜状の炭素材料が形成されていることが分かった。
【0045】
また、反応後のステンレス合金平板電極を蛍光エックス線分析(XRF)による評価した結果を図12に示す。
XRFから、炭素原子は確認されたものの窒素原子は確認できなかった。この結果より、超臨界アルゴン中でのアニリンのナノパルス放電により形成された膜状構造には窒素原子は存在せず、主として炭素原子および水素原子からなることが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の製造方法で得られた炭素材料は、耐摩耗性材料、分散強化剤、水素吸蔵材料、その他の電子材料等として用いることができる。
【符号の説明】
【0047】
1 炭素材料製造装置
2 反応容器
2a 電極(針電極)
2b 電極(平板電極)
3 ヒータ
4 電源
5 ガス供給手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超臨界状態のアルゴン、二酸化炭素または窒素を雰囲気流体とする密閉容器内に炭素源となる原料化合物を供給しつつ、前記密閉容器内に設けられた2つの電極に電圧を印加することで前記2つの電極間に生起させた放電プラズマによって前記原料化合物を分解し、前記2つの電極のうちの少なくとも一方の電極上に膜状の炭素材料を形成することを特徴とする炭素材料の製造方法。
【請求項2】
超臨界状態のアルゴンを雰囲気流体とする請求項1記載の炭素材料の製造方法。
【請求項3】
前記原料化合物が、芳香族化合物である請求項1または2に記載の炭素材料の製造方法。
【請求項4】
前記原料化合物が、フェノールまたはアニリンである請求項3記載の炭素材料の製造方法。
【請求項5】
前記2つの電極が、不平等電極である請求項1から4のいずれかに記載の炭素材料の製造方法。
【請求項6】
電極間距離が、0.1〜10mmである請求項1から5のいずれかに記載の炭素材料の製造方法。
【請求項7】
ナノパルス発生電源を用いて電圧を印加することによって、放電をナノパルス放電により行う請求項1から6のいずれかに記載の炭素材料の製造方法。
【請求項8】
形成されるプラズマが、熱平衡プラズマである請求項1から7のいずれかに記載の炭素材料の製造方法。
【請求項9】
請求項1から8のいずれかに記載の方法にて製造され、アモルファス構造を有する炭素を含有することを特徴とする膜状の炭素材料。
【請求項10】
回折面としてグラファイト002面およびグラファイト100面を有する炭素を含有することを特徴とする請求項9記載の炭素材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−230993(P2011−230993A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−105701(P2010−105701)
【出願日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【出願人】(504159235)国立大学法人 熊本大学 (314)
【出願人】(504132881)国立大学法人東京農工大学 (595)
【Fターム(参考)】