説明

無効電力補償装置およびその制御方法

【課題】負荷の各線路間に流れる電流に基づいて無効電力の補償量を調整可能にする。
【解決手段】無効電力補償装置(1)は、三相電力系統(2)の各相に対応したスイッチング素子を有し、当該スイッチング素子がスイッチング動作することで三相電力系統の各相に補償無効電力を供給する主回路(17)と、負荷(3)の各線路に流れる三相三線電流を負荷の各線路間に流れる三相電流に変換するY−Δ変換手段(11)と、三相電流のそれぞれのd軸電流およびq軸電流を検出するdq軸電流検出手段(12)と、検出された三相電流のそれぞれのq軸電流に基づいて、主回路のスイッチング素子のスイッチング動作を制御するドライブ回路(15)とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三相電力系統に接続された負荷が発生する無効電力を補償して系統の電圧を安定化する無効電力補償装置およびその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アーク炉や圧延機などの負荷変動が激しい大型産業用電気設備が電力系統に接続されると、系統電圧の変動やフリッカなどの電力障害が発生する。電力会社が供給する電力は同じ配電線から複数の需要家へもたらされるため、ある需要家の電気設備が引き起こした電力障害は同じ配電線路にある他の需要家にも影響を及ぼしてしまう。そこで、そのような電力障害を引き起こすおそれのある電気設備を有する需要家は、無効電力補償装置を設置して電力系統の電圧を安定化する必要がある。
【0003】
一般に、無効電力補償装置は、負荷が発生する無効電力を補償して、需要家側から電力系統側に供給される無効電力を常に一定に保つ。具体的には、無効電力補償装置は、負荷の各線路に流れる電流を三相/二相変換およびdq変換して対称座標変換理論に基づく正相dq軸電流成分および逆相dq軸電流成分を検出することで負荷が発生する瞬時無効電力を検出し、当該検出した瞬時無効電力に基づいて主回路のスイッチング素子を制御することで、進相から遅相までの無効電力を電力系統に連続的に供給する(例えば、特許文献1から3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−245383号公報
【特許文献2】特開平7−200084号公報
【特許文献3】特開2000−59995号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の無効電力補償装置では負荷の各線路に流れる電流を正相および逆相dq軸電流成分に変換しているが、例えば、サイリスタを使用した他励式の無効電力補償装置では、無効電力を調整するためのサイリスタおよびリアクトルが電力系統の線路間に接続されるため、負荷の各線路間に流れる電流に基づいて無効電力の補償量を決定する方が都合がよい。また、負荷が発生する無効電力は負荷不平衡によっても変動するが、従来の無効電力補償装置で負荷不平衡に起因する無効電力の補償まで行うことは困難である。
【0006】
上記問題に鑑み、本発明は、負荷の各線路間に流れる電流に基づいて無効電力の補償量を調整可能な無効電力補償装置およびその制御方法を提供することを目的とする。さらに、そのような無効電力補償装置およびその制御方法において負荷不平衡に起因する無効電力の補償をも可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一局面に従うと、例えば、三相電力系統に接続された負荷が発生する無効電力を補償する無効電力補償装置は、前記三相電力系統の各相に対応したスイッチング素子を有し、当該スイッチング素子がスイッチング動作することで前記三相電力系統の各相に補償無効電力を供給する主回路と、前記負荷の各線路に流れる三相三線電流を前記負荷の各線路間に流れる三相電流に変換するY−Δ変換手段と、前記三相電流のそれぞれのd軸電流およびq軸電流を検出するdq軸電流検出手段と、前記検出された前記三相電流のそれぞれのq軸電流に基づいて、前記主回路の前記スイッチング素子のスイッチング動作を制御するドライブ回路とを備えている。これにより、負荷の各線路間に流れる電流に基づいて無効電力の補償量を調整することができる。
【0008】
上記の無効電力補償装置は、前記検出された前記三相電流のd軸電流に基づいて、前記負荷に流れる不平衡電流として、前記負荷の各線路間に流れる三相無効電流を検出する不平衡電流検出手段と、前記検出された三相無効電流を、前記ドライブ回路に入力される前記三相電流のq軸電流に相ごとに加算または減算する演算手段とを備えていてもよい。これにより、負荷不平衡に起因する無効電力の補償が可能となる。
【0009】
また、本発明の別の局面に従うと、例えば、三相電力系統の各相に対応したスイッチング素子を有する主回路を備え、前記三相電力系統に接続された負荷が発生する無効電力を前記スイッチング素子をスイッチング動作させることで補償する無効電力補償装置の制御方法は、前記負荷の各線路に流れる三相三線電流を前記負荷の各線路間に流れる三相電流にY−Δ変換するステップと、前記三相電流のそれぞれのd軸電流およびq軸電流成分を検出するステップと、前記検出された前記三相電流のそれぞれのq軸電流に基づいて、前記主回路の前記スイッチング素子のスイッチング動作を制御するステップとを備えている。これにより、負荷の各線路間に流れる電流に基づいて無効電力の補償量を調整することができる。
【0010】
上記の無効電力補償装置制御方法は、前記検出された前記三相電流のd軸電流に基づいて、前記負荷に流れる不平衡電流として、前記負荷の各線路間に流れる三相無効電流を検出するステップと、前記検出された三相無効電流を、前記スイッチング素子を制御するステップで参照される前記三相電流のq軸電流に相ごとに加算または減算するステップとを備えていてもよい。これにより、負荷不平衡に起因する無効電力の補償が可能となる。
【発明の効果】
【0011】
上記のように、本発明によると、無効電力補償装置が負荷の各線路間に流れる三相電流に基づいて無効電力の補償量を調整できるようになる。さらに、負荷不平衡に起因する無効電力を補償することも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態に係る無効電力補償装置の概略構成図
【図2】他励式SVCに用いられる主回路の回路構成図
【図3】図2の変形例に係る主回路の回路構成図
【図4】自励式SVCに用いられる主回路の回路構成図
【図5】図4の変形例に係る主回路の回路構成図
【図6】Y−Δ変換手段のブロック図
【図7】dq軸電流検出手段のブロック図
【図8】負荷電圧および負荷電流のフェーザ図
【図9】不平衡電流検出手段のブロック図
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら本発明を実施するための形態について説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0014】
(無効電力補償装置の概要)
図1は、本発明の一実施形態に係る無効電力補償装置の概略構成を示す。本実施形態に係る無効電力補償装置1は、Y−Δ変換手段11と、dq軸電流検出手段12と、不平衡電流検出手段13と、演算手段14と、ドライブ回路15と、位相角検出手段16と、主回路17とを備えており、三相電力系統2に接続された負荷3が発生する無効電力を補償する。
【0015】
Y−Δ変換手段11は、負荷3の各線路a,b,cに流れる三相三線電流Ia,Ib,Icを負荷3の各線路間ab,bc,caに流れる三相電流Iab,Ibc,Icaに変換する。dq軸電流検出手段12は、三相電流Iab,Ibc,Icaのそれぞれのd軸電流Iabd,Ibcd,Icadおよびq軸電流Iabq,Ibcq,Icaqを検出する。不平衡電流検出手段13は、Iabd,Ibcd,Icadに基づいて、負荷不平衡に起因して負荷3の各線路間ab,bc,caに流れる無効電流Iabu,Ibcu,Icauを検出する。演算手段14は、Iabq,Ibcq,IcaqとIabu,Ibcu,Icauとを相ごとに加算または減算して負荷3の各線路間ab,bc,caの無効電流Iabr,Ibcr,Icarを算出する。ドライブ回路15は、Iabr,Ibcr,Icarに基づいて制御信号を出力して主回路17を制御する。位相角検出手段16は、負荷3の各線路a,b,cの瞬時電圧Va,Vb,Vcに基づいて、Y−Δ変換やdq変換などで必要となる各種位相角を検出する。主回路17は、後述するように三相電力系統2の各線路a,b,cに対応したスイッチング素子を有し、ドライブ回路15の制御信号に従って当該スイッチング素子がスイッチング動作することで三相電力系統2の各線路a,b,cに補償無効電力を供給する。
【0016】
なお、図1ではIa,Ib,Icを個別に測定するように図示しているが、任意の二つの線路に流れる電流(例えば、Ia,Ic)を測定してこれらから残りの一つの線路に流れる(例えば、Ib)を算出してもよい。また、位相角検出手段16は、Va,Vb,Vcではなく、各線路間ab,bc,caの電圧Vab,Vbc,Vcaに基づいて各種位相角を検出してもよい。この場合、任意の二つの線路間の電圧(例えば、Vab,Vbc)を測定してこれらから残りの一つの線路間の電圧(例えば、Vca)を算出してもよい。
【0017】
以下、主回路17、Y−Δ変換手段11、dq軸電流検出手段12、および不平衡電流検出手段13の構成例について説明する。ドライブ回路15および位相角検出手段16は既知の一般的な要素であるため、詳細な説明は省略する。
【0018】
(主回路の構成例)
図2は、TCR(Thyristor Controlled Reactor)方式の他励式SVC(Static Var Compensator)に用いられる主回路17の回路構成例を示す。当該主回路17は、一次側がΔ結線、二次側がY結線の連系変圧器171を介して三相電力系統2に接続される。二次側のY結線の各相には、遅れ無効電力発生用の分路リアクトル172と、スイッチング素子としてのサイリスタ173と、進相コンデンサ174と、高調波および過電流抑制用の直列リアクトル175とが接続されている。そして、ドライブ回路15から出力される制御信号でサイリスタ173の点弧角が制御されるようになっている。すなわち、連系変圧器171の一次側の各線路間ab,bc,caの電流が制御されるようになっている。
【0019】
なお、図3に示したように、連系変圧器171をΔ−Δ結線の変圧器に置き換えて、二次側のΔ結線の各相に、分路リアクトル172、サイリスタ173、進相コンデンサ174、直列リアクトル175を挿入接続してもよい。
【0020】
一方、図4は、SVG(Static Var Generator)あるいはSTATCOM(STATic synchronous COMpensator)と呼ばれる自励式SVCに用いられる主回路17の回路構成例を示す。当該主回路17は、Δ−Δ結線の連系変圧器171を介して三相電力系統2に接続される。連系変圧器171の二次側の各巻線には連系用リアクトル176の一端が接続され、各連系用リアクトル176の他端に、スイッチング素子177、フライホイールダイオード178、および直流コンデンサ179で構成される三相自励式変換器から直流電圧が供給されるようになっている。スイッチング素子177は、GTO(Gate Turn-Off thyristor)、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)などである。また、スイッチング素子177としてIEGT(Injection Enhanced Gate Transistor)などであるを使用することもできる。そして、ドライブ回路15から出力される制御信号でスイッチング素子177がスイッチング制御されるようになっている。
【0021】
なお、図5に示したように、三相自励式変換器を3つの単相自励式変換器(単相インバータ)に置き換えて、各単相インバータから各連系用リアクトル176に直流電圧を供給するようにしてもよい。
【0022】
(Y−Δ変換手段の構成例)
図6は、Y−Δ変換手段11の構成例を示す。Y−Δ変換手段11は、三相/二相変換手段111p,111nと、フィルタ手段112と、乗算手段113と、二相/三相変換手段114p,114nと、加算手段115とを備えている。
【0023】
三相/二相変換手段111p,111nは、次式(1)に従って、Ia,Ib,Icを三相/二相変換およびdq変換する。なお、式中のId,Iqはdq変換後のd軸電流およびq軸電流、θはdq変換に係る位相角である。
【0024】
【数1】

【0025】
ここで、dq変換に係る位相角θとして、三相/二相変換手段111pにはVaの位相角θaが与えられ、三相/二相変換手段111nにはその逆位相である−θaが与えられる。したがって、三相/二相変換手段111pによってIa,Ib,Icの正相d軸電流および正相q軸電流が検出され、三相/二相変換手段111nによってIa,Ib,Icの逆相d軸電流および逆相q軸電流が検出される。
【0026】
なお、式中の係数「2/3」は、dq変換の前後で電力保証の必要の有無に応じて変わり得る。例えば、dq変換の前後で電力を保証する必要のある絶対変換では式中の係数を√(2/3)に変更すればよい。一方、dq変換の前後で電力を保証する必要がない相対変換では係数は2/3にする。
【0027】
三相/二相変換手段111p,111nから出力される正相d軸電流、正相q軸電流、逆相d軸電流、および逆相q軸電流には基本角周波数の高調波成分が含まれる。フィルタ手段112は、三相/二相変換手段111p,111nの各出力に含まれるそのような高調波成分を除去する。具体的には、フィルタ手段112は、1/2周期の移動平均を算出する移動平均フィルタで実現することができる。
【0028】
乗算手段113は、フィルタ手段112によってフィルタリング処理された正相d軸電流、正相q軸電流、逆相d軸電流、および逆相q軸電流をそれぞれ1/√3倍する。そして、次式(2)に従って、二相/三相変換手段114pは乗算後の正相d軸電流および正相q軸電流をdq逆変換および二相/三相変換し、二相/三相変換手段114nは乗算後の逆相d軸電流および逆相q軸電流をdq逆変換および二相/三相変換する。なお、式中のId,Iqはdq逆変換前のd軸電流およびq軸電流、Iab,Ibc,Icaはdq逆変換後の三相電流、θはdq逆変換に係る位相角である。
【0029】
【数2】

【0030】
ここで、dq逆変換に係る位相角θとして、二相/三相変換手段114pにはθa+π/6が与えられ、二相/三相変換手段114nには−θa−π/6が与えられる。すなわち、二相/三相変換手段114pは、乗算後の正相q軸電流および正相q軸電流をπ/6相当だけ進相させてdq逆変換および二相/三相変換する。一方、二相/三相変換手段114nは、乗算後の逆相q軸電流および逆相q軸電流をπ/6相当だけ遅相させてdq逆変換および二相/三相変換する。
【0031】
ここで、Ia,Ib,Icを対称座標変換したときの正相分電流をIpa,Ipb,Ipc、逆相分電流をIna,Inb,Inc、Iab,Ibc,Icaを対称座標変換したときの正相分電流をIpab,Ipbc,Ipca、逆相分電流をInab,Inbc,Incaとすると、Ipab,Ipbc,IpcaはそれぞれIpa,Ipb,Ipcの1/√3倍で位相はπ/6だけ進み、Inab,Inbc,IncaはそれぞれIna,Inb,Incの1/√3倍で位相はπ/6だけ遅れるという関係が成り立つ。したがって、二相/三相変換手段114pによってIpab,Ipbc,Ipcaが検出され、二相/三相変換手段114nによってInab,Inbc,Incaが検出される。
【0032】
IpabとInabとの合計、IpbcとInbcとの合計、およびIpcaとIncaとの合計が、それぞれ、Iab,Ibc,Icaに該当する。加算手段115は、二相/三相変換手段114p,114nから出力される正相分電流と逆相分電流とを相ごとに足し合わせてIab,Ibc,Icaを算出する。
【0033】
(dq軸電流検出手段の構成例)
図7は、dq軸電流検出手段12の構成例を示す。dq軸電流検出手段12は、遅延手段121と、dq変換手段122とを備えている。
【0034】
遅延手段121は、Iab,Ibc,Icaのそれぞれをα軸電流として当該α軸電流をπ/2相当の位相だけ遅延させてβ軸電流を算出する。dq変換手段122は、次式(3)に従って、α軸電流およびβ軸電流をdq座標軸に変換する。なお、式中のIα,Iβはα軸電流およびβ軸電流、Id,Iqはdq変換後のd軸電流およびq軸電流、θはdq変換に係る位相角である。
【0035】
【数3】

【0036】
ここで、dq変換に係る位相角θとして、Iabを変換するdq変換手段122にはVabの位相角θabが与えられ、Ibcを変換するdq変換手段122にはVbcの位相角θbcが与えられ、Icaを変換するdq変換手段122にはVcaの位相角θcaが与えられる。以上の構成により、θabが与えられるdq変換手段122からIabd,Iabqが出力され、θbcが与えられるdq変換手段122からIbcd,Ibcqが出力され、θcaが与えられるdq変換手段122からIcad,Icaqが出力される。
【0037】
(不平衡電流検出手段の構成例)
不平衡電流検出手段13の構成例の説明の前に、三相不平衡電流の検出方法について図8のフェーザ図を参照しながら説明する。いま、負荷不平衡のため、電流ベクトルIab,Ibc,Icaが不平衡になっているとする。電流ベクトルIab,Ibc,Icaは、それぞれ、それぞれ、有効電流成分であるd軸電流ベクトルIabd,Ibcd,Icadと、無効電流成分であるq軸電流ベクトルIabq,Ibcq,Icaqとに分解することができる。
【0038】
さらに、スタインメッツの交流理論によると、線路間abの抵抗性インピーダンスに流れるd軸電流ベクトルIabdは、他線路間bcのコンデンサに流れる無効電流ベクトルであってスカラー量がd軸電流ベクトルIabdの1/√3倍の無効電流ベクトルIabdcと、別の他線路間caのリアクトルに流れる無効電流ベクトルであってスカラー量が有効電流ベクトルIabdの1/√3倍の無効電流ベクトルIabdrとに分解することができる。同様に、線路間bcの抵抗性インピーダンスに流れるd軸電流ベクトルIbcdは、他線路間caのコンデンサに流れる無効電流ベクトルであってスカラー量がd軸電流ベクトルIbcdの1/√3倍の無効電流ベクトルIbcdcと、別の他線路間abのリアクトルに流れる無効電流ベクトルであってスカラー量がd軸電流ベクトルIbcdの1/√3倍の無効電流ベクトルIbcdrとに分解することができる。線路間caの抵抗性インピーダンスに流れるd軸電流ベクトルIcadは、他線路間abのコンデンサに流れる無効電流ベクトルであってスカラー量がd軸電流ベクトルIcadの1/√3倍の無効電流ベクトルIcadcと、別の他線路間bcのリアクトルに流れる無効電流ベクトルであってスカラー量がd軸電流ベクトルIcadの1/√3倍の無効電流ベクトルIcadrとに分解することができる。
【0039】
以上のように、各線路間に流れる有効電流成分を他線路間に流れる無効電流成分に分解することで、各線路間に流れるトータルの無効電流Iabr,Ibcr,Icarは、次式(4)のように表される。
【0040】
【数4】

【0041】
式(4)における右辺第2項は、三相不平衡な線路間有効電流成分に起因する項であり、不平衡電流検出手段13によって算出される。右辺第1項と第2項との減算処理は図1に示した演算手段14によって行われる。
【0042】
次に、不平衡電流検出手段13の構成例について説明する。図9は、不平衡電流検出手段13の構成例を示す。不平衡電流検出手段13は、乗算手段131と、演算手段132とを備えている。
【0043】
乗算手段131は、Iabd,Ibcd,Icadをそれぞれ1/√3倍する。演算手段132は、演算手段131の任意の二つの出力の差分を算出して、式(4)の右辺第2項に該当するIabu,Ibcu,Icauをそれぞれ出力する。
【0044】
なお、乗算手段131を演算手段132の後段に配置し、先に演算手段132でIabd,Ibcd,Icadの任意の二つの差分を算出してから、その差分を演算手段131でそれぞれ1/√3倍してもよい。また、演算手段132において引く数と引かれる数とを入れ替えてもよい。この場合、図1に示した演算手段14において、式(4)の右辺第1項と第2項との加算処理を行うようにすればよい。
【0045】
以上のように、本実施形態に係る無効電力補償装置によると、負荷の各線路間に流れる三相電流に基づいて無効電力の補償量を調整することができる。さらに、負荷不平衡に起因する無効電力を補償することができる。
【0046】
なお、不平衡電流対策が不要の場合には不平衡電流検出手段13および演算手段14を省略してもよい。逆に、不平衡電流検出手段13および演算手段14を備えている場合において負荷平衡であっても、式(4)の右辺第2項、すなわち、不平衡電流検出手段13の出力がほぼゼロになるだけであるため、無効電力補償性能は何ら損なわれるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明に係る無効電力補償装置は、アーク炉や圧延機などの大型産業用電気設備が引き起こすフリッカ障害を抑制するフリッカ抑制装置などとして有用である。
【符号の説明】
【0048】
1 無効電力補償装置
2 三相電力系統
3 負荷
11 Y−Δ変換手段
111p 三相/二相変換手段(第1の三相/二相変換手段)
111n 三相/二相変換手段(第2の三相/二相変換手段)
112 フィルタ手段
113 乗算手段
114p 二相/三相変換手段(第1の二相/三相変換手段)
114n 二相/三相変換手段(第2の二相/三相変換手段)
115 加算手段
12 dq軸電流検出手段
121 遅延手段
122 dq変換手段
13 不平衡電流検出手段
14 演算手段
15 ドライブ回路
17 主回路
173 サイリスタ(スイッチング素子)
177 スイッチング素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
三相電力系統に接続された負荷が発生する無効電力を補償する無効電力補償装置であって、
前記三相電力系統の各相に対応したスイッチング素子を有し、当該スイッチング素子がスイッチング動作することで前記三相電力系統の各相に補償無効電力を供給する主回路と、
前記負荷の各線路に流れる三相三線電流を前記負荷の各線路間に流れる三相電流に変換するY−Δ変換手段と、
前記三相電流のそれぞれのd軸電流およびq軸電流を検出するdq軸電流検出手段と、
前記検出された前記三相電流のそれぞれのq軸電流に基づいて、前記主回路の前記スイッチング素子のスイッチング動作を制御するドライブ回路とを備えている
ことを特徴とする無効電力補償装置。
【請求項2】
請求項1に記載の無効電力補償装置において、
前記検出された前記三相電流のd軸電流に基づいて、前記負荷に流れる不平衡電流として、前記負荷の各線路間に流れる三相無効電流を検出する不平衡電流検出手段と、
前記検出された三相無効電流を、前記ドライブ回路に入力される前記三相電流のq軸電流に相ごとに加算または減算する演算手段とを備えている
ことを特徴とする無効電力補償装置。
【請求項3】
請求項1および2のいずれか一つに記載の無効電力補償装置において、
前記Y−Δ変換手段は、
前記三相三線電流を正相dq軸座標に三相/二相変換する第1の三相/二相変換手段と、
前記三相三線電流を逆相dq軸座標に三相/二相変換する第2の三相/二相変換手段と、
前記三相/二相変換によって得られた正相d軸電流、正相q軸電流、逆相d軸電流、および逆相q軸電流に含まれる高調波成分を除去するフィルタ手段と、
前記フィルタリング処理された正相d軸電流、正相q軸電流、逆相d軸電流、および逆相q軸電流を1/√3倍する乗算手段と、
前記乗算後の正相d軸電流および正相q軸電流をπ/6相当だけ進相させてdq逆変換および二相/三相変換する第1の二相/三相変換手段と、
前記乗算後の逆相d軸電流および逆相q軸電流をπ/6相当だけ遅相させてdq逆変換および二相/三相変換する第2の二相/三相変換手段と、
前記二相/三相変換によって得られた正相分電流および逆相分電流を相ごとに足し合わせて前記三相電流を算出する加算手段とを有する
ことを特徴とする無効電力補償装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一つに記載の無効電力補償装置において、
前記dq軸電流検出手段は、
前記三相電流のそれぞれをα軸電流として当該α軸電流をπ/2相当の位相だけ遅延させてβ軸電流を算出する遅延手段と、
前記α軸電流および前記β軸電流をdq軸座標に変換するdq変換手段とを有する
ことを特徴とする無効電力補償装置。
【請求項5】
三相電力系統の各相に対応したスイッチング素子を有する主回路を備え、前記三相電力系統に接続された負荷が発生する無効電力を前記スイッチング素子をスイッチング動作させることで補償する無効電力補償装置の制御方法であって、
前記負荷の各線路に流れる三相三線電流を前記負荷の各線路間に流れる三相電流にY−Δ変換するステップと、
前記三相電流のそれぞれのd軸電流およびq軸電流成分を検出するステップと、
前記検出された前記三相電流のそれぞれのq軸電流に基づいて、前記主回路の前記スイッチング素子のスイッチング動作を制御するステップとを備えている
ことを特徴とする無効電力補償装置制御方法。
【請求項6】
請求項5に記載の無効電力補償装置制御方法において、
前記検出された前記三相電流のd軸電流に基づいて、前記負荷に流れる不平衡電流として、前記負荷の各線路間に流れる三相無効電流を検出するステップと、
前記検出された三相無効電流を、前記スイッチング素子を制御するステップで参照される前記三相電流のq軸電流に相ごとに加算または減算するステップとを備えている
ことを特徴とする無効電力補償装置制御方法。
【請求項7】
請求項5および6のいずれか一つに記載の無効電力補償装置制御方法において、
前記Y−Δ変換するステップは、
前記三相三線電流を正相dq軸座標に三相/二相変換するステップと、
前記三相三線電流を逆相dq軸座標に三相/二相変換するステップと、
前記三相/二相変換によって得られた正相d軸電流、正相q軸電流、逆相d軸電流、および逆相q軸電流の高調波成分を除去するステップと、
前記フィルタリング処理された正相d軸電流、正相q軸電流、逆相d軸電流、および逆相q軸電流を1/√3倍するステップと、
前記乗算後の正相d軸電流および正相q軸電流をπ/6相当だけ進相させてdq逆変換および二相/三相変換するステップと、
前記乗算後の逆相d軸電流および逆相q軸電流をπ/6相当だけ遅相させてdq逆変換および二相/三相変換するステップと、
前記二相/三相変換によって得られた正相分電流および逆相分電流を相ごとに足し合わせて前記三相電流を算出するステップとを有する
ことを特徴とする無効電力補償装置制御方法。
【請求項8】
請求項5から7のいずれか一つに記載の無効電力補償装置制御方法において、
前記dq軸電流を検出するステップは、
前記三相電流のそれぞれをα軸電流として当該α軸電流をπ/2相当の位相だけ遅延させてβ軸電流を算出するステップと、
前記α軸電流および前記β軸電流をdq軸座標に変換するステップとを有する
ことを特徴とする無効電力補償装置制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−110884(P2013−110884A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−255082(P2011−255082)
【出願日】平成23年11月22日(2011.11.22)
【出願人】(304020177)国立大学法人山口大学 (579)
【出願人】(000211293)中国電機製造株式会社 (69)
【Fターム(参考)】