炭素繊維−導電性ポリマー複合膜およびその製造方法
【課題】低電圧にて安定した電子放出ができる炭素繊維−導電性ポリマー複合膜およびその製造方法を提供する。
【解決手段】主として、炭素繊維5と導電性ポリマー10aとから構成される炭素繊維−導電性ポリマー複合膜1であって、炭素繊維5は、溶液中にて一価の陰イオンとなる官能基と2価以上の陽イオンとがイオン結合した帯電修飾型の炭素繊維である炭素繊維−導電性ポリマー複合膜1とする。
【解決手段】主として、炭素繊維5と導電性ポリマー10aとから構成される炭素繊維−導電性ポリマー複合膜1であって、炭素繊維5は、溶液中にて一価の陰イオンとなる官能基と2価以上の陽イオンとがイオン結合した帯電修飾型の炭素繊維である炭素繊維−導電性ポリマー複合膜1とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維−導電性ポリマー複合膜およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子放出電極を用いたフラットパネルディスプレイの開発が進められている。電子放出電極の有力な材料としては、カーボンナノチューブ(Carbon Nano Tube:CNT)が挙げられる。CNTは、炭素原子が規則的に配列したグラフェンシートを巻いた円筒形状の形態を有し、その直径が1nm程度から数百nm程度、長さが0.5μmから数十μm程度の極めてアスペクト比の高い繊維である。
【0003】
CNTは、一層のグラフェンシートのみから構成された単層CNT(Single−Walled CNT、以後、「SWCNT」という。)と、複数層のグラフェンシートが同心円筒状に構成された多層CNT(Multi−Walled CNT、以後、「MWCNT」という。)に、大別される。CNTは、極めて細い繊維であるため、印加電圧が低くても多量の電子の放出が期待できる。これが、CNTを、フラットディスプレイの冷陰極として最も好適な材料とする理由である。
【0004】
電子放出電極を含む電子放出体の製造方法として、例えば、次のような方法が知られている。まず、CNTを界面活性剤および溶媒と混合し、超音波をかけながらCNT分散液を作製する。続いて、陽極と陰極とを一定の距離を離してCNT分散液内に配置し、陽極と陰極との間に接続した電源を利用して適当な電圧を与える。この結果、CNTが陰極に引かれて付着する。その後、付着した堆積物から不純物粒子を取り除くため、200〜600℃の比較的低温度で熱処理し、これを電子放出体とする(例えば、特許文献1を参照)。
【0005】
また、次のような製造方法も知られている。CNTとドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(SDS)との混合物に蒸留水を加え、十分な超音波分散を行い、ストック溶媒とする。次に、このストック溶媒を蒸留水で希釈し、導電性ポリマー入れて溶解させる。続いて、この中に電解塩を入れて、電解重合溶媒を作製する。その後、作用極としてITO透明電極、対極として白金ワイヤー、参照極としてAg/AgClを用い、電析によって、CNT−導電性ポリマー複合膜からなる電子放出体を製造する方法が知られている(例えば、特許文献2を参照)。
【特許文献1】特開2001−110303号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開2004−315786号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来の製造方法およびその製造方法により得られる電子放出体には、次のような問題がある。特許文献1に開示される電子放出体の場合には、CNT以外の不純物を除去し、CNTから構成される電子放出体の高純度化を実現できる点についてはある程度の効果が認められる。CNTの先端部分は細ければ細いほど、低電圧での高い電子放出能が期待できる。しかし、隣接するCNTのバンドル化が促進し、これによって、CNTのバンドル径が増大する。その結果、電子放出特性が劣化するという問題がある。また、CNTだけからなる電子放出体の場合、CNTと電極との接合力が弱い。このため、CNT電子放出体が電極から容易に剥離してしまうという問題もある。さらに、CNTと電極との電気的な接触が不十分であるため、再現性の高い電流密度を得ることが難しい。
【0007】
一方、特許文献2に開示される電子放出体は、CNTと電極との接合性および電気的な接触性が共に高いCNT−導電性ポリマー複合膜である。これは、導電性ポリマーがCNT−SDSと静電的に相互作用しながらSWCNTの表面で重合が進行し、生成したCNT/導電性ポリマーの複合体が電極表面になるためである。しかし、樹脂または溶媒にCNTを混合した場合、CNTは凝集しやすく、必ずしも分散性が十分とは言えない。また、CNTの配向(電極面に対して垂直に配向)も十分ではない。したがって、当該CNT−導電性ポリマー複合膜による電子放出特性が不安定であるという問題がある。また、このような製造方法により得られたCNT−導電性ポリマー複合膜の再現性は悪く、製造工程の歩留まりも低下する。
【0008】
本発明は、上記のような問題を解決するためになされたものであって、その目的とするところは、低電圧にて安定した電子放出ができる炭素繊維−導電性ポリマー複合膜およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明は、主として、炭素繊維と導電性ポリマーとから構成される炭素繊維−導電性ポリマー複合膜であって、炭素繊維が、溶液中にて一価の陰イオンとなる官能基と2価以上の陽イオンとがイオン結合した帯電修飾型の炭素繊維である炭素繊維−導電性ポリマー複合膜としている。このため、電子放出特性に優れた炭素繊維−導電性ポリマー複合膜が得られる。炭素繊維相互間の隙間には導電性ポリマーが存在しているので、炭素繊維のバンドル径が増大するという状況が生じにくい。また、炭素繊維と電極との電気的な接触も確実になる。さらに、炭素繊維に結合している上記官能基と2価以上の陽イオンとがイオン結合しているので、炭素繊維は、溶液中で正に帯電し、溶液中にて分散しやすくなる。この結果、電析により複合膜を作製する際、陰極に向かって炭素繊維を引き寄せて得られた膜は、炭素繊維が均一に分散した膜となる。
【0010】
また、別の本発明は、先の発明における官能基をカルボキシル基とする炭素繊維−導電性ポリマー複合膜としている。このため、カルボキシル基の水素と2価以上の陽イオンとが置換して、帯電修飾型の炭素繊維になりやすい。
【0011】
また、別の本発明は、先の発明における炭素繊維を、平均直径200nm以下のカーボンナノチューブとする炭素繊維−導電性ポリマー複合膜としている。このため、上述の作用・効果に加え、より低電圧で電子放出可能な電子放出体を得ることができる。
【0012】
また、別の本発明は、先の各発明における導電性ポリマーがポリチオフェンの誘導体あるいはポリフェニレンビニレンの誘導体である炭素繊維−導電性ポリマー複合膜としている。かかる導電性ポリマーを用いると、さらに高い電流密度が期待できる。特に、導電性により優れるポリチオフェンの誘導体を使用すると、炭素繊維と電極との電気的な接触が良好になり、電流密度の再現性が高まる。
【0013】
また、別の本発明は、主として、炭素繊維と導電性ポリマーとから構成される炭素繊維−導電性ポリマー複合膜の製造方法であって、溶液中にて一価の陰イオンとなる官能基と2価以上の陽イオンとがイオン結合した帯電修飾型の炭素繊維と、導電性ポリマーとを混合した電析浴の中に、陰極と陽極とを配置する電極配置工程と、陽極と陰極との間に、直流に交流を重畳させ、あるいは直流のみを流して電析を行う電析工程とを有する炭素繊維−導電性ポリマー複合膜の製造方法としている。
【0014】
このような製造方法を用いることにより、炭素繊維を溶液中にて極めて均一に分散させることができる。炭素繊維の凝集は生じにくく、バンドル径の増大を効果的に防止できる。陽極と陰極との間に、直流電源のみ、若しくは直流電源と交流電源とを繋ぐことにより、導電性ポリマー中に炭素繊維が均一分散した膜を形成できる。特に、直流に交流(例えば、kHzオーダの交流)を重畳すると、溶液中のイオンは交流に追従できないが、炭素繊維は、長さ方向に電子分極率が高く、あるいは帯電部が電場の影響を受けやすいことが起因して、電界の方向にその長軸方向を配向させる。配向させる条件としては、10Hzから1MHz程度の周波数が望ましい。特に、1kHzかそれ以上の周波数が好ましい。また、配向させるには、電圧が大きい方が好ましく、また、交流電圧の振幅を大きくする方が好ましい。直流に交流を重畳させると、溶液中の電界分布が均一になり、電極表面も均一な電界分布を持つ。このため、電極面に均一に成膜しやすくなる。
【0015】
また、別の本発明は、先の発明において、溶液中にて一価の陰イオンとなる官能基と結合する炭素繊維と導電性ポリマーとを混合して混合液を作製する混合工程と、混合液に、2価以上の陽イオンを加えて、官能基と2価以上の陽イオンとがイオン結合した帯電修飾型の炭素繊維を有する電析浴を作製する電析浴作製工程とをさらに含む炭素繊維−導電性ポリマー複合膜の製造方法としている。このため、上記作用・効果に加えて、炭素繊維の官能基における水素イオンと陽イオンとの置換が生じ、官能基と2価以上の陽イオンとがイオン結合した帯電修飾型炭素繊維を容易に得ることができる。陽イオンは2価以上のイオンなので、炭素繊維をプラスにチャージできる。
【0016】
また、別の本発明は、先の各発明における官能基をカルボキシル基とする炭素繊維−導電性ポリマー複合膜の製造方法としている。このため、カルボキシル基の水素と2価以上の陽イオンとが置換して、帯電修飾型の炭素繊維になりやすい。
【0017】
また、別の本発明は、炭素繊維を、平均直径200nm以下のカーボンナノチューブとする炭素繊維−導電性ポリマー複合膜の製造方法としている。このため、より低電圧で電子放出可能な電子放出体を得ることができる。
【0018】
また、別の本発明は、導電性ポリマーを、ポリチオフェンの誘導体あるいはポリフェニレンビニレンの誘導体とする炭素繊維−導電性ポリマー複合膜の製造方法としている。かかる導電性ポリマーを用いると、さらに高い電流密度が期待できる。特に、導電性により優れるポリチオフェンの誘導体を使用すると、炭素繊維と電極との電気的な接触が良好になり、電流密度の再現性が高まる。
【0019】
本発明に用いる炭素繊維は、平均直径200nmより太いものでも良い。また、当該炭素繊維は、中実であるか筒状であるかを問わない。筒状の炭素繊維の代表例であるCNTは、アーク放電法、化学気相成長法、レーザー・アブレーション法等によって好適に作製されるが、いずれの方法によって得られたCNTでも良い。また、溶液中にて一価の陰イオンとなる官能基と2価以上の陽イオンとがイオン結合した帯電修飾型の炭素繊維を得るためには、溶液中にて一価の陰イオンとなる官能基と結合したCNTと、2価以上の陽イオンに電離する化合物とを溶液中にて混ぜて、官能基と陽イオンとをイオン結合させるのがより好ましい。溶液中にて一価の陰イオンとなる官能基と結合したCNTとしては、例えば、カルボキシル基付き単層カーボンナノチューブ(SWCNT−COOH)の他、カルボキシル基付き2層カーボンナノチューブ(DWCNT−COOH)、カルボキシル基付き多層カーボンナノチューブ(MWCNT−COOH) 等を好適に用いることができる。その中でも特により好ましく用いられるのは、SWCNT−COOHである。さらに、カルボキシル基以外に、スルホン酸またはスルホン酸塩のように、溶液中で水素あるいはナトリウム等の陽イオンがとれて一価の陰イオンとなり得る他の官能基を付けた炭素繊維を採用しても良い。
【0020】
本発明に係る炭素繊維−導電性ポリマー複合膜に用いられる導電性ポリマーとしては、ポリチオフェン系誘導体、ポリフェニレンビニレン系誘導体、ポリピロール系誘導体、ポリアニリン系誘導体、ポリアセチレン系誘導体、ポリフェニレン系誘導体等が挙げられる。有機溶媒に可溶の導電性ポリマーであれば適用可能であるが、上記誘導体の中でも、本発明においては、特に、ポリチオフェン系誘導体およびポリフェニレンビニレン系誘導体を好適に使用できる。さらに、好ましくは、ポリチオフェン系誘導体である。ポリチオフェン系誘導体とは、ポリチオフェン構造の骨格を持つ誘導体に側鎖が付いた構造を有するものである。具体例としては、メチル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基あるいはドデシル基などのアルキル基を有するポリ−3−アルキルチオフェン(アルキル基の炭素数は特に制限はないが、好ましくは1〜12である。)、メトキシ基、エトキシ基、あるいはドデシルオキシ基などのアルコキシ基を有するポリ−3−アルコキシチオフェン(アルコキシ基の炭素数はとくに制限はないが、好ましくは1〜12である)が挙げられる。特に、アルキル基が炭素8個からなる(ポリ−3−オクチルチオフェン)を採用するのが好ましい。また、上記導電性ポリマーは、1種もしくは2種以上を用いることができる。
【0021】
本発明に係る本発明に係る炭素繊維−導電性ポリマー複合膜に用いられる陽イオンを供給可能な帯電処理剤としては、公知の電解質、例えば、硫酸、亜硫酸、硝酸や塩酸等のマグネシウム金属塩またはアルミニウム金属塩等を用いることができる。その中でも、特に、好ましいのは、塩化マグネシウムである。ただし、上述の帯電処理剤は一例に過ぎず、他の帯電処理剤を採用しても良い。なお、これらの帯電処理剤は、単独で使用しても、2種以上を併用しても良い。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、低電圧にて安定した電子放出ができる炭素繊維−導電性ポリマー複合膜およびその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下に、本発明に係る炭素繊維−導電性ポリマー複合膜およびその製造方法の好適な実施の形態について、図面を参照しながら詳しく説明する。ただし、本発明は、以下に説明する好適な実施の形態に何ら限定されるものではない。
【0024】
図1は、本発明の実施の形態に係る炭素繊維−導電性ポリマー複合膜1の断面を模式的に示す図である。
【0025】
図1に示すように、炭素繊維−導電性ポリマー複合膜1は、導電性ポリマー体(導電性ポリマー10aが堆積してできたもの)10に、カルボキシル基の水素イオンを2価以上の金属イオンで置換した官能基と結合した炭素繊維5(以後、単に、「炭素繊維5」という。)が埋め込まれ、炭素繊維5の先端が表面に露出した構造を有する。この実施の形態に係る炭素繊維−導電性ポリマー複合膜1において、導電性ポリマー体10は、炭素繊維5に対して50重量部以上900重量部以下の範囲である。導電性ポリマー体10を、炭素繊維5に対して50重量部以上とすると、放出される電子量のばらつきを小さくできる。また、導電性ポリマー体10を、炭素繊維5に対して900重量部以下とすると、放出される電子量が多くなる。
【0026】
図2は、カルボキシル基付きの炭素繊維(この実施の形態では、炭素繊維はCNTである。)5a(A)およびスルホン酸基付きの炭素繊維5a(B)を模式的に示す図である。図3は、炭素繊維5を模式的に示す図である。図4は、導電性ポリマー10aの構造式である。
【0027】
図2に示すようなカルボキシル基またはスルホン酸基付きの炭素繊維5a(以後、単に、「炭素繊維5a」という。)は、CNTを酸処理することにより製造することができる。CNTは、溶媒(水あるいは有機溶媒等)と混ぜにくいが、かかる表面装飾を施すことにより、溶媒に混ぜて容易に分散させることができる。また、図2に示す炭素繊維5aにおいて、水素イオンを2価以上の陽イオン(例えば、金属イオンであるマグネシウムイオン)と置換することによって、図3に示す炭素繊維5を製造することができる。2価以上の陽イオンは、炭素繊維5をプラスにチャージ(帯電)させるために必要である。後述する電析では、図3に示す炭素繊維5と、図4に示す導電性ポリマー10aを含む電析浴を用いる。
【0028】
次に、本発明の実施の形態に係る炭素繊維−導電性ポリマー複合膜1の製造方法について説明する。
【0029】
図5は、本発明の実施の形態に係る炭素繊維−導電性ポリマー複合膜1の製造工程を示すフローチャートである。図6、図7および図8は、それぞれ、図5のフローチャートにおける一部の工程における状態を示した概略図である。図9は、電析により陰極表面に炭素繊維−導電性ポリマー複合膜1を形成させる装置の概略図である。
【0030】
(1)炭素繊維の分散工程(ステップS101)
この実施の形態では、炭素繊維5aとして、カルボキシル基付きSWCNTを好適に用いることができる。ただし、カルボキシル基付きSWCNTに限定されず、カルボキシル基付きMWCNTを用いても良い。また、本発明に用いられる炭素繊維5aの直径は特に限定されないが、200nm以下、より好ましくは50nm以下のものが良好に使用される。炭素繊維5aの平均長さは、特に限定されない。
【0031】
炭素繊維5aを分散する溶媒としては、N,N-ジメチルホルムアミドの他、アセトン、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド等の非プロトン性極性溶媒を好適に用いることができる。特に、好ましいのは、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)である。ただし、上述の分散溶媒は一例に過ぎず、他の分散溶媒を採用しても良い。なお、分散溶媒は、一種類の分散溶媒でも、二種類以上の分散溶媒の混合物でも良い。
【0032】
炭素繊維5aの分散方法については、公知の方法を用いることができる。例えば、図6に示すように、炭素繊維5aと分散溶媒(ここでは、DMFを好適に用いる。)11をビーカー等の容器に入れて、浴槽中にて超音波分散させる方法が好適である。分散処理に際して、好ましくは、炭素繊維5aは、1Lの分散溶媒11に0.1〜20gの割合で混合される。ただし、炭素繊維5aの嵩は、その直径および長さによって変動するので、炭素繊維5aの種類に応じて分散溶媒11に混合する炭素繊維5aの量を変えるのが好ましい。
【0033】
(2)導電性ポリマーの分散工程(ステップS102)
ステップS101に続いて、導電性ポリマー10aの分散処理を行う。分散方法は、図7に示すように、ステップS101に用いられる方法と同様の方法でも良い。この実施の形態では、分散溶媒としては、トルエン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、クロロホルム等の極性有機溶媒が挙げられる。特に、トルエンを用いるのがより好ましい。ただし、上述の分散溶媒は一例に過ぎず、他の分散溶媒、例えば、ステップS101に用いられる分散溶媒を採用しても良い。また、二種類以上の分散溶媒を混合しても良い。分散処理に際して、好ましくは、導電性ポリマー10aは、1Lの分散溶媒12に0.1〜20gの割合で混合される。ただし、導電性ポリマー10aの種類に応じて分散溶媒12に混合する導電性ポリマー10aの量を変えるのが好ましい。
【0034】
(3)炭素繊維を分散させた分散溶媒と導電性ポリマーを分散させた分散溶媒との混合工程(ステップS103)
ステップS102に続いて、炭素繊維5aを分散させた分散溶媒11と導電性ポリマー10aを分散させた分散溶媒12との混合を行う。混合方法は、図8に示すように、炭素繊維5aを分散させた分散溶媒11および導電性ポリマー10aを分散させた分散溶媒12を、ビーカー等の容器に入れて、浴槽中にて超音波分散させる方法が好適である。また、導電性ポリマー10aは、炭素繊維5aに対して50重量部以上900重量部以下の範囲となるように、両分散溶媒11,12を混合するのが好ましい。
【0035】
(4)電析浴作製工程(ステップS104)
ステップS103に続いて、電析浴13の作製工程を行う。この実施の形態では、電析浴13の作製のために、帯電処理剤として塩化マグネシウムを好適に用いることができる。ただし、塩化マグネシウムは一例に過ぎず、他の種類の金属イオンを電離可能な帯電処理剤を採用しても良い。なお、帯電処理剤は、一種類でも、二種類以上の混合物でも良い。
【0036】
帯電処理剤として塩化マグネシウムを採用するのは、炭素繊維5aのカルボキシル基を構成する水素イオンをマグネシウムイオンに置換することにより、炭素繊維5aの表面電荷をプラスに帯電させるためである。この処理によって、直流電圧を低くしても、容易に成膜できるようになる。一例を挙げると、帯電処理により、直流電圧を200Vから20Vに減らしても、十分、成膜ができるようになる。また、成膜時間を短くできる。さらに、膜の均質性を向上させることもできる。なお、このステップにおける帯電処理剤の混合方法は、特に限定されない。また、帯電処理剤として金属塩を用いる以外に、電析浴13中に金属イオンを発生させる別の方法を採用しても良い。
【0037】
(5)電極配置工程(ステップS105)
ステップS104に続いて、電極の配置工程を行う。この実施の形態では、炭素繊維5a、導電性ポリマー10a、帯電処理剤および各分散溶媒11,12を入れた電析浴13中に、図9に示すように、ITO膜22を表面に付けたガラス基板20からなる陽極と、ITO膜23を表面に付けたガラス基板21からなる陰極とを所定の距離を離して対向配置する。
【0038】
(6)電析工程(ステップS106)
ステップS105に続いて、直流に交流を重畳させ、あるいは直流のみを用いた電析工程を行う。この実施の形態では、陰極と陽極との間に電圧を印加すると、直流電圧成分により、電析浴13中の炭素繊維5および導電性ポリマー10aが、電気泳動現象によって、陰極となるITO膜23に向かって移動し、その表面に付着する。その結果、ITO膜23の表面に炭素繊維−導電性ポリマー複合膜1が形成される。炭素繊維5は、電析浴13中に均一に分散しているため、炭素繊維5と導電性ポリマー10とが均一に分散した状態でITO膜23に堆積させることができる。炭素繊維5はプラスに帯電しているので、スムーズに陰極に引かれる。また、図9に示すように、直流に交流を重畳させると、溶液中のイオンは、交流に追随できず、炭素繊維5は、交流電場により長軸方向を陰極面に垂直方向に向けて配向しやすくなる。かかる状況下、直流電圧成分により、炭素繊維5は、ITO膜23に引かれて、ITO膜23の表面に対してほぼ垂直方向に配向した状態で付着する。
【0039】
以上、本発明に係る炭素繊維−導電性ポリマー複合膜1およびその製造方法の実施の形態について説明したが、本発明に係る炭素繊維−導電性ポリマー複合膜1およびその製造方法は、上述の実施の形態に限定されず、種々変形した形態にて実施可能である。
【0040】
例えば、炭素繊維5を製造するまでの工程を省き、図5に示すフローチャートにおいて、ステップS105とステップS106のみを実行することにより、炭素繊維−導電性ポリマー複合膜1を製造しても良い。また、ITO膜22,23に代えて、金等の薄膜のように導電性に優れた薄膜を用いても良い。
【実施例】
【0041】
次に、本発明の各実施例および各比較例について説明する。ただし、本発明は、以下の各実施例に限定されるものではない。
【0042】
A.炭素繊維−導電性ポリマー複合膜の製造方法
(実施例1)
炭素繊維およびそれを分散させる分散溶媒には、それぞれ、カルボキシル基付きSWCNT(直径4〜5nm、長さ0.5〜1.5μm、以後、「CNT−COOH」という) およびN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)を用いた。0.5gのCNT−COOHを1LのDMFに入れて、超音波分散処理を施した(この結果、得られた溶液を「CNT分散液」という。)。導電性ポリマーおよびそれを分散させる分散溶媒には、それぞれ、ポリチオフェン系誘導体のPoly(3-octylthiophene-2,5-diyl)(以後、P3OTという。)およびトルエンを用いた。1gのP3OTを1Lのトルエンに入れて、超音波分散処理を施した(この結果、得られた溶液を「P3OT分散液」という。)。続いて、上述のCNT分散液およびP3OT分散液を混合し、その中に、CNT−COOHに対して50重量%の塩化マグネシウムを帯電処理剤として添加した。さらに、かかる混合溶液に30mlのアセトニトリルを加えた。当該混合溶液は、超音波処理により分散性を高め、電析浴とした。上記電析浴内に、後述のように、ITOコーティングガラス基板からなる陰極と陽極とを5mmの距離を隔てて対向配置した。次に、電析浴を攪拌しながら、陽極と陰極に直流電源と交流電源を直列につなぎ、交流電圧の振幅を40V、周波数1kHz、直流電圧40Vの条件で、電圧を5秒間、印加した。
【0043】
(実施例2)
導電性ポリマーおよびその分散溶媒として、それぞれ、0.25gのP3OTおよび1Lのトルエンを用いた以外は、実施例1と同じ条件で電析処理を行った。
【0044】
(実施例3)
導電性ポリマーおよびその分散溶媒として、それぞれ、0.5gのP3OTおよび1Lのトルエンを用いた以外は、実施例1と同じ条件で電析処理を行った。
【0045】
(実施例4)
導電性ポリマーおよびその分散溶媒として、それぞれ、0.75gのP3OTおよび1Lのトルエンを用いた以外は、実施例1と同じ条件で電析処理を行った。
【0046】
(実施例5)
導電性ポリマーおよびその分散溶媒として、それぞれ、1.5gのP3OTおよび1Lのトルエンを用いた以外は、実施例1と同じ条件で電析処理を行った。
【0047】
(実施例6)
直流電源のみを用いた以外は、実施例1と同じ条件で電析処理を行った。
【0048】
(比較例1)
カルボキシル基を付けていないSWCNT(直径2〜5nm、長さ1.2〜1.5μm、以後、「CNT」という。)を用い、また、陽極と陰極との間に交流電源と直流電源とを直列につなぎ、電圧200Vの条件で1分間、電流を流した以外は、実施例1と同じ条件で電析処理を行った。
【0049】
(比較例2)
CNTを用い、また、陽極と陰極との間に直流電源をつなぎ、電圧200Vの条件で1分間、電流を流した以外は、実施例1と同じ条件で電析処理を行った。
【0050】
B.炭素繊維−導電性ポリマー複合膜の特性評価方法
得られた炭素繊維−導電性ポリマー複合膜の外観を目視で調べた。また、炭素繊維−導電性ポリマー複合膜の電子放出特性を調べるため、次のような測定方法を採用した。
【0051】
図10は、炭素繊維−導電性ポリマー複合膜の電流密度を測定する状態を示す断面図である。図11は、図10に示す測定状態を示す斜視図である。以下、図10および図11に基づいて説明する際にのみ、図中の符号を使用して説明する。
【0052】
図10および図11に示すように、ガラス基板21の表面には、幅約2mmの細長いITO膜23が形成されており、その表面に炭素繊維−導電性ポリマー複合膜(導電性ポリマー体10および炭素繊維5からなる。)が付いている。また、幅約5mmの細長いITO膜25を付けたガラス基板24を、ITO膜23とITO膜25とが互いに直交する向きで、上記ガラス基板21から約40μmの距離を離して対向配置した。40μmの距離を確保するため、上記2枚のガラス基板21,24の間に、厚さ約40μmのPETフィルム30を狭持した。上記の構成を有する測定対象物を、10−6Torrの真空下におき、電子放出特性の評価を行った。ガラス基板21上のITO膜23とガラス基板24上のITO膜25から、それぞれ配線を伸ばして、電源40と接続した。また、配線の途中には、電流計41を繋ぎ、電子放出により流れる電流値を測定した。
【0053】
C.炭素繊維−導電性ポリマー複合膜の特性評価結果および考察
図12は、実施例1、比較例1および比較例2の条件にて製造した炭素繊維−導電性ポリマー複合膜(各1対)の写真を示す(左(SWCNT,DC):比較例2、中央(SWCNT,DC+AC):比較例1、右(SWCNT−COOH,DC+AC):実施例1)。図13は、実施例1および実施例6の各条件で製造した炭素繊維−導電性ポリマー複合膜の電子放出特性を比較して示すグラフである。図14は、実施例1および比較例1の条件にて得られた炭素繊維−導電性ポリマー複合膜の電子放出特性を示すグラフである。図15は、実施例1および比較例1の条件にて得られた炭素繊維−導電性ポリマー複合膜の電流−時間特性を示すグラフである。
【0054】
図12に示すように、実施例1の条件にて得られた炭素繊維−導電性ポリマー複合膜は、カルボキシル基付きSWCNTおよび帯電処理剤を用いたため、複合膜は、極めて良好に付着した。一方、比較例1および比較例2の条件にて得られた炭素繊維−導電性ポリマー複合膜は、カルボキシル基を付けていないSWCNTを用いたため、直流に交流を重畳させた場合あるいは直流のみの場合のいずれの条件でも、複合膜の付着は悪かった。
【0055】
また、図13に示すように、実施例1の条件で製造した炭素繊維−導電性ポリマー複合膜の方が、実施例6の条件で製造した炭素繊維−導電性ポリマー複合膜に比べて、より低電圧で電子放出が開始するという結果、および同じ電圧で比較すると電子放出量が多いという結果が得られた。この結果から、直流に交流を重畳すると、SWCNTが膜の面に垂直方向に配向しやすく、そのために、同じ電圧で比較すると電子放出量がより高くなると考えられる。
【0056】
また、図14に示すように、実施例1の場合には、CNT−COOHおよび帯電処理の採用により、複合膜の電子放出性のばらつきは低減され、より低電圧にて、再現良く電子を放出する結果が得られた。また、図15に示すように、実施例1の条件にて得られた炭素繊維−導電性ポリマー複合膜の場合には、電子放出量は、最初の段階で若干低下したが、数十分後には、電子放出量が安定した。一方、比較例1の条件にて得られた炭素繊維−導電性ポリマー複合膜の場合には、電子放出量は数分で急激に低下し、1時間後には最初の段階の電子放出量の約100分の1にまで減少した。これは、CNT−COOHを用いると、その溶媒中における分散性が向上し、加えて、帯電処理により、CNTは電析に好適な帯電状態となったために、CNTが膜の堆積方向に配向し、かつ膜中に均一分散した炭素繊維−導電性ポリマー複合膜ができたことに起因すると考えられる。
【0057】
図16は、実施例1〜5の各条件にて得られた炭素繊維−導電性ポリマー複合膜の電子放出特性を示すグラフである。
【0058】
図16に示すように、実施例1〜5の各条件にて得られた各炭素繊維−導電性ポリマー複合膜を比較すると、実施例1、3および4の条件で得られた炭素繊維−導電性ポリマー複合膜の電子放出特性は、他の条件で得られたものの特性に比べ、より低電解での電流密度の上昇および安定した電子放出がみられた。このような結果から、炭素繊維−導電性ポリマー複合膜の配合率としては、炭素繊維に対して、導電性ポリマーが100重量部以上200重量部とするのが、特に好ましいと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、炭素繊維−導電性ポリマー複合膜を製造あるいは使用する産業において利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の実施の形態に係る炭素繊維−導電性ポリマー複合膜の断面を模式的に示す図である。
【図2】図1に示す炭素繊維−導電性ポリマー複合膜の作製に用いられるカルボキシル基が付いた炭素繊維(A)およびスルホン酸基が付いた炭素繊維(B)を示す模式図である。
【図3】図1に示す炭素繊維を模式的に示す図である。
【図4】図1に示す導電性ポリマー体を製造するために用いられる導電性ポリマーの構造式である。
【図5】本発明の実施の形態に係る炭素繊維−導電性ポリマー複合膜の製造工程を示すフローチャートである。
【図6】図5に示す工程の一部において、カルボキシル基が付いた炭素繊維を溶媒に分散させた状況を示す概略図である。
【図7】図5に示す工程の一部において、導電性ポリマーを溶媒に分散させた状況を示す概略図である。
【図8】図5に示す工程の一部において、カルボキシル基が付いた炭素繊維を溶媒に分散させた分散溶媒と、導電性ポリマーを分散させた分散溶媒とを混合した状況を示す概略図である。
【図9】電析により陰極表面に炭素繊維−導電性ポリマー複合膜を形成させるための装置の概略図である。
【図10】本発明の実施例において、各種の条件で作製した炭素繊維−導電性ポリマー複合膜の電子放出特性を測定する測定装置の断面図である。
【図11】図10の斜視図である。
【図12】実施例1、比較例1および比較例2の条件にて製造した炭素繊維−導電性ポリマー複合膜の写真を示す。
【図13】実施例1および実施例6の条件にて得られた炭素繊維−導電性ポリマー複合膜の電子放出特性を示すグラフである。
【図14】実施例1および比較例1の条件にて得られた炭素繊維−導電性ポリマー複合膜の電子放出特性を示すグラフである。
【図15】実施例1および比較例1の条件にて得られた炭素繊維−導電性ポリマー複合膜の電流−時間特性を示すグラフである。
【図16】実施例1〜5の各条件にて得られた炭素繊維−導電性ポリマー複合膜の電子放出特性を示すグラフである。
【符号の説明】
【0061】
1 炭素繊維−導電性ポリマー複合膜
5 炭素繊維(溶液中にて一価の陰イオンとなる官能基と2価以上の陽イオンとがイオン結合した帯電修飾型の炭素繊維)
5a 炭素繊維(溶液中にて一価の陰イオンとなる官能基付きの炭素繊維)
10 導電性ポリマー体
10a 導電性ポリマー
11 分散溶媒
12 分散溶媒
13 電析浴
20,21 ガラス基板
22,23 ITO膜
24 ガラス基板
25 ITO膜
30 PETフィルム
40 電源
41 電流計
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維−導電性ポリマー複合膜およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子放出電極を用いたフラットパネルディスプレイの開発が進められている。電子放出電極の有力な材料としては、カーボンナノチューブ(Carbon Nano Tube:CNT)が挙げられる。CNTは、炭素原子が規則的に配列したグラフェンシートを巻いた円筒形状の形態を有し、その直径が1nm程度から数百nm程度、長さが0.5μmから数十μm程度の極めてアスペクト比の高い繊維である。
【0003】
CNTは、一層のグラフェンシートのみから構成された単層CNT(Single−Walled CNT、以後、「SWCNT」という。)と、複数層のグラフェンシートが同心円筒状に構成された多層CNT(Multi−Walled CNT、以後、「MWCNT」という。)に、大別される。CNTは、極めて細い繊維であるため、印加電圧が低くても多量の電子の放出が期待できる。これが、CNTを、フラットディスプレイの冷陰極として最も好適な材料とする理由である。
【0004】
電子放出電極を含む電子放出体の製造方法として、例えば、次のような方法が知られている。まず、CNTを界面活性剤および溶媒と混合し、超音波をかけながらCNT分散液を作製する。続いて、陽極と陰極とを一定の距離を離してCNT分散液内に配置し、陽極と陰極との間に接続した電源を利用して適当な電圧を与える。この結果、CNTが陰極に引かれて付着する。その後、付着した堆積物から不純物粒子を取り除くため、200〜600℃の比較的低温度で熱処理し、これを電子放出体とする(例えば、特許文献1を参照)。
【0005】
また、次のような製造方法も知られている。CNTとドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(SDS)との混合物に蒸留水を加え、十分な超音波分散を行い、ストック溶媒とする。次に、このストック溶媒を蒸留水で希釈し、導電性ポリマー入れて溶解させる。続いて、この中に電解塩を入れて、電解重合溶媒を作製する。その後、作用極としてITO透明電極、対極として白金ワイヤー、参照極としてAg/AgClを用い、電析によって、CNT−導電性ポリマー複合膜からなる電子放出体を製造する方法が知られている(例えば、特許文献2を参照)。
【特許文献1】特開2001−110303号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開2004−315786号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来の製造方法およびその製造方法により得られる電子放出体には、次のような問題がある。特許文献1に開示される電子放出体の場合には、CNT以外の不純物を除去し、CNTから構成される電子放出体の高純度化を実現できる点についてはある程度の効果が認められる。CNTの先端部分は細ければ細いほど、低電圧での高い電子放出能が期待できる。しかし、隣接するCNTのバンドル化が促進し、これによって、CNTのバンドル径が増大する。その結果、電子放出特性が劣化するという問題がある。また、CNTだけからなる電子放出体の場合、CNTと電極との接合力が弱い。このため、CNT電子放出体が電極から容易に剥離してしまうという問題もある。さらに、CNTと電極との電気的な接触が不十分であるため、再現性の高い電流密度を得ることが難しい。
【0007】
一方、特許文献2に開示される電子放出体は、CNTと電極との接合性および電気的な接触性が共に高いCNT−導電性ポリマー複合膜である。これは、導電性ポリマーがCNT−SDSと静電的に相互作用しながらSWCNTの表面で重合が進行し、生成したCNT/導電性ポリマーの複合体が電極表面になるためである。しかし、樹脂または溶媒にCNTを混合した場合、CNTは凝集しやすく、必ずしも分散性が十分とは言えない。また、CNTの配向(電極面に対して垂直に配向)も十分ではない。したがって、当該CNT−導電性ポリマー複合膜による電子放出特性が不安定であるという問題がある。また、このような製造方法により得られたCNT−導電性ポリマー複合膜の再現性は悪く、製造工程の歩留まりも低下する。
【0008】
本発明は、上記のような問題を解決するためになされたものであって、その目的とするところは、低電圧にて安定した電子放出ができる炭素繊維−導電性ポリマー複合膜およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明は、主として、炭素繊維と導電性ポリマーとから構成される炭素繊維−導電性ポリマー複合膜であって、炭素繊維が、溶液中にて一価の陰イオンとなる官能基と2価以上の陽イオンとがイオン結合した帯電修飾型の炭素繊維である炭素繊維−導電性ポリマー複合膜としている。このため、電子放出特性に優れた炭素繊維−導電性ポリマー複合膜が得られる。炭素繊維相互間の隙間には導電性ポリマーが存在しているので、炭素繊維のバンドル径が増大するという状況が生じにくい。また、炭素繊維と電極との電気的な接触も確実になる。さらに、炭素繊維に結合している上記官能基と2価以上の陽イオンとがイオン結合しているので、炭素繊維は、溶液中で正に帯電し、溶液中にて分散しやすくなる。この結果、電析により複合膜を作製する際、陰極に向かって炭素繊維を引き寄せて得られた膜は、炭素繊維が均一に分散した膜となる。
【0010】
また、別の本発明は、先の発明における官能基をカルボキシル基とする炭素繊維−導電性ポリマー複合膜としている。このため、カルボキシル基の水素と2価以上の陽イオンとが置換して、帯電修飾型の炭素繊維になりやすい。
【0011】
また、別の本発明は、先の発明における炭素繊維を、平均直径200nm以下のカーボンナノチューブとする炭素繊維−導電性ポリマー複合膜としている。このため、上述の作用・効果に加え、より低電圧で電子放出可能な電子放出体を得ることができる。
【0012】
また、別の本発明は、先の各発明における導電性ポリマーがポリチオフェンの誘導体あるいはポリフェニレンビニレンの誘導体である炭素繊維−導電性ポリマー複合膜としている。かかる導電性ポリマーを用いると、さらに高い電流密度が期待できる。特に、導電性により優れるポリチオフェンの誘導体を使用すると、炭素繊維と電極との電気的な接触が良好になり、電流密度の再現性が高まる。
【0013】
また、別の本発明は、主として、炭素繊維と導電性ポリマーとから構成される炭素繊維−導電性ポリマー複合膜の製造方法であって、溶液中にて一価の陰イオンとなる官能基と2価以上の陽イオンとがイオン結合した帯電修飾型の炭素繊維と、導電性ポリマーとを混合した電析浴の中に、陰極と陽極とを配置する電極配置工程と、陽極と陰極との間に、直流に交流を重畳させ、あるいは直流のみを流して電析を行う電析工程とを有する炭素繊維−導電性ポリマー複合膜の製造方法としている。
【0014】
このような製造方法を用いることにより、炭素繊維を溶液中にて極めて均一に分散させることができる。炭素繊維の凝集は生じにくく、バンドル径の増大を効果的に防止できる。陽極と陰極との間に、直流電源のみ、若しくは直流電源と交流電源とを繋ぐことにより、導電性ポリマー中に炭素繊維が均一分散した膜を形成できる。特に、直流に交流(例えば、kHzオーダの交流)を重畳すると、溶液中のイオンは交流に追従できないが、炭素繊維は、長さ方向に電子分極率が高く、あるいは帯電部が電場の影響を受けやすいことが起因して、電界の方向にその長軸方向を配向させる。配向させる条件としては、10Hzから1MHz程度の周波数が望ましい。特に、1kHzかそれ以上の周波数が好ましい。また、配向させるには、電圧が大きい方が好ましく、また、交流電圧の振幅を大きくする方が好ましい。直流に交流を重畳させると、溶液中の電界分布が均一になり、電極表面も均一な電界分布を持つ。このため、電極面に均一に成膜しやすくなる。
【0015】
また、別の本発明は、先の発明において、溶液中にて一価の陰イオンとなる官能基と結合する炭素繊維と導電性ポリマーとを混合して混合液を作製する混合工程と、混合液に、2価以上の陽イオンを加えて、官能基と2価以上の陽イオンとがイオン結合した帯電修飾型の炭素繊維を有する電析浴を作製する電析浴作製工程とをさらに含む炭素繊維−導電性ポリマー複合膜の製造方法としている。このため、上記作用・効果に加えて、炭素繊維の官能基における水素イオンと陽イオンとの置換が生じ、官能基と2価以上の陽イオンとがイオン結合した帯電修飾型炭素繊維を容易に得ることができる。陽イオンは2価以上のイオンなので、炭素繊維をプラスにチャージできる。
【0016】
また、別の本発明は、先の各発明における官能基をカルボキシル基とする炭素繊維−導電性ポリマー複合膜の製造方法としている。このため、カルボキシル基の水素と2価以上の陽イオンとが置換して、帯電修飾型の炭素繊維になりやすい。
【0017】
また、別の本発明は、炭素繊維を、平均直径200nm以下のカーボンナノチューブとする炭素繊維−導電性ポリマー複合膜の製造方法としている。このため、より低電圧で電子放出可能な電子放出体を得ることができる。
【0018】
また、別の本発明は、導電性ポリマーを、ポリチオフェンの誘導体あるいはポリフェニレンビニレンの誘導体とする炭素繊維−導電性ポリマー複合膜の製造方法としている。かかる導電性ポリマーを用いると、さらに高い電流密度が期待できる。特に、導電性により優れるポリチオフェンの誘導体を使用すると、炭素繊維と電極との電気的な接触が良好になり、電流密度の再現性が高まる。
【0019】
本発明に用いる炭素繊維は、平均直径200nmより太いものでも良い。また、当該炭素繊維は、中実であるか筒状であるかを問わない。筒状の炭素繊維の代表例であるCNTは、アーク放電法、化学気相成長法、レーザー・アブレーション法等によって好適に作製されるが、いずれの方法によって得られたCNTでも良い。また、溶液中にて一価の陰イオンとなる官能基と2価以上の陽イオンとがイオン結合した帯電修飾型の炭素繊維を得るためには、溶液中にて一価の陰イオンとなる官能基と結合したCNTと、2価以上の陽イオンに電離する化合物とを溶液中にて混ぜて、官能基と陽イオンとをイオン結合させるのがより好ましい。溶液中にて一価の陰イオンとなる官能基と結合したCNTとしては、例えば、カルボキシル基付き単層カーボンナノチューブ(SWCNT−COOH)の他、カルボキシル基付き2層カーボンナノチューブ(DWCNT−COOH)、カルボキシル基付き多層カーボンナノチューブ(MWCNT−COOH) 等を好適に用いることができる。その中でも特により好ましく用いられるのは、SWCNT−COOHである。さらに、カルボキシル基以外に、スルホン酸またはスルホン酸塩のように、溶液中で水素あるいはナトリウム等の陽イオンがとれて一価の陰イオンとなり得る他の官能基を付けた炭素繊維を採用しても良い。
【0020】
本発明に係る炭素繊維−導電性ポリマー複合膜に用いられる導電性ポリマーとしては、ポリチオフェン系誘導体、ポリフェニレンビニレン系誘導体、ポリピロール系誘導体、ポリアニリン系誘導体、ポリアセチレン系誘導体、ポリフェニレン系誘導体等が挙げられる。有機溶媒に可溶の導電性ポリマーであれば適用可能であるが、上記誘導体の中でも、本発明においては、特に、ポリチオフェン系誘導体およびポリフェニレンビニレン系誘導体を好適に使用できる。さらに、好ましくは、ポリチオフェン系誘導体である。ポリチオフェン系誘導体とは、ポリチオフェン構造の骨格を持つ誘導体に側鎖が付いた構造を有するものである。具体例としては、メチル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基あるいはドデシル基などのアルキル基を有するポリ−3−アルキルチオフェン(アルキル基の炭素数は特に制限はないが、好ましくは1〜12である。)、メトキシ基、エトキシ基、あるいはドデシルオキシ基などのアルコキシ基を有するポリ−3−アルコキシチオフェン(アルコキシ基の炭素数はとくに制限はないが、好ましくは1〜12である)が挙げられる。特に、アルキル基が炭素8個からなる(ポリ−3−オクチルチオフェン)を採用するのが好ましい。また、上記導電性ポリマーは、1種もしくは2種以上を用いることができる。
【0021】
本発明に係る本発明に係る炭素繊維−導電性ポリマー複合膜に用いられる陽イオンを供給可能な帯電処理剤としては、公知の電解質、例えば、硫酸、亜硫酸、硝酸や塩酸等のマグネシウム金属塩またはアルミニウム金属塩等を用いることができる。その中でも、特に、好ましいのは、塩化マグネシウムである。ただし、上述の帯電処理剤は一例に過ぎず、他の帯電処理剤を採用しても良い。なお、これらの帯電処理剤は、単独で使用しても、2種以上を併用しても良い。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、低電圧にて安定した電子放出ができる炭素繊維−導電性ポリマー複合膜およびその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下に、本発明に係る炭素繊維−導電性ポリマー複合膜およびその製造方法の好適な実施の形態について、図面を参照しながら詳しく説明する。ただし、本発明は、以下に説明する好適な実施の形態に何ら限定されるものではない。
【0024】
図1は、本発明の実施の形態に係る炭素繊維−導電性ポリマー複合膜1の断面を模式的に示す図である。
【0025】
図1に示すように、炭素繊維−導電性ポリマー複合膜1は、導電性ポリマー体(導電性ポリマー10aが堆積してできたもの)10に、カルボキシル基の水素イオンを2価以上の金属イオンで置換した官能基と結合した炭素繊維5(以後、単に、「炭素繊維5」という。)が埋め込まれ、炭素繊維5の先端が表面に露出した構造を有する。この実施の形態に係る炭素繊維−導電性ポリマー複合膜1において、導電性ポリマー体10は、炭素繊維5に対して50重量部以上900重量部以下の範囲である。導電性ポリマー体10を、炭素繊維5に対して50重量部以上とすると、放出される電子量のばらつきを小さくできる。また、導電性ポリマー体10を、炭素繊維5に対して900重量部以下とすると、放出される電子量が多くなる。
【0026】
図2は、カルボキシル基付きの炭素繊維(この実施の形態では、炭素繊維はCNTである。)5a(A)およびスルホン酸基付きの炭素繊維5a(B)を模式的に示す図である。図3は、炭素繊維5を模式的に示す図である。図4は、導電性ポリマー10aの構造式である。
【0027】
図2に示すようなカルボキシル基またはスルホン酸基付きの炭素繊維5a(以後、単に、「炭素繊維5a」という。)は、CNTを酸処理することにより製造することができる。CNTは、溶媒(水あるいは有機溶媒等)と混ぜにくいが、かかる表面装飾を施すことにより、溶媒に混ぜて容易に分散させることができる。また、図2に示す炭素繊維5aにおいて、水素イオンを2価以上の陽イオン(例えば、金属イオンであるマグネシウムイオン)と置換することによって、図3に示す炭素繊維5を製造することができる。2価以上の陽イオンは、炭素繊維5をプラスにチャージ(帯電)させるために必要である。後述する電析では、図3に示す炭素繊維5と、図4に示す導電性ポリマー10aを含む電析浴を用いる。
【0028】
次に、本発明の実施の形態に係る炭素繊維−導電性ポリマー複合膜1の製造方法について説明する。
【0029】
図5は、本発明の実施の形態に係る炭素繊維−導電性ポリマー複合膜1の製造工程を示すフローチャートである。図6、図7および図8は、それぞれ、図5のフローチャートにおける一部の工程における状態を示した概略図である。図9は、電析により陰極表面に炭素繊維−導電性ポリマー複合膜1を形成させる装置の概略図である。
【0030】
(1)炭素繊維の分散工程(ステップS101)
この実施の形態では、炭素繊維5aとして、カルボキシル基付きSWCNTを好適に用いることができる。ただし、カルボキシル基付きSWCNTに限定されず、カルボキシル基付きMWCNTを用いても良い。また、本発明に用いられる炭素繊維5aの直径は特に限定されないが、200nm以下、より好ましくは50nm以下のものが良好に使用される。炭素繊維5aの平均長さは、特に限定されない。
【0031】
炭素繊維5aを分散する溶媒としては、N,N-ジメチルホルムアミドの他、アセトン、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド等の非プロトン性極性溶媒を好適に用いることができる。特に、好ましいのは、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)である。ただし、上述の分散溶媒は一例に過ぎず、他の分散溶媒を採用しても良い。なお、分散溶媒は、一種類の分散溶媒でも、二種類以上の分散溶媒の混合物でも良い。
【0032】
炭素繊維5aの分散方法については、公知の方法を用いることができる。例えば、図6に示すように、炭素繊維5aと分散溶媒(ここでは、DMFを好適に用いる。)11をビーカー等の容器に入れて、浴槽中にて超音波分散させる方法が好適である。分散処理に際して、好ましくは、炭素繊維5aは、1Lの分散溶媒11に0.1〜20gの割合で混合される。ただし、炭素繊維5aの嵩は、その直径および長さによって変動するので、炭素繊維5aの種類に応じて分散溶媒11に混合する炭素繊維5aの量を変えるのが好ましい。
【0033】
(2)導電性ポリマーの分散工程(ステップS102)
ステップS101に続いて、導電性ポリマー10aの分散処理を行う。分散方法は、図7に示すように、ステップS101に用いられる方法と同様の方法でも良い。この実施の形態では、分散溶媒としては、トルエン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、クロロホルム等の極性有機溶媒が挙げられる。特に、トルエンを用いるのがより好ましい。ただし、上述の分散溶媒は一例に過ぎず、他の分散溶媒、例えば、ステップS101に用いられる分散溶媒を採用しても良い。また、二種類以上の分散溶媒を混合しても良い。分散処理に際して、好ましくは、導電性ポリマー10aは、1Lの分散溶媒12に0.1〜20gの割合で混合される。ただし、導電性ポリマー10aの種類に応じて分散溶媒12に混合する導電性ポリマー10aの量を変えるのが好ましい。
【0034】
(3)炭素繊維を分散させた分散溶媒と導電性ポリマーを分散させた分散溶媒との混合工程(ステップS103)
ステップS102に続いて、炭素繊維5aを分散させた分散溶媒11と導電性ポリマー10aを分散させた分散溶媒12との混合を行う。混合方法は、図8に示すように、炭素繊維5aを分散させた分散溶媒11および導電性ポリマー10aを分散させた分散溶媒12を、ビーカー等の容器に入れて、浴槽中にて超音波分散させる方法が好適である。また、導電性ポリマー10aは、炭素繊維5aに対して50重量部以上900重量部以下の範囲となるように、両分散溶媒11,12を混合するのが好ましい。
【0035】
(4)電析浴作製工程(ステップS104)
ステップS103に続いて、電析浴13の作製工程を行う。この実施の形態では、電析浴13の作製のために、帯電処理剤として塩化マグネシウムを好適に用いることができる。ただし、塩化マグネシウムは一例に過ぎず、他の種類の金属イオンを電離可能な帯電処理剤を採用しても良い。なお、帯電処理剤は、一種類でも、二種類以上の混合物でも良い。
【0036】
帯電処理剤として塩化マグネシウムを採用するのは、炭素繊維5aのカルボキシル基を構成する水素イオンをマグネシウムイオンに置換することにより、炭素繊維5aの表面電荷をプラスに帯電させるためである。この処理によって、直流電圧を低くしても、容易に成膜できるようになる。一例を挙げると、帯電処理により、直流電圧を200Vから20Vに減らしても、十分、成膜ができるようになる。また、成膜時間を短くできる。さらに、膜の均質性を向上させることもできる。なお、このステップにおける帯電処理剤の混合方法は、特に限定されない。また、帯電処理剤として金属塩を用いる以外に、電析浴13中に金属イオンを発生させる別の方法を採用しても良い。
【0037】
(5)電極配置工程(ステップS105)
ステップS104に続いて、電極の配置工程を行う。この実施の形態では、炭素繊維5a、導電性ポリマー10a、帯電処理剤および各分散溶媒11,12を入れた電析浴13中に、図9に示すように、ITO膜22を表面に付けたガラス基板20からなる陽極と、ITO膜23を表面に付けたガラス基板21からなる陰極とを所定の距離を離して対向配置する。
【0038】
(6)電析工程(ステップS106)
ステップS105に続いて、直流に交流を重畳させ、あるいは直流のみを用いた電析工程を行う。この実施の形態では、陰極と陽極との間に電圧を印加すると、直流電圧成分により、電析浴13中の炭素繊維5および導電性ポリマー10aが、電気泳動現象によって、陰極となるITO膜23に向かって移動し、その表面に付着する。その結果、ITO膜23の表面に炭素繊維−導電性ポリマー複合膜1が形成される。炭素繊維5は、電析浴13中に均一に分散しているため、炭素繊維5と導電性ポリマー10とが均一に分散した状態でITO膜23に堆積させることができる。炭素繊維5はプラスに帯電しているので、スムーズに陰極に引かれる。また、図9に示すように、直流に交流を重畳させると、溶液中のイオンは、交流に追随できず、炭素繊維5は、交流電場により長軸方向を陰極面に垂直方向に向けて配向しやすくなる。かかる状況下、直流電圧成分により、炭素繊維5は、ITO膜23に引かれて、ITO膜23の表面に対してほぼ垂直方向に配向した状態で付着する。
【0039】
以上、本発明に係る炭素繊維−導電性ポリマー複合膜1およびその製造方法の実施の形態について説明したが、本発明に係る炭素繊維−導電性ポリマー複合膜1およびその製造方法は、上述の実施の形態に限定されず、種々変形した形態にて実施可能である。
【0040】
例えば、炭素繊維5を製造するまでの工程を省き、図5に示すフローチャートにおいて、ステップS105とステップS106のみを実行することにより、炭素繊維−導電性ポリマー複合膜1を製造しても良い。また、ITO膜22,23に代えて、金等の薄膜のように導電性に優れた薄膜を用いても良い。
【実施例】
【0041】
次に、本発明の各実施例および各比較例について説明する。ただし、本発明は、以下の各実施例に限定されるものではない。
【0042】
A.炭素繊維−導電性ポリマー複合膜の製造方法
(実施例1)
炭素繊維およびそれを分散させる分散溶媒には、それぞれ、カルボキシル基付きSWCNT(直径4〜5nm、長さ0.5〜1.5μm、以後、「CNT−COOH」という) およびN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)を用いた。0.5gのCNT−COOHを1LのDMFに入れて、超音波分散処理を施した(この結果、得られた溶液を「CNT分散液」という。)。導電性ポリマーおよびそれを分散させる分散溶媒には、それぞれ、ポリチオフェン系誘導体のPoly(3-octylthiophene-2,5-diyl)(以後、P3OTという。)およびトルエンを用いた。1gのP3OTを1Lのトルエンに入れて、超音波分散処理を施した(この結果、得られた溶液を「P3OT分散液」という。)。続いて、上述のCNT分散液およびP3OT分散液を混合し、その中に、CNT−COOHに対して50重量%の塩化マグネシウムを帯電処理剤として添加した。さらに、かかる混合溶液に30mlのアセトニトリルを加えた。当該混合溶液は、超音波処理により分散性を高め、電析浴とした。上記電析浴内に、後述のように、ITOコーティングガラス基板からなる陰極と陽極とを5mmの距離を隔てて対向配置した。次に、電析浴を攪拌しながら、陽極と陰極に直流電源と交流電源を直列につなぎ、交流電圧の振幅を40V、周波数1kHz、直流電圧40Vの条件で、電圧を5秒間、印加した。
【0043】
(実施例2)
導電性ポリマーおよびその分散溶媒として、それぞれ、0.25gのP3OTおよび1Lのトルエンを用いた以外は、実施例1と同じ条件で電析処理を行った。
【0044】
(実施例3)
導電性ポリマーおよびその分散溶媒として、それぞれ、0.5gのP3OTおよび1Lのトルエンを用いた以外は、実施例1と同じ条件で電析処理を行った。
【0045】
(実施例4)
導電性ポリマーおよびその分散溶媒として、それぞれ、0.75gのP3OTおよび1Lのトルエンを用いた以外は、実施例1と同じ条件で電析処理を行った。
【0046】
(実施例5)
導電性ポリマーおよびその分散溶媒として、それぞれ、1.5gのP3OTおよび1Lのトルエンを用いた以外は、実施例1と同じ条件で電析処理を行った。
【0047】
(実施例6)
直流電源のみを用いた以外は、実施例1と同じ条件で電析処理を行った。
【0048】
(比較例1)
カルボキシル基を付けていないSWCNT(直径2〜5nm、長さ1.2〜1.5μm、以後、「CNT」という。)を用い、また、陽極と陰極との間に交流電源と直流電源とを直列につなぎ、電圧200Vの条件で1分間、電流を流した以外は、実施例1と同じ条件で電析処理を行った。
【0049】
(比較例2)
CNTを用い、また、陽極と陰極との間に直流電源をつなぎ、電圧200Vの条件で1分間、電流を流した以外は、実施例1と同じ条件で電析処理を行った。
【0050】
B.炭素繊維−導電性ポリマー複合膜の特性評価方法
得られた炭素繊維−導電性ポリマー複合膜の外観を目視で調べた。また、炭素繊維−導電性ポリマー複合膜の電子放出特性を調べるため、次のような測定方法を採用した。
【0051】
図10は、炭素繊維−導電性ポリマー複合膜の電流密度を測定する状態を示す断面図である。図11は、図10に示す測定状態を示す斜視図である。以下、図10および図11に基づいて説明する際にのみ、図中の符号を使用して説明する。
【0052】
図10および図11に示すように、ガラス基板21の表面には、幅約2mmの細長いITO膜23が形成されており、その表面に炭素繊維−導電性ポリマー複合膜(導電性ポリマー体10および炭素繊維5からなる。)が付いている。また、幅約5mmの細長いITO膜25を付けたガラス基板24を、ITO膜23とITO膜25とが互いに直交する向きで、上記ガラス基板21から約40μmの距離を離して対向配置した。40μmの距離を確保するため、上記2枚のガラス基板21,24の間に、厚さ約40μmのPETフィルム30を狭持した。上記の構成を有する測定対象物を、10−6Torrの真空下におき、電子放出特性の評価を行った。ガラス基板21上のITO膜23とガラス基板24上のITO膜25から、それぞれ配線を伸ばして、電源40と接続した。また、配線の途中には、電流計41を繋ぎ、電子放出により流れる電流値を測定した。
【0053】
C.炭素繊維−導電性ポリマー複合膜の特性評価結果および考察
図12は、実施例1、比較例1および比較例2の条件にて製造した炭素繊維−導電性ポリマー複合膜(各1対)の写真を示す(左(SWCNT,DC):比較例2、中央(SWCNT,DC+AC):比較例1、右(SWCNT−COOH,DC+AC):実施例1)。図13は、実施例1および実施例6の各条件で製造した炭素繊維−導電性ポリマー複合膜の電子放出特性を比較して示すグラフである。図14は、実施例1および比較例1の条件にて得られた炭素繊維−導電性ポリマー複合膜の電子放出特性を示すグラフである。図15は、実施例1および比較例1の条件にて得られた炭素繊維−導電性ポリマー複合膜の電流−時間特性を示すグラフである。
【0054】
図12に示すように、実施例1の条件にて得られた炭素繊維−導電性ポリマー複合膜は、カルボキシル基付きSWCNTおよび帯電処理剤を用いたため、複合膜は、極めて良好に付着した。一方、比較例1および比較例2の条件にて得られた炭素繊維−導電性ポリマー複合膜は、カルボキシル基を付けていないSWCNTを用いたため、直流に交流を重畳させた場合あるいは直流のみの場合のいずれの条件でも、複合膜の付着は悪かった。
【0055】
また、図13に示すように、実施例1の条件で製造した炭素繊維−導電性ポリマー複合膜の方が、実施例6の条件で製造した炭素繊維−導電性ポリマー複合膜に比べて、より低電圧で電子放出が開始するという結果、および同じ電圧で比較すると電子放出量が多いという結果が得られた。この結果から、直流に交流を重畳すると、SWCNTが膜の面に垂直方向に配向しやすく、そのために、同じ電圧で比較すると電子放出量がより高くなると考えられる。
【0056】
また、図14に示すように、実施例1の場合には、CNT−COOHおよび帯電処理の採用により、複合膜の電子放出性のばらつきは低減され、より低電圧にて、再現良く電子を放出する結果が得られた。また、図15に示すように、実施例1の条件にて得られた炭素繊維−導電性ポリマー複合膜の場合には、電子放出量は、最初の段階で若干低下したが、数十分後には、電子放出量が安定した。一方、比較例1の条件にて得られた炭素繊維−導電性ポリマー複合膜の場合には、電子放出量は数分で急激に低下し、1時間後には最初の段階の電子放出量の約100分の1にまで減少した。これは、CNT−COOHを用いると、その溶媒中における分散性が向上し、加えて、帯電処理により、CNTは電析に好適な帯電状態となったために、CNTが膜の堆積方向に配向し、かつ膜中に均一分散した炭素繊維−導電性ポリマー複合膜ができたことに起因すると考えられる。
【0057】
図16は、実施例1〜5の各条件にて得られた炭素繊維−導電性ポリマー複合膜の電子放出特性を示すグラフである。
【0058】
図16に示すように、実施例1〜5の各条件にて得られた各炭素繊維−導電性ポリマー複合膜を比較すると、実施例1、3および4の条件で得られた炭素繊維−導電性ポリマー複合膜の電子放出特性は、他の条件で得られたものの特性に比べ、より低電解での電流密度の上昇および安定した電子放出がみられた。このような結果から、炭素繊維−導電性ポリマー複合膜の配合率としては、炭素繊維に対して、導電性ポリマーが100重量部以上200重量部とするのが、特に好ましいと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、炭素繊維−導電性ポリマー複合膜を製造あるいは使用する産業において利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の実施の形態に係る炭素繊維−導電性ポリマー複合膜の断面を模式的に示す図である。
【図2】図1に示す炭素繊維−導電性ポリマー複合膜の作製に用いられるカルボキシル基が付いた炭素繊維(A)およびスルホン酸基が付いた炭素繊維(B)を示す模式図である。
【図3】図1に示す炭素繊維を模式的に示す図である。
【図4】図1に示す導電性ポリマー体を製造するために用いられる導電性ポリマーの構造式である。
【図5】本発明の実施の形態に係る炭素繊維−導電性ポリマー複合膜の製造工程を示すフローチャートである。
【図6】図5に示す工程の一部において、カルボキシル基が付いた炭素繊維を溶媒に分散させた状況を示す概略図である。
【図7】図5に示す工程の一部において、導電性ポリマーを溶媒に分散させた状況を示す概略図である。
【図8】図5に示す工程の一部において、カルボキシル基が付いた炭素繊維を溶媒に分散させた分散溶媒と、導電性ポリマーを分散させた分散溶媒とを混合した状況を示す概略図である。
【図9】電析により陰極表面に炭素繊維−導電性ポリマー複合膜を形成させるための装置の概略図である。
【図10】本発明の実施例において、各種の条件で作製した炭素繊維−導電性ポリマー複合膜の電子放出特性を測定する測定装置の断面図である。
【図11】図10の斜視図である。
【図12】実施例1、比較例1および比較例2の条件にて製造した炭素繊維−導電性ポリマー複合膜の写真を示す。
【図13】実施例1および実施例6の条件にて得られた炭素繊維−導電性ポリマー複合膜の電子放出特性を示すグラフである。
【図14】実施例1および比較例1の条件にて得られた炭素繊維−導電性ポリマー複合膜の電子放出特性を示すグラフである。
【図15】実施例1および比較例1の条件にて得られた炭素繊維−導電性ポリマー複合膜の電流−時間特性を示すグラフである。
【図16】実施例1〜5の各条件にて得られた炭素繊維−導電性ポリマー複合膜の電子放出特性を示すグラフである。
【符号の説明】
【0061】
1 炭素繊維−導電性ポリマー複合膜
5 炭素繊維(溶液中にて一価の陰イオンとなる官能基と2価以上の陽イオンとがイオン結合した帯電修飾型の炭素繊維)
5a 炭素繊維(溶液中にて一価の陰イオンとなる官能基付きの炭素繊維)
10 導電性ポリマー体
10a 導電性ポリマー
11 分散溶媒
12 分散溶媒
13 電析浴
20,21 ガラス基板
22,23 ITO膜
24 ガラス基板
25 ITO膜
30 PETフィルム
40 電源
41 電流計
【特許請求の範囲】
【請求項1】
主として、炭素繊維と導電性ポリマーとから構成される炭素繊維−導電性ポリマー複合膜であって、
上記炭素繊維は、溶液中にて一価の陰イオンとなる官能基と2価以上の陽イオンとがイオン結合した帯電修飾型の炭素繊維であることを特徴とする炭素繊維−導電性ポリマー複合膜。
【請求項2】
前記官能基は、カルボキシル基であることを特徴とする請求項1に記載の炭素繊維−導電性ポリマー複合膜。
【請求項3】
前記炭素繊維は、平均直径200nm以下のカーボンナノチューブであることを特徴とする請求項1または2に記載の炭素繊維−導電性ポリマー複合膜。
【請求項4】
前記導電性ポリマーは、ポリチオフェンの誘導体あるいはポリフェニレンビニレンの誘導体であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の炭素繊維−導電性ポリマー複合膜。
【請求項5】
主として、炭素繊維と導電性ポリマーとから構成される炭素繊維−導電性ポリマー複合膜の製造方法であって、
溶液中にて一価の陰イオンとなる官能基と2価以上の陽イオンとがイオン結合した帯電修飾型の炭素繊維と、導電性ポリマーとを混合した電析浴の中に、陰極と陽極とを配置する電極配置工程と、
上記陽極と上記陰極との間に、直流に交流を重畳させ、あるいは直流のみを流して電析を行う電析工程と、
を有することを特徴とする炭素繊維−導電性ポリマー複合膜の製造方法。
【請求項6】
溶液中にて一価の陰イオンとなる官能基と結合する炭素繊維と導電性ポリマーとを混合して混合液を作製する混合工程と、
上記混合液に、2価以上の陽イオンを加えて、上記官能基と上記2価以上の陽イオンとがイオン結合した帯電修飾型の炭素繊維を有する電析浴を作製する電析浴作製工程と、
をさらに含む請求項5に記載の炭素繊維−導電性ポリマー複合膜の製造方法。
【請求項7】
前記官能基は、カルボキシル基であることを特徴とする請求項5または6に記載の炭素繊維−導電性ポリマー複合膜の製造方法。
【請求項8】
前記炭素繊維は、平均直径200nm以下のカーボンナノチューブであることを特徴とする請求項5から7のいずれか1項に記載の炭素繊維−導電性ポリマー複合膜の製造方法。
【請求項9】
前記導電性ポリマーは、ポリチオフェンの誘導体あるいはポリフェニレンビニレンの誘導体であることを特徴とする請求項5から8のいずれか1項に記載の炭素繊維−導電性ポリマー複合膜の製造方法。
【請求項1】
主として、炭素繊維と導電性ポリマーとから構成される炭素繊維−導電性ポリマー複合膜であって、
上記炭素繊維は、溶液中にて一価の陰イオンとなる官能基と2価以上の陽イオンとがイオン結合した帯電修飾型の炭素繊維であることを特徴とする炭素繊維−導電性ポリマー複合膜。
【請求項2】
前記官能基は、カルボキシル基であることを特徴とする請求項1に記載の炭素繊維−導電性ポリマー複合膜。
【請求項3】
前記炭素繊維は、平均直径200nm以下のカーボンナノチューブであることを特徴とする請求項1または2に記載の炭素繊維−導電性ポリマー複合膜。
【請求項4】
前記導電性ポリマーは、ポリチオフェンの誘導体あるいはポリフェニレンビニレンの誘導体であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の炭素繊維−導電性ポリマー複合膜。
【請求項5】
主として、炭素繊維と導電性ポリマーとから構成される炭素繊維−導電性ポリマー複合膜の製造方法であって、
溶液中にて一価の陰イオンとなる官能基と2価以上の陽イオンとがイオン結合した帯電修飾型の炭素繊維と、導電性ポリマーとを混合した電析浴の中に、陰極と陽極とを配置する電極配置工程と、
上記陽極と上記陰極との間に、直流に交流を重畳させ、あるいは直流のみを流して電析を行う電析工程と、
を有することを特徴とする炭素繊維−導電性ポリマー複合膜の製造方法。
【請求項6】
溶液中にて一価の陰イオンとなる官能基と結合する炭素繊維と導電性ポリマーとを混合して混合液を作製する混合工程と、
上記混合液に、2価以上の陽イオンを加えて、上記官能基と上記2価以上の陽イオンとがイオン結合した帯電修飾型の炭素繊維を有する電析浴を作製する電析浴作製工程と、
をさらに含む請求項5に記載の炭素繊維−導電性ポリマー複合膜の製造方法。
【請求項7】
前記官能基は、カルボキシル基であることを特徴とする請求項5または6に記載の炭素繊維−導電性ポリマー複合膜の製造方法。
【請求項8】
前記炭素繊維は、平均直径200nm以下のカーボンナノチューブであることを特徴とする請求項5から7のいずれか1項に記載の炭素繊維−導電性ポリマー複合膜の製造方法。
【請求項9】
前記導電性ポリマーは、ポリチオフェンの誘導体あるいはポリフェニレンビニレンの誘導体であることを特徴とする請求項5から8のいずれか1項に記載の炭素繊維−導電性ポリマー複合膜の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図12】
【公開番号】特開2007−246780(P2007−246780A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−73957(P2006−73957)
【出願日】平成18年3月17日(2006.3.17)
【出願人】(504180239)国立大学法人信州大学 (759)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年3月17日(2006.3.17)
【出願人】(504180239)国立大学法人信州大学 (759)
【Fターム(参考)】
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