説明

炭素繊維強化プロピレン系複合材料およびその成形体

【課題】超高分子量成分の量が低減されたプロピレン系重合体を用いることにより、曲げ強度および曲げ弾性率が向上した炭素繊維強化プロピレン系複合材料およびその成形体を提供する。
【解決手段】メタロセン触媒存在下に製造されたプロピレン系重合体(A)と、チーグラー・ナッタ触媒の存在下で製造されたプロピレン系重合体(H)をエチレン性不飽和結合含有モノマーでグラフト変性して得られた変性プロピレン系重合体(B)と、表面処理された炭素繊維(C)とから形成され、要件(i)から(iv)を満たす炭素繊維強化プロピレン系複合材料;(i)炭素繊維(C)の含有量が1〜80重量%;(ii)メルトフローレート(MFR;230℃、2.16kgf)が0.1〜10g/min;(iii)融点(Tm)が150℃以上;(iv)熱キシレンに溶かして加熱濾過し、アセトン中で再析出させた成分のZ平均分子量(Mz)が600,000以下。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維強化プロピレン系複合材料およびその成形体に関し、詳しくは、曲げ強度および引張強度が向上した炭素繊維強化プロピレン系複合材料およびその成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維は軽量かつ高強度であることから、熱硬化性樹脂を基材とした炭素繊維複合材料が航空・宇宙分野で使用されてきた。自動車車体の軽量化のための材料として、この炭素繊維複合材料を用いた自動車構造部材の展開が期待されているが、成形加工性(迅速成形性)に課題がある。
【0003】
成形加工性を改良するには、熱可塑性樹脂を基材とする方法などが挙げられる。例えば、ポリプロピレン樹脂は低比重で剛性が高く成形性が良いことから、複合材料の基材に適すると思われるが、炭素繊維とは相互作用し難く、また曲げ強度や曲げ弾性率が低いことが課題である。
【0004】
ところで、炭素繊維は樹脂との接着性をよくするために表面処理を行い、サイジング剤と呼ばれる集束剤で処理してから炭素繊維束をボビンに巻き取って製品にする。
したがって、炭素繊維およびポリプロピレン樹脂からなる炭素繊維強化プロピレン系複合材料は、サイジング処理された炭素繊維とポリプロピレン樹脂とを溶融状態で混練するか、または含浸させるなどして製造される。炭素繊維強化プロピレン系複合材料の機械強度は、炭素繊維とポリプロピレン樹脂との相互作用やポリプロピレン樹脂マトリックス中での炭素繊維の分散性(炭素繊維の開繊性)によって大きく作用されると考えられる。そこで、炭素繊維とポリプロピレン樹脂との相互作用を高めることを目的として、炭素繊維用の特定のサイジング剤(特許文献1)や、サイジング処理した炭素繊維と無水マレイン酸で変性されたプロピレン樹脂とからなる複合材料(特許文献2)などが開示されているが、特に炭素繊維強化プロピレン系複合材料の曲げ強度や曲げ弾性率にはまだ改良の余地がある。
【0005】
炭素繊維強化プロピレン系複合材料をクリープ強度および振動疲労強度などが要求される耐久製品に使用する場合、ポリプロピレン樹脂を高分子量化させる必要があるが、ポリプロピレン樹脂が高分子量化すると、炭素繊維と相互作用し難くなるため、炭素繊維の開繊性が低下し、製品外観や強度が悪化するという問題がある。また、炭素繊維を基布の形態で使用する場合は、炭素繊維基布を熱可塑性樹脂シートに溶融圧着させて成形品や製品を得る。熱可塑性樹脂をシート状に製膜するには、熱可塑性樹脂の分子量を十分に高くしなければならないが、分子量が高くなると溶融状態での分子運動性が劣るため、炭素繊維基布へ含浸し難くなるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−13069号公報
【特許文献2】特開2003−277525号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、超高分子量成分の量が低減されたプロピレン系重合体を用いることにより、曲げ強度および曲げ弾性率が向上した炭素繊維強化プロピレン系複合材料およびその成形体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意研究した結果、超高分子量プロピレン系重合体は溶融状態での分子運動性が劣るため、炭素繊維の開繊を阻害することに着眼し、超高分子量成分の含有量を低減した特定のプロピレン系重合体と、変性プロピレン樹脂と、表面処理された炭素繊維とから形成される炭素繊維強化プロピレン系複合材料が、良好な曲げ強度および曲げ弾性率を示し、またこれらの機械強度のバランスがよいことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明には以下の事項が含まれる。
〔1〕メタロセン触媒の存在下で製造されたプロピレン系重合体(A)と、チーグラー・ナッタ触媒の存在下で製造されたプロピレン系重合体(H)をエチレン性不飽和結合含有モノマーでグラフト変性して得られた変性プロピレン系重合体(B)と、表面処理された炭素繊維(C)とから形成され、下記要件(i)から(iv)を満たすことを特徴とする炭素繊維強化プロピレン系複合材料。
(i)該炭素繊維(C)の使用量が、プロピレン系重合体(A)、変性プロピレン系重合体(B)および炭素繊維(C)の合計100重量%中、1〜80重量%である。
(ii)メルトフローレート(MFR;230℃、2.16kgf)が0.1〜10g/minである。
(iii)融点(Tm)が150℃以上である。
(iv)熱キシレンに溶かして加熱濾過し、アセトン中で再析出させた成分のZ平均分子量(Mz)が600,000以下である。
【0010】
〔2〕さらに下記要件(v)を満たすことを特徴とする〔1〕に記載の炭素繊維強化プロピレン系複合材料。
(v)変性プロピレン系重合体(B)の使用量が、プロピレン系重合体(A)および変性プロピレン系重合体(B)の合計100重量%中、0.5〜40重量%である。
【0011】
〔3〕前記プロピレン系重合体(A)が下記要件(a−1)から(a−4)を満たすことを特徴とする〔1〕または〔2〕に記載の炭素繊維強化プロピレン系複合材料。
(a−1)メルトフローレート(MFR;230℃、2.16kgf)が3〜30g/10minである。
(a−2)分子量分布(Mw/Mn)が3.5未満である。
(a−3)90℃のo−ジクロロベンゼンに可溶な成分の量が1重量%以下である。
(a−4)融点(Tm)が150℃以上である。
【0012】
〔4〕前記変性プロピレン系重合体(B)が、カルボキシル基、酸無水物基またはこれらの誘導体を有することを特徴とする〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の炭素繊維強化プロピレン系複合材料。
【0013】
〔5〕前記表面処理が、エポキシ系ポリマー、ナイロン系ポリマーまたはウレタン系ポリマーを用いたサイジング処理であることを特徴とする〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の炭素繊維強化プロピレン系複合材料。
【0014】
〔6〕前記炭素繊維(C)が炭素繊維基布であることを特徴とする〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の炭素繊維強化プロピレン系複合材料。
【0015】
〔7〕〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載の炭素繊維強化プロピレン系複合材料を成形して得られる成形体。
【発明の効果】
【0016】
本発明の炭素繊維強化プロピレン系複合材料は、曲げ強度および曲げ弾性率が向上し、またこれらの機械強度のバランスに優れる。このため、本発明の炭素繊維強化プロピレン系複合材料は、軽量性に加えて成形性が要求される自動車構造部材などに好適である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の炭素繊維強化プロピレン系複合材料およびその成形体について説明する。
〔プロピレン系重合体(A)〕
本発明で用いられるプロピレン系重合体(A)は、メタロセン触媒の存在下で製造された重合体である。プロピレン系重合体(A)は、例えば、プロピレンの単独重合体、あるいはプロピレンと他の少量のモノマーとの共重合体が挙げられる。他の少量のモノマーとしては、エチレンおよび炭素原子数4〜20のα-オレフィンが挙げられる。炭素原子数4〜20のα-オレフィンとしては、具体的には、1-ブテン、1-ペンテン、3-メチル-1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、3-メチル-1-ペンテン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセンおよび1-エイコセンなどが挙げられ、好ましくは1-ブテン、1-ヘキセンおよび4-メチル-1-ペンテンが挙げられる。これらは1種単独でまたは2種以上組み合わせて用いられる。
【0018】
また、プロピレンと、他の少量のモノマーとの共重合体を構成するプロピレンに由来する単位の量は、通常95モル%以上、好ましくは98モル%以上である。
上記プロピレン系重合体(A)は、好ましくは下記要件(a−1)から(a−4)を満たす。
【0019】
(a−1)メルトフローレート(MFR;230℃、2.16kgf)が好ましくは1〜30g/10min、より好ましくは2〜25g/10min、特に好ましくは3〜20g/10minである。MFRが上記範囲にあると、プロピレン系重合体(A)中の超高分子量成分が比較的少なく、炭素繊維(C)の開繊性が良好であり、得られる炭素繊維強化プロピレン系複合材料の曲げ強度が高くなる。MFRが1g/10minよりも低いと、得られる炭素繊維強化プロピレン系複合材料のMFRが低くなりすぎ、射出成形性などの成形性が悪化する場合がある。一方、MFRが30g/10minよりも高いと、プロピレン系重合体(A)および変性プロピレン系重合体(B)からなるプロピレン系樹脂組成物と後述する炭素繊維(C)の基布とを溶融圧着させて成形体を形成する際に、該シートの製膜性が悪化する場合がある。
【0020】
(a−2)分子量分布(Mw/Mn)が好ましくは3.5未満、より好ましくは1.0以上3.5未満、より好ましくは1.0以上3.0未満、特に好ましくは1.0以上2.5未満である。分子量分布(Mw/Mn)が3.5以上になると、プロピレン系重合体(A)中に超高分子量成分が多く存在することになり、炭素繊維(C)の開繊性が悪化し、得られる炭素繊維強化プロピレン系複合材料の強度が低下する場合がある。
【0021】
(a−3)90℃のo−ジクロロベンゼンに可溶な成分の量が好ましくは1重量%以下、より好ましくは0.5重量%以下、特に好ましくは0.3重量%以下である。90℃のo−ジクロロベンゼンに可溶な成分の量が1重量%よりも多いと、プロピレン系重合体(A)の強度が低下し、得られる炭素繊維強化プロピレン系複合材料の強度が低下する場合がある。
【0022】
90℃のo−ジクロロベンゼンに可溶な成分の量は、クロス分別クロマトグラフィー(CFC)により測定する。クロス分別クロマトグラフ(CFC)装置は、結晶性分別を行う温度上昇溶離分別(TREF)部と、分子量分別を行うGPC部とを備えたものである。この装置を用いて、90℃までのプロピレン系重合体(A)の溶出量を算出した。
【0023】
(a−4)融点(Tm)が好ましくは150〜170℃、より好ましくは153〜170℃、特に好ましくは155〜170℃である。融点(Tm)が150℃未満であると、プロピレン系重合体(A)の耐熱性が低下し、得られる炭素繊維強化プロピレン系複合材料の耐熱性が悪化する場合がある。
【0024】
<プロピレン系重合体(A)の製造方法>
本発明で用いられるプロピレン系重合体(A)は、シクロペンタジエニル骨格などの配位子を分子内に持つメタロセン化合物を含む重合触媒の存在下でプロピレンを単独重合するか、あるいはプロピレンと、上述した他の少量のモノマーとを共重合することによって製造される。
【0025】
シクロペンタジエニル骨格を有する配位子を分子内に持つメタロセン化合物としては、その化学構造から、下記一般式[I]で表されるメタロセン化合物(D1)および下記一般式[II]で表される架橋型メタロセン化合物(D2)の二種類が挙げられ、好ましくは架橋型メタロセン化合物(D2)が挙げられる。
【0026】
【化1】

上記一般式[I]および[II]において、Mは第4族遷移金属、好ましくはチタン原子、ジルコニウム原子またはハフニウム原子を示し、Qはハロゲン原子、炭化水素基、アニオン配位子、および孤立電子対で配位可能な中性配位子から選ばれる基であり、jは1〜4の整数であり、Cp1およびCp2は、Mを挟んだサンドイッチ構造を形成するシクロペンタジエニル基または置換シクロペンタジエニル基であり、互いに同一でも異なっていてもよい。置換シクロペンタジエニル基としては、インデニル基、フルオレニル基、アズレニル基、およびこれらの基に1個以上の炭化水素基が置換した基が挙げられ、置換シクロペンタジエニル基がインデニル基、フルオレニル基およびアズレニル基である場合、シクペンタジエニル基に縮合する不飽和環の二重結合の一部は水添されていてもよい。
【0027】
一般式[II]において、Yは、炭素原子数1〜20の2価の炭化水素基、炭素原子数1〜20の2価のハロゲン化炭化水素基、2価のケイ素含有基、-Ge-、2価のゲルマニウム含有基、-Sn-、2価のスズ含有基、エーテル結合(-O-)、カルボニル基(-CO-)、スルフィド(-S-)、スルホキシド(-SO-)、スルホン(-SO2-)、アミノ基(-NRa-)、-P(Ra)-、-P(O)(Ra)-、-BRa-または-AlRa-を示す(ただし、Raは水素原子、炭素原子数1〜20の炭化水素基、ハロゲン原子、炭素原子数1〜20のハロゲン化炭化水素基、または炭素原子数1〜20の炭化水素基が1個または2個結合したアミノ基を示す)。
【0028】
本発明で用いられる重合触媒は、一般式[II]で表される触媒のうち、すでに本願出願人により出願された国際公開第2001/27124号パンフレットに記載された一般式[III]で表されるメタロセン触媒、有機金属化合物、有機アルミニウムオキシ化合物、該メタロセン化合物と反応してイオン対を形成し得る化合物(共触媒)から選ばれる1種以上の化合物、および必要に応じて粒子状担体からなるメタロセン重合触媒である。
【0029】
【化2】

上記一般式[III]において、R1〜R14は水素原子、炭化水素基およびケイ素含有基から選ばれる基を示し、それぞれ同一でも異なっていてもよい。
【0030】
上記炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、アリル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基およびn-デカニル基などの直鎖状炭化水素基;イソプロピル基、t-ブチル基、2,3-ジメチルブチル基、アミル基、2-メチルペンチル基、3-メチルペンチル基、2-エチルペンチル基、4-メチルヘプチル基、4-プロピルヘプチル基および2,3,4-トリメチルペンチル基などの分岐状炭化水素基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、ノルボルニル基およびアダマンチル基などの環状飽和炭化水素基;フェニル基、トリル基、ナフチル基、ビフェニル基、フェナントリル基およびアントラセニル基などの環状不飽和炭化水素基;ベンジル基、クミル基、1,1-ジフェニルエチル基およびトリフェニルメチル基などの環状不飽和炭化水素基で置換された飽和炭化水素基;メトキシ基、エトキシ基、フェノキシ基、フリル基、N-メチルアミノ基、N,N'-ジメチルアミノ基、N-フェニルアミノ基、ピリル基およびチエニル基などのヘテロ原子含有炭化水素基などが挙げられる。
【0031】
1〜R4は水素原子または炭素原子数1〜20の炭化水素基であることがより好ましく、R2およびR4が炭素原子数1〜20の炭化水素基であることがより好ましく、R1およびR3が水素原子であり、R2およびR4が直鎖状もしくは分岐状の炭素原子数1〜5のアルキル基であることが特に好ましい。
【0032】
5〜R12は水素原子または炭素原子数1〜20の炭化水素基であることが好ましい。R5〜R12の隣接した置換基は互いに結合して環を形成してもよく、具体的には、ベンゾフルオレニル基、ジベンゾフルオレニル基、オクタヒドロジベンゾフルオレニル基、オクタメチルオクタヒドロジベンゾフルオレニル基およびオクタメチルテトラヒドロジシクロペンタフルオレニル基などを形成してもよい。このうち特に、R6、R7、R10およびR11が同時に水素原子ではないフルオレン環を形成するのが好ましい。
【0033】
ケイ素含有基としては、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、ジメチルフェニルシリル基、ジフェニルメチルシリル基およびトリフェニルシリル基などが挙げられる。
Yは第14族元素、好ましくは炭素原子、ケイ素原子およびゲルマニウム原子であり、より好ましくは炭素原子である。
【0034】
13およびR14は炭素原子数1〜20の炭化水素基であり、好ましくは炭素原子数1〜3のアルキル基および炭素原子数6〜20のアリール基であり、より好ましくは、メチル基、エチル基、フェニル基およびトリル基である。R13およびR14は同一でも異なっていてもよく、互いに結合して環を形成してもよいし、R5〜R12の隣接した基またはR1〜R4の隣接した基と互いに結合して環を形成してもよい。
【0035】
Mは第4族遷移金属、好ましくはチタン原子、ジルコニウム原子またはハフニウム原子である。
Qはハロゲン原子、炭化水素基、アニオン配位子、および孤立電子対で配位可能な中性配位子から選ばれる基であり、少なくとも1つがハロゲン原子またはアルキル基であることが好ましい。
【0036】
ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子が挙げられる。炭化水素基としては、前述と同様のものが挙げられる。アニオン配位子としては、メトキシ基、t-ブトキシ基およびフェノキシ基などのアルコキシ基;アセテートおよびベンゾエートなどのカルボキシレート基;ならびにメシレートおよびトシレートなどのスルホネート基などが挙げられる。孤立電子対で配位可能な中性配位子としては、トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリフェニルホスフィンおよびジフェニルメチルホスフィンなどの有機リン化合物;テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジオキサンおよび1,2-ジメトキシエタンなどのエーテル類などが挙げられる。
【0037】
jは1〜4の整数であり、jが2以上のとき、Qは同一でも異なっていてもよい。
一般式[III]で表されるメタロセン触媒の具体例としては、ジメチルメチレン(3-t-ブチル-5-メチルシクロペンタジエニル)(3,6-ジt-ブチルフルオレニル)ジルコニウムジクロリド、1-フェニルエチリデン(4-t-ブチル-2-メチルシクロペンタジエニル)(オクタメチルオクタヒドロジベンゾフルオレニル)ジルコニウムジクロリドおよび[3-(1',1',4',4',7',7',10',10'-オクタメチルオクタヒドロジベンゾ[b,h]フルオレニル)(1,1,3-トリメチル-5-t-ブチル-1,2,3,3a-テトラヒドロペンタレン)]ジルコニウムジクロライドなどが挙げられる。
【0038】
なお、上記一般式[III]で表わされるメタロセン触媒と共に用いられる有機金属化合物、有機アルミニウムオキシ化合物、該メタロセン触媒と反応してイオン対を形成し得る化合物から選ばれる1種以上の化合物、および必要に応じて用いられる粒子状担体については、上述した国際公開第2001/27124号パンフレットおよび特開平11-315109号公報に開示された化合物を制限無く使用することができる。
【0039】
プロピレン系重合体(A)の使用量は、プロピレン系重合体(A)、変性プロピレン系重合体(B)および炭素繊維(C)の合計100重量%中、通常1〜98.5重量%、好ましくは10〜94重量%、より好ましくは、30〜89重量%である。
【0040】
〔変性プロピレン系重合体(B)〕
変性プロピレン系重合体(B)は、チーグラー・ナッタ触媒の存在下で重合して製造されたプロピレン系重合体(H)をエチレン性不飽和結合含有モノマーでグラフト変性することにより得られる。ここで、変性プロピレン系重合体(B)は、表面処理された炭素繊維(C)が有する反応性官能基と反応し得る官能基を1種以上有することを特徴とする。官能基の種類としては、カルボキシル基、酸無水物基、エポキシ基、水酸基、アミノ基、ハロゲン原子、アミド基、イミド基、エステル基、アルコキシシラン基、酸ハライド基、芳香族環、およびニトリル基等が挙げられ、特にカルボキシル基や酸無水基またはこれらの誘導体であることが好ましい。
【0041】
変性プロピレン系重合体(B)の融点(Tm)は通常110〜165℃、好ましくは130〜165℃、より好ましくは140〜165℃である。変性プロピレン系重合体(B)の融点が110℃よりも低いと、炭素繊維強化プロピレン系複合材料の曲げ弾性率や曲げ強度が低下する場合がある。
【0042】
変性プロピレン系重合体(B)中のグラフト量は通常0.1〜10重量%、好ましくは0.5〜7重量%、より好ましくは1〜5重量%である。変性プロピレン系重合体(B)のグラフト量が0.1重量未満であると、変性プロピレン系重合体(B)と炭素繊維(C)との接着性が低下し、炭素繊維強化プロピレン系複合材料の曲げ強度が低下する。また、変性プロピレン系重合体(B)のグラフト量が10重量%よりも高いと、プロピレン系重合体(A)と変性プロピレン系重合体(B)との相溶性が悪化し、炭素繊維強化プロピレン系複合材料の曲げ強度が低下する場合がある。
【0043】
変性プロピレン系重合体(B)の135℃、デカリン中での極限粘度[η]は通常0.2〜4dl/g、好ましくは0.3〜2dl/gである。変性プロピレン系重合体(B)の極限粘度[η]が0.2dl/g未満であると、変性プロピレン系重合体(B)自体の強度が低下するため、炭素繊維強化プロピレン系複合材料の曲げ強度が低下する場合がある。また、変性プロピレン系重合体(B)の極限粘度[η]が4dl/gよりも高いと、炭素繊維強化プロピレン系複合材料中の変性プロピレン系重合体(B)の分散性が悪化し、炭素繊維強化プロピレン系複合材料の曲げ強度が低下する場合がある。
【0044】
上記変性プロピレン系重合体(B)は、プロピレン系重合体(H)に上記官能基を有するエチレン性不飽和結合含有モノマーを有機過酸化物を用いてグラフト変性することにより得られる。以下、プロピレン系重合体(H)、エチレン性不飽和結合含有モノマーおよび有機過酸化物について説明する。
【0045】
<プロピレン系重合体(H)>
本発明で用いられるプロピレン系重合体(H)は、チーグラー・ナッタ触媒の存在下で製造される。プロピレン系重合体(H)としては、例えば、プロピレン単独重合体、あるいはプロピレンと他の少量のモノマーとのランダム共重合体またはブロック共重合体が挙げられ、好ましくはプロピレン単独重合体、およびプロピレンと他の少量のモノマーとのランダム共重合体が挙げられる。なお、他の少量のモノマーとしては、エチレンおよび炭素原子数4〜20のα-オレフィンが挙げられる。炭素原子数4〜20のα-オレフィンとしては、プロピレン系重合体(A)を構成するα−オレフィンとして例示したものと同様のものが挙げられる。
【0046】
プロピレン系重合体(H)の融点(Tm)は通常110〜170℃、好ましくは130〜170℃、より好ましくは145〜170℃である。プロピレン系重合体(H)の融点(Tm)が110℃未満であると、得られる変性プロピレン系重合体(B)の融点(Tm)が110℃未満となり、本発明の炭素繊維強化プロピレン系複合材料の剛性および強度が低下する場合がある。
【0047】
プロピレン系重合体(H)の135℃、デカリン中での極限粘度[η]は通常0.5〜15dl/g、好ましくは1.0〜10dl/gである。
プロピレン系重合体(H)のメルトフローレート(MFR;230℃、2.16kgf)は通常0.001〜1500g/10min、好ましくは0.005〜100g/10minである。
【0048】
プロピレン系重合体(H)の分子量分布(Mw/Mn)は通常3.0〜10.0、好ましくは3.0〜8.0、より好ましくは3.0〜6.0である。プロピレン系重合体(H)の分子量分布(Mw/Mn)が10.0よりも大きい場合、プロピレン系重合体(H)中に含まれる低分子量成分が多く存在している。これらの低分子量成分は、変性プロピレン系重合体(B)製造時にさらに低分子量化され、その結果、得られる炭素繊維強化プロピレン系複合材料の強度が低下する傾向にある。
【0049】
プロピレン系重合体(H)の製造方法
プロピレン系重合体(H)は、立体規則性の高いチーグラー・ナッタ触媒を用いて製造される。この立体規則性の高いチーグラー・ナッタ触媒としては、種々の公知の触媒が挙げられ、例えば、(a’)マグネシウム、チタン、ハロゲンおよび電子供与体を含有する固体状チタン触媒成分と、(b’)有機金属化合物触媒成分と、(c’)シクロペンチル基、シクロペンテニル基、シクロペンタジエニル基およびこれらの誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種の基を有する有機ケイ素化合物触媒成分とからなる触媒が挙げられる。
【0050】
固体状チタン触媒成分(a’)は、マグネシウム化合物(a’−1)、チタン化合物(a’−2)および電子供与体(a’−3)を接触させることにより調製される。
マグネシウム化合物(a’−1)としては、マグネシウム−炭素結合またはマグネシウム−水素結合を有する化合物などの還元能を有するマグネシウム化合物、ならびに、ハロゲン化マグネシウム、アルコキシマグネシウムハライド、アリーロキシマグネシウムハライド、アルコキシマグネシウム、アリーロキシマグネシウムおよびマグネシウムのカルボン酸塩などの還元能を有さないマグネシウム化合物などが挙げられる。
【0051】
チタン化合物(a’−2)としては、例えば、一般式Ti(OR)g4-g(Rは炭化水素基;Xはハロゲン原子;0≦g≦4)で表される4価のチタン化合物が挙げられる。チタン化合物(a’−2)の具体例としては、TiCl4、TiBr4およびTiI4などのテトラハロゲン化チタン;Ti(OCH3)Cl3、Ti(OC25)Cl3、Ti(O−n−C49)Cl3、Ti(OC25)Br3およびTi(OCH2CH(CH3)2)Br3などのトリハロゲン化アルコキシチタン;Ti(OCH3)2Cl2、Ti(OC25)2Cl2、Ti(O−n−C49)2Cl2およびTi(OC25)2Br2などのジハロゲン化ジアルコキシチタン;Ti(OCH3)3Cl、Ti(OC25)3Cl、Ti(O−n−C49)3ClおよびTi(OC25)3Brなどのモノハロゲン化トリアルコキシチタン;ならびにTi(OCH3)4、Ti(OC25)4、Ti(O−n−C49)4、Ti(OCH2CH(CH3)2)4およびTi(O−(CH24CHCH3(C25))4などのテトラアルコキシチタンなどが挙げられる。
【0052】
電子供与体(a’−3)としては、例えば、フェノールなどのアルコール、エーテル、ケトン、アルデヒド、有機酸エステル、無機酸エステル、有機酸ハライド、アミド、酸無水物、アンモニアなどのアミン、ニトリル、イソシアネート、含窒素環状化合物、および含酸素環状化合物などが挙げられる。
【0053】
固体状チタン触媒成分(a’)を調製するには、マグネシウム化合物(a’−1)、チタン化合物(a’−2)および電子供与体(a’−3)を接触させる際には、ケイ素、リンおよびアルミニウムなどを含む他の反応試剤を共存させてもよいし、担体を用いて担体担持型としてもよい。
【0054】
固体状チタン触媒成分(a’)の調製方法としては、公知の方法が特に制限無く用いられるが、以下に数例挙げて簡単に説明する。
(1)電子供与体(液状化剤)(a’−3)を含むマグネシウム化合物(a’−1)の炭化水素溶液を、有機金属化合物と接触反応させて固体を析出させた後、または析出させながらチタン化合物(a’−2)と接触反応させる方法。
(2)マグネシウム化合物(a’−1)および電子供与体(a’−3)からなる錯体を有機金属化合物と接触、反応させた後、チタン化合物(a’−2)を接触反応させる方法。
(3)無機担体と有機マグネシウム化合物(a’−1)との接触物に、チタン化合物(a’−2)および電子供与体(a’−3)を接触反応させる方法。この際予め接触物をハロゲン含有化合物および/または有機金属化合物と接触反応させてもよい。
(4)液状化剤および場合によっては炭化水素溶媒を含むマグネシウム化合物(a’−1)溶液、電子供与体(a’−3)および担体の混合物から、マグネシウム化合物(a’−1)の担持された担体を得た後、次いでチタン化合物(a’−2)を接触させる方法。
(5)マグネシウム化合物(a’−1)、チタン化合物(a’−2)、電子供与体(a’−3)、場合によってはさらに炭化水素溶媒を含む溶液と、担体とを接触させる方法。
【0055】
(6)液状の有機マグネシウム化合物(a’−1)と、ハロゲン含有チタン化合物(a’−2)とを接触させる方法。このとき電子供与体(a’−3)を少なくとも1回は用いる。
(7)液状の有機マグネシウム化合物(a’−1)とハロゲン含有化合物とを接触させた後、チタン化合物(a’−2)を接触させる方法。この過程において電子供与体(a’−3)を少なくとも1回は用いる。
(8)アルコキシ基含有マグネシウム化合物(a’−1)と、ハロゲン含有チタン化合物(a’−2)とを接触させる方法。このとき電子供与体(a’−3)を少なくとも1回は用いる。
(9)アルコキシ基含有マグネシウム化合物(a’−1)および電子供与体(a’−3)からなる錯体と、チタン化合物(a’−2)とを接触させる方法。
(10)アルコキシ基含有マグネシウム化合物(a’−1)および電子供与体(a’−3)からなる錯体を、有機金属化合物と接触させた後、チタン化合物(a’−2)と接触反応させる方法。
【0056】
(11)マグネシウム化合物(a’−1)と、チタン化合物(a’−2)と、電子供与体(a’−3)とを任意の順序で接触させ、反応させる方法。この反応に先立って、各成分を、電子供与体(a’−3)、有機金属化合物、ハロゲン含有ケイ素化合物などの反応助剤で予備処理してもよい。
(12)還元能を有さない液状のマグネシウム化合物(a’−1)と、液状チタン化合物(a’−2)とを、電子供与体(a’−3)の存在下で反応させて固体状のマグネシウム・チタン複合体を析出させる方法。
(13)上記(12)で得られた反応生成物に、チタン化合物(a’−2)をさらに反応させる方法。
(14)上記(11)または(12)で得られる反応生成物に、電子供与体(a’−3)およびチタン化合物(a’−2)をさらに反応させる方法。
(15)マグネシウム化合物(a’−1)と、チタン化合物(a’−2)と、電子供与体(a’−3)とを粉砕して得られた固体状物を、ハロゲン、ハロゲン化合物または芳香族炭化水素のいずれかで処理する方法。なおこの方法において、マグネシウム化合物(a’−1)のみを、あるいはマグネシウム化合物(a’−1)と電子供与体(a’−3)とからなる錯化合物を、あるいはマグネシウム化合物(a’−1)とチタン化合物(a’−2)とを粉砕する工程を含んでもよい。また、粉砕後に反応助剤で予備処理し、次いでハロゲンなどで処理してもよい。反応助剤としては、有機金属化合物またはハロゲン含有ケイ素化合物などが用いられる。
【0057】
(16)マグネシウム化合物(a’−1)を粉砕した後、チタン化合物(a’−2)を接触させる方法。マグネシウム化合物(a’−1)の粉砕時および/または接触時には、電子供与体(a’−3)を必要に応じて反応助剤とともに用いる。
(17)上記(11)〜(16)で得られる化合物をハロゲン、ハロゲン化合物または芳香族炭化水素で処理する方法。
(18)金属酸化物、有機マグネシウム(a’−1)およびハロゲン含有化合物との接触反応物を、電子供与体(a’−3)およびより好ましくはチタン化合物(a’−2)と接触させる方法。
(19)有機酸のマグネシウム塩、アルコキシマグネシウムおよびアリーロキシマグネシウムなどのマグネシウム化合物(a’−1)を、チタン化合物(a’−2)、電子供与体(a’−3)、および、必要に応じてハロゲン含有炭化水素と接触させる方法。
(20)マグネシウム化合物(a’−1)とアルコキシチタンとを含む炭化水素溶液と、電子供与体(a’−3)および必要に応じてチタン化合物(a’−2)とを接触させる方法。この際ハロゲン含有ケイ素化合物などのハロゲン含有化合物を共存させることが好ましい。
(21)還元能を有さない液状のマグネシウム化合物(a’−1)および有機金属化合物を反応させて固体状のマグネシウム・金属(アルミニウム)複合体を析出させ、次いで電子供与体(a’−3)およびチタン化合物(a’−2)を反応させる方法。
【0058】
有機金属化合物触媒成分(b’)としては、周期表第I族〜第III族から選ばれる金属を含むものが挙げられ、具体的には、下記式(1)で表される有機アルミニウム化合物(b−1)、式(2)で表される第I族金属とアルミニウムとの錯アルキル化合物(b−2)、および式(3)で表される第II族または第III族の有機金属化合物(b−3)などが挙げられる。
1mAl(OR2npq ・・・(1)
【0059】
式(1)中、R1およびR2は炭素原子を通常1〜15個、好ましくは1〜4個含む炭化水素基であり、これらは互いに同一でも異なっていてもよい。Xはハロゲン原子を表し、0<m≦3、0≦n<3、0≦p<3、0≦q<3の数であり、かつ、m+n+p+q=3である。
【0060】
式(1)として好ましくは、R1mAl(OR2)3-m(R1およびR2は上記と同様であり、mは好ましくは1.5≦m≦3の数である。)、R1mAlX3-m(R1は上記と同様であり、Xはハロゲンであり、mは好ましくは0<m<3である。)、R1mAlH3-m(R1は上記と同様であり、mは好ましくは2≦m<3である。)およびR1mAl(OR2)nq(R1およびR2は上記と同様であり、Xはハロゲン、0<m≦3、0≦n<3、0≦q<3であり、かつ、m+n+q=3である。)などが挙げられる。
1AlR14 ・・・(2)
式(2)中、M1はLi、NaまたはKであり、R1は上記と同じである。
122 ・・・(3)
式(3)中、R1およびR2は上記と同様であり、M2はMg、ZnまたはCdである。
【0061】
有機ケイ素化合物触媒成分(c’)の具体例としては、下記式(4)で表される有機ケイ素化合物などが挙げられる。
SiR12n(OR3)3-n …(4)
式(4)中、nは0、1または2、R1はシクロペンチル基、シクロペンテニル基、シクロペンタジエニル基およびこれらの誘導体からなる群から選ばれる基、R2およびR3は炭化水素基を示す。
【0062】
1の具体例としては、シクロペンチル基、2−メチルシクロペンチル基、3−メチルシクロペンチル基、2−エチルシクロペンチル基、3−プロピルシクロペンチル基、3−イソプロピルシクロペンチル基、3−ブチルシクロペンチル基、3−t−ブチルシクロペンチル基、2,2−ジメチルシクロペンチル基、2,3−ジメチルシクロペンチル基、2,5−ジメチルシクロペンチル基、2,2,5−トリメチルシクロペンチル基、2,3,4,5−テトラメチルシクロペンチル基、2,2,5,5−テトラメチルシクロペンチル基、1−シクロペンチルプロピル基および1−メチル−1−シクロペンチルエチル基などのシクロペンチル基およびその誘導体;シクロペンテニル基、2−シクロペンテニル基、3−シクロペンテニル基、2−メチル−1−シクロペンテニル基、2−メチル−3−シクロペンテニル基、3−メチル−3−シクロペンテニル基、2−エチル−3−シクロペンテニル基、2,2−ジメチル−3−シクロペンテニル基、2,5−ジメチル−3−シクロペンテニル基、2,3,4,5−テトラメチル−3−シクロペンテニル基および2,2,5,5−テトラメチル−3−シクロペンテニル基などのシクロペンテニル基およびその誘導体;ならびに1,3−シクロペンタジエニル基、2,4−シクロペンタジエニル基、1,4−シクロペンタジエニル基、2−メチル−1,3−シクロペンタジエニル基、2−メチル−2,4−シクロペンタジエニル基、3−メチル−2,4−シクロペンタジエニル基、2−エチル−2,4−シクロペンタジエニル基、2,2−ジメチル−2,4−シクロペンタジエニル基、2,3−ジメチル−2,4−シクロペンタジエニル基、2,5−ジメチル−2,4−シクロペンタジエニル基および2,3,4,5−テトラメチル−2,4−シクロペンタジエニル基などのシクロペンタジエニル基およびその誘導体が挙げられる。また、シクロペンチル基、シクロペンテニル基またはシクロペンタジエニル基の誘導体としては、インデニル基、2−メチルインデニル基、2−エチルインデニル基、2−インデニル基、1−メチル−2−インデニル基、1,3−ジメチル−2−インデニル基、インダニル基、2−メチルインダニル基、2−インダニル基、1,3−ジメチル−2−インダニル基、4,5,6,7−テトラヒドロインデニル基、4,5,6,7−テトラヒドロ−2−インデニル基、4,5,6,7−テトラヒドロ−1−メチル−2−インデニル基、4,5,6,7−テトラヒドロ−1,3−ジメチル−2−インデニル基およびフルオレニル基などが挙げられる。
【0063】
2およびR3の具体例としては、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基およびアラルキル基などの炭化水素基が挙げられる。R2またはR3が2個以上存在する場合、R2同士またはR3同士は同一でも異なっていてもよく、また、R2とR3とは同一でも異なっていてもよい。また、R2はR1とアルキレン基などで架橋されていてもよい。
【0064】
式(4)で表される有機ケイ素化合物触媒成分(c’)としては、R1がシクロペンチル基であり、R2がアルキル基またはシクロペンチル基であり、R3がアルキル基、特にメチル基またはエチル基である有機ケイ素化合物が好ましい。
【0065】
式(4)で表される有機ケイ素化合物の具体例としては、シクロペンチルトリメトキシシラン、2−メチルシクロペンチルトリメトキシシラン、2,3−ジメチルシクロペンチルトリメトキシシラン、2,5−ジメチルシクロペンチルトリメトキシシラン、シクロペンチルトリエトキシシラン、シクロペンテニルトリメトキシシラン、3−シクロペンテニルトリメトキシシラン、2,4−シクロペンタジエニルトリメトキシシラン、インデニルトリメトキシシランおよびフルオレニルトリメトキシシランなどのトリアルコキシシラン類;ジシクロペンチルジメトキシシラン、ビス(2−メチルシクロペンチル)ジメトキシシラン、ビス(3−t−ブチルシクロペンチル)ジメトキシシラン、ビス(2,3−ジメチルシクロペンチル)ジメトキシシラン、ビス(2,5−ジメチルシクロペンチル)ジメトキシシラン、ジシクロペンチルジエトキシシラン、ジシクロペンテニルジメトキシシラン、ジ(3−シクロペンテニル)ジメトキシシラン、ビス(2,5−ジメチル−3−シクロペンテニル)ジメトキシシラン、ジ−2,4−シクロペンタジエニルジメトキシシラン、ビス(2,5−ジメチル−2,4−シクロペンタジエニル)ジメトキシシラン、ビス(1−メチル−1−シクロペンチルエチル)ジメトキシシラン、シクロペンチルシクロペンテニルジメトキシシラン、シクロペンチルシクロペンタジエニルジメトキシシラン、ジインデニルジメトキシシラン、ビス(1,3−ジメチル−2−インデニル)ジメトキシシラン、シクロペンタジエニルインデニルジメトキシシラン、ジフルオレニルジメトキシシラン、シクロペンチルフルオレニルジメトキシシランおよびインデニルフルオレニルジメトキシシランなどのジアルコキシシラン類;トリシクロペンチルメトキシシラン、トリシクロペンテニルメトキシシラン、トリシクロペンタジエニルメトキシシラン、トリシクロペンチルエトキシシラン、ジシクロペンチルメチルメトキシシラン、ジシクロペンチルエチルメトキシシラン、ジシクロペンチルメチルエトキシシラン、シクロペンチルジメチルメトキシシラン、シクロペンチルジエチルメトキシシラン、シクロペンチルジメチルエトキシシラン、ビス(2,5−ジメチルシクロペンチル)シクロペンチルメトキシシラン、ジシクロペンチルシクロペンテニルメトキシシラン、ジシクロペンチルシクロペンタジエニルメトキシシランおよびジインデニルシクロペンチルメトキシシランなどのモノアルコキシシラン類;ならびにエチレンビスシクロペンチルジメトキシシランなどが挙げられる。
【0066】
上記のような固体状チタン触媒成分(a’)、有機金属化合物触媒成分(b’)、および有機ケイ素化合物触媒成分(c’)からなる触媒を用いてプロピレン系重合体(H)の製造するに際して、あらかじめ予備重合を行うこともできる。予備重合は、固体状チタン触媒成分(a’)、有機金属化合物触媒成分(b’)、および必要に応じて有機ケイ素化合物触媒成分(c’)の存在下に、オレフィンを重合させる。
【0067】
予備重合オレフィンとしては、炭素原子数2〜8のα−オレフィンが用いられる。具体的には、エチレン、プロピレン、1−ブテンおよび1−オクテンなどの直鎖状のオレフィンならびに3−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ペンテン、3−エチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ヘキセン、4,4−ジメチル−1−ヘキセン、4,4−ジメチル−1−ペンテン、4−エチル−1−ヘキセンおよび3−エチル−1−ヘキセンなどの分岐構造を有するオレフィンなどが用いられる。これらは2種以上用いて共重合させてもよい。
【0068】
予備重合は、固体状チタン触媒成分(a’)1g当たり0.1〜1000g程度、好ましくは0.3〜500g程度の重合体が生成するように行うことが望ましい。予備重合量が多すぎると、本重合における(共)重合体の生成効率が低下することがある。なお、予備重合では、本重合における系内の触媒濃度よりもかなり高濃度で触媒を用いる。
【0069】
上記のような触媒を用いてプロピレンを連続多段重合させる際には、本発明の目的を損なわない範囲であれば、いずれかの段でまたはすべての段でプロピレンと上記他のモノマーとを共重合させてもよい。
【0070】
連続多段重合する場合、各段においてはプロピレンを単独重合させるか、またはプロピレンと他のモノマーとを共重合させてポリプロピレンを製造する。本重合の際には、固体状チタン触媒成分(a’)(または予備重合触媒)を重合容積1L当たり、チタン原子に換算して、通常約0.0001〜50ミリモル、好ましくは約0.001〜10ミリモルの量で用いることが望ましい。有機金属化合物触媒成分(b’)は、重合系中のチタン原子1モルに対する金属原子量で通常約1〜2000モル、好ましくは約2〜500モル程度の量で用いることが望ましい。有機ケイ素化合物触媒成分(c’)は、有機金属化合物触媒成分(b’)の金属原子1モル当たり、通常約0.001〜50モル、好ましくは約0.01〜20モル程度の量で用いることが望ましい。
【0071】
重合は、気相重合法あるいは溶液重合法または懸濁重合法などの液相重合法で行えばよく、各段を別々の方法で行ってもよい。また、連続式および半連続式のいずれの方式で行ってもよく、各段を複数の重合器、例えば2〜10器の重合器に分けて行ってもよい。工業的には連続式の方法で重合するのが最も好ましく、この場合2段目以降の重合を2器以上の重合器に分けて行うのが好ましく、これによりゲルの発生を抑制することができる。
【0072】
重合媒体としては、通常不活性炭化水素類が用いられるが、液状のプロピレンを用いてもよい。
各段の重合条件は、重合温度が約−50〜200℃、好ましくは約20〜100℃の範囲で、重合圧力は常圧〜10MPa(ゲージ圧)、好ましくは約0.2〜5MPa(ゲージ圧)の範囲で適宜選択される。
【0073】
重合終了後、必要に応じて公知の触媒失活処理工程、触媒残渣除去工程および乾燥工程などの後処理工程を行うことにより、プロピレン系重合体(H)がパウダーとして得られる。
【0074】
<エチレン性不飽和結合含有モノマー>
本発明で用いられるエチレン性不飽和結合含有モノマーは、1分子内にラジカル重合可能なエチレン性不飽和結合と1種類以上の極性基とを併せ持つ化合物である。極性基としては、ハロゲン原子、カルボキシル基、酸無水物基、エポキシ基、水酸基、アミノ基、アミド基、イミド基、エステル基、アルコキシシラン基、酸ハライド、芳香環およびニトリル基などが挙げられる。
【0075】
エチレン性不飽和結合含有モノマーの具体例としては、不飽和カルボン酸およびその誘導体(酸無水物、酸アミド、エステル、酸ハロゲン化物および金属塩)、イミド、水酸基含有エチレン性不飽和化合物、エポキシ基含有エチレン性不飽和化合物、スチレン系モノマー、アクリロニトリル、酢酸ビニルならびに塩化ビニルなどが挙げられ、好ましくは不飽和カルボン酸およびその誘導体、水酸基含有エチレン性不飽和化合物およびエポキシ基含有エチレン性不飽和化合物が挙げられる。
【0076】
不飽和カルボン酸およびその誘導体としては、例えば、(メタ)アクリル酸、α−エチルアクリル酸、マレイン酸、フマル酸、テトラヒドロフタル酸、メチルテトラヒドロフタル酸、シトラコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、エンドシス−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2,3−ジカルボン酸(ナジック酸、商標)、無水ナジック酸およびメチル−エンドシス−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−5−エン-2,3−ジカルボン酸(メチルナジック酸、商標)などの不飽和カルボン酸およびその無水物;ならびにメタクリル酸メチルなどの不飽和カルボン酸エステル、不飽和カルボン酸ハライド、不飽和カルボン酸アミドおよびイミドなどが挙げられ、好ましくは塩化マロニル、マレイミド、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、無水ナジック酸、アクリル酸、ナジック酸、マレイン酸、マレイン酸モノメチル、マレイン酸ジメチルおよびメタクリル酸メチルなどが挙げられ、より好ましくはアクリル酸、マレイン酸、ナジック酸、無水マレイン酸、無水ナジック酸およびメタクリル酸メチルが挙げられる。不飽和カルボン酸およびその誘導体は1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0077】
水酸基含有エチレン性不飽和化合物としては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、グリセリンモノ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールモノ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパン(メタ)アクリレート、テトラメチロールエタンモノ(メタ)アクリレート、ブタンジオールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレートおよび2−(6−ヒドロキシヘキサノイルオキシ)エチルアクリレート、10−ウンデセン−1−オール、1−オクテン−3−オール、2−メチロールノルボルネン、ヒドロキシスチレン、ヒドロキシエチルビニルエーテル、ヒドロキシブチルビニルエーテル、N−メチロールアクリルアミド、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート、グリセリンモノアリルエーテル、アリルアルコール、アリロキシエタノールおよび2−ブテン−1,4−ジオールおよびグリセリンモノアルコールなどが挙げられ、好ましくは10−ウンデセン−1−オール、1−オクテン−3−オール、2−メタノールノルボルネン、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシスチレン、ヒドロキシエチルビニルエーテル、ヒドロキシブチルビニルエーテル、N−メチロールアクリルアミド、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート、グリセリンモノアリルエーテル、アリルアルコール、アリロキシエタノール、2−ブテン−1,4−ジオールおよびグリセリンモノアルコールなどが挙げられ、より好ましくは2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートおよび2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートが挙げられる。水酸基含有エチレン性不飽和化合物は1種単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0078】
エポキシ基含有エチレン性不飽和化合物の具体例としては、下記式(IV)で表される不飽和グリシジルエステル類、下記式(V)で表される不飽和グリシジルエーテル類、および下記式(VI)で表されるエポキシアルケン類などが挙げられる。
【0079】
【化3】

式(IV)中、Rは重合可能なエチレン性不飽和結合を有する炭化水素基を示す。
【0080】
【化4】

式(V)中、Rは重合可能なエチレン性不飽和結合を有する炭化水素基を示し、Xは−CH2−O−または−C64−O−で表される2価の基を示す。
【0081】
【化5】

式(VI)中、R1は重合可能なエチレン性不飽和結合を有する炭化水素基を示し、R2は水素原子またはメチル基を示す。
【0082】
エポキシ基含有エチレン性不飽和化合物の具体例としては、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、イタコン酸のモノまたはジグリシジルエステル、ブテントリカルボン酸のモノ、ジまたはトリグリシジルエステル、テトラコン酸のモノまたはジグリシジルエステル、エンド−シス−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−5−エン−2,3−ジカルボン酸(ナジック酸、商標)のモノまたはジグリシジルエステル、エンド−シス−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−5−エン−2,3−ジメチル−2,3−ジカルボン酸(メチルナジック酸、商標)のモノまたはジグリシジルエステル、アリルコハク酸のモノまたはジグリシジルエステル、p−スチレンカルボン酸のグリシジルエステル、アリルグリシジルエーテル、2−メチルアリルグリシジルエーテル、スチレン−p−グリシジルエーテル、3,4−エポキシ−1−ブテン、3,4−エポキシ−3−メチル−1−ブテン、3,4−エポキシ−1−ペンテン、3,4−エポキシ−3−メチル−1−ペンテン、5,5−エポキシ−1−ヘキセンおよびビニルシクロヘキセンモノオキシドなどが挙げられ、好ましくグリシジルアクリレートおよびグリシジルメタクリレートが挙げられる。エポキシ基含有エチレン性不飽和化合物は1種単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0083】
上記エチレン性不飽和結合含有モノマーのうち、より好ましくは不飽和カルボン酸またはその誘導体であり、特に好ましくは不飽和カルボン酸無水物であり、最も好ましくは無水マレイン酸である。
【0084】
<有機過酸化物>
本発明で用いられる有機過酸化物としては、1,1−ビス(t−ブチルペルオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルペルオキシ)シクロヘキサン、2,2−ビス(t−ブチルペルオキシ)オクタン、n−ブチル−4,4−ビス(t−ブチルペルオキシ)バラレートおよび2,2−ビス(t−ブチルペルオキシ)ブタンなどのペルオキシケタール類;ジ−t−ブチルペルオキシド、ジクミルペルオキシド、t−ブチルクミルペルオキシド、α,α’−ビス(t−ブチルペルオキシ)ジイソプロピルベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルペルオキシ)ヘキサンおよび2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルペルオキシ)ヘキシン−3などのジアルキルペルオキシド類;アセチルペルオキシド、イソブチルペルオキシド、オクタノイルペルオキシド、デカノイルペルオキシド、ラウロイルペルオキシド、3,5,5−トリメチルヘキサノイルペルオキシド、ベンゾイルペルオキシド、2,5−ジクロロベンゾイルペルオキシドおよびm−トリオイルペルオキシドなどのジアシルペルオキシド類;t−ブチルオキシアセテート、t−ブチルペルオキシイソブチレート、t−ブチルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルペルオキシラウリレート、t−ブチルペルオキシベンゾエート、ジt−ブチルペルオキシイソフタレート、2,5−ジメチル−2,5−ビス(ベンゾイルペルオキシ)ヘキサン、t−ブチルペルオキシマレイックアシッド、t−ブチルペルオキシイソプロピルカーボネート、クミルペルオキシオクテートなどのペルオキシエステル類;ジ(2−エチルヘキシル)ペルオキシジカーボネートおよびジ(3−メチル−3−メトキシブチル)ペルオキシジカーボネートなどのペルオキシジカーボネート類;ならびにt−ブチルハイドロペルオキシド、クメンハイドロペルオキシド、ジイソプロピルベンゼンハイドロペルオキシド、2,5−ジメチルヘキサン−2,5−ジハイドロペルオキシドおよび1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロペルオキシドなどのハイドロペルオキシド類などが挙げられ、好ましくはt−ブチルペルオキシベンゾエート、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルペルオキシ)ヘキサン、t−ブチルペルオキシ−2−エチルヘキサノエートおよびジクミルペルオキシドなどが挙げられる。
【0085】
<変性プロピレン系重合体(B)の製造方法>
本発明で用いられる変性プロピレン系重合体(B)は、プロピレン系重合体(H)とエチレン性不飽和結合含有モノマーとを、加熱条件下で有機過酸化物の存在下にグラフト変性反応させることにより製造される。変性は、溶媒の存在下に行うこともできるし、溶媒の非存在下に行うこともできる。
【0086】
溶媒の存在下で行う場合、溶媒としては、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、ドデカン、テトラデカンおよび灯油などの脂肪族炭化水素;メチルシクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、シクロオクタンおよびシクロドデカンなどの脂環族炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、クメン、エチルトルエン、トリメチルベンゼン、シメンおよびジイソプロピルベンゼンなどの芳香族炭化水素;ならびにクロロベンゼン、ブロモベンゼン、o−ジクロロベンゼン、四塩化炭素、トリクロロエタン、トリクロロエチレン、テトラクロロエタンおよびテトラクロロエチレンなどのハロゲン化炭化水素などが挙げられる。
【0087】
変性の温度は、通常50〜250℃、好ましくは60〜200℃である。変性に要する時間は通常15分〜20時間、好ましくは0.5〜10時間である。変性反応は、常圧および加圧のいずれの条件下においても行うことができる。反応に供給されるエチレン性不飽和結合含有モノマーの割合は、プロピレン系重合体(H)100重量部に対して、通常0.2〜100重量部、好ましくは0.5〜50重量部である。
【0088】
溶媒の非存在下で行う場合は、特に溶融状態で混練して変性反応を行うことが好ましい。具体的には、樹脂同士あるいは樹脂と固体または液体の添加物とを混合するための公知の方法が用いられる。混合する方法としては、各成分の混合物をヘンシェルミキサー、リボンブレンダーおよびブレンダーなどにより混練する方法ならびにいくつかの成分をそれぞれヘンシェルミキサー、リボンブレンダーおよびブレンダーなどに加えて混合し、均一な混合物とした後、該混合物を混練する方法などが挙げられる。混練には、例えば、バンバリーミキサー、プラストミル、ブラベンダープラストグラフ、および一軸または二軸の押出機などが用いられる。
【0089】
プロピレン系重合体(H)の変性方法として特に好ましくは、一軸または二軸押出機を用い、あらかじめ十分に予備混合したプロピレン系重合体(H)、エチレン性不飽和結合含有モノマーおよび/またはその誘導体、ならびに有機過酸化物を押出機の供給口より供給して混練を行う方法である。本方法では連続生産が可能であり、上記方法を用いれば生産性が向上するからである。混練機の混練を行う部分の温度は(例えば、押出機ならシリンダー温度)、通常100〜300℃、好ましくは160〜250℃である。温度が100℃よりも低いと変性プロピレン系重合体(B)中のグラフト量が向上しない場合があり、温度が250℃よりも高いと、プロピレン系重合体(H)の分解が起こる場合がある。混練時間は、0.1〜30分間、特に好ましくは0.5〜5分間である。混練時間が0.1分に満たないと十分なグラフト量は得られない場合があり、また、混練時間が5分を超えると変性プロピレン系重合体(B)の分解が起こる場合がある。
【0090】
変性プロピレン系重合体(B)の製造方法において、溶融混練で製造する場合、各成分の配合割合としては、例えば、プロピレン系重合体(H)100重量部に対して、エチレン性不飽和結合含有モノマーを通常0.1〜20重量部、好ましくは0.3〜10重量部、より好ましくは0.5〜5重量部、および有機過酸化物を通常0.001〜10重量部、好ましくは0.01〜5重量部、より好ましくは0.1〜4重量部である。
【0091】
上述のようにして得られた変性プロピレン系重合体(B)は、カルボキシル基、酸無水物基、エポキシ基、水酸基、アミノ基、アミド基、イミド基、エステル基、アルコキシシラン基、酸ハライド基、芳香族環およびニトリル基などを有し、好ましくはカルボキシル基、酸無水物基またはこれらの誘導体を有し、より好ましくはカルボキシル基、酸無水物基、アミド基、エステル基、酸ハライド基などを有する。
【0092】
変性プロピレン系重合体(B)は市販品であってもよく、例えば、三洋化成(株)製商品名『ユーメックス1010』、東洋化成(株)製商品名『H1100P』および三井化学(株)製商品名『アドマー』などを用いてもよい。
【0093】
変性プロピレン系重合体(B)の含有量は、プロピレン系重合体(A)および変性プロピレン系重合体(B)の合計中、好ましくは0.5〜40重量%、より好ましくは1〜30重量%、特に好ましくは2〜20重量%である。変性プロピレン系重合体(B)の含有量が0.5重量%よりも少ないと、炭素繊維(C)と変性プロピレン系重合体(B)との相互作用が低下し、炭素繊維強化プロピレン系複合材料の強度が低下する場合がある。一方、変性プロピレン系重合体(B)の含有量が40重量%よりも大きいと、変性プロピレン系重合体(B)自体の強度の影響で、炭素繊維強化プロピレン系複合材料の強度が低下する場合がある。
【0094】
〔表面処理された炭素繊維(C)〕
本発明で用いられる表面処理された炭素繊維(C)「以下単に「炭素繊維(C)」という。」は、炭素繊維を表面処理したものである。
【0095】
炭素繊維としては、従来公知の炭素繊維が用いられ、例えば、ポリアクリロニトリルを原料としたPAN系炭素繊維およびピッチを原料としたピッチ系炭素繊維などが挙げられる。また、繊維原糸を所望の長さに裁断した、いわゆるチョップドカーボンファイバーなども用いられる。チョップドカーボンファイバーとしては、例えば、PAN系炭素繊維では、トレカチョップ(商品名;東レ(株)製)、パイロフィル(チョップ)(商品名;三菱レーヨン(株)製)およびテナックス(チョップ)(商品名;東邦テナックス(株)製)などが挙げられ、ピッチ系炭素繊維では、ダイアリード(商品名;三菱化学産資(株)製)、ドナカーボ(チョップ)(商品名;大阪ガスケミカル(株)製)およびクレカチョップ(商品名;呉羽化学(株)製)などが挙げられる。
【0096】
炭素繊維の表面処理の方法としては、一般的によく用いられる公知の方法を用いればよく、例えば、炭素繊維に酸またはアルカリ性の水溶液で電解表面処理を行って炭素繊維表面に官能基を付与する方法、ならびにサイジング剤を用いて処理する方法などが挙げられる。このうち、好ましくはエポキシ系ポリマー、ナイロン系ポリマーおよびウレタン系ポリマーなどを用いたサイジング処理が挙げられる。なお、エポキシ系ポリマー、ナイロン系ポリマーおよびウレタン系ポリマーとしては、東邦テナックス(株)のテナックス(HTA−C6−SR(エポキシ樹脂サイジング);HTA−C6−N(ナイロン樹脂サイジング);HTA−C6−US(ウレタン樹脂サイジング))などが挙げられる。
【0097】
本発明で用いられる炭素繊維(C)は、繊維径が通常2μmより大きく15μm以下であり、好ましくは3〜12μm、より好ましくは4〜10μmである。繊維径が2μm以下だと、繊維の剛性が著しく低下する場合あり、15μmを超えると、繊維のアスペクト比(L/D:Lは長さ、Dは太さを表す)が低下し、剛性および耐熱性などの十分な補強効率が十分に得られない場合がある。ここで繊維径は、繊維を繊維方向に垂直に裁断し、その断面を顕微鏡で観察して直径を計測し、100本以上の繊維の直径の平均値を求めたものである。
【0098】
炭素繊維(C)をチョップドカーボンファイバーとして用いる場合、炭素繊維(C)は、繊維長が通常0.01〜20mm、好ましくは0.5〜15mm、より好ましくは1〜10mmである。繊維長が0.01mm未満の場合、アスペクト比が小さく十分な補強効率が得られず、繊維長が20mmを超えると、加工性および外観が著しく悪化してしまう場合がある。
【0099】
本発明の炭素繊維強化プロピレン系複合材料は、サイジング処理した炭素繊維(C)にプロピレン系重合体(A)および変性プロピレン系重合体(B)を含浸させてなるペレットの形態であってもよい。上記ペレットでは、ペレットの長さ方向に長さ4〜50mmの炭素長繊維が同一長さで平行配列していることが望ましい。
【0100】
なお、繊維長はノギスなどを用いて計測し、100本以上の繊維の繊維長の平均値を求めたものである。
また、炭素繊維(C)は炭素繊維基布であってもよい。
【0101】
上記炭素繊維(C)は、本発明の炭素繊維強化プロピレン系複合材料を構成するその他の成分と共に押出機などの溶融混練装置を用いて複合化されるが、溶融混練の際には、炭素繊維(C)成分の過剰な折損を防止するような複合化方法を選択することが好ましい。これを実現するためには、例えば、押出機による溶融混練では、炭素繊維(C)成分以外の成分を十分に溶融混練した後、炭素繊維(C)成分をサイドフィード法などにより、樹脂成分の完全溶融位置よりも川下側の位置からフィードし、繊維の折損を最小限に抑えながら、収束繊維を分散させることが行われる。
【0102】
炭素繊維(C)の使用量は、プロピレン系重合体(A),変性プロピレン系重合体(B)および炭素繊維(C)の合計100重量%中、1〜80重量%、好ましくは2〜60重量%、より好ましくは、5〜40重量%である。炭素繊維(C)の使用量が1重量%未満では、炭素繊維(C)による樹脂の強化効果が十分に現れない場合がある。一方、80重量%を超えると、得られる炭素繊維強化プロピレン系複合材料の靭性が失われる場合がある。
【0103】
〔その他の成分〕
本発明の炭素繊維強化プロピレン系複合材料には、必要に応じて、その他の成分を添加してもよい。その他の成分としては、例えば、耐熱安定剤、耐候安定剤、帯電防止剤、滑材、スリップ材、塩酸吸収剤、分散剤、核剤および難燃剤などが挙げられる。これらの成分の添加量は、炭素繊維強化プロピレン系複合材料100重量部に対して、通常0.01〜10重量部である。
【0104】
上記その他の成分以外に、炭素繊維強化プロピレン系複合材料の耐衝撃性を向上させる目的でエラストマーを添加してもよい。エラストマーとしては、プロピレン・α−オレフィンブロック共重合体、エチレン・α−オレフィンランダム共重合体、エチレン・α−オレフィン・非共役ポリエンランダム共重合体、水素添加プロピレン・α−オレフィンブロック共重合体およびその他の弾性重合体ならびにこれらの混合物などが挙げられる。α−オレフィンとしては、プロピレン系重合体(A)または変性プロピレン系重合体(B)を構成するα−オレフィンとしてすでに述べたものを用いることができる。これらのα−オレフィンは一種単独で使用してもよいし、二種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0105】
エラストマーの添加方法としては、例えば、溶融ブレンド法などの物理的ブレンド法が挙げられる。溶融ブレンド法とは、ミキシングロール、バンバリーミキサー、または一軸もしくは二軸押出機などを用いて加熱し、可塑化させながら機械的に練り合わせる方法である。
【0106】
また、エラストマーがプロピレン・α−オレフィン共重合体である場合、物理的ブレンド法以外に、プロピレン・α−オレフィンブロック共重合体を製造する方法で添加してもよい。すなわち、プロピレン・α−オレフィンブロック共重合体の製造は、次の二つの工程(工程1および工程2)を連続的に実施することによって行われる。
【0107】
[工程1]プロピレン、あるいは、プロピレンと、エチレンおよび/または炭素原子数4以上のα−オレフィンとをメタロセン触媒の存在下で(共)重合し、プロピレン単独重合体またはプロピレン・α−オレフィン共重合体を製造する工程。
[工程2]プロピレンと、エチレンおよび/または炭素原子数4以上のα-オレフィンとをメタロセン触媒の存在下で共重合して、工程1よりもエチレンおよび/またはα−オレフィンが多く含まれるプロピレン・α−オレフィン共重合体を製造する工程。
【0108】
上記エラストマーの添加量は、炭素繊維強化プロピレン系複合材料100重量部に対して、通常は0.5〜50重量部、好ましくは1〜40重量部、より好ましくは5〜30重量部である。
【0109】
〔炭素繊維強化プロピレン系複合材料〕
本発明の炭素繊維強化プロピレン系複合材料は、メタロセン触媒の存在下で製造されたプロピレン系重合体(A)、変性プロピレン系重合体(B)および炭素繊維(C)を含む。上記炭素繊維強化プロピレン系複合材料は下記要件(i)〜(iv)を満たす。
【0110】
(i)炭素繊維(C)の使用量が、プロピレン系重合体(A)、変性プロピレン系重合体(B)および炭素繊維(C)の合計100重量%中、1〜80重量%、好ましくは2〜60重量%、より好ましくは、5〜40重量%である。炭素繊維(C)の使用量が1重量%未満では、炭素繊維(C)による樹脂の強化効果が十分に現れない場合がある。一方、80重量%を超えると、得られる炭素繊維強化プロピレン系複合材料の靭性が失われる場合がある。
【0111】
(ii)メルトフローレート(MFR;230℃、2.16kgf)が0.1〜10g/10min、好ましくは0.5〜10g/10min、より好ましくは1〜10g/10minである。MFRが0.1g/10minよりも低いと、炭素繊維強化プロピレン系複合材料の成形加工性が低下する場合がある。一方、MFRが10g/10minよりも高いと、炭素繊維強化プロピレン系複合材料の靭性が失われる場合がある。
【0112】
(iii)融点(Tm)が150℃以上、好ましくは153℃以上、より好ましくは156℃以上である。融点が150℃よりも低いと、炭素繊維強化プロピレン系複合材料の耐熱性が低下し、耐熱性が要求される用途には適さない場合がある。
【0113】
(iv)熱キシレンに溶かして加熱濾過し、アセトン中で再析出させた成分のZ平均分子量(Mz)が600,000以下、好ましくは100,000〜600,000、より好ましくは200,000〜600,000である。Z平均分子量(Mz)が600,000よりも大きいと、プロピレン系重合体(A)中に超高分子量成分が多く存在することになり、炭素繊維(C)の開繊性が悪化する場合がある。一方、Z平均分子量(Mz)が100,000より小さいと、得られる炭素繊維強化プロピレン系複合材料の強度が低下する場合がある。なお、熱キシレンに溶かして加熱濾過し、アセトン中で再析出させた成分の大部分はプロピレン系重合体(A)および変性プロピレン系重合体(B)であると考えられる。
【0114】
ここで、Z平均分子量(Mz)の測定方法を説明する。炭素繊維強化プロピレン系複合材料を沸騰p−キシレン中で30分以上撹拌させた後、熱時濾過して炭素繊維(C)を除去し、濾液を室温下に放冷する。その後アセトンで再析出させて析出物を得る。o−ジクロロベンゼンを溶離液とし、標準ポリスチレン換算のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によりZ平均分子量(Mz)を測定する。
【0115】
〔成形体〕
本発明の成形体は、上記炭素繊維強化プロピレン系複合材料から得られる。
上記炭素繊維強化プロピレン系複合材料は、良好な機械強度(曲げ強度および引張強度に)を示すことから、本発明の成形体の好適な用途としては、例えば、自動車部品(フロントエンド、ファンシェラウド、クーリングファン、エンジンアンダーカバー、エンジンカバー、ラジエターボックス、サイドドア、バックドアインナー、バックドアアウター、外板、ルーフレール、ドアハンドル、ラゲージボックス、ホイールカバー、ハンドル、クーリングモジュール、エアークリーナー、スポイラー、燃料タンク、プラットフォームおよびサイドメンバ)、二輪自動車・自転車部品(ラゲージボックス、ハンドルおよびホイール)、住宅関連部品(温水洗浄便座部品、浴室部品、椅子の脚、バルブ類およびメーターボックス)、ならびにその他の部品(電動工具部品、草刈り機ハンドル、ホースジョイント、樹脂ボルトおよびコンクリート型枠)に用いられ、特に剛性および耐久性の要求される自動車部品(フロントエンドモジュール(ファンシェラウド、ファンおよびクーリングモジュールを含む)、エアークリーナーおよびドア部品)、バルブ類、医療機器、ロボット用フォーク・フレームおよびICトレイなどが挙げられる。
【実施例】
【0116】
次に本発明を実施例に基づき詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
本発明の実施例および比較例において用いた分析方法は以下の通りである。
【0117】
[m1]メルトフローレート(MFR)
ASTM D1238(230℃、荷重2.16kg)に従って測定した。
[m2]融点(Tm)
示差走査熱量計(DSC、パーキンエルマー社製)を用いて下記の通り測定を行った。ここで、第3stepにおける吸熱ピークを融点(Tm)と定義した。
【0118】
<サンプルシート作製>
サンプルをアルミホイルで挟み、金型(厚さ:0.2mm)を用いて下記条件でプレス成形した。
成形温度:240℃(加熱温度240℃、予熱時間:7分)
プレス圧力:300kg/cm2
プレス時間:1分
プレス成形後、金型を氷水で室温付近まで冷却してサンプルシートを得た。
【0119】
<測定>
得られたサンプルシート約0.4gを下記測定容器に封入し、下記測定条件でDSC測定を行った。
【0120】
(測定容器)
アルミ製PAN(DSC PANS 10μl BO―14−3015)
アルミ製COVER(DSC COVER BO14−3003)
(測定条件)
第1step:30℃/分で240℃まで昇温し、10分間保持する
第2step:10℃/分で30℃まで降温する
第3step:10℃/分で240℃まで昇温する。
【0121】
[m3]分子量分布(Mw/Mn)
ウォーターズ社製GPC-150C Plusを用い、以下のようにして試料の分子量分布(Mw/Mn;Mwは重量平均分子量、Mnは数平均分子量)を測定した。
【0122】
分離カラムは、TSKgel GMH6-HTおよびTSK gel GMH6-HTLであり、カラムサイズはそれぞれ内径7.5mm、長さ600mmであり、カラム温度は140℃とし、流速は1.0 ml/minであり、移動相にはo-ジクロロベンゼン(和光純薬工業)および酸化防止剤としてBHT(和光純薬工業)0.025重量%を用い、試料濃度は0.1重量%とし、試料注入量は500μLとし、検出器として示差屈折計を用いた。標準ポリスチレンは、分子量がMw<1000およびMw>4×106のものについては東ソー社製を用い、分子量が1000≦Mw≦4×106のものについてはプレッシャーケミカル社製を用い、汎用較正法によりPPに換算した。なお、PS、PPのMark-Houwink係数はそれぞれ、文献(J. Polym. Sci., Part A-2, 8, 1803 (1970)およびMakromol. Chem., 177, 213 (1976))に記載の値を用いた。
【0123】
[m4]o-ジクロロベンゼンに可溶な成分の量
クロス分別クロマトグラフィー(CFC)により、90℃および70℃のo-ジクロロベンゼンに可溶な成分量の測定を行った。
【0124】
クロス分別クロマトグラフ(CFC)装置は、結晶性分別を行う温度上昇溶離分別(TREF)部と、分子量分別を行うGPC部とを備えたものである。この装置を用いて下記条件で測定し、各温度での量を算出した。
測定装置 : CFC T-150A型、三菱油化(株)製、
カラム : Shodex AT-806MS(×3本)
溶離液 : o-ジクロロベンゼン
流速 : 1.0 ml/分
試料濃度 : 0.3 wt%/vol%(0.1% BHT入り)
注入量 : 0.5 ml
溶解性 : 完全溶解
検出器 : 赤外吸光検出法、3.42μ(2924 cm-1)、NaCl板
溶出温度 : 0〜135℃、28フラクション
0、10、20、30、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、94、97、100、103、1
06、109、112、115、118、121、124、127、135 (℃)
【0125】
試料を145℃で2時間加熱して溶解してから、135℃で保持した後、0℃まで10℃/hrで降温、さらに0℃で60分保持して試料をコーティングさせた。昇温溶出カラム容量は0.83 ml、配管容量は0.07mlである。検出器はFOXBORO社製赤外分光器MIRAN 1A CVF型(CaF2セル)を用い、応答時間10秒の吸光度モードの設定で、3.42μm(2924cm-1)の赤外光を検知した。溶出温度は0〜135℃までを28フラクションに分けた。温度表示は全て整数であり、例えば94℃の溶出画分とは、91〜94℃で溶出した成分のことを示す。0℃でもコーティングされなかった成分および各温度で溶出したフラクションの分子量を測定し、汎用較正曲線を使用して、標準ポリプロピレン換算分子量を求めた。SEC温度は135℃であり、内標注入量は0.5mlであり、注入位置は3.0mlであり、データサンプリング時間は0.50秒である。データ処理は、装置付属の解析プログラム「CFCデータ処理(バージョン1.50)」で実施した。
【0126】
[m5]グラフト量
変性プロピレン系重合体(B)を約2g採取し、500mlの沸騰p-キシレンに完全に加熱溶解した。変性プロピレン系重合体(B)が溶解したp-キシレン溶液を2Lビーカーに移して、23℃雰囲気下で約1時間放冷させた。その後、1200mlのアセトンを加えて、撹拌しながらポリマーを析出させた。析出物を濾過、乾燥して未グラフト分を除去した変性プロピレン系重合体(B)の精製物を得た。この精製物から作製したプレスフィルムのFT−IRを測定し、1790cm-1と974cm-1のピーク強度比により、変性プロピレン系重合体(B)中にグラフトした無水マレイン酸量をwt%換算で算出した。
【0127】
[m6]Z平均分子量(Mz)
炭素繊維強化プロピレン系複合材料を約1g採取し、70mlの沸騰p−キシレン中で30分以上撹拌させた。この加熱p−キシレン溶液を濾過して炭素繊維(C)を除去し、濾液を23℃雰囲気下で約1時間放冷させた。その後、400mlのアセトンを濾液に加えて、撹拌しながらポリマーを析出させた。析出物を濾過、乾燥した。
得られた成分を[m3]において記載したGPC装置を用いてZ平均分子量(Mz)を測定した。
【0128】
[m7]曲げ試験
JIS K7171に従って曲げ強度および曲げ弾性率を測定した。
【0129】
<測定条件>
試験片 :10mm(幅)×4mm(厚さ)×80mm(長さ)
曲げ速度:2mm/分
曲げスパン:64mm
【0130】
[製造例1]
(1)固体触媒担体の製造
内容量30Lの撹拌機付き反応槽にトルエン17LおよびSiO2(AGCエスアイテック製サンスフェアH122)650gを入れ、スラリー化した。次に、槽内温度45℃に保ち、トリイソブチルアルミニウムトルエン溶液をトリイソブチルアルミニウム量で64g装入し、15分間撹拌した。槽内温度50℃に保ち、MAO−トルエン溶液(20wt%溶液)2.2Lを約30分かけて導入し、30分間撹拌した。1時間で95℃に昇温し、4時間反応を行った。反応終了後、60℃まで冷却した。冷却後、上澄みトルエンを抜き出し、フレッシュなトルエンで置換率が95%になるまで置換した。
【0131】
(2)固体触媒の製造(担体への金属触媒成分の担持)
内容量14Lの撹拌機付き反応槽に(1)で調製したMAO/SiO2/トルエンスラリー7.9L(固体成分として1030g)を入れ、撹拌しながら温度を30〜35℃に保った。グローブボックス内にて、1Lフラスコに[3-(1’,1’,4’,4’,7’,7’,10’,10’-オクタメチルオクタヒドロジベンゾ[b,h]フルオレニル)(1,1,3-トリメチル-5-tert-ブチル-1,2,3,3a-テトラヒドロペンタレン)]ジルコニウムジクロライドを15.5g秤取しフラスコに入れた。フラスコを外へ出し、トルエン0.5リットルで希釈後、反応槽に加え、反応槽内液量を10Lになるまでトルエンを加えた。60分間撹拌し、担持を行った。得られた[3-(1’,1’,4’,4’,7’,7’,10’,10’-オクタメチルオクタヒドロジベンゾ[b,h]フルオレニル)(1,1,3-トリメチル-5-t-ブチル-1,2,3,3a-テトラヒドロペンタレン)]ジルコニウムジクロライド/MAO/SiO2/トルエンスラリーは、室温まで冷却した後、n−ヘプタンにて92%置換を行い、最終的なスラリー量を10Lとした。
【0132】
(3)前重合触媒の製造
前記の(2)で調製した固体触媒成分1045gをあらかじめn−ヘプタン18Lを入れておいた内容量200Lの撹拌機付きオートクレーブに移液し、内温15〜20℃に保ち、トリイソブチルアルミニウム557gを入れ、n−ヘプタンにて液量を62Lに調整した。撹拌しながら、30〜35℃に保ち、エチレンを630g/hで3135g装入し、300分間撹拌しながら反応させた。重合終了後、固体成分を沈降させ、上澄み液の除去およびヘプタンによる洗浄を2回行った。得られた前重合触媒を精製ヘプタンに再懸濁して、固体触媒成分濃度で8g/Lとなるよう、ヘプタンにより調整を行った。この前重合触媒は固体触媒成分1g当たりポリエチレンを3g含んでいた。
【0133】
(4)本重合
内容量100Lの撹拌機付きベッセル重合器にプロピレンを119kg/h、水素を気相部の水素濃度が0.10mol%になるように供給した。(3)で製造した触媒スラリーを固体触媒成分として15.4g/h、トリエチルアルミニウム8.7ml/hを連続的に供給した。重合温度70℃、圧力は3.0MPa/Gであった。
【0134】
得られたスラリーは内容量1000Lの撹拌機付きベッセル重合器へ送り、さらに重合を行った。重合器へは、プロピレンを17kg/h、水素を気相部の水素濃度が0.12mol%になるように供給した。重合温度69℃、圧力2.9MPa/Gで重合を行った。
【0135】
得られたスラリーを内容量500Lの撹拌機付きベッセル重合器へ送り、さらに重合を行った。重合器へは、プロピレンを8kg/h、水素を気相部の水素濃度が0.12mol%になるように供給した。重合温度68℃、圧力2.9MPa/Gで重合を行った。
【0136】
得られたスラリーを内容量500Lの撹拌機付きベッセル重合器へ送り、さらに重合を行った。重合器へは、プロピレンを7kg/h、水素を気相部の水素濃度が0.12mol%になるように供給した。重合温度67℃、圧力2.8MPa/Gで重合を行った。
【0137】
得られたスラリーを内容量500Lの撹拌機付きベッセル重合器へ送り、さらに重合を行った。重合器へは、プロピレンを7kg/h、水素を気相部の水素濃度が0.12mol%になるように供給した。重合温度66℃、圧力2.8MPa/Gで重合を行った。
【0138】
得られたスラリーを気化後、気固分離を行い、プロピレン単独重合体(A−1)を得た。プロピレン単独重合体(A−1)は、70kg/hで得られた。プロピレン単独重合体(A−1)は、80℃で真空乾燥を行った。
【0139】
[製造例2]
(1)〜(3)は製造例1と同様の方法で行った。
(4)本重合
内容量100Lの撹拌機付きベッセル重合器にプロピレンを119kg/h、水素を気相部の水素濃度が0.14mol%になるように供給した。製造例1(3)で製造した触媒スラリーを固体触媒成分として11.4g/h、トリエチルアルミニウム8.7ml/hを連続的に供給した。重合温度70℃、圧力は3.0MPa/Gであった。
得られたスラリーは内容量1000Lの撹拌機付きベッセル重合器へ送り、さらに重合を行った。重合器へは、プロピレンを17kg/h、水素を気相部の水素濃度が0.17mol%になるように供給した。重合温度69℃、圧力2.9MPa/Gで重合を行った。
【0140】
得られたスラリーを内容量500Lの撹拌機付きベッセル重合器へ送り、さらに重合を行った。重合器へは、プロピレンを8kg/h、水素を気相部の水素濃度が0.17mol%になるように供給した。重合温度68℃、圧力2.9MPa/Gで重合を行った。
【0141】
得られたスラリーを内容量500Lの撹拌機付きベッセル重合器へ送り、さらに重合を行った。重合器へは、プロピレンを7kg/h、水素を気相部の水素濃度が0.17mol%になるように供給した。重合温度67℃、圧力2.8MPa/Gで重合を行った。
【0142】
得られたスラリーを内容量500Lの撹拌機付きベッセル重合器へ送り、さらに重合を行った。重合器へは、プロピレンを7kg/h、水素を気相部の水素濃度が0.17mol%になるように供給した。重合温度66℃、圧力2.8MPa/Gで重合を行った。
【0143】
得られたスラリーを気化後、気固分離を行い、プロピレン単独重合体(A−2)を得た。プロピレン単独重合体(A−2)は、70kg/hで得られた。プロピレン単独重合体(A−2)は、80℃で真空乾燥を行った。
【0144】
[製造例3]
(1)〜(3)は製造例1と同様の方法で行った。
(4)本重合
内容量100Lの撹拌機付きベッセル重合器にプロピレンを119kg/h、水素を気相部の水素濃度が0.20mol%になるように供給した。製造例1(3)で製造した触媒スラリーを固体触媒成分として8.1g/h、トリエチルアルミニウム8.7ml/hを連続的に供給した。重合温度70℃、圧力は3.0MPa/Gであった。
【0145】
得られたスラリーは内容量1000Lの撹拌機付きベッセル重合器へ送り、さらに重合を行った。重合器へは、プロピレンを17kg/h、水素を気相部の水素濃度が0.24mol%になるように供給した。重合温度69℃、圧力2.9MPa/Gで重合を行った。
【0146】
得られたスラリーは内容量500Lの撹拌機付きベッセル重合器へ送り、さらに重合を行った。重合器へは、プロピレンを8kg/h、水素を気相部の水素濃度が0.24mol%になるように供給した。重合温度68℃、圧力2.9MPa/Gで重合を行った。
【0147】
得られたスラリーを内容量500Lの撹拌機付きベッセル重合器へ送り、さらに重合を行った。重合器へは、プロピレンを7kg/h、水素を気相部の水素濃度が0.24mol%になるように供給した。重合温度67℃、圧力2.8MPa/Gで重合を行った。
【0148】
得られたスラリーを内容量500Lの撹拌機付きベッセル重合器へ送り、さらに重合を行った。重合器へは、プロピレンを7kg/h、水素を気相部の水素濃度が0.24mol%になるように供給した。重合温度66℃、圧力2.8MPa/Gで重合を行った。
【0149】
得られたスラリーを気化後、気固分離を行い、プロピレン単独重合体(A−3)を得た。プロピレン単独重合体(A−3)は、70kg/hで得られた。プロピレン単独重合体(A−3)は、80℃で真空乾燥を行った。
【0150】
[製造例4]
(1)固体触媒担体の製造
1L枝付フラスコにSiO2300gをサンプリングし、トルエン800mLを入れ、スラリー化した。次に5L4つ口フラスコへ移液をし、トルエン260mLを加えた。メチルアルミノキサン(以下、MAO)−トルエン溶液(10wt%溶液)を2830mL導入した。室温のままで、30分間撹拌した。1時間で110℃に昇温し、4時間反応を行った。反応終了後、室温まで冷却した。冷却後、上澄みトルエンを抜き出し、フレッシュなトルエンで、置換率が95%になるまで置換した。
【0151】
(2)固体触媒の製造(担体への金属触媒成分の担持)
グローブボックス内にて、5L4つ口フラスコにイソプロピル(3−t−ブチル−5−メチルシクロペンタジエニル)(3、6−ジ−t−ブチルフルオレニル)ジルコニウムジクロリドを2.0g秤取した。フラスコを外へ出し、トルエン0.46リットルと(1)で調製したMAO/SiO2/トルエンスラリー1.4リットルを窒素下で加え、30分間撹拌し担持を行った。得られたイソプロピル(3−t−ブチル−5−メチルシクロペンタジエニル)(3、6−ジ−t−ブチルフルオレニル)ジルコニウムジクロリド/MAO/SiO2/トルエンスラリーはn-ヘプタンにて99%置換を行い、最終的なスラリー量を4.5リットルとした。この操作は、室温で行った。
【0152】
(3)前重合触媒の製造
前記の(2)で調製した固体触媒成分404g、トリエチルアルミニウム218mL、ヘプタン100Lを内容量200Lの撹拌機付きオートクレーブに挿入し、内温15〜20℃に保ちエチレンを1212g挿入し、180分間撹拌しながら反応させた。重合終了後、固体成分を沈降させ、上澄み液の除去およびヘプタンによる洗浄を2回行った。得られた前重合触媒を精製ヘプタンに再懸濁して、固体触媒成分濃度で6g/Lとなるよう、ヘプタンにより調整を行った。この前重合触媒は固体触媒成分1g当たりポリエチレンを3g含んでいた。
【0153】
(4)本重合
内容量58Lのジャケット付循環式管状重合器にプロピレンを35kg/時間、水素を2.5NL/時間、(3)で製造した触媒スラリーを固体触媒成分として42g/時間、トリエチルアルミニウム8.0ml/時間を連続的に供給し、気相の存在しない満液の状態にて重合した。管状重合器の温度は30℃であり、圧力は3.1MPa/Gであった。得られたスラリーは内容量1000Lの攪拌機付きベッセル重合器へ送り、さらに重合を行った。重合器へは、プロピレンを65kg/時間、水素を気相部の水素濃度が0.05mol%になるように供給した。重合温度70℃、圧力3.0MPa/Gで重合を行った。
【0154】
得られたスラリーは内容量500Lの攪拌機付きベッセル重合器へ送り、さらに重合を行った。重合器へは、プロピレンを15kg/時間、水素を気相部の水素濃度が0.05mol%になるように供給した。重合温度68℃、圧力2.9MPa/Gで重合を行った。 得られたプロピレン単独重合体(A−4)は、80℃で真空乾燥を行った。
【0155】
[製造例5]
(1)固体状チタン触媒成分の調製
無水塩化マグネシウム952g、デカン4420mlおよび2−エチルヘキシルアルコール3906gを、130℃で2時間加熱して均一溶液とした。この溶液中に無水フタル酸213gを添加し、130℃にてさらに1時間撹拌混合を行って無水フタル酸を溶解させた。
【0156】
このようにして得られた均一溶液を23℃まで冷却した後、この均一溶液の750mlを、−20℃に保持された四塩化チタン2000ml中に1時間かけて滴下した。滴下後、得られた混合液の温度を4時間かけて110℃まで昇温し、110℃に達したところでフタル酸ジイソブチル(DIBP)52.2gを添加し、これより2時間撹拌しながら同温度に保持した。次いで熱時濾過にて固体部を採取し、この固体部を2750mlの四塩化チタンに再懸濁させた後、再び110℃で2時間加熱した。
【0157】
加熱終了後、再び熱時濾過にて固体部を採取し、110℃のデカンおよびヘキサンを用いて、洗浄液中にチタン化合物が検出されなくなるまで洗浄した。
上記の様に調製された固体状チタン触媒成分はヘキサンスラリーとして保存されるが、このうち一部を乾燥して触媒組成を調べた。固体状チタン触媒成分は、チタンを2重量%、塩素を57重量%、マグネシウムを21重量%およびDIBPを20重量%の量で含有していた。
【0158】
(2)前重合触媒の製造
遷移金属触媒成分180g、トリエチルアルミニウム30.9mL、ヘプタン120Lを内容量200Lの撹拌機付きオートクレーブに装入し、内温5℃に保ちプロピレンを1080g装入し、60分間撹拌しながら反応させた。重合終了後、固体成分を沈降させ、上澄み液の除去およびヘプタンによる洗浄を2回行った。得られた前重合触媒を精製ヘプタンに再懸濁して、遷移金属触媒成分濃度で1.5g/Lとなるよう、ヘプタンにより調整を行った。この前重合触媒は遷移金属触媒成分1g当たりポリプロピレンを6g含んでいた。
【0159】
(3)本重合
内容量100Lの撹拌機付きベッセル重合器にプロピレンを110kg/h、水素を気相部の水素濃度が0.8mol%になるように供給した。(2)で製造した触媒スラリーを固体触媒成分として1.4g/h、トリエチルアルミニウム5.8ml/h、ジシクロペンチルジメトキシシラン2.7ml/hを連続的に供給した。重合温度73℃、圧力は3.2MPa/Gであった。
【0160】
得られたスラリーは内容量1000Lの撹拌機付きベッセル重合器へ送り、さらに重合を行った。重合器へは、プロピレンを30kg/h、水素を気相部の水素濃度が1.1mol%になるように供給した。重合温度71℃、圧力3.1MPa/Gで重合を行った。
【0161】
得られたスラリーは内容量500Lの撹拌機付きベッセル重合器へ送り、さらに重合を行った。重合器へは、プロピレンを45kg/h、水素を気相部の水素濃度が1.1mol%になるように供給した。重合温度69℃、圧力3.0MPa/Gで重合を行った。
【0162】
得られたスラリーを気化後、気固分離を行い、プロピレン単独重合体(H−1)を得た。プロピレン単独重合体(H−1)は、70kg/hで得られた。プロピレン単独重合体(H−1)は、80℃で真空乾燥を行った。
【0163】
[製造例6]
(1)および(2)は、製造例5と同様の方法で行った。
(3)本重合
内容量100Lの撹拌機付きベッセル重合器にプロピレンを110kg/h、水素を気相部の水素濃度が1.1mol%になるように供給した。製造例4(2)で製造した触媒スラリーを固体触媒成分として2.0g/h、トリエチルアルミニウム5.8ml/h、シクロヘキシルメチルジメトキシシラン3.3ml/hを連続的に供給した。重合温度73℃、圧力は3.2MPa/Gであった。
【0164】
得られたスラリーを内容量1000Lの撹拌機付きベッセル重合器へ送り、さらに重合を行った。重合器へは、プロピレンを30kg/h、水素を気相部の水素濃度が1.5mol%になるように供給した。重合温度71℃、圧力3.1MPa/Gで重合を行った。
【0165】
得られたスラリーを内容量500Lの撹拌機付きベッセル重合器へ送り、さらに重合を行った。重合器へは、プロピレンを45kg/h、水素を気相部の水素濃度が1.5mol%になるように供給した。重合温度69℃、圧力3.0MPa/Gで重合を行った。
【0166】
得られたスラリーを気化後、気固分離を行い、プロピレン単独重合体(H−2)を得た。プロピレン単独重合体(H−2)は、70kg/hで得られた。プロピレン単独重合体(H−2)は、80℃で真空乾燥を行った。
【0167】
[製造例7]
製造例5で製造されたプロピレン単独重合体(H−1)100重量部に対し、熱安定剤IRGANOX1010(チバガイギー(株)商標)0.1重量部、熱安定剤IRGAFOS168(チバガイギー(株)商標)0.1重量部、ステアリン酸カルシウム(塩酸吸収剤)0.1重量部およびデグラ剤パーブチルP(日油(株)商標)0.065重量部をタンブラーにて混合後、二軸押出機にて溶融混練してペレット状のプロピレン単独重合体(H−3)を調製した。
【0168】
<溶融混練条件>
同方向二軸混練機 : 品番 KZW31−30HG、(株)テクノベル製
混練温度 : 210℃
スクリュー回転数 : 300rpm
フィーダー回転数 : 120rpm
【0169】
【表1】

[実施例1]
プロピレン単独重合体(A−1)85重量部、無水マレイン酸変性プロピレン系重合体(B−1)(ユーメックス1010(商標)、三洋化成(株)製(チーグラー・ナッタ触媒系プロピレン系重合体を変性、[η]=0.27dl/g、無水マレイン酸グラフト量=4.4wt%)5重量部、チョップドファイバー炭素繊維(C−1)(エポキシ樹脂サイジング)(HTA−C6−SR(商標)、東邦テナックス(株)製)10重量部、熱安定剤IRGANOX1010(商標、チバガイギー(株))0.1重量部、熱安定剤IRGAFOS168(商標、チバガイギー(株))0.1重量部およびステアリン酸カルシウム0.1重量部をタンブラーにて混合後、単軸押出機にて下記条件で溶融混練してペレット状の炭素繊維強化プロピレン系複合材料を調製した。得られた炭素繊維強化プロピレン系複合材料を射出成形機[品番 EC40、東芝機械(株)製]にて下記条件で成形品を得た。
成形品の物性を表2に示す。
【0170】
<溶融混練条件>
単軸混練機 : 品番 ラボプラストミル10M100、東洋精機(株)製
混練温度 : 220℃
スクリュー回転数 : 60rpm
ペレット長 : 5mm程度
<射出成形条件>
射出成形機:品番 EC40、東芝機械(株)製
シリンダー温度:210℃
金型温度:40℃
【0171】
[実施例2]
プロピレン単独重合体(A−2)85重量部、無水マレイン酸変性プロピレン系重合体(B−1)(ユーメックス1010(商標)、三洋化成(株)製)5重量部、チョップドファイバー炭素繊維(C−1)(エポキシ樹脂サイジング)(HTA−C6−SR(商標)、東邦テナックス(株)製)10重量部、熱安定剤IRGANOX1010(商標、チバガイギー(株))0.1重量部、熱安定剤IRGAFOS168(商標、チバガイギー(株))0.1重量部およびステアリン酸カルシウム0.1重量部をタンブラーにて混合後、実施例1と同様に単軸押出機で溶融混練してペレット状の炭素繊維強化プロピレン系複合材料を調製し、射出成形機にて成形品を得た。
成形品の物性を表2に示す。
【0172】
[実施例3]
実施例2において、チョップドファイバー炭素繊維(C−1)(エポキシ樹脂サイジング)(HTA−C6−SR(商標)、東邦テナックス(株)製)10重量部の代わりに、チョップドファイバー炭素繊維(C−2)(ナイロン樹脂サイジング)(HTA−C6−N(商標)、東邦テナックス(株)製)10重量部を使用した以外は、実施例2と同様にして行った。
成形品の物性を表2に示す。
【0173】
[実施例4]
実施例2において、チョップドファイバー炭素繊維(C−1)(エポキシ樹脂サイジング)(HTA−C6−SR(商標)、東邦テナックス(株)製)10重量部の代わりに、チョップドファイバー炭素繊維(C−3)(ウレタン樹脂サイジング)(HTA−C6−US(商標)、東邦テナックス(株)製)10重量部を使用した以外は、実施例2と同様にして行った。
成形品の物性を表2に示す。
【0174】
[実施例5]
実施例1において、プロピレン単独重合体(A−1)85重量部の代わりに、製造例3で製造されたプロピレン単独重合体(A−3)85重量部を使用した以外は、実施例1と同様にして行った。
成形品の物性を表2に示す。
【0175】
[実施例6]
プロピレン単独重合体(A−2)75重量部、無水マレイン酸変性プロピレン系重合体(B−1)(ユーメックス1010(商標)、三洋化成(株)製)5重量部、チョップドファイバー炭素繊維(C−1)(エポキシ樹脂サイジング)(HTA−C6−SR(商標)、東邦テナックス(株)製)20重量部、熱安定剤IRGANOX1010(商標、チバガイギー(株))0.1重量部、熱安定剤IRGAFOS168(商標、チバガイギー(株))0.1重量部およびステアリン酸カルシウム0.1重量部をタンブラーにて混合後、実施例1と同様に単軸押出機で溶融混練してペレット状の炭素繊維強化プロピレン系複合材料を調製し、射出成形機にて成形品を得た。
成形品の物性を表2に示す。
【0176】
[実施例7]
プロピレン単独重合体(A−2)90重量部、無水マレイン酸変性プロピレン系重合体(B−1)(ユーメックス1010(商標)、三洋化成(株)製)5重量部、チョップドファイバー炭素繊維(C−1)(エポキシ樹脂サイジング)(HTA−C6−SR(商標)、東邦テナックス(株)製)5重量部、熱安定剤IRGANOX1010(商標、チバガイギー(株))0.1重量部、熱安定剤IRGAFOS168(商標、チバガイギー(株))0.1重量部およびステアリン酸カルシウム0.1重量部をタンブラーにて混合後、実施例1と同様に単軸押出機で溶融混練してペレット状の炭素繊維強化プロピレン系複合材料を調製し、射出成形機にて成形品を得た。
成形品の物性を表2に示す。
【0177】
【表2】

[比較例1]
プロピレン単独重合体(H−1)85重量部、無水マレイン酸変性プロピレン系重合体(B−1)(ユーメックス1010(商標)、三洋化成(株)製)5重量部、チョップドファイバー炭素繊維(C−1)(エポキシ樹脂サイジング)(HTA−C6−SR(商標)、東邦テナックス(株)製)10重量部、熱安定剤IRGANOX1010(商標、チバガイギー(株))0.1重量部、熱安定剤IRGAFOS168(商標、チバガイギー(株))0.1重量部およびステアリン酸カルシウム0.1重量部をタンブラーにて混合後、単軸押出機にて下記条件で溶融混練してペレット状の複合材料を調製した。得られた複合材料を射出成形機[品番 EC40、東芝機械(株)製]にて下記条件で成形品を得た。
成形品の物性を表3に示す。
【0178】
<溶融混練条件>
単軸混練機 : 品番 ラボプラストミル10M100、東洋精機(株)製
混練温度 : 220℃
スクリュー回転数 : 60rpm
ペレット長 : 5mm程度
<射出成形条件>
射出成形機:品番 EC40、東芝機械(株)製
シリンダー温度:210℃
金型温度:40℃
【0179】
[比較例2]
比較例1においてプロピレン単独重合体(H−1)85重量部の代わりに、製造例5で製造されたプロピレン単独重合体(H−2)85重量部を使用した以外は、比較例1と同様に行った。
成形品の物性を表3に示す。
【0180】
[比較例3]
比較例1においてプロピレン単独重合体(H−1)85重量部の代わりに、製造例4で製造されたプロピレン単独重合体(A−4)85重量部を使用した以外は、比較例1と同様に行った。
成形品の物性を表3に示す。
【0181】
[比較例4]
比較例1においてプロピレン単独重合体(H−1)85重量部の代わりに、製造例7で製造されたプロピレン単独重合体(H−3)85重量部を使用した以外は、比較例1と同様に行った。
成形品の物性を表3に示す。
【0182】
[比較例5]
プロピレン単独重合体(H−2)75重量部、無水マレイン酸変性プロピレン系重合体(B−1)(ユーメックス1010(商標)、三洋化成(株)製)5重量部、チョップドファイバー炭素繊維(C−1)(エポキシ樹脂サイジング)(HTA−C6−SR(商標)、東邦テナックス(株)製)20重量部、熱安定剤IRGANOX1010(商標、チバガイギー(株))0.1重量部、熱安定剤IRGAFOS168(商標、チバガイギー(株))0.1重量部およびステアリン酸カルシウム0.1重量部をタンブラーにて混合後、比較例1と同様に単軸押出機で溶融混練してペレット状の複合材料を調製し、射出成形機にて成形品を得た。
成形品の物性を表3に示す。
【0183】
[比較例6]
プロピレン単独重合体(H−2)90重量部、無水マレイン酸変性プロピレン系重合体(B−1)(ユーメックス1010(商標)、三洋化成(株)製)5重量部、チョップドファイバー炭素繊維(C−1)(エポキシ樹脂サイジング)(HTA−C6−SR(商標)、東邦テナックス(株)製)5量部、熱安定剤IRGANOX1010(商標、チバガイギー(株))0.1重量部、熱安定剤IRGAFOS168(商標、チバガイギー(株))0.1重量部およびステアリン酸カルシウム0.1重量部をタンブラーにて混合後、比較例1と同様に単軸押出機で溶融混練してペレット状の複合材料を調製し、射出成形機にて成形品を得た。
成形品の物性を表3に示す。
【0184】
[比較例7]
プロピレン単独重合体(H−2)90重量部、チョップドファイバー炭素繊維(C−1)(エポキシ樹脂サイジング)(HTA−C6−SR(商標)、東邦テナックス(株)製)10重量部、熱安定剤IRGANOX1010(商標、チバガイギー(株))0.1重量部、熱安定剤IRGAFOS168(商標、チバガイギー(株))0.1重量部およびステアリン酸カルシウム0.1重量部をタンブラーにて混合後、比較例1と同様に単軸押出機で溶融混練してペレット状の複合材料を調製し、射出成形機にて成形品を得た。
成形品の物性を表3に示す。
【0185】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0186】
本発明の炭素繊維強化プロピレン系複合材料およびそれから得られる成形体は、良好な機械強度(曲げ強度および曲げ弾性率)を示すため、軽量性および成形性に優れた各種構造部材などに好適である。特にフェンダーおよびドアパネルなどの自動車外板に使用した場合、自動車車体の軽量化による省エネルギー化を図ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタロセン触媒の存在下で製造されたプロピレン系重合体(A)と、
チーグラー・ナッタ触媒の存在下で製造されたプロピレン系重合体(H)をエチレン性不飽和結合含有モノマーでグラフト変性して得られた変性プロピレン系重合体(B)と、
表面処理された炭素繊維(C)と
から形成され、下記要件(i)から(iv)を満たすことを特徴とする炭素繊維強化プロピレン系複合材料。
(i)該炭素繊維(C)の使用量が、プロピレン系重合体(A)、変性プロピレン系重合体(B)および炭素繊維(C)の合計中、1〜80重量%である。
(ii)メルトフローレート(MFR;230℃、2.16kgf)が0.1〜10g/minである。
(iii)融点(Tm)が150℃以上である。
(iv)熱キシレンに溶かして加熱濾過し、アセトン中で再析出させた成分のZ平均分子量(Mz)が600,000以下である。
【請求項2】
さらに下記要件(v)を満たすことを特徴とする請求項1に記載の炭素繊維強化プロピレン系複合材料。
(v)変性プロピレン系重合体(B)の使用量が、プロピレン系重合体(A)および変性プロピレン系重合体(B)の合計中、0.5〜40重量%である。
【請求項3】
前記プロピレン系重合体(A)が下記要件(a−1)から(a−4)を満たすことを特徴とする請求項1または2に記載の炭素繊維強化プロピレン系複合材料。
(a−1)メルトフローレート(MFR;230℃、2.16kgf)が3〜30g/10minである。
(a−2)分子量分布(Mw/Mn)が3.5未満である。
(a−3)90℃のo−ジクロロベンゼンに可溶な成分の量が1重量%以下である。
(a−4)融点(Tm)が150℃以上である。
【請求項4】
前記変性プロピレン系重合体(B)が、カルボキシル基、酸無水物基またはこれらの誘導体を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の炭素繊維強化プロピレン系複合材料。
【請求項5】
前記表面処理が、エポキシ系ポリマー、ナイロン系ポリマーまたはウレタン系ポリマーを用いたサイジング処理であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の炭素繊維強化プロピレン系複合材料。
【請求項6】
前記炭素繊維(C)が炭素繊維基布であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の炭素繊維強化プロピレン系複合材料。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の炭素繊維強化プロピレン系複合材料を成形して得られる成形体。

【公開番号】特開2011−16909(P2011−16909A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−162076(P2009−162076)
【出願日】平成21年7月8日(2009.7.8)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【出願人】(505130112)株式会社プライムポリマー (180)
【Fターム(参考)】