説明

炭素被覆ニッケル粉末及びその製造方法

【課題】 本発明は、積層セラミックコンデンサーや多層セラミック基板等の内部電極材料に適した炭素被覆ニッケル粉末の製造方法に関する。
【解決手段】 炭素を被覆したニッケル粉末の製造方法であって、ニッケル塩を溶解させた高分子分散剤水溶液にアンモニウムイオンを生成する化合物を添加してニッケルアンモニア錯体を形成させ、次いで、炭酸イオンを生成する化合物を添加して加熱した後、水分を除去して乾燥物とした後、窒素雰囲気下で該乾燥物を焼成することを特徴とする炭素被覆ニッケル粉末の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層セラミックコンデンサーや多層セラミック基板等の内部電極材料に適した炭素被覆ニッケル粉末およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
粒子径の小さなニッケル粉末は、厚膜導電体材料として積層セラミックコンデンサー(以下、MLCCと呼ぶ)や多層セラミック基板等の電気回路形成のため使用されている。
【0003】
MLCCはセラミック誘電体層と内部電極層とを交互に複数積層し、高温で焼成して一体化させた物である。MLCCの作製方法は、内部電極材料である金属微粉末をバインダー中に分散させてペースト化し、該ペーストをセラミックグリーンシート上に印刷し、該印刷した基材を複数積層させて加熱圧着した後、還元雰囲気中で加熱焼成を行うことによって作製されている。
【0004】
従来、MLCCの内部電極材料としては、PdやAg−Pdなどの貴金属粉末が使われてきた。貴金属は空気中で焼成できるので、MLCCの作製に好適に用いることができるが、材料が高価という問題があった。このため、内部電極材料は比較的安価なニッケルに置き換えられてきている。
【0005】
しかし、ニッケル粉末は貴金属粉末を用いた場合に比べて、耐酸化性が劣るために、焼成時にニッケル粉末の一部が酸化されてしまい、セラミック誘電体層へ拡散するという欠点がある。また、焼成時の熱収縮率が大きいという問題もある。
【0006】
MLCCを作製する際の焼成温度は、例えばセラミック誘電体層の材料として広く使われているBaTiOを用いる場合には1100℃以上の加熱を必要とする。しかし、ニッケル粉末の熱収縮開始温度は400〜500℃であるため、セラミック誘電体層と共焼成した際に、積層したセラミック誘電体層とニッケル層の間に熱収縮率の差から歪みが生じ、デラミネーション、クラックが生じてMLCCの性能が低下することになる。
【0007】
これまでにデラミネーションやクラックを防止する方法として種々の方法が提案されている。
【0008】
特許文献1では、酸化物でニッケル粉末表面を被覆する手法として、塩化ニッケルガスと四塩化チタンガスを混合し、これらのガスと塩化ニッケルの還元ガスおよび四塩化チタンの酸化ガスとを反応させて、ニッケルと二酸化チタンを同時に合成した酸化チタン被覆ニッケル粉末を調製する方法が提案されている(特許文献1:特開2005−240076)。しかしながら、この方法で調製されたニッケル粉末ではニッケル粒子の表面だけでなくニッケル粒子の内部にも酸化物が形成されてしまうため、前記酸化物が、電極を形成した際に不純物として残留してしまう問題があると考えられる。さらに、塩化ニッケルをガス化させるための特別な真空装置を必要とする。
【0009】
また、特許文献2には、酸化物でニッケル粉末を被覆する方法として、オングミルやハイブリダイザーなどを用いて酸化物被覆ニッケル粉末を調製する方法が提案されている(特許文献2:特開平11−343501)。しかし、オングミルやハイブリダイザーを用いて調製された酸化物被覆ニッケル粉末は、酸化物粒子とニッケル粒子との付着力が弱いために酸化物粒子がニッケル粒子から剥離しやすく、熱収縮率の改善効果は非常に低いと考えられる。
【0010】
また、特許文献3ではニッケル金属微粉末の焼結開始温度を高くする方法として、ニッケル粉末に硫黄を含有させる技術が提案されている(特許文献3:特開11−80817)。しかしながら、特許文献3に記載されているような、気相水素還元によって調製された硫黄含有ニッケル粉末では、焼結時に硫黄が誘電体層に拡散し、誘電体層の電気的特性を劣化させるおそれがある。
【0011】
酸化物によるニッケル粉末の被覆や、ニッケル粉末への硫黄の含有による問題点を解決する手法として、ニッケル粉末を炭素で被覆する方法が提案されている。
【0012】
例えば、特許文献4ではニッケル粉末とヘキサンなどの炭化水素ガスを300〜600℃の温度条件下で接触させることによりニッケル粉末表面に炭素層を被覆するという方法が提案されている。(特許文献4:特開2005−8960)この手法によって調製された炭素被覆ニッケル粉末をMLCC内部電極材料に用いることにより、炭素に被覆していないニッケル粉末に比べて、焼結開始温度が高温側にシフトすることが明らかにされている。しかしながら、この方法では高温の炭化水素ガスでニッケル粉末を処理するために、特別な装置が必要である。
【0013】
また、特許文献5ではニッケル粉末とポリオールを混合加熱して前記ニッケル粉末表面に炭素被覆層を形成させる方法が提案されている。(特許文献5:特開2005−154904)この方法によって調製された炭素被覆ニッケル粉末を用いることにより、熱収縮特性を改善することが可能となっている。しかしながら、特許文献5に記載されているような混合加熱では、微粒のニッケル粒子の凝集を解き、該ニッケル粒子の表面を炭素で均一に被覆することは困難であると考えられる。そのため、微粒のニッケル粉末を炭素で均一に被覆するためには、ニッケル微粒子の調製と同時にニッケル微粒子の表面を炭素で被覆するという方法が好ましいと考えられる。
【0014】
一方、特許文献6には、ゼラチン被覆ニッケル化合物を形成した後、不活性ガス雰囲気下で加熱処理して、金属ニッケルと酸化ニッケルを含む微粒子に変換することが記載されている(特許文献6:特開2007−126744号公報)。この調製方法では、不活性ガス雰囲気下での熱処理後には酸化ニッケルが混在するものであり、前記酸化ニッケルを金属ニッケルにするためには更に還元性ガス雰囲気下で加熱処理することが必要である。また、炭素を被覆した金属ニッケルを得ることは考慮されていない。
【0015】
ニッケル粉末の調製と炭素被覆を同時に行う技術として、以下の方法が報告されている。
【0016】
非特許文献1(Chemistry Letters Vol.35、No.7(2006))には酢酸ニッケルを含む高分子分散剤水溶液にアンモニアを添加して加熱し、水酸化ニッケルコロイド水溶液を調製した後、該コロイド水溶液を乾燥させ、焼成することにより、炭素に被覆されたニッケル微粒子が調製できると報告されている。この方法によって、ニッケル微粒子を調製すると同時にニッケル微粒子表面を炭素で均一に被覆することができる。
【0017】
近年、電子機器の小型化に伴い、MLCCは小型化の傾向にあり、誘電体層および内部電極層の膜厚は1μm以下となってきている。そのため、薄層化に伴い小粒子径化が進んでおり、粒子径50〜200nmのニッケル粉末が要求されている。
【0018】
しかしながら、非特許文献1には粒子径10nm以下の炭素被覆ニッケル微粒子の調製方法しか記載されておらず、MLCCに好適に用いることができる粒子径50〜200nmの炭素被覆ニッケル粉末を調製することは困難であった。
【0019】
通常、ニッケル塩の水溶液にアンモニアを添加して加熱すると、非常に微細な水酸化ニッケル粒子が生成する。そのために非特許文献1においても微細な水酸化ニッケル粒子のみしか生成することができず、結果的に粒子径50〜200nmの炭素被覆ニッケル粉末の調製が困難であったものと考えられる。
【0020】
【特許文献1】特開2005−240076号公報
【特許文献2】特開平11−343501号公報
【特許文献3】特開平11−80817号公報
【特許文献4】特開2005−8960号公報
【特許文献5】特開2005−154904号公報
【特許文献6】特開2007−126744号公報
【非特許文献1】Yongping Chen,外6名、「Novel Synthesis of Nanoporous Nickel Oxide and Nickel Nanoparticles/Amorphous Carbon Composites Using Soluble Starch as the Template」、Chemistry Letters 、2006年、第35巻、第7号、p.700―701
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
近年、電子機器の小型化に伴い、MLCCは小型化の傾向にあり、誘電体層および内部電極層の膜厚は1μm以下となってきている。そのため、薄層化に伴い小粒子径化が進んでおり、粒子径50〜200nmのニッケル粉末が要求されている。また、デラミネーションやクラックの発生を防止できるニッケル粉末が求められている。
【0022】
しかしながら、上述のように従来のMLCC内部電極用ニッケル粉末の調製方法では、酸化物によるニッケル粉末の被覆や、ニッケル粉末へ硫黄を含有させることにより、焼結開始温度を高温にシフトさせ、デラミネーションやクラックの発生を減らすことが可能となっているが、被覆した酸化物および含有させた硫黄が誘電体層に拡散してしまうといった問題があると考えられる。
また、酸化物や硫黄の誘電体層への拡散を解決する手法として炭素でニッケル粉末を被覆する手法が提案されているが、MLCCに好適に用いられる粒子径50〜200nmの炭素被覆ニッケル粉末を調製することは困難であった。
【0023】
本発明は炭素被覆ニッケル粉末の製法における上述した問題を解決するためになされたものであって、粒子径が50〜200nmの範囲にあり、積層セラミックコンデンサー内部電極として好適に用いることができる炭素被覆ニッケル粉末およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0024】
前記技術的課題は、次のとおりの本発明によって達成することができる。
【0025】
即ち、本発明は、炭素を被覆したニッケル粉末の製造方法であって、ニッケル塩を溶解させた高分子分散剤水溶液にアンモニウムイオンを生成する化合物を添加してニッケルアンモニア錯体を形成させ、次いで、炭酸イオンを生成する化合物を添加して加熱した後、水分を除去して乾燥物とした後、窒素雰囲気下で該乾燥物を焼成することを特徴とする炭素被覆ニッケル粉末の製造方法である(本発明1)。
【0026】
また、本発明は、炭素被覆ニッケル粉末の平均粒子径が50nm〜200nmである前記炭素被覆ニッケル粉末の製造方法である(本発明2)。
【0027】
また、本発明は、炭素被覆ニッケル粉末の炭素被覆量が、1wt%〜70wt%である前記炭素被覆ニッケル粉末の製造方法である(本発明3)。
【0028】
また、本発明は、平均粒子径が50〜200nmであり、粒子径の標準偏差が0.5〜100nmであり、且つ、炭素含有量が1〜70wt%であることを特徴とする炭素被覆ニッケル粉末である(本発明4)。
【発明の効果】
【0029】
本発明に係る炭素被覆ニッケル粉末の製造方法によって、簡便な方法で炭素を被覆したニッケル粉末を得ることができる。
【0030】
本発明に係る炭素被覆ニッケル粉末は、炭素が均一に被覆され、粒度分布に優れているので、積層セラミックコンデンサーに用いた場合に、デラミネーションやクラックを抑制することが期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
本発明の構成をより詳しく説明すれば次の通りである。
【0032】
以下、本発明の炭素被覆ニッケル粉末の製造方法を詳細に説明する。
【0033】
この発明に従って炭素被覆ニッケル粉末を製造するとき、まずニッケル塩水溶液を用意する。ここでニッケル塩としては、たとえば塩化ニッケル、酢酸ニッケルなどの水に可溶性なニッケル塩を含む水溶液が用いられる。
【0034】
本発明の製造方法で用いられるニッケル塩水溶液の濃度は0.05〜2モル/Lであることが好ましい。
【0035】
次に、高分子分散剤水溶液を用意して、上記ニッケル塩水溶液に添加する。高分子分散剤としては、デンプン、ゼラチン、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリアクリル酸系ポリマー、ポリアクリルアミド(PAM)、ポリエチレンオキシド(PEO)等の水溶性高分子等であり、好ましくはデンプンを用いることができる。デンプンの種類は特に限定されず、とうもろこしデンプンなどの未加工デンプンや溶性デンプン、エステル化デンプンなどの加工デンプンを用いることができる。
【0036】
本発明の製造方法において、高分子分散剤の添加量はニッケル塩に対して質量で0.05倍以上、好ましくはニッケル塩の質量の0.1〜20倍であることが好適である。高分子分散剤の添加量が0.05倍未満の場合には、焼成した際に炭酸ニッケルから脱炭酸して生成する酸化ニッケルを完全に還元できない。また、焼成後のニッケル粉末の焼結が進行しやすくなり、粒度分布が広くなってしまう。20倍以上である場合には、焼成後に得られるニッケル粉末の炭素含有量が高くなり、MLCC内部電極用に好適に用いることが困難となる。
【0037】
上記ニッケル塩と高分子分散剤の混合水溶液にアンモニウムイオンを生成する化合物を添加し、ニッケル塩水溶液を調製する。
【0038】
アンモニウムイオンを生成する化合物には、アンモニア水、ヘキサメチレンテトラミン、尿素などを用いることができる。
【0039】
本発明の製造方法で用いられるアンモニウムイオンを生成する化合物の添加量はニッケル塩1モルに対して、1〜10モルであることが好ましい。添加量が1モル未満であると、ニッケルアンモニア錯体が十分に形成されず、ゲル状の炭酸ニッケル又は水酸化ニッケルが生成してしまい、焼成後の炭素被覆ニッケル粉末の粒度分布が広くなってしまう。
【0040】
次に、炭酸イオンを生成する化合物が用意される。炭酸イオンを生成する化合物としては、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、尿素などを含む水溶液が用いられる。
【0041】
本発明の製造方法において、炭酸イオンを生成する化合物の使用量は、ニッケル塩1モルに対して、1〜10モルであることが好適である。炭酸イオンを生成する化合物の使用量が1モル未満であると、炭酸イオンを生成する化合物と反応しなかったニッケルアンモニア錯体から微細な水酸化ニッケルが生成してしまい、焼成後に得られる炭素被覆ニッケル粉末の粒子径が微細なものとなってしまう。
【0042】
前記ニッケル塩水溶液と炭酸イオンを生成する化合物水溶液を混合して加熱することによって、炭酸ニッケル(塩基性炭酸ニッケルを含む)又は水酸化ニッケルのいずれか一種以上を含有する水溶液を調製することが好ましい。
【0043】
なお、本発明においては、アンモニウムイオンを生成する化合物及び炭酸イオンを生成する化合物の両方の機能を有する化合物として、尿素を用いることができる。尿素を用いることで、アンモニウムイオンを生成する化合物を添加する工程、炭酸イオンを生成する化合物を添加する工程を同時に行うことができ、この場合の添加量は、両方の工程の添加量の合計量とすればよい。
【0044】
本発明の製造方法において、ニッケル塩水溶液と炭酸イオンを生成する化合物の反応温度は50℃以上が好ましい。
【0045】
次に、上記反応溶液の水分を除去し、高分子分散剤と炭酸ニッケル及び/又は水酸化ニッケルの混合乾燥物を調製する。水洗、乾燥は、常法に従って行えばよい。
【0046】
次に、上記乾燥物を雰囲気炉に入れて、窒素ガス雰囲気下で熱処理を行い、目的とする炭素被覆ニッケル粉末を調製する。
【0047】
本発明の製造方法において、乾燥物の焼成は窒素雰囲気下で行い、焼成温度は350〜700℃、焼成時間は1〜5時間が好ましい。
【0048】
本発明に係る炭素被覆ニッケル粉末は、平均粒子径が50〜200nmであり、より好ましくは50〜150nmである。粒子径の標準偏差は0.5〜100nmが好ましく、より好ましくは0.5〜50nmである。炭素被覆ニッケル粉末の平均粒子径及び粒子径の標準偏差が前記範囲外の場合には、微細なニッケル粒子及び、粗大なニッケル粒子を含有することとなる。微細な粒子を含有するニッケル粉末を積層セラミックコンデンサーに用いた場合には、微細なニッケル粒子によって焼結温度が低温側にシフトしてしまい、デラミネーションやクラックを抑制することが困難となる。また、粗大な粒子を含有するニッケル粉末を積層セラミックコンデンサーに用いた場合では、粗大な粒子が電極間の誘電体層を突き破るため、デラミネーションやクラックを抑制することが困難となる。
本発明に係る炭素被覆ニッケル粉末の炭素含有量は1〜70wt%であり、より好ましくは10〜70wt%である。炭素含有量が1wt%未満では、炭素でニッケル粉末を完全に覆うことができないため、デラミネーションやクラックを抑制することが困難となる。また炭素含有量が70wt%より多いと、電極中のニッケル同士が接触しにくくなり、均一な電極層を形成することが困難となる。
【0049】
<作用>
本発明に係る炭素被覆ニッケル粉末の製造方法によって、粒子径50〜200nmの炭素被覆ニッケル粉末が得られる理由を本発明者は以下のように考えている。
【0050】
通常、高分子分散剤水溶液中でニッケル塩と炭酸水素ナトリウムなどの炭酸イオンを生成する化合物とを混合すると、反応が瞬時に進行し、ゲル状もしくは非常に微細な炭酸ニッケル微粒子含有水溶液しか得られない。
【0051】
一方、本発明では、ニッケル塩を含む高分子分散剤の水溶液中にアンモニウムイオン生成する化合物を添加して、生成したアンモニアがニッケル塩と錯イオンを形成することにより、反応溶液中でのニッケルの溶解度を増加させる効果がある。反応溶液中でのニッケル溶解度が増加することにより、反応中の炭酸ニッケル、塩基性炭酸ニッケル又は水酸化ニッケル微粒子等は、溶解−析出を繰り返しつつ成長すると共に、高分子分散剤の効果によって、ある一定以上の粒子径成長が妨げられることにより、粗大な粒子が生成せず均一で所望の大きさの粒子径を有する炭酸ニッケル微粒子及び/又は水酸化ニッケル微粒子を得ることができると思われる。
このような本発明の製造方法によって得られる高分子分散剤を含有した炭酸ニッケル微粒子(塩基性炭酸ニッケル微粒子を含む)又は水酸化ニッケル微粒子を含有する反応溶液を乾燥することにより、高分子分散剤が炭酸ニッケル微粒子(塩基性炭酸ニッケル微粒子を含む)又は水酸化ニッケル微粒子などの粒子表面を被覆した状態の乾燥物が得られる。そして、その乾燥物を窒素中で焼成することによって炭酸ニッケル(塩基性炭酸ニッケルを含む)又は水酸化ニッケルは分解し酸化ニッケルとなり、また、高分子分散剤は炭化され炭素となる。生成した炭素の一部によって酸化ニッケルが還元されることにより、炭素被覆ニッケル粉末が調製されるものと考えている。
【実施例】
【0052】
以下、本発明における実施例を示し、本発明を具体的に説明する。
【0053】
ニッケルの粒子形状および炭素の被覆状態は透過型電子顕微鏡TEMで観測した。粒子の平均粒子径は、電子顕微鏡写真に示される粒子300個の粒子径をそれぞれ測定し、その個数平均値で示した。粒子径の標準偏差は、電子顕微鏡観察で撮影した画像の粒子に対して統計解析から求めた。
【0054】
炭素含有量は、「カーボン・サルファーアナライザー:EMIA−2200」(HORIBA製)を使用して測定した。
【0055】
粒子の構成は、「X線回折装置RINT−2500」(理学電機(株)製、管球:Cu)を用いて同定した。
【0056】
<実施例1>
塩化ニッケル(和光純薬製)1.3gを25mlの純水に溶解して塩化ニッケル水溶液を調製した。溶性でんぷん(和光純薬製)5gを純水50mlに溶解してデンプン水溶液を調製した。塩化ニッケル水溶液とデンプン水溶液を混合撹拌した後、25%アンモニア水(和光純薬製)を5g添加した。この溶液に炭酸水素ナトリウム(和光純薬製)1.0gを25mlの純水に溶解した水溶液を添加し、その後90℃で2時間加熱して、塩基性炭酸ニッケルを含有する溶液を調製した。その溶液を乾燥機に入れて80℃で20時間乾燥させた後、窒素雰囲気下で550℃で焼成した。
得られた粒子はX線回折より、金属ニッケルとアモルファスカーボンで構成されていることが確認された。ニッケルの平均粒子径は71nmであり、標準偏差が14nmと粒度分布が狭い粒子であった。TEM観察を行ったところ、金属ニッケルの表面が炭素で完全に覆われていた。炭素含有量は粉末全体に対して67wt%であった。
【0057】
<実施例2>
塩化ニッケル(和光純薬製)1.3gを25mlの純水に溶解して塩化ニッケル水溶液を調製した。ワキシーアルファー(三和澱粉工業製)1gを純水50mlに溶解してデンプン水溶液を調製した。塩化ニッケル水溶液とデンプン水溶液を混合撹拌した後、25%アンモニア水(和光純薬製)を3g添加した。この溶液に炭酸水素ナトリウム(和光純薬製)1gを25mlの純水に溶解した水溶液を添加し、その後90℃で2時間加熱して、塩基性炭酸ニッケルを含有する溶液を調製した。その溶液を乾燥機に入れて80℃で20時間乾燥させた後、窒素雰囲気下で550℃で焼成した。
X線回折より、金属ニッケルとアモルファスカーボンで構成されていた。ニッケルの平均粒子径は68nmあり、標準偏差が13nmと粒度分布が狭い粒子であった。TEM観察を行ったところ、金属ニッケルの表面が炭素で完全に覆われていた。炭素含有量は粉末全体に対して32wt%であった。
【0058】
<実施例3>
塩化ニッケル(和光純薬製)1.3gを25mlの純水に溶解して塩化ニッケル水溶液を調製した。カチオン化でんぷん(三和澱粉工業製)0.3gを純水50mlに溶解してデンプン水溶液を調製した。塩化ニッケル水溶液とデンプン水溶液を混合撹拌した。この溶液に尿素(和光純薬製)5gを25mlの純水に溶解した水溶液を添加し、その後90℃で5時間加熱して、塩基性炭酸ニッケルを調製した。その溶液を乾燥機に入れて80℃で20時間乾燥させた後、窒素雰囲気下で550℃で焼成した。
X線回折より、金属ニッケルとアモルファスカーボンで構成されていた。ニッケルの平均粒子径は106nmあり、標準偏差が47nmと粒度分布が狭い粒子であった。TEM観察を行ったところ、金属ニッケルの表面が炭素で完全に覆われていた。炭素含有量は粉末全体に対して8wt%であった。
【0059】
<比較例1>
塩化ニッケル(和光純薬製)1.3gを25mlの純水に溶解して塩化ニッケル水溶液を調製した。デンプン(和光純薬製)5gを純水50mlに溶解してデンプン水溶液を調製した。塩化ニッケル水溶液とデンプン水溶液を混合攪拌した。この溶液に炭酸水素ナトリウム(和光純薬製)1.0gを25mlの純水に溶解した水溶液を添加すると、瞬時に炭酸ニッケルが生成した。この溶液を80℃の乾燥機で20時間乾燥させた後、窒素雰囲気下で550℃で焼成した。
X線回折より、金属ニッケルとアモルファスカーボンで構成されていた。ニッケルの粒子は不定形であり、平均粒子径は327nmであり、標準偏差が198nmと粒度分布が広い粒子であった。TEM観察を行ったところ、金属ニッケルの表面が炭素で完全に覆われていた。炭素含有量は粉末全体に対して65wt%であった。
【0060】
<比較例2>
塩化ニッケル(和光純薬製)1.3gを25mlの純水に溶解して塩化ニッケル水溶液を調製した。デンプン(和光純薬製)5gを純水50mlに溶解してデンプン水溶液を調製した。塩化ニッケル水溶液とデンプン水溶液を混合攪拌した。この溶液に25%アンモニア水(和光純薬製)をpHが9になるまで滴下した後、90℃に加熱し5時間攪拌して、水酸化ニッケルを含有する溶液を調製した。この溶液を80℃の乾燥機で20時間乾燥させた後、窒素雰囲気下で550℃で焼成した。
X線回折より、金属ニッケルとアモルファスカーボンで構成されていた。ニッケルの平均粒子径は8nmであり、標準偏差が3nmと粒度分布が狭い粒子であった。TEM観察を行ったところ、金属ニッケルの表面が炭素で完全に覆われていた。炭素含有量は粉末全体に対して67wt%であった。
【0061】
<比較例3>
塩化ニッケル(和光純薬製)1.3gを25mlの純水に溶解して塩化ニッケル水溶液を調製した。この溶液に25%アンモニア水(和光純薬製)を5g添加した。この溶液に炭酸水素ナトリウム(和光純薬製)1.0gを25mlの純水に溶解した水溶液を添加し、その後90℃で2時間加熱して、塩基性炭酸ニッケルを含有する溶液を調製した。その溶液を乾燥機に入れて80℃で20時間乾燥させた後、窒素雰囲気下で550℃で焼成した。
X線回折より、酸化ニッケルのみで構成されていた。TEM観察を行ったところ、酸化ニッケル粒子表面には炭素は確認できなかった。炭素含有量は粉末全体に対して0wt%であった。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明に係る炭素被覆ニッケル粉末は、炭素が均一に被覆され、粒度分布に優れているので、積層セラミックコンデンサーに用いた場合に、デラミネーションやクラックを抑制することが期待でき、MLCC内部電極層に好適に使用できることが期待される。
【0063】
本発明に係る炭素被覆ニッケル粉末の製造方法によって、簡便な方法で炭素を被覆したニッケル粉末を得ることができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素を被覆したニッケル粉末の製造方法であって、ニッケル塩を溶解させた高分子分散剤水溶液にアンモニウムイオンを生成する化合物を添加してニッケルアンモニア錯体を形成させ、次いで、炭酸イオンを生成する化合物を添加して加熱した後、水分を除去して乾燥物とした後、窒素雰囲気下で該乾燥物を焼成することを特徴とする炭素被覆ニッケル粉末の製造方法。
【請求項2】
炭素被覆ニッケル粉末の平均粒子径が50nm〜200nmである請求項1記載の炭素被覆ニッケル粉末の製造方法。
【請求項3】
炭素被覆ニッケル粉末の炭素被覆量が1wt%〜70wt%である請求項1記載の炭素被覆ニッケル粉末の製造方法。
【請求項4】
平均粒子径が50〜200nmであり、粒子径の標準偏差が0.5〜100nmであり、且つ、炭素含有量が1〜70wt%であることを特徴とする炭素被覆ニッケル粉末。



【公開番号】特開2008−308733(P2008−308733A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−157885(P2007−157885)
【出願日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【出願人】(000166443)戸田工業株式会社 (406)
【Fターム(参考)】