説明

炭素材料用分散剤、炭素材料分散液および炭素材料組成物

【課題】炭素材料を有機溶媒中で均一かつ安定に分散することができる炭素材料用分散剤、有機溶媒中で炭素材料が均一に分散した炭素材料分散液、ならびに有機溶媒中で分散性に優れた炭素材料組成物の提供。
【解決手段】式1:−(−CHCR(COOR)−)−の構成単位(a1)と式2:−(−CHCR(COO−(AO)n−R)−)−の構成単位(a2)からなり、質量比(a1)/(a2)が90/10〜10/90であり、重量平均分子量が3,000〜500,000である共重合体(A)からなる炭素材料用分散剤。〔式1中、Rは水素原子またはメチル基を、Rは炭素数16〜22のアルキル基。式2中、Rは水素原子またはメチル基を、Rは水素原子または炭素数1〜22のアルキル基を、AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基を、nはオキシアルキレン基の付加モル数を示し、1〜100の整数。〕

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機溶媒中に炭素材料を分散させるための分散剤、この分散剤を含む有機溶媒中に炭素材料を分散させた炭素材料分散液、およびこの分散液から有機溶媒を除去した炭素材料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンブラック(以下、CBと表記する。)、カーボンナノファイバー(以下、CNFと表記する。)、カーボンナノチューブ(以下、CNTと表記する。)といった炭素材料は、強度が高く、導電性に優れているため、その特性を活かして多くの用途開発が進められている。炭素材料のうちCBは、インキ、塗料、樹脂等の着色剤や導電性フィラーとして、ディスプレイ部材や磁気記録部材等の電子部品に、古くから使用されている。CBを利用するにあたっては、溶媒に分散させる製造工程を経て用いられることがあり、様々な分散方法が検討されてきた。この方法の一つに、共重合体を分散剤として使用している事例が挙げられる。
【0003】
特許文献1には、酸性基を有する単量体とポリオキシエチレン(メタ)アクリレート構造を有する単量体からなる共重合体を分散剤として用い、CBを水に分散させた顔料分散体濃厚液が開示されている(実施例10を参照)。しかし、分散媒は水に限定されており、有機溶剤では使用することができないので、炭素材料用分散液をポリマーに混練した場合に、ポリマー物性に悪影響を与えるおそれがあり、さらに、分散媒の除去工程が煩雑になるなどの不利な点が多い。
【0004】
特許文献2には、酸性基を有する単量体とアルキルエステル構造を有する単量体と、必要によりこれらと共重合可能な他の単量体(ポリオキシエチレンメタクリレート等)からなる共重合体を分散剤として用い、CB等の顔料を水溶性有機溶剤に分散させたインクジェットプリンタ用インクが開示されている。しかし、金属イオンと塩を形成し易い酸性基を有する単量体が必須であるので、電子材料等への応用は困難である。
【0005】
特許文献3には、疎水性の単量体と親水部にカルボン酸基またはその塩を有する単量体と必要によりこれらと共重合可能な他のモノマー(ポリオキシエチレンメタクリレート等)からなる共重合体を分散剤として用い、CB等の水不溶性色材を水溶性有機溶媒に分散させたインクジェット記録用インクが開示されている。しかし、親水部にカルボン酸基またはその塩を有する単量体が必須であるので、特許文献2と同様に、電子材料等への応用は困難である。
【0006】
近年、CNFやCNT等の平均粒径または直径が比較的小さい炭素材料が新たに注目を集めており、これらの炭素材料はCBよりも比重が低く、強度が高く、導電性に優れているため、多くの用途開発が期待されている。しかし、これらの炭素材料は他の炭素材料と異なり、グラフェン構造以外の構造、例えばカルボン酸やアルデヒドなどが分子内に極端に少ない。そのため、他の分子との親和性が悪く、水や有機溶媒、高分子材料に特に分散しにくいことから、平均粒径または直径が比較的小さい炭素材料を分散する技術が求められている。
【0007】
特許文献4には、メチルメタクリレートなどの短鎖アルキルメタクリレートを含むメタクリル樹脂にCBやCNTを分散させたバインダー樹脂に対して、グリセリンといった水酸基を3個以上有するポリオールを分散剤として用いたペースト組成物が開示されている。しかし、有機溶媒中で分散液とした場合には、均一で安定な分散液を得ることはできなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平9−176256号公報
【特許文献2】特開2003−105237号公報
【特許文献3】特開平11−140356号公報
【特許文献4】国際公開第2006/112089号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、炭素材料を有機溶媒中で均一かつ安定に分散することができる炭素材料用分散剤、有機溶媒中で炭素材料が均一に分散した炭素材料分散液、ならびに有機溶媒中で分散性に優れた炭素材料組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明者らは、特定のアルキル基とオキシアルキレン基を側鎖に有する(メタ)アクリル共重合体を炭素材料用分散剤として用いることによって、有機溶媒中で均一かつ安定に炭素材料を分散できることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明の炭素材料用分散剤は、式1で表される構成単位(a1)と式2で表される構成単位(a2)からなり、(a1)と(a2)の質量比(a1)/(a2)が90/10〜10/90であり、重量平均分子量が3,000 〜500,000 である共重合体(A)からなる。
【0012】
【化1】

【0013】
〔式(1)中、R1は水素原子またはメチル基を、R2は炭素数16〜22のアルキル基を示す。〕
【0014】
【化2】

【0015】
〔式(2)中、R3は水素原子またはメチル基を、R4は水素原子または炭素数1〜22のアルキル基を表す。また、AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基を、nはオキシアルキレン基の付加モル数を示し、1〜100の整数である。〕
【0016】
また、本発明の炭素材料分散液は、本発明の炭素材料用分散剤である共重合体(A)、炭素材料(B)および有機溶媒(C)を含有する。
【0017】
炭素材料分散液のある実施形態において、炭素材料(B)が、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンナノコイル、フラーレン、炭素繊維、グラファイトからなる群から選ばれる少なくとも一つである。
【0018】
さらに、本発明の炭素材料組成物は、本発明の炭素材料分散液から有機溶媒(C)を除去することにより得られる炭素材料組成物である。
【発明の効果】
【0019】
本発明の炭素材料用分散剤は、炭素材料を凝集させ難く、均一かつ安定に有機溶媒中に分散させることができる。また、本発明の炭素材料分散液は、炭素材料の分散安定性に優れる。さらに、本発明の炭素材料組成物は、有機溶媒中に容易に分散することができるため有用である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明の炭素材料用分散剤は、式1で表される構成単位(a1)と式2で表される構成単位(a2)からなり、(a1)と(a2)の質量比(a1)/(a2)が90/10〜10/90であり、重量平均分子量が3,000 〜500,000 である共重合体(A)からなる。
【0021】
【化3】

【0022】
〔式(1)中、R1は水素原子またはメチル基を、R2は炭素数16〜22のアルキル基を示す。〕
【0023】
【化4】

【0024】
〔式(2)中、R3は水素原子またはメチル基を、R4は水素原子または炭素数1〜22のアルキル基を表す。また、AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基を、nはオキシアルキレン基の付加モル数を示し、1〜100の整数である。〕
【0025】
式(1)中、R1は水素原子またはメチル基である。R2は炭素数16〜22のアルキル基、特に飽和アルキル基であり、パルミチル基、イソパルミチル基、ステアリル基、イソステアリル基、ベヘニル基、イソベヘニル基などが挙げられ、好ましくは、パルミチル基、ステアリル基、ベヘニル基である。式(1)の単量体は、例えば、アクリル酸またはメタクリル酸と、炭素数16〜22のアルキルアルコールとを常法にて、エステル化することにより得ることができる。
【0026】
式(2)中、R3は水素原子またはメチル基である。R4は水素原子または炭素数1〜22のアルキル基であり、好ましくは、水素原子、炭素数1〜18のアルキル基、シクロアルキル基であり、メチル基、ステアリル基などが挙げられる。CNTやCNFなどのほとんどがグラフェン構造である炭素材料をトルエンなどの芳香族炭化水素に分散する場合には、分散性の高さから、R4は炭素数が1〜18のアルキル基のものが好ましく、炭素数が18のアルキル基であるものがさらに好ましい。
【0027】
式(2)中、AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基を示しており、例えば、オキシエチレン基、オキシプロピレン基、オキシブチレン基、オキシテトラメチレン基などが挙げられ、好ましくは、オキシエチレン基、オキシプロピレン基、オキシブチレン基である。これらのオキシアルキレン基は単独でも2種以上の混合でもよく、混合の場合、ブロック共重合でも、ランダム共重合のどちらでも構わない。オキシアルキレン基の付加モル数nは、1〜100、好ましくは2〜60、より好ましくは3〜50の数であり、100より大きくなると分散安定化能が低下することがある。オキシアルキレン基の平均付加モル数mとしては、2〜80、好ましくは3〜50、より好ましくは4〜35である。
【0028】
式(2)の単量体は、例えば、アクリル酸またはメタクリル酸と、ポリオキシアルキレンモノアルキルエーテルとを常法にて、エステル化することにより得ることができる。また、アクリル酸またはメタクリル酸に、酸性触媒もしくはアルカリ性触媒を用いて、オキシアルキレンを直接付加することによっても得ることができる。
【0029】
本発明における式1で表される構成単位(a1)と式2で表される構成単位(a2)からなる共重合体(A)は、ブロック共重合、ランダム共重合、グラフト重合など、その構成単位の配列には、特に制限はない。共重合体(A)は、公知の重合方法により得ることができ、例えば、式1の単量体と式2の単量体をトルエンなどの芳香族炭化水素中、ジアシルパーオキサイド、パーオキシジカーボネート、パーオキシエステル、パーオキシケタール、ジアルキルパーオキサイド、ハイドロパーオキサイドなどの過酸化物系重合開始剤、アゾイソブチロニトリル、アゾイソバレロニトリルなどのアゾ系重合開始剤などを用いて重合して得ることができる。
【0030】
共重合体(A)における構成単位(a1)と構成単位(a2)の質量比(a1)/(a2)は、90/10〜10/90であり、好ましくは40/60〜80/20である。また、共重合体(A)の重量平均分子量は、3,000 〜500,000 であり、好ましくは5,000 〜100,000 、より好ましくは10,000〜50,000である。
【0031】
本発明の炭素材料分散液は、本発明の炭素材料用分散剤である共重合体(A)、炭素材料(B)および有機溶媒(C)を含有する。本発明の炭素材料分散液は、例えば、共重合体(A)を、有機溶媒(C)である分散媒に溶解もしくは分散させ、得られた溶液または分散液に炭素材料(B)を所定量入れた後に、撹拌などの操作を行う方法により得られる。炭素材料分散液は、炭素材料(B)の凝集がほとんど無く、均一かつ安定的に炭素材料(B)が分散している。
【0032】
本発明で使用する炭素材料(B)としては、例えば、CB、CNF、CNT、カーボンナノコイル(以下、CNCと表記する。)、フラーレン、炭素繊維、グラファイトなどが挙げられる。以下に、CB、CNF、CNT、CNCに関して具体的に説明する。
【0033】
CBは、黒色または帯灰黒色の炭素粉末であり、有機物を不完全燃焼または熱分解することにより得られる。本発明で使用するCBは、市販のファーネスブラック、チャンネルブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラックなどが挙げられる。また、酸化処理したカーボンブラックや、中空カーボンなども使用できるが、表面官能基の少ない中性カーボンが好ましい。CBの大きさ等は、特に限定されないが、平均粒径は、好ましくは0.01〜1μm、さらに好ましくは0.01〜0.2μmである。
【0034】
CNFは、一般的に、平均直径が80〜数百nmの繊維状物質炭素であり、炭素を原料とし、主に触媒化学気相析出法で得られる。本発明で使用するCNFの大きさ等は特に限定されないが、典型的には、平均直径が80〜数百nm、平均アスペクト比が100〜250であり、好ましくは平均直径が100〜200nm、平均アスペクト比が50〜100、より好ましくは平均直径が100〜150nm、平均アスペクト比が60〜100である。
【0035】
CNTは、平均直径0.5〜50nm、長さμmオーダーの筒状炭素であり、通常、化学気相成長法(CVD法)、レーザー蒸発法、アーク放電法等により得られる。本発明で使用するCNTは、その製造方法が限定されず、グラフェンシートが単層のものでも複数の層からなるものでも、カップ状に積み重なったものでも構わない。例として、単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ、カップスタック型カーボンナノチューブが挙げられる。CNTの大きさ等は、特に限定されないが、典型的には平均直径が10〜200nm、平均アスペクト比が5〜250であり、好ましくは平均直径が10〜80nm、平均アスペクト比が50〜150、より好ましくは平均直径が10〜50nm、平均アスペクト比が80〜120である。
【0036】
CNCは、繊維の直径が数十nm〜数百nm、コイルの径が数十nm〜数μmの3Dヘリカル/らせん構造をもつ気相成長炭素繊維であり、主にアセチレンの触媒活性化熱分解法により製造される。CNCは機械的強度が高く、導電性に優れ、またコイル状であることから、バネ特性に優れているという特徴を有する。
【0037】
本発明で使用する有機溶媒(C)は、本発明の共重合体(A)を溶解、もしくは分散するものであればよく、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素、アルコール類、カルボン酸類、エステル・ラクトン類、ケトン類、エーテル類、アミン類、アミド・ピロリドン類、ニトリル類、スルホキシド類、カーボネート類、ハロゲン化炭化水素、低分子液状モノマー類、低分子液状ポリマー類などが挙げられる。
【0038】
芳香族炭化水素は、トルエン、キシレン、スチレンが挙げられる。脂肪族炭化水素は、n−ヘキサン、n−デカン、石油エーテルが挙げられる。脂環式炭化水素は、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンが挙げられる。アルコール類は、メタノール、イソプロパノール、シクロヘキサノール、ターピネオール、エチレングリコール、グリセリンが挙げられる。カルボン酸類は、カプリル酸、リノール酸が挙げられる。エステル・ラクトン類は、酢酸エチル、酢酸ブチル、メタクリル酸メチル、γ―ブチルラクトン、カプリロラクトン、ステアラクトンが挙げられる。ケトン類は、アセトン、メチルエチルケトン、エチルイソブチルケトンが挙げられる。エーテル類は、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテルが挙げられる。アミン類は、エチルアミン、トリエタノールアミンが挙げられる。アミド・ピロリドン類は、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドンが挙げられる。ニトリル類は、アセトニトリル、プロピオニトリルが挙げられる。スルホキシド類は、N,N-ジメチルスルホキシド、テトラメチレンスルホキシドが挙げられる。カーボネート類は、炭酸ジエチル、プロピレンカーボネートが挙げられる。ハロゲン化炭化水素は、塩化メチル、クロロホルム、四塩化炭素が挙げられる。低分子液状モノマー類は、酢酸ビニルが挙げられる。低分子液状ポリマー類は、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリジメチルシロキサンが挙げられる。
【0039】
有機溶媒(C)は、好ましくは、芳香族炭化水素、アルコール類、ケトン類である。また、有機溶媒(C)は、単独でも2種以上混合しても使用することができる。本発明の炭素材料分散液は、必要に応じて分散媒の物性を損なわない範囲で、重合開始剤、粘度調節剤、貯蔵安定剤、湿潤剤、酸、塩基、および塩からなる群から1種以上の添加剤をさらに含むことができる。
【0040】
本発明の炭素材料分散液を調製する方法は、特に限定されるものではないが、通常、以下の工程で行われる。まず、有機溶媒(C)100質量部に対し、共重合体(A)を0.01〜20質量部添加し、必要に応じて、加熱、攪拌をおこない、分散剤含有物を調製する。次に、分散剤含有物100質量部に対し、炭素材料(B)を0.001〜100質量部添加する。
【0041】
適した分散方法としては、炭素材料(B)の種類により異なるが、各種公知の分散技術を用いることができる。例えば、超音波照射、高圧混合、ホモジナイザー、ビーズミル、ボールミル、ロールミルなどが挙げられ、これらの分散技術を組み合わせた方法で分散をおこなっても良い。
【0042】
本発明の炭素材料分散液は、そのまま使用してもよいし、また分散液中の有機溶媒(C)を除去して、炭素材料(B)の表面に共重合体(A)が付着した炭素材料組成物を調製しても良い。有機溶媒(C)が除去された炭素材料組成物とすることによって、保管や運搬が容易となり好ましい。
【0043】
本発明の炭素材料組成物は、本発明の炭素材料分散液から有機溶媒(C)を除去することにより、すなわち炭素材料分散液を乾燥することで得られる。乾燥方法は特に限定されるものではなく、フリーズドライ、スプレードライ、真空乾燥、エバポレーションなどが挙げられる。有機溶媒(C)を除去して得られた炭素材料組成物は、必要に応じて、再度、有機溶媒(C)中に分散させて、炭素材料(B)の再分散液にすることができる。再分散に使用する有機溶媒(C)は、通常、乾燥前の分散液中の有機溶媒(C)と同じ溶媒である。
【実施例】
【0044】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。
【0045】
〔実施例1−1〕<炭素材料用分散剤の合成>
加熱装置、撹拌装置、窒素吹き込み管、滴下ロート、冷却管を備えた反応器に、トルエンを700g仕込み、窒素雰囲気とした後、攪拌しながら環流温度まで昇温した。昇温後、ステアリルメタクリレート400g(1.18mol)、ポリオキシプロピレン(平均付加モル数14)メタクリレート600g(0.75mol)、1,1-ジ(t−へキシルパーオキシ)シクロヘキサン7.9g(0.025mol)をトルエン650gに溶解した溶液を反応器に2時間掛けて適下した。適下終了後、1時間環流し、1,1-ジ(t−へキシルパーオキシ)シクロヘキサン0.79g(0.002mol、単量体と合わせて入れた量の1/10とする。)をトルエン50gに溶解した溶液を適下ロートから、環流温度で反応器に30分掛けて適下した。さらに、2時間環流し、次に、40℃でエバポレーション、105℃で真空乾燥をおこなうことによりトルエンを除去し、本実施例に係る分散剤を得た。表1に実施例または比較例で用いる単量体と構成単位(a1)、(a2)の関係を記し、表2に分散剤(実施例の分散剤を表わす。)または比較剤(比較例の分散剤を表わす。)の重合条件と重量平均分子量を記した。
【0046】
〔実施例1−2〜1−5、比較例1−1〜1−5〕<分散剤および比較剤の合成>
実施例1−1で用いた原料と条件を、表1および表2に示す原料と条件に変更し、重合開始剤の種類と量を適宜合わせた以外は、実施例1−1と同様の方法を用いて分散剤および比較剤を得た。
【0047】
〔参考例1〕<重量平均分子量の測定>
実施例1−1〜1−5と、比較例1−1〜1−5を、ゲルパーミエイション・クロマトグラフィー法を用いて、以下の条件で、ポリスチレン換算の重量平均分子量を測定した。結果を表2に併せて記す。
【0048】
測定機器:HLC−8220GPC(東ソー株式会社製)、
検出器:RI−8022 Refractive Index Detector(東ソー株式会社製)、
カラム:KF−805 L(Shodex社製):1本、
カラム温度:40℃、
溶離液:テトラヒドロフラン、
流速:1.0mL/分、
標準物質:ポリスチレン、
インジェクション量:100μL
【0049】
【表1】

【0050】
【表2】

【0051】
〔実施例2−1〕<CB分散液の調製>
カーボンブラック(#40、三菱化学(株)製、平均粒子径24nm)5.0gに実施例1−1の分散剤0.2gを添加し、スターラーでかき混ぜながらメチルエチルケトン22.4gを加え、CB分散液を調製した。表3の実施例2−1に、分散剤、分散媒および分散媒添加量を記した。
【0052】
〔実施例2−2〜2−7、比較例2−1〜2−6〕<CB分散液または比較液の調製>
表3に示す分散剤または比較剤と分散媒の組み合わせで、実施例2−1に準じて、実施例2−2〜2−7、比較例2−1〜2−6のCB分散液および比較液を調製した。
【0053】
〔参考例2〕<CB分散液または比較液の分散媒添加量測定>
CB分散液は、フロー値が2.3±0.1cmになった点の分散媒添加量で調製した。ここで、フロー値とは、円状に広がった流動体の直径を指し、同じ値であれば流動性が同等であることを示す。フロー値の測定は以下のようにした。ディスポシリンジ(TOP社製、容量5mL)の外筒を、先端から2cm程度のところで切断し、切断面開口部を上にして分散液2mLを入れ、開口部を10cm×10cmのガラス板で気体が入らないように塞ぎ、シリンジのピストン部分を固定しながらガラス板が下になるように上下反転させ、机上に置いた。最後に、シリンジの外筒を一気に引き上げ、ガラス板上に広がった円状の流動体の直径(フロー値)を測定した。
【0054】
〔参考例3〕<分散性評価1:CB分散液または比較液の分散媒添加量比較>
分散媒添加量は、実施例では20.0±3.2g、比較例では28.1±2.7gであり、実施例の分散液の方が、CBが比較的高濃度でありながら、比較液と同じ流動性のスラリーが得られた。このことより、比較例より実施例の分散液の方がCB分散性に優れていることが示された。
【0055】
〔参考例4〕<分散性評価2:CB分散液または比較液の上層液吸光度測定>
CB分散液または比較液を、遠心分離器(LEGEND MACH 1.6R、Kendro Laboratory 製)を用いて、10,000rpm(9700g)で30分間遠心した。遠心後、上層液をデカンテーションにより採取し、500nmにおける吸光度を、光路長2mmの石英セルで測定した。吸光度が高いほどCBが分散していることを示す。結果を表3に併せて示した。この結果、上層液の吸光度は、実施例が1. 923nm以上、比較例が0.014〜0.021nmであり、実施例の方が高い値であった。以上より、実施例の分散液はCB分散性に優れていることが示された。
【0056】
〔実施例2−1〜2−7、比較例2−1〜2−6〕<CB分散液または比較液のろ液調製>
実施例2−1〜2−7、比較例2−1〜2−6で作製したCB分散液または比較液を、分散媒で10倍に希釈した。その希釈液をろ紙(5A、東洋濾紙(株)製)にてろ過し、ろ液を調製した。
【0057】
〔参考例5〕<分散性評価3:CB分散液または比較液のろ液評価>
ろ液のCB分散性を目視にて評価した。ろ液の色は、黒色が濃いほどCB分散性が優れていることを示す。評価結果を表3に併せて示した。この結果、ろ液の色は、実施例が◎(黒色)または○(薄黒色)、比較例が×(無色透明)であった。以上より、実施例のろ液はCBを含有しており、CB分散性に優れていることが示された。
【0058】
【表3】

【0059】
〔実施例3−1〕<CNF分散液の調製>
トルエン100.0gに実施例1−1の分散剤1.0gを溶解後、CNF(VGCF−H、昭和電工(株)製)0.2gを添加し、スターラーで1時間攪拌後、超音波照射器(Ultrasonic Generator Model US−150、(株)日本精機製作所製)を用いて約1時間超音波照射することで、CNF分散液を調製した。なお、超音波照射時は、液の発熱を抑えるために、適宜、氷水等で冷却し、液温を40℃以下に保持した。表4の実施例3−1に、分散剤、被分散物および分散媒を記した。
【0060】
〔実施例3−2〜3−5、比較例3−1〜3−2〕<CNF、CNT分散液または比較液の調製>
表4に示す分散剤または比較剤、被分散物、分散媒の組み合わせで、実施例3−1に準じて、実施例3−2〜3−5、比較例3−1〜3−2のCNF、CNT分散液または比較液を調製した。
【0061】
〔参考例6〕<分散性評価4:CNF、CNT分散液または比較液の上層液吸光度測定>
CNF、CNT分散液または比較液の上層液吸光度を、参考例4と同様の方法で測定した。吸光度が高いほどCNFまたはCNTが分散していることを示す。結果を表4に併せて示した。この結果、上層液の吸光度は、CNFでは、実施例が0.526〜1.826nm、比較例が0.018nm、CNTでは、実施例が10nmより大きく、比較例が0.016nmとなり、CNF、CNTともに実施例の方が高い値であった。以上より、実施例の分散液はCNF、CNT分散性に優れていることが示された。
【0062】
〔実施例3−1〜3−5、比較例3−1〜3−2〕<CNF、CNT分散液または比較液のろ液調製>
実施例3−1〜3−5、比較例3−1〜3−2で調製したCNF、CNT分散液または比較液を、分散媒で10倍に希釈した。その希釈液をろ紙(5A、東洋濾紙(株)製)にてろ過し、ろ液を調製した。また、実施例3−3〜3−5で調製したCNT分散液については、分散媒で100倍に希釈した希釈液のろ液も調製した。
【0063】
〔参考例7〕<分散性評価5:CNF、CNT分散液または比較液のろ液評価>
ろ液のCNF、CNT分散性を目視にて評価した。ろ液の色は、黒色が濃いほどCNF、CNT分散性が優れていることを示す。評価結果を表4に併せて示した。この結果、10倍希釈のろ液の色は、CNFでは実施例が○(薄黒色)、比較例が×(無色透明)であり、CNTでは実施例が◎(黒色)、比較例が×(無色透明)であった。また、100倍希釈液のろ液の色は、実施例3−5が◎(黒色)、実施例3−4および3−5が○(薄黒色)であった。以上より、実施例のろ液はCNF、CNTを含有しており、CNF、CNT分散性に優れていることが示され、特に実施例3−5がCNT分散性に優れていることが示された。
【0064】
【表4】

【0065】
〔実施例4−1〕<CB分散液からの炭素材料組成物の調製>
表3に示す実施例2−1のCB分散液を、40℃以下でエバポレーションし、溶媒を除去した。溶媒除去後、粉砕し、炭素材料が分散剤で被膜された炭素材料組成物を得た。
【0066】
〔実施例4−2〜4−12、比較例4−1〜4−8〕<CB、CNF、CNT分散液または比較液からの炭素材料組成物の調製>
実施例4−1に準じて、実施例4−2〜4−12、比較例4−1〜4−8の炭素材料が分散剤または比較剤で被膜された炭素材料組成物を得た。
【0067】
〔実施例5−1〕<CB再分散液のろ液調製>
実施例4−1の炭素材料組成物に、メチルエチルケトンを22.4g添加し、スターラーで1時間攪拌してCB再分散液を調製し、分散媒で10倍に希釈した。その希釈液をろ紙(5A、東洋濾紙(株)製)にてろ過し、ろ液を調製した。表5の実施例5−1に、炭素材料組成物、分散媒および分散媒添加量を記した。
【0068】
〔実施例5−2〜5−7、比較例5−1〜5−6〕<CB再分散液、比較液のろ液調製>
表5に示す炭素材料組成物、分散媒、添加量の組み合わせで、実施例5−1に準じて、実施例5−2〜5−7、比較例5−1〜5−6のCB再分散液、比較液のろ液を調製した。
【0069】
〔実施例5−8〕<CNF再分散液のろ液調製>
実施例4−8の炭素材料組成物に、トルエン100. 0gを添加し、スターラーで1時間攪拌後、超音波照射器を用いて約1時間超音波照射してCNF再分散液を調製し、分散媒で10倍に希釈した。その希釈液をろ紙(5A、東洋濾紙(株)製)にてろ過し、CNF再分散液のろ液を調製した。なお、超音波照射時は、液の発熱を抑えるために、適宜、氷水等で冷却し、液温を40℃以下に保持した。表5の実施例5−8に、炭素材料組成物、分散媒および分散媒添加量を記した。
【0070】
〔実施例5−9〜5−12、比較例5−7〜5−8〕<CNF、CNT再分散液または比較液のろ液調製>
表5に示す炭素材料組成物、分散媒、添加量の組み合わせで、実施例5−8に準じて、実施例5−9〜5−12、比較例5−7〜5−8のCNF、CNT再分散液または比較液のろ液を調製した。また、実施例5−10〜5−12で調製したCNT分散液については、分散媒で100倍に希釈した希釈液のろ液も調製した。
【0071】
〔参考例8〕<分散性評価6:CB、CNF、CNT再分散液または比較液のろ液評価>
ろ液のCB、CNF、CNT分散性を目視にて評価した。ろ液の色は、黒色が濃いほどCB、CNF、CNT分散性が優れていることを示す。評価結果を表5に併せて示した。この結果、再分散液は〔参考例5〕、〔参考例7〕のろ液と同等の結果が得られ、炭素材料組成物を再分散させた分散液も分散性に優れていることが示された。
【0072】
【表5】

【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明によって、炭素材料を有機溶媒中で均一かつ安定に分散することができる分散剤や組成物を提供できるので、本発明の分散剤や組成物は印刷用着色剤、導電性材料、電子関連材料、建築用構造材、自動車用外装部品への静電塗装材料、工業用包装材料、電磁波シールド材料などへの利用が可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式1で表される構成単位(a1)と式2で表される構成単位(a2)からなり、(a1)と(a2)の質量比(a1)/(a2)が90/10〜10/90であり、重量平均分子量が3,000 〜500,000 である共重合体(A)からなる炭素材料用分散剤。
【化1】

〔式(1)中、R1は水素原子またはメチル基を、R2は炭素数16〜22のアルキル基を示す。〕
【化2】

〔式(2)中、R3は水素原子またはメチル基を、R4は水素原子または炭素数1〜22のアルキル基を表す。また、AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基を、nはオキシアルキレン基の付加モル数を示し、1〜100の整数である。〕
【請求項2】
請求項1記載の共重合体(A)、炭素材料(B)および有機溶媒(C)を含有する炭素材料分散液。
【請求項3】
炭素材料(B)が、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンナノコイル、フラーレン、炭素繊維、グラファイトからなる群から選ばれる少なくとも一つである、請求項2に記載の分散液。
【請求項4】
請求項2に記載の分散液から有機溶媒(C)を除去することにより得られる炭素材料組成物。

【公開番号】特開2012−166154(P2012−166154A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−29649(P2011−29649)
【出願日】平成23年2月15日(2011.2.15)
【出願人】(000004341)日油株式会社 (896)
【Fターム(参考)】