説明

炭素繊維の製造装置

【課題】生産性を向上させつつ、高品質かつ均一な性能を有する炭素繊維を製造することができる炭素繊維の製造装置を提供する。
【解決手段】耐炎化炉1,2が上下方向に複数台配置され、耐炎化炉1,2と予備炭素化炉40の間に耐炎化ストランド9,10を送り出す第1駆動装置21,22を各々設け、第1駆動装置21,22と予備炭素化炉40の間に耐炎化ストランド9,10を上下方向に幅寄せする第1幅寄せ手段60を配設し、予備炭素化炉40と炭素化炉50の間に予備炭素化ストランド31,32を送り出す第2駆動装置23,24を設け、第2駆動装置23,24と炭素化炉50の間に予備炭素化ストランド31,32を上下方向に幅寄せする第2幅寄せ手段70を配設し、炭素化炉50の下流側に炭素化ストランド33,34を送り出す第3駆動装置25,26を設けたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維の製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、ポリアクリロニトリル、レーヨン等の有機質前駆体繊維を束ねた糸条(ストランド)を酸化性雰囲気中で耐炎化処理して耐炎化ストランドを得た後、例えば、窒素、アルゴン等の不活性雰囲気で炭素化処理することによって炭素繊維を製造する炭素繊維の製造装置が知られている。この炭素繊維の製造装置は、例えば、上述の糸条を低温炉から順次高温炉を通過させる際に、低温炉では糸条を横一列に平行に並べた糸条帯で通過させ、高温炉に移行させる段階で、糸条帯を複数の糸条ブロックに分割して各糸条ブロック単位で糸道を変更し、糸条ブロック内では各糸条が横一列に平行に、糸条ブロック相互間では所定の間隔を保って重なる方向に再配列した後、高温炉を通過させるものである(例えば、特許文献1参照)。また、耐炎化炉が鉛直方向に複数台配置され、複数台の耐炎化炉から送出される耐炎化ストランドを鉛直方向に幅寄せする幅寄せ手段を、耐炎化炉と炭素化炉との間に配設したものが開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開平7‐70828号公報
【特許文献2】特開2003‐313730号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1では、糸条ブロックを上下に重ねて再配列することで炭素化炉の耐炎化ストランドの投入口を扁平な形状にする必要がないので、炭素化炉の熱効率を上げ生産性を向上させることが可能であるが、糸条ブロックの軌道を水平方向に変化させるため、糸条に無理な力が作用してケバ(毛羽)が発生して品質が低下する問題がある。
【0004】
また、特許文献2では、耐炎化炉が鉛直方向(高さ方向)に複数配置されているため、耐炎化ストランド及び炭素繊維の生産量を増加させることができ、各段の耐炎化炉から搬出された耐炎化ストランドを水平方向(幅方向)に幅寄せすることがないのでケバの発生を防止することができ、炭素化炉の熱効率を向上させることができる点で優れているが、複数の耐炎化炉を用いているので、各耐炎化炉によって耐炎化ストランドの品質にばらつきが生じ、炭素繊維の性能にもばらつきが発生する問題がある。また、耐炎化ストランドの品質を均一にさせようとした場合、例えば、処理温度の調整や炉長の調整が必要になり、設備過大あるいは生産性の低下を招く問題がある。
【0005】
そこで、この発明は、生産性を向上させつつ、高品質かつ均一な性能を有する炭素繊維を製造することができる炭素繊維の製造装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明は、上流側に耐炎化炉、下流側に予備炭素化炉、炭素化炉を順次配置してなる炭素繊維の製造装置であって、前記耐炎化炉が上下方向に複数台配置され、前記複数台の耐炎化炉と前記予備炭素化炉の間に前記複数台の耐炎化炉から各々搬出される耐炎化ストランドを送り出す第1駆動装置を各々設け、前記第1駆動装置と前記予備炭素化炉の間に前記耐炎化ストランドを上下方向に幅寄せする第1幅寄せ手段を配設し、前記予備炭素化炉と前記炭素化炉の間に前記第1幅寄せ手段により上下方向に幅寄せされ前記予備炭素化炉で処理された予備炭素化ストランドを送り出す第2駆動装置を設け、前記第2駆動装置と前記炭素化炉の間に前記予備炭素化ストランドを上下方向に幅寄せする第2幅寄せ手段を配設し、前記炭素化炉の下流側に前記第2幅寄せ手段で上下方向に幅寄せされ前記炭素化炉で処理された炭素化ストランドを送り出す第3駆動装置を設けたことを特徴とする。
【0007】
このように構成することで、耐炎化炉の台数を増加させても、上下方向(高さ方向)の寸法が増加するだけで、耐炎化炉の設置面積は変化しない。また、第1駆動装置により、耐炎化炉を通過する耐炎化ストランドの原材料、例えば有機質前駆体ストランドに作用する張力、通過速度等を任意に設定しつつ、上述の前駆体ストランドを耐炎化炉によって耐炎化処理することができる。また、上下方向に重なった各耐炎化炉から、第1駆動装置によって各々送り出された耐炎化ストランドを、第1幅寄せ手段によって上下方向に幅寄せした状態で予備炭素化炉に送入することができる。
【0008】
さらに、第2駆動装置によって、予備炭素化ストランドに作用する張力、通過速度等を任意に設定しつつ、予備炭素化炉によって耐炎化ストランドを予備的に炭素化処理することができる。さらに、第2幅寄せ手段によって各耐炎化ストランドを再度上下方向に幅寄せし、炭素化炉に送入することができるので、炭素化炉の予備炭素化ストランドの送入口を小さくすることができる。また、予備炭素化ストランドを水平方向に幅寄せすることがないので予備炭素化ストランドに無理な力が作用することがない。さらに第3駆動装置によって、予備炭素化ストランドに作用する張力を任意に設定しつつ、予備炭素化ストランドを炭素化炉によって炭素化し、炭素化ストランド(炭素繊維)を得ることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、耐炎化炉の設置面積を増加させることなく耐炎化炉の設置台数を増加させることができるので、設備が過大になることを防止しつつ炭素繊維の中間生成物である耐炎化ストランドの生産量を容易に増加させ、炭素繊維の生産性を向上させることができる。
また、各耐炎化炉を通過する耐炎化ストランドの原材料に作用する張力、通過速度等を任意に設定できるので、当該原材料の張力、通過速度等を耐炎化炉毎に適宜調整し、耐炎化ストランドの品質を向上させ、品質を均一化することができる。
同様に、第2、第3駆動装置によって張力、通過速度等を任意に設定することで、それぞれ予備炭素化炉、炭素化炉によって処理される予備炭素化ストランド、炭素化ストランドの品質を向上させ、品質を均一化することができる。また、各耐炎化炉から送出された耐炎化ストランド毎に異なった張力、通過速度等の制御を行い、異品種の炭素繊維を製造することができ、生産の合理化を図ることも可能である。
【0010】
さらに、第1幅寄せ手段によって耐炎化ストランドを上下方向に幅寄せすることで、予備炭素化炉の耐炎化ストランドの送入口を小さくすることができるので、予備炭素化炉をコンパクトにし、熱効率を向上させることができる。また、耐炎化ストランドに水平方向の無理な力が作用することがないので、耐炎化ストランドへのケバの発生を防止することができる。同様に、第2幅寄せ手段によって予備炭素化ストランドを上下方向に幅寄せすることができるので、炭素化炉をコンパクトにし、炭素化炉の熱効率を向上させ、予備炭素化ストランドへのケバの発生を防止することができる。
したがって、炭素繊維の生産性を向上させつつ、高品質かつ均一な性能を有する炭素繊維を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
次に、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は本実施の形態に係る炭素繊維の製造装置の全体構成を表す概略断面図である。図1に示すように、炭素繊維の製造装置は、上流側(図示左側)に複数の耐炎化炉1,2を備えている。耐炎化炉1,2は外壁および断熱材等によって断面矩形の箱型に形成され、炉内を加熱する加熱装置、酸化ガス等の供給装置、ガス排気装置等(不図示)を備えている。ここで、耐炎化炉1,2の高温部は、例えば炭素材等の高耐熱性材料によって形成され、その他の部分は、例えば鉄やステンレス等の構造材料によって形成されている。
【0012】
耐炎化炉1,2は鉛直方向上下(図において上下方向)に積み重なった状態で配置されている。炭素繊維の原材料、例えばポリアクリロニトリル、レーヨン等の前駆体繊維を束ねた前駆体ストランド3,4を炉内に送入するために、耐炎化炉1,2の上流側の外壁には、第1送入口1a,2aが設けられている。第1送入口1a,2aは耐炎化炉1,2の上流側の外壁の上部に紙面垂直方向に幅を持たせたスリット状に開口されている。耐炎化炉1,2の下流側(図示右側)の外壁には、第1送出口1b,2bが第1送入口1a,2aに対向して設けられている。第1送出口1b,2bは、第1送入口1a,2aから送入された前駆体ストランド3,4を炉外に送出できるように、第1送入口1a,2aと同様のスリット状に設けられている。
【0013】
第1送出口1b,2bの下側には、第2送入口1c,2cが第1送入口1a,2aと同様に、前駆体ストランド3,4を炉内に送入可能に設けられている。耐炎化炉1,2外部の下流側には、第1ローラー5a,6aが第1送出口1bと第2送入口1cに対応し、前駆体ストランド3,4を逆方向に折り返すことができるように、回転軸を紙面に略垂直にして回転自在に設けられている。これらの第1送入口1a,2a、第1送出口1b,2b、第1ローラー5a,6aによって前駆体ストランド3,4を加熱処理する第1パスが略水平方向(図示左右方向)に形成されている。
【0014】
耐炎化炉1,2の上流側の外壁の第1送入口1a,2aの下側には、第2送出口1d,2dが耐炎化炉1,2の下流側に形成された第2送入口1c,2cに対向して設けられている。第2送出口1d,2dの下側には第3送入口1e,2eが第1送入口1a,2aと同様に設けられている。耐炎化炉1,2外部の上流側には、第2送出口1d,2dと第3送入口1e,2eに対応して、第2ローラー5b,6bが第1ローラー5a,6aと同様に設けられている。これら第2送入口1c,2c、第2送出口1d,2d、第2ローラー5b,6bによって、第1パスの下側に第1パスと同様の第2パスが形成されている。このように、耐炎化炉1,2には複数の送入口1a,2a,…、送出口1b,2b,…、およびローラー5a,5b,…によって上下方向に複数のパスが形成されている。
各パスの送入口1a,2a,…、および送出口1b,2b,…の外側には、例えばエアカーテン等のシール装備(不図示)が、炉内への外気の侵入および炉内から外部へのガスの漏出を防止することができるように設けられている。
【0015】
各耐炎化炉1,2の最終パスの送出口1j,2jの下流側には、搬送用ローラー7a,8aが各耐炎化炉1,2で処理された耐炎化ストランド9,10を搬送することができるように、各送出口1j、2jに対応して、回転軸を紙面に略垂直にして各々回転自在に設けられている。搬送用ローラー7aの下流側には、搬送用ローラー7bが略水平方向に離間させて同様に設けられている。また、搬送用ローラー8aの下流側には、搬送用ローラー8bが上側に離間させて同様に設けられている。ここで、搬送用ローラー7bは後述する第1駆動装置21の最下段に対応し、搬送用ローラー8bは後述する第1駆動装置22の駆動ローラーの最上段に対応するように設けられている。
【0016】
搬送用ローラー7b,8bの下流側には、複数の駆動ローラーからなる第1駆動装置21,22が、耐炎化炉1,2から搬出される耐炎化ストランド9,10に対応して上下に各々設けられている。図1に示すように、第1駆動装置21,22には、駆動ローラーが略水平方向に二つ離間して配置され、この一対の駆動ローラーの組が上下方向に三段、互いに離間して配置され、計六つのローラーが設けられている。第1駆動装置21,22の各駆動ローラーの回転軸は紙面に略垂直で、例えばモータ、ギア、コントローラー等からなる図示しない駆動装置に連結され、自在に回転制御可能となっている。
【0017】
第1駆動装置21、22の下流側には、第1幅寄せ手段60が設けられている。第1幅寄せ手段60には、第1幅寄せローラー7c,8cが上下方向に離間して配置され、その下流側に第2幅寄せローラー7d,8dが上下方向に近接して設けられている。第1幅寄せローラー7c,8cはそれぞれ、図示上側に配置された第1駆動装置21の最上段の駆動ローラー、および図示下側に配置された第1駆動装置22の最下段の駆動ローラーに対応した位置に設けられている。各幅寄せローラー7c,8c,7d,8dは回転軸を紙面に略垂直に、回転自在に設けられている。ここで、第2幅寄せローラー7d,8dは、後述する予備炭素化炉40の耐炎化ストランド送入口40aの位置および寸法に対応して設けられている。
【0018】
第1幅寄せ手段60の下流側には、断面が矩形で筒状の予備炭素化炉40が設けられている。予備炭素化炉40は耐炎化炉1,2と同様に、外壁および断熱材等によって断面矩形の箱型に形成され、炉内を加熱する加熱装置、不活性ガス等の供給装置、ガス排気装置等(不図示)を備えている。予備炭素化炉40は耐炎化炉1,2と同様の材質によって形成されている。また、予備炭素化炉40の上流側の外壁の略中央部には、耐炎化炉1,2によって耐炎化処理された耐炎化ストランド9,10を受け入れる耐炎化ストランド送入口40aが設けられている。また、予備炭素化炉40の下流側の外壁には、耐炎化ストランド送入口40aに対向して、予備炭素化ストランド送出口40bが設けられている。予備炭素化炉40の耐炎化ストランド送入口40a、および予備炭素化ストランド送出口40bの外側には、耐炎化炉1,2と同様に、炉内への外気の侵入および炉内から外部へのガスの漏出を防止するシール装備(不図示)が設けられている。
【0019】
予備炭素化炉40の下流側には、搬送用ローラー11a,12aが予備炭素化ストランド送出口40bに対応して上下に近接させて配置されている。
搬送用ローラー11a,12aは、予備炭素化炉40によって処理された予備炭素化ストランド31,32を搬送できるように、その回転軸が紙面に略垂直に、回転自在に設けられている。搬送用ローラー11aの下流側には同様の搬送用ローラー11bが上側に離間して配置され、後述する第2駆動装置23の最上段に対応して設けられている。予備炭素化ストランド31,32の搬送用ローラー11a,11b,12aの下流側には、第2駆動装置23,24が設けられている。
【0020】
第2駆動装置23,24には、第1駆動装置21,22と同様に、水平方向に離間して配置された一対の駆動ローラーが上下方向に3段、互いに離間して設けられている。第2駆動装置23,24の下流側には、複数の幅寄せローラー11c,12b,12cからなる第2幅寄せ手段70が設けられている。
第2幅寄せ手段70には、第2駆動装置24の最下段の駆動ローラーに対応して、第1幅寄せローラー12bが設けられている。また、第1幅寄せローラー12bの下流側の上側に、第2幅寄せローラー11c,12cが上下に一対、近接して設けられている。第2幅寄せローラー11c,12cは、後述する炭素化炉50の予備炭素化ストランド送入口50aに対応して設けられている。第2幅寄せローラー11c,12cの下流側には断面が矩形で筒状の炭素化炉50が設けられている。
【0021】
炭素化炉50は予備炭素化炉40と同様に、外壁および断熱材等によって断面矩形の箱型に形成され、炉内を加熱する加熱装置、不活性ガス等の供給装置、ガス排気装置等(不図示)を備えている。炭素化炉50は予備炭素化炉40と同様の材質によって形成されている。また、炭素化炉50の上流側の外壁の略中央部には、予備炭素化炉40によって処理された予備炭素化ストランド31,32を受け入れる予備炭素化ストランド送入口50aが設けられている。また、炭素化炉50の下流側の外壁には、予備炭素化ストランド送入口50aに対向して、炭素化ストランド送出口50bが設けられている。炭素化炉50の予備炭素化ストランド送入口50a、および炭素化ストランド送出口50bの外側には、予備炭素化炉40と同様に、炉内への外気の侵入および炉内から外部へのガスの漏出を防止するシール装備(不図示)が設けられている。
【0022】
炭素化炉50の下流側には、炭素化ストランド搬送用ローラー13a,13b,14aが、予備炭素化炉40の下流側の予備炭素化ストランド搬送用ローラー11a,11b,12aと同様に設けられている。また、炭素化ストランド搬送用ローラー13a,13b,14aの下流側には、第3駆動装置25,26が第2駆動装置23,24と同様に設けられている。第3駆動装置25,26の下流側には、炭素繊維出荷用ローラー13c,14bが各第3駆動装置25,26の最下段の駆動ローラーに対応して、略水平方向に離間して回転軸を紙面に垂直に回転自在に設けられている。
【0023】
以上説明したように、本実施の形態に係る炭素繊維の製造装置は、上流側に耐炎化炉1,2が配置され、この耐炎化炉1,2と予備炭素化炉40の間に第1駆動装置21,22が設けられ、第1駆動装置21,22と予備炭素化炉40の間に第1幅寄せ手段60が配設され、予備炭素化炉40と炭素化炉50の間に第2駆動装置23,24が設けられ、この第2駆動装置23,24と炭素化炉50の間に第2幅寄せ手段70が配設され、炭素化炉50の下流側に第3駆動装置25,26が設けられた構成となっている。
【0024】
次に、この実施の形態の作用について説明する。
図1に示すように、前駆体繊維が紙面に垂直方向に幅を持って束ねられた前駆体ストランド3,4を各耐炎化炉1,2の第1送入口1a,2aから各炉内へ送入する。各耐炎化炉1,2の炉内は加熱装置(不図示)によって加熱され、前駆体繊維を耐炎化することができる温度に維持されている。また、酸化ガス供給装置(不図示)により、炉内に酸化ガスが供給され、シール装備(不図示)によって炉内への外気の侵入と炉内から外部へのガスの漏出が防止されている。炉内に送入された前駆体ストランド3,4は酸化雰囲気下で加熱され、第1送出口1b,2bから炉外へ送出される。この第1パスを経て加熱され、炉外へ送出された前駆体ストランド3,4は、第1ローラー5a,6aによって捲回され、逆方向に折り返されるようにして第2送入口1c,2cから再び耐炎化炉1,2内部へ送入される。
【0025】
炉内へ送入された前駆体ストランド3,4は再び加熱され、第2送出口1d,2dから炉外へ送出される。この第2パスを経た前駆体ストランド3,4は、同様のパスをさらに複数回経ることによって、耐炎化炉1,2への出入を繰り返し、炉内を蛇行しながら徐々に耐炎化が進行する。このとき加熱により発生した有害物質を含むガスは排気装置(不図示)によって炉外に排出され、無害化処理される。耐炎化処理が終了した前駆体ストランド3,4は最終パスの送出口1j,2jから耐炎化ストランド9,10として炉外へ各々搬出される。
このとき、耐炎化炉1,2は上下方向に二台積み重ねて配置されている。したがって、一台しか設置されていない場合と比較して炭素繊維の中間生成物である耐炎化ストランド9,10の生産量を容易に増加させることができる。よって、炭素繊維の生産性を容易に向上させることができる。
【0026】
また、耐炎化炉1,2の台数を増加させても、耐炎化炉1,2の上下方向(高さ方向)の寸法が増加するだけで、耐炎化炉1,2の設置面積は変化しない。したがって、耐炎化炉1,2の設置面積を増加させることなく耐炎化炉1,2の設置台数を増加させることができるので、設備が過大になることを防止できる。
また、耐炎化炉1,2から搬出される各耐炎化ストランド9,10を上下方向に重ねることができるので、各耐炎化ストランド9,10を紙面垂直方向に並べた場合のように、予備炭素化炉40の耐炎化ストランド9,10の送入口40aの紙面垂直方向の幅を必要以上に大きくする必要がない。したがって、耐炎化ストランド9,10の送入口40aを小さくし、予備炭素化炉40の熱効率を向上させることができる。また、予備炭素化炉40の紙面垂直方向の幅を小さくし、予備炭素化炉40をコンパクトにして熱効率を向上させるとともに、設置スペースを縮小することができる。
【0027】
また、前駆体ストランド3,4が耐炎化炉1,2を通過する際、前駆体ストランド3,4には第1駆動装置21,22により張力が負荷されている。すなわち、耐炎化処理が終了し各耐炎化炉1,2の送出口1j,2jから各々炉外へ搬出された耐炎化ストランド9,10は、搬送用ローラー7a,7b,8a,8bによって第1駆動装置21,22の駆動ローラーの最下段および最上段へ導かれる。そして、略水平方向に複数段配置された各一対の駆動ローラーのうち、一段目の上流側の駆動ローラーの上下方向の一方側に耐炎化ストランド9,10を掛け渡し、下流側の駆動ローラーの他方側から、下流側の駆動ローラーに耐炎化ストランド9,10を捲回して折り返す。そして、上下方向に配置された次の段の一対の駆動ローラーのうち、上流側の駆動ローラーに捲回して折り返す。
【0028】
これを繰り返し、耐炎化ストランド9,10を上下方向に複数段に渡って配置された各一対の駆動ローラーの間を蛇行させるようにして複数回折り返しながら、各駆動ローラーに耐炎化ストランドを捲回する。この状態で各駆動ローラーを回転させることで、各駆動ローラーと耐炎化ストランド9,10との間の摩擦力によって耐炎化ストランド9,10に動力が与えられ、耐炎化ストランド9,10は下流側に送り出される。これにより、耐炎化炉1,2を通過する前駆体ストランド3,4に張力が負荷される。このとき、第1駆動装置21,22の各駆動ローラーの回転速度、回転トルク等は駆動装置(不図示)によって任意に設定することができる。
【0029】
したがって、第1駆動装置21,22の各駆動ローラーの回転を制御することにより、耐炎化炉1,2を通過する前駆体ストランド3,4に作用する張力、通過速度等を任意に設定しつつ、前駆体ストランド3,4を耐炎化炉1,2によって熱処理することができる。
よって、複数の耐炎化炉1,2毎に条件が異なる場合でも、前駆体ストランド3,4の通過速度、張力等を耐炎化炉1,2毎に適宜調整し、耐炎化ストランド9,10の品質を向上させ、品質を均一化することができる。一方、各耐炎化炉1,2を通過する前駆体ストランド3,4毎に、通過速度、張力等を異ならせることで、加熱条件の異なった異品種の炭素繊維を製造することもできる。これにより、多品種生産に容易に対応することができ、生産の合理化を図ることができる。
【0030】
また、第1駆動装置21,22を、各一対の駆動ローラーが複数段に渡って配置された構成としたことで、第1駆動装置21,22の設置スペースを必要以上に増加させることなく、駆動ローラーと耐炎化ストランド9,10との接触面積を増加させることができる。したがって、耐炎化ストランド9,10に無理な力を作用させることなく、効率よく張力を負荷することができる。よって、設備が過大になることを防止しつつ、耐炎化ストランド9,10のケバの発生を防止し、炭素繊維の品質を向上させることができる。
【0031】
さらに、第1駆動装置21,22によって各々下流側に送出された耐炎化ストランド9,10は第1幅寄せ手段60の第1幅寄せローラー7c,8cに巻き掛けられ、第2幅寄せローラー7d,8dによって上下方向の間隔が幅寄せされ、互いに近接した状態となって予備炭素化炉40に送入される。
これにより、各耐炎化ストランド9,10が幅寄せされない場合と比較して予備炭素化炉40の耐炎化ストランド9,10の送入口40aの図示上下方向の高さを小さくすることができる。また、耐炎化ストランド9,10の上下方向の間隔が小さくなるので予備炭素化炉40の上下方向の寸法も小さくし、予備炭素化炉40をコンパクトにすることができる。したがって、予備炭素化炉40の熱効率を向上させることができ、設置スペースを縮小することができる。
また、耐炎化ストランド9,10を上下方向に幅寄せすることで耐炎化ストランド9,10に水平方向の無理な力が作用することがないので、耐炎化ストランド9,10のケバの発生を防止し、炭素繊維の品質を向上させることができる。
【0032】
予備炭素化炉40は耐炎化炉1,2と同様に、加熱装置(不図示)によって耐炎化ストランド9,10の炭素化に必要な温度に維持され、不活性ガス供給装置(不図示)によって供給された不活性ガスが炉内に充満し、シール装備(不図示)によって炉内への外気の侵入と炉内から外部へのガスの漏出が防止されている。予備炭素化炉40に送入された耐炎化ストランド9,10は、不活性ガス雰囲気下で加熱され、炭素化が進行する。炭素化が進行し、予備的に炭素化された耐炎化ストランド9,10は、予備炭素化ストランド31,32として送出口40bから炉外へ送り出される。
このとき、第1駆動装置21,22と同様に構成された第2駆動装置23,24によって、予備炭素化炉40を通過する耐炎化ストランド9,10に作用する張力および通過速度等を任意に設定しつつ、予備炭素化炉40によって耐炎化ストランド9,10を炭素化処理することができる。したがって、第2駆動装置23,24を設置することによって、上述の第1駆動装置21,22を設置したときの効果と同様の効果を得ることができる。
【0033】
予備炭素化炉40の送出口40bから炉外へ送出された予備炭素化ストランド31,32は、搬送ローラー11a,11b,12aによって第2駆動装置23,24の駆動ローラーの最上段に各々導かれ、第2駆動装置23,24によって動力を与えられて下流側へ送り出される。第2駆動装置23,24の下流側に送り出された予備炭素化ストランド32は、第2幅寄せ手段70の第1幅寄せローラー12に巻きかけられ、さらに上下に近接して設けられた第2幅寄せローラー12cに巻き掛けられることよって、各予備炭素化ストランド31,32間の上下方向の間隔が幅寄せされ、炭素化炉50に送入される。
【0034】
これにより、第1幅寄せ手段60と同様に、予備炭素化ストランド31,32を幅寄せしない場合と比較して炭素化炉50の送入口50aの図示上下方向の寸法を小さくすることができる。また、予備炭素化ストランド31,32を水平方向に幅寄せすることがないので予備炭素化ストランド31,32に水平方向の無理な力が作用することがない。
したがって、上述の第1幅寄せ手段60を設置したときと同様に、第2幅寄せ手段70を設置することで炭素化炉50をコンパクトにし、炭素化炉50の熱効率を向上させ、さらに予備炭素化ストランド31,32へのケバの発生を防止して、炭素繊維の品質を向上させることができる。
【0035】
炭素化炉50は予備炭素化炉40と同様に、加熱装置(不図示)によって予備炭素化ストランド31,32の炭素化に必要な温度に維持され、不活性ガス供給装置(不図示)によって供給された不活性ガスが炉内に充満し、シール装備(不図示)によって炉内への外気の侵入と炉内から外部へのガスの漏出が防止されている。炭素化炉50に送入された予備炭素化ストランド31,32は、不活性ガス雰囲気下で加熱され、炭素化が進行する。炭素化が進行し、完全に炭素化された予備炭素化ストランド31,32は、炭素化ストランド33,34(炭素繊維糸条)として送出口50bから炉外へ送出され、炭素化ストランド出荷用ローラー13c,14bによって下流側に搬送される。
【0036】
このとき、第1駆動装置21,22、第2駆動装置23,24と同様に、第3駆動装置25,26によって、予備炭素化ストランド31,32に作用する張力および通過速度等を任意に設定しつつ、予備炭素化ストランド31,32を炭素化炉50によって炭素化し、炭素化ストランド33,34を得ることができる。したがって、第3駆動装置25,26を設置することによって、第1駆動装置21,22、第2駆動装置23,24を設置したときの効果と同様の効果を得ることができる。
以上説明したように、本実施の形態によれば、炭素繊維の生産性を向上させつつ、高品質かつ均一な性能を有する炭素繊維を製造することができる。
【0037】
尚、この発明は上述した実施の形態に限られるものではなく、耐炎化炉を上下方向に3台以上積み重ね、各耐炎化炉から取出される耐炎化ストランドを、駆動装置を経て鉛直方向に幅寄せし、その後の工程に送ることができる。また、予備炭素化炉、炭素化炉を複数上下方向に積み重ねてもよい。
また、各炉を上下方向に積み重ねる場合、完全な鉛直方向ではなく、多少水平方向にずらして積み重ねても良い。このように配置することで、例えば、設置場所の制限に応じて各炉を配置し、限られたスペースに炭素繊維の製造装置を設置することが可能となる。
【0038】
また、各駆動装置の駆動ローラーを複数ではなく、単数用いる構成としてもよい。また、駆動ローラーを複数配置する場合、上流側、下流側に配置された一対の各駆動ローラーを水平ではなく、やや上下方向にずらして千鳥状に配置してもよい。このように配置することで、各ストランドと各駆動ローラーとの接触面積を減少させて、各ストランドに作用する摩擦力を小さくすることができる。
【0039】
幅寄せ手段の幅寄せローラーの数は、各ストランドを上下方向に幅寄せすることができる数であれば任意であってよい。
また、各駆動装置の駆動ローラへの各ストランドの導入位置は最上段、最下段のどちらからであってもよい。このとき、各駆動装置への導入位置を変更することで、各炉の間の各ストランドの通過経路を変化させ、各炉間を各ストランドが走行する距離を調整することができる。
【0040】
また、予備炭素化炉40で予備炭素化処理された予備炭素化ストランド31,32は、ストランドボリュームが減っていることから、以降の駆動装置を通る際、各ストランド搬送用ローラーで上下段のストランドを幅寄せして駆動装置を共通化することも可能である。例えば、予備炭素化炉40通過後の予備炭素化処理された予備炭素化ストランド31,32を幅寄せして第2駆動装置23,24を共通化する、あるいは炭素化炉50通過後の炭素化ストランド33,34(炭素繊維糸条)を幅寄せして第3駆動装置25,26を共通化することが可能である。
【0041】
また、駆動装置は駆動ローラーに限らずニップローラー等適宜選択でき、幅寄せ手段もローラーに限られずガイド棒等、鉛直方向に幅寄せできる構造であればなんら差し支えない。
【0042】
また、予備炭素化炉40及び炭素化炉50に具備されるシール装置の一例として、各ストランド送入口及びその送出口側の少なくとも一方に、ストランドの通過するスリットを有するシール室を設け、このシール室で気体を供給あるいは吸引することによって、不活性ガスの炉外への流出及び外気の流入を抑制することが可能である。同様に、ストランドに向かって不活性ガスを吹き付けるエアカーテン手段を有するシール装置を設けること、またはストランドの通過するスリットを有するシール室を設け、このシール室で気体を吸引するとともに、シール室のストランド送入口あるいは炉通過後であればシール室の送出口側で外吹かしのエアカーテンを設けること、または上述のシール室を設け、このシール室で気体を吸引するとともにシール室内炉側に内吹かしの不活性ガスを吹き付けるエアカーテンを設けること等によっても、同様の効果が得られる。さらに、エアカーテンに加熱した不活性ガスを用いることにより、予備炭素化処理及び炭素化処理での加熱に要するエネルギー量を削減することも可能である。
【0043】
同様に、ストランドの走行方向と直交する方向に、対向した複数の絞り片を各ストランドの上下に配して膨張室を設け、絞り片1枚毎に発生する圧力損失がガス流に対する抵抗として働き、流出、流入ガス量を低減するラビリンスシール装置としてもよい。また、上述の膨張室に、不活性ガスの吹き出し口があり、外気の炉内への流入及び不活性ガスの炉外への流出を防ぐ構造のラビリンスシール装置としてもよい。また、フラットな床面と、その上方に複数の絞り片で構成された膨張室を設け、その膨張室にある不活性ガスの吹き出し口から、該フラットな床面に向けて吹き付けることにより、外気の炉内への流入および不活性ガスの炉外への流出を防ぐ構造のラビリンスシール装置としてもよい。
【0044】
予備炭素化炉40及び炭素化炉50に具備されるシール装置は、上記シール装置に限らず複数段の焼成に対応したシール装置であればなんら差し支えない。
更に、予備炭素化炉40を省略しても良く、その他本発明の要旨を変更しない範囲で種々変形してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の実施の形態における炭素繊維の製造装置の全体構成を表す概略断面図。
【符号の説明】
【0046】
1 耐炎化炉
2 耐炎化炉
9 耐炎化ストランド
10 耐炎化ストランド
21 第1駆動装置
22 第1駆動装置
23 第2駆動装置
24 第2駆動装置
25 第3駆動装置
26 第3駆動装置
31 予備炭素化ストランド
32 予備炭素化ストランド
33 炭素化ストランド
34 炭素化ストランド
40 予備炭素化炉
50 炭素化炉
60 第1幅寄せ手段
70 第2幅寄せ手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上流側に耐炎化炉、下流側に予備炭素化炉、炭素化炉を順次配置してなる炭素繊維の製造装置であって、
前記耐炎化炉が上下方向に複数台配置され、前記複数台の耐炎化炉と前記予備炭素化炉の間に前記複数台の耐炎化炉から各々搬出される耐炎化ストランドを送り出す第1駆動装置を各々設け、前記第1駆動装置と前記予備炭素化炉の間に前記耐炎化ストランドを上下方向に幅寄せする第1幅寄せ手段を配設し、前記予備炭素化炉と前記炭素化炉の間に前記第1幅寄せ手段により上下方向に幅寄せされ前記予備炭素化炉で処理された予備炭素化ストランドを送り出す第2駆動装置を設け、前記第2駆動装置と前記炭素化炉の間に前記予備炭素化ストランドを上下方向に幅寄せする第2幅寄せ手段を配設し、前記炭素化炉の下流側に前記第2幅寄せ手段で上下方向に幅寄せされ前記炭素化炉で処理された炭素化ストランドを送り出す第3駆動装置を設けたことを特徴とする炭素繊維の製造装置。

【図1】
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【公開番号】特開2008−138328(P2008−138328A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−326981(P2006−326981)
【出願日】平成18年12月4日(2006.12.4)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】