説明

無収縮コンクリート用セメント組成物及びプレミックスセメント組成物

【課題】 大型のコンクリート構造物や部材厚の厚いコンクリート部材で起こりやすいコンクリート内部の過度の温度上昇を低減し、かつ自己収縮も低減することによりこれらに起因するひび割れを低減し、強度発現性も良好かつ均一とすることができる無収縮コンクリート用セメント組成物及びこのようなセメント組成物の一部を構成するプレミックスセメント組成物を提供する。
【解決手段】 普通ポルトランドセメントと、ブレーン比表面積が1500cm2/g以上かつ3600cm2/g以下の高炉水砕スラグ粗粉と、膨張成分とからなる無収縮コンクリート用セメント組成物とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば耐震補強工法に用いられる充填コンクリート等、建築分野や土木分野で、無収縮性が要求されるコンクリートに好適に用いることができる無収縮コンクリート用セメント組成物及びこれを構成するプレミックスセメント組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明者らは、高炉水砕スラグを用いたコンクリートにおいて、内部温度上昇や自己収縮によるひび割れの発生をできるだけ抑制したセメントやコンクリートの分野で使用される混和材及びセメント組成物をより経済的に提供するようにした発明として、特開2005−281123(特許文献1)に係るものを提供した。
【0003】
この発明では、特定の高炉水砕スラグ粗粉と無水石膏を組み合わせた混和材を用いることにより、コンクリート内部の過度の温度上昇や自己収縮によるひび割れを抑制することとしている。しかし、収縮をさらに低減した無収縮コンクリートを得ようとすると、上記のような混和材では多量に添加する必要があり、混和材を多量に添加することは、強度維持の観点から避けたいところであった。また、従来から無収縮コンクリートは種々知られているが、これらは温度ひび割れや自己収縮ひび割れにおいて必ずしも十分な性能を有するものではなかった。
【特許文献1】特開2005−281123
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、大型のコンクリート構造物や部材厚の厚いコンクリート部材で起こりやすいコンクリート内部の過度の温度上昇を低減し、かつ自己収縮も低減することによりこれらに起因するひび割れを低減し、強度発現性も良好かつ均一とすることができ、充填コンクリート等に適用可能な無収縮コンクリート用セメント組成物及びこのようなセメント組成物の一部を構成し、市販の膨張材との併用が可能なプレミックスセメント組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明は、無収縮コンクリート用セメント組成物であって、普通ポルトランドセメントと、ブレーン比表面積が1500cm2/g以上かつ3600cm2/g以下の高炉水砕スラグ粗粉と、膨張成分とからなることを特徴とする。
【0006】
本発明に係る無収縮コンクリート用セメント組成物は、上記高炉水砕スラグ粗粉について、その粒度分布を90μmフルイ残分が1.0%以上かつ10.0%以下、300μmフルイ残分が0.1%以下とすることが好適である。なお、特許請求の範囲及び本明細書の記載中、フルイ残分について、特にことわりのない限り、「%」とあるのは、「重量%」である。
【0007】
また、本発明に係る無収縮コンクリート用セメント組成物は、上記普通ポルトランドセメントと、上記水砕スラグ粗粉と、上記膨張成分との割合が、普通ポルトランドセメント20〜69%、高炉水砕スラグ粗粉25〜65%、膨張成分6〜15%とすることが好適である。なお、特許請求の範囲及び本明細書の記載中、このような配合割合について、特にことわりのない限り、「%」とあるのは、「重量%」である。
【0008】
さらに、本発明に係る無収縮コンクリート用セメント組成物は、上記膨張成分が、CaO、CaSO4、アウインのうちの少なくとも2種以上の成分を含むものであることが好適である。
【0009】
本発明は、別の側面で、本発明に係る無収縮コンクリート用セメント組成物の一部を構成するプレミックスセメント組成物であって、該プレミックスセメント組成物は、普通ポルトランドセメントと、ブレーン比表面積が1500cm2/g以上かつ3600cm2/g以下の高炉水砕スラグ粗粉と、無水石膏とからなることを特徴とする。
【0010】
本発明に係るプレミックスセメント組成物において、上記高炉水砕スラグ粗粉は、その粒度分布を90μmフルイ残分が1.0%以上かつ10.0%以下、300μmフルイ残分が0.1%以下とすることが好適である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、コンクリート内部の過度の温度上昇や自己収縮によるひび割れが抑制でき、かつ強度発現の良好な無収縮コンクリート用セメント組成物が提供される。したがって、大型のコンクリート構造物における充填コンクリート等、無収縮コンクリートの用途拡大が図れる。また、該無収縮コンクリート組成物の一部をプレミックス組成物とすることによって、市販の膨張材も使用でき、作業性(施工性)の向上が図れる。
【0012】
また、本発明に係る無収縮コンクリート用セメント組成物は、粉末度の粗い高炉水砕スラグ粉を用いているので、高炉水砕スラグ粉の有効利用を図ることができると共に、有効利用に際してのエネルギーコストも安くてすむという利点を備えている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に、本発明に係る無収縮コンクリート用セメント組成物及びその一部を構成するプレミックスセメント組成物について、その好適な実施の形態を参照しながらさらに詳細に説明する。
【0014】
本発明に係る無収縮コンクリート用セメント組成物は、普通ポルトランドセメントと、ブレーン比表面積が1500cm2/g以上かつ3600cm2/g以下の高炉水砕スラグ粗粉と、膨張成分とからなる。すなわち、本発明に係る無収縮コンクリート用セメント組成物は、普通ポルトランドセメントに、所定の高炉水砕スラグ粗粉と、膨張成分とを組み合わせてなるものである。なお、本発明でいう無収縮とは、後述の自己収縮試験において、ひずみが材令28日までに収縮側にならず膨張側にあることをいう。
【0015】
ポルトランドセメントには、早強、普通、中庸熱、低熱、があるが、本発明では、最も好適なものとして普通ポルトランドセメントを用いる。中庸熱、低熱では、使用条件によっては十分な初期強度を得られなくなる場合があり、また、水和熱による蓄熱が大きくなったり、収縮し易くなったりして、目的とする無収縮コンクリート用セメント組成物が得られ難くなることが起こるからである。
【0016】
高炉水砕スラグは、高炉から生成する溶融スラグに多量の圧力水を噴射することにより急冷した砂状のスラグである。本発明では、最も好適なものとして、ブレーン比表面積が1500cm2/g以上かつ3600cm2/g以下の高炉水砕スラグ粗粉を配合する。この範囲のブレーン比表面積をはずれたものすなわち、1500cm2/gに満たない場合では、使用条件によっては強度発現が不十分となる可能性があり、3600cm2/gを超える場合では、水和発熱量及び収縮が大きくなる可能性があるからである。ブレーン値を本発明の範囲にするには、例えば、高炉水砕スラグ粒子をチューブミル又はローラーミル等で粉砕し、セパレーター等 で分級すればよい。
【0017】
また、高炉水砕スラグ粗粉については、その粒度分布を90μmフルイ残分が1.0%以上かつ10.0%以下、300μmフルイ残分が0.1%以下とすることがより好適である。90μmフルイ残分を1.0%以上かつ10.0%以下とすることにより、本発明が目的とする諸性能が得られ
易くなる。また、300μmフルイ残分が0.1%を超えると、所定の強度発現や流動性が得られ難くなったり、場合によってはポップアウトの発生等が起こり易くなる。高炉水砕スラグ粗粉をこの粒度分布の範囲にするには、例えば、高炉水砕スラグ粒子をチューブミル又はローラーミル等で粉砕し、上記所定範囲のブレーン比表面積にしたものを、さらにセパレーター等で分級し、調合すればよい。
【0018】
高炉水砕スラグ粗粉は、コンクリート内部の過度の温度上昇や自己収縮を防ぎ、もっぱら長期強度の発現に寄与させるために配合する。このため、普通ポルトランドセメントに上記高炉水砕スラグ粗粉を混和した系では、打設条件によっては短期強度が十分確保されない場合が生じる。したがって、これらに組み合わされる膨張成分としては、本来の機能である膨張に寄与すると共に、短期強度の発現にも寄与するものが好適である。具体的には、水和反応により、水酸化カルシウム形成とエトリンガイト形成がなされるものである。
【0019】
このようなことから、膨張成分としては、CaO、CaSO4、アウインのうちの少なくとも2種以上の成分を含むものであることが好適である。より具体的には、このような膨張成分を含む膨張材としては、CaO−CaSO4系膨張材及びCaO−アウイン−CaSO4系膨張材等が好適である。このような膨張材では、CaOが、水酸化カルシウムになる水和反応を利用して十分な膨張が得られ、アウインやCaSO4がセメント成分と反応してエトリンガイトを形成することによっても膨張が得られる。また、CaSO4やアウインを含む系では、エトリンガイトの形成による短期強度の発現も期待できる。なお、ここでいうアウインとは、3CaO・3Al23・CaSO4の組成式で表される鉱物であり、CaSO4等の祖存在下で水和してエトリンガイト(3CaO・Al23・3CaSO4・32H2O)を形成するものである。
【0020】
CaO−CaSO4系膨張材は、遊離石灰(一般的には生石灰)10〜60%に対し無水石膏40〜90%(膨張材全体を100重量%とした重量%での割合)配合することが好適である。遊離石灰が10%に満たないと膨張性能が悪くなるため十分な無収縮が実現できず、遊離石灰が60%を超えると過剰な膨張となる可能性があり、膨張ひび割れ、ポップアウト現象、短期強度不足等の危険性が生じる。
【0021】
CaO−アウイン−CaSO4系膨張材は、遊離石灰(一般的には生石灰)10〜40%とアウイン10〜30%と無水石膏30〜80%(膨張材全体を100重量%とした重量%での割合)配合することが好適である。遊離石灰が10%に満たないと膨張性能が悪くなるため十分な無収縮が実現されず、遊離石灰が40%を超えると過剰な膨張となる可能性があり、膨張ひび割れ、ポップアウト現象、短期強度不足等の危険が生ずる。アウインと無水石膏が90%を超えると遅れ膨張を引き起こし膨張ひび割れを生ずる場合があったり、長期強度発現が悪くなる。無水石膏の量が少ないと、急硬等により十分な作業性が確保できない場合が生ずる。
【0022】
上記無水石膏としては、天然無水石膏、フッ酸無水石膏、天然2水石膏や副産2水石膏あるいは廃石膏ボードから回収した2水石膏を焼成して製造した無水石膏があるが、本発明では、無水石膏を90%以上含有している石膏であれば、すべて使用できる。また、粉末度は特に限定しないが、ブレーン比表面積で3000から8000cm2/g、好ましくは4000から6000cm2/gである。
【0023】
上記膨張成分は、例えば生石灰と無水石膏、あるいは、生石灰とアウインと無水石膏とを所定の割合でV型混合機等の従来からある混合機で混合することによって得られる。また、CaCO3とCaSO4とを原料とする焼成物、あるいはCaCO3とAl23とCaSO4とを原料とする焼成物によっても得ることが可能である。さらに、これらの代わりに、例えば、市販されている太平洋マテリアル社製のニューエクスパン、電気化学工業社のCSAを用いることも可能である。この場合は、後述の本発明のプレミックスセメント組成物を用いることが好ましい。
【0024】
また、高炉水砕スラグ粗粉と膨張成分との配合割合は、前者100重量部に対し後者3〜35重量部とすることが好適である。膨張成分が高炉水砕スラグ粗粉100重量部に対し、3重量部に満たない場合では無収縮が実現されない場合があり、35重量部を超えると過剰な膨張や遅れ膨張が生じる可能性がある。さらに好ましくは、前者100重量部に対し、後者10〜31重量部である。この範囲であれば、これらの弊害がより生じ難い。膨張成分は、高炉水砕スラグ粗粉と組み合わせることにより、比較的少量で無収縮が実現できる。
【0025】
また、普通ポルトランドセメント100重量部に対する高炉水砕スラグ粗粉と、膨張成分の合計の配合割合は、30〜300重量部とすることが好適である。30重量部に満たない場合はコンクリートの温度上昇や自己収縮によるひび割れを抑えかつ無収縮を実現できない場合がある。300重量部を超えるとコンクリートの強度が不足する場合がある。さらに好ましくは、前者100重量部に対し、後者128〜202重量部である。この範囲であれば、これらの弊害がより生じ難い。
【0026】
以上のこと等を考慮し、本発明に係る無収縮コンクリート用セメント組成物では、普通ポルトランドセメントと、高炉水砕スラグ粗粉と、膨張成分との割合は、普通ポルトランドセメント20〜69%(より好ましくは、27〜64%)、高炉水砕スラグ粗粉25〜65%、膨張成分6〜15%の範囲に設定することが好適である。各構成材料をこれらの範囲にすることによって、コンクリートの温度上昇や自己収縮によるひび割れ防止、良好な強度発現、無収縮をバランスよく達成できる。なお、本発明の効果を阻害しない範囲であれば、高炉水砕スラグ微粉、シリカフューム、フライアッシュ、石灰石粉等の通常、セメントやコンクリートに混和される成分を無収縮コンクリート用セメント組成物に混和することも可能である。
【0027】
また、本発明に係る無収縮コンクリート用セメント組成物については、前述の通り、膨張成分として市販の膨張材を利用することができる。この場合、本発明の無収縮コンクリート用セメント組成物のうち市販の膨張材の成分(CaO、CaSO4、アウイン)を除いた成分が、該無収縮コンクリート用セメント組成物の一部を構成するプレミックスセメント組成物として調製される。このようなプレミックスセメント組成物は、普通ポルトランドセメントと、前記ブレーン比表面積が1500cm2/g以上かつ3600cm2/g以下の高炉水砕スラグ粗粉と、前記無水石膏とからなるものとして調製することができる。これらの配合割合は、例えば、普通ポルトランドセメント37%、ブレーン比表面積が1500cm2/g以上かつ3600cm2/g以下の高炉水砕スラグ粗粉58%、無水石膏5%である。
なお、このプレミックスセメント組成物は、本発明の無収縮コンクリート用セメント組成物のうちの一部の膨張成分を除くものからなるので、用いられる高炉水砕スラグ粗粉の粒度分布は、前記同様、90μmフルイ残分が1.0%以上かつ10.0%以下、300μmフルイ残分が0.1%以下であることが好ましい。
本発明の無収縮コンクリート用セメント組成物は、従来の高炉セメントと同様に使用できる。また、プレミックスセメント組成物も従来の高炉セメントと同様に使用できる。ただし、十分な無収縮性を得るためには市販の膨張材(CaO−CaSO4系、CaO−アウイン−CaSO4系)の併用が必須である。この場合、市販の膨張材の添加量は、プレミックスセメント組成物100重量部に対し、2〜 17重量部であるのが好ましい。
【実施例】
【0028】
以下に本発明に係る無収縮コンクリート用セメント組成物及びプレミックスセメント組成物の実施例、比較例を記載する。
A.無収縮コンクリート用セメント組成物に関する試験
1.使用材料
実施例、比較例に用いたセメント組成物及びコンクリートの使用材料と、対応する記号を表1に示す。
【0029】
【表1】

【0030】
2.セメント組成物の配合割合
実施例及び比較例のコンクリート試験に用いた膨張成分の鉱物組成、セメント組成物の配合を、記号を使用してそれぞれ表2に記載した。表2中No.1からNo.9として示したものが実施例1から9に相当し、No.10からNo.12が比較例1から3に相当する。なお、表中の配合は、セメント組成物全体を100%とした内割りで示している。
【0031】
【表2】

【0032】
3.セメント組成物の製造
表1の材料を表2で示す割合で混合した。
4.コンクリートの配合割合
上記セメント組成物は、いずれも425kg/m3である。また、該セメント組成物以外のコンクリートの配合は、いずれも水セメント組成物比40%、粗骨材量 960kg/m3、s/aが43.1%、単位水量170kg/m3、AE減水剤がセメント組成物に対して0.45%である。
【0033】
5.圧縮強度試験
フレッシュコンクリートの性質とJIS A 1108による圧縮強度(標準水中養生)を測定し、その結果を表3に記載した。
【0034】
【表3】

【0035】
上記の表3の結果から明らかなように、ブレーン比表面積が本発明の下限値である1500cm2/g未満の高炉水砕スラグ粗粉を用いたNo.12(比較例3)では強度発現性が悪かった。No.12については強度発現性が悪くなっために他の試験は中止した。
本発明の範囲で、従来よりブレーン比表面積の小さい高炉水砕スラグ粗粉を用いたNo.1〜No.9実施例のコンクリート強度は、本発明の範囲よりブレーン比表面積の大きい従来の高炉水砕スラグ粉を用いたNo.10(比較例1)と比較すると小さいが、材齢7日ではすでに実用に充分耐えうる強度を発現していた。
【0036】
6.断熱温度上昇試験
コンクリートの断熱温度上昇試験は、下記の文献で示される方法を採用した。その結果をT=K(1−e-αt)の式に近似させたときのKとαを表4に記載した。
ここに、T:断熱温度上昇量(℃)、K:終局断熱温度上昇量(℃)、t:材令(日)、α:温度上昇速度の定数である。
文献: 葛西康幸他、「簡易な断熱試験による高強度コンクリートの断熱温度上昇特性に関する検討」土木学会第57回年次学術講演会、第5部門、pp.1167−1168,2002
【0037】
【表4】

【0038】
上記の表4の結果から明らかなように、本発明の範囲の上限値であるブレーン比表面積が3600cm2/gを超える従来の高炉水砕スラグ粉を用いたNo.10(比較例1)は、ブレーン比表面積が2870cm2/gの本発明の範囲内にある高炉水砕スラグ粗粉を用いた同一添加量のNo.2(実施例2)と比較して10℃近く終局断熱温度上昇量(K値)は大きくなった。
このように、本発明の範囲であるブレーン比表面積の小さい高炉水砕スラグ粗粉と膨張成分からなるセメント組成物を用いたコンクリートの断熱温度上昇量は比較例と比べ概して低くなった。なお、No.7(実施例7)のK値が高いのはセメント量が多いことによる。
【0039】
7.自己収縮試験
コンクリートの自己収縮試験は、JCI自己収縮研究委員会の「セメントペースト、モルタルおよびコンクリートの自己収縮および自己膨張試験方法(案)」(JCI−1996)により行った。その結果を、表5に記載した。
【0040】
【表5】

【0041】
上記の表5の結果から明らかなように、膨張成分を含まないNo.11(比較例2)材令1日以降で収縮が増加したが、本発明のもの(No.1〜No.9)はいずれも材令28日でひずみが膨張側にあり、無収縮となった。ブレーン比表面積が3600cm2/gを超える従来の高炉水砕スラグ粉と膨張成分を用いたNo.10(比較例1)は、材令28日でひずみは膨張側にあるものの、高炉水砕スラグ粉以外は、このNo.10と同一の膨張成分及びセメントを各々同一の割合で使用したNo.2(実施例2)よりも膨張量が小さい結果となった。また、膨張成分の量以外は同一で膨張成分の量だけがNo.10に比べ少ないNo.1(実施例1)の膨張量はNo.10より大きい結果となった。これらのことからして、本発明の範囲であるブレーン比表面積の小さい高炉水砕スラグ粗粉と膨張成分を併用すれば、従来の高炉水砕スラグ粉と膨張成分を併用した場合、より少ない膨張成分の量で所定の膨張量が得られることがわかる。いいかえれば、所定の膨張量を得るために膨張成分の量を減らすことができる。なお、用いた実施例の試験体には、目視観察により、いずれも自己収縮や膨張によるひび割れが発生していないことを確認した。
【0042】
以上の結果から、本発明に係る無収縮コンクリート用セメント組成物を用いることで、コンクリート内部の過度の温度上昇や自己収縮によるひび割れが発生し難く、強度発現の良好な無収縮のコンクリートを容易に製造できることが了解わかる。
【0043】
B.プレミックスセメント組成物に関する試験
1.使用材料
実施例に用いたプレミックスセメント組成物及びコンクリートの使用材料と、対応する記号は、前記表1に示したものと同様である。
使用した市販のCaO−CaSO4系膨張材、及びCaO−アウイン−CaSO4系膨張材の配合は以下の通りである。なお、配合は、全体を100%(重量)とし、その内割りで示している。
【0044】
【表6】

【0045】
2.プレミックスセメント組成物
コンクリート試験に用いたプレミックスセメント組成物の配合を、表1に示す記号を使用してそれぞれ表7に記載した。なお、表中の配合は、プレミックスセメント組成物全体を100%とした内割りで示している。
【0046】
【表7】

【0047】
3.セメント組成物の製造
以上のプレミックスセメント組成物の各々に、市販のCaO−CaSO4系膨張材、あるいはCaO−アウイン−CaSO4系膨張材を各々混合し、セメント組成物を得た。
なお、前記プレミックスセメント組成物の製造は、前記Aの項に示す無収縮コンクリート用セメント組成物に関する試験(以下、試験Aという)におけるセメント組成物の製造と同様に行った。
得られた市販の膨張材を含むセメント組成物の配合を、前記表1に示す記号を使用してそれぞれ表8に記載した。なお、表中の配合は、セメント組成物全体を100%とした内割りで示している。
【0048】
【表8】

【0049】
5.圧縮強度試験
試験Aと同様にして、フレッシュコンクリートの性質とJIS A 1108による圧縮強度(標準水中養生)を測定し、その結果を表9に記載した。
【0050】
【表9】

【0051】
上記の表9の結果から明らかなように、No.1〜No.2に係る実施例のコンクリートの強度は、材齢7日ですでに実用に充分耐えうる強度を発現している。
【0052】
6.断熱温度上昇試験
試験Aと同様の断熱温度上昇試験を行った。その結果をT=K(1−e-αt)の式に近似させたときのKとαを表10に記載した。
【0053】
【表10】

【0054】
上記の表10の結果から明らかなように、No.1,2の実施例でも前記試験Aにおける実施例と同様の結果となり、終局断熱温度上昇量は低くなった。
このように、セメント組成物としてプレミックスセメント組成物と市販の膨張材と併用した場合でも、本発明の範囲であるブレーン比表面積の小さい高炉水砕スラグ粗粉を用いることにより、前記無収縮コンクリート用セメント組成物と同様コンクリートの終局断熱温度上昇量を低くできることがわかった。
【0055】
7.自己収縮試験
試験Aと同様のコンクリートの自己収縮試験を行った。その結果を、表11に記載した。
【0056】
【表11】

【0057】
上記の表11の結果から明らかなように、本発明の範囲であるブレーン比表面積の小さい高炉水砕スラグ粗粉と膨張成分を併用すれば、本発明のプレミックスセメント組成物と市販の膨張材を併用して、本発明の無収縮コンクリート用セメント組成物を製造した場合でも、少ない膨張成分の量で無収縮コンクリートが得られることがわかる。また、前記同様、用いた試験体を目視観察し、事故収縮や膨張によるひび割れが生じないことを確認した。
【0058】
以上の結果から、本発明に係るプレミックスセメント組成物で本発明に係る無収縮コンクリート用セメント組成物の一部を構成するようにし、市販の膨張材を併用した場合でも、コンクリート内部の過度の温度上昇や自己収縮によるひび割れが発生し難く、強度発現の良好な無収縮のコンクリートを容易に製造できることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
普通ポルトランドセメントと、ブレーン比表面積が1500cm2/g以上かつ3600cm2/g以下の高炉水砕スラグ粗粉と、膨張成分とからなることを特徴とする無収縮コンクリート用セメント組成物。
【請求項2】
上記高炉水砕スラグ粗粉は、90μmフルイ残分が1.0%以上かつ10.0%以下、300μmフルイ残分が0.1%以下であることを特徴とする請求項1に記載の無収縮コンクリート用セメント組成物。
【請求項3】
上記普通ポルトランドセメントと、上記水砕スラグ粗粉と、上記膨張成分との割合が、普通ポルトランドセメント20〜69%、高炉水砕スラグ粗粉25〜65%、膨張成分6〜15%であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の無収縮コンクリート用セメント組成物。
【請求項4】
上記膨張成分が、CaO、CaSO4、アウインのうちの少なくとも2種以上の成分を含むものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の無収縮コンクリート用セメント組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかの無収縮コンクリート用セメント組成物の一部を構成するプレミックスセメント組成物であって、普通ポルトランドセメントと、ブレーン比表面積が1500cm2/g以上かつ3600cm2/g以下の高炉水砕スラグ粗粉と、無水石膏とからなることを特徴とするプレミックスセメント組成物。
【請求項6】
上記高炉水砕スラグ粗粉は、90μmフルイ残分が1.0%以上かつ10.0%以下、300μmフルイ残分が0.1%以下であることを特徴とする請求項5に記載のプレミックスセメント組成物。

【公開番号】特開2007−217197(P2007−217197A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−36442(P2006−36442)
【出願日】平成18年2月14日(2006.2.14)
【出願人】(592037907)株式会社デイ・シイ (36)
【Fターム(参考)】