説明

無機塗料組成物、親水性塗膜及び農業用フィルム

【課題】高い透明性を有し、基材との密着性及び耐擦傷性に優れ、特に長期に渡って、親水性、さらには親水性に伴う防曇性、流滴性、防汚性において優れた効果を有する塗膜を形成できる無機塗料組成物、親水性塗膜及び農業用フィルムの提供。
【解決手段】分散媒中における凝集粒子の、アスペクト比の平均が3〜20であり、長軸方向の平均粒子径が100〜500nmであり、かつ、短軸方向の平均粒子径が2〜100nmであるアルミナ粒子と、分散媒中における凝集粒子の平均粒子径が150nm以下であるシリカアルミナ複合粒子及び水を含有し、固形分濃度が0.1〜30質量%である無機塗料組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機塗料組成物、親水性塗膜及び農業用フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、ガラスやプラスチック等の基材は、透明性に優れていることから、各種ランプのカバー、眼鏡レンズ、ゴーグル、各種計器のカバー、農業用フィルム等の様々な用途に使用されている。しかし、一般に、これらの基材は親水性が高くないため、結露、曇りを生じやすいという不都合を生じている。例えば、常に外気にさらされやすい計器類のカバーの場合は、そのカバーの内面に結露を生じ曇りが発生するために表示が見えなくなるといった問題が生じることがある。また、農業用フィルムの場合には、水滴や曇り等により太陽光線の透過率が低下し、植物の成長に悪影響をあたえることがある。これらの理由により、基材表面に防曇、流滴性向上等を目的として親水性を付与することが望まれている。
【0003】
基材表面に親水性を付与する方法として表面に無機層を形成する方法が知られている。具体的には、アルミナゾル及びシリカゾルを含む無機塗料を塗布、乾燥して塗膜を形成する方法(特許文献1)が挙げられる。しかし、この方法では、形成される塗膜はアルミナ粒子及びシリカ粒子が界面活性剤により基材上に接着された状態であるために基材との密着性に欠けるという問題があった。また、他に、アルミナ粒子とシリカ粒子とを特定の混合比率に限定した無機塗料を塗布、乾燥して塗膜を形成する方法(特許文献2)が提案されているが、これも、防曇流滴性能はある程度発現するものの、得られる塗膜の耐擦傷性が不充分であった。また、安定化剤としてアンモニウムイオン等の対カチオンを添加したシリカゾルとアルミナゾルとを含有する無機塗料を塗布、乾燥して塗膜を形成する方法(特許文献3)が提案されているが、無機塗料組成物中において粒子間の凝集を抑制し、塗布性を安定化させることはできたものの、得られる塗膜の耐擦傷性と防曇流滴性が両立できないという問題があった。
【0004】
【特許文献1】特開昭60−69181号公報(実施例4〜6)
【特許文献2】特開2003−49003号公報(実施例1〜14)
【特許文献3】特開平7−53747号公報(実施例1〜7)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、高い透明性を有し、基材との密着性及び耐擦傷性に優れ、特に長期に渡って、親水性、さらには親水性に伴う防曇性、流滴性、防汚性において優れた効果を有する塗膜を形成できる無機塗料組成物、親水性塗膜及び農業用フィルムを提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、基材上に親水性塗膜を形成することのできる無機塗料組成物であって、分散媒中における凝集粒子の、アスペクト比の平均が3〜20であり、長軸方向の平均粒子径が100〜500nmであり、かつ、短軸方向の平均粒子径が2〜100nmであるアルミナ粒子(以下、本アルミナ粒子という)と、分散媒中における凝集粒子の平均粒子径(以下、平均凝集粒子径という)が150nm以下であるシリカアルミナ複合粒子(以下、本複合粒子という)及び水を含有し、固形分濃度が0.1〜30質量%である無機塗料組成物を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、高い透明性を有し、基材との密着性が高く、親水性の高い、さらに、防曇性、防汚性、流滴性にも優れた塗膜を形成できる無機塗料組成物、親水性塗膜及び農業用フィルムを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の無機塗料組成物は、本アルミナ粒子と、本複合粒子及び水を含有する。
【0009】
本アルミナ粒子は、分散媒中における凝集粒子の、アスペクト比の平均が3〜20であり、長軸方向の平均粒子径が100〜500nmであり、かつ、短軸方向の平均粒子径が2〜100nmである。本アルミナ粒子を無機塗料組成物中に含有することにより、親水性が高く、基材との密着性、耐殺傷性に優れた塗膜を形成することができるので好ましい。本アルミナ粒子の形状としては、板状、針状、繊維状、羽毛状等が挙げられるが、得られる塗膜の耐擦傷性及び基材への密着性の良好なことから羽毛状のものが特に好ましい。この羽毛状の粒子を使用することにより、塗膜中において、粒子同士がからみあい、緻密となるため、得られる塗膜の硬度や基材に対する密着性が、さらに、高く、長期間耐久性が持続する他、フィルムのような可撓性のある基材に使用した場合にも比較的柔軟な性質を示すことができるので好ましい。本アルミナ粒子は、凝集粒子のアスペクト比の平均が3未満であったり、長軸方向の平均粒子径が100nm未満であると、緻密な膜が得られにくくなり、膜強度が低下するおそれがあるので好ましくなく、本アルミナ粒子の凝集粒子のアスペクト比の平均が20超であったり、長軸方向の平均粒子径が500nm超であると、得られる塗膜の透明性が損なわれたり、耐擦傷性が低下するおそれがあるので好ましくない。また、短軸方向の平均粒子径が2nm未満であると、得られる塗膜が緻密になりすぎるため親水性が不充分となるおそれがあるので好ましくなく、平均粒子径が100nm超であると、得られる塗膜の透明性が損なわれたり、耐擦傷性が低下するおそれがあるので好ましくない。本アルミナ粒子の凝集粒子は、アスペクト比の平均が5〜10であり、長軸方向の平均粒子径が150〜300nmであり、かつ、短軸方向の平均粒子径が5〜60nmであることが特に好ましい。なお、本願明細書において、無機塗料組成物中での凝集粒子の粒子径は、透過型電子顕微鏡(TEM)を使用して測定される。本アルミナ粒子は、TEM観察すると、繊維状又は羽毛状の粒子として観察される。また、後述の本複合粒子は球状の形で観察され、形状の異なることから、無機塗料組成物をそのまま使用しても、本アルミナ粒子と本複合粒子とはTEM像により区別できる。測定方法としては、本発明の無機塗料組成物を水で希釈して固形分濃度約0.1質量%とした後、コロジオン膜上に滴下し、乾燥させてから、TEM観察を行う。本発明では、粒子径とは、観察される粒子の粒子直径のことをいい、平均粒子径とは、得られたTEM像の中から、無作為に抽出された20個の粒子の平均値をとったもので定義する。本願明細書では、この方法により、長軸方向の粒子の平均粒子径及び短軸方向の粒子の平均粒子径を算出する。また、アスペクト比の平均については、アスペクト比=長軸方向の粒子径/短軸方向の粒子径で表した場合の粒子1個あたりの平均値を算出する。なお、TEM像を観察する装置としては、日本電子社製のJEM−1230等が挙げられる。
【0010】
また、本アルミナ粒子は、様々な結晶構造を有するものが使用でき、α−アルミナ、ギブサイト、バイアライト、ベーマイト、γ−アルミナ及びアモルファスからなる群より選ばれる1以上のものが使用できる。なかでも、得られる塗膜が良好な透明性を有することから、本アルミナ粒子はアモルファスであることが特に好ましい。本アルミナ粒子は、市販されているものの他、従来より公知の製造方法により得られるものが使用できる。なかでも、本アルミナ粒子は、アルミナゾルの製造方法により得られるものが好ましく、例えば、アルミン酸アルカリ金属塩と、塩化アルミニウム、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム等の酸性アルミニウム塩と、場合によっては酸性溶液とを混合して得られる水和ゲルを熟成した後、酸を添加して解こうする方法、酸性アルミニウム塩をイオン交換して得られる水和ゲルを熟成した後、解こうする方法、アルミニウムアルコキシドを加水分解した後、解こうする方法等が挙げられる。
【0011】
本複合粒子は、シリカとアルミナが複合して得られる粒子をいう。本複合粒子を使用することにより、本アルミナ粒子と凝集することがなく、安定した状態で長期保存することができる無機塗料組成物を得ることができる他、透明性が高く、耐擦傷性の高い塗膜を形成できるので好ましい。本複合粒子としては、従来より公知のものが適宜使用できるが、なかでも、シリカ粒子を含むシリカゾルに、水に溶解したときの液性が酸性を示すアルミニウム塩を徐々に添加する方法により得られるシリカとアルミナとからなる凝集粒子が好ましい。この方法により得られる本複合粒子は、取扱いが容易なことから分散媒中に分散したゾルの状態で得られるので好ましい。
【0012】
本複合粒子は、平均凝集粒子径が150nm以下であることが必要である。これにより、得られる塗膜中において、本複合粒子が高密度に充填されるため塗膜の耐擦傷性が向上するので好ましい。平均凝集粒子径が150nm超であると、塗膜中で密度高く充填されにくくなり、得られる塗膜の耐擦傷性が低下するおそれがあるため好ましくない。本複合粒子は平均凝集粒子径2〜120nmであることが特に好ましく、平均凝集粒子径30〜100nmであることが最も好ましい。
【0013】
本複合粒子はAl/Si原子比が0.001〜0.1であることが好ましい。これにより、無機塗料組成物を製造する際、本複合粒子表面が陽性に帯電するため、同じく陽性に帯電している本アルミナ粒子と混合しても凝集しにくいため、透明性に優れた塗膜を得ることができるので好ましい。Al/Si原子比が0.001未満であると、無機塗料組成物を製造する際、本アルミナ粒子と凝集して沈殿するおそれがある他、得られる塗膜の親水性やヘイズが低下するおそれがあるので好ましくない。また、Al/Si原子比が0.1超であると、得られる塗膜の耐擦傷性が低下するおそれがあるので好ましくない。Al/Si原子比は、0.01〜0.1であることが特に好ましい。
【0014】
本複合粒子は、無機塗料組成物中において、分散媒中に分散したゾルの状態であることが好ましい。無機塗料組成物中における本複合粒子のシリカとアルミナの複合化した状態は、ゼータ電位測定により類推することができる。シリカ表面は通常マイナスに帯電しておりゼータ電位は幅広いpH範囲でマイナスであるが、アルミナで複合化されると、カチオンとなり表面電荷はプラスになり、したがって、ゼータ電位がプラスとなる。分散媒中における本複合粒子のゼータ電位は+10mV以上であることが好ましい。これにより、本複合粒子はゾル中において、適度な安定性を有するので好ましい。
【0015】
本発明における無機塗料組成物中の本アルミナ粒子と本複合粒子の比率は、全固形分100質量部に対して、本アルミナ粒子が20〜80質量部であり、本複合粒子が20〜80質量部であることが好ましい。本アルミナ粒子が、20質量部未満であると、得られる塗膜の基材との密着性や流滴性が低下するおそれがあるので好ましくなく、80質量部超であると、得られる塗膜の強度が低下するおそれがある他、透明性も低下するおそれがあるので好ましくない。また、本複合粒子が20質量部未満であると、膜強度が低下するおそれがあるので好ましくなく、80質量部超であると、基材との密着性や流滴性が低下するおそれがあるので好ましくない。本アルミナ粒子は40〜60質量部であることが特に好ましく、本複合粒子は40〜60質量部であることが特に好ましい。
【0016】
本発明の無機塗料組成物は、塗料組成物から溶媒を除去して得られるキセロゲル粉末の平均細孔半径、細孔容積及び比表面積が大きいことが好ましい。これにより、得られる塗膜は多孔質層を形成するため、高い親水性となるので好ましい。
【0017】
本発明の無機塗料組成物は、水を含有する。水は無機塗料組成物中において、本アルミナ粒子及び本複合粒子を分散させる分散媒としての役割をする。これにより、本アルミナ粒子及び本複合粒子を安定して分散できるので好ましい。水の含有量は、無機塗料組成物中の全固形分100質量部に対して100〜100000質量部であることが好ましい。水の含有量が100質量部未満であると、無機塗料組成物が高濃度化して長期保管での保存安定性が低下するおそれがあるので好ましくなく、含有量100000質量部超であると、液が低濃度化して必要膜厚を得にくくなるので好ましくない。水の含有量は、無機塗料組成物中の全固形分100質量部に対して500〜5000質量部であることが特に好ましく、500〜2500質量部であることが最も好ましい。
【0018】
本発明の無機塗料組成物は、適宜必要に応じて、界面活性剤を含有することができる。これにより、得られる塗膜の塗布性が向上して均質な外観良好な塗膜を得ることができる他、親水性も向上するので好ましい。界面活性剤としては、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤のいずれのものも使用でき、なかでも、ノニオン性界面活性剤が無機塗料組成物中における本アルミナ粒子及び本複合粒子の分散安定性を良好とすることができるので特に好ましい。
【0019】
ノニオン性界面活性剤としては、例えば、−CHCHCHO−、−CHCHO−、−SO−、−NR−(Rは水素原子又は有機基)、−NH、−SOY及び−COOY(Yは水素原子、ナトリウム原子、カリウム原子又はアンモニウム基)からなる群から選ばれる1種以上の構造単位を有する化合物が好ましく、アルキルポリオキシエチレンエーテル、アルキルポリオキシエチレン−ポリプロピレンエーテル、脂肪酸ポリオキシエチレンエステル、脂肪酸ポリオキシエチレンソルビタンエステル、脂肪酸ポリオキシエチレンソルビトールエステル、アルキルポリオキシエチレンアミン、アルキルポリオキシエチレンアミド、ポリエーテル変性のシリコーン系界面活性剤が挙げられる。また、上記界面活性剤のアルキル基部分の水素原子がフッ素原子に置換された界面活性剤であってもよい。
【0020】
本発明の無機塗料組成物において、界面活性剤は、無機塗料組成物中の全固形分100質量部に対して15質量部以下であることが好ましい。界面活性剤が15質量部超であると、得られる塗膜の耐擦傷性が低下するおそれがあるので好ましくない。界面活性剤は1〜10質量部であることが特に好ましい。
【0021】
本発明における無機塗料組成物は、適宜必要に応じて、バインダとして、各種金属酸化物の前駆体を含有することができ、特にシリカ又はアルミナのオリゴマー等の前駆体が好ましい。シリカ又はアルミナの前駆体は、適宜、様々な方法により得られるものが使用できる。例えば、シリカ前駆体としては、ケイ酸エチル等のケイ酸アルコキサイドを加水分解する方法、アルカリ金属ケイ酸塩を酸で分解した後、電解透析する方法、アルカリ金属ケイ酸塩を解膠する方法、アルカリ金属ケイ酸塩をイオン交換樹脂により透析する方法等により得られるものが挙げられる。また、アルミナ前駆体としては、アルミニウムアルコキサイドを加水分解する方法により得られたもの、水溶性アルミニウム塩、アルミニウムキレート化合物等を使用できる。バインダの含有量は、特に限定されないが、無機塗料組成物中の全固形分100質量部に対してSiO又はAl換算で10質量部以下であることが好ましい。バインダの含有量が10質量部超であると、得られる塗膜の可撓性が低下し、塗膜にクラックが生じて剥がれる等の耐久性が低下するおそれがあるので好ましくない。
【0022】
本発明における無機塗料組成物は、本アルミナ粒子又は本複合粒子以外の各種金属酸化物粒子を適宜必要に応じて含有することができる。例えば、酸化セリウム粒子を含有させると、紫外線カット性能を付与することができ、酸化チタン粒子を含有させると紫外線カット性能や光触媒性能を付与でき、インジウムドープ酸化スズ(ITO)やアンチモンドープ酸化スズ(ATO)、酸化スズ等の粒子を含有させると導電性や赤外線カット性能を付与できるので好ましい。なかでも、アルミナ粒子又はシリカ粒子を含有する場合は、膜の親水性、流滴性をさらに向上させられる他、膜強度を向上させることができるので好ましく、シリカ粒子が特に好ましい。金属酸化物粒子は、その形状にもよるが、平均粒子径1〜500nmのものが好ましい。平均粒子径1nm未満であると粒子が小さすぎるため金属酸化物粒子が保有する特性が発現しにくくなるので好ましくなく、平均粒子径500nm超であると、得られる塗膜の透明性が損なわれるおそれがあるので好ましくない。金属酸化物粒子は、平均粒子径1〜200nmであるものが特に好ましい。また、金属酸化物粒子がシリカ粒子である場合は、平均粒子径2〜80nmが好ましく、平均粒子径2〜50nmが特に好ましい。金属酸化物粒子は無機塗料組成物中の全固形分100質量部に対して、1〜30質量部含有することが好ましい。
【0023】
また、本発明の無機塗料組成物は、適宜必要に応じて、親水性高分子を含有することができる。これにより、得られる塗膜の強度や吸水性を向上させることができるので好ましい。親水性高分子としては、ポリアクリル酸、ポリビニルアルコール、ポリブチラール、ポリウレタン、セルロース等が挙げられる。親水性高分子は、無機塗料組成物の全固形分100質量部に対して30質量部以下を含有することが好ましい。親水性高分子の含有量が30質量部超であると、親水性の持続性や耐摩耗性が低下するおそれがあるので好ましくない。親水性高分子は、無機塗料組成物の固形分100質量部に対して20質量部以下であることが特に好ましい。
【0024】
本発明の無機塗料組成物は、本アルミナ粒子又は本複合粒子の分散安定性を阻害しない範囲で、各種の有機溶剤を含有することができる。有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、sec−ブタノール、t−ブタノール、エチレングリコール等が挙げられる。
【0025】
本発明の無機塗料組成物は、適宜必要に応じて、着色用染料、顔料、紫外線吸収剤、酸化防止剤等の添加剤を含有することができる。
【0026】
本発明の無機塗料組成物の固形分濃度は、0.1〜30質量%の範囲にあることが好ましい。固形分濃度が0.1質量%未満であると、無機塗料組成物を基材上に塗布した際、ムラが発生しやすくなるほか、親水性等の性能がでないおそれがあるので好ましくなく、固形分濃度30質量%超であると、塗布する際の作業性が悪くなり、得られる塗膜の透明性が低下するおそれがある他、無機塗料組成物としての安定性も低下し、保存安定性が低下するおそれがあるため好ましくない。無機塗料組成物は固形分濃度0.1〜10質量%であることが特に好ましい。
【0027】
本発明の無機塗料組成物を製造する方法としては、原料となる、アルミナ粒子を含有するアルミナゾルとシリカアルミナ複合粒子を含有するシリカアルミナ複合ゾルとを混ぜて製造することが好ましい。無機塗料組成物を製造する際には、適宜必要に応じて、水やメタノール等の各種の有機溶剤を混ぜることが好ましい。
【0028】
原料となるアルミナゾルは、分散媒体中でアルミナ粒子を安定化させるために、アルミナゾル中に塩素イオン、硫酸イオン、酢酸イオン等の無機酸又は有機酸由来の陰イオンを含有することが好ましい。これらの陰イオン濃度は、アルミナゾル中において、Al換算で100質量部に対して、陰イオンが35質量部以下であることが好ましい。陰イオン濃度が35質量部超であると、得られる塗膜の耐水性や流滴性が低下することがあるので好ましくない。このため、アルミナゾル中の陰イオン濃度が高い場合には、イオン交換樹脂や電気透析、限外濾過等によって陰イオン濃度を低減することが好ましい。
【0029】
また、アルミナゾルはpH4〜6.8であることが好ましい。これにより、耐水性と透明性に優れた塗膜が得られるので好ましい。アルミナゾルがpH4未満であると、陰イオンが多くなりすぎるため、得られる塗膜の耐水性が劣るので好ましくなく、pH6.8超であると、アルミナゾルが凝集して粒径が大きくなるため、得られる塗膜の透明性や、基材との密着性、耐擦傷性が低下するおそれがあるので好ましくない。アルミナゾル中のアルミナ粒子は、分散媒中での凝集粒子が、アスペクト比の平均が3以上であり、長軸方向の平均粒子径が100〜500nmであり、かつ、短軸方向の平均粒子径が2〜100nmであることが好ましい。また、アルミナゾルは固形分濃度0.1〜30質量%であることが好ましく、固形分濃度0.1〜10質量%であることが特に好ましい。
【0030】
原料となるシリカアルミナ複合ゾルは、pH3〜7が好ましい。pH3未満であると、アルミナが溶解するおそれがあり好ましくなく、pH7超であると、シリカアルミナ複合粒子が凝集するおそれがあるので好ましくない。シリカアルミナ複合ゾルは、pH3.5〜6が特に好ましく、pH3.7〜5が最も好ましい。シリカアルミナ複合ゾル中のシリカアルミナ複合粒子は、分散媒中における凝集粒子の平均粒子径が150nm以下であることが好ましい。また、シリカアルミナ複合ゾルは、固形分濃度0.1〜45質量%であることが好ましい。
【0031】
本発明の無機塗料組成物は、基材に塗布することにより、親水性の塗膜を形成することができる。基材としては、適宜必要に応じて、様々なものが使用することができ、ガラスや、ポリエチレンテレフタレート、アクリル樹脂、ポリカーボネート、フッ素樹脂等の有機基材が挙げられる。なかでも、基材はフッ素樹脂が、基材表面の電荷がマイナスに帯電しやすいことから、強固な塗膜が得られることから特に好ましい。基材には、適宜必要に応じて、表面前処理を行うことができる。これにより、基材の濡れ性がよくなり、得られる塗膜の基材への密着性を向上させることができるので好ましい。表面処理法としては、特に限定されないが、従来より公知のプラズマ処理、コロナ放電、UV処理、オゾン処理等の放電処理、酸又はアルカリ等を用いた化学的処理、研磨材を用いた物理的処理等が挙げられる。得られる塗膜の親水性は、水に対する接触角で評価することができる。得られる塗膜の接触角は30°以下であることが好ましい。接触角が30°超であると、得られる塗膜の親水性が不十分となるので好ましくない。接触角は20°以下であることが特に好ましく、10°以下であることが最も好ましい。
【0032】
本発明の無機塗料組成物を塗布することにより得られる塗膜は、透明性に優れたものが得られるので好ましい。特に基材が透明である場合は好適に使用することができる。透明性については、ヘイズ値で評価することができる。得られた膜のヘイズ値は基材との差で5%以下であることが好ましい。ヘイズ値が5%超であると、塗膜の透明性が悪くなるので好ましくない。得られる塗膜のヘイズ値は基材との差で2%以下が特に好ましい。
【0033】
本発明の無機塗料組成物は、公知の方法で塗布することができ、例えば、はけ塗り、ローラー塗布、手塗り、回転塗布、浸漬塗布、各種印刷方式による塗布、バーコート、カーテンフロー、ダイコート、フローコート、スプレーコート等が挙げられる。また、塗膜の機械的強度を高める目的で、必要に応じて、加熱したり、紫外線や電子線等の照射を行ってもよい。加熱は有機基材の耐熱性を加味して決定すればよいが、たとえばフッ素樹脂フィルムの場合は、40〜100℃が好ましい。
【0034】
本発明において、得られる塗膜の膜厚は10〜3000nmであることが好ましい。塗膜の膜厚が10nm未満であると、親水性やその効果持続性が低下するおそれがあるので好ましくなく、塗膜の膜厚が3000nm超であると、クラックが入りやすくなったり、干渉縞が発生したり、傷が入った場合にはその傷が目立ちやすくなるので好ましくない。塗膜は膜厚50〜1000nmであることが特に好ましい。
【0035】
本発明により得られる塗膜は、親水性プライマー層として使用することができる。この場合、得られる塗膜の上にさらに別の塗膜を形成することができる。例えば、本発明の無機塗料組成物を使用して得られる塗膜の上に、アナターゼ型酸化チタン、ルチル型酸化チタン、酸化錫、酸化亜鉛、3酸化タングステン、酸化第二鉄、チタン酸ストロンチウム等からなる微粒子を含有する光触媒膜を形成した場合は、基材がプラスチックの場合、分解劣化するのを抑制できるので好ましい。
【0036】
本発明における無機塗料組成物を使用して得られる親水性塗膜は、農業用フィルムに使用することが好ましい。農業用フィルムは、親水性塗膜を少なくとも基材の片面に形成することが好ましい。また、親水性塗膜を片面に形成した場合、もう一方の面には防汚性膜、帯電防止膜、断熱性膜、紫外線カット性膜等を設けることもできる。
【実施例】
【0037】
以下に、実施例(例1〜4、例7〜11及び例14〜23)及び比較例(例5、6、12、13)を示す。以下、特に明記した場合を除き、質量%を単に%で示す。なお、本実施例において、無機塗料組成物中での凝集粒子の粒子径は、TEM装置として日本電子社製のJEM−1230を使用して測定した。測定方法としては、無機塗料組成物を水で希釈して固形分濃度約0.1%とした後、コロジオン膜上に滴下して、乾燥させてから、TEM観察を行った。得られたTEM像の単位面積(1.5μm×1μm)の中から、無作為に20個の粒子を選んで測定し、アルミナ粒子及びシリカアルミナ複合粒子について、それぞれ、平均粒子径を算出した。
【0038】
[例1]
アルミナゾル(日産化学工業社製、商品名:アルミナゾル200、アモルファス、粒子形状:羽毛状、アスペクト比の平均10、長軸方向の平均粒子径100nm、短軸方向の平均粒子径10nm、Al濃度10.9%、pH4.8、CHCOOH濃度3%、Cl濃度150ppm、いずれもカタログ値で、以下、全ての製品について同じ。)に水を添加して、固形分濃度6%に希釈した後、強塩基性陰イオン交換樹脂(三菱化学社製、商品名:SA10AOH)2.5gを添加して、室温で10分間撹拌して脱塩した後、イオン交換樹脂を濾過除去して、アルミナゾルA(pH6.1、CHCOOH濃度1%、アルミナ粒子100質量部に対する酢酸イオンの含有量17質量部)を得た。
【0039】
次に、ポリ塩化アルミニウム水溶液(多木化学社製、商品名:タキバイン#1500、Al濃度23.5%、Cl濃度8.1%、塩基度84%(JIS K1475による))7.67gと水72.4gとを混合し、撹拌しながら温度40℃まで昇温した後、シリカゾル(触媒化成工業社製、商品名:カタロイドSI−45P、SiO濃度40.2%、NaO濃度0.4%)119.9gを9g/minの割合で添加、混合した。添加終了後、温度40℃に保持したまま、さらに、1時間撹拌して熟成させた後、水を添加して固形分濃度6%のシリカアルミナ複合粒子を含有するシリカアルミナ複合ゾルa(Al/Si原子比0.04)を得た。得られたシリカアルミナ複合ゾルa中のシリカアルミナ複合粒子の平均凝集粒子径は60nmであった。なお、シリカアルミナ複合粒子の平均凝集粒子径は、動的光散乱法粒度分析計(日機装社製、商品名:マイクロトラックUPA)により測定した。
【0040】
次に、アルミナゾルA25gとシリカアルミナ複合ゾルa25gと、メタノール50gとを混合した後、ノニオン性界面活性剤(旭電化工業社製、商品名:アデカトールSO−145)を無機塗料組成物中の全固形分100質量部に対して、3質量部となるように添加して、固形分濃度3%の無機塗料組成物を得た。なお、得られた無機塗料組成物中において、アルミナ粒子の凝集粒子は、アスペクト比の平均が7、長軸方向の平均粒子径が200nm、短軸方向の平均粒子径が30nmであり、シリカアルミナ複合粒子の平均凝集粒子径は70nmであった。また、得られた無機塗料組成物中の全固形分100質量部に対して、アルミナ粒子、シリカアルミナ複合粒子及び水の含有量は、それぞれ、50質量部、50質量部、1570質量部であった。
【0041】
得られた無機塗料組成物2mlをサイズA4のコロナ放電処理済みのETFEフィルム(旭硝子社製、商品名:アフレックス、コロナ放電処理後の表面濡れ指数42、厚さ:100μm)上にバーコータで塗布した後、80℃で5分間乾燥し、厚さ0.3μmの塗膜を形成した。なお、塗膜の厚さについては、サンプル上の塗膜をカッターで削り取り、触針法により測定した。
【0042】
以下、塗膜の形成されたサンプルについて、下記に示す方法で評価を行った。評価結果を表1に示す。なお、例2〜23においても、得られた無機塗料組成物を使用して例1と同様にして操作を行い、評価を行った。評価結果を併せて表1に示す。
【0043】
[評価結果]
外観:サンプルの塗膜の外観を目視で評価し、異物欠点、反り、クラック、ムラのいずれもないものを○、いずれかの欠点があるものを×とした。
【0044】
透明性:ヘイズ値により評価を行った。ヘイズ測定はJIS K−7105に則り、評価を行った。サンプルの塗膜のヘイズ値をヘーズコンピューター(スガ試験機社製、型式:HGM−3DP)で測定した。ヘイズ値が5%以下のものは合格、5%を超えるものは不合格とした。
【0045】
透過率:サンプルの全光線透過率を、JIS−7105(1981年)の規定に則り、ヘイズメーター(スガ試験機社製、商品名:HGM−2K、SMカラーコンピュータモデルSM−5)を使用して測定した。
【0046】
親水性:サンプル上の塗膜の水に対する接触角により評価を行った。塗膜の表面における水の接触角を、接触角計(協和界面科学社製、型式:CA−X150)で測定した。測定は任意の異なる5つの箇所で行い、その平均値を算出した。
【0047】
耐水性:25℃の蒸留水を満たしたビーカー内に、サンプルを垂直に浸漬し、5分間浸漬した後、80℃で5分間乾燥した後、水浸漬した部分と未処理の部分におけるAl付着量(μg/cm)を蛍光X線(RIGAKU社製、型式:RIX3000)で測定し、テスト後Al量/初期Al量(%)により評価した。Al付着量は、初期に対して90%以上であるものを合格とした。
【0048】
低温流滴性:温度一定の環境試験室内に設置した恒温水槽の上にアクリル樹脂製屋根型フレームを水平面に対して15度の傾斜をつけて設置し、このフレームに、縦14cm×横8cmに切り出したサンプルを塗膜を下にしてセットした。このときの環境試験室は10℃で、恒温水槽は20℃とした。そして、塗膜表面の水滴の様子を観察し、以下の基準で判定した。
◎:評価開始1時間後に塗膜表面が均一に濡れている。
○:評価開始2時間後に塗膜表面が均一に濡れている。
△:評価開始3時間後に塗膜表面が均一に濡れている。
×:評価開始3時間後に塗膜表面に部分的に水滴付着部がある。
××:評価開始3時間後に塗膜表面に全体的に水滴が付着し白く曇っている。
【0049】
◎、○、△を合格とし、×、××を不合格とした。
【0050】
高温流滴性:低温流滴性評価と同様にして操作を行い、環境試験室を20℃とし、恒温水槽を80℃として、3ヶ月間放置した。3ヶ月経過後、サンプルの塗膜表面の水滴の様子を観察し、塗膜表面が均一に濡れている場合を◎、塗膜表面が濡れているが部分的に水流れ跡が見える場合を○、塗膜表面が部分的に水滴が付着している場合を△、塗膜表面が全体的に水滴が付着し白く曇っている場合を×として評価した。◎、○、△を合格とし、×を不合格とした。
【0051】
促進耐候性:サンプルをスーパーUV装置(岩崎電気社製、商品名:アイ・UVテスタ)で以下の曝露サイクルで促進耐候性曝露評価し、曝露時間約1000時間(83サイクル)後の接触角を親水性評価と同様にして測定し、評価した。接触角が30°以下であるものを合格とした。
【0052】
促進耐候性試験の曝露サイクル:温度63℃、湿度4〜7%の環境下で、照射強度100mW/cmで10時間照射した後、20秒間水洗し、温度30℃、湿度100%の環境下で2時間結露させた後、20秒間水洗した。
【0053】
耐擦傷性:サンプルを平面摩擦試験機(コーティングテスター工業社製、型式:TESTER SANGYO AB−301 COLOR FASTNESS RUBBING TESTER)にセットし、ベンコット(旭化成工業社製、商品名:BEMCOT M−1)を摩耗材として取り付け、荷重:200g、接触面積15mm×20mm、摩耗回数:1往復の条件で擦傷試験を行い、試験前後におけるAl付着量(μg/cm)を蛍光X線(RIGAKU社製、型式:RIX3000)で測定して、試験後Al量/初期Al量(%)により評価した。Al付着量が、初期に対して70%以上であるものを合格とした。
【0054】
[例2]
例1において、メタノールの代わりに、水50gを使用した以外は同様にして操作を行い、無機塗料組成物を得た。なお、得られた無機塗料組成物中において、アルミナ粒子の凝集粒子は、アスペクト比の平均が7、長軸方向の平均粒子径が200nm、短軸方向の平均粒子径が30nmであり、シリカアルミナ複合粒子の平均凝集粒子径は70nmであった。また、得られた無機塗料組成物中の全固形分100質量部に対して、水の含有量は、3230質量部であった。
【0055】
[例3]
例1において、メタノールの代わりに、水20gとエタノール30gの混合液を使用した以外は同様にして操作を行い、無機塗料組成物を得た。なお、得られた無機塗料組成物中において、アルミナ粒子の凝集粒子は、アスペクト比の平均が7、長軸方向の平均粒子径が200nm、短軸方向の平均粒子径が30nmであり、シリカアルミナ複合粒子の平均凝集粒子径は70nmであった。また、得られた無機塗料組成物中の全固形分100質量部に対して、水の含有量は、2230質量部であった。
【0056】
[例4]
例1において、アルミナゾル(日産化学工業社製、商品名:アルミナゾル100、アモルファス、粒子形状:羽毛状、アスペクト比の平均10、長軸方向の平均粒子径100nm、短軸方向の平均粒子径10nm、Al濃度10.4%、pH3.8、Cl濃度3%)を使用し、例1と同じイオン交換樹脂5gを使用した以外は同様にして操作を行い、アルミナゾルB(pH5.5、Cl濃度0.8%、アルミナ100質量部に対する塩素イオンの含有量は13質量部)を得た。
【0057】
例1において、アルミナゾルAの代わりに、アルミナゾルBを使用した以外は同様にして操作を行い、無機塗料組成物を得た。なお、得られた無機塗料組成物中において、アルミナ粒子の凝集粒子は、アスペクト比の平均が8、長軸方向の平均粒子径が250nm、短軸方向の平均粒子径が30nmであり、シリカアルミナ複合粒子の平均凝集粒子径は70nmであった。また、得られた無機塗料組成物中の全固形分100質量部に対して、アルミナ粒子、シリカアルミナ複合粒子及び水の含有量は、それぞれ、50質量部、50質量部、1570質量部であった。
【0058】
[例5(比較例)]
例1において、アルミナゾル(日産化学工業社製、商品名:アルミナゾル520、ベーマイト、粒子形状:板状、アスペクト比の平均2、長軸方向の平均粒子径20nm、短軸方向の平均粒子径10nm、Al濃度20.5%、pH4、NO濃度0.49%)に水を添加して固形分濃度6%のアルミナゾルC(pH3.9、硝酸濃度0.1%、アルミナ100質量部に対する硝酸イオンの含有量は2.4質量部)を得た。
【0059】
例1において、アルミナゾルAの代わりに、アルミナゾルCを使用した以外は同様にして操作を行い、無機塗料組成物を得た。なお、得られた無機塗料組成物中において、アルミナ粒子の凝集粒子は、アスペクト比の平均が2、長軸方向の平均粒子径が20nm、短軸方向の平均粒子径が10nmであり、シリカアルミナ複合粒子の平均凝集粒子径は70nmであった。また、得られた無機塗料組成物中の全固形分100質量部に対して、アルミナ粒子、シリカアルミナ複合粒子及び水の含有量は、それぞれ、50質量部、50質量部、1570質量部であった。
【0060】
[例6(比較例)]
例1において、アルミナゾル(触媒化成工業社製、商品名:アルミナゾルAS−2、擬ベーマイト、粒子形状:板状、アスペクト比の平均1.5、長軸方向の平均粒子径30nm、短軸方向の平均粒子径20nm、Al濃度10.2%、pH2.6、NO濃度0.5%)に水を添加して固形分濃度6%のアルミナゾルD(pH3.5、硝酸イオン濃度0.2%、アルミナ100質量部に対する硝酸イオンの含有量は3質量部)を得た。
【0061】
例1において、アルミナゾルAの代わりに、アルミナゾルDを使用した以外は同様にして操作を行い、無機塗料組成物を得た。なお、得られた無機塗料組成物中において、アルミナ粒子の凝集粒子は、アスペクト比の平均が1.5、長軸方向の平均粒子径が30nm、短軸方向の平均粒子径が20nmであり、シリカアルミナ複合粒子の平均凝集粒子径は70nmであった。また、得られた無機塗料組成物中の全固形分100質量部に対して、アルミナ粒子、シリカアルミナ複合粒子及び水の含有量は、それぞれ、50質量部、50質量部、1570質量部であった。
【0062】
[例7]
例1において、アルミナゾルをイオン交換樹脂で処理せず、そのまま、水を添加して固形分濃度6%のアルミナゾルF(pH4.9、CHCOOH濃度1.7%、アルミナ粒子100質量部に対する酢酸イオンの含有量は28質量部)を得た。
【0063】
例1において、アルミナゾルAの代わりに、アルミナゾルFを使用した以外は同様にして操作を行い、無機塗料組成物を得た。
【0064】
[例8]
シリカゾル(触媒化成工業社製、商品名:カタロイドSI−40、SiO濃度40.4%、NaO濃度0.4%)119.3gに水72.4gを添加し、撹拌しながら温度80℃まで昇温した。その後、例1と同じポリ塩化アルミニウム水溶液7.67gを9g/minの割合で徐々に添加、混合した。混合したAl/Si原子比は0.04であった。添加終了後、温度80℃に保持したままさらに1時間撹拌した後、水を添加して固形分濃度6質量%のシリカアルミナ複合ゾルbを得た。得られたシリカアルミナ複合ゾルb中の粒子の平均凝集粒子径は129nmであった。
【0065】
例1において、シリカアルミナ複合ゾルaの代わりに、シリカアルミナ複合ゾルbを使用した以外は同様にして操作を行い、無機塗料組成物を得た。なお、得られた無機塗料組成物中において、アルミナ粒子の凝集粒子は、アスペクト比の平均が7、長軸方向の平均粒子径が200nm、短軸方向の平均粒子径が30nmであり、シリカアルミナ複合粒子の平均凝集粒子径は130nmであった。また、得られた無機塗料組成物中の全固形分100質量部に対して、アルミナ粒子、シリカアルミナ複合粒子及び水の含有量は、それぞれ、50質量部、50質量部、1570質量部であった。
【0066】
[例9]
例8において、シリカアルミナ複合ゾルbを得る際に、水を添加して固形分濃度6%に希釈する前において、超音波分散処理して、平均凝集粒子径を70nmとする以外は同様にして操作を行い、シリカアルミナ複合ゾルcを得た。
【0067】
例1において、シリカアルミナ複合ゾルcを使用した以外は同様にして操作を行い、無機塗料組成物を得た。
【0068】
[例10]
シリカアルミナ複合ゾル(日産化学工業社製、商品名:スノーテックスAK、平均凝集粒子径30nm、SiO濃度17.7%、Al/Si原子比0.14)に水を添加して固形分濃度6%のシリカアルミナ複合ゾルdを得た。
【0069】
例1において、シリカアルミナ複合ゾルaの代わりに、シリカアルミナ複合ゾルdを使用した以外は同様にして操作を行い、無機塗料組成物を得た。なお、得られた無機塗料組成物中において、アルミナ粒子の凝集粒子は、アスペクト比の平均が7、長軸方向の平均粒子径が200nm、短軸方向の平均粒子径が30nmであり、シリカアルミナ複合粒子の平均凝集粒子径は50nmであった。また、得られた無機塗料組成物中の全固形分100質量部に対して、アルミナ粒子、シリカアルミナ複合粒子及び水の含有量は、それぞれ、50質量部、50質量部、1570質量部であった。
【0070】
[例11]
シリカアルミナ複合ゾル(日産化学工業社製、商品名:スノーテックスAK−L、平均凝集粒子径100nm、SiO濃度20.6%、Al/Si原子比0.04)に水を添加して固形分濃度6%のシリカアルミナ複合ゾルeを得た。
【0071】
例1において、シリカアルミナ複合ゾルaの代わりに、シリカアルミナ複合ゾルeを使用した以外は同様にして操作を行い、無機塗料組成物を得た。なお、得られた無機塗料組成物中において、アルミナ粒子の凝集粒子は、アスペクト比の平均が7、長軸方向の平均粒子径が200nm、短軸方向の平均粒子径が30nmであり、シリカアルミナ複合粒子の平均凝集粒子径が100nmであった。また、得られた無機塗料組成物中の全固形分100質量部に対して、アルミナ粒子、シリカアルミナ複合粒子及び水の含有量は、それぞれ、50質量部、50質量部、1570質量部であった。
【0072】
[例12(比較例)]
シリカゾル(触媒化成工業社製、商品名:カタロイドSN、平均凝集粒子径14nm、SiO濃度20%)に水を添加して固形分濃度6%のシリカゾルfを得た。
【0073】
例1において、シリカアルミナ複合ゾルaの代わりにシリカゾルfを使用した以外は同様にして操作を行い、無機塗料組成物を得たところ、粒子同士が凝集して沈降してしまい、塗膜を形成することはできなかった。
【0074】
[例13(比較例)]
シリカゾル(触媒化成工業社製、商品名:OSCAL1432、イソプロパノール分散ゾル、平均凝集粒子径20nm、SiO濃度30%)にメタノールを添加して固形分濃度6%のシリカゾルgを得た。
【0075】
例1において、シリカアルミナ複合ゾルaの代わりにシリカゾルgを使用した以外は同様にして操作を行い、無機塗料組成物を得たところ、粒子同士が凝集して沈降してしまい、塗膜を形成することはできなかった。
【0076】
[例14]
例1において、界面活性剤の量を無機塗料組成物中の全固形分100質量部に対して、10質量部となるように添加した以外は同様にして操作を行い、無機塗料組成物を得た。
【0077】
[例15]
例1において、アルミナゾルA25gの代わりに、アルミナゾルA17.5gとアルミナゾルD7.5gを混合して使用した以外は同様にして操作を行い、無機塗料組成物を得た。なお、得られた無機塗料組成物中において、アルミナゾルA由来のアルミナ粒子の凝集粒子は、アスペクト比の平均が7、長軸方向の平均粒子径が200nm、短軸方向の平均粒子径が30nmであり、アルミナゾルD由来のアルミナ粒子の凝集粒子は、アスペクト比の平均が1.5、長軸方向の平均粒子径が30nm、短軸方向の平均粒子径が20nmであり、シリカアルミナ複合粒子の平均凝集粒子径は70nmであった。また、得られた無機塗料組成物中の全固形分100質量部に対して、アルミナゾルA由来のアルミナ粒子、シリカアルミナ複合粒子及び水の含有量は、それぞれ、35質量部、50質量部、1570質量部であった。また、アルミナゾルD由来のアルミナ粒子の含有量は、15質量部であった。
【0078】
[例16]
例1において、アルミナゾルA15g及びシリカアルミナ複合ゾルa35gとした以外は同様にして操作を行い、無機塗料組成物を得た。なお、得られた無機塗料組成物中において、アルミナ粒子の凝集粒子は、アスペクト比の平均が7、長軸方向の平均粒子径が200nm、短軸方向の平均粒子径が30nmであり、シリカアルミナ複合粒子の平均凝集粒子径は70nmであった。また、得られた無機塗料組成物中の全固形分100質量部に対して、アルミナ粒子、シリカアルミナ複合粒子及び水の含有量は、それぞれ、30質量部、70質量部、1570質量部であった。
【0079】
[例17]
例1において、アルミナゾルA40g及びシリカアルミナ複合ゾルa10gとした以外は同様にして操作を行い、無機塗料組成物を得た。なお、得られた無機塗料組成物中において、アルミナ粒子の凝集粒子は、アスペクト比の平均が7、長軸方向の平均粒子径が200nm、短軸方向の平均粒子径が30nmであり、シリカアルミナ複合粒子の平均凝集粒子径は70nmであった。また、得られた無機塗料組成物中の全固形分100質量部に対して、アルミナ粒子、シリカアルミナ複合粒子及び水の含有量は、それぞれ、80質量部、20質量部、1570質量部であった。
【0080】
[例18]
例1において、界面活性剤を使用しない以外は同様にして操作を行い、無機塗料組成物を得た。
【0081】
[例19]
2−プロパノール22.6gに、テトラメトキシシラン3.8gと濃度1%硝酸水溶液3.6gを添加し、25℃で1時間撹拌して、シリカオリゴマーを含有する液(SiO換算固形分濃度5%)を得た。
【0082】
蒸留水16.7gとエタノール25gとを混合した後、例1と同じアルミナゾル52.3gとシリカオリゴマーを含有する液6gとを混合し、次いで、例1と同じ界面活性剤を無機塗料組成物中の全固形分100質量部に対して、3質量部となるように添加して、固形分濃度6%のアルミナゾルXを得た。
【0083】
例1において、アルミナゾルAの代わりに、アルミナゾルXを使用した以外は、例1と同様にして操作を行い、無機塗料組成物を得た。なお、得られた無機塗料組成物中において、アルミナ粒子の凝集粒子は、アスペクト比の平均が7、長軸方向の平均粒子径が200nm、短軸方向の平均粒子径が30nmであり、シリカアルミナ複合粒子の平均凝集粒子径は70nmであった。また、得られた無機塗料組成物中の全固形分100質量部に対して、アルミナ粒子、シリカアルミナ複合粒子及び水の含有量は、それぞれ、50質量部、50質量部、850質量部であった。
【0084】
[例20]
ポリビニルアルコール(クラレ社製、商品名:ポバール124)に水を添加して、固形分濃度3%のポリビニルアルコール水溶液を得る。
【0085】
例1において得られる無機塗料組成物100質量部に対して、ポリビニルアルコール水溶液5質量部を添加、混合して、固形分濃度3%の無機塗料組成物を得る。なお、得られる無機塗料組成物中において、アルミナ粒子の凝集粒子は、アスペクト比の平均が7、長軸方向の平均粒子径が200nm、短軸方向の平均粒子径が30nmであり、シリカアルミナ複合粒子の平均凝集粒子径は70nmである。また、得られる無機塗料組成物中の全固形分100質量部に対して、アルミナ粒子、シリカアルミナ複合粒子及び水の含有量は、それぞれ、48質量部、48質量部、1730質量部である。
【0086】
[例21]
例20において、ポリビニルアルコールの代わりにポリアクリル酸(日本純薬社製、商品名:ジュリマーAPO−601N)を使用する以外は同様にして操作を行い、無機塗料組成物を得る。なお、得られる無機塗料組成物中において、アルミナ粒子の凝集粒子は、アスペクト比の平均が7、長軸方向の平均粒子径が200nm、短軸方向の平均粒子径が30nmであり、シリカアルミナ複合粒子の平均凝集粒子径は70nmである。
【0087】
[例22]
酸化スズゾル(多木化学社製、商品名:C−10、SnO濃度10%)に水を混合して、固形分濃度3%の酸化スズゾルを得る。
【0088】
例1において得られる無機塗料組成物100質量部に対して、酸化スズゾルを25質量部の割合で混合し、固形分濃度3%の無機塗料組成物を得る。この無機塗料組成物を使用して得られる塗膜には、導電性のあることが認められる。なお、得られる無機塗料組成物中において、アルミナ粒子の凝集粒子は、アスペクト比の平均が7、長軸方向の平均粒子径が200nm、短軸方向の平均粒子径が30nmであり、シリカアルミナ複合粒子の平均凝集粒子径は70nmである。また、得られる無機塗料組成物中の全固形分100質量部に対して、アルミナ粒子、シリカアルミナ複合粒子及び水の含有量は、それぞれ、40質量部、40質量部、1900質量部である。また、酸化スズの含有量は、無機塗料組成物の固形分100質量部に対して、25質量部である。
【0089】
[例23]
例6で得られるアルミナゾルD7gと例13で得られるシリカゾルg3gとを混合した後、室温で1時間撹拌して、アルミナ粒子とシリカ粒子が混合した混合ゾルを得る。
【0090】
例1において、得られる無機塗料組成物の代わりに、例1で得られる無機塗料組成物7gと混合ゾル3とgを混合して使用する以外は同様にして操作を行い、無機塗料組成物を得る。なお、得られる無機塗料組成物中におけるアルミナ粒子、シリカアルミナ複合粒子、シリカ粒子の粒子径は、それぞれ、アルミナゾルA由来のアルミナ粒子が、アスペクト比の平均が7、長軸方向の平均粒子径が200nm、短軸方向の平均粒子径が30nmであり、アルミナゾルD由来のアルミナ粒子が、アスペクト比の平均が1.5、長軸方向の平均粒子径が30nm、短軸方向の平均粒子径が20nmであり、シリカアルミナ複合粒子が70nmであり、シリカゾルg由来のシリカ粒子が20nmである。また、得られる無機塗料組成物中におけるアルミナゾルA由来のアルミナ粒子、シリカアルミナ複合粒子、アルミナゾルD由来のアルミナ粒子、シリカ粒子及び水の含有量は、全固形分100質量部に対して、それぞれ、35質量部、35質量部、21質量部、9質量部、2450質量部である。
【0091】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明の無機塗料組成物を使用することにより、各種ランプのカバー、眼鏡レンズ、ゴーグル、各種計器のカバー、農業用フィルム等の様々な物品に親水性の膜を付与することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に親水性塗膜を形成することのできる無機塗料組成物であって、分散媒中における凝集粒子の、アスペクト比の平均が3〜20であり、長軸方向の平均粒子径が100〜500nmであり、かつ、短軸方向の平均粒子径が2〜100nmであるアルミナ粒子と、分散媒中における凝集粒子の平均粒子径が150nm以下であるシリカアルミナ複合粒子及び水を含有し、固形分濃度が0.1〜30質量%である無機塗料組成物。
【請求項2】
前記シリカアルミナ複合粒子におけるAl/Siの原子比が0.001〜0.1である請求項1に記載の無機塗料組成物。
【請求項3】
前記アルミナ粒子がアモルファスである請求項1又は2に記載の無機塗料組成物。
【請求項4】
前記無機塗料組成物中の全固形分100質量部に対して、前記アルミナ粒子が20〜80質量部であり、かつ、前記シリカアルミナ複合粒子が20〜80質量部である請求項1〜3のいずれかに記載の無機塗料組成物。
【請求項5】
前記無機塗料組成物が、シリカ粒子を含有する請求項1〜4のいずれかに記載の無機塗料組成物。
【請求項6】
前記無機塗料組成物が、ノニオン性界面活性剤を含有する請求項1〜5のいずれかに記載の無機塗料組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の無機塗料組成物を基材に塗布することにより得られる親水性塗膜。
【請求項8】
前記親水性塗膜の水に対する接触角が30°以下である請求項7に記載の親水性塗膜。
【請求項9】
前記基材がフッ素樹脂フィルムである請求項7又は8に記載の親水性塗膜。
【請求項10】
請求項7〜9に記載の親水性塗膜を有する農業用フィルム。

【公開番号】特開2007−63477(P2007−63477A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−253648(P2005−253648)
【出願日】平成17年9月1日(2005.9.1)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】