説明

無機グラウト機械式継手、鉄筋接続方法、および導体の施工方法

【課題】鉄筋接続部の抵抗値測定を不要とすることで、施工の効率化を図ることができる。
【解決手段】建物の柱の内部に配設される主鉄筋3を直列に接続する鉄筋接続部Tからなる無機グラウト機械式継手10において、主鉄筋3の端部3aどうしを接続するカプラー11と、カプラー11を両端から締付けるロックナット12とを備え、カプラー11の両端面11a、11aおよび各ロックナット12のカプラー11側に面する端面12aの防錆塗装を除去し、表面処理することで、カプラー11に対してロックナット12を締付けた状態で、カプラー11の端面11aとロックナット12の端面12aとを確実に接触させるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、避雷用引下げ導体などの無機グラウト機械式継手、鉄筋接続方法、および導体の施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鉄筋コンクリート造の建物における避雷用の引下げ導体は、雷電流を安全に大地に流すことが必要とされており、引下げ導体全体に電気的な連続性が求められている。引下げ導体の施工方法として、柱内の主鉄筋を引下げ導体として利用する方法が知られている。この引下げ導体として使用する主鉄筋どうしの接続には、一般的にガス圧接、溶接接続の他、機械式継手工法が採用されている。その機械式継手工法の一つに2本の鉄筋をカップリングで直列に接続し、無機あるいは樹脂製のグラウト剤を注入して固化させることにより鉄筋の構造強度を確保するものがある。
【0003】
ところで、上述した機械式継手工法を引下げ導体として利用するために、継手部分を挟んだ両側の主鉄筋の端部をクランプ材を介して電線で橋渡しするようにして連絡することで、主鉄筋に電気的な連続性をもたせる方法が、例えば特許文献1に開示されている。
特許文献1は、無機グラウト機械式継手を使用して鉄筋の接続部を施工した後に、電気抵抗値を測定し、目標値以下の電気抵抗値である場合に接続する鉄筋の端部どうしを電線によって連絡するようにした施工方法について記載したものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−278708号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の避雷用引下げ導体の施工方法では、以下のような問題があった。
すなわち、特許文献1では、無機グラウト機械式継手による鉄筋接続部が目標電気抵抗値に満たない場合が想定されるために、電気的な連続性を確実にするために、抵抗値測定を行い、必要に応じて電線で連絡することから、継手施工後、すべての接続部に対して電気抵抗値を測定するといった手間のかかる作業が必要であり、施工の効率が低下するという問題があった。
【0006】
また、鉄骨鉄筋コンクリート造建物の設置設備、保護導体等の条件は、目的別に感電防止(安全確保)、設備機器の機能確保(正常動作)に分類されている。ここで、図8は地上20m以上の建物30における等電位ボンディング構成の一例を示しており、設備機器の導体性部分(露出導電性部分35)の一方を保護導体(接地幹線31)に、他方を系統外導電性部分36に等電位ボンディング用導体33で接続し、さらに接地幹線31は主接地端子34を介して接地線32で接地極37に接続することで、接地系統の等電位化が構成されている。この場合、鉄骨鉄筋コンクリート造の系統外導電性部分36には、主に鉄骨が使用されるが、無機グラウト継手鉄筋使用の鉄筋コンクリート造では、鉄筋の堅牢な接続と電気的連続性の確保が要求され、その点で改良の余地があった。
【0007】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、鉄筋接続部の抵抗値測定を不要とすることで、施工の効率化を図ることができる無機グラウト機械式継手、鉄筋接続方法、および導体の施工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明に係る無機グラウト機械式継手では、建物に配設される主鉄筋を直列に接続する鉄筋接続部からなる避雷用導体に用いる無機グラウト機械式継手であって、主鉄筋の端部どうしを接続するカプラーと、カプラーを両端から締付けるロックナットとを備え、カプラーの両端面および各ロックナットのカプラー側に面する端面は、防錆塗装が除去されてなり、カプラーに対してロックナットを締付けた状態で、カプラーの端面とロックナットの端面とが接触していることを特徴としている。
【0009】
また、本発明に係る鉄筋接続方法では、建物に配設される主鉄筋を直列に接続するカプラーと、カプラーを両端から締付けるロックナットとを備えた無機グラウト機械式継手を用いた鉄筋接続方法であって、カプラーの両端面および各ロックナットのカプラー側に面する端面の防錆塗装を除去する工程と、主鉄筋の端部どうしをカプラーによって接続する工程と、カプラーに対してロックナットを締付けるとともに、カプラーの両端面とロックナットの端面とを接触させる工程とを有していることを特徴としている。
【0010】
また、本発明に係る導体の施工方法では、建物に配設される主鉄筋を直列に接続する鉄筋接続部で、主鉄筋どうしを直列に接続するカプラーと、カプラーを両端から締付けるロックナットとを備えた無機グラウト機械式継手を用いた導体の施工方法であって、カプラーの両端面および各ロックナットのカプラー側に面する端面の防錆塗装を除去する工程と、ロックナットおよびカプラーによって、先行して施工した主鉄筋の端部に対して新たな主鉄筋の端部を接続して鉄筋接続部を形成することで導体を構築する工程とを有し、カプラーに対してロックナットを締付けるとともに、カプラーの両端面とロックナットの端面とを接触させるようにしたことを特徴としている。
【0011】
本発明では、ロックナットとカプラーを使用して主鉄筋同士を接続する際に、ロックナットを締付けることでロックナットと主鉄筋とが機械的圧力のかかった状態で接触し、塗装や鉄筋の黒皮部分が剥がれて、ロックナットと主鉄筋との接触面における電気抵抗値が小さくなる。さらに、カプラーとロックナットとの接触面をなすそれぞれの端面の防錆塗装が除去された状態で表面処理がなされているので、ロックナットの締付けによる双方の端面どうしの接触面積が増え、接続抵抗が下がるため、双方間に流れる電気量が増大することになる。ここで、ロックナットとカプラーとが接触するそれぞれの端面に防錆塗装が施されている従来の無機グラウト機械式継手にあっては、ロックナットとカプラーとの接触面に位置する双方の端面に防錆塗装が施されており、双方間の電気抵抗値が大きく、電気が流れにくくなっていることから、主鉄筋に入力される電気の導通経路は主に主鉄筋とカプラーとの間となっている。これに対して、本発明では、主鉄筋に接するロックナットとカプラーとの間において、電気抵抗値が非常に小さくなってその導通性能が高められるので、主鉄筋に入力された電気がロックナットを介してカプラーへ確実に流れ、従来に比べて電気的な連続性の高い導体を得ることができる。
【0012】
また、本発明に係る導体の施工方法では、鉄筋利用の導体は、建物の第1主鉄筋を利用した避雷用引下げ導体、及び強電用接地幹線、弱電用接地幹線の相互の等電位化のために、第1主鉄筋を備えた第1系統とは異なる第2系統内の第2主鉄筋を無機グラウト機械式継手により接続した系統外導電性部分から構成されることが好ましい。
また、本発明に係る導体の施工方法では、鉄筋コンクリート造の病院の医用接地幹線に2本の柱のそれぞれに配設された2本の主鉄筋を第2系統として利用してもよい。
本発明では、避雷用引下げ導体として利用する第1主鉄筋を備えた第1系統とは異なる、例えばEPS付近の第2系統の第2主鉄筋を無機グラウト機械式継手を用いて電気的一体化処理により接続した系統外導電性部分とすることで、統合接地方式や等電位ボンディングを構築することができる。そのため、感電保護や落雷・誘導雷での電位差発生を抑え、電気設備機器の基板焼損や誤作動を低減できる効果を奏する。また、低圧地絡事故時に生じる漏電遮断器の誤作動や制御回路の誤作動を抑制することができる。ここで、地階躯体および建物基礎の接地抵抗は、2Ω以下である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の無機グラウト機械式継手、鉄筋接続方法、および導体の施工方法によれば、鉄筋接続部における電気抵抗値を小さくすることで、手間のかかる鉄筋接続部の抵抗値測定を不要とすることが可能となり、施工の効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1の実施の形態による避雷用引下げ導体の概略構成を示す斜視図である。
【図2】鉄筋接続部の無機グラウト機械式継手を示す平面図である。
【図3】図2に示す無機グラウト機械式継手の平面断面図である。
【図4】図3に示す無機グラウト機械式継手の部分拡大図である。
【図5】無機グラウト機械式継手内の電気の流れを示す図である。
【図6】本発明の第2の実施の形態による導体として接地幹線と系統外導電位部分である鉄筋とを利用した建物の統合接地の一例を示す図である。
【図7】本発明の第2の実施の形態による引下げ導体を利用した医用接地幹線の一例を示す図である。
【図8】従来の等電位ボンディング構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の第1の実施の形態による無機グラウト機械式継手、鉄筋接続方法、および導体の施工方法について、図1乃至図5に基づいて説明する。
【0016】
図1に示すように、本第1の実施の形態による無機グラウト機械式継手10は、建物の柱2の内部に配設された主鉄筋3を使用して、避雷用引下げ導体1(導体)を施工するものである。この避雷用引下げ導体1は、建物(柱2)の最上階から最下階までを電気的に連続性をもたせ、導体上端が図示しない避雷針(雷入力部に相当)に接続され、導体下端が接地部(図示省略)を介して地面(大地)に接続されている。ここで、本実施の形態では、上下方向に連続する複数本の主鉄筋3のうち1本を、避雷用引下げ導体1の対象としている。
なお、柱2中の複数の主鉄筋3を避雷用引下げ導体1の対象とする場合には、複数の主鉄筋3、3の上端部どうし及び下端部どうしを接続することにより、複数の主鉄筋3、3を並列に連結するようにしてもよい。
【0017】
建物の柱2は、建物の最下階から最上階まで連続して設けられ、内部には上下方向に沿って複数本(図1では避雷用引下げ導体1を対象とする1本のみが示されている)の主鉄筋3が配置されている。主鉄筋3の軸方向(上下方向)に接続される鉄筋接続部Tは、例えば施工性により階毎に1箇所設けられている。主鉄筋3には、例えばネジテツコン(登録商標、東京鐵鋼株式会社製)などのねじ状節付きの鉄筋が使用されている。つまり、主鉄筋3の表面には、雄ねじ状の節部3d(図3参照)が形成されている。
【0018】
図2および図3に示すように、鉄筋接続部Tの無機グラウト機械式継手10は、上下方向に配置される主鉄筋3、3の端部3a、3aどうしを施工上隙間をもたせた状態で突き合わせるようにして直列に接続するカプラー11と、カプラー11の両端に設けられる一対のロックナット12(12A、12B)とを備えている。
【0019】
カプラー11は、その両端側に主鉄筋3、3をねじ込ませた状態で、一方向に回転させることで、両主鉄筋3、3を接続するものであり、カプラー11の内側の雌ねじ部11b(図4)に主鉄筋3の表面に形成されている節部3dが緩めに螺合された状態となっている。
【0020】
カプラー11の軸方向略中間の位置には、厚み方向に貫通する注入孔11cが形成されている。注入孔11cは、カプラー11を主鉄筋3に接続した後にカプラー11と主鉄筋3、3との間に無機グラウト材(図示省略)を注入するためのものである。つまり、所定の締付けトルク(例えば、180N・mなど)をもってカプラー11に対してロックナット12を締付けた後、カプラー11の注入孔11cより無機グラウト材を注入して硬化させることで、高い強度が得られる構成となっている。
【0021】
そして、本第1の実施の形態によるカプラー11は、鋳物で製造されており、両端面11a、11aを除いて防錆塗装が施された状態となっている。具体的には、カプラー11の製造時や現場での加工時に両端面11a、11aに施されている防錆塗装をグラインダーやサンドペーパー等の除去手段によって除去することで、鋳物からなる材料が露出した状態となり、鉄筋継手部Tとして使用される。
【0022】
図3および図4に示すように、ロックナット12A、12Bは、鉄製で製造されており、カプラー11の両端面11a、11aに接触するように主鉄筋3に螺合させた状態で設けられている。このロックナット12は、トルクレンチ等を用いてカプラー11側へ向けて締付けることで、図4の矢印P方向に示すように、カプラー11に対して主鉄筋3の軸線方向に押圧するとともに、主鉄筋3にはカプラー11側からロックナット12側への引張力が作用することになる。つまり、押圧されたカプラー11の雌ねじ部11bが主鉄筋3の節部3dに圧力がかかった状態で当接(接触)し、この機械的圧力によって主鉄筋3とカプラー11との間の電気抵抗値が小さくなる構成となっている。
【0023】
さらに、ロックナット12もまた、カプラー11と同様に、カプラー11側の端面12aを除いて防錆塗装が施された状態となっている。具体的には、ロックナット12の製造時や現場での加工時に、その端面12aに施されている防錆塗装をグラインダーやサンドペーパー等の除去手段によって除去することで、鉄製からなる材料が露出された状態となり、鉄筋継手部Tとして使用される。なお、防錆塗装前の継手の接触面を平滑に処理したものを取り付けることもできる。この場合は、他の継手と区別ができ、マーク表示する必要が無くなる。
【0024】
次に、上述したように構成される無機グラウト機械式継手10を用いた鉄筋接続方法、および避雷用引下げ導体1の施工方法について図面に基づいて説明する。
先ず、図2に示すカプラー11およびロックナット12は、上述したように表面に防錆塗装が施された周知のものが使用され、カプラー11の両端面11a、11aとロックナット12の締付け側の端面12aとの接触面の防錆塗装が例えば製造工場や現場の加工場でグラインダーやサンドペーパー等の除去手段によって除去され、さらにその接触面を平面状に処理させた状態にしておく。なお、この表面処理を施したカプラー11及びロックナット12の端面11a、12aは、現場で鉄筋接続部Tとして使用されるまでの間に錆が生じないように錆止めスプレー(防錆塗装ではないもの)や養生用の粘着テープによって保護しておくことが有効である。
【0025】
図1に示すように、建物の柱2の施工時において、主鉄筋3の端部3a、3aどうしを無機グラウト機械式継手10によって直列に接続する。すなわち、図2、図3に示すように、ロックナット12A、12Bおよびカプラー11によって、先行して施工した主鉄筋3の端部3aに対して新たな主鉄筋3の端部3aを接続して鉄筋接続部Tを形成する。このとき、ロックナット12を締付けることで、ロックナット12と主鉄筋3とが機械的圧力のかかった状態で接触し、塗装や鉄筋の黒皮部分が剥がれて、ロックナット12と主鉄筋3との接触面における電気抵抗値が小さくなる。具体的には、鉄製のロックナット12のねじ山は切削形成が可能であり、鋳物製のカプラー11より鋭角に形成することで、主鉄筋3の節部3dに対して深く接触させ、その接触面積を増大させることができる。とくに、本実施の形態では、ロックナット12が鉄製であり、鋳物製のカプラー11より表面が滑らかであるので、主鉄筋3に対する接触面積が増大することになる。このようなことから、ロックナット12にトルクをかけて回転させる際に、ロックナット12の塗装と主鉄筋3の黒皮部分が剥がれて、互いの接触面積が増えるので電気抵抗値が非常に小さくなる。
【0026】
さらに、図5に示すように、本鉄筋接続部Tにおいて、カプラー11の両端面11a、11aとロックナット12の端面12aとが接触した状態となる(図4参照)。このとき、カプラー11とロックナット20との接触面をなすそれぞれの端面11a、12aの防錆塗装が除去された状態で表面処理がなされているので、ロックナット12の締付けによる双方の端面11a、12aどうしの接触面積が増え、接続抵抗が下がるため、双方間に流れる電気量が増大することになる。
【0027】
ここで、図5における符号E1、E3が前記接触面を流れる電気を示している。なお、図5では、紙面右側が主鉄筋3の上方側であって、避雷針(図示省略)側を示し、紙面左側が主鉄筋3の下方側を示している。さらに、図5における矢印E2はカプラー11内を流れる電流を示し、矢印E4、E5は、それぞれ主鉄筋3とカプラー11との間を流れる電流を示している。
【0028】
なお、ロックナット12とカプラー11とが接触するそれぞれの端面11a、12aに防錆塗装が施されている従来の無機グラウト機械式継手にあっては、ロックナットとカプラーとの接触面に位置する双方の端面に防錆塗装が施されており、双方間の電気抵抗値が大きく、電気が流れにくくなっていることから、主鉄筋3に入力される電気の導通経路は主に主鉄筋3とカプラー11との間(図5で矢印E4、E5)となっている。これに対して、本実施の形態では、主鉄筋3に接するロックナット12とカプラー11との間(図5で矢印E1、E3)において、電気抵抗値が非常に小さくなってその導通性能が高められるので、主鉄筋3に入力された電気がロックナット12を介してカプラー11へ確実に流れ、従来に比べて電気的な連続性の高い避雷用引下げ導体1を得ることができる。
【0029】
そして、本第1の実施の形態では、無機グラウト機械式継手10の主鉄筋3の上下をクランプ接続して導線でバイパスする代わりに、主鉄筋3とロックナット12とカプラー11とのそれぞれを電気的に一体化することで、前記導線によるバイパスが不要となる。そのため、主鉄筋3へのコンクリート被り厚さが確保できないといった不具合をなくすことができるうえ、そのバイパスを取り付ける手間や費用を低減できる利点がある。
【0030】
上述のように本第1の実施の形態による無機グラウト機械式継手、鉄筋接続方法、および導体の施工方法では、鉄筋接続部Tにおける電気抵抗値を小さくすることで、手間のかかる鉄筋接続部Tの抵抗値測定を不要とすることが可能となり、施工の効率を向上させることができる。
【実施例】
【0031】
次に、上述した第1の実施の形態による無機グラウト機械式継手、鉄筋接続方法、および導体の施工方法の効果を裏付けるため、電気抵抗値を測定した試験例について以下説明する。
【0032】
本実施例では、鋳物製のカプラーと鉄製のロックナットを使用した無機グラウト機械式継手によって接続した鉄筋接続部において、前記カプラーと前記ロックナットとの接触面(図3に示す端面11a、12a)の防錆塗装をサンドペーパーで除去したものと、ディスクグラインダー(以下、単にグラインダーという)で除去したものを採用し、それぞれの鉄筋接続部の電気抵抗値の測定を行った。
主鉄筋のサイズは32mmとし、ロックナットの締付けトルクを180N・mとし、その締付け後にはカプラーの注入孔から無機グラウト材を注入した。そして、本実施例では、サンドペーパーで表面処理した2体の試験体(鉄筋接続部A1、A2)と、グラインダーで表面処理した3体の試験体(鉄筋接続部B1、B2、B3)を用いて電気抵抗値の測定を行った。
また、上述した接触面に施されている防錆塗装の除去作業として、サンドペーパーによる場合で1箇所あたり30秒の除去を行ない、グラインダーによる場合で表面の塗装を除去しつつ平面が確認される適宜な時間だけ除去を行なった。
【0033】
ここで、本実施例による電気抵抗値の基準値として、ヨーロッパ規格である「DIN EN 50164−1 雷保護用部品Part1:接続部品規格」に示されている性能となる0.001Ω(1mΩ)以下とした。
表1は、上述した鉄筋接続部A1、A2、B1、B2、B3における電気抵抗値(mΩ)を測定した結果を示している。
【0034】
【表1】

【0035】
表1において、サンドペーパーによって防錆塗装を除去したものでは、鉄筋接続部A1、A2共に0.8mΩ未満となり、基準値の1mΩ以下となることを確認することができる。一方、グラインダーによって防錆塗装を除去したものでは、鉄筋接続部B1〜B3のそれぞれが0.95mΩ、0.99mΩ、0.8mΩ未満であり、1.0mΩ未満となることが確認することができ、電気的に継手を一体化することができる。
このように、カプラーとロックナットのそれぞれの端面(接触面)の防錆塗装を除去して表面処理することで、鉄筋接続部における電気抵抗値を1.0mΩ未満にすることが確認できる。
【0036】
次に、本発明の他の実施の形態について図面に基づいて説明するが、上述の第1の実施の形態と同一又は同様な部材、部分には同一の符号を用いて説明を省略し、異なる構成について説明する。
【0037】
図6に示すように、第2の実施の形態による建物5では、鉄筋利用導体として、建物5の柱(ここでは「第1柱2A」といい、本発明の第1系統に相当する)の第1主鉄筋3Aを利用した避雷用引下げ導体1Aと、強電用接地幹線7a、弱電用接地幹線8aの相互の等電位化のために、第1主鉄筋3Aを備えた第1柱2Aとは異なる第2柱2B(第2系統)内の第2主鉄筋3Bを用いた系統外導電性部分1Bとを設けている。避雷用引下げ導体1A、系統外導電性部分1Bは、各柱の鉄筋とフープ筋1Aa、1Baを介して結束されているので、系統外導電性部分1Bの導電性は高くなる。ここで、第2柱2Bは、例えば電気配線シャフト(EPS)付近の鉄筋コンクリート柱である。
【0038】
系統外導電性部分1Bは、上述した第1の実施の形態と同様の無機グラウト機械式継手(図2〜図4参照)を使用して、第2柱2Bの最上階から最下階までの第2主鉄筋3Bが電気的に連続性をもたせた電気的一体化処理により接続され、導体下端が建物5の地階躯体及び建物基礎の接地極5aに配置される基礎鉄筋6に接続されている。ここで、接地極5aの接地抵抗は、2Ω以下である。また、系統外導電性部分1Bは、各フロアでEPS付近に設置される強電用分電類7や弱電用端子盤・弱電機器類8などの電気設備機器に連結されている。そして、各電気設備機器7、8もまた接地幹線7a、8aによって上記基礎鉄筋6に接地されている。系統外導電性部分1Bに用いられる無機グラウト機械式継手については、第1の実施の形態と同様の構成であるのでここでは詳しい説明は省略する。
【0039】
つまり、本建物5においては、電気設備機器7、8の接地端子に、接地幹線7a、8aから分岐した接地線接続と系統外導電性部分1Bにクランプ接続することによって、等電位ボンディング導体が構築されている。さらに、各電気設備機器7、8は、設置場所のスラブ筋やデッキプレートにボンディング線で接続すれば、確実な等電位ボンディングが構築できる。
このように、本第2の実施の形態では、避雷用引下げ導体1Aとして利用する第1主鉄筋3Aを備えた第1柱2Aとは異なる、例えばEPS付近の第2柱2Bの第2主鉄筋3Aを無機グラウト機械式継手を用いて電気的一体化処理により接続した系統外導電性部分1Bとすることで、無機グラウト継手鉄筋を用いた鉄筋コンクリート造の建物にも統合接地方式や等電位ボンディングを構築することができる。そのため、感電保護や落雷・誘導雷での電位差発生を抑え、電気機器の基板焼損や誤作動を低減できる効果を奏する。また、低圧地絡事故時に生じる漏電遮断器の誤作動や制御回路の誤作動を抑制することができる。
【0040】
また、図7に示す第3の実施の形態による建物9では、医用接地幹線に第1柱2Aとは別の柱(第2柱2A)の無機グラウト機械式継手10aの主鉄筋各々2本を2系統以上、立上げ、接地極5aまでの電気的接続を確実にするため、主鉄筋3B、4Bの継手接続を電気的一体化処理することで、抵抗が低い接地幹線(保護導体)に利用したものである。さらに、主鉄筋3B、4Bは、各柱の鉄筋とフープ筋3Ba(4Ba)を介して結束されているので、系統外導電性部分の導電性は高くなる。つまり、医用接地センタ13は、接地横引き幹線14によって各第2柱2Bの主鉄筋3B、4Bに接続され、これら主鉄筋3B、4Bは接地極5aに配置される基礎鉄筋6に接続される構成になっている。
【0041】
以上、本発明による避雷用導体に用いる無機グラウト機械式継手、鉄筋接続方法、および避雷用導体の施工方法の第1乃至第3の実施の形態について説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、本実施の形態ではカプラー11およびロックナット12のそれぞれの端面11a、12aの除去手段としてグラインダーやサンドペーパーを用いているが、これらに限定されることはなく、ワイヤーブラシ等を用いてもよい。要は、上記端面11a、12aの防錆塗装を確実に除去できるものであればよいのである。
【0042】
また、本実施の形態ではロックナット12の締付けトルクを180N・mとしているが、これに限定されることはなく、対象となる主鉄筋3の径寸法、カプラー11、ロックナット12に応じて設定することができる。
さらに、本実施の形態では、ロックナット12はシングルナットとしているが、これに制限されることはなく、ダブルナットや長いロックナットを採用することも可能である。
【0043】
また、本発明の避雷用導体の適用対象として、第1の実施の形態では避雷用引下げ導体1としているが、これに制限されることはなく、例えば高さ20mを超える建物の引下げ導体相互の等電位化を目的とした水平環状導体の主鉄筋や、建物構造体基礎部の鉄筋コンクリートを接地極とした基礎接地極の主鉄筋にも利用することができる。
【符号の説明】
【0044】
1、1A 避雷用引下げ導体(導体)
1Aa、1Ba フープ筋
1B 系統外導電性部分
2 柱
2A 第1柱(第1系統)
2B 第2柱(第2系統)
3 主鉄筋
3A 第1主鉄筋
3B、4B 第2主鉄筋
3Ba、4Ba フープ筋
3a 端面
5、9 建物
5a 接地極(地階躯体及び建物基礎)
6 基礎鉄筋
7 強電用分電盤類
7a 強電用接地幹線
8 弱電用端子盤、弱電機器類
8a 弱電用接地幹線
10 無機グラウト機械式継手
10a 電気的一体化した無機グラウト機械式継手
11 カプラー
11a 端面
11b 雌ねじ部
11c 注入孔
12、12A、12B ロックナット
12a 端面
13 医用接地センタ
14 接地横引き幹線
T 鉄筋接続部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物に配設される主鉄筋を直列に接続する鉄筋接続部からなる無機グラウト機械式継手であって、
前記主鉄筋の端部どうしを接続するカプラーと、
該カプラーを両端から締付けるロックナットと、
を備え、
前記カプラーの両端面および各ロックナットの前記カプラー側に面する端面は、防錆塗装が除去されてなり、
前記カプラーに対して前記ロックナットを締付けた状態で、前記カプラーの端面と前記ロックナットの端面とが接触していることを特徴とする無機グラウト機械式継手。
【請求項2】
建物に配設される主鉄筋を直列に接続するカプラーと、該カプラーを両端から締付けるロックナットとを備えた無機グラウト機械式継手を用いた鉄筋接続方法であって、
前記カプラーの両端面および各ロックナットの前記カプラー側に面する端面の防錆塗装を除去する工程と、
前記主鉄筋の端部どうしを前記カプラーによって接続する工程と、
前記カプラーに対して前記ロックナットを締付けるとともに、前記カプラーの両端面と前記ロックナットの端面とを接触させる工程と、
を有していることを特徴とする鉄筋接続方法。
【請求項3】
建物に配設される主鉄筋を直列に接続する鉄筋接続部で、前記主鉄筋どうしを直列に接続するカプラーと、該カプラーを両端から締付けるロックナットとを備えた無機グラウト機械式継手を用いた導体の施工方法であって、
前記カプラーの両端面および各ロックナットの前記カプラー側に面する端面の防錆塗装を除去する工程と、
前記ロックナットおよび前記カプラーによって、先行して施工した主鉄筋の端部に対して新たな主鉄筋の端部を接続して鉄筋接続部を形成することで導体を構築する工程と、
を有し、
前記カプラーに対して前記ロックナットを締付けるとともに、前記カプラーの両端面と前記ロックナットの端面とを接触させるようにしたことを特徴とする導体の施工方法。
【請求項4】
鉄筋利用の前記導体は、前記建物の第1主鉄筋を利用した避雷用引下げ導体、及び強電用接地幹線、弱電用接地幹線の相互の等電位化のために、前記第1主鉄筋を備えた第1系統とは異なる第2系統内の第2主鉄筋を前記無機グラウト機械式継手により接続した系統外導電性部分から構成されることを特徴とする請求項3に記載の導体の施工方法。
【請求項5】
鉄筋コンクリート造の病院の医用接地幹線に2本の柱のそれぞれに配設された2本の主鉄筋を前記第2系統として利用することを特徴とする請求項4に記載の導体の施工方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate