説明

無機化合物バルク体の製造方法及び無機化合物バルク体

【課題】簡単な構成で短時間に低コストでかつ高密度の無機化合物バルク体を得ることのできる無機化合物バルク体の製造方法、無機化合物バルク体並びに半導体抵抗素子材を提供する。
【解決手段】密閉容器と密閉容器内に向けて衝撃波を供給する衝撃波発生手段と、を用意する。密閉容器内に固化対象の無機化合物粉末部と、金属粉末部と、を隣接配置し、衝撃波発生手段により金属粉末部側から密閉容器内に向けて衝撃波を供給し、その際の衝撃波発生手段の衝撃エネルギーにより金属粉末部を介して無機化合物粉末を瞬時圧縮溶融し、徐冷固化することで、クラックのない高密度の無機化合物バルク体を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療、エレクトロニクス、光学、多機能材料などの原料として用いられるセラミックスその他の無機化合物バルク体の製造方法及び無機化合物バルク体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、セラミックスはその誘電性、磁性、光学特性などの面で高機能を発揮することが知られてきており、医療、エレクトロニクス、光学分野での材料や機器としての用途が現在も拡大している。例えば、チタン酸バリウムは電気機器変換器やコンデンサ、フェライトは変圧器の芯材、チタン酸ジルコン酸鉛はセンサやアクチュエータ材料、ビスマス−ストロンチウム−カルシウム−銅酸化物(BSCC)やイットリウム−バリウム−銅酸化物(YBCO)などは高温超電導セラミックス、酸化亜鉛は半導体やバリスタ、酸化チタンは光触媒機能担持材、その他多くの電子、光学、医療分野での機器や素子材料、多機能材形成材料として広く用いられている。セラミックスは、種々製品に対して、粉末、成形体およびそれらの加工体、薄膜などの状態で適用される。また、近時のファインセラミックス技術では、カメラレンズ、眼鏡等の反射防止膜、半導体デバイス・その他のエレクトロニクスデバイス用として、膜成形を行って薄膜状態で製品適用される場合が多い。特に、例えば、半導体IC、光ディスク、磁気記録ディスク等の分野では、高密度化、高集積化が進められそれらの各々の機能を受け持つ単位素子はより微細化されそこに薄膜技術が用いられて高集積化を促進させている。また、テレビや携帯電話機等では液晶ディスプレイが大型化し、あるいは高精細化し、そこには酸化スズ、インジウムースズ酸化物混合膜などの透明導電膜が用いられ、薄膜技術を適用してこれらを実現している。また、二酸化チタン等の特定の光に反応して活性する触媒機能を基材等に固定して機能性材料とさせるために、基材表面に酸化チタンを膜固定し、有機物分解、防曇、浄化機能を行なわせるものが知られている。従来、ICチップ、その他の電子機器、電子デバイス等の被膜用の薄膜成形は、薄膜原料としてのセラミックス成分を含むガスを物理、化学気相成長により基板上に被着あるいは成長させて行なわれるが、その際に原料となるセラミックスは、セラッミクス粉体を例えば1000℃以上の融点以下の高温で例えば1時間以上をかけて粉体焼結して固化させた熱焼結固化体を使用するのが通常である。
【0003】
しかしながら、上記のように、長時間高温焼結により得られたセラミックス焼結固化体は、1000℃以上もの高温による熱衝撃を受けるので、誘電性、磁性、光学特性等を大きく変質させる。すなわち、気相化する際の薄膜原料としては、基材への成膜時にパーティクルと呼ばれるクラック欠陥を発生しないようにするために、原料材料自体が高密度で結晶粒の微細な原料バルク体であるものが望ましい。パーティクル欠陥が存在すると、例えば電子デバイス等で配線不良等の故障が発生し、歩留まりが大きく低下する。また、焼結処理を行うと結晶成長が生じて生成された固化体は製品化したときに物理的、化学的、磁気的特性が劣化しやすい。さらに、酸化チタンのように高温処理において、アナターゼ−ルチル相転移を生じる材料もあり、原料バルク体の製造について多くの課題がある。従来、物理気相法の1つの例えばスパッタリング用の焼結体ターゲットの製造方法として、特許文献1の方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−314883号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来の方法は、所定の粉体比表面積のタングステン粉末を真空あるいは還元雰囲気中でホットプレス焼結し、さらに、熱間等方加圧焼結することにより焼結体の高密度化、微細結晶化を行うものである。しかしながら、特許文献1の方法は、結局それぞれ2時間づつの2回の高圧焼結でトータル4時間程の高圧焼結工程を経由して焼結体を得るものであり、高熱、高圧設備が必要で設備コスト、メンテナンス労力が必要であるばかりか、製造時間並びに電力コストがかかる。また、大きな比表面積の粉体を得るためにタングステン粉末の高純度化処理が必要であり、その精製処理についても時間及びコストがかかる問題があった。したがって、スパッタリングによる基材への薄膜形成用の高密度なターゲット用無機化合物バルク体を低コストで簡単に得る方法が待望されている。また、気相法による基材への薄膜原料用バルク体に限らず、簡単な方法で得られた無機化合物バルク体であって、電子部品や電子機器製造用原料に適用し得るようなバルク体の出現が待望されている。
【0006】
本発明は上記従来の課題に鑑みてなされたものであり、その一つの目的は、極めて簡単な構成でありながら、短時間、低コストでかつ高密度の無機化合物バルク体を得ることのできる無機化合物バルク体の製造方法並びに無機化合物バルク体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本発明は、密閉容器102と密閉容器内に向けて衝撃波を供給する衝撃波発生手段20と、を用意し、密閉容器内に固化対象の無機化合物粉末部2と、金属粉末部3と、を隣接配置する工程と、衝撃波発生手段により金属粉末部3側から密閉容器102内に向けて衝撃波を供給する工程と、衝撃波発生手段の衝撃エネルギーにより金属粉末部3を介して無機化合物粉末110に瞬時衝撃エネルギーを加え、その後徐冷固化する工程と、を含む無機化合物バルク体の製造方法から構成される。固化対象の無機化合物粉末は、例えば二酸化チタン(Tio2)、酸化亜鉛(Zno)などの薄膜材料粉末を用いることができるばかりでなく、それ以外の被膜材料として注目されている物質についても適用できる。例えば、固化対象の無機化合物粉末として、酸化亜鉛の酸化ガリウム添加物(ZnO+Ga)や、酸化亜鉛の酸化アルミニウム添加物(ZnO+Al)がある。酸化亜鉛系材料による透明導電膜は材料供給が安定して低コストで得られる。そして、ZnOにAlやGa等の3価イオン元素を数%添加し、Al+やGa+を置換固溶させることで導電性を安定して備えることができる。また、酸化チタンのニオブ添加物(Nb+TiO)を無機化合物粉末として太陽電池用透明電極として適用可能である。
【0008】
また、上記金属粉末を介した衝撃固化法により、酸化亜鉛(ZnO)粉末を無機化合物粉末として固化させると半導体特性を有する稠密で、大きな電気抵抗の酸化亜鉛バルク体が得られる。高密度の酸化亜鉛固化体は、形状加工するだけでそのまま可変抵抗体あるいはバリスタとして適用できる。バリスタ(voltage variable resistor)はサージ吸収用電子素子であり、二枚の導体間に挟まれて印加電圧が一定以下であれば電流を通さないが、一定電圧を超えると抵抗値が下がって大電流を通す作用を有する電子部品である。電子回路で雷サージやモーター・リレーの開閉サージなどの突発的な高電圧をバリスタにバイパスさせ、回路を保護するのに用いられる。
【0009】
このほか、コンデンサ、磁気シールド、集積回路用金属配線、絶縁膜、強誘電体膜を含む電気受動素子、光起電力素子、薄膜トランジスタ、エレクトロルミネッセンス(EL)素子、発光素子、受光素子を含む電気能動素子、光センサ、圧力センサ、ひずみセンサ、磁気センサ、温度センサ、熱センサ等を含むセンサ、磁気ディスク、磁気テープ、スピンバルブ、スピントンネル効果素子、その他の磁気機能素子、反射防止幕、カラーフィルター、その他の光学機能薄膜、バードコート膜、撥水浸水成膜、真空容器壁、抗菌膜等の物理化学機能薄膜等の形成の際に原料をバルク体として配置させるのが必要なすべての場合の無機化合物粉末のバルク体形成において有効に適用できる。
【0010】
上記の無機化合物バルク体の製造方法において、金属粉末部3は小さな比熱と大きな熱伝導率と高い密度特性を含む熱的特性を同時に具備する金属粉末から形成するとよい。
【0011】
また、金属粉末部3は無機化合物粉末部2の無機化合物よりも高い熱伝導特性で、小さな比熱の金属粉末とするとよい。
【0012】
さらに、密閉容器102内に無機化合物粉末部2と、金属粉末部3と、を隣接配置する際に、予め加圧して所要形状に締め固めた無機化合物粉末成形体12aを密閉容器1内に配置する第1の工程と、無機化合物粉末成形体1aの上から密閉容器1の空隙に金属粉末を充填して圧接して固める第2の工程と、を含むとよい。
【0013】
無機化合物粉末部の無機化合物よりも高い熱伝導特性で小さな比熱の金属粉末部3は、銅(Cu)、金(Au)、銀(Ag)の金属粉末のうちの1種、又はこれらの混合粉末で構成するとなおよい。なお、銅、金、銀以外の金属粉末、金属酸化物粉末、金属化合物粉末、と銅、金、銀粉末との組み合わせ混合粉末でもパーティクル欠陥が少なく、一定の密度特性を有する良質のバルク体を製造することができると推測される。
【0014】
さらに、密閉容器内102において衝撃エネルギーの流れ上流側から、金属粉末部3、無機化合物粉末部2が順次配置され、さらに無機化合物粉末部2の下流側にクッション用粉末部104が密閉配置されているとよい。
【0015】
また、本発明は、請求項1ないし6のいずれかに記載の無機化合物バルク体の製造方法により製造される無機化合物バルク体であり、無機化合物粉末が酸化亜鉛(ZnO)粉末からなり、無機化合物バルク体が薄膜製造用ターゲット材とされる無機化合物バルク体から構成される。
【0016】
また、本発明方法により、酸化亜鉛(ZnO)粉末を無機化合物粉末として固化させることもできる。酸化亜鉛は紫外線吸収機能を有する一方、可視光透過性がありかつ適宜の処理により電子ドープ可能の点から透明なままで導電性を有する材料とされる。また、安価に入手でき、透明導電膜として利用しうる。また、酸化亜鉛自体をベースにした透明強磁性体を形成し得る。さらに、光に反応する磁気デバイスとしての記憶媒体として適用しうるスケルトン磁石を形成し得る。また、シリコンデバイスでは可視光を吸収するので太陽電池パネルは黒色パネルとして実施されているが、酸化亜鉛半導体は可視光を透過するから透明パネルとでき、実際に施工した際に景観を損なうことなく設置し得る上に、さらに、紫外線を吸収してUVカット機能を有して適用場面が大幅に広がることとなる。酸化亜鉛について、バルク体を形成する実用的な方法としてはホットプレス法、通電加熱法、熱間等方加圧法等の加圧焼結法があり、それでも時間、コスト負荷が大きいものであるが、本発明の衝撃固化法では、相対密度が少なくとも95%以上の高密度のバルク体を安定して得ることができ、実用性においてはるかに優れた酸化亜鉛バルク体を得ることができる。
【0017】
さらに、本発明は、請求項1ないし6のいずれかに記載の無機化合物バルク体の製造方法により製造される無機化合物バルク体であり、無機化合物粉末が酸化チタン(TiO)粉末からなり、無機化合物バルク体がアナターゼ型酸化チタンバルク体である構成である。
【0018】
二酸化チタン(TiO)は、光触媒機能を有しており紫外線を受けて有害化学物質の分解や超親水性による防曇機能を行う。建物の壁面や道路にTiOをコーティングし、SOx(硫黄酸化物)やNOx(窒素酸化物)を含む有毒排気ガスの分解や、CHCHO(アセトアルデヒド)、NH(トイレの臭い)、HS(硫化水素ガス)分解を行ない、シックハウス対策を行える。また、浴室のガラスや外壁、自動車の車体等へコーティングして防曇機能を行わせる。光触媒機能を実現させる二酸化チタンの基材への固定化については、焼結法やゾルゲル法などがあるが、焼結法では焼成時間がかかり、1000℃以上の高温加熱設備が必要でコスト高となるうえ、400℃以上の加熱では相転移によりルチル型結晶構造となり、太陽光の紫外線領域を効果的に利用できず、触媒機能が劣る。また、ゾルゲル法では、溶液から出発して加水分解、重縮合などの化学反応を経由して熱処理が必要で、製作時間がかかる。本願発明方法による金属粉末前置型の衝撃固化法では、短時間に高密度のバルク体を製作でき、バルク体のサイズも設備としての容器を用意するだけで任意サイズのバルク体を得ることができ、必要に応じて加工して具体的な基材に取り付け支持させて使用できる。したがって、バルク体での支持であるから単にフレームや保護材を介して簡単に取り付けることができる。しかも、バルク体のままで使用可能であるから、触媒機能が高く、かつ、長期にわたり触媒機能を維持し得る。また、薄膜として基材に固定する場合にも、パーティクル欠陥のない高密度のアナターゼ型酸化チタンバルク体をスパッタ法でのターゲット材として適用し、基材への付着力が高く高精度の薄膜形成を実現させることができる。
【0019】
さらに、本発明は、酸化亜鉛(ZnO)を主成分とした請求項1ないし6のいずれかに記載の無機化合物バルク体の製造方法により製造される衝撃固化バルク体からなり、相対密度が95%以上である無機化合物バルク体から構成される。
【発明の効果】
【0020】
本発明の無機化合物バルク体の製造方法によれば、密閉容器と密閉容器内に向けて衝撃波を供給する衝撃波発生手段と、を用意し、密閉容器内に固化対象の無機化合物粉末部と、金属粉末部と、を隣接配置する工程と、衝撃波発生手段により金属粉末部側から密閉容器内に向けて衝撃波を供給する工程と、衝撃波発生手段の衝撃エネルギーにより金属粉末部を介して無機化合物粉末に瞬時衝撃エネルギーを加え、その後徐冷固化する工程と、を含む構成であるから、パーティクル欠陥のない高密度の無機化合物バルク体を短時間に低コストで得ることができる。また、本発明の無機化合物バルク体の製造方法を用いて小型から大型のサイズの高密度セラミックバルク体を製造でき、例えば、太陽電池用セル、透明電極、IC回路配線、バリスタ等の半導体抵抗素子、薄膜成形スパッタリング用ターゲット材、その他のファインセラミック製品の実用的な構成原料として有効に適用できる。また、容器内に各粉末を充填し、衝撃波を加えるだけであるから簡単な方法で短時間で製造できる。
【0021】
また、金属粉末部は小さな比熱と大きな熱伝導率と高い密度特性を含む熱的特性を同時に具備する金属粉末から形成することにより、十分な輸送量による高熱、高圧エネルギーを、極短時間で、外部へ逃がすことなく無機化合物粉末部に伝達させ高密度でパーティクル欠陥のない無機化合物バルク体を製造し得る。
【0022】
また、金属粉末部は無機化合物粉末部の無機化合物よりも高い熱伝導特性で、小さな比熱の金属粉末からなる構成とすることにより、十分な輸送量による高熱、高圧エネルギーを、極短時間で、外部へ逃がすことなく無機化合物粉末部に伝達させ高密度でパーティクル欠陥のない無機化合物バルク体を製造し得る。
【0023】
また、密閉容器内に無機化合物粉末部と、金属粉末部と、を隣接配置する際に、予め加圧して所要形状に締め固めた無機化合物粉末成形体を密閉容器内に配置する第1の工程と、無機化合物粉末成形体の上から密閉容器の空隙に金属粉末を充填して圧接して固める第2の工程と、を含む構成とすることにより、簡単な操作でしかも具体的に金属粉末部と無機化合物粉末部とを隣接配置して無機化合物バルク体を確実に成形させることができる。
【0024】
また、無機化合物粉末部の無機化合物よりも高い熱伝導特性で小さな比熱の金属粉末部は、銅(Cu)、金(Au),銀(Ag)の金属粉末のうちの1種、又はこれらの混合粉末である構成であるから、金属粉末の熱的特性を発揮して高密度で良質な無機化合物バルク体を確実に成形させることができる。各粉末量を増減調整、あるいは混合粉末の場合は配合比を変えるだけで熱的な伝達特性を変化させることができる。
【0025】
また、密閉容器内において衝撃エネルギーの流れ上流側から、金属粉末部、無機化合物粉末部が順次配置され、さらに無機化合物粉末部の下流側にクッション用粉末部が密閉配置された構成であるから、衝撃波による衝撃を吸収して反力による無機化合物バルク体のクラック発生を防止し得る。特に、金属粉末体によりクッション粉末部を構成することで、衝撃エネルギーの熱的吸収も同時に行い、高品質のバルク体を得ることが可能である。
【0026】
また、上記の無機化合物バルク体の製造方法により製造される無機化合物バルク体であり、無機化合物粉末が酸化亜鉛(ZnO)粉末からなり、無機化合物バルク体が薄膜製造用ターゲット材とされる無機化合物バルク体とすることにより、短時間に低コストで得られるパーティクル欠陥のない高密度の無機化合物バルク体を例えば気相スパッタリング成膜用ターゲット材として有効に適用することができる。
【0027】
また、上記の無機化合物バルク体の製造方法により製造される無機化合物バルク体であり、無機化合物粉末が酸化チタン(TiO)粉末からなり、無機化合物バルク体がアナターゼ型酸化チタンバルク体とすることにより、短時間に低コストで得られる高触媒機能の部材や基材への固定原料、さらには薄膜成形などの出発原料として有効に適用することができる。
【0028】
酸化亜鉛(ZnO)を主成分とした上記の無機化合物バルク体の製造方法により製造される衝撃固化バルク体からなり、相対密度が95%以上である無機化合物バルク体の構成とすることにより、高密度で任意サイズの酸化亜鉛バルク体が低コストで得られる結果、気相スパッタリング成膜用ターゲット材、液晶ディスプレイ用透明電極、太陽電池パネル用電極材料として具体的に適用し得る。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の無機化合物バルク体の製造方法の原理説明図である。
【図2】本発明の無機化合物バルク体の製造方法を実施するための装置の概略組立工程を説明する図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る無機化合物バルク体の製造方法を実施する装置の概略縦断面説明図である。
【図4】図3の装置の固化生成部の拡大縦断面説明図である。
【図5】種々の金属の物理特性の値を示す表図である。
【図6】衝撃波発生手段の例を説明する説明図である。
【図7】衝撃波発生手段の例を説明する説明図である。
【図8】衝撃波発生手段の例を説明する説明図である。
【図9】図3装置により固化したアナターゼ型酸化チタンの断面組織状態を示す固化容器部分を含めた写真である。
【図10】図9写真によるアナターゼ型酸化チタンの断面組織状態を示す写真である。
【図11】図3の装置を用いて行った実施例における衝撃圧の液体部における測定結果のグラフである。
【図12】図3の装置を用いて行った第1実施例におけるアナターゼ型酸化チタンの粉末と固化後のXRD計測グラフである。
【図13】図12のXRD計測に係るアナターゼ型酸化チタン粉末のSEM写真である。
【図14】図12のXRD計測に係るアナターゼ型酸化チタンバルク体の断面SEM写真である。
【図15】図3の装置を用いて行った第2実施例における酸化亜鉛粉末とその固化後のXRD計測グラフである。
【図16】図15のXRD計測に係る酸化亜鉛粉末のSEM写真である。
【図17】図15のXRD計測に係る酸化亜鉛固化バルク体のSEM写真である。
【図18】市販の加熱焼結により製造された酸化亜鉛バルク体のSEM写真である。
【図19】図15の第2実施例における酸化亜鉛バルク体と市販バルク材との物理的性質の比較データ図である。
【図20−a】は、図15の第2実施例における酸化亜鉛バルク体の交流インピーダンス測定グラフ図である。
【図20−b】は、市販の加熱焼結により製造さた酸化亜鉛バルク体の交流インピーダンス測定グラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下添付図面を参照しつつ本発明の実施形態に係る無機化合物バルク体の製造方法について説明する。ここで、無機化合物バルク体は、金属酸化物を含むセラミックス、シリコン等の半導体、炭化物、窒化物、ホウ化物、磁性体、その他の無機化合物をいい、特に、電気能動素子、受動素子、電極、センサ、磁気機能素子用の薄膜形成原料、光触媒機能薄膜形成用原料、半導体抵抗素子、その他の電気部品、素子原料としての化合物バルク体をいう。特に本発明において、無機化合物バルク体は、無化合物の粉体物から生成された固化体をいう。
【0031】
図1は、本発明の無機化合物バルク体の製造方法の原理図であり、密閉容器1内に固化対象の無機化合物粉末からなる無機化合物粉末部2と、作用粉末としての金属粉末からなる金属粉末部3と、を隣接配置し、衝撃波発生手段4により金属粉末部3側から衝撃波5を加えて、衝撃波5による衝撃エネルギーを金属粉末部3を介して無機化合物粉末部2に賦与させることにより、両粉末部どうしの全体のマクロ的衝撃エネルギー作用、並びに、それぞれの粉末内及び両粉末間のミクロ的衝撃エネルギー作用を通じて無機化合物粉末部2の無機化合物粉末は、爆轟圧力を受けて高温で瞬時に溶融、圧縮され、さらに徐冷されて高密度で薄膜原料として高品質のバルク体を製造するものである。なお、密閉容器1には衝撃波エネルギー放出用のドレン孔8が設けられている。ここに衝撃波とは、主に媒質中を超音速で移動する物体の周りに発生し、媒質中の音速よりも速い速度、すなわち超音速で伝播し、急速に減衰して最終的には音波となる不連続な変化による圧力波である。波面後方で圧力・温度・密度の上昇する圧縮波であり通常は、近傍に膨張波を伴なう。衝撃波の強さは、衝撃波前方と後方の圧力比・温度比・密度比・速度比などで示され、これらの比は衝撃波マッハ数(衝撃波伝播速度を衝撃波前方の音速で割った値)に対してそれぞれ1対1で対応し、衝撃波マッハ数も衝撃波の強さを示す値として用いられる。
【0032】
図2は、図1の原理図に係る本願発明の無機化合物バルク体の製造方法を実施するための装置の概略組立工程を説明する図であり、図において、左側から、(a)密閉容器1内に収容可能な大きさの無機化合物粉末成形体2aをプレス圧縮により圧縮成形し、(b)密閉容器1内に必要に応じて設置されるクッション用粉末部6、無機化合物粉末成形体2a、衝撃エネルギーを作用させる金属粉末部3の順に投入配置する。そして、カバープレート7で密閉容器1を閉鎖しこの状態で、(c)この密閉容器1のカバープレート7、すなわち、金属粉末部3に衝撃波5を加える。衝撃波5の衝撃波エネルギーは、カバープレート7から金属粉末部3に伝わり、金属粉末部3を介して該衝撃波エネルギーを無機化合物粉末成形体2aに作用させる。この間、衝撃波エネルギーを1次的に受けた金属粉末部3の金属粉末と、これに隣接配置された無機化合物粉末成形体2aの無機化合物粉末とが、それぞれの内部の粉末粒子、粉末どうしの境界部、並びに異なる粉末間の衝撃エネルギーの伝搬の際に高温、高圧を受けて高密度の無機化合物バルク体を生成させる。
【0033】
図3、図4は、本発明の一実施形態の無機化合物バルク体の製造方法を実施する無機化合物バルク体製造装置10の構成を示しており、図3は、無機化合物バルク体製造装置10の概略縦断面図、図4は、図3の要部の拡大概略縦断面図である。図3、図4の無機化合物バルク体製造装置10は、衝撃圧発生を爆薬の爆発により行わせた例を示す。
【0034】
図3において無機化合物バルク体製造装置10は、複数の構成容器を組み付け接合させて1つの筒状の密閉容器1を形成させ、密閉容器1内に無機化合物バルク体の原料となる無機化合物粉末部2、金属粉末部3を収容し、さらに、本実施形態では衝撃波発生手段4の衝撃波5を密閉容器1内で発生させて工業的に安定的に無機化合物バルク体を製造し得るようにしている。本実施形態の密閉容器1は、例えば、中空円筒形状で構成されており、同密閉容器1の構成容器は、それぞれ中空円筒容器32、52、液体容器64、密閉本体容器102を含み、これらが順に上から下に層状に接合されて1つの密閉容器1を構成する。
【0035】
本実施形態において、無機化合物バルク体製造装置10は、衝撃波発生部20と、固化生成部100と、から形成されている。衝撃波発生部20は任意の衝撃波エネルギーにより衝撃波を発生し固化生成部100側に供給する衝撃波発生手段4であり、実施形態において起爆部30と、爆発部50と、を含む。衝撃波発生部20からの衝撃波エネルギーが密閉本体容器102と、密閉本体容器102内の金属粉末部3、並びに無機化合物粉末部2を含む本発明の本体である固化生成部100に加えられる。
【0036】
実施形態において、起爆部30及び爆発部50はそれぞれの内部が相互に連通する中空円筒容器32,52を中心を合わせて縦に密接し連結接合させている。中空円筒容器32,52はそれぞれ塩化ビニル製、鋼製で形成されて両者の中空の内径は同じに設定されて両容器は気密連結されている。これらの容器の素材は、上記のものに限定されるものではなく、繊維強化プラスチック、その他の高強度樹脂、ステンレス材、チタン系、マグネシウム系合金材、その他の金属、合金材でもよい。
【0037】
起爆部30は中空円筒容器32の中空部に漏斗を上下反転させるように設けた第1爆薬部22と、第1爆薬部の逆円錐部26の下面側に接する第2爆薬部24と、を含む。すなわち、中空円筒容器32の中空部の上部側には石膏等の閉鎖材が充填されて上部壁25が形成され、中空円筒容器32の上面側は閉鎖されている。上部壁25は第1爆薬部22の逆円錐部26と逆円錐部26の中心部から容器32の中心線に沿った外部に延設される導管部27を形成する空隙を形成している。そして、第1爆薬部の逆円錐部26の下面側に接して中実円錐形状の第2爆薬部24が配置されている。第1、第2爆薬部22,24は、それぞれSEP並びにHABWの練り状ないしは半凝固体のそれぞれ高性能爆薬から構成されている。
【0038】
第1爆薬部22の導管部27の上端には雷管28が接続され、例えば電気着火する着火手段29を介して着火させる。第1爆薬部22に山形状に接した中実円錐形状の第2爆薬部24は、爆薬レンズを構成し、第1爆薬部22の中空円筒内を中心側から周壁側にテーパ状に拡大する爆薬路としての第1爆薬部22の逆円錐部26並びに中実円錐形状の第2爆薬部24からの爆轟を受けて円筒断面に均等な爆発エネルギーを爆発部50側に供給する。
【0039】
爆発部50は、起爆部30の中空円筒容器32の中空収容空間より大きな収容空間(同一内径で中空円筒容器32の筒長さより長い)を有する中空円筒容器52内に練り状のSEP高性能爆薬を充填した第3爆薬部53を含む。第3爆薬部53は、第1、第2爆薬部22、24からの爆発エネルギーを増幅拡大しながら爆発し、さらに大きな衝撃波エネルギーを生成する。
【0040】
本実施形態において、衝撃波発生部20と固化生成部100との中間には中空円筒容器52の収容空間に連通し中空円筒容器52と内径及び外径を同じとした液体容器64が中心を合わせて連結接合されている。液体容器64には液体60が充填されて液体部62を形成する。液体部62は、衝撃波の伝達媒体であるとともに、その充填量を変化させることにより固化生成部100側への衝撃圧を増減調整する衝撃圧調整手段であり、実施形態では液体として例えば水が充填されている。爆発部50のSEP高性能爆薬と水とは直接に接して配置されている。
【0041】
固化生成部100は、本発明の無機化合物バルク体の製造方法の特徴的な工程を行う部位であり、液体容器64の収容部62の内径及び外径サイズが同じで液体部60に水密連結された密閉本体容器102を備えている。固化生成部100は、密閉本体容器102と密閉本体容器102内に収容した原料粉末としての無機化合物粉末部2と、衝撃波の流れ上流側に配置した、原料粉末に対する衝撃波エネルギーの作用粉末としての金属粉末部3と、を含み、無機化合物粉末部2と金属粉末部3とを隣接配置させた状態で瞬時に無機化合物粉末を多種類の用途の原料、あるいは製品適用可能なバルク体として固化させる。
【0042】
図4において、詳しくは密閉本体容器102は、底壁108を有して下端が閉鎖されており、底壁108の中心において外部に連通するドレン孔8が設けられている。ドレン孔8から衝撃波エネルギーが放出される。そして、固化生成部100は、下端側から上層に向けて順にクッション用粉末部6、無機化合物粉末部2、金属粉末部3が相互に密接されて積層配置されており、さらに、金属粉末部3の上にカバープレート106が載置されている。
【0043】
クッション用粉末部6は、衝撃波発生部20側から供給される衝撃エネルギーを密閉容器の閉鎖端側で受けて熱的な吸収を行なう部位であり、例えば、一定の熱的特性を有する金属粉末あるいはそれらの混合粉末が用いられる。また、クッション用粉末部6は金属化合物粉末、合金粉末などで構成することもできる。実施形態では、固化処理する無機化合物粉末量より少ない量で、例えば銅(Cu)粉末が配置されている。なお、クッション用粉末部6は、同時に、密閉本体容器102の底壁108の上部で受けて無機化合物粉末の固化体が衝撃反作用により衝撃発生部20側に飛び出すのを防止する機能も有する。
【0044】
クッション用粉末部6の上層に配置された無機化合物粉末部2は、固化処理対象の原料粉末であり、無機化合物粉末を加圧して60%程度の圧粉体密度で固めた状態で密閉本体容器内に配置され、衝撃エネルギーを受けた後に固化しバルク体となる。実施形態では無機化合物粉末として、アナターゼ型の酸化チタン(TiO)粉末が充填されている。無機化合物粉末部2は粉末充填後に平面状の押圧面を有する圧接シリンダ装置などを介して所要の圧力を加えて圧接させて固められる。
【0045】
さらに、無機化合物粉末部2の上層に金属粉末部3を構成する金属粉末が充填される。金属粉末部3は、本発明において1つの特徴的な構成であり、固化対象の粉末に隣接配置し衝撃波エネルギーを無機化合物粉末に直接に伝達して作用させ高密度のバルク体として固化させる。衝撃波発生手段から固化生成部側に供給される衝撃波エネルギーは、高熱エネルギーと高圧エネルギーを含む。実施形態において、金属粉末部3は、一定の熱的特性を有し、衝撃波発生手段側からの衝撃波エネルギーを固化対象の無機化合物粉末部2に伝達供給する熱伝達手段であり、特に、発生エネルギーの流れにおいて、無機化合物粉末部2の上流側に隣接配置されて無機化合物粉末部に対して均等な熱エネルギーを高速に伝達し、良質な材料特性のバルク体を形成させる。無機化合物粉末の衝撃固化法では、衝撃エネルギーを与えられた対象物は、例えば20μs程度の瞬時時間内でいきなり数百度以上に温度が上昇し、かつその直後から急速に常温冷却されるが、このとき、例えば固化容器の中心部と壁部寄りでは衝撃エネルギーが供給されて冷却されるまでの時間差が生じ、このため、熱応力が発生し、残留応力を生じて冷却後の固化体にパーティクル欠陥やクラックを生じやすい。このため、残留応力を生じなくするために、本実施形態では金属粉末部3の粉末材料として、内部で十分な熱量を速く均一に伝達し短時間で均一に温度を上昇するものが好ましい。すなわち、実施形態において、金属粉末部3の金属粉末は、一定以上の比熱、熱伝導率並びに密度特性を有する金属粉末から形成されている。比熱(specific heat)cは単位質量の物質の温度を1度上げるのに必要な熱量[J/g・K]、[J/kg・℃]で比熱容量(specific heat capacity)ともいわれ、熱伝導率(Thermal
conductivity)λは、単位温度差で単位時間当たり1メートルの離隔距離間に流れる熱量[W/m・K]、[W/m・h・℃]、密度(density)pは、物質の単位体積当たりの質量[g/cm]、[kg/m]とすると、比熱cは、その値が小さいほど小さな熱量で物質の温度を上昇させることを意味し、熱伝導率λは、その値が大きいほど物質内部の粒子間の熱伝達率が高いことを意味し、さらに、密度pの値が高いほど高熱下での膨張率が低いことを意味する。金属粉末部3の熱的特性として必要とされるのは、エネルギーの流れ方向下流側に隣接あるいは密接する無機化合物粉末部2の無機化合物粉末に、(1)十分な輸送量による高熱、高圧エネルギーを、(2)極短時間で、(3)外部へ逃がすことなく無機化合物粉末部2に伝達させる特性を有することであると考えられる。すなわち、本発明において、金属粉末部3に必要とされる熱的特性は、小さな比熱と、大きな熱伝導率と、高い密度特性をもつ金属であり、それらの金属が粉末体で配置されることにより、金属粉末部内で粒子間摩擦により受けた衝撃エネルギーを増大させ、かつ均質の分布で十分な熱エネルギー並びに、圧力エネルギーを効率よく、瞬時に無機化合物粉末部2に供給することができる。実施形態において、この金属粉末部3は、前述したように銅(Cu)粉末が用いられている。金属の物理的性質について知られた数値を示す図5の図表において、例えば比熱<500、熱伝導率>200、密度>7の条件を設定すると、比較的に小熱量により温度を上昇させる金属、並びに高密度の金属は多いが、熱伝導率を考慮すると、一定以上の熱的特性を備えた金属は、金(Au),銀(Ag),銅(Cu)である。銅、金、銀粉末の混合粉末とすることもできる。ちなみに、鉛、その他で銅よりも比熱が低く、高密度である金属は複数存在するが、熱伝導率において極端に低い。また、アルミニウムのように密度の低い金属素材は高熱下で膨張率が大きく、図3のストレートタイプの円筒容器で固化生成部100の金属粉末部3が収容されている部分が側部側に膨張して樽形状に張り出し、エネルギーが外部に逃がされて無機化合物粉末部2への十分なエネルギー供給がなされず、この結果、生成されるバルク体にクラックが検出されることが確認されている。また、無機化合物粉末部の無機化合物よりも高い熱伝導特性で、小さな比熱の金属粉末部は、銅(Cu)、金(Au),銀(Ag)の金属粉末のうちの1種、又はこれらの混合粉末である構成であるから、金属粉末の熱的特性を発揮して高密度で良質な無機化合物バルク体を確実に成形させることができる。各粉末量を増減調整、あるいは混合粉末の場合は配合比を変えるだけで熱的な伝達特性を変化させることができる。金属粉末部3は圧接して固められた無機化合物粉末部2の上に充填後に平面状の押圧面を有する圧接シリンダ装置などを介して所要の圧力を加えて圧接させて固められる。
【0046】
カバープレート106は、数ミリメートル程度の薄肉のカバープレートであり、液体容器64に収容された液体と金属粉末部3との境界を区画して仕切る。
【0047】
上記の無機化合物バルク体製造装置の例では、衝撃波発生部での発生源は爆薬の爆発によるものであるが、この発生手段に限定されるものではない。衝撃波はエネルギーが蓄積して瞬間的に解放されるときに現れるものであり、放電、高圧の解放、レーザ光の収束、高速衝突、水蒸気爆発、高速流れ、その他種々の衝撃波発生源を利用することができる。
例えば、図6は、高電流起爆装置Kから延長したケーブルに直接に金属線wを接続し、これを水中Wに通したもので、装置Kを介して高電圧を水中で放電させることにより金属線をプラズマ化し、水中に衝撃波を発生させる装置で、この衝撃波を本発明の密閉容器に集中させてバルク体生成用の衝撃エネルギーを利用することができる。また、図7は、筐体中の金属Mにレーザー光Lを照射して金属プラズマジェットを噴出し、その反作用として金属中に衝撃波を生じさせる、いわゆるレーザアブレイション(laser ablation)を用いたものであり、その金属の背面側に金属粉末部3ならびに無機化合物粉末部2を配置させて利用することができる。レーザ光収束では、例えばレーザ光が金属表面など固体面を照射するとき、レーザ光照射とは逆方向にプラズマの高速ジェットが噴出し、その反作用として固体中に衝撃波が発生する。また、高速物体が固体や液体に衝突するとき標的媒体中に衝撃波が発生し、その背後に高温高圧を実現できる。また、図8は、高速移動推進体Rを風洞G内に自由移動自在に設け、風洞Gに連接した真空室内に金属粉末部3を推進体Rの移動経路中に配備しておき、何らかの方法や自然現象で生成される高速空気流で推進体Rを高速移動させて衝撃波を本発明装置の作用粉末(3)に加えることができる。
【0048】
本実施形態の無機化合物バルク体製造装置10の装置全体構成について、全体の容器体は直筒形状であり、それぞれ起爆部30、爆発部50、液体部62、固化生成部100の各容器は例えばそれらの両端側に刻設されたねじ溝、ねじ山により相互に着脱自在に螺着されて全体として円筒形状に形成され、内部を気密閉鎖している。また、内部の収容空隙を形成する内径サイズも各筒体についてそれぞれ同じで設定されている。図3の実施形態でのサイズは、全体高さ150mm、直径70mm、内径30mm、底壁厚15mm、収容空隙高さ135mmで設定されている。そして、例えば、この実施形態構成で外径30mm×高さ10mm程度のアナターゼ型酸化チタンバルク体が得られるこことが確認されている。
【0049】
上記の実施形態の無機化合物バルク体製造装置10を用いる場合を参照して本発明の無機化合物バルク体の製造方法について説明する。概略の流れは、密閉本体容器102内への各粉末の充填、カバープレートすなわち、蓋板を介した液体部62の上部連結、中空円筒容器52の上部連結、中空円筒容器32の上部連結で組み付け完了となる。
【0050】
密閉本体容器102内の各粉末を例えば、クッション用粉末部10、無機化合物粉末部30、金属粉末部60の各重量部配分で投入配置させる。その際、まず、図2の(a)に示すように、原料粉末としての例えばアナターゼ型酸化チタン粉末からなる無機化合物粉末を加圧ケースに投入し、50MPa程度で加圧して密閉本体容器102よりも若干小さな内径の短円筒状に締め固め、無機化合物粉末成形体2aを形成する。
そして、密閉本体容器102内にクッション用粉末としての銅粉末を投入しプレス機械により所定圧力で圧接し円板形状に固める。次に、上記の加圧して締め固めたアナターゼ型酸化チタン粉末の無機化合物粉末成形体2aを投入し、クッション用粉末部6の上に重ねて配置する。さらにその上に衝撃エネルギーを作用させる金属粉末としての銅粉末を投入しプレス機械により所定圧力で下向きに圧接し円板形状に固めて金属粉末部3を形成する(図2の(b))。そして密閉本体容器102の上端部にカバープレート106を螺着して密閉本体容器102を形成する(図2の(c))。さらに、密閉本体容器102の上部に液体容器64を螺合連結して適宜の量の水を充填する。さらに、その上に爆発部50の中空円筒容器52を螺合連結してSEP高性能爆薬を充填して第3爆薬部53を設け、さらに、その上に第1、第2爆薬部22,24を設置して上部壁25により上面を閉鎖した中空円筒容器32を螺着して上方に延長接合し、全体がストレートタイプの筒状容器として組み付ける。無機化合物粉末成形体2aの上に金属粉末を充填し、圧接して固めることにより、金属粉末から無機化合物粉末への衝撃波エネルギーの伝達をムラなく行ない、固化後のバルク体全体の均質な高密度の固体を得ることができる。
【0051】
爆薬への着火から無機化合物粉末部の固化完了までは例えば15μ秒〜20μ秒程度の時間間隔で行われる。組み付け完了した装置10において、着火手段39により着火させると、第1、第2爆薬部22,24において爆薬レンズを経由して平面起爆を生じる。その爆轟は爆発部50の爆薬に導火して導爆し大きな爆轟圧力を発生させる。さらに、その爆轟圧力は、液体部62の水内を通過し水中衝撃波としてカバープレート106を介して金属粉末部3に作用する。金属粉末部3では、大きな衝撃波エネルギーを受けて小さな比熱と、高い熱伝導及び密度特性を有する銅粉末が十分な輸送量による高熱、高圧エネルギーを、極短時間の瞬時時間間隔で外部へ逃がすことなく無機化合物粉末部2に伝達させる。金属粉末部3に隣接配置された無機化合物粉末部2の無機化合物粉末は、平面状に分布した大きな爆轟圧力を受けて高温で瞬時に溶融、圧縮され、さらに徐冷されて高密度のバルク体を生成させる。密閉容器内において衝撃波エネルギーの流れ上流側から、金属粉末部3、無機化合物粉末部2、クッション用粉末部6が順次、密閉配置された構成であるから、クッション用粉末部6は衝撃波による衝撃を吸収して反力による無機化合物バルク体のクラック発生を有効に防止し得る。特に、金属粉末によりクッション粉末部を構成することで、衝撃エネルギーの熱的吸収も同時に行い、高品質のバルク体生成に寄与する。固化対象の無機化合物粉末部2の無機化合物粉末は、金属粉末部3による高熱、高圧エネルギーを受けて粒子の内部組成に変質を受けることなく粉末粒子表面が瞬時溶融固化して表面部分において結合した状態や、高熱、高圧エネルギーを受けて粒子の内部組成自体に変質を受け、粉末粒子全体が瞬時溶融固化して結合した状態となる。高温溶融、圧縮された無機化合物粉末部2の無機化合物粉末は、特に冷却操作を行うことなく衝撃波を受けた直後から冷却し始めそのまま放置して例えば室温まで冷却される。このとき、無機化合物粉末としてのアナターゼ型酸化チタン粉末は、爆轟を受けているときには例えば500℃以上の高温の熱エネルギーを受けていると考えられるが、爆轟エネルギーを受ける時間は瞬間であることからルチル型への相転移を生じない。通常は、金属粉末部3は、無機化合物粉末部2の粉末材料よりも熱伝導率が高く、また、比熱も低い場合が多い。固化後は、無機化合物粉末部2は、金属粉末部3から容易に分離させ物理的に取り外すことができる。例えば、酸化亜鉛(ZnO)粉末や二酸化チタン(TiO)粉末を本方法により固化した各バルク体は、少なくとも相対密度が95%以上のものを安定して瞬時製造し得ることが確認されている。
【0052】
固化対象の無機化合物粉末部2の無機化合物粉末は、固化後のバルク体の用途に対応して種々のものを選択することができる。なお、本発明方法による無機化合物バルク体は、特に、ファインセラミックス、機能性セラミックスといわれる技術分野の出発原料として有効であり、その意味で固化対象の無機化合物粉末をセラミック粉末と置き換えることもできる。神経回路、血管内検査用マイクロマシン、人工頭脳、液晶、IC、通信、ロボット技術などにおける薄膜成形では、例えば気相法を用いた物理処理法(PVD)や、化学処理法(CVD)を用いることができ、その際、バルク体を出発原料として利用できる多くの成膜方法について、本発明の固化バルク体の製造方法を用いて製造される無機化合物バルク体を用いることができる。
【0053】
上記の実施形態において、無機化合物バルク体製造装置10の具体的な構成は何ら限定的なものではない。全体の容器形状やサイズは自由に設定できる。また、爆発部50の容器の爆薬の収容室の大きさ、液体容器、固化容器の中空収容空間容積も機能を損なわない範囲で自由に設定できる。
【0054】
また、衝撃発生を爆薬の爆発以外の方法で行わせる場合には、密閉容器内に向けて衝撃波を供給させる構成であれば、任意に設定できる。
【実施例】
【0055】
本願発明者は、本発明の無機化合物バルク体の製造方法を検証するための実験を行った。
[実施例1]
【0056】
(1)図3の装置を用いて二酸化チタンの固化体を製作した。
○第1爆薬部22の爆薬としてSEP:爆速6.97km/s、密度1300kg/m(旭化成ケミカルズ株式会社製)、第2爆薬部24としてHABW:爆速4.75km/s、密度2200kg/m(旭化成ケミカルズ株式会社製)、の2種類の爆薬を用い、SEPを主要な爆薬として使用した。爆薬量は爆薬レンズと爆薬容器合わせてSEPを約60g、HABWを約16g用いた。
○液体容器64を水で満たし、水中衝撃波を作る。液体容器64は、直径70mm、高さ10mmとし、粉末に約10GPaの水中衝撃波が加わるように水位を設定した。
○無機化合物粉末部2の無機化合物粉末はアナターゼ型二酸化チタン粉末(和光純薬工業株式会社製)を用い、金属粉末部3の金属粉末に銅(密度99.9%、粒径45μm)を用いた。密閉本体容器(内部中空直径30mm、高さ50mm)102内に10gのクッション用粉末6を充填し、次に、その上から無機化合物粉末2としてのアナターゼ型二酸化チタン粉末30gをプレス機械を用い50MPaの圧力を加えて固めた無機化合物粉末成形体2aを充填した。次に、その上から金属粉末部3の金属粉末としての銅粉末60gを充填してプレス機械を用い50MPaの圧力を加えて固めた。
○さらに、銅粉末の上部で固化容器の最上部にステンレス製の1.5mm厚のカバープレート106を載せて密閉本体容器102を閉鎖した。これによって容器全部を直筒状に連結し準備を整えた。
○砂中に装置の容器を埋めてセットし、着火させて爆破させた。
○数十秒後、試料を取り出し、固化した無機化合物粉末のバルク体Vの表面をSEMで観察し、XRDで内部の結晶、ビッカース硬度を測定した。
【0057】
(2)上記(1)の構成により製作した固化体を装置から取り出して約25mm×15mm×5mmの直方体形状のものを切り出し、断面構造を目視で確認するために撮影した断面写真を図9、図10に示す。稠密でクラックのない断面組織の固化体が得られていることが確認できる。
○爆発衝撃時の圧力を自製のマンガニンゲージを用いて測定した結果を計算値とともに示したグラフを図11に示す。液体収容部の水柱高さ5mm〜20mm範囲で約13GPa〜7GPaの圧力調整ができる。
○上記0062により製作した固化体のX線回折パターンを図12に示す。グラフ中(a)アナターゼ型二酸化チタン固化体を、(b)は、その固化前のアナターゼ型二酸化チタン粉末を示している。グラフ中の[A]の文字はアナターゼ型二酸化チタンのピーク値を示すものであり、粉末状態と固化状態でほとんど同じで高密度で良質のアナターゼ型二酸化チタンバルク体が形成されていることが分かる。なお、X線回折装置(XRD)は理学電機株式会社製、RINT2100を用いた。
○図13は固化前の粉体での二酸化チタン、並びに図14は、固化後のバルク体における二酸化チタンの電子顕微鏡(SEM)写真である。粉体(図13)では、粒子が不規則な団粒状に結合しクラック部分が数箇所に見られるが、バルク体(図14)では、小径の粒子が表面結合(surface bonding)で個々に密度高く結合しているようすが見られ、クラックは見られない。
[実施例2]
【0058】
(3)図3と同じ構成の装置を用いて酸化亜鉛(ZnO)の固化体を製作した。
○無機化合物粉末は酸化亜鉛粉末(99.9%、粒径5μm、和光純薬工業株式会社製)を用いた点以外は、すべて実施例1と同一であり、例えば固化容器に充填する各粉末量も クッション用粉末10g、酸化亜鉛セラミック粉末30g、銅金属粉末60gに設定されている。
【0059】
(4)固化した酸化亜鉛(ZnO)粉末を装置から取り出して直径約30mm×高さ5mmの円柱形状の酸化亜鉛バルク体を取得した。目視観察によっても、稠密でクラックのない断面組織の固化体が得られていることが確認された。
○上記0064により製作した固化体のX線回折パターンを図15に示す。グラフ中(a)酸化亜鉛固化体を、(b)は、その固化前の酸化亜鉛粉末を示している。粉末状態と固化状態でほとんど同じ回折角度で同様のピーク値が検出されており、結晶組織などに変質がないことが確認できる。X線回折装置(XRD)は理学電機製、RINT2100を用いた。
○図16は固化前の粉体での酸化亜鉛、並びに図17は、固化後のバルク体における酸化亜鉛の電子顕微鏡(SEM)写真であり、粉体とバルク体とで粒子の密度や組織にほとんど変化が見られない。図18は、市販の焼結固化によるバルク体のSEM写真であり、組織の粒径自体が本発明固化バルク体に比べて大きく、低密度である。
○図19は0064の実施例構成で固化した酸化亜鉛バルク体と、市販(和光純薬工業株式会社製)の酸化亜鉛バルク体との性質を比較したものである。純度数値は実施例バルク体が市販品に比べて劣るが、相対密度、硬度において実施例バルク体が勝り、しかも種々の製品原料として適用した場合の機能は実施例バルク体のものが高く、さらに、市販品が焼結固化品であることを考慮すると、製造コスト面において実施例バルク体のものが優れる。相対密度は市販品に比べて高く、特に薄膜形成用の気相法スパッタリングターゲット材とする場合にパーティクル欠陥の少ない良質の成膜を実現する。
○図20(a)は0064の実施例構成で固化した酸化亜鉛バルク体、図20(b)は、市販(和光純薬工業株式会社)の焼結固化による酸化亜鉛バルク体のそれぞれ交流インピーダンス測定結果(Cole-Cole plot)を示すグラフである。実施例構成による固化酸化亜鉛バルク体のほうがメガオーム[MΩ]単位であり、キロオーム[kΩ]単位の市販品に比較して3桁の差異により大きく、しかも、粒界抵抗、バルク抵抗自体もともに大きいことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の無機化合物バルク体の製造方法は、種々の用途の製品あるいは原料セラミックバルク材として利用可能である。特に、近時の太陽電池モジュール、ディスプレイ用液晶、半導体電子部品、光触媒成膜等のファインセラミック、機能性セラミックの製造用バルク材として有効に適用できる。
【符号の説明】
【0061】
1 密閉容器
2 無機化合物粉末部
2a 無機化合物粉末成形体
3 金属粉末部
4 衝撃波発生手段
5 衝撃波
6 クッション用粉末部
10 無機化合物バルク体製造装置
20 衝撃波発生部
22 第1爆薬部
24 第2爆薬部
30 起爆部
32 中空円筒容器
50 爆発部
52 中空円筒容器
53 第3爆薬部
62 液体部
64 液体容器
100 固化生成部
102 密閉本体容器


【特許請求の範囲】
【請求項1】
密閉容器と密閉容器内に向けて衝撃波を供給する衝撃波発生手段と、を用意し、
密閉容器内に固化対象の無機化合物粉末部と、金属粉末部と、を隣接配置する工程と、
衝撃波発生手段により金属粉末部側から密閉容器内に向けて衝撃波を供給する工程と、
衝撃波発生手段の衝撃エネルギーにより金属粉末部を介して無機化合物粉末に瞬時衝撃エネルギーを加え、その後徐冷固化する工程と、を含むことを特徴とする無機化合物バルク体の製造方法。
【請求項2】
金属粉末部は小さな比熱と大きな熱伝導率と高い密度特性を含む熱的特性を同時に具備する金属粉末からなることを特徴とする請求項1記載の無機化合物バルク体の製造方法。
【請求項3】
金属粉末部は無機化合物粉末部の無機化合物よりも高い熱伝導特性で、小さな比熱の金属粉末からなることを特徴とする請求項1又は2記載の無機化合物バルク体の製造方法。
【請求項4】
密閉容器内に無機化合物粉末部と、金属粉末部と、を隣接配置する際に、予め加圧して所要形状に締め固めた無機化合物粉末成形体を密閉容器内に配置する第1の工程と、
無機化合物粉末成形体の上から密閉容器の空隙に金属粉末を充填して圧接して固める第2の工程と、を含むことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の無機化合物バルク体の製造方法。
【請求項5】
無機化合物粉末部の無機化合物よりも高い熱伝導特性で小さな比熱の金属粉末部は、銅(Cu)、金(Au),銀(Ag)の金属粉末うちの1種、又はこれらの混合粉末であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の無機化合物バルク体の製造方法。
【請求項6】
密閉容器内において衝撃エネルギーの流れ上流側から、金属粉末部、無機化合物粉末部が順次配置され、さらに無機化合物粉末部の下流側にクッション用粉末部が密閉配置されていることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の無機化合物バルク体の製造方法。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれかに記載の無機化合物バルク体の製造方法により製造される無機化合物バルク体であり、
無機化合物粉末が酸化亜鉛(ZnO)粉末からなり、無機化合物バルク体が薄膜製造用ターゲット材とされる無機化合物バルク体。
【請求項8】
請求項1ないし6のいずれかに記載の無機化合物バルク体の製造方法により製造される無機化合物バルク体であり、
無機化合物粉末が酸化チタン(TiO)粉末からなり、無機化合物バルク体がアナターゼ型酸化チタンバルク体であることを特徴とする無機化合物バルク体。
【請求項9】
酸化亜鉛(ZnO)を主成分とした請求項1ないし6のいずれかに記載の無機化合物バルク体の製造方法により製造される衝撃固化バルク体からなり、相対密度が95%以上である無機化合物バルク体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図11】
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【図12】
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【図15】
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【図19】
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【図20−a】
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【図20−b】
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【図9】
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【図10】
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【図13】
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【図14】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2011−68551(P2011−68551A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−185666(P2010−185666)
【出願日】平成22年8月21日(2010.8.21)
【出願人】(504159235)国立大学法人 熊本大学 (314)
【Fターム(参考)】