説明

炭素繊維不織布及びその製造方法

【課題】優れた導電性を保持したまま、ほつれや炭素繊維の抜け落ちのほとんどない炭素繊維を主成分とする不織布、及び該不織布を容易に製造する方法を提供する。
【解決手段】炭素繊維の短繊維を用いてなる不織布であって、熱可塑性樹脂繊維の炭化物からなる結節点を有することを特徴とする炭素繊維不織布であり、該不織布は、炭素繊維/熱可塑性樹脂繊維の短繊維が90/10〜20/80の質量比で混合されてなる不織布を、加熱、燃焼させて熱可塑性樹脂繊維の一部を炭化させ、炭素繊維不織布の結節点として残すことにより製造できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維を主成分とする不織布及びその製造方法に関し、詳しくは導電性に優れ、かつほつれや炭素繊維の抜け落ちのほとんどない炭素繊維を主成分とする不織布及び該不織布を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維は他の繊維と比較して高弾性率で硬いので、曲がりにくく、折れやすいこと、さらには表面が滑りやすいことから繊維同士の絡み合いが弱くなるために、一般には単独で不織布を得ることが難しい。そのため、炭素繊維の不織布を得るには、他の繊維と混綿したり、比較的柔らかい炭素繊維の前駆体繊維を不織布とした後これを炭素化することが行われている。
【0003】
また、特開平10−314519号公報では、炭素繊維とバインダー繊維とからなる不織布を形成し、この不織布を燃焼させバインダー繊維を除去することによって炭素繊維からなる不織布を得る方法が記載されている(特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、他の繊維を混綿する方法では導電性が劣り、炭素繊維の特徴を生かし切れない。また、炭素繊維の前駆体繊椎を用いる方法や、特開平10−314519号公報の方法では炭素繊維のみからなる不織布が得られるものの、炭素繊維同士の絡み合いが弱いために不織布がほつれやすく、また製造時に折れて短くなった炭素繊椎が脱落しやすいという欠点がある。
【特許文献1】特開平10−314519号公報(請求項1等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、優れた導電性を保持したまま、ほつれや炭素繊維の抜け落ちのほとんどない炭素繊維を主成分とする不織布、及び該不織布を容易に製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために本発明者等は鋭意検討した結果、炭素繊維不織布に熱可塑性樹脂繊維の炭化物からなる結節点を設けることにより、前記の課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。
【0007】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
(1)炭素繊維の短繊維を用いてなる不織布であって、熱可塑性樹脂繊維の炭化物からなる結節点を有することを特徴とする炭素繊維不織布。
(2)炭素繊維強化プラスチックから再生された炭素繊維を用いる前記(1)に記載の炭素繊維不織布。
(3)使用済みの炭素繊維不織布から再生された炭素繊維を用いる前記(1)に記載の炭素繊維不織布。
(4)炭素繊維と熱可塑性樹脂繊維の短繊維が90/10〜20/80の質量比で混合されてなる不織布を、加熱、燃焼させて熱可塑性樹脂繊維の一部を炭化させ、炭素繊維不織布の結節点として残すことを特徴とする炭素繊維不織布の製造方法。
(5)炭素繊維強化プラスチックから再生された炭素繊維を用いる前記(4)に記載の炭素繊維不織布の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の炭素繊維不織布は、熱可塑性樹脂繊維の炭化物が炭素繊維不織布の結節点となり炭素繊維同士を固定するため抜け落ちがなく、また結節点が炭化物であるため炭素繊維の特徴である導電性を阻害することがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の炭素繊維不織布は、炭素繊維の短繊維を用いてなる不織布であって、熱可塑性樹脂繊維の炭化物からなる結節点を有することを特徴とするものであり、本発明の製造方法によって好ましく製造されうる。
【0010】
本発明の炭素繊維不織布は、炭素繊維の結節点として熱可塑性樹脂繊維の炭化物を含むが、炭素繊維不織布における該炭化物の量は、炭素繊維不織布の3〜25質量%であることが好ましく、より好ましくは5〜20質量%、さらに好ましくは5〜15質量%である。炭化物が3質量%以上であれば、炭素繊維不織布がほつれたり、炭素繊維の抜けが多くなることがない。また、炭化物が25質量%以下であれば、炭素繊維不織布が硬くなりすぎたり、通気性の悪いものとなって、不織布としての特徴を阻害されることがない。
【0011】
炭素繊維としては、ステープル状の短繊維を用いるが、いわゆるPAN系、ピッチ系あるいはレーヨン系のいずれ種類の炭素繊維でも使用できる。また、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)あるいは使用済みの炭素繊維不織布から再生された炭素繊維を使用することもできる。これらの炭素繊維は、それぞれ単独又は2種以上を混合して用いることができる。中でも、再生された炭素繊維を用いると比較的安価になるので、特に好ましい。炭素繊維の再生方法としてはCFRPから樹脂部分を燃焼により除去する方法や、溶剤で溶解あるいは分解することにより除去する方法等が考えられるが、どのような方法でもよく、炭素繊維の再生方法には制限されない。炭素繊維を再生した場合、単糸の長さが一定に揃ったステープルを得ることは困難で、どうしても非常に短い単糸が混じることになる。本発明では、このように極端に短い繊維が混じっていてもよい。炭素繊維の繊維長は通常、5〜100mmである。
【0012】
本発明において、炭素繊維不織布の目付量は、特に限定されるものではなく、該不織布の用途等に応じて適宜決定することができるが、通常、30〜1500g/m程度である。目付量が小さすぎると不織布の形態保持性が不良となり、一方、目付量が大きすぎると繊維の交絡に要するエネルギーの増大や、交絡不十分により炭素繊維の抜け落ち等が生じる。また、炭素繊維不織布の厚みは特に限定されるものではなく、その目的、用途に応じて適宜決定することができ、通常、1〜50mm程度である。
【0013】
本発明の炭素繊維不織布を製造する場合は、先ず、炭素繊維と熱可塑性樹脂繊維が、90/10〜20/80の質量比で混合されてなる不織布を形成する。炭素繊維と混合する繊維は、熱可塑性樹脂繊維であることが必要である。後の工程で、炭素繊維と熱可塑性樹脂繊維が混合された不織布が加熱されたときに、熱可塑性樹脂繊維が溶融し炭素繊維の一部を覆って、これが炭化したときにしっかり炭素繊維を固定して、結節点となりうるからである。
【0014】
熱可塑性樹脂繊維としては、熱可塑性樹脂を素材とする短繊維であれば制限はないが、価格や入手のしやすさの点からポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステルが好ましい。また、再生された熱可塑性樹脂繊維を使用することもできる。熱可塑性樹脂繊維の繊維長は10〜100mmが好ましく、さらに好ましくは20〜80mmである。単糸繊度は0.5〜30dtex、さらに好ましくは1.0〜10dtexである。該熱可塑性樹脂繊維は、それぞれ単独で又は、繊度や繊維長の異なるもの2種以上を混合して用いることができる。
【0015】
炭素繊維と熱可塑性樹脂繊維の配合比率は、質量比で、90/10〜20/80であればよく、好ましくは80/20〜30/70、さらに好ましくは70/30〜40/60である。炭素繊維が90質量%より多いと不織布の形成が困難になることがあり、一方、炭素繊維が20質量%より少ないと熱可塑性樹脂繊維を燃焼した後の不織布が形状を保持できないことがある。
【0016】
不織布の形成方法としては、カーディングでウェブを形成し、ニードルパンチで仕上げる方法をはじめ、ウォータージェットパンチ法などの一般的な不織布の製造方法を用いることができ、短繊維を混合してシート状にできる方法であればいずれでもよい。
【0017】
本発明においては、次いで、上記の炭素繊維と熱可塑性樹脂繊維の混合された不織布を加熱、燃焼させて、熱可塑性樹脂繊維の一部を炭化させ、炭素繊維不織布の結節点として残す。熱可塑性樹脂繊維の一部を残す方法としては、(1)炭素繊維と熱可塑性樹脂繊維の混合された不織布を熱可塑性樹脂の溶融温度以上、分解温度以下に加熱し、そのまま一定時間保って不織布から溶融した樹脂を落とした後、低酸素濃度下で樹脂の分解温度以上に加熱して不織布に残った樹脂を炭化させる、(2)低酸素濃度下で炭素繊維と熱可塑性樹脂繊維の混合された不織布を樹脂の分解温度以上に加熱し樹脂を炭化させた後、酸素濃度を上げ炭素繊維が燃えない温度範囲で、樹脂の炭化物を焼き一部だけを残す、等の方法が考えられる。これらの方法で、温度、時間等の条件は、使用する熱可塑性樹脂繊維の種類により溶融温度や分解温度が異なるため、それらの事情に応じて適宜決定すればよい。
【0018】
なお、本発明の方法では、得られる炭素繊維不織布の目付や厚みを調整するために、炭素繊維と熱可塑性樹脂繊維の混合された不織布を形成した後、熱可塑性樹脂が溶融する温度で加熱、圧縮してもよい。
【実施例】
【0019】
以下、実施例を用いて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。なお、炭化物量は以下のように測定した。
【0020】
(炭化物量の測定方法)
重量を測定した炭素繊維不織布を、空気の入る加熱炉内で450℃に加熱し、ほとんど重量変化がなくなるまで保持する。加熱前の重量をW、加熱後の重量をWとすると、炭化物量は次式により求められる。
炭化物量=(W−W)÷W
【0021】
(実施例1〜4、比較例1〜2)
炭素繊維フィラメントとエポキシ樹脂からなるフィラメントワインド成形されたCFRPのエポキシ樹脂部分を焼却して炭素繊維を再生し取り出した。再生した炭素繊維を回転式のステープルカッターで切断し、繊維長が50mmの炭素繊維ステープルを得ようとしたが、炭素繊維を揃えて切ることができないので、単糸の長さを揃えることができなかった。10mm以下の繊維も多く混じっていた。
【0022】
上記炭素繊維ステープルとポリプロピレン(PP)繊維ステーブル(トーア紡PP−RW7.8T×64mm)を表1の割合で混合し、カーディングして得られたウェブにニードルパンチを施して不織布とした。得られた不織布を、密閉容器内で450℃で1時間加熱し、PP繊維を分解、炭化させた後、空気の入る状態にし、450℃でさらに30分保持して炭化物の一部を除去し、炭素繊維不織布を作製した。
【0023】
【表1】

【0024】
表1の結果から、実施例1〜4では加熱処理後にほつれや炭素繊維の抜けのないしっかりした不織布が得られたが、比較例1ではウェブの絡み合いが弱いため、ニードルパンチの段階で不織布を得ることができなかった。また、比較例2ではPP繊維を焼いた後、炭素繊維は不織布の形態を保てなかった。
【0025】
(実施例5〜7)
実施例2で作製した炭素繊維とPP繊維の不織布を、密閉容器内で450℃、1時間加熱し、PP繊維を分解、炭化させた後、空気の入る状態で時間を変更して450℃で加熱することにより、炭化物量の異なる炭素繊維不織布を作製した。実施例5〜7ではいずれもほつれや炭素繊維の抜けのない不織布が得られた。
【0026】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明に係る炭素繊維不織布は、導電性に優れ、しかもほつれや炭素繊維の抜け落ちがほとんどないので、帯電防止材、電磁波シールド材に好適に利用できるが、その他フィルターや樹脂を含浸させ炭素繊維強化樹脂としても好適に利用することができる。また、本発明の方法は、使用済みの炭素繊維と熱可塑性樹脂繊維からなる不織布、或いはこれを加熱、圧縮したボード(自動車用内装材)から、炭素繊維を不織布としてリサイクルする方法としても用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素繊維の短繊維を用いてなる不織布であって、熱可塑性樹脂繊維の炭化物からなる結節点を有することを特徴とする炭素繊維不織布。
【請求項2】
炭素繊維強化プラスチックから再生された炭素繊維を用いる請求項1に記載の炭素繊維不織布。
【請求項3】
使用済みの炭素繊維不織布から再生された炭素繊維を用いる請求項1に記載の炭素繊維不織布。
【請求項4】
炭素繊維と熱可塑性樹脂繊維の短繊維が90/10〜20/80の質量比で混合されてなる不織布を、加熱、燃焼させて熱可塑性樹脂繊維の一部を炭化させ、炭素繊維不織布の結節点として残すことを特徴とする炭素繊維不織布の製造方法。
【請求項5】
炭素繊維強化プラスチックから再生された炭素繊維を用いる請求項4に記載の炭素繊維不織布の製造方法。

【公開番号】特開2008−81872(P2008−81872A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−261899(P2006−261899)
【出願日】平成18年9月27日(2006.9.27)
【出願人】(593049431)高安株式会社 (15)
【Fターム(参考)】