説明

炭素熱によるアルミニウムの製造において選択された炭素を用いてAl2O及びAl蒸気と反応させる方法

少なくとも1つの溶鉱炉(1,2)を使用し、アルミニウムの炭素熱還元工程で生じるオフガス(3,4)からAlを回収する方法において、オフガス(3,4)は、密閉された反応器(5)へ送られる。前記反応器には、空隙率が約50容積%〜85容積%、平均孔径が約0.05μm〜約2.00μmの木炭(7)が供給され、木炭(7)は、オフガス(3,4)と接触して少なくともAl43(6)を生成し、溶鉱炉(1,2)に戻される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
<発明の分野>
本発明は、炭素熱によるアルミニウムの製造において、反応を充足させるのに必要な追加のAl43を生成する方法に関するものであり、Al2O及びAlのオフガス蒸気を選択された炭素と反応させてAl43を生成し、生成されたAl43は溶鉱炉で再利用され、ここで反応が行われてアルミニウムが生成される。
【背景技術】
【0002】
<発明の背景>
アルミナの直接炭素熱還元は、米国特許明細書第2974032号(Grunert et al.)及び第6440193B1号(Johansen et al.)に記載されている。その全反応は、次の式で行われるものと認識されている。
Al23+3C=2Al+6CO (1)
この反応は、一般的には、次のステップで行われるものと認識されている。
2Al23+9C=Al43+6CO(蒸気) (2)
Al43+Al23=6Al+3CO(蒸気) (3)
Al23+2C=Al2O+2CO(蒸気) (4)
Al23+4Al=3Al2O(蒸気) (5) 及び
Al=Al(蒸気) (6)
【0003】
反応(2)は、2000℃以下、一般的には1900℃〜2000℃の温度で行われる。反応(3)は、アルミニウムの生成反応であり、さらに高温の約2050℃の温度で行われる。極めて重要なことは、反応(2)及び(3)の生成物に加えて、反応(6)のガス状Al、及び、反応(4)又は(5)で生成されるガス状亜酸化アルミニウムAl2Oを含む揮発性成分が、オフガスと共に運び去られることである。これらの揮発性成分が回収されないと、アルミニウムの収率が低下し、還元及び蒸発の工程で用いた大量のエネルギーの損失となる。
【0004】
炭素熱還元のプロセス全体において、Al2Oガス及びAlガスは、一般的には蒸気回収装置又は蒸気回収用反応器と称される独立した反応器の中で、炭素と反応させることによって回収される。前記反応器は、例えば、米国特許明細書第6530970B2号(Lindstad)に開示されている。例えば、メタン、ブタン、アセチレンなどの炭化水素ガスは、分解されて微細分散炭素が生成され、この炭素は、炭素シード粒子の上に堆積される。このため、追加の分解ステップが必要であった。ガスの組成及び反応温度によっては、炭素を含む反応生成物は、例えばAl43であるが、(Al43−Al23)の液体スラグ又は液体ガスが、単純に凝縮してAl23となることがある。Al43を生成することが望ましい理由は、それが溶鉱炉の中で必要であるからであり、Al及びAl2Oに関連して消費されたエネルギーは、有用な化学エネルギーとして回収され、溶鉱炉(smelter)に戻される。Al23と炭素が凝縮(condensation)によって生成される場合、エネルギーは、蒸気回収反応器の中で熱として放出され、工程に戻されるものは殆どない。Al43−Al23スラグが生成されると、Alの全部とエネルギーの一部が回収される。しかしながら、液体生成物は、反応器の中で粒子どうしのブリッジ形成を引き起こすため、蒸気回収用反応器の操業が困難となる。
【0005】
アルミニウム製造のための炭素熱還元に関する他の特許として、米国特許明細書第4486229号及び第4491472号(Troup et al.及びStevenson et al.)がある。米国特許明細書第4099959号(Dewing et al.)には、2つの反応ゾーンが記載されており、オフガスは、粒状炭素材料の中を通り、ガススクラバーの中の原料石炭(fresh coal)又は「グリーン(green)」コークスに対向して進むように送られる。Dewing et al.の米国特許明細書第4261736号には、オフガスはAl蒸気及びAl2Oを含み、該オフガスを流動床の中の粒状炭素と接触させることが記載されている。流動床は、粘性のアルミニウムオキシカーバイドの生成温度よりも高い温度に維持されており、Al43でエンリッチされ加熱された炭素が流動床から除去される。この特許に開示された炭素粒子を使用する場合、各炭素粒子の表面領域は、最終的に反応生成物によって覆われる。一方、ガスは、反応を継続させるために各炭素粒子上の反応生成物層の中を通過しなければならないので、反応速度は低下する。それゆえ、反応してAl43になるのは、炭素粒子のうち一部の炭素だけである。従って、反応の効率は低い。Al蒸気及びAl2O蒸気もまた、反応器の上方に流れてスラグを生成するか又は凝縮し、未反応の炭素は主溶鉱炉に入るので好ましくない。
【0006】
カナダ特許第1185435号(Sood et al.)では、「活性(active)」炭素から成る充填炭素層の全部又は一部が、Al及びAl2Oのヒュームガスを直接Al43に変換する。「活性」炭素は、比表面積が大きく、その結果として強度が比較的低い全ての形態の炭素と考えられるので、反応生成物Al43は、炭素粒子に対して強く付着せず、及び/又は、非常に多孔質で空隙が多いため、反応生成物が堆積しても、炭素粒子は互いに結合しない。
【0007】
木炭を作るのに利用可能な木の種類は、資料[FAO FORESTRY PAPER 41 (1987) "Simple Technologies for Charcoal Making" http://www.fao.org/docre/x5328e/x5328e00.htm, 8/19/2002]に記載されているように多種多様であり、例えば、ダカマ(Dakama)、ワラバ(Wallaba)、カウタバリ(Kautaballi)、熱帯広葉樹、オーク、ココナッツ及びユーカリプタスサリグナ(Eucalyptus Saligna)が挙げられている。米国特許明細書第6124028号(Nagle)もまた、活性化された炭素及び木炭、炭素化ポリマー又は炭素ポリマーの木材製品を開示しており、リグナム(Lignam)、カエデ(Maple)、オーク、アメリカボダイ樹(Basswood)、マツ、アメリカスギ(Redwood)、バルサ(Balsa)及びポプラの使用について記載している。木材製品は、家具、ブレーキシュー、スポーツ道具、チュービング、ブレーキロータなどに有用であると記載されている。
【0008】
炭素熱プロセスにおいて、使用される炭素の種類は、Al43の生成を向上させるために、また、蒸気回収反応器でのAl23の生成を減少させるために重要である。反応速度と熱力学的な検討を行なうことは重要である。必要なことは、揮発性Al成分を回収するのに効率的な方法であり、エネルギー損失を25%、ガスとして排出されるアルミニウム損失を25%削減することである。それゆえ、この発明の主たる目的の1つは、新しい材料又は大いに改良された材料をオフガス反応器で使用することにより、費用効率及びエネルギー効率がより高く改良されたアルミニウム製造プロセスを提供することである。
【発明の開示】
【0009】
<発明の要旨>
上記の要請に応え、上記の問題を解決するために、本発明は、アルミニウムを製造するためのアルミナの炭素熱還元工程にて、少なくとも1つの溶鉱炉で生じたオフガスから、蒸気成分(Al及びAl2O)を含有するAlを回収するための方法を提供するものである。オフガスは、CO、Al(蒸気)及び亜酸化アルミニウムAl2O(蒸気)を含んでおり、本発明の方法は、(a)前記オフガスを、高温の密閉された反応器へ送給すること、(b)空隙率(porosity)が50容積%〜85容積%で、かさ密度(bulk density)が0.4g/cm3〜0.7g/cm3の木炭(wood charcoal)を、密閉された反応器へ供給すること、及び(c)木炭をオフガスと接触させ、Al43を含む生成物を生成することを含んでいる。木炭の平均孔径は、約0.05μm〜約2.00μmであることが好ましい。この明細書の中で用いられる「亜酸化アルミニウム(aluminum suboxide)」という語は、Al2Oと、アルミニウムと酸素の比が2:1以外の化合物を含むことを意味する。反応器の中の触媒床として特に有用な木炭の1つは、ユーカリプタス木炭(eucalyptus wood charcoal)である。また、「高温」という語は、約1550℃〜約2050℃を意味する。
【0010】
炭素がAl43に転換される際の体積変化に適合できるように、空隙率は、少なくとも約50容積%以上でなくてはらない。空隙率が低すぎると、Al43の結晶は、孔に充満するか又は孔を塞ぐことになるため、反応ガスと未反応炭素との接触が妨げられる。例えば、空隙率の低い炭素が使用された場合、Al43は、炭素の外表面に生じるだけで、内面には生じない。空隙率は、比較的均一であり、平均孔径の大部分は、約0.05μm〜約2.00μmである。例えば、冶金コークス(metallurgical coke)は、空隙率が比較的高く、50容積%より大きいが、孔径は200μm以上の大きいものと、0.1μmよりも小さいものが含まれる。それゆえ、空隙率は、主として、比較的少数の大きな孔と関係がある。この場合、これらの大きな孔の表面では反応が行われるが、孔は塞がれるので、炭素の大部分は反応しない。一方、空隙率が約85容積%より大きい場合、触媒床は、向流反応器の中で使用するのに必要な強度が不足することになるであろう。
【0011】
木炭の中には、アルミナの炭素熱還元における炭素熱蒸気回収を含む冶金学的プロセスに用いられる種々の炭素材料よりも、空隙率及び孔径の均一性の点で勝るものがあり、Al43は、孔を塞ぐことなく、炭素粒子の中に深く進入することができる。この炭素形態の木炭の場合、Al含有蒸気(Al及びAl2O)は、孔の中を拡散することができるので、孔に充満して反応を停止させる材料を生成することはなく、反応は継続して行われ、炭化アルミニウムが生成される。木炭は、望ましくはユーカリプタスの木、最も望ましくはブラジリアン・ユーカリプタス・カマルドゥレンシス(Brazilian Eucalyptus Camaldulensis)から作られる。この材料は、図4に示されるように孔径が均一である。この材料は、空隙率が約55%〜65%であり、図4の領域Aによって示されるように、孔の分布/直径は比較的均一である。また、灰の含有量は約2%〜4%と低い。
【0012】
上記のユーカリプタスを用いることより、Al43生成率は、他の形態の炭素と比べて、100%以上向上する。この結果、炭素からカーバイドへの転換は、他の形態の炭素が30%未満であるのに対し、ユーカリプタスの場合、可及的に完全な又は完全に近い(少なくとも85%以上)転換が可能となる。また、Al蒸気及びAl2O蒸気がカーバイドを生成しない場合、それら蒸気は凝縮して、エネルギーの多くが失われるか、又はスラグが生成されることにより、向流反応器の中を通るガスの流れが妨げられて、反応器の性能低下を招く。
【0013】
次に、限定するものではない添付図面を参照して、本発明についてさらに説明する。
【0014】
<望ましい実施例の詳細な説明>
図1は、炭素熱反応プロセスの一実施例を示しており、アルミニウムなどの金属を製造し、オフガス中のAl及びAl2OをAl43として回収し、Al43を溶鉱炉へ送給するものである。図1において、ガスの流れは破線で示され、固体及び溶融物の流れは実線で示されている。
【0015】
図1において、第1ステージとおそらくは第2ステージを有する炭素熱溶鉱炉からのオフガスは、配管(3)(4)を通じて、密閉されたオフガス反応器(5)へ送られ、温度は約2000℃である。この反応器(5)は、例えば向流式移動床反応器であり、最高温度が約1600℃〜約1800℃の温度で運転される。反応器は、2台以上使用し、例えば、1台を第1ステージ溶鉱炉(1)用、もう1台を第2ステージ溶鉱炉(2)用に用いることができる。反応器(5)は、単一の流動床か、又は一連に連なる流動床である。反応器(5)に入るオフガス中のAl成分は、炭素(7)と反応して、Al43を生成する。Al43は、反応器から取り出され、配管(6)を通じて第2ステージ溶鉱炉(2)に送られる。
【0016】
反応器(5)から出たガスは、主としてCOを含むと共に、おそらくは木炭の揮発分から出たH2を含んでいるが、Al又はAl2Oは殆ど含まれないか又は全く含まれない。反応器(5)からのオフガスは、高温COとしてエネルギー価が高く、ガスタービン又は従来のボイラーにおける電気エネルギーを製造するために使用されることができる。アルミニウム蒸気は、反応してカーバイドになるか、又は凝縮してAl23及びCが生成される。Al43と未反応炭素は、配管(6)を通って、第2ステージの炭素熱溶鉱炉へ供給される。Al−C液体合金は、図1に示されるように、第2ステージ溶鉱炉(2)を出て行く。なお、図1中、(s)は固体、(v)は蒸気、(liq)は液体を意味する。
【0017】
アルミニウムの炭素熱還元プロセスはどのプロセスも、極めて高い温度(>2000℃)で行われる。これらの温度にて、大量のAlガス及びAl2Oガスが、COオフガスと接触する。Al2O−Alの圧力は、温度と溶融物(Al23−Al43)の組成によって異なるが、0.2atm以上である。これは、生成したアルミニウム金属の25%以上が、ガスとして炉から出て行くことを表す。プロセスが経済的に行われるためには、ガス中のアルミニウムと、Al蒸気の生成に消費されるエネルギーは、工程の中で捕獲されなければならない。Alの潜在的な質量損失は明らかであるが、同じ様に重要なことは、前記プロセスに供給されるエネルギーの大部分が消費され、蒸気を生成することである。操業条件によっては、損失エネルギーは25%以上にもなる。
【0018】
Al2O蒸気及びAl蒸気と炭素との反応速度を調べるには、これら蒸気を生成させて、それら圧力について知ることが必要である。これを達成する1つの方法は、実際の炭素熱還元プロセスで行われるように、Al23と炭素を反応させて、炭化アルミニウムを生成することである。Al23スラグ溶融物が炭素の存在下で加熱されると、第1ステップつまり第1ステージにおいて、Al23は約2000℃で還元されてAl43が生成される。
Al23+6C=Al43+3CO
【0019】
この工程において、Al蒸気とAl2O蒸気が生成される。平衡状態と仮定した場合、蒸気圧は、どんな関連反応からでも計算されることができる。例えば、Al2Oの場合は次のとおりである。
Al23+2C=Al2O(g)+2CO
【0020】
温度が約2050℃〜2080℃以上に上昇すると、下記の反応により、溶液中に炭素が含まれるAl金属が生成される。
Al43+Al23=6Al+3CO
また、AlガスとAl2Oガスは、より高い分圧で生成される。Al蒸気とAl2O蒸気は、次に、蒸気回収装置の中で炭素と反応し、Al43、Al43−Al23スラグを生成するか、又はC及びAl23として凝縮する。生成されたAl2O及びAlの蒸気圧の計算、及びその後の炭素を含む反応生成物の計算には、生成の自由エネルギー及び関連成分の活性に関する知識が必要である。AlとAl2Oは、蒸気回収反応器の中で、下記の反応で示されるとおり、炭素と反応する。
2Al2O+5C=Al43+2CO
4Al+3C=Al43
【0021】
しかしながら、炭素の形態は様々であり、特性の相違は大きく、Al43の生成を促進するものもあれば、阻害するものもあることがわかった。グラファイト、空隙率の低い冶金コークス、石油コークスと、全体が多孔質であるが孔が一様でない冶金コークス等の炭素を用いた場合、Al43の生成はあまり多くないことがわかった。カーバイドが一旦生成し始めると、カーバイドは表面にある孔に入るため、空隙率が約50容積%よりも少ない場合、さらなる反応は阻害される。空隙率の大きい冶金コークス、例えば空隙率が約51容積%の冶金コークスは、極めて少数の非常に大きな孔と、数多くの小さな孔とからなる。これらの小さな孔が塞がれると、反応は停止する。それゆえ、高空隙率に加えて、孔径は均一でなければならない。
【0022】
非常に重要なことは、空隙率が約50容積%を越える木炭は、炭素によるAl23の還元で生じたCO−Al−Al2Oガスに曝露されたとき、活発な反応が起こり、Al43を生成することが認められたことである。反応速度は、生成物層Al43の孔を通る反応ガスの拡散によって制御されるから、高空隙率であることは重要である。孔が完全に塞がるか、又は殆ど塞がると、反応は停止する。炭素からカーバイドへの体積変化は大きいから、元の炭素に存在する孔はカーバイドの結晶で塞がれてしまう。カーバイドの結晶は、SEM分析によって確認された。この体積増加に対応することができ、カーバイド層の空隙率を適正状態に維持するには、元の炭素の空隙率は、非常に高くなければならない。さらに、空隙率は均一でなければならない。試験した冶金コークスの1つは、空隙率は高かったが、反応は活発に行われなかった。このコークスには、大きな孔は幾つかあったが、全体的にはあまり多孔質ではなかった。大きな孔に繋がる領域では、木炭と比べて、孔は小さかった。
【0023】
さらにまた、炭素熱還元に用いられる炭素に要求される他の重要な条件として、灰の量がある。灰は、一般的に、SiO2、酸化鉄、その他の酸化物、及び硫化鉄から成る。これらの酸化物及び硫化物は、工程中で還元されるため、ケイ素や鉄などが、最終のアルミニウム生成物の中に存在し、除去することが困難である。この点に関しても、選択された木炭は、前記要求条件に最も良く適合する。木炭は、グラファイトを除いて、試験した全ての炭素の中で灰の含有量が最も少ない。なお、グラファイトは、反応が起こらないし、実用的な炭素源ではない。
【0024】
図2において、低灰量、高空隙率の木炭、望ましくはユーカリプタス木炭(20)を、理想的な形態として拡大して示しており、多孔質の基地に、相対的に均一な数多くの孔(22)が相互に繋がっている。この木炭は、オフガスを収集し、Al43結晶(24)を生成することができる。Al43結晶が生成する場所は、木炭粒子の表面(26)だけでなく、符号(28)の位置に示されるように、孔構造の内部の深い位置から、破線で示される境界領域にまで到る。
【0025】
ユーカリプタス木炭、好ましくは、ブラジリアン・ユーカリプタス・カマルドゥレンシス木炭は、オフガス用反応器での使用に適した特性を有することが分かった。表1は、そのようなブラジリアン・ユーカリプタス木炭の特性を示す。
【0026】
【表1】

【0027】
また、図4中、線(100)と線(110)の間の領域Aは、この木炭に有用な空隙率の範囲を示しており、孔の80%以上は、平均直径が約0.05〜約2.0ミクロンの範囲である。
【実施例】
【0028】
ガス状のAl及びAl2Oと炭素の反応に関する研究において、障害となる主な理由の1つは、十分な量のガスを発生させねばならないことである。これを行なうために、温度は2000℃を超える温度が要求される。特別に設計された実験設備の概要を、図3に示している。蒸気の生成に使用される溶融物は、65kwの高周波加熱炉(42)の黒鉛坩堝(40)(内径17.5cm)の中で加熱した。反応器(44)は、光学式観察管(58)を有し、密閉蓋(46)及び煙突(48)が取り付けられており、煙突(48)にはキャップ(54)が取り付けられている。約5kg〜7kgの(Al23−Al43)スラグ(50)を、蒸気を発生させるための溶融物として使用した。溶融物の温度と、サンプル(52)の位置における温度は、2200℃までの温度測定が可能なタングステン−レニウム(5%W−Re)−(26%W−Re)の熱電対を用いて測定した。温度の測定には、2色の光高温計も使用した。2種類の温度測定技術の相違は10℃以内であった。炉は、過度の酸化を防止するために、アルゴンで連続的にパージを行なった。オフガス用サンプル管(56)から供給されたオフガス組成物は、インライン質量分析計によって測定した。主な成分は、CO、Ar及びN2であり、Alを含有する成分は全て、反応又は凝縮の後に、質量分析計へ送られた。
【0029】
サンプル(52)として、異なる幾つかの種類の炭素を使用した。使用した炭素サンプルは、木炭、コークス、石油("pet")コークス及びグラファイトである。反応開始前に、使用した炭素を、SEM(走査型電子顕微鏡)で調べた。さらに、かさ密度、空隙率及び平均孔径を測定した。炭素サンプルは、直径約25mm×高さ25mmの円柱状であった。炭素サンプルにはドリルで孔をあけ、孔の中にグラファイトロッド(60)を通し、グラファイトナット(62)で固定した。
【0030】
スラグには、約4質量%の炭素が含まれていた。このスラグは、2000℃の温度でAl43で飽和せず、Al23は炭素と反応して、Al43、CO、Al(g)及びAl2O(g)を生成した。所定温度に達して蒸気が生成すると、炭素サンプルを、煙突の中を下降させて、所定時間反応させた後、取り出した。サンプルは、常温の冷却チャンバーへ速やかに移した。なお、チャンバーは、反応生成物又は炭素の過度の酸化が防止するために、アルゴンで連続的にパージされている。サンプルを、SEMに装入して試験を行ない、相を分析した。サンプルの幾つかについて、化学的分析を行なった。
【0031】
幾つかの実験において、炭素サンプルは、最初は、温度が約1930℃の煙突の高い位置に保持した。後で説明するように、この温度にて、(Al23−Al43)スラグが生成する。幾つかの実験において、サンプルは、10〜20分間、約1930℃に保持した後取り出し、スラグが炭素サンプルの上に生成されたことを確認した。引き続いて行なった3つの実験では、サンプルを約1930℃で15分間保持した後、下降させた。ここでの温度は1950℃であり、炭化物が生成する。これらの実験は、生成されたスラグが、Al2O及びAlの炭素への拡散を阻害して炭化物の生成を妨げるかどうかを調べるために行なわれた。
【0032】
この実験において、(Al43−Al23)スラグは、カーバイドで飽和されない約2000〜2020℃の温度まで加熱した。それゆえ、還元反応が起こる。実験では、酸化を防止し、CO生成速度を推定するために、Arを流した。Arの存在は、反応に影響を及ぼし、また、Al2O及びAlの圧力、その後の炭素との反応に影響を及ぼす。得られたガスを質量分析計によって測定したところ、CO50〜55%、Ar45〜50%であった。ArとCOがこの比率で2000℃のとき、Al2O及びAlの蒸気圧は、夫々、0.12気圧及び0.042気圧であった。次に、このCO−Ar−Al2O−Alガス混合物が炭素と反応すると、1930℃のAl23−Al43スラグの中でAl43が生成し、純カーバイドは、1950℃で生成する。Al2OとAlの平衡圧は、カーバイドが1950℃のとき、夫々、0.047及び0.020であった。相が生成する平衡圧力及び平衡温度に関して、熱力学的に不明な点がある。上記情報は、現時点で得られる最良の推定である。
【0033】
実験で使用した幾種類かの炭素について、かさ密度、空隙率及び平均孔径を測定し、その結果を次の表2に示している。
【0034】
【表2】

【0035】
上記表には、2種類の空隙率を示している。全空隙率(total porosity)は、かさ密度から算出した。木材の代表的なSEM画像では、木炭の空隙率は大きく、孔は均一である。数多くの種類の炭素を使用した中で、ユーカリプタス木炭の反応は、最も優れていた。後で説明するように、Al43は木炭の上及び内部に生成された。石油コークスは一部に反応が起り、グラファイトは、炭素サンプルの上に凝縮反応しか起こらなかった。
【0036】
相の存在の検出は、主として、SEM及び化学分析を用いて行なった。前述のように、グラファイトのような高密度炭素の場合、Al23とCの凝縮だけが起こる。その反応は、次のとおりであると推測される。
Al2O(g)+2CO=Al23+2C
2Al(g)+3CO=Al23+3C
【0037】
ユーカリプタス木炭についても、サンプルの予熱が効果的に行われなかった場合、表面で、Al23とCの凝縮が起こるだけである。ユーカリプタス木炭に少量の石油コークスを含む場合、サンプルの温度によっては、Al43又はAl43−Al23スラグが生成した。一般的に、サンプル温度が1950℃を超える場合、反応は殆んど起こらないか又は全く起こらず、1940℃〜1960℃ではAl43が生成し、1910℃〜1930℃ではスラグが生成し、1910℃以下では凝縮しか起こらない。これらの結果は、熱力学的予測と合理的に一致する。
【0038】
カーバイドと炭素の境界面、孔に生成するカーバイド、及び生成スラグに関するSEM画像では、未反応炭素とカーバイド相の境界はかなりはっきりしており、容易に区別することができた。部分的に反応した炭素の領域は僅かであった。カーバイドの結晶は、炭素の孔の中で成長を開始し、主としてAl43であるときは、空隙率は多いに減少した。液体スラグは高密度であるので、さらなる反応を遅らせる可能性が高い。重要なことは、Al43生成における速度及び速度制御メカニズムである。SEM観察の結果、前記生成速度を示唆する炭素の未反応コアの縮小は、Al(g)及びAl2O(g)がAl43生成物層の中を拡散することによって制御されることがわかった。
【0039】
グラファイト、冶金コークス、石油コークス及び冶金コークス(B)を使用すると、Al43はさほど形成されなかった。一旦カーバイドが生成し始めると、カーバイドは表面の孔を塞ぐので、空隙率が約50%容積%よりも少ない場合、さらなる反応は妨げられる。冶金コークス(B)は、空隙率が高かった。しかしながら、このコークスは、極く少数の大きな孔と多数の小さな孔から構成されている。この場合もやはり、これらの小さな孔が塞がると、反応は停止する。したがって、空隙率の高さに加えて、孔のサイズは、ユーカリプタス木炭のように均一でなければならない。
【0040】
工程で使用される炭素のうち幾種類かの炭素は、単一の粒体に作ることができなかった。それゆえ、キャニスター(canister)の中へは、炭素片が入れられた。これらの実験から得られた情報は限られている。実験結果で確認されたことは、木炭は反応してカーバイドを生成し、低温度では、スラグを生成するか、又は単にAl23の凝縮のみが起こったことである。石油コークスと冶金コークスは、反応してAl43を生成することはなく、殆どの場合、Al23の凝縮だけが起こった。
【0041】
実験結果からは、どの種類の炭素が、炭素熱還元に使用される蒸気回収反応器で使用されるべきかを示している。木炭、好ましくは空隙率が60容積%以上のユーカリプタス木炭は、Al23の還元により生成されたCO−Al−Al23ガスに曝されたとき、活発に反応して、Al43を生成した。高空隙率が重要である理由は、反応速度は、反応ガスが生成物層(Al43)の孔の中を拡散することによって制御されるからである。炭素からカーバイドへ変化するとき、その体積変化は大きいから、元の炭素に存在する孔は、カーバイドの結晶で塞がれてしまう。これは、SEM分析によって確認された。この体積増加に対応して、カーバイド層を所定の空隙率に保つためには、元の炭素の空隙率は、非常に高くあらねばならず、例えば50容積%又は60容積%より大きくなければならない。
【0042】
さらにまた、空隙率は、相対的に均一なものであらねばならない。試験した冶金コークスの1つは、空隙率は高いが、反応は活発に行われなかった。コークスの場合、大きな孔は僅かであり、大部分は、それほどの多孔質ではなかった。大きな孔が占める領域は、木炭と比べて少なかった。
【0043】
炭素熱還元に使用される炭素のさらなる要件として、灰の量がある。灰は、一般的に、SiO2、酸化鉄、その他の酸化物及び硫化鉄から成る。これらの酸化物及び硫化物は、工程中で還元されて鉄を生成する。この鉄は、生成品から除去することが困難である。木炭は、この灰の量に関する要件についても最も良く満たす。木炭は、グラファイトを除いて、試験したどの炭素よりも灰の量は少ない。なお、グラファイトの場合、反応が起こらず、実用的な炭素源ではない。灰の含有量は、木炭の固定炭素重量基準で、約6重量%以下、望ましくは約2重量%〜4重量%である。
【0044】
本発明の望ましい実施例を説明したが、本発明は、特許請求の範囲の範囲内で、前記実施例の他にも具体化可能であることは理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】アルミニウム製造のための炭素熱還元プロセスのシステム全体の一例を示すフローチャートである。
【図2】オフガス反応器で使用されるユーカリプタス木炭の炭素粒子の孔にAl43が進入した状態を示す拡大断面図であって、孔の少なくとも一部は開放された儘であり、反応は継続して行われ、ガス状Al2Oと炭素の反応によってAl43が生成されることを示している。
【図3】炭素サンプルの反応に用いられれる実験用設備の概略図である。
【図4】ユーカリプタス木炭について、孔の比容積と平均孔径の関係を示すグラフであり、線(100)(110)(120)(130)で囲まれる領域Aを有効範囲として示しており、線(100)と線(110)の間では、孔の容積の80%は直径0.05〜2.0ミクロン(μm)である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミナの炭素熱還元によるアルミニウムを製造する工程において、少なくとも1つの溶鉱炉で発生したオフガスから、Al含有蒸気を回収する方法であって、オフガスはCO、Al蒸気及び亜酸化アルミニウムを含んでおり:
(a)オフガスを、密閉された反応器に送給し、
(b)空隙率が約50容積%〜85容積%、かさ密度が0.4g/cm3〜0.7g/cm3の木炭を、密閉された反応器に供給し、及び
(c)木炭をオフガスと接触させて、Al43を含む生成物を生成する、
ことを含んでいる方法。
【請求項2】
木炭は平均孔径が約0.05μm〜約2.00μmである請求項1の方法。
【請求項3】
木炭の孔の比容積mm3/gと孔径μmは、図4の領域Aから選択される請求項1の方法。
【請求項4】
木炭は、ユーカリプタスの木炭である請求項1の方法。
【請求項5】
木炭は、ユーカリプタス・カマルドゥレンシス(Eucalyptus Camalduensis)である請求項1の方法。
【請求項6】
ステップ(c)において、生成されたAl43の一部が微細構造体の中へ拡散し、高密度被覆スラグ表層を生成することなく、孔の一部に進入する請求項1の方法。
【請求項7】
木炭に含まれる灰分は、木炭の固定炭素重量基準で約2%〜4%である請求項1の方法。
【請求項8】
木炭は、相互に繋がる多数の孔を有している請求項1の方法。
【請求項9】
密閉された反応器は、向流式移動床反応器である請求項1の方法。
【請求項10】
密閉された反応器は、少なくとも1つの流動床反応器である請求項1の方法。
【請求項11】
ステップ(c)において、木炭中の炭素からAl43カーバイドへの転換は85%以上である請求項1の方法。
【請求項12】
ステップ(c)で生成されたAl43は、さらなる炭素熱還元のために、少なくとも1つの溶鉱炉に戻される請求項1の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2007−513258(P2007−513258A)
【公表日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−542856(P2006−542856)
【出願日】平成16年12月2日(2004.12.2)
【国際出願番号】PCT/US2004/040784
【国際公開番号】WO2005/056843
【国際公開日】平成17年6月23日(2005.6.23)
【出願人】(500277629)アルコア インコーポレイテッド (49)
【出願人】(505334938)
【氏名又は名称原語表記】ELKEM AS
【出願人】(591236068)カーネギー−メロン ユニバーシティ (12)
【氏名又は名称原語表記】CARNEGIE−MELLON UNIVERSITY
【Fターム(参考)】