説明

無反射防塵構造を有する光学素子成形型、無反射防塵構造を有する光学素子成形型の製造方法、無反射防塵構造を有する光学素子、撮像装置、及び、レンズ交換式デジタルカメラ

【課題】曲率半径が小さい成形面を有する成形型でも、高精度に少ない工程数で効率よく微細針状構造を形成し、無反射防塵構造を有する成形型を提供すること。
【解決手段】成形型基材1の最終形状に加工した成形面上にアモルファス層4及びさらにその上に微細な針状構造を有する電解めっき層5を形成することにより無反射防塵構造を有する成形型を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形面に無反射防塵構造を有する光学素子の成形型及びその製造方法並びに該成形型を用いて成形した光学素子、さらには撮像装置、レンズ交換式デジタルカメラなどに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光学素子や光学部材の光学機能面には、蒸着、スパッタリング、塗装などの方法で反射防止膜が設けられており、低屈折率層から成る単層膜や低屈折率層と高屈折率層とを組み合わせて積層した多層膜などが設けられていた。しかし、このような反射防止膜の形成には、光学的膜厚を高精度に制御する必要があり、煩雑な操作が要求されていた。
そのため、近年、成形型の成形面に無反射構造を形成することが提案された。その一つとして特許文献1には、最終形状のレンズと同じ曲面形状を有するアルミニウム基材を陽極酸化し、エッチングを行い、曲面の法線方向に平行な三角錐形状の微細構造を形成し、その基材をNi電鋳し、反転した形状の無反射構造を有するNi金型を作成することが開示されている。また、最終形状のレンズと同じ曲面形状を有する石英基材を用い、その表面にアルミニウム膜を成膜し、そのアルミニウム膜を陽極酸化し、エッチングにより三角錐形状の微細構造を形成し、その微細構造を有するアルミニウム膜をマスクとし、石英にエッチバックを行い、石英に転写して、石英型を作成することも提案されている。
【0003】
さらに、特許文献2には、原盤材料の表面に蒸着やスパッタリングにより核を形成し、その核の上に化学蒸着や無電解めっき等の方法で金属物質の針状結晶を成長させ、その原盤材料に対してNi電鋳により反転したNi金型を製造することが記載されている。原盤材料として最終形状のレンズと同じ曲面形状を有する石英基板の上に蒸着やスパッタリングにより核を形成し、その後無電解Niめっきにより核の上に金属の針状結晶を成長させ、針状結晶をマスクとして、針状結晶の形状をエッチバックにより石英基板に転写し、石英型を製造することも記載されている。
【0004】
また、物質はその性質上、表面に塵、埃、粒子といった微小なゴミを付着する性質を持っている。一般的な雰囲気には多くの微小なゴミが浮遊しているため、このような雰囲気にある物質の表面にはゴミが付着する現象がよく見られる。場合によってはこのような微小なゴミの付着によって、その外観や機能に重大な不具合が発生する場合がある。その代表的な例の一つとして挙げられるのが光学機器で使用される光学素子である。素子表面に付着したゴミにより発生した光の散乱により光学性能が低下したり、特に撮像光学系においては、ゴミが像に映り込んでしまうという問題が生じることが知られている。特に、レンズ交換式のデジタル一眼レフカメラは、レンズ交換時に撮像素子部が大気中に露出するため、撮像素子及びカバーガラス、赤外カットガラス、ローパスフィルタ等の表面にゴミが付着し易く、撮影した画像にゴミの影が映りこむ問題が多く発生している。
【0005】
そこで、特許文献3は、デジタルスチルカメラ内にワイパを設け、CCD受光面、CCDの受光面側に配設されたローパスフィルタの表面、又はCCD受光面に至る光路を密閉した防塵構造ユニットの最外側の光学部材面をワイパで拭く方法を提案している。
ゴミ付着の要因となる力として、(1)分子間力、(2)クーロン力、(3)液架橋力の三つが知られている。これらを効果的に低減可能な機構を素子表面にもうけることにより、ゴミの付着を低減することが可能である。特許文献4では、主として、分子間力を低減する手法が提案されている。分子間力とは、分子と分子が非常に接近した際に発生する引力のことであり、以下の式で表すことができる。
【0006】
【数1】

【0007】
上記式中、Fは分子間力を表し、Aは Hamaker定数を表し、Dは付着物の直径を表し、Zは基板と付着物間の距離を表し、kは物質の弾性特性に関連する係数を表し、b は基板の三次元算術平均粗さを表す。
分子間力に影響を与えるパラメータとしては複数あるが、中でも特に表面粗さが支配的であることがわかる。物質表面の表面粗さを大きくすることにより、分子間力は低減し、その結果ゴミの付着力も低減可能となる。物質表面に凹凸を付与するなどして表面粗さを大きくすれば、ゴミの付着を防ぐことができるとともに、付着したゴミの離脱を容易にする効果が得られる。
さらに、特許文献4では、微細凹凸として花弁状のアルミナ膜を用いることを提案している。花弁状アルミナ膜は、優れた防塵性能と反射防止効果が期待できるが、アルミナは脆性が高く、花弁状の先鋭形状を呈していることから、機械的強度が非常に小さいという致命的な問題がある。
別の手法として、特許文献5は、ドットアレイ状の金属をマスクとして基板をエッチング処理することにより微細な錘形状を形成する手法を開示している。この手法では波長より小さな微細凹凸を形成可能であるが、作製に半導体製造技術を利用しているため、高精度・高性能・高額な処理装置が必要であること、処理工程が精細で複雑であること、大きな面積の基板への加工が難しく、また長い加工時間が必要であることといった製造上の問題点がある。
また、形状が錘形状であり、優れた反射防止特性は期待できるが、花弁状アルミナと同様、機械的強度が非常に弱いという問題がある。
類似の形態を有するものとして、防眩処理やアンチグレア処理、ノングレア処理がある(例えば特許文献6)。サンドブラスト加工やエッチング加工等により、透明な素子の表面に微細な凹凸を形成することにより、外光の正反射や写り込みを防ぐ目的で使用される。しかし、分子間力を低減するのに十分な表面粗さを有するが、波長よりも大きい周期の凹凸を形成し、光を散乱させることにより防眩性を得ているため、一般的な透過光学系には適用できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−053220号公報
【特許文献2】特開2006−130841号公報
【特許文献3】特開2001−298640号公報
【特許文献4】特開2007−183366号公報
【特許文献5】特開2001−272505号公報
【特許文献6】特開昭63−298201号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、陽極酸化が必要であり、アルミニウム基材やアルミニウム膜が必要である。しかし、アルミニウムは柔らかく鏡面仕上げが難しい。また、小さな曲率半径を有する曲面へ蒸着やスパッタリングすることは困難であるという欠点がある。
また、特許文献2に記載の方法では、核生成にスパッタリングや蒸着を用いているため、小さな曲率半径を有する曲面へ均一に核生成を行うのは困難である。また、エッチバックを行うため、エッチング方向に対して平行に針状結晶が配向されていなければならないという問題がある。
さらに、特許文献1及び2の方法では、マスターから複製を作製する必要があり、その際にエッチングによるエッチバックをしなければならず、工程数が多くなってしまうという問題があった。
また、特許文献3の手法は複雑な機構が必要となることや、機構を駆動するために電力が必要となるなどの問題点がある。
【0010】
特許文献4〜6の手法についても、ゴミと基板間に発生する分子間力を十分に低減可能な程度の表面粗さを有する微細な凹凸が必要であること、また、特に用途が光学素子の場合、光の散乱を防ぐため、微細凹凸の構造の幅や周期が光学系で使用する光の波長よりも小さい必要がある。しかしながら、このような微細な凹凸形状を制御して作製することは非常に難しい。従って、高い生産性と低コスト性が実現可能な製造方法が必要とされている。
レンズ交換式の一眼レフデジタルカメラは、構造上、撮像素子部にゴミが付き易いため防塵性の必要性は非常に高い。しかし、防塵機能の付与だけでは完全にゴミの付着を防止できない場合もあり、もしゴミが付着してしまった場合には人為的にゴミを除去する必要がある。
前述したとおり、レンズ交換式の一眼レフデジタルカメラは、レンズ交換時に撮像素子部が露出し、人間が容易に接触できる場所にあるため、一般的には、ブロアーで送風したり、紙や布で拭き取るなどして、使用者が撮像素子部に付着したゴミを除去することが想定される。よって、防塵構造を実用化するには、防塵構造がゴミの除去作業に十分耐久できる程度の機械的強度が必須となる。
しかし、特許文献4は、優れた防塵性能と反射防止効果は期待できるが、機械的強度が十分でないという問題がある。
また、液相成膜プロセスを含むため、基板の濡れ性が必要であることや、基板全面に均一な構造形成が難しく、基板によっては成膜できない場合もある。工程によっては100℃〜400℃で焼成する場合もあり基板選択の自由度が低いという問題点もある。さらに、工程が多く(成膜、乾燥、焼成)、製造時間が掛かり、コストも高くなる、といった製造上の問題も有する。
【0011】
したがって、本発明は、著しく曲率半径が小さい成形面を有する成形型でも、高精度に無反射防塵構造を少ない工程数で効率よく作製しうる方法、該方法により作製した無反射防塵構造を有する成形型、該成形型を用いて成形した無反射防塵構造を有する光学素子、該光学素子を備えた撮像装置及びレンズ交換式デジタルカメラを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、略ベース形状に加工された成形面を有する成形型基材の成形面にまずアモルファス層を形成し、次いで電解めっき層を設けることにより、エッチングなどを行うことなく、少ない工程数で高精度の無反射防塵構造を形成しうるという新規な知見に基づいて完成したものである。
【0013】
すなわち、本発明は、成形型基材の略ベース形状に加工した成形面上にアモルファス層及びさらにその上に微細な針状構造をランダムに二次元配置して有する電解めっき層を積層してなる無反射防塵構造を有する光学素子成形型を提供する。
本発明は、さらに、略ベース形状に加工した成形面を有する成形型の成形面以外の表面をマスキングした後、成形面にアモルファス層を形成し、さらに電解めっき層を設け、マスキングを剥離することを特徴とする無反射防塵構造を有する光学素子成形型の製造方法に関する。
【0014】
本発明の成形型においては、その針状構造の平均周期及び平均太さが光学系内で使用する光の最短波長以下であるのが好ましい。具体的には、針状構造の平均周期は50〜500nmであるのがより好ましく、針状構造の平均構造高さは10〜900nmであるのが好ましい。
【0015】
本発明の成形型は、無反射防塵構造が要求されるレンズ、プリズム、カバーガラス、赤外カットガラス、ローパスフィルタ等の光学素子などの成形に用いるものである。
本発明に用いる成形型基材は、金属、合金などの導電性材料あるいはセラミックス、WC、SiCなどの、導電性処理した非導電性材料から成るものであってよく、光学素子や光学部材の成形型として通常用いられている任意の材料から成るものであってよい。
【0016】
本発明において成形面は、球面又は非球面であってよく、成形面が著しく小さい曲率半径を有するものであってもよく、具体的には、成形面の曲率半径が80mm以下であっても高精度に無反射防塵構造を得ることができる。
【0017】
本発明による成形型を製造するには、略ベース形状に加工した成形面を有する成形型の成形面以外の表面を予めマスキングする。マスキングは、テープやレジスト等を用いて、貼付、スピンコート、スプレー等の方法で行う。
【0018】
本発明によれば、成形面以外の表面をマスキングした成形型の成形面上にまずアモルファス層を形成する。アモルファス層は、無電解めっき法、真空蒸着、スパッタリング、CVDなどの方法で形成することができる。
アモルファス層は、Niと、H、B、P、S及び遷移金属元素から成る群から選択された少なくとも1種とから成るのが好ましい。遷移金属元素としては、例えばCr、Fe、Co、Cu、Mo、Pd、Wなどが好適である。さらに具体的には、アモルファス層は、Niを多く含むアモルファス合金から構成するのが好ましく、例えば、Ni−P、Ni−H、Ni−W、Co−Ni−P、Ni−Mo、Ni−S、Ni−B、Ni−Cr−P、Ni−Fe−P 、Ni−Co−B、Ni−Mo−P、Ni−Mo−B、Ni−W−P、Ni−W−B、Ni−Cu−P、Pd−Ni−Pなどが挙げられる。
【0019】
また、アモルファス層は、0.01〜1.0μm、好ましくは0.01〜0.1μmの層厚に形成する。この層厚が0.01μm未満では、下地とのエピタキシャル成長や剥離などが起こる可能性があり、層厚が1.0μmを超えると、応力による剥離やクラックなどの不都合が起こる。
【0020】
本発明においては、上記のように形成したアモルファス層の上に電解めっき層を設ける。
電解めっき層は、Ni、Co及びPtから成る群から選択された少なくとも1種から成り、Niなどから成るのが好ましい。
電解めっき層の厚さは、0.01〜5μmとするのが好ましく、0.2〜1.0μmとするのがいっそう好ましい。電解めっき層の厚さが0.01μm未満であると、針状構造まで成長が難しいという不都合があり、5μmを超えると、めっき膜自体の内部応力によりクラックが発生するという不都合が起こる。
【0021】
めっきは一般的に装飾用、防錆などに用いられている。そこで、めっき膜は平滑性を必要としている。そのために、めっき浴組成やめっき条件を最適化することにより平滑性と特性を実現している。逆を言えば、めっき浴組成やめっき条件を調整することにより、所望の微細針状構造を作製することもできる。
めっき種でもNiめっきは作製条件により、針状の微細構造を作製できる。電流密度、めっき温度、攪拌などにより微細針状構造の高さ、幅が制御可能である。
【0022】
電解めっき層を上記のように形成した後、成形面以外の表面に施したマスキングを剥離する。この剥離は、任意の公知方法で行うことができる。
【0023】
本発明の方法で作製した微細針状構造を有する成形型を用いて樹脂等に転写することにより、逆の針状微細構造のパターンを容易に得ることができる。型となる電解めっきの条件を制御することにより、転写されて得られる針状微細構造の周期は、50nm〜500nmと小さくすることができ、転写されて得られる針状微細構造の周期を波長よりも小さくすることができる。
針状構造の平均構造高さは10〜900nmであるのが好ましい。この高さが10nm未満であると、反射の低減効果が不十分であり900nmを超えると、針状構造が壊れやすくなる。
【0024】
本発明の成形型の成形面の針状微細構造を樹脂に転写して得られた針状の微細構造体は、構造が樹脂で構成されていることから、適度な硬さと弾力性を持ち、また、針状構造体であることから、ゴミなどの接触面積が小さく、ブロアーによる送風により容易に除去することができる。
さらに、この針状の微細構造体は、先が尖っているため、見かけ上、徐々に屈折率が変化していくため、防塵機能だけでなく、良好な反射防止特性を付与することもできる。
【0025】
本発明の成形型を用いて樹脂を成形する際には、樹脂は紫外線硬化性樹脂又は熱硬化性樹脂であってよく、樹脂に導電性フィラーを含有させて、成型品に帯電防止効果を付与することもできる。また、成形型の無反射防塵構造の下地層として帯電防止層を設けることもできる。導電性フィラーとしては、カーボンナノチューブなどが挙げられる。
【0026】
さらに、樹脂は、撥水性樹脂、撥水撥油性樹脂又は含フッ素樹脂であってよく、また、無反射防塵構造の表面上に撥水性又は撥水撥油性を有する膜を設けてもよい。
樹脂は、光散乱を生じない幅100nm以下の低熱膨張性ナノファイバーのコンポジット樹脂であってもよく、その具体例としては、バクテリアセルロースなどが挙げられる。
【0027】
本発明により得られる光学素子としては、レンズなどの撮像素子の他に、撮像素子のカバーガラス、赤外カットガラス、光学ローパスフィルタなどが挙げられる。
これらの光学素子の基板は、水晶又はニオブ酸リチウムから成るものでよく、光学素子は、基板が撮像素子のカバーガラスと貼り合わせた構造を有しているか、基板が赤外カットガラスと貼り合わせた構造を有しているか、基板が光学ローパスフィルタと貼り合わせた構造を有していてもよい。
本発明によれば、本発明による光学素子を具備する撮像装置やレンズ交換式デジタルカメラを提供することができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、高精度な無反射防塵構造を有する成形型を少ない工程数で短時間に高精度に製造することができ、従来法では不可能であったような曲率半径の小さい曲面にも容易に高精度な無反射防塵構造を形成することができる。
本発明の成形型を用いれば、無反射防塵構造を有する光学素子を少ない工程で、短時間に低コストで生産することができる。
本発明により、基板上に樹脂からなる無反射防塵構造を成形する場合には、液相成膜工程を持たないため、基板の濡れ性を問わず、基板の選択自由度が高い。また、濡れ性等に起因した構造の不均一性が起き難く、均一な構造形成が可能である。また、乾燥、焼成等の加熱工程を必要としないため、基板の耐熱性を問わず、基板の選択自由度が高い。
さらに、導電性フィラーの添加や、含フッ素樹脂の適用など、使用する樹脂を工夫することにより、工程を増やすことなく、容易に帯電防止性(クーロン力の低減)や、撥水撥油性(液架橋力の低減)機能の付加も可能である。
針状の微細構造は先が尖っているため、先端の強度が不足しがちであるが、本発明の無反射防塵構造は高い機械的強度を有し、特に、樹脂に光散乱を生じない幅100nm以下の低熱膨張性ナノファイバーを用いれば繊維により針状構造の強度をいっそう向上することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の一実施態様による無反射防塵構造を有する成形型の製造方法を説明する工程図である。
【図2】本発明におけるアモルファス層を形成する無電解めっき槽の略示断面図である。
【図3】本発明における電解めっき層を形成する電解めっき槽の略示断面図である。
【図4】実施例1で得られた成形型の無反射防塵構造を有する成形面の写真である。
【図5】図4に示した成形面の30,000倍の電子顕微鏡写真である。
【図6】図4に示した成形型で成形したL−BAL35c凸レンズの写真である。
【図7】図6に示したレンズ表面の30,000倍の電子顕微鏡写真である。
【図8】実施例2で製造したレンズの反射率曲線図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
次に、本発明の一実施態様を図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の一実施態様による無反射構造を有する成形型の製造方法を示す工程図である。本発明においては、まず、図1(a)に示すように、略ベース形状に加工された成形面2を有する成形型基材1を準備し、その成形面2以外の表面にはマスキング層3を設ける。マスキング方法としては、特に制限はなく、公知の任意の方法、例えば、貼付、スピンコート、スプレーなどの方法を用いることができる。
また、マスキング材料としては、特に制限はなく、例えば、AZエレクトロニックマテリアルズ(株)製からAZ UT21−HR、AZ 10XTの商品名で入手しうるメッキ工程用レジスト、日飛興産(株)から#8008−Rまたは#8008−Cの商品名で入手しうるレジストなどを用いることができる。
【0031】
次に、図1(b)に示すように、成形面2上にアモルファス層4を設ける。アモルファス層は、無電解めっきによって設けるのが好ましい。
図2には、アモルファス層4を形成する無電解めっき槽の略示断面図を示す。図2において、成形型基材1を陰極6とし、白金(Pt)又はチタン(Ti)又はチタンの上に白金をコートしたものを陽極7とした。無電解めっき浴には、Niと、H、B、P、S及び遷移金属元素から成る群から選択された少なくとも1種とから成るアモルファス層構成成分とともに、例えば、次亜リン酸ナトリウムを含む溶液を用いる。ストライクめっきを行った後、無電解めっきを行い、アモルファス層を形成した。このアモルファス層は、平滑な表面状態になっている。無電解めっきは、浴温80〜95℃で10〜60分行い、その間必要に応じて撹拌することができる。
【0032】
形成したアモルファス層4の上には、図1(c)に示したように、さらに電解めっき層5を形成する。電解めっき層5は、アスペクト比が1.0〜1.5の微細な針状構造を有する表面形状となっている。
電解めっき層5は、図3に示すように、電解めっき槽によって形成することができる。この電解めっき槽では、成形面2にアモルファス層4を有する成形型基材1を陰極6とし、例えば、ニッケル板を陽極7とし、塩化ニッケル、硫酸ニッケル等のニッケル塩とホウ酸等の緩衝剤を含むニッケル電解めっき浴を用い、ニッケル電解めっきを行う。通常、ニッケル塩は0.5〜1.5mol/lの濃度で用い、緩衝剤は0.5〜1.0mol/lの濃度で用いるのが好ましい。
また、一般に電解めっき条件は、電極間距離20〜80mm、浴温度50〜80℃、電流密度50〜500A/m2 、時間30〜300秒であるのが好ましい。
【0033】
上記のようにしてアモルファス層4及び電解めっき層5を形成した後、図1(d)に示したように、マスキング層3を薬品に浸漬または、プラズマなどで剥離することにより、完成した無反射防塵構造を有する成形型が得られる。
【実施例1】
【0034】
ベース面曲率半径22mmの凹型成形面を有する凸レンズ成形用金型[(材質:STAVAX (SUS420J2)]の成形面に前記の図1〜図3に示したようにして無電解NiめっきによるNiアモルファス層及び電解Niめっきによる電解Niめっき層を形成した。このとき陰極として金型を用い、陽極としてNi板を用い、各めっき条件は下記の通りとした。
無電解Niめっき
陽極 :Pt
めっき浴の組成
硫酸ニッケル六水和物 0.1 mol/l
次亜リン酸ナトリウム 0.2 mol/l
クエン酸 0.5 mol/l
硫酸アンモニウム 0.5 mol/l
浴温: 90℃
めっき時間:30分
電解Niめっき
陽極 : ニッケル
浴の成分:塩化ニッケル 1.0 mol/l
ホウ酸 0.5 mol/l
電流密度: 100A/m2
浴温 : 60℃
めっき時間:1分
【0035】
図4は、得られた成形型の無反射防塵構造を有する成形面の写真である。
図5は、図4に示した成形面の30,000倍の電子顕微鏡写真である。
【実施例2】
【0036】
実施例1と同様の方法で曲率半径22mmの凹型成形型を製造し、その成形型を用いてUVナノインプリントした曲率半径22mmの(株式会社オハラ社製:L−BAL35c)凸レンズを得た。
図6は、得られたL−BAL35c製凸レンズの写真であり、図7は、図6に示したレンズの30,000倍の電子顕微鏡写真である。
図8は、波長380nm〜780nmの光線に対する反射率曲線図であり、図6に示した凸レンズの反射率曲線を○印線で示し、微細針状構造を持たない以外は同じ成形型で製造したL−BAL35c製凸レンズの反射率曲線を×印線で示す。
図8に示した結果から本発明の成形型を用いることにより極めて高精度な無反射構造が得られたことが分かる。
【実施例3】
【0037】
鏡面研磨した合成石英ガラス基板上に真空蒸着装置によりクロム+銅の金属膜を約100nm成膜した。その金属膜に下記のめっき浴及び条件での無電解Ni−Pめっきによりアモルファス状のNi−P膜を0.5μmの厚さで成膜した。その後、実施例1に記載したのと同様の電解Niめっきにより針状Niめっき層を1.0μmの層厚で形成した。その後、樹脂と転写型の離型性を高めるため転写型に離型剤処理を行った。
無電解Ni−Pめっき浴の組成
硫酸ニッケル六水和物 0.1 mol/l
次亜リン酸ナトリウム 0.2 mol/l
クエン酸 0.5 mol/l
硫酸アンモニウム 0.5 mol/l
無電解Ni−Pめっき条件
浴温 80〜90℃
めっき時間 10〜60分
撹拌 あり
【0038】
作製した型にUV硬化樹脂を垂らし、その上にPC(ポリカーボネート)基板を重ね、荷重を加えて圧力を加えた後、UV光を照射して樹脂の硬化を行った。硬化後、型とPC基板を機械的に剥離して試料を得た。
試料の表面をSEMで観察したところ、図5及び図7に示した構造と同様に、高さ約80〜100nmの針状の微細構造が約125nm〜180nmの周期で二次元的にランダムに配置しているのを確認した。
【0039】
<光学特性>
微細凹凸を形成した基板表面の分光反射特性を測定した。
400〜680nmで約2%以下の反射率を示した。すなわち、可視域で反射防止特性が得られている。反射防止特性では1%が望ましいが、条件等を変えると可能である。
また、光の散乱の度合を判断するためHAZE測定を実施した、微細構造を形成していない未処理ガラス基板のHAZEは0%であったのに対し、微細針状構造を形成した基板のHAZEは0.5〜0.9%であった。このことから微細針状構造の形成により光の散乱が発生していると考えられる。
<防塵性・機械的強度>
実施例3によりガラス基板上に微細針状構造を形成した試料と、未処理のガラス基板試料を用意した。擬似的なゴミとして粒径分布5μm〜75μmのけい砂を用いた。けい砂を両試料表面上に同量ずつ振り掛けた後、ブロアーで同等の風量で送風を行い、ゴミが除去される傾向を観察した。未処理のガラス基板に対し、微細針状構造を形成した試料の方が明らかに弱い風量でけい砂が除去されることを確認した。このことから針状の樹脂微細構造の付与により防塵性が発現していることが確認された。
【符号の説明】
【0040】
1 成形型基材
2 成形面
3 マスキング層
4 アモルファス層
5 電解めっき層
6 陰極
7 陽極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形型基材の略ベース形状に加工した成形面上にアモルファス層及びさらにその上に微細な針状構造をランダムに二次元配置して有する電解めっき層を積層してなる無反射防塵構造を有する光学素子成形型。
【請求項2】
針状構造の平均周期及び平均太さが光学系内で使用する光の最短波長以下である請求項1記載の無反射防塵構造を有する光学素子成形型。
【請求項3】
針状構造の平均周期が50〜500nmである請求項1記載の無反射防塵構造を有する光学素子成形型。
【請求項4】
針状構造の平均構造高さが10〜900nmである請求項1記載の無反射防塵構造を有する光学素子成形型。
【請求項5】
成形面が小さい曲率半径を有する曲面である請求項1記載の無反射防塵構造を有する光学素子成形型。
【請求項6】
成形面の曲率半径が80mm以下である請求項1記載の無反射防塵構造を有する光学素子成形型。
【請求項7】
アモルファス層がNiと、H、B、P、S及び遷移金属元素から成る群から選択された少なくとも1種とから成る請求項1記載の無反射防塵構造を有する光学素子成形型。
【請求項8】
アモルファス層が0.01〜1.0μmの層厚を有する請求項1記載の無反射防塵構造を有する光学素子成形型。
【請求項9】
電解めっき層がニッケル、Co及びPtから成る群から選択された少なくとも1種から成る請求項1記載の無反射防塵構造を有する光学素子成形型。
【請求項10】
電解めっき層の厚さが0.01〜5μmである請求項1記載の無反射防塵構造を有する光学素子成形型。
【請求項11】
略ベース形状に加工した成形面を有する成形型の成形面以外の表面をマスキングした後、成形面にアモルファス層を形成し、さらに電解めっき層を設け、マスキングを剥離することを特徴とする請求項1記載の無反射防塵構造を有する光学素子成形型の製造方法。
【請求項12】
成形面が小さい曲率半径を有する曲面である請求項11記載の無反射防塵構造を有する光学素子成形型の製造方法。
【請求項13】
成形面の曲率半径が80mm以下である請求項11記載の無反射防塵構造を有する光学素子成形型の製造方法。
【請求項14】
アモルファス層がNiと、H、B、P、S及び遷移金属元素から成る群から選択された少なくとも1種とから成る請求項11記載の無反射防塵構造を有する光学素子成形型の製造方法。
【請求項15】
アモルファス層の層厚を0.01〜1.0μmとする請求項11記載の無反射防塵構造を有する光学素子成形型の製造方法。
【請求項16】
電解めっき層をニッケル、Co及びPtから成る群から選択された少なくとも1種の電気めっきにより形成する請求項11記載の無反射防塵構造を有する光学素子成形型の製造方法。
【請求項17】
電解めっき層の厚さが0.01〜5μmである請求項11記載の無反射防塵構造を有する光学素子成形型の製造方法。
【請求項18】
請求項1記載の成形型を用いて樹脂を成形することにより該成形型の微細な針状構造を転写してなる無反射防塵構造を有する光学素子。
【請求項19】
針状構造の平均周期及び平均太さが光学系内で使用する光の最短波長以下である請求項18記載の無反射防塵構造を有する光学素子。
【請求項20】
針状構造の平均周期が50〜500nmである請求項18記載の無反射防塵構造を有する光学素子。
【請求項21】
針状構造の平均構造高さが10〜900nmである請求項18記載の無反射防塵構造を有する光学素子。
【請求項22】
樹脂が紫外線硬化性樹脂又は熱硬化性樹脂である請求項18記載の無反射防塵構造を有する光学素子。
【請求項23】
光学素子が光学面に小さい曲率半径を有する形状のものである請求項18記載の無反射防塵構造を有する光学素子。
【請求項24】
樹脂が導電性フィラーを含むものである請求項18記載の無反射防塵構造を有する光学素子。
【請求項25】
無反射防塵構造の下地層として帯電防止層を有する請求項18記載の無反射防塵構造を有する光学素子。
【請求項26】
樹脂が撥水性樹脂、撥水撥油性樹脂又は含フッ素樹脂である請求項18記載の無反射防塵構造を有する光学素子。
【請求項27】
無反射防塵構造の表面上に撥水性又は撥水撥油性を有する膜を具備する請求項18記載の無反射防塵構造を有する光学素子。
【請求項28】
樹脂が光散乱を生じない幅100nm以下の低熱膨張性ナノファイバーのコンポジット樹脂である請求項18記載の無反射防塵構造を有する光学素子。
【請求項29】
光学素子が基板とその上に形成した無反射防塵構造からなり、基板が撮像素子のカバーガラスである請求項18記載の無反射防塵構造を有する光学素子。
【請求項30】
基板が赤外カットガラスである請求項29記載の無反射防塵構造を有する光学素子。
【請求項31】
基板が光学ローパスフィルタである請求項29記載の無反射防塵構造を有する光学素子。
【請求項32】
基板が水晶又はニオブ酸リチウムから成る請求項29記載の無反射防塵構造を有する光学素子。
【請求項33】
基板が撮像素子のカバーガラスと貼り合わせた構造を有している請求項29記載の無反射防塵構造を有する光学素子。
【請求項34】
基板が赤外カットガラスと貼り合わせた構造を有している請求項29記載の無反射防塵構造を有する光学素子。
【請求項35】
基板が光学ローパスフィルタと貼り合わせた構造を有している請求項29記載の無反射防塵構造を有する光学素子。
【請求項36】
請求項18〜35のいずれか1項に記載の光学素子を具備することを特徴とする撮像装置。
【請求項37】
請求項18〜36のいずれか1項に記載の光学素子を具備することを特徴とするレンズ交換式デジタルカメラ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−31406(P2011−31406A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−177147(P2009−177147)
【出願日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】