説明

無人飛翔体の簡易手動飛行操縦システム

【課題】無人飛翔体の操縦にあたって特殊な熟練技能を必要とせずに、初心者が容易に安全に飛行させることを可能にする無人飛翔体の簡易手動飛行操縦システムを提供する。
【解決手段】コマンドを実行するオンボードコントローラ10の制御ロジックを運動の因果関係を逆に辿るダイナミック・インバージョン方式に基づいて各運動因子に係る動的システムの逆システムが内部コマンド生成器としてシリアルに結合した階層構造によって構築する。また、各内部コマンド生成器の入力段に遠隔操縦者の外部コマンドを優先的に取り込む外部コマンド入力部11,12,13,14を各々設け、対応する内部コマンドをその外部コマンドによってオーバーライドすることが出来るように構成する。また、簡易操縦装置20のユーザーインターフェースを、人間の直感的操縦感覚に合致したゲームパッド形式、例えば十字キー22によって構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無人飛翔体の簡易手動飛行操縦システム、特に無人飛翔体の操縦にあたって特殊な熟練技能を必要とせずに、初心者が容易かつ安全に飛行させることを可能にする無人飛翔体の簡易手動飛行操縦システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、小型無人航空機(模型飛行機)にオートパイロット(自動飛行制御装置)を搭載して、空撮、監視業務(河川・道路監視、危険地域監視、災害時映像取得)などに有効活用しようとする動きが活発になりつつある。無人機の発進・回収などの運用方法は機体規模により異なるが、離陸後は、あらかじめ設定したウエイポイント(waypoint)を通過させる完全自動モードが基本となる。このような小型無人航空機の飛行操縦システムの場合、位置・経路等の航路情報については機上計算機がGPS信号を基に算出している(例えば、特許文献1を参照。)。このようなGPS信号を基にした測位では、例えば、ビル群や山間部等においてはマルチパス(多重伝搬)によるフェーディング現象により、受信信号強度が不安定となり測位精度が劣化する場合が起こり得る。従って、小型無人航空機がこのような環境下で使用される場合、或いはこのような環境下で回収される場合、きわめて限られたスペースへの精密誘導が求められるため、小型無人航空機の操縦は、完全自動モードからラジコン送信機(通称R/Cプロポと呼ばれる無線装置)を用いた手動遠隔操縦モードに切り替えられることが一般的である。
図4は、一般的なラジコン送信機を示す斜視説明図である。
このラジコン送信機500は、操縦者が両手の平で保持した状態で両親指で十分に操作することができるように、2自由度(上下可動および左右可動)のスティックを2本備えている。小型無人航空機は通常、エルロン、エレベータ及びラダーの各操舵翼を駆動する3個のアクチュエータと、エンジンの出力を調整するアクチュエータの合計4個のアクチュエータを搭載している。例えば右スティックの上下の動きがエンジンのスロットルの駆動に対応し、左右の動きがエルロンの駆動に対応している。他方、例えば左スティックの上下の動きがエレベータの駆動に対応し、左右の動きがラダーの駆動に対応している。また、各スティックは通常、中立点に静止しており、各スティックの中立点からの移動量が各操舵翼の操舵量(Δδa,Δδe,Δδr)及びエンジンのスロットル開度に対応する。通常、操縦者は、機体姿勢を目視しながら左右2本のスティックを瞬時に上下左右に複雑微細操作してエンジン及び各操舵翼を制御し小型無人航空機の姿勢を安定に保ち、所定のエリアにこの無人航空機を安全に誘導している。ただし、小型無人航空機の運動は6自由度(回転3自由度+並進3自由度)とその非線形性のために、地上を走行する移動体と比較して、地上の遠隔操縦者にはより特殊な技能と多くの経験が要求される。特殊操縦技能者の必要性は、飛翔体運用コストを引き上げ、また一般ユーザー向け産業用/自家用飛翔体(有人/無人)の普及を妨げる一因となっている。また、未熟練者による飛行は安全性の観点からも問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−306254号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した通り、小型無人航空機(無人飛翔体)のラジコン送信機による手動遠隔操縦には、特殊技能が要求される。従って、ユーザーにはその技能を習得するための訓練が必要となり、その結果、小型無人航空機の運用コストを引き上げ、また一般ユーザー向け産業用/自家用小型無人航空機の普及を妨げる一因となっている。また、未熟練ユーザーによる小型無人航空機の運用は安全性の観点からも問題がある。
そこで、本発明が解決しようとする課題は、上記従来技術の問題点に鑑みなされたものであって、無人飛翔体の操縦にあたって特殊な熟練技能を必要とせずに、初心者が無人飛翔体を容易に安全に飛行させることを可能にする無人飛翔体の簡易手動飛行操縦システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的を達成するための請求項1に記載の無人飛翔体の飛行操縦システムは、予め設定されたフライトプランに沿って無人飛翔体が飛行するようにGPS及びセンサ情報を基に各アクチュエータの駆動量を自動的に制御する制御器と、該駆動量に係る該制御器の内部コマンドの一部を無効化しそれに代わる外部コマンドを無線によって前記飛翔体へ送信する外部コマンド送信手段とを備えた無人飛翔体の飛行操縦システムであって、
前記制御器は、前記駆動量が前記飛翔体の運動の因果関係の各運動因子を逆に辿ることにより決定されるダイナミック・インバージョン方式を基に、該運動因子の逆システムに対応する各内部コマンド生成器がシリアルに結合した階層構造を成し、且つ各内部コマンド生成器の入力段には前記外部コマンドを優先的に取り込む外部コマンド入力部を備えることを特徴とする。
上記無人飛翔体の飛行操縦システムは、各運動因子の逆システムに対応する各内部コマンド生成器がシリアルに結合した階層構造を成す制御器を備えた完全自動操縦システムである。そのため、上位の「フライトプラン」から末端の「アクチュエータの駆動」に到る一連の制御の流れが内部コマンドを介して段階的に明確に構成されている。従って、無人飛翔体を操縦するためには、その内部コマンドのみを変更すればよく、その内部コマンドを実行するための操舵翼の操舵等は上記制御器によって自動的に成されることになる。
また、後述するように、外部コマンドを入力するためのユーザーインターフェースがゲームパッド形式で構成されているため、操縦者は人間の直感的な操縦感覚で無人飛翔体を操縦することが出来るようになる。それに加えて、本発明の制御器は各内部コマンド生成器がシリアルに結合した階層構造を成しているため、外部コマンドに関する上限または下限の各設定については対応する内部コマンド生成に係るプログラム中で容易に設定することが可能である。これにより、操縦者のオーバーコマンドによる操縦ミスを未然に防止することが可能となり、無人飛翔体の安全な操縦に寄与することが出来るようになる。これにより、本飛行操縦システムは、高い安全性ならびに熟練技能を必要としない簡易操作性を実現することが出来るようになる。
【0006】
請求項2に記載の無人飛翔体の飛行操縦システムでは、前記外部コマンド送信手段は、無効化したい前記制御器に係る飛行モード及び内部コマンドを選択するコマンド選択画面と、前記外部コマンドを手動で入力・送信するためのゲームパッド形式のユーザーインターフェースを備えることとした。
上記無人飛翔体の飛行操縦システムでは、上記ゲームパッド形式のユーザーインターフェースを備えるため、操縦者は人間の直感的な操縦感覚で無人飛翔体を簡易に安全に操縦することが出来るようになる。
【0007】
請求項3に記載の無人飛翔体の飛行操縦システムでは、前記ゲームパッド形式のユーザーインターフェースは、ボタン、スティック又はホイールの何れか或いはこれらの組合せから成ることとした。
上記無人飛翔体の飛行操縦システムでは、上記特徴のユーザーインターフェースを備えるため、より人間の直感的な操縦感覚で無人飛翔体を簡易に安全に操縦することが出来るようになる。
【0008】
請求項4に記載の無人飛翔体の飛行操縦システムでは、前記飛翔体の方位情報をχ、同方位の内部コマンド値をχcmd、これらの偏差をΔχ(=χ−χcmd)、該偏差の時間微分をd(Δχ)/dtとする時、前記制御器はロールレートコマンドPcmd、あるいはヨーレートコマンドRcmdを、Δχおよびd(Δχ)/dtの一次結合に基づいて生成することとした。
上記無人飛翔体の飛行操縦システムでは、高度・進行方位コマンドから直接に角速度コマンドを計算するPID制御構造が採用されているため、姿勢角制御器を省くことが可能となり、廉価な超小型超軽量MEMSセンサ(ジャイロ、加速度計、圧力計)、GPS、100MIPS程度の省電力CPUにより、自動/自律飛行に必要なアビオボードを構成することができる。
【0009】
請求項5に記載の無人飛翔体の飛行操縦システムでは、前記飛翔体の対気速度情報をV、同対気速度の内部コマンド値をVcmd、これらの偏差をΔV(=V−Vcmd)、該偏差の時間微分をd(ΔV)/dt、該偏差の時間積分を∫ΔVdtとする時、前記制御器はピッチレートコマンドQcmdをV、ΔV、d(ΔV)/dtおよび∫ΔVdtの一次結合に基づいて生成することとした。
上記無人飛翔体の飛行操縦システムでは、高度・進行方位コマンドから直接に角速度コマンドを計算するPID制御構造が採用されているため、姿勢角制御部を省くことが可能となり、廉価な超小型超軽量MEMSセンサ(ジャイロ、加速度計、圧力計)、GPS、100MIPS程度の省電力CPUにより、自動/自律飛行に必要なアビオボードを構成することができる。
【0010】
請求項6に記載の無人飛翔体の飛行操縦システムでは、前記飛翔体の方位情報をχ、同方位の内部コマンド値をχcmdとする時、前記制御器はヨーレートコマンドRcmdを、d(Δχcmd)/dtに基づいて生成することとした。
上記無人飛翔体の飛行操縦システムでは、高度・進行方位コマンドから直接に角速度コマンドを計算するPID制御構造が採用されているため、姿勢角制御部を省くことが可能となり、廉価な超小型超軽量MEMSセンサ(ジャイロ、加速度計、圧力計)、GPS、100MIPS程度の省電力CPUにより、自動/自律飛行に必要なアビオボードを構成することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の無人飛翔体の飛行操縦システムは、その制御ロジックが飛翔体の運動の因果関係を逆に辿ることにより決定されるダイナミック・インバージョン方式を基に、各運動因子に係る動的システムの逆システムが内部コマンド生成器としてシリアルに結合した階層構造によってその制御器が構築され、且つその内部コマンドの一部又は全部について外部コマンドによってオーバーライド出来るように外部コマンドを優先的に取り込む外部コマンド入力部を備え、予め設定された飛行プランを実現するように各アクチュエータの駆動量に係る内部コマンドを自動的に生成する完全自動操縦システムである。従って、飛翔体の操縦に際し操縦者は飛翔体の位置・姿勢・速度等に関する外部コマンドを入力するだけでよくその外部コマンドを実現するための各アクチュエータの駆動量に係る内部コマンドは制御器によって自動的に生成されることになる。
また、操縦者が外部コマンドを入力するユーザーインターフェースが人間の直感的な操縦感覚で行うことが出来るゲームパッド形式を基に設計されている。
また、制御器が上記階層構造を成すことにより、外部コマンドに対する上限または下限の設定が内部コマンド生成に係るプログラム中で容易に設定することが可能となる。その結果、無人飛翔体の操縦にあたり、特殊な熟練技能は特に必要とされなく成ると共に、操縦に係る労力が大幅に軽減されることなる。従って、本無人飛翔体の飛行操縦システムによれば、初心者が無人飛翔体を容易に安全に飛行させることを可能にする。
また、本発明の無人飛翔体の飛行操縦システムは、姿勢角センサからの姿勢角情報に依らない無人自動操縦飛行が可能であり、無人機の飛行操縦システムの低コスト化、軽量化、および省電力化を実現することが可能である。これにより、無人機の用途と市場拡大に大きく貢献することができる。
さらに本発明は無人機のみならず、自動車を運転するのと同等の技量で、有人飛翔体を自在に操縦可能とする技術ともなり得、将来の新交通システムにおけるエアタクシー、さらにはマイカー感覚で保有できる自家用飛行機の普及に貢献できる可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の簡易手動飛行操縦システムを示すブロック説明図である。
【図2】本発明の制御器の制御則を示すフロー図である。
【図3】本発明に係るオンボードコントローラとHILSを用いた飛行シミュレーションを示すブロック説明図である。
【図4】一般的なラジコン送信機を示す斜視説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図に示す実施の形態により本発明をさらに詳細に説明する。
【0014】
図1は、本発明の簡易手動飛行操縦システム100を示すブロック説明図である。
この簡易手動飛行操縦システム100は、熟練技能を有しないユーザーでもゲーム用コントローラのような簡易な操縦装置を用いて、熟練技能に依らずに人間の直感的な操縦感覚で無人航空機(無人飛翔体)を安全に飛行させることを可能にする。その構成は、機体上に搭載され、予め設定されたフライトプランを実現するようにGPS又はセンサ情報を基に各アクチュエータの駆動量(操舵翼の操舵量、エンジンのスロットル)に係る内部コマンドを自動的に生成するオンボードコントローラ10と、遠隔操縦者の外部コマンドを受け取りその外部コマンドを無線を介してオンボードコントローラ10へ送信する外部コマンド送信手段としての簡易操縦装置20とを具備して構成される。なお、この簡易手動飛行操縦システム100では、航路方位角(χg)、対地速度(Vg)、航路上昇角(γg)および慣性軸に沿った位置/方位情報(X,Y,Z)についてはGPS信号から取得し、機体軸回りの角速度情報(P,Q,R)についてはジャイロから取得し、動圧(q-)及び気圧高度(HP)については気圧計から取得する。また、姿勢角情報(φ,θ,ψ)については好ましくはAHRS(Attitude Horizontal Reference System)から取得するが、後述するように、低コスト化、軽量化および省電力化を達成するために、AHRH信号によらない制御則を採用することも可能である。
【0015】
また、制御の詳細については後述するが、この簡易手動飛行操縦システム100は、無人飛翔体が予め設定されたフライトプランを実現するようにオンボードコントローラ10が無人飛翔体の位置・速度・姿勢・角速度・操舵等についての各内部コマンドを自動的に生成する完全自動飛行操縦システムである。しかし、オンボードコントローラ10が生成する各内部コマンドについては一時的に無効化(オーバーライド)すること出来るように構成されている。例えば、無人飛翔体のクロストラックエラーを小さくしてウエイポイントを通過させたい場合、或いは限られた狭いエリアに飛翔体を精度良く誘導・回収したい場合、基地局にいる遠隔操縦者は簡易操縦装置20を用いて、オンボードコントローラ10によって生成される無人飛翔体の位置・速度・姿勢・角速度・操舵等についての内部コマンドの一部又は全部を無効化し、それに代わる位置・速度・姿勢・角速度・操舵についての新たな外部コマンドを入力することが出来るように構成されている。その際、遠隔操縦者は無人飛翔体の飛行状態を目視または基地局のモニタ画面を確認しながら外部コマンドを簡易操縦装置20を介して送信する。このように、この簡易手動飛行操縦システム100では、無人飛翔体の操縦に際し、遠隔操縦者は外部コマンドを送信するだけでよく、その外部コマンドを実行するための各操舵翼の操舵量に係る各アクチュエータの駆動はオンボードコントローラ10によって自動的に成されることになる。従って、無人飛翔体の操縦に際し、遠隔操縦者には操縦に関する熟練技能は特に必要とされなくなる。
【0016】
オンボードコントローラ10は、その制御則がダイナミック・インバージョン(動的逆)の考え方に基づいて設計されている。なお、ダイナミック・インバージョンとは運動の因果関係(操舵→モーメント→角速度→姿勢角→力→速度→位置/方位)を逆に辿ること(位置/方位→速度→力→姿勢角→角速度→モーメント→操舵)により、操舵量を決定するという考え方である。
従って、オンボードコントローラ10の基本的な構成は、実機の位置/方位に関する動的システム(DP)の逆システムDP-1、実機の速度等に関する動的システム(DV)の逆システムDV-1、実機の姿勢角に関する動的システム(DA)の逆システムDA-1、並びに実機の操舵翼の操舵角に関する動的システム(DR)の逆システムDR-1が内部コマンド生成器としてシリアルに結合した階層制御モデルとなっている。なお、オンボードコントローラ10の制御則については、図2を参照しながら後述する。
【0017】
また、各逆システム(内部コマンド生成器)は入力段に簡易操縦装置20から送信される外部コマンドを優先的に取り込む外部コマンド入力部11,12,13,14を各々備えている。この外部コマンド入力部をアクティブにするには、簡易操縦装置20から送信される外部コマンドによって行われる。この場合、オンボードコントローラ10の関連のコマンド生成部が生成するコマンドは無効化(オーバーライド)され、無人飛翔体は簡易操縦装置20からの外部コマンドに従って制御が成されることになる。
【0018】
簡易操縦装置20は、操縦者がオーバーライドしたい飛行モード又は内部コマンドを選択するコマンド選択画面21、操縦者が外部コマンドを入力する十字キー22、その外部コマンドをオンボードコントローラ10へ送信するアンテナ23を備えている。また、コマンド選択画面21に表示される飛行モードとしては、例えば無人飛翔体が予め設定したウエイポイントを完全自動で辿る「WPTNAV(=Waypoint Navigation)」モード、無人飛翔体がベース基地に自動的に帰還し上空で待機飛行を行う「RTB(=Return To Base)」モード、内部コマンドとしては無人飛翔体の高度/方位に係る「ALTI/AZIMUTH」コマンド、無人飛翔体の姿勢角に係る「ROLL/PITCH」コマンド、無人飛翔体の3軸回りの角速度に係る「RATEコマンド等である。なお、図1(b)は、操縦者がコマンド選択画面11において「ALTI/AZIMUTH」コマンドを選択した場合の十字キーの各位置の機能を表している。例えば操縦者が右のキーを押すと、簡易操縦装置20は機体を右に旋回させる外部コマンドをオンボードコントローラ10へ送信することになる。なお、旋回量についてはデフォルト値として制御プログラム中に設定しておくこと、又はフライトプランに基づいて自動的に算出すること、或いは操縦者が直接入力することが可能である。また、操縦者の外部コマンドを入力するインタフェース形状については、人間の直感的操縦感覚に合致するものであれば良く、従ってその形状は十字タイプだけに限らず、スティックタイプ又はホイールタイプであっても良い。
【0019】
簡易操縦装置20は、技術的には、PDAと呼ばれるような小型携帯端末に、無線モデム、および十字キーのような直感的な操作がしやすいコントローラを埋め込んだUAV(Unmanned Aerial Vehicle)操縦専用の携帯型小型装置の開発も可能である。
【0020】
図2は、オンボードコントローラ10の制御則の概要を示すフロー図である。
オンボードコントローラ10は、上述した通り、ダイナミック・インバージョン(動的逆)の考え方に基づき以下の手順で各操舵量に係る各アクチュエータの駆動量を決定している。なお、本実施例では、エンジンのスロットルは一定とし無人飛翔体のフライト制御は操舵翼(エルロン、エレベータ、ラダー)の操舵によって行われる。
【0021】
ステップS1として:進行方向を変更するために必要な揚力ベクトルの傾きをロール角(φ)コマンドφcmdで与える。さらに所望の高度変化を発生させるための対気速度制御を考えるが、そのためのピッチ角(θ)コマンドθcmdを与える。この手順は、高度コマンドHcmd、方位コマンドχcmd、対地速度Vg、対気速度V、GPSからの方位情報χg、気圧計からの気圧高度HPを用いて以下の通り定式化することが出来る。
φcmd=(Vg/g)KχΔχ ・・・(1)
但し、Δχ=χg−χcmd
θcmd=wθah+(1-w)θsp ・・・(2)
但し、θah=θbasic+KHΔH
・・・(3)
θsp=θbasic+KVPΔV+KVI∫ΔVdt ・・・(4)
【数5】

ΔH=HP−Hcmd、ΔV=V−Vcmd
また、
【数6】

また、係数wについては、ΔHの値に応じて下図によって決定される。

【0022】
ステップS2として:上記ステップS1で与えられた姿勢角コマンドを実現するための機体軸角速度(ロールレートP、ピッチレートQ、ヨーレートR)コマンドPcmd,Qcmd,Rcmdを生成する。
即ち、χcmd,Hcmd→Pcmd,Qcmd,Rcmd
従って、ロールレートコマンドPcmdを次のように計算する。
Pcmd=KχP・Δχ+KχD・d(Δχ)/dt ・・・(7)
ここで、Δχ=χGPS−χcmdであり、搭載GPSの更新レートに合わせて1Hz処理とする。χcmdは旋回時のバンク角が大きくなり過ぎないよう、無理なく追従可能なものとする必要がある。そのために、リミッタ、レートリミッタを挿入する方が好ましい。
他方、ピッチレートコマンドQcmdは、高度・速度制御の観点から次のように計算する。先ず、高度誤差ΔHから対気速度コマンドVcmdを次式より生成する。
cmd=KχP・ΔH+KχD・d(ΔH)/dt ・・・(8)
さらに、対気速度V→Vcmdとする対気速度制御を達成するために、以下のようにピッチレートコマンドQcmdを計算する。
cmd=KVP・ΔV+KVD・d(ΔV)/dt+KVI∫ΔVdt ・・・(9)
残るヨーレートコマンドRcmdについては、上記(7)式に示すようにΔχ、d(Δχ)/dtの1次結合により計算する方法、あるいは旋回時横滑りをできるだけ抑えることを目的に設定することが考えられるが、ここでは簡易な方法として次のようにした。
Rcmd=d(χcmd)/dt ・・・(10)
以上いずれのコマンドを計算する際にも微分操作が必要となるが、計算レートを考慮した適切な微分器を用いる。また、標準的なPID制御と同様、積分器を用いる場合はアンチワインドアップ処理を施す。
【0023】
ステップS3として:上記ステップS2で要求された角速度を発生するためのモーメント(ローリングモーメントL、ピッチングモーメントM、ヨーイングモーメントN)コマンドLcmd,Mcmd,Ncmdを計算する。
以下のように計算しコマンドとする。
【数11】

【0024】
ステップS4として:上記ステップS3で要求されたモーメントを発生するための操舵(エルロン、エレベータ、ラダー)コマンドΔδa,Δδe,Δδrを計算する。これら操舵コマンドはPWN信号に変換されサーボモータを駆動する。
即ち、Lcmd,Mcmd,Ncmd→Δδa,Δδe,Δδr
従って、上で求められたモーメントを発生させるための操舵量(変化分)を以下のように計算する。
【数12】

【数13】

【数14】

ここで、Clδr,Cnδaは、Clδa,Cnδrに比べて1桁小さい値であるので無視している。また、それら係数のαに対する変化もかなり小さいので適当な固定値で代表させている。こうした近似の影響は舵効き誤差として、制御系のロバスト性確保により吸収する。(12)−(14)式のΔf(・)は、モーメントコマンドの差分操作を表し、高周波ゲインを落とした適当な線形フィルタで実現する。
【0025】
以上がオンボードコントローラ10の制御則の基本手順である。ただし、上記ステップS2の計算には精度の良い姿勢角センサ(例えば、AHRS)が必要となるが、低コスト化、軽量化、省電力化を実現し無人機の普及を図るため、敢えて上記ステップS1−S2から姿勢角制御部を省き、高度・進行方位コマンドから直接角速度コマンドを計算するPID制御構造を採用することも可能である。その場合、Qbasicとして、
Qbasic=(g/V)tanφsinφに代えて、
Qbasic=(V/g)・R2
を使用する。
【0026】
また、上記飛行操縦システム構築に必要となる機体モデルについて、上記制御則設計に関連する数式のみを簡単に記述する。
・回転の運動方程式(重心位置原点の機体固定座標系)
【数15】

・キネマティックス
【数16】

ここで、P,Q,Rはそれぞれロール軸、ピッチ軸、ヨー軸回りの角速度、φ,θ,ψはそれぞれロール角、ピッチ角、ヨー角を表す。Ωは機体姿勢角を用いて表される次の行列であり、
【数17】

また、Iは慣性モーメントと慣性乗積から成る次の行列である。
【数18】

また、L,M,Nはそれぞれ空気力によるロール軸、ピッチ軸、ヨー軸回りのモーメントで、以下のように表される。
【数19】

【数20】

【数21】

ここで、q-,S,b,cはそれぞれ動圧、主翼面積、翼幅、空力平均翼弦長を表す。各空力係数は迎え角α、横滑り角β、操舵量δaerの関数として以下のように表される。なお、下記数式中の静安定微係数は風洞試験の結果より得られる。動安定微係数Clp,Cmq,Cnrは適当な推算値を用いる。
Cl=C(α)・β+Clδa(α)・δa+Clδr(α)・δr+Clp(α)・(b/(2V))P ・・・(22)
Cm=C・α+Cmδe(α)・δe+Cmq(c/(2V))Q ・・・(23)
Cn=C(α)・β+Cnδa(α)・δa+Cnδr(α)・δr+Cnr(b/(2V))R ・・・(24)
【0027】
(上記誘導制御則の特徴)
本誘導制御則はダイナミック・インバージョンの考え方にもとづき操舵量を決定していることから、以下のような特徴を有する。
(1)飛行制御ロジックの階層構造化
飛行力学的意味づけと対応する形で飛行制御ロジックが階層構造化されるので制御系の内容がわかりやすい。自律化、知能化、適応化、最適化などの追加機能をダイナミックスのどの部分に埋め込むか、要求とその可能性を段階的に検討することができる。制御ロジックの妥当性検証も段階的に行うことができる。結果的に、制御ソフトウエアもシーケンシャルな手続きとして関数化され、バグ存在箇所の切り分けなど不具合対応も容易である。
(2)線形化が不要
線形モデルを求める必要がないので、設計時間の短縮につながる。通常、飛行条件(速度、動圧、迎え角など)が拡大していくと、線形化誤差が無視できないほど大きくなる。この場合、複数の設計点を選択し、対応する複数線形モデルに対して制御系を設計する必要がある。複数モデルに対する代表的な制御系設計方式として、MDM/MDPアプローチ(実践的なロバスト制御系設計手法で、特に飛行制御において実績がある。)、ゲインスケジューリング(応用例多数)などがあるが、本発明に係るダイナミック・インバージョンアプローチではこのような作業が不要となる。
(3)機体モデルを直接参照する制御構造
機体諸元(主翼面積、スパン、空力平均翼弦長)を上記ステップS4で、慣性特性(慣性モーメント、慣性乗積)をステップS3で、空力モデル(舵効き)をステップS4で、さらに必要に応じて推力モデルを直接参照する構造となっているので、対象機体が変更されても、簡単なゲイン調整で容易に対応することができる。動圧補償も自然な形で組み込まれる(ステップS4)。機体モデル直接参照の構造は、それらの同定部を追加することにより間接型適応制御系が構成され、知能化、適応化といった機能拡張にも対応が可能である。
(4)制御配分が容易
操舵面の増加などアクチュエータサイドの冗長性に対して、ステップS3で求められたモーメントコマンドLcmd,Mcmd,Ncmdを、ステップS4で各舵面に自由に配分できるので、適当な最適化計算などを併用して制御配分の要求に対応できる。
【0028】
本発明の簡易手動操縦システム100が、以下のロバスト性能要求を満足していることをシミュレーションにより確認する。ゲイン調整は概ね以下のような手順となる。
まず、角速度制御性能に関して(いわゆるインナーループ)、以下の安定余裕と時間応答性能を満足するようにゲインを調整する。
(要求1)安定余裕
ゲイン余裕として、例えば[一6dB,+6dB]、時間遅れ余裕として、例えば0,15秒程度
(要求2)時間応答(ステップ応答性能)
整定時間として、例えばTBD[sec]、オーバーシュートとして、例えばTBD[%]
次に、高度・速度制御、方位制御に関する(いわゆるアウターループ)ゲインを調整し性能を確認する。GPSの遅れを考慮するとあまりハイゲインにはできないので注意が必要である。
最後に想定されるさまざまな誤差に対するロバスト性を確認する。必要に応じてゲインの再チューニングを行う。
(要求3)さまざまな不確定性に対する安定性
・アクチュエータ誤差(ラジコン用サーボモータ)
・ジャイロ誤差(一般的な民生用MEMS半導体ジャイロを用いた場合、高精度は望めない。温度ドリフトなどの補正も特に行っていないので、バイアス誤差も存在する。)
・GPS信号の遅れ(搭載するGPSの更新レートが1Hzであること、加えて無線の伝送遅れなど、最大2秒の遅れを想定する必要がある。)
・慣性特性誤差(標準的な搭載物に対して積み上げ式で計算された値を用いる。実際には飛行毎に搭載物は異なるので、誤差が存在する。)
・空力特性誤差(静安定微係数は風洞試験にもとづいているが、動安定微係数は推算値であり、大きな誤差要因である。また、模型飛行機は構造がバルサ材であることが多いので、空力舵面の歪み、たわみなどが舵効きの誤差要因となり得る。)
・重心位置誤差(飛行前に重心位置測定を行うが、あくまでも妥当な範囲内にあることを確認することが目的である。飛行毎に重心位置は異なるので、誤差要因となり得る。)
・風(定常風+角速度を振動的にする確率ノイズ)
【0029】
簡易飛行操縦ソフトウェアの検証
誘導制御ロジックの検証
MATLAB/Simulinkモデルを用いてシミュレーションを行った。誘導制御ブロックは図1に示した階層構造としてSimulinkモデルを作成。段階的に制御ロジックの妥当性を、インナーループ(角速度制御)からアウターループ(方位制御、高度・速度制御)へと順に確認していく。ロバスト性能を考慮したゲインの調整もここで行う。
【0030】
ソフトウエア製作とハードウェア・イン・ザ・ループ・シミュレーション(Hardware In the Loop Simulation,以下「HILS」という。)
HILSとは、実機の6自由度運動方程式、空力モデル、センサモデル、アクチュエータモデル及びスラストモデルを模擬したシミュレーションモデルである。また、図2で述べた誘導制御ロジックを以下のように5つの関数としてコーディングした。各関数は50secで処理されるが、その中には1sec毎の処理が混在するので注意が必要である。
Function(1):センサ情報を加工
(静圧[hPa]→気圧高度[m]→移動平均処理、差圧[hPa]→対気速度[m/s]、緯度・経度→XY座標[m]など)

Function(2):方位・高度コマンド生成(GPS更新タイミングでのみ行う処理を含む)

WPTナビゲーションモードでは、ウエイポイント到達判断、ウエイポイント入替、クロストラックエラーの計算を行い方位・高度コマンドχcmd,Hcmdを生成する。簡易操縦モードでは、ここで地上局からのコマンドによリオーバーライドする。

function(3):角速度コマンド生成(GPS更新タイミングでのみ行う1Hz処理を含む)
方位・高度コマンドχcmd,Hcmdにもとづき角速度コマンドPcmd,Qcmd,Rcmdを生成する。基本的にPID制御構造であるがノウハウ必要。

function(4):操舵コマンド生成(角速度制御部、20Hz処理)
角速度制御のためのモーメントコマンドLcmd,Mcmd,Ncmdを生成、それにもとづきエルロン、エレベータ、ラダー操舵変動分Δδa,Δδe,Δδrを計算する。フィードバック線形化を用いる。

Function(5):操舵コマンド[rad]をPWM出力[μsec]に変換
あらかじめ計測した物理的な操舵角度とPWM値の関係を用いて変換する。
【0031】
各関数の入出力と、対応するMATLAB/Simulinkモデルで作成したブロックの入出力がほぼ一致することを確認し、HILSに移行する。図3に示すように、機体搭載の飛行制御モジュール(オンボードコントローラ10)とリアルタイムシミュレータ(HILS)をシリアルラインで接続し、操舵情報とセンサ情報をやり取りしながらシミュレーションを行い、飛行の妥当性を確認する。主翼、尾翼を接続することにより、操舵の状況も目視で確認できる。
【0032】
地上確認試験
機体を自動車屋根に固定し、屋外にて実際にGPS信号を受信しつつ移動しながら、各変数の妥当性を確認する。機体の回転運動は抑えられているものの、実際のセンサ情報が搭載ソフトウエアで処理されるという意味で、最も実飛行時に近い形態での試験である。特に、ウエイポイントの切替わり、クロストラックエラー符号や大きさの妥当性確認に有効である。
【0033】
飛行実証
実験システム概要
飛行実証を行ったのでその概要を述べる。実験で用いたシステム概要を表1に示す。WPTNAVモード、RTBモードでの飛行確認後、簡易操縦モードに切り替え、ラジコン操縦が全く未経験のユーザーが操縦を担当した。しかし、方位・高度の制御はゲーム感覚で行うことができ、期待した通りの成果が得られ概ね良好であった。
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明の無人飛翔体の飛行操縦システムは以下の分野に対し好適に適用することが可能である。
(1)移動手段としての産業用/自家用飛翔体
(2)無人機を用いた監視・観測業務(河川、道路、作物生育状況、植生、災害時被害状況などの空撮)
(3)ホビー用飛行ロボット市場
【符号の説明】
【0035】
10 オンボードコントローラ
20 簡易操縦装置
21 コマンド選択画面
22 十字キー
23 アンテナ
100 簡易手動飛行操縦システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め設定されたフライトプランに沿って無人飛翔体が飛行するようにGPS及びセンサ情報を基に各アクチュエータの駆動量を自動的に制御する制御器と、該駆動量に係る該制御器の内部コマンドの一部を無効化しそれに代わる外部コマンドを無線によって前記飛翔体へ送信する外部コマンド送信手段とを備えた無人飛翔体の飛行操縦システムであって、
前記制御器は、前記駆動量が前記飛翔体の運動の因果関係の各運動因子を逆に辿ることにより決定されるダイナミック・インバージョン方式を基に、該運動因子の逆システムに対応する各内部コマンド生成器がシリアルに結合した階層構造を成し、且つ各内部コマンド生成器の入力段には前記外部コマンドを優先的に取り込む外部コマンド入力部を備えることを特徴とする無人飛翔体の飛行操縦システム。
【請求項2】
前記外部コマンド送信手段は、無効化したい前記制御器に係る飛行モード及び内部コマンドを選択するコマンド選択画面と、前記外部コマンドを手動で入力・送信するためのゲームパッド形式のユーザーインターフェースを備える請求項1に記載の無人飛翔体の飛行操縦システム。
【請求項3】
前記ゲームパッド形式のユーザーインターフェースは、ボタン、スティック又はホイールの何れか或いはこれらの組合せから成る請求項2に記載の無人飛翔体の飛行操縦システム。
【請求項4】
前記飛翔体の方位情報をχ、同方位の内部コマンド値をχcmd、これらの偏差をΔχ(=χ−χcmd)、該偏差の時間微分をd(Δχ)/dtとする時、前記制御器はロールレートコマンドPcmd、あるいはヨーレートコマンドRcmdを、Δχおよびd(Δχ)/dtの一次結合に基づいて生成する請求項1に記載の無人飛翔体の飛行操縦システム。
【請求項5】
前記飛翔体の対気速度情報をV、同対気速度の内部コマンド値をVcmd、これらの偏差をΔV(=V−Vcmd)、該偏差の時間微分をd(ΔV)/dt、該偏差の時間積分を∫ΔVdtとする時、前記制御器はピッチレートコマンドQcmdをV、ΔV、d(ΔV)/dtおよび∫ΔVdtの一次結合に基づいて生成する請求項1に記載の無人飛翔体の飛行操縦システム。
【請求項6】
前記飛翔体の方位情報をχ、同方位の内部コマンド値をχcmdとする時、前記制御器はヨーレートコマンドRcmdを、d(Δχcmd)/dtに基づいて生成する請求項1に記載の無人飛翔体の飛行操縦システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−51470(P2011−51470A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−201939(P2009−201939)
【出願日】平成21年9月1日(2009.9.1)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2009年3月4日〜6日 社団法人計測自動制御学会制御部門主催「第9回計測自動制御学会 制御部門大会 講演論文集」(2009年3月4日発行)
【出願人】(503361400)独立行政法人 宇宙航空研究開発機構 (453)
【出願人】(509246356)有限会社デジタルプラス (1)
【Fターム(参考)】