説明

無包装状態において安定性に優れた塩酸サルポグレラート含有経口投与製剤

【課題】無包装条件下における保存安定性に優れ、従来の市販の経口投与製剤と同様に速やかな溶出速度を示す小型化された塩酸サルポグレラート含有経口投与製剤を提供することを目的とする。
【解決手段】結合剤として水溶性セルロース誘導体を含有するが、崩壊剤としての水に不溶性のセルロース誘導体を含有していないことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩酸サルポグレラート含有経口投与製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
塩酸サルポグレラートは5−HTレセプターに対する選択的拮抗作用を有しており、慢性動脈閉塞症に伴う潰瘍、疼痛および冷感等の虚血性諸症状の改善薬として臨床現場で用いられている。
塩酸サルポグレラートを有効成分とする製剤はアンプラーグ錠(登録商標)として市販されており、最終包装形態において安定性に問題は認められない。
しかしながら、塩酸サルポグレラートは加湿することで加水分解することが知られている。
そこで市販製剤について無包装状態での安定性について検討したところ、40℃・75%RHの条件下無包装状態で2ヶ月間保存すると、加水分解物が主薬含量に対して3〜4%程度生成することが判明した。
近年、外来患者のコンプライアンスの向上を目指して一包化調剤を実施する病院が増加したこと、自動錠剤包装機の普及により開封後の製剤の取り扱いが増加したこと、また長期投与処方が飛躍的に増加しているなどの理由で無包装状態において安定性に優れた製剤開発が求められている。
本製剤については、崩壊剤を製剤中に配合することで市販製剤と同等の溶出性を担保しながら小型化する方法が特開2007−56011号に示されている。
しかしながら、同文献には速い溶出性と包装状態における良好な保存安定性が示されているものの、無包装状態の安定性については触れられていない。
また、塩酸サルポグレラート含有経口投与製剤の無包装状態の安定性を改善する方法として、市販製剤に配合されているステアリン酸Mgをステアリン酸Caに変更する方法が特開2007−145733号に示されているが、小型化が不充分である。
このように、製剤を十分に小型化しながら無包装状態において安定な塩酸サルポグレラート含有経口投与製剤の例はまだ示されておらず、一包化調剤に対応可能な無包装状態においても安定であり、かつ服用性に優れた塩酸サルポグレラート含有経口投与製剤の開発が望まれていた。
塩酸サルポグレラート含有経口投与製剤については、製剤の小型化を目指し錠剤中の薬物含量を増加させると、原薬の溶解度特性が製剤からの溶出挙動に影響を及ぼし、特に日局崩壊試験法第1液では主薬のゲル化が生じるため、速やかな溶出挙動を示す経口投与製剤を提供することが困難であった。
前述の特開2007−56011号においては、崩壊剤である水に不溶性のセルロース誘導体を製剤中に配合することで市販製剤と同等の溶出性を担保しながら小型化する方法が示されている。
しかしながら本発明者らが検討した結果、同公報に開示する水に不溶性のセルロース誘導体は無包装状態では水を多量に吸収した状態になり、塩酸サルポグレラートの加水分解が促進され安定性に悪影響を及ぼすことが判明した。
【0003】
【特許文献1】特開2007−56011号公報
【特許文献2】特開2007−145733号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、無包装条件下における保存安定性に優れ、従来の市販の経口投与製剤と同様に速やかな溶出速度を示す小型化された塩酸サルポグレラート含有経口投与製剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、水を多量に吸収する性質をもつ水に不溶性のセルロース誘導体を使用しないで速やかな薬物の放出を得るために検討を重ねた結果、本発明に至った。
本発明に係る無包装状態での安定性に優れた塩酸サルポグレラート含有経口投与製剤は、結合剤として水溶性セルロース誘導体を含有するが、崩壊剤としての水に不溶性のセルロース誘導体を含有していないことを特徴とする。
本発明において、結合剤として用いる水溶性セルロース誘導体の配合量は、製剤質量の0.5質量%から3質量%とすることが好ましい。
配合量が0.5質量%より少ない場合、十分に造粒が進まず製造時にスティッキング等の打錠障害が発生し商品価値が著しく損なわれ、さらには製造が困難となるため好ましくない。
また、結合剤の配合量が3質量%より多い場合、製剤からの薬物の放出速度が遅延し充分なバイオアベイラビリティを確保できない可能性があるため好ましくない。
また、本発明に用いる水溶性セルロース誘導体は、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒプロメロース、メチルセルロースのいずれかであることが好ましい。
本発明においては、結合剤として水溶性のセルロース誘導体に加えて賦形剤、滑沢剤などの経口投与可能な医薬品添加剤が使用できる。
賦形剤としては、乳糖、D−マンニトール、バレイショデンプン、トウモロコシデンプン、リン酸水素カルシウム、軽質無水ケイ酸、クエン酸などが挙げられる。
また、滑沢剤としてはステアリン酸マグネシウム、ショ糖脂肪酸エステル、硬化油、タルクなどが挙げられる。
本発明では製剤の小型化が可能であり、製剤あたり塩酸サルポグラートを40〜95質量%含有している。
本発明においては、公知の方法により塩酸サルポグレラート含有経口投与製剤を製造することが可能であり、例えば直接打錠法、乾式造粒法、流動層造粒法、撹拌造粒法、転動流動層造粒法、押出し造粒法、溶融造粒法などが挙げられ、好ましくは流動層造粒法、撹拌造粒法、転動流動層造粒法、押出し造粒法が挙げられ、より好ましくは撹拌造粒法が挙げられる。
例えば流動層造粒法を用いる場合には、塩酸サルポグレラート、賦形剤などを混合した粉体に対して本発明に係る結合剤溶液を噴霧して造粒を行う。
また、撹拌造粒法を用いる場合には、塩酸サルポグレラート、賦形剤などを混合した粉体に対して本発明に係る結合剤溶液を投入して造粒を行い、造粒品を得る。
また、塩酸サルポグレラート、賦形剤および結合剤などを混合した粉体に対して精製水を投入して造粒を行い、造粒品を得ることも可能である。
これらの方法で得られた造粒品に対して滑沢剤などを混合し打錠することで目的とする錠剤を得ることができる。
また、本発明では上記のとおり製した錠剤に対して、原体由来の苦味のマスキングを目的としてフィルムコーティングすることも可能である。
本発明においてフィルムコーティングに使用できる添加剤は、通常フィルムコーティング錠を製する際に使用されるものを用いることができ、ヒプロメロース、ヒドロキシプロピルセルロースを用いることが望ましい。
また、フィルムコーティング層中には、可塑剤やタルク、酸化チタン、色素などを配合することができる。
【発明の効果】
【0006】
塩酸サルポグレラート含有経口投与製剤において、結合剤として水溶性セルロース誘導体を使用し、さらに崩壊剤である水に不溶性のセルロース誘導体を添加しないことで無包装状態において安定であり、かつ服用性に優れた小型化された塩酸サルポグレラート含有経口投与製剤を得ることができる。
これにより、一包化調剤や開封後の製剤の取り扱い性およびコンプライアンスが向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下に実施例、比較例を示し詳細に説明する。
しかしながら本発明はこれらによって限定されるものではない。
図1の表に示す処方の製剤(実施例1,2および比較例1,2)を流動層造粒法にて製した。
塩酸サルポグレラート、D−マンニトール(マンニットP、東和化成工業製)、バレイショデンプン(精製乾燥殺菌馬鈴薯澱粉、松谷化学工業製)を流動層造粒機(FL−mini、フロイント産業製)に投入し、実施例ではヒドロキシプロピルセルロース(HPC−L、日本曹達製)、クエン酸(小堺製薬製)溶液、比較例ではポリビニルアルコール(ゴーセノール、日本合成化学工業製)、クエン酸(小堺製薬製)溶液、もしくはポビドン(コリドンK30、BASFジャパン製)、クエン酸(小堺製薬製)溶液を噴霧した後、乾燥、整粒して流動層造粒品を得た。
この流動層造粒品と軽質無水ケイ酸(アドソリダー−101、フロイント産業製) 、ステアリン酸マグネシウム(ステアリン酸マグネシウム−S、日本油脂製)を混合後、直径7.5mm(実施例1、比較例1,2)もしくは直径6.5mm(実施例2)の杵を用いて打錠して塩酸サルポグレラートを50mg含有する製剤を得た。
【0008】
実施例1,2、比較例1,2で製した製剤および市販製剤(50mg錠)を40℃・75%RH・無包装条件下で2ヶ月間保存した。
保存した製剤について類縁物質量(加水分解物)を測定し、類縁物質量の主薬含量に対する含有割合を求めた。
結果を図2の表に示す。
なお、市販製剤はポリビニルアルコールを含有している。
実施例1および実施例1の処方から製剤を小型化した実施例2では、比較例1,2と比較して安定性試験後の製剤中の類縁物質量が1/2程度であった。
【0009】
図3の表に示す処方の製剤(実施例3〜5)を撹拌造粒法にて製した。
塩酸サルポグレラート、D−マンニトール(マンニットP、東和化成工業製)、バレイショデンプン(精製乾燥殺菌馬鈴薯澱粉、松谷化学工業製)を撹拌造粒機(VG−01、パウレック製)に投入し、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC−L、日本曹達製)、クエン酸(小堺製薬製)溶液、またはヒプロメロース(TC−5EW、信越化学製)、クエン酸(小堺製薬製)溶液、もしくはメチルセルロース(SM−4、信越化学製)、クエン酸(小堺製薬製)溶液を撹拌しながら投入し造粒を行った。
造粒終了後、流動層造粒機(FL−mini、フロイント産業製)を用いて乾燥、整粒して撹拌造粒品を得た。
この撹拌造粒品と軽質無水ケイ酸(アドソリダー−101、フロイント産業製) 、ステアリン酸マグネシウム(ステアリン酸マグネシウム−S、日本油脂製)を混合後、直径6.5mmの杵を用いて打錠して塩酸サルポグレラートを50mg含有する製剤を得た。
【0010】
比較例3として図4の表に示す処方の製剤を撹拌造粒法にて製した。
塩酸サルポグレラート、結晶セルロース(セオラスPH101、旭化成ケミカルズ製)、カルメロース(NS−300、五徳薬品製)を撹拌造粒機(VG−01、パウレック製)に投入し、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC−L、日本曹達製)、クエン酸(小堺製薬製)溶液を投入した後、乾燥、整粒して撹拌造粒品を得た。
この撹拌造粒品と軽質無水ケイ酸(アドソリダー−101、フロイント産業製)、ステアリン酸マグネシウム(ステアリン酸マグネシウム−S、日本油脂製)を混合後、直径6.5mmの杵を用いて打錠して塩酸サルポグレラートを50mg含有する製剤を得た。
【0011】
実施例3,4,5、比較例3で製した製剤および市販製剤(50mg錠)を40℃・75%RH・無包装条件下で2ヶ月間保存した。
保存した製剤について類縁物質量(加水分解物)を測定し、類縁物質量の主薬含量に対する含有割合を求めた。
結果を図5の表に示す。
実施例3,4,5では比較例3および市販製剤に比べて、2ヶ月間安定性試験後の製剤中の類縁物質量は1/3〜1/2程度であった。
【0012】
図6の表に示す処方の製剤(実施例6,7)を撹拌造粒法にて製した。
塩酸サルポグレラート、D−マンニトール(マンニットP、東和化成工業製)、バレイショデンプン(精製乾燥殺菌馬鈴薯澱粉、松谷化学工業製)を撹拌造粒機(VG−01、パウレック製)に投入し、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC−L、日本曹達製)、クエン酸(小堺製薬製)溶液を撹拌しながら投入し造粒を行った。
造粒終了後、流動層造粒機(FL−mini、フロイント産業製)を用いて乾燥、整粒して撹拌造粒品を得た。
この撹拌造粒品と軽質無水ケイ酸(アドソリダー−101、フロイント産業製)、ステアリン酸マグネシウム(ステアリン酸マグネシウム−S、日本油脂製)を混合後、直径6.5mmの杵を用いて打錠して塩酸サルポグレラートを50mg含有する製剤を得た。
【0013】
実施例6,7で製した製剤および市販製剤(50mg錠)の溶出試験を日本溶出試験法第2法(パドル法)に従って実施した(試験液:日本薬局方崩壊試験液第1液(pH1.2)、試験液量:900mL、パドル回転数:50rpm)。
結果を図7の表に示す。
実施例6,7の製剤はともに、市販製剤と同等の速やかな溶出挙動を示した。
【0014】
図8の表に示す処方の製剤(実施例8〜10)を撹拌造粒法にて製した。
塩酸サルポグレラート、D−マンニトール(マンニットP、東和化成工業製)、バレイショデンプン(精製乾燥殺菌馬鈴薯澱粉、松谷化学工業製)を撹拌造粒機(VG−01、パウレック製)に投入し、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC−L、日本曹達製)、クエン酸(小堺製薬製)溶液を撹拌しながら投入し造粒を行った。
造粒終了後、流動層造粒機(FL−mini、フロイント産業製)を用いて乾燥、整粒して撹拌造粒品を得た。
この撹拌造粒品と軽質無水ケイ酸(アドソリダー−101、フロイント産業製) 、ステアリン酸マグネシウム(ステアリン酸マグネシウム−S、日本油脂製)を混合後、直径7.5mmの杵を用いて打錠して塩酸サルポグレラートを100mg含有する製剤を得た。
【0015】
実施例8,9,10で製した製剤および市販製剤(100mg錠)を40℃・75%RH・無包装条件下で2ヶ月間保存した。
保存した製剤について類縁物質量(加水分解物)を測定し、類縁物質量の主薬含量に対する含有割合を求めた。
結果を図9の表に示す。
実施例8,9,10では市販製剤に比べて、1ヶ月間安定性試験後の製剤中の類縁物質量は1/2程度であった。
【0016】
実施例8,9,10で製した製剤および市販製剤(100mg錠)の溶出試験を日本溶出試験法第2法(パドル法)に従って実施した (試験液:日本薬局方崩壊試験液第1液(pH1.2)、試験液量:900mL、パドル回転数:50rpm)。
結果を図10の表に示す。
100mg錠の溶出挙動においても50mg錠と同様に、実施例8,9,10の製剤はともに、市販製剤と同等の速やかな溶出挙動を示した。
このように本発明は、無包装状態において安定であり、製剤の小型化に効果的であることが明らかになった。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】流動層造粒法による50mg錠の処方例を示す。
【図2】無包装条件下で発生した類縁物質の測定結果を示す。
【図3】撹拌造粒法による製剤化の処方例を示す。
【図4】比較のための処方例を示す。
【図5】無包装条件下で発生した類縁物質の測定結果を示す。
【図6】撹拌造粒法による製剤化の他の処方例を示す。
【図7】50mg錠の溶出試験結果を示す。
【図8】撹拌造粒法による100mg錠の他の処方例を示す。
【図9】無包装条件下で発生した類縁物質の測定結果を示す。
【図10】100mg錠の溶出試験結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結合剤として水溶性セルロース誘導体を含有するが、崩壊剤としての水に不溶性のセルロース誘導体を含有していないことを特徴とする、無包装状態での安定性に優れた塩酸サルポグレラート含有経口投与製剤。
【請求項2】
結合剤として水溶性セルロース誘導体を0.5〜3質量%含有していることを特徴とする請求項1に記載の経口投与製剤。
【請求項3】
水溶性セルロース誘導体は、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒプロメロース、メチルセルロースのいずれかであることを特徴とする請求項1記載の経口投与製剤。
【請求項4】
塩酸サルポグレラートの含有量が製剤あたり40〜95質量%であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の経口投与製剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−167110(P2009−167110A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−3759(P2008−3759)
【出願日】平成20年1月11日(2008.1.11)
【出願人】(592073695)日医工株式会社 (21)
【Fターム(参考)】