説明

炭素繊維強化シリコン含浸炭化ケイ素セラミックスの製造方法及びこの製造方法によって製造されたセラミックス

【課題】面積の大きいディスクを作製する際、曲げ強度と破壊エネルギーがともに増大した炭素繊維強化シリコン含浸炭化珪素セラミックスを得ることできる製造方法を提供する。
【解決手段】炭素繊維と、炭素粉と、炭化ケイ素粉と、ゲル化能を有する有機物と、揮散性液体とを含む原料を混合してスラリーを調製する工程と、前記工程により得られたスラリーを型に鋳込み、加圧または減圧下でゲル化または硬化させて成形する工程と、前記工程により得られた成形体を焼成する工程と、前記工程により得られた焼成体にシリコンを含浸させる工程とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維強化シリコン含浸炭化ケイ素セラミックスの製造方法及びこの製造方法によって製造されたセラミックスに関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維強化シリコン含浸炭化ケイ素セラミックスは、複合セラミックスの一種であり硬度,耐摩耗性,耐熱性,耐腐食性,軽量性等の諸特性が金属材より優れている種々の複合セラミックス材料の中でも、特に高い破壊靭性が得られる。
【0003】
近年では、特に自動車や鉄道車両の制動用ディスクブレーキ用ディスクへの応用が検討されており、より高い耐摩耗性と強度を得るため、さまざまな工夫がなされている。
【0004】
例えば特許文献1では、炭素繊維強化炭素複合材に金属Siを溶融含浸させて得られる炭素繊維強化SiC系複合材において、該炭素繊維強化炭素複合材に用いられる炭素繊維がピッチ系炭素短繊維であり、前記ピッチ系炭素短繊維の繊維が二次元ランダムに配向していることで、引張強度の高い炭素繊維強化SiC系複合材を提供するという技術が開示されている。
【0005】
また特許文献2には、マトリックスを構成するセラミックス粉末に対して、直径が3μm以上150μm以下であり、長さが0.1mm以上20mm以下であるセラミックス繊維を60体積%以下の割合で添加し、さらに添加剤または分散媒を添加混合して調製した原料混合体を、鋳込み成形法,押出し成形法,ドクターブレード法,射出成形法および自己硬化成形法から選択されるいずれかの方法によって成形するか、あるいは所定形状に成形したセラミックス短繊維から成る予備成形体(プリフォーム)に鋳込み成形法,射出成形法,自己硬化成形法から選択されるいずれかの方法によりマトリックスを含浸注入成形し、脱脂後に焼結して製造することで、複雑形状の複合材料を形成することができ、破壊靭性値および強度を改善した繊維強化セラミックス複合材料およびその製法を提供するという技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−39319公報
【特許文献2】特開平6−340475公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示の技術で得られる材料の強度では、必ずしも十分とはいえない。また、成形に熱加圧成形を用いているので、大型の構造物を作製するときは大型の加熱加圧装置が必要となり製造コスト増加が懸念される。さらに、大きなサイズになるほど熱分布を均一にすることが困難になるので、成形後の炭素繊維や含浸用炭素またはシリコン材料の組成が不均一になった状態となり、これが強度の低下を招いている。
【0008】
また、特許文献2に開示の技術では、成形方法として鋳込み成形,射出成形法,押出し成形法または自己硬化成形法を採用することにより、複雑形状を有する最終製品形状に近い、いわゆるニアネットシェイプな成形体を量産することができ、複雑形状であっても緻密化した繊維強化セラミックス複合材料を効率的に製造することができるとされている。
【0009】
しかし、複合セラミックスは、使用する繊維の材質、マトリックスの組成、最終製品の構造とそれに求められる物性によって、製造方法もきめ細かく設定しないと十分な特性を得ることが出来ない。炭素繊維強化シリコン含浸炭化ケイ素セラミックスでディスクのような比較的単純でかつ大型の形状を作製しようとした場合、特許文献1はもとより特許文献2の技術を適用しても、曲げ強さや破壊エネルギーなどの特性で十分な値が得られているとは言い難い。
【0010】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、曲げ強度と破壊エネルギーの両方が高い値を示す炭素繊維強化シリコン含浸炭化珪素セラミックスを得ることができる製造方法と、高い曲げ強さと破壊エネルギーを両立した炭素繊維強化シリコン含浸炭化珪素セラミックスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するためになされた本発明に係る炭素繊維強化シリコン含浸炭化ケイ素セラミックスの製造方法は、炭素繊維と、炭素粉と、炭化ケイ素粉と、ゲル化能を有する有機物と、揮散性液体とを含む原料を混合してスラリーを調製する工程と、前記工程により得られたスラリーを型に鋳込み、加圧下または減圧下でゲル化または硬化させて成形する工程と、前記工程により得られた成形体を焼成する工程と、前記工程により得られた焼成体にシリコンを含浸させる工程と、を含むことを特徴としている。
【0012】
このように、本発明は炭化ケイ素粉に炭素繊維と炭素粉とを添加して、更にゲル化能を有する有機物を添加し、得られたスラリーを型に鋳込み、加圧下もしくは減圧下でゲル化または硬化させて成形する、いわゆるゲルキャスト成形と加圧もしくは減圧成形を併用して成形を行うことにより、所定形状の成形体を得るものである。したがって、大きい形状を作製する場合にも、全体に炭素繊維と炭素粉が均一に分散し、焼結後の炭素繊維と炭化ケイ素も局所的に組成あるいは密度が偏ることなく均質な材料を作製することができる。
【0013】
ここで、炭素繊維の含有量は10重量%以上40重量%以下、および前記炭素粉の含有量は1重量%以上15重量%以下であることが好ましい。このような形態をとることで、十分な曲げ強さと破壊エネルギーが確保できる。
【0014】
また、炭素繊維強化シリコン含浸炭化ケイ素セラミックスは、板状または円盤状の平面体で、かつ主面の最大長が300mm以上1000mm以下、厚さが20mm以上100mm以下であることが望ましい。このような大きい形状のセラミックスにおいても、十分な曲げ強さと破壊エネルギーが確保できる。
【0015】
上記製造方法によって製造された炭素繊維強化シリコン含浸炭化ケイ素セラミックスは、炭素繊維および炭化珪素が均質に存在するため、曲げ強さが向上し、破壊エネルギーも増大する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ディスクブレーキのディスクのような大面積で比較的肉厚という特定の形状に成形する場合において、従来の製造方法と比べて、均質、緻密、高強度で、曲げ強さの向上や破壊エネルギーを増大させた炭素繊維強化シリコン含浸炭化珪素セラミックスを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は本発明にかかる製造工程を示すフローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明についてより詳細に説明する。
本発明に係る炭素繊維強化シリコン含浸炭化ケイ素セラミックスの製造方法は、原料を混合するスラリー調製工程と、加圧もしくは減圧でのゲルキャストによる成形工程と、焼成工程と、シリコン含浸工程とを主な工程として備えている。そして、前記スラリー調製工程においては主原料である炭化ケイ素粉に、炭素繊維と炭素粉を添加し、更にゲル化能を有する有機物を添加し、得られたスラリーを型に鋳込み、加圧もしくは減圧下でゲル化または硬化させて成形する、いわゆるゲルキャスト成形と加圧もしくは減圧成形を併用して成形を行う。図1に製造工程フローを示す。
【0019】
繊維強化セラミックスで成形体の製造方法としては、熱加圧成形法が一般的に用いられているが、この方法は加熱するとき成形体全体を均等に加熱しないと、組成や構造が不均一になってしまうという問題がある。これを解決するには、大型の加熱装置とより精度のよい温度制御機構を具備する必要があり、結果として装置の高額化とコスト高を招く。しかし、ゲルキャスト成形と加圧もしくは減圧成形を併用して成形を行う方法では、加熱の必要のないうえ、スラリーを十分混合して均等にしておけば、ディスクのような大きく平たい形状でも全体に均質にすることが容易である。
【0020】
また、本発明にかかる製造方法は、炭素繊維と炭素粉を適切に混合する点にも特徴がある。成形体を作製して焼結後のシリコン含浸工程で、含浸させるシリコンと炭素繊維の一部および炭素粉が反応して炭化ケイ素となるが、炭素繊維と炭素粉の混合比と成形時の条件を調整することで、炭化ケイ素と炭素繊維の組成比や炭化ケイ素の密度を自在に調整することが可能となる。このため、全体にわたって均質な所望の組成、構造を簡易に得ることが可能である。
【0021】
また、炭素繊維の含有量は10重量%以上40重量%以下、および前記炭素粉の含有量は1重量%以上15重量%以下であることが好ましい。炭素繊維の含有量が10重量%未満では破壊エネルギーを十分確保できず、40重量%を超えると炭化ケイ素の相対比が下がり曲げ強度が低下するので、いずれも好ましくない。
【0022】
また、炭素繊維強化シリコン含浸炭化ケイ素セラミックスは、板状または円盤状の平面体で、かつ主面の最大長が300mm以上1000mm以下、厚さが20mm以上100mm以下であることが好ましい。ここで、主面の最大長とは、円盤であれば直径、長方形であれば対角線のように、面上で取りうる最大長さのことである。
【0023】
本発明は、特にブレーキディスク用のディスクのような円盤形状でその特徴が現れる。すなわち、主面が広く相対的に厚さとの比が大きいディスク形状は、曲げ強さは弱い傾向にある。このため、強度を確保するため一定の厚さを持たせる必要があるが、厚さ方向に対しても均質にしようとすると、炭素繊維が均質に分散する成形方法、シリコン含浸時のシリコンと炭素繊維や炭素粉との反応を考慮した炭素の組成が必要となる。本発明を適用しこれらを最適化することで、所望の特性を得ることが出来る。
【0024】
特に、主面の最大長が300mm以上1000mm以下、かつ厚さが20mm以上100mm以下のときに、曲げ強さと破壊エネルギーを高い値で得ることが出来る。主面の最大長が300mm未満では厚さの影響がほとんどなく、1000mmを超えるものは製造自体が困難なおそれがある。また、厚さが20mm未満では曲げ強さが低下し、100mmを超えると、本発明の適用でも曲げ強さが低下してしまい、好ましいとはいえない。
【0025】
なお、原料を混合して調製されるスラリーには、鋳込み成形の際の操作性、成形体の形状保持および加工性等の観点から、ゲル化能を有する有機物が添加される。このゲル化能を有する有機物としては、例えば、ポリエチレンイミン等のイミン系樹脂とその架橋剤である水溶性エポキシ樹脂等の架橋重合性樹脂とその架橋剤(硬化剤)の組合せや、でん粉、寒天、ゼラチン等の天然物のゲル化剤等を挙げることができる。前記ゲル化能を有する有機物の添加量は、その有機物の種類に応じて適宜決定される。
【0026】
本発明において用いられる揮散性液体としては、一般には純水が使用されるが、その他エタノールやエタノール水溶液を用いることもできる。またカーボン源としては、炭素粉以外にも、フラン系樹脂、フェノール系樹脂、芳香族アルコール等の化合物を単独または合わせて添加することもできる。
【実施例】
【0027】
以下、本発明を実施例に基づきさらに具体的に説明するが、本発明は下記の実施例により制限されるものではない。
[実施例1]
粉末原料は、平均長さ8mmの炭素繊維20重量部、平均粒径0.8μmの炭化ケイ素粉30重量部、平均粒径50nmのカーボンブラック10重量部を混合して作製する。この粉末原料に、エタノール15重量部と、フェノール樹脂10重量部と、イミン系樹脂等の架橋重合性樹脂であるソルビトールポリグリシジルエーテル10重量部と、架橋剤であるポリエチレンイミン5重量部添加し、混合してスラリーを調製する。
【0028】
次の成形工程では、前記スラリーを脱泡後、SUS製の型に鋳込む。そして100N/cm2の加圧の条件下でゲル化または硬化させた後に、脱型して乾燥させることで成形体を得る。
【0029】
次の焼成工程では、前記工程により得られた成形体を焼成する。この成形体は、還元雰囲気下にて、1000℃で、一次焼成する。そして更に、還元雰囲気下にて、2000℃で二次焼成する。そして、シリコン含浸工程において、10Paの減圧下で、1600℃で、前記工程により得られた焼成体に溶融シリコンを含浸させる。最終的にはφ500mm,厚さ30mmの円盤形状を作製する。
【0030】
この炭素繊維強化シリコン含浸炭化ケイ素セラミックスについての、密度、炭素繊維体積含有率、曲げ強さ、破壊エネルギーを求めた。
密度は、JISR1634によるアルキメデス法により測定して求める。また、炭素繊維体積含有率は、添加炭素繊維体積(重量/密度)/試料体積により求めた。
【0031】
また、曲げ強さは、JISR1601に準拠し、試験片を3×4×40mmの形状に加工し、クロスヘッドスピードを0.5mm/minとして測定した。更に、破壊エネルギーは、3×4×40mmに加工した試験片中央部に、厚さ0.1mmのダイヤモンドブレードを用いて深さ約2mmのストレートノッチを形成し、破壊エネルギーの測定を行った。測定は、日本セラミックス協会規格JCRS−201「シェブロンノッチ試験片の準静的3点曲げ破壊によるセラミック系複合材料の破壊エネルギー試験方法」に準拠した。支点間距離は30mm、荷重点のクロスヘッドスピードは0.01mm/minとし、最大荷重値の5%までの破壊仕事より、次式から破壊エネルギーを導いた。
破壊エネルギー(J/m2)=破壊仕事(J)/断面積(m2
【0032】
その結果、実施例1では、炭素繊維体積含有率32%、密度2.7g/m3、曲げ強さ268MPa、破壊エネルギー2650J/m2であった。
【0033】
[実施例2]
粉末原料は、平均長さ8mmの炭素繊維25重量部、平均粒径0.8μmの炭化ケイ素粉20重量部、平均粒径50nmのカーボンブラック10重量部を混合して作製する。この粉末原料に、エタノール20重量部と、フェノール樹脂10重量部と、イミン系樹脂等の架橋重合性樹脂であるソルビトールポリグリシジルエーテル10重量部と、架橋剤であるポリエチレンイミン5重量部添加し、混合してスラリーを調製する。
【0034】
その後の成形工程、焼成工程、シリコン含浸工程、および各種特性評価は実施例1と同じである。
【0035】
この実施例2では、炭素繊維体積含有率38%、密度2.6g/m3、曲げ強さ253MPa、破壊エネルギー2720J/m2であった。
【0036】
[比較例1]
粉末原料としては、平均長さ8mmの炭素繊維58重量部、平均粒径0.8μmの炭化ケイ素粉32重量部、フェノール樹脂20重量部添加し、混合してスラリーを調製する。
【0037】
次の成形工程においては、前記スラリーを脱泡後、120℃、100N/cm2で、熱加圧成形を行う。その後の焼成工程、シリコン含浸工程、および各種特性評価は実施例1と同じである。
【0038】
この比較例1では、炭素繊維体積含有率33%、密度2.3g/m3、曲げ強さ65MPa、破壊エネルギー2420J/m2であった。
【0039】
さらに、製造工程と特性評価は実施例1に準じ実施例3として、また、比較例1に準じ比較例2として、成形体としてφ500mmの円盤で、厚さ120mm、厚さ100mm、厚さ80mm、厚さ50mm、厚さ20mm、厚さ10mmとして、それぞれの製造条件での曲げ強さと破壊エネルギーの比較を行った。
ここで、曲げ強さが200MPa以上、破壊エネルギーが2400J/m2以上を○、曲げ強さあるいは破壊エネルギーが前記の値を下回ったら△、2つとも前記の値を下回ったら×という指標を用いる。その結果を表1に示す。なお、評価用サンプルの採取部位は、主面上は円盤の中央部、厚さ方向に対しては厚さの中間位置を含む部位から取った。これは、部材の均質性と厚さとの関係をみるためである。
【0040】
【表1】

【0041】
表1に示すように、同じ主表面の面積で厚さが変化すると、実施例3では、厚さが20mmから100mmでは特性は曲げ強さが200MPa以上、破壊エネルギーが2400J/m2以上であるが、比較例2である熱加圧法では、厚さが20mmより厚くても薄くても、曲げ強さまたは破壊エネルギーが低下する傾向が見られた。これは熱加圧法では厚さが厚くなると材質が不均一になるので、その分曲げ強さが低下したものと推測される。
【0042】
更に、炭素繊維の含有量について詳細な検討を行った。
[実施例4]
粉末原料は、平均長さ8mmの炭素繊維11重量部、平均粒径0.8μmの炭化ケイ素粉47重量部、平均粒径50nmのカーボンブラック8重量部を混合して作製する。この粉末原料に、エタノール13重量部と、フェノール樹脂8重量部と、イミン系樹脂等の架橋重合性樹脂であるソルビトールポリグリシジルエーテル8重量部と、架橋剤であるポリエチレンイミン4重量部添加し、混合してスラリーを調製する。
【0043】
その後の成形工程、焼成工程、シリコン含浸工程、および各種特性評価は実施例1と同じである。
【0044】
この実施例4では、炭素繊維体積含有率10%、密度3.0g/m3、曲げ強さ301MPa、破壊エネルギー1415J/m2であった。曲げ強さは200MPa以上であり、良好な結果を得ることができた。破壊エネルギーは2400J/m2以下であったが、1415J/m2とある程度高い値を得ることができた。
【0045】
[実施例5]
粉末原料は、平均長さ8mmの炭素繊維17重量部、平均粒径0.8μmの炭化ケイ素粉39重量部、平均粒径50nmのカーボンブラック9重量部を混合して作製する。この粉末原料に、エタノール13重量部と、フェノール樹脂9重量部と、イミン系樹脂等の架橋重合性樹脂であるソルビトールポリグリシジルエーテル9重量部と、架橋剤であるポリエチレンイミン4重量部添加し、混合してスラリーを調製する。
【0046】
その後の成形工程、焼成工程、シリコン含浸工程、および各種特性評価は実施例1と同じである。
【0047】
この実施例5では、炭素繊維体積含有率15%、密度2.9g/m3、曲げ強さ291MPa、破壊エネルギー2411J/m2であった。曲げ強さは200MPa以上であり、良好な結果を得ることができた。破壊エネルギーは2400J/m2以上であり、良好な結果を得ることができた。
【0048】
[実施例6]
粉末原料は、平均長さ8mmの炭素繊維18重量部、平均粒径0.8μmの炭化ケイ素粉36重量部、平均粒径50nmのカーボンブラック9重量部を混合して作製する。この粉末原料に、エタノール14重量部と、フェノール樹脂9重量部と、イミン系樹脂等の架橋重合性樹脂であるソルビトールポリグリシジルエーテル9重量部と、架橋剤であるポリエチレンイミン5重量部添加し、混合してスラリーを調製する。
【0049】
その後の成形工程、焼成工程、シリコン含浸工程、および各種特性評価は実施例1と同じである。
【0050】
この実施例6では、炭素繊維体積含有率19%、密度2.9g/m3、曲げ強さ287MPa、破壊エネルギー2450J/m2であった。曲げ強さは200MPa以上であり、良好な結果を得ることができた。破壊エネルギーは2400J/m2以上であり、良好な結果を得ることができた。
【0051】
[実施例7]
粉末原料は、平均長さ8mmの炭素繊維19重量部、平均粒径0.8μmの炭化ケイ素粉33重量部、平均粒径50nmのカーボンブラック10重量部を混合して作製する。この粉末原料に、エタノール14重量部と、フェノール樹脂10重量部と、イミン系樹脂等の架橋重合性樹脂であるソルビトールポリグリシジルエーテル10重量部と、架橋剤であるポリエチレンイミン5重量部添加し、混合してスラリーを調製する。
【0052】
その後の成形工程、焼成工程、シリコン含浸工程、および各種特性評価は実施例1と同じである。
【0053】
この実施例7では、炭素繊維体積含有率26%、密度2.7g/m3、曲げ強さ276MPa、破壊エネルギー2560J/m2であった。曲げ強さは200MPa以上であり、良好な結果を得ることができた。破壊エネルギーは2400J/m2以上であり、良好な結果を得ることができた。
【0054】
[実施例8]
粉末原料は、平均長さ8mmの炭素繊維37重量部、平均粒径0.8μmの炭化ケイ素粉16重量部、平均粒径50nmのカーボンブラック9重量部を混合して作製する。この粉末原料に、エタノール17重量部と、フェノール樹脂9重量部と、イミン系樹脂等の架橋重合性樹脂であるソルビトールポリグリシジルエーテル9重量部と、架橋剤であるポリエチレンイミン4重量部添加し、混合してスラリーを調製する。
【0055】
その後の成形工程、焼成工程、シリコン含浸工程、および各種特性評価は実施例1と同じである。
【0056】
この実施例8では、炭素繊維体積含有率40%、密度2.6g/m3、曲げ強さ198MPa、破壊エネルギー2780J/m2であった。曲げ強さは200MPa以下であったが、198MPaとある程度高い値を得ることができた。破壊エネルギーは2400J/m2以上であり、良好な結果を得ることができた。
【0057】
[比較例3]
粉末原料は、平均長さ8mmの炭素繊維4重量部、平均粒径0.8μmの炭化ケイ素粉52重量部、平均粒径50nmのカーボンブラック9重量部を混合して作製する。この粉末原料に、エタノール13重量部と、フェノール樹脂9重量部と、イミン系樹脂等の架橋重合性樹脂であるソルビトールポリグリシジルエーテル9重量部と、架橋剤であるポリエチレンイミン4重量部添加し、混合してスラリーを調製する。
【0058】
その後の成形工程、焼成工程、シリコン含浸工程、および各種特性評価は実施例1と同じである。
【0059】
この比較例3では、炭素繊維体積含有率4%、密度3.1g/m3、曲げ強さ385MPa、破壊エネルギー96J/m2であった。曲げ強さは200MPa以上であり、良好な結果を得ることができた。しかしながら破壊エネルギーが96J/m2と極端に破壊エネルギーが低いものであった。
【0060】
[比較例4]
粉末原料は、平均長さ8mmの炭素繊維8重量部、平均粒径0.8μmの炭化ケイ素粉50重量部、平均粒径50nmのカーボンブラック8重量部を混合して作製する。この粉末原料に、エタノール13重量部と、フェノール樹脂8重量部と、イミン系樹脂等の架橋重合性樹脂であるソルビトールポリグリシジルエーテル8重量部と、架橋剤であるポリエチレンイミン4重量部添加し、混合してスラリーを調製する。
【0061】
その後の成形工程、焼成工程、シリコン含浸工程、および各種特性評価は実施例1と同じである。
【0062】
この比較例4では、炭素繊維体積含有率8%、密度3.1g/m3、曲げ強さ311MPa、破壊エネルギー786J/m2であった。曲げ強さは200MPa以上であり、良好な結果を得ることができた。しかしながら破壊エネルギーが786J/m2と破壊エネルギーが低いものであった。
【0063】
[比較例5]
粉末原料は、平均長さ8mmの炭素繊維43重量部、平均粒径0.8μmの炭化ケイ素粉9重量部、平均粒径50nmのカーボンブラック9重量部を混合して作製する。この粉末原料に、エタノール17重量部と、フェノール樹脂9重量部と、イミン系樹脂等の架橋重合性樹脂であるソルビトールポリグリシジルエーテル9重量部と、架橋剤であるポリエチレンイミン4重量部添加し、混合してスラリーを調製する。
【0064】
その後の成形工程、焼成工程、シリコン含浸工程、および各種特性評価は実施例1と同じである。
【0065】
この比較例5では、炭素繊維体積含有率46%、密度2.5g/m3、曲げ強さ113MPa、破壊エネルギー2840J/m2であった。曲げ強さが113MPaと低いものであった。破壊エネルギーは2400J/m2以上であり、良好な結果を得ることができた。
【0066】
上記実施例1,2、4,5,6,7、8及び比較例3〜5から明らかなように、炭素繊維含有率が10重量%以上40重量%であることが、曲げ強さ、破壊エネルギーの点から好ましいことが認められた。
【0067】
更に、炭素粉の含有量について詳細な検討を行った。
[比較例6]
粉末原料は、平均長さ8mmの炭素繊維22重量部、平均粒径0.8μmの炭化ケイ素粉33重量部を混合して作製する。この粉末原料に、エタノール17重量部と、フェノール樹脂11重量部と、イミン系樹脂等の架橋重合性樹脂であるソルビトールポリグリシジルエーテル11重量部と、架橋剤であるポリエチレンイミン6重量部添加し、混合してスラリーを調製する。
その後の成形工程、焼成工程、シリコン含浸工程、および各種特性評価は実施例1と同じである。
【0068】
この比較例6では、炭素繊維体積含有率32%、密度2.2g/m3、曲げ強さ195MPa、破壊エネルギー2540J/m2であった。曲げ強さは195MPaと低いものであった。破壊エネルギーは2400J/m2以上であり、良好な結果を得ることができた。
【0069】
[実施例9]
粉末原料は、平均長さ8mmの炭素繊維22重量部、平均粒径0.8μmの炭化ケイ素粉33重量部、平均粒径50nmのカーボンブラック1重量部を混合して作製する。この粉末原料に、エタノール16重量部と、フェノール樹脂11重量部と、イミン系樹脂等の架橋重合性樹脂であるソルビトールポリグリシジルエーテル11重量部と、架橋剤であるポリエチレンイミン5重量部添加し、混合してスラリーを調製する。
その後の成形工程、焼成工程、シリコン含浸工程、および各種特性評価は実施例1と同じである。
【0070】
この実施例9では、炭素繊維体積含有率32%、密度2.5g/m3、曲げ強さ210MPa、破壊エネルギー2450/m2であった。曲げ強さは200MPa以上であり、良好な結果を得ることができた。破壊エネルギーは2400J/m2以上であり、良好な結果を得ることができた。
【0071】
[実施例10]
粉末原料は、平均長さ8mmの炭素繊維20重量部、平均粒径0.8μmの炭化ケイ素粉30重量部、平均粒径50nmのカーボンブラック10重量部を混合して作製する。この粉末原料に、エタノール15重量部と、フェノール樹脂10重量部と、イミン系樹脂等の架橋重合性樹脂であるソルビトールポリグリシジルエーテル10重量部と、架橋剤であるポリエチレンイミン5重量部添加し、混合してスラリーを調製する。
その後の成形工程、焼成工程、シリコン含浸工程、および各種特性評価は実施例1と同じである。
【0072】
この実施例10では、炭素繊維体積含有率32%、密度2.7g/m3、曲げ強さ268MPa、破壊エネルギー2650J/m2であった。曲げ強さは200MPa以上であり、良好な結果を得ることができた。破壊エネルギーは2400J/m2以上であり、良好な結果を得ることができた。
【0073】
[実施例11]
粉末原料は、平均長さ8mmの炭素繊維19重量部、平均粒径0.8μmの炭化ケイ素粉29重量部、平均粒径50nmのカーボンブラック14重量部を混合して作製する。この粉末原料に、エタノール14重量部と、フェノール樹脂10重量部と、イミン系樹脂等の架橋重合性樹脂であるソルビトールポリグリシジルエーテル10重量部と、架橋剤であるポリエチレンイミン5重量部添加し、混合してスラリーを調製する。
その後の成形工程、焼成工程、シリコン含浸工程、および各種特性評価は実施例1と同じである。
【0074】
この実施例11では、炭素繊維体積含有率32%、密度2.3g/m3、曲げ強さ201MPa、破壊エネルギー2610J/m2であった。曲げ強さは200MPa以上であり、良好な結果を得ることができた。破壊エネルギーは2400J/m2以上であり、良好な結果を得ることができた。
【0075】
[比較例7]
粉末原料は、平均長さ8mmの炭素繊維19重量部、平均粒径0.8μmの炭化ケイ素粉28重量部、平均粒径50nmのカーボンブラック16重量部を混合して作製する。この粉末原料に、エタノール14重量部と、フェノール樹脂9重量部と、イミン系樹脂等の架橋重合性樹脂であるソルビトールポリグリシジルエーテル9重量部と、架橋剤であるポリエチレンイミン5重量部添加し、混合してスラリーを調製する。
その後の成形工程、焼成工程、シリコン含浸工程、および各種特性評価は実施例1と同じである。
【0076】
この比較例7では、炭素繊維体積含有率32%、密度2.1g/m3、曲げ強さ184MPa、破壊エネルギー2430J/m2であった。破壊エネルギーは2400J/m2以上であり、良好な結果を得ることができたが、曲げ強さは184MPaと低いものであった。
【0077】
上記実施例9〜11及び比較例6,7から明らかなように、前記炭素粉の含有量は1重量%以上15重量%以下であることが、曲げ強さ、破壊エネルギーの点から好ましいことが認められた。
更に、上記実施例及び比較例から、炭素繊維含有率が10重量%以上40重量%であり、炭素粉の含有量は1重量%以上15重量%以下であることが、曲げ強さ、破壊エネルギーの点からより好ましいことが認められた。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明は、航空機部品,自動車部品等の高信頼性が要求される部材及びこれら部材の製造方法に好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素繊維と、炭素粉と、炭化ケイ素粉と、ゲル化能を有する有機物と、揮散性液体とを含む原料を混合してスラリーを調製する工程と、前記工程により得られたスラリーを型に鋳込み、加圧下または減圧下でゲル化または硬化させて成形する工程と、前記工程により得られた成形体を焼成する工程と、前記工程により得られた焼成体にシリコンを含浸させる工程とを含む炭素繊維強化シリコン含浸炭化ケイ素セラミックスの製造方法。
【請求項2】
炭素繊維の含有量は10重量%以上40重量%以下、および前記炭素粉の含有量は1重量%以上15重量%以下であることを特徴とする請求項1に記載の前記炭素繊維強化シリコン含浸炭化ケイ素セラミックスの製造方法。
【請求項3】
前記炭素繊維強化シリコン含浸炭化ケイ素セラミックスは、板状または円盤状の平面体で、かつ主面の最大長が300mm以上1000mm以下、厚さが20mm以上100mm以下であることを特徴とする請求項1乃至2に記載の前記炭素繊維強化シリコン含浸炭化ケイ素セラミックスの製造方法。
【請求項4】
前記請求項1乃至請求項3のいずれかに記載された炭素繊維強化シリコン含浸炭化ケイ素セラミックスの製造方法によって製造されたことを特徴とする炭素繊維強化シリコン含浸炭化ケイ素セラミックス。

【図1】
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【公開番号】特開2010−254541(P2010−254541A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−175259(P2009−175259)
【出願日】平成21年7月28日(2009.7.28)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)「国等の委託研究の成果に係る特許出願(2008年(平成20年)度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 ナノテク・先端部材実用化研究開発 新幹線用ハイブリッドセラミックスディスクブレーキ部材開発 業務委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)」
【出願人】(507182807)コバレントマテリアル株式会社 (506)
【Fターム(参考)】