説明

無接着剤部分膨張圧縮木ダボ接合法

【課題】木質部材に施すダボ用の下穴径と同じ径の通常部と、膨張させるために、それよりも大きな径の拡張部から構成される木ダボを加工し、その拡張部を、外周面から中心に向かって全方向的に圧縮する押し出し加工によって圧縮木ダボを形成し、接着剤を用いず、その拡張部が水分を吸水し、膨張することによって接合する無接着剤部分膨張圧縮木ダボ接合法の技術手段を得る。
【解決手段】ダボ下穴の径と同径の通常部と、それよりも大きい径の拡張部から構成される木ダボを製造する。それを圧縮木ダボ専用の押し出し加工装置を用いて、拡張部全体を中心に向かって全方向的に圧縮することを可能にし、無接着剤部分膨張圧縮木ダボ接合法による引抜き強度が改善された。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木ダボを用いた木質部材の接合法に関して、特に、接着剤を用いず、圧縮木ダボに、水分を吸水させ膨張させることで発現する引抜き抵抗力によって木質部材を接合する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
住宅建築における木質部材の接合では、強度的な信頼性と作業性に優れている釘、ボルトおよび接合金物が用いられる場合が多い。しかしながら、これらの木質部材をリサイクルあるいはリユースする場合、釘、ボルトおよび接合金物の除去が必要となるが、この作業は未だ手作業に頼るしかなく、これには多大な労力を要している。それに必要なコストから判断しても、釘、ボルトおよび接合金物による接合が木質部材の再資源化を抑制していると言っても過言ではない。そこで、これらに代わる接合法として、木ダボを圧縮して接合する方法が提案されている。例えば、特許文献1には、木ダボを加熱圧縮し、締結穴より小さい径に加工したものに接着剤を塗布し、木ダボを挿入して、接着剤を吸わせ膨張させることによって接合する方法が開示されている。
【特許文献1】特開2000−64436号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、この方法は、各種合成樹脂接着剤を多量に使用するため、VOC等の環境問題が発生し、またリサイクル時にこの接着剤を除去することは現段階では不可能であることなどから、新たな接合法の開発が求められている。
【0004】
この接合法に代わる方法として、圧縮木ダボが水分を吸って元に戻ろうとする力を利用し、接着剤を用いず(無接着剤)、圧縮木ダボのみで接合する方法を開発した。すなわち、ダボ下穴の底部径が拡張する特殊な穴(拡張穴)あけ加工法を開発し、その拡張穴あけ加工を施した木質部材に、水を充填した後、スギ材で一方向に圧縮して製造した圧縮木ダボを挿入・膨張させて接合を行った。このスギ圧縮ダボ接合の引抜き試験を行った結果、拡張穴でダボが膨張し、引抜き抵抗力が発現することが明らかとなった。さらに、本接合法が住宅部材の接合に適応可能であるか検証するために、スギ圧縮ダボ接合を施した柱−土台接合試験体を作製し、引張試験を行った結果、住宅部材の接合法として十分な接合強度を得ることができなかった。
【0005】
そこで、本発明は、この圧縮木ダボを用いた接合法において、接合強度を改善した新たな接合法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、請求項1に記載した発明は、通常部と吸水・膨張する拡張部で構成する木ダボを加工し、その拡張部の外周面から中心に向かって全方向的に圧縮する押し出し加工を施すことによって圧縮木ダボを形成したことを特徴とする。
【0007】
また、請求項2に記載した発明は、圧縮木ダボの拡張部の深さ、およびその径の大きさを変えることによって、必要となる引抜き強度が発現したことを特徴とする。
【0008】
また、請求項3に記載の発明は、180℃程度に温度制御された金型で、その内部がテーパー状に細くなり、内側表面が鏡面加工された金型を有する圧縮木ダボ加工装置によって、通常部と拡張部を有する木ダボの拡張部を、中心に向かって全方向的に熱圧成型したことを特徴とする。
【0009】
また、請求項4に記載の発明は、請求項3において、テーパー部の入口対出口の直径比を1.6程度、長さ対入口径比を17程度に加工した金型を用いることによって、押し出し加工を効率的にするとともに、引抜き強度を高めたことを特徴とする。
【0010】
また、請求項5に記載の発明は、請求項3において、挿入する木ダボをあらかじめ、水蒸気で3時間蒸煮し、マイクロ波で60秒加熱する前処理を行うことで、更に押し出し加工を効率的にしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に記載の発明によれば、通常部と拡張部から構成される木ダボの拡張部を中心に向かって全方向的に熱圧成型した圧縮木ダボを用いることにより、接着剤を用いず水分のみで木質部材の接合することができる。
【0012】
請求項2に記載の発明によれば、圧縮木ダボの拡張部の径の大きさ、および長さによって、引抜き強度を高めることができる。
【0013】
請求項3に記載の発明によれば、拡張部と通常部を有する木ダボの拡張部を、中心に向かって全方向的に熱圧成型することができる。
【0014】
請求項4に記載の発明によれば、請求項3において、押し出し加工を効率的にするとともに、引抜き強度を高めることができる。
【0015】
請求項5に記載の発明によれば、請求項3において、更に押し出し加工を効率的することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に、本発明に係る無接着剤部分膨張圧縮木ダボ接合法の一実施の形態について図を参照して詳細に説明する。
【0017】
本実施形態に係る無接着剤部分膨張圧縮木ダボ接合法は、木質部材の接合に用いられるものであり、ダボ素材にはスギ材を用いた。
【0018】
ダボ素材は、幅、厚さ共に30mm、長さ300mmのスギ正角材とした。このスギ正角材を、ダボ下穴径と同じ径である通常部と、それよりも大きい径で、接合時に吸水・膨張する拡張部で構成した木ダボに木工旋盤を用いて加工した。その形状は、図1に示すように、通常部径を12mm一定とし、拡張部径を15、17、19mmの3タイプとした。なお、通常部と拡張部の長さをそれぞれ200mm、20mmに仕上げた。
【0019】
押し出し加工装置の概略図を図2に示す。これより本装置内部には、4個のヒーターと、同数の熱電対が温度センサとして装備されており、コントローラで内部にテーパー加工が施されている金型の温度を制御することができる。テーパーの形状については、ダボの投入口径が19mm、出口径が12mmとなっており、全てのダボの拡張部は、この金型に押し込まれることによって全方向的に熱圧成型される(図3)。最終的に、ダボ全体の直径は12mmとなる。図4に、押し出し加工装置を用いた圧縮木ダボの製造工程を示す。同図に示すように、押し出し加工装置は万能試験機のテーブル上に設置し、クロスヘッドでロードセルを介してダボを押し出す工程となっている。まず、内部がテーパー形状の金型に木ダボを挿入し(図4−1)、クロスヘッドで金型内部に押し込んだ後(図4−1)、クロスヘッドを上昇させ、ダボ上部に直径11.5mmの金属丸棒を設置して(図4−2)、再度クロスヘッドで金属丸棒を押し込むことによって押し出し加工が行われる(図4−3・4)。
【0020】
押し出し加工条件は、木ダボを3時間蒸煮してから、マイクロ波加熱装置を用いて60秒間加熱した後、押し出し加工装置の金型内部の温度を180℃、クロスヘッドの送り速度を20mm/minに設定し、押し出し加工を行った。なお、1本の圧縮木ダボの製造に要する時間は約20分であった。
【0021】
(実施例1)
アクリル材で作製した母材に、木ダボの通常穴径と拡張部径と同径の穴あけ加工を施した母材を準備し、それに水を充填した後、上記の圧縮木ダボを挿入し、膨張する様子を観察するとともに拡張部径の測定を行った。
【0022】
その結果を図5に示す。この図は、圧縮木ダボが吸水・膨張する際の拡張部径の経時変化を、圧縮前の拡張部の直径ごとに示している。これより、拡張部径15mmでは約5分、17mmでは約7分、19mmでは約10分経過すると形状が安定し、圧縮前の直径とほぼ同じ大きさまで膨張することがわかった。
【0023】
(実施例2)
ダボ下穴の底部径が拡張する特殊な穴(拡張穴)あけ加工法(図6)を施したスギ材に、水を充填した後、圧縮木ダボを挿入・膨張させ(図7)、請求項1の接合法を行い、ダボ引抜き試験体を作製した。そして、万能試験機を用いて、圧縮木ダボの引抜き試験を行った(図8)。
【0024】
その結果を、図9に示す。これは、膨張後の拡張部径ごとの最大引抜き荷重を示している。これより、圧縮ダボの拡張部径が大きくなるほど最大引抜き荷重は大きくなる傾向を示し、高い相関関係にあることが明らかとなった。また、拡張部径16.5mmで、最大3.5kNを示しており、この値は、これまでの一方向に熱圧成型した圧縮木ダボに比べ、約3倍となることから、本発明によって引抜き強度は大きく改善されたと言える。しかし一方で、大きな最大値を示したダボはせん断破壊を発生する傾向を示しており、その場合、せん断破壊が発生すると同時に、急激に低下するため、耐力的に問題を残す結果となる。したがって、大きな引抜き抵抗力と耐力を同時に発現させることを考慮すると、本発明では、圧縮木ダボの拡張部径は、圧縮前で約17mmに設定することが望まれる。これは拡張部長さを一定とした実験結果であるが、拡張部径に応じて拡張部を長くすることにより、せん断破壊に対する耐性を高めることもできる。
【0025】
以上、本発明の実施の形態のうちのいくつかを図面に基づいて詳細に説明したが、これらは例示であり、発明者の知識に基づいて種々の変形、改良を施した他の形態で本発明を実施することが可能である。
【0026】
例えば、本実施形態においては、木ダボの拡張部径を大きくすることで引抜き強度を改善していたが、この拡張部径に限らず、拡張部径の埋込深さ(長さ)を変えることで引抜き強度を改善することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】通常部と拡張部で構成される木ダボの概略図である。
【図2】押し出し加工装置の概略図である。
【図3】拡張部の中心方向による全面圧縮の概要図である。
【図4】押し出し加工工程の概略図である。
【図5】圧縮木ダボの吸水膨張における拡張部径の経時変化を示すグラフである。
【図6】拡張穴あけ加工の概略図である。
【図7】本実施形態に係る無接着剤部分膨張圧縮木ダボ接合法の概略図である。
【図8】引抜き試験の概略図である。
【図9】膨張後の拡張部径ごとの最大引抜き荷重を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
木質部材に施すダボ用の下穴径と同じ径の通常部と、膨張させるために、それよりも大きな径の拡張部から構成される木ダボを加工し、その拡張部を、外周面から中心に向かって全方向的に圧縮する押し出し加工によって圧縮木ダボを形成し、接着剤を用いず、その拡張部分に水分を吸水させ、膨張させることによって接合する無接着剤部分膨張圧縮木ダボ接合法。
【請求項2】
圧縮木ダボの拡張部の深さおよび径の大きさによって、必要となる引抜き強度の発現が可能となった請求項1に記載の無接着剤部分膨張圧縮木ダボ接合法。
【請求項3】
180℃程度に温度制御された金型の内部がテーパー状に内側に向かって細くなり、金型長の2/3程度から直管となった金型で、テーパー部と直管部が段差なく繋がり、内側表面が鏡面加工された金型に、拡張部と通常部を有する木ダボをテーパー部に圧挿入することで、拡張部を外周面から中心に向かって全方向的に圧縮しつつ押し出す、圧縮木ダボ加工装置。
【請求項4】
請求項3において、テーパー部の入口対出口の直径比が1.6程度、長さ対入口径比が17程度に加工された金型である装置。
【請求項5】
請求項3において、挿入する木ダボをあらかじめ、水蒸気で3時間蒸煮し、マイクロ波で60秒加熱する前処理を行う、木ダボ加工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−203660(P2009−203660A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−45427(P2008−45427)
【出願日】平成20年2月27日(2008.2.27)
【出願人】(308009543)
【Fターム(参考)】