説明

炭素長繊維強化複合材料

【課題】強度と靭性が飛躍的に高い構造材用複合材を提供する。
【解決手段】重量平均長さが15mm以上の炭素長繊維(A)100質量部に対して、メルトフローレートが35〜150dg/minで、樹脂部分の赤外吸収スペルトル測定において、840cm−1の吸光度面積に対して、1790cm−1と1710cm−1の吸光度面積の和の比(酸変性度)が0.1〜1.2であり、プロピレン以外のα―オレフィン成分を含有し、かつ示差走査熱量計による融点が155〜170℃であるポリプロピレンブロック共重合体(B)50〜95質量部からなることを特徴とする炭素長繊維強化複合材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素長繊維とポリプロピレン樹脂からなる複合材料に関する。詳しくは、炭素長繊維と、炭素繊維より重量分率が少ない酸変性されたブロックタイプのポリプロピレン樹脂からなり、靭性と剛性に飛躍的に優れたプリプレグテープを提供する炭素長繊維複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ガラス長繊維強化ポリプロピレン複合材料は知られていた(例えば、非特許文献1参照)。しかし、かかる従来技術は、ガラス繊維とポリプロピレンの接着性が低く、ガラス繊維の強度や弾性率への補強効果が低く、構造材としての実用性能には不満足であった。
ガラス繊維とポリプロピレンの接着性については、プロピレンを無水マレイン酸のような極性官能基により変性することが有効であると特開平05−001184(特許文献1)や特開平06−279615(特許文献2)に開示されている。さらに特殊なカップリング剤を含む集束剤で処理したガラス繊維を使用することが特開2005−170691(特許文献3)に開示されている。しかし、自動車部品や保安部品のような高強度の構造部材に要求される高い強度や物性の信頼性にははるかに未達であった。また、ガラス繊維より、強度や弾性率の高い炭素繊維を使用した炭素繊維強化ポリプロピレンについても、無水マレイン酸変性ポリオレフィン共重合体を使用して接着性を改善した組成物が特開2005−256206(特許文献4)に開示されている。しかし、炭素繊維とポリプロピレンの接着性がまだ低く、炭素繊維の高強度が複合材料に反映されず、構造材としての要求には未達であった。また、炭素繊維の場合、ガラス繊維と比較して破壊伸度は低く、脆性的に破壊するため、クラックの伝播防止効果はガラス繊維強化より低く、破壊靭性や耐衝撃性が低いという問題があった。
【0003】
また、ポリオレフィンの変性としては、特開2005−60612(特許文献5)に、1分半減期温度が165℃以下の有機過酸化物を作用して難燃性・耐熱性などを改善した組成物が開示されている。しかし、融点が165℃であり、複合材料用に適するアイソタクチックポリポロピレンはこの温度範囲では固相状態であり、物性改善は殆どなされない。
また、特開2006−117839(特許文献6)に、数平均分子量が6000〜48000の範囲のマレイン酸変性ポリプロピレンがガラス繊維表面処理用に開示されているが、樹脂の強度や伸度が低く、樹脂とガラス繊維の接着性は改善されるが、母相の強度が弱く複合材のタフネスは目標にはるかに未達であった。また、特開2006−143769(特許文献7)に、電離性放射線を利用して、重量分子量と数平均分子量を2〜4.5とした発泡成形用樹脂組成物が開示されている。これは、架橋型モノマーのα―オレフィンとプロピレンのランダム共重合体の溶融張力を上げ発泡成形性は改善されるが、架橋構造を含有するため、強化繊維への含浸性はむしろ低下するのでプリプレグ用としては好ましく無かった。一般的に相反する繊維束への良好な含浸性を有する低い溶融粘度と高い靭性を有する構造材用プリプレグに適したプロピレン組成物は従来技術では得られていなかった。また炭素繊維も脆性的に破壊しやすく、炭素繊維強化ポリプロレン複合材においてもクラックの伝播防止効果は不十分であった。従って、構造材用途において、炭素繊維強化ポリプロピレンの靭性は不十分であり、信頼性の高い製品用途には、靭性の改善が必要であった。
【0004】
本発明は、かかる従来技術の課題を背景になされたものである。すなわち、本発明の目的は、強度と靭性が飛躍的に高い構造材用複合材を提供するために、炭素繊維への含浸性と接着性に優れ、且つ母相の樹脂の伸びが高く、炭素繊維間の応力集中による破壊が抑制された、高い繊維含有率の複合材料の提供を可能とすることにある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平05−001184号公報
【特許文献2】特開平06−279615号公報
【特許文献3】特開2005−170691号公報
【特許文献4】特開2005−256206号公報
【特許文献5】特開2005−60612号公報
【特許文献6】特開2006−117839号公報
【特許文献7】特開2006−143769号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】プラスチックス、Vol.36(7),p103(1985)
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意検討した結果、以下に示す手段により、上記課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、以下の構成からなる。
1.重量平均長さが15mm以上の炭素長繊維(A)100質量部に対して、メルトフローレートが35〜150dg/minで、樹脂部分の赤外吸収スペルトル測定において、840cm−1の吸光度面積に対して、1790cm−1と1710cm−1の吸光度面積の和の比(酸変性度)が0.1〜1.2であり、プロピレン以外のα―オレフィン成分を含有し、かつ示差走査熱量計による融点が155〜170℃であるポリプロピレンブロック共重合体(B)50〜95質量部からなることを特徴とする炭素長繊維強化複合材料。
2.炭素繊維(A)100質量部に対して、さらにプロピレンーα―オレフィンランダム共重合体(C)が1〜15質量部含まれることを特徴とする1.に記載の炭素長繊維複合材料。
3.タルク、カオリン、クレイ、マイカ、シリカ、アルミナ、炭酸カルシウムから選ばれた1種以上の無機化合物(D)が、さらに1〜10質量部含有されることを特徴とする1.または2.に記載の炭素長繊維複合材料。
4.炭素繊維(A)100質量部に対して、炭素長繊維(A)が、重量平均長さが30mm以上の炭素繊維であることを特徴とする1.〜3.のいずれかに記載の炭素長繊維複合材料。
5.スタンピング成形用プリプレグであることを特徴とする1.〜4.のいずれかに記載の炭素長繊維強化複合材料。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、強度のみならず靭性や耐衝撃性も高く、軽量な構造材として使用できる炭素長繊維強化複合材料を提供することができる。本発明により得られた炭素長繊維強化複合材料を成形して得られる成形部品は、自動車のフレーム部品や機械器具の構造部材やスポーツ器具などに使用される。本発明により、高い強度や靭性や耐衝撃性を有するプリプレグが提供される理由は、未だ明確でないが、炭素長繊維への含浸性や接着性はよくかつ破壊伸度が高い特定の変性ポリプロピレンと高強度の炭素長繊維を複合したことにより、母相や界面におけるクラック発生が抑制され、炭素繊維に均一に応力伝達できるためと考察される。特に、炭素繊維の長さ方向と直交する方向の荷重に対して、母相のタフさがクラックの発生を抑制することで、靭性の高い複合材料の提供が可能となったと推察される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を詳述する。
本発明は、重量平均長さが15mm以上の炭素長繊維(A)100質量部に対して、メルトフローレートが35〜150dg/minで、樹脂部分の赤外吸収スペルトル測定において、840cm−1の吸光度面積に対して、1790cm−1と1710cm−1の吸光度面積の和の比(酸変性度)が0.1〜1.2であり、プロピレン以外のα―オレフィン成分を含有し、かつ示差走査熱量計による融点が155〜170℃であるポリプロピレンブロック共重合体(B)50〜95質量部からなることを特徴とする炭素長繊維強化複合材料である。
炭素繊維(A)100質量部に対して、さらにプロピレンーα―オレフィンランダム共重合体(C)が1〜15質量部含まれることが好ましい態様である炭素長繊維複合材料である。
タルク、カオリン、クレイ、マイカ、シリカ、アルミナ、炭酸カルシウムから選ばれた1種以上の無機化合物(D)が、さらに1〜10質量部含有されることをより好ましい態様とする炭素長繊維複合材料である。
炭素繊維(A)100質量部に対して、炭素長繊維(A)が、重量平均長さが30mm以上の炭素繊維であることをさらに好ましい態様とする炭素長繊維複合材料である。
スタンピング成形用プリプレグであることを特に好ましい特徴とする炭素長繊維強化複合材料である。
【0010】
本発明に使用される酸変性ポリプロピレンブロック共重合体は、ポリプロピレンブロックとプロピレン以外のα―オレフィン、好ましくは、エチレン、1−ブテンが、3〜15質量%、好ましくは、5〜10質量%を含有するブロックからなるブロック共重合体の酸変性体である。プロピレン以外のα―オレフィンの量が3質量%未満では、靭性改良効果は小さく好ましくない。また15質量%を超えると、耐熱性や弾性率が低下して、構造材として好ましくない。本発明に使用されるポリプロピレンブロック共重合体のブロック共重合体のブロック性は、特に限定されないが、示差走査熱量計を使用し、ISO11357−3に準じて測定した融点が155〜170℃、好ましくは157〜164℃であることが必要である。ブロック性が低い155℃未満では、ポリプロピレンブロック部の結晶サイズが小さくなり、強度や耐熱性が低下して好ましくない。また170℃を超えると、プロピレン以外のα―オレフィンが局在化しており、靭性改善効果が小さく好ましくない。
酸変性ポリプロピレンブロック共重合体の重量平均分子量は、6万〜18万、好ましくは8万〜16万である。重量平均分子量が、18万を超えると、溶融粘度が高くなり、プリプレグ作製時、含浸性が低く、ボイドを含み易く、本発明が達成されない。また重量平均分子量が6万未満では、強度や伸度が低く、プリプレグから得られる成形品の強度・伸度が低く好ましくない。本発明に使用される酸変性ポリプロピレンの多分散性指数は1.5〜7、好ましくは1.6〜6、特に好ましくは1.7〜5である。多分散指数は、1.5未満の酸変性ポリプロピレンを得るには、分別処理が必要でコスト高となり、好ましくない。また7を超えると、重量平均分子量が、6万〜18万の範囲内あっても、混在する低分子量ポリプロピレンが強度・伸度を低下させるので好ましくない。逆に、混在する高分子量成分は、含浸性や接着性を低下させて好ましくない。多分散性指数が小さいために、比較的低い重量平均分子量品でも、低分子量成分が非常に少なく、酸変性ポリプロピレンの強伸度が高くなったためと考察される。プリプレグ製造時の含浸性は、重量平均分子量に強く依存する、一方機械的性質は低分量成分に依存することが分かった。分子量分布を大変狭く制御することで、低い重量平均分子量と少ない低分子量成分を両立することが可能となる。
【0011】
本発明に使用される酸変性ポリプロピレンは、強化材と高い接着強度を有することが必要であり、赤外吸収スペルトルにおいて、840cm−1の吸光度面積に対して1790cm−1と1710cm−1の吸光度面積の和の比が0.1〜1.2、好ましくは0.2〜1.0である酸変性されている。無水酸変性度が0.1未満では、プリプレグを成形して得られる成形品の強度が低く好ましくない。また1.2を超えると、熱分解や熱変色が起こり好ましくない。酸成分としては、マレイン酸、イタコン酸、コハク酸、アジピン酸などの無水酸やアクリル酸、メタクリル酸などが例示される。好ましくは、変性のしやすさからマレイン酸、イタコン酸の無水酸である。840cm−1は、ポリプロピレンに由来する赤外線吸収であり、測定した試験片の厚さ補正係数である。また1790cm−1,1710cm−1は、それぞれ無水カルボン酸とカルボン酸に由来する吸収であり、吸水と脱水状態を移行するから総合した変性度で効果は整理される。
【0012】
本発明に使用される酸変性ポリプロピレンブロック共重合体は、出発原料のメルトフローレートや変性条件は制限されないが、メルトフローレート0.1〜4dg/minであるポリプロピレンブロック共重合体100質量部に対して、無水マレイン酸0.01〜5質量部、半減期が1分となる温度が170〜185℃の範囲にある有機過酸化物0.05〜3質量部を溶融混練して得られることが好ましい態様である。
なお、有機過酸化物の半減期は、有機過酸化物をある温度に保持して、その温度における熱分解率の時間変化を測定する。その変化曲線から、その温度における全分解率の半分に到達する時間、すなわち半減時間を得る。温度を変えて得られる半減時間と温度の関係図から、半減時間が1分となる温度を関係図から得る。この温度は半減期が1分となる温度である。
ポリプロピレンブロック共重合体に不飽和ジカルボン酸化合物と有機過酸化物を作用させて酸変性する方法が、工業的には好ましいが、この方法による変性時、ポリプロピレンブロック共重合体の分子鎖はラジカルで切断される副反応が伴う。この反応を制御するには、有機過酸化物のラジカル発生特性が適合することが必要である。半減期が1分となる温度が170〜185℃、好ましくは、172〜183℃である有機過酸化物が好ましい。170℃未満では、低分子量のポリプロピレンのみ溶融した状態からラジカル発生を開始するから低分量のポリプロピレンが発生しやすく、多分散性指数が高くなり好ましくない。また185℃を超えると、滞留時間が2分以下の押出機で変性反応を行う場合、230℃以上の高温が必要となり、熱分解や熱変色を伴いやすく、品質安定性の面から好ましくない。半減期が1分となる温度が、170〜185℃である有機過酸化物としては、メチルエチルケトンパーオキシド(182℃)、t−ブチルハイドロパーオキシド(179℃)、ジクミルパーオキシド(172℃)、2,5ジメチル2,5ジ(t−ブチルパーオキシド)ヘキサン(180℃)、nーブチル4,4−ジ(t−ブチルパーオキシ)バレレート(173℃)などが例示される。これらの中では、t−ブチルハイドロパーオキシド(179℃)、ジクミルパーオキシド(172℃)、2,5ジメチル2,5ジ(t−ブチルパーオキシド)ヘキサン(180℃)が活性酸素量も高く好ましい。ポリプロピレン100質量部に対して、無水マレイン酸0.01〜5質量部をグラフト変性する場合、活性酸素の必要量から、有機過酸化物は0.05〜3質量部、好ましくは、0.1〜1質量部使用される。
0.05質量部未満では、反応不足となりやすく好ましくない。3質量部を超えると低分子量ポリプロピレンにもラジカルの作用が起こりやすく好ましくない。
【0013】
本発明の酸変性されたポリプロピレンブロック共重合体のメルトフローレートは、35〜150dg/minであり、メルトフローレートの10分滞留による変化が30dg/min以下であることが好ましい。ここでのメルトフローレートは、ISO1133に準じて、230℃、2.16kg荷重下による測定値である。特に、メルトフローレートは、55〜120dg/minが好ましい。40dg/min未満では、溶融粘度が高く、プリプレグ作製時含浸性に劣り、ボイドを含みやすく好ましくない。また150dg/minを超えると機械的強度が低下して好ましくない。ここでいう10分滞留とは、メルトフローレート測定時、試料を充填した後、通常の予熱時間5分に対して予熱時間を15分として測定することを意味する。
【0014】
本発明の炭素長繊維強化ポリプロピレン複合材料は、プリプレグとして、スタンピング成形して使用される。本発明で言うプリプレグとは、予め強化繊維に樹脂を含浸して得られる板状・シート状・テープ状の予備成形材料である。この予備成形体であるプリプレグを更にスタンピング成形して、実用の形状をした成形品が得られる。プリプレグ作製やスタンピング成形は、溶融加工であり、一般に220−280℃に加熱して使用される。溶融加工時の熱分解や酸化分解は、成形品の物性低下となるので本発明の目的上好ましくない。本発明には、230℃10分滞留のメルトフローレート変化は、30dg/min以下、好ましくは20dg/min以下が好ましい。30dg/minを超えると、成形加工時の条件幅が狭く、品質が停台などの影響を受けやすく好ましくない。
【0015】
本発明には、重量平均繊維長が15mm以上、好ましくは30mm以上、更に好ましくは100mm以上の炭素長繊維や連続繊維が複合される。重量平均繊維長が15mm未満では、構造材としての強度が未達となり、好ましくない。炭素繊維としては、製造法に特に制限されないが、ポリアクリロニトル繊維やセルロース繊維などの繊維を空気中で200〜300℃にて処理した後、不活性ガス中で1000〜3000℃以上で焼成され炭化製造された引っ張り強度20t/cm以上、引っ張り弾性率200GPa以上の炭素繊維が好ましい。本発明に使用される単繊維径は、特に制限されないが、複合化の製造ライン工程から3〜25μmが好ましく、特に4〜15μm好ましい。3μm未満では、含浸や脱泡が難しく、25μmを超えると、比表面積が小さくなり、複合化の効果が小さくなり好ましくない。本発明に使用される炭素繊維は、空気や硝酸による湿式酸化、乾式酸化、ヒートクリーニング、ウイスカライジングなどによる接着性改良のための処理されたものが好ましい。また本発明の複合材料製造に使用される炭素繊維は、作業工程の取り扱い性から、120℃以下で軟化する集束剤により集束されていることが好ましい。集束フィラメント数には特に制限ないが、1000〜30000フィラメント、好ましくは、3000〜25000フィラメントが好ましい。集束剤は特に制限されないが、無水酸と反応性のあるエポキシ系やポリウレタン系が好ましい。
【0016】
本発明の炭素長繊維強化ポリプロピレン複合材料には、炭素長繊維100質量部当り、50〜95質量部、好ましくは65〜90質量部配合される。50質量部未満では、含浸が困難で複合材料の製造が難しい。また95質量部を超えると複合材料中の炭素繊維含有率が低く、目的とする構造材に要求される強度や弾性率が得られない。
【0017】
本発明の特徴である、高い靭性や耐衝撃性を発揮するために、さらにプロピレンーα―オレフィンランダム共重合体(C)が1〜15質量部が含まれることが好ましい。プロピレンーα―オレフィンランダム共重合体としては、プロピレンーエチレン共重合体、プロピレンーブテン共重合体、プロピレンーペンテン共重合体などが例示される。これらの中ではプロピレンーエチレン共重合体、プロピレンーブテン共重合体が好ましい。プロピレンーα―オレフィン共重合体(c)が、炭素繊維100質量部当り1〜15質量部、好ましくは2〜10質量部複合されていることが好ましい。1質量部未満では、タフネス改良効果は小さく好ましくない。また15質量部を超えると、弾性率が低下し、構造材として好ましくない。
【0018】
また、本発明においては、炭素長繊維100質量部当り、タルク、カオリン、クレイ、マイカ、シリカ、アルミナ、炭酸カルシュウムから選ばれた1種以上の無機化合物(D)が、1〜10質量部をさらに含有することができる。無機化合物(D)が複合されると、炭素繊維による補強と相乗効果を示し、強度が一段向上する。この理由は、未だ明らかでないが、圧縮変形や曲げ変形の圧縮部の炭素繊維の座屈変形を防止することから強度が向上するためと考察される。無機化合物の粒径は制限されないが、平均粒径が15μm以下、好ましくは5μm以下、特に1μm以下のナノサイズのものが、炭素繊維への含浸性と圧縮に対する補強効果から好ましい。
弾性率と破壊のびが高い樹脂を母相とする本発明の炭素長繊維複合材料は、曲げ強さと曲げ破壊エネルギーがバランスよく高く、曲げ強さは、360MPa以上、好ましくは380MPa以上であり、曲げ破壊エネルギーは、5J以上、好ましくは6J以上である。また靭性の高い本発明の複合材料を成形して得られる成形品は、破壊エネルギーが高いばかりではなく、破壊に至らない低衝撃に対しても強く、落球や落錘衝撃を受けた場合、表面に発生しやすい微細なクラックの発生が抑制されることも大きな特徴である。
【0019】
また、本発明の複合材料の成形法は、特に制限されないが、炭素長繊維の高い補強性と酸変性ポリプロピレンブロック共重合体のタフネス性付与効果を損なわない点から、プリプレグを製造してスタンピング成形が好ましい成形方法である。プリプレグを、赤外線加熱や高周波加熱して、樹脂を加熱溶融して、圧縮成形機の金型に供給して、賦形冷却後脱型して構造材の部品が成形される。
本発明の酸変性ポリプロピレン樹脂及び樹脂組成物には、上記の必須成分の他に物性改良・成形性改良、耐久性改良を目的として、結晶核剤・離型剤、滑剤、酸化防止剤、難燃剤、耐光剤、耐候剤などが配合できる。
【0020】
本発明の炭素長繊維強化ポリプロピレン複合材料の製造法は特に限定されない。例えば、樹脂の融点以上に温度調節されたスクリュータイプ押出機のホッパーにポリプロピレンブロック共重合体と無水酸と有機過酸化物と酸化防止剤、場合によっては、さらにプロピレンーαオレフィンランダム共重合体、無機化合物を所定割合に予備混合して供給する。溶融混練されたストランドを水冷後ペレタイズする方法や、ポリプロピレンブロック共重合体と無水酸と有機過酸化物、場合によってはさらにプロピレンーαオレフィンランダム共重合体、無機化合物を、を予備混合して上流のホッパーに供給し、下流に酸化防止剤をサイドフィードする方法や、ポリプロピレンブロック共重合体と無水酸、場合によってはさらにプロピレンーαオレフィンランダム共重合体、無機化合物を予備混合して、上流のホッパーに供給し、有機過酸化物を中流のサイドフィーダーから供給し、さらに下流のサイドフィーダーから酸化防止剤を供給する方法などで酸変性ポリプロピレンブロック共重合体のペレット得る。
得られたペレットを温度調節されたスクリュータイプ押出機のホッパーに投入し、可塑化した樹脂を、押出機のヘッドに一定速度で供給された炭素繊維のロービングを被覆し、加圧含浸して得たテープを巻き取る方法や、炭素繊維のロービングを、開繊し含浸台に一定速度で供給し、これに押出機により可塑化した樹脂を含浸台に供給・含浸し、賦形して得たテープを巻き取る方法で製造される。得られたテープを炭素繊維の軸を合わせて重ね枷に巻き取り、これを予熱し金型中で圧縮成形する方法、テープを織るか編みこれを予熱して、金型中で圧縮成形する方法、テープをある長さにカットし、得られた短冊状テープを予備金型中にランダムに配置し、加熱成形して板状予備成形体を得て、その予備成形体を再加熱して金型中で圧縮成形する方法などがある。
【0021】
本発明の複合材から得られた成形部品は、自動車のフレーム、バンパーフェースバーサポート材、シャシーシェル、座席フレーム、サスペンジョン支持部、サンルーフフレーム、バンパービーム、2輪車のフレーム、農機具のフレーム、OA機器のフレーム、機械部品など高い強度と剛性の必要な部品に利用される。
【実施例】
【0022】
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
(実施例1〜9)
ポリプロピレンブロック共重合体、ポリプロピレンーαオレフィン共重合体、カルボン酸化合物、有機過酸化物、無機化合物を、表1に示した質量部に配合して、シリンダー温度が200℃に温度調節されたスクリュー式ニ軸押出機(池貝鉄工社製PCM30)のホッパーやサイドフィーダーのホッパーに投入した。スクリュウ回転数100rpmにて溶融混練し、無水酸変性ポリプロピレンブロック共重合体の溶融体を、230℃に温度調節された含浸台に定量供給し、一方から炭素繊維のロービングを開繊し、表2に示した複合比になるように、炭素繊維を一定速度で含浸台に引き込み、含浸台中で含浸し、厚さ0.2mm、幅15mmのプリプレグテープを得た。
得られたプリプレグテープを、回転刃付きカッターで表2に示した炭素繊維長さにカットし、短冊状のテープを得た。短冊状のテープを200mm、幅200mm、高さ30mmのキャビティにランダムに散布した。このキャビティ型を誘導加熱により230℃まで加熱し、厚さ約1/10に5分間圧縮成形し、その後型の冷却配管に冷却水を流し、約80℃まで急速冷却した後、脱型して、平板を得た。
この平板から、長さ80mm、幅10mm、厚さ3mmの試験片10本をダイヤモンドカッターにより切削した。得られた各5本の曲げ試験用試験片を、デシケーターに入れ、23℃に温度調節された室内で16時間状態調節した後、物性試験を行なった。
【0023】
評価や分析は、次の方法で行った。
(1)メルトフローレート(MFR)
メルトフローレートは、80℃にて1時間乾燥したサンプルについて、メルトインデキサーT111型(東洋精機社製)を使用して、ISO1133に準じて、230℃、2.16kg条件下にて測定した。またサンプルをシリンダーに装填後、それぞれ5分保持した後荷重をかけて、メルトフローレートを測定した・
(2)酸変性度
酸変性度は、サンプルを120℃のp−キシレンに攪拌溶解後、冷却後アセトンを加えて析出させ、ろ過して得られた試料から約10μmのフィルムを作製した。Perkin Elmer Inc. のSpectrum One(FT-IR Spectrometer)を使用して、得られたフィルムについて、波数1790cm−1と1710cm−1と840cm−1の赤外吸光スペクトルを求めて、その吸光度面積比から酸変性度を求めた。
(3)融点
融点は、DSC Q100(TAインストロメンツ社)を使用して、試料10mgをアルミサンプル容器に採取し、ISO11357−3に準拠し、窒素40ml/min流動下で、10℃/minで昇温し、吸熱がピークを示す温度を測定した。
(4)重量平均繊維長
ロービング状の炭素繊維に含浸して得られたプリプレグをカットして得られた短冊状のプリプレグ100本をランダムに抽出して、短冊の長さと炭素繊維の長さと同じと仮定して、短冊の中央部の長さをノギスで測定しそのヒストグラムから重量平均繊維長を求めた。
(5)曲げ強さと曲げ破壊エネルギー
23℃50%RHに調節された試験室中で、テンシロンU500(オリエンテック社製)を使用して、ISO178の規定に従って、曲げ強さと靭性の尺度として曲げ強さまでの変形エネルギー(曲げ破壊エネルギー)を測定した。曲げ破壊エネルギーは、変位―荷重曲線の曲げ強さまでの面積から求めた。
【0024】
(比較例1〜6)
ポリプロピレン、カルボン酸化合物やの種類や有機過酸化物、プロピレンーαオレフィンランダム共重合体、無機化合物の配合比を表1に、また炭素繊維との複合比やテープのカット長を表3に示したように変更した以外は、実施例と全く同様にプリプレグを作製した後、テストピースを成形した。得られた試験片について,実施例と全く同様に曲げ強さを測定した。得られた試験データを表3に合わせて示した。
【0025】
(実験に使用した原料と記号)
PP1:未変性ポリプロピレンブロック共重合体(住友化学社製、エチレン共重合体、AD571、MFR 0.6dg/min)
PP2:未変性ポリプロピレンブロック共重合体(住友化学社製、エチレン共重合体、AZ564、MFR 30dg/min
PP3:未変性ポリプロピレン(プライムポリマー社製、ホモポリマー、E111G、MFR0.5dg/min)
PP4:未変性ポリプロピレンブロック共重合体(東洋紡績社試作品、ブチレン5質量%共重合品、MFR 0.9dg/min)
EP1:エチレンプロピレンラバー(三井化学社製、タフマー0180)
MAH:粉末状無水マレイン酸(日油社製)
25B:有機過酸化物2,5ジメチル2,5ジ(t−ブチルパーオキシド)ヘキサン(180℃)、(日油社製、パーヘキサ25B)1分半減期温度 179.8℃
TA:タルク(林化成社製、ミクロンホワイト#5000)平均粒径4.1μm
ASP:カオリン(林化成社製、ASP200 )平均粒径0.4μm
表1に示した処方に予備混合して210℃に温度調節された二軸押出機にてスクリュー60回転にて溶融反応して得た。
炭素繊維:東邦テナックス社製、IMS40(単繊維径6.4μm、6000フィラメント)
【0026】
【表1】

【0027】
【表2】

【0028】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明により、強度のみならず靭性や耐衝撃性も高く、軽量な構造材として使用できる炭素長繊維強化複合材料を提供することができる。本発明により得られた炭素長繊維強化複合材料を成形して得られる成形部品は、自動車のフレーム部品や機械器具の構造部材やスポーツ器具などに使用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量平均長さが15mm以上の炭素長繊維(A)100質量部に対して、メルトフローレートが35〜150dg/minで、樹脂部分の赤外吸収スペルトル測定において、840cm−1の吸光度面積に対して、1790cm−1と1710cm−1の吸光度面積の和の比(酸変性度)が0.1〜1.2であり、プロピレン以外のα―オレフィン成分を含有し、かつ示差走査熱量計による融点が155〜170℃であるポリプロピレンブロック共重合体(B)50〜95質量部からなることを特徴とする炭素長繊維強化複合材料。
【請求項2】
炭素繊維(A)100質量部に対して、さらにプロピレンーα―オレフィンランダム共重合体(C)が1〜15質量部含まれることを特徴とする請求項1記載の炭素長繊維複合材料。
【請求項3】
タルク、カオリン、クレイ、マイカ、シリカ、アルミナ、炭酸カルシウムから選ばれた1種以上の無機化合物(D)が、さらに1〜10質量部含有されることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の炭素長繊維複合材料。
【請求項4】
炭素繊維(A)100質量部に対して、炭素長繊維(A)が、重量平均長さが30mm以上の炭素繊維であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の炭素長繊維複合材料。
【請求項5】
スタンピング成形用プリプレグであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の炭素長繊維強化複合材料。

【公開番号】特開2012−97170(P2012−97170A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−245100(P2010−245100)
【出願日】平成22年11月1日(2010.11.1)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】