説明

炭素繊維強化プラスチックおよびその製造方法

【課題】成形時の炭素繊維の流動性に優れ、成形品の高い機械特性を発現可能な、炭素繊維強化プラスチックおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】炭素繊維の集合体を含む複数の小片とマトリックス樹脂からなる炭素繊維強化プラスチックであって、前記炭素繊維の集合体を含む小片が、炭素繊維を含む抄紙または不織布を切断したものであることを特徴とする炭素繊維強化プラスチック、およびその製造方法。小片の面積が1〜50cm2、小片の厚みが0.1〜2mm、小片を構成する炭素繊維の重量平均繊維長が1〜50mmの範囲にあるのが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維強化プラスチックおよびその製造方法に関し、とくに、成形の際の炭素繊維の流動性を向上させるとともに成形品の機械特性の向上が可能な炭素繊維強化プラスチックおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維を含む繊維強化プラスチックは、軽量性と高い機械特性を有することから種々の分野に展開されている。中でも、比較的複雑な形状の成形を簡便に行うことができる成形用の素材として、炭素繊維からなる抄紙または不織布に樹脂を含浸したスタンパブルシート(例えば、特許文献1)や、カットした炭素繊維束に樹脂を含浸したものをシート化したSMC(シートモールディングコンパウンド)(例えば、特許文献2)が知られている。
【0003】
炭素繊維からなる抄紙または不織布に樹脂を含浸したスタンパブルシートを用いた成形品は、機械特性には優れるが、成形中の炭素繊維の流動性が低く、成形性が劣る。これは強化繊維である炭素繊維が分散しているため応力が集中しににくく、炭素繊維の補強効果が十分に発揮される一方で、炭素繊維同士が交差してお互いの動きを制約しているため、成形時に動きにくくなるためである。
【0004】
一方、カットした炭素繊維束に樹脂を含浸してなるSMCを用いた成形では、炭素繊維が短く切断されているため流動性が高く、成形性に優れるが、機械特性が低い。これは、カットされた炭素繊維が束状であるため、炭素繊維の端部に応力が集中しやすく、炭素繊維がネットワークを形成していないため動きやすくなっているためである。とくに、炭素繊維が束ごと動いてしまうと、成形品として所望の機械特性が得られにくい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−212311号公報
【特許文献2】特開2010−163536号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明の課題は、上記のような従来のスタンパブルシートとSMCそれぞれの欠点を補うべく、成形時の炭素繊維の流動性に優れ、複雑な形状であっても所望の炭素繊維の分布を容易に達成でき、同時に、炭素繊維同士が互いに交差するネットワーク形態を適度に残して成形品の高い機械特性を発現可能な、炭素繊維強化プラスチックおよびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係る炭素繊維強化プラスチックは、炭素繊維の集合体を含む複数の小片とマトリックス樹脂からなる炭素繊維強化プラスチックであって、前記炭素繊維の集合体を含む小片が、炭素繊維を含む抄紙または不織布を切断したものであることを特徴とするものからなる。
【0008】
このような本発明に係る炭素繊維強化プラスチックにおいては、炭素繊維強化プラスチックは、従来のSMCと同様、炭素繊維の集合体を含む複数の小片とマトリックス樹脂とからなるが、炭素繊維の集合体を含む小片が、あらかじめ形成された炭素繊維を含む抄紙または不織布を切断したものから形成されており炭素繊維の束状になったものではないので、小片においても抄紙または不織布の形態が活かされて適度に分散されており、束状の場合のような応力の集中が少なく、成形品において高い機械特性の発現が可能となる。また、炭素繊維は一旦抄紙または不織布の形態とされて良好に分散されているので、炭素繊維同士が交差して互いの動きを適度に制約することができ、かつ、この抄紙または不織布が小片に切断されていることにより、炭素繊維のネットワークが分断され、成形時に小片単位での流動が可能となる。すなわち、従来のスタンパブルシートにおける炭素繊維のネットワーク形態による高い機械特性発揮性能の利点が活かされつつ、小片への切断により成形時の炭素繊維の優れた流動性が実現される。したがって、複雑な形状であっても、優れた成形性をもって容易に所望の成形品を成形することができ、しかも、成形品の高い機械特性を確実に実現できる。
【0009】
上記本発明に係る炭素繊維強化プラスチックにおいては、上記炭素繊維の集合体を含む小片の面積としては、1〜50cm2の範囲にあることが好ましい。小片の面積が小さすぎると、抄紙または不織布から形成された小片であることによる、炭素繊維のネットワーク形態による利点が小さくなる。逆に小片の面積が大きすぎると、成形時に小片単位での流動が困難になり、成形性が低下するおそれがある。
【0010】
また、上記炭素繊維の集合体を含む小片の厚みとしては、0.1〜2mmの範囲にあることが好ましい。上記面積と同様、小片の厚みが小さすぎると、抄紙または不織布から形成された小片であることによる、炭素繊維のネットワーク形態による利点が小さくなる。逆に小片の厚みが大きすぎると、成形時に小片単位での流動が困難になるおそれがあり、成形性が低下するおそれがある。
【0011】
また、上記炭素繊維の集合体を含む小片を構成する炭素繊維の長さとしては、重量平均繊維長にて1〜50mmの範囲にあることが好ましい。炭素繊維の長さが短すぎると、分散されている炭素繊維同士の動き制約性能が小さくなり、成形品の機械特性が低下するおそれがある。また、炭素繊維の長さが長すぎると、炭素繊維が流動しにくくなり、成形性が低下するおそれがある。
【0012】
本発明に係る炭素繊維強化プラスチックの製造方法は、少なくとも、
炭素繊維を用いて抄紙または不織布を作製する工程(A)、
工程(A)で作製された抄紙または不織布を炭素繊維の集合体を含む小片に切断する工程(B)、
工程(B)で切断された炭素繊維の集合体を含む小片の集合体を用いて、炭素繊維とマトリックス樹脂からなる炭素繊維強化プラスチックを作製する工程(C)、
を含むことを特徴とする方法からなる。
【0013】
上記のような本発明に係る炭素繊維強化プラスチックの製造方法においては、例えば、炭素繊維の集合体を含む小片に切断する工程(B)の前に抄紙または不織布にマトリックス樹脂を含浸する方法(実施形態1)と、炭素繊維の集合体を含む小片に切断する工程(B)の段階では実質的に未だマトリックス樹脂を含浸していないものを切断し、工程(C)において、炭素繊維の集合体を含む小片の集合体にマトリックス樹脂を含浸する方法(実施形態2)のいずれかを採用することができる。
【0014】
上記実施形態1に係る方法では、例えば、上記工程(A)において炭素繊維を用いて作製された抄紙または不織布にマトリックス樹脂を含浸し、上記工程(C)において、炭素繊維の集合体を含む小片の集合体をプレス成形(加熱を伴うプレス成形を含む)することにより炭素繊維強化プラスチックを作製することができる。
【0015】
また、上記実施形態2に係る方法では、例えば、上記工程(C)において、炭素繊維の集合体を含む小片の集合体にマトリックス樹脂を含浸することにより炭素繊維強化プラスチックを作製するが、このとき、上記工程(A)においては、炭素繊維のみからなる抄紙または不織布を作製することもできるし、炭素繊維が上記マトリックス樹脂とは別に散布樹脂粒子や樹脂繊維あるいは少なくとも一面に設けられた樹脂フィルム等によって仮に形態保持されている状態にて、炭素繊維を用いた抄紙または不織布を作製することもできる。いずれの手法も採用可能である。
【0016】
また、本発明に係る炭素繊維強化プラスチックの製造方法においては、例えば、上記工程(C)において、上記工程(B)で抄紙または不織布を炭素繊維の集合体を含む小片に切断したままの形態の、該小片の集合体を用いて(つまり、小片をあらためて散布するこおとなく)、炭素繊維とマトリックス樹脂からなる炭素繊維強化プラスチックを作製することが可能である。あるいは、上記工程(B)での切断により作製された複数の炭素繊維の集合体を含む小片を散布した後、上記工程(C)において、散布された小片の集合体を用いて、炭素繊維とマトリックス樹脂からなる炭素繊維強化プラスチックを作製することもできる。
【0017】
なお、本発明において、炭素繊維強化プラスチックのマトリックス樹脂としては、とくに限定されず、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂の両方が使用可能であり、さらにはそれらの混合形態も適用可能である。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る炭素繊維強化プラスチックおよびその製造方法によれば、従来のスタンパブルシートとSMCそれぞれの欠点を補って、成形時の炭素繊維の流動性を向上して複雑な形状であっても優れた成形性をもって所望の成形品を製造でき、同時に、炭素繊維の望ましい分散状態を実現して成形品の高い機械特性を容易に達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施態様に係る炭素繊維強化プラスチックの製造における炭素繊維の集合体を含む小片の成形時の広がりを例示した説明図である。
【図2】従来のスタンパブルシートの成形時の広がりを例示した説明図である。
【図3】本発明の別の実施態様に係る炭素繊維強化プラスチックの製造における各工程の状態を例示した説明図である。
【図4】従来のSMCの成形時の状態を例示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明の実施の形態について、従来技術と比較しながら、図面を参照して説明する。
本発明に係る炭素繊維強化プラスチックは、前述の如く、炭素繊維を用いて抄紙または不織布を作製する工程(A)、工程(A)で作製された抄紙または不織布を炭素繊維の集合体を含む小片に切断する工程(B)、工程(B)で切断された炭素繊維の集合体を含む小片の集合体を用いて、炭素繊維とマトリックス樹脂からなる炭素繊維強化プラスチックを作製する工程(C)を経て製造される。
【0021】
上記工程(B)で切断された炭素繊維の集合体を含む小片、例えば図1(A)に示すような、炭素繊維の抄紙に樹脂を含浸した小サイズの炭素繊維の集合体を含む小片1は、例えばプレス成形されることにより、図1(B)に示すように、その面積がある程度広がる(広がった小片2)。このとき、例えば一辺が数十mm程度までであれば、広がりやすい。また、抄紙や不織布から切断により作製された小片1においては、ランダムに分散されている炭素繊維の自由端量が多いので、小片1のシート端部に接する炭素繊維量が多いことになり、この面からも小片1が成形時に広がりやすい理由となっている。小片2のように広がることができるので、成形時に炭素繊維も流動しやすく、炭素繊維が補強対象部位に効率よく均一に移動されて、優れた成形性が得られるとともに、成形品の望ましい高い機械特性が得られる。
【0022】
これに比べ、従来のスタンパブルシートにおいては、例えば図2(A)に炭素繊維の抄紙に樹脂を含浸した大サイズのシート11を示すように、シート11をプレス成形してもその面積はほとんど広がらない(図2(B)のプレス成形後のシート12)。すなわち、前述したように、大きな面積にわたって炭素繊維同士が互いの動きを制約し合っているので、炭素繊維が動きにくく、成形時にシート12がほとんど広がらないため、成形性に劣る。
【0023】
また、本発明では、例えば図3(A)に示すような、例えば炭素繊維の抄紙に樹脂を含浸したもの21が、例えば図3(B)に示すように炭素繊維の集合体を含む小片22に切断され、それが例えばプレス成形されるので、成形時に、例えば図3(C)に示すように、各小片22がある程度広がり(広がった小片23)、全体としてもある程度広がる。この広がりの際、各小片22、23間は切断により分断されているので、小片単位で流動でき、複雑な形状への成形であっても、優れた成形性をもって容易に成形できる。また、小片ごとの流動の際にも、各小片が抄紙や不織布の炭素繊維がランダムに良好に分散されたものからの切断によって形成されたものであるから、各小片内においても適度に良好な炭素繊維分散状態が保たれ、均一な補強性能が得られ、成形品の望ましい優れた機械特性が実現される。
【0024】
これに比べ、従来のSMCにおいては、例えば図4(A)に示すように、カットした炭素繊維束の集合体に樹脂を含浸したSMCシート31として構成されるが、これを例えばプレス成形すると、図4(B)に示すように、繊維束が流動し、かつ、繊維束間も大きく広がったシート32となる。繊維束は広がる方向には拡大しやすいが、そのような広がりでは結局均一性に劣ることになる。また、炭素繊維は繊維束単位で存在するため、軸方向の引張強さが偏る(応力集中)等、シート全体として所望の強度が発揮されにくいこととなっている。
【0025】
このように、本発明では、従来のスタンパブルシートやSMCにおける欠点を実質的に解消でき、複雑な形状であっても機械特性の高い炭素繊維強化プラスチックを優れた生産性をもって容易に製造できる。
【実施例】
【0026】
以下に、本発明の実施例について、比較例とともに説明する。
実施例1
カーディングで作製した炭素繊維不織布にナイロン樹脂を含浸し、繊維体積含有率30%のスタンパブルシートを作製した。このスタンパブルシートを概略1辺10mmの正方形の小片に切断した後、ダンボール紙で作った内側が一辺200mmの紙枠の中に散布した後、200℃、1MPaでプレスし、そのまま冷却してシート状の成形用の材料を得た。この成形用材料を用いて成形を行ったところ、成形時の流動性、成形品の機械特性はともに良好であった。
【0027】
比較例1
一方、実施例1で作製したスタンパブルシートを小片にカットせず、1辺200mmの大きさで成形したものを評価したところ、流動性が十分でなく、目的とする形状に成形できなかった。
【0028】
比較例2
また、従来技術のSMCと比較するために、幅10mmの炭素繊維一方向テープ(UDテープ)を長さ10mmにカットし、実施例1における炭素繊維不織布を用いたものと同様に成形したところ、流動性は優れていたが機械特性は低かった。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明は、成形の際の炭素繊維の流動性の向上、成形品の機械特性の向上が望まれるあらゆる炭素繊維強化プラスチックおよびその製造方法に適用できる。
【符号の説明】
【0030】
1 小サイズの小片
2 広がった小片
11 大サイズのシート
12 プレス成形後のシート
21 炭素繊維の抄紙に樹脂を含浸したもの
22 小片
23 広がった小片
31 SMCシート
32 広がったシート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素繊維の集合体を含む複数の小片とマトリックス樹脂からなる炭素繊維強化プラスチックであって、前記炭素繊維の集合体を含む小片が、炭素繊維を含む抄紙または不織布を切断したものであることを特徴とする炭素繊維強化プラスチック。
【請求項2】
前記炭素繊維の集合体を含む小片の面積が1〜50cm2の範囲にある、請求項1に記載の炭素繊維強化プラスチック。
【請求項3】
前記炭素繊維の集合体を含む小片の厚みが0.1〜2mmの範囲にある、請求項1または2に記載の炭素繊維強化プラスチック。
【請求項4】
前記炭素繊維の集合体を含む小片を構成する炭素繊維の重量平均繊維長が1〜50mmの範囲にある、請求項1〜3のいずれかに記載の炭素繊維強化プラスチック。
【請求項5】
少なくとも、
炭素繊維を用いて抄紙または不織布を作製する工程(A)、
工程(A)で作製された抄紙または不織布を炭素繊維の集合体を含む小片に切断する工程(B)、
工程(B)で切断された炭素繊維の集合体を含む小片の集合体を用いて、炭素繊維とマトリックス樹脂からなる炭素繊維強化プラスチックを作製する工程(C)、
を含むことを特徴とする、炭素繊維強化プラスチックの製造方法。
【請求項6】
前記工程(A)において炭素繊維を用いて作製された抄紙または不織布にマトリックス樹脂を含浸し、前記工程(C)において、炭素繊維の集合体を含む小片の集合体をプレス成形することにより炭素繊維強化プラスチックを作製する、請求項5に記載の炭素繊維強化プラスチックの製造方法。
【請求項7】
前記工程(C)において、炭素繊維の集合体を含む小片の集合体にマトリックス樹脂を含浸することにより炭素繊維強化プラスチックを作製する、請求項5に記載の炭素繊維強化プラスチックの製造方法。
【請求項8】
前記工程(C)において、前記工程(B)で抄紙または不織布を炭素繊維の集合体を含む小片に切断したままの形態の、該小片の集合体を用いて、炭素繊維とマトリックス樹脂からなる炭素繊維強化プラスチックを作製する、請求項5〜7のいずれかに記載の炭素繊維強化プラスチックの製造方法。
【請求項9】
前記工程(B)での切断により作製された複数の炭素繊維の集合体を含む小片を散布した後、前記工程(C)において、散布された小片の集合体を用いて、炭素繊維とマトリックス樹脂からなる炭素繊維強化プラスチックを作製する、請求項5〜7のいずれかに記載の炭素繊維強化プラスチックの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2013−18859(P2013−18859A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−152827(P2011−152827)
【出願日】平成23年7月11日(2011.7.11)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】