説明

炭素繊維強化プロピレン系複合材料およびその成形体

【課題】超高分子量成分の量が低減されたプロピレン系重合体と、低結晶成分又は低分子量成分の量が低減された変性プロピレン系重合体とを用いることにより、曲げ強度に優れた炭素繊維強化プロピレン系複合材料およびその成形体を提供する。
【解決手段】メタロセン触媒の存在下で製造されたプロピレン系重合体(A)と、をエチレン性不飽和結合含有モノマーでグラフト変性して得られた変性プロピレン系重合体(B)と、表面処理された炭素繊維(C)とから形成され、下記要件(i)から(iv)を満たすことを特徴とする炭素繊維強化プロピレン系複合材料;(i)炭素繊維(C)の使用量が1〜80重量%;(ii)メルトフローレート(MFR;230℃,2.16kgf)が0.1〜10g/min;(iii)融点(Tm)が150℃以上;(iv)熱キシレンに溶かして加熱濾過し、アセトン中で再析出させた成分のZ平均分子量(Mz)が600,000以下。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維強化プロピレン系複合材料およびその成形体に関し、詳しくは、曲げ強度および引張強度が向上した炭素繊維強化プロピレン系複合材料およびその成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維は軽量かつ高強度であることから、熱硬化性樹脂を基材とした炭素繊維複合材料が航空・宇宙分野で使用されてきた。自動車車体の軽量化のための材料として、この炭素繊維複合材料を用いた自動車構造部材の展開が期待されているが、成形加工性(迅速成形性)に課題がある。
【0003】
成形加工性を改良するには、熱可塑性樹脂を基材とする方法などが挙げられる。例えば、ポリプロピレン樹脂は低比重で剛性が高く成形性が良いことから、複合材料の基材に適すると思われるが、炭素繊維とは相互作用し難く、また曲げ強度や曲げ弾性率が低いことが課題である。
【0004】
ところで、炭素繊維は樹脂との接着性をよくするために表面処理を行い、サイジング剤と呼ばれる集束剤で処理してから炭素繊維束をボビンに巻き取って製品にする。
したがって、炭素繊維およびポリプロピレン樹脂からなる炭素繊維強化プロピレン系複合材料は、サイジング処理された炭素繊維とポリプロピレン樹脂とを溶融状態で混練するか、または含浸させるなどして製造される。炭素繊維強化プロピレン系複合材料の機械強度は、炭素繊維とポリプロピレン樹脂との相互作用やポリプロピレン樹脂マトリックス中での炭素繊維の分散性(炭素繊維の開繊性)によって大きく作用されると考えられる。そこで、炭素繊維とポリプロピレン樹脂との相互作用を高めることを目的として、炭素繊維用の特定のサイジング剤(特許文献1)や、サイジング処理した炭素繊維と無水マレイン酸で変性されたプロピレン樹脂とからなる複合材料(特許文献2)などが開示されているが、炭素繊維強化プロピレン系複合材料の曲げ強度の向上が求められている。
【0005】
炭素繊維強化プロピレン系複合材料をクリープ強度および振動疲労強度などが要求される耐久製品に使用する場合、ポリプロピレン樹脂を高分子量化させる必要があるが、ポリプロピレン樹脂が高分子量化すると、炭素繊維と相互作用し難くなるため、炭素繊維の開繊性が低下し、製品外観や強度が悪化するという問題がある。また、炭素繊維を基布の形態で使用する場合は、炭素繊維基布を熱可塑性樹脂シートに溶融圧着させて成形品や製品を得る。熱可塑性樹脂をシート状に製膜するには、熱可塑性樹脂の分子量を十分に高くしなければならないが、分子量が高くなると溶融状態での分子運動性が劣るため、炭素繊維基布へ含浸し難くなるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−13069号公報
【特許文献2】特開2003−277525号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、超高分子量成分の量が低減されたプロピレン系重合体と、低結晶または低分子量成分の量が低減された変性プロピレン系重合体とを用いることにより、曲げ強度に優れた炭素繊維強化プロピレン系複合材料およびその成形体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意研究した結果、超高分子量プロピレン系重合体は溶融状態での分子運動性が劣るため、炭素繊維の開繊を阻害することや、変性プロピレン系重合体中に低結晶または低分子量の成分が含まれていると、炭素繊維とポリプロピレン樹脂との接着強度が低下することに着眼し、特定のプロピレン系重合体と、特定の変性プロピレン樹脂と、表面処理された炭素繊維とから形成される炭素繊維強化プロピレン系複合材料が、曲げ強度などの機械強度に優れることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明には以下の事項が含まれる。
〔1〕メタロセン触媒の存在下で製造されたプロピレン系重合体(A)と、メタロセン触媒の存在下で製造されたプロピレン系重合体(F)をエチレン性不飽和結合含有モノマーでグラフト変性して得られた変性プロピレン系重合体(B)と、表面処理された炭素繊維(C)とから形成され、下記要件(i)から(iv)を満たすことを特徴とする炭素繊維強化プロピレン系複合材料。
(i)該炭素繊維(C)の使用量が、プロピレン系重合体(A)、変性プロピレン樹脂(B)および炭素繊維(C)の合計100重量%中、1〜80重量%である。
(ii)メルトフローレート(MFR;230℃、2.16kgf)が0.1〜10g/minの範囲である。
(iii)融点(Tm)が150℃以上である。
(iv)熱キシレンに溶かして加熱濾過し、アセトン中で再析出させた成分のZ平均分子量(Mz)が600,000以下である。
【0010】
〔2〕前記変性プロピレン樹脂(B)が、下記要件(b−1)から(b−4)を満たすことを特徴とする〔1〕に記載の炭素繊維強化プロピレン系複合材料。
(b−1)融点(Tm)が135〜170℃である。
(b−2)グラフト量が1〜5重量%である。
(b−3)極限粘度[η]が0.2〜4dl/gである。
(b−4)70℃のo−ジクロロベンゼンに可溶な成分量が3重量%以下である。
【0011】
〔3〕さらに下記要件(v)を満たすことを特徴とする〔1〕または〔2〕に記載の炭素繊維強化プロピレン系複合材料。
(v)変性プロピレン樹脂(B)の使用量が、プロピレン系重合体(A)および変性プロピレン樹脂(B)の合計100重量%中、0.5〜40重量%である。
【0012】
〔4〕前記プロピレン系重合体(A)が下記要件(a−1)から(a−4)を満たすことを特徴とする〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の炭素繊維強化プロピレン系複合材料。
(a−1)メルトフローレート(MFR;230℃、2.16kgf)が3〜30g/10minである。
(a−2)分子量分布(Mw/Mn)が3.5未満である。
(a−3)90℃のo−ジクロロベンゼンに可溶な成分の量が1重量%以下である。
(a−4)融点(Tm)が150〜170℃である。
【0013】
〔5〕前記変性プロピレン樹脂(B)が、カルボキシル基、酸無水物基またはこれらの誘導体を有することを特徴とする〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の炭素繊維強化プロピレン系複合材料。
【0014】
〔6〕前記表面処理が、エポキシ系ポリマー、ナイロン系ポリマーまたはウレタン系ポリマーを用いたサイジング処理であることを特徴とする〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の炭素繊維強化プロピレン系複合材料。
【0015】
〔7〕前記炭素繊維(C)が、炭素繊維基布であることを特徴とする〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載の炭素繊維強化プロピレン系複合材料。
〔8〕〔1〕〜〔7〕のいずれかに記載の炭素繊維強化プロピレン系複合材料を成形して得られる成形体。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、超高分子量成分の量が低減されたプロピレン系重合体と、低結晶または低分子量成分の量が低減された変性プロピレン系重合体とを用いることにより、曲げ弾性率および曲げ強度が向上した炭素繊維強化プロピレン系複合材料およびその成形体が得られる。また、上記炭素繊維強化プロピレン系複合材料は、これらの機械強度のバランスにも優れる。
【0017】
本発明では、変性プロピレン系重合体の構成成分であるプロピレン系重合体として、低結晶または低分子量の成分量が少なく、残留塩素量の少ないプロピレン系重合体を用いることで、得られる炭素繊維強化プロピレン系複合材料の曲げ弾性率および曲げ強度を向上させることができる。
【0018】
このため、本発明の炭素繊維強化プロピレン系複合材料は、軽量性に加えて成形性が要求される自動車構造部材などに好適である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の炭素繊維強化プロピレン系複合材料およびその成形体について説明する。
〔プロピレン系重合体(A)〕
本発明で用いられるプロピレン系重合体(A)は、メタロセン触媒の存在下で製造された重合体である。プロピレン系重合体(A)は、例えば、プロピレンの単独重合体、あるいはプロピレンと他の少量のモノマーとの共重合体が挙げられる。他の少量のモノマーとしては、エチレンおよび炭素原子数4〜20のα-オレフィンが挙げられる。炭素原子数4〜20のα-オレフィンとしては、具体的には、1-ブテン、1-ペンテン、3-メチル-1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、3-メチル-1-ペンテン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセンおよび1-エイコセンなどが挙げられ、好ましくは1-ブテン、1-ヘキセンおよび4-メチル-1-ペンテンが挙げられる。これらは1種単独でまたは2種以上組み合わせて用いられる。
【0020】
プロピレン系重合体(A)は、好ましくは下記要件(a−1)から(a−4)を満たす。
(a−1)メルトフローレート(MFR;230℃、2.16kgf)が、好ましくは1〜30g/10min、より好ましくは2〜25g/10min、特に好ましくは3〜20g/10minである。MFRが上記範囲にあると、プロピレン系重合体(A)中の超高分子量成分が比較的少なく、炭素繊維(C)の開繊性が良好であり、得られる炭素繊維強化プロピレン系複合材料の曲げ強度が高くなる。MFRが1g/10minよりも低いと、得られる炭素繊維強化プロピレン系複合材料のMFRが低くなりすぎ、射出成形性などの成形性が悪化する場合がある。一方、MFRが30g/10minよりも高いと、プロピレン系重合体(A)および変性プロピレン系重合体(B)からなるプロピレン系樹脂組成物と後述する炭素繊維(C)の基布とを溶融圧着させて成形体を形成する際に、該シートの製膜性が悪化する場合がある。
【0021】
(a−2)分子量分布(Mw/Mn)が、好ましくは3.5未満、より好ましくは3.0未満、特に好ましくは2.5未満である。分子量分布(Mw/Mn)が3.5以上になると、プロピレン系重合体(A)中に超高分子量成分が多く含まれることになり、炭素繊維(C)の開繊性が悪化し、得られる炭素繊維強化プロピレン系複合材料の強度が低下する場合がある。
【0022】
(a−3)90℃のo−ジクロロベンゼンに可溶な成分の量が、好ましくは1重量%以下、より好ましくは0.5重量%以下、特に好ましくは0.3重量%以下である。90℃のo−ジクロロベンゼンに可溶な成分の量が1重量%よりも多いと、プロピレン系重合体(A)の強度が低下する傾向があり、得られる炭素繊維強化プロピレン系複合材料の強度が低下する場合がある。
【0023】
なお、90℃のo-ジクロロベンゼンに可溶な成分量の測定は、クロス分別クロマトグラフ(CFC)測定装置の結晶性分別を行う温度上昇溶離分別(TREF)部を用いて行う。
【0024】
(a−4)融点(Tm)が好ましくは150〜170℃、より好ましくは153〜170℃、特に好ましくは155〜170℃である。融点(Tm)が150℃未満であると、プロピレン系重合体(A)の耐熱性が低下し、得られる炭素繊維強化プロピレン系複合材料の耐熱性が低下する場合がある。
なお、融点(Tm)は示差走査熱量計(DSC)により測定した2回目の昇温時における吸熱ピークである。
【0025】
<プロピレン系重合体(A)の製造方法>
本発明で用いられるプロピレン系重合体(A)は、シクロペンタジエニル骨格などの配位子を分子内に持つメタロセン化合物を含む重合触媒の存在下でプロピレンを単独重合するか、あるいはプロピレンと、他の少量のモノマーとを共重合することによって製造される。
【0026】
シクロペンタジエニル骨格を有する配位子を分子内に持つメタロセン化合物としては、その化学構造から、下記一般式[I]で表されるメタロセン化合物(D1)および下記一般式[II]で表される架橋型メタロセン化合物(D2)の二種類が挙げられ、好ましくは架橋型メタロセン化合物(D2)が挙げられる。
【0027】
【化1】

上記一般式[I]および[II]において、Mは第4族遷移金属、好ましくはチタン原子、ジルコニウム原子またはハフニウム原子を示し、Qはハロゲン原子、炭化水素基、アニオン配位子、および孤立電子対で配位可能な中性配位子から選ばれる基であり、jは1〜4の整数であり、Cp1およびCp2は、Mを挟んだサンドイッチ構造を形成するシクロペンタジエニル基または置換シクロペンタジエニル基であり、互いに同一でも異なっていてもよい。置換シクロペンタジエニル基としては、インデニル基、フルオレニル基、アズレニル基、およびこれらの基に1個以上の炭化水素基が置換した基が挙げられ、置換シクロペンタジエニル基がインデニル基、フルオレニル基およびアズレニル基である場合、シクペンタジエニル基に縮合する不飽和環の二重結合の一部は水添されていてもよい。
【0028】
一般式[II]において、Yは、炭素原子数1〜20の2価の炭化水素基、炭素原子数1〜20の2価のハロゲン化炭化水素基、2価のケイ素含有基、-Ge-、2価のゲルマニウム含有基、-Sn-、2価のスズ含有基、エーテル結合(-O-)、カルボニル基(-CO-)、スルフィド(-S-)、スルホキシド(-SO-)、スルホン(-SO2-)、アミノ基(-NRa-)、-P(Ra)-、-P(O)(Ra)-、-BRa-または-AlRa-を示す(ただし、Raは水素原子、炭素原子数1〜20の炭化水素基、ハロゲン原子、炭素原子数1〜20のハロゲン化炭化水素基、または炭素原子数1〜20の炭化水素基が1個または2個結合したアミノ基を示す)。
【0029】
本発明で用いられる重合触媒は、一般式[II]で表される触媒のうち、すでに本願出願人により出願されたWO01/27124に記載された一般式[III]で表されるメタロセン触媒、有機金属化合物、有機アルミニウムオキシ化合物、該架橋性メタロセン化合物と反応してイオン対を形成し得る化合物(共触媒)から選ばれる1種以上の化合物、および必要に応じて粒子状担体からなるメタロセン触媒である。
【0030】
【化2】

上記一般式[III]において、R1〜R14は水素原子、炭化水素基およびケイ素含有基から選ばれる基を示し、それぞれ同一でも異なっていてもよい。
【0031】
上記炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、アリル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基およびn-デカニル基などの直鎖状炭化水素基;イソプロピル基、t-ブチル基、2,3-ジメチルブチル基、アミル基、2-メチルペンチル基、3-メチルペンチル基、2-エチルペンチル基、4-メチルヘプチル基、4-プロピルヘプチル基および2,3,4-トリメチルペンチル基などの分岐状炭化水素基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、ノルボルニル基およびアダマンチル基などの環状飽和炭化水素基;フェニル基、トリル基、ナフチル基、ビフェニル基、フェナントリル基およびアントラセニル基などの環状不飽和炭化水素基;ベンジル基、クミル基、1,1-ジフェニルエチル基およびトリフェニルメチル基などの環状不飽和炭化水素基で置換された飽和炭化水素基;メトキシ基、エトキシ基、フェノキシ基、フリル基、N-メチルアミノ基、N,N'-ジメチルアミノ基、N-フェニルアミノ基、ピリル基およびチエニル基などのヘテロ原子含有炭化水素基などが挙げられる。
【0032】
1〜R4は水素原子または炭素原子数1〜20の炭化水素基であることがより好ましく、R2およびR4が炭素原子数1〜20の炭化水素基であることがより好ましく、R1およびR3が水素原子であり、R2およびR4が直鎖状もしくは分岐状の炭素原子数1〜5のアルキル基であることが特に好ましい。
【0033】
5〜R12は水素原子または炭素原子数1〜20の炭化水素基であることが好ましい。R5〜R12の隣接した置換基は互いに結合して環を形成してもよく、具体的には、ベンゾフルオレニル基、ジベンゾフルオレニル基、オクタヒドロジベンゾフルオレニル基、オクタメチルオクタヒドロジベンゾフルオレニル基およびオクタメチルテトラヒドロジシクロペンタフルオレニル基などを形成してもよい。このうち特に、R6、R7、R10およびR11が同時に水素原子ではないフルオレン環を形成するのが好ましい。
【0034】
ケイ素含有基としては、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、ジメチルフェニルシリル基、ジフェニルメチルシリル基およびトリフェニルシリル基などが挙げられる。
Yは第14族元素、好ましくは炭素原子、ケイ素原子およびゲルマニウム原子であり、より好ましくは炭素原子である。
【0035】
13およびR14は炭素原子数1〜20の炭化水素基であり、好ましくは炭素原子数1〜3のアルキル基および炭素原子数6〜20のアリール基であり、より好ましくは、メチル基、エチル基、フェニル基およびトリル基である。R13およびR14は同一でも異なっていてもよく、互いに結合して環を形成してもよいし、R5〜R12の隣接した基またはR1〜R4の隣接した基と互いに結合して環を形成してもよい。
【0036】
Mは第4族遷移金属、好ましくはチタン原子、ジルコニウム原子またはハフニウム原子である。
Qはハロゲン原子、炭化水素基、アニオン配位子、および孤立電子対で配位可能な中性配位子から選ばれる基であり、少なくとも1つがハロゲン原子またはアルキル基であることが好ましい。
【0037】
ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子が挙げられる。炭化水素基としては、前述と同様のものが挙げられる。アニオン配位子としては、メトキシ基、t-ブトキシ基およびフェノキシ基などのアルコキシ基;アセテートおよびベンゾエートなどのカルボキシレート基;ならびにメシレートおよびトシレートなどのスルホネート基などが挙げられる。孤立電子対で配位可能な中性配位子としては、トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリフェニルホスフィンおよびジフェニルメチルホスフィンなどの有機リン化合物;テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジオキサンおよび1,2-ジメトキシエタンなどのエーテル類などが挙げられる。
【0038】
jは1〜4の整数であり、jが2以上のとき、Qは同一でも異なっていてもよい。
一般式[III]で表されるメタロセン触媒の具体例としては、ジメチルメチレン(3-t-ブチル-5-メチルシクロペンタジエニル)(3,6-ジt-ブチルフルオレニル)ジルコニウムジクロリド、1-フェニルエチリデン(4-t-ブチル-2-メチルシクロペンタジエニル)(オクタメチルオクタヒドロジベンゾフルオレニル)ジルコニウムジクロリドおよび[3-(1',1',4',4',7',7',10',10'-オクタメチルオクタヒドロジベンゾ[b,h]フルオレニル)(1,1,3-トリメチル-5-t-ブチル-1,2,3,3a-テトラヒドロペンタレン)]ジルコニウムジクロライドなどが挙げられる。
【0039】
なお、上記一般式[III]で表わされるメタロセン触媒と共に用いられる有機金属化合物、有機アルミニウムオキシ化合物、該メタロセン触媒と反応してイオン対を形成し得る化合物から選ばれる1種以上の化合物、および必要に応じて用いられる粒子状担体については、上述した国際公開第2001/27124号パンフレットおよび特開平11-315109号公報に開示された化合物を制限無く使用することができる。
【0040】
〔変性プロピレン樹脂(B)〕
本発明で用いられる変性プロピレン樹脂(B)は、表面処理された炭素繊維(C)が有する反応性官能基と反応し得る官能基を1種以上有しており、メタロセン触媒の存在下で製造されたプロピレン系重合体(F)をエチレン性不飽和結合含有モノマーでグラフト変性して得られる。ここで、表面処理された炭素繊維(C)が有する反応性官能基と反応し得る官能基としては、カルボキシル基、酸無水物基、エポキシ基、水酸基、アミノ基、ハロゲン原子、アミド基、イミド基、エステル基、アルコキシシラン基、酸ハライド基、芳香族環、およびニトリル基等が挙げられ、好ましくはカルボキシル基や酸無水基またはこれらの誘導体が挙げられる。メタロセン触媒の存在下で製造されたプロピレン系重合体(F)は低結晶および低分子量成分が少ないため、該プロピレン系重合体(F)を構成成分とする変性プロピレン系重合体(B)を用いれば、良好な曲げ弾性率を保持しつつ、曲げ強度の向上した炭素繊維強化プロピレン系複合材料が得られる。
【0041】
上記変性プロピレン系重合体(B)は下記要件(b−1)〜(b−4)を満たすことが好ましい。
(b−1)融点(Tm)が好ましくは135〜170℃、より好ましくは140〜170℃、特に好ましくは145〜170℃である。
【0042】
融点(Tm)が135℃未満であると、変性プロピレン樹脂の曲げ弾性率が低下し、炭素繊維強化プロピレン系複合材料の曲げ弾性率が低下する。
なお、融点(Tm)は示差走査熱量計(DSC)により測定した2回目の昇温時における吸熱ピークである。
【0043】
(b−2)変性プロピレン系重合体(B)中のグラフト量が好ましくは1〜5重量%、より好ましくは1.3〜5重量%、特に好ましくは1.8〜5重量%である。
グラフト量が上記範囲にある変性プロピレン系重合体(B)を用いれば、曲げ弾性率および曲げ強度が向上した炭素繊維強化プロピレン系複合材料が得られる。グラフト量が1重量%未満であると、変性プロピレン系重合体(B)によるプロピレン系重合体(A)と炭素繊維(C)との接着性改良効果が低下する傾向があり、得られる炭素繊維強化プロピレン系複合材料の曲げ強度が低下する場合ある。一方、グラフト量が5重量%を超えると、プロピレン系重合体(A)中における変性プロピレン系重合体(B)の分散性が低下する傾向がある。そのため、変性プロピレン系重合体(B)によるプロピレン系重合体(A)と炭素繊維(C)との接着性改良効果が低くなり、得られた炭素繊維強化プロピレン系複合材料の曲げ強度が低くなる場合がある。
【0044】
なお、グラフト量は、変性プロピレン系重合体(B)約2gを500mlの沸騰p-キシレンに完全に加熱溶解させ、冷却後、1200mlのアセトン中に投入し、析出物を濾過、乾燥させてからプレスフィルムを作製し、FT−IRの1790cm-1と974cm-1のピーク強度比から算出して求める。
【0045】
(b−3)135℃、デカリン中での極限粘度[η]が0.2〜4dl/g、好ましくは0.4〜3dl/g、より好ましくは0.6〜2dl/gである。
極限粘度[η]が0.2dl/g未満であると、変性プロピレン系重合体(B)の強度が低下するため、得られる炭素繊維強化プロピレン系複合材料の曲げ強度が低下する場合がある。一方、極限粘度[η]が4dl/gよりも高いと、プロピレン系重合体(A)中における変性プロピレン系重合体(B)の分散性が低下する傾向がある。そのため、変性プロピレン系重合体(B)によるプロピレン系重合体(A)と炭素繊維(C)の接着性改良効果が低くなり、得られる炭素繊維強化プロピレン系複合材料の強度が低下する場合がある。
【0046】
(b−4)70℃のo−ジクロロベンゼンに可溶な成分量が、好ましくは3重量%以下であり、より好ましくは2重量%以下、特に好ましくは1重量%以下である。
70℃のo−ジクロロベンセンに可溶な成分は、プロピレン系重合体(F)中に含まれる低結晶または低分子量の成分に由来し、その量が3重量%よりも多いと、得られる炭素繊維強化プロピレン系複合材料の曲げ弾性率が低下する場合がある。
【0047】
なお、70℃のo-ジクロロベンゼンに可溶な成分量の測定は、クロス分別クロマトグラフ(CFC)測定装置の結晶性分別を行う温度上昇溶離分別(TREF)部を用いて行う。
【0048】
以下、メタロセン触媒の存在下で製造されたプロピレン系重合体(F)、エチレン性不飽和結合含有モノマーおよび有機過酸化物について詳細に説明する。上記変性プロピレン系重合体(B)は、プロピレン系重合体(F)にエチレン性不飽和結合含有モノマーを有機過酸化物を用いてグラフト変性することにより得られる。
【0049】
以下、メタロセン触媒の存在下で重合して製造されたプロピレン系重合体(F)、エチレン性不飽和結合含有モノマー(D)、有機過酸化物(E)について詳細に説明する。
<プロピレン系重合体(F)>
本発明で用いられるプロピレン重合体(F)は、メタロセン触媒の存在下で製造される。プロピレン系重合体(F)は、例えば、プロピレン単独重合体、あるいはプロピレンと他の少量のモノマーとのランダム共重合体またはブロック共重合体が挙げられ、好ましくはプロピレン単独重合体、およびプロピレンと他の少量のモノマーとのランダム共重合体が挙げられる。なお、他の少量のモノマーとしては、エチレンおよび炭素原子数4〜20のα-オレフィンが挙げられる。炭素原子数4〜20のα-オレフィンとしては、プロピレン系重合体(A)を構成するα−オレフィンとして例示したものと同様のものが挙げられる。
【0050】
プロピレン系重合体(F)の融点(Tm)は通常145〜170℃であり、好ましくは150〜170℃であり、より好ましくは155〜170℃である。プロピレン系重合体(F)の融点が145℃未満であると、得られる変性プロピレン系重合体(B)の融点が140℃未満となり、炭素繊維強化プロピレン系複合材料の剛性および強度が低下する場合がある。
【0051】
プロピレン系重合体(F)の135℃、デカリン中での極限粘度[η]は通常0.5〜15dl/gであり、好ましくは1.0〜10dl/gである。
プロピレン重合体(F)のメルトフローレート(MFR;230℃、2.16kgf)は通常0.001〜1500g/10min、好ましくは0.005〜100g/10minである。
【0052】
プロピレン系重合体(F)の分子量分布(Mw/Mn)は通常1.5〜4.0であり、好ましくは1.5〜3.5であり、より好ましくは1.5〜3.0である。分子量分布(Mw/Mn)が大きいことは、プロピレン系重合体(F)中に含まれる低分子量成分が多いことを意味する。プロピレン系重合体(F)の分子量分布(Mw/Mn)が4.0よりも大きいと、この低分子量成分が変性プロピレン系重合体(B)を製造する際、分解などによりさらに低分子量化され、その結果、得られる炭素繊維強化プロピレン系複合材料の強度が低下する場合ある。
【0053】
プロピレン系重合体(F)の原料中に含まれる残留塩素量は通常3重量ppm以下、好ましくは1重量ppm以下である。残留塩素量が3重量ppmよりも多くなると、変性プロピレン系重合体(B)の製造中に遊離塩素が発生し、低分子量の変性プロピレン系重合体(B)が副生される可能性がある。また、変性プロピレン系重合体(B)中の残留塩素量が多くなり、得られる炭素繊維強化プロピレン系複合材料の疲労強度が低下する場合がある。
【0054】
また、プロピレン系重合体(F)が二重結合構造を少量でも含んでいると、変性プロピレン系重合体(B)の製造時に、エチレン性不飽和結合含有モノマーがこの二重結合構造と反応し、変性プロピレン系重合体(B)中のグラフト量が多くなる傾向がある。
【0055】
プロピレン系重合体(F)中のプロピレンモノマーの2,1−挿入および1,3−挿入に基づく異種結合の含有量の和は、プロピレンに由来する全ての結合の合計100mol%中、通常0.1mol%以下、好ましくは0.05mol%以下である。プロピレンモノマーの2,1−挿入および1,3−挿入に基づく異種結合の含有量の和が上記範囲にあると、変性プロピレン系重合体(B)の融点(Tm)が高くなり、得られる炭素繊維強化プロピレン系複合材料の強度が高くなる。
なお、プロピレン系重合体(F)中のプロピレンモノマーの2,1−挿入または1,3−挿入に基づく異種結合の含有量は13C−NMRスペクトルから求められる。
【0056】
プロピレン系重合体(F)の製造方法
本発明で用いられるプロピレン系重合体(F)は、シクロペンタジエニル骨格などの配位子を分子内に持つメタロセン化合物を含む重合触媒の存在下でプロピレンを単独重合するか、あるいはプロピレンと他の少量のモノマーとを共重合することによって製造される。
【0057】
シクロペンタジエニル骨格を有する配位子を分子内に含むメタロセン化合物は、すでに述べたプロピレン系重合体(A)の製造に用いられるメタロセン触媒と同じ触媒を例示することができる。
【0058】
<エチレン性不飽和結合含有モノマー>
本発明で用いられるエチレン性不飽和結合含有モノマーは、1分子内にラジカル重合可能なエチレン性不飽和結合と1種類以上の極性基とを併せ持つ化合物である。極性基としては、ハロゲン原子、カルボキシル基、酸無水物基、エポキシ基、水酸基、アミノ基、アミド基、イミド基、エステル基、アルコキシシラン基、酸ハライド、芳香環およびニトリル基などが挙げられる。
【0059】
エチレン性不飽和結合含有モノマーの具体例としては、不飽和カルボン酸およびその誘導体(酸無水物、酸アミド、エステル、酸ハロゲン化物および金属塩)、イミド、水酸基含有エチレン性不飽和化合物、エポキシ基含有エチレン性不飽和化合物、スチレン系モノマー、アクリロニトリル、酢酸ビニルならびに塩化ビニルなどが挙げられ、好ましくは不飽和カルボン酸およびその誘導体、水酸基含有エチレン性不飽和化合物ならびにエポキシ基含有エチレン性不飽和化合物が挙げられる。
【0060】
不飽和カルボン酸およびその誘導体としては、例えば、(メタ)アクリル酸、α−エチルアクリル酸、マレイン酸、フマル酸、テトラヒドロフタル酸、メチルテトラヒドロフタル酸、シトラコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、エンドシス−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2,3−ジカルボン酸(ナジック酸、商標)、無水ナジック酸およびメチル−エンドシス−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−5−エン-2,3−ジカルボン酸(メチルナジック酸、商標)などの不飽和カルボン酸およびその無水物;ならびにメタクリル酸メチルなどの不飽和カルボン酸エステル、不飽和カルボン酸ハライド、不飽和カルボン酸アミドおよびイミドなどが挙げられ、好ましくは塩化マロニル、マレイミド、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、無水ナジック酸、アクリル酸、ナジック酸、マレイン酸、マレイン酸モノメチル、マレイン酸ジメチルおよびメタクリル酸メチルなどが挙げられ、より好ましくはアクリル酸、マレイン酸、ナジック酸、無水マレイン酸、無水ナジック酸およびメタクリル酸メチルが挙げられる。不飽和カルボン酸およびその誘導体は1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0061】
水酸基含有エチレン性不飽和化合物としては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、グリセリンモノ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールモノ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパン(メタ)アクリレート、テトラメチロールエタンモノ(メタ)アクリレート、ブタンジオールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレートおよび2−(6−ヒドロキシヘキサノイルオキシ)エチルアクリレート、10−ウンデセン−1−オール、1−オクテン−3−オール、2−メチロールノルボルネン、ヒドロキシスチレン、ヒドロキシエチルビニルエーテル、ヒドロキシブチルビニルエーテル、N−メチロールアクリルアミド、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート、グリセリンモノアリルエーテル、アリルアルコール、アリロキシエタノールおよび2−ブテン−1,4−ジオールおよびグリセリンモノアルコールなどが挙げられ、好ましくは10−ウンデセン−1−オール、1−オクテン−3−オール、2−メタノールノルボルネン、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシスチレン、ヒドロキシエチルビニルエーテル、ヒドロキシブチルビニルエーテル、N−メチロールアクリルアミド、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート、グリセリンモノアリルエーテル、アリルアルコール、アリロキシエタノール、2−ブテン−1,4−ジオールおよびグリセリンモノアルコールなどが挙げられ、より好ましくは2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートおよび2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートが挙げられる。水酸基含有エチレン性不飽和化合物は1種単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0062】
エポキシ基含有エチレン性不飽和化合物の具体例としては、下記式(IV)で表される不飽和グリシジルエステル類、下記式(V)で表される不飽和グリシジルエーテル類、および下記式(VI)で表されるエポキシアルケン類などが挙げられる。
【0063】
【化3】

式(IV)中、Rは重合可能なエチレン性不飽和結合を有する炭化水素基を示す。
【0064】
【化4】

式(V)中、Rは重合可能なエチレン性不飽和結合を有する炭化水素基を示し、Xは−CH2−O−または−C64−O−で表される2価の基を示す。
【0065】
【化5】

式(VI)中、R1は重合可能なエチレン性不飽和結合を有する炭化水素基を示し、R2は水素原子またはメチル基を示す。
【0066】
エポキシ基含有エチレン性不飽和化合物の具体例としては、グリシジル(メタ)アクリレート、イタコン酸のモノまたはジグリシジルエステル、ブテントリカルボン酸のモノ、ジまたはトリグリシジルエステル、テトラコン酸のモノまたはジグリシジルエステル、エンド−シス−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−5−エン−2,3−ジカルボン酸(ナジック酸、商標)のモノまたはジグリシジルエステル、エンド−シス−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−5−エン−2,3−ジメチル−2,3−ジカルボン酸(メチルナジック酸、商標)のモノまたはジグリシジルエステル、アリルコハク酸のモノまたはジグリシジルエステル、p−スチレンカルボン酸のグリシジルエステル、アリルグリシジルエーテル、2−メチルアリルグリシジルエーテル、スチレン−p−グリシジルエーテル、3,4−エポキシ−1−ブテン、3,4−エポキシ−3−メチル−1−ブテン、3,4−エポキシ−1−ペンテン、3,4−エポキシ−3−メチル−1−ペンテン、5,5−エポキシ−1−ヘキセン、およびビニルシクロヘキセンモノオキシドなどが挙げられ、好ましくグリシジルアクリレートおよびグリシジルメタクリレートが挙げられる。エポキシ基含有エチレン性不飽和化合物は1種単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0067】
なお、「(メタ)アクリ」は「アクリ」および/または「メタクリ」を意味する。
上記エチレン性不飽和結合含有モノマーのうち、より好ましくは不飽和カルボン酸およびその誘導体であり、特に好ましくは不飽和カルボン酸無水物であり、最も好ましくは無水マレイン酸である。
【0068】
<有機過酸化物>
本発明で用いられる有機過酸化物としては、1,1−ビス(t−ブチルペルオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルペルオキシ)シクロヘキサン、2,2−ビス(t−ブチルペルオキシ)オクタン、n−ブチル−4,4−ビス(t−ブチルペルオキシ)バラレートおよび2,2−ビス(t−ブチルペルオキシ)ブタンなどのペルオキシケタール類;ジ−t−ブチルペルオキシド、ジクミルペルオキシド、t−ブチルクミルペルオキシド、α,α’−ビス(t−ブチルペルオキシ)ジイソプロピルベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルペルオキシ)ヘキサンおよび2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルペルオキシ)ヘキシン−3などのジアルキルペルオキシド類;アセチルペルオキシド、イソブチルペルオキシド、オクタノイルペルオキシド、デカノイルペルオキシド、ラウロイルペルオキシド、3,5,5−トリメチルヘキサノイルペルオキシド、ベンゾイルペルオキシド、2,5−ジクロロベンゾイルペルオキシドおよびm−トリオイルペルオキシドなどのジアシルペルオキシド類;t−ブチルオキシアセテート、t−ブチルペルオキシイソブチレート、t−ブチルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルペルオキシラウリレート、t−ブチルペルオキシベンゾエート、ジt−ブチルペルオキシイソフタレート、2,5−ジメチル−2,5−ビス(ベンゾイルペルオキシ)ヘキサン、t−ブチルペルオキシマレイックアシッド、t−ブチルペルオキシイソプロピルカーボネート、クミルペルオキシオクテートなどのペルオキシエステル類;ジ(2−エチルヘキシル)ペルオキシジカーボネートおよびジ(3−メチル−3−メトキシブチル)ペルオキシジカーボネートなどのペルオキシジカーボネート類;ならびにt−ブチルハイドロペルオキシド、クメンハイドロペルオキシド、ジイソプロピルベンゼンハイドロペルオキシド、2,5−ジメチルヘキサン−2,5−ジハイドロペルオキシドおよび1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロペルオキシドなどのハイドロペルオキシド類などが挙げられ、好ましくはt−ブチルペルオキシベンゾエート、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルペルオキシ)ヘキサン、t−ブチルペルオキシ−2−エチルヘキサノエートおよびジクミルペルオキシドなどが挙げられる。
【0069】
<変性プロピレン系重合体(B)の製造方法>
本発明で用いられる変性プロピレン系重合体(B)は、プロピレン系重合体(F)とエチレン性不飽和結合含有モノマーとを、加熱条件下で有機過酸化物の存在下に変性反応させることにより製造される。
【0070】
変性温度は、通常50〜250℃、好ましくは60〜200℃である。
変性に要する時間は通常15分〜20時間、好ましくは0.5〜10時間である。
変性反応は、常圧、加圧いずれの条件下においても行うことができる。
【0071】
変性は、溶媒の存在下に行うこともできるし、溶媒の非存在下に行うこともできる。
溶媒の存在下で行う場合、溶媒としては、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、ドデカン、テトラデカンおよび灯油などの脂肪族炭化水素;メチルシクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、シクロオクタンおよびシクロドデカンなどの脂環族炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、クメン、エチルトルエン、トリメチルベンゼン、シメンおよびジイソプロピルベンゼンなどの芳香族炭化水素;ならびにクロロベンゼン、ブロモベンゼン、o−ジクロロベンゼン、四塩化炭素、トリクロロエタン、トリクロロエチレン、テトラクロロエタンおよびテトラクロロエチレンなどのハロゲン化炭化水素などが挙げられる。溶媒の存在下で行う場合、プロピレン系重合体(F)100重量部に対するエチレン性不飽和結合含有モノマーの量は通常0.2〜100重量部、好ましくは0.5〜50重量部であり、有機過酸化物の量は通常0.001〜20重量部、好ましくは0.01〜10重量部、より好ましくは0.1〜5重量部である。
【0072】
溶媒の非存在下で行う場合は、特に溶融状態で混練して変性反応を行うことが好ましい。具体的には、樹脂同士あるいは樹脂と固体または液体の添加物とを混合するための公知の方法が用いられる。混合する方法としては、各成分の混合物をヘンシェルミキサー、リボンブレンダーおよびブレンダーなどにより混練する方法ならびにいくつかの成分をそれぞれヘンシェルミキサー、リボンブレンダーおよびブレンダーなどに加えて混合し、均一な混合物とした後、該混合物を混練する方法などが挙げられる。混練には、例えば、バンバリーミキサー、プラストミル、ブラベンダープラストグラフ、および一軸または二軸の押出機などが用いられる。
【0073】
プロピレン系重合体(F)の変性方法として特に好ましくは、一軸または二軸押出機を用い、あらかじめ十分に予備混合したプロピレン重合体(F)、エチレン性不飽和結合含有モノマーおよび有機過酸化物を押出機の供給口より供給して混練を行う方法である。この方法だと連続生産が可能であり、上記方法を用いれば生産性が向上するからである。
【0074】
混練機の混練を行う部分の温度は(例えば、押出機であればシリンダー温度)、通常100〜300℃、好ましくは160〜250℃である。温度が100℃よりも低いと変性プロピレン系重合体(B)中のグラフト量が十分に得られない場合があり、温度が250℃よりも高いと変性プロピレン系重合体(B)の分解が起こる場合がある。
【0075】
混練時間は、0.1〜30分間、特に好ましくは0.5〜5分間である。混練時間が0.1分に満たないと十分なグラフト量が得られない場合があり、また、混練時間が5分を超えると変性プロピレン系重合体(B)の分解が起こる場合がある。
【0076】
変性プロピレン系重合体(B)の製造方法において、溶融混練で製造する場合、各成分の配合量としては、例えば、プロピレン系重合体(F)100重量部に対して、エチレン性不飽和結合含有モノマーを通常0.1〜20重量部、好ましくは0.3〜10重量部、より好ましくは0.5〜5重量部、および有機過酸化物を通常0.001〜10重量部、好ましくは0.01〜5重量部、より好ましくは0.1〜4重量部である。
【0077】
上述のようにして得られた変性プロピレン系重合体(B)は、好ましくはカルボキシル基、酸無水物基またはこれらの誘導体を有し、より好ましくはカルボキシル基、酸無水物基、アミド基、エステル基、酸ハライド基などを有する。
【0078】
変性プロピレン系重合体(B)の含有量は、プロピレン系重合体(A)および変性プロピレン系重合体(B)の合計100重量%中、好ましくは0.5〜40重量%、より好ましくは1〜30重量%、特に好ましくは2〜20重量%である。変性プロピレン系重合体(B)の含有量が0.5重量%よりも少ないと、炭素繊維(C)と変性プロピレン系重合体(B)との相互作用が低下し、炭素繊維強化プロピレン系複合材料の強度が低下する場合がある。一方、変性プロピレン系重合体(B)の含有量が40重量%よりも大きいと、変性プロピレン系重合体(B)自体の強度の影響で、炭素繊維強化プロピレン系複合材料の強度が低下する場合がある。
【0079】
〔表面処理された炭素繊維(C)〕
本発明で用いられる表面処理された炭素繊維(C)「単に「炭素繊維(C)」ともいう。」は、炭素繊維を表面処理したものである。
【0080】
炭素繊維としては、従来公知の炭素繊維が用いられ、例えば、ポリアクリロニトリルを原料としたPAN系炭素繊維およびピッチを原料としたピッチ系炭素繊維などが挙げられる。また、繊維原糸を所望の長さに裁断した、いわゆるチョップドカーボンファイバーなども用いられる。チョップドカーボンファイバーとしては、例えば、PAN系炭素繊維では、トレカチョップ(商品名;東レ(株)製)、パイロフィル(チョップ)(商品名;三菱レーヨン(株)製)およびテナックス(チョップ)(商品名;東邦テナックス(株)製)などが挙げられ、ピッチ系炭素繊維では、ダイアリード(商品名;三菱化学産資(株)製)、ドナカーボ(チョップ)(商品名;大阪ガスケミカル(株)製)およびクレカチョップ(商品名;呉羽化学(株)製)などが挙げられる。
【0081】
炭素繊維の表面処理の方法としては、一般的によく用いられる公知の方法を用いればよく、例えば、炭素繊維に酸またはアルカリ性の水溶液で電解表面処理を行って炭素繊維表面に官能基を付与する方法、ならびにサイジング剤を用いて処理する方法などが挙げられる。このうち、エポキシ系ポリマー、ナイロン系ポリマーおよびウレタン系ポリマーなどを用いたサイジング処理が好ましく挙げられる。なお、エポキシ系ポリマー、ナイロン系ポリマーおよびウレタン系ポリマーとしては、東邦テナックス(株)のテナックス(HTA−C6−SR(エポキシ樹脂サイジング);HTA−C6−N(ナイロン樹脂サイジング);HTA−C6−US(ウレタン樹脂サイジング))などが挙げられる。
【0082】
本発明で用いられる炭素繊維(C)は、繊維径が通常2μmより大きく15μm以下であり、好ましくは3〜12μm、より好ましくは4〜10μmである。繊維径が2μm以下だと、繊維の剛性が著しく低下する場合あり、15μmを超えると、繊維のアスペクト比(L/D:Lは長さ、Dは太さを表す)が低下し、剛性および耐熱性などの十分な補強効率が十分に得られない場合がある。ここで繊維径は、繊維を繊維方向に垂直に裁断し、その断面を顕微鏡で観察して直径を計測し、100本以上の繊維の直径の平均値を求めたものである。
【0083】
炭素繊維(C)をチョップドカーボンファイバーとして用いる場合、炭素繊維(C)は、繊維長が通常0.01〜20mm、好ましくは0.5〜15mm、より好ましくは1〜10mmである。繊維長が0.01mm未満の場合、アスペクト比が小さく十分な補強効率が得られず、繊維長が20mmを超えると、加工性および外観が著しく悪化してしまう場合がある。
【0084】
本発明の炭素繊維強化プロピレン系複合材料は、サイジング処理した炭素繊維(C)にプロピレン系重合体(A)および変性プロピレン系重合体(B)を含浸させてなるペレットの形態であってもよい。上記ペレットでは、ペレットの長さ方向に長さ4〜50mmの炭素長繊維が同一長さで平行配列していることが望ましい。
【0085】
なお、繊維長はノギスなどを用いて計測し、100本以上の繊維の繊維長の平均値を求めたものである。
また、炭素繊維(C)は炭素繊維基布であってもよい。
【0086】
上記炭素繊維(C)は、本発明の炭素繊維強化プロピレン系複合材料を構成するその他の成分と共に押出機などの溶融混練装置を用いて複合化されるが、溶融混練の際には、炭素繊維(C)成分の過剰な折損を防止するような複合化方法を選択することが望ましい。これを実現するためには、例えば、押出機による溶融混練では、炭素繊維(C)成分以外の成分を十分に溶融混練した後、炭素繊維(C)成分をサイドフィード法などにより、樹脂成分の完全溶融位置よりも川下側の位置からフィードし、繊維の折損を最小限に抑えながら、収束繊維を分散させることが行われる。
【0087】
炭素繊維(C)の使用量は、プロピレン系重合体(A),変性プロピレン系重合体(B)および炭素繊維(C)の合計100重量%中、1〜80重量%、好ましくは2〜60重量%、より好ましくは、5〜40重量%である。
【0088】
〔その他の成分〕
本発明の炭素繊維強化プロピレン系複合材料には、必要に応じて、その他の成分を添加してもよい。その他の成分としては、例えば、耐熱安定剤、耐候安定剤、帯電防止剤、滑材、スリップ材、塩酸吸収剤、分散剤、核剤および難燃剤などが挙げられる。
【0089】
その他の成分の添加量は、プロピレン系重合体(A),変性プロピレン系重合体(B)および炭素繊維(C)の合計100重量部に対して、通常0.01〜10重量部である。
上記その他の成分以外に、炭素繊維強化プロピレン系複合材料の耐衝撃性を向上させる目的でエラストマーを添加してもよい。エラストマーとしては、特に制限は無く、プロピレン・α−オレフィンブロック共重合体、エチレン・α−オレフィンランダム共重合体、エチレン・α−オレフィン・非共役ポリエンランダム共重合体、水素添加プロピレン・α−オレフィンブロック共重合体およびその他の弾性重合体ならびにこれらの混合物などが挙げられる。なお、α−オレフィンとしては、プロピレン系重合体(A)または変性プロピレン系重合体(B)を構成するα−オレフィンとしてすでに述べたものと同様のものが用いられる。これらのα−オレフィンは一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0090】
エラストマーの添加方法としては、例えば、溶融ブレンド法などの物理的ブレンド法が挙げられる。溶融ブレンド法とは、ミキシングロール、バンバリーミキサーまたは一軸もしくは二軸押出機などを用いて加熱し、可塑化させながら機械的に練り合わせる方法をいう。
【0091】
エラストマーがプロピレン・α−オレフィンブロック共重合体またはエチレン・α−オレフィンランダム共重合体である場合、上記物理的ブレンド法以外に、プロピレン・α−オレフィンブロック共重合体を製造する方法でエラストマーを添加してもよい。すなわち、プロピレン・α−オレフィンブロック共重合体の製造は、次の二つの工程(工程1および工程2)を連続的に実施することによって行われる。
【0092】
[工程1]プロピレン、あるいは、プロピレンと、エチレンおよび/または炭素原子数4以上のα−オレフィンとをメタロセン触媒の存在下で(共)重合し、プロピレン単独重合体またはプロピレン・α−オレフィン共重合体を製造する工程。
[工程2]プロピレンと、エチレンおよび/または炭素原子数4以上のα-オレフィンとをメタロセン触媒の存在下で共重合して、工程1よりもエチレンおよび/またはα−オレフィンが多く含まれるプロピレン・α−オレフィン共重合体を製造する工程。
【0093】
エラストマーの添加量は、プロピレン系重合体(A),変性プロピレン系重合体(B)および炭素繊維(C)の合計100重量部に対して、通常0.5〜50重量部、好ましくは1〜40重量部、より好ましくは5〜30重量部である。
【0094】
〔炭素繊維強化プロピレン系複合材料〕
本発明の炭素繊維強化プロピレン系複合材料は、上述のようにして得られたプロピレン系重合体(A)、変性プロピレン系重合体(B)、炭素繊維(C)、およびその他の任意成分を溶融混練することにより製造される。
【0095】
上記炭素繊維強化プロピレン系複合材料は、下記要件(i)から(iv)を満たす。
(i)炭素繊維(C)の使用量が、プロピレン系重合体(A)、変性プロピレン系重合体(B)および炭素繊維(C)の合計100重量%中、1〜80重量%、好ましくは2〜60重量%、より好ましくは、5〜40重量%である。炭素繊維(C)の含有量が1重量%未満であると、炭素繊維(C)による樹脂の強化効果が現れず、80重量%を超えると、炭素繊維強化プロピレン系複合材料の靭性が失われる場合がある。
(ii)メルトフローレート(MFR;230℃、2.16kgf)は0.1〜10g/10min、好ましくは0.5〜10g/10min、より好ましくは1〜10g/10minである。MFRが0.1g/10minよりも低いと、炭素繊維強化プロピレン系複合材料の成形加工性が低下する場合がある。一方、MFRが10g/10minよりも高いと、炭素繊維強化プロピレン系複合材料の靭性が失われる場合がある。
(iii)融点(Tm)が150℃以上170℃以下、好ましくは153℃以上170℃以下、より好ましくは156℃以上170℃以下である。融点が150℃よりも低いと、炭素繊維強化プロピレン系複合材料の耐熱性が低下し、耐熱性が要求される用途には適さない場合がある。
【0096】
(iv)熱キシレンに溶かして加熱濾過し、アセトン中で再析出させた成分のZ平均分子量(Mz)が600,000以下、好ましくは100,000〜600,000、より好ましくは200,000〜600,000である。Z平均分子量(Mz)が600,000よりも大きいと、プロピレン系重合体(A)中に超高分子量成分が存在することになり、炭素繊維(C)の開繊性が悪化する場合があり、Z平均分子量(Mz)が100,000より小さいと、得られる炭素繊維強化プロピレン系複合材料の強度が低下する場合がある。なお、熱キシレンに溶かして加熱濾過し、アセトン中で再析出させた成分の大部分はプロピレン系重合体(A)であると考えられる。
【0097】
ここで、Z平均分子量(Mz)の測定方法を説明する。炭素繊維強化プロピレン系複合材料を沸騰p−キシレン中で30分以上撹拌させた後、熱時濾過して炭素繊維(C)を除去し、濾液を室温下に放冷する。その後アセトンで再析出させて析出物を得る。o−ジクロロベンゼンを溶離液とし、標準ポリスチレン換算のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によりZ平均分子量(Mz)を測定する。
【0098】
<成形体>
本発明の成形体は、上記炭素繊維強化プロピレン系複合材料から得られる。
上記炭素繊維強化プロピレン系複合材料は、良好な機械強度(曲げ強度および引張強度に)を示すことから、本発明の成形体の好適な用途としては、例えば、自動車部品(フロントエンド、ファンシェラウド、クーリングファン、エンジンアンダーカバー、エンジンカバー、ラジエターボックス、サイドドア、バックドアインナー、バックドアアウター、外板、ルーフレール、ドアハンドル、ラゲージボックス、ホイールカバー、ハンドル、クーリングモジュール、エアークリーナー、スポイラー、燃料タンク、プラットフォームおよびサイドメンバ)、二輪自動車・自転車部品(ラゲージボックス、ハンドルおよびホイール)、住宅関連部品(温水洗浄便座部品、浴室部品、椅子の脚、バルブ類およびメーターボックス)、ならびにその他の部品(電動工具部品、草刈り機ハンドル、ホースジョイント、樹脂ボルトおよびコンクリート型枠)に用いられ、特に剛性および耐久性の要求される自動車部品(フロントエンドモジュール(ファンシェラウド、ファンおよびクーリングモジュールを含む)、エアークリーナーおよびドア部品)、バルブ類、医療機器、ロボット用フォーク・フレームおよびICトレイなどが挙げられる。
【実施例】
【0099】
次に本発明を実施例に基づき詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
本発明の実施例および比較例において用いた分析方法は以下の通りである。
【0100】
[m1]メルトフローレート(MFR)
ASTM D1238(230℃、荷重2.16kg)に従って測定した。
[m2]融点(Tm)
示差走査熱量計(DSC、パーキンエルマー社製)を用いて下記の通り測定を行った。ここで、第3stepにおける吸熱ピークを融点(Tm)と定義した。
【0101】
<サンプルシート作製>
サンプルをアルミホイルで挟み、金型(厚さ:0.2mm)を用いて下記条件でプレス成形した。
成形温度:240℃(加熱温度240℃、予熱時間:7分)
プレス圧力:300kg/cm2
プレス時間:1分
プレス成形後、金型を氷水で室温付近まで冷却後、サンプルシートを得た。
【0102】
<測定>
得られたサンプルシートを下記測定容器に約0.4g封入し、下記測定条件でDSC測定を行った。
(測定容器)
アルミ製PAN(DSC PANS 10μl BO―14−3015)
アルミ製COVER(DSC COVER BO14−3003)
(測定条件)
第1step:30℃/分で240℃まで昇温し、10分間保持する
第2step:10℃/分で30℃まで降温する
第3step:10℃/分で240℃まで昇温する。
【0103】
[m3]分子量分布(Mw/Mn)
ウォーターズ社製GPC-150C Plusを用い、以下のようにして試料の分子量分布(Mw/Mn;Mwは重量平均分子量、Mnは数平均分子量)を測定した。
【0104】
分離カラムは、TSKgel GMH6-HTおよびTSK gel GMH6-HTLであり、カラムサイズはそれぞれ内径7.5mm、長さ600mmであり、カラム温度は140℃とし、流速は1.0 ml/minであり、移動相にはo-ジクロロベンゼン(和光純薬工業)および酸化防止剤としてBHT(和光純薬工業)0.025重量%を用い、試料濃度は0.1重量%とし、試料注入量は500μLとし、検出器として示差屈折計を用いた。標準ポリスチレンは、分子量がMw<1000およびMw>4×106のものについては東ソー社製を用い、分子量が1000≦Mw≦4×106のものについてはプレッシャーケミカル社製を用い、汎用較正法によりPPに換算した。なお、PS、PPのMark-Houwink係数はそれぞれ、文献(J. Polym. Sci., Part A-2, 8, 1803 (1970)、Makromol. Chem., 177, 213 (1976))に記載の値を用いた。
【0105】
[m4]o-ジクロロベンゼンに可溶な成分の量
クロス分別クロマトグラフィー(CFC)により、90℃および70℃のo-ジクロロベンゼンに可溶な成分量の測定を行った。
【0106】
クロス分別クロマトグラフ(CFC)装置は、結晶性分別を行う温度上昇溶離分別(TREF)部と、分子量分別を行うGPC部とを備えたものである。この装置を用いて下記条件で測定し、各温度での量を算出した。
測定装置 : CFC T-150A型、三菱油化(株)製、
カラム : Shodex AT-806MS(×3本)
溶離液 : o-ジクロロベンゼン
流速 : 1.0 ml/分
試料濃度 : 0.3 wt%/vol%(0.1% BHT入り)
注入量 : 0.5 ml
溶解性 : 完全溶解
検出器 : 赤外吸光検出法、3.42μ(2924 cm-1)、NaCl板
溶出温度 : 0〜135℃、28フラクション
0、10、20、30、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、94、97、100、103、1
06、109、112、115、118、121、124、127、135 (℃)
【0107】
試料を145℃で2時間加熱して溶解してから、135℃で保持した後、0℃まで10℃/hrで降温、0℃でさらに60分保持して試料をコーティングさせた。昇温溶出カラム容量は0.83 ml、配管容量は0.07mlである。検出器はFOXBORO社製赤外分光器MIRAN 1A CVF型(CaF2セル)を用い、応答時間10秒の吸光度モードの設定で、3.42μm(2924cm-1)の赤外光を検知した。溶出温度は0〜135℃までを28フラクションに分けた。温度表示は全て整数であり、例えば94℃の溶出画分とは、91〜94℃で溶出した成分のことを示す。0℃でもコーティングされなかった成分および各温度で溶出したフラクションの分子量を測定し、汎用較正曲線を使用して、標準ポリプロピレン換算分子量を求めた。SEC温度は135℃であり、内標注入量は0.5mlであり、注入位置は3.0mlであり、データサンプリング時間は0.50秒である。データ処理は、装置付属の解析プログラム「CFCデータ処理(バージョン1.50)」で実施した。
【0108】
[m5]グラフト量
変性プロピレン樹脂(B)を約2g採取し、500mlの沸騰p-キシレンに完全に加熱溶解した。変性プロピレン樹脂(B)が溶解したp-キシレン溶液を2Lビーカーに移して、23℃雰囲気下で約1時間放冷させた。その後、1200mlのアセトンを加えて、撹拌しながらポリマーを析出させた。析出物を濾過、乾燥して未グラフト分を除去した変性プロピレン樹脂(B)の精製物を得た。この精製物から作製したプレスフィルムのFT−IRを測定し、1790cm-1と974cm-1のピーク強度比により、変性プロピレン樹脂(B)中にグラフトした無水マレイン酸量をwt%換算で算出した。
【0109】
[m6]塩素量
プロピレン系重合体(F)0.8gを三菱化成社製燃焼装置を用いてアルゴン/酸素気流下、400〜900℃で燃焼した後、燃焼ガスを超純水で捕集し濃縮後の試料液を、日本ダイオネック(株)DIONEX-DX300型イオンクロマト測定装置で陰イオンカラムAS4A-SC(ダイオネッス社製)を用いて測定した。
【0110】
[m7]プロピレン重合体中の二重結合構造
図1に示す二重結合構造は、H−NMRを用いて、Polymer, 45, 2883-2888 (2004)に記載された方法に従って、炭素原子数1000個(1000C)当たりの個数として解析した。
【0111】
[m8]プロピレン系重合体(F)中のプロピレンの2,1−挿入および1,3−挿入の含有量の測定
特開平7−145212号公報に記載された方法に従って、炭素核磁気共鳴分析(13C-NMR)により、プロピレンの2,1−挿入および1,3−挿入の含有量を測定した。
【0112】
[m9]金属分析
試料を清浄な容器で精秤し、超高純度の硝酸と共にマイクロウェーブ分解法にて処理した。この分解液中のTiおよびZrをICP−MS装置(アジレント・テクノロジー(株)HP−4500)を用いて定量した。
【0113】
[m10]熱キシレンによる炭素繊維加熱濾過処理
炭素繊維強化プロピレン系複合材料を約1g採取し、70mlの沸騰p−キシレンに30分以上撹拌させた。この加熱p−キシレン溶液を濾過し、濾液を23℃雰囲気下で約1時間放冷させた。その後、400mlのアセトンを濾液に加えて、撹拌しながらポリマーを析出させた。析出物を濾過、乾燥して炭素繊維加熱濾過処理後の残成分を採取した。
【0114】
[m11]曲げ試験
JIS K7171に従って、曲げ強度および曲げ弾性率を測定した。
<測定条件>
試験片 :10mm(幅)×4mm(厚さ)×80mm(長さ)
曲げ速度:2mm/分
曲げスパン:64mm
【0115】
[製造例1]
(1)固体触媒担体の製造
内容量30Lの撹拌機付き反応槽にトルエン17LとSiO2(AGCエスアイテック製サンスフェアH122)650gを入れ、スラリー化した。次に、槽内温度45℃に保ち、トリイソブチルアルミニウムトルエン溶液をトリイソブチルアルミ量として、64g装入し、15分間撹拌した。槽内温度50℃に保ち、MAO−トルエン溶液(20wt%溶液)2.2Lを約30分かけて導入し、30分間撹拌した。1時間で95℃に昇温し、4時間反応を行った。反応終了後、60℃まで冷却した。冷却後、上澄みトルエンを抜き出し、フレッシュなトルエンで、置換率が95%になるまで、置換を行った。
【0116】
(2)固体触媒の製造(担体への金属触媒成分の担持)
内容量14Lの撹拌機付き反応槽に(1)で調製したMAO/SiO2/トルエンスラリー7.9L(固体成分として1030g)を入れ、撹拌しながら温度を30〜35℃に保った。グローブボックス内にて、1Lフラスコに[3-(1’,1’,4’,4’,7’,7’,10’,10’-オクタメチルオクタヒドロジベンゾ[b,h]フルオレニル)(1,1,3-トリメチル-5-tert-ブチル-1,2,3,3a-テトラヒドロペンタレン)]ジルコニウムジクロライドを15.5g秤取した。フラスコを外へ出し、トルエン0.5リットルで希釈後、反応槽に加え、反応槽内液量を10Lになるまでトルエンを加えた。60分間撹拌し担持を行った。得られた[3-(1’,1’,4’,4’,7’,7’,10’,10’-オクタメチルオクタヒドロジベンゾ[b,h]フルオレニル)(1,1,3-トリメチル-5-tert-ブチル-1,2,3,3a-テトラヒドロペンタレン)]ジルコニウムジクロライド/MAO/SiO2/トルエンスラリーは、室温まで冷却した後、n−ヘプタンにて92%置換を行い、最終的なスラリー量を10Lとした。
【0117】
(3)前重合触媒の製造
前記の(2)で調製した固体触媒成分1045gをあらかじめn−ヘプタン18Lを入れておいた内容量200Lの撹拌機付きオートクレーブに移液し、内温15〜20℃に保ち、トリイソブチルアルミニウム557gを入れ、n−ヘプタンにて液量を62Lに調整した。撹拌しながら、30〜35℃に保ち、エチレンを630g/hで3135g装入し、300分間撹拌しながら反応させた。重合終了後、固体成分を沈降させ、上澄み液の除去およびヘプタンによる洗浄を2回行った。得られた前重合触媒を精製ヘプタンに再懸濁して、固体触媒成分濃度で8g/Lとなるよう、ヘプタンにより調整を行った。この前重合触媒は固体触媒成分1g当たりポリエチレンを3g含んでいた。
【0118】
(4)本重合
内容量100Lの撹拌機付きベッセル重合器にプロピレンを119kg/時間、水素を気相部の水素濃度が0.14mol%になるように供給した。製造例1(3)で製造した触媒スラリーを固体触媒成分として11.4g/時間、トリエチルアルミニウム8.7ml/時間を連続的に供給した。重合温度70℃、圧力は3.0MPa/Gであった。
得られたスラリーは内容量1000Lの撹拌機付きベッセル重合器へ送り、さらに重合を行った。重合器へは、プロピレンを17kg/時間、水素を気相部の水素濃度が0.17mol%になるように供給した。重合温度69℃、圧力2.9MPa/Gで重合を行った。
【0119】
得られたスラリーは内容量500Lの撹拌機付きベッセル重合器へ送り、さらに重合を行った。重合器へは、プロピレンを8kg/時間、水素を気相部の水素濃度が0.17mol%になるように供給した。重合温度68℃、圧力2.9MPa/Gで重合を行った。
【0120】
得られたスラリーは内容量500Lの撹拌機付きベッセル重合器へ送り、さらに重合を行った。重合器へは、プロピレンを7kg/時間、水素を気相部の水素濃度が0.17mol%になるように供給した。重合温度67℃、圧力2.8MPa/Gで重合を行った。
【0121】
得られたスラリーは内容量500Lの撹拌機付きベッセル重合器へ送り、さらに重合を行った。重合器へは、プロピレンを7kg/時間、水素を気相部の水素濃度が0.17mol%になるように供給した。重合温度66℃、圧力2.8MPa/Gで重合を行った。
【0122】
得られたスラリーを気化後、気固分離を行い、プロピレン系重合体(A−1)を得た。プロピレン系重合体(A−1)は、70kg/hで得られた。プロピレン系重合体(A−1)は、80℃で真空乾燥を行った。
プロピレン系重合体(A−1)の物性を表1に示す。
【0123】
[製造例2]
(1)〜(3)は製造例1と同様の方法で行った。
(4)本重合
内容量100Lの撹拌機付きベッセル重合器にプロピレンを119kg/時間、水素を気相部の水素濃度が0.20mol%になるように供給した。製造例1(3)で製造した触媒スラリーを固体触媒成分として8.1g/時間、トリエチルアルミニウム8.7ml/時間を連続的に供給した。重合温度70℃、圧力は3.0MPa/Gであった。
得られたスラリーは内容量1000Lの撹拌機付きベッセル重合器へ送り、さらに重合を行った。重合器へは、プロピレンを17kg/時間、水素を気相部の水素濃度が0.24mol%になるように供給した。重合温度69℃、圧力2.9MPa/Gで重合を行った。
【0124】
得られたスラリーは内容量500Lの撹拌機付きベッセル重合器へ送り、さらに重合を行った。重合器へは、プロピレンを8kg/時間、水素を気相部の水素濃度が0.24mol%になるように供給した。重合温度68℃、圧力2.9MPa/Gで重合を行った。
【0125】
得られたスラリーは内容量500Lの撹拌機付きベッセル重合器へ送り、さらに重合を行った。重合器へは、プロピレンを7kg/時間、水素を気相部の水素濃度が0.24mol%になるように供給した。重合温度67℃、圧力2.8MPa/Gで重合を行った。
【0126】
得られたスラリーは内容量500Lの撹拌機付きベッセル重合器へ送り、さらに重合を行った。重合器へは、プロピレンを7kg/時間、水素を気相部の水素濃度が0.24mol%になるように供給した。重合温度66℃、圧力2.8MPa/Gで重合を行った。
【0127】
得られたスラリーを気化後、気固分離を行い、プロピレン系重合体(A−2)を得た。プロピレン系重合体(A−2)は、70kg/hで得られた。プロピレン系重合体(A−2)は、80℃で真空乾燥を行った。
プロピレン系重合体(A−2)の物性を表1に示す。
【0128】
[製造例3]
(1)固体状チタン触媒成分の調製
無水塩化マグネシウム952g、デカン4420mlおよび2−エチルヘキシルアルコール3906gを、130℃で2時間加熱して均一溶液とした。この溶液中に無水フタル酸213gを添加し、130℃にてさらに1時間撹拌混合を行って無水フタル酸を溶解させた。
【0129】
このようにして得られた均一溶液を23℃まで冷却した後、この均一溶液の750mlを、−20℃に保持された四塩化チタン2000ml中に1時間にわたって滴下した。滴下後、得られた混合液の温度を4時間かけて110℃に昇温し、110℃に達したところでフタル酸ジイソブチル(DIBP)52.2gを添加し、これより2時間撹拌しながら同温度に保持した。次いで熱時濾過にて固体部を採取し、この固体部を2750mlの四塩化チタンに再懸濁させた後、再び110℃で2時間加熱した。
【0130】
加熱終了後、再び熱濾過にて固体部を採取し、110℃のデカンおよびヘキサンを用いて、洗浄液中にチタン化合物が検出されなくなるまで洗浄した。
上記の様に調製された固体状チタン触媒成分はヘキサンスラリーとして保存されるが、このうち一部を乾燥して触媒組成を調べた。固体状チタン触媒成分は、チタンを2重量%、塩素を57重量%、マグネシウムを21重量%およびDIBPを20重量%の量で含有していた。
【0131】
(2)前重合触媒の製造
遷移金属触媒成分180g、トリエチルアルミニウム30.9mL、ヘプタン120Lを内容量200Lの撹拌機付きオートクレーブに装入し、内温5℃に保ちプロピレンを1080g装入し、60分間撹拌しながら反応させた。重合終了後、固体成分を沈降させ、上澄み液の除去およびヘプタンによる洗浄を2回行った。得られた前重合触媒を精製ヘプタンに再懸濁して、遷移金属触媒成分濃度で1.5g/Lとなるよう、ヘプタンにより調整を行った。この前重合触媒は遷移金属触媒成分1g当たり、ポリプロピレンを6g含んでいた。
【0132】
(3)本重合
内容量100Lの撹拌機付きベッセル重合器にプロピレンを110kg/時間、水素を気相部の水素濃度が1.1mol%になるように供給した。製造例3(2)で製造した触媒スラリーを固体触媒成分として2.0g/時間、トリエチルアルミニウム5.8ml/時間、シクロヘキシルメチルジメトキシシラン3.3ml/時間を連続的に供給した。重合温度73℃、圧力は3.2MPa/Gであった。
【0133】
得られたスラリーは内容量1000Lの撹拌機付きベッセル重合器へ送り、さらに重合を行った。重合器へは、プロピレンを30kg/時間、水素を気相部の水素濃度が1.5mol%になるように供給した。重合温度71℃、圧力3.1MPa/Gで重合を行った。
【0134】
得られたスラリーは内容量500Lの撹拌機付きベッセル重合器へ送り、さらに重合を行った。重合器へは、プロピレンを45kg/時間、水素を気相部の水素濃度が1.5mol%になるように供給した。重合温度69℃、圧力3.0MPa/Gで重合を行った。
【0135】
得られたスラリーを気化後、気固分離を行い、プロピレン系重合体(H−1)を得た。プロピレン系重合体は、70kg/hで得られた。プロピレン系重合体(H−1)は、80℃で真空乾燥を行った。
プロピレン系重合体(H−1)の物性を表1に示す。
【0136】
[製造例4]
(1)〜(2)は製造例3と同様の方法で行った。
(3)本重合
内容量100Lの撹拌機付きベッセル重合器にプロピレンを110kg/時間、水素を気相部の水素濃度が1.1mol%になるように供給した。製造例3(2)で製造した触媒スラリーを固体触媒成分として2.0g/時間、トリエチルアルミニウム5.8ml/時間、シクロヘキシルメチルジメトキシシラン3.3ml/時間を連続的に供給した。重合温度73℃、圧力は3.2MPa/Gであった。
【0137】
得られたスラリーは内容量1000Lの撹拌機付きベッセル重合器へ送り、さらに重合を行った。重合器へは、プロピレンを30kg/時間、水素を気相部の水素濃度が1.5mol%になるように供給した。重合温度71℃、圧力3.1MPa/Gで重合を行った。
【0138】
得られたスラリーは内容量500Lの撹拌機付きベッセル重合器へ送り、さらに重合を行った。重合器へは、プロピレンを45kg/時間、水素を気相部の水素濃度が1.5mol%になるように供給した。重合温度69℃、圧力3.0MPa/Gで重合を行った。
【0139】
得られたスラリーを気化後、気固分離を行い、プロピレン系重合体(H−2)を得た。プロピレン系重合体(H−2)は、70kg/hで得られた。プロピレン系重合体(H−2)は、80℃で真空乾燥を行った。
プロピレン系重合体(H−2)の物性を表1に示す。
【0140】
【表1】

[製造例5]
(1)固体触媒担体の製造
1L枝付フラスコにSiO2300gをサンプリングし、トルエン800mLを入れ、スラリー化した。次に5L4つ口フラスコへ移液をし、トルエン260mLを加えた。メチルアルミノキサン(以下、MAO)−トルエン溶液(10wt%溶液)を2830mL導入した。室温のままで、30分間撹拌した。1時間で110℃に昇温し、4時間反応を行った。反応終了後、室温まで冷却した。冷却後、上澄みトルエンを抜き出し、フレッシュなトルエンで置換率が95%になるまで置換した。
【0141】
(2)固体触媒の製造(担体への金属触媒成分の担持)
グローブボックス内にて、5L4つ口フラスコにイソプロピル(3−t−ブチル−5−メチルシクロペンタジエニル)(3、6−ジ−t−ブチルフルオレニル)ジルコニウムジクロリドを2.0g秤取した。フラスコを外へ出し、トルエン0.46リットルと(1)で調製したMAO/SiO2/トルエンスラリー1.4リットルを窒素下で加え、30分間撹拌し担持を行った。得られたイソプロピル(3−t−ブチル−5−メチルシクロペンタジエニル)(3、6−ジ−t−ブチルフルオレニル)ジルコニウムジクロリド/MAO/SiO2/トルエンスラリーはn-ヘプタンにて99%置換を行い、最終的なスラリー量を4.5リットルとした。この操作は、室温で行った。
【0142】
(3)前重合触媒の製造
前記の(2)で調製した固体触媒成分404g、トリエチルアルミニウム218mL、ヘプタン100Lを内容量200Lの撹拌機付きオートクレーブに装入し、内温15〜20℃に保ちエチレンを1212g装入し、180分間撹拌しながら反応させた。重合終了後、固体成分を沈降させ、上澄み液の除去およびヘプタンによる洗浄を2回行った。得られた前重合触媒を精製ヘプタンに再懸濁して、固体触媒成分濃度で6g/Lとなるよう、ヘプタンにより調整を行った。この前重合触媒は固体触媒成分1g当たりポリエチレンを3g含んでいた。
【0143】
(4)本重合
内容量58Lのジャケット付循環式管状重合器にプロピレンを35kg/時間、水素を2.5NL/時間、(3)で製造した触媒スラリーを固体触媒成分として42g/時間、トリエチルアルミニウム8.0ml/時間を連続的に供給し、気相の存在しない満液の状態にて重合した。管状重合器の温度は30℃であり、圧力は3.1MPa/Gであった。得られたスラリーは内容量1000Lの撹拌機付きベッセル重合器へ送り、さらに重合を行った。重合器へは、プロピレンを65kg/時間、水素を気相部の水素濃度が0.05mol%になるように供給した。重合温度70℃、圧力3.0MPa/Gで重合を行った。
【0144】
得られたスラリーは内容量500Lの撹拌機付きベッセル重合器へ送り、さらに重合を行った。重合器へは、プロピレンを15kg/時間、水素を気相部の水素濃度が0.05mol%になるように供給した。重合温度68℃、圧力2.9MPa/Gで重合を行った。得られたプロピレン単独重合体(F−1)は、80℃で真空乾燥を行った。
プロピレン単独重合体(F−1)の物性を表2に示す。
【0145】
[製造例6]
(1)前重合触媒の製造
内容量20Lの撹拌機付きベッセル重合器に精製ヘプタン14L、ジエチルアルミニウムクロライド490gを加え市販のSolvay型三塩化チタン触媒(東ソー・ファインケム社製)70gを加えた。内温を20℃に保持し、プロピレンを連続的に装入し、80分間反応した。重合終了後、固体成分を沈降させ、上澄み液の除去およびヘプタンによる洗浄を2回行った。得られた前重合触媒を精製ヘプタンに再懸濁して、固体触媒成分濃度で10g/Lとなるよう、ヘプタンにより調整を行った。この前重合触媒は固体触媒成分1g当たりポリプロピレンを3g含んでいた。
【0146】
(2)本重合
内容量275Lの撹拌機付きベッセル重合器に、精製ヘプタン120L、ジエチルアルミニウムクロライド210gを加え、(1)で調製した固体触媒成分として30gを装入した。重合温度60℃、重合圧力0.68MPa/Gに保ち、プロピレンを4時間連続フィードした。水素は、気相部の水素濃度が0.07mol%となるように供給した。
【0147】
得られたポリプロピレンスラリーを内容量500Lの撹拌機付きオートクレーブに全量移液し、メタノールを201g装入し、触媒の脱活を行った。このスラリーを撹拌機付きろ過乾燥機に移液し、ろ過を行った後、85℃、6時間真空乾燥し、プロピレン単独重合体(F'−1)を得た。
プロピレン単独重合体(F'−1)の物性を表2に示す。
【0148】
【表2】

[製造例7]
製造例5で製造したプロピレン単独重合体(F−1)100重量部に対して、エチレン性不飽和結合含有モノマーとして無水マレイン酸(試薬特級、和光純薬(株)製)2.0重量部、有機過酸化物としてt−ブチルペルオキシベンゾエート(パーブチルZ(商標)、日油(株)製)2.0重量部、熱安定剤IRGANOX1010(チバガイギー(株)商標)0.1重量部、熱安定剤ヨシノックスBHT(吉富ファインケミカル(株)商標)0.1重量部を配合し、ヘンシェルミキサーで3分間ブレンドした。このブレンド物を二軸押出機にて下記の条件で溶融混練して、グラフト反応を行った。反応終了後、造粒して変性プロピレン系重合体(B−1)を得た。
変性プロピレン系重合体(B−1)の物性、グラフト量および70℃のo−ジクロロベンゼンに可溶な成分量を表3に示す。
【0149】
<溶融混練条件>
同方向二軸混練機 : 品番 KZW31−30HG、(株)テクノベル製
混練温度 : 210℃
スクリュー回転数 : 200rpm
フィーダー回転数 : 80rpm
【0150】
[製造例8]
製造例7において、プロピレン単独重合体(F−1)を製造例6で得られたプロピレン単独重合体(F’−1)に変更した以外は、製造例7と同様に行った。
【0151】
変性プロピレン系重合体(B’−1)の物性、グラフト量および70℃のo−ジクロロベンゼンに可溶な成分量を表3に示す。
【0152】
【表3】

[実施例1]
製造例2で製造されたプロピレン単独重合体(A−2)60重部、製造例7で製造された無水マレイン酸変性PP(B−1)20重量部、チョップドファイバー炭素繊維(C−1)(エポキシ樹脂サイジング)(HTA−C6−SR(商標)、東邦テナックス(株)製)20量部、熱安定剤IRGANOX1010(商標、チバガイギー(株))0.1重量部、熱安定剤IRGAFOS168(商標、チバガイギー(株))0.1重量部およびステアリン酸カルシウム0.1重量部をタンブラーにて混合後、単軸押出機にて下記条件で溶融混練してペレット状の炭素繊維強化プロピレン系複合材料を調製した。得られた炭素繊維強化プロピレン系複合材料を射出成形機[品番 EC40、東芝機械(株)製]にて下記条件で成形品を得た。
成形品の物性を表4に示す。
【0153】
<溶融混練条件>
単軸混練機 : 品番 ラボプラストミル10M100、東洋精機(株)製
混練温度 : 220℃
スクリュー回転数 : 60rpm
ペレット長 : 5mm程度
<射出成形条件>
射出成形機:品番 EC40、東芝機械(株)製
シリンダー温度:210℃
金型温度:40℃
【0154】
[実施例2]
プロピレン単独重合体(A−2)65重量部、無水マレイン酸変性プロピレン系重合体(B−1)15重量部、チョップドファイバー炭素繊維(C−1)(エポキシ樹脂サイジング)(HTA−C6−SR(商標)、東邦テナックス(株)製)20重量部、熱安定剤IRGANOX1010(商標、チバガイギー(株))0.1重量部、熱安定剤IRGAFOS168(商標、チバガイギー(株))0.1重量部およびステアリン酸カルシウム0.1重量部をタンブラーにて混合後、実施例1と同様に単軸押出機で溶融混練してペレット状の炭素繊維強化プロピレン系複合材料を調製し、射出成形機にて成形品を得た。
成形品の物性を表4に示す。
【0155】
[比較例1]
実施例1において、無水マレイン酸変性プロピレン系重合体(B−1)20重量部の代わりに、製造例8で製造された無水マレイン酸変性プロピレン系重合体(B’−1)20重量部を使用した以外は、実施例1と同様に行った。
成形品の物性を表4に示す。
【0156】
[比較例2]
製造例4で製造されたプロピレン単独重合体(H−2)60重量部、無水マレイン酸変性プロピレン系重合体(B’−1)20重量部、チョップドファイバー炭素繊維(C−1)(エポキシ樹脂サイジング)(HTA−C6−SR(商標)、東邦テナックス(株)製)20重量部、熱安定剤IRGANOX1010(商標、チバガイギー(株))0.1重量部、熱安定剤IRGAFOS168(商標、チバガイギー(株))0.1重量部およびステアリン酸カルシウム0.1重量部をタンブラーにて混合後、実施例1と同様に単軸押出機で溶融混練してペレット状の複合材料を調製し、射出成形機にて成形品を得た。
成形品の物性を表4に示す。
【0157】
【表4】

[実施例3]
製造例1で製造されたプロピレン単独重合体(A−1)90重量部、無水マレイン酸変性プロピレン系重合体(B−1)5重量部、チョップドファイバー炭素繊維(C−1)(エポキシ樹脂サイジング)(HTA−C6−SR(商標)、東邦テナックス(株)製)5重量部、熱安定剤IRGANOX1010(商標、チバガイギー(株))0.1重量部、熱安定剤IRGAFOS168(商標、チバガイギー(株))0.1重量部およびステアリン酸カルシウム0.1重量部をタンブラーにて混合後、実施例1と同様に単軸押出機で溶融混練してペレット状の炭素繊維強化プロピレン系複合材料を調製し、射出成形機にて成形品を得た。
成形品の物性を表5に示す。
【0158】
[比較例3]
実施例3において、プロピレン単独重合体(A−1)90重量部の代わりに、製造例3で製造されたプロピレン単独重合体(H−1)90重量部を使用した以外は、実施例3と同様に行った。
成形品の物性を表5に示す。
【0159】
[比較例4]
プロピレン単独重合体(H−1)90重量部、無水マレイン酸変性プロピレン系重合体(B’−1)5重量部、チョップドファイバー炭素繊維(C−1)(エポキシ樹脂サイジング)(HTA−C6−SR(商標)、東邦テナックス(株)製)5重量部、熱安定剤IRGANOX1010(商標、チバガイギー(株))0.1重量部、熱安定剤IRGAFOS168(商標、チバガイギー(株))0.1重量部およびステアリン酸カルシウム0.1重量部をタンブラーにて混合後、実施例1と同様に単軸押出機で溶融混練してペレット状の複合材料を調製し、射出成形機にて成形品を得た。
成形品の物性を表5に示す。
【0160】
【表5】

【産業上の利用可能性】
【0161】
本発明の炭素繊維強化プロピレン系複合材料およびそれから得られる成形体は、良好な機械強度(曲げ強度および曲げ弾性率)を示すため、軽量性および成形性に優れた各種構造部材などに好適である。特にフェンダーおよびドアパネルなどの自動車外板に使用した場合、自動車車体の軽量化による省エネルギー化を図ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタロセン触媒の存在下で製造されたプロピレン系重合体(A)と、
メタロセン触媒の存在下で製造されたプロピレン系重合体(F)をエチレン性不飽和結合含有モノマーでグラフト変性して得られた変性プロピレン系重合体(B)と、
表面処理された炭素繊維(C)と
から形成され、下記要件(i)から(iv)を満たすことを特徴とする炭素繊維強化プロピレン系複合材料。
(i)該炭素繊維(C)の使用量が、プロピレン系重合体(A)、変性プロピレン樹脂(B)および炭素繊維(C)の合計100重量%中、1〜80重量%である。
(ii)メルトフローレート(MFR;230℃、2.16kgf)が0.1〜10g/minの範囲である。
(iii)融点(Tm)が150℃以上である。
(iv)熱キシレンに溶かして加熱濾過し、アセトン中で再析出させた成分のZ平均分子量(Mz)が600,000以下である。
【請求項2】
前記変性プロピレン系樹脂(B)が、下記要件(b−1)から(b−4)を満たすことを特徴とする請求項1に記載の炭素繊維強化プロピレン系複合材料。
(b−1)融点(Tm)が135〜170℃である。
(b−2)グラフト量が1〜5重量%である。
(b−3)極限粘度[η]が0.2〜4dl/gである。
(b−4)70℃のo−ジクロロベンゼンに可溶な成分量が3重量%以下である。
【請求項3】
さらに下記要件(v)を満たすことを特徴とする請求項1または2に記載の炭素繊維強化プロピレン系複合材料。
(v)変性プロピレン樹脂(B)の使用量が、プロピレン系重合体(A)および変性プロピレン樹脂(B)の合計100重量%中、0.5〜40重量%である。
【請求項4】
前記プロピレン系重合体(A)が下記要件(a−1)から(a−4)を満たすことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の炭素繊維強化プロピレン系複合材料。
(a−1)メルトフローレート(MFR;230℃、2.16kgf)が3〜30g/10minである。
(a−2)分子量分布(Mw/Mn)が3.5未満である。
(a−3)90℃のo−ジクロロベンゼンに可溶な成分の量が1重量%以下である。
(a−4)融点(Tm)が150〜170℃である。
【請求項5】
前記変性プロピレン樹脂(B)が、カルボキシル基、酸無水物基またはこれらの誘導体を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の炭素繊維強化プロピレン系複合材料。
【請求項6】
前記表面処理が、エポキシ系ポリマー、ナイロン系ポリマーまたはウレタン系ポリマーを用いたサイジング処理であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の炭素繊維強化プロピレン系複合材料。
【請求項7】
前記炭素繊維(C)が、炭素繊維基布であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の炭素繊維強化プロピレン系複合材料。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の炭素繊維強化プロピレン系複合材料を成形して得られる成形体。

【公開番号】特開2011−16911(P2011−16911A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−162078(P2009−162078)
【出願日】平成21年7月8日(2009.7.8)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【出願人】(505130112)株式会社プライムポリマー (180)
【Fターム(参考)】