説明

炭素繊維束の製造方法

【課題】ラージトウでありながらも品質の良い炭素繊維束を、生産性良く製造可能な炭素繊維束の製造方法を提供する。
【解決手段】フィラメント数が49,000以上であるアクリロニトリル系前駆体繊維束を焼成する工程において、繊維束の終末端と、もう一つ別な繊維束の先頭端を予め、前耐炎化処理として密度1.30g/cm3以上にした上で接続し、その結部から後ろのある領域を、繊維束断面形状を幅/厚み比で30〜120となるように規定された扁平トウ形状とし、さらに、並列して焼成せられる該規定された繊維束を少なくとも3本を、フィラメント間の、フックドロップ法による交絡度が1m-1〜10m-1の範囲となるように交絡させて一体集合化することで、その接続領域より後方に位置するそれぞれのアクリロニトリル系前駆体繊維束に撚りの混入がない状態にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は炭素繊維束の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維は、アクリロニトリル系前駆体繊維束を200〜300℃の酸化性雰囲気中で加熱処理する耐炎化工程によって耐炎化繊維にした後、引き続いて1,000℃以上の不活性雰囲気中で加熱処理する炭素化工程によって製造するのが一般的である。このようにして得られた炭素繊維は、その優れた力学的性質により、航空宇宙用途を始め、スポーツ・レジャー用途等の高性能複合材料の補強繊維素材として広く利用されている。又、近年では自動車・船舶、建材用途等、一般産業分野への用途要求が増加している。
【0003】
しかしながら従来のスモールトウ(総繊度21,000dtex未満)の炭素繊維は物性、品質的には優れているが、価格が高いために、コストを重視する産業用途分野での多様化は十分に実現できていない状況であった。一方、太物トウであるラージトウ炭素繊維は、価格は低く設定されているものの、性能、品質の面から、やはり産業用途分野での使用は限定されるものであった。従って、高品質と低価格が両立する炭素繊維は多くの市場で望まれているものである。
【0004】
ところで、炭素繊維束の製造コストに占める割合が大きいのは、製造工程中の処理時間の最も長い耐炎化工程であり、低コスト化のためにはその生産性の向上が必要である。しかし、耐炎化工程においてはアクリロニトリル系前駆体繊維束の酸化反応による激しい発熱を伴うために、アクリロニトリル系前駆体繊維束内部に畜熱し処理温度に対し、該アクリロニトリル系前駆体繊維束内部の温度が極端に高くなりスモーク等が発生しやすくなる。そのために、耐炎化処理温度を下げて生産を行わなければならず、十分に耐炎化の進行した耐炎化繊維束を得るのに時間を要するという問題があった。又、ラージトウではスモールトウよりも蓄熱が多くなるために耐炎化工程中に撚りが混入すると糸切れ、スモーク等が発生しやすくなり生産性が大幅に低下する問題があった。
【0005】
また、一般にアクリロニトリル系前駆体繊維束は、ボビン等に巻き上げられた形態、或いは箱の中に折りたたみ積層された形態で供給されている。したがってこれらのアクリロニトリル系前駆体繊維束を耐炎化工程と炭素化工程とからなる焼成工程に連続的に移して炭素繊維束にするためには、上記の形態にあるアクリロニトリル系前駆体繊維束の終末端と次に焼成されるアクリロニトリル系前駆体繊維束の先頭端を接続させる必要がある。しかしながら、単に結んで形成した接合部は耐炎化工程での蓄熱が著しく、糸切れ、スモーク等のトラブルの原因となる。このような問題点を解決すべく、種々の検討がなされている。
【0006】
特許文献1には、アクリロニトリル系前駆体繊維束の終末端と次に焼成されるアクリロニトリル系前駆体繊維束の先頭端を高速流体処理により結合する方法が記載されている。しかし、接続部の糸条密度が繊維束自身の糸条密度よりも相当高くなるため、未だ耐炎化工程での蓄熱が著しく、焼損、糸切れなどが発生しやすい。
【0007】
特許文献2には、耐炎化温度において非発熱性である接続媒体を介して、単糸レベルの結合により接続する方法が記載されている。しかし、この方法でラージトウを製造すると、特に接続部付近で撚りが発生しやすく、その撚りによる糸切れが発生する傾向がみられる。
【特許文献1】特開昭58−208420号公報
【特許文献2】特開平10−226918号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、本発明が解決しようとする課題は、従来技術における問題点を解決し、ラージトウでありながらも品質の良い炭素繊維束を、生産性良く製造可能な炭素繊維の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する本発明の炭素繊維の製造方法は、
フィラメント数が49,000以上であるアクリロニトリル系前駆体繊維束を焼成する工程において、
(a)繊維束の終末端と、もう一つ別な繊維束の先頭端を予め、前耐炎化処理として密度1.30g/cm3以上にする工程と、
(b)前記繊維束の終末端と、前記もう一つ別な繊維束の先頭端を接続する工程と、
(c)前記接続された結部から後ろのある領域を、繊維束断面形状を幅/厚み比で30〜120となるように規定された扁平トウ形状とし、さらに、並列して焼成せられる該規定された繊維束を少なくとも3本を、トウ間の、フックドロップ法による交絡度が1m-1〜10m-1の範囲となるように交絡させて一体集合化する工程と
により形成された接続領域により、その接続領域より後方に位置するそれぞれのアクリロニトリル系前駆体繊維束に撚りの混入がない状態にして、繊維束を酸化性雰囲気中200〜300℃で耐炎化処理し、さらに前記耐炎化処理された繊維束を、不活性雰囲気中1,000℃以上で炭素化処理することを特徴とする炭素繊維束の製造方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ラージトウでありながらも品質の良い炭素繊維束を、生産性良く製造可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明では、フィラメント数が49,000以上であるアクリロニトリル系前駆体繊維束から、炭素繊維束を製造する。フィラメント数を49,000以上とすることで、生産性が向上できる。フィラメント数は多くても特に問題はないが、紡糸工程や耐炎化工程等の制約から150,000以下が好ましい。
【0012】
一般に、炭素繊維束製造用のアクリロニトリル系前駆体繊維束を製造する工程の速度と、アクリロニトリル系前駆体繊維束を焼成(耐炎化及び炭素化)して炭素繊維束にする工程の速度とは大幅に異なる。そのために、アクリロニトリル系前駆体繊維束は一旦ボビンに巻き上げられた状態、または、箱の中に折りたたみ積層されて収容された状態(ケンス収容という)で、耐炎化処理する工程へと供給される。
【0013】
まず、アクリロニトリル系前駆体繊維束の先頭端と、もう一つの繊維束の終末端を前耐炎化処理し密度1.30g/cm3以上にする(工程(a))。前耐炎化処理についての格別の制限はなく、例えば、空気、オゾン、その他の酸化性雰囲気中で200℃から300℃程度の加熱処理を行うことにより、密度が1.30g/cm3以上に前耐炎化処理された先頭端と終末端にすれば良い。
【0014】
次に、密度1.30g/cm3以上に前耐炎化処理されたアクリロニトリル系前駆体繊維束の終末端と、もう一つの繊維束の先頭端を接続する(工程(b))。前耐炎化処理されたもの同士を接続することにより、このアクリロニトリル系前駆体繊維束を焼成して炭素繊維束にするときの耐炎化工程での蓄熱を効果的に抑制できる。一方、密度1.30g/cm3未満の場合は、耐炎化工程での蓄熱を抑制する効果が低下するため、この接続部での糸切れ、スモーク等のトラブルが発生しやすい。
【0015】
ここで、この接続方法は、例えば単に先頭端と終末端とを結ぶ方法、高速流体処理により結合する方法(特許文献1参照)、耐炎化温度において非発熱性である接続媒体を介して単糸レベルの結合により接続する方法(特許文献1参照)等により行うことができる。
【0016】
ただし、一般にはこの接続の際に撚りが混入しやすくまた接続部が焼成工程を通過する際にも撚りが混入しやすくなる。この撚りが混入した状態で耐炎化処理を行うと、糸切れ、スモーク等が起こりやすくなるばかりか、後の高次加工においても繊維束幅が不均一となり性能、品質の低下を来す恐れがある。
【0017】
次に、前記接続された結部から後ろのある領域を、繊維束断面形状を幅/厚み比で30〜120となるように規定された扁平トウ形状とし、さらに、並列して焼成せられる該規定された繊維束を少なくとも3本を、フィラメント間の、フックドロップ法による交絡度が1m-1〜10m-1の範囲となるように交絡させて一体集合化する(工程(c))。
【0018】
ここで、扁平トウ形態とは、走行する繊維束のトウ厚みをA、繊維束のトウ幅をBとしたとき、B/Aで算出される値を意味する。扁平トウ形態が30未満であると、繊維束の厚みが大きいことから断面形状を扁平状態に保つことができず、撚りを止めることができないために、糸切れ、スモーク等が起こりやすくなるばかりか、後の高次加工においても繊維束幅が不均一となり性能、品質の低下を来たす恐れがある。これに対して、扁平トウ形態が120を超えると、繊維束の幅が大きいことから耐炎化炉機幅にたいする処理糸条数が少なくなり、設備生産性が低下する。したがって扁平トウ形態を30〜120の範囲に規制するのが好ましく、40〜110の範囲がより好ましく、50〜100の範囲がさらに好ましい。
【0019】
この扁平トウ形態の規制は、ピンガイド、ガイドロール等により行うことができるがこれらに限定されるものではない。エアー絡合による接続方法では、エアー絡合に用いるノズルの前後にガイドロール等設置することが好ましい。
【0020】
前述したように一般には繊維束の終末端と別の繊維束の先頭端を接続する際、及び接続部が焼成工程を通過する際にもに撚りが混入しやすく、撚りが混入すると後のアクリロニトリル系前駆体繊維束に撚りが混入してしまうため、この撚りが蓄熱し糸切れ、スモーク等の原因となる。
【0021】
よってアクリロニトリル系前駆体繊維束の前耐炎化処理した部分を結合させる際に混入した撚り及び接続部が焼成工程を通過する際に発生しやすい撚りは、この耐炎化した部分の範囲内に止めておくことが非常に重要である。
【0022】
通常炭素繊維の焼成においては、並列に配列するアクリロニトリル系前駆体繊維束は数百錘にのぼり、シート状である。上記のように並列に配置されたトウにおいて、トウ形態が扁平に規制されたアクリロニトリル系前駆体繊維束を、その隣り合う少なくとも3本を一体集合化する。一体集合化したアクリロニトリル系前駆体繊維束の本数が3本未満であると、撚りを止めることが確実には行えない。さらに、数百錘のアクリロニトリル系前駆体繊維束の全てを独立に耐炎化処理することになるため、多大な設備費用アップというコストアップ要因となり、さらに多大な作業負荷になるため、作業効率が大幅に低下する。好ましくは6本以上である。一体集合化するアクリロニトリル系前駆体繊維束の本数は、多いほど撚りを止めることが確実なものになるが、あまり本数が多くなりすぎると取り扱い性が低下する。したがって、その取り扱い性を考慮して一体集合化する本数を定めればよく、例えば30本以下が好ましい。こうすることで、接続の際或いは、接続部が焼成の各処理工程を通過させられる間に撚りが混入した場合において、その撚りを一体集合化部分で止めることが可能となり、以降の撚りを消失させることが可能となる。
【0023】
この一体集合化は、フィラメント同士の緩やかな交絡が優れた手法であり、フィラメントの交絡は、エアー交絡により容易に行うことができる。
【0024】
上述のようにして一体集合化されたトウ間は、フックドロップ法による交絡度が1m-1〜10m-1の範囲である。1m-1未満であると撚りを止めることが確実にできないために、糸切れ、スモーク等が起こりやすくなる。10m-1を超えると後の工程で分繊する際に単糸切れが生じやすく炭素繊維の品質に影響を与える可能性がある。
【0025】
ここでフックドロップ法の評価方法は、一体集合化されたその形態を崩さないようにして、その先端に10g/3300dtexの荷重を掛け吊るす。先から20mm直角に折り曲げられた直径1mmの針金に100gの重りを吊り下げ、重りをトウ間に引っ掛け自由落下させたときの落下長をXmとするとき、
交絡度=1/X
とする。測定は30回繰り返して行い、得られた30個の数値のうち中20点の平均値を用いる。
【0026】
図1はエアー交絡処理に適したエアー交絡装置の概略を示す断面図である。前記エアー交絡装置1は中心に断面が矩形の糸道2が形成されており、同糸道2には扁平なアクリル系繊維糸条3が水平方向に走行している。同糸道2の上下には均圧室4,5が形成されており、上方の均圧室4には上壁に、下方の均圧室5には下壁に、それぞれ流体導入口4a,5aが形成されている。
【0027】
前記均圧室4,5との隔壁を構成する前記糸道2の上下壁部2a,2bには互いに対向するように、各々複数個の流体噴射孔6が1列に配列されている。この流体噴射孔6は、アクリル系繊維糸条3に均一に交絡を付与するために、少なくとも4個以上形成されていることが好ましい。
【0028】
前記流体導入口4a,5aから前記均圧室4,5に導入された常温のエアーは、同均圧室4,5内で均圧化された後、流体噴射孔6から糸道2内に連続的に供給されるアクリル系繊維糸条3に向けて均等に、同糸条3に直交して噴射される。この噴射エアーにより、アクリル系繊維糸条3には均一に交絡が付与される。
【0029】
なお、前記エアー交絡装置1の前後にガイドバー等を設けて、同交絡装置1に供給されるアクリル系繊維糸条3を扁平状にすることが望ましい。アクリル系繊維糸条を扁平状に開繊して交絡装置1に供給することにより、同アクリル系繊維糸条3の全体に噴射エアーをあてることができるため、均一な交絡を付与することができる。
【0030】
供給されるエアー圧は、単糸繊度、フィラメント数、油剤の付着状況等により適宜調整される。
【0031】
一体集合化させる部分は、数cmから数十mに渡って行うことが出来る。一体集合化作業の点から、好ましくは1cmから9m、さらに好ましくは2cmから100cm程度である。
【0032】
前記の長さを一体集合化させる方法としては、エアー交絡装置を固定し糸条を走行させながら処理しても良いし、糸条を固定しエアー交絡処理装置を走行させても良い。
【0033】
また、一体集合化させる部分は、耐炎化処理を施されていても、いなくともどちらでもよい。好ましくは、耐炎化処理を施されているものがより良い。
【0034】
このようにして形成された接続領域により、その接続領域より後方に位置するそれぞれのアクリロニトリル系前駆体繊維束に撚りの混入がない状態にすることが可能となる。ここで撚りの混入がない状態とは、通常耐炎化炉の両側に設置されたロール間で例えば10mのスパンで4パス構成で90錘処理で1m当たり0.5ターンが目安であり、よって前駆体繊維束1本毎では1mあたり、0.0002ターン以下であることを指す。
【0035】
こうして接続・一体集合化されたアクリロニトリル系前駆体繊維束集合体が酸化性雰囲気下で200℃から300℃で耐炎化処理され耐炎繊維束とされる。さらに耐炎繊維束は、不活性雰囲気中1,000℃以上で炭素化処理することで、炭素繊維とされる。不活性雰囲気としては、窒素、アルゴン、ヘリウム等公知の不活性雰囲気を採用できるが、経済性の面から窒素が望ましい。なお、一般には、この炭素化処理する前に不活性雰囲気中300〜800℃での前炭素化処理を行うことが好ましい。不活性雰囲気としては、窒素、アルゴン、ヘリウム等公知の不活性雰囲気を採用できるが、経済性の面から窒素が好ましい。
【0036】
このようにして得られた炭素繊維は、必要に応じてさらに従来公知の技術により表面処理、サイジング付与等を行うことができる。
【実施例】
【0037】
以下、本発明の炭素繊維の製造装置とその製造方法の具体的な構成を、実施例に基づいて説明する。
【0038】
(実施例1)
ケンスAより焼成工程に投入中であり、単繊維繊度1.2dtex、フィラメント数50,000のアクリロニトリル系前駆体繊維束の終末端を前耐炎化処理し密度1.36g/cm3とした。、またケンスBとして次回焼成予定である、単繊維繊度1.2dtex、フィラメント数50,000のアクリロニトリル系前駆体繊維束の先頭端を前耐炎化処理し密度1.36g/cm3とした。
【0039】
上記ケンスAの終末端と、ケンスBの先頭端は、240℃の熱風が循環している耐炎化炉中にて136×10-3cN/dtexの張力下で70min耐炎化処理を施した。処理した長さは2mであった。
【0040】
次いで、上記のケンスAの終末端とケンスBの先頭端とを相互に重ね合わせた後、この重ね合わせた部分の繊維束にエアー絡合を施し接続した。接続した長さは0.5m、交絡度は8m-1であった。
【0041】
次いで、この接続部より、0.5mのところで、1本あたりの扁平トウ形態を76に規制し、6本の隣り合うアクリロニトリル系前駆体繊維束の前耐炎化処理された各々の端部分を重ね合わせエアー絡合を施し一体集合化した。一体集合化した部分の長さは0.5mであった。
【0042】
次いで、上記の接続・一体集合化したアクリロニトリル系前駆体繊維束集合体を220〜270℃の熱風が循環している耐炎化炉中にて、工程張力136×10-3cN/dtexにして、アクリロニトリル系前駆体繊維束及び途中の繊維束の収縮を制限しながら耐炎化処理を行った。耐炎化炉の両側に設置するロールとしては、フラットロールを使用した。
【0043】
その後、300〜700℃の温度分布を有する窒素雰囲気からなる前炭素化炉を通過させ、続いて1,000〜1,300℃の温度分布を有する窒素雰囲気からなる炭素化炉を通過させ、炭素繊維を製造した。
【0044】
耐炎化工程及び炭素化工程の繊維束通過性は極めて良好であり、さらに得られた炭素繊維束の高次加工においても繊維束幅は極めて均一で、毛羽がなく品位の優れるものであった。
【0045】
(実施例2)
一体集合化するアクリロニトリル系前駆体繊維束の数を3本としたこと以外は、実施例1と同様にして実施した。
【0046】
耐炎化工程及び炭素化工程の繊維束通過性は良好であり、さらに得られた炭素繊維束の高次加工においても繊維束幅は均一で、毛羽がなく品位の優れるものであった。
【0047】
(実施例3)
扁平トウ形態を30としたこと以外は、実施例1と同様にして実施した。耐炎化工程及び炭素化工程の繊維束通過性は良好であり、さらに得られた炭素繊維束の高次加工においても繊維束幅は均一で、毛羽がなく品位の優れるものであった。
【0048】
(実施例4)
接続部より20mのところで、アクリロニトリル系前駆体繊維束の扁平トウ形態を76に規制しアクリロニトリル系前駆体繊維束の各々の端部分を重ね合わせエアー絡合を施し一体集合化したこと以外は、実施例1と同様に実施した。
【0049】
耐炎化工程にてフィラメント切れが発生し耐炎化工程の繊維束通過性は若干不安定であった。
【0050】
(実施例5)
ケンスCより焼成工程に投入中である、単繊維繊度1.0dtex、フィラメント数60,000のアクリロニトリル系前駆体繊維束の終末端を前耐炎化処理し密度1.36g/cm3とした。ケンスDより次回焼成予定である、単繊維繊度1.0dtex、フィラメント数60,000のアクリロニトリル系前駆体繊維束の先頭端を前耐炎化処理し密度1.36g/cm3とした。処理した長さは、1.0mである。
【0051】
上記ケンスAの終末端と、ケンスBの先頭端は、240℃の熱風が循環している耐炎化炉中にて136×10-3cN/dtexの張力下で70min耐炎化処理を施した。
【0052】
次いで、上記のケンスCの先頭端とケンスDの終末端とを相互に重ね合わせた後、この重ね合わせた部分の繊維束にエアー絡合を施し接続した。接続部の長さは0.5mであった。
【0053】
次いで、この接続部より、0.25mのところで、1本あたりの扁平トウ形態を95に規制し、6本の隣り合うアクリロニトリル系前駆体繊維束の前耐炎化処理された各々の端部分を重ね合わせエアー絡合を施し一体集合化した。一体集合化した部分の長さは、0.3m、交絡度は7m-1だった。
【0054】
その他は実施例1と同様にして実施した。
【0055】
耐炎化工程及び炭素化工程の繊維束通過性は極めて良好であり、さらに得られた炭素繊維束の高次加工においても繊維束幅は極めて均一で、毛羽がなく品位の優れるものであった。
【0056】
(実施例6)
一体集合化するアクリロニトリル系前駆体繊維束の数を3本としたこと以外は、実施例5と同様にして実施した。
【0057】
耐炎化工程及び炭素化工程の繊維束通過性は良好であり、さらに得られた炭素繊維束の高次加工においても繊維束幅は均一で、毛羽がなく品位の優れるものであった。
【0058】
(比較例1)
単繊維繊度1.2dtex、フィラメント数50,000のアクリロニトリル系前駆体繊維束の終末端を前耐炎化処理し密度1.28g/cm3の耐炎繊維終末端にして焼成工程に投入中であるケンスEと、同じく単繊維繊度1.2dtex、フィラメント数50,000のアクリロニトリル系前駆体繊維束の先頭端を前耐炎化処理し密度1.28g/cm3の耐炎繊維先頭端にしてある次回焼成予定であるケンスFを用意した。
【0059】
上記耐炎繊維終末端と耐炎繊維先頭端は、240℃の熱風が循環している耐炎化炉中にて136×10-3cN/dtexの張力下で30min耐炎化処理を施した。
【0060】
その他は実施例1と同様にして実施した。
【0061】
耐炎化工程にて糸切れが生じてしまい、炭素繊維の製造が行えなかった。
【0062】
(比較例2)
アクリロニトリル系前駆体繊維束の扁平トウ形態の一体集合化を行わなかったこと以外は実施例1と同様に実施した。
【0063】
耐炎化工程にて糸切れが生じてしまい、炭素繊維の製造が行えなかった。糸切れ箇所を観察すると、撚りの部分であった。
【0064】
(比較例3)
アクリロニトリル系前駆体繊維束の扁平トウ形態を19に規制し一体集合化したこと以外は、実施例1と同様に実施した。
【0065】
耐炎化工程にて糸切れが生じてしまい、炭素繊維の製造が行えなかった。
【0066】
(比較例4)
一体集合化するアクリロニトリル系前駆体繊維束の本数を2本としたこと以外は、実施例1と同様にして実施した。
【0067】
耐炎化工程にて糸切れが生じてしまい、炭素繊維の製造が行えなかった。糸切れした部分は、撚りの部分であった。
【0068】
(比較例5)
交絡度を20m-1にしたこと以外は、実施例5と同様にして実施した。
【0069】
耐炎化工程及び炭素化工程の繊維束通過性は極めて良好であり、さらに得られた炭素繊維束の高次加工においても繊維束幅は極めて均一であったが、分繊時に毛羽が発生し品位の優れるものではなかった。
【0070】
(比較例6)
交絡度を0.1m-1にしたこと以外は、実施例5と同様にして実施した。
【0071】
耐炎化工程にてフィラメント切れが発生し耐炎化工程の繊維束通過性は若干不安定であった。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明のアクリル系繊維糸条を製造する際に、好適に用いられるエアー交絡装置の概略を示す、糸条の軸方向に直交する断面図である。
【符号の説明】
【0073】
1 エアー交絡装置
2 糸道
2a 上壁部
2b 下壁部
3 アクリル系繊維糸条
4 均圧室
4a 流体導入口
5 均圧室
5a 流体導入口
6 流体噴射孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィラメント数が49,000以上であるアクリロニトリル系前駆体繊維束を焼成する工程において、
(a)繊維束の終末端と、もう一つ別な繊維束の先頭端を予め、前耐炎化処理として密度1.30g/cm3以上にする工程と、
(b)前記繊維束の終末端と、前記もう一つ別な繊維束の先頭端を接続する工程と、
(c)前記接続された結部から後ろのある領域を、繊維束断面形状を幅/厚み比で30〜120となるように規定された扁平トウ形状とし、さらに、並列して焼成せられる該規定された繊維束を少なくとも3本を、フィラメント間の、フックドロップ法による交絡度が1m-1〜10m-1の範囲となるように交絡させて一体集合化する工程と
により形成された接続領域により、その接続領域より後方に位置するそれぞれのアクリロニトリル系前駆体繊維束に撚りの混入がない状態にして、繊維束を酸化性雰囲気中200〜300℃で耐炎化処理し、さらに前記耐炎化処理された繊維束を、不活性雰囲気中1,000℃以上で炭素化処理することを特徴とする炭素繊維束の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−144307(P2008−144307A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−333315(P2006−333315)
【出願日】平成18年12月11日(2006.12.11)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】