説明

炭素質資源のガス化方法及びその装置

【課題】 炭素質資源のガスエネルギーへの高効率な転換において、熱分解炉での安定的な操業を達成することを目的とする。
【解決手段】 炭素質資源1を熱分解、ガス化、改質を組み合わせて原燃料ガスに転換する方法において、改質ガス13,15の少なくとも一部を酸化性ガス17により燃焼又は部分酸化して燃焼ガス18を生成する工程を有し、燃焼ガス18を炭素質資源1の熱分解工程に供給して熱分解する際の熱源とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種炭素質資源を効率よく原燃料ガスに転換する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、3R(reduce:削減、reuse:再使用、recycle:再利用)の考え方が、政策の後押しもあり、共通概念として認知され始めている。使用後または故障・破壊後の製品や製品製造時の副生品等のいわゆる廃棄物は、焼却あるいは埋め立てが主な処理方法であり、最終処分場の逼迫する現実と相まって、それらを有効に利用することは、地球温暖化問題への対応の一つの解答となるであろう。しかしながら、廃棄物は、種々雑多な性状を有しており、エネルギー密度の低いものが多く含まれる、及び処理後のガス精製負担が大きい等の理由で、作業及び設備に手間とコストが掛かり、特に小規模で経済的に自立可能なプロセスは少ない。
【0003】
廃棄物の多くは炭素を含んでおり、発熱量は一般的には低いものの、石炭、石油、及び天然ガス等と変わりないエネルギー資源と見ることができる。
【0004】
廃棄物の処理の代表的な例としては、一般廃棄物ゴミ(家庭ゴミ)を対象とし、ゴミ焼却に蒸気発電を組み合わせて電力として回収するゴミ焼却発電方式がある。近年、従来の10〜15%の送電端効率から、ボイラ材質改良、原料調整(RDF化)、及び外部燃料使用による効率向上(スーパーゴミ発電)等により、30%近い送電端効率で発電している焼却炉が実機運用され始めた。ただし、これら高効率型の処理設備は、廃棄物の事前処理、ボイラ材質の向上、及び外部燃料導入が必要であり、設備コスト・運用コスト高、及び適用制限(対象廃棄物の限定等)等で特殊解であることから、試験的運用であったり、トラブルで採用が減少したりしており、従来型のゴミ燃焼発電方式が依然として主流である。
【0005】
また、最終処分場の逼迫やダイオキシン規制により自治体での実機採用が増加しつつある処理方法として、灰分の減容・無害化処理やダイオキシン低減を狙い、高温でガス化溶融して灰分を溶融・スラグ化し、発電まで持ってゆくいわゆる廃棄物ガス化溶融技術がある。この技術は種類が多く、大きくi)直接溶融型(シャフト炉等を使い、熱分解、ガス化、燃焼・溶融を前段の反応器で行い、後段では燃焼してボイラ、蒸気タービンでエネルギー回収を行うものが主。)、ii)熱分解+燃焼・溶融型(低温熱分解して生成したガス、タール、及びチャーを充分な空気で高温燃焼し、ボイラ、蒸気タービンでエネルギー回収。)、iii)熱分解+ガス化型(低温熱分解して生成したガス及びチャーを高温ガス化し、可燃性ガスを発生させ、除塵及びガス精製工程を経てクリーンアップしたあとガスタービン、ガスエンジンによる発電または化学原料としてガスを利用。)に分けられる。i)及びii)の燃焼−蒸気発電方式では、廃棄物中に含まれる塩素等による腐食のために回収する蒸気条件に制約があることから、発電効率に限界がある。iii)のクリーンアップしたガスを用いる発電では、一般的に発電効率を高められる可能性が高い。例えば、技術開発が進んでいる石炭利用発電を例に取ると、燃焼ボイラでの送電端効率(38−39%、USCタイプで39−41%)より、ガスタービンと蒸気タービンを組み合わせた複合発電(IGCC)において、高い送電端効率が得られる(通常タイプで43−44%、高温型ガスタービンで46−48%)。さらに、ガス化を燃料電池と組み合わせる次世代技術では、50%を超える送電端効率が見込まれるなど、高効率エネルギー転換方法への展開が見込める等のメリットがあり、今後は廃棄物の分野でもガス化を中心とした技術がさらに広く展開すると予測される。
【0006】
本発明は、廃棄物を含む炭素質原料の高効率エネルギー転換を指向しており、主に前述iii)の技術範疇に属する。この範囲に属する技術の特許としては、本発明者らが特許文献1において、熱分解、ガス化、及び改質を組み合わせ、従来技術より高効率に廃棄物をガス化する方式を提案している。またそれより以前の従来技術・特許としては、特許文献2において低温流動層ガス化炉と高温溶融ガス化炉を組み合わせ、廃棄物からアンモニア合成用原料ガス(水素)を製造する方法及び装置が、また特許文献3において内部循環式流動層炉と高温ガス化炉を組み合わせ、廃棄物をガス化して原燃料ガスを製造する方法及び装置が、特許文献4において廃棄物を熱分解し、熱分解チャーの部分酸化ガスで熱分解タールを改質して可燃ガスを製造する方法及び装置が提案されている。iii)の熱分解+ガス化に属する技術で実機稼働しているものは少なく、実機化されているものとしては、低温熱分解技術として外熱式のロータリーキルンを用い、生成した熱分解ガスおよびタールを空気で高温改質し、1000kcal/Nm程度の低カロリーガスを得てこれをガスエンジンで発電するプロセスや、低温熱分解技術として、廃棄物を圧密し、プッシャー方式の外熱式熱分解炉で生成した熱分解ガス、タールおよび熱分解残渣を酸素でガス化および改質し、2000kcal/Nm程度の中カロリーガスを得るプロセスがある。これらの技術は、発電を対象とした場合、送電端効率は7〜12%であり、熱効率は高くない。
【特許文献1】特開2004−41848号公報
【特許文献2】特開平10−81885号公報
【特許文献3】特開平10−310783号公報
【特許文献4】特開平11−294726号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らが提案した特許文献1では、それまでの流動層を用いた特許文献2及び特許文献3の技術や、熱分解ガス化方式の特許文献4の技術、実機稼働しているロータリーキルンやプッシャー方式のプロセスと比べ、高効率なガス化方法および設備を提案しているが、特に熱分解にシャフト炉を用いると、原料の熱分解炉内で降下性が悪化した場合(棚吊り、吹き抜け等)に、投入した酸素が偏って流れることで温度の不均一、クリンカ(溶融灰分)生成等の操業課題が生じる場合があることが判明した。温度の不均一は熱分解反応のばらつきを生じ、反応が不十分な炭化物が排出されるため、滞留時間を長くしたり温度を高くしたりすることが必要になり、よけいなエネルギー(酸素)を投入せざるを得ず、総合効率の低下を生じる。クリンカ生成は、少量の場合は炭化物灰分の増加ですむが、多量の生成時には炉内に付着、滞留、成長し、そこを基点として降下性を一層悪化させるため、操業不能やさらなる温度不均一の原因となってしまう。
【0008】
本発明は、これら従来技術の課題点を解決し、安定操業を達成した上で、高効率に炭素質資源をガスエネルギーに転換する技術を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以上の課題を解決するに有効な方法であり、
(1)第1の炭素質資源を熱分解し、熱分解ガス、熱分解タール、及び熱分解残渣を生成する工程と、第2の炭素質資源を酸素、又は酸素及び水蒸気で部分酸化しガス化ガスを生成する工程と、生成した該熱分解ガス、該熱分解タール、及び該ガス化ガスを混合すると共に、酸素と水蒸気の少なくともいずれかを更に混合して、改質ガスを生成する工程と、該改質ガスの少なくとも一部を酸化性ガスにより燃焼又は部分酸化して燃焼ガスを生成する工程と、を有し、該燃焼ガスを該第1の炭素質資源を熱分解する工程に供給して熱分解する際の熱源とすることを特徴とする炭素質資源のガス化方法。
【0010】
(2)前記熱分解する工程に供給する前記燃焼ガスの温度が、800℃〜1300℃であることを特徴とする(1)記載の炭素質資源のガス化方法、
(3)前記酸化性ガスが、酸素、酸素および水蒸気、空気、空気および水蒸気、酸素および空気、ならびに酸素、空気、および水蒸気のうちのいずれかであることを特徴とする(1)又は(2)記載の炭素質資源のガス化方法、
(4)前記燃焼ガスを生成する工程に、更に天然ガス、液化石油ガス(LPG)、コークス炉ガス、転炉ガス、および高炉ガスのうち1種又は2種以上を供給して前記燃焼ガスの発熱量を調整することを特徴とする(1)〜(3)のいずれか一項に記載の炭素質資源のガス化方法、
(5)第1の炭素質資源を熱分解するシャフト型熱分解炉と、第2の炭素質資源を酸素、又は酸素及び水蒸気で部分酸化するガス化炉と、該シャフト型熱分解炉で生成した熱分解ガス及び熱分解タール、並びに該ガス化炉で発生したガス化ガスに加えて、更に、酸素と水蒸気の少なくともいずれかを導入して該熱分解ガス及び熱分解タールを改質する改質炉と、該改質後のガスの少なくとも一部を燃焼または部分酸化する燃焼炉と、を有し、該燃焼炉から排出される燃焼ガスを該シャフト型熱分解炉へ導入するダクトが設けられていることを特徴とする炭素質資源のガス化装置。
からなる。
【0011】
尚、本発明における炭素質資源とは、バイオマス、プラスチック、及び一般廃棄物ゴミ等を指し、具体的には、農業系バイオマス(麦わら、サトウキビ、米糠、及び草木等)、林業系バイオマス(製紙廃棄物、製材廃材、除間伐材、及び薪炭林等)、畜産系バイオマス(家畜廃棄物)、水産系バイオマス(水産加工残滓)、廃棄物系バイオマス(生ゴミ、RDF:ゴミ固形化燃料;Refused Derived Fuel、庭木、建設廃材、下水汚泥)、硬質プラスチック、軟質プラスチック、及びシュレッダーダスト等を指す。一般廃棄物ゴミとは産廃指定19種類以外のゴミのことで、自治体単位で収集する家庭系ゴミや事業者から出る紙類を多く含む事業系ゴミである。ただし、本発明は炭素質のエネルギー転換に関するものであるため、炭素質をほとんど含まないもの、すなわち分別された金属、ガラス類等は対象とはしない。炭素質資源としては、熱分解してガス、タールを発生させるという本発明の方法から考えて、地球温暖化対策上は好ましいとはいえないが、石炭、オイルシェール、及びオイルサンド等の化石燃料を使用してもかまわない。
【0012】
また、本発明における「燃焼」及び「部分酸化」は、次のように定義する。反応後のガス(燃焼ガスと呼称する)成分に酸素が残存している、または残存せずかつ可燃分もない状態になる反応を「燃焼」、反応後のガス(燃焼ガス)成分に酸素が残存せず、かつ可燃分が残存している状態になる反応を「部分酸化」とする。(それぞれの反応で生じた熱を燃焼熱、部分酸化熱とする。)特に、反応後ガスに酸素が残存している状態の「燃焼」では、熱分解炉に酸素が入るため、課題として前述したようなクリンカ等の課題が生じる可能性があるので、反応後ガス中の酸素濃度が5体積%以下までの反応に限定する。
【0013】
本発明で言うところの「改質」とは、主に熱分解タールの水蒸気改質(タールを水蒸気で一酸化炭素と水素に転換)反応を指す。本発明では熱分解ガスと熱分解タールは分離していないため、一部熱分解ガスの水蒸気改質反応も含む。改質反応後に存在しているガスを改質ガスと呼ぶ。
【0014】
さらに、「天然ガス」は主に液化天然ガスを原料とした都市ガスを指すが、パイプライン経由で直接ガス田から導入する天然ガスも含める。都市ガスは後述では13Aを挙げているが、特に13Aに限定されるものではなく、液化天然ガスを原料として製造された都市ガスであればよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明を適用することで、熱分解炉、ガス化炉、及び改質炉を組み合わせて炭素質資源を高効率にガスエネルギーに転換する方法において、大幅に安定的な操業を可能とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
前記(1)及び(5)に係る本発明の基本的プロセスフロー及び設備構成を、図1に示した。炭素質資源(第1及び第2の炭素質資源)1は、ガス化炉2と熱分解炉3の2箇所に供給される。ガス化炉2と熱分解炉3に供給される炭素質資源は主に破砕性、形状によって区別され、低動力で破砕できる硬質プラ、水分の少ない建設廃材、及び微生物の集合した下水汚泥等、破砕性の良好な炭素質資源や微粉状の資源はガス化炉2へ、強度に方向性差があり高動力をかけても均質な破砕ができない生木類や溶融する軟質プラ、ゴム中にワイヤを含むタイヤ、及びあらゆる性状が混合している一般廃棄物ゴミ等、破砕性の悪い、または破砕に向かない炭素質資源は熱分解炉3へ供給される。
【0017】
ガス化炉2では、炭素質資源(第2の炭素質資源)1は、酸素4、又は酸素4及び水蒸気5で部分酸化され、ガス化ガス6を生成する。炭素質資源1中の灰分は、ガス化炉2で溶融して、スラグ7としてガス化炉2の下部から排出される。熱分解炉3では、熱分解によって炭素質資源(第1の炭素質資源)1が熱分解ガス及び熱分解タール8と熱分解残渣9に分けられ、熱分解ガス及び熱分解タール8はガス化炉2で発生するガス化ガス6が導入されている改質炉10に導入され、ガス化ガス6と共に、蒸気5と酸素4の何れか又は双方によって改質される。熱分解ガス及び熱分解タール8は改質炉10に入る時点では300℃〜600℃の高温の状態であり、熱分解タールもガス状である。熱分解残渣9は残渣中の金属11を分離して炭素質残渣12となる。
【0018】
改質炉10で改質された生成ガス13は、必要に応じ脱塩、脱硫を主としたガス精製設備14で精製され、精製ガス15となる。本発明では生成ガス13又は精製ガス15を改質ガスと呼ぶ。精製ガス15の一部または全部は燃焼炉16で酸化性ガス17により燃焼または部分酸化され、この燃焼熱または部分酸化熱を燃焼ガス18の顕熱として熱分解炉3に導入して熱分解熱源とする。このとき熱の与え方としては、熱分解炉3外部から熱を与える(外熱)方法や炉内に配管を通してその内側を通す方法等の間接加熱もあるが、本発明ではシャフト炉内での高効率な熱交換を有効に使用するために、燃焼炉16からの燃焼ガス18をダクトにより熱分解炉3内部に導入し、直接対向流にて熱交換する方法をとった。処理規模によるが、一般ゴミで数百kg/日以上の処理量があれば精製ガス15を全量使用する必要はなく、差分は系外でガス原燃料として精製ガス使用設備19で使用される。使用例としては、加熱炉バーナー燃料、燃焼ボイラ(発電用、蒸気製造用他)用燃料、化学原料(酢酸合成、メタノール合成他)、及び燃料電池用燃料等である。なお、燃焼炉16で使用するガスとして精製ガス15を用いたが、これは燃焼炉16での燃焼または部分酸化の際に、ガスに含有する塩素成分や硫黄成分の影響により腐食等が燃焼炉16で起こることを防止するためであり、原料によっては塩素や硫黄が少ないものもあり(たとえば木材)、その場合生成ガス13を使用しても良い。
【0019】
本発明における熱分解炉3は、破砕性の悪い、または破砕に向いていないものを中心に処理することを前提としており、原料形状の自由度が高く熱効率に優れるシャフト炉形状が最も好ましい。それに準ずる方式としては、固定床(炉の熱効率は良好だがバッチ投入・排出により処理速度が低い)、流動床(安定操業が可能だが、原料粒度をそろえることや大量の熱媒体が必要であり、また大量の流動ガスが必要であるため効率が悪い)、キルン(原料自由度が比較的高いが、一定の炉内空間が必要であり、熱効率は非常に低い)等がある。ガス化炉2としては、粉状物、粒状物を短時間で高温ガス(部分燃焼ガス)に転換可能な噴流床式ガス化炉が適している。改質炉10は、熱分解炉3で生成した熱分解ガス及び熱分解タール8を、ガス化ガス6の顕熱を利用し、ガス中の水蒸気や添加する蒸気5によって改質する炉であり、改質反応の空間及び滞留時間が確保できる噴流床(気流床)が最も適している。準ずる方式としては流動床があるが、タール含有ガス(熱分解ガス及び熱分解タール8)と高温のガス化ガス6を還元性雰囲気、流動媒体の存在下で均質に流動化させる技術的な条件と、流動条件維持のためガス量等の操業自由度が低下する操業的な条件のため、噴流床の方が優れる。以下に、一般廃棄物ゴミを200トン/日(湿量基準)使用した場合の操業条件と発生する生成物の一例を示す。
【0020】
・操業条件:ゴミ乾燥(水分1/4)、熱分解炉3出口温度400℃、熱分解残渣温度400℃、ガス化炉2温度1300℃、改質炉10出口温度1100℃
・熱分解ガス及び熱分解タール8:ガス量6920Nm/hr(乾ガス)、タール量157kg/hr、ダスト量751kg/hr
・燃焼ガス18:燃焼炉16投入ガス量(精製ガス15の一部と酸化性ガス17の合計)3962Nm/hr(乾ガス)、燃焼ガス温度1200℃、ガス量3694Nm/hr(乾ガス)
・ガス化ガス6:炭化物量2085kg/hr、ガス化温度1300℃、ガス量1863Nm/hr(乾ガス)
・生成ガス13:ガス温度1100℃、ガス量9967Nm/hr(乾ガス)、
・精製ガス15のガス組成:CO 41%、CO 20%、H 25%、N 10%、HO 4%
前記(2)に係る発明は、燃焼炉16で製造する燃焼ガス18の温度を規定したものである。燃焼ガス18は800℃から1300℃の間の温度が良く、望ましくは900℃から1200℃である。1200℃より高い温度の燃焼ガスでは、熱分解炉3での熱分解の際に、炭素質資源1に含まれる灰分が一部溶融し、また1300℃を超える場合には灰分がほとんど溶融状態になるため、クリンカ生成が活発になり操業性に悪影響が出る。900℃を下回る温度では熱分解反応速度が低下し、900℃以上と同じ滞留時間(たとえば1時間)では内部まで熱が伝わらない部分が生じ始め、揮発分が残存したいわゆる未反応分が増加して破砕性等の炭化物性状が悪化する。800℃を下回るとさらに反応が進行する部分と進行しない部分の差が明確になり、総合的に炭化物の破砕性の改善効果が無くなるとともに、滞留時間増加による操業補正も効かなくなる。すなわち、800℃で長時間反応させた場合には、反応性が良好な原料は熱分解反応が進みすぎてガス化反応性の低い炭化物(たとえばスス)になるような条件であるにもかかわらず、反応性の悪い原料はまだ未反応の部分が残るような状況になり、結果的に平均的な反応性を持つ炭化物にはならないのである。反応性の悪い炭素質資源としては、一般廃棄物ゴミでは本・雑誌類、バイオマス系では間伐材等の生木類がその傾向が強く、表面から反応して内部は熱を受けにくい。従って、本発明を適用する範囲として有効な燃焼ガス温度は、800℃から1300℃であり、最も効果を発現できるのは900℃から1200℃となる。
【0021】
ここでクリンカ生成に関して補足する。燃焼ガス顕熱のみでのクリンカ生成の場合は、上述の通り温度による明確な規定ができるが、燃焼ガスに酸素が残存する場合には、酸素の燃焼による発熱(ガス温度上昇)があるため、その影響の有無が問題となる。
【0022】
例えば、特許文献1においては、酸素等を熱分解炉に導入して反応させているため、酸素投入量にもよるが局所的に灰融点(木材で1150℃程度、廃プラで1250℃程度、一般ゴミでは1200℃程度。原料により若干異なる)を超える温度になることや、酸素の存在により炭化物も燃焼し、付近に溶融している灰分が多くある状況となる(集合して大きな固まりになりやすい)ことから、クリンカが生成しやすかった。
【0023】
クリンカ生成によるトラブルに関しては、全ての状況で発生しているわけではなく、たとえば純酸素の方が空気より発生しやすく、投入ガスの酸素濃度を下げると発生しにくくなることが判明している。酸素濃度が下がることで燃焼時の温度が下がりクリンカが生成しにくくなるためと考えられるが、このときの酸素濃度上限は5体積%であった(5体積%以下でクリンカによる棚吊りトラブルなし)。これはこの酸素濃度以下のガスであれば炭素質資源と酸素との反応があってもトラブルに至る量のクリンカは生成しないことを示しており、このことから本発明における反応後ガス中の酸素濃度は5体積%以下が好ましい。
【0024】
前記(3)にかかる発明は、精製ガス15を燃焼炉16で燃焼または部分酸化して燃焼ガス18を製造する際に使用する酸化性ガス17を規定したものである。基本的には800℃から1300℃の高温が必要であるため、酸素、空気による燃焼または部分酸化が主となる。酸化性ガス17は、酸素、酸素および水蒸気、空気、空気および水蒸気、酸素および空気、ならびに酸素、空気、および水蒸気のうちのいずれかである。
【0025】
精製ガス15を酸素または空気で燃焼または部分酸化する場合、断熱火炎温度が前記(2)の温度範囲を超える1800℃超となるため、通常は希釈剤が必要となり、蒸気、空気に含まれる窒素、精製ガス15を希釈剤として、総合的に酸化性ガスと称した。蒸気のみ(空気や酸素を使用しない)では発熱を伴わないので本発明には使用できない。
【0026】
希釈剤としては、蒸気は蒸気生成設備が必要であるが後段の精製過程で除去可能であるため、精製ガス15の発熱量を高くしたいときに、空気は精製ガス15の発熱量は落ちるものの、低コストで使用したいときに、精製ガス15は循環設備が必要であるが、精製ガス15の発熱量を高くしたいときに使用する。
【0027】
この燃焼ガス18製造には可変要素があり、炭素質資源1の処理量、精製ガス15量、燃焼ガス18温度、及び酸素比(完全燃焼に必要な酸素の量に対する、投入する酸素の量と原料が保有する酸素の量の合計の体積比)等であるが、自由に決められるわけではなく、相互に関係し合っている。たとえば熱分解炉3で必要な熱量は、熱分解炉3の入りと出の燃焼ガス18の顕熱差で与えられ、以下の3つの前提が決まれば確定する。i)炭素質資源1の熱分解に必要な熱量、すなわち熱分解炉3において投入する炭素質資源1の量(重量、水分量)、温度と性状(比熱、熱分解に必要な熱)、排出される炭素質残渣9ならびに熱分解ガス及び熱分解タール8の量、温度と性状、ii)燃焼ガス18のガス量、温度と性状(成分、比熱)、iii)その他の熱(放散熱等、輻射熱等)、である。必要な熱量を持つii)を満たす燃焼ガス18を作ればよいことになる。ただしこれらは処理量の規模により熱分解炉3の容積が変わりiii)の放散熱が変化すること(規模が小さいほど相対的な放散熱が大きい)、精製ガス15をどれだけ使うか、すなわち外部にどれだけ精製ガス=製品ガスを出すかによって(ii)を変化)条件が変わること、等の要素が絡むため、特に処理規模が小さい場合の自由度が低い。従って、たとえば小規模で少ない精製ガス15量で高温にしなければならない場合などは完全燃焼(酸素比1)に近い条件で、酸素のみで燃焼ガス18を製造する。大規模処理で大量の精製ガス15を燃焼炉16用に使用でき、低い温度の燃焼ガス18で構わない場合には、酸素比を低く希釈を多くするように空気及び水蒸気を使用する、等の使い方をする。空気は酸素製造に比べ低コスト/低動力ですむ一方、精製ガス15中に窒素が入るため、精製ガス15発熱量の低下や、ガス量増加に由来する改質炉10やガス精製設備14の規模拡大によるコストアップもあるため、精製ガス使用設備19での発熱量条件(下限)も含め、酸化性ガス組み合わせを選択する必要がある。
【0028】
前記(4)にかかる発明では、改質ガスである生成ガス13あるいは精製ガス15に他の可燃性ガスを加えて燃焼炉16において発生する燃焼熱、燃焼ガス量等を変え、燃焼ガス18の発熱量を変更する方法を示した。ここでは、燃焼ガス18の安定供給、ガス中窒素の低減(希釈ガスとしての使用)、前記(3)に関する小規模処理時の低い自由度(前述)を解消することを目的とするもので、すなわち、熱分解炉3に供給する燃焼ガス18の顕熱と体積を調整するものである。混合する可燃性ガスとしては、窒素が少なければ特に制限はないが、一般的な燃料ガスで導入しやすい天然ガス、液化石油ガスや、製鉄工程等で工業的に製造され、大量使用が可能である、コークス炉ガス、転炉ガス、高炉ガスがある。200トン/日程度の炭素質資源1処理規模であれば、精製ガス15の発熱量は2000kcal/Nm程度であり、天然ガス(11000kcal/Nm)、液化石油ガス(24000kcal/Nm)、コークス炉ガス(約4000kcal/Nm)はそれより高発熱量、転炉ガス(2000kcal/Nm)は同等、高炉ガス(860kcal/Nm)は低発熱量になる。このとき天然ガス、液化石油ガス、コークス炉ガスは発熱量上昇、転炉ガスは精製ガス15量調整、高炉ガスは発熱量低下のために使用される。
【実施例】
【0029】
本発明に係る図1で示した設備構成(プロセスフロー)において、熱分解炉3(シャフト炉)に一般ゴミ200トン/日、ガス化炉2(噴流床ガス化炉)に炭素質残渣12を49トン/日投入した試験を実施した。各炉温は、熱分解炉3出側400℃、ガス化炉2温度1300℃、改質炉10温度1100℃、燃焼ガス18温度1206℃(実施例1)、998℃(実施例2)であった。このときの希釈ガスは精製ガス15であり、空気及び蒸気は使用していない。また、燃焼炉16への酸素量は456Nm/hr(実施例1)、458Nm/hr(実施例2)であった。このとき精製ガス15量は9967Nm/hr(乾ガス)(実施例1)、10203Nm/hr(乾ガス)(実施例2)で、そのうち3962Nm/hr(実施例1)、3995Nm/hr(実施例2)を部分酸化用に燃焼炉16に投入した。精製ガス15のガス組成は、CO 41%、CO 20%、H 25%、N 10%、HO 4%(実施例1)、CO 39%、CO 20%、H 27%、N 10%、HO 4%(実施例2)であった。このときの冷ガス効率(ガス製造設備の効率指標:精製ガス15潜熱/投入原料潜熱×100[%])はそれぞれ65%(実施例1)、68%(実施例2)で、ガスエンジン利用により発電すると、効率35%、所内利用10%で送電端効率20.5%(実施例1)、21.4%(実施例2)となる。
【0030】
熱分解+ガス化に属する実機稼動している従来技術の送電端効率7〜12%と比較して、約2倍の効率を示した。
【0031】
比較例として、特許文献1に記載のプロセスにより、同規模の熱分解量で、熱分解3炉内に直接酸素を投入し、炭素質資源の一部を燃焼して熱分解熱源とした場合を挙げる。比較例1は安定操業しているときのもの、比較例2は典型的な棚吊り発生時のものである。ただし、比較例1、2は同一試験内の例であり、特に操業的な操作は行っていない。
【0032】
本発明と比較例の試験は、熱分解炉3での反応形態が少し異なるが、炭素質資源投入量と炭素質資源高さ(層厚み:3m)を統一した。
【0033】
比較対象は、熱分解炉での棚吊り頻度、温度偏向性、及び熱分解残渣9中のクリンカ比率とした。棚吊り頻度は、棚吊り(原料レベルで検知)時間の全体時間(12時間)に占める割合とした。棚を吊ることで原料投入量低下やその結果として生成ガスの量変動を招く。低い方がよいが、10%を超えるとガス量の変動が10%を超えるため好ましくなく、望ましくは5%以内が良い。温度偏向性は、熱分解炉3(シャフト炉)内の炭素質資源同一高さ(表面から1m下)での水平面温度(東西南北4方向)の差(最高温度−最低温度)の平均値(12時間)、とした。吹き抜けが起こっていることの確認ができ、温度差が100度以上あると反応性に大きく影響(未燃物の増減が顕著になる)し、50K以下では反応性への影響はほとんどない。クリンカ比率は熱分解残渣を4時間おきにサンプリングしたものを4サンプル取り、付着、成長して生成しているものを目視による分離で他のがれき類(陶器類、石等)、炭化物と分離して重量比率を算出した。熱分解残渣の破砕性、利用性への影響、また炉内の棚吊り増加等への影響がある。少ないほどよいが、10質量%以下の場合、本来含まれるがれき等の破砕性と大差ないレベルであり、影響がほとんど無い。
【0034】
実施例と比較例の比較結果を表1に示す。
【0035】
【表1】

【0036】
棚吊り頻度は、実施例1及び実施例2とも5%以下であり、比較例1(安定操業時)の半分以下、比較例2の1/3以下となった。温度偏向性は50Kを大きく下回り、比較例1、比較例2と比べても優れていることがわかる。またクリンカ比率は10質量%以下であり、比較例1、比較例2と比べても大幅に小さく、注意して見ない場合、がれき類との区別が付かない程度であった。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の基本的設備構成(プロセスフロー)図である。
【符号の説明】
【0038】
1 炭素質資源、
2 ガス化炉、
3 熱分解炉、
4 酸素、
5 水蒸気、
6 ガス化ガス、
7 スラグ、
8 熱分解ガス及び熱分解タール、
9 熱分解残渣、
10 改質炉、
11 金属、
12 炭素質残渣、
13 生成ガス(改質ガス)、
14 ガス精製設備、
15 精製ガス(改質ガス)、
16 燃焼炉、
17 酸化性ガス、
18 燃焼ガス、
19 精製ガス使用設備。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の炭素質資源を熱分解し、熱分解ガス、熱分解タール、及び熱分解残渣を生成する工程と、第2の炭素質資源を酸素、又は酸素及び水蒸気で部分酸化しガス化ガスを生成する工程と、生成した該熱分解ガス、該熱分解タール、及び該ガス化ガスを混合すると共に、酸素と水蒸気の少なくともいずれかを更に混合して、改質ガスを生成する工程と、該改質ガスの少なくとも一部を酸化性ガスにより燃焼又は部分酸化して燃焼ガスを生成する工程と、を有し、該燃焼ガスを該第1の炭素質資源を熱分解する工程に供給して熱分解する際の熱源とすることを特徴とする炭素質資源のガス化方法。
【請求項2】
前記第1の炭素質資源を熱分解する工程に供給する前記燃焼ガスの温度が、800℃〜1300℃であることを特徴とする、請求項1記載の炭素質資源のガス化方法。
【請求項3】
前記酸化性ガスが、酸素、酸素および水蒸気、空気、空気および水蒸気、酸素および空気、ならびに酸素、空気、および水蒸気のうちのいずれかであることを特徴とする、請求項1又は2記載の炭素質資源のガス化方法。
【請求項4】
前記燃焼ガスを生成する工程に、更に天然ガス、液化石油ガス、コークス炉ガス、転炉ガス、および高炉ガスのうち1種又は2種以上を供給して前記燃焼ガスの発熱量を調整することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の炭素質資源のガス化方法。
【請求項5】
第1の炭素質資源を熱分解するシャフト型熱分解炉と、第2の炭素質資源を酸素、又は酸素及び水蒸気で部分酸化するガス化炉と、該シャフト型熱分解炉で生成した熱分解ガス及び熱分解タール、並びに該ガス化炉で発生したガス化ガスに加えて、更に、酸素と水蒸気の少なくともいずれかを導入して該熱分解ガス及び熱分解タールを改質する改質炉と、該改質後のガスの少なくとも一部を燃焼または部分酸化する燃焼炉と、を有し、該燃焼炉から排出される燃焼ガスを該シャフト型熱分解炉へ導入するダクトが設けられていることを特徴とする炭素質資源のガス化装置。

【図1】
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【公開番号】特開2006−316170(P2006−316170A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−140191(P2005−140191)
【出願日】平成17年5月12日(2005.5.12)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】